連載コラム  
 
Topic 19 鉄道駅の利用者に対するわかりやすさ
  〜鉄道駅の役割を今一度考えてみよう〜
 
西尾 京介
 
 
●鉄道駅のわかりやすさ
 
 近年、都市における鉄道駅という空間がとても複雑でわかりにくいと感じることはないだろうか。鉄道駅、特にそれぞれの都市を代表する駅は、その街を初めて訪れる多くの人の印象を左右し、市民にとってのシンボル的な存在になっていることも多い。鉄道駅のわかりやすさは、都市のイメージを語る上での重要な要素ともなる。本稿では、近年、複雑さを増す鉄道駅の「わかりやすさ」について考えてみたい。
 
●都市のわかりやすさ
 
 そもそも、都市にとっての「わかりやすさ」とは何だろうか。アメリカの高名な都市計画家であり都市研究家であるケビン・リンチは、その著書「都市のイメージ」の中で、都市が多くの人々にとって視覚的に明瞭でイメージしやすいことの重要性を提起した。彼は、都市の景観やデザインを考える上では、人々がどのようにして都市をイメージしているかを解明することが重要と考え、「イメージアビリティ」という新たな概念を導入し、これを5つの要素から記述していくことによって都市のデザインのあり方を論じた。すなわち、「パス(道路や道筋)」、「エッジ(海岸や崖線など2つの異なる面を隔てる境界)」、「ディストリクト(一定の2次元の広がりをもつエリア)」、「ノード(人々が入ることのできる点、接合点)」、「ランドマーク(人々が外から見る目標物)」の5つである。
 
●都市における鉄道駅の存在
 
  リンチが用いた、これらのアイテムを借りて、我が国の都市において鉄道駅がどのように認識されてきたかを少し考えてみよう。
 まず日本の都市の多くにおいて、鉄道駅は歴史的に形成された市街地の外側に設置されたことはよく知られているが、これは、後に都市における駅や鉄道(敷)の性格付けに大きな影響を与えることになった。戦前から戦後、そして高度成長期の急速な都市の人口増加により市街地は鉄道敷を飛び越えて拡がったものの、官公庁やオフィス街、中心商業地などは、従来の既成市街地を中心に発展し、鉄道によって隔てられた市街地は、密度も性格も異なる街として成長した。これにより鉄道が都市のエッジを形成したのである。
 また、交通手段としての鉄道の役割が増大していくにつれ、市街地の中心部と鉄道駅を結ぶ街路は幅員も広くなり、やがて都市を代表する重要な街路の一つとなった。さらに鉄道駅自体は、外部からの訪問者を向かえる街の顔となり、都市の人にとっては、外に向かって旅立つ基点となる印象深い場所として記憶されることとなった。結果として、鉄道駅は都市の重要な街路と外部の世界をつなぐ接点(ノード)として機能し、同時に市民の誇るべきランドマークとして認識されるようになったのである。
 このように、高度成長期頃までの鉄道駅は、鉄道敷という都市のエッジ上に、ノードとランドマークが重なりあった、都市の景観を構成する重要な要素として形成されてきたのである。
 
鉄道が境界となっている市街地の構造
(出典:「都市のイメージ」ケビン・リンチの解説に鉄道の線を加筆)
 
