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第113回都市経営フォーラム

サンタ・モニカ三丁目開発公社
(Bayside District Corporation)

講師:泉 眞也氏 環境デザイナー


日付:1997年5月21日(水)
場所:後楽国際ビルディング・大ホール



ただいま御紹介いただきました泉眞也でございます。
 実は私は日建設計さんとは長いおつき合いであります。例えば住友の三角ビ ルとか、ちょうどその向かい合いのNSビルとか、そういうものを御一緒にお 手伝いさせていただいたり、今御紹介のありましたような博覧会でも御一緒に 仕事をさせていただいております。日建さんをそういう意味で、私は仲間だと 思っております。ですから、気楽な気持ちで、きょうは少し思い切ったことを お話ししてみたいと考えています。
といいますのは、皆さん御存じの国立民族学博物館の前館長でいらっしゃい ました梅棹忠夫先生が、「博引旁証、いろいろな資料を山のごとく積み上げて、 間違いのない平凡な結論を出す人よりも、言っていることはほとんどうそだけ れども、非常に知的に刺激がある人材の方が好ましい。私はよっぽど好きだ」 とおっしゃっています。私はすかさず、「先生はもろちん後者の方でしょうね」 と申し上げましたら、「もちろんそうです。私の言うことは、誤りがあるかも しれないけれども、実に知的刺激に富んでいると自分では思っています」とお っしゃっておられました。お集まりの皆さんの中にその方がいらっしゃると申 しわけないのですが、「さらに言えば、東京大学は大体博引旁証、つまらない 結論を出す。それに比べて京都大学は、言っていることに疑問があるかもしれ ないけれども、実に知的に富んでおりますな」というお話がございまして、私 の大好きな言葉の1つであります。そういう意味で、きょうはそういう仲間の 方と御一緒に、非常に気楽に、思いつくままにいろいろなことを話してみたい と考えております。
 きょうの話は都市経営が中心でございますので、やはり建築とか、地域づく りがテーマになるだろうと思いまして、先ほどの紹介にもありましたように、 「サンタ・モニカ3丁目開発公社」(Bayside District Corporation)のお話を しますと申し上げたのですが、実はそれはいろいろなお話の中の1つです。し かし、ハイライトでありまして、それ以外にも、今世界で行われているいろい ろな新しいまちづくりとか、その周辺の話を少ししてみたいと考えております。
 1時間半ぐらいしゃべって、30分ぐらいディスカッションをしろというお 話でございますが、実は皆さんはいろいろな形で、造形とか、都市計画とか、 建築とか、アートに関心をお持ちの方が大多数だろうと思いますので、なるべ くたくさんスライドを見ていただいた方がいいのではないかということで、実 は160枚用意してきております。80枚、80枚のツーセットであります。 時間によって、なるべく両方見ていただきたいと思いますので、もしかすると、 皆さんとディスカッションをする時間が非常に短くなってしまうかもしれませ んが、先ほど日建さんにもお話ししましたのは、私の希望として、いろいろな 理屈を言って、図柄をたくさんかくよりも、実物を皆さんに見ていただきたい。 大学の先生もいらっしゃるかもれしませんが、我々は大学の先生ではありませ んで、やはり物をつくる人間ですから、実際のプロジェクトのいろいろな局面 になるべくたくさん触れることが大事ではないかと思いまして、そういうお話 をしてみたいと考えております。

環境に配慮した都市開発
皆さん御存じのように、今世界が非常に大きな変曲点、曲がり角に差しかか っております。この間も国土庁の方々とちょっとお話ししたのですが、毎年3 月になると、4トントラックで20台ぐらい書類が運び込まれる。「何々開発 計画」とかいうもので、それが全部、21世紀を迎え、情報化時代に備え、高 齢化時代に対処し、活力のある地域をつくるというようなことが書いてある。 「こういうのは何十トンもらっても、何の役にも立ちませんな」というのがお 役所の方々のお話であります。私もそのとおりだと思いますので、そういう意 味では、きょうはなるべく具体的なお話をしたいと考えております。
 とはいうものの、やはり一応全体の流れとして、どういう流れを見ながらき ょうのお話をするのかという点を、ちょっとお話ししておきたいと思います。 基本的にはやはり2つあるだろうと考えております。1つは、私は今こういう 服を着ておりますけれども、御存じの方もあるかもしれませんが、これはイギ リスのテンセルという繊維であります。昔は非常に高かったのですが、今はそ んなに高くありません。
 私がなぜこういうものを着ているかというと、この繊維は、廃棄するときに 環境への負荷が一番小さいのです。ほとんど環境に対する悪影響なしにこの繊 維は消えます。そういうことが話題になりまして、一時、2〜3年前、テンセ ルを着るのが当時の知的な人々の一種のシンボルになりました。そういうとき に商人はすぐ金もうけを考えるものですから、やたらに高い値段をつけたので す。日本でも婦人服売り場などにテンセル・コーナーがありまして、めったや たらに高かったのです。ですから、今これを着ていますと、ファッション関係 の人は、「泉さん、随分高いのを着ていますね」と言われるのです。そうでは なくて、今はもう普通の繊維と同じような値段になりましたけれども、例えば こういうものを着ていますと、それによって、「ああ、この人は環境問題に対 してある程度関心を持っているんだな」ということを、言わず語らずにお互い に理解できる。これはファッションの1つの機能でありますし、服の持ってい る社会的機能の1つです。
 そういうときに、やはり肌合いとか、着心地も非常にいいですし、軽い。し かし、こすりますと、そこの色が落ちまして、相手にうつります。そういう欠 点もたくさんあるのですが、何よりも環境に対する負荷が少ないことが、私に この服を選ばせた理由です。それでたまたまそういう専門家のところに行きま すと、みんな多少尊敬の目で見てくれるというのは、こういう服を選ぶその人 のあり方に対して、みんなが賛意を表してくれるのだと思います。そういう意 味で、1つは、やはり広い意味での環境問題が、きょういろいろお話しする上 のベースになっております。
 それから、最近の出来事で私が非常にいいなと思いましたのは、毎年国は植 樹祭をやります。私の記憶では、たしか来年の群馬の植樹祭のポスターだと思 いますが、小学校の女の子の作品が1位になったのです。それは大変すばらし い作品です。
 黒板にかかせていただきますと、地球がありまして、ここに大きな木が1本 生えているのです。あるいは、皆さんテレビとか新聞でごらんになったかもし れません。地球は木だよ。地球を緑で覆い尽くしましょうというのが、今まで の植樹祭のポスターの考え方だったと思います。私が非常に感銘を受けました のは、中央に築地の市場のポスターではないかと思うような大きな魚がかいて ありまして、これが植樹祭のポスターであるという点です。たしか小学校5年 生だったと思いますが、そういう女の子がこういうポスターをかく時代になっ たのだな。
 つまり、よく言われるのですが、いい魚をとるためには、山に木を植えまし ょう。そうすると、川の水が清冽になって、その川がそそぐ海のいわゆる汽水 域がよくなる、一番おいしい魚がたくさんとれるところですが、東京湾は世界 的な汽水域であります。東京湾に川が何本流れ込んでいるか、多分皆さんは即 座にお答えになれないと思いますが、12本流れ込んでいます。その12の川 がそれぞれ独自の魚を生産していまして、そういう意味で、川の水をきれいに するために、山に木を植えよう。そうすると、川がきれいになって、おいしい 魚がとれますよ。山に木を植えることは、地球を緑にするだけではなくて、実 はそういう環境の循環の中で、おいしい魚もとれるのですよ。そういうことを 小学生が言うような時代になったことに、私は大変感銘を受けました。
 北海道の札幌だったと思いますが、「カムバック・サーモン」という有名な キャンペーンがありました。「サケよ、川に帰っておいで」ということで非常 に成功したキャンペーンです。何でそういうキャンペーンをしたかといいます と、実はきょうのお話に関係があるのですが、都市づくりと深い関係がありま す。「カムバック・サーモン」というのは、下水道整備のキャンペーンだった のです。そのように環境問題は、いろいろなものを単独に考えるのではなくて、 それこそ環境の循環の中で考えていく。
 したがって、物づくりも、都市づくりも、あるいは生活の考え方も、今申し 上げましたように、相互に影響しながら動いていく。地球という大きな環境そ のものを考えなければいけない時代になってきた。昔は、魚によって木を求め るのは、ばかなことの代表のように言われていたのですけれども、今は漁協が 山に木を植える時代です。そして、木によって魚を求めることが最も先端的な 産業のあり方であり、最もすばらしい生活のありようだというふうに世界が変 わってきているわけです。その辺を、ぜひ物を考えていく1つのスタンスにし たいなという気がしております。

ものづくり、まちづくり
もう1つは、ここにこういうCVと書かれたTシャツを着ております。本当 は帽子も持っておりまして、上から下までシリコン・バレーという格好になる のですが、なぜシリコン・バレーなのか。御存じのようにシリコン・バレーは、 世界的な今の情報化時代のドライブパワーであり、メッカであります。そのシ リコン・バレーが、1994年にクラッシュダウンしました。全米で最低の経 済の伸び率と最大の失業率という状況に見舞われまして、これではいかんとい うので、まちづくりの考え方を変えたのです。それが、皆さん御存じだと思い ますが、有名な「シリコン・バレー・モデル」と言われる考え方であります。  シリコン・バレー・モデルは、簡単に言えば、今までのようにエコノミーと コミュニティーを別々に考えるのではなくて、コミュニティーはエコノミーの ためにあるというのが、過去100年間、世界が歩んできた道だと思います。 物をつくるためにはこういう工場が要る。その工場はどこにあったら一番いい のかが最優先でありました。そこに働く人たちは、日本でいえば、遠くから長 時間かけて満員電車でやってくるという都市構造になったわけです。
 情報化時代になろうと、その点は全く変わっていませんでした。まず物をつ くる、情報をつくることが最優先であって、その工場のために住宅が奉仕して いたわけです。そういうまちづくりでずっと100年やってきて、御存じのよ うに、現在の日本のようなていたらくであります。産業もだめ、政治もだめ、 生活もだめ、すべてがだめになった。そのいわく因縁は、言うところのアメリ カのフォードさんがお考えになったフォーディズムと言われる経済の考え方と、 さらに悪いことには、GNPという最も劣悪な指標のとり方です。そういうと り方が我々の経済全体をだめにしたことは、みんながそれとなく感じています けれども、その結果として、シリコン・バレーもだめになった。
 そのときに彼らが考えたことは、今申し上げましたようなエコミノーとコミ ュニティーを、一体として、ダブルフェイスとして考えよう。つまり、エコミ ノーのためにコミュニティーがあるのではなくて、まずどういう生活をしたい のか。どういう生活が我々の好ましい生活であるか。その生活を営むためには、 どういう産業をつくればいいのか。基本的に言えば、そういう考え方です。こ れが有名なシリコン・バレー・モデルと言われる考え方で、将来の選択肢は幾 つもあると思いますけれども、私は間違いなくこのシリコン・バレー・モデル と言われるものが、1つの将来の有望な選択肢だろうと考えております。
 それを日本で実現しようという考え方が、通産省的に言いますと、「ファッ ションタウン構想」と言われるものであります。今までは工場のために町があ った。今度はこういう生活をしたいという町がまずある。その町でそういう生 活をするためには、どういう産業をどういうふうに配置すべきかというのが、 この考え方の基本であります。この話をすると、それだけで1〜2時間かかり ますので申し上げませんが、日本でもそういう考え方が、今や産業政策の主軸 になろうとしている。
 これを国土庁で申し上げますと、「もの・まちづくり」というプロジェクト であります。実は私は通産省のファッションタウンの推進委員会の委員長を仰 せつかっておりまして、ファッションタウンづくりということを、今一生懸命 わめいて歩いているのです。もう1つは、国土庁の方はもっと明快でありまし て、ものづくりとまちづくりを一緒にしましょうよ。だから、もの・まちづく りであります。これは単年度のプロジェクトでありまして、例えば燕であれば、 燕の洋食器なら洋食器とまちづくりをどうするかというのをやるわけでありま す。
 その中で、兵庫県の豊岡市は、日本海側の人口6万ぐらいの町でありますけ れども、日本のかばんの85%がつくられております。輸入機能も持っており まして、皆さんがいろいろなところでお買いになるいわゆるブランド物も、非 常に多くのものが、この豊岡を経由して日本に入ってきております。
 もともとここは柳行李をつくっておりました。そういう非常に長い伝統産業 を持っているところですが、そこが今かばんの町として再生をいたしまして、 かばん博物館とか、いろいろなものをつくろうとしている。私は、豊岡のかば んをベースにしたまちづくり、ライフスタイルづくりの委員長も仰せつかって おります。
 ちょっと申し上げますと、かばんは家庭の主婦の家内工業に支えられている 部分が非常に大きいのです。ですから、どういう産業形態でかばんをつくるか ということが、そのまままちづくり、あるいはライフスタイルの考え方に反映 してまいります。そういう形で、ものづくりとまちづくりを一体に持っていこ うということも、これからの1つの大きな考え方だろうという気がいたします。  そのような現代の状況の中で、非常に長い時間を考える。同時に、現実の問 題を考える。そのダブルフェイスで物を考えていかなければいけないのではな いかという気がしております。
 ここ2〜3年の間で一番長い時間の話をしましたのは、実は皆さん御存じだ と思いますが、下河辺さんと、紀元3000年の日本の人口をどのくらいに想 定したらいいだろうかという議論をやったことがあります。ああでもない、こ うでもないといろいろやっていたのですけれども、お互いに「何人」と言おう ということになりました。そのときは、お互いに言うのでも、相手のを聞くと、 フィードバックがかかりますので、紙に書きまして、イチ、ニのサンでポンと 出したのです。私も下河辺さんもぴたりと合いました。その根拠は2人とも全 く違っておりましたけれども、答えは同じで、日本の計画人口は40万であり ます。
 下河辺先生の根拠は、縄文時代は、日本で自然と人間が最もうまく共存した 時代だ。現代の技術、現代の知見をベースに、縄文時代を再構成する。それが 日本の1000年の国家プロジェクトとして好ましいということで、下河辺先 生は40万であります。私はなぜ40万かといいますと、日本列島に降り注ぐ 太陽のエネルギーで、どれだけ植物が育つか。その植物を食べることによって、 小動物がどのくらい育つか。その小動物を食べることによって、人間がどのぐ らい自然に負荷をかけずに生きていけるか。これは動物学者とか、いろいろな 生物学者に聞きますと、すぐわかりまして、日本列島全体が一応37万平方キ ロとしますと、大体37万頭であります。
