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第134回都市経営フォーラム

住まいづくり・まちづくりにおけるNPOの役割
−NPO法のもたらすもの−

講師:山岡 義典 氏
日本NPOセンター常務理事・事務局長


日付:1999年2月24日(水)
場所:後楽国際ビルディング・大ホール

 

 1.NPO法(特定非営利活動促進法)の背景と意義と概要

 2.NPO法によって期待される住まいづくり・まちづくり分野の市民事業

 3.住まいづくり・まちづくり分野の市民事業の発展に必要な条件

 4.住まいづくり・まちづくり分野における企業とNPOの関係

   フリーディスカッション




 皆さん、こんにちは。きょうはNPO法について少しお話しさせていただきたいと思います。
 この法律のことを知る前に、NPOとは何かということをきちんと考えておいた方がいいのではないかと思いますので、きょうは、企業の方が多いのかと思って、特に営利組織と非営利組織の関係をと思っておりましたけれども、自治体の東京事務所の方も随分おいでになっているということで、行政との関係も本当はお話ししたらいいかとは思いますが、とりあえず予定では、企業とNPOとどう違うのかという点を中心にします。NPOと企業というのは別ものというより親戚みたいなものでございまして、非常に連続的です。そのことを最初にお話ししておきたいと思います。
 

1.NPO法(特定非営利活動促進法)の背景と意義と概要

 きょうは絵は持ってきてないのですが、少し概念図でお示ししましょう。きょうも建築関係の方がいらっしゃると思いますが、私も建築が出身なので、概念図で話すのが得意というか、わかりいいですね。
 この図は、まだ3、4回しか使ったことはないのですが、何をいっているかというと、民間の事業体のことです。民間の事業体の位置づけをどうするかということです。企業のことをわからない方は、なかなかこの図がわからない。学生に一度話したら全然わからない。何でわからないかというと、学生は企業のことを知らなかったからです。企業のことをご存じの方は、大抵すぐわかっていただけるわけです。
 事業体の性格を2つに分けるわけです。こっち側がMission。 Missionというのは社会的使命といったらいいかと思います。社会的使命を重視する事業体がこちらの方。こちらには、どちらかというとProfit、これは「利益」と訳します。「営利」の方がいいかもしれません。営利指向性、こういう2つの方向があるわけです。両者の境界はこの斜めの線になるわけです。
 企業というのは、普通、営利、Profitを指向しないといけない。なぜかというと、株式会社というのでわかるように、株主に配当しないといけない。株主に配当するのは利益が上がるから株主に配当するので、企業は株主に配当することをもって社会的な信頼性を得ているわけです。10年間赤字ばかり出している企業は、銀行もお金を貸してくれないし、社会的に見ても評価されないし、株価は下がります。配当のない株なんて買う人はいないわけです。
 企業は、基本的には配当を出す、配当を出すというのは利益が上がるということです。営利追求を優先する。しかし、営利だけを追求しているわけではなくて、何がしかの社会的な使命も担っているわけです。
 しかし、社会的使命よりも最終的に営利を追求する、これがいわゆる世の中でいう営利組織です。このことをFPO、For-profit Organization といいます 。アメリカなどでは普通、For-profitといっております。
 それに対して、NPOとは何かというと、基本的には営利よりも社会的な使命、社会的にこれをやらなきゃならないということを優先する事業体です。これを日本語では「非営利組織」という。これがNPOです。NPOは何かといいますと、Nonprofit Organization。日本ではよくNon Profitとか、Non-Profitというふうに書きますが、これは間違いです。間違いというか、昔はきっとこう書いていたと思うんです。日本の文献ではほとんどこう書いてありますが、アメリカではこういう書き方をしないです。アメリカから世界じゅうに広がって今使っているのは、こう書く。Nonprofit Organization。要するに、Nonprofit で1つの単語になっているということです。NPOと書くから、Non Profit Organization がNPOの略だといわれると一番わかりいいんですが、実は今やこうなっている。
 Profitは利益、Non というのはないということですから、NPOというのは利益のない組織ということで、じゃ、毎年赤字を出している企業はNonprofit でNPOだねという話になるわけですが、そうはいわない。
 そこでアメリカでも、Not-for-profit Organization という言葉をよく使ってます。NPOを10ぐらい訪ねていくと、その10のうち1つか2つの組織のパンフレットは「うちの団体は、Not-for-profit Organization です」という言い方をします。だんだんこちらが増えてくるかもしれない。さっきいったように、For-profit Organization というのは企業のことです。企業ではないということですね。
 もっとわかりやすくいうと、利益を目的としたものではない組織ということです。営利を目的としたものではない組織。だから、目的がここではっきりするわけです。営利を目的としたものでないというのがNPOの意味です。この方が、言葉の使い方としては正しいと思います。
 どっちにしろ、日本語で書くと非営利組織になります。そうしますと、自治体も利益を追求してないからNPOか。きょうは住宅・都市整備公団の方もいらっしゃっているようですが、住宅・都市整備公団は利益を追求してないからNPOだねという話になりますが、NPOは、こっち側のFPOもそうですけれども、基本的に政府のコントロールのもとにないということが大前提になっております。
 ですから、政府の予算によって事業内容を決められるとか、ある種の法律によって事業内容が決められているとか、そういうものではない。自分たちのつくった定款で、自分たちが事業計画を立てて、自分たちが予算を組んでやるというのが前提になっております。だから、日本語で書くときに僕は必ず「民間」という言葉をつけて「民間非営利組織」というふうに訳します。
 営利組織の場合も民間営利組織です。営利組織で政府がやっているのはそんなにないから、営利組織といえば民間の話なので、民間営利組織とはいいませんけれども、非営利組織の場合は、ちゃんと「民間」とつけた方が正確な言い方だろうと思います。
 営利を目的としない。じゃ、何を目的とするんだというと Missionです。社会的な使命。これに対して企業はProfitを優先する。優先するだけのことで、では企業にMission がないというわけではない。時々営利を追求する余りに、社会的によろしくないことをする企業はありますけれども、大抵の企業は何がしか、それを通じて、トヨタ自動車であれば、車を通じて豊かな交通社会をつくるとか、いろいろあるわけです。ただ、そのために利益がなくなって、株主配当をやめてでもいい車をつくるかというと、ちゃんと利益が上がって、株主配当ができるような形でしか企業はやらないです。そういうことがあります。
 一方、NPOは社会的な使命を優先するからといって、利益のあがることは何もやらないかというと、結構収益事業をやっているのがあるわけです。社会的使命が優先しますが、若干Profitがあってもいい。場合によっては行き過ぎて、Profitに走り過ぎて Missionを忘れるようなNPOもないわけではありませんが。
 従来の日本社会は営利組織の方だけを見て物事を行ってきた。しかし、実際には、一応株式会社の形をとっているけれども、別にそんなに株主配当もしてないし、利益を追求するのでもないという、非営利組織的なものが、日本ではうようよしております。
 日本では多くの劇団なども、別に儲かっているわけじゃなくて、みんなかすみを食いながら芝居をやっているような劇団でも、株式会社という形をとっている。そういう状況がありますので、必ずしも明確にいえないのですが、基本的には、今まで日本の社会は営利しか認めていなかったということです。非営利の方は変なやつが好き勝手なことをやっている。儲かりもしないのに、何であんなことをやっているんだろう。儲からないことをやっていると大抵危険人物だと思われますね。儲かってないのにあんなことをやる、何のためだ、どこかの宗教団体かしら、政治団体かしらと、大抵間違えられます。
 しかし、儲からないけれども、民間がやることが重要なことがあるという認識が、アメリカでは1960年代から出てまいりました。それが世界に広がっている。それがNPOです。
 日本の長い歴史、特に明治以降の歴史でいいますと、営利組織は自由に法人組織をつくってよろしい、民間が自由にやってよろしい。しかし、非営利のことをやる法人は、ちゃんとお役所がコントロールしますよという話になっていた。非営利は役所のコントロールのもとにいれば安心。営利は自由にやってください。民間が自由に Missionを追求されちゃ困ります、それは役所がやりますという社会を、日本はこの130年かけてつくってきたわけです。
 ですから、日本の世の中を見る目とか組織に対する認識に非営利側の観点がない。民間が儲からないことをする、利益よりも社会的な Missionを追求してやることに意味があるということが、今までの日本の常識にはなかったのです。日本の社会システムの中にそういうものがなかった。だから、どちらかというと、スピン・オフしたような人が非営利にいて、営利にいる人は社会人として一人前。非営利は社会人として半人前、そういう状況が長い日本の、特に近代の歴史の中であったということです。
 今、NPOを語ることによって、非営利の存在を見ることによって、営利を相対的に見ることができる。
 例えば、ベンチャービジネスといいますね。ベンチャービジネスというのは営利に行くことしか目指してない。ベンチャービジネスで儲からなかったら、幾らいいことをやっても失敗になります。しかし、NPOという概念があると、ベンチャービジネスをやって儲からなかったけれども、社会のために物すごく役に立ったということがあるわけです。NPOという概念があると、ベンチャービジネスにも2つのルートがあって、こっちに行って儲けようというのもあるし、儲からないけれども、社会的な使命を実現しようというのと、2つの選択肢がある。しかし、今までは一方が見えなかったから、ベンチャービジネスは儲かれば成功だけど、儲からなかったら失敗と、日本の社会は決めつけております。これはおかしいのであって、ベンチャービジネスの中には極めて儲かるものもあるけれども、儲からない、NPOとしてやれば非常にうまくいくものもたくさんあるわけです。
 非営利をちゃんと見よう。非営利を見ることによって営利も、今までと違った形でまた見えてくるということですね。
 企業にもいろいろあります。僕はこのあたり、営利領域と、非営利領域の境界あたりを「こだわり事業」の領域といっています。この1月、2月ぐらいから使い出した言葉ですが、浸透するかどうかわかりません。企業の形をとっていても、非常に Mission性を優先するとか、NPOにこだわりながらやっているけれども、事業として自立し、成り立っているというのが結構出てきている。
 障害者を雇用してレストランを開くとか、あるいは有機農業を産地直送でやるとか、あるいは途上国と貿易をする。デザイン事務所、設計事務所もこれに近いところがある。大抵株式会社をとっているけれども、株式公開していなければ、株主配当をしなくてもいい。最初に寄附してねというので、寄附のつもりで株を買ってもらっている事務所も結構あると思います。そういうのがこの部分に入ります。あるいは生活協同組合もこの部分に入ります。この部分がかなりあるということも重要です。
 これも、営利側だけを見ていると、世界地図を見る場合にも太平洋を中心に見るか、ヨーロッパを中心に見るかというのがあるように、こっちの営利側だけを見ていると、こだわり事業というのは、企業のはみ出しものという感じです。だけど、この絵で見ると、民間事業体の中心は、これからはここら辺のこだわり事業だと僕は思うんです。
 例えば、企業の社会貢献はどういうことかというと、ある企業は本体事業では利益をきちんと出す、そのかわり、非常に Mission性の強い団体に寄附をするというのが社会貢献活動です。また、寄附はしないけれども、うちの事業は利益の全部を社会的に使いますよというところもある。そういうところは、別に社会貢献しなくても、社会的な意味は大きいわけです。
 恐らく、今日のこのフォーラムもそうだと思うのですが、利益を上げている部分と、利益を上げない部分、NPO的な事業部門を持つ会社も結構あるわけです。サントリー美術館というのが赤坂見附のところにあります。あれはサントリーが持っている美術館で、あんなのは全然金になるはずはない。ただ入場料が少しあるから、事業性が少しはあるかもしれません。美術館はここにあって、サントリーホールだったら、この辺になるかもしれません。そういう部門をサントリーという本体が持っているわけです。アメリカだったら、NPOとしてサントリー美術館をつくって、そしてサントリーが毎年幾らかずつそのNPOに寄附をする、こういう形をとりますけれども、日本の場合は企業の一部門という形が多いんです。税制の問題もありますけれども。
 だから、非営利部門を持つ。トヨタ自動車であれば、自動車博物館とか、あるいはトヨタグループでつくっている産業技術記念館とか、そういう全然儲からない非営利部門を、企業として持つということです。このフォーラムもどう考えたって、金になる話じゃないわけです。
 日本の企業を見るときも、こうした民間のこちら側、つまり非営利側の活動が非常に意味がある重要なものであるということがわかるとすると、企業を見る目も変わってくる。
 最近、企業でも「ミッション経営の時代」なんて本が出ています。企業がだんだんこちら側に来る、特に中小企業では増えていますが、NPOと同じになる。日本はNPOの社会的な仕組みができてなかったですから、この辺に近いところまで株式会社や有限会社という形をとってやっている。
 ただ、企業とNPOは何が違うかというと、構成員への配分が違う。法律用語では社員という。社員というのは企業でいうと株主、非営利組織をするかしないかでいうと会員です。それでどうなっているかというと、NPOは構成員に配分しちゃいけないんです。株主に当たる会員に配当しちゃいけない。これがNPOがNPOである一番はっきりした原則。構成員に配分しない。ですから、こっちをプラスにして、こっちをマイナスにしますと、企業は配当していいわけです。配当しないといけない。実をいうと、株式を公開すると配当しないといけない。
 ベンチャービジネスは株の公開を目標にするわけです。その時点で株が上がるわけです。上がった株は配当しないといけませんから、株を公開して株の配当を増やせば増やすほど、こっち側に引きずられます。株を公開しないで、仲間内でやって配当はしない、我々やりたいことをやるんだからいいよねというので、あるいは一族が持って配当なんかしなくていいから、トントンでいいことをやろうよということになって、非営利側に移る。
 非営利組織は配当してはいけない。配当しないだけでなくて、逆に社員は会費を払うのです。あるいは寄附といってもいいかもしれません。日本NPOセンターにも、企業、自治体も含めて大体 500人ぐらいの会員がいますが、そういう会員は配当してくれと絶対にいいません。逆にちゃんと会費を払ってくれるわけです。私達も堂々と請求する。普通なら配当幾ら送りましたというのに、そろそろ今年度の会費を納めてくださいという。そこが違うんです。非営利組織は会費を納める。マイナスの配当です。それに対して、企業は配当をする。
 Missionを強めれば強めるほど収益部分がなくなりますから、会費が増える。逆にいうと、会費をたくさん集めるのは大変だ、自分たちでやっていこうというと、だんだん営利的な部門を強くしていかないといけないということで、両方合わせて民間組織ということです。もちろん、今、日本では99%が営利で、非営利は1%ぐらいしかありません。
 そういう関係にあるのが非営利組織と営利組織すなわち企業の違いということでございます。

