連載コラム  
 
Topic 24 街並みとの調和に配慮した駐車場の配置・デザイン
  〜「隠す」&「見せる」のバランス〜
 
吉田 雄史
 
 
●駐車場を「隠す」か「見せる」か?
 
 駐車場を計画する際に重要なことは何だろうか。住宅地における個人の駐車場は別として、公共駐車場や商業施設等における駐車場、オフィスビルの地下駐車場など、駐車場を計画する際に重要視されるのは先ずは「効率性」であろう。その背景には「必要な台数を確保」する、しかしながら「あまり費用はかけたくない」という思いがある。「駐車場にそんなにお金をかけても…」というのが本音であろう。費用がかかっていないので人目にさらしたくないという理由からか、またはその騒音・排気ガスが理由からか、人間の生活から少し離れたところに「隠す」のが駐車場に対する基本スタンスであったように思われる。
 一方で、郊外の大規模ショッピングセンターなどにおいては、その大規模な駐車場の必要性かつ整備費削減という与条件から、平地または建物屋上において広く面的に設ける必要が生まれた。ここではその規模が故に「隠す」余裕はなく、(仕方なく)駐車場を緑化するなどしてある程度「見せられる」ものにしていこうという動きが見える。現在の駐車場のつくり方の方向性は、車を「隠す」か「見せる」か、という振れ幅のなかで語ることができる。
 
●駐車場プランニングのセオリー
 
 そもそもプランニングの側からは、駐車場整備のセオリーとしてどのようなことが語られているか。例えば、アメリカにおけるニュー・アーバニズムの旗手であるピーター・カルソープがその著書のなかで提示しているのは、以下のような内容である。
 
駐車場は歩行者優先道路に張り出してくるべきでない。可能であればビルの背後か街区の内部に配置すべき。
立体駐車場が歩道に面する場合、1階部分は商業利用が望ましい。
平面駐車場の場合は、70%の表面が木陰になるくらいの緑化をすべき。さらに歩道から車が見えないように樹木を周辺に配置すること。
 
 ニュー・アーバニズムの思想自体が、公共交通を中心とした都市をつくることにより自動車からのモーダルシフトを目指しているのだから当然といえば当然だが、ここでは歩行者から駐車場を「隠す」という基本的な姿勢が見て取れる。
 日本の都市においても事情は同様で、例えば公園の地下は公共駐車場にする、目抜き通りを避けて立体駐車場を配置するなど、歩行者にとって見えづらい部分に駐車場を埋め込む、ということが行われてきた。
 
●駐車場は「隠す」が都市に貢献
 
 しかしカルソープが示しているガイドラインは、「隠す」と同時に「都市に対して貢献する」という意味を含んでいる。歩道に面した立体駐車場の1階部は商業とする、また平面駐車場には木陰をつくる、などはまさしく「駐車場は隠すが都市へは貢献する」を具現化した内容といえる。
 例えばつくば市にあるつくば南駐車場。駐車場は2階以上であるが、1階の歩道に面して店舗を配置している。これは、立体駐車場という存在が都市に存在することで街並みの連続性が断絶することを避け、都市に対して貢献しようという姿勢が見て取れる。
 また都市において使いづらい部分に駐車場を埋め込んだ例として、東京は池袋にあるタイムズステーションを見てみよう。ここは高速道路に挟まれた立地であり、まともにビルを建てたらオフィスにも住宅にも使いようがないが、立地は紛れもなく都心のど真ん中である。この立地性への回答が、1〜2階店舗等、3〜9階駐車場、10〜12階スパ施設という、サンドイッチ方式である。店舗は地上部の都市の賑わい形成のため。高速道路に面した部分は駐車場。最上階は眺望を楽しめる都心居住者にとって利便性の高い温浴施設。空間のポテンシャルを詳細に読み解き、各々にふさわしい機能を挿入しているという点においては、不動産運用上は模範解答といえるかもしれない。
 
1階が店舗のつくば南駐車場
タイムズステーション最上階のスパ
(出典)http://www.arcstyle.com/ibaraki/247_minami3.html
(出典)http://www.timesspa-resta.jp/
 