 人間は物すごく大きい生物であります。人間よりも大きい生物はいっぱいい るではないかと言われますけれども、人間より大きい生物は、皆さん全部名前 を書くことができると思います。正確に書けなくても、「あれ」と言うことが できる。ところが、人間より小さい生物は、少なくとも数千万種、あるいはも う少しいるとも言われますけれども、その種類はほとんどしゃべれないだろう と思います。
 そのぐらい人間は巨大生物であります。地球という生命の星の中で、人間は まれに見る物すごく大きな生物で、それが地球上にこんなにいるのは異常な状 況です。どのぐらい異常かといいますと、今申し上げました40万を少しリア リスティックに申し上げますと、カローラと言いたいのですが、余りにも悲惨 ですから、セルシオと言いましょう。セルシオに新幹線1列車分の人が乗って いる状況です。その中で我々が豊かな生活を営めるはずがない。
 最近非常にうれしいのは、女性が子供を産まなくなった。もしかすると、こ れだけが日本の唯一の希望の星だと私は考えております。大体2020年〜2 030年ごろでサチュレートしてきまして、このままでいきますと、2000 年代の終わりごろには、人口は6000万前後になるだろうと言われておりま す。
 そのときに2つ考え方があります。1つは、何とかして緩やかに負荷をずっ と減らしていく。6000万から、3000万になる。3000万というのは 江戸時代です。さらに3000万から40万というふうに、ずっと持っていこ うよという考え方です。もう1つは、日本の人口が仮に5000万になったと きに、どういうことが起こるかというと、東南アジア、大陸からのいわゆるボ ートピープルが、日本に5000万入っているという見方があります。これは どっちをとるかというのは政策論ですから、難しいところですけれども、環境 的に言いますと、今申し上げましたように、日本はむちゃくちゃ込んでいる国 ですから、少なくともそこは減らしていくように心がけるべきではないか。そ のときに減っていくプロセスは大変です。
 私には子供はいません。というか、つくりませんでした。諸悪の根源は人口 にあることはわかっておりますから、私は少なくとも自分の子供をふやすこと はしない。そのかわり、死ぬときは1人であります。なかなかつらい老後です けれども、それは30〜40年前にもう決めましたので、その道を、かなりつ らい老後を歩こうと思っております。
 そういう形で、非常に長いことを考える。しかし、とはいうものの、やはり あしたも食べなければいけない、あさっても遊ばなければいけないと考えます と、そうストイックなことは言っていられない。ではどうするかというのが、 きょうこれからのお話であります。今申し上げましたことを少し序論的に申し 上げまして、その後でスライドを見ていただきたいと思います。

アメリカ西海岸に見る都市開発の潮流
私はここに「ファッションタウンへのカッティングエッジ」という報告書を 1冊持ってきております。これは後で事務局に置いていきますので、興味のあ る方は、余分がもう余りありませんので、大変恐縮ですが、「ちょっと見せて」 ということで、ごらんになっていただきたいと思います。
 我々は、先ほど申し上げましたファッションタウンで、人間の生活をまず考 え、それを豊かにするための産業構造を考えるというプロジェクトの海外スタ ディーを3年続けております。1年目と2年目はヨーロッパで、特に北イタリ アに行きました。北イタリアがそういう産業構造を持っていることは世界的な 定説であります。日本では最近訳されましたけれども、アメリカのMITのピ オリとセーブルという2人の教授がお書きになりました『第2の産業分水嶺』 (マイケル・J・ピオリ/チャールズ・F・セーブル=著 山之内靖・水易浩 一・石田あつみ=訳 筑摩書房)という本の中に、世界的な学問的研究が詳し く出ております。その中で、やはり望ましい産業のあり方として、北イタリア 型産業を挙げていらっしゃいます。
 私どもは北イタリアに2年参りまして、さらに3年目の昨年度は、実はカリ フォルニアに行ってまいりました。なぜカリフォルニアかということですが、 まず北イタリアは、今申し上げましたような、ものづくりと生活が非常にうま くリンクして、あのすばらしい北イタリアの生活が行われているのですが、何 といっても北イタリアは、オーバーに言えば5000年の歴史、短くても20 00年の歴史があります。
 例えば実際に北イタリアに行っていろいろなことを話しておりますと、「お まえ、いいときに来たな。この道は2000年前の歩道だけれども、最近ちょ っと傷みが激しいので、やっぱり上に土をかぶせて、2000年前の歩道は保 存しようということになった。恐らく次におまえが来るころは、この歩道は地 面の下に遺跡として眠っていることになるだろう」というような国です。「こ の町の歴史をちょっと聞かせてください」と言うと、「極めて最近、そうです ねェ、今から500年ぐらい前でしょうか、この市庁舎ができまして、現在で もこれを愛用しております」というような国ですから、日本とはけた違いです。  日本に一番役に立ちそうなのは、実はアメリカであります。あそこの国がで きてから200年ですから、古いといっても200年です。私たちの国でいえ ば、身の周りにありますものは、ほとんど明治以後にできたものですから、大 体100年ですね。そういう国を真剣に考えなければいけない我々にとっては、 確かに理想的なモデルは北イタリアかもしれません。あのすてきな町、すてき な音楽、おいしい料理、美しい女性、なんていうと、また差別だと怒られます けれども、そういうすばらしい国です。
 しかも、1つの産業の規模が小さいです。北イタリアでは、90%前後の工 場は就業人員が16人以下です。そうでありながら、世界的な産業がたくさん あります。そういう独特の産業構造を、専門的伸縮性を持つ産業と言いますけ れども、そういう産業構造をベースにした北イタリアないしはフランスの産業 によるあの美しいフランスの町、北イタリアの町を、まず2年間勉強してまい りました。
 振り返って日本のことを考えてみますと、ここで言うファッションというの は、こういう洋服ではありませんで、広い意味での生活を豊かにする産業のこ とですから、もちろんホテルも入りますし、学校も入ります。そういうものの 状況で考えますと、日本は大変なファッションの生産国であると同時に、ファ ッションの消費大国でもあるわけです。そういうファッションの生産国である と同時に、消費大国の日本の将来を考えてみますと、北イタリア型だけではど うもまずいのではないか。やはりアメリカ的な視座も必要だろうということで アメリカに勉強に行ったわけです。
 きょうもニュースで言っておりましたが、現在、世界で最も可能性があり、 将来展望の開けているところは、かつて東京は、第1位であったこともあった のですけれども、今や14番目であります。第1位、第2位は、シンガポール、 香港で、第3位がアメリカです。このアメリカの活力は、やはり2つの道から 来ています。1つは、有名な「ルート66」という歌に歌われておりますが、 ロサンゼルスからシカゴに抜けていく道が、アメリカのクリエーティブロード であり、プロダクションロードであります。もう1つは、カリフォルニア・ス テート・ナンバーワンと言われていますが、サン・ディエゴから北へずっと上 がっていってカナダまで行く道であります。
 私たちは、予算の関係と日取りの関係で、カリフォルニア・ステート・ナン バーワンという道に目をつけまして、ここ数十年の間につくられた、我々の言 うアメリカの新しいファッションタウン、つまり、産業のためにつくられた町 ではなくて、生活のパターンを決めて、その生活のために産業をつくっている 町を見てまいりましたので、まずそのお話を申し上げたいと思います。
 (スライド1)
 これは皆さん御存じのように、サン・ディエゴであります。サン・ディエゴ はアメリカでも非常に特殊な町で、この町を基本的に支えているのは軍需産業 です。ここは軍港で、そこの比較的新しいホテルの遠望です。このホテルは、 同時にヨットハーバーを持っておりまして、その感じです。
 (スライド2)
 私たちがここで非常に注目をしましたのは、1つは、やはり皆さん余りにも 有名なホートンプラザですが、今までのショッピングセンターの概念を変えた 建物であります。これは1つの建物であって、都市ではありません。1つの建 築は1つの建築の言葉で語られるというのが常識だったのですが、ここは1つ の建築にいろいろな建築の言葉が使われております。それだけではなくて、ホ ートンプラザをつくったジョン・ジャーディーという設計家は、「建築の形で はなくて、建築の形がつくり出す空間そのものが建築の価値だ」と言っていま す。彼は、設計家というより、むしろ建築プロデューサー、都市プロデューサ ーです。
 私が初めてサン・ディエゴに行きました三十数年前は、このあたりは危険で 歩けなかったのです。腕っぷしの強いマリーンがウロウロしていまして、夜の 女の人もゴロゴロしているところでありました。しかし、この新しいショッピ ングセンターの建造によって、実はサン・ディエゴという軍港の町ががらりと 変わってきた。それは、今申し上げましたように、建築というのは建物ではな くて、その建築の内部空間の質だということを、ジョン・ジャーディーが大胆 不敵にも表明したわけであります。このころから、建築の外部よりも内部空間 の方が重視されてきたというのは、例えばホテルでいえば、アトリウムホテル が物すごくはやり続けていることでもよくおわかりになると思いますし、建築 の「地」と「図」の関係を逆転させた建物です。今やそういう時代になった、 その先駆的な建物であります。
 (スライド3)
 同じジョン・ジャーディーが、去年の春、日本でつくりまして、非常に話題 になっている、皆さん御存じのキャナルシティー福岡であります。
 (スライド4)
 こういう非常にダイナミックな空間、これも内庭空間が勝負であります。建 物は一種の舞台の背景でありまして、内庭的空間そのものが建築の価値だ、町 の価値だというジョン・ジャーディーの考え方がそのまま生きております。簡 単に言いますと、先ほどのホートンプラザの中に運河が流れている。したがっ て、キャナルシティーであります。これは興行的には大変な成功をおさめてお ります。
 (スライド5)
 こういうものですけれども、ジョン・ジャーディーに言わせますと、人間は 大体40メートルぐらいしか注意がいかない。したがって、町にしても、ビル にしても、人間の回遊性を保つためには、40メートルに1つ人間の注意を引 くもの、いわゆる「マグネット」を置かないと人間は動かない。また、ずっと 見通しがあるとだめだ。この先、何があるのだろうという人間の好奇心を刺激 しながら、かつ、40メートルに1カ所ずつ、そういうマグネットを置いて人 を引っ張っていく。そこから回遊性が生まれて、それが商業につながるという のが、彼のマグネット理論でありまして、それを空間的につくるとこういうこ とになるわけです。
 おまけに、この真ん中に川が流れております。これは人工の川で、全く水道 の水を流しているのですけれども、こういう考え方で、これが1年間に実は1 610万人を集めました。ディズニーランドをしのぐ人数であります。同時に、 その30%が東南アジアないし台湾の人であります。
 これはいろいろな設備があります。多分皆さん御存じだと思いますけれども、 例えば「キャッツ」を上演した劇団四季の劇場とか、最近話題になっておりま すシネプレックスなどです。これは1つのコントロールセンターで、複数個の 劇場をコントロールしながら、かつ、複数個の映画が同時にかけられます。私 の知っている限り、世界で一番複雑なシネプレックスを持っておりますのは、 トロントのイートンセンターでありまして、たしか25を1センターでコント ロールしております。あと、セガなどのいわゆるゲームセンターも持っており ますし、もちろんホテルもついておりますし、レストランも、ショッピングセ ンターもあります。そういうものが1つの町をつくっている。これは時間消費 型の町でありまして、動員数の1610万人に匹敵する売り上げはなかなか上 がらないけれども、とにかくそれだけの人を集め得たことは1つの成果だと思 います。しかし、私の予想では、3年ぐらいしかもたないのではないか。
 この辺の素材は、プロの皆さん方がごらんになれば、「日建設計・設計、住 友建設・建設」というような立派なものではなくて、あっ、これは東宝舞台製 作の舞台のようなものだということがすぐわかりますが、非常に安い素材でつ くってあります。しかし、そういうことは一般の人は余り気にしない。ですか ら、どこに金をかけるかというのが、都市経営の経済学からいいますと、非常 に重要なテーマになってくる。その1つの例であります。
 (スライド6)
 サン・ディエゴの向かい側にコロナド島という島がありまして、そこにはア メリカで3大クラシックホテルに当たるホテル・デル・コロナドがあります。 木造のすばらしいホテルでありますけれども、きょうはその話をするつもりは ありません。そこのショッピングセンターの一隅の感じです。つまり、今アメ リカで人気のあるショッピングセンターはこういう感じですよという1つの例 であります。
 (スライド7)
 私が皆さんにぜひ見ていただきたいと思いますのは、米国の海軍士官の家で あります。これは入り口ですが、かなり立派できれいです。ここは軍港のある 町ですから、ここにはもちろんマリーンを初めとするアメリカの海軍の人たち が住んでおります。
 (スライド8)
 これが海軍士官の住宅が並んでいるいわば海軍士官の町です。
 (スライド9)
 どこに私が非常に感動したかといいますと、みんな小さいのです。とてもき れいで、ごみ1つ落ちていない。私が「なぜか」と聞きましたら、そのアメリ カ人が言うには、「我々は軍人であります。そして1年の半分ぐらいは海外で 暮らしております。したがって、家はワイフと子供で無理なくコントロール、 マネジメントできる小さな、しかし、気持ちのいい家である必要があると思い ます。しかも、私は海軍軍人でありますから、いつ命を落とすかわからない。 そのときに残された家族が健やかな生活を送るためには、やたらに大きな家、 維持する費用のかかる家は好ましくないと思います」ということでした。
 日本では、このように自分の人生に対する覚悟を持った人がいなくなりまし た。物はたくさんある方がいい。金は稼げる方がいい。うまいものは幾らでも 食べたい。太り過ぎるから、一生懸命お金をかけてやせる。暇があればゴルフ をしたい。それがすばらしい人生だ。そういう人たちが、結論から申し上げま すと、いいコミュニティー、いい都市をつくれるはずがないというのが、この 視察の結論であります。