 レジュメの2行目に書いてありますように、「日本の法人制度」というのがあります。法人の話は企業の方は非常にわかりいいんだけれども、学生さんに法人の話をしても全然わからない。僕なども大学を出て10年ぐらいで、法人制度というのが少しわかった。財団法人というのがあるのを知りましてびっくりしました。何という変な言葉だろうと思った。
 法人という制度がございます。近代という社会は法人が大きな力を持っています。いいか悪いかはともかくとして。そして、日本のこれだけの世界に通じる産業社会をつくった大きな理由は、株式会社という法人制度があったからです。これは商法でできております。株式会社という法人制度。自由に法人をつくることができる。だから、松下電器にしろ、日立にしろ、東芝にしろ、あるいはデパートの三越にしろ、いろんな企業はみな法人です。法人ですから、土地をたくさん持つこともできるし、また海外と取引契約ができるわけです。
 法人とはどういうものかというと、人間でないものが法律によって人間と同じようになるということです。契約ができるということです。そして、人間が入れかわっても、その法人の社会的な契約は有効だということです。例えば、ある会社の社長がリタイアして代わった。代わっても、前の社長でやった契約は有効です。個人だったらそんなことはないです。法人というのは契約ができるということです。人間以外のものが人間と同じように契約できるということです。そして人間が入れかわっても、その契約は有効だということです。これが法人ということです。
 現代社会で法人の制度がきちんとできた分野は強くなりました。しかし、法人制度の弱い部分がだめなんです。その典型が農業です。農業法人、農業生産法人というのがありますけれども、農業のほとんどは法人制度によらなくて、家族制度で、土地は全部個人が持っている。株式会社で持ってもいいよという話が最近は出ておりますが、僕は、農業が衰退したのは、いろんな問題があるけれども、農業において適切な法人制度ができなかったからだと思います。
 同じようなことが商店街。大きいスーパーのような大店舗は法人です。それに対して地域の店は個人の事業主です。せいぜいよくて商店街の組合をつくるということがありますけれども、これも法人制度がいい形で機能しなかったわけで、このような分野は、近代社会の中で衰退していく。好き嫌いにかかわらずということです。
 そういう中で私どもが10年ぐらい前からやっと、日本ではNPO、非営利組織に関する法人制度が適切に働いていない、それが日本における市民社会をきちんと育ててこなかった理由であろうということに気がつきました。そして、さまざまな国際的な場面でそのことが問題になってきたし、我々内部でも非常に不便なことが起こってきたということです。
 この法人制度は、ちょうど101年前に施行されました民法によって規定されております。戦後憲法が変わっても、民法の法人制度は変わらなかった。これはどういう仕組みになっているかというと、営利を追求する組織、株式会社とか、当時は合資会社、合名会社、後になって有限会社ができましたが、こういう会社は自由につくってよろしい。これは商法によって定めますよと民法に書いてある。営利を目的としたものはそういう形で自由につくってよろしいですよ。
 しかし、営利を目的としないものは、民法には「公益に関する」ものと書いてありますが、公益に関するものは主務官庁、その活動の中身を取り仕切っている役所、今でいえば、環境問題であれば環境庁とか、国際協力を行ったり国際交流なら外務省、あるいは奨学金を出すのなら文部省、地域の福祉、高齢者の介護をやる団体であれば厚生省、それぞれその活動を取り仕切っているお役所が特別に許可をする、原則禁止だけれども、特別に許可をした場合にのみ設立してよろしいというのが、こっち側の非営利の部分についての法人制度なわけです。これが財団法人や社団法人の制度です。役所のコントロールが非常にきつい。役所がつくるときは簡単にできるんですけれども、民間がつくろうと思うと大変な苦労があって、非常に透明性のない形で主務官庁の許可がおりるという状況があるわです。
 もちろん、活動の範囲が都道府県に限られるものは都道府県知事が出すようになっていますけれども、とにかく行政の裁量が非常に大きい形での法人制度しかない。そこでは行政が公益と認める、公益と認めるのは行政ですから、行政の不利になるようなことを公益と認めることはない。だから、「公益」という概念、これがいつの間にか「官益」になってきたということで、公益法人が官益法人になったとよくいわれるのはそのことです。



