Beyond COVID-19 成熟した都市へ

Beyond COVID-19 成熟した都市へ

代表取締役 所長 朝倉博樹

世界各地でCOVID-19の感染拡大により尊い命が奪われ、また多方面に甚大な影響を及ぼし続けています。

我が国でも感染防止のためにさまざまな取組みが行われていますが、感染防止を図りながら円滑な日常生活や経済活動を行うべく「新しい生活様式」が政府から提唱され、働く・暮らす・学ぶ・遊ぶ場としての建築・都市にも新たな取組みが求められています。

 

⌘ 命を守る健康な都市へ

伝染病対策を含む「公衆衛生」は、これまでも都市計画の目的のひとつでした。COVID-19にどう対応し、「命を守る」空間・環境をどうつくるかが大きな課題といえます。

「命を守る」ということでは、BCPの策定などで主に自然災害に対する取組みが進められてきましたが、改めて「防疫」という視点から建築・都市を考えていく必要があります。

感染防止のためには、いわゆる「3密」(密閉・密集・密接)を避けるためのスペースの確保や風通しなど物理的な工夫が都市にも求められますが、それらと合わせてICTをこれまで以上に活用することが考えられます。例えば、人の密度に応じて省エネ・省CO2を図る空調システムや人流に応じた避難案内システムなどが実装されつつありますが、ICTによる空間のモニタリングとマネジメントを「密になった際の換気」や「密にならない誘導」など、命を守る健康な空間・環境づくりに活用することも考えられます。


 

⌘ 多様な選択ができる固有の魅力の集合体としての都市へ

多くの企業で在宅勤務が行われ、通信環境や労務管理など様々な課題もありましたが、長時間の通勤からの解放などから、在宅勤務の本格実施に舵を切る企業もあり、今後、働き方は場所や時間の制約から解放され、多様化が進むのではないでしょうか。また、遠隔診療やオンライン授業などICTの活用やサービス業へのロボットの普及など、日常を取り巻くさまざまな分野でデジタルイノベーションが進み、人々の活動の場や形態が変わり、都市構造や都市空間も変容していくと予想されます。

その一方で、リアルな空間には感染防止とともに、「ここでしか体験できない場」や「これをするならこの場所」など、その場に行くことで発現される場所の個性、魅力がこれまで以上に問われ、都心はこれらの集合体へと変容していくことも考えられます。デジタルイノベーションにより活動の場の選択が多様化するとともに、歴史や文化なども含めたリアルな空間(資産)のもつ価値が一層問われることになるでしょう。

 
 

⌘ 「新しい生活様式」に対応したコミュニケーションの場としての都市へ

外出の自粛を通じて、人と人が直接会うコミュニケーションの重要性が再認識されたことで、安全・安心を前提としたコミュニケーションの場としての建築・都市空間が一層求められると考えられます。例えば、オフィスは、事務作業を中心とした執務空間・環境としての利便性や効率性を備えていることのみならず、イノベーションを生み出すコミュニケーションを誘発する魅力ある環境を備えていることが一層重視されるのではないでしょうか。そのような観点は、オフィスなど建築空間のみならず公共・準公共空間のあり方も変えていくことになるでしょう。

都心内の公園などの公共空間や公開空地などの準公共空間は、貴重なオープンスペースとして、防災や緑化など様々な役割を担っていますが、より快適で便利な魅力あるコミュニケーションの場として望まれるでしょう。また、街路空間も安全・安心に都心内を移動できる新たなパーソナルモビリティの導入などと合わせて、身近なコミュニケーションの場など様々な活用が考えられます。と同時に、これらの公共・準公共空間も含め、エリア全体の感染防止にも配慮した「都市空間を賢く使う」マネジメントも求められると思います。

ITをはじめとする先端技術、これまで築き上げてきた建築・都市空間、さらに長い年月育まれた歴史や文化など地域固有の資産の3つがハイブリッドされた都市マネジメントによる、より安全で安心でき、空間や時間の制約から解放され、選択の多様性を備えた「成熟した都市」の形成が求められると考えます。

 

 

街路空間の活用イメージ(札幌スマートシティ実行計画より)

ICTを活用した歩行促進のための社会実験が行われた札幌駅前通地下歩行空間(チ・カ・ホ)。
 

国土交通省のスマートシティ先行モデルプロジェクトとして「健康をきっかけとした市民参加型のデータシステム」構築を目指した札幌スマートシティ実行計画および内閣府総合科学技術・イノベーション会議の「SIP/ビッグデータ・AIを活用したサイバー空間基盤技術」の一環としての実証実験。日建設計総合研究所では実行計画の作成や 札幌駅前通地下歩行空間(チ・カ・ホ)等 における歩行促進のための社会実験の実施・分析に携わった。