 そういう点で言いますと、私はこれに非常に深い印象を受けましたけれども、 なぜこれが日本にとってモデルになるのかといえば、私は高齢化社会は、こう いう考え方で家を建てるべきであると考えております。そういうもののモデル として、このアメリカ海軍士官のように覚悟を持った人の生き方がある。残念 ながら、日本人には「覚悟」という古い言葉はもう忘れられてしまいました。  これで思い出すのは、アメリカの例のチャレンジャーが爆発したときのアリ メカ人の態度です。非常に問題になりました。あのときにアメリカの新聞記者 が宇宙飛行士に、「こんな危険なものにあなた方は乗るんですか」という質問 をしましたら、「我々は軍人であります。生死の覚悟はおのずからできており ます」と実にさわやかな答えが返ってきました。事実そうなんです。あのとき に、なぜあれがあんなに大問題になったか。民間人が多く死んだからです。そ の前に地上のシミュレーターの中で、優秀な宇宙飛行士が3人、目の前で焼け 死にました。そのときは問題にならなかった。彼らは軍人だからであります。  私は軍隊を褒めているのではなくて、そういう自分の生きざまに対する目標 というか、哲学を持たない人が幾ら集まって、どんな優秀な建築家が図面を引 いても、どんな優秀な都市計画家が考えても、ろくなコミュニティーはできな いことを、ぜひ皆さんと一緒に深く反省したいために、この写真を持ってまい りました。
 (スライド10)
 今申し上げましたのは、非常にストイックな厳しい住宅もあります。そんな ことばかり言っていると、「あいつ、年をとったなァ」と皆さんに言われそう なので、(笑)年をとらない泉眞也もいるんだぞというところで、ひとつ見て いきたいと思います。
 有名なゴルフコースで、ペブルビーチの18番であります。日本ではあそこ はゴルフコースだけが有名ですけれども、実は全体としては、ミラクル・セブ ンティーン・マイルズと言われる美しい住宅街を含んだ17マイルの海岸線の 総合計画があります。その1つに、たまたまペブルビーチのゴルフ場がある、 そういうところであります。
 (スライド11)
 何よりも海が美しい。これはたびたびカタログなどにも登場する二本の松で ありまして、こういう美しい海に沿ってコミュニティーがずっと連なっている。 まことにすばらしいです。この海を見ながらゴルフができるのです。
 (スライド12)
 これが、かの有名なペブルビーチの18番であります。ここにこういうきれ いなグリーンがあって、向こうにさっきアップでごらんになったような海があ る。周りにずっとあるのは住宅であります。この17マイルの間は、いわば私 有地的な制限がかかっておりまして、自由には入れない。ある許可をとった人 か、ある役目を持っている人しか入れない。そういうところの住宅の中にこう いうものがあるということであります。
 (スライド13)
 これはそういうまちづくりですから、ゴルフ場であると同時に、ショッピン グセンターでもあるのです。これはそのショッピングセンターのスナップであ ります。
 (スライド14)
 こういう非常にきれいなショッピングセンターがつながっておりまして、実 はこのシリコン・バレーのTシャツも、そこで買ったわけです。
 (スライド15)
 やはりすごいなと思いますのは、こういう高級車が並んでいる。こういうま ちづくりもあります。ですから、まちづくり、あるいは住宅づくり、都市の経 営は、いろいろなパターンがあって、決して1つのパターンではない。その地 域の特性やすぐれた特長というものを生かしたまちづくりが必要だという1つ の例であります。
 (スライド16)
 もう1つ、最近のアメリカ、特にカリフォルニアだけではなくて、ヨーロッ パもそうですが、路面電車の復興が非常に大きなテーマになりつつあります。 日本では、電車はみんなつぶして自動車にしてしまったのですけれども、あれ はたまたまそういう町だけを見てきた報告者が、「もう電車は古いんです。あ れをつぶして自動車の交通を確保することが、これからの都市の基本でありま す」といいかげんなことを言ったものだから、みんなそうなってしまって、今 困っているわけです。逆にヨーロッパでは、中心商店街の荒廃に対して、そこ は自動車を通さないで、シャットアウトすることによって、中心商店街が数年 の間に見事によみがえったという例が幾つも生まれつつあります。
 日本は、買い物を都合よくやるためには、やはり自動車が来ないとだめです なァというので、高速道路の周りに、いわゆるアメリカで言うパワーマートの ようなものを今一生懸命つくっておりますけれども、これはやがて廃れると思 います。やはり我々は、小さいけれども、非常にすぐれた商店街を身近に持つ という選択をするようになるでしょう。そのときの1つの例であります。
 これはサン・ノゼという町ですが、昔このトラムのレールがダブルに走って おりました。世界みんなそうです。行きがあれば帰りがあった。当然トラムの レールはダブルでありますけれども、これは片っ方のトラムのレールをつぶし てしまいました。そしてトラムをリング状にしたわけです。そのリング状の上 を、LRTという非常に軽量でスマートな電車が走るようになります。
 イタリアの例で申し上げますとカロッツェリア、例えばピニン・ファリーナ が電車をデザインしておりまして、これが電車かというようなファッショナブ ルで、まことに見事な電車が、音もなく走っております。そういうのがサン・ ノゼの例ではリングロードになっていて、一方通行でぐるぐる回っています。
 もう一方のレールはどうしたか。それをつぶしてバスレーンにしたのです。 どこの停留所においても、バスから電車に極めて気楽に乗りかえられます。そ うすると、バスはそこから郊外に向かって走り出していく。こういう新しいト ラフィックシステムが、今アメリカでは見直されつつありまして、その1つの 例であります。
 危険を避けるために、レールの両側には並木が植わっておりまして、このト ラムに乗って走りますと、まるで緑の並木道の中を電車が走っていくという感 じです。
 (スライド17)
 これがその電車です。
 (スライド18)
 停留所はこのようになっておりまして、片っ方が電車、片っ方がバスです。 共通の停留所です。このような非常に大胆な都市改造によって、都心部が復活 するだけではなくて、高齢者が自由に都市を動けるようになる。
 では、日本はこういうことを全くやっていないかというと、例えばこれの先 駆的な試みが日本でもあります。私の知る限りでいえば、東京都はだめですけ れども、例えば武蔵野市にムーバスというバスがあります。これはやはり一方 通行のバスがぐるぐる回っているのですが、何しろ定時性がぴたっと守られて いる。10分に1回来るのですが、間違いなくやってきます。どうしてか。考 え方が変わったのです。バス路線は繁華街を通さない。人の来ないできるだけ 閑静なところだけを選んで回るリングロードをつくりました。したがって、バ スは定時に必ずやってきます。
 そして、1回100円です。何時間乗っていてもいい。親から100円もら って、バスに乗ってぐるぐる回って遊んでいる子供もいます。老人たちの行き そうなところに、このバスの停留所があります。したがって、武蔵野市に住む 老人は、このムーバスの愛好者がとても多い。そのように、今までのバスとは 全く違った考え方で、新しい公共交通機関の復活を図っている。
 ただし、小さなバスです。ミニバスと中型バスの中間ぐらいで、28人乗り だったと思いますが、それがワンマンでコントロールされております。そして、 今言ったように、1回100円、何時間乗っても100円です。そういうバス がムーバスという形で出てきている。とてもきれいなデザインで、まるでディ ズニーランドのバスが走ってくるような感じです。細かくて小さいけれども、 そういう画期的な都市問題の解決策が今少しずつ生まれつつあります。
 このムーバスの提唱者と推進者は、朝日新聞記者から交通評論家として活躍 していらっしゃいます有名な岡並木さんです。彼の提唱でこのムーバスという 新しいバスが今注目を集めておりますけれども、こういうトラフィックの問題 も、都市開発の非常に重要なテーマだと思います。
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 ショッピングはやはり人間の日常生活にとって非常に楽しみですけれども、 その中で、私も世界で最もすばらしいショッピングセンターの1つだと思いま すカーメルプラザがあります。カーメルは人口4000人ぐらいの町ですけれ ども、アメリカ人が新婚旅行に行きたいところのナンーバーワンの町でありま す。町全体が物すごく美しい。そこのショッピングセンターのカーメルは、ダ ブルデッキです。2階が地上1階であって、1階は地下1階です。ダブルデッ キはアメリカのショッピングセンター理論の定説であります。それを見事に使 いまして、小さいけれども、非常に鮮やかでまことにすばらしい、気持ちのい いショッピングセンターをつくっております。
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 これが下からおりたところです。ちょっと暗いので、おわかりになりにくい かもしれませんが、緑いっぱいで、水もあります。空は、カリフォルニアの青 い空がいっぱいに広がっているというすてきなショッピングセンターです。決 して大きな店はありません。小さいけれども、大変すぐれた各種の店が入って おります。
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 ここの特徴は、こういう狭い通りと階段、エスカレーターを使いながら、1 階、2階と地上階を非常に滑らかにつないでいる。店の中も、入って見ている うちに、地下から入ったのに、いつの間にか地上1階に出てくるという工夫が ございまして、非常に気持ちのいいショッピングセンターです。
 (スライド22)
 これも実は歩道から見ているところですけれども、このギャラリーの中に入 って絵を見ているうちに、いつの間にか、先ほどの地下1階の路面におりてく るというダブルデッキです。そのデッキからの上下の移動が非常に工夫をされ ておりまして、お年寄りでも、ほとんど苦労せずに移動することができます。
 (スライド23)
 町全体もそうでありまして、これは町のメインストリートです。
 (スライド24)
 このだらだら坂をおりていきますと、この部屋の半分くらいですが、ちょっ とした小さなアルコーブがあります。その中に、数軒ですけれども、小さいが、 まことにしゃれたお店が並んでおります。
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 こういう感じです。今まで都市開発というと、やたらに大きなものばかりや りますけれども、そうではなくて、実はこういう小さな珠玉のようなポイント が、ずっとつながっていく。そういうものが、実はこれからの都市開発ではな いだろうか。
 というのは、起業家、業を起こす人たちの負担がまず軽くなります。リスク も小さくなります。そういう人たちが、それぞれ自分の個性と工夫の中で、あ るトータルなイメージに従いながら、例えばショッピングセンターでいえば、 自分の小さなお店をいっぱいつくっていく。企業でいえば、イタリアのように、 16人以下の企業が90%以上を占めるようになる。そういうところが一生懸 命やられて、全体として見ると、大きな産業効果になっている。そういう考え 方がこれからのまちづくりの基本だろうと思います。
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 それをまたさらに海の方にずっと下っていきますと、海が見えるところに、 ここにラ・プラヤという有名なホテルがありまして、これは世界の超高級ホテ ルの1つであります。
 (スライド27)
 中は、決して日本のホテルのように豪華絢爛ではありません。非常にナチュ ラルな感覚にあふれております。
 (スライド28)
 これがラ・プラヤホテルのデッキです。たまたま私たちはここに泊まる時間 がなかったものですから、このホテルでお茶を飲んで帰ってきました。こうい う都市の感覚が、実はこれからの望ましい都市の感覚であって、先ほど見てい ただいたような巨大なものは、実は失われたとは言いませんけれども、徐々に こういうものに席を譲っていくだろうと考えております。
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 今度は、大きいけれども、そういう小さい要素を非常にうまくちりばめてい て、しかも大学が経営しているショッピングセンターであります。正確に言う と、大学の理事会が経営しているショッピングセンターです。スタンフォード・ ショッピングセンターと言って、アメリカのベスト5から1度も落ちたことが ありません。売り上げといい、プレステージといい、アメリカの代表的ショッ ピングセンターであります。ここのコンセプトは、実はスタンフォード大学の 建築学科、都市計画学科の教授たちが指導をしております。
 非常に簡単に言いますと、ショッピングセンターは2つタイプがあるのです。 オープンモールか、クローズドモールか。つまり、屋根がかかっているか、屋 根がかかっていないか。それがアメリカで20年ぐらい前に大論争になったこ とがあります。そのときに、スタンフォード大学が出した答えが、半分屋根が かかっているというものです。まるで日本の大野伴睦さんの政治的解決みたい な答えであります。
 その具体的な設計がここです。道路のクロスするところには必ず屋根がかか っております。しかし、お店の前は、日本で言うと、雁木のような形の深い軒 が出ていて、ちょっとのぞけば、アメリカの抜けるようなカリフォルニアの青 い空がいつも見える。
 どうしてこういうことにしたのかと聞きましたら、雨が降ると困るだろう。 しかし、やはりカリフォルニアに住んでいる人は、この青い空を楽しみたいの だよ。その両方を解決するには、この方法しかなかったのだと彼らは言ってお りましたが、これは古い写真です。
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 これが去年の秋に行ったときの写真です。ほとんど変わっていないことがお わかりになると思いますが、花と水が著しくふえました。
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 このように、1つの施設にある基本的な考え方があって、それをずっと守り ながらメンテナンスをして、徐々に空間の質を高くしていく。そういうことに よって、このショッピングセンターが絶えずアメリカのベスト5から落ちない という結果が出ているわけです。
 日本は、最初はみんな一生懸命やるのですけれども、どうもこういう都市空 間のメンテインがよくない。ですから、日本のこういう公共施設は寿命がすご く短いです。その点をこのショッピングセンターに学ぶべきではないかという 気がしております。
 これはメインストリートです。最近は、例えば情報化時代で言いますと、す ぐマルチメディアとか、バーチャル・リアリティーと言っておりますけれども、 あれは情報化時代のごく一部分の話であります。今マルチメディアとか、バー チャル・リアリティーとか、インターネットとか、パソコンがもてはやされて いるのは、簡単に言うと、産業がもうかるからであります。あれで人間が幸福 になるわけではありません。
