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第123回都市経営フォーラム

みんなが得する、弱者に優しい定期借家

講師:阿部 泰隆 氏
神戸大学法学部教授

日付:1998年3月19日(木)
場所:後楽国際ビルディング・大ホール

1.はじめに
2.定期借家の仕組み

   
(1)規模限定なし
   
(2)期間限定なし
   
(3)書面形式
   
(4)公正証書
   
(5)切り替え
   
(6)正当事由の撤廃
   
(7)定期借家での更新
   
(8)継続的利用の利益
   
(9)法の明確性の要請と期限付き借家
   
(10)期限内の解約
   
(11)定期借家固有の弱者
   
(12)コミュニティ
3.定期借家の効果

   
(1)立ち退き料の撤廃
   
(2)家賃と開発利益
   
(3)紛争のコストの低減
   
(4)借家の増加

4.批判への反論

   
(1)規制緩和で民事基本法を改正?
   
(2)家賃値上げ
   
(3)悪徳家主?
   
(4)公営住宅は足りないか

5.最後に





1.はじめに

 皆さん、こんにちは。神戸大学法学部で行政法を教えております阿部泰隆です。
 本日は民法の話をいたします。法律学界というのは、縄張りがカチッと決まっていまして、行政法という公法学者が民法、私法の領域に闖入するのはなにごとか、領空侵犯ではないかと言われ、下手するとカムチャツカあたりで撃ち落とされるようなことをやっています。しかし、実は行政法というのは名前が悪くて、行政がやるから行政法といっているだけですけれども、内容は公共政策法です。私は名前を変えたいと言っているのです。ただし、これは私の名づけではなくて、法政大学の松下圭一先生が言っていることです。
 民法の方は、普通は個人と個人との争いを解決するルールということになっています。公共の問題は関係ないと思っている人が多かったのですが、実は借家法は、公共の問題をやっている、公共政策法だとも考えられます。住宅問題はだれの負担においていかに解決していったらうまくいくのかが課題ですから、個人と個人との利害の調整だけではありません。そうすると、行政法という公共政策法をやっている者から見ると、これも似たような領域だという気もするのです。
 私は、最近「政策法学」と称しているのですが、法律の条文の解釈だけではなく、新しい法制度の設計をするという政策法学が必要だと言っています。そういう観点から見ると、借家法は格好の材料になりますので、こういうことに口を出すのは決しておかしいとは思わないという感じがします。日本の学界の垣根を少し打破することもいいことではないかと思っています。逆に行政法学者のやっていることもおかしいですから、よそからどうぞ侵入してくださいと言っているわけです。
 本日は、私どもが提案している定期借家について、世間からいろいろ問題があると言われていますが、実は問題がない、「みんなが得する定期借家」というタイトルでだれも損をしないという説明をさせていただきたいと思っています。今はそういう段階です。定期借家を導入したら、自分の商売がうまくいくかということに御関心の方は多いと思いますが、実は今は与党協議でひっかかっている段階です。社民党のごく一部の先生方の御理解をまだ得られていないというところで、何とか御理解をということになっています。
 新聞を見ますと、定期借家を導入すると、「借家はふえるが、弱者はどうなる」なんて書き方をしているのです。借家の供給増、しかし、弱者を切り捨てるか、二律背反みたいに議論をされているのだけれども、あれは全部間違いですというのが私どもの言い分で、むしろ「弱者こそが救われる定期借家」という主張をしているのです。
 定期借家が社民党の御理解を得られて、あるいは社民党の一部の先生の反対を押し切って今国会で成立させれば、これから商売ということになるわけです。その商売ではどうなるかというのをついでに少しずつ考えながらお話ししたいと思いますが、今の段階ではそのようなところです。

 私は、定期借家の研究会をちょっと前からやっていたのですが、そこの中では、普通の法律学者がするような議論というか、定期借家には問題があるじゃないか、借家人が更新のときに不利になるじゃないかとか、いろんなことを言っていたのです。それで経済学者から大分嫌われていたのですが、実は昨年の5月か6月あたりに突然目覚めるというか、改宗しまして、定期借家には問題がないという方向へ議論を始めちゃったのです。(笑)節操がないと言われるかもしれませんが、そうではなくて、定期借家にあると言われる問題をなくすにはどうしたらいいか考えて、問題がない方向につくれる、仕組めるのだと考えて、賛成側に回ったのです。
 そして、ここにお配りしている資料の中で、7月28日、日経の「経済教室」に私の意見を出していますが、これは賛成側に改宗した直後のもので、冗談を言うと、魂を売ったところです。そう言うと何か悪魔に売ったみたいだと言われていますが、魂は売っても心は売らずにやっています。
 同じ7月28日に、都市住宅学会でシンポジウムをやったのです。それがこの資料の中に出ていますけれども、8月28日の日経のシンポジウムです。このとき私はとっくに賛成派になっていたものですから、私も理事を兼ねていますが、都市住宅学会のシンポジウムの司会をやりまして、シナリオは全部私が考えて、このとおりの順序で皆さんに御発言いただいたのです。
 それから、幾らか詳しい論評はこの中の「東洋経済」1997年9月号の論文で、「借家法改革は民事法の発想では無理」という非常にきつい言い方をしていますが、法務省と民法学者が考えているやり方では、方向が完全にずれているので、乗り出すというので説明しているわけです。
 ここに書いてあることは、きょうお話しすることのエッセンスですから、後でお読みいただければありがたい。これからはこの目次の順序に沿ってお話ししたいと思っています。

 去年6月に、法務省は定期借家について論点公表をいたしまして、皆さんの意見を聞くということをやったわけですが、これは定期借家には問題があるという前提で書いてあるのです。何年以上がいいとか、何平方メートル以上がいいとか、母子家庭、老人、千万人の借家人はどうなるとかいう書き方で、どうも問題があるんだという誘導尋問をしているようなものですから、そもそもこんなものは論点にならない、僕らは相手にしないという方針だったわけです。
 それから、法務省の法制審議会のやり方で非常に気に食わないのは、議論が非公開なことです。そして、論点公開のときも理由がろくろくついていない。失礼なことを言いますけれども、こういうのは大学の答案では不可です。日本の立法過程では大体そうやってきたのですが、これでは透明な行政、透明な政治が要求される今日ではふさわしくない。
 私たちは、今回議員立法でやると言っているのですけれども、その理由を全部公開しています。我々はこうして論文をいっぱい書いて、Q&Aもつくって議論しています。自民党で公聴会をやっているのですが、それもすべて自民党へ行けばもらえるということで公開しています。
 このように私どもの立法過程は非常に透明です。だから、逆にいろいろ批判する人がいて、問題が起きるわけです。日本の立法過程は、理由もろくろく知らせないで、地下で話し合って、まとまったら、突然浮上して、パッパッと採決してしまう。早くていいんだなんて言っている人はいっぱいいますけれども、今はやはり多くの人に納得のいく立法過程が要求される時代ですから、我々みたいにきちんと理由を公にするのがいい。僕らは模範的だと思っているわけです。
 もう一回話が戻ると、中央官庁が法律をつくるとき、想定問答集を役人は用意しているのですが、非公開です。与党と話はついているのだけれども、野党は全然わからない。野党はいろいろ質問する。当局は想定問答集から答えを出して答える。こんなことをやって、時間がありませんとして決をとる。これは勝負にならぬわけです。本来なら、政府は想定問答集を全部公にして、野党も同じ土俵で議論できるようにしなければいけないのです。ドイツあたりでは、法案を出すときは、最初に理由書をつけます。野党も議論しやすいわけです。日本では、法律が通った後で理由のついた本を出版するのです。それで役所の弁当代とか、役人の小遣いか何かになっているわけです。あれは順序が逆で、法案をつくるときに世間にその本を出すべきです。
 ということで、我々は定期借家についていっぱい論文を書いていますが、今お手元に『定期借家権』(信山社)という本のチラシをお配りしています。これは余りにもたくさん書き過ぎて厚くなってしまったもので、出版がおくれて、今月いっぱいに出版されます。4800円と聞くと、みんな高いとすぐ言われますが、468ページもありますので、内容は充実している。執筆陣もごらんいただくと、定期借家は一部の主張じゃないというのがおわかりいただけるように、とにかく提案している人全員にしっかり書いてもらうことにしたわけです。
 定期借家の立法は日本で初めてです。議員立法はいっぱいありますけれども、まともに学術論争をして、法務省と政府のやり方をつぶして、学問を取り入れた新しい法律は日本で初めてなものですから、ここでコケては困ると思って、我々は全力を挙げてやりたい。これができれば、政府が動かないようないいかげんな問題については幾らでも立法で解決していくということをやっていきたい。
 例えば、震災でマンションが壊れて建てかえるのが大変です。今の法律では利害の一致が非常に難しい。例えばですが、我々のところでは、マンション再建法、いわゆるミニ再開発法のような形で、公権力を導入してスムーズにやる仕組みをつくりたい。
 今「21世紀政策フォーラム」という集まりをやっていまして、そこの中で僕は政策法学プロジェクト長と称して、そういうのをやっているのですが、ここでいっぱい法律を変えようとしています。土地収用法を変えよう、行政代執行法もスムーズに動くようにしよう、再開発法も動くようにしよう、現行法をどんどん改善していく。だから、僕は「日本列島法改造論」とちょっと法外なことを言っているのですが、日本列島の法をどんどん見直していく。もっとしかるべく権力を使い、人の利害を調整できる仕組みにしていこう。そういうことの一番最初ですから、ここでコケないように努力したわけです。
 ただ、厚くて、皆さんには恐縮です。みんなで書いているから、話もダブるのですが、相当内容のあるものを書いてあると思ってください。私はもともと法律家で、経済はよくわかっていないので、詳しい経済学の説明はできないのですが、その辺はこの本をごらんください。
 お配りした資料を一応解説しましたが、この中で1つ、日経のシンポジウムについて、早稲田大学の鎌田さんが、定期借家賛成派は大新聞のスポンサーがついている、反対派にはスポンサーはいないと文句をつけられたのですが、スポンサーというと、普通はこれは日経ですから、1000万円も広告費を出してくれる人がいるんじゃないかととるのだけれども、これはだれからも1000万円出してもらっていないのだそうです。日経が自主的に取材してやってくれたということなので、スポンサーがついてていいなと言われるほどではないのだそうです。