2.NPO法によって期待される住まいづくり・まちづくり分野の市民事業

 そういう中で、特にこの10年ぐらいの間にさまざまな市民活動団体、市民ひとりひとりに支えられて、市民的な発想で何かをやろうとする団体が生まれてきました。生まれてきたといっても戦前からあったわけですけれども、今あるものの多くは60年代から少しずつ増えて、80年代に急に増えてまいります。そして、大きな事業をやるようになる。海外協力、海外の難民を救ったり、山地の農業の開発を手伝ったり、あるいは都市の子供たちを助けたり、いろんな海外協力の団体、あるいは自然保護の団体、それもただ自然を守れと運動するだけではなくて、みずからお金を集めて保護するための土地を買おう、ナショナルトラスト運動のような形。あるいは芸術的な活動、市民オペラ的なものもやるとか、結構市民団体でも1000万、2000万、場合によっては数億というお金を使うような団体も出てまいりました。
 もろちん底辺の一番小さいのはさまざまなボランティアグループがありますけれども、そういうボランティアグループから始まって、だんだんいろんな事業をしていく団体、そして専従のスタッフを持つ市民団体もたくさん出てきた。そのとき、そういう団体が法人格を持てないために、非常な不便が起きました。この不便の事例を挙げると切りがないのでやめますけれども、国際的にもさまざまな問題が起きてきた。役所のコントロールのもとに入らないと法人格がとれない。その法人格のハードルはだんだん厳しくなる。財団法人だったら5億円集めなさいとか、社団法人だったら年間3000万から5000万ぐらいの会費を集めなさいとか、そういうものでないと法人格がとれないという状況にあるわけです。
 10年前ぐらいから、日本に新しい非営利の法人制度をつくらないと、日本は国際的な意味での市民社会になれないだろうというので、こういう提案をしてきたんです。法人格が取れる、役所の裁量を極力なくして、主務官庁制度によらないで、非営利であることをはっきり世界に表明できる、Nonprofit であることを表明できる法人格をつくる必要があるということを10年ぐらい前からいっておりまして、特に5〜6年前からそういう調査研究をやったり、提案をしてきたという状況がございます。
 そういう中で、ほとんどこの準備は1994年、震災の前の年に随分普及しまして、いろいろな調査レポートも出まして、いろんな運動団体も出て、私どももいろいろやりました。94年の段階でこの問題が、しかるべき範囲の人には非常に脚光を浴びて、国会議員の人たちも、若い人たちが94年に勉強会を始めました。
 日本にもちゃんとした非営利の法人制度をつくらないといけない。そういう動きの中で、95年の1月17日阪神大震災が起こりまして、ボランティアが大活躍して、日本の社会には自発的な市民の活動が根づかないと、行政だけではできないということがはっきりした。行政は行政なりに随分いろんなことをやって役割を果たしたと私は思いますけれども、行政の論理とこの自発的な市民活動の論理は論理が違うんです。この異質の論理があることが、いざというときに重要だということがはっきりしたわけです。
 そこで、政府も日本社会に市民活動のようなものがきちんと根づく仕組みをつくろうということで、法律をつくる準備を始めました。これが1995年の2月から10月ぐらいの間。一方、市民団体がいろんな提案をそれ以前からやっておりましたし、この問題に関しては、市民団体の方がはるかに情報も知識も、世界の動きも、現実的な課題もよくわかっていましたから、市民団体がイニシアチブをある程度とったわけです。むしろ議員の方が、「これは議員立法で、こういう法律こそ、霞が関につくってもらうんじゃなくて、我々がつくらなくちゃ」といって、「これはおれたちがつくる。だから、行政、霞が関は手を引いてくれ」というので、1995年の11月からは政府は手を引いた。そして、議員立法という形で、この新しい非営利法人の仕組みをつくる動きが起こります。
 実際には3つの法律が出ます。当時の新進党が一番早く出しました。市民公益活動法といったか、そういうのを出しました。それから1年かかってやっと与党3党、当時の自由民主党と社会党、今の社会民主党、それと新党さきがけ、今はなくなってしまいましたけれども、その3つの与党3党で、いろいろすったもんだありましたけれども、96年の12月には与党3党案を国会に出した。そして、共産党も翌97年の3月には非営利法人法を出した。3つの法案が出ます。
 そして、私どもも、「これは使いにくい」とか、「こんなんじゃだめだ」とか「これは理想的だけれども、なかなか現実にはすぐにはいかない。とにかく速やかにちゃんと日本の現実の中で機能して、しかし、現実に流されないで新しい動きをつくれるような法律を」ということで、結果的には与党3党の案に修正に修正を重ねた。その修正の過程では民主党が随分動いたわけです。民主党を中心に修正を重ねて議論をしてきた。
 そして昨年3月、与党3党案を、かなりいろんな点で修正して、全会一致、共産党も新進党、そのころは新進党はもうなくなっていましたけれども、自分たちの案をとりあえず取り下げるということで、与党3党の案に修正に修正を重ねた案を全党一致で通した。これが特定非営利活動促進法という法律でございます。もとの名前は市民活動促進法といっていました。「市民活動」という言葉に、自民党の割合古いたちはおじさんたちは反対した。市民活動というのは選挙区に帰ったら敵ばかりだということで。民社党が「市民」という言葉をよく使っていたのもしゃくだったんでしょう。市民という言葉は使わなくてもいいじゃないかというので、僕らも、法律用語としては市民活動をまだ使わない方がいいんじゃないかなと思っていました。市民団体も、「ああ、それならそっちの方がいいんじゃない。むしろ広くて」と、全然反対しなかった。そういう法律で、市民活動より特定非営利活動の方がやや広がりもあるし、使い方も、価値観も広がっていいんじゃないかと私は思っています。
 そういうことで、この法律は市民団体が働きかけて、議員立法で全党一致で最終的には通った。非常に珍しい法律のでき方をしました。未来の日本の法律のでき方はこうだと思います。今は8割以上、9割近くは霞が関でつくって、議員はいいというのと悪いというだけなんです。霞ケ関で法律をつくると、省庁を超える問題について調整がつかなくなってしまうという問題があります。ですから、縦割りごとにいい法律ができるんですけれども、縦割りを超えるような法律は、行政からは出てきにくい。だから、日本社会は戦後50年、縦割りがだんだんスレンダーになっていったという経緯があります。
 この法律はそれに対して、全く新しい仕組みでつくった。これはこれからの立法に大きな影響を及ぼすだろうと思ったら、このたびの情報公開法。これも修正に修正を重ねて、全党一致にこぎつけた。これは議員立法じゃない、議員立法じゃないから、非常にやりにくかった面はあるんです。省庁間調整が物すごくたくさん要る法律で、それをやるのに苦労があったし、そう簡単に直さなかったんですが、よくあそこまで修正できたと思います。
 NPO法も情報公開法も、市民団体あるいは我々から見れば、そんなに満足のいく法律じゃないんです。65点か70点。しかし、70点の法律を今つくることが意味があると判断したわけです。だから、多くの市民団体の意見が、初めはばらばらでした。しかし、これならいこうという動きが出た。情報公開もそうですね。これならいこう、そういう動きがあって、それに呼応して、全党が、全党というのは大変なことですが、全党が賛成して法律ができる。結局国会も市民の声がかなりまとまって、今これが必要なんだという声が強くなったら反対できなくなる。法律をつくる力が市民の側にだんだん寄ってきた。ごくわずかですけれども、これからだんだんそういう法律が増えると思います。
 そういうのがこのNPO法でございます。僕らはこれを「市民立法」という言葉で呼んでおります。この市民立法という言葉を、僕は94年の末に初めて使いました。もともとは議員立法だけれども、市民の力で議員立法を起こさせるというか、市民が議員を通じて立法をするということで、市民立法という言葉を94年の震災の直前、11月ごろに僕は使い始めて、本に発表を始めた。それから、震災後は市民立法という言葉が随分使われるようになりました。これは市民立法の最初の例です。
 法律自体はどうということないです。僕らは大喜びしているし、日本社会は大きく変わると思います。しかし、世界的に見れば、くだらぬ法律です。くだらぬというか、非営利の法人が自由に設立できるというのは、アメリカやヨーロッパでは当たり前の常識なんです。その常識が日本では非常識だったわけです。 
 しかし、海外から見たら、日本の公益法人制度の方がはるかに非常識なわけです。グローバルスタンダードから見ると。ただ、日本にいると全然非常識と気がつかないです。ですから、やっとアメリカやヨーロッパでやっていることの3分の1か半分ぐらいのところまで来たねというのが、世界から見たら、向こうの感じですね。要するに、非営利の団体が法人格を得られるようになった。それも結構制限があるじゃないのという話です。この程度の法律でどうして喜んでいるの。だけど、日本の社会にとっては物すごく大きい、法人制度における規制緩和。極めて大きな規制緩和。主務官庁制度によらない非営利の法人格が生まれたという意味は、5年、10年からいくと物すごく大きな意味を持っていると私は思います。
 この法律の内容は、私のレジュメの2ページに書いております。「目的」のところに「市民」という言葉も残っておりますし、「公益」という言葉も残っています。いろいろ議論があった言葉です。この言葉はほかからは全部取り去って「目的」の中にだけ入れた。「公益の増進に寄与する」。「公益」という言葉は今使うな、今までの公益というのは官庁益なんだから、誤解するから、公益というのは使わない。ほかでは全部使わなかったんだけれども、「いや、そうじゃない、新しい意味の公益というのはこの法律によって生まれるんだから、公益という言葉は置いておこう」というので、法律の目的のところには公益を入れた。これは社会の益という「社会益」という意味で公益を使っております。従来の公益と違うんだという解釈のもとです。
 それから、「市民が行う自由な活動」ということで「市民」という言葉を使っています。市民が何かというのは、法律用語はわからないです。市民なんていう言葉のある法律はほかにないです。だから、法的に裁判して、「おまえのところは、これは市民が行う活動じゃないじゃないか」といわれても、何ともいいようがないですね。「おまえは市民なのか」といわれても、「私は市民です」「じゃ、証拠を見せろ」。市民の証拠なんてないです。住民はあるんです。住民票がありますから、住民票を提出すると住民です。市民というのはないですね。ベトナムから来て日本に10年、20年住んでいる人も市民です。あるいは韓国籍、北朝鮮籍で日本にずっと住んでいる人も、市民といえば市民です。全部市民。企業市民も市民じゃないかというので、法人もこの市民に認めるのか。「まあ、いいんじゃないの」というので、法人だけが会員の団体もこの対象になります。 要するに、この法律によって認証を申請するような団体の構成員、社員はみな市民であるということに逆になってしまう。この法律で法人格を得ようとしている団体の会員、法律用語で社員といいますけれども、会員は市民なんだということをみずから発表しているようなものです。 そういう法律で、行政がつくった法律じゃないから、従来の法律から見ると非常識なところがたくさんあります。これが議員立法のいいところです。
 特定非営利活動というものを定義しております。12項目あります。これもすったもんだあって、議論のあげくここに落ち着きました。本当はどんな団体でもいいんですけれども、民法による規定が変わらないので、民法の特別法という位置づけで、12項目に絞ったという経過がございます。この中に「まちづくりの推進を図る活動」というのが入っている。
 僕らは、まちづくりと住まいづくりを両方入れてほしいという要望を出した。最初の原案のときにまちづくりは入ってなかった。まちづくり関係のいろんな団体にFAXで、こういう要望書を出そうねということでやった。10通ぐらい。
 この非営利活動には「まちづくりの推進」と「住まいづくりの推進」という活動をぜひ対象に入れるようにと各党に持っていって説明した。皆さん、「それもそうだね。だけど、そんなに細かいものはいろいろ要らないから、住まいづくりというのはまちづくりの一部でいいんじゃないの」というので、結果的には「まちづくりの推進を図る活動」というので入っています。
 5番目に「環境の保全を図る活動」というのがありまして、これは当初は地球環境の保全を図る活動だった。熱帯雨林をどうするかとか、炭酸ガス、CO2 の問題をどうするか、砂漠化の防止をどうするか、そういう地球規模の環境問題を対象とする団体はいいけれども、長良川の河口堰をどうするか、あるいは鎮守の森をどうするか、原発などのイメージがあったかもしれない、あるいは干潟の保全をどうするか、そういう地域の環境を守るのは対象としない。これは対象としては困ると思ったどうかわからないですけれども、ともかく地球環境にこだわって、地球環境の保全にかかわる活動ならいい。これに対しては市民団体も、こんなのは世界の非常識だよ、世界から笑われるよ、地域環境も地球環境も全部含めて環境にしないとおかしいよというので、最終的に土壇場の修正で「環境の保全」になりました。
 これからは分野を越えていろんな市民活動、民間の活動をサポートする組織が生まれてくる。既に私ども日本NPOセンターがありましたから、いってみれば日本NPOセンターのためにこの12項目を入れたようなものです。いろんな分野の団体をひっくるめてサポートする機関がこれから各地に必要になる。それは従来の主務官庁制を超える大きな役割を果たすということで、11項目じゃやっぱりだめだというので、12項目を入れさせた。日本NPOセンターも、この12項目をもとに東京都に申請をしております。
 そのほか制約がございまして、宗教活動を主な活動にしてはいけないということ。それから政治活動を主な活動にしてはいけない。主な活動じゃなかったらいいんです。政治活動も政治上の主義の主張と書いてある。「政治上の主義を主張し、支持し、又はこれに反対することを主たる目的」としてはいけないということです。これも随分議論があったんです。じゃ、環境を保全するというので、環境保全のための活動をやっちゃいけないのか。そんなことはないということになりました。政治上の主義と政治上の施策は違う。政治上の主義の主張はいけないけれども、施策の主張はいいという話になりまして、主義と施策をどこで分けるかというのは難しい。一般には、「政治上の主義及び施策」というわけで、非常に連続的ですから、分けられないんですけれども、この法律では、主義というのは社会主義だとか、共産主義だとか、平和主義とか、そういう大きな社会のあり方を主張するのが主義であって、個別の政策を提言するのは施策の主張で、これはいい。だから、政策提言はじゃんじゃんやってよろしい。現代の政策に沿っていようが反対しようが、どっちでもいいという形になっています。そういうのは議会で1つ1つ議論して記録に残していく。そして立法趣旨というか、立法の中身ができ上がっていくわけです。