 そういう点で言いますと、そういう最先端を歩いている人たちが今一番問題 にしている都市空間は何か。「パッサージュ」であります。パリを初め、ヨー ロッパにある、屋根のかかった、メインストリートとメインストリートを結ぶ 小さな空間です。そこの空間が持っている人間的薫りと質の高さは、バーチャ ル・リアリティーとかあんなものではとても補えるものではないことは、やっ ている彼らがよく知っております。ここスタンフォード・ショッピングセンタ ーでもパッサージュ的空間が徐々にふえつつあります。
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 こういう空間です。日本で言うと横町、アラブで言えばスーク、フランスで 言えばパッサージュであります。そういう質の高い小さな空間の持っている個 性的な表情です。ここはスポーツウエアの横町であります。
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 これはアートの横町であります。
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 これは民芸品の横町であります。このように、それぞれの個性的な横町が、 メインストリートからちょっと入るとある。これは小さな町をそのままモデル にしてつくったショッピングセンターでありまして、しかも周りが全部駐車場 です。ある人に言わせますと、駐車場の海に浮かぶ珠玉のようなショッピング センターです。行ってみると、まさにそういうことがよくわかりました。
 そしてそれが、スタンフォード大学というアメリカのベスト5に入る大学の 建築学科、都市計画学科の教授の指導を受けながら、大学の理事会がこれを運 営している。彼らはこのショッピングセンターのことを非常に誇りに思ってい ます。例えばアメリカで最もプレステージがあり、最も知的な雰囲気を持って いる。あるいは、アメリカで最初のハンバーガーか何かのお店がここに出たの です。そのぐらい、いろいろな先端的な業態を切り開いてきましたし、今でも その心がけでやっております。先ほどの小さなショッピングセンターもあれば、 こういうショッピングセンターもあって、共に住民の感性から生まれたもので す。
 さっき申し上げるのを忘れましたけれども、カーメルの市長さんはクリン ト・イーストウッドでした。そういう知性と感性のリードする都市空間とはど ういうものであるかを見ていただくつもりです。
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 センターからだんだん外周の方に行くに従いまして、空間の質が変わってい く。これは周辺の農場から持ち込まれた野菜の即売コーナーです。そしてだん だん町の方に溶け込んでいく。ですから、日本のように、ドーンと威張ってい るのではなくて、町とのエッジは、町の日常生活と非常になじみやすい。しか し、真ん中のところは、さっき見ていただいたように、日本のショッピングセ ンターではとても考えられないようなハイクラスの空間を持っている。そうい うショッピングセンターであります。
 (スライド36)
 これが一番エッジの部分で、ここから向こうは町です。ですから、ここのシ ョッピングセンターに行きますと、町とこういう囲われた施設で、先ほど内部 空間の時代だと申し上げましたが、それを見事に実感することができます。  そのほか、ここには非常に知的なウィットに富んだお店がいっぱいあります。 あるコーヒーショップは、「フィットネスに最も害のある店」と書いてあるの です。そういう一種の知的なしゃれも含んでいて、ショッピングというものが、 まことにある種の知的な雰囲気を保ち得ることがわかるお店であります。
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 先ほど申し上げましたように、シリコン・バレーはそれの産業版で、今申し 上げましたスタンフォードモールはそのショッピングセンター版で、そういう 大学を中心としたまちづくりが、パロアルトを中心とする今のまちづくりであ りますけれども、ここは皆さん御存じのように、水族館を中心としたモントレ ーという町の表情です。世界的に有名な水族館で、日本の葛西水族館がこれの 姉妹水族館になっております。
 (スライド38)
 葛西も視覚的にこういうことをやっておりますけれども、ここの名物は、実 物の海を館内に広く取り込んで、ここではラッコの生態を眺めることができま す。
 (スライド39)
 このように、ラッコが岩の上でいい気持ちになって昼寝しているのを身近に 見ることができます。
 (スライド40)
 ラッコは猛烈に速く動きますので、なかなか難しいのですけれども、中に入 ってよく見ていると、ラッコのさまざまな生態を身近に見ることができます。 ラッコを飼育し、しかも野生の生態も見られることで世界的に有名になった水 族館であります。
 (スライド41)
 同時に、ここはジャイアントケルプ、非常に大きなコンブ(海藻)が海岸に 生えておりまして、このコンブから石油がとれるというので、一時非常な話題 になりました。そういうジャイアントケルプも見ることができます。
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 最近、アウターベイという新しいウィングが付加されました。今までは海辺 の生物、ラッコあるいはコンブがここのテーマでした。そこにアウターベイと いうことで、外洋の生物、湾の外側にいる生物たちも見られるようになってき ました。これは実に見事なクラゲの展示水槽です。
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 さらに、ここにはタッチプールがありまして、いろいろな海の生物に子供た ちがさわることによって、生物への理解を深めることができます。
 ただし、これは非常に問題があります。例えばよくイルカでも、もし我々が 乾いた手でさわりますと、イルカの皮膚はやけどをいたします。生物にとって は必ずしもいい環境ではないので、自然保護団体の人たちは、このやり方に対 して厳しく抗議をしております。動物の命が短くなります。しかし、そのこと によって、本質的な意味での子供たちへの海の生物の理解が深まればいいでは ないかということで、ここではそういうことをやっております。
 (スライド44)
 これが全体の入り口というか、通路ですけれども、クジラから始まって、今 申し上げましたようなさまざまな海の生物にここで出会うことができます。
 (スライド45)
 ここで大事なことは、無数の企業のドネーションによってこの水族館が支え られていることです。日本のように、「金が余ったから今度はメセナでもやる か」といったものではありません。本質的な意味での企業の社会的責任を、ど ういう形でリターンするのかを、アメリカの企業は真剣に考えております。
 ついでに申し上げますと、アメリカの企業のトップと話しておりますと、消 費者への還元は一言も言いません。そんな生っちょろいものではないのです。 彼らが言うのは、株主への還元でありました。「株式会社は株主のためにあっ て、一般社会のためにあるのではありません。その株主が、自分の投資してい る企業に対する誇りを持ってほしい。その誇りを持っていただくために、我々 はこういう社会的施設に投資をしております」ということを、IBMでも非常 にはっきり言います。
 その辺が、日本のように、企業の社会的責任、シチズンシップなどといった いいかげんなものではなくて、非常に厳しいアメリカの自由主義経済の論理の 中で、株式会社とは何か、株式会社は何のためにあるのか。総会屋のためでは なくて、株主のためにあるのだということを、彼らははっきり知っておりまし て、それをちゃんと実践をしている。そういう中から、こういうすばらしいア メリカの博物館が生まれている。
 私は、21世紀はミュージアムステート、博物館国家の時代だと思っており ます。博物館は非常にいろいろな意味があります。例えば今アメリカの観光の メッカの1つは、大学のいわゆる学生生協の店です。UCLAの学生生協の店、 MITの生協の店、ハーバードの生協の店に、観光客がバスでやってきます。 そのように大学も非常にいろいろな特徴を持っておりますように、博物館も、 例えば世界的な有名なパリのルーブル博物館は、御存じのように、今パリで最 もしゃれたショッピングセンターであります。そのように、いろいろな形で、 多角的に1つの施設を使っていく。そういうことをアメリカの経済は成し遂げ て、それがまちづくりに非常に大きな影響を持っているという例であります。
(スライド46)
 そこの水族館がつくり出した町の風景です。ただし、ここはもともと漁師の 町でしたから、水族館は漁師から猛烈に嫌われています。ラッコは貝をむちゃ くちゃ食べるのです。1日に自分の体重の40倍ぐらい食べます。ですから、 ああいう害獣を保護するなど、とんでもないというのが、ここの漁師たちの意 見ですけれども、大勢に抗しがたく、町はこういうふうになりました。
 昔ここは漁師のいろいろな漁具を売っていたお店でしたけれども、今はモン トレーのお土産屋さんの店に変わっております。
 (スライド47)
 あそこに、壁に絵がかいてある建物がありますが、これは缶詰工場です。漁 師も漁業もこういう形で残ってはおりますけれども、全体としては、水族館が 1つのタウンセンターになりつつあるというのが実態であります。  (スライド48)
 そこから、こういう新しい町の風俗、若い人たちの活気あふれた風俗が生ま れてきております。御存じのように、水族館は若い人たちに大変人気がありま す。理由は大変簡単でありまして、まず臭くないです。それからきれいです。 それと、ほとんどの人が、薄暗い空間で前ばかり見ていますので、横のことに 余り気を回しません。したがって、昔風に言うとアベックで、最近でいくとツ ーショットで行くのには非常にいいところであります。日本の水族館も、あれ は魚のためよりも、むしろそういう人たちのためにあるのだろうと思っており ます。そういう意味で、こういう新しい水族館をテーマにまちづくりを行って いるモントレーの状態であります。

サンタ・モニカ3丁目開発公社
 (スライド49)
 ここからが実はきょうのベイサイド・カンパニーの話であります。かなり詳 しい資料を差し上げてありますので、また後でそれをお読みになってください。
 どういうところか、まず場所を見てください。それはサンタ・モニカのダウ ンタウンのセンターが完全にクラッシュダウンしました。人も来なくなり、商 売はだめになる。どうしようかという結果で生まれたのが、このプロジェクト 公社という考え方であります。
 そこの人たちがどういう組織でどういうことをやっているかは、資料に書い てございますが、一言で言いますと、ヨーロッパのまちおこし、まちづくりは、 商工会議所が中心であります。なぜかといえば、ヨーロッパの商工会議所には すべての業種が加盟しなければいけません。そして売り上げの1%を納めなけ ればいけません。したがって、商工会議所は大変お金を持っております。その お金は、政府に吸い上げられずに、日本のように大蔵省に行かなくて、ダイレ クトに自分たちが使えますから、自分たちの仕事のために非常に有効に使える のです。
 1つ例を申し上げますと、フランスのリヨンという市の商工会議所は飛行場 を持っております。どのぐらいの飛行場かというと、4000メートル滑走路 が4本あります。関空と成田が一緒になったものよりまだ大きいような飛行場 を、一商工会議所が持っているのです。そのぐらい地方の分権が確立しており ます。しかも、日本のようにいいかげんな分権ではなくて、ちゃんと地方がみ ずから稼いだ金は、みずからの手で、みずからのために使うという分権制度が 確立しておりますので、この商工会議所と、市長さんを中心とするいわゆる地 域の行政のリーダーの二人三脚で、ヨーロッパのまちづくりが行われておりま す。特に北イタリアはそうであります。
 ただし、これには国がそこに非常に深くかかわる場合と、国がかかわらない 場合の2つのタイプがあります。北イタリアの例で申し上げますと、コムーネ・ ルージュ(赤いコミュニティー)と言われるような、共産党が第1党であると ころは、国が深くかかわるのです。それから、コムーネ・ビヤンコ(白いコミ ュニティー)と言われるところは、キリスト教中心でありまして、そこはほと んどが地域にお任せであります。
 共通して言えますことは、例えば読み書き、算数は、国の仕事であります。 しかし、デザインとか工学といった職業教育は、地域の仕事であります。日本 のような文部省の地方分権、通産省の地方分権、国土庁の地方分権、しかし、 その横は全く流通がないといった地方分権は、かけ声だけであります。
 そういう点で言いますと、アメリカのここは、商工会議所のかわりにベイサ イド・ディストリクト・コーポレーションという会社が公共から委託を受けま す。これは株式会社ですけれども、セキュリティーから何から、この会社が全 部保障しまして、3丁目という一角を、アメリカで最も活気のあふれる、すば らしいショッピングストリートに見事に改造いたしました。もちろん、先ほど 申し上げましたように、自動車はシャットアウトであります。しかし、その周 辺には、公共が土地を出しまして、なかなか立派な駐車場を持っておりまして、 その駐車場から歩いて数分でこのストリートに入ることができます。
 (スライド50)
 これが夕暮れ迫るサードストリートの風景で、こういう感じであります。
 (スライド51)
 真ん中には、こういう中央分離帯のようなものがありまして、ここは公共の ものであります。ですから、案内所とか、いろいろな公共サービスをやるキヨ スクは、こういう形で真ん中にずっと並んでおりまして、今申し上げましたよ うなお店が左右に張りついているという考え方です。
 (スライド52)
 これがちょうどさっきと反対の方を見たところです。全体の雰囲気はおわか りになっていただけると思います。
 (スライド53)
 非常に斬新なデザインもあれば、非常にクラシックなデザインもあります。
 (スライド54)
 ちょっと小さくて恐縮ですけれども、この3本の道が、今申し上げましたベ イサイド・ディストリクト・コーポレーションがコントロールしているところ であります。どのぐらい多くの店が入っているかは、横にダーッとたくさんあ るので、これを見ていただけばわかると思いますけれども、年間のイベントと か、町の保安も、全部ベイサイド・ディストリクト・コーポレーションが請け 負ってやっております。
 (スライド55)
 ちょっと読みにくいと思いますが、キーコンセプトです。これは印刷物とし て全部お渡ししてあります。
 ベイサイド・ストリートが成功した原因は何か。彼らは3つの条件を挙げて くれました。1つは、キーコンセプトの1に書いてありますが、いわばこの町 のいろいろな要素をミックスユースすることです。先ほど申し上げましたよう に、博物館は博物館、大学は大学、研究所は研究所ではなくて、例えば、かの 有名なMITは、教育機関としての活動は10%ありません。九十数%は、企 業からお金をもらって物を考えているという世界のシンクタンクであります。 そのように、ミックスユースをすることがまず大事だと言っております。