 話をもう1つ進めますと、この問題はもともと経済学者から始まったのです。借家法というのは、一回貸せばなかなか返してもらえない、借りた人は安心だけれども、貸す人はなかなか戻ってこないというので、貸す気が起きない、供給が減る、そうすると、かえって借家人は損するんじゃないのという議論から始まったわけです。
 法律家の議論は、定期借家にしたら、供給はちょっとふえるのかもしらぬけれども、本当にふえるの、なんていうところから始まった。だけど、期限が来たら追い出されるのでは、借家人は心配だ、借家人の地位の安定も大事だといって反論したわけです。
 そこで、一部の経済学者はこれは自己責任だなんて言っていましたが、私どもは、それだとやっぱり世間の納得を得られないし、僕も借家人になれば心配だというので、借家人を保護するという別のルールをつくろう。私どもは消費者保護の発想でいこうと考えたのです。だから、借家人が、定期借家の契約で、期限が来たら出なさいなんて言われることのないように、よくわからないで契約することのないように、わかるような契約書をつくろう。
 例えば、「建物賃貸借契約書」ではなくて、「建物定期賃貸借契約書」の「定期」のところをわかるように大きくする。あと第何条のところに、期限が来たら更新請求権はない。家主は更新することはありますけれども、更新していくという権利はないということも大きい字でわかるように書く。これで最後にサインするというようにしています。それでもついつい知らないでサインする人はいると言われています。そしたら、最後に公証人役場にまで行って、あなたは期限が来たら出るんですと確認してやろうかという議論までしているのです。ただ、僕は規制緩和の時代に、両当事者が定期借家でいいといっているのに、公証人のところへ行って金を払うなんてむだだなとは思っていますけれども、たまにだまされる人がいる、どうしてくれると言われるから、そんな議論になるわけです。とにかく消費者保護という考えでいく。こうなると、経済学者の議論だけではなく、法律家の議論が必要なんだと、手前みそで思っているわけです。
 それから、多くの法律家が定期借家に問題がある、だから反対だとよく言われるのだけれども、それは制度づくりの基本をわかっていないのです。あらゆる制度に100点はないわけです。問題があるといったって80点の答案かもしれないです。20点問題があるから80点の制度はつくらないというのはおかしいです。今の制度は何点かといったら、30点かもしれないです。だから、今の制度よりもよりよくするというなら文句ないでしょう。僕らの提案する制度に問題があるというだけでは反対理由にならないです。
 ところが、そんなことを言っている人は物すごく多いです。じゃ、あなた方はどうすればいいの、聞きたいです。その程度の議論が普通の法律家どころか、司法試験を現役で通った大秀才が巣くっている法務省あたりから出てくるから、おかしい。言葉が過ぎますけれども、私は学校秀才どまりの人間じゃダメだとか、また勝手なことを言っているわけです。またそこから先はいろいろ議論しましょう。




2.定期借家の仕組み

 定期借家の仕組みでは、ポイントは3つありまして、まず既存の借家契約には触らないという提案をしています。これは1つのやり方で、既存の契約を全部定期借家にするという選択肢もありますけれども、ちょっとドラスチックだから、我々はやらない。ボストンではそうしたのです。だけど、そうすると、既存の借家人が期限が来たら追い出されてしまう心配が起きるから、我々はとりあえず既存の契約には触らない。 これからの分だけです。これからの分も、定期借家だけではなく、従来型の契約と定期借家と好きな方を選べますという提案です。もちろん家主と借家人両方の合意で決めるわけですから、家主が定期借家しか提供しないかもしれないですけれども、市場には両方あり得るわけです。
 その次、定期借家の場合、一切条件をつけない。定期借家だが、規模は75平方メートル以上とか、期間は5年以上とか、大都会に限るとか、いろいろ言っている人はいますが、一切条件をつけない。後で申しますが、我々は定期借家はすべてよくするだけで、悪くしないと思っていますから、一切条件をつける理由はないわけです。条件をつける人は、定期借家はどうも問題がある、だから妥協しようと言っているわけです。あと、もし住宅弱者が生ずれば、これはすべて保護する。ただし、僕は住宅弱者は基本的には一切生じないと思っているんです。

 (1)規模限定なし

  もうちょっと詳しく説明しますと、一番最初は規模限定なし。定期借家の提案は、ワンルームマンションはたくさんある、大きい借家がないから定期借家を導入しようという議論だから、定期借家は大きい住宅に限るとしたらどうだと盛んに提案されています。例えば、75平方メートル以上とか、100平方メートル以上とか言われている。どうなると思います? 75平方メートル以上を定期借家にするとしたら70平方メートルは従来型。そうすると、家主としては、70平方メートルは提供しない、75平方メートル以上だけ提供するということになり得るわけです。そうすると、70平方メートル、60平方メートルを求めている家族にとっては不利になるのです。供給が偏って歪んでしまうわけです。だから、そんな変な線は引かない方がいいのです。

 (2)期間限定なし

 それから、期間。例えば、5年以上とかいう意見があります。それは期間が1年だったら、1年ごとに追い出されて、転居しなければいけないかもしれない。心配だから、せめて5年は保障しろとかいうわけです。だけど、逆に、1カ月でもいいから借りたいという人もいるし、1カ月貸したいという人もいるわけです。僕がアメリカにいたときは、1月だけ家を借りたのです。あっちの人は1カ月だけバケーションに行くのでも家を貸すわけです。本当にあっさりしたもので、1カ月家を貸して10万でももらったら、旅行に行く費用の一部が出るわけです。だから1カ月でも貸すというのが僕の経験です。だから、何年以上と決めるべきではないです。1カ月でもいいし、10年でもいいし、両当事者合意で決めべきです。
 例えば、5年以上と決めたら、2年だけ借りたいという人はどうなるか。2年しか借りないけれども、5年契約をするわけです。そうすると、家主から見たら、この人は本当に2年で出てくれるかどうかわからないから、5年いるという前提で権利金を取ることになるのです。だから、2年で出るから2年分の権利金でいいでしょうといって安くしてもらいたいのに、そういう交渉の余地が借家人になくなるわけです。これは借家人に不利になるのです。10年いたければ、10年契約を結ぶ。そうすると家主の方は、10年もいるのでは、途中の修理代もかかるし、権利金をいっぱいもらうか、途中の更新料をいっぱいもらうか、こうしなければ合いませんねと言うに決まっているんです。そうすると、借家人がそれに応ずれば、10年契約を結べるわけです。そうすると、高くなるじゃないかと言われたって、長く置いてほしいといって保障してもらうのだったら、高くなるのはしようがないです。
 ちょっと話がずれるかもしれませんが、定期預金で1年物と5年物と金利が違います。長く置くといったら、銀行の方も高い金利を払いましょうということになるし、借家人が長く置いてといったら、権利金を余計に払ってと言われることがあったっておかしくない。市場にもよります。
 定期借家に反対している人は、長く住みたいんだとばかり言われるけれども、あれはうそです。同じところに長く住んでいる人、あるいはここが気に入った、おれは一生いたいんだなんて言っている人でも、最初からここが気に入ったから一生いたいなんて家を借りる人がいますか。結婚するときは、「おまえ百までわしゃ九十九まで」なんて言ったけれども、実は成田離婚なんていうのも出るわけです。まして家なんていうのは、少なくとも借家の場合は、気に入ったから一生住むといって借りる人はめったにいないと思います。やっぱりもっといいところへ移りたいと思いながら、結局ずるずる一生いたということです。
 冗談で余計なことを言っていますが、僕は神戸大学に一生おるようなことになりそうです。大学教授もこのごろは変われとか言われているけれども、みんないいところがあったら変わろうかなと思っているうちに、チャンスを失うか、チャンスがどこからも来ないのか、ずるずる一生おるようなものです。僕の名前は「阿部泰隆」と書いて、台湾ではいい名前だそうです。阿部「タイリュウ」とワープロで打つと、「大龍」と出るかと思ったら、ただ「滞留」と出てくるので、ああそうかと思いました。(笑)もっといい大学があれば移りたいと思っているやつはいっぱいいるのです。だけど、そのうちチャンスがなくなって、「ここも一番いいんだな」といっておるわけです。
 借家人にも案外そういう人は多いはずです。だから、最初に気に入ったはずだから、ここに30年いるという前提で権利金を払ってくださいといったら、みんな払いません。だってすぐに死ぬかも、引っ越すかもしれない。
 イギリスで聞いた話だと、イギリスでは定期借家が主流です。みんな1年か2年の契約しかしない。それは家主の都合というより借家人の方の都合だというのです。借家人が10年いたいといったら、修繕費とか最初に払わないといけない。ところが、すぐ転居するなら捨て金になる。だから、1年契約で更新していく方がいい。1年たったら追い出されるかもしれないけれども、家主は次の借家人を探さなければいけないから、普通の家主は1年ごとに追い出したりしていないです。前からいた借家人が素直な人で、家賃もちゃんと払ってくれるのだったら、もうちょっといてくださいというのが普通です。それを追い出して、次の人を探すかというと、次の方から家賃をいっぱい取れれば別です。そのときは、今までの人にそれだけ払ってくれますかといって、今までの人もそれだけ払うといったら、また置いてもらえるというのです。
 この問題は、長く借りているから家賃を負けろという議論をするからおかしいのです。長く借りていたら家賃を負けろ、値上げはけしからぬと言われると、議論が混乱するのですが、どこへ行ったって、長く取り引きしているから負けろという請求権はないのです。ただし、家主の方が負けてやるということはあります。
 米屋へ行ってごらんなさい。昔から取り引きしているから、貧乏人になったから米負けてといったら、よそへ行ってと言われるに決まっています。米は日本人にとって非常に大事なことになっているけれども、それでさえ貧乏人だから負けてやるという義務は米屋にはない。だから、家主だって、新しく借りる人と今まで借りる人と同じ条件で貸しましょうと考えるに決まっているのです。それを家主の負担において、前から借りている人には負けなさいなんて言うから、議論が混乱する。

 (3)書面形式

 次に、契約は書面による。定期借家は口頭でやると混乱するわけです。従来型だって、解約するのに正当な理由がなければできない。更新、更新でいくというものです。それがはっきりしないわけです。そうすると、はっきりしないとき、どっちにするかという議論にもなるけれども、定期借家にしたかったら、とりあえず書面にしなさい。書面にしていないのは、従来型です。そうすると、家主としては、定期借家にしたかったら、書面でするわけです。親戚だから親切にしてやって、うっかり「3年はその辺に入っていいよ」なんて言うと、定期借家じゃなくなってしまうわけです。これでは家主がかわいそうなのですが、どっちに不利にするかというと、今定期借家には反対と言っている人がいっぱいいますから、定期借家にしたかったら書面にする。あと書面も意味がよくわからなかったら、定期借家ではないという解釈にするというわけです。だから、これからは定期借家とわかるような契約書をつくるのは当然のことです。

 (4)公正証書

 先ほど申し上げましたように、公正証書にするかという問題では、定期借地権の方も、「公正証書等の書面による」となっていて、公正証書とは決めてないです。こっちも定期借家にするというだけなら、書面だけでいい、公正証書は要らないという議論をしています。
 ただ、今までの借家契約は更新、更新でずっと借りていたわけですが、これを意に反して定期借家に切りかえられるということが起きるじゃないか。切りかえられて、数年たって期限が来たら出なさいと言われて、多数の借家人が路頭に迷うじゃないかと盛んに言われるわけです。定期借家に切りかえるときには書面によることにしますが、それでもだまされるのではないかと言われるから、じゃ、これは公正証書にしましょうかと言っているのです。そうすると、公証人役場へ行くわけですが、どうせ本人が行かないで、代理人を行かせるとか、あっせん業者が行くとかいうことなると大して変わりがないです。それで公証人だけは儲かってしまう。規制緩和時代に反すると僕は思って、好きじゃないのです。
 あと何人に1人ぐらいだまされるなら、だまされない大部分の人に負担を負わせていいかという問題があるわけです。これは全然読めないです。何人に1人がだまされるかなんて実験するわけにいかない。だけど、仮に10人に1人ぐらいだまされるというなら、これは大変なことだ。10人のうち9人はわかっているのだけれども、公証人の費用負担をしないといけないといえるかもしれない。でも、100人に1人がだまされるというだけだったら、99人に公証人の費用を負担させるべきでしょうか。 100人のうち1人ぐらいだったら、しっかり気をつけろ、自己責任だ、本人が悪いんだという議論は十分あるのです。この辺が今規制緩和でも論点になるところです。