●駐車場を都市の賑わい形成の要素として「見せる」
 
 一方で、駐車場は都市の賑わいを形成する要素としても機能しうる。アラン・ジェイコブスは著書「Great Streets」のなかで、優れた道路計画における路上駐車場の効用について述べている。すなわち主要道路の歩道沿いに配置されている減速車線は、美しい並木やその緩やかな速度のお陰で歩行者空間の一部となりうることを指摘しており、例としてバルセロナのPaseo de Graciaを挙げている。ただし、そうした効用が得られるのは駐車場が限られている場合であり、大量の駐車場が提供されている場合には意味をなさないことを彼は指摘している。ここでは、駐車需要を満たすのが目的ではなく、あくまで沿道の街路景観の賑わいや活気をデザインするための手段として駐車場が用いられていると捉えるべきであろう。
 

 

Paseo de Gracia の配置図 

中央車道と並行して駐車可能な減速車線が配置されている
(Great Streets / Allan B. Jacobsより引用した図に筆者加筆)
 
 また、路面店前の駐車場は、そのアクセス容易性等の点から、商業者・利用者双方にとってメリットがあるといえる。アメリカのショッピングモールに見られる路面店の前に設けられた駐車場はその典型例である。駐車場があることにより歩道部分に賑わいが生まれるというのは納得できるが、これも台数が多すぎないことが肝要である。
 
路面店の前に駐車場のあるショッピングモール(CA, USA)
 
●駐車場はより市民に開かれた存在へ
 
 以上、駐車場の「隠す」「見せる」という観点から駐車場と都市との関わり方について述べてきたが、ここで今後の両者の関わり方について考察してみたい。
 近年の低炭素化の流れに乗るならば、自動車交通から公共交通へのモーダルシフトが進み、自動車分担率は減少し、駐車場需要は確実に減るだろう。そうした趨勢の中で、将来的に駐車場は都市の中で、どのような存在として認知されうるのだろうか?
 ひとつの可能性は自動車自身の変容にある。自動車の動力はエンジンからモーターへ、燃料はガソリンから電気、水素等の次世代型へと着実に移行するであろう。もし駐車場を市民から「隠す」原因のひとつに騒音や排気ガスがあるとすれば、上述の変容に伴い、その障壁は低くなる。そうなれば、車とヒトとの距離もより縮まり、今までは考えられなかったような付き合い方が生まれる可能性はある。
 もうひとつの可能性としてカーシェアリングがあげられる。日本においても大規模団地などにおいては、カーシェアリングが進められているが、この流れが普及すれば、通勤や買物の目的地である都心の駐車場も大規模なものは不要になるだろう。
 そして駐車場が「共有」となるに伴い、利用者のコミュニティ拠点という新たな機能が生ずるのではないかという期待がある。個々人が所有している自動車が停まっているだけならば車を取りに行って終わりだが、共有ともなれば、そこには順番を待つ間に他の利用者と触れ合う瞬間が生まれる。カフェやコンビニ、はたまたちょっとしたライブラリーみたいなものがあってもよいだろう。カーシェアリングによって今後は、駐車場をよりパブリックかつ市民に開かれたものとしてデザインする必要性が生まれるのではないか。
 
●車とヒト、駐車場と都市のボーダレスな付き合い方
 
 駐車場の将来像にこれまでの延長線上ではない可能性があるとするならば、以上で述べてきたような電気自動車、そしてシェアリングによりコミュニティ拠点となった新たなインフラとしての駐車場との付き合い方が、今後の都市をプランニングするうえで重要なポイントとなる。新たなインフラとしての駐車場は、より公共性を高め、もはや「隠される」ことなく、街並みを構成する重要な要素になるであろう。
 今まで何となく境界が見え隠れしていた、車とヒト、そして駐車場と都市。これらの間のボーダーが消えるときに展開される光景は、間違いなく次世代の都市のバリューを高めるものになると思われる。
 
参考資料: The Next American Metropolis / Peter Calthorpe
  Great Streets / Allan B. Jacobs
 
 
 
   
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