No.87 シリーズ "2030年の都市の姿" 最終回

2014年05月02日

VIEW 上席研究員 山村 真司
2030年の都市インフラはどう考える?

スマートに求めるものとは?

 昨今、“スマートシティ”という言葉を耳にしないことがありません。都市がスマートとは、一体、どういうものなのでしょうか?書籍やネットからは、スマートシティはテクノロジーとの関連性においてのみ語られていることが多いといった印象を受けがちです。スマートフォンやスマート家電までは身近で理解できますが、それ以上の都市づくりのテクノロジーと言われるとピンとこない方が多いのではないでしょうか?分からないままに、ますます“スマートシティ”というキーワードは肥大化する感があります。

 スマート化については汎用的な定義は特になく、本来同次元で議論されることのなかった物理的な取り組み(技術)から、社会学的な範囲(行動等)まで、一括りで“スマート〇〇”と扱われているのが実情です。これまでにも〇〇シティ、△△都市と、トレンドとなる言葉が生まれては消えていきましたが、「スマート」は言われて続けて久しいところです。

 一方、私たちが暮らす都市はどうなるのか?国連の予測では2030年には世界人口の約3分の2(50億人)が都市に住み、GDPの25%は人口の上位10数都市で生み出されることになります。経済活動のメインドライバーは都市域中心となり、エネルギー消費も、これまでのような産業中心から民生分野に主要因のシフトが進み、CO2排出量の3分の2が都市部で発生することになります。つまり、都市は大きなリスクとチャンス(環境問題の深刻化と迅速な緩和など)を同時に背負うことになるのです。これまで以上に多様化・複雑化するチャンスとリスクを同時に解決することが問われています。

 ところで、主として情報技術の発達により、これまで考えられなかったような種類、及び局地的情報の面的な把握が可能になってきています。多様な情報が同時に可視化されることで、繋がりがわからなかったものが把握できるようにもなりました。「スマート技術」と呼ばれるこのような技術は、これまでのような制度や枠組みでは解決が難しい都市の諸問題に対して、解決の光明を見いだせると皆が期待を強くし始めています。

 しかしながら、そのトレンドは技術重視傾向がますます強くなり、私たちが暮らすコミュニティや空間でどうあるべきなのか、何がしたいかよりも、この技術で何が出来るのかの発想になりつつあります。また、都市・コミュニティが対象であるにもかかわらず、残念ながらその視点での議論が十分ではありません。

どこからスマート化を発想していくのか

 私たちが暮らす場(コミュニティ)をスマートにすることが、本当に将来を豊かにするのなら、そこからどのように発想を進めるのか、その整理が重要です。コミュニティとは、共同性、地域性、つながり性を持った基礎的な共同体であり物理空間でもあります。一般には、CityやTownなどよりもスケール的には小さいと整理でき、そのような中でのスマート化とは、コミュニティの共通認識に基づいたものです。加えて将来的な視座から、図1に示すような生活環境に対して人々が期待する将来像を実現する手法(技術)も望まれます。従って、単なる一部のインフラや技術の効率化だけではなく、コミュニティを構成する多様なハード・ソフトに包括的に関わるべきであり、街づくりの概念やプロセスを踏まえたコミュニティの構築が必要になってきます。

 また、包括的に関わるためには、従来繋がりが見えなかったものを繋ぐ発想も重要です。エネルギーに関しては、スマートメーターを介したAEMSによって、建物など需要側と供給側(CGS、DHC等)の状況を一体的に把握することが可能になりました。これに加えて、エネルギーの最大消費元である人の活動パターンの把握と反映が可能になれば、コミュニティレベルで一層のエネルギー低減化に寄与しそうです。エネルギー以外に関しても、交通マネジメント、セキュリティ監視、さらには医療サービス、教育サービス等の各種ソフト情報をユビキタスネットワークにて連携させ、相互の関連性を把握し、ソリューションを見出すことで、より一層の利便性向上と、コミュニティ経営コスト低減化につながると期待されます。

AEMS:エリアエネルギーマネジメントシステム
CGS:コジェネレーションシステム
DHC:地域冷暖房施設