No.106

2016年08月30日

VIEW 主任研究員 金行 美佳(かねゆき みか)
大都市部におけるこれからの新しいまちづくり

急速な情報化、国際化、少子高齢化等の社会経済情勢の変化に対応した都市づくりを行うため、東京を始めとした大都市部で都市再生が始まって10数年が過ぎました。近年、都市インフラの再編や国際競争力の強化などの要因も加わり、大規模な再開発を伴う都市再生は更に加速しています。

私個人として、日常的にこれら都市再生を目的とした大規模再開発の計画立案に携わる機会が多いのですが、これらは都市の活力を生み出すきっかけにすぎません。街区(点)の活力がエリア(面的)に展開し、まち全体が30年後、50年後、その先も活力を維持しつづけるためには何が必要か、大規模開発と周辺のまちという対立構造を生み出さず、お互いの持つ力をあわせて持久力のあるまちを展開していくためにはどうすればいいか、日々模索を続けています。

本稿では、その一つの答えになるのではないかと、期待をもっている渋谷がめざす新しいまちづくり“プロセス型まちづくり”を紹介します。
 

1.渋谷がめざす”プロセス型まちづくり“

先日のオリンピック閉会式の東京のプレゼンテーションが渋谷から始まったように、渋谷は国際的な認知度が高く、ファッション、音楽、ITといったクリエイティブコンテンツ産業の集積が生み出すコンテンツが最先端文化として世界へ発信され、国内外の多くの人々を惹きつけることで発展を遂げてきたまちです。近年では渋谷駅の再編や渋谷ヒカリエを始めとした大規模再開発が進められ、渋谷駅を中心にまちが大きく変化を遂げようとしています。

一方で、渋谷は駅中心部から徒歩圏に良好な住環境をもつなど多様な個性をもつエリアが広がっており、今後駅から周辺へ、さらに渋谷区全体へまちづくりを展開していくうえでは、子育て環境の充実や人口減少・少子高齢化といった都心共通の課題への対応や、多様化する価値観や技術革新への対応も求められています。

そこで、渋谷区では、時代の変化を享受し個性を活かしながら地域課題を解決していくため、住民や渋谷に関わる多様な人々が主役となるまちづくりを目指して「渋谷駅周辺まちづくりビジョン~協奏するまちづくりを目指して~(2016年3月渋谷区)」が策定されました。

まちづくりビジョンでは、渋谷の独自性や多様性を捉えた「4つの視点」が示され、これを自由闊達な意見交換の材料として活用すること、加えて、渋谷に住む人、働く人、学ぶ人、遊ぶ人など多様な人々が、世代を超えて交流し未来を語り合い、まちの将来像実現に向けた取組みを発見していく「場の展開」を提案しています。

これまでの上位計画にあるような行政がまちの方向性を予め提示するのではなく、「4つの視点」と「場の展開」を提案し、多様な人々の対話と共有からまちの方向性を導くという“プロセス型のまちづくりは”、多様な個性あふれる渋谷の本質を捉えたものであり、他都市にはみられない新しい取組みだと思います。

まちづくりビジョンの位置づけ(出典:渋谷駅周辺まちづくりビジョン(2016年3月渋谷区))

まちづくりビジョンの位置づけ(出典:渋谷駅周辺まちづくりビジョン(2016年3月渋谷区))

新しいまちづくり手法のイメージ(出典:渋谷駅周辺まちづくりビジョン(2016年3月渋谷区))

新しいまちづくり手法のイメージ(出典:渋谷駅周辺まちづくりビジョン(2016年3月渋谷区))

「場の展開」は既に始まっており、そのスタートアップイベントとして、平成27年度には「“かも”づくりフューチャーセッション」というシンポジウムが開催され、参加者が渋谷で実現してみたい様々なアイディアを出し合い、渋谷の未来の可能性をひろげる対話が実施されています。今年度に入ってからは、地元と地元、地元と渋谷区といったエリア間・業種間が対話する交流の実験場として、地元ワークショップが開催されています。

このように、渋谷では多様な人々が未来を想像し、対話し、実現につなげていくような、渋谷のまちづくりに、様々な人々が関わることのできる“場”を創るため、新しいまちづくり手法の検討を開始しています。

平成27年度シンポジウムの様子(出典:渋谷駅周辺まちづくりビジョン(2016年3月渋谷区))

平成27年度シンポジウムの様子(出典:渋谷駅周辺まちづくりビジョン(2016年3月渋谷区))

2.大都市部におけるこれからのまちづくり

大都市部におけるこれからのまちづくりとは、急速な時代の変化に柔軟に対応した持続可能なまちづくりです。というと、どこでも言われ尽くされた月並みな言葉にしかなりませんが、重要なのは、まちの持つ魅力や個性を本質的に捉えて実現していくまちづくりシステムの構築と、それを長い時間をかけて熟成していく地道な取組みなのではないかと思っています。

本稿で紹介した渋谷の取組みは始まったばかりですが、このような地域個性を本質的に捉えた新しいまちづくりが各都市で展開されていくことで、画一的ではない個性にあふれた大都市部が実現するのではないかと考えています。

最近印象に残ったこと

最近印象に残ったこと

筆者の紹介

主任研究員 金行 美佳(かねゆき みか) 

[ 専門分野 ]
  • 都市及び地域開発計画
  • 都市開発及び再開発計画の企画立案、事業推進支援
     
ここ数年、趣味は舞台やアート巡りと堂々と言えるくらい機会を重ねてきました。驚きや感動を与えてくれる作品に出合うのも楽しみですが、アート作品と自然・まちとの融合、そこから生まれる活気や賑わいに触れるのも楽しみです。