 (5)切り替え

 今までの契約を定期借家に切りかえるのは損だと思っているから、そういう議論になるのですが、得するのもいっぱいあるのです。というのは、家主としては、家が古くなって、建てかえたい。だけど、今の制度だと、借家人はずっと居すわる。本当は家がつぶれるまで借家人は借りている。こんなボロだから、次の人は入ってくれない。修繕したって家賃は上げられないから、修繕もしない。ボロになってしまっているわけです。これは本当は困る。そんなにならないように、そろそろ出てほしい。定期借家にして期限が来たら出てもらいたいと思っている。
 借家人の方は、どうせ長くいない、そのうち出るかもしれない、引っ越したいと思っている。そういう場合は、定期借家に切りかえて、少し権利金を返すとか、家賃を負けてやるとか家主が言う可能性があるわけです。そしたら、借家人にとってもそれは有利だから、じゃ、そうしましょうかというのはあり得るわけです。だから、定期借家に切りかえられたら損だとは限らないです。両方得する切りかえもある。そうすると、そのときには納得しているのに、それでも公証人役場に行かなければいけないというのはおかしいと思う。
 これでもまだだまされるなんていうから、じゃ、準禁治産宣告を受けてください、保証人の同意がなければ契約できないようにしてくださいと僕は言っている。ダメですかね。だって、定期賃貸借契約書と書いてあって、期限が来たら更新はありませんと書いておくのだから、それでもだまされると言われたら、もうキリがないというわけです。
 家主がだまして定期借家に切りかえて、期限が来たら出ろといったら、得するかといったら、どうせトラブってしまう。そのときにはあの切りかえは無効だと借家人は言い出しますから、家主としては、そんなにたくさんだませるのでしょうか。

 (6)正当事由の撤廃

 次に、正当事由の撤廃です。現行制度では一回貸したら、期限が来たって、正当な理由がなければ更新しないといけない。その正当な理由は非常にあいまいです。普通家を建てかえるのは正当な理由にならない。我々の提案は、正当な事由をなくしてしまうわけです。そうすると、出てもらうのが物すごく楽になる。というのは、今は出てもらいたいが、正当事由がないというのが多いけれども、正当事由があるとしたって、裁判で証明しないといけないわけです。そうすると、借り手の方が、この人は立派な人だから信頼が置けるなんて証人を連れてきたりするかもしれないし、物すごく大変です。
 僕は「簡単に追い出す方法」と、非常に極端なことも言っているのですが、今だとまず借家人は家賃を払わないでどこかに行ってしまう。だけど、ときどき夜中に帰ってくるなんていうときは、明け渡し訴訟を起こすのが大変です。まず訴状を送達しなければいけないのだけれども、相手がつかまらない。夜中に帰ってくるのを見つけて送達するのだそうだけれども、物すごく大変です。本当にいなければ公示送達なのですけれども。これではしばらく時間がかかります。それで裁判に訴えるには、弁護士に聞くと、とりあえず着手金で1件40万ぐらい、あと勝ったらまた40万ぐらい、場合によったら、不動産鑑定をとるとまた20万から40万かかるというわけです。借家人の方がいなかったら、判決がさっと出るかもしれないけれども、借家人がちょっと争うと、借家人の方に弁護士がついて、今度は立ち退き料を要求してくる。そうすると、これまた紛争が長引く。立ち退き料は、ひどい場合は、1500年分の家賃なんていうのがあるそうです。この定期借家の本の推薦文を書いてくれた沢野順彦弁護士がこれでも安いなどと言っています。1500年分の家賃を払わないと追い出せないなんて、これでだれが貸しますか。そういう紛争になる。貸して返してもらうのはものすごく大変だ。
 そうすると、普通の家主はあきらめちゃって、そんな訴訟は起こさないで、ずるずるときている。訴訟はどのぐらいあるか、この前神戸で調べたら、神戸では1年間で民間住宅の明け渡しは170件ぐらい、公団公営で600件くらい。公団公営は割と最近訴訟を起こすようになったから多いです。民間の方はなかなか訴訟を起こせない。 だけど、とにかく170件ぐらいある。これで弁護士に100万ぐらい払っている。とにかく合わない。
 ちょっと話が飛びますが、借家紛争のコストがどのくらいかかっているかという、ちゃんとした計算はできないのだけれども、年間で200億〜300億で、最高で500億ぐらいじゃないかという調査をしております。そのうち、弁護士が儲かっているのかどうかというと、1人当たりで最低で70万だか何とかという計算をちょっとした。そうすると、弁護士の年間所得のうち70万は微々たるもので大したことないかとも考えられるけれども、そういうチャチなものを集めてみんな飯を食っているわけですから、案外大きいのかもしれないです。
 これは、いいことではない。弁護士なんていうのは、何も富を生み出してないです。要するに、社会に紛争があるから、しようがないから頼むだけで、本来なら紛争で金が動くというだけでは、いいことではないです。だから、本当はそんなのは減った方がいい。
 定期借家にするとどうなるというと、弁護士に頼まないでもいい。頼んでもごく簡単に片づく。なぜかというと、期限が来たというだけで追い出せるわけです。この人は家賃の払い方が悪いとか、夜中に騒ぐとか、そんなことは一々言う必要がない。あとは家が老朽化したとか、うちの娘が結婚したので入りたいと言っているとか、そんなことで議論する必要がないわけで、とにかく期限が来たというだけだから、だれでもサッと判断できる。
 それでも、相手が頑張れば、判決をとらなければいけないです。そのうえ執行しなければいけないわけです。ところが、今は執行がまた面倒くさい。執行へ行くと、せんべい布団とか何かが並んでいるけれども、布団は生活に絶対必要だから、勝手に捨てるわけにいかない。執行官が保管してとか大変ややこしい。
 これは僕だけの説だけれども、最初に建物賃貸借契約書に期限が来て借家人が出ないときは、家主は鍵を開けて部屋に入ってよろしい、あと室内に置いてある動産で貴重品以外は家主に贈与するという契約書をつくりたいのです。貴金属までとるわけにいきませんが、貴重でないもの、その辺のベッドとかたんすとかパンツとか布団といったものは家主に全部贈与するという契約書を結ぶ。そうすると、家主は自分のものだから捨ててよろしいわけです。執行官に頼む必要もないのです。そういうのは公序良俗違反じゃないかなんていう民法学者はいっぱいいるのですが、別に窮迫に乗じて契約させたわけではないです。どうせそんなものは社会的に見たら無価値なわけです。だけど、法律は保護するというから、贈与すればいいでしょう。そうすれば、鍵を開けて家の中の動産は全部捨てて、ほかの人を入れることができるわけです。こうするとコストがかからない。それだと家主としては安心して貸せるというふうになりやすいわけです。この契約は解約制限の従来型ではできません。定期借家で、期限で借家権が消滅する仕組みであって初めて可能です。
 ただし、今の話は阿部説であって、下手したら裁判所で無効だと言われるかもしれません。ただし、僕が家を貸すときはそういう契約を入れておこうと思っているわけです。
 借家人はかわいそうなんて言う人はいっぱいいますが、1つもそうではなくて、僕のやり方でいくと、期限が来ても居すわろうという人はそういう契約書を結ばなければいけないので困るでしょうが、居すわらない人は、そういう契約書を結ぶわけです。素直な人は貸してもらいやすい。そういう人には家賃を負けてもいいからと貸してあげる。僕のような契約書にサインしない人には貸さないということになるわけです。素直な人は得です。ドロンして、家財道具だけ置いていくような人には貸さないというだけです。

 (7)定期借家での更新

 今度は期限更新のときです。期限が来たら、もうそれで終わりだというのが定期借家です。そうすると、追い出されるのではないかと言われますが、家主は収入が欲しいのが普通ですから、建てかえのときと自分が使うとき以外は更新するのです。ただし、借家人に更新請求権がないだけ。家主の方が強くなるのは確かだけれども、そのときも、さっき言ったように、次の借家人と比べて悪くなければ、今までの人に貸す。次の借家人から権利金を取れるなら、同じだけ払ってくださいということになるわけです。それだけ払えば、借家人はおれるのが普通です。
 期限が来て追い出されるのはどんな人だろうというと、家賃の払いが悪い人、家主に文句ばかり言う人などでしょうか。普通の人は大丈夫です。
 ただ、何か事情があって差別されて追い出されることがあれば、公営住宅で拾うしかないと思っています。
 借家人は期限が来ても普通は追い出されませんが、大学教授の任期制とは全然違うんです。何で違うかというと、大学教授の評価はめちゃくちゃ多面的、多様です。僕なんかも「毀誉褒貶」という扱いで、褒める人もいれば、めちゃくちゃケチをつけられます。平均点で余り高くならないので損です。日本の社会では黙っている者の平均点が高いです。私の信条では、学者はそれではいけないから、いろいろ発言します。定期借家なんて、0点つけるやつはいっぱいいますし、100点つけてくれる人もいっぱいいます。だから、大学教授の評価にはめちゃくちゃ差があるわけです。
 これで任期制を導入したら、立派な人でもクビになりやすいわけです。大学教授の場合は、言論の自由を保障するために身分保障が要るんだと思います。僕なんかは結構元気がいいから、どこかの大学が買ってくれるでしょうなんておだてる人はいっぱいいるけれども、やっぱりケチがつきやすいと、日本の社会ではなかなか採ってくれない。だから、大学教授にはやっぱり身分保障が要るのです。そうすると、ダメなやつも残るけれども、みんなに自由に活躍してもらうための必要経費だと思う。だから、ダメな教授がいても余り気にしないでくださいと言っている。
 ところが、家主が借家人をどう見るかといったら、評価する項目はほとんどありません。素直に家賃を払って普通に生活しているというだけで十分安心です。それ以上は家主としては関心ありませんから、普通にやっている限り追い出されないということで、同じ期限つきといったって、全然意味が違うのです。
 もう1つ気になる点があります。定期借家では期限が来たら、更新を求める権利はないけれども、普通は更新されていく。そうすると、借家人も更新されると思い込んでいる。家主の方も「まだいていいですよ」と言ってしまっている。書面は交わしていなくて、そういうことはよく起きるわけです。それで借家人が更新できると思っていたら、家主が口で言った、そんなことはすっかり忘れて、別の人と契約してしまったということが起きやすいわけです。それにどう対処したらいいかという問題があるのですが、我々の提案では、家主の方から借家人に6カ月前に書面で「今度は更新しない」という通知をしなければ、6カ月更新するという案です。家主の方が更新しないという通知をしなかったら、前と同じ条件で更新するという案は世の中にあるのですが、そうすると家主が通知を忘れたら、前と同じで何年も更新される。これでは今までの契約と一緒です。これでは困ってしまうから、6カ月だけ更新する。借家人は6カ月余裕があるから、次を探せるという説明です。

