6小松研究員が日建設計の道家浩平氏、石黒翔也氏と共に応募した提案「2084」が「新建築住宅設計競技2022 ビッグデータと都市―ウェルビーイングな空間デザイン―」に入選しました。デジタルテクノロジーと都市空間に関する提案について話を聞きました。https://sk-jutaku.shinkenchiku.net/藤田が作品の紹介をお願いします。小松ありがとうございます。私たちのチームでは、コンペのテーマであるビッグデータを「人々の行動ログ」と解釈しました。「2084」は、個人情報の記録が推し進められた未来、逆にデータを取らないことが空間を形成し得るのではないか、というアイデアです。藤田ビックデータを使った都市空間デザインが今回の課題ですが、小松さんたちの提案では虚(ヴォイド)の情報空間をデザインしようとしていますね。藤田「2084」というタイトルはどのように決トピック入賞おめでとうございます。早速です小松突飛だと思われるかもしれませんが、発想の手がかりは素直なものでした。「最適化」という言葉を課題文に見つけたとき、おや、と思ったのです。近年聞くことが増えた言葉ですが、実際に最適を目指すのはそれほど易しいことではありません。ビッグデータの使用には必ず使用者の―そこには私たち設計者も含まれますが―恣意が介入しますし、よしんば公正に使用されたとしても、バイアスや探索の技術的制約は軽々しく最適を約束させてはくれない。ですから難しく考えるのをやめ、データを取らない空間を考えようと早い段階で割り切りました。めましたか?小松オーウェルの『1984』(1949)に引っ掛けましたが、提案の世界観はむしろ『ハーモニー』(伊藤計劃、2008)や、『PSYCHO-PASS』(虚淵玄、2012)に近いと考えています。つまり、管理がよく行き届き一見調和的に見えるディストピアです。藤田小松『1984』から70年以上が経ち、情報技術は当時より遥かに身近なものになりましたから、最近のSFには私たちの社会と地続きのリアリティがありますよね。そうした世界で人々の情報を集めるのは、抜け目の無いリトル・ブラザーたち、つまり携帯端末です。常時監視によって逸脱行為は姿を消し、人々の行動は徹底的に規範化されています。そこにデータを取られない空間、誰の目を憚ることなく振る舞える場所があったならどうか。人々は再び都市空間に自由に現れることを思い出すのではないかと考えました。藤田「現れ」と聞いて、『人間の条件』(アレント、1958)で概念化された「現れの空間」が思い出されました。秩序意識が浸透した都市空間に「現れ」るのは、遠い未来でなくても難しいですね。小松時代性を感じますね。技術的に「現れの空間」を実現しようビッグデータと都市 ―新建築住宅設計競技2022受賞報告―Topic
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