●変質する鉄道駅
 
 しかし、その後、鉄道駅は徐々に複雑な性格なものへと変化していく。まず、鉄道からみて既成市街地とは反対側の市街地で、土地区画整理事業などにより本格的な市街地整備が行われた。大規模かつ面的に駅前広場や道路や公園等が整備されて大きな街区が形成されるとともに、公共施設やオフィスビル、商業施設などが立地し、就業者や居住人口が増加した。駅はもう一つの顔をもつことになり、これら新しい市街地と既成市街地とを結ぶ歩行者動線なども重要となった。駅そのものに「パス」としての機能が付加されたのである。さらに近年では、駅の内部空間や上部空間の空間利用価値が注目されるようになり、大都市はもちろん、地方の中枢・中核都市クラスでも駅ビルの大型化、駅内部での商業空間の充実が目立つようになってきており(Topic04「ポテンシャルを有効に活用した機能配置」参照)、鉄道駅はさながら一つの「ディストリクト」を形成する勢いである。
 このように、我々が鉄道駅をわかりにくく感じる現状には、そもそも「エッジ」であり、「ノード」そして「ランドマーク」であった駅に、「パス」や「ディストリクト」の役割までもが加わり、イメージアビリティを語る構成要素が非常に多くなり、かつ複雑になってしまっていることが関係していると言えよう。
 
●わかりやすい鉄道駅への再構築
 
 都市における駅の存在が、商業機能や業務機能、より日常的で多様な都市生活者のニーズを満たす機能を備えていくことは時代の要請である。そのような状況の中で、鉄道駅のわかりやすさを向上させるために我々ができることは何だろうか。以下では、三つの視点からそのヒントを探ってみたい。
 一つ目は、利用者からみてわかりやすいように全体の空間構成をなるべくシンプルで明快なものにしていくという作業である。鉄道駅の利便性が高まるにつれ、商業施設などによる駅ビルの建設が進んだが、駅前広場と鉄道敷の間が狭かったこともあり、奥行きがなく、見つけ幅の広い駅ビルが全国どこの駅でも見られるようになった。結果、それは利用者にとって、駅なのか、商業ビルなのかよくわからないものになってしまっている。こうした状況に対して一石を投じているのが、東京駅八重洲口の再整備である。駅ビルの解体と再構築により業務ビルや商業施設を機能性の高い、独立した施設として配置する一方、正面では、駅らしい顔づくりを目指した整備が進められている。これにより、利用者は街の顔・ランドマークとしての駅を自然に認識することが可能となり、駅のわかりやすさが高まることが期待できるだろう。また、金沢駅西口のように、視覚的にインパクトのある大屋根を都市の軸線と重ねることにより、明快な構造を作るというのも一つの方法だろう。
 

駅ビルの解体により視線の見通しが確保された東京駅

 
 二つ目は、自由通路を有効に活用する視点。ヨーロッパ等において我々が魅せられる駅の多くは、頭端式ホームの終着駅であるのに対して、日本の都市を代表する駅では相対式のホームによる駅が多い。必然的に鉄道駅を横断するための空間確保が難しくなり、大きな駅ではパッチワークのように継ぎ接ぎをしながら改造を加えてきた例も多い。このようにしてできたものは、内部が迷宮のようになり、利用者は容易にはその構造が理解できない。自由通路は、このような駅のわかりやすさを向上する上で、有効な手法になりうる。但し、こうした自由通路が十分に機能するためには、高さの確保などによって十分な空間の見通しが備わっていることが望ましい。物理的な空間確保の難しさや、工事による利便性の低下、コストへの影響など、駅における自由通路の整備には様々な課題があるが、単に歩行者の流動に対応した幅員の確保という点だけでなく、空間の見通し確保という点からも自由通路の機能を検討し、計画すべきだと思う。
 三点目は、駅とその周辺をわかりやすくつなぐことの重要性である。駅は見えているのに、道路や駅前広場に阻まれてアクセスできず、地下に入った途端にわからなくなってしまった、という経験をした人は少なくないだろう。デッキネットワークを整備することによって、「デッキに上れば駅にアクセスできる」と認識しやすくすることも方法だが、新潟駅南口中央広場のように、駅前広場の正面に人が集まれる広場をつくることによって、周辺からもアクセスしやすい空間をつくることも、また一つの方法である。
 複雑に絡み合ったイメージアビリティの構成要素を一つ一つ解きほぐしていく。大胆な発想を描きつつも地道に進めていく取り組みが、求められている。
 
 
 
   
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