 (8)継続的利用の利益

 「継続的利用の利益」は、定期借家に反対する議論の中心です。今までずっと同じところに住んでいた借家人は、このままここで住めるという期待権があるはずだ。特に子供の学校だ、友達だ、職場だとか、いろんな関係ができますから、このままここにおれるようにしてあげないといけないのではないかというわけです。
 しかし、この議論はおかしいと思う。まず1つ、今でさえ期限つき借家という制度はあるのです。転勤とか親の看病のときに期限を切って貸す制限で、期限が来たら出なければいけない、更新の期待権とか、継続利用の利益はありませんという制度になっているわけです。今でさえそういうのがあるのだから、定期借家で期限が来たら更新の期待権はありませんと決めるのは1つも問題ないです。
 それから、同じところにずっと住みたいという人のためには、定期借家ではなく、従来型を提供しますと我々は言っているわけです。我々の案では定期借家だけではなく、これからも従来型もあります。
 だから、家を借りる人が、ここにどうも長くいそうだ、更新、更新でいきたいと思ったら、従来型で貸してくださいと家主に申し込めばいいし、多分引っ越すだろうと思う人は、定期借家で借りればいいはずです。先は読めないから、定期借家でももう一回更新したいなんてことがあるかもしれません。そのときは1回の更新請求権付借家契約を結べばよいのです。
 この議論は信頼保護の問題とされています。しかし、おかしな議論です。期限が来てもまた貸してもらえるという期待が借家人にはある。借家人のそういう信頼は保護すべきだと盛んに言われるわけです。しかし、逆に、家主から見たら、期限が来たら出てくれるという期待もあるのです。それなら、期限を切った以上、期限を守るという期待を保護すべきであって、期限が来たのに更新される期待なんていうのは、保護に値しないはずです。日本では、期限が来たって、また更新されるように裁判所は保護するはずだという論文を書く人もいますが、それは突然切ってしまうような場合であって、一回契約を結んだら、更新、更新してもらう権利があるなんて議論はあり得ないです。こんなのは結婚だけであって、それ以外は一回契約を結んだら永久ということはないので、やはり適当なところで縁を切ることができるはずです。だから、一回借りたら永久になんて利益はないはずです。
 今定期借地権が導入されています。あれは貸してから50年たったら土地を返してもらう契約です。そうすると、建物を壊して返さなければなりません。その建物に借家人がいても、やはり建物を壊して返すのです。ですから、借家人も出なければいけないことになっています。このとき借家人は更新請求権はなく、全然保護されていないのです。だから、今の制度では、50年先の借家人は一切保護しない。定期借家で期限が来たら追い出すのはおかしいじゃないか、という議論とは矛盾しているでしょう。今借りる人は保護しよう、だけど、50年先だけど、そのころ2〜3年借りただけの人は保護されないというのが今の制度なわけです。これはおかしい。
 なぜこういうことを言うかというと、定期借地は賛成だが、定期借家は反対と言っている先生がいるからです。矛盾でしょう。定期借地は賛成、50年先に借家人は追い出されてかまわないと言っているのだから、じゃ、3年後に追い出されても同じでしょうと我々は言っているのです。50年先というのは、あんたが死んだ後だから気にしないだけじゃないの。そういうのは無責任ですね。香港と一緒の議論ですねとか言っているのですが、香港もとにかく約束で返せということになりました。
 これまで反対していた人がそのうち定期借家協議会などをつくって、推進派のような顔をするようなことはぜひともないようにしたいものです。

 (9)法の明確性の要請と期限付き借家

 「法の明確性の要請と期限付き借家」に移ります。不明確なために訴訟を起こさざるを得ず、弁護士は飯を食えるけれども、だれも幸せにならない。法律は可能な限り明確にすべきです。今の期限つき借家は全然わからない制度です。親の看病とか転勤とかで、期限が明らかに切れる場合、定期借家で貸せるというのですが、それがどんな場合に当たるのかよくわからない。大体、転勤の際何年後に戻ってこれるという期限つき辞令をもらう給与所得者は日本にいますか。転勤で3年間北海道へと言われたから、3年たったら東京へ戻ってこれるのかと思ったら、次は秋田へとか言われて、人工衛星みたいにグルグル回る人もいます。だから、3年間北海道へと言われたからといって、3年後に戻ってこれるか全然わからないわけです。まして、親の看病なんて、何年たったら親が死んでくれるなんて、だれにわかるか。そこで、親の看病で3年間家を貸して、3年で返せと言ったら、期限を明らかに切れる場合でないので、「法律の要件に当てはまらない貸し方をしましたね。無効ですね。普通の契約です」なんて言われたら、永久に借りられてしまいます。うっかり貸したら大変ということで、危なくて貸せない。こんないいかげんな法律をつくって、結局裁判沙汰で弁護士が儲かるだけです。弁護士が儲かる法律をつくったんじゃないかというぐらいの悪口を言いたいです。
 我々は、定期借家にしたら、期限がはっきりしているから、紛争が減ると言っているわけです。これに対して反対する人は、定期借家になったら紛争がふえると言っています。意味がよくわからないけれども、定期借家にして期限が来ても出ない人がいる。そうすると、トラブるから、紛争がふえるという意味かもしれません。しかし、これは期限が来たら黙って出るという契約ですから、紛争になったって早速判決をもらって、サッと追い出してしまう。そうなれば、また粘る人も少なくなりますから、紛争はぐっと減るんですというのが僕らの説明です。僕も大学をやめたら弁護士になるとか言ってはいるけれども、弁護士の飯の種を減らすような立法をするという話になるわけです。
 法律をつくるときは、できるだけ明確な法律をつくるべきです。そうすると、予測可能性が立ちますから、投資する方も投資しやすいわけです。我々は銀行に預金するときだって、定期預金なら金利がはっきりしている。じゃ、安くても預金するかと考える。投資信託とか株だったら、下手したら元本も食い込む。相当高い儲かる可能性がないと投資したくないとか考えるわけです。
 ところが、家を貸す場合は、リスクはよく読めていないです。読める場合だけ貸すという行動が合理的です。1DKで学生に貸したりするのはリスクが低いからです。立ち退き料を要求するやつはまずいない。じいちゃん、ばあちゃんに貸すと、下手すると30年住んで、修理してくれ、家賃値上げも反対というので非常に大変。下手したら、立ち退き料を取られる。そうなると危ないから、貸すのはやめるかなとなりやすいわけです。予測可能性がある方がいい。
 それから、裁判の必要がなるべく少ないような制度の方がいいです。今規制緩和で、紛争がふえるから、司法を大きくしよう、裁判所を大きくしようなんて議論がされていますけれども、裁判所を大きくする必要はあると思うけれども、もう1つ、裁判所にお願いしなくても済むような仕組みを同時につくるべきです。今の借家法のままだと、明渡しが認められるかどうかは正当事由というわけのわからない言葉1つです。そうすると、これは結局裁判官が決めるだけです。借家人を追い出すとかわいそうじゃないかと考えるか、借家人はまた別の家を借りたらいいじゃないと考えるか、あと立ち退き料を幾らにするか、全然わからない。実例では、ちゃんと別に家を持っている人が借りていて、出ろと言われたときも700万の立ち退き料をもらえたということもある。
 裁判所で片づけるのはいいかもしれませんが、そのルールをきちんとつくるべきです。僕は、建てかえるときは、とにかく理由のいかんを問わず出てもらう方がいいと思っているのだけれども、借家人はすぐ反対するのです。建てかえをしたら、もっといいのができて、みんな住めるのに。
 ちょっとまた話が飛びますが、今回の阪神・淡路大震災でたくさんの人が亡くなられて、特に高齢者が亡くなった。高齢者は弱者だと言っている人が多いのですが、別に高齢者だけじゃなくて、若者も弱者なのです。うちの大学の学生もたくさん亡くなって、僕のゼミ生も1人気の毒に亡くなったのがいるんです。
 死ぬ理由は、貧乏だから古い家に住んでいたら、家がぺちゃんこになっちゃったためです。老人も若者も関係ありません。何でそんな古い家がいっぱい残っているかといったら、建てかえができないだけです。その1つの理由は借家法です。建てかえするためには、入居者が全員1、2、3で出てくれないと困る。ところが、1、2、3で追い出すのはできない。みんな更新、更新です。いっぱい金を持っていれば、退職者が出た後次の人を入れないで、完全に空き家になるのを待って建てかえるのだけれども、普通の家主には余裕がないから、出たらまた入れる。ボロになるまでずっと待っている。何とか家賃も入るしとやってきたわけです。それを定期借家にしてしまったら、これからうちは建てかえるのだから、何年後までとピタリとやれば、そこで建てかえしやすいわけです。しかも立ち退き料は要らないわけです。だから、定期借家の方が建てかえはできる。そうすると、幾らか家賃は高くなっても安全な町ができるのです。
 今まで借家人は追い出されてかわいそうだといって借家人を保護してきたけれども、逆にそれが劣悪な住環境を残してしまって、たくさんの人を殺してしまったのです。私は大分言葉が過ぎることばかり言っているのですが、法律学者のかたい頭の人が殺したといってまた顰蹙を買っているわけです。そういうことを言うと、大学教授の任期制で早速クビになってしまうので、やはり言論の自由を保障するために任期制はまずいのです。

 (10)期限内の解約

 定期借家にしたら期限を両当事者が守るのが原則です。今だと借家人の方は期限内でも出ていいという契約が普通です。イギリスでも、借家人はいつでも出れるという契約をしているわけです。ところが、事業用の借家だけは別で、借家人も期限を守らなければいけない。しかも、事業用の場合、例えば三越デパートなんかが借りるとき、1年ごとに追い出されたら商売になりませんから、15年とか長期の契約をする。途中5年で撤退だといったらどうするかといったら、約束違反ですね、あと10年の家賃を払ってくださいということになるけれども、そのかわりその家を転貸できるという契約です。これは日本でもできるはずです。定期借家契約書のひな形を何種類かつくっておくということだと思います。
 一般の庶民としては、5年契約で借りたら、途中1年で死んだり、引っ越すときでも、残り4年の家賃を払えと言われたらきついです。だったら借家人はいつでも出ていい。家主は5年間貸さなければいけないという契約だと思います。そうすると、家主から見たら、5年契約だけど、借家人を確保できるとは限らない。すぐ出られるかもしれないのだから、そうすると、ある程度権利金を取っておこうかと考えるのもおかしくはないです。借家人がかわるたびに家を修理するとか掃除する必要もある。
 関西では、保証金10カ月取っている非常に高いところがあります。しかも、敷引と称して3カ月とか4カ月分とかを引くのですけれども、あれは大体修理代のつもりらしいです。話が飛びますが、普通に関西では更新料を取っていないです。10カ月の保証金を取って、出るときは3カ月か4カ月引いて返す。そうすると短期間に出ても、3カ月、4カ月分引けるから、家主は儲かってしまいます。ところが、10年もおられた日には、途中で何回か修理しなければいけないから、3カ月、4カ月引いたぐらいでは合わないです。契約が悪いので、いる期間に応じて修理代を取れるようにしたらいいのです。定期借家なら、例えば2年契約なら2年、2年ごとに権利金とか更新料とか1カ月とか取っていく。こういうふうにすれば、いる期間に応じて家賃を取れるわけです。それの方が合理的です。今のやり方だと、短期間しかいない借家人の家賃は高い、長期にいる人の家賃は安いです。これはおかしい。とにかくいる期間に応じて同じように取るのが合理的です。定期借家はその役に立ちます。

