No.115

2017年05月31日

VIEW 主任研究員 西尾 京介(にしお きょうすけ)
公共空間の利活用でまちの価値を高める方法について考える

はじめに

今あるストックや資源をいかにうまく活用しながら、魅力的なまちを創るか、これはどのまちにおいても待ったなしのテーマです。特に、道路や公園といった公共の空間は、都市の中で重要な位置を占めるものも多く、その魅力次第で街の評価が大きく変わる時代となっています。実際に、ニューヨークでは、ブライアントパークのように、かつては一般の人が立ち入ることが出来ないほどに荒廃していた公園が再生されて、一年を通じて市民や観光客でにぎわい、周辺の不動産の地価が上がるほどに成功した例も見られます。日本でも、南池袋公園のように、まちの印象をガラリと変えてしまうような優良な事例がみられるようになりました。しかし、残念なことに、日本の都市では多くの公共空間が未だ有効に活用されているとは言えない状況にあります。

こうしたことを背景に、公共空間を利活用することへの関心が高まってきています。まちづくりの担い手が官から民へと広がりを見せるなかで、民間の資金やノウハウを活用した公共空間の利活用への期待も高まっているようです。しかし、多くの人々にとって、その必要性がわかってはいても、どうすればよいのかわからない、というのが率直なところではないでしょうか。
 

5つのプロセス

公共空間を利活用することでまちの魅力を高めるにはどうすればよいか、その過程には5つのプロセスがあると考えています。

発見

まず、最初は、もっと利活用すべき公共空間はどこか、それを探しだすことです。そのような場所がまちの至るところにある、という場合もあるでしょう。その中で、まず取り組むべき場所に優先順位をつけることも必要です。
 

写真1 高いポテンシャルをもつまちなかの公共空間

写真1 高いポテンシャルをもつまちなかの公共空間

評価・改善策の検討

次に、その場所が利用されない原因を考えます。その時に必要なのが調査です。特に、その場所を利用する人がどんな行動をとっているのか、ということを観察する行動調査と、人にとって心地よい環境という観点で、その場所がどのように評価できるのか、という空間評価が重要なカギとなります。その結果として見えてくる問題をふまえ、その場所の特長をいかしながら心地よい空間をつくるためには、何が必要か、改善策を検討します。大きなコストをかけずに効果をだすにはどうすればよいか、それを考えるのも重要な点です。
 

図2 行動調査の実施例

図2 行動調査の実施例

デモ・実験

改善案がどれほどに素晴らしい内容でも、自分の目で実際にみるまでは信じないのが人間です。そこで必要なのがデモや実験です。小さな実験で得られる体験を通して、ちょっとした工夫が街を大きく変えることを実感できます。誰も想像しなかった公共空間の利用が生まれることもあります。
 

写真2 商店街を市民のリビングとして活用する実験(松山市)/  写真3 公園におけるプレイスメイキング社会実験(弘前市)

写真2 商店街を市民のリビングとして活用する実験(松山市)/ 写真3 公園におけるプレイスメイキング社会実験(弘前市)

実装・具体化

実験の結果を踏まえて、必要な整備や改善、そして維持管理や利活用のための仕組みなどを整えます。まず、小さな範囲で集中して、比較的小さなコストで取組み、効果を見えやすくします。

写真4 一年を通じて商店街に座り場を設置・管理しているSWALOT(松山市)

写真4 一年を通じて商店街に座り場を設置・管理しているSWALOT(松山市)

展開

ひとつの成功を周辺に広げ、拡大、展開していきます。また、効果をモニタリングしながら改善をしていくことも必要です。

PPR

5つのプロセスの中でも、特に最初にプロセスをどうつくるかが大事です。NSRIでは、どこのまちにも眠っている、まちの価値を高めるためにもっといかせそうな公共の資源をPPR(Potential Public Resource)と名付け、コストをかけずに、知恵と工夫によってこれをまちにいかす方法について考えてみました。「PPR」という小冊子にまとめていますので、機会があれば、こちらもぜひご覧ください。
 

図2 PPR(NSRI自主研究成果)

図2 PPR(NSRI自主研究成果)

竹原市・忠海地区

竹原市・忠海地区

筆者の紹介

主任研究員 西尾 京介(にしお きょうすけ)

[ 専門分野 ]
  • 中心市街地・地域活性化のコンサルティング
  • 都市ビジョン等策定、戦略構築支援 
  • エリアマネジメント
  • 都市開発・都市再生計画 

仕事で地方に行くことが多いのですが、その度に、その豊かさに感動します。それぞれのまちが自分たちの資源をもっといかすことができたらもっと幸せになれる、そう思う一方で、ふと、自分のワークライフバランスも、まだまだ豊かにしないと、と振り返ってしまうこのごろです。