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第136回都市経営フォーラム

環境の時代とグランドデザイン

講師:池谷 奉文 氏
 (財)日本生態系協会会長


日付:1999年4月21日(水)
場所:後楽国際ビルディング・大ホール

 

環境問題とは何か

自然生態系破壊の現状を見る

欧米諸国における取組み

 フリーディスカッション




 皆さん、こんにちは。ただいまご紹介にあずかりました池谷でございます。
 きょうは、都市経営フォーラムの皆さんと、環境の時代を迎えて、これからのグランドデザインをどう描いたらいいかという話をさせてもらうわけです。お呼びいただきまして、まことにありがとうございました。
 ご承知のとおり、環境問題と申しますのは、世界の最大の課題になっているわけであります。人類の生存基盤が危ういわけで、当然大きな問題でございます。残念ながら日本におきましては、環境問題といいますと、まだ、配慮事項、または調和をすればいいのではないかと考えられているのが現状でございます。しかし、環境問題というのは配慮すればいいという話のものではないし、もっと大きな、ずっと重大な問題だということを、ご認識をいただきたいと考えているわけであります。

環境問題とは何か

 環境問題を一口で、どのような問題かといいますと、実は自然生態系の破壊の問題であります。自然生態系と申しますのは、太陽光線と大気、水と土及び多くの野生生物、主としてこの5つの要素とそれぞれの物質の循環とエネルギーの流れから成り立っています。この自然生態系の破壊の問題が環境問題であります。
 そういったことをもうちょっとわかりやすく見てみましょう。環境問題の1つはごみ問題であります。例えば、水質汚濁の問題、大気汚染の問題、二酸化炭素の問題、フロンの問題、これらはすべてごみ問題であります。出そうとしているから出てしまうという問題ではございませんで、結果として出てしまう問題で、ごみ問題であります。ヒートアイランドを起こす熱も実はごみであります。
 あと1つは、多くの野生生物の絶滅の問題であります。これらのごみ問題と野生生物の絶滅の問題をどう解決したらいいのか、これが環境問題になるわけであります。
 ごみがなぜ出るか、しかもなぜ大量に出るかといいますと、我が国民が大量に物を使うからであります。使うということは大量に流通しているからでありまして、大量に流通したということは大量に物をつくったからであります。つくったものはいつかはすべて100%ごみになるわけです。
 したがって、そういうことを考えてみれば、リサイクルという問題はほとんど意味がないということがわかるわけであります。日本の多くの行政でリサイクルに取り組んでおりますけれども、こういったことは環境問題の根本的な解決にはほとんどなりません。どうもその辺のことがよく理解されてないようであります。途中でリサイクルしても、結果としてすべてまたごみになってしまう。リサイクルする過程でかなりのエネルギーを消費いたしますから、逆にごみがたくさん出てしまう可能性が高いわけで、あまりいいことではない。環境問題のうちのごみ問題を解決するためには、基本的には大量生産をとめる以外にないわけです。
 そういたしますと、国民側からすれば、極力物は買わない、また極力物を買わせないということが基本であります。これをしないで、環境問題を解決することは不可能であります。
 したがって、今の日本の行政というか、内閣がやっています、地域振興券などの大量発行は、ごみの捨て場がない中で、もっと買ってくださいよと言っているようなもので、おかしなことであります。しかも、その費用を将来世代に借金をし、現代世代で使いなさい、こういっているのでありまして、異常なことであります。
 既に、我が国におきましては、国民1人当たり500万円の借金がございます。夫婦、子ども2人の一般標準家庭で2000万円の借金を抱えている。その費用は何と60年後の子どもも払わなければいけない、こういう状態になっています。その中で、もっと物を買ってください、これが景気浮揚だといっている。いかにもおかしな内閣だと思わざるを得ないわけであります。ごみ問題の解決ができてない中でのそういった政策は、明らかにおかしいということがよくわかるわけであります。
 そこで物を買わない、または買わせないということになります。どうやって買わないようにするかといいますと、環境問題であります。環境問題をきちっとわかっていただければ、自発的に買わなくなるということははっきりするのでありますが、残念ながら日本におきましては、環境教育はほとんどされてきませんでした。したがって、それを期待することはほぼできないであろうと思うわけであります。
 そういたしますと、他の手段としては買わせないということになります。どうするかといいますと、例えば、消費税を上げる、環境税をつけていくという以外に方法はないだろう。将来的にはこの辺を考えていく必要があるのではないか。ほかにごみを減らす方法は恐らくないということがわかるわけであります。
 それとともに、各企業におきましては、長持ちのするものをつくるということが、ある部品が壊れたら全部捨てるのではなくて、修理が効いてなるべく長持ちのするものをつくることが基本になってきます。流通におきましても、大量販売という考え方はもはや今の時代には合わない、これから先はますます合わない。物を大切に、いいものを大切に売る。量販店的な考え方は、これからは当然おかしいということになるわけであります。
 そういった企業のあり方と、あと1つは、行政のあり方です。特に重要なのは税制の問題でございまして、例えば、自動車の減価償却は、現在普通乗用車ですと、約6年でゼロになるわけでありますが、10年、20年乗ることは当然可能なのでありますから、世界一いい車をつくっていながら、6年でゼロにする、これはいかにもまずい。バブルの前につくられた、「いっぱい使い捨ててください」といっている法律でございまして、この部分を大きく変えることが、今後大変重要でございます。
 残念ながら、今日本の大蔵省を中心といたします税制は、環境への配慮に欠けているといいますか、環境を考えたものになっていないということであります。したがって、大量のごみが出る。国民1人当たり現在約5トンのごみを出しているわけであります。当然日本のそこここでごみがあふれる。あふれますと、捨て場がございませんから、結果として燃やすわけであります。燃やして二酸化炭素というごみに変えて世界じゅうにばらまいてごまかす。これは明らかにおかしなことでありまして、世界から見て、日本は何をやっているんだ、こういう指摘が当然起こるわけであります。
 そういう現状に日本はいるわけであります。これからの環境問題は、もはや枠が決まっているわけです。この中で環境問題の1つであるごみ問題を解決するためには、そういうことが今後必要になってくるでしょう。 