 (11)定期借家固有の弱者

 定期借家で弱者がふえるのではないか、ホームレスがふえるのではないかと盛んに言われています。ドイツでは、定期借家を導入したら、そういう混乱が起きたと「ジュリスト」1128号に山梨学院大学の藤井さんが書いていますが、これはまるっきり間違いです。なぜ間違いかというと、ドイツでは、定期借家は既存の契約についても適用したのです。今まで借家人を保護していた契約を全部御破算にして、定期借家にしてしまったわけです。期限が来たので出てくださいと言われる人が出てしまうわけです。ところが、我々の提案は、既存のものはそのままにする。これから定期借家にしたい人はしてもいいというだけです。そうすると、期限が来たときも追い出されないのです。
 例えば、昔から借りていたから、家賃は3万円です。ところが、既に市場家賃は10万円になっていることがあるわけです。それについて定期借家にしたら、期限が来て10万払ってくれますかと言われてしまうから、払いません、じゃ、出てくださいと言われてホームレスになる人がいっぱい出る可能性があります。じゃ、遠くへ行けばいいじゃないかと言いたいところだけれども、仕事はすぐ見つからないよとかいろいろ言われる。やはり社会問題が発生します。だけど、定期借家を新規契約に通用する限り、最初からこの10万なら10万払える人が入るわけです。2年後に11万になったため、払えなかったら、どこかに移るとしたって、10万は払える前提なら、幾らか狭いか、幾らか遠いところで家を借りれるわけです。ホームレスがそんなにたくさん出るわけがない。定期借家で期限が来て追い出されるということはほとんど起きないです。
 途中で失業したらどうするなんていう人はいますが、そういう人は追い出されるに決まっています。だけど、今の正当事由つきの借家制度だって、家賃を払わない人は追い出してよいことになっていますから、それは定期借家のために借家人が追い出されることはないのです。
 アメリカのボストンに行きましたら、今までの契約は全部御破算、全部定期借家にするという法律ができました。住民投票でできたのです。日本では考えられないことです。住民投票といったら、日本では産廃反対、原発反対とか、沖縄の基地は撤去しようとか縮小せよとか、そんな話になるだけです。だけど、アメリカでは、法律を住民投票でつくったりする。これまでの借家契約も含めて、定期借家契約にすると住民投票で決めてしまった。だから、今まで借家人には追い出されるのが結構いるのだけれども、本当の貧乏人は社会保障で保護するというだけです。
 なぜそんなことになるのかと聞くと、ニューヨークでは、まだ定期借家ではなく、借家人を保護する法律が通用しているのです。家主は一回貸したら、もう家賃もなかなか取れない。修理代は回収できないので、修理しない。それでボロ家ばかりになって、そのうちだれかが火をつける。火をつければ、火災保険金が出て建てかえられるというので、あちこち火をつけられたアパートがあるという報道がなされています。これが悪い見本になって、定期借家の方がよいという世論がマサチューセッツ州では高まったのです。
 アメリカでは、定期借家でないのはニューヨークとワシントンD.C.とカリフォルニア州のロスとサンフランシスコくらいです。何カ所か大きいところがあるのですけれども、大部分が定期借家です。ボストンは定期借家の仲間入りをしましたということです。
 物の本で、期限が来ても追い出さないのが世界の大勢だなどと書いているのがあるけれども、あれはまるっきりうそっぱちです。アメリカの大部分は定期借家、イギリスも定期借家になりました。
 それから、家主は余った財産を貸しているだけなのだから、取り返せなくてもいいや、なんて言っている人がいるのですが、そんなことを言っているから、貸す気がしないというか、修理代も出ない。家主だって財産を活用して、それなりには収入を得たい。銀行金利よりは儲かるようにしてやらなければダメだと思うのです。
 話が違うけれども、台湾に行ったら、金利が6%ぐらいと高くて、いいアパートをつくるよりは銀行に貯金した方が得だといって、アパートをつくらないのだそうです。日本みたいに金利の安い国だったら、どんどんアパートに投資しようとなっていいはずです。そういうときに邪魔なものはなくした方がいいというわけです。
 それから、法務省は老人とか母子家庭が1000万人もいる、この人たちをどうするなんて言っているけれども、これは話がおかしいです。そもそも老人や母子家庭はなかなか貸してもらえないです。というのは、借家法は借家人を保護しているというけれども、あれはうそっぱちで、一回借りた借家人だけが保護されているのです。新たに貸してくれという権利はない。貸すかどうかは完全に家主の勝手です。だから、これから借りたいという人は保護されない。家主としては、老人、母子家庭に貸すか、若いのに貸すかを考えると、両方からオファーがあれば、安全な方に貸そうと考えるのは当たり前です。
 老人には特別安く貸せとか、最後まで面倒を見ろなんていう議論はいっぱいあるけれども、そんなことを家主の負担にするといったって、家主が応じるわけがないわけで、家主は若い人に貸してしまう。だから、老人の敵は家主ではなく、若いやつです。女の敵は女とよく言います。(笑)女の敵は浮気な男じゃないです。女の敵はその相手の女だということです。だから、家主が悪いというより、借家人同士の競争です。老人だって母子家庭だって、若い人と同じ条件を出さなければ借りられないのはやむを得ません。
 ところが、定期借家になるとどうなるかというと、期限はどうせ1年とか2年で切るわけです。そうすると、家主としても、この人は老人だけれども、1年や2年なら貸してもいいという気が起きやすくなる。現行制度なら、30年借りられるかもしれないのでかなわない。1年だったら、まあいいや、貸してみるか。1年素直に家賃を払ってくれて、いい人だったら、じゃ、また更新しようかとなります。
 アメリカでは1年契約が普通なのだそうですけれども、老人の方が素直に静かに住んでくれるからありがたいといって、貸してもらえる。老人差別はないというのが僕らが聞いてきた話です。老人は更新、更新でいける。年金がなくなったらどうするといっても、家主の責任じゃないです。それを家主の責任にしようとするからおかしいのです。
 ところが、法律学者にはおかしなことを言う人がいます。期限の日に借家人が病気になって、病院に担ぎ込んだら、どこの病院でも断られて、結局救急車が舞い戻ってきてしまった。それで期限が来たから追い出すとはどういうことかと言う人がいるけれども、それを家主の責任だなんて言うから、家主はそういう老人には貸さないんです。
 老人で、そんなになっても一生おれるようにしてくれなんて言うなら、これはただの借家ではありません。これは有料老人ホームですと考えなければいけないわけです。有料老人ホームは入居時に何千万も取られるわけです。普通の若いやつと同じだけの家賃と権利金で有料老人ホームにしてくれなんて土台おかしいわけです。だから、悪いけれども、期限が来て、病気なら、病院に連れ込むしかない。救急車が舞い戻ってきたらなんて、そんなあほなことを言われたら困る。それは市役所の責任ですから、市役所がちゃんとホテルに連れていくとか何かすべきで、家主は次の人を入れるんだと割り切るべきです。そこが割り切れない人が議論を混乱させているのです。それを家主の責任というから貸さない。家主の責任じゃありませんといったら、家主は貸す気が起きるわけです。だから、定期借家にして、その辺は割り切った方が、むしろ老人、母子家庭は借りられる。
 それから、僕らのところは留学生をたくさん抱えています。中国の奥地から来て、神戸の家賃、10カ月の保証金なんて言われたら、みんな目を丸くしてしまいます。とてもじゃないけれども、借りられるわけがないです。長くいるかもしれないしとか、いろいろある。あとは家賃不払いのこともあるからだけれども、定期借家にして1年ごとに更新といっていたら、もうちょっと安くしましょうという家主がもうちょっとふえるのではないかと当てにはできるわけです。

 (12)コミュニティ

 定期借家にすると、期限が来て、どんどん追い出されるから、コミュニティがなくなるという議論がよくあります。今の制度のままだと、一回住んで出なければ、家賃が一般的に上がるときも、余り上げられないです。それで一回住めば動かないとなりやすいです。そんなモビリティーのない社会がいいコミュニティでしょうか。結局老人ばかりになってしまいます。だったら、そこに若い人も入ってきて、いろいろ入れかわってこそコミュニティです。それが活気のあるコミュニティじゃないのかと僕は思っている。
 だから、全部追い出すのはよくないですけれども、若い人も入ってくる、今までの人は適当に出ていく方がいい。今までの借家制度だと、出ると損だというので出ない人が多かった。出ても出なくても同じ条件にして、いいところにどんどん移ろうという気が起きる方がいいんじゃないのと言っているわけです。それでも同じところにいたい、おれはこれが気に入ったというなら、どうぞ従来型の契約をしてくださいと言っているわけです。




3.定期借家の効果

 (1)立ち退き料の撤廃

 定期借家の効果ですが、立ち退き料はなくなります。今まで家主が立ち退き料を払わざるを得ない場合があったのですが、それの計算はどうするかというと、前から借りていたから家賃は余り上がらない。新規だとぐっと家賃が上がっていた、その差額を得している。借り得というのです。これからずっとこの条件で借りられるはずだ。これは借家人の儲けだ。出ろと言われるのなら、これを払えと言われていたのです。あるいは、正確に計算できないから、土地代の3割とか言っていた。何で借家人に土地代を払うのかと聞けば、借家というのは土地に建っているのだから、家を借りるというのは土地を借りていることだなんて理屈をこねた人がいるのです。借地権を設定したならそうですけれども、借家で土地代の3割の権利がなぜ出てくるのか、僕は全然理解できない。
 僕も失敗したと思っていますが、昔大阪駅前の赤ちょうちんが再開発で1億ぐらいもらったと言われました。ああ、しまった、僕も大学教授にならないで、赤ちょうちんをやっていれば、1億の財産をつくったのに。もちろん土地を買えばできたけれども、土地を買う金はない。赤ちょうちんでちょっと貸してといえばよかったのです。地価が上がったとき、それを地主のものだけにするのはおかしい、借家人に分けてやれということだったのです。しかし、理屈では全然おかしいです。
 土地の値上がり分は土地所有者のものです。借家人はただそこに住んでいるだけですから、土地の値上がりについて何も寄与していないのです。それが寄与したなんていう民法学者がいました。借家人が住んでいなかったら、その辺はペンペン草が生えていたという「ペンペン草理論」とかいうのだそうです。借家人がいたから繁盛して地価が上がった。だから地価が上がった分は借家人のものだなんていうのですけれども、借家人が住んでいるから地価が上がったのではないです。この土地だけはペンペン草が生えていたって、周辺が発展すれば、このペンペン草の土地の値段は上がっています。借家人がいることとは関係ないです。あるいは、そこが駐車場になったって地価は上がっています。そういう屁理屈をこねる人がいたので、僕らは、そういうペンペン草理論の学説にペンペン草を生やしたらとか、余計なことを言ってきたわけです。
 そこで、立ち退き料はやめる。地価が上がった分は地主のもので、しようがない。ただし、それは別に開発利益の吸収とか譲渡所得税を上げるとか、そういう制度で巻き上げるしかない。家主と借家人で分けたからうまくいくわけではない。借家人が儲かるのもおかしいわけでしょう。やっぱりそこから巻き上げるべきです。
 そういう立ち退き料はおかしいけれども、期限が来て出ろと言われたら、借家人にとってはショックだ、ショック料を払えなんていう議論があるんです。だけど、僕は何でショックなのかわからない。突然出ろと言われたらショックです。だけど、期限が切ってあるときに、期限が来て出ろと言われたら、これは当然のことなので、ショック料を払えなんて言われる筋合いはないし、またショック料を払えと決まっていたら、家主は最初に家を貸すときにショック料を預かっておくわけです。後で立ち退き料100万取られるとわかっていたら、最初に権利金100万預かっておくわけです。そしたら、借家人にとって何も有利なことはない。借家でいいことは、一軒家を買うのと違って、初期投資が少なくて住めることです。家を借りるときに、高い権利金を払わなければならず、最後に返してくれるかどうかわからないけれども、一応返す約束になっているなんていうのではあほらしいわけです。そこがわかっていない法律学者が「ジュリスト」1128号の座談会にも出ていました。最後に家主に立ち退き料を払わせる方がいいんだという人には、そのお金はどこから出てくる?と聞きたいですね。家主としては借家人から最初に巻き上げると考えるに決まってます。こういう常識のわからない議論があったと私は思っています。

