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第152回都市経営フォーラム

まちづくりとコミュニティ・ビジネス

講師:細内 信孝 氏
コミュニティ・ビジネス・ネットワーク理事長
ヒューマンルネッサンス研究所主任研究員
多摩大学非常勤講師(コミュニティ論)


日付:2000年8月23日(水)
場所:後楽園会館

 

1.現代社会への視座

2.大競争と相互扶助を共存させる地域社会(まち)づくり

3.新しい社会的経済組織・社会的企業(コミュニティ・ビジネス)

4.コミュニティ・ビジネスと“LETS”とボランティアの関係

5.コミュニティ・ビジネスの特徴

6.コミュニティとビジネスの関係

7.コミュニティ・ビジネスによる自立に向けた働き方

8.地方分権に向けて・地域力の時代

9.新たな地域経営とコミュニティ経済モデル

10.コミュニティ・ビジネス的事業のイメージ

11.新しい地域経済を創出する草の根のPFI

12.コミュニティ・ビジネス成功への道

フリーディスカッション



 ただいまご紹介にあずかりました細内信孝と申します。私は今3足のわらじをはいておりまして、レジュメの方にありますコミュニティ・ビジネス・ネットワークという市民団体で、この6月まで事務局長だったんですけれども、7月1日に総会をやりまして、代表ということで理事長に就任しました。
 もう1つは、多摩大学で講師をしており、コミュニティ・ビジネス論、コミュニティ論を、96年から98年まで毎年約100名定員の中で学生の認定単位と社会人の方の夜間の公開講座ということで新宿でやらせていただいたわけであります。3年間にわたって、コミュニティとは何か、コミュニティの中にビジネスの視点を入れるということはどういうことか、こういうことを参加者と一緒に勉強してまいったわけであります。
 さらにもう1つは、民間のシンクタンクの主任研究員という立場にあります。1週間のうちに3カ所回らなくちゃいけないということで、これからは多足のわらじの時代でありますが、まさに自分自身が実践をする時代に入ってきたなと考えております。
 きょう、お手元の資料として、レジュメのほかに、きょう発売のリクルートの『週刊住宅情報』に取材を受けて取り上げていただきました掲載の資料があります。(資料−1)「職住一体の生活ビジネスが街を元気にする」というのが皆さんのお手元の資料の中に入っているかと思います。
 ある意味では職住一体の生活ビジネスをコミュニティ・ビジネスといってもいいと思います。そういう意味では、これからの社会は、住むところと働くところが一体化していく、そういうまちづくりが前提になると私は考えています。
 まちづくりは今までのハード中心じゃなくて、私達の生活に資する商品、サービス、すべてのものを含んだ考え方で、職住一体の生活圏の中で商品、サービスをどう提供していくか、こういう視点に立つ必要があるんじゃないかと考えます。
 そうすると、きょうは企業の方がたくさんいらっしゃっているかと思いますが、例えば鉄道事業も考え方が変わってくるわけです。職住分離の中で人を運んでいた事業のあり方が、これからは職住一体型の暮らし、生活圏をどう提供していくか、こういう視点に立った新しい鉄道事業のあり方が出てくるんじゃないかと思います。
 また言葉的には、職住が一体化した生活ビジネスをコミュニティ・ビジネスといったり、昨年絵本をつくりまして、コミュニティ・ビジネスを紹介する絵本『まちにやさしい仕事』ですが、墨田区の6事例を取り上げてコミュニティ・ビジネスを説明しています。子供たちに話すときには、「まちにやさしい仕事だよ」、こういう言い方をしております。
 後ほどOHPとあわせてご説明しますけれども、太郎という少年が、「僕の町にもどんな仕事があるのかな」と探検に出るストーリーになっております。例えば、墨田区ですと、雨水をためる桶、天水尊というのをつくっている方がいらっしゃいます。これも1つのコミュニティ・ビジネスです。こういう町の仕事、町の人に喜ばれて、自然にもやさしい仕事を子供たちに説明するときには、「まちにやさしい仕事」という言い方でコミュニティ・ビジネスを紹介しております。
 それから、お母さんたちには、コミュニティ・ビジネスを生活ビジネス、生活を支援するビジネス、小さな仕事ですよという言い方をしております。
 きょう、参加者の名簿を拝見させていただきました。専門家の方がたくさんいらっしゃったものですから、きょうは専門的な言葉もたくさん使わせていただきます。
 コミュニティ・ビジネスはこの2年間いろんなところで使われ始めたんですけれども、私たちは1994年から和製英語、私たちの意味を込めて「コミュニティ・ビジネス」という言葉を使い始めました。その活動の成果として、中央大学の出版部から『コミュニティ・ビジネス』という本を昨年10月に出しています。お手元に、ご紹介のパンフレットを一緒に入れさせていただきました。94年からの7年間の活動を集大成してありますので、そちらの方も、もしよろしかったらごらんになっていただければと思います。
 きょう「コミュニティ・ビジネス」という言葉を初めて聞かれた方、どのくらいいらっしゃいますか。・・たくさんいらっしゃいますね。ありがとうございます。
 コミュニティ・ビジネスを専門家の方の前で話をするときには、先ほど「生活ビジネス」とか「まちの仕事」という言い方がありましたが、これからの社会の中で必要な仕事のあり方、暮らしのあり方、これを私はコミュニティ・ビジネスという言葉の中に含んで皆さんにお伝えするようにしております。言葉的には、社会的企業という言葉を私は使っております。ソーシャル・エンタープライズ。またはヨーロッパなどでは、新しい経済、社会的経済という言葉、ソーシャル・エコノミーという言葉が出てきております。例えば、イギリスを例にとりますと、「ゆりかごから墓場まで」ということで、福祉国家として1950年代、60年代に盛んであったわけです。それからいよいよ英国病といわれるような形で国が衰退していった。
 私たちが和製英語だと思っていたこのコミュニティ・ビジネスは、1970年代の後半からイギリスでもコミュニティ・ビジネスという言葉が生まれまして、80年代から住民が主体の地域事業を意味し、イギリスの特に北部(スコットランド)の方でコミュニティ・ビジネスという住民のコミュニティ再生活動が盛んに行われました。
 私は98年の3月にコミュニティ・ビジネス・スコットランドというイギリスの市民団体と交歓会をしてきました。つまり、私たちが日本で考え出した言葉である、和製英語であると思っていた言葉が実はイギリスでも使われていた。しかも、同じような衰退していく地域社会をどう立て直していくのか。同じようにコミュニティ、地域社会の中にビジネスの視点を入れていく。そのときの主体者はだれかというと、そこに住んでいる住民、市民であります。その住民、市民のパートナーとして、行政や大企業も地域の中で共存共栄をしていく。こういうスキームがあるということを見てきたわけです。
 そういう言葉の意味でいいますと、コミュニティ・ビジネスという、ある意味では社会的企業をこれからの日本社会の中にたくさんつくっていく必要があるんじゃないかという仮説を私は持っております(今後の日本の十年間は社会問題が多発する)。