 ですから、例えばいろいろと不動産とか、エンターテインメントとか、レジ デント、住居環境とか、パブリックスペースといったものが、住居は住居、リ テールショップはリテールショップ、小売店は小売店というような考え方では なくて、そういうものがミックスして新しい町をつくっていく。これがキーコ ンセプトの1つであります。先ほど申し上げたシリコン・バレー・モデルに近 い考え方です。
 こういうものが世界的に最も成功しておりますのが、カナダのトロントの町 の北部の方にありますヨークビルという一角であります。もともとこれは二十 数年前にヨークビレッジというミニミニショッピングセンターができました。 4軒の民間の人たちが協力して、自分たちの真ん中に中庭をつくって、そこに 13軒の小さなお店を出しました。
 このヨークビレッジというショッピングセンターは、すばらしいショッピン グセンターで、できたときには世界的な話題を呼びました。その設計者が有名 なケンブリッジ・セブンであります。これはケンブリッジ・セブンの極めて初 期の仕事です。私はわざわざ日本から見に行ったのですが、本当に感激しまし た。それは私が感激しただけではなくて、周りの人が感激したのです。ああや ればいいのだというので、町全体が田中角栄になったのです。全員が不動産業 者、全員が設計者、全員が開発業者になりまして、近所で相談して、ミニミニ ショッピングセンターをいっぱいつくって、ずっと並べていった。今世界で、 あるいはカナダで最もファッショナブルな町になりました。お店と住宅が混在 していたり、料理屋と住宅が混在しております。
 公共は何をしたか。20年間黙って見ていたのです。それがすばらしいとこ ろで、このままでいくと、例えば上下水道問題、エネルギー問題など、いろい ろ出てくるなというときに、初めて彼らは緩やかに介入を始めました。それが 多分数年前だと思います。そういう公共と民間のあうんの呼吸を持った都市の 開発のうまさは、私はトロントにまさるものはないと思っております。これか らの都市づくりの1つのモデルは、トロントにあると私は考えております。そ このトロント市の都市計画局長は、私が訪問したときは女性だったのですが、 非常に柔軟ですばらしいまちづくりをやっております。
 トロントの郊外には、日本人の森山さんが設計しました有名なスキャボロー センターというタウンセンターというか、コミュニティーセンターがあります。 真ん中が議場で、向かって左が教育省、右側がたしか保健省であります。つま り、民主的な議会と、教育を扱うところと、健康を扱うところがコミュニティ ーのコアだと彼らは信じているのです。真ん中に広場を挟んで、その向かい側 にとてもすてきなショッピングセンターがあります。そのショッピングセンタ ーと、行政の市役所と、保健省と、教育省がいつも一体になってイベントを計 画しております。そこに地下鉄が乗りつけるようになっている。
 ついでに申し上げますと、私はアメリカにたびたび視察に行きまして、幾つ かの非常にインパクトのある出来事に出会いましたけれども、その中の1つに、 タクシーの運転手があります。私はあるタクシーの運転手に、「飛行機の乗り 継ぎの時間が2時間あるので、2時間でこの町を見せてくれ」と言いました。 私は、飛行機の乗り継ぎの時間があると、時々そういうことをやります。その ときに見せてくれたアメリカのタクシーの運転手の選択がすばらしかった。
 彼は、まず最初に、住宅に連れていってくれました。「どうです。住宅は人 生のベースです。今はちょっと花の季節がずれているけれども、花の咲いてい るときにぜひ一遍来てください。すばらしい住宅ですよ」。その次に彼が連れ ていったのが学校です。「日本の学校もすばらしいと聞いているけれども、我々 の学校も、日本よりきっとまさるとも劣らぬものだと思う。やはり人間は学ば なければいかぬ。そのためには、教育施設が極めて重要です」ということで見 せてくれました。最後に連れていってくれたのが病院であります。「人間は病 気をする。年もとる。そのときに、どうやって介護するのかということが、コ ミュニティーの最大のテーマです。この住宅と学校と病院が、我がコミュニテ ィーの誇りなんです。よく来てくれましたね」。
 多分、日本のタクシー運転手ですと、新宿、浅草、皇居前広場ですかね。東 京タワーに上がりませんか。コミュニティーというものの考え方が違うのです。 今までの日本は、それでよかったかもしれませんが、これからの日本は、アメ リカのタクシーの運転手に学ぶべきだと私は思います。
 例えば場所は申し上げませんけれども、日本のある県庁ができたときに、私 は知事に呼ばれまして、見に行きました。多分設計者も開発業者もうんともう かっただろうなと思うすばらしく立派な建築でした。しかし、県庁の左側にあ ったのは警察で、右側にあったのは裁判所です。知事が「どうですか」と言わ れるから、「いやァ、すばらしい。しかし、知事、まさか裏に刑務所はないで しょうね」と申し上げましたら、(笑)さすがに知事は嫌な顔をされましたけ れども、日本のコミュニティーはそういう考え方です。それを変えない限り、 設計者がいかに頑張ろうと、いい町は生まれないということをきょうは申し上 げたいのです。
 先ほど言いましたように、一番大事なコンセプトはミックスユースでありま す。その次に大事なコンセプトはパブリックセーフティーです。これは日本が これから問題になるテーマです。ハード、ソフトとも、いかにパブリックセー フティーを守れるようなまちづくりをするかです。3番目は、何より大事なの はメインテナンスだということを、彼はくどくどと説明をしてくれました。
 (スライド56)
 では、それはどういう組織で行われているのでしょうか。彼はここにこうい う組織を書いてくれましたけれども、これは皆様の方に印刷物としてお届けし てありますので、後でごらんになってください。
 一番上にやはりシティー・カウンシルがあるわけです。その下にボード・オ ブ・ディレクターがあって、ここまでが公的な議会であります。こういうとこ ろから委託を受けて、ベイサイド・ディストリクト・コーポレーションが、今 申し上げましたような3つのキーコンセプトに従ってやるわけであります。B DCと書いてあるのが、ベイサイド・ディストリクト・コーポレーションです。 その下には、エグゼクティブ・カウンシルとか、それぞれいろいろな組織があ ります。エグゼクティブ・ディレクター(CEO)は、総監です。日本で言う と、ダイエーの中内さんがそうですが、そういう人の下に、こういったセクシ ョンがあって、全体をやっているという組織であります。

すばらしいまち、すばらしい企業
(スライド57)
 そういうまちづくりも大事ですけれども、もっと大事なことは、すばらしい まちをつくるためには、やはりすばらしい企業がなければいけない。私が尊敬 している最もすばらしい企業の一つは、アメリカのパタゴニアという会社であ ります。これはアウトドアグッズの世界1の会社であります。決してナイキで はありません。エベレストに登る人の9割が、実はパタゴニアの製品を使って いると言われているぐらい、世界最高のアウトドアグッズの会社であります。  そこの社長がイヴォン・シュイナードさんであります。シュイナードさんは、 子供のころから大変人見知りをする人でしたので、子供と遊べないわけです。 どうしたか。彼は4歳ぐらいからタカを飼って、タカと遊んだのです。タカ狩 りの名人であります。いいタカを欲しいために、人の行かないような岩山によ じ登っていって、すぐれたタカの子を持ってくるというすばらしいタカ狩りを やっていた。いいタカが欲しいばかりに、彼は命をかけて岩山に登っていった 結果、今や世界最高の岩登りロッククライマーであります。
 私がイヴォン・シュイナードの話を知ったのは、実は環境問題からです。ゼ ロ・エミッションという国連大学のプロジェクトがありまして、その中で、シ ュイナードが自分の企業理念を語っておりました。私はぜひこの人に会いたい と思って、会いに行きました。彼は口をきわめて日本を褒めておりました。「ア メリカ人はだめだ。日本人のようなシンプルで清潔で美しい生活を学ぶべきで あって、現在のアメリカの生活を日本が学ぶなどというのはとんでもない」と いうことを彼は繰り返して、「その日本からよく来てくれたね」と。そこで私 はかたい握手をしたのです。
 山登りの連中にその話をしたら、「おまえ、その手を洗ったのか」と言うの です。「なぜだ」「彼は岩登りの神様なんだ。彼と握手した手なんというのは 生涯洗うべきではないよ」というぐらい、この人はすばらしい山登りの名人で あります。彼は、ある山岳パーティーに属して、山で遭難し、彼を除いた全員 が死にました。そのときに、アウトドアグッズの持っている重要さを身にしみ て感じるのです。そして世界一のグッズをつくろうと考えた。
 どういうつくり方をしているかといいますと、ナンバーワンの専門家を集め ます。ですから、例えばヨットのウインドパーカーなど、ヨットの道具をつく っている人たちは、アメリカンカップというアメリカの国のレーサーに乗って いる人たちです。冬のものをつくっている社員は、今度の長野のオリンピック にやってきます。そのように、最高のテクニックを持っている人たちが、自分 でデザインをして、デザイナーに発注して物をつくります。そして自分で着て、 山や海にチャレンジするのです。
 これはいいというものだけを製品にします。決して妥協しない。最高の素材 を使って、最高の仕上げをする。だから、とても高いのです。売れないものは 商品化しません。大体100点つくって1点だけ商品化すると言っていました。  「今我々の商品が世界から高い評価を得ていて、将来はどうするのかとみん なが言うけれども、今売っている商品の100倍のアイデアのストック、製品 のストックがあるから、全然心配してない」と言っていました。そういうつく り方で、「私は一切妥協しない」とも言っていました。
 その企業が今どのぐらい売っているか。年間150億です。多分、来年20 0億売れる。「だけど、私は160億しか売らない。なぜならば、利益がある ときには、どんどん売って、どんどん金をもうけて、企業が大きくなる。そう いう企業は早くつぶれてしまう。私は、50年、100年と自分の企業を伸ば していきたい。そのためには、今言ったようなコントロールが必要だ」と彼は 言っております。日本のだれかに聞かせてあげたい感じであります。
 (スライド58)
 これはイヴォン・シュイナードが最初に岩登りのハーケンをつくった鍛冶屋 小屋です。今でも一角に残っております。「ここがおれの原点なんだ、忘れな い」と言っていました。彼はここで世界最高のハーケンをみずから手づくりで つくって、それを売りに出したのです。今でも時々ここにこもって、自分の使 う道具を自分でつくるそうです。
 (スライド59)
 これが社員です。彼はタカ匠ですから、タカをオフィスの中でも飼っている。 24時間タカと一緒であります。こういう人がタカ狩りのグッズをつくるので す。そういう工場ですし、そういうメーカーです。
 (スライド60)
 ここの従業員の65%は女性であります。「なぜ女性ですか」と聞きました ら、「女性は非常に細工が丁寧である。したがって、私は最高の素材を最高の 仕上げで製品化したい。そのためには女性がいいんです」と言っていました。 全米でアンケートをとりますと、ここは女性が最も就職したい会社のベスト5 から落ちたことがありませんで、いつもその1つに選ばれています。もちろん 賃金は男女とも同じです。産休はだんなさんと一緒に2カ月とれます。その間、 もちろん給料は払います。
 そんなことをしなくて、次の人を雇ったらどうですかと聞きましたら、それ は間違っているということでした。アメリカの例で言いますと、1人の新しい 人を雇って、その人をトレーニングして、やめた人と同じぐらいのところまで 持っていくためには、1人につき5000ドルだか、5万ドルだかかかるとい うのです。それは会社にとっての損失であるばかりでなくて、それだけの価値 のある技能が社会化されないで去っていってしまう。それはコミュニティーに とって大きな損失だ。ですから、一たん採用した女性は、いろいろなことをし て、ぜひ会社に残ってもらうように、あらゆる努力をしている。したがって、 ここは幼稚園の資格を持っておりまして、幼稚園も保育所もここでやっており ます。そのような形で、ありとあらゆる女性をカバーしながら企業を育ててい く。この写真は、そこの保育所の1つであります。
 お昼になりまして、社員食堂で飯を食べたいと言ったら、どうぞと言うので 行ったら、実に健康に配慮したいい食事で、しかもおいしいのです。さすがだ なと思って食べていて、ひょっと後ろを向いたら、ちょっと離れた席に、社長 が従業員と一緒に昼食をとっていました。ここの会社にはつい立てがありませ ん。すべて見通しであります。
 そういうアメリカの独特の企業で、そこが世界最高のアウトドアグッズをつ くっています。アウトドアグッズのロールスロイスという名前がついているぐ らい、ここはすばらしい会社であります。つまり、イヴォン・シュイナードと いう独特の哲学を持った人が、自分の哲学をきちっと守りながら、企業を大き くしていかない。日本は、すぐ企業を大きくしたがる。できれば2部上場し、 1部上場して、大成功をおさめ、30年後にはつぶれてしまうというパターン でありますけれども、彼はそういうことは間違いだとはっきり言っております。
 ただし、ここでは非常に高度なコンピューターシステムを使って、原価計算、 会計管理は極めて厳しい。そればかりでなくて、旅行業者の資格も持っており ます。みんなが世界を飛び回っているのです。一々旅行業者に頼むと、手数料 を取られるので、この会社は、会社自身が旅行業の免許を持っていて、すべて この会社からダイレクトに航空会社に発注します。そういう合理化はするので すが、今言ったように、人間の持っている才能を切りきざむような合理化は一 切していません。その点に、パタゴニアのすばらしいところがあると思います。 今回、日本の産業人の方と一緒に見て歩いたのですが、皆さん最も感銘を受け られたのは、このイヴォン・シュイナードの率いるパタゴニアであります。
 日本にも販売店があります。皆さんの知らないところにある。なぜそういう へんぴなところにあるのか。普通は販売店は繁華街とか、大ショッピングセン ターに出します。彼はそうではないというのです。ショッピングセンターには、 何を買おうかなと思う人が行きます。そうすると、その人は車に乗ってくるの で、駐車場もそういう人たちのために使われてしまう。これは社会的な損失だ。 ところが、町外れの余り人の来ないところにパタゴニアの販売店があれば、パ タゴニアの製品を欲しいと思う人だけが来ます。したがって、小さな駐車場で 十分間に合うのです。自分たちは、そういう製品を買ってくれて理解してくれ る人たちを対象にしておりますから、繁華街に店を出す必要は全くありません。
 日本では、たしか青山の奥の方に小さなパタゴニアのお店があります。その ように、一種の企業と自分の人生の哲学がつくっている企業です。この手の企 業がいっぱいふえると、日本は強くなる。今のように、10億売る企業は30 億売る企業よりもだめだという考え方で町をつくっている限り、決してよくな らないと思います。そういう意味で、機会があれば、ぜひパタゴニアの勉強を してください。ここのPRの責任者は日本人です。彼が日本に心酔している1 つの理由というか、結果としてそうなったわけです。