 (2)家賃と開発利益

 今の開発利益の話で、民法のある先生は、生存権的居住権が借家人にある。家主は借家人の生存権的居住権を保護しなければいけないなんて言ってきたわけです。これはやはり不思議な話で、家を貸せと言われたので貸してあげたら、借家人の生存を保護しなければいけないなんて義務を課されたらかないません。やはりそれは国家の責任です。その議論は、さっきの米屋と一緒で、米屋はその辺の貧乏人にも米を食わせる義務がある、麦を食わせてはならないとかいうことになってしまうわけです。昔「貧乏人は麦を食え」と言って大臣をクビになった池田勇人がいましたが、それは政治家だからで、米屋だったら、貧乏人には米を売らない、麦しか売りませんという自由はあるわけです。それは米屋の責任ではないです。日本の社会保障でいくべきです。
 日本の社会保障が悪いから、家主に責任を負わせるしかないという議論がありますが、これは今うそっぱちで、少なくとも僕のところの留学生と比べたら、生活保護を受けている人はずっと楽です。3人家族で今生活保護は20万以上で、国保とか年金とかみんなただで、病気のときはみんな面倒を見てもらえるのですが、留学生なんていうのは、4人家族で月15万で一生懸命専門書を買って勉強をして博士論文を書いていますから、大変です。だから、僕は生活保護世帯がそんなに苦しいとは思っていない。社会保障が悪いから家主の責任だなんていうのはそもそも筋違いです。

 (3)紛争のコストの低減

 定期借家は紛争のコストの低減になります。借家紛争で明け渡しを求めると、今100万ぐらいかかると言いましたが、定期借家にすると、弁護士などは頼まないでいいから、ぐっと安くなります。
 それから、今まで家賃値上げの紛争、あるいは家賃を下げろという紛争のとき、まとまらなかったら、調停に出し、裁判をやることになった。調停といったって、基準がよくわからないから、ほかが3万円上がったのなら真ん中をとって、1万5000円にしておくかとするか、調停員は気の弱い方を説得するのだそうです。家主としても、そのぐらいで鑑定をとるとか、弁護士を立てるといったら、絶対合わない。だから、普通あきらめる。
 適正家賃が幾らかを、裁判所というか、権力で決めるのが間違いです。だって、家賃幾らが適正かというのは、権力ではわからないです。むしろ市場が決めた方がいいです。定期借家なら、期限が来たらやり直しですから、新しい借家人の値づけと同じだけ出せば居れるし、そうでなければ出なければいけないです。新しい借家人がいくら値づけするかで決まる。これはむしろ公平ではないのか。それで家賃はどんどん上がっているのはけしからぬと言われるのなら、それはむしろ、国は家主を抑えるのではなく、住宅供給政策をとって対処するのが筋だし、それの方がずっと楽だ。

 (4)借家の増加

 定期借家なら借家がふえると言っているのですが、定期借家で新規の住宅の建築がどれだけふえるのか。新規の家をつくるのは5000万とか7000万とかかかってしまうのだから、家賃も40万ぐらいになって借りる人はいませんよとか計算する人がいるのですけれども、別に定期借家にしたから100平方メートルの借家が月十何万で借りれるようになりますなんてまではいっていないわけです。ただ、定期借家にしたら、今までの借家の供給阻害要因が減って、貸しやすくなって、予測可能性も立ちやすくなるから、少し安くなるでしょうといっているだけで、それでも家賃が余り下がらなかったら、ほかの政策手段をとって家賃を下げる。更地の固定資産税を上げて、どんどんアパートをつくらせるとかいうのもあるだろうし、借家建築の補助をやって下げるというのもあるだろうし、今優良建築物というのがあります。だけど、定期借家にしないでそういう政策手段をとるよりは、定期借家にしてそういう政策手段をあわせて用いた方が安くつくんですよということを言っているだけです。
 あと自分の家を貸すという、持ち家の賃貸化がふえます。今僕の元弟子が、金持ちで東灘区に100平方メートルのマンションを持っていたのだけれども、神戸市の北区に一軒家を建てたのです。東灘区のマンションは売りたいのだけれども、今はうまく売れない時期だ。だから、売りどきを見て売りたい。しばらく貸したいというから、僕は損だ、定期借家が立法化されるまで待ったらと言っておいたわけです。今の借家法で貸すと、いつまでも頑張られてしまう。そうすると売れないわけです。マンションは古くなったらろくな値段がつきません。定期借家にすれば、売るときになったら、もう更新しませんと言えばいいわけです。それだと貸せるわけです。だから、彼は今空き家にしている。定期借家なら貸せる。そうすると、貸す方も助かる。彼は新しい家のローンを払うにも助かる。借家人の方はといったら、そういう供給がふえれば絶対安く借りられるから得です。
 僕は「愛妻プラン」と勝手に言っているのだけれども、僕が死んだ後、我が家はどうなるかというと、女房が多分僕の勉強部屋のくもの巣を払うなんてことをたまにやるぐらいで、倉庫番をしているわけです。それではもったいない。それで、女房は1DKか2DKに移って、家を人に貸す。そうすると、差額の家賃が入るわけです。今だってできるでしょうという人もいるけれども、今の制度の下でうっかり貸すと、返してもらえない。家賃は上げられない。修理代ばかりかさむことになる。
 しかも、2DKに移ってみたけれども、やっぱり我が家に戻りたいとかいろいろ起きるわけです。あるいは、老人ホームに行っているかもしれないけれども、そこでもいびられて、我が家に戻りたいと考えることもある。定期借家なら、期限が来たら追い出せるのですから、戻れますので、定期借家なら貸そうと考える。今の制度では貸したくないと思っている人はいっぱいいるわけです。そうすると、僕が死んだ後、女房は家を貸して、その辺の小さいアパートを借りて、差額の家賃が仮に月10万も取れたら、これは老人にとってはぼろい話で、毎月北海道旅行へ行ける。1日おきにカラオケにも行ける。いいだんなを持ったなと思ってもらえるわけです。だから僕はこれを愛妻プランと言っているのです。ただし、この前提はすべて僕が先に死ぬということになっているんです。(笑)非常に悲しい前提なんですけどね。
 ということで、空いている家を貸す人がふえるんです。転勤のとき、今は家をなかなか貸せない。単身赴任で行く。これも子供の学校や共稼ぎだけではなく、借家が絡んでいる可能性がある。転勤のとき、定期借家で貸すと、帰ってくるときいつでも戻れるというなら、家族もろとも引っ越す人がちょっとはふえるはずです。転勤族同士で家を定期借家で貸すという市場ができるかもしれないです。そうすると、宅地建物のあっせん業者は、定期借家で貸したいという人の情報を集めて、お互いに貸してやる。こうなったら、みんな助かる。
 しかも、こういうときには安く貸すはずだと思う。我が家の場合だったら、減価償却も済んでいる。そして、あそこにクモの巣を張らせてはもったいないから、貸そうかというのだから、安く貸せるわけです。そうすると、借りる方も得をする。期限が来たら追い出されるじゃないかといったって、安く借りているんだからしようがないと考えるべきだというわけです。
 どこも住むところがなくなったらどうすると言われるけれども、供給は絶対ふえていますから、借家人の方もふえるかもしれないけれども、どこかはあるはずだ。同じ学校区の中で探すことはできるはずだ。そしたら、子供も困らぬという説明です。
 そんなに借家が必要なのか。みんな持ち家志向だ、借家をふやすなんていったって、だれも喜ばないなんて言われているのですが、本当にそうなのか。地価がどんどん上がっているときは、家を買ったということは財産がふえたということですが、今みたいに地価が上がらないとなってくると、家を持っていたって、別にそんなに得をするわけじゃないです。無理してローンを組んでヒイヒイ言うよりは、むしろ借家の方が楽だという人だって出るはずです。そういうのは個人の選択に任せよう。個人の選択の自由を阻害するような仕組みがまずいと言っているだけです。定期借家にすれば、貸す人がふえる。借りる人もちょっとふえるだろう。だけど、それでも一戸建てを欲しい人はどうぞということです。
 家主が定期借家しか貸さないのではないか、従来型は貸さなくなるのではないか、定期借家ばかりになったら、これからの借家人はいずれ追い出されては困るよと言われているけれども、だったら、長くいたい人は家主に対して従来型契約をしたいとか、20年契約にしたいとか申し込めばいいんです。家主が応じないでしょうと言われるけれども、それは同じ条件だから応じないのです。従来型なら長くいる権利が保障されているのですから、高い権利金か何かを払わなければいけないです。それだけ払えばおれるんです。
 銀行の方から見てですけれども、5年の定期を預かるのと1年の定期を5年間更新して、5年目になってお金を返すのと比べたら、5年の定期の方が金利が高いです。1年定期を更新してきた方の金利は安いです。というのは、1年ごとに払い戻されてしまうかもしれなかったのだからです。それと同じで、定期借家よりも従来型の方が高くなってしまうことは十分あって、借家人は従来型を借りたいとき、余分に金を払うといえば、家主が納得する場合もある。それが幾らになるかは、市場が決めることです。
 家主から見たら、案外、従来型を余り高くしないで貸す可能性があります。今みたいに家賃が上がっていない、むしろお客さんを確保したいときだったら、従来型でもいいです、権利金は高くしませんという可能性もあります。家賃がどんどん上がっているときはそうならない。だけど、家主としても、建てかえのときだけは出てほしいということになるから、従来型であろうと、やっぱり建てかえのとき困る。従来型ではなくて、30年定期とか20年定期とかということがあるかもしれないです。でも、これはすべて市場で決めた方がいいんじゃないですかというのが私たちの言い分です。




4.批判への反論

 (1)規制緩和で民事基本法を改正?