 そして、生物の多様性です。多くの野生生物の絶滅の問題であります。日本の植物の4種類に1種類、哺乳類は3種類に1種類が絶滅寸前であります。猛烈な勢いで野生の生き物の絶滅が進行しているわけであります。これをどう食いとめるかが環境問題の2つ目の課題であるということになります。
 多くの野生生物をなぜ守らなければいけないのか。多くの野生生物が住んでいるところは、通常いいます自然であります。この自然をなぜ守らなければいけないのか。大きくは理由が4つあります。
 1つは、多くの生き物がいるところというのは水が豊富で、気候も温暖でございますし、湿度も我々にとっても大変住みやすい。つまり、環境財として大変重要なものであるということがわかっているところであります。それが1つの理由であります。
 2つ目の理由、それは直接人間に与える精神的な財産としてです。特に重要なのは、生まれてから小学校を卒業するあたりまで、また人によりましては、中学校を卒業するあたりまでの間に人間にとって最も必要な感性というものができます。この感性をきちっと豊かに健全に育てることが、将来世代を担う人間を育てる上で最も大切なことだといわれているわけであります。
 この感性を育てるためには、実は2つの要素がございまして、1つは家庭環境、あと1つは自然環境であります。温かい家庭をお父さん、お母さんに築いてもらうことは1つですが、それだけでは不十分です。子どもがカバンを放り出して、一歩表に出たときにきれいな小川があって、魚釣りができて、原っぱがあって、トンボやチョウチョを追い回すことができて、ちょっとした森があって、カブトムシをつかまえることができる、そういう自然を子どもたちに渡してやる、これが自然体験でありますが、自然体験をさせることが、子どもにとっては最も大切なことだといわれているところでございます。
 しかしながら、残念ながら日本におきましては、そのことを理解されている面がまだ非常に少ない。そんなことから、どういうことが起こるのかをちょっとお話をしてみましょう。
 子どもは発育する過程で、自然体験が必須です。子どもは自然の中で、いろいろな虫や花や動物など多くの生き物と触れ合うことによって、体力、思いやり、精神力と的確な判断力が養われる。これは教育関係の研究の結果、いわれていることです。
 しかしながら、日本の子どもの85%が現在、屋外で遊んでいないということが、総務庁の調査でわかっています。子どもがうちの中でばかり遊ぶとなりますと、当然多くの問題を起こしてまいりまして、どういうことになるかといいますと、ネクラで冷たくて自己中心的、自分さえよければいいという子どもになっていきますよといわれているところであります。
 そんなことから、子どもが学校に行くようになりましても、友達とうまく会話ができない。常にテレビとか画面で会話をしていますから、生の人間とうまく会話ができないということが起こる。そうすると、学校に行ってもおもしろくない。おもしろくないと学校へ行かなくなる。不登校です。既に十数万人の子どもが学校へ行ってないということが起こるわけであります。学校に行きましても、うまく会話ができませんとすぐに暴力に走る。校内暴力が多くなる。校内暴力が多くなってまいりますと、学校の先生とPTAと警察がスクラムを組んで抑えつける。抑えつけるといじめにはしる。感性が狂うと、いかに怖いかということでございます。根本的に子どもの感性が狂っている。
 さらに感性が狂う前に体力も狂うわけでございまして、毎年文部省の調査に出てまいりますが、過去最低、過去最低、過去最低と落ちているわけであります。子どもの体力がどんどん落ちている。それは屋外での自然体験、自然の中で遊ぶことをしていないという結果であります。特に、自然のない場所、どこかといいますと、例えば東京の区部のようなところでは、子どもが遊べないわけであります。遊ぶところがない。すると、当然多くの問題が起こってまいります。特に東京の区部の中でどういったところがぐあいが悪いかといいますと、3階以上に子どもを住まわせるとぐあいが悪いといわれております。高い建物に住めば住むほど屋外で遊ばなくなりますから、子どもの病気が増え、精神的にも多くの問題を起こすということが、東京大学及び東海大学の調査でわかっているところであります。
 ヨーロッパあたりに行きましても、子どもの最大の教師は自然だということが言われています。極力自然の中で遊ばせることが重要だ、上に住めば住むほど外に出るチャンスが減ってしまうということから、多くの問題を起こすということであります。
 しかし、残念ながら日本におきましては、再開発など見てみますと、高層住宅を平然とつくるのであります。そういう高いところに子どもを住まわせることが平然と起こるわけであります。ヨーロッパ、アメリカあたりでは子どもまたは老人のいる家庭は1階、2階まで、極力3階以上には住まわせないというのがほぼ常識になってきているところであります。残念ながら、日本においてはそのことがわかってなくて、高層住宅が平然とできる。
 この間も、55階という高層住宅ができたという話がございました。私は、あれは上の方はてっきり売れ残るであろうと思っていましたら、たった1日で完売してしまった。いかに、日本国民が実は子どものことを考えていないか、自分の利便性だけを考え、子どもの健康のことを考えていないということがよくわかるのであります。
 つい、数年前に、ドイツのカールスルーエという町に行って、向こうの部長さんとお話ししていましたときに、カールスーエの町に高層住宅がほとんどない。「どういう規制をかけて、高層住宅をつくらないようにしているのか」と聞きましたら、「いや、全く規制はないんだ。業者の方は高い建物をつくることは可能なんです」というんです。「でも、業者の方はつくらない」「なぜですか」「実はもう国民が高いところに住むことはいいことではないということを知っているから、つくったって売れないんです」、こういっている。残念ながら、日本におきましては1日で完売してしまうということが起こるわけであります。
 最近では、集合住宅につきましても、4階から5階まで、それ以上の高いものは極力つくらない。1階、2階が老人、子どものいる家庭、3、4、5、この辺が独身者、または若い人たちが住む。上ほど安い。最近では極力エレベーターをつけないということになってきている。つまり、徒歩で上がりなさいよということであります。
 これは、これから大きな問題になっていきますエネルギーの問題と関係がありまして、石油はあと42年前後でほぼなくなってくるであろうということがわかっていますし、ウランにおきましても、天然ガスにおきましても、大体50〜60年でなくなってくるということから、1次エネルギーがなくなれば、当然2次エネルギーがなくなる。つまり、電気がなくなってくるということから、極力、電気に頼る生活はやめようということがいわれているところでございます。
 ついこの間も、ウイーンで都市計画の関係の会議がございまして、行ってまいりました。オーストリアが公共工事の投資部門として、「これから何が一番になるんですか」と質問をしましたら、何と、「これからの公共工事を進める最大のものは徒歩と自転車用の道路です。もはや自動車の時代ではない、このことが最大の課題です」、こういっているわけであります。
 残念ながら、日本に帰ってまいりますと、まだ第2東名高速道路をつくろう。どこかの長大橋をつくろうという話がたくさんある。自動車があと何年走るつもりでいるんでしょうか。しかも、つくるときに膨大な借金をして、子どもたちに返させるというまことにぐあいの悪い話があふれているわけでありまして、お金を使う方向がどうも違っているのではないかという感じがするわけであります。
 話を戻しましょう。将来世代の子どもたちが、少なくとも今健全に育ってはいないということですが、健康状態にも非常に多くの問題があるといえます。
 それは体だけでなく、心においても、自己中心的になっています。先ほどいいました不登校、学校の校内暴力の問題もそうでございます。
 いよいよ心が病んでくると、犯罪を犯すわけでありまして、子どもの犯罪件数が大人の犯罪件数を追い越してしまった、こういう時代を今迎えているわけであります。子どもの犯罪がいよいよひどくなりまして、どこまでいくかといいますと、殺人を犯すわけであります。子どもの殺人というのは山ほどある。最近では子どもが他人を殺すんじゃなくて、子どもが我が親を殺すということが普通に起こっている話で、いかに親が子どものことを考えていないかということが逆に証明されているのでございます。社会全体が、少なくとも将来世代の子どもどもことを考えたまちづくり、または経済をしてこなかったということの結果でございまして、多くの問題があらわれるわけであります。
 そういった自然体験をしない、感性の育っていない子どもが、実はもう20を過ぎ、25を過ぎてまいりました。そういたしますと、感性のきちっとしていない親になるわけであります。結婚しますと、当然子どもができる。ところが、感性がきちっとしていませんから、子どもが子どもを産んだ格好になる。どういうことが起こるかといいますと、今最大の課題は我が子虐待であります。親が子どもをうまく育てられない。ちょっとぐずりますと、なぐったりけとばしたり、たばこの火をつけたり、そういうことであります。
 今保母さん方に最も多い相談事はそれでございまして、親としてそういうことをしてはいけないということはわかるわけです。わかる、でも、ぐずると、またやってしまう。どうしたらそういうことをとめることができるだろうかという相談事が、一番多いというんです。大変なことであります。我が子虐待がいよいよどこまでいくかといいますと、殺人にいき、親が我が子を殺すのであります。これもほぼ連日のように全国で起こっている問題でありまして、子どもが親を殺し、親が子どもを殺すという、まことに凄惨きわまる話があるわけであります。これはもちろん感性だけということではございませんが、基本的に自然体験のない中で、人間としての最も大切な感性が育っていないのではないかという指摘が、各方面から出されているところであります。
 つまり、生き物のいっぱいいるいい自然を守る2つ目の理由、それは感性豊かな人間をつくるために必要なものであるということであります。
 3つ目の理由は、私どもの食糧や医薬品というもの、これも実は多くの生き物の遺伝子の利用であります。例えば、私はよく例に出させてもらうんですが、卵が非常に安く食べられる。なぜ卵が安いのか。これはメキシコの1本の野草があったことによる、このことを絶対に忘れては困るわけであります。卵が安いのは、当然ニワトリが安い。ニワトリが安い最大の理由は、多頭羽飼育もありますが、もっと大きな理由はニワトリの主食が安くなったからです。どうして主食が安くなったかというと、アメリカでハイブリッドコーンというトウモロコシができたことによる。ハイブリッドコーンの「ハイブリッド」とは何か。異種間雑種であります。種類の違う植物というのは種はできない。ところが、最近のバイオテクノロジーという技術が発達することによりまして、多少離れた植物であれば種ができるようになった。生産性の低いトウモロコシにメキシコの1本の野草がくっついた。それによって大量にハイブリッドコーンができ、ニワトリが安くなって、卵が安くなっていったということでございます。
 それならば、ハイブリッドコーンをずっと食べていけばいいんじゃないかとなる。ところが、そうはいきませんで、同じ作物を毎年つくっていくとどういうことが起こるか。当然連作障害が起こってまいります。病気の発生とか寄生虫の発生が起こってまいりますし、あとは作物によっては、植物本来の性質からもとの原種に返ろうとする。ということは、当然生産性が下がっていくわけであります。
 したがって、我々が食べています食糧は、すべて品種改良が常に必要なのであります。どのくらいに必要かといいますと、長いもので20年、短いもので5年であります。平均10年に1回の品種改良を永遠に続けていかなければ食糧は確保できないということがわかります。
 そのときに重要なのは実は野草、草であります。草というものを残しておかなければ将来世代の食糧はできないということをはっきり認識する必要があります。
 それは食糧ばかりではございませんで、医薬品もそうであります。解熱剤、鎮痛剤、抗アレルギー剤、こういったものも多くのものが野草からできている。草からできている、一部は木からもできているが、大半が草であります。
 そういうことを考えてみますと、日本におきまして、何と草を大事にしないか。野草と見れば、とにかく取り去らなきゃいけないんじゃないか、こういう概念が非常に強い。野草と見ればとにかく雑草だ、要らないものだ、こういう概念。これは明らかに誤っている。野草からこういった我々の普通食べています食糧ができてくる。例えば、キュウリなども同じでございまして、品種改良のたまものであります。じゃ、このキュウリをずっと食べていけばいい。そうはいかないのであります。10年に1遍品種改良が必要なわけであります。当然多くの野草が必要だということになるわけです。野草というものは遺伝子資源そのものでありまして、これを守らない限り、近い将来も含めて、将来の食糧や医薬品がなくなります。
 あと1つは、エネルギーの問題であります。地下エネルギーというものは限りがあるわけであります。間もなくなくなってまいります。大体21世紀の中ごろにはほぼすべてのものがなくなってくるということが見えているところであります。
 そういたしますと、風力とか波力、アルコール燃料というものが使われることになります。アルコール燃料というのは、自然の遺伝子の利用でございます。太陽エネルギーを植物に転換させて植物が大きくなる。つまり有機物ができる、その有機物を酵母菌に食べさせてアルコールに転換させるということでございまして、生態系の利用によって成り立つ。ですから、アルコール燃料というのは、多くの野生生物を守っておけば必ず利用が可能になる。燃料においても重要な意味を持つということがわかるわけでございまして、将来世代のなくてはならない最大の財産は、多くの野生生物をきちっと守ってやることであります。これが絶滅いたしますと、多くの問題が起こるということがわかるところであります。
 日本におきまして、残念ながら、先ほどいいましたように、日本の植物の4種類に1種類、鳥類は5種類に1種類、哺乳類3種類に1種類、淡水魚類は3種類に1種類が絶滅寸前という、猛烈に生物が絶滅に向かっているのが日本の現状でございます。
 こういった絶滅が進行していることをあらわしているものが『レッドデータブック』という本であります。日本におきまして『レッドデータブック』を持っている県がたった10県しかない。都道府県でたった10しかない。ほかの県は、自分の県の最も大切な財産がどういう状態になっているかということを知らない。知らない中で、開発行為だけが進む。これは将来世代には大変な問題です。本来こういった『レッドデータブック』というものは最低限、国レベルで持ち、都道府県レベルで持ち、少なくとも各市町村レベルできちっと持つべきであります。これが基本財産であります。基本財産の状態がどうであるかということがわかった上で開発を考えるということであります。
 ところが、市町村レベルになりますと、皆無であります。将来の財産がどうなるかがわからないで、なぜ開発をするんですか。これは大変な問題になるだろうということは簡単にわかることであります。残念ながら、現状はそういうことであります。野生生物の大切さが日本の国民のほとんどがわかっていないということになります。
 最近の農業基本法を見ましても、日本の環境基本法を見ましても「環境に配慮する」と書いてある。「配慮」、そんなことで多くの野生生物が守られるんですか。守ることができるんでしょうか。そんな軽いものではない。はっきり保全をするんだということを書かなければいけないのに、配慮事項でしかない、これではどうにもならないということがおわかりになる。