1.現代社会への視座

 OHPを使いながらその辺をご説明していきたいと思います。

(OHP−1)(資料−2)
 さて、今日本の社会は閉塞感があるといわれています。暮らしの豊かさとは何か。皆さん、私たちは私たちの暮らし方、働き方、こういうものに豊かさを実感できないでいるのではないでしょうか。IT、ITという言葉に象徴されるように、本来、目的はITではなくて、こういう暮らしの豊かさをどうつくっていくのか、地域社会をどうつくっていくのかというところにあるはずだったわけですけれども、どうもITが手段ではなくて、目的化しているのが現状じゃないか、と私は今、危機感を持っています。
 こういう現代社会を見ていくと、IT中心だけでは生活が空洞化していくんじゃないか。私たちの子供たちを見ていると、ITを使いこなすのはうまくなってきていますけれども、IT中心だけでは生活が空洞化していく。例えば、コンビニエンスストアだけでは、私たちの生活が空洞化して、暮らしの豊かさとは何かということを感じることができないんじゃないかと考えます。
 経済の循環の中で、環境共生という言葉が最近盛んにいわれておりますけれども、こういう経済の循環、実は生活文化も含めた文化の循環が私たちの暮らしの豊かさの根源をなしているんじゃないか。こういう問題意識を私は持っております。
 そして、日本の社会は、「3割自治」といわれるように、自治体の自主財源が少ない。こういうときに、地域社会、地域コミュニティを見ていくと、これからの自立循環型のコミュニティ経済・文化モデルが必要じゃないか。1つは、長野県の野沢温泉村で、昔の惣、自治組織であります野沢組というのがございます。間もなく、地縁団体として認証されるんですけれども、今までは任意団体でありました。この野沢組のような自治組織、大きさは大体中学校区ぐらいで、世帯数が750世帯、人口でいいますと約3000人ぐらいです。こういう自治組織が単独のまちづくりの事業予算として、2億とか3億、こういう自主財源を持つような時代に迫られているんじゃないか。
 実は、1カ月ぐらい前に野沢組でこのコミュニティ・ビジネスの話をしてきました。この野沢組は単独のまちづくりといいますか、自分たちのタウンマネジメントの事業予算、約1億ほど持っております。野沢温泉村(役場)のむらづくりにかかる予算と並行して、自治組織が単独の自分たちのまちづくりの事業予算を持つということが、これからの地域社会の基本ユニットとして必要である。そうすることによって、自立循環型のコミュニティ経済・文化ができ上がっていくんじゃないかと思っております。
 ヨーロッパでは、社会民主主義政権が市場万能主義の修正、富の再配分を行い、先ほど福祉国家という話が出てきましたけれども、住民の主体性を引き出しながら小さな政府を目指そうということで、今まで行政が担当していた役割やサービスを半分に減らしていったわけです。ある意味では市場主義的なところを入れていったんですけれども、最近のイギリスの首相でありますトニー・ブレアがいっているように「第3の道」ということで、福祉国家でもないし、市場万能主義でもない第3の道を見きわめていこう。アメリカはどちらかというと、市場万能主義の社会ですけれども、ヨーロッパは、こういう社会民主主義政権が、市場万能主義の修正、富の再配分を行う第3の道ということで、1980年代から90年代にかけて、社会的企業、すなわちソーシャル・エンタープライズという形でコミュニティ・ビジネスなどが出てきたわけであります。
 このような基本的な命題といいますか、人間としての暮らしの豊かさとは何だろうかというのをもう一度かみしめたいと思っております。それにはやっぱり職住の一体化、住むところと働くところを一体化してつくっていくのが最もやりやすいのではないかと感じております。



2.大競争と相互扶助を共存させる地域社会(まち)づくり

(OHP−2)
 コミュニティ・ビジネスによる新たな時代ということで、日本の社会を見ていきますと、流通業にしろ、金融業にしろ、中途半端は生き残れない。グローバル・ビジネスとコミュニティ・ビジネスの2極化の時代に入ってきているというのが今の世の中ではないかと思います。
 2つ目が、日本の社会はいよいよ階層社会へ入りつつある。階層社会へのプレリュードということで、2割の富める者と8割の貧しき者、このような関係になっていくのではないかと私は心配しております。
 それと、IT、インターネットなりパソコンなりを使いこなせない「IT難民」、こういう人たちも出現してくる。
 3つ目に、グローバル・ビジネスとコミュニティ・ビジネスの2極化になっていきますと、グローバル・ビジネス、つまり大企業からお父さんたちがリストラに遭って、地域に帰される、家庭に帰される、こういうリストラによる失業率の高まりが、今大体5%前後ですけれども、かつてのイギリスやアメリカを見てくると、5%が2けたに入ってくる。80年代全英の失業率が10%になると、企業城下町の衰退したあるコミュニティでは、失業率が30%、40%になる。そうすると、生活にまつわる商品、サービスを提供する事業体が抜けていく。郵便屋さんがなくなる。クリーニング屋さんがなくなる。レストランがなくなってくる。住民は足による投票でその地域から逃げ出していくわけです。
 こうして見てくると、日本の社会もいよいよ英国病ならぬ「日本病」が始まりつつある。これは先進国が頂点をきわめると、衰退の過程でたどるプロセスであるといわれております。いよいよ日本病が始まりつつあるんじゃないかと思います。
 それと同時に、元気で豊かな60歳以上の方々がいらっしゃいます。8割の方は元気でありますから、介護の必要がない。こういう時間待ちの人がたくさんいる本格的な高齢社会を日本が迎える時代に入ってきた。そして、24歳以下の若者の潜在的な失業率は既に10%を超えている。一説には、フリーターといわれる人が150万人もいる。
 こういう状況で、日本の社会を見てくると、グローバル・ビジネスに入れない人たちはどこで暮らしをしたらいいのか。その1つが、私はコミュニティ・ビジネスにあると考えております。
 そうしますと、今から話しますコミュニティ・ビジネスは、我々の社会経済構造を変える1つの手段になり得るか、地域コミュニティは安心して暮らせるすみかになれるのか、こういう問題意識を私は感じております。

(OHP−3)(資料−3)
 1994年からコミュニティ・ビジネスという言葉を使い始めたときに、地域社会の再生には、コミュニティの中にビジネスの視点を入れて再生していくということを思いついたわけであります。
 そして、もう1つの私の命題は、これからグローバル・ビジネスとコミュニティ・ビジネスの2極化する時代になる。言葉をかえると、大競争と相互扶助を共存させる地域社会を我々の社会はどうつくっていくのか、という問題意識が芽ばえてきました。
 ですから、IT、ITとマスコミ初めいろんな方が盛んにいわれますけれども、実はITは手段であって、その目的は私たちの豊かな社会をどうつくっていくのか。しかも、これからの社会経済構造として、グローバル・ビジネスと地域密着のコミュニティ・ビジネスに2極化していくと、地域社会を再生する相互扶助の仕組みと大競争を促進する仕組みを共存させるような地域社会をつくっていくことが、まさに必要に迫られてくる。こういう時代を私たちは迎えるんじゃないかと思います。
 今までの日本の社会は、極論すれば国と企業の社会だけ。つまり、グローバル・ビジネスとしての1ドルが120円の経済中心社会。これからますます企業社会は大競争に入っていきます。今いろんな産業界でいわれているように、ここの中で勝ち組と負け組が出てきている。リストラに遭ったお父さんたちはおのずとここから地域社会に戻っていく。
 そうしたときに、彼らの暮らしを満足させるような相互扶助を持つ地域社会が日本の中でほとんどなくなってしまった。一部の地方に行くとまだありますけれども。地域コミュニティを戦後社会は効率性と効果性をひたすら求めて経済一辺倒で走ってきたために、我々の先人がつくってきた生活の文化である結とか講とか、こういうものをほとんど失って、なくしてしまった。忘れてしまったような感じがします。



3.新しい社会的経済組織・社会的企業(コミュニティ・ビジネス)