 それから、「公職の候補者若しくは公職にある者」、要するに選挙活動をやっちゃいけないということ。これは重要な文章で、「又はこれらに反対することを目的とするものでない」。目的でなければいいんです。団体の目的は選挙活動をすることではない。これを目的としてはいかぬ。ただ、結果的に、自然を守ろうという知事の候補を応援する。これは問題ない。最初、ここのところは「これらに反対するものでないこと」になっていた。「反対するものでないこと」というと、何かの拍子に反対することもあるかもしれないじゃないか。そしたら、これは違反になってしまう。「するものでないこと」というのは、基本的には「することを目的とするものでないこと」と僕は同じと解釈をしていたんですけれども、そういう解釈もあり得るかもしれない。目的としてはなかったけれども、自分たちの活動の中でそういう選挙活動にかかわることがあるかもしれない。そういうときどうするんだ。そういうのは困るねという話で、ここは最後の土壇場、参議院の委員会で全会一致で通る前の日、「目的とするものでない」という言葉を入れたんです。これを入れたために、他の2つの案は引き下げて、これに合同した。この一言を入れたことによって全会一致になったわけです。そういう言葉です。「目的とする」。目的としなければ、必要に応じてやってもいいんです。自分たちの活動目的の実現のために選挙運動をやる、これはいいんです。ただ、選挙運動を目的とした団体ではない。だから、政治家の後援団体みたいなものがNPO法人になるのは難しい。
 あと、所轄庁。これも従来の常識とかなり違う。先ほど私、日本NPOセンターは東京都庁に申請を出しましたといいました。「日本」なんてついているんだから、全国をまたにかけて活動しているんだろう。いや世界をまたにかけているんだろうという話があるんですけれども、世界じゅうはやってないです。日本じゅういろんなところでやっています。けれども、活動のエリアがどこにあるかは関係なく、東京にしか事務所がない団体は東京都知事に出せばいい。事務所がどこにあるかによって決まるわけです。もし、私たちが大阪にも事務所をつくりたいということで、日本NPOセンター大阪事務所、両方をちゃんと登記上の事務所にすると、このときは経済企画庁で認証を受けることになっております。
 ですから、活動のエリアじゃなくて、経済企画庁は全国団体で、都道府県がローカル団体ということでもないんです。青森県の津軽と函館と、津軽海峡両側の自然保護運動があって、両方に事務所があれば、極めてローカルな活動であっても、北海道でもなく、青森県でもなく、経済企画庁に行くんです。そういうやり方も非常に珍しいです。
 あとは10人以上構成員、社員がいるということが条件。そして、そのうち3人が理事になる。3人以上の理事がいる。理事のうち3分の2以上は無給である、ボランティアであるということです。3人の理事のうち1人は常務理事か理事長で給与をもらってもいい。しかし、これが3分の1以上が給料をもらってはいけないということ。これが非営利性の担保にもなっている。株式会社の役員、取締役は全部有給です。そこが違います。
 そして、こういう書類をつくって役所に出す。そして、2カ月間縦覧する。みんなに見えるようにする。東京都庁に皆さん行ったら見れます。縦覧してあります。日本NPOセンターの資料も24日までは縦覧しています。25日になると取り下げると思いますけれども。そして、その後2カ月以内に、認証するかどうか判断して決めるということです。「認証」という言葉を使っている。許可でもなく、認可でもなく認証。宗教法人の言葉です。これは形式要件だけで判断するということです。
 きのう北海道で認証第1号が生まれました。芸術関係の団体です。高齢者と一緒に芸術活動をやる。富良野にある舞台芸術塾といったか、私、ちょっと話に聞いたことがあります。それが北海道で第1号のNPO法人の認証がおりました。そろそろ各地で出てくるでしょう。経済企画庁と東京都は4月までは出さないといっておりますので、日本NPOセンターは4月初めに出てくると思います。そろそろNPO法による新しい法人が生まれてくる。登記しないと社会的に対抗できませんから、2週間以内に登記する。それがいつになるかわかりませんけれども、そういう状況にあります。 あとは、情報公開が義務づけられています。これは私ども市民団体が主張したんです。前の年の事業報告書と決算報告書を所轄庁に提出する。すると、所轄庁はそれをだれでも閲覧できるようにしないといけないということです。
 もう1つは、それぞれの事務所にそれを置いておいて、関係者が見せてくれというと、見せないといけないということでございます。
 そういう状況で、今330ぐらいの団体が認証を申請しております。今年中に恐らく1000ぐらいの団体が認証を受けるでしょう。そういう状況ですけれども、この法律ができたために、「じゃ、うちもこういうのをつくってみようか」。従来だったら、有限会社をつくろうかと思っていたところが、10人集まればできるじゃないかというので、新しい法人、非営利の法人をつくろうよという動きが出ております。
 そういう中で、従来は任意団体でやってきた、あるいは株式会社でやってきた、そういうものを新しいNPO法人でつくろうよという動きが出てくる可能性があります。
 そういう中で、「まちづくり」がいろいろ動きをもたらすであろうといわれております。その準備も進められております。住まいづくり、まちづくりでさまざまな非営利の活動が今まで行われてきておりました。私もいろいろかかわった。例えば、阪神・淡路の被災地の復興まちづくり、随分いろいろな方が協力している。私どももそれを支援するためのハル基金、HARと書きますが、阪神・淡路のルネッサンスファンド。そういうのをつくって応援していた。さまざまな団体がまちづくり、あるいは住まいづくり、コーポラティブ、コレクティブハウジングみたいなものをやるとか、実際には事務所を持ちながらボランタリーに、いろんな社会的なサポートを受けながらやっている活動があります。そういうものがこれから新しい事業体として生まれてくるだろう。
 その場合、「『NPO事業体』は始動するか」というのを読んでもらえばいいんですけれども、長谷工総合研究所というところの月刊誌に私たちが書いたレポートです。かなり非営利法人の事業体が出てくるだろうということです。そのときに3つぐらいの種類がある。1つは企画調整型のNPO。従来コンサルタントがやってきたことにある意味で近いです。
 NPOとコンサルタントのどこが違うかというと、自発性によってやるということです。コンサルタントとなると、委託されたものをやる。委託の枠組みの中でいろんな知恵を出す。NPOの場合は、委託があろうとなかろうと、自分たちで寄付を集めてやる、提案するというところがNPOのNPOらしいところで、従来にない仕組み。従来はどちらかというと、役所の方で枠組みをつくって、その枠組みの中でどうやったらいいかというのはコンサルタントでやります。
 阪神・淡路の震災のときにはそういう点で随分多くの人たちが提案した。さっきいったコレクティブハウジングなどは、まさにコンサルタントにいる1人の女性が中心になって、いろんな団体をつくって、コレクティブハウジングの考え方を示して、それを行政が引き継いだわけです。行政が前面に出てきたのではできないようなさまざまな事業、あるいは営利企業が前面に出てきたのではできないような事業の企画調整、提案、そういうものをやる。これが出てくると思います。
 再開発とか市街地の整備、いろいろなところで、こういうものがないために日本で行き詰まっている事業がたくさんあります。第三者的な立場で、住民の立場をきちんと見て、市民の立場によって、企業の立場とも独立して、行政の立場とも独立して動けるようなところ。じゃ、それは何の金で動くのか、これはいろいろあります。だから、そこに問題があるんですが、従来は、役所からコンサルタント料をもらって、「市民の立場でやっていますよ」といっても、「いや、それは役所の回し者だ」といわれてしまうわけです。あるいはあとあと事業をやるかもしれない企業体からお金が出ていると、「あなたたち、これでまとまったら、事業体から事業をもらってやるでしょう」。だから、そういう事業体もかなり無料投資でコンサルタントを派遣するという状態があるけれども、それじゃ、住民の信頼を得られない。そこに第三者の非営利組織、自分たちはどっちの利益でもない、社会の利益を優先する組織であるという形で入ってくると、非常にうまくいく例があります。
 今までも幾つかそういう例がございますけれども、数少ない。そういう状況を住まいづくり、まちづくり、全く新しい提案が第三者の立場でなされて、第三者のコーディネートのもとでできる。そういうのがもっともっと生まれてくるだろうと思います。
 これは割合簡単にできる。そんなに資本金がなくてもできる。アメリカで今NPOが大活躍しているのは、2番目の事業実施型といいますか、非営利ディベロッパー、これが大きい働きをしています。CDCといいます。コミュニティ・ディベロップメント・コーポレーション。普通はsを書いてCDCsと書きます。これは皆さんご存じかもしれませんけれども、『NPO教書』というこんなに厚い本が出て、それにアメリカのものが非常によく書かれております。アメリカには、一応2000と書いてありますけれども、幾つあるかわからない。各地にあります。私も幾つかの場所に行きました。非常に荒廃した土地をNPOが、荒廃すると土地が安くなるから買い取って、あるいは借り上げて、荒廃した建物を改修して賃貸住宅をやるとか、学校経営をしたり、スポーツクラブを経営したり、劇場を経営したり、いろんなことをやっています。そういう事業体が非営利の組織として出てくる。
 そして、州とか市からもちゃんと援助をもらうし、企業から融資や社会貢献としての企業寄附ももらう。そして、ボランティアも大勢がかかわるという形の事業体。行政でほとんど手がつけられなかったニューヨークのサウス・ブロンクスなどは、「サウス・ブロンクスの奇跡」といわれております。本当に荒廃してだれも近づけなかったような場所が、今やよみがえる。これはNPOが頑張った。CDCのバナナケリーという有名な団体があります。そういうのが、大都市、小都市、至るところにあります。
 こういう事業体が日本で生まれるかどうか。日本のNPO自体、従来はできなかった。任意団体にこんな事業はできません。株式会社という名前でやっているところは幾つかあります。マンション供給の会社でも、NPOにかなり近いことをやっているところはあります。それから、都道府県の住宅供給公社などで、それに近いことをやっているところはあります。住宅供給公社はできなくはないんですが、法律でかなりいろいろ縛られておりますので、制約がある。基本的には官の論理、公的な行政の論理でやりますから、なかなかできない。ということで、非営利組織のディベロッパーができてきて、法人格を持てば、融資をきちんと受けて、事業計画をちゃんと立ててやる。あるいは土地を買うのは向かないと思いますけれども、借り上げてやるという形で、非常に新しい住宅供給であるとか、商店街のショッピングセンターの供給、いろいろな新しい事業体、そのかわり利益を上げなくていい、株主配当しなくていいわけですから、逆に株主配当じゃなくて、いろんな寄附が、社会的なサポートが集まる。ボランティアがやったりしますから。そういうものができてくる。
 僕は、このNPO法ができたことによって事業実施型のNPOが日本に生まれるだろう、そのことに期待を持っております。そしてそういう状況が各地にうごめいているという感じを持っております。
 従来の公益法人制度は縦割りでしたから、まちづくりならまちづくりだけ。高齢者のまちづくりでせいぜい厚生省と建設省ぐらい。もっともっと長くいけば、まちづくりと老人給食と高齢者介護の保険事業をやって、そして芸術活動もやろうかという団体ができるわけです。そういうのがやるとおもしろい住まいもできるわけです。そういうのが出てくると思うんです。
 自然保護団体が自然保護に見合ったエコリゾートをつくろうよ。既にあります。三重県の方で一応有限会社でやっています。NPOだったらすぐできるわけです。自然保護で守った、守った土地をどうやって動かそうか、NPOをつくろうよ。そして自然を守ったリゾート地をつくろうよ。そこで芸術祭もやるかという話。あるいは子供たちを集めて何かやろうかとか、高齢者の何かをやろうかとか、あるいは海外の人を集めて交流事業をやろう。いろんなものをいろんな分野の人が一緒になってやります。そして儲けにならなくていい、配当しなくていいわけですから、さまざまなものができる。
 その事業実施型のNPOが日本の社会で10年ぐらいにさまざま誕生してくると思います。これを僕は楽しみにしている。
 アメリカにおけるCDCなども、みんな60年代後半からできたものです。30年前には全然なかったわけです。30年前になかったものが2000もアメリカでできて、物すごい事業、供給をやっているわけです。何万戸という住宅を供給しているわけです。
 それから、管理運営型のNPOが生まれてくると思います。これも既に生まれております。公共の公園とか公共施設の管理を市民団体に委託する。市民団体はみずからやって、守って干潟を保全しようよといって保全した。保全した干潟をお役所が何とかしましょうかというんじゃ、保全した意味は全然ない。そこに市民団体が、「いや、この干潟は自分たちが保全するから」といってやると、非常におもしろい形で、野鳥観察会をやりましょうとか、干潟をもうちょっといい形で水が流れるようにしましょうとか、みんなが集まってその干潟をきれいにして楽しみにする。そこで集まっている人も「これは自分たちの干潟だよね」という意識を持つ。今は役所がいろいろな整備会社に草刈りまでやってもらってやっている。そういうのでは本当に自分たちのものにならないものが、自分たちのものになる。公園とか、さまざまな文化施設、さまざまなものを市民団体が委託を受けると僕は思います。そのときに、単にこうやりなさいというとおりをやるのではなくて、さまざまなことを工夫しながらやる。
 例えば、筑波のセンターの広場をそういうやり方でやっています。この間はクリスマスツリーをたくさん並べた。ガーデニング何とか隊というのをつくって、ボランティアと若干の有給スタッフが一緒になって、ガーデニングを市民がやろうというので、市から委託を受けてやっている。こういうのがあちこちに出てきます。
 あるいは、マンションとか民間の施設の運営。ハードな管理はともかくとして、そこでお祭をやったり、いろんな企画をやったり、あるいはその住宅地で芸術祭をやろうとか、そういう管理運営型のNPOは出ると思います。これはそんなに資本はいらないと思いますから、出ますし、既にたくさんの芽がある。
 そういう意味で、企画調整型と管理運営型はすぐにでもできます。確かに法人格などなくても、かなりやっておりました。しかし、法人格をとることによって一定のお金もちゃんともらう。NPOという考えはボランティアと違う。ボランティアも重要ですけれども、ボランティアだけじゃない。有給スタッフも抱えて、ちゃんと事業体としてやっていこうというのがNPOですから、ボランティア団体からNPOになるわけですが、みんなが無償でできることをやりましょうね、というのとはちょっと違う。そういうものが重要だという物の見方がNPOという言葉を普及させているわけです。そういうものが生まれてくると思います。
 そして、ある部分は企業と一緒にやる。ある部分は行政と一緒にやる。あるときは企業に反対するかもしれない。企業がどんどん営利側に入っていくと、これはおかしいんじゃないのというところに、NPOの役割があります。企業に対して警告を発する。行政に対しても警告を発する。これはNPOの重要な役割です。しかし、いいことについては一緒にやる。今までは反対だった。一緒にやる団体と反対する団体は分かれて別々だった。反対、警告もするし、一緒にもやる、これが本当のパートナーシップだと僕は思います。
 そういう新しい事業体というか、そういうものが10年ぐらいの間にこの法人制度ができたことによって、各地に生まれてくるだろうと思います。
 法人制度がなくても、そういう生まれる素地、うずうずしている人はたくさんいる。ただ、制度がないためというか、社会的な認知がないために、「やつら、変なことやっているね、好きなことやっているね」という話で終わって、社会的な位置づけができなかった。それがこの法律ができたことによって、法人格をとらない団体も含めて、社会的にそういうものが意味があるんだということが明確になってきたということがいえるわけでございます。