自然生態系破壊の現状を見る

 さて、ここでスライドを見ながら、日本の現状、どうしてそんなに多くの野生生物が絶滅しているのか、どこに問題があるのか、そういうことにいち早く気がついたヨーロッパ、アメリカではどういう手を打っているのか、ちょっとご紹介をしてみたいと思います。
(スライド1)
 ここに出しましたのは、自然生態系とは何かというものの模式図でございまして、太陽光線と大気と水と土。土には2つございまして、土壌といわれる部分、日本におきましては温帯にありまして、30センチから50センチ、そこから下の地下の構造物、地下資源ともいいます。きょうはこの部分を土といわせてもらいますが、まずは土です。その上に多くの野生の生き物が乗っかっている。太陽光線と大気と水と土と多くの野生生物、この5つの要素が、食う食われるの関係などによって循環している。これが自然生態系であります。
 環境問題というのはこのうちの太陽光線を破壊する、大気を破壊する、水を破壊する、土壌をなくす、地下資源を掘り過ぎてしまう、多くの野生生物が絶滅する、そういった問題でございまして、つまり自然生態系のどこかの破壊の問題であるということです。
(スライド2)
 それをもうちょっとわかりやすくいってみますと、地下資源がございますが、これは有限、限りがあります。これを大量に掘りますと、当然問題が起こる。この地下資源の上に水と大気と土壌と太陽エネルギー、一部地下エネルギーがございまして、その上に多くの野生生物が乗っかっている。この野生生物がどんどん絶滅しているということはどこかが大きく破壊されているということを示しているわけあります。
(スライド3)
 こういった自然生態系というものを資源という見方からしますと、生物資源と、非生物資源に分けることができます。生物資源、多くの野生生物を絶滅させ、多くの地下資源、有限のものを掘っていく、そしてこの1次産業、2次産業で大量生産をします。大量生産をするときに生物資源、または非生物資源を大量に破壊をします。生産したものを大量に流通し、大量に消費しますから、つくったものはすべてごみになる。このごみがまた自分の生活を脅かしている、こういうよくない状態に日本、そして世界がなっている。特にひどいのは先進諸国であります。こういうことによって地球全体がグラグラっと傾いてきたというのが現状でございます。
 自然生態系といいますのは、人類生存の基盤、この基盤をみずからが壊している、これが今起こっていることであります。
(スライド4)
 こういった自然を破壊いたしますと、どういうことが起こるのかは、歴史をひもといてみると、すぐわかるわけでございます。これは4000年ほど前に栄えましたミノア文明の中心地、クノッソスの遺跡であります。クノッソス宮殿は以前は木でできていた。それが今は全部石の宮殿が出てまいります。木がどうして石になったのか。
(スライド5)
 この裏山を見るとおわかりになりますように、木が1本もない。すべて木を切ってしまった。つまり、ここには森林があった。森林があったということは当然ここには土壌があった。土壌があったということは農業が発達した。農業が発達し、木を利用することによって青銅文化が発達し、大変すばらしい文明が発達した。ところが、これを全部切ってしまった。木を切り尽くしたときに、まだ土壌はあった。木を切りながら、何が入ったかといいますと、第1次産業、農業と牧畜が入ったわけです。
(スライド6)
  そのことによって土壌がなくなりました。牧畜で登場しましたのがヤギやヒツジでありますが、これを導入いたしますと、草を根こそぎ食べます。根こそぎ食べるということは、当然表土が表に出る。土壌が表に出るということは、風と雨で流れるわけであります。したがって、ヤギを導入しますと、表土が次から次に流れていってしまい、土がなくなる。土がなくなるということは、当然食糧がなくなる。食糧がなくなると、その国は国内が不安定になります。不安定になったところに外国が攻め入って滅ぼす。これが人為的な文明の滅び方の典型的な例であります。
(スライド7)
 これは今から2500年ほど前に栄えましたギリシャ文明、その中心地アテネにございますパルテノン神殿。
(スライド8)
 このパルテノン神殿の女神が見ています後ろの山、やはり木がないのであります。
(スライド9)
 それから500年後、世界最大の帝国といわれましたローマ帝国、その宗教の中心地のバームテック。このバームテックの遺跡の後ろにあるのはアンティレバノン山脈、やはり木が1本もありません。こういった山々は、木が昔からなかったわけじゃない。
(スライド10)
 実は、こういったレバノン杉を中心とする堂々とした大森林、大自然があった。これを全部壊した。このことによって国が滅びていったのであります。
(スライド11)
 そういうことが島国でも起こったことがわかりました。イースター島であります。
(スライド12)
 モアイが見ている、今のイースター島がこれでございまして、やはり木が1本もありません。ごく最近こういった植林をちょっとしています。このイースター島はチリという国であります。チリが環境問題を理解していないということがよくわかります。後ほど申し上げますが、この植えた木、全部ユーカリであります。ユーカリはオーストラリアの木であります。ここは実は森林に覆われていた。森林があったということは当然土壌があった。土があったということは農業が発達した。農業は発達したんですが、ここで植えましたのはサツマイモでございまして、サツマイモは1回植えますと、秋まで何もやることがない、時間的な余裕が大変できた。そこで、モアイという神事に走ったわけであります。守護神をつくって我が村を守るということをしたわけであります。そのときにヤギを導入しております。
(スライド13)
 これを導入いたしますと、当然、土壌喪失が起こるわけであります。
(スライド14)
 これが現状でございまして、このモアイは胸から上をつくり、このモアイは頭だけをつくったのではございませんで、上からどんどん土が流れてまいりまして埋まっているわけであります。現在も土がずっと海に流れて出るということになるわけであります。もう既にA層、B層あたりはとうに消失してしまいまして、現在C層あたりがどこに流れていっているか、もうR層、岩が飛び出すということが起こっているところであります。多くの野生生物を滅ぼしたときに、こういった問題が結果として起こってきている。
(スライド15)
 食糧がなくなってまいりますから、その島の中では当然戦争が起こったわけであります。どこまでいったかといいますと、人間が人間を食い合ったわけであります。食い残った人間がこの洞窟の中で細々とごく少数生き残って生活をしていた。これが1722年オランダのロッケフェーンによって発見された。発見された日が4月6日のイースターだったということで、イースター島という名前が後からつけられた、こういうことであります。
(スライド16)
 つまり、自然を破壊すると文明は滅びて遺跡だけが残ります。
(スライド17)
  これは多くの野生生物でございまして、野生生物はどこに一番依存しているかといいますと、実は土壌であります。土壌の上に多くの野生生物が乗っかっている。したがって、生物の多様性を守るというのはどこを守るかといいますと、緑を守るのではありません、土壌を守ればいい。土壌を守るということは土地であります。多くの野生生物を守り、将来世代に渡すということは、多くの野生生物のいる土地をどこに残すかということで、まさしくグランドデザインであります。ここをきちっとしない限り、将来世代の豊かな生活はあり得ないということになるわけであります。
 残念ながら日本におきましては、このことはやはりわかっておりませんで、自然を守るはずの国立公園、国定公園、県立自然公園ですら、土地の確保ができていない。これは国際的な違反であります。それを自然公園といっているのは違反であります。土地を確保して初めて多くの野生生物は守られるのであります。
(スライド18)
  多くの野生生物を守っているのは土壌でありまして、1センチの厚さになるのに100年から400年以上かかる。それが日本におきましては30センチから50センチある。この土壌の上に多くの野生生物が乗っかっているということであります。
(スライド19)
  自然破壊とは何か。最も自然破壊のひどいのは土壌をとってしまうことであります。これをとりますと、上が全部なくなります。当然これは最大の自然破壊。次が除草剤をまくこと、木を切ること、殺虫剤をまくこと、鳥をとること、直接的な自然破壊であります。生態系というシステムに対する破壊がある。
 例えば、ある固まりの自然があった、一部を開発した、そういたしますと、この開発された場所の植物は死にます。死ぬということはこれを食べていた昆虫は死に、これを食べていた肉食昆虫が死に、これを食べていた野鳥が死ぬ。ここの上に乗っかっていたタカやフクロウという高次消費者がまずいなくなる。このことによって食う食われるという関係がここで途絶えるために、人間が多くのごみを出すことによって次の高次消費者が異常に増えるということが起こります。これはカラスとかムクドリ、ヒヨドリ、キジバトなどで、こういった農作物に多くの被害を及ぼす鳥たちが増える。これはタカやフクロウがいなくなった、自然破壊をすることによって起こった問題であるということがわかるわけであります。
(スライド20)