 これからはこういう大競争と相互扶助を共存させる地域社会をどうつくっていくかという観点の中で、今の新しい技術でありますITをどう使っていったらいいか。例えば、人材が足らなければITで公募をかければいいんです。インターネット上で公募をかけて、「コミュニティ・ビジネスを一緒にやりませんか」と発信する。そうすると、志を持った人が全国から集まってくる。全世界から集まってくる。
 こういう視点を持つことによって、コミュニティ・ビジネスは必ずしも昔の江戸時代に戻ることじゃなくて、新しい働き方の仕組み、市民型でお金をどうやって集めたらいいか、どうやって組織のワークシェアリングを考えたらいいか、これを今の知恵や技術を使って地域密着でやっていくことが重要であります。
 こうやって見てくると、今までの日本の社会は、アメリカに次いで経済自由主義社会で第2位の地位を築いてきたのは、グローバル・ビジネスの1ドル105円とか120円、この中で輸出型で国を富ませていった。しかし、東西の冷戦、ベルリンの壁が壊れてから、地域規模の社会経済構造の改革を日本もいよいよ待ったなしで迫られている。
 これから大企業もグローバル・ビジネスからコミュニティ・ビジネスに移る従業員を大量に輩出することでしょう。失業者がたくさん出てくる。例えば、アメリカでは1980年代、大企業からリストラ、レイオフに遭った人々が、約1700万人ほどいたといわれています。日本の人口の2倍ですから、日本ですと、その半分ぐらいになるのか、それとも支え合ってリストラはしないという形になるのか、それはこれからの社会の問題ですが、アメリカはそういう形で、80年代の半ばからお父さんたちが地域に戻ってきて、お母さんたちと地域で小さな仕事起こし、すなわちマイクロビジネスといわれるコミュニティ・ビジネスを起こしていったわけです。
 また、アメリカのマイクロソフト、インテルを初め、アメリカの大企業のビジネス・スキームを支えているのは、地域に住む市民起業家たちで、実はすそ野が広い。私もサンノゼ市に行って、1人の女性起業家が、近所の会計事務所のソフトを開発したり、とうとうマイクロソフトの世界で最初に発売されるソフトの製品テストを請け負ったりして、小さな会社を起こしているのを見てきました。こういう地域の中で互いに支え合う仕組みが、地域の女性起業家と大企業の中にたくさんあるということに驚かされたわけであります。



4.コミュニティ・ビジネスと“LETS”とボランティアの関係 

(OHP−4)
 こうして見てくると、大競争と相互扶助を共存させるような地域社会づくりの例として、例えばイギリスの例でいいますと、1980年代、90年代、社会的企業、ソーシャル・エンタープライズとしてのコミュニティ・ビジネスが生まれたり、ディベロップメント・トラストが出てきているわけです。小さな成功を目指すということで、住民が起こすこういう民間の事業体に行政体はどんどんアウトソーシング、業務委託をしている。今まで行政が提供していた生活にまつわることを業務委託しています。90年代のイギリスは、そうした草の根のPFIがベースにあって、初めて大型のプロジェクトであるPFIが導入されていったのです。
 最近日本では「エコマネー」という言葉が出てきておりますが、エコマネーというのは日本語であって、イギリスでは「LETS」(Local Exchange Trading System)といわれています。まさに経済的排除にあった人、すなわち失業した方々が、財、サービスを地域の中で交換する仕組みです。自分のできることとやってほしいことを10個ぐらい並べて登録するんです。そのときにITを使う。ホームページ上で見たり、台帳を使ったりしながら、地域の中で財とサービスを交換する。これは日本の中でいえば、かつての結ですね。お互いに地域の中で、顔の見える関係の中で、財、サービスを交換する仕組みです。
 それと、もう1つは、利子のつかない地域マネーですから、例えば100円を持っていっても、1ドルが105円になったり、120円になったり、130円になったり、こういうことに影響されないローカル通貨があれば地域の自立的な経済圏が約束できるのです。
 それに、職を失った40代の方で、中学校のときに技術家庭が得意で、大工仕事が好きだった。そうすると、大工の職を得るための助走的なこととして、このLETSを活用するケースがある。生活協同組合的要素が強いですし、顔の見える関係、相互扶助の仕組みです。
 そのほかに、アメリカですと、インターミディアリー(まちづくりなどの中間の支援機関)があったり、CDCといわれるコミュニティ開発法人がある。イギリスですと、チャリティの組織がある。イギリスはNPOといわず、チャリティの組織に登録しているということで、税の控除を受けている活動が多いわけです。
 イギリスには、コミュニティ・ビジネスも含め、こういうチャリティーの団体が有限会社を一緒にあわせ持っているケースが少なくありません。皆さんで合議することは合議をし、地域のビジネスはこういう有限会社で受けますという2層構造になっています。そのほかにトラストがあったり、グラウンドワークがあったり、日本でいうNPO、NGOがあって、大競争と相互扶助を共存させるような地域社会が、アメリカにもイギリスにも構築されている。
 それに比べ、日本の社会は、NPO法が施行されたのはやっと98年の12月からですから、どうしてもこの部分が弱いわけで、これからどうやってつくっていくのか。ボランタリーも非常に大切ですけれども、ボランタリーを一歩進めて自分の“なりわい”(収入源)をつくっていく。家族を抱えていると、40代でも、ボランタリーよりも、地域の人に喜んでもらって、それで自分の仕事になる、こういうことが必要になってきているというのがコミュニティ・ビジネスの出てきた背景にあります。
 まさにこういう大競争は地球規模で始まっておりますけれども、この大競争と相互扶助を共存させる地域社会を、日本の国は、コミュニティ・ビジネスやLETSやNPO法人をつくったり、それぞれの地域に合った形で、それぞれの顔をつくっていく必要があるんじゃないかと思います。中央で決めて、それを47都道府県一斉にやるというやり方よりも、自分たちの眼の届く範囲で自分たちの使っていない遊休の施設、資源、人材、こういうものを活用して、いかにして相互扶助を満足させるような、共存させるような地域社会をつくっていったらいいか。そのときには、ボランティアも大切ですけれども、一歩進めて、職を失った方が、職と住を地域の中で一体化してつくっていく。それは顔の見える関係の中で、小さな仕事からスタートします。
 いよいよ日本もそういうことで日本病を克服する時代に入ってきているんじゃないかと考えています。

(OHP−5)
 ヨーロッパで新しい社会的経済組織、社会的企業が登場してきた。今世界規模で右から左、全部が変わらなくちゃいけないというか、その構造を変えなくちゃいけない状況にあります。この新しい社会的経済組織は、こういう既存の伝統的な相互扶助の協同組合セクターでも変わるべきものとして、新しい2つの分野において、社会的企業として発展してきております。
 1つは、社会的サービス。つまり、地域が衰退していくと先ほどの、生活にまつわるサービスがどんどん抜けていく、なくなっていく。こういうものを住民自らが起こしていこうという動きの中で出てくる。そういう意味でこういうコミュニティ・ビジネスの生産の分野に多く出現しています。
 2つ目は、中高年の失業。失業率が10%になってくると、どうしても社会的排除が問題になる。社会問題化する前に、地域の中で解決していかなくちゃいけない。そういう人々の雇用をつくっていく。地域に仕事場をつくっていく。それと、日本では潜在的な失業率が10%を超えている若者の失業。また日本でも最近身体障害者の仕事を創造する分野に、NPO法人でおやりになったり、有限会社をつくったりする動きが各地で出てきています。ヨーロッパでは80年代、90年代の失業率の高い時代に、社会的経済組織、社会的企業が出てきたわけであります。その中の1つに、コミュニティ・ビジネスといわれるものがあるわけです。
 しかし日本は世界的に見てまだまが豊かであります。ですから、地域の生活の質を上げることにコミュニティ・ビジネスをどんどん使っていきましょうとか、地域社会の困った問題をビジネスで解決していきましょう、そういう視点で、私たち市民団体・コミュニティ・ビジネス・ネットワークは提案をしてきたわけです。そういう点、ヨーロッパと状況が少し違うと考えております。