 批判への反論で、規制緩和で民事基本法を改正するのかという議論があります。確かに、規制緩和の一環だと主張している人がいますが、私はそうではなく、ごく単純に民法の基本に戻ろうと言っているだけです。家の貸し借りは契約です。物の貸し借りです。だったら、対価関係に立たなければいけないです。物を貸したら取り戻すのがなかなかできない、しかも安くしなければいけない。例えば、銀行に貯金して返せといったら、金利を取れるどころか、元本の半分だなんて言われたら、だれも貯金しない。家のときだけは、貸した家を取り戻せないなんていったらおかしい。貸し借りの基本に戻りましょう。そうすると、借家人は保護されないんじゃないかとか、借家人を保護してきたのが法律の歴史だ、労働法もそうだなんていう意見がありますが、大体労働法と全然違うのです。労働法というのは、労働者がクビになって路頭に迷わないようにと労働者を保護して使用者の権利を制限しているのですけれども、幾らなんでも、給料とか退職金まで国家が決めたりはしていないです。ところが、借家の場合は、最後の立ち退き料とか家賃とかを国家が決めているわけです。これははるかにきつい介入です。
 だから、市場で物の売買をするのと同じでいい。ただ、高騰したときは抑えるのが国家の任務です。米騒動が起きないようにということで適当に米の価格をコントロールすることは国家の仕事ですけれども、普通に市場が動いている限り、むしろ市場に任せる。値段が上がってくるなら、緊急にタイから米を輸入するとかいったりもするわけです。そういうふうにすべきであって、農家に対して米を安く売れなんて義務づけたってうまくいかないというわけです。

 (2)家賃値上げ

 定期借家では、次に家賃値上げのためにやっているのではないか、家主が期限が来たときに出ろ、さもなければ家賃を上げるということを言うためではないかと言われているけれども、さっき言いましたように、やはり新しい借家人と同じ条件を出してください。前から借りているから安くしろというのは、商売にはあり得ません。もちろん家主の方が、前から借りている人に親切で安くするのは勝手です。ただ、そんなのは家主が決めることであって、国家が前から借りている人は安くしなさいと言う理由はないです。

 (3)悪徳家主?

 期限が来たら追い出す悪徳家主がいるなんてよく言いますけれども、世の中家主だけに悪いやつがいて、借家人には悪いやつがいないという前提がおかしいです。やっぱり悪徳借家人もいる。極端な例で言いますと、冗談半分ですが、美人が来たから入れたら、暴力団のヒモが入り込んできちゃったなんていうと、隣の住人はみんなびっくりして出ていっちゃう。それでアパートはつぶれてしまう。そんなケースが幾つあるか知りませんけれども、借家人だって悪いやつがいる。そういうのは家賃値上げといったって、ふんぞり返ってダメだ。家主の方は、気の弱いばあちゃんなもので、あきらめたというのはよく言われています。だから、借家人だけがいい人だとは限らないです。両方に対応できるような制度を考える。こうなると、期限を切った方がいいのではないかという話です。

 (4)公営住宅は足りないか

 公営住宅がたりないから借家法の保護がいるという議論ですが、本当にたりないとは僕は思ってないのです。大震災のときに全国から3万戸公営住宅が提供されたのです。ところが、1万戸しか埋まらなかった。というのは、政策が悪くて、公営住宅に行く人の旅費も出さなかったからです。僕は往復旅費を支給して、あと阪神が復興したら戻ってこれる保障をして、仕事がない人は、とりあえずどこかの公営住宅へ行ってとやったらよかったと思うのだけれども、とにかくいっぱいあいていたわけです。神戸市内では、都心は物すごく高い倍率だけれども、ちょっと郊外へ行くとあいていたのです。都心に住みたいというと大変なことは確かです。
 しかし、僕が理解できないのは、中堅所得者は郊外から通勤地獄で苦労して税金も払っていて、貧乏人だと都心の公営住宅に安くおれるのはおかしい。もちろん足が悪いとか、病気だから、都心から動けない人は別です。だけど、貧乏人だというだけで都心におれるのはおかしい。今回の阪神大震災の復興で、都心に公営住宅をいっぱいつくっています。あれでも足りない。山の中につくっているのはけしからぬなんて言っていますけれども、山の中といったって、僕ら普通の勤労者が住んでいるところです。あんな「遠くて不便なところ」に行けないなんて言われたものだから、怒っているわけです。(笑)この前までキツネやタヌキが住んでいたところだなんて言われている。僕らがキツネやタヌキみたいに言われちゃ、何ともはや。(笑)といったって、地下鉄に乗ったら30分ぐらいで都心には出ます。だから、普通の人はそれで耐えられるはずなので、耐えられない特殊な人だけ拾って都心に住ませるという政策ならいいけれども、貧乏人だから都心に住ませて、しかも安くするから、おかしい。
 そういう言い分ですので、公営住宅が本当に足りないかといったら、足りないことはない。大体港区とか千代田区に公営住宅をつくろうというのが基本的に間違っているのです。あそこに住まなければいけない人はたくさんはいない。所得が足りないのだったら、悪いですけれども、ずっと郊外から通ってくださいというのが普通じゃないでしょうか。そしたら、公営住宅はそんなに足りないわけがない。しかも、今度は公営住宅で、高額所得者を追い出すのに、一々訴訟が要らないようにしました。今までは訴訟をやっていました。めちゃくちゃ手間暇がかかる。しかも、家賃は安いですから、粘った方が得というシステムです。今度は公営住宅の家賃は民間の家賃と同じようにして、しかもその倍取れるとやったのです。そしたら、倍取られるのだったら、素直に出た方が得だと考える人がふえる。それは僕がずっと前から唱えてきた説です。そういうふうに法律が変わったので、訴訟がなくても、追い出せる。そうすると、公営住宅がふえるはずだ。建物をつくらなくたって、あくのですから、貧乏人はもっと入れる。こういうふうに実質的に公営住宅はふえるわけです。しかも、前に述べましたように、借家が増えるのですから、公営住宅を増やさなくても借家人層は助かるのです。




5.最後に

 

 定期借家は、今までの法制度にプラスアルファしてよくするだけだし、借家人を追い出すわけでもないし、完全に100点ですと言っているのです。ただし、すばらしくよくなるわけではない。すばらしくよくしようと思ったら、既存の制度も全部定期借家にして、そのかわりどんどん家主に補助金を出すかして、家を安くつくらせて、あと借家人にも補助金を出すか家賃補助を出すかして、みんな住めるようにするのだけれども、そんな大改革は今できない。定期借家で既存の部分はそのままにして、これから少しよくするということです。それで貸す人がいっぱいふえるから、大丈夫ですよというわけです。
 反対派の論調を見ますと、北海道大学の吉田克己さんは大分反対していたのですが、今度「法律時報」の2月号を見たら、定期借家は幾らふえるなんていうのと、今までの借家人が定期借家に切りかえられる心配があるんじゃないのぐらいしか書いていないから、幾らふえるというのは、わからないけれども、ちょっとふえますねというのと、今までの借家人がだまされることのないように保護措置を講じていますというので、我々としては全部答えたと思っているわけです。
 「判例タイムズ」959号で山梨学院大学の藤井俊二さんという反対派を入れて座談会をやったのです。反対派の議論を全部出してもらって、僕らは反論した。これで全部反対論はつぶれましたねと僕は言って納得してもらったつもりでいるんです。だから、これで皆さんには賛成派に改宗してくださいと僕はいろんなところで言っているんです。
 本日は、こういうことで、今やっている議論で、定期借家の方がましなんだという説明をしただけで、これで商売はどうやったらいいのということはまだ言っていないのですが、これから不動産の賃貸業は、定期借家もあわせてやっていくだろうし、借家を建設される方もその方向で考えていくということで、いろんなアイデアがあるのではないかと思います。
 この前資産政策評価学会でも「定期借家と資産評価」というテーマでシンポジウムをやりました。定期借家にすると、借家の評価がしやすくなります。今家を貸してしまうと、評価がガタッと下がってしまう。相続税は安くなるけれども、なぜ評価が下がってしまうかというと、貸したってなかなか返ってこなくて、値打ちが下がってしまうからということになっているんです。定期借家にしたら、割と取り戻せる。そうすると、むしろ収益物件になるということになれば、評価は下がらないかもしれないです。そうすると、いろんなことが変わってくるという気がします。
 ここで話を終わりまして、皆さんからいろいろご意見をいただければ幸いです。




フリーディスカッション

司会(谷口)
 
ありがとうございました。これから約30分時間がございますので、どうぞ御遠慮なくどなたからでも御質問ください。

藤田(都市問題経営研究所)
 大阪の都市問題経営研究所の藤田です。
 先生の話を前から一遍聞きたいと思っていて、私、実は神戸に住んでいて、神戸大学の先生の話を何で東京で聞かないかぬのかなと思っておるんですけれども、(笑)どうしても聞く機会がなかったので、きょうわざわざこれのために出てきたんです。先生が先ほどおっしゃったお説に全く大賛成です。日経に出たときも、お上手を言うわけではなくて、コピーをとって会社にも張っておいたのです。先生御心配のことは1つもないので、このごろは大会社をクビになっても、再就職できるのは、はっきり主張を持っている人と専門を持っている人だけなので、専門部門を持っているとか、主張をはっきり持っている人だけが再就職ができる。先生も多分ある日突然、ある大学の学長になるということになりますから、じゃんじゃん言っていただきたい。
 きのうの晩にマンション学会で、今度甲南大学でやるのですが、その打ち合わせがありました。マンションに関して、やはり定期借家権とマンションとの関係で、神戸の災害では、大分区分所有の関係で往生していますので、その辺もご経験になっているのだろうと思うのですけれども、そのこともきょうはちょっと答えていただきたい。
 それから次に、先ほど先生おっしゃっていましたように、私も再開発が商売なわけですけれども、従来の方法では全くダメなので、全く新しい方法をいろいろ考えてやっているわけですけれども、事情も全く変わってきまして、土地も値上がりしないで、今より悪い。銀行へ預けても、株を買うても、もうみんな悪い。大体銀行も証券会社も信用できないということから、この中にそういう方がおられたら、私もいつも言いたいことを言うておるし、お許し願いたいですけれども、土地は5%ぐらいで回ったらいい、それから、建物も5%ぐらいで回ったらいい。それを借りて、敷金、家賃等がほとんどなしで経営ができたらいいということで、案外心配したことはなくて、定期借地権なり、むしろこの後の店舗はどうなるかわからぬから、3年間だけ借りる。ずっと借りるのはむしろ困るということを大手の百貨店やスーパーの連中まで言い出してるわけです。再開発のビルの商業床ですけれども、そういうことも起きています。
  もう1つ新しい現象としては、阪神間でみんな維持管理をきちんとしておいて、何かトラブルが起こったときに、話し合いできる機関を、新聞はコミッティーなんて甘ちょろい美談ばかり書いていますけれども、実際はそんな甘ちょろい話じゃないので、みんな維持管理の専門会社に任そうということで、私どもがやった再建の場合でも、ほとんどいわゆるメンテナンス会社で上場する会社が続々出てきておるわけです。これもわずかな儲けですけれども、カチンとメンテナンスを引き受けます。そういう業者をマンション再建のときに呼びかけると、大体5社ぐらい来るわけです。入札させるわけです。入札して1年間、専門家が引き受けてくれる。家主が心配せなならぬトラブルは、全部そのメンテナンス屋が一切引き受けます。借地と借家とそういう関係、それから維持管理もやるということで、大分事情が変わってきている。
 最後に、公団のような公社が、先生御承知のように、阪神間の復旧の場合、大変貢献したわけです。というのは、売りっ放しの分譲住宅とか賃貸住宅もそうですけれども、だれも世話を焼いてくれる人がなかったら、実際に再建は困難だったのですが、いいか悪いかは別にして、公社や公団が建てたものについては、一応公団は頼りにはなったわけです。そのこと自身は問題ないですけれども、しかし、それが主軸になって取りまとめして再建された事例が大変多いわけです。したがって、この定期借家権についても、当面推移期間の間はしっかりした団体がそういうトライアルを一遍やってみる。公団なり公社なり、みんな文句を言ってますが、一方で信用している面もあるわけです。そういう連中にトライアルを3年間ほどさせてみて、問題があったら、それを改正して紛争に乗せるということもぜひお考えの中に入れていただきたい。