    生態系のゆがみであります。こういった見方もできる。ある自然の固まりがあった。その真ん中に道路を通した。左右の森は残してやった。しかし、真ん中を通すことによって、土壌をベースとする三角形の生態系になりません。ここにいた多くの野生生物、将来世代の遺伝子資源が最も多く失われることになります。
  したがって、この道路、ここにつくってもらえば、かなり多くのものが残った。真ん中を破壊するということはあってはならないことであります。
(スライド21)
 ところが、現実には細々と残った森林の真ん中に道路を通す、または真ん中に建物を建てるということが、日本ではごく普通に行われているのであります。最近は話題から遠ざかりましたけれども、ひところリゾートというのがはやりました。あれも中を見てみますと、自然の真ん中に道路や建物をつくるということを平然とやったわけであります。それでは自然と触れ合うことは不可能なのであります。自然の真ん中を開発することは大変まずいことだということであります。
(スライド22)
 残念ながら、日本におきましては、現在、北海道から沖縄までこういった工事が進んでいる。多くの問題を起こしている現状がございます。
(スライド23)
 自然を残す、原理原則であります。多くの生き物を守るためには狭いものならば極力広げて残していく。同じ面積であれば1個にまとめた方がいい。バラバラであるならば、できればくっつけた方がいい。できればつないだ方がいい。基本形は円形、だんごがいいだろう。だんごに残してつないでいく。こういうデザインを最低限、地域計画に入れてくださいということがいわれている。国連あたりでも十数年前からこういった考え方を、都市計画、農村計画等の計画の中で、グランドデザインの中で描いてくださいよといっているにもかかわらず、日本の都市計画の中にはこの考え方が入っているものは1つもない。これで将来世代が明るい社会をつくりようがないというのであります。
(スライド24)
 具体的に書いてみますと、例えば、タカやフクロウといった高次消費者の住む大きな森を、必ず町々のあちこちに残してもらう。もうちょっと生態系の次元の低い、例えばシジュウカラのための数ヘクタール規模の森を残し、トンボ池等を残し、それをコリドー(回廊)で結んでやる。これをあちこちにいっぱい残して、最低限このくらいのことはやってくださいよといっているところであります。
(スライド25)
 それをいち早く国全体でやりましたのがオランダでございまして、海側の自然と内陸部の湿地帯と、黄色は森林でありまして、この森林を残してそれぞれ矢印で結んでいこう、ここら全体を結んでいこう、これがエコロジカルネットワークというものでございます。この基本的な考え方は、ドイツのビオトープネットワークというものから発想を受けて、オランダはエコロジカルネットワークという名前で発表したものであります。こちらがベルギー、こちらがドイツでありまして、自国だけでは難しい。
(スライド26)
 そこで、ヨーロッパ全体でそういったものをつくっていこうということを決めているところでございます。一昨年の10月、EUを中心とする55カ国が集まりまして、こういった方向で今後のグランドデザインを描こうと決めたところであります。残念ながら日本はまたこの流れの中に入っていないのであります。
(スライド27)
 発展途上国でもエコロジカルネットワークに取り組む国がございます。中米、パナマとか、コスタリカ、ニカラグア、ホンジュラスという国々の大統領が唱えまして、まだ大きな森、自然がある、これを全部つないでいこうやということを始めているところであります。各国でこういったことが徐々に広まりつつあるところであります。
(スライド28)
 自然というものは地域特性があるということでございまして、これはマイマイカブリですが、これらはそれぞれ北海道のマイマイカブリ、岩手県、千葉県、岐阜県産であります。同じ種類ですが、色、形、大きさが少しずつ違う。つまり、全部遺伝子が違うということであります。自然というものには地域特性があり、それぞれの地域で守らなければいけない。ですから、北海道は要らないというわけにいかないし、じゃ、岐阜県は要らないというわけにいかない。それぞれの地域で守ってもらわなきゃ困りますよということですし、地域を越えて生き物を動かすということもよくない。例えば、北海道のマイマイカブリを岐阜県に持っていったときに、北海道のマイマイカブリは食い殺されてしまうか、または北海道のマイマイカブリが岐阜県のマイマイカブリを絶滅させてしまう可能性がございますし、ひょっとすると、結婚をして別のF1に変わっていってしまう。これを遺伝子の汚染といっているわけであります。変わった品種に変わっていってしまうこともある。ということは、将来世代の遺伝子の利用する幅を狭めるということになって、いいことではない。地域を越えて生き物を動かすことはいいことではないということであります。
(スライド29)
 ところが、現実にはこのことがまだ理解されておりませんで、これは、関東のある川に、この人たちが何を放しているかといいますと、これでございます。
(スライド30)
 全部琵琶湖のアユであります。琵琶湖のアユを関東の川に流すということはあってはならないことであります。しかし、残念ながら日本におきまして、全国に放流されているアユの70%が琵琶湖のアユであります。琵琶湖のアユは琵琶湖にいていいのであって、それをほかの地域に持っていくということはいいことではありません。
 サケの放流も同じでございます。関東の川に放されていますサケのほとんどは北海道か東北のサケでありまして、大変多くの問題を起こすことがわかります。
(スライド31)
 また、これはブラックバスであります。ブラックバスというのはもちろんアメリカの魚でございます。アメリカの魚を日本に持ってきて、放して、引きがいいからおもしろい。だから、どこの川でもどこの沼でも放すということが現在起こっているわけであります。そして、これは肉食魚なので、日本の在来の魚を次から次へと食い滅ぼしているのであります。日本の魚、淡水魚の3種類に1種類が絶滅寸前であります。
その一端をこういった動物が担っているわけでありまして、地域を越えて生き物を動かしてはいけないという大原則が守られていないところであります。
(スライド32)
 農業、林業とは何か。数千年、数万年かかってできてきた土壌だけを残しまして、上を全部とってしまって、そこに杉、ヒノキを植え、稲、麦を植える、これが農業、林業であります。つまり、農業、林業という第1次産業は自然破壊であるということをきちっと認識する必要があります。したがって、どこを将来世代の遺伝子資源として守り、どこを我々の産業の場として開発させてもらうかということを決めなきゃいけません。その決める法律が環境アセスという法律です。しかし、残念ながら、先進国の中で唯一環境アセスの法律を持っていなかったわけであります。やっとことしの6月から施行になるのでございますが、第1次産業は、またこれが抜けているのであります。これも異常なことで、あれだけ膨大な圃場整備をして、膨大な自然破壊をするのに、それがこれから施行される環境アセス法の対象外である。論外であります。
(スライド33)
 これが結果として日本の山々の現状でございます。この山を見ていい自然だなとお思いになりますでしょうか。全部自然破壊であります。本来、ここをきちっと調査した上で、どこを将来世代の遺伝子資源の山として、自然林として残し、どこを開発させてもらうかを決めなきゃいけない。これを全くしないで全部大人がとってしまうということが、全国の山々で起こったわけであります。
(スライド34)
 中に入りますと、こういうことであります。ぎっしりと木が並ぶ、これが現在の日本の林業であります。林業という産業にも問題がある。モノカルチャーはだめだというのは世界の常識です。杉だけ、ヒノキだけの単純林というのはいいものじゃありません。なのに、今もってこういうことをやっている。そればかりか、これを見ておわかりになりますように、木の太さがほぼ同じで、全部切って、一斉に植えた、こういうことであります。一斉に植えたということは、切るときにどういうふうに切るかというと……
(スライド35)
 こう切るのであります。全部一斉に。これをクリアカットという。切りますと、当然土壌が飛び出す。土壌が飛び出すと、雨が降ると流れる、こういうことで、もはやこういう山では将来世代が植林すらできないということが起こるわけであります。まさしく山の使い捨てをやっている。戦後日本が進めた拡大造林がこれであります。大変多くの問題を含んでいるということがおわかりになります。第1次産業という産業すら成り立たないという林業のあり方は、明らかに問題があるということがよくわかるわけであります。その前に多くの野生生物をほとんど問題にもしないほど破壊してきたということで、日本の山の多くの野生生物が滅びている、こういうことであります。
(スライド36)
 さて、農業はどういうことをやっているのか。これを見てみればすぐわかる。日本の農業の代表的なものは水田であります。水田は当然そこはアシ原などの自然であった、したがって、アシ原という自然をどこに残し、どこを開発させてもらうかということを決めなきゃいけなかった。ところが、その法律がございません。全部現代世代がとってしまうということが起こるわけであります。
(スライド37)