5.コミュニティ・ビジネスの特徴

(OHP−6)(資料−4)
 こういうヨーロッパの社会的企業の特徴は、従来の協同組合的な伝統から脱却していこうということがその根底にあります。ですから、従来の組合員、メンバーだけに固定した便益の配分を克服していきましょう。2番目、アメリカの起業家などは特に強調しますけれども、起業家的側面、ビジネス手法の重視です。つまり、ビジネスの視点を入れていくことが重要である。それと同時に、多様なステークホルダーの存在。労働者やボランティア、コミュニティの人々や公的機関、民間機関、こういう多様なステークホルダーを満足させるような複雑で、多様な参加形態と民主的組織運営、これを社会的企業に込めております。
 例えば、イギリスのコミュニティ・ビジネスの場合は、決定機関は地域のコミュニティ協同組合の理事会が決めます。基本的には理事はボランティアでやっております。その中で、協同組合が出資するコミュニティ・ビジネスは有限会社になっておりまして、その有限会社のマネージャー、すなわち社長は公募で雇っております。ビジネスの手法にたけた人材の市場がイギリスではできているし、アメリカでもそういうNPOの中でもマネージャークラスは公募で、起業家的側面とか、ビジネス的なマネージングができる人材を配置しています。3年間実績が出ないとか、そういうことになると、理事会がマネージャーを首にしたり、儲からない事業は、ほかの民間の会社に売却したり、場合によっては、つぶしてしまったりと、ドラスチックにやっておりまして、組織の理念、目的が達したら解散したり、日本では考えられないくらいビジネスライクに時代に合わせた形での展開をしております。
 その中で、日本のNPOの場合は、利益の非配分をしないということが盛り込まれています。ヨーロッパの社会的企業は利益の非配分にあまりこだわらないという特徴が1つ出てきています。これは例えば、病院をつくる、学校をつくるといったときに、ある程度年数がたって、収益、利益が出てきた。そのときに、ある程度出資してくださった方にお返しするという動きが出てきておりまして、まさに第3の道、福祉国家的な位置づけと、新自由主義といいますか、市場万能主義の間といいますか、第3の道として、お互いのメリットの部分を生かして利益の非配分にあまりこだわらないという形が出てきているわけであります。

(OHP−7)
 日本の社会に戻りますと、日本病がもう始まっている。そうしたときに我々の地域社会をどうつくっていくのか。従来の右肩上がりの強い経済、大きいことがいいことである経済、しかもITを使えば、また日本はトップに踊り出てくると考えている。実はIT、ITといいながら、目的が何かというと、手段であるITが目的になっている。本当は私たちの暮らしを豊かにする、働き方を豊かにする、こういうことが欠落しているのが昨今じゃないか。そうしたときに、顔の見える関係の中でつくられる相互扶助の仕組みや地域社会の新しいなりわいのつくり方など、人間らしい生き方の目的を達成する方法の1つとしてコミュニティ・ビジネスがあり、地域にはその地域に合った特徴を生かしていけばいいんじゃないかと私は思っております。

(OHP−8)(資料−5)
 この3つを地域社会の中でつくっていく必要がある。1つは、コミュニティ・ビジネス。もう1つは、LETS。日本ではLETSよりも「エコマネー」という言葉で広まりました。それと、ボランティア活動。実は新しい経済活動は、ボランティア活動から始めてもいいわけです。それと、地域通貨といいますか、地域の中での相互扶助のコミュニティ。こういう中でトレーニング、自分のスキルを磨いて、ナショナル通貨である円で取引をするようなコミュニティ・ビジネスが生まれる。つまり、社会的企業として、協働、共創のコミュニティ。こういう新しい経済活動が、1つの地域社会の相互扶助の仕組みの中でできるんじゃないかと考えます。
 もう1つの新しい地域社会への貢献のあり方。これはコミュニティ・ビジネスから始めても結構ですし、LETS、NPOのコミュニティ、こういうものが三位一体になって、大企業が行うグローバル・ビジネスと共存関係の中で成立させる。またはそれを選択できる地域社会をつくっていく必要があるんじゃないかと私は感じております。
 ちょうどここが今せめぎ合いのところで、ここをどうつくっていくかというのが地域の中で求められる1つのテーマになっているわけです。
 最近、中心市街地の活性化に、コミュニティ・ビジネスをソフトの部分で活用していこうという動きがあります。そのときに社会的企業として、例えば足立区では(株)アモールトーワというまさに日本の社会的企業としてのコミュニティ・ビジネスが誕生しています。また、介護福祉のネットワーク化が墨田区では進められていますが、この中でエコマネーや地域でのサービスの交換などが生まれつつあります。こういうものがネットワーク化することによって、相互扶助を満足させる社会に近づいていくのです。

(OHP−9)(資料−6)
 前置きが難しくなりましたので、少し元に戻りまして、コミュニティ・ビジネスとは何か。一言でいいますと、「生活ビジネス」としてとらえていただければ結構だと思います。私たちは、1つはこういうふうに定義づけしています。コミュニティ・ビジネスとは、地域コミュニティで今まで眠っていた労働力、原材料、ノウハウ、技術などの資源を生かして、地域住民が主体となって、自発的に地域の問題に取り組み、やがてビジネスとして成立させていくコミュニティの活性化と、元気づくりを目的にした事業活動をコミュニティ・ビジネスといっている。ボランティア活動のままでいいものもあれば、市場性が出てくればビジネスになってくる。従来の企業がやっているビジネスとどう違うのかと聞かれるんですけれども、そういうときに次のような答え方をしております。

(OHP−10)(資料−7)
 私は大企業が行うグローバル・ビジネスを否定しているわけじゃなくて、コミュニティ・ビジネスの視点を持つことによって、私たちの暮らしの豊かさの幅と奥行きを広げていきましょうという提案をしているわけです。
 ですから、大学を出てグローバル・ビジネスを行って、世界をまたにかけてビジネスを行う方が、40代後半になったら、少し地域社会に役に立つような仕事がしたいという選択肢も用意する必要が大企業の仕組みの中に必要じゃないか。子供の教育を考えると、グローバル・ビジネスの中に身を置くよりも、コミュニティ・ビジネスの中で人間らしく暮らしたいという方がいらっしゃったときの選択肢を用意する必要があるんじゃないか。
 日本の社会は、ITが目的化されて、経済の右肩上り、そして経済一辺倒になりがち、ややもすると、そういう視点が強いです。従来の、短期間で大きいこと、強いことがいいことだ、競争で利益志向、効率性、生産性を求める、こういう働き方をするために、職と住を分離するようなまちづくりなども行われてきたわけです。
 それはある時代の中では非常にいいメリットを果たしてきたわけですけれども、今、社会状況が地球規模で大きく変わろうとしているとき、地域社会の視点、人間らしい視点、コミュニティ・ビジネスの視点がもう一方で必要になってきた。それは、利害関係が複雑で長期間にわたることが多く、小さいマーケティングで事業コンセプトが共生、草の根的であり、成果は、意義とか意味を求めるのがコミュニティ・ビジネスであります。