 (スライド61)
 何かというと、すぐ立派な材料、立派な設計と考えますが、昔はここは石油 を運ぶ輸送船の桟橋だったのです。その後石油がだめになってしまって、木造 の桟橋だけが残りました。それを使ったショッピングセンターというか、レジ ャーセンターで、要するに、楽しみの場所であります。この先端にはすてきな レストランがありまして、モビーデックと言います。作家ヘミングウェーのイ メージです。
 (スライド62)
 何もないです。要するに、昔の桟橋があるからそれを使う。特に補修をして きれいにすることはしていません。そのまま使っています。したがって、「こ こは危険だから裸足で歩くな」とか、そういうノーティスがいっぱいあります けれども、そこで人々は何をしているか。ボーッと海を見ているのです。こう いうレジャーの過ごし方が実は最も豊かなのだということを、日本人は早く学 んでほしい、知ってほしいのです。行ったら、温泉に入って、カラオケをやっ て、大騒ぎをして、飯を食べて、寝てしまって、次の日はゴルフをやって、ワ ーッ、よかった。これがレジャーだと思っている限り、日本の将来は余りない と思います。これが最も豊かでリッチな人々の時間の過ごし方だということを、 ぜひ学んでほしいと思います。
 (スライド63)
 身障者のためのこういう施設が実によくできております。サンタ・モニカの 海です。
 (スライド64)
 船乗りは、やはり一種の運命論者です。この桟橋は海の文化を持っておりま すから、やはりフォーチュン・テラーというのは、彼らの大きな興味です。合 理性だけではない。船というのは、物すごい合理性と運命論者との両方のクロ スポイントに成り立つ文化です。
 (スライド65)
 乞食小屋にちょっと毛の生えたような汚いレストラン、お土産屋さん、桟橋 といったところに、世界の高級車がザーッと並んでいる。そこをぜひ理解して いただきたいと思います。
 (スライド66)
 これを一言でいえば何なんだろうということを私は考えました。自分はどう いう写真を撮っていったら、これが皆さんに伝えられるだろうか。やはり一種 の自由だと思います。これはそういうものを撮ったつもりです。
 これは御夫婦ですが、海岸を散歩に来たと言っていました。2人で海岸をゆ っくり歩く。その後ろにはすばらしいヨットハーバーが控えています。風をは らんで自由を求めるヨットがいて、その向こうに町がある。
 (スライド67)
 砂場には、こういう人が、何ということはない、ただ座って何となく話して いるのです。小さなボール紙みたいなものが置いてありまして、要するに、自 分たちはここで楽しんでいるのだから、余計なこと言うなみたいな小さな札が 立っているのです。こういう豊かさをこれから日本が求めなければいけないの ではないかという気がします。
 (スライド68)
 そういう自由を求める精神としてのハーレー・ダビッドソンと、ハーレーの 向こうに見える気ままなヨットの姿、こういうものが実はレジャーの本質では ないか。そういうまちづくりもあるということであります。
 (スライド69)
 そこの町から見た満月です。

ラスベガス
(スライド70)
 今まで非常にストイックなお話をしてきましたけれども、少しストイックで ないお話もやはり必要だろうと思って、皆さん御存じのラスベガスであります。 ラスベガスは、アメリカの近代の土木史上、7不思議の1つと言われておりま すフーバーダムの建設によって生まれた町であります。
 フーバーダムによって生まれたミード湖には、カリフォルニア州が2年間使 う水がたたえられておりますので、雨が1滴も降らなくても、カリフォルニア 州は2年間水に苦しむことはありません。これを7年間でつくりました。この 奇跡的な仕事を成し遂げた。
 ダムができた後はどうなったのか。大勢の男が残ったのです。そのベースキ ャンプがラスベガスの始まりであります。最初は、当然のごとく荒くれ男だっ た。酒と女とばくちでスタートしたのですけれども、うまくいかない。現在は どうなっているか。ファミリーエンターテインメントの町であります。
(スライド71)
砂漠の中に奇跡的なこういう町が生まれました。今はアメリカで最も人口が 急増しつつある町です。人口がふえるのはよろしくないと先ほど言いましたけ れども、ここは人口がふえております。そして何よりも、老人が老後を安全に 過ごす町として、きわめつきの町であります。なぜならば、ここは砂漠の真ん 中ですから、凶悪犯罪を起こしますと、空港と道路をシャットされれば逃げら れない。したがって、悪い人はここでは悪いことをしません。
 おまけに、それはマフィアによって厳重にコントロールされています。「こ れが警察よりも信頼できるんだよね」と町の人は言っています。(笑)「おま え、マフィアににらまれたらどうなると思う?」と言っていました。というの は、ラスベガスが危険だといううわさが立った瞬間に、この町はクラッシュダ ウンします。ラスベガスは危険だと絶対に言わせないために、マフィアがこの 町を実に丁寧にコントロールしています。
 1つだけ例を申し上げますと、私はカメラを預けました。今は比較的賭博場 も撮影ができるのですけれども、昔はカメラを持って入ることすらできなかっ たのです。カメラを預けて、「その引きかえのタグをくれ」と言ったら、「ノ ー」と言うのです。「おまえ、それは危険だよ。そのタグをおまえが落とした ら、そのタグを拾った人が私のところに来たときに、私は彼を拒むことができ ない。だけれども、おまえがやってきて、おれのは黒い革のキャノンカメラで 50ミリのレンズのf1.8がついているシングル・レフレックスだと言って くれれば、間違いなくおまえのカメラはおまえのもとに返る」と言うのです。 これがマフィアの考えるセキュリティーです。立派なタグを渡そうというのが 日本の官僚の考えるセキュリティーであります。そういう実践的なセキュリテ ィーに守られたこの町は、老人にとってとても住みやすい。
 そして、昔は何とかさんのように、一晩で何千万円というようなお金が飛び 交ったわけですけれども、今は最低の賭け金は5セントで、見ていますと、大 体25セントぐらいであります。御老人の御夫婦が、「何だ、おまえ、もう2 ドルも使っちゃったのか。きょうはこれで帰ろうかね」などと話をしているの です。
 その25セントが、突然800億ぐらい当たることがあるのです。私が行っ たときも、2週間前に当たった人がいたと言っていました。どうするか。80 0億を一遍にくれるわけではありません。年間に2億ぐらい、死ぬまでくれる のです。絶対にみんな持っていかれないです。死んでしまったら権利がなくな る。そのように、すごく実践的で、安全です。しかも、飯が安くてうまいです。 気候は暑いですけれども、今は空調が発達していますから、そういう意味で、 この町が全米で非常に注目されているのがよくわかっていただけると思います。  (スライド72)
 現在はどうなっているか。かつてゴールドラッシュのときにこの町に落ちた お金がいかにすごかったか。これは世界最大の金塊であります。人類が手にし た最大の金の塊が、平然とショーウインドーに置いてあるのです。
 (スライド73)
 これは世界でここにしかない1億円札であります。1億円札をアメリカは1 14枚印刷をしました。今100枚がここにあります。あとの14枚はどこに 行ったかわからない。これも平然と置いてあります。しかし、これを取って、 銀行に行って「かえてくれ」と言った瞬間に、どこから出たかわかりますから、 (笑)こんなものを取る人はいない。1億円(100万ドル)札が100枚あ るから、全部で100億円です。こういうものを平然と飾っておけるようなこ の場所には、かつて金が渦巻いたわけです。
 (スライド74)
 今はこういう形になりまして、ファミリーエンターテインメントの町であり ます。一番有名なのがルクソールと言われているピラミッド型のホテルです。 ギザのピラミッドと全く同じガラスのピラミッドでありまして、手前にスフィ ンクスとオベリスクがあります。今その右側に、非常に人気が出たものですか ら、次なる新しいホテルを建てています。
 (スライド75)
 夜になりますと、ガラスのピラミッドの上から、世界最大の出力を持つレー ザーが、真上に向かって放たれます。実に印象的な風景ですが、これはピラミ ッドの上には世界最大のサファイアがあって、そのサファイアによって王様は 天と交信をしていたという言い伝えをビジュアライズした形であります。
 建築の御専門の皆さんだから、御存じだと思いますが、1つ申し上げておき たいのは、この建物は日本の建築のコストの数分の1でできております。日本 ですと、こういうガラスは枠にはめて取りつけるのが常識ですけれども、どっ ちみちあけないなら、そんなものは要らないではないかというので、鉄骨にじ か張りであります。そういう形で、コストが物すごく下がりました。それから、 多くの部屋にはおふろがありません。シャワーだけです。しかし、そのおかげ で、1泊60ドル、朝飯4ドルで腹いっぱいということが可能になりました。  普通、こういう施設は、どんなにうまくいっても、7年半か8年で単年度の 赤が消え、15年ぐらいで累積が消えるのが常識ですけれども、ここは3年で 完済です。そのために、次々と新しいアントレプレナーが施設をつくっていく。 こういう町の開発もあるのです。
 (スライド76)
 今「ニューヨーク・ニューヨーク」がつくられつつありまして、多分もうそ ろそろでき上がるのではないでしょうか。ことしのお正月にでもおいでになれ ば、「ニューヨーク・ニューヨーク」がオープンしております。
 (スライド77)
 皆さん御存じのラスベガスのフリーモント・ストリートです。ここの「手が 動くカウボーイ」は、世界じゅうの写真を飾りました。
 (スライド78)
 今ここに新しいアーケードが生まれました。この上が、簡単に言うと、屋根 が電球を使った巨大なサインボードになっています。そして、1日に数回だっ たと思いますが、ここですばらしい映像ショーが展開されます。その時間はみ んなフリーモント・ストリートにやってくる。そして上でアメリカの物語が展 開されるのです。ですから、例えば牛が砂ぼこりを立てて走っていく。実はこ の辺にスピーカーがみんなぶら下がっていまして、スピーカーによって、牛が 走っていく立体音響がダダダダーッと聞こえてくる。
 (スライド79)
 最後には「皆さん、また会いましょうね」というメッセージが出る。このよ うに、毎回行くたびに必ず新しい施設がオープンする。先ほどサンタモニカ3 丁目開発公社の中で、3番目の重要なことに、メンテナンスと言っていました が、こういうタイプの、ソフトオリエンテッドの都市開発は、こういう意味で のメンテナンスが物すごく大事です。
 皆さんがディズニーランド、ディズニーワールドにおいでになると、「現在 建設中です」とか、「カミング・スーン」という立て札を必ず何カ所かごらん になると思います。都市もそうでありまして、建ててしまったら、もう未来安 泰なんということは、ハードオリエンテッドの都市ならばあると思います。皆 さん今、ソフト、ソフトとおっしゃいますけれども、実はソフトが半分、ハー ドが半分だと私はかたく信じております。そういう意味では、ソフトオリエン テッドの町は、メンテナンスが物すごく難しい。それをどうするかをあらかじ め考えて開発しないと、悲惨な目に遭います。そういう意味で、ラスベガスは、 都市問題の勉強には大変いいところですので、ぜひ皆さんで行ってください。 ここはお勧めです。
 (スライド80)
 これは世界最大のホテルでありまして、御存じのホテルMGMです。500 0室のホテルを一挙に立ち上げました。さっきと同じような理由で安いのです。 そして5000室のホテルは、実は8000人の雇用力を持っています。今8 000人が雇用できる工場をつくろうと思ったら大変です。エンターテインメ ント・オリエンテッドなまちづくりの1つ注目すべきところは雇用力です。サ ービス産業はもともと人が人に仕える産業です。ですから、この手の雇用力に 目をつけない手はありません。そういう意味で、ラスベガスは、繰り返すよう ですけれども、今まで私たちが考えていた都市の開発、ビッグサイトをつくっ たり、東京都庁舎をつくったり、あの手のハードではない、ソフトオリエンテ ッドなまちづくりとはこういうものだということを、ぜひここで学んでいただ きたいと思います。

感動を与える空間
これでアメリカ西海岸の話は一応終わりですが、せっかくの機会なので、い ま少し時間をいただいて、残りのスライドを上映します。皆さんになるべくた くさん見ていただきたいのです。
 全体的に言いたいことは、空間の持っている力と、我々が今までどんな空間 をつくってきたのか、どんな空間をつくってこなかったのかという話でありま す。
 (スライド1)
 御存じのように、富士山であります。今さら言う必要はありません。こうい う山は世界の人は霊峰だと思うのです。外人もそう言います。あれは特別な山 である。そういう特別な空間を皆さんの周りに見つけ出すことが開発の1つの ポイントです。
 (スライド2)
 これはカナダの氷河です。こういうところを見ますと、あの奥まったあたり には、何か特別なものがあると全員が考えます。
 (スライド3)
 これはイエローストーンでありまして、アメリカの原自然がそのまま残って おります。つい数年前に、ここは火災で75%が燃えましたけれども、燃える に任せてあります。そのように原自然を残した開発がやはり必要だろうと思い ます。
 (スライド4)
 これは第2次世界大戦の遺跡です。こういう遺跡を見ますと、男性はみんな 興奮するようです。性的に興奮したということが、この遺跡にはいっぱい書い てあるそうです。これは世界の遺跡を撮影された吉田直哉さんがおっしゃって いました。ですから、これは単なる鉄の塊ではありません。鉄の塊がある形を とったときに、それは独特のメッセージを出している。形の持っているメッセ ージは確かにある。そういうものを知っていただきたいと思います。
 (スライド5)
 これは昔のテレビジョンであります。ノートルダム寺院です。字が読めない 人たちは、ここでこの描かれたキリスト様を拝んで、すばらしい賛美歌を聞い て、週に1回心が洗われたわけであります。全員がここに入りましたから、み んなで見る共同テレビジョンですね。今のマルチメディアよりもはるかにすば らしい。
 なぜかというと、ノートルダムの教会が楽器なのです。今度ノートルダムに 行かれたら、アーチを支えるように立っているサブのフレームをたたいてみて ください。ほかのところとはちょっと音が違うはずです。あれは真ん中が空洞 です。したがって、あのサブ・フレームが共鳴具です。そういうことは、残念 ながら日本の大学の先生は教えてくれない。これは昔の人のすばらしいコミュ ニケーションツールであります。
 (スライド6)
 これはセビリアにある世界3大ゴシック・カテドラルの1つであります。今 私が写真を撮っているところは、聖歌隊のリードテナーの位置でありまして、 彼がここからあそこに向かって神をたたえる歌をバーッと歌い上げると、全体 が共鳴します。建物そのものがすばらしい楽器です。奏楽堂というのはそうい うものだぞということであります。