 この稲というものは、今は5年に1回品種改良しないとだめだといわれるほど、頻繁な遺伝子の組み換えによって、1品種ができます。遺伝子組み換えで簡単にできるということは簡単にだめになるのでありまして、5年に1回品種改良が必要である。そのときに今後重要になってきますのは、細々と残っている野草の遺伝子、これが将来の食糧を支えるもとになるのであります。したがって、こういうところは極力残すことが基本であります。ところが、一昨年の日本の農林省から出た新農政、どういうことが起こったか。
(スライド38)
 こうでありまして、ことごとく大規模圃場整備をして将来世代の財産をとってしまいまして、お米を1円でも安くすればいい、こういう誤った政策が今も行われているのであります。
(スライド39)
 ここの農地に1本のU字溝を埋めた。たんぼがあって、山があって、ここに1本のU字溝を埋めた。この意味がほとんどわかりません。これも実は公共事業であります。なぜ埋めるんだ。農家の人に聞きましたら、何と、農家の人が知らない。いや、あんなところに埋めたものだから、車がとめにくくて困る、こういっている。このことがどういうことを起こしたか。翌年の春です。
(スライド40)
 このように、たくさんのカエルが落ちて死んでいた。多くの遺伝子資源が累々と死ぬのであります。この遺伝子、1億円上げるからつくってくださいといってもできない。将来世代の重要な遺伝子資源、このことが残念ながら農業関係者はほとんど理解をしていません。
(スライド41)
 したがって、水路があったものを埋めて車を通して道路をつくってしまった。冬眠から覚めたカエルは当然ここに上がってくる、上がってくるということは車が当然これをはね飛ばすということが起こる。こんなカエルなんていたっていなくたっていいんじゃないかと思う。もしここに3億円落ちていたら大変な問題になりますよ。3億円以上の価値がある。3億円上げるからこのガマガエルつくってください、できませんよ。大変な将来世代の遺伝子資源。そのことが残念ながらわかっていない。まことに困ったことであります。
(スライド42)
 そして猛烈な農薬をまくわけです。まいている張本人、まさしくタオル1枚でまいている。当然吸い込みます。したがって、日本の農家の方の悪性腫瘍発生率、つまりがんの発生率は、日本人平均の2.5倍もある。自分の体を壊しながらやっている。実にばかげた話。世界一農薬をまきますから、この農産物を食べますと、当然多くの問題を起こす。子どもがアトピーを起こす、当たり前のことであります。
(スライド43)
 最もひどいのはこれであります。空中散布、この辺に細々と生きている野生生物を皆殺しにする。これが全国で今もって行われている。これがとまらない。いかに将来世代のことを考えていない日本であるかということがよくわかるのであります。こういうことをやる限り、日本の将来は暗たんたるものだということがおわかりになろうと思うのであります。
(スライド44)
 その上に、この稲を燃やしてしまう。どうして燃やすかといいますと、本当はこの稲を土に戻してもらえば、土壌は減らなくて済むのに、農産物の自由化があるためにたんぼを使い捨てるわけです。そうすると、一時的にお米の価格を安くできる。そのためにこういったことをやるのであります。土壌はどんどん減る。現在日本の農地の土壌の平均的な厚さは18センチであります。本来30から50センチあったものが、今はたった18センチで、まだどんどん減っている。あと20年から30年後に食糧難の時代が来るということはほぼわかっている。その中で日本の食糧を支える最も大切なたんぼの土壌が、どんどん減っているということがわかっています。
(スライド45)
 現在の日本の食糧自給率はエネルギー換算で41%であります。先進国中、断トツ下から1位であります。さて、畑はどうしているか。見てください。
(スライド44)
 これを見てもおわかりになりますように、野草は1本も生えていません。土壌がむき出しになっています。どういうことが起こるか。また、この白いのは全部化学肥料であります。化学肥料で、ここで野草がないということは大量の除草剤を使っているということです。ここに生えているこの作物は、大量の農薬が入り、しかも化学肥料ですから、栄養価は3分の1以下、場合によっては4分の1です。例えば、最近問題になりました所沢のホウレンソウ、あれの栄養価は、本来のホウレンソウの4分の1以下であります。4分の1以下で、しかも農薬が入っている。これを食べて国民の健康を保つことは不可能でありまして、農林大臣が今しきりにテレビ朝日を攻撃していますが、あれは明らかにおかしい。自分がつくっているものを国民に胸を張って食べさせることができない。栄養価が4分の1の農薬がかかっているものを平然と国民に提供しているんです。いかにおかしいかということです。その農作物をつくる土壌はどうなるか。
(スライド46)
 風が吹くと飛ぶ、雨が降ると当然流れます。表にむき出しになっているからです。
(スライド47)
 結果として、このお茶の木は100年前に植えたお茶の木ですが、たった30〜40年で土壌はここまで根がむき出しになるほどこんなに減ったんです。植えたときの土壌の位置はここです。表面の位置はここです。こんなに使い捨てた。たんぼを使い捨て、畑を使い捨てているんです。これで日本の30年後の将来が安泰なものでしょうか。明らかに見てとれるものでありまして、これは大問題であります。
(スライド48)
 結果として、将来世代の遺伝子資源、多くの野生生物の住む場所はほぼゼロ。しかも土壌がどんどん飛んでいるのであります。これが日本の農地であります。
(スライド49)
 さて現在進められている林業、農業には持続性がないということはわかりました。では、漁業は何をやっているのか。これは沿岸漁業の現状でございます。日本の湾という湾、養殖漁業で、猛烈に薬を使い、猛烈にえさをやるために、この海底はドロドロであります。猛烈な自然破壊を起こしている。
(スライド50)
 沿岸漁業。近海漁業。これがイワシ漁でございます。ほぼとり尽くしてしまった、猛烈な自然破壊をしたということであります。
(スライド51)
 もうちょっと遠くに行きますと、近海のサバ漁でございまして、全く同じであります。猛烈な自然破壊をしました。
(スライド52)
 あと、遠洋でございます。例えば、マグロ。とにかくもう日本海のマグロ、あの広い太平洋のマグロをほとんどとってしまいました。したがって、クロアチア、地中海の方から持ってこなければもはやない。これが日本の漁業の現状でございまして、明らかに持続性がありません。
(スライド53)
 さて、公共工事、何をやったか。日本の国立公園の中です。国立公園の中です。それをどうしたか。
(スライド54)
 コンクリートで固めている。こういうばかげたことをやるのは世界で日本だけであります。将来世代に遺伝子を残さなきゃいけない、多くの野生生物を必ず残さなきゃいけない国立公園です。その真っただ中をコンクリートで固めるなどということはあってはならないことです。平然と行われる。
(スライド55)
 もうちょっと行きますと、ダムがある。ダムをつくることによって、我々は、水がいっぱいありますし、電気もできるし、これはいいぞということになる。しかし、将来世代から見たら全く違って見える。
(スライド56)
 これはダムをつくる前、多くの野生生物がいた。ダムをつくると、ここまで水が来る。この集落は無理やり水没させられる。まことに気の毒だ。そればかりじゃございません。こういう山合いの集落は日本の文化の原点があるんです。
(スライド57)
これはダムをつくる前、多くの野生生物がいた。
(スライド58)
 ダムをつくり出しますと、ここまで水が来る。この集落もやはり無理やり水没させられる。まことに気の毒だ。そればかりじゃございません。こういう山合いの集落は日本の文化の原点があるんです。
(スライド59)
 その文化の原点と多くの遺伝子資源を大量に失うのであります。将来世代から見たら、えらい迷惑なものであります。
(スライド60)
 それだけではございません。ダムは水をとめます。下流域に水がなくなる。水無川は全国で続出しているのであります。
(スライド61)
 水がないということは、将来世代の遺伝子資源が累々と死ぬということであります。
(スライド62)
 こういった川が日本であちこちで見られるのでありますが、通産省は日本にダムをあと1000個つくりたいといっている。日本の川はほとんど水がとまります。これが持続的に発展できる国づくりの問題をきちっとわかって発言しているのでしょうか。明らかに問題があるといわざるを得ません。
 さて、これは、ある川を河川工事をした例です。この村には、文化的な施設といいますか、文化的なにおいのする場所がない。そこで文化的な事業をやりたいといってやった事業です。翌年こうなった。
(スライド63)
 蛇行させてはいるが、コンクリートでがちがちに固められている。蛇行させればいいというものじゃない。文化というものがわかっていない。文化文明は、自然生態系が支えるのでありまして、これは全く反対のことをやっている。今もってこういった工事が全国各地で行われているのです。
(スライド64)
 こうなりますと、もう論外であります。こういった工事が今も全国各地、特に農業関係のところで起こっているのが多いのであります。明らかに日本の農林省の姿勢に問題があるということがよくわかるところであります。
(スライド65)