6.コミュニティとビジネスの関係

(OHP−11)(資料−8)
 コミュニティ・ビジネスというのは、地域の使われていない資源とか、地域の特性を生かしているわけですから、地域特性によって千差万別であります。地域の持つ種、シーズを育て、住民の生き方や働き方など、生活全般に関する主体性を自分の手元に引き戻す。つまり、社会的事業の1つのメリットとして、人間らしい暮らしを自分の手元に引き寄せるというのもあるでしょう。ひいては人間性の回復に寄与する。こういうコミュニティ・ビジネスは、ある意味では衰退した地域コミュニティを再生し、その地域に今まであった文化とか風土を循環させ、地域力の維持、発展を可能にし、自立型の地域社会をつくっていく1つの原動力になり得ると考えております。
 そのときに、1つは、基本ユニットとして、例えば長野県の野沢温泉村にあるような、野沢組という中学校区ぐらいの1つの地域社会のユニットが、自立型の地域社会をつくっていく上での基本ユニットになり得るんじゃないだろうかと考えています。
 多足のわらじをはいて、一家の収入が、お父ちゃんは林業、お母ちゃんは民宿、おじいちゃん、おばあちゃんも民宿を手伝ってくれる。職住一体型で、まさにコミュニティ・ビジネスを、スキーと温泉の町、野沢温泉村の住民は展開しているわけです。
 世界的なマインドを持ったスキーヤーがたくさんいます。3000人の村に野沢温泉スキークラブというのがあり、いまだに任意団体ですが、大正12年にできて、いろんな国際大会に多数出ていますので、人口の割には国際感覚の豊かな人がたくさんいらっしゃる土地柄です。
 さて、コミュニティ・ビジネスは昔の時代に戻るんじゃなくて、1つの物の見方ですけれども、コミュニティとビジネスの関係をどうとらえるか。今の技術を使ってコミュニティをどうとらえていくか。現代はグローバル・ビジネスを展開するものとコミュニティ・ビジネスを展開する2極化の傾向にあります。それと、リアルコミュニティとバーチャルコミュニティがフィージョンする時代です。こういう地域の基本ユニットの中で、職住が一体化した暮し方、または職住近接のネットワーク社会の中で日本的なものとしてつくられていくんじゃないかと考えています。
 ですから地域社会の相互扶助を満足させるのを、昔の時代に戻るんじゃなくて、こういう4つの軸の中でどうとらえ直していくかということを見るのが未来を見る上で重要じゃないか。
 グローバル・ビジネスが地域の中にある。大企業も地域に役に立つような参加を考え、大企業も市民も共存共栄を図っていく。一方市民セクターが中心になって相互扶助的な仕組みをつくる。そのときの法人格は、NPO法人もあれば、協同組合もある、ワーカーズコレクティブといわれるような企業組合があったり、有限会社があったりする。そのときにITというのは、人と人との志を結ぶ、あくまでも手段であって、ITを目的にしてはいけないということであります。



7 コミュニティ・ビジネスによる自立に向けた働き方

(OHP−12)
 今、地域社会を見ると、戦後五十数年間、私たちのライフスタイル、すなわち生き方、暮らし方が、国や企業社会側にあって、それ以外は社会で効率が悪いからといってわきに寄せらていた。そうした遊休の資源が地域の中にたくさん眠っています。生かされない状況にあるというのが今の日本の社会の閉塞感の根本にあるんじゃないかと考えます。

(OHP−13)
 そうすると、例えば、人材に目を向けると、こういうみんなに喜ばれる小さな町の仕事、ローリスク・ローリターンで、そんなに儲からないかもしれない。こういうコミュニティ・ビジネス、(町の仕事)によってエーブルパーソン、(可能性を持った人々)の自立に向けた働き方が必要になってきている。つまり、地域で生かされていない人々の積極的な生かし方。自分起こしとか生きがいを満足させながら、地域の人々の暮らしに有意義なことを仕事化していくことが元気な地域をつくる。
 新しい働き方で、例えば10時から2時まで子供たちが学校に行っている間だけ働きたい。それも地域の中にサンダルをはいて、自転車に乗って行けるような職場をつくってほしい。こういうときに、私たちは墨田区両国で、ソーホー・フォー・マザーズという働く場をつくった。お母さんのためのソーホーというのをやったわけです。両国駅前にある私たちの共同事務所、パソコンを5台置いてありまして、お母さんたちに1万円払っていただきまして、ホームページのつくり方を勉強していただきました。地元の法人会、パン屋さんとか酒屋さん、中小企業、町工場のホームページをお母さんたちがつくっています。
 こういうことを私たちは地域のニーズとシーズ、先ほど「地域の種」というのがありましたけれども、ただじゃなくて、お金を払っていただいて、取り戻したいという人間本来のモチベーションを上げて、そういう形でスキルを磨き上げ、地域に眠っているニーズとシーズをマッチングさせる。しかも、今のITを使えば空いた時間に仕事ができ、10時から2時ぐらいまで協同で働くことによって立派にホームページはつくれるわけです。きょうもお母さんたちが午前中事務所に来ていました。
 今の時代に合った地域の中での仕事のつくり方、それは職住が一体化した、近接化した働き方で、コミュニティ・ビジネスは、地域で生かされない人々の生きがいとか自分起こしを可能にし、それでいて、地域の人にも喜ばれる仕事を生み出す、こういう視点が満足できるんじゃないかと考えております。



8.地方分権に向けて・地域力の時代

(OHP−14)(資料−9)
 この2000年の4月からいろいろ法律が改正になったのを皆さんご存じですか。例えば、地方分権一括法がこの4月から施行になった。また介護保険法も4月からスタートしている。市民が主体になって活動できるように、NPO法は98年の12月から施行されています。もちろん、都市計画法も変わったり、中小企業基本法も変わったり、自己責任の中で市民、住民がいろいろ活動できる余地を広げていっているのが今回の改正の主旨です。
 そうして見たときに、こういう地方分権に向けての動きが加速されて、これから地域力の時代に入っていくと思います。地域間競争が激化していくと、自治体の首長の地域経営能力が問われる時代になります。住民は目を凝らして見ています。住みたくない土地ですと、場合によっては住民は「足による投票」で逃げていく可能性もあります。そうすると、行政は行政サービスの水準、サービスの質量と、コストパフォーマンスが問われる、そういう時代に入っていきます。
 場合によっては、自主課税権ということで銀行新税というのをいわれる方もいらっしゃったり、私は神奈川県民ですけれども、神奈川県ではホームページで県民に、神奈川県にふさわしい新税が何かないかという呼びかけをしたり、環境税というのがある自治体で出てきたり、さらには自主起債を行使して行政サービスの水準を上げようとするところが出てくるでしょう。
 イギリスなどを見ていくと、サッチャーが出てきて、小さな政府ということで、福祉国家を支えていたものをバッサバッサと切っていったわけです。住民の起こす事業体に今まで行政が抱え込みすぎた仕事をアウトソーシング、業務委託していった。つまり、住民が起こすコミュニティ・ビジネス的な事業体へアウトソーシングしてスリム化を図っていく。今我が国の行政体が抱えている645兆円の負債を解決する1つの方法に、このコミュニティ・ビジネスがかなり有効ではないかと感じております。



9.新たな地域経営とコミュニティ経済モデル

(OHP−15)(資料−10)
 先ほどの野沢組の話とリンクしてきますが、これからの新たな地域経営、ソフトの部分でのまちづくりとコミュニティ経済モデルのあり方を考えます。東京都というのは少し大き過ぎますが、実際は、例えば狛江市とか調布市クラスの自治体が想定されますが、中学校区単位の自治組織が自分たちの地域コミュニティの経営の一部に参画していく。しかもそれをビジネスの視点から参画していくというまちづくりが求められる。
 実は、イギリスが英国病を克服するとき、私がグラスゴー市で聞いたゴヴァン・ワークスペース社の理事長は、二十数年前、行政の施策が余りにも貧弱で、地域が再生しない。失業率はすでに40%いっていたわけです。そのとき理事長は自ら町を再生する計画を立て、住民運動を起こして、コミュニティ・ビジネスを80年からスタートさせていった。それはビジネスの視点を導入し、自分たちの町は自分たちが経営をしていくんだというプライドを持っていったわけです。
 日本に視線を向ければ野沢組のような自治組織、すなわち単独の事業予算を持って地域を経営しているのは、私の知っているところでは野沢組くらいしか存在しません。それを可能にするには、自治体が抱え込みすぎた仕事をコミュニティ・ビジネスにアウトソーシングしていく。3年ぐらい継続して業務委託をしていく。自治体はアウトソーシングすることによって小さな自治体になれる。雇用を地域でつくると地域力が高まってくる。地域がだんだん豊かになり、人々が元気になる。そしてプラスのダイナミズムが生まれます。
 先ほど、生かされてないエーブルパーソンという話をしましたが、エーブルパーソンの人たちが職を得て元気になれば、みんなも元気になるのです。