3.住まいづくり・まちづくり分野の市民事業の発展に必要な条件

 そういうものをどうやってつくっていったらいいかということでございます。まずは人間なんです。人間はたくさんこの世界にいます。特にきょういらっしゃっている方は建築出身、あるいは土木出身、都市計画とか、そういう方が多いと思います。造園も含めて、うずうずしている。本来なら、儲からなくてもいいけれども、おもしろいことをやりたい人がうずうずしていますから、この世界にはたくさん僕はいると思います。
 建築士会が各地でセンターをつくって、そういう建築士会がかかわっているまちづくりに応援しようというのを、去年、おととしから始めました。幾つできているか。もう10以上できていると思います。各建築士会がそういう基金をつくってやり始めている。
 また別に去年だけでも3つほどいろんなネットワーク組織ができました。
 ここの私の「『NPO事業体』は始動するか」に3つの組織を書いております。「ネットワークセンター」、「生活・福祉環境づくり21」、これは東京の商工会議所がつくった。つくったばかりですけれども、私は期待しております。それから「すまいづくり・まちづくりNPOネットワーク」、これはオンライン情報でまちづくり団体のホームページを開いて交流する団体です。そういう3つの組織がある。いろいろできます。
 既にNPO法人でいろんな団体が申請しております。私のところに相談に来た団体では、建築学の人たちが建築技術者、特に高齢化してリタイアした建築技術者が、ボランタリーかそれに近い形でさまざまな分野で活動できるような仕組みをつくろうと、これは法人格を東京都に申請しています。
 それから、この間は、ある工務店というか、ゼネコンの人ですが、交通事故で脊椎を傷めて、車いすになって初めて、自分たちの環境がどんなに大変なものかわかった。これからは自分は建築士として、そういう改造、特に高齢者と障害を持っている両方の人に住みいいのをやる。バリアフリーと数年前からいわれているし、ユニバーサルデザインもいわれていますけれども、現場にそれのわかる、改造できる人がいるかというと、ほとんどいなかったということです。そのゼネコンの中にも実際いなかったということで、これは大変なことだ。現場の技術者にきちんとバリアフリー化というか、ユニバーサルデザイン、要するに改造、階段の手すりが後でつけられるようにするためにはどうやっておいたらいいかという極めてプリミティブな技術がだれにもわからない。福祉の人たちと一緒に工務店の人たちにそういうノウハウを教える、あるいは相談に乗る、そういうNPOをつくりたいというので、相談に来られて、私もできるだけ協力しますよと。
 さまざまな形で、自分たちのノウハウ、社会的におかしいなと思っていて、何とかしなくちゃと思っていること、今までの社会はそれを抑えていた、志を抑えていたわけです。特に中年を過ぎたら志を抑えないと、家族は困ってしまう。だけど、志を解放するような状況に今あります。そして、解放して、じゃ、つくるかというので、NPO。
 そういうものができると、そのときにどういう人材が必要か。人材づくりが重要です。人材をつくったら、その後で活動できるような保障。今人材づくりをたくさんやっているけれども、出口のない人材づくりが多いんです。いろんな研修をやって、何か資格をもらった。生活何とか何とか士とか、講習を受けていろんな資格をもらったけれども、一体何をやっていいかわからないという人がたくさんいる。だから、人材育成とその育成した人材を活用できるような状況づくりをやっていくことが重要です。
 それから、どちらかというと、今までNPOをやった人は、普通は組織に属してない人が多いから組織になじめない人が、「おれがやる、おれがやる」といって、そんなのばかりが今まであったわけです。これからはそうじゃなくなる。「おれがやる、おれがやる」じゃなくて、みんなでやる。一緒にやろう、共同してやろうというのが出てくる。みんなと一緒にやれる起業家が生まれてくる必要がある。
 そういう人を育てないと、だれかやってくれる、「こういう資格を持っているので、どこか雇ってくれない?」という人ばかりたくさん出てくる。今高齢者はそうなっている。「何か働きたい、どこかで何かないかね」というけれども、「どこかでないかね」といっても、大抵のNPOは、僕は50代だけれども、30代か40代の人がリーダーでやってきている。定年退職して、月給15万か20万でいいから、おもしろい仕事をさせてもらえばと来るのだけれども、なかなか有効に使い切れない。本当は有効に使いたいけれども、使い切れないという状況があります。 「1つ、企業を起こしたら、NPOを起こしたら」と僕らはいうんです。そういう人たちが、NPOを起こすための人材として、研修をきちんと受けて起こせるようになるという状況をつくっていくことが必要です。
 従来のNPOのリーダーは、若いころからその世界に入って、やりたいことをやってきた、だから、「おれはおれだ」、あるいは「おれがおれが」というのが多い。これからはそうじゃない。そして、そうじゃない人材も増えつつあると思います。そういう新しいスタイルの非営利起業家というものが日本に生まれてくる。そして、そういう人たちを育てていくことが重要です。そして、活動の場をつくっていく、環境づくりをしていくということです。
 それから、そのために必要なのはお金でございます。今非営利の世界に対する融資はない。これをつくらなければならない。どういうふうにやっているかというと、私募債でやっているわけです。20万ずつ100人出し合ったら2000万集まります。そういう形でやるわけです。あるいは500万ぐらいは、3年間無利子で皆さん50万ずつ貯金しているのを出してよ、どうせ利子は安いんだから、無利子でいいでしょう、3年後に返しますという形で、500万とか1000万、300万の金を集める。これを私募債といいますが、こういう形で集めているけれども、限界があります。
 NPOの法人格ができたら、融資の制度ができるでしょう。もちろん、事業計画がしっかりしていないと、法人格があれば出すというものじゃないですから。しかし、基本的には配当なくていいわけです。企業だったら、配当やってない企業には融資してくれませんけれども、NPOであれば、配当しちゃいけないんですから、配当しないNPOに融資するわけです。
 そういうことで融資の仕組みはできると思います。日本開発銀行も今度名前が変わると聞いていますけれども、開発銀行もそういうことを何かやりたいんだという話をちょっとしておりました。各地信用金庫もするでしょう。あるいはそのための信用金庫を自分たちでつくっちゃったというのが、横浜でこの間生まれました。
 さまざまな融資の仕組みができると思います。担保何なんだというと、担保はないんです。NPO法人には人間しか担保がないんです。しかし、土地の担保ほど役に立たなかったものはなかったわけですから、土地を担保にするより人間を担保にした方がいい。
 それから、かなり危険で、2割ぐらい失敗すると思って融資した方がいいんです。それだけ失敗するつもりで融資をやれば、そのためには利子も取っていかなきゃいかぬかもしれないけれども、保険制度でカバーする。そんなに担保がなくても、ちゃんと融資していれば損はない。かえって、なまじっかな担保をとってやるからおかしいことになってしまう。そのかわり、貸す方に見る目が必要です。今は貸す方に見る目があるかどうかというと、僕はないと思う。ないですね。見る目がない。見る目がないから、土地しか担保にとれなかった。事業を見る目が、これからの日本の金融には世界から問われます。
 そうすると、NPOにも融資が回ってくる。大した金じゃない、今いった500万か、600万。だけど、10億単位で貸そうとするから、10億円借りてくれるNPOないかしらといわれると、そんなのありませんというんですが、500万とか1000万ぐらいを借りたいNPOはたくさんあります。それで新しい独自の出版事業をやりたいとか、出版事業も最初に500万、1000万あって、それが3〜4年後に戻るようなものであれば、そんなにベストセラーをつくらなくても、きちんとやればいい出版事業ができる。
 それから、信頼のある組織経営、これができていない。日本ではできないです。任意団体でやってリーダーが1人で、おれがおれがでやってきた仕組みは、2代目が育っていない。2代目が育って、カリスマ性のある1代目と2代目が、きちんと社会的な関係をつくっていく。そしてマネジメントをきちんとやっていく。このマネジメントは議論があります。企業と同じようなマネジメントじゃだめだ。企業のマネジメントははっきりしている。利益が上がるということが目標ですから、全部数値が上がって、利益が上がっているか上がってないかの損益勘定をやればわかりますが、NPOのマネジメントは、Mission が果たされているかどうかということです。儲からなくていい。Mission が果たされているかどうかを評価基準にしたマネジメントのあり方は違うわけです。このマネジメントの方法を確立しないといけない。
 アメリカはある程度確立しています。しかしアメリカの非営利組織のマネジメントをそのまま持ってきても役に立ちません。仕組みが違う、マインドが違う、レベルが違う。アメリカはNPOというと、病院とか大きい施設、美術館とか、そういうアメリカの非営利組織のマネジメントは、常勤スタッフが50人、100人いるような大きいものを中心に、理論ができている。それを日本にそのまま持ち込んで、とにかくパートで1人有給スタッフがいるだけという組織に、マネジメントを同じようにやれといっても、これは大変な話です。だけど、パートの人が1人でいる、そして年間2000万ぐらいしか事業をやっていないような組織にも、そういう組織なりのマネジメントが必要なわけです。これをどうやってやっていくか。
 このときに企業の方でリタイアをした人がいたら、物すごく有効に活躍できる。あるいは企業の方が1年間ボランティアでやってくださるとか、あるいは研修でそういうところへやるとか、もうそろそろそんなに金稼がなくてもいいんで、月給30万ぐらいあればやるよという人が出てくるとか、私の周りに、企業をやめて途中でNPOに入ってくる方が時々いらっしゃいます。すごい働きをします。そういう人が1人入ってくると、そのNPOの体質がガラリと変わって、それがまたいろいろ議論も呼ぶんですが、非常にしっかりした運営になる。そういう状況。信頼性のある組織経営をやっていけるかどうか。
 NPO法人がみんな、ガラガラとつぶれちゃった。3年たって、1999年の4月ごろに設立したNPO法人はどうなっているのかといったら、みんなつぶれちゃったよとなると、困ります。それから変な人ばかり入って、何かしらぬ宗教団体とか、暴力団みたいなものばかりだったというと、困る。1999年、最初の1年に申請した1000の団体が、日本の社会至るところでおもしろいことをやっている。ああいうのはこれから育てないといけないねという状況を、この3年ぐらいのうちにつくらないといけない。
 これが僕は信頼性のある組織経営ということだと思います。それに合わせてさまざまな制度をつくっていく。融資の制度もそうです。さまざまな人材流動の制度、これが必要だと思います。 私ども日本NPOセンターにも、きょう1人横浜からいらっしゃって、来年4月から横浜市の研修ということで1年派遣していただくことになっております。僕らNPO事業としては、自治体のいろんなところから問い合わせがございます。自治体の人はNPOで何をしたいんですかというと、行政の中にいると、行政の側からNPOを見ることができるけれども、NPOの側から行政を見ることができない、この視点を養ってほしいということで来ることになりました。
 私らにとってもいいことです。同じように企業からもそういう方がいらっしゃる。今のところいないんですが、いろいろ打診はある。できることならそういうのもいい。それが企業研修になるだろうと思います。さまざまな仕組みをこれからつくっていかないといけない。この仕組みをつくって提案するのが、私どもNPOセンターの大きな役割ですから、これをつくる。場合によっては、法律をつくることによってつくるということも重要ですし、そういう法律とか何とかは必要なくて、仕組みとして民間でつくることもできます。