 さて、川もいよいよ河口に行きますと、河口堰をドンとつくるわけであります。河口堰をつくる所は、塩水と淡水がまざった気水域であります。これをここにドンとつくりますと、塩水と淡水に分けまして、淡水が利用できて、工業が発達し、農業が発達する。我々にとっては大変いいものです。我々の世代にはいいんですが、将来世代から見ると、全然違って見える。この気水域は野生生物が川の中で一番多く住んでいるところであります。それをまともに破壊するわけでありますから、将来世代からするとえらい迷惑なものだということであります。
 日本には109の一級河川がございますが、そんな工事を108やってしまった。108番目が長良川であります。あと1個残っているのが四国の四万十川だけであります。これから我々としてはこういった河口堰を外す時代を迎えているということがはっきりわかっているのです。我々の利便性だけでこれをやっているので、将来の世代から見ると、えらい迷惑なものだということであります。
 水をここでとめるということは、ただそれだけはございませんで、もっと違った問題も起きます。水がとまったということは、当然多くの汚れた水がそこに滞ります。
(スライド66)
 そうすると、そこにはアオコが発生をいたします。アオコが発生するということは、当然発がん誘引物質がつくられておりますから、この水は直接飲めない。そうすると、国民はどうするかといいますと……
(スライド67)
 こうするわけであります。水が飲めませんから、フランスの水を買って飲むことになる。(笑)このように、石油よりも高い水を我々が飲むとは夢にも思わなかった。現実はこうなってしまった。本当にこれで利水があったのだろうか。明らかに問題があるといわざるを得ないところであります。
(スライド68)
 いよいよ川が海に出てまいりますと、干潟がある。干潟を今閉じて壊している国、世界の先進国で見ることはまずできません。しかも、ここは何と諫早でございまして、これで農地をつくるというのです。今日本は100万ヘクタールの農地が余っていると言いながら、一方で、1500ヘクタールの農地をつくるために3000ヘクタールの干潟を何で壊すんですか。どこから見ても、理屈に合わない。しかも、この干潟は、熱帯雨林にも匹敵するぐらいのバイオマスを持っている。つまり、野生生物の種類と数が多く、生産力が強い。それを平然と壊すことはあってはならないことであります。まさしく犯罪であります。
(スライド69)
 結果として、日本の淡水がどうなったか。これは千葉県の手賀沼であります。水草がまだたくさんあって、きれいな沼のように見えるのでありますが……
(スライド70)
 これを調査いたしますと、こういうことになっております。昭和20年代、30年代まで水草が42種類あった。今はたった3種類しかありません。将来世代の遺伝子資源がこれだけ減っている。こういった沼が全国に続出しているわけであります。川も同じであります。
(スライド71)
 さて、道路。こういう山岳地に1本の道路を通す。壊したところはこことこことこことここだけだ。実はそうではなくて、道路を通すということは、生態系というシステムに甚大な影響を与えるわけです。大人が一生の間に1回通るか通らないかという観光道路的なもの、スカイライン。本来つくってはいけない。大人は当然将来世代のために我慢をする必要があります。我慢をしないで、めったに通らない道路を猛烈なお金をかけて、公共工事で平然とつくっていく。大変な多くの問題があるといわざるを得ないところであります。
(スライド72)
 山を切り崩して道路をつくった。がけができる。あまりいいものじゃない。そこで、緑化、この緑化という言葉も大変な問題がございます。緑なら何でもいいだろう。そうはいかないのであります。この緑、何かといいますと……
(スライド73)
 これでございまして、ワイルドフラワーといって、全部外国品種。地域を越えて生き物を動かしてはいけないという大原則がある中で、きれいだからといって、外国品種をなぜ日本に持ってくるんですか。アメリカのセイタカアワダチソウやオオブタクサが日本に入ってしまったために、日本の秋の七草が各地域で次から次に絶滅が進行しているわけです。そういう中で、こんなものをあちこちにばらまくことはあってはならないことです。残念ながら、日本ではそのことがわかっておりませんで、各地で行われているのであります。
(スライド74)
 本来ワイルドフラワーといいますのは、その地域の自然に生えている野草をいうのであって、外国品種を日本に持ってきてワイルドフラワーというのは、方向性を間違えたものが多くあります。
 あと1つ、日本で問題になりますのは、「花いっぱい運動」というもの。これも余計なことをするのでありまして、秋になりますと、コスモス一色。全国コスモスになります。ここの道端に生えているコスモス、この上に立っていますのが、キョウチクトウでありまして、この大きいのがユーカリです。どこの国のものですか。ユーカリはオーストラリアの木、キョウチクトウはインドの木、コスモスはメキシコの草であります。メキシコとインドとオーストラリアが並んでいる。少なくともこれで子どものことを考えているとは思えない。花いっぱい運動、緑化、今のままではいかに間違えているのかということを理解する必要がある。これは将来世代が必ず困るものです。
(スライド75)
 これをぜひ見てほしい。今アメリカ政府がこの1本1本の木を全部枯らしていくんです。この湖1個だけで日本の霞ヶ浦の10倍もある。そこに植えてしまったユーカリ。生態系が変わって、大変困った。そこでユーカリを1本1本全部枯らしている。毎年十数億円のお金をかけて枯らしています。現場に行きまして、あと何年でこのユーカリを枯らし切るんですかと聞きましたら、その担当官が、「できません」と首を横に振るんです。「じゃあ、なぜやるんですか」といったら、「ユーカリがこれ以上増えるのを防ぐだけです。我々がばかなことをしてしまったために、将来世代、我々の子どもたちがこのユーカリと永遠に闘わなければならない時代を迎えてしまいました。地域を越えて生き物を動かすということがいかに怖いかということです」。こういったんです。おわかりになりますでしょうか。地域を越えて生き物を動かすということは、こういう結果を及ぼすということです。ブラックバスを日本に入れることは、いかに怖いかということです。
(スライド76)
 さて、日本の街の中に入ってまいります。そういたしますと、イチョウ並木、またはプラタナス並木、ツツジが植わっている。これを何というかといいますと、モノカルチャーと言います。1種類だけですよ。せいぜい2種類、これでは将来世代の財産にはならないということです。本来この地方に生えているいろんな木を植えてもらえばよかった。いろんな草を植えてもらえばよかった。何で2種類なんですか。
(スライド77)
 多少緑っぽいところはどこかといいますと、都市公園。公園に行きますと、こういった公園がある。しかし、よく見てください。あの最も大切な野草が1本もない。どうしてないんだ。実はこれを調べてみましたらわかりました。日曜日の早朝、この近所の人たちが眠い目をこすりこすり出てまいりまして、みんな抜いちゃったというんです。子どもの財産を全部取っちゃった。寝てる方がよっぽどいいんです。(笑)ツツジのモノカルチャー。これは5月5日ですが、遊具を置いたって、子どもはだれも遊んでいない、まことにどうしようもない。こんな公園をつくってどうするんですか。少なくとも子どものことを全く考えていないことがよくわかります。
 もっとひどい事例がある。
(スライド78)
 草むしりが面倒くさいといいましたら、今度は市役所が出てまいりまして、コンクリートで固めてしまったというんですね。当然ここには野草があった。野草があったということは当然テントウムシがいたのに、テントウムシはこの遊具でいいんだということになる。当然この子どもは自然体験ができません。そこで感性が狂う、感性が狂うということは、この子どもはもうちょっと大きくなると、このお父さんを殺す確率が高くなってくる。(笑)こういうことになるわけであります。予測どおり事が進んでいる。
(スライド79)
 細々と野草が残っているのは河川敷。わずかに残っている。ところが、この周辺の方々、やあ、こんなもの要らないといいまして、どうなったか。
(スライド80)
 このように、コンクリートで固めてしまった。全部子どもの財産を奪いました。これでいい。万国旗がはためいて、めでたい、めでたいと実におめでたい。そればかりじゃなありません。その辺にソメイヨシノを植えた。モノカルチャーです。この地方に生えている木をいっぱい植えて、1本か2本ソメイヨシノを植えても結構ですよ、モノカルチャーはだめだというのは世界の常識ですよ。何やっているんですか。ところが、最近NHKまで、春になりますと、桜前線といって、桜、桜、桜。日本を滅ぼすだけの話でありまして、ほとんど意味がない。
(スライド81)
 いよいよ生き物が欲しいといいますと、こういう生き物を誘致してしまうというまことに困った話になるわけです。
(スライド82)
 日本の現状がいかにひどいか。こういう工事が行われることによって、結果として、多くの問題を起こす。また、ゴルフ。多くの人たち、一般庶民までがするようになったスポーツだといっていますが、これが果たして本当に健全なスポーツといえるかどうか。見てみればすぐわかるのであります。