10.コミュニティ・ビジネス的事業のイメージ

(OHP−16)
 こうして見てくると、例えば行政サービスの業務委託の可能性は、介護サービス、給食サービス、警備サービス、リサイクルサービスなど多様です。イギリスのグラスゴー市役所は、警備サービスをコミュニティ・ビジネスの事業体に出したり、あちらは建物が100年とか200年もちますから、内装会社をコミュニティ・ビジネスでつくる。こういうリサイクルのサービス会社をコミュニティ・ビジネスでつくっています。もちろん、介護サービスなどもつくりました。
 今日本で、アモールトーワという足立区にある商店街がつくったコミュニティ・ビジネス的な企業は、給食サービスをメインにして、年商4億、株主配当もしていますし、経営者にもちゃんと給料を払っています。従業員にも400万円から500万円払っている。それでいて、地域の中で120名の雇用を生み出している。
 そういう成功事例も日本の中にあります。
 次に、業務委託、アウトソーシングをしている例に、大阪府堺市があります。この5年間に12億6000万円の経費削減を達成しています。具体的には、庁内の案内とか、水道の検針、放置自転車の撤去、文化会館の運営管理、学校給食調理の業務、こういうものを業務委託して5年間で12億円削減しているわけです。つまり、スリム化して小さな行政体になろうとしています。今後3年間で16億円の経費削減を計画しています。
 先ほど、既存の伝統的な協同組合も変わらなくちゃということで、ヨーロッパでは社会的企業という考えが出てきたと話ましたが、行政の方も、まさに変わらなくちゃということで、こういうスリム化の具体策をとっているところもあるということです。



11.新しい地域経済を創出する草の根PFI

(OHP−17)(資料−11)
 コミュニティ・ビジネスをもっと実態的に話せとおっしゃられる方もいるかと思います。私の『コミュニティ・ビジネス』(中央大学出版部)という本の中で、コミュニティ・ビジネスを10の分野に分けています。生活ビジネスといっても広いわけで、日本のコミュニティ・ビジネスの事例ということで、墨田区を中心に小さな事業体を例に挙げています。有限会社もあれば、任意団体もあり、NPO法人もあるわけです。コミュニティ・ビジネスには、福祉、環境、情報ネット、観光交流、食品加工、商店街の活性化、伝統工芸、地域金融、安全などがあります。最近社会問題がいろいろ出てきていますけれども、個人の安全、地域社会の安全、こういうことも含めて、行政に全部お任せするのも財源的に難しくなってきたわけです。こうした住民たちが起こす草の根のPFI的なものとしてコミュニティ・ビジネスを含め新しい地域経済をつくっていく必要に迫られているのです。

(OHP−18)
 そしてコミュニティ・ビジネスは、地域に埋没した人的資源の活用による地域づくりということで、主婦の方、リタイアした人、地域に戻されたお父さんたち、大学は出たけれども、いい職場がないという若い人たち、ハンディキャップを有している人の働き場所として考えられます。コミュニティ・ビジネスを通じて新しい人間関係が形成され、協働、共創でコミュニティを再生していきましょうということで、私はとらえております。

(OHP−19)
 これまでの大量生産、大量消費、成長重視という社会構造から、これからの社会構造でありますリサイクル重視、地域コミュニティをベースにする等身大の生活。つまり、職と住が一体化するような中でのなりわいのつくり方、こういう時代に私たちの社会は入ってきている。それは、人や自然に優しいまちづくりの時代。今の時代に生きる人々が次の世代の子供たちに引き継ぐ上で人間らしい暮らしを真剣に考える。そうしたときに、このコミュニティ・ビジネスが有効な手段となり得るんじゃないかと私は考えているわけであります。



 12.コミュニティ・ビジネス成功への道

(OHP−20)
 私は、生活ビジネスであるコミュニティ・ビジネスを10の分野に分けました。日本の場合、世界的に見てもまだまだ豊かですから、コミュニティ・ビジネスを地域の生活の質を上げていきましょうということで提案していますが、生活を10分野に区切って事業化を図っていくというのもリスクを低減するアプローチ方法です。
 ベンチャービジネスは割と1人で起業する例が多いですけれども、社会的企業としてのコミュニティ・ビジネスは、アモールトーワとか、小川の庄とか、地域の共同体で起業している。地域の生活支援の事業体としてコミュニティ・ビジネスを起こしていくということで、こういうリスク分散を図っていくのも成功への近道です。
 また、事業体の中で事業の柱を何本かつくり、全体で収支のバランスを図る。イギリスのコミュニティ・ビジネスは、内装の会社があったり、清掃の会社、警備の会社、3つ事業の合算で収益をトントンにしている。ですから、今日本では配食サービスだけの単独事業ですと、どうしても赤字になります。地域に役立つ生活ビジネスを3つとか4つの事業の中で採算をとっていくということが、成功を高める上でのポイントだと思います。
 これから自治体はスリム化せざるを得ない状況になってくると思いますので、こういうコミュニティ・ビジネス、すなわち住民が起こす事業体に、自治体の方は業務委託、アウトソーシングをしてみてください。しかも継続して3年ぐらい。それと同時に、大企業も業務委託をしてください。アモールトーワさんに清掃事業を委託しているイトーヨーカ堂さんの例もあるように、これからは自分たちの地域を豊かにしていく、地域力を上げていくのは、行政も住民も大企業もコミュニティ・ビジネスも一体になって共存共栄のネットワークをつくっていくことが求められる時代であると私は感じます。そして地域を再生するには、志を同じくするものがジョイント・ベンチャーをつくって、相互に地域力を上げていくという視点が重要じゃないかと考えています。
 

(OHP−21)
 今までのことをとりまとめますと、コミュニティ・ビジネスの考え方として、地域を1つの生活圏としてとらえ、職住一体の働き方、暮らし方をつくるという視点をこれから取り入れていただきたいと思います。
 地域が必要としている仕事を地域密着でつくる。これは高齢社会になってくると、元気な方ばかりではなくなってきます。介護を必要とする方も、高齢者の中から約2割出てくるといわれています。そういう高齢問題など地域が必要としている仕事を地域密着でどんどんつくっていく必要があると考えます。
 地域の困った問題を解決する。生活支援サービスをビジネスで行うということが重要であります。つまり、そこで働く人も、生活、生計(なりわい)をつくっていくわけですから、時給200円とか300円では生活できない。時給600円、700円を出すにはどうしたらいいか。そういう視点に立つ必要があるということで、そういう意味でビジネスの視点を持つ必要があるということです。
 4番目が、地域の身の丈に合った等身大の仕事を職住一体でつくる。または提供していく必要にせまられることでしょう。それには地域にある遊休資源を積極的に活用することが肝要です。黒壁もそうですし、小川の庄もそうです。地域で使われていなかった資源を積極的に活用していったわけです。このような地域づくりもこれからの手法の1つになることでしょう。
 またコミュニティ・ビジネスは地域の新しい社会関係づくり、共創づくりを担います。コミュニティ・ビジネスに志のある人々が集まってきたときに、その中に新しい社会関係ができ、顔の見える関係の中でムーブメントが起きてきます。この動きが地域を豊かにして、元気にしていく源の1つであると私は考えております。
 以上の働き方、暮らし方から結果として自分起こしにつながっていったり、地域起こしにつながっていくのが、コミュニティ・ビジネスであると考えております。