4.住まいづくり・まちづくり分野における企業とNPOの関係

 それから「住まいづくり・まちづくり分野における企業とNPOの関係」、これはよく聞かれます。NPOと企業、競合するんじゃないか、NPOが来たら企業は脅威じゃないかというんですが、脅威になる場合もあります。ありますけれども、この分野で脅威になるほど育つのに10年以上かかるでしょう。10年くらいはあまり競合にならないと思います。競合する分野はたくさんあります。
 介護保険法で2000年4月から介護保険が動きます。この介護保険の介護サービスをするのは、企業でも、NPOでも、社会福祉協議会のような行政的な組織、行政が直でやってもいいわけです。これは競合するだろうといわれていますけれども、私は競合しないと思います。NPOが得意分野とする部分と企業が得意分野とする部分はかなり違っております。老人給食をやったから、それで地域のレストランがつぶれたということはないです。違うんです。
 ただ、特別な状況はあります。例えば、阪神・淡路の大震災のときに全国各地からお弁当がただで届いた。そのためにレストラン、食堂の経済的な回復が遅れたわけです。だから、そういうときはお金を送って、地元で買うようにしてほしいと、彼らは悲鳴を上げていったわけですけれども、次々にお弁当とおにぎりがやってくる、あるいは衣類がやってくるわけです。そのために商店街の復興が遅れたというのがあります。
 一般的には、NPOと競合する面がないとはいわないけれども、むしろ客の側から見ると選択肢が増えるということだと思います。
 芸術の分野でもこれは問題になります。アメリカに限らずフランスでもそうですけれども、芸術団体が向こうに行ったときに、おたくの組織は、For-profitですか、Nonprofit ですかと聞くわけです。税の体系が違うわけです。Nonprofit というのは、文化活動として上演するわけです。しかし、For-profitであれば、コマーシャルベースの興行としてやるわけです。
 だから、松竹がパリで公演しようと思うと、これは株式会社ですし、for-profitということで、向こうの興行の入場税もかかるし、税金もかかるでしょう。しかし、ある劇団、民芸が行く。民芸というのは、変な話ですけれども、実は株式会社です。日本の劇団はほとんど株式会社です。だから、向こうでは理解が難しい。日本ではこういう仕組みで仕方なしに株式会社をやっているけれども、我々は非営利の趣旨だということで、一生懸命説明すると、パリでもコマーシャルベースではないNonprofit の芸術活動として、「夕鶴」みたいなものの上演をすることができると思うんです。 だから、僕の知っているダンスカンパニー「山海塾」というのはどうやったかというと、今から20年ほど前にアメリカで非営利組織の資格を取って、日本では有限会社、だけど、有限会社でパリに行ったら、コマーシャルベースになってしまう。自分たちはそうじゃない。アメリカのNonprofit の資格を取って、それで世界じゅうを回っている。
 だから、僕らもNPO法ができなかったら、これからみんなアメリカに行ってNPOをつくろうといってたんです。すると、世界で「アメリカのNPOはいいことをやっている」、日本人がいいことをやってもみんな「アメリカがいいことやっているね」となってしまう。山海塾のダンス、皆さん見たことあるかどうかわかりませんが、真っ白に塗って、あれは日本が世界に誇れる唯一のというか、戦後日本が世界につくった最もクリエイティブな芸術だといわれております。私も、よく知らないけれども、そうだろうと思います。
 そういうものがアメリカのステータスを持ってアメリカのNPOだよというんで、パリで公演するというのは悲しい話です。
 そういう状況はありますけれども、芸術で見ても、劇団四季があるから、民芸が滅びるということはないです。民芸は民芸でNonprofit 。劇団四季は四季でロングランをやってちゃんと投資になるような事業をやる。だから、演劇の世界、ブロードウェイがあると同時に、さまざまなNonprofit の劇団がアメリカにあります。大抵の都市に2つのものがある。非常にコマーシャルで大衆的なものと、新しい芸術をつくり出そうと寄附や会費で持っている劇団の2種類あって、そんなに競争しないです。
 同じ分野で非営利組織と営利組織のある分野というのはたくさんある。芸術の分野、今話題の高齢者介護とか、タクシー業者とボランティアの移送サービスというのはちょっと引っかかる点もあるかもしれませんが、いろいろな分野があります。2つある方が選択肢が多くていいんです。
 このまちづくりと住まいづくりの分野にも、今度新しく営利の分野に対して非営利の供給主体が生まれるというのは選択肢が増えます。量としては95%対5%か、98%対2%か、非営利はごくわずかです。特に金額に直しますとわずかになります。ボランティアでやる部分が多いですから。そのことが我々の生活する側から見たら、物すごい豊かな環境をつくると思います。
 そういうことで、コンサルタント業務における企業とNPOの関係。企業との関係でいうと、企業という形のコンサルタント。これは利益を上げないといけないということと、基本的に受託でやりますから、株式会社のコンサルタントの中で、自主研究ばかりやるわけにいかないわけです。しかし今日のような形で設計事務所が自主企画で社会的な活動を行う。あるいは個人でやっているのもあります。
 これに対し、基本的にNPOということを掲げたら、自発的にやるのが中心になるわけです。もちろん、受託でやって金も稼がないといけませんけれども、自発的にやって、こういう仕組みで今度やって提案しようよというので、売り込んでいく。スタンスが変わってきます。自分たちが自発的に提案する。社会システムを提案しないといけないんです。提案された社会システムの中のエレメントをつくるのが、コンサルタントの仕事に基本的にはなっています。そうじゃない。社会システムをつくるところの提案から始まる。場合によっては従来の社会システムをぶっつぶすという話までNPOはやります。そのときにはいろんな抵抗があると思います。そこがやっぱり違う。
 結果的には、基本的にはあまり変わらないかもしれないけれども、どっちに重点を置くかです。受託事業か自主事業か。自主事業に重点を置く組織がNPOらしいNPOということになると思います。そして、それでいいんだということです。そのためのお金をどうやって獲得するかという問題は別の話。
 それから、企業とNPOの双方にかかわる専門分野があって、これが非常に難しいと思うんです。阪神・淡路大震災のときもそうだったんですけれども、非常に安いコンサルタントフィーでまちづくりに協力するわけです。すると、やっとコンサルタントフィーをプロフェッショナルの確立だというので、社会に築き上げてきて、僕も30年前ぐらいにコンサルタントをやって低かった。プロフェッショナルを確立しないといかぬなというので、協会などもつくっていろいろやって、本当に自分たちが自立したプロとして弁護士ぐらいの金をもらえるようになろうといって、専門職をやってきた。しかし、一方、NPOに協力しているんだから、NPOに協力するときはただでやってよねとか、ただでやらなくても、もっと安くやってよねと僕らも弁護士にお願いしたりするわけです。専門職というのはどうなのかという問題。NPOで働くときのフィーと、 For-profitで働くときのフィーはどうなのか。これをどう整理するかは非常に難しい。
 これは弁護士、不動産鑑定士、建築士、技術士、いろんな専門職についてすべていえる問題です。
 それから、企業のNPOへのかかわり方。さっきいったように、企業はかなりNPO支援をやっております。いろんな形でNPOに寄附をしたり、芸術団体であれば協賛してお金を提供する。企業の社会貢献活動によるNPO支援、これは非常に大きい。あるいはボランティアをそこへ出したり、これもこれからますます大きくなると思います。こういうNPO事業体にいろんな企業からも協力してくれる。これは僕はいいと思います。
 同時に、企業内NPO的なものが出てきて、自分たちもそれならNPOをつくろうかというので、企業の一部門として、さっきいったサントリー美術館じゃないですけれども、企業の中でも、これからNPOは重要だ、とりあえず自分の中にNPO部門をつくろうという可能性はある。そのかわり、どこかから助成金をもらってくる。ただ、企業内にある場合に第三者の立場になれない。幾ら企業内のNPOだといっても、企業の利害を超えて動いているとはいえないし、そこは限界があります。
 企業内NPO的なものができてくる。この企業内NPOが本当のNPOとパートナーシップを組むという関係が出てくるかもしれません。
 それから、NPOと企業の共同、これは既に行われておりますけれども、さまざまな社会的商品。僕は「社会的商品」ということをいっている。そんなに利益は上がらない、けれども、社会的に必要なもの、例えば、足の不自由な人が運転する車など、結構高い金がかかるわけです。20年前だったら、そんな車を企業はつくらなかった。1台何千万とかかって、何万台も売れるはずもない。しかし、社会的な意味で、そういうものは必要だというので、いろんな団体が働きかけてやるようになって、今は出ています。
 NPOが独自にそれをつくろうかといっても、NPOが独自に障害者用の車はできない。これはいろんなノウハウとか実験とか、販路の開拓はNPOでやりましょう、そのかわり生産ラインで製作するところまでは企業がやってくださいということで、さまざまな社会的な商品の開発。企業それ自体としては商売になるはずもないから、手をつけようとしない、NPOだけでは、イメージはあるけれども、やるノウハウも能力も資金力もない、そういうものがNPOの発想によって企業が新しい社会的商品をつくる。それ自身では企業も儲からない。儲からないけれども、そのことによってPR効果が生まれる。イメージアップになる。あるいはそのときに新しい技術が蓄積される。障害者が運転する車をつくるためのさまざまなノウハウを開発する。そのノウハウが一般の人が物すごく快適に運転しやすい車の技術につながるかもしれない。
 そういう意味で、企業とNPOの共同ということは、いろんな分野で既に行われつつあります。まちづくりや住まいづくりの分野でも僕はあるだろうと思います。
 それから、「企業とNPOの競争・競合」ということですけれども、これはライバルになる場面もあると思います。市営住宅をつくろう、設計企画を発注したい、NPOと企業が両方入札しましてどうするかという場面はあると思います。そのうちだんだんすみ分けができるかもしれないが、部分部分は競合がある。しかし、そのことは社会的にはいい商品が市場に出るということにつながっていくと思います。
 このほか、企業との関係について、私の「『NPO事業体』は始動するか」のところに、別の意味から、6ページに、そのときの前提として3つほど書いております。左側の下の方、「営利部門は圧倒的な経済規模をもつが非営利部門は極めて小さい。特に住宅・不動産分野ではその傾向が強く、これは今後ともそう大きくは変わらないだろう」。とにかくNPOというのは専従スタッフが多くても10人ぐらい。今後事業実施型が増えると、20〜30人のスタッフを抱えるのがあるかもしれませんが、いわゆる営利企業から比べれば、零細企業に近いものです。そういう差があるということです。だから、競合といっても、ちょっと違うんじゃないのか。アリと象みたいなものです。
 それともうひとつは経済規模トータルの話です。トータルの話でいくと、僕がいったように、多くなっても95%と5%ぐらいのものです。だから、5%のために95%が怖がる必要もないということです。
 それから、個々の団体が今いったことです。個々の組織規模が違う。営利企業は大規模なものが多いが、非営利組織は極めて零細なものばかりである。これも変わらない。だから、競争といっても、株式会社で小さくやっている設計事務所とNPOでやっている設計事務所が競合するというのはあるけれども、それは株式会社のNPOがもともとはNPOの設計事務所だった。1人で株式会社やっている人は、建築家にはたくさんいます。見ているとNPOですね。たまたま日本ではNPO法人格がなかったからそうなっただけです。
 「小規模な企業の中には、形としては営利組織であっても実際には社会的使命を優先するNPO的な活動をしているものもある。」と書いていますが、これは今いったようなことです。実際にはNPOだよねというものがあって、それはNPO内の競合と同じだと思います。NPOはNPO内で競合します。これが従来の公益法人と違うところです。
 それから、そういう前提の上で「企業とNPOは市場で競合するか」。する場面もあるかもしれないが、ほとんどしないと考えた方がいいだろう。
 それから、「NPOは市場を活性化させる」。この場合の市場は企業の市場です。NPOがあることによって新しい可能性が見えてくる。NPOが、ちょっとドンキホーテみたいなことをやるわけです。ドンキホーテみたいなことをやって、うまくいくと同じようなことを企業がバババーッとやります。その効果が大きいということです。企業だったらそんなドンキホーテをやらない。しかし、NPOはドンキホーテでやりますから、ドンキホーテでやってみたら、3つのうち1つぐらいうまくいくかもしれない。そうすると、その周りにある市場が活性化します。企業は参入します。それでいいんです。NPOは開拓者、パイオニアをやって、パイオニアであって延々続けることは、大抵しないです。最初にやったら、あとはだれかやってというので、また次のパイオニアをやります。
 次に、「企業とNPOは対立するか」。これは可能性はしばしばあります。企業が、営利寄りにバーッとなった場合、そしてNPOが非営利寄りの場合、対立があります。こっち寄りのNPOとこっち側の企業は対立します。そのことはかえって企業社会をよくするだろうと思います。
 エンジンブレーキという言い方で最近いっているんですが、NPOが社会の中のエンジンブレーキになって、暴走するのを防ぐということです。その結果が企業にとってもいいということです。このエンジンブレーキが効かなかった事例が幾つかあります。水俣病がそうです。エンジンブレーキが効かなくてチッソがあんなになっちゃった。エンジンブレーキがちゃんと効いて、もうちょっと周りにいい市民団体というか、NPOがきちんと育っていて、問題をはっきりさせていれば、あんなに大きい問題になる前に解決できたと思います。
 あるいは私が知っているNPO、三重県でゴルフ場に反対して1990年に立ち上がって、ゴルフ場やめて自然を生かした開発やって、割合うまくいって、苦しんではいますが、ナショナルトラスト運動で土地を買っている。その彼がいうんです。その当時、暴力団までまわして脅して開発しようとした社長さんが、「あのときにちゃんと反対してもらっていてよかったよ。あのとき自分たちが借金して開発していたらとんでもないことになっていた。本当にあのときにストップをかけられて感謝しているよ」といって、社長さんもいっていた。あの時期どうしてそれだけのブレーキが日本列島の各地でかからなかったのかということです。それで、これだけのバブルになった。僕は、NPOが育っていない社会の弱さであったと思います。たまたまそのゴルフ場はエンジンブレーキが効いたから。そういう問題は起こらなかった。
 ある意味で、僕は、企業がこっち側に走ったときに、それにブレーキをかける役割がNPOにはあると思います。そのことが企業社会を信頼性の高いものにするし、大きなパニックに陥らないようにすると思います。
 それから、「企業はNPOをどう支援すべきか」。これは先ほどいろいろいいましたけれども、個別企業による個別のNPOへのサポートとともに、企業界、産業界全体でNPOを日本に根づかせる、社会のために強めていく、そういう意識を持ってサポートしてほしいと思います。
 日本NPOセンターをつくるときも、経団連や東京商工会議所あるいはJCに協力をいただきました。そして、経団連の多くの企業が日本NPOセンターの会員になってくれて、経済的に支えてもらっております。
 これはなかなか理解してもらいにくい面もあります。NPOセンターは我々企業のために何の役に立つのというと、よくわからないけれども、しかし、将来の企業社会のために重要な役割を果たすんだからといっているんです。それだけじゃ、実はなかなか納得してもらえないんですけれども、いろんな形でNPOは日本社会に育っている、そのことが重要なんだ。そして、そのNPOを支えるために、企業もいろんな協力が必要、自分たちの企業のメリットがあるなしにかかわらず、このセクター全体を育てることが重要だという認識を私は広めていきたい。
 自治体とか行政はNPO支援のために何かやらなくちゃと、今大騒ぎしています。それもいいことなんですけれども、あまり行政だけのサポートでやっては困るし、行政に対しても「あんまり変なことしないでよ」という言い方をしています。「やるんだったら、自立を支援するんだから、今までの支援は全部自立じゃなくて、従属するための支援だったから、これからの支援は違うよ。NPOは自立するための支援でなくちゃいけないんだから、そこは考えてね」ということは、全国の自治体に対していつも主張し続けております。
 「企業はNPOをどう支援すべきか」。重要な問題があります。
 それから、「企業とNPOの共同事業は可能か」。先ほどの社会的商品とかそういうことで、私は、さまざまな可能性が出てくると思います。
 それから、「企業とNPOの人材交流は可能か」。これは非常に望ましいと思います。このことがNPOを信頼ある組織経営のできるものにしていくでしょう。そして、企業にとっても、行ってまた帰ってくる。NPOの空気を吸った人材が企業の中にいるということが、また企業の新しい力を生むでしょう。そして、場合によっては中途で変わるということがこれから増えると思います。
 私も随分いろいろ変わりました。都市計画のコンサルタントをやっていて、トヨタ財団に行って、フリーになって、そして今こういうことをしている。私どもの世界は移動が多いです。NPOの世界を1つのバッファーにして、行政の公務員からNPOの職員になったり、NPOの職員から行政職員になったり、NPOから企業に行ったり、企業からNPOに行ったりという流動性。その中で給料が上がったり下がったりしますけれども、そういうものを超えてでも、別の意味で流動性のある社会をつくらざるを得なくなっているという面はあります。NPOと企業との関係づくりの上でも、企業とNPOの人材交流はこれからいろんな意味で重要だろうと思っております。
 時間がちょっと過ぎましたので、これで終わりにさせていただきます。(拍手)