 例えば、このグリーン、非常にきれいにできている。きれいにできているということは、当然ここは多くの農薬を使っているわけであります。農薬を使うということは、大きく見ると、3分の1が地下水汚染を起こし、3分の1が流れて河川の汚染を起こし、3分の1が気化をしてまいりまして、大気汚染を起こすわけです。この2人、当然気化をしている農薬を胸いっぱい吸い込みますから、大体10年から20年後にはがんになって死ぬだろうということがほぼ予測はつくわけです。しかし、そのことをわかってやっているわけですから、決して問題にはならない。しかし、将来世代から見ると違う。
(スライド83)
 ゴルフ場をつくるとき、ここを見てほしい。地面が約30センチ下がってます。30センチ下がっているということは土壌、黒土を穴を掘って埋めているんです。国家の最大の財産である土壌を、大人が遊びのために捨てるなんてことはあってはならないことでしょう。それを平然と100ヘクタールにも及ぶものをやっている。
(スライド84)
 平地のゴルフ場、山岳のゴルフ場造設全く同じでありまして、なぜ日本のゴルフがだめかといいますと、1番は土壌を失うこと、2番は、森はダムだというほど水を支えていますが、それを壊すということです。このゴルフ場の保水力はその前の森林から見ますと、4分の1から7分の1に落ちます。ということは、降った雨がいきなり下に流れて行ってしまう。行ってしまうということは、その水を頼りにしていた、その途中にいた生き物は死に絶えるということです。子どもの財産がなくなるということです。大人がゴルフをやればやるほど子どもの財産がなくるということです。農薬の問題、それは3番目の問題であります。つまり、日本のゴルフは犯罪だということであります。もし、この中にゴルフをやる人がおいでになれば、これは犯罪幇助ということで、きょうを限りにやめてもらった方がいいかなということになるわけです。
(スライド85)
 さて、どうして日本人はこんなに狂うのか、学校は何をやっているのかと、学校を見せてもらいますと、何と驚くべきことに、この学校、校庭では除草剤をまいていました。驚くべき事実です。子どもの口には当然この土が入ります。何で除草剤をまくんですか。しかも、ここに植わっている木、これはイチョウ並木、モノカルチャー。こういうところで環境教育などしようがない。玄関先に回りますと、あの大切な野草が1本もない。これは全部園芸品種です。なんということでしょう。
 もっとひどいのは、PTAであります。こんな大きなツゲの木を学校に寄付して、「希望の木」なんて書いてある。夢も希望もありません。こういう学校で牛乳パックのリサイクルなんて教えようものなら、環境問題なんて子どもは全くわかりません。野草の大切さを教えなきゃならない学校がこれですから。ほとんどの学校が今これです。環境教育なんてしようがない。
(スライド86)
 子どもに絵をかかせます。自然を大切にしよう。園芸種であるチューリップを踏みつぶす。自然破壊だと思ってしまう。80%から90%の子どもはこういう絵をかくんです。
(スライド87)
 農業がわかるか。ニワトリの絵をかいてもらいます。6年生の絵で、足が4本ある。これが1名、2名だったらわかる。
(スライド88)
 こういったように大勢かくのであります。農業なんて全くわからない。つまり、これは今までの都市計画に多くの問題がある。市街化区域、市街化調整区域と、あの2つに分けた、あれが多くの問題を起こしているところであります。
(スライド89)
 ここにはドジョウもいた、メダカもいた。全部大人が殺してしまいました。フェンス、通学路であります。子どもに川に近寄るなといっている。日本の子どもから日本の川を見ると、どう見えるか。
(スライド90)
 こう見える。おりの向こうに川がある。これで子どもが健全に育つはずがありません。大人を殺したくもなります。
(スライド91)
 エドワード・ムンクならずとも、叫びたくなるわけです。「何とかしてくれないか」。
(スライド92)
 なのに、現代の大人は、まだ使える車を捨てて捨てて捨てまくる。世界一いい車をつくりながら、たった6年で捨ててしまうんです。たった6年。20年、30年、十分使える車をつくっているのに、これであります。
(スライド93)
 まだ使える冷蔵庫、家具、平然と毎日大量に捨てている。それが経済だ、こういっている。
(スライド94)
 最近では、まだ使える携帯電話、毎年1000万台捨てている。その中に何が入っているか。
(スライド95)
 レアメタル。この大変貴重なレアメタルを大量に捨てている。レアメタル。なぜレアなんですか。地球上にちょっとしかないから、レアなんです。それを便利だから、モデルチェンジしたからとどんどん捨てている。1000万台。これが健全なんですか。国民1人1個持つ必要がなぜあるんですか。こんな持続性のないことをなぜやらなきゃならないのか。明らかにおかしいといわざるを得ません。
(スライド96)
 結果として1人5トンものごみを毎年出している。捨て場がない。当たり前のことであります。
(スライド97)
 そうすると、燃やす。
(スライド98)
 世界じゅうにCO2 などのごみを放出してごまかす。これが日本の現状でございまして、日本は世界一ごみを燃やしている。ということは世界で一番、世界に迷惑をかけているのであります。
(スライド99)
 最近では、住宅まで使い捨てるのであります。木造だから保たない。そんなことはございません。
(スライド100)
 これは350年前につくった今西さんという方のうちです。昔武士だった。今も十分使える。
(スライド101)
 これは栗山さんの400年前につくったうちであります。まだ十分使える。これを見てほしい。
(スライド102)
 法隆寺であります。1400年たったってまだ使えるのであります。木造です。
(スライド103)
 日本が今使い捨てている木造住宅、その木の供給源はどこか。亜寒帯林であり、熱帯雨林であります。これは最後に残ったパプアニューギニアの大自然であります。熱帯雨林。
(スライド104)
 ここには極楽鳥を初めとするすばらしい自然生態系があった。
(スライド105)
 これを利用して、循環型社会をつくってきた多くの現地の人たちがいた。この人たちを日本が行ってだましました。どういうことがその国で起こったか。
(スライド106)
 結果として、あの山々はこうなったのです。クリアカット。どこの国が指導したのでしょうか。この木材の4分の3が日本に来ているのであります。海に雨で土壌がみんな流れていってしまいました。植林すらできない。どうするんだということです。
 自動車が安い、テレビが安い、冷蔵庫が安い、そういった工業製品を支えている原料はどこから来ているか。
(スライド107)
 やはりパプアニューギニアからも来ています。これは銅山です。残滓を雨に平然と打たせて流しているのであります。足尾の鉱毒事件が起こったことは十分日本人は知っているはずです。ところが、ごまかしてやっている。結果として、この現地の人たちどうなったか。
(スライド108)
 こうなったのであります。メイド・イン・ジャパン、メイド・イン・コリア、メイド・イン・タイワンの服は着ている。しかし、この金網に朝から晩までぶら下がったままです。行く場所もない。この人たちももちろんばかじゃございませんで、なぜこうなったんだろうとよくよく考えてみたら、どうも日本にだまされたらしいということがわかってまいりました。これから私たちの子どもたちがこの人たちの衣食住を面倒見なきゃならない時代が間もなく来るということです。こういった国が東南アジアには幾つかございます。東南アジアの国々が日本を尊敬しない理由がよくわかります。尊敬するはずがないのであります。本当の持続的な国づくりを指導していないのであります。
(スライド109)
 結果として、こういった日本の現状があります。将来世代を考えたグランドデザインはどこにあるんでしょうか。都市計画は本当にこれであったというんでしょうか。明らかに異常であります。子どもの存在が全く忘れられているのであります。大人の目先の経済だけで動いている、これが日本の都市計画だったんです。
(スライド110)
 明らかに問題だ。そこに大自然が多くの問題を起こすわけで、ひとたび大震災が起こったときにどういうことが起こったか。阪神・淡路大震災がもののみごとに証明したわけであります。
(スライド111)
 ビルは倒壊し、六十数万人という犠牲者が出たわけであります。
(スライド112)
 大都市のもろさ露呈。生活基盤、壊滅的打撃である。自然と調和してない町をつくったことが、いかに怖いかということであります。
(スライド113)
 当然、そこに住む子どもたち、多くの問題を起こすわけであります。
(スライド114)
 これは最も悪い建物の象徴でございまして、住んでもだめ、勤めてもだめという高い建物であります。こういった建物、これから維持管理費に膨大なお金がかかってまいります。現在1年間の維持管理費だけで、この建物は70億円かかります。これからもっとかかります。だれが払っていくのでしょう。実は日本の建設総投資額の50%を維持管理費が上回るのは2010年であります。2030年には建設投資額の80%を維持管理費だけが占めるということは、もはやわかっているところでありまして、こういう建物をつくることがいかにまずいか、こういう建物をつくることがいかに将来世代に負担を与えるまずいものかということがわかるのであります。この建物を横に長くつくってもらえばかなり違っていた。こういう高い建物はまことにまずいものであります。
(スライド115)
こういう町をつくると、間もなく日没を迎えますよということになります。