 (スライド7)
 現代の技術でもできます。昔はできたけれども、今はできないというのはう そであります。これはカリフォルニアのディズニーランドのすぐ近くにありま すコミュニティーチャーチというすばらしい教会です。世界で10本の指に入 る大パイプオルガンがありまして、これが鳴り響きますと、全体がライブです から、すごい音響で鳴り響く。そうなると、窓の一部がガーッとあきます。教 会自身が楽器となって、コミュニティー全体に神をたたえるすばらしい音楽が 広がっていくというものであります。
 これをつくった人は自分のお金は一銭も使っていません。窓枠1つにつき、 500ドル寄附しますと、そこに「泉眞也」と名前が書かれます。椅子1つに 3000ドル寄附しますと、いすに「泉眞也」と名前が書かれます。そういう ことによって、すべて他人のお金で建てたすばらしい教会であります。
 (スライド8)
 なぜこういうものばかりお見せしているか。戦後50年、明治以来100年、 この手のものを我々はつくってこなかったのです。神と対話する空間は、自分 と対話する空間です。そういうものを今後つくっていかないと、日本の社会は、 非常にやるせない社会、バサバサした社会になってしまう。これは、物すごく 小さなアメリカの田舎の方で見た小さな教会です。
 (スライド9)
 私は宗教的なものをつくれと言っているわけではありません。この手の空間 で私が一番好きなのは、実はノルウェーにありますバイキングシップ・ミュー ジアムであります。
 (スライド10)
 この空間です。バイキングシップは、ノルウェーの人たち、バイキングにと って、宇宙であり、住まいであり、墓でもありました。女王様はこの船と一緒 に葬られましたけれども、幸いにして大地深く沈んでいたおかげで、現代によ みがえった船であります。この船のカーブと全体の空間的なハーモニーがいか に考えられているかが、よくおわかりになると思います。
 (スライド11)
 これは船遊びの船です。外洋の船ではありません。したがって、非常に美し い。日本人にとってのバイキングシップは何なんだろうということを我々は考 えて、それを祭る空間をコミュニティーに持つべきです。コミュニティーにと ってのバイキングシップは何なんだろう。
 (スライド12)
 私はこの空間が非常に好きで、ヨーロッパに行って時間があれば、必ずここ に行って、数時間このバイキングシップをじっと見ています。そうすると、い ろいろな思いが伝わってきます。こういう空間を、私たちは物づくりの役に立 たないとか、金もうけの役に立たないというので、今まで全く顧みなかったこ とが、日本の都市をだめにした一番大きな理由だと思います。
 (スライド13)
 これは同じくオスローにある人間をテーマにした公園であります。あそこに ある154体の人間像が絡まってできているのがシンボルタワーです。1人の 彫刻家に30年間町に住んでもらって、その人に、人間の人生、人体というも のをテーマにつくってもらった彫刻だけでできている彫刻公園であります。  あの柱の下の方から上の方に、まず人間が生まれる。そして成長する。学ぶ。 大人になって、恋をして、セックスをして、子供が生まれて、自分は衰える。 子供は育ち、やがて自分は死んでいく。そういう人生のドラマが154体の彫 刻ででき上がっているすばらしい公園です。ここはオスローの人たちの魂の憩 いの場所であって、こういう公園は日本にはないです。お寺がそのかわりをし ているのかとも思います。何だか砂場があって、ツルが上を向いて水を噴き上 げているみたいな公園はありますけれども、こういう人間の心に迫る公園が日 本にはない。つくらなければいけないと思います。
 (スライド14)
 それは必ずしも宗教とかそういうものだけではありません。これはレオナル ド・ダ・ヴィンチの記念館です。イタリア人のレオナルドに対する尊敬という のは、全体にストイックな空間の中に見事に表現されています。これはもとも と僧院でしたが、その関係もあるのですけれども、何よりもやはりレオナルド という人間に対する彼らの尊敬の念がベースにあると思います。
 (スライド15)
 それは、人間は決して分断された存在ではない。建築家としていい、あるい は官僚としていい、あるいは運転手としていい。そういう問題ではなくて、人 間というのは本来全能なのだ。まとまっているのだ。分断されて奉仕している のではない。そういうことを感じさせる人間レオナルド・ダ・ヴィンチです。 彼は基本的に87の発明をしました。その中の1つのやすり自動製造機であり ます。そのやすり自動製造機もなかなか見事だけれども、その人がモナリザを 描いたんだよ。そのことを知ってほしいし、そういう人間を信じてほしいとい うのが、この記念館の趣旨であります。
 (スライド16)
 経済が豊かになったから、そろそろアートか、メセナかとよく言いますが、 うそであります。これはアムステルダムにある世界の貧しい学生たちが不法占 拠しているゲットーであります。そこには、どんなに貧しくても、どんなにつ らくても、やはり人間は美を求め、アートを求めるということの実証がありま す。
この壁画がそうです。日本の学生もいると見えて、富士山も描いてあります。 アートとはそういうものです。衣食足って礼節を知るのではない。衣食足らな くても礼節は知るべきです。これは私の最も好きな都市空間です。
 (スライド17)
 では、そういうものが全体として町になったものはあるのかないのか。私は あると思います。ベネチアです。見ただけで、ベネチアだとわかります。
 (スライド18)
 アイデンティティーがこのぐらい鮮明な町はないと思うし、とにかく美しい です。美しいだけでなくて、これはすばらしいサン・マルコの広場です。何で こんなによくできているのか。実はここで降った雨を逃さない。全部地下に蓄 えるために鏡のような広場をつくりました。
 ここは水もなかったし、人も住めなかったのです。昔の本を読みますと、今 ベネチアの町が建っているあたりは、魚以外は住めないと書いてあります。そ こにフン族の脅威から逃れたベネトの人々が500年かけてつくった町です。 皆さん御存じのように、数十万本、数百万本の松杭の上に建てられた町です。
 (スライド19)
 小さくても、全体にきれいな市役所です。余り大きな声で言うと悪いですけ れども、何でも大きければいいというものではないわけです。(笑)一番上は 牢獄です。今だったら空調を入れてだれか住むでしょうけれども、イタリアは 夏暑いから、あんな暑いところには住めないよといって、そこを牢獄にしたの です。罪人はそこに入っていました。このように全体もすごくすばらしいデザ インです。
 (スライド20)
 しかし、「神は細部に宿る」でありまして、ディテールが非常にすばらしい。 ですから、全体もすばらしいけれども、全体だけよくてもだめです。ディテー ルがきちっとしてないと、都市の空間は人を感動させません。
 (スライド21)
 何よりもベネチアは、船と水と町、人なんです。そういうものを撮ったつも りです。
 (スライド22)
 どこがすばらしいか。距離がいいのです。ベネチアは人と人が仲よくなれる 距離です。船もこの距離ですれ違います。10歩ぐらいです。「どこから来た の? おおッ、トキオ!」という感じです。
 (スライド23)
 橋と船との距離もすばらしい。「どこから来た?  アメリカ、うーん」と なる。ここまで都市のディテールに入っていきますと、文明の音が一切ありま せん。つまり、全部人の声、足音、陽気なイタリア語、船をこぐ響き、ろの響 き、波がチャプチャプと家に当たる音、一切が自然と人間のリズムによってつ くられた世界唯一の都市空間です。
 (スライド24)
 橋が町のテーマでありますから。やはりすごい大きなリアルト橋であります。 しかしここは橋であると同時に、展望台でありますし、同時に、ショッピング センターでもあります。前のサード・ストリート・ベイサイド・カンパニーが 言っていたマルチユースです。
 (スライド25)
 これが世界のすばらしい商品を売っている、世界でもトップクラスの商店街 です。日本は、若者に迎合したために、渋谷がいい例ですけれども、臭くて、 汚くて、ぎらぎらして、全く低俗な町になってしまいました。そうではなくて、 成熟した大人の感覚で町をつくってほしいというのが私の願いです。
 (スライド26)
 そうなりますと、黙っていても世界から人が来ます。これは中国人の万元戸 の人だと思います。私は少し中国語ができますので、ここは中国友好会館です けれども、「どこから来ましたか」と聞くと、「メインランド・チャイナであ ります」と答えてくれました。このすばらしい町で、人生最高のひとときを過 ごしたい。そうなんです。すばらしい町、美しい町をつくれば、みんなやって くるのです。
 (スライド27)
 すばらしい人がいればいいのです。こんな景色を東京で撮れますか。こうい う景色が撮れるような道づくり、まちづくりをぜひやりたいというのが私の希 望であります。
 (スライド28)
 必ずしも客観条件もいい必要がありません。これは南フランスにあります「ワ シの巣村」と言われている一群の村があるのですけれども、その1つ、エズで あります。岩だか建物だかわからない。よくこんなところ人が住んでいるな。 人口は数百人だと思いますが、やはりこれも古くから見られたフランスの人々 のつくった小さな町です。
 (スライド29)
 こういうところです。ふだんの我々の世界とは全く違った異次元です。すべ て坂道で、平らな道はありません。車もない。私のような怠け者でも、自分で トランクを持って、フーフー言って行かなければいけない。でも、一たんここ に行くと、もう一回来ようと思います。
 (スライド30)
 ディテールがいいですね。看板もすばらしいデザインです。
 (スライド31)
 そこにあるイタリアンシルクの小さなお店です。地図をごらんになるとわか りますが、フランスの南部は昔のイタリアで、横にずっとつながっているので す。
 70歳ぐらいの老婆が手染めでつくっているイタリアンシルクのスカーフで す。私も1枚買ってきました。とにかく世界で1枚しかないものです。物すご く安いのです。日本の10分の1の値段です。そういう小さなお店、小さなレ ストラン、そしてさっき言った異次元の世界、そういうところで一晩過ごして みたいと全員が思うのですね。
 (スライド32)
 そういう町をさまよっていたら、「パノラマテラス」というサインがあって、 ぜひ行ってみようというので、そこへ行ってきました。
 (スライド33)
 こういうところです。こういうところで朝日を迎え、夕日を拝みたいと思い ませんか。そこでうまいフレンチコーヒーを飲もうと思いませんか。このテラ スを見たときに、もう一回来ようと思いました。そういう町をつくれば、黙っ ていても人は集まります。観光とか余計なことを言わなくてもいいのです。
 (スライド34)
 ただし、現世利益も必要であります。ここは近くに香水の大産地がありまし て、そこの小さなお店で香水の原液を売ってくれます。「ミツコ」、「夜間飛 行」、何々、みんなここで、日本で買う10分の1の値段で香水の原液が買え ます。ただし、ラベルは張ってありません。マジックなどでちょこちょこっと 書いてあるだけです。
 私が日本人だと言うと、「これは雅子様の使っていらっしゃる香水だ」と言 って、そういう独特の香水も出てきます。それをアルコールで薄めて使えばい いのです。だから、ここは女性が殺到です。こういう現世利益も必要ですけれ ども、基本的には、さっき言った都市空間の魅力です。
 (スライド35)
 その最高のものが、やはりミラノの、皆様御存じのガレリアだと思います。
 (スライド36)
 このピアッツァ・エマニエル2世と言われるガレリアは、御存じの方も多い と思いますが、都市計画家がつくったのでも、建築家がつくったのでもない。 大工さんでも工芸家でも彫刻家でもない。これをつくったのは、こういうとこ ろに住みたいという絵をかいた1人の絵かきさんです。そのドメニコ・メンゴ ーニのスケッチを、プロが集まって実現したのがこれです。
 非常に民主的なつくり方です。今のように、建築は建築家、都市計画は都市 計画家、ほかの者は口を出すなという日本型のつくり方ではありません。それ がこういうすばらしい都市景観を生んで、150年間、ヨーロッパの商店街の トップであり、恐らく100年間、200年間、今後もトップであり続けるで しょう。そういうまちづくりであります。
 (スライド37)
 場所もいいのです。ここをずっと行って、向こうに行ったこっち方が、スカ ラ座であります。こっちは、反対の方へ行って出たところがドゥーモでありま す。
 (スライド38)
 これがドゥーモです。600年かかってつくっています。まだつくっている。  (スライド39)
 反対側はスカラ座です。スカラ座は、先ほど申し上げましたようにオペラハ ウスだけではなくて、すばらしい博物館を持っていますし、食堂も持っていま す。その全体がスカラ座です。
 (スライド40)
 そこには今世紀最大のソプラノ歌手であるマリア・カラスの肖像とか、ショ パンの髪の毛とか、そういうのがあります。
 (スライド41)
 私が言いたいのは、この歩道のつくり方です。イタリアは大理石の国ですか ら、全部天然の大理石の組み合わせ、モザイクであります。ローマの物語を表 しています。
 (スライド42)
 感動したのはつくり方です。おじさんが一生懸命になって、地面に座り込ん で、まるで自分の工芸品をつくるように道路をつくっているのです。最後の仕 上げは、手でこするのです。私がびっくりして聞いたら、一緒に行ったヨーロ ッパの建築家が、「おまえは知らないだろうけれども、大理石は最後は手でこ するんだ。そうすると、すべての汚れが取れる。それが大理石なんだよ」と教 えてくれました。このおじさんは、まさにそうやっている。日本のように、「坪 単価は幾らです。日建さん、何日にできますか」というまちづくりからは、こ ういうことは生まれない。
 (スライド43)
 もう1つ、全く違った世界ですが、今までは石の世界で、今度は水の世界で す。
 (スライド44)
 長さ800メートル、幅15メートル、深さ1メートルの人工の川が、周り の演出によって、世界から年間1200万の人を集めます。サン・アントニオ にありますパセオ・デル・リオ・リバーサイド・ウォークです。
 (スライド45)
 こういうものです。
 (スライド46)
 すばらしいのは、ここにあるボートです。これは市役所がやっているのです が、周りのレストランのこのボートで、要するに、ディナーボートをつくるこ とができます。
 (スライド47)
 こういうふうにディナーが飾られて、これはメキシコの風土ですから、マリ アッチなんかやりながら、ずっとこの水路を回って歩く。
 (スライド48)
 その最大のイベントは、ちょうど川が蛇行するところにリバーサイド・シア ターがあって、反対側に客席があります。その客席と舞台の間を、今言った観 光船がずっと抜けていくわけです。ここの会場でいえば、私と皆さんの間が川 になっていて、ここを観光船が通っているのです。多分世界でここにしかない 演出です。これは市民の人たちのボランティアが行うメキシコのダンスあるい はメキシコの歌というものであります。
 (スライド49)