 

 最後に、コミュニティ・ビジネスは、私たちの今の社会経済構造を変えていく上で必要になってくるものです。それは大競争だけ、ITだけを声高に叫び、手段を目的化すると、普通の人はついていけないわけです。大競争と相互扶助も満足させる、共存させるような地域社会をどうつくっていったらいいのか。こういう視点に立ったとき、このコミュニティ・ビジネスやLETS、ボランティア活動、こういうものを含めて、それぞれの地域に合った資源の生かし方、エーブルパーソンの生かし方を共に考えていくことが大切であると思います。
 そういう中で地域コミュニティの仕組みとしてこういうコミュニティ・ビジネスをベースにした自立的な仕組みが、これからの日本の社会に必要なことになります。ややもすると、日本は組織が属人化して、そのリーダーが抜けてしまうと組織が消えてしまうというケースが散見されますけれども、私がアメリカやイギリス、アングロサクソンの社会を見てきて感じたことは、人はかわっても仕組みが残っていく。その仕組みの中で地域をどう再生させていくか。それにはスキームとしてのビジネスの視点を入れ、スピードをつけたり、信頼感を持たせたり、緊張感を入れたりしている。ビジネスの視点が有効に働いているということを感じとってきたわけであります。
 さて、短い時間でいろいろな話をして雑駁になりましたけれども、これにて私のお話を終わりにさせていただきます。ご清聴ありがとうございました。(拍手)



フリーディスカッション

谷口(司会)
 どうもありがとうございました。
 残りの時間、ご質問等おありでしたら、いつものようにご自由にお願いします。細内さんも、皆さんからいろいろとご意見をいただけるのを楽しみにしていらっしゃるそうですから、忌憚のないご意見、ご質問をご遠慮なくどうぞ。

角家
 先生、長時間にわたり有益な講義をありがとうございました。角家と申します。建設会社OBです。現在厚生年金をもらいまして、のんびりとやっております。
 目からウロコが落ちた思いです。何とか年金で暮らしておりますが、このコミュニティ・ビジネスを日本の地域社会で生かすためには、先生のいわれたように、本人の努力も必要でしょうが、公共、役所がこれを支援する体制が必要だと思います。国や地方公共団体に、今先生はどのような挑戦といいますか、やっておられますか。日本のコミュニティ・ビジネスの全体のレベルを上げるために、どういう方策を持っておられるのか、その一端をお聞かせ願えればと思っています。

細内
 そういう意味からいいまして、ここ1、2年の間にいろんな広がりをこのコミュニティ・ビジネスは持っております。最近、細内さん、話に来てくださいと一番多いのは、都道府県、県の職員の方の集まり、それと商工会議所、若い世代のJCの方、それにNPO関係の団体の方。そしてコミュニティ・ビジネス導入のための検討委員会が、各地で起きたわけですけれども、昨年だけでも5つほど委員として参加しました。その中で中央官庁の方が一番危機意識を持っている。例えば、既存の中心市街地の活性化に、TMOのソフトにコミュニティ・ビジネスを使えないかという視点で意見を求められたり、そういう動きが国や都道府県、市町村、場合によっては自治会も含めて、今までの社会経済構造から変わらなくちゃいけないということで、このコミュニティ・ビジネスが1つのきっかけになるんじゃないかなという期待で、私が呼ばれるケースがふえてきました。
 私が今思っているのは、こういう地域社会が変らなければならないときに、コミュニティ・ビジネスをたくさん起こしていく必要があるんじゃないかなと感じています。たくさん起こしていくことによって成功事例が積み重なっていきますし、先ほどイギリスのマネージャー公募制というのがありましたが、イギリスのコミュニティ・ビジネスの場合はマネージャークラスは公募制でやってますし、マネジメントの仕組みがしっかりとでき上がっております。そういうことも含めて、日本の中でコミュニティ・ビジネス的な住民が起こす小さな仕事をこれからどんどん広めていきたいと思います。今のご質問にお答えする意味からいうと、私たちは94年からコミュニティ・ビジネスの考え方に基づいて活動してきたわけですが、ここ2年ぐらい市民レベルから中央官庁の方も含めて大きな動きが出てきたと感じております。

赤松(藤沢地区市民会議)
 藤沢でまちづくりの活動をさせていただいております赤松と申します。
 まず補足をいただきたいところが何点か、私の問題意識からのお尋ねをさせていただきたいと思います。補足をいただきたいところの1点は、野沢温泉村の自治組織のところで、中学校区単位で大体2から3億円の動きが出る必要があるだろうというお話だったわけです。北海道のニセコだとか、幾つかの地区で、地区単位できちんと予算をつけましょうという動きが、自治体単位でも若干出てきている例があると思いますけれども、2から3億円といった算定のモデル、どんなふうに出されているのかということを教えていただけたら教えていただきたい。

細内
 こちらの本(『コミュニティ・ビジネス』(中大出版部))(資料−12)(資料−13)の中に野沢温泉のことが書いてあります。野沢組がどういうタウンマネジメントをしているか。そこの事業予算が大体1億円だとすると、それ以外の部分を勘案していくと、ほぼ2億〜3億円持つことで自分たちのまちづくりをできるんじゃないかと考えています。例えば、野沢組は、共有地の管理とか祭の運営、1月15日に日本の三大火祭の1つ道祖神祭が、長野オリンピックのパラリンピックでもBSで放映されたと思いますが、こういう祭の運営とか、スキー場用地を村役場に提供することによって、水利とか道の管理も行います。これを村の予算とは別個に独自に事業予算を持っているということです。惣代さんといわれる自治組織の代表者は、地区に住んでいる住民の投票で選ばれます。そういう自治組織の中で行われるまちづくりが本来のまちづくりであり、自分たちの等身大のまちづくりは、そのくらいの大きさ(中学校区)がいいんじゃないかということです。
 これはケース・バイ・ケースで、都心部、地方都市では変わってくるし、いろいろケースが出てくるんじゃないかと思います。

赤松
 それと、お話ではあまりなかったかもしれませんが、外国の例ですと、NPOやNGOと大企業の仕事の流動性、相互に人材が行ったり来たりするという関係が1つにはあると思いますけれども、もし必要だという前提に立てば、そういった状況はどうすれば生まれてくるのか。

細内
 日本では98年12月にNPO法、つまり、市民活動にやっと法人格が認められました。アメリカは60年代の公民権運動からスタートしているし、イギリスも70年代からの英国病克服で、行政に頼っていたのでは、自分たちの地域はだめになってしまうと住民が立ち上がりました。
 そういう意味から、彼らも20年、30年かかって、大競争と相互扶助を共存させるような仕組みをトライ・アンド・エラーでつくってきました。ですから、日本も今後10年間、いろんな社会問題が出てきますが、トライ・アンド・エラーの中で成功事例をつくっていくしかないと私は感じております。その中から当然相互の人材の流動性も出てくるでしょう。コミュニティ・ビジネスの視点は、顔の見える関係ですから、複雑で長期間にわたるわけです。複雑で長期間にわたって長く潜行していく部分もあると思います。ということは、これからの日本の社会は、前向きにとらえて新しい仕組みをどうつくっていったらいいかというチャレンジの精神を持って、アングロサクソンの国家が20年かけてつくってきたものを、我々だったら15年でつくってみようと考えた方がやる気が出てきます。または日本の国にあった結とか、講とか、お祭ですと連、ああいう私たちの先人が暮らしの中で持っていた生活文化、これをもう一度見直して、今の時代にふさわしいものでつくり直しをしてもいいと思うんです。ですから、それはひとえに私たちにかかっていると思っています。