フリーディスカッション

司会(谷口)
 
どうもありがとうございました。
 それでは、残りの時間、いろいろご質問、ご意見、その他承りたいと思います。ご質問のある方は挙手をお願いいたします。

松原(岡村製作所)
 私は住んでいる場所は茨城県竜ヶ崎ですが、仕事は赤坂に通って、会社関係の役員をやっています。土日は「住民ネットワーク」という名前で地域活動をしています。その中の1つの活動に、線路沿いの土手に花植えをやっています。主婦が中心ですが、全部で大体50人ぐらいのメンバーです。こういうのをもう少しNPO的に立ち上げるとか、いろんな意味でNPOを立ち上げたいと思っています。
 そこで1つ、きょうの話の中でなかったような気がして、また、いつも気になっているんですが、例えば、私は現状では会社に勤めているから、金はある。そして、そういうNPOに寄附をしたいと思うのですが、このとき税金がかかるのが嫌なんです。無税にしてくれれば、かなり寄附ができる。例えば100万円寄附したら、その分は税金の中から引かれるなどの優遇があれば、私は60近いんですが、そういう会社を定年しようとする人間は結構多いんじゃないか。 あちこちにそういう人が増えているんじゃないかと思う。そういう人にある種のインセンティブを与える。寄附をもらう方の側、NPOは、利益が出ると税金を払わなきゃいけないという仕掛けになっているのを無税にしてくれという話はありますが、もう一つ、寄附する方が税金から控除してもらうという仕掛けを次の改正の中に入れてもらえると、結構インセンティブが働くんじゃないでしょうか。会員を増やすという意味も含めて。その辺の見通しとか、考え方について、ちょっと教えていただけたらと思います。

山岡
 この間、大蔵大臣が国会で「やります」と言いましたので、やると思います。いい制度になるかどうかはわからないです。今日本では公益法人とか、公益法人のうち、特定公益増進法人というものと、社会福祉法人、学校法人のほとんどは、寄附すると、寄附した分が課税対象額から減るだけですから、100万円寄附しても、地方税を入れますと、月給の総額によるけれども、30万か40万の税金は減るかもしれません。
 ただ、2〜3万円を寄附するという人にとってはどうということはない。だから、2〜3万の寄附だったら、特定公益増進法人に寄附しても、1万円引いて2万円が課税対象が減るぐらいですから、5000〜6000円、たくさん税金払っている人はともかく、少々しか税金払ってない人は1000円か2000円しか違わない。10万円以上の寄附をしている人にとってはかなり効くと思います。
 僕らも10年前から提案しております。大蔵がなかなか「うん」といわないという面もあるし、このNPO法人をとったものについて、幅広く何でも入れますから、全部は無理だと思うんですけれども、このうちの一部を、市民公益増進法人みたいな仕組みをつくったらどうだというのを提案して、3年後に何らかの形で僕はできると思います。何らかの形でできるけれども、かなり幅広くいろんな団体がそうなれるか、どこかで認定しなきゃいけないわけです。それが非常に難しい。
 今の場合の特定公益増進法人は主務官庁と大蔵省が一生懸命折衝して、何センチかになる書類を出してやっと、2年間か3年間認められるという話です。非常に簡便に、市民性のある活動で情報公開をきちんとしていて、活動内容が社会に意味のあるものであれば、僕は年間20万円ぐらいの金額の控除額をつくったらどうか、あるいは年間2%、月給のうちの何%、1000万円もらっている人であれば、2%というのは20万円ぐらいの枠で、かなり免税できるような仕組みをつくったらどうかと言っている。
 3年後にこの法律は見直しすることになっています。その中では寄附税制のこともぜひ議論しようということは、附帯決議でも出されております。実は民主党がプロジェクトチームをつくって勉強会を始めたので来てくれというので、私、あした午前行くことになっています。恐らく各党とも3年後の改正に向けて動き出す。そのときのメインのテーマは、今おっしゃった寄附金税制だと思います。何らかの形はできる。ただ、できる形が多くの団体にとって本当に使いいいかどうかというのは保証の限りではないけれども、何かをつくりたいと思います。日本NPOセンターも頑張ります。多くの声を日本じゅうから出してもらうといいと思います。