阿部先生
 十分お答えできるとは思いませんが、まず最初に、マンションと定期借家というのは、何を考えるんだというのはちょっとまだ頭が回らないのですが、マンションでは大抵分譲型だと思うのですが、しかし、分譲型ではない賃貸型の場合、従来型だと、借りたらずっと住み続ける。建てかえしたいときでも、借家人が出る時期がずれる。1、2の3で出てくれないので、建てかえできないということになります。定期借家なら期限を切っておくので、1、2の3で出てくれるから、建てかえしやすいというので、マンションの再建が非常に進むとは思っているんです。
 ただ、今我々が提案しているのは、既存のものには適用しないので、本当のことを言うと、30年先になってやっと意味がある議論になるのです。本当は既存の契約も定期借家にしたいのですが、今それを言うと大反対が起きるので、とにかく今は新規のものだけ定期借家にすることにしているのです。
 その次に、もし機が熟せば、既存のものについても明け渡し事由などはせめて合理化して、建てかえのときには出ていただく。但し、若干の補償金は払うとかいう制度をつくるのはいいと思っているんですが、それ以上のお話はちょっと頭が回りません。
 あと再開発の場合も、お話のところでは僕も何と返事をしていいかわからないのですが、マンションは、区分所有法という民事法でいっています。民間の合意が要るので、なかなかまとまらない。しかも、今震災で壊れた場合だと、5分の4の賛成があれば建てかえできるという制度にはなったけれども、5分の4の賛成がとれないと何もできないです。しかも、5分の4の賛成をとったところで、反対者がいれば、また訴訟合戦で、とても進まないというわけです。
 私の説だと、前にも後ろにも進まないと困る。マンションが壊れた場合ですけれども、更地の共有地を多数決で売ってしまった方がいい。台湾でもそうなっています。そうすると、みんな早く家を求めることができる。それから建てかえるにしたって、ミニ再開発法みたいなのをつくって、再開発の要件をちょっと緩めて、マンション1軒だって権力で再建する。皆さんからは土地を取り上げて、フロアを与えて、差額をとるんです。そこに若干補助金を出してやる。
 今回の震災の後も優良建築物の再建とかいう制度で、建物の方には(共用部分の)8割も補助金を出したのです。理屈はわけのわからないことですが、廊下とかフロア、エレベーターには公共性があるからなんて言うことです。そんな金があるなら、マンション再建のときも補助金を出して、皆さんの持ち出しを少し減らせば、またスムーズにいくのではないかと思っています。とにかくみんなの合意に任せるという仕組みはまずいです。
 定期借家を公団から始めるかどうかは、弱ります。民間の家主なら、期限が来たら出なさいと言ってもいいけれども、公の場合は、最後に居住権を保障しなければいけない。こっちで追い出したら、どこかで拾わなければいけないというので、公が貸すときは定期借家にしてはいけないのかどうか、ちょっとわからないですね。
 特に公営住宅の場合、期限が来たら出ろと言っていいのか、ちょっと自信がない。ただ、公団の場合、建前としては、民間と同じように、採算をとる仕組みですから、しかも今の借家法もそのまま適用していますから、定期借家にしてもいいのではないかという気もするのですけれども、どういうものでしょう。もしそうなったら、反対する人はいっぱいいますけれども、公団の建てかえ事業のコストがかなり楽になるのです。今は建てかえるときに、今までの入居者が家賃が何倍にもなると反対するものだから、とにかく進まない。これをもうちょっとスムーズに進めてほしいとは思っています。
 それからもう1つ、全然質問とは違うけれども、僕が公営住宅で非常に気に食わないのは、一回入ったら、永久にそこにいることです。阪神間で、今度家族が多いと、80平米ぐらいの公営住宅もあるんです。ところが、家族が死んでしまったとか、最初からインチキで、田舎から親が来たことにしているとか、そういう場合だってあり得るわけです。そうすると、少人数の数で大きいところを安く借りてしまうということになる。家族が減ったら、いる人数に応じて狭いところに移る義務を課すべきです。夫婦で60平米借りて、1人死んだら一生60平米に1人でいるんです。こんなのはおかしい。片方で貧乏人で狭いところにいっぱいいるのだから、1人になったら、せいぜい20平米のところに移るべきです。ところが、今高齢者には40平米と保障してしまっている。それは山の中へ飛ばすのではなく、同じ友達のつき合いができる範囲というぐらいの条件をつける。そうすればみんな楽になると思っているのですけれども、公営住宅も定期借家までしてしまうといったら大変でしょう。
 余り御質問に答えていませんで、すみません。

藤田(都市問題経営研究所)
 それで結構ですけれども、私が申し上げているのは、公団の一部をトライアルしてみたらどうか。公団住宅とか公営住宅を全部定期借家でやれと言うてるんじゃないんです。公団あたりのように比較的世の中の人が信用する部門もありますから、その一部でそういうトライアルを始めてみたらどうかということを言うてるだけなんです。
 それからもう1つ、肝心なところやから、先生ちょっと間違うてはるのか、優良建築物は2割補助です。8割補助じゃないです。それは全然違う。
 ありがとうございました。改めてまた学校へ行って議論しますけれども、きょうはこれで結構でございます。

阿部先生
 優良建築物は共用部分について8割補助で、建物全体で2割補助ぐらいになるという話でしたね。建物全体に8割補助みたいな言い方をしてしまったのですね。共用部分以外はプライベートなものだから、自分の金で買え。だけど、廊下とかエレベーターとかは公共部分だからと称して8割補助にしたら、建物は大体2割ぐらいになるということだったんですね。それはわかっていたはずなんですけれども、不正確に言ってすみません。私の『大震災の法と政策』(日本評論社)には正しく書いています。
 ついでに、僕はこの理屈は全然わからないので、エレベーターがすばらしければ、結局は個人の所有部分の価値が上がって高く売れるのだから、あれは個人財産でしょう。もしエレベーターが公共部分で補助金をもらえるのなら、その辺の家の前の狭い道路だって公共部分のはずなのに、区画整理のときは、今まで12メーター道路以上でないと補助しない。あとは地権者負担でやれと言っていましたから、理屈は合わないですね。補助を出すために屁理屈をこねただけです。
 追加ですが、更新のとき、借家人は弱いだろう。家主は借家人を入れかえればいいだけだが、借家人は引っ越ししなければいけない、友達も切れるんじゃないか。新しいところで苦労する。ただ借家人は脅されるという話がありますけれども、ただし、定期借家の方だと、安いのも借りられるから、その分もともと安いのだから、損をするのはしようがないという説明をするのと、あと最初の契約のときに、定期借家だが自分は更新する可能性があると、最初から家主に期限が来たとき更新請求権つきにしてほしいと申し込んで、ちょっと権利金を余分に払えば、家主の方も、うまくいったら、この人はサッと出てくれるし、悪いときは更新するかもしれないけれども、別に更新されてもかまわないと思えば応ずるというので、契約にいろんなパターンができるのではないかなと思っています。
 冗談半分で言っていますけれども、うちの大学の学生が、阿部先生に不可を食らって、予定外にもう1年いるというときに、家主が足元を見て、引っ越し代ぐらい余分に払ったら置いてやるとかいう話がありますけれども、そんな心配をするなら、借りるときに更新請求権つきという特約つきの契約を結んだらどうだと言っています。今は引っ越し代は安いから、そんなに心配なら引っ越せとも言えるんです。賃貸借契約書にいろんな特約をつけることになるでしょうね。

早川(平和建設(株)
 建設会社におります早川と申します。
 今のお話、まことにそのとおりだと思いまして、私も古いアパートを貸して往生しているのですが、今の先生のお説のようなものが現実に法制度になる見通し、時期、あるいは当局の賛同の度合いとか、そういうのを含めて何年ぐらい待てばよろしいでしょうか。

阿部先生
 今のところでは、自民党、さきがけの与党には賛成していただいて、社民党の中の協議で、ごく一部の先生方の中に首を縦に振らない方がおられるので、まとまっていないというところです。それで今社民党を一生懸命説得しているんですけれども、うまくいかない可能性もある。ただ、そのときに、社民党が党として反対するということではないと聞いております。党として反対すると連立政権がつぶれる可能性があるわけです。多分社民党は、党として反対と決めて党員を拘束するというのではなく、まあせいぜい自由投票だろう。野党の方にも賛成者がいっぱいいますから、これで国会に出して賛成多数で通すというのが僕らが聞いている方針ですけれども、私が決めることではなく、非常に難しい政治の問題です。あるいは、夏の参議院選を待ってからという説もあるかもしれません。
 でも、これほど問題の少ない法案でも、心配だ、心配だといって反対されるというのでは、何もできませんねというのが私どもの言い分で、一番やさしいのでやっているんです。本当は既存借家の不合理だけ直して、明け渡しの不明確なのを直したり、変な立ち退き料を直したりと考えているのだけれども、そうすると反対者がふえるんですね。あと公営住宅も直したいです。またいろいろ反対者がふえる。既存借家人がだまされることがないようにすれば、いいのではないか。これからは定期借家しか借りられなくなるんじゃないかというのだけれども、そんなものだろうか。既存借家の制度でちょっと不合理なのを直せば、既存借家で貸すという家主もある程度いるのではないかという気もして、そうしたら選択の自由が保障される。だから、そんなに反対する理由はないんじゃないかと思っている。だから、多分通ると思っている。よろしく御支援を。新聞で、弱者はどうかと書かれているのは違う。「弱者こそたくさん助かる定期借家」だと盛んに僕は宣伝しているのですけれども、なかなか。見込みはほぼいけると思っています。来年あたりから定期借家あっせん業がはやると思っています。定期借家協議会か何かをつくるとかいう動きになっています。
 本日は居住用の住宅についてだけお話ししたのですが、営業用だったらどうなるという議論があります。学説には、営業用のは定期借家でもいい、ビジネスライクにやれという議論と、住宅なら、住みなれたところを離れたくないのだから、定期借家に反対という議論があった。逆に、営業用だと、商売がはやったころに家主が足元を見て、出ろといって、高い家賃をふっかけるということがあるという議論もある。しかし、営業用でも一回借りたら永久にと言われても、また家主の方も困る。ここが非常に難しいところだけれども、イギリスなんかだと、結構長い期間で借りているというわけです。
 こういう議論をする人がいるのです。借家人の商売がちょうどはやっていた。そのとき家主は期限が来たから出ろといって、別の人に貸すとか、自分が同じ商売を始める。そうすると、前の店子が培ったノウハウをぶんどる。これはけしからぬというわけです。それなら、家を借りるときに最初からこの賃貸借契約が満期になって返すとき、家主は同じ商売をしてはいけないとか、同じ商売する人に貸してはいけないという1カ条を入れればいいんですね。最初からそういう契約書を入れておけば、家主はほかのやつに同じ商売で貸すことはできない。だから、そういうのは契約書の工夫の仕方がいろいろあります。だから、僕は大学をやめて、定期借家賃貸借コンサルタントをやるかとか言っているのだけれども、そんなものは一回書いてしまえば終わりだ。(笑)そういうふうにして契約にいろいろ工夫をすれば、借家人はそんなに簡単に追い出されないという説明をしているんです。

司会(谷口)
  ありがとうございました。特に御質問がなければ、きょうはこれで終わらせていただきたいと思います。
 阿部先生、どうもありがとうございました。(拍手)

 


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