 これは実は夜中近い時間です。さっきのはちょっと増感して撮ってあります ので、昼間のように見えますけれども、本当はこういう感じです。
 (スライド50)
 これが夜中の2時ごろの風景です。こうなりますと、本当に心行くまで川を 楽しむ。昼間何をしているかというと、この川に集まる人を目当てに、大コン ベンションセンターをつくりました。サンアントニオはアメリカでベストテン に入るコンベンションシティーであります。それが町の活力のもとであります。 そのもとになったのは、わずか長さ800メートル、幅15メートル、深さ1 メートルの水であります。
 (スライド51)
 ボートで行くことができる、多分世界で唯一のショッピングセンターです。
 (スライド52)
 そういうのもあれば、もう1つ、さっき夜の写真が出ましたけれども、これ からの都市の1つのポイントは照明であります。これは皆さん御存じのパリの デフォンスであります。
 (スライド53)
 デフォンスのアーチの下のガラスの使い方です。固い凱旋門が地面とつなぐ ところは、こういう処理がしてあるのは、実に見事です。向こうからやってく る人は、男かな、女かな、どっちかなと思っていると、パリジェンヌ、パリジ ャンがさっと出てくる。その辺が都市の細部の演出としてはまことに見事であ ります。上の白いテントみたいなのは、御存じのように、ここは風が吹き抜け ますので、その風の減速装置です。
 (スライド54)
 反対側を見ますと、この凱旋門は20世紀というか、第2次世界大戦の凱旋 門で、向こうをずっと見ますと、エトワールの凱旋門、ナポレオンの凱旋門が あります。そのずっと先に、皆さん御存じのルーブル博物館がある。そういう 都市軸によって、町を歴史的時間の中で展開していく。反対側に、未来のデフ ォンスを、今つくりつつあります。将来はノルマンディーに至る。
 (スライド55)
 ルーブルは、先ほど申し上げましたように、今、地下が入り口になっており まして、その入り口のすぐわきが、パリでも最もおしゃれなショッピングセン ターです。
 (スライド56)
 本当は写真は撮れないところですけれども、私は夜中近くに行きまして、み んながいないときに写真を撮りました。
 (スライド57)
 もう一回ここに帰ってきますけれども、デフォンスはアートシティーと言わ れておりまして、この池も全体で1つの大きな壁画というか、池の底が壁画に なっている抽象芸術です。これは昼間の風景です。
 (スライド58)
 夜は照明が実に見事であります。
 (スライド59)
 こういう風景を設計者は最初から予想してこういう仕掛けをしたのです。日 本の都市は、残念ながら昼間を中心に設計されておりますけれども、今後はぜ ひこういう工夫をしていただきたい。
(スライド60)
 その代表的なものが、先ほど申し上げましたリヨンであります。リヨンは、 全市の照明を、一設計事務所に任せました。日本ですと、公平性の担保とかい って、いろいろな人がいろいろなアート部門をやるから、全体として全くごち ゃごちゃの照明になってしまうのですが、ここは一設計事務所が全部やってお りますので、市全体が、ある感覚的に統一された照明になります。
 それと同時に、最もはやりそうな目抜き通りに池をつくってしまいました。 周りが映り込むのですね。こういう大胆不敵なことをやって、今や照明の町と して、アートの町として、リヨンは世界的な話題を集めつつあります。
 (スライド61)
 同時に、リヨンは、ギニョールの発祥の地ですので、ギニョールを売ってお ります。ギニョールのお店に行くと、後ろにちゃんとギニョール・シアターが ありまして、1日に何回かいろいろな人形劇をやってくれます。
 (スライド62)
 空間だけでなくて、時間のダイナミズム、時間の都市計画が、これから非常 に重要な意味を持つだろう。これはディズニーワールドであります。そこのシ ョッピングセンターで、ディズニーの考える未来都市です。エクスペリメンタ ル・プロトタイプ・オブ・トュモロー(EPOT)と言われる、そこの中心の ショッピングセンターです。向こうが普通のレストラン、手前にあるのがかき の料理を専門としたオイスターバーであります。
 (スライド63)
 ショーボートの型をした水上レストランです。夜はアメリカ人の大好きなミ シシッピーのショーボート風のイベントが行われておりまして、上の方はブラ ックタイトです。女性ですと、ローブデコルテ、背中のバーッと開いた衣装を 要求されます。下の方は、パンツ一丁でも構いません。やはりさっき言うとこ ろのマルチユースです。
 私が見ていただきたいのは、こういうふうに船が見えるときに、この右手で は何が起こっているかです。
 (スライド64)
 日が沈むのです。こういう自然のダイナミズム、それを見事に景観計画の中 に取り入れてくる。ウォルト・ディズニーという人は、非常な自然愛好家でし た。したがって、こういうことも彼は思いつき、人々にやらせたのだと思いま す。この手の空間のデザインが、日本人はかなりうまくなってきたと思います けれども、時間のデザインがまだまだ不十分だというふうに感じます。
 (スライド65)
 我々は「見ました」とよく言うけれども、見るというのは何なのだろうか。 こういうモダンアート、現代アートを見ますと、見るとは一体何かということ を考えます。皆さん御存じのマグリットです。これからの都市は、やはりある 種の芸術的感覚に支えられていないといけないのではないか。
 (スライド66)
 例えば有名なパリのポンピドーセンターの前の噴水です。色のついている方 がニキ・ド・サンファール、黒い方がティンゲリーであります。なぜこれがか くも調和がとれているかといいますと、この2人は恋人でしたから。今、ティ ンゲリーは死にましたし、ニキも余命そう長くないと思います。彼ら2人が幸 福だった時代の作品であります。
 (スライド67)
 特にニキのこれはいいですね。私も67歳ですから、女性とかなりいろいろ なことがありましたので、こういうのを見ますと、「本当にもうちょっといい ことを言っておけばよかったなァ」とか、「あいつ、うそをついたんじゃない か」とか、いろいろなことを思い出します。こういうのが文京区役所の前なん かにあるといいですね。(笑)
 (スライド68)
 1つのアートが環境に対してどのぐらいの力を持つのか。最近はやりの、何 か愚にもつかないアートをいっぱい並べるのは、私は余り賛成ではないのです。 こういう1つの作品をポイントにポンと置くのが重要です。
 (スライド69)
 アートそのものが建築になった代表的なもの、アントニオ・ガウディのサグ ラダ・ファミリア(聖家族教会)であります。しかし、ガウディは非常に自然 愛好家でありまして、この聖家族というか、彼の最も祝福された家族は、やは り16本の糸杉のもとで暮らしていなければいけないというのが、彼のこのイ メージであります。御存じのように、現在少しずつでき上がりつつあって、あ と200年ぐらいかかるだろうと言われております。
 (スライド70)
 もう1つは、水の利用が実に重要です。これは、水の利用では世界で最もす ぐれていると思いますアルハンブラの水の使い方です。
 (スライド71)
 これもそうです。水を都市空間の中にいかにうまく使っていくかが、これか らの1つのポイントだろうと思います。  (スライド72)
 こういういろいろな芸術的感覚は、コンピューターも知らなければ、宇宙船 を知らなくても十分です。
 これは今から3000年前のアッシリアの彫刻です。これは日本に来たから 皆さん御存じだと思いますが、ライオン狩りです。ライオンは、やられてしま うかもしれないという恐怖の表情があります。王様は、きょうはうまくいくぞ とニコニコです。その向こうにいるのは、高級官僚であります。「王様はきょ うはごきげんだから、しかられなくて済むな」と思っている。馬車を操ってい るのはテクノクラートです。彼はそんなことは構ってはいられない。馬車をひ っくり返さないために真剣であります。まさに現在の官僚組織そのものが見事 に表現されている。(笑)
 (スライド73)
 ついに殺されてしまったライオンの、悲しいけれども、どこか安らぎにあふ れた表情です。こういうものは、人間は本来持っている力です。東京帝国大学 法学部を出ても、こういうのは何の役にも立たない。(笑)我々空間をつくる 人間は、その人間の持っている本来の力を信ずるべきだと思います。
 (スライド74)
 例えば有名なヌバという人たちの婚礼の衣装です。これは男性です。
 (スライド75)
 これもそうです。こういう人が日建設計の受付にいたとしたら、忘れられな いですね。(笑)
 (スライド76)
 こんな哲学的な顔は、最近の日本人には見たことがないです。
 (スライド77)
 これは女性ですが、婚礼の日の装いです。ヌバは、男性には女性を選ぶ権利 はありません。男性はたき火の周りにじっと座って、女性に選ばれるのを待っ ています。その周りで、こういう装った女性が踊り狂って興奮してくると、「こ の男、いい男だァ」と思うと、女性が男性の肩に足を乗せる。それがきっかけ で2人は森の奥に消えていく。これがヌバの婚礼であります。
 そのとき、男性は一言も言えないわけですから、造形的迫力で女性に迫る以 外に手がないのです。そうすると、さっき考えたように、だれに教えてもらわ なくても、資生堂がなくても、(笑)ああいうすばらしい化粧ができるわけで あります。それがアートの根本の力です。
 (スライド78)
 こういうところに住んでいる人たちです。だから、今の技術主義者、科学主 義者、知識主義者、そういう人に、もう1つの人間の英知があることをぜひ知 ってもらいたい。
 (スライド79)
 あと2枚ですから、我慢してください。(笑)
 これは、私の見た最もすぐれた環境の1つです。これはデンバーにあります ブラウンパレスホテルというアトウリムホテルの世界のはしりだったホテルに あります。150年前にできました。これを見て感激した建築家ジョン・ボー トマンが、今日のアトウリムホテルの流行をつくったのです。それが世界の流 行になった。
 そこのホテルのアトウリムロビーの入り口にある水飲みです。そこにこちょ こちょっと書いてあるのは、このホテルの地下1000フィート、300メー トルに、清冽な水が流れております。ロッキー山脈の水です。ぜひお飲みにな ってください。本当においしい、いい水です。その水でつくったビールが、皆 さん御存じのクアーズです。
 その水を飲んで、ロッキーのすばらしい自然を思い出してください。記憶に とどめてください。同時に、我がブラウンパレスホテルもお忘れなく、そう書 いてあるのです。すばらしいコミュニケーションツールです。これはちゃんと した学問的裏づけがありまして、人間が旅に出たときに一番記憶に残るのは、 水にかかわる印象です。そういう心理学的ベースによって、こういうPR施設 が生まれたわけです。日本で造形に携わられてきた人たちも、こういうものを もっと勉強しなければいけないと思います。
 (スライド80)
 さっきから盛んに精神的なことばかり言いましたけれども、現在行われてい る世界最大の都市開発は、皆さん御存じのように、ロンドンのドックランズで あります。そこで私もやはり興奮して、数百枚の写真を撮りましたけれども、 全部今しまってあって、この1枚だけ残っています。これは、ドックランズの モノレールの中で見たノーティス、告知です。
 日本だったら、ここに「シルバーシート」と書いてあって、お年寄りと身障 者のためにとある。そうではないのです。あなたが、あなたよりも立っている ことが困難だと思う人を見つけたら、どうぞこの席はあきらめてください。そ の人にあけてください。決めるのはルールでも何でもない。一市民のみずから の判断です。それがコミュニティーのベースだ。そこにイギリスの社会の恐ろ しさとすごさがあると思います。コミュニティーづくりは人づくりだというこ とを最後に申し上げたくて、こういうスライドを1枚残しました。これでおし まいであります。
 
最後に、やはりどの地域の皆さんも、おれたちの地域こそ未来はあるのでは ないかとお考えだと思いますが、今から二十数年前、極めて印象的な出来事が ありました。「東南アジア2020」というレポートで、50年後の東南アジ アを我々で予測したことがあります。下河辺先生がリーダーで、今の日本総研 の方々とか、その他、福士さんとか、そういう方々が一緒になって、経済予測 をしたのですが、その中で我々は、2020年には東南アジアが世界最大の市 場になるということを予測して、世界じゅうからあざ笑われました。しかし、 今やあれは名著であったなという称賛の声を聞きます。わずか50年後も、だ れにもわからないです。
 しかし、そういう中で、実は10〜15年ぐらい前に、私はアメリカのメリ ル・リンチから、「おまえ、東南アジアの仕事をおれたちと一緒にやらないか」 と誘われたことがあります。そのころ私たちは、「東南アジア2020」の研 究の結果、東南アジアのセンターはブルネイだと思っていたのです。「おまえ は、ブルネイだ、ブルネイだと言うけれども、どうしてブルネイなんだ」と聞 かれた。経済的な理由とか、地政学的な理由とかありますが、あそこは帝国艦 隊がとまっていたぐらい、非常に静謐ないい海です。かつて数百年の歴史の中 で、イギリスに占領されなかった唯一の東南アジアです。
 そういう意味で、ここは東南アジアのへそだと言ったのですけれども、メリ ル・リンチは違うと言うのです。「おまえ、それは間違いだ。あそこはイスラ ムだろう」「そうなんだ」「イスラムが、おまえ、世界と仲よくなると思うか」 「それは、あなた方キリスト教の言い方じゃないか。我々大乗仏教はそれでも 平気なんだよ」という話をしました。
 「じゃ、逆にメリル・リンチはどこがこれからの世界のセンターだと思って いるんだ」と聞きました。20年前の話として聞いてください。そのときに彼 らが言ったのは、タイ、シャムです。「なぜ」と聞きましたら、土地が栄える には、いろいろな企業が具体的にそこに投資してくれなければいけない。その 投資に値する条件は3つしかない。「何だ」と聞きましたら、1つは、おもし ろい人がいること。もう1つは、そこの人々が優しい人々であること。ですか ら、「同じ仏教でも、おまえのように禅宗はだめだ。大乗仏教でなければいか ぬ。タイは大乗仏教だろう」。3番目に、生活費が安いこと。その3つの条件 のところにメリル・リンチは投資する。
 20年前に日本のだれが今日のタイを予測しましたか。しかし、アメリカの メリル・リンチは、世界の中で一番可能性があると断言をしました。そこが日 本とアメリカの都市開発力の差であり、経済力の差だということを申し上げて、 きょうの話を終わりたいと思います。
 長時間、本当にどうもありがとうございました。(拍手)



司会(谷口) どうもありがとうございました。
 きょうは、都市開発の理念について、美しいスライドを拝見しながら、大変 おもしろい話を伺うことができました。
 残念ながら、御質問、討議の時間がなくなってしまい、大変申しわけありま せんが、これで5月の都市経営フォーラムを終わらせていただきます。どうも ありがとうございました。
 最後に、泉先生に拍手をもってお礼にかえさせていただきたいと思います。 (拍手)


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