勉強会|アクターネットワーク理論(ANT)と都市計画


計画理論、都市計画技術、分析手法に関する知見を深めるため、アクターネットワーク理論に詳しい新潟大学人文学部准教授の伊藤嘉高氏をお招きし、勉強会を開催しました。講演内容の概要をご紹介します。


開催日:2022年12月16日(金) 
講 師:新潟大学人文学部准教授 伊藤 嘉高氏
聞き手:NSRI 主任研究員 藤田 朗

〇アクターネットワーク理論とは

アクターネットワーク理論は、ある「出来事」に対して、「構造」(社会、法則、客観的事実など)ないし、主体(個人、心理、主観的解釈など)を持ち出して、因果論的に説明しません。ある出来事は、事物(アクター:人間と非人間)の連関の「結果」であると考えます。構造や主体といった出来事も事物の連関の結果に過ぎず、事物の連関の原因でありません。構造や主体は「発見」されるものではなく、「構築」されるものというのが、アクターネットワーク理論の考え方です。

〇都市計画に対するアクターネットワーク理論の示唆

地域社会をどう記述/分析するのかについて、アクターネットワーク理論の視点から説明します。本質主義的・文化主義的な閉じた「地域共同体」(都市のムラ)の存在も、自律した個人による「コミュニティ」も前提にしえないのです。「地域共同体」や「自律した個人」の存在を前提とした研究(=説明概念として用いる研究)は無効化されます。合理的な主体を前提としたモデル化や住民参加は、合理的な主体を変容させる連関を射程に入れることができないのです。

人やモノが様々に移動する/させられるなかで、いかなる事物の連関によって、地域内外の共同性、公共性が立ち上がっている/いないのかを記述/分析することが求められます。主体でも構造でもなく、事物による連関(媒介)こそが集合性をもたらすことから、さらなる連関による集合性の形成を促すことが都市計画において求められると考えます。


講師プロフィール

伊藤 嘉高(いとう・ひろたか) 氏
新潟大学人文学部准教授。新潟大学大学院現代社会文化研究科准教授。博士(文学)
東北大学大学院文学研究科博士後期課程修了、山形大学大学院医学系研究科医療政策学講座助教・講師、新潟医療福祉大学医療経営管理学部講師など経て、現職。専門は、地域社会学、医療社会学、科学社会学。著訳書に、栗原亘編『アクターネットワーク理論入門—「モノ」であふれる世界の記述法』(分担執筆)、横浜国立大学都市科学部編『都市科学事典』(分担執筆)、ブリュノ・ラトゥール著(伊藤嘉高訳)『社会的なものを組み直す—アクターネットワーク理論入門』、ブリュノ・ラトゥール著(伊藤嘉高訳)「批判はなぜ力を失ったのか—〈厳然たる事実〉から 〈議論を呼ぶ事実〉へ」、ジョン・アーリ著(吉原直樹・伊藤嘉高訳)『モビリティーズ—移動の社会学』、ジョン・アーリ著(吉原直樹監訳、伊藤嘉高・板倉有紀訳)『グローバルな複雑性』など。