成岡(千葉県企業庁)
 千葉県の企業庁に勤めている成岡と申します。
 私は仕事でもまちづくり的なことをやっていますが、家は流山で、家に帰ると市民活動的なことをやっています。そういう流れの中で、先ほどは企業の方でしたが、私は公務員で、NPOのまちづくり的な団体をつくって活動していこうかと思っています。
 一方で公務員的な立場と、一方で市民活動的なNPO的な立場の両方を持ちながら活動する。法律的には禁治産者以外のだれでもできる、公務員法に引っかからなければという話もありますが、そういう形で企業の人も役所の人も、肩書を離れて地元でそういういろんな動きをすることが、日本の市民社会を変えていく大きな原動力になるのかなと思います。そういう社会的な立場みたいなもの、役所とNPO、あるいは企業とNPO、こちらにそういう書き方になっていますが、個人では市民でもあるということで、その辺のところが少し悩みにもなっています。今後のその辺の動きというか、構わないということで僕も認識していますが、その辺についてコメントをいただければと思います。

山岡
 法律上はもちろん構わないし、実質的にも構わないと思います。ただ、本当に事業担当になったときに、発注者側と受注者側の団体になったときにいいのかという問題はあります。会員ぐらいであればいいと僕は思います。その問題さえなければ、一般的にはいい。実際に横浜あたりからの職員は結構多い。私どもNPOセンターには随分そういう人が個人として出入りしています。むしろそれぞれの役場の体質というか、自治体の体質がだんだんそういうのを認めるようにはなっていると思います。
 流山はまちづくりで随分いろいろやっていらっしゃって、しっかりしたグループができているから、ああいうのはいいんじゃないですかね。一般的にはいいと思います。ただ、どうしても、両方で当事者になるということがあるときにはどうするのかということが重要ですね。
 それから、もちろん公務員の場合はNPOで有給スタッフにはなれないでしょうね。ボランティアでやるか、会員でやるというのはいいと思いますけれども。理事になっていいかどうかというのは、それぞれの自治体の関係で、僕の知っている奈良まちづくりセンターの理事は奈良県の県庁の若い人たちがやっていて、「大丈夫?」といったら、「いや、いいみたいだよ」といっているから、いいかなと思うけれども、じゃ、県から調査をやって、受託などあった場合、あるいは補助金などをもらったときに、担当者と理事、ああいう人が理事をやっているからもらったんじゃないかといわれるから、そこのところを問題ないようにしておけば、僕は、企業の人も、公務員の方も、どこかでそういう市民団体の一角を担っているという状況が、むしろ社会的には望ましいんじゃないかと思っております。 

加藤(通商産業省)
 
加藤と申します。
 先ほど企業の専門家とNPOの専門家というお話がちょっと出ました。例えば、アメリカのまちづくりを見てみると、やはり専門家集団がいい意味で市民といろんな関係者をつなぐ役割を果たしている、社会的なディクテーションも得ている、あるいはその待遇もきちっとかち取っている、そういうところは社会的責任も伴っている、こういう構造になっているんじゃないかと思います。 日本の場合もこれからのまちづくりをうまく進めるときに、専門家は企業に属する場合であれ、NPOに属する場合であれ、同じ待遇と同じ社会的責任、規律、そういうものを持たない限り、なかなかうまくいかないんじゃないか。しかも、今お話がありましたように、個人の立場から見れば、あるときには営利企業を仕掛けとしてつくって、そこでまちづくりをやる場合と、ある場合においてはNPOをつくって、そこでまちづくりをやっていく。要するにまちづくりをしようとする人たちの意思といいましょうか、そのためにはどういう手段、チャネルが必要なのか、こういう発想でスタイルを選んでいくんじゃないかと思います。
 そうしますと、専門家の役割ということも、基本的にはNPOだから安くていいんだよとか、そういうことではなくて、むしろまちづくりをする市民の立場から見ると、仕掛けとして同じものをつくって、自分たちのまちづくりを目的とするものをつくっていくものであれば、その待遇とか資格とか、あるいはそれに伴う責任は同じであってしかるべきだ、こういうことをきちっとつくっていかないと、なかなかうまくいかないんじゃないかと思ったんですが、いかがでしょうか。

山岡
 
非常に難しい。僕もそうあるといいとは思いますが、アメリカの弁護士の世界で、プロボノという考えがある。日本の弁護士に聞いたら知らない。知っている人は知っているけれども、多くは知らないという。プロボノというのはプロボノ・プブリコ(pro bono publico)とラテン語でいうらしい。プロというのはfor 、ボノというのはフランス語でbono、よき。プブリコというのは公共です。「よき公共のために」というのをラテン語で略してプロボノという。アメリカの弁護士からプロボノということをよく聞く。プロボノというのは、本当に非営利のために活動する、儲けにならないことをやる、あるいは持ち出しで、弁護士料も払えない人のために弁護をする、そういう活動。だから、無料弁護相談などをやる。これはNPOでやるわけです。
 アメリカにはVLAというのがあります。Volunteer ・Lawyers ・For ・Arts、芸術のためのボランティア弁護士。これは安く弁護する。対象となる芸術団体は、大きい芸術団体、商業的な芸術団体は別で、小さい非営利の組織や個人が訴訟をするときには安くやる。VL何とかというのはたくさんある。アメリカの社会のNPOはそういうもので持っているというのは事実です。アメリカの弁護士の中には、NPO、あるいは弱き者のために自分たちは無償か安くやるというのが確立しています。
 そして、日本の弁護士でも、阪神・淡路のとき、特に大阪弁護士会が中心になって、支援機構というのをつくってよくやってきた。まちづくり支援機構というのをつくった。あのときは(借地や借家の問題で)トラブルが起こって、都市計画家とか我々が入り込むんだけれども、法律のことをよくわからないでやって、トラブルが起きると弁護士に持っていくわけです。次々に弁護士にトラブルを持っていく。弁護士というのはトラブルがあったら金になるわけです。トラブルになる前、もっと早く持ってきてくれたら、こんなことないのに。だけど、トラブルがない前に弁護士に持っていくわけない。それで、弁護士って何だろうと自分たちが考えたら、要するに社会にトラブルがあれば自分たちは稼げる。しかし、社会から見ると、トラブルが起こる前に解決したら、社会的なロスが物すごく少なくて済む。だから、我々は(トラブルを防ぐように)相談をちゃんとやることをしよう。HAR基金(阪神・淡路ルネッサンス・ファンド)ができて、HAR基金の活動のプロセスで弁護士会と一緒にやっていて、震災が起きて1年ぐらいたって、支援機構というのをつくって、当番弁護士で相談をやっている。そういう活動は要るんです。
 都市計画でも、まちづくりに自分はちゃんとフィーをもらって、自治体から委託を受けたら行くけれども、そうじゃなくて現場には飛び込めないというプロもいた。その中で、とにかくもらえるかどうかわからないけれども、自分は行くというので現場に入り込んだ人もいた。そして、どれだけもらえるかわからないけれども、現場に入り込む人が専門家でいないと、この世界は成り立たないところがある。だから、僕は一定の基準の中で、それぞれの専門職が1割ぐらいはNPOのために無償でやるのがいいと思います。
 また弁護士たちで今NPOをつくっているのがあります。債権破産を起こした人たちを救うためのNPOをつくっている。もうつくってしまったか、設立認証の申請している。これは弁護士たちがやっている。自分たちは無報酬でやる。事務所経費が要りますから、事務所経費ぐらいはもらう、あるいは会費でやる。破産した人からお金はとれませんから、破産して追いかけられている人の人権を守るためのNPOを弁護士がつくっている。
 あるいは、介護保険が始まったら、介護保険のために高齢者の人権問題がかなり起こるだろう。それをウォッチするためのオンブズマン制度をつくらなきゃいけないというので、弁護士で動いている方がいらっしゃる。実際に社会福祉のオンブズマンをやっている弁護士もいる。あるいは市民オンブズマン、全国各地で自治体の情報公開を求めて、問題を指摘した人もほとんどボランティアでやっている。
 現実的にはボランタリーの部分で専門家が協力してくれないと、社会的に動かないという問題があるので、全部フィーを払えれば払うに越したことはないんだけれども、非営利の分というのは払えきれない。僕も建築家、都市計画家として無報酬で働いたこともたくさんあって、そのことがこの世界のプロフェッショナリズムの成長をだめにしたと思うけれども、やっぱりその部分というのは要るので、難しいところだなという気がします。
 少なくともプロボノという概念は、欧米の弁護士界では一般に知られているらしいけれども、日本の僕の聞いた弁護士に知らなかったといわれたのはショックだった。建築家は知らなかったと思いますけれども、建築士会などは、まちづくりを自分たちでやろうということで意識が出てきています。専門職の中では建築士会が一番進んでいる。弁護士会は関西の方は進んでいるけれども、関東の方はあまり進んでいない。司法書士とか行政書士とか、その辺ではまだ進んでいない。
 NPOの監事というのは、行政書士とか税理士とか弁護士に1人ぐらいなってもらいたい。そういうのはもちろん無報酬でやるわけだが、そういうのがこれから不足するので、僕は、行政書士とか司法書士会とか、そういうところにNPOの監事を無償でやってくれる人たちをたくさん出してくださいとお願いしています。

清水(住宅都市総合研究所)
 
 先ほどNPOと自治体による支援というところで、NPOを従属させるための支援ではなくて、自立させるための支援が望ましいという言葉がありましたけれども、自立するための支援として具体的にどういうものをイメージされているのか、ちょっと教えていただければありがたいと思います

山岡
 
従来の行政は、戦後50年を通じて、いろんな民間団体に援助してきた。全部自立じゃなくて、利権集団をつくっただけだったという反省があるわけです。そのために1つ大きいのは、継続的な援助はしない方がいい。あくまで時限性。何か支援する、資金を支援するか何するか知らないけれども、公募でオープンにして選考し、均等にばらまかなくていい。従来は均等にやるということと、ある集団ができたら集団の何とか連絡会に入っているところとなって、そこに永遠にとなる、これをやめるということです。
 支援の関係にだれでも参入できるようにすること。そして、公平じゃなくていい。おもしろいものにやればいい。いいものにやればいい。そうすると、競争が起こります。つまらないものにやらなくていい。公平にやらなくていい。公平原理がだめにしている。それから、継続的にやらないといけないということはない。一定の期間、2年でも3年でも1年でもいい。1つのプロジェクトが終わったとき、成功したときも失敗したときもありますけれども、切る。その3つぐらい手がけていればいいと思うんです。
 金銭的な支援が必要かどうかという問題と、場所さえ提供して自由に使ってもらえばいいんじゃないか。自主的に自由に使える場を提供する。こういうのはいいと思います。そのときに登録して、どういう団体でないといけないという条件をつけ出したりして、その条件をつけた団体だけが使えるようにして、そのためにいろんな制約をやっていると、新しい団体とかとんでもない団体が入り込めなくなって、行政にとってお行儀のいい団体だけの集団になってしまう。そしてそれが自立する場をなくしてしまうということがあります。
 あと、関係でいうと、共同主催、自治体とNPOの共催でいくのがいい。支援というよりも共催がいいんじゃないか。共催型の関係づくりをどうするか。そのときにNPO法人という法人格を持っていると、いろんな意味で非常にやりやすい。契約や協定を結びやすい。今の時点でいうと支援も必要です。支援については、さっきいったようなことが重要かなと思っております。

司会(谷口)
 まだご質問おありかと思いますが、時間が参りましたので、きょうはこれで終わらせていただきます。山岡さん、どうも有り難うございました。(拍手)


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