赤松
 それと、業務委託やPFIをコミュニティ・ビジネスの中に展開していくために、市民レベルでのノウハウが根本的にまだ不足している部分があると思うので、ベンチャービジネスでいわれるような支援体制を自治体側が組まないと、そこまでのレベルアップはなかなか難しいだろうという気がします。それはサポートシステムをきちんとつけることが前提条件であるとお考えでしょうか。

細内
 それももちろん必要です。ですから、NPOのサポートシステムが各県にできたり、我々のようなインターミディアリーの組織があったりするんですけれども、もっと重要なことは、自分たちが納める税金がどのくらいになっているかということを捕捉して、それがどういうふうに使われているかということに気がつくことです。今までは何もかも丸抱えで、大学を出て60歳ぐらいまで会社がほとんどやってくれたし、地域のことは行政がほとんどやってくれたわけです。これからは、多足のわらじの時代、私が3足のわらじと最初にいったように、働き方が多足のわらじになると、自分で税を申告しなくちゃならない。年間どのくらい社会保険を払っているのか、住民税をどのくらい払っているのか。そうすると、これだけ払っていたのか。どういうふうに使われているのか。1人1人の納税者が自分の払っている額に気づく。それが自立の第一歩です。市民が自立していくには税のことを知るのが一番。すると、それがどう使われているのか真剣に考えるようになる。
 そういう意味で、首長さんに地域経営の視点が求められる。身近なところ環境とか福祉、教育など、そのお金がどう使われているかということに住民が気づきコストパフォーマンスを求めるようになる。ですから、これからは行政も情報を開示する。企業も情報を開示する。情報を開示することによってお互いの顔が見えだす。最初は意見の対立を見てもいいと思うんです。そうすることによって、相手の存在が分り、地域視点で考えるということが起きるんじゃないかと思っています。

赤松
 私も活動していて一番気になるのは、あの人は議員に立候補する下心があるからやっているんじゃないかとか、そういう変なうわさを立てられて動きにくくなる場合が往々にしてあって、私も非常に困ったりする側面があります。そういった地域の感情のもつれをうまくコントロールする、あるいはマネジメントするのはどうしたらいいのかというのが1点。
 もう1点は、行政の仕組みを根本的に変えるという側面も非常にあると思うんですが、そのための非常に大きな仕組みとして考えるべきことは、行政委員会的な仕組みとNPO的なものがうまく組み合わさっていくこと。NPOとかコミュニティ・ビジネスが入ってくる過程で、杉並とか世田谷、千代田のまちづくりでよく行われているような公開審査を積極的に入れて、その公開審査の審査基準の中で価格優位制だけではなくて、数日前の神奈川新聞の記事なんかにもありましたけれども、環境配慮のポテンシャリティーとか、そういったものに対する評価もきちんと行われるような形になることが重要じゃないかなと思っておりますが、この点、2点お願いいたしたいと思います。

細内
 まず後者の質問はおっしゃるとおりだと思います。私が94年に『コミュニティ・ビジネスの考え方』を日本工業新聞に書いたときに一番最初に飛んできた方は、兵庫県庁の職員の方でした。つまり、95年、神戸で震災が起きて、私が95年の秋に、『コミュニティ・ビジネスの考え方』を「シンクタンクの眼」という特集記事に書いたんです。そのとき「あなたの言っているコミュニティ・ビジネスを神戸に導入したい」ということで、それからとうとう兵庫県は99年の4月からコミュニティ・ビジネス支援事業ということを始めました。そして、この3月に私はその公開報告会に呼ばれました。今ご質問にあったように、公開報告会を市民の前、県民の前でオープンにしてやるということは、県も、起業家も、市民も、NPOもそれぞれがどこに問題があるのか。真剣に考え、そしてそれぞれの立場で譲れない部分が見えてくる。そういう意味からも、公開報告会なり、公開審査をどんどん取り入れていくのが重要じゃないかと思います。
 最初の質問に戻りますと、人間の百八つの煩悩じゃないですけれども、地域には人間同士のせめぎ合いというのがありますから、そのことが古代から政(まつりごと)、政治といわれていますので、それはいろんなケースがあっていいのであり、避けて通れない部分ではないかと感じております。

高橋(木更津市議会議員)
 木更津の市議をしております高橋といいます。
 2層構造で解決をしていくというのが非常におもしろくて、そこのところが具体的でありがたかったんですが、有限会社の上のもう1つ、ボランティアの組織は、もちろん情報公開でしょうけれども、どれだけ大きくても、どれだけいろんな人が入ってきてもいいという考え方で基本的には進めた方がいいんでしょうか。

細内
 そのとおりだと思います。ただ、それは私もこの8年間、アメリカやイギリスの市民団体、日本各地の地域づくりをしている方々を見てきましたが、要するにそれはケース・バイ・ケースで、いろんなケースが出てくるんじゃないかと思います。ですから、これが答えだというのは、実はないんじゃないかと思います。答えがないところに答えをつくり出すのがそこに住んでいる住民であると思います。

 

 最後に、コミュニティ・ビジネスの支援事業を始めている都道府県が最近多くなりました。例えば岩手県がそうですし、兵庫県は99年4月からスタートさせています。準備をしている都道府県も多いです。最近ですと、石川県のコミュニティ・ビジネス研究会に行ってきました。石川県は、商業ベンチャーの中でコミュニティ・ビジネス研究会というのを立ち上げまして、商店街連合会や振興組合の方々が、どうやったら中心市街地、商店街を活性化していくことができるのかというときに、このコミュニティ・ビジネスという考え方を入れたいということです。
 それに、水戸の方がコミュニティ・ビジネスに熱心で、茨城県ではNPO団体とかJCの方に3回ほど呼ばれました。明治維新のときも水戸の天狗党といいますか、水戸が動いたように、今、時代の波を強く感じます。茨城に3回ほど呼ばれて、こういう小さな仕事、コミュニティ・ビジネス的な動き、NPOの動きが大きな時代のうねりとして、日本社会が市民社会に変わっていく上で避けて通れないものじゃないかという感じがしております。
 戦後の日本社会は、地域社会のことは行政がやってくださる、我々の暮らしとか商品、サービスは大企業が提供してくださる、その中央集権的な中で安定した暮らしをつくってきました。だから、職住分離でニュータウンをつくったりということもいいことだったんですけれども、しかし今の時代に合わなくなってきた。では、どうつくり直していったらいいのか。ニュータウンはニュータウンで、職住一体の暮らしに変身しなければならい。それは、身近なところに仕事場をつくったり、住む場所をもう少し広くして暮らしやすくしたり、つまり、昼間でも多様な人間、子供もいれば、おじいちゃんもいる、お父さんもいれば、お母さんもいる、この多様なる人々が暮らす町をどうつくっていくのかという視点に立つことが重要でしょう。それには職住一体の中学校区ぐらいの1つの地域コミュニティを生活圏にした、自分たちの暮らしづくりを考えてみる必要があるでしょう。企業の立場で見れば、職住一体の暮らしは、どんな商品、サービスを提供したらいいのかという視点でとらえ直してみる。そうすることによって、新しい道が開けるんじゃないか、こんなような感じで考えております。

谷口
 ありがとうございました。ちょうど時間も参りましたので、きょうはこれで終わりたいと思います。最後にもう一度拍手をお願いしたいと思います。(拍手)


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