欧米諸国における取組み

 (スライド116)
 そういうことにいち早く気がついたヨーロッパの国々はどういうグランドデザインを描いているのか。これは先ほど申し上げました人口40万ほどのカールスルーエ、ドイツの最高裁判所のある町であります。ライン川のほとりにあり、2000ヘクタールに及ぶ森、こういった森を各地に残し、この都市計画図でいう黄緑色の自然を、つくった自然または残っている自然でずっと結んでいく。まさしく自然を固まりで残してつないでいくということをきちっとやっています。最低限このくらいはしてくださいよといっているところでありますが、残念ながら、日本の都市計画図の中でこういった図を見ることはほとんどございません。つまり、将来世代のことを考えてないということがよくわかるのであります。
(スライド117)
 これは向こうで現在盛んにやっているある農村における計画図でございまして、どのくらいの森林があるか。池があるか。この円形は野生生物の種類の多いところです。それをずっとつないでいこう。横線は土壌喪失が起こりやすい農地、その農地の中に網の目のように自然をずっとグルグルグルっと入れていこうじゃないか。こうやっているところでありまして、多くの野生生き物は行き来できるし、風や雨が降っても土壌の喪失はずっと少なくて済む、こういうこともあるわけでございます。これが農村計画の基本的な考え方であります。残念ながら、日本の農村計画の図を見ましても、こういった考え方は皆無であります。
(スライド118)
 これが将来世代のことを考えて、きちっと遺伝子資源で残そうという自然公園であります。当然土地を確保した上で、これを守っている。当然のことであります。
(スライド119)
 それをつなぐ最大のルートは川であります。川の生態系を山の上から海までずっとつないでいこうということであります。
(スライド120)
 それからまた、川は本来蛇行しています。それを真っ直ぐにしてしまった。これはまずかった。
(スライド121)
 そこで、それを再度蛇行させていこう。これが近自然工法であり、さらには再自然化であります。これをまねしましたのが、日本の多自然工法であります。ここに自然を復元するために、その町に昔から生えていた野草と木を植えて復元します。
(スライド122)
 そうすると、このように元どおりになるわけです。
(スライド123)
 ここにいる多くの野生の動物、野生の植物の遺伝子、これが将来世代の最も大切な財産ということになります。
(スライド124)
 道路。ヨーロッパの道路公団がつくるとき、左右に森林もつくるわけです。そうしますと、Aという町とBという町の森林が結ばれる、自然が結ばれます。日本の道路公団は、このガードレールからこのガードレールまでの間しかつくらない。これでは大人の財産だけであります。それはまずいのであります。
(スライド125)
 ここに野生の生き物が豊かな水路がある。ここに道路をつくろうと思ったときに、水路を壊しては困りますから、これをトンネルにして結んでやったということです。
(スライド126)
 自然がずっとあるところに道路をつくったら、自然を分断してしまいます。これはまずいということで、道路はここから地下に埋めます。
(スライド127)
 道路を地下に埋めて、こうなる。下を道路が走り、上を自然にしてやる。そうすると、子どもの自然体験ができ、将来世代の遺伝子資源も残るということであります。
(スライド128)
 これはオランダの例ですが、森林を貫通して高速道路をつくってしまった。そういたしますと、野生の生き物は行き来できない。これはまずいということがわかった。後からトンネルをつくって土で埋めて、上に表土を乗っけて、自然を結んで、ここは人間の立ち入り禁止区域で、シカとかイノシシ、モグラが行き来する場所だ、こういうことでございます。こういった工事はヨーロッパでは各所で行われているところであります。
(スライド129)
 これは農地で、このままでは将来世代の財産がないわけです。
(スライド130)
 そこで、まず水路、以前はコンクリートで固めたところもあったのを、全部外してしまいまして、昔のような水路にしたということです。
(スライド131)
 それから、農道も、車がしょっちゅう走るところじゃございません。そこで、舗装はしない、または舗装をはがしてしまいます。そうして野草を生やしておくということをするわけです。
(スライド132)
 これは畑の周辺を3メートルから5メートル、グルグルッ、グルグルッと、農家から行政が買う、または借りる。そういたしますと、自然が網の目のようにずっとつながっていくということです。そうしますと、雨が降っても土壌の喪失が少なくて済むということもありますし、将来世代の多くの遺伝子が残るということにもなる。
(スライド133)
 鉄道であります。極力地下に入れます。このときに重要なのは地下水を分断させないという工事を必ずする必要がある。地下に入れて、上を自然にしておく。例えば、山手線を全部地下に入れてもらって、あの上を自然にすればグルグルッと自然が残る。景観上もいいし、将来世代の遺伝子も残る。絶対やってはいけないのは、高架にすること、高架で走るということはいいことではありません。
(スライド134)
 ドイツの新幹線、フランスのTGV、全く同じでございまして、極力地下を走る。陸上に出るところは左右を自然で結んでいる。そうすると、大阪の自然と東京の自然が結ばれる。自然で覆われますから、車窓の景色がよくない。しかし、大人は子どものために我慢をする。そんなことは世界の常識であります。
(スライド135)
 子どものために大人は我慢をする。さて、街路樹です。その地方に生えている高い木、中ぐらいの木、低い木、草を植えて、緑地を結んでいる。この街路樹で十分ではないか。イチョウ並木の必要性は全くないんじゃないか。細々ながらもこういうことをやって野生生物が守られ、街の中に野鳥も飛んでくるようになるわけであります。
(スライド136)
 これはドイツの大都市の真ん中にございます都市公園であります。都市公園の中にドバトではなくて、野鳥がこんなにいるということ。つまり、生態系を考えた都市公園をつくっていることがわかります。
(スライド137)
 その現場でございます。野生のガンが繁殖している公園が、各所にあるのであります。日本には残念ながらこのような都市公園は1つもないのであります。
(スライド138)
 この住宅街。住宅街ということは当然子どもがいるわけです。子どもがいるということは自然体験が必要ですから、多くの自然を残していく。これもビオトープです。多くの生き物が住む空間、そういう場所を残しておいてやるということであります。
(スライド139)
 あと残っているのが庭でございます。これは芝生。モノカルチャー。園芸品種、これでは将来世代の財産になりません。そこで、こういう庭は極力やめましょうと、市役所は盛んに旗を振っているのです。どういう庭がいいかといいますと、その地方に生えている野草を大切にする庭です。
(スライド140)
 こういう庭にしたらどうだといっている。それを考えてつくった民間の庭でございます。池をつくればトンボもカエルも一緒に住める。こういった庭がいいんだといっているところであります。
(スライド141)
 あと残っているのは屋根であります。屋根も自然にした方がいいのではないかということでこうなる。
(スライド142)
 個人住宅や集合住宅。
(スライド143)
 学校でございます。このように野草におおわれているのであります。こういう学校で初めて環境教育ができる。さて、この学校の運動場をちょっと見せてもらいました。
(スライド144)
 これであります。こういうところを子どもは飛んで歩く。転んだってけがはしない。トンボもいるし、チョウチョもいる。こういうことであります。
(スライド145)
 子どもの手を引いて、お母さんが自然体験をさせているところであります。街の随所にこういったところがある。当然舗装はしない。土の大切さを教えなければいけませんし、この実は食べてもおいしいよ、この実はジャムにするとおいしい、この実は食べると下痢をするよ、だめよ、毒なんだよ。そういうことをお父さん、お母さんが子どもに教える、これは義務であります。そういった会話があることによって、親子の関係が大変温かくなりますし、当然温かい家庭ができます。自然体験ができ、温かい家庭ができる、つまり、子どもの感性がしっかりした、ということは、この子どもはもうちょっと大きくなると、このお母さんを一生面倒見てくれるだろう、こういうことになるわけであります。
(スライド146)
 さて、アメリカに行ってみましょう。今アメリカがどういうことをやろうとしているのか。
(スライド147)
 これはアメリカのワシントン州、この州を流れているエルワー川という川がございます。
(スライド148)
 そこに、ダムをつくった。ダムをつくったということは、当然そこを遡上する魚が川をのぼれないということになる。そうなると、魚の種類によっては絶滅する可能性がある。そこでこのダムを取り壊すことを決定したわけであります。ダムを取り壊す。アメリカにおきましては、既にダムの時代は終わったといっておりまして、これからダムを取り壊していく時代を迎えているわけであります。
 そこで、では、アメリカではエネルギーはどうするんだということになります。原子力発電は基本的には増やさないということを決めています。それから、あと1つの火力発電、これも二酸化炭素を出しますから、当然増やさないということを決めています。水力発電を減らすということになる。じゃ、アメリカのエネルギーはどうなるのであろうか。これを実際に環境局に行って聞きましたところ、担当官がいとも簡単に答えてくれました。「アメリカは大きなダムをつくって持っていますから、5年や10年は大丈夫です。しかし、将来的にアメリカ国民も質素な生活をする以外に方法はありません」こういったのであります。
(スライド149)
 これはフロリダを流れていますキシミー川です。以前はこういう蛇行している川だった。それを真っ直ぐにしてしまった。真っ直ぐにしたということは、雨がいきなり流れて行ってしまう。ということは、生態系が変貌してしまいますね。これはまずいということがわかった。そこで、クリントン政権は、一昨年の4月からこの川を埋め戻して、もとの蛇行した川に戻すということを決定し、その工事が始まっているところであります。
(スライド150)
 そこに住んでいますトキ、ホワイトアイビスを絶対滅ぼしてはならないと、厳命を下しているところであります。
(スライド151)
 フロリダでございますが、将来的にはこの図の全体の黒い部分を、全部自然で残して、こういうふうにつないでいく必要がある。将来的には約55%ぐらいの自然を残してやらないと、持続的な発展はできないであろうということをNGOが提案しています。100年先に目標を達成する必要がある。
(スライド152)
 それを行政が受けまして、現在土地を買って、赤いところが戦略的に生態系を残すのに必要なところです。フロリダは日本の約4分の3ぐらいの面積でございますが、この中で現在自然を守るために、東京、神奈川、千葉、埼玉に匹敵する面積の土地を買っています。今後さらに買い足して、将来世代に渡してやるということを決めているのであります。
(スライド153)
 日本の場合はどうなったのか。日本には日本のトキがいる。絶滅が決定をしております。既に、多くのトキがこのようにケースの中に入ってしまった。こういうことになるわけであります。
(スライド154)
 そういう中で、日本の公共工事は今何をやっているのか。東京湾のアクアラインを見てもわかりますように、今もってこういった工事をやっている。しかも、この工事、1兆3000億円かかっています。膨大な金であります。15キロ、この道路の上に1万円札を縦に2枚並べて敷き詰めたお金と同額でございます。そのお金、もちろん今の大人が払うならまだわかる。30年後の子どもたちにも払わせるんです。あと四十数年で石油がなくなってくる。つまり、あと20年後に石油は暴騰するだろうということはほぼわかっているところです。30年後の子どもは普通にここを車で走ることは恐らくできない。そういう中で、こういった道をあと6本もつくろうという日本の政府であります。明らかに投資先が違っているのではないかと思わざるを得ないところであります。
(スライド155)
 民間になりましたJR東海、スピードをジャンジャン上げるのですが、同時にますます電気を食うのであります。これから電気を減らしていかなきゃいけない。つまり新幹線のスピードをこれから下げなきゃいけない。それなのに、なぜ上げるんですか。
(スライド156)
 スピードを上げますと、当然大問題を起こすことはドイツが証明しました。ドイツの新幹線、大事故を起こしました。日本だっていつ起こすかわかりません。スピードを下げれば、それだけ被害は少なくて済む。エネルギーも少なくて済む。なのに、100キロ、200キロ、300キロと上げていく。これは明らかに大問題であります。ところが、JR東海はこういっている。
(スライド157)
 「日本にのぞみあり」といっている。(笑)望みはないのであります。
(スライド158)
 まして、膨大なエネルギーを食う、こういったリニアモーターカーなんて、絶対に走らせてはいけない。将来世代の財産がますます減るだけであります。時速500キロで走るからいいだろう。だれがそのエネルギーを確保するのです。大変な問題であります。
(スライド159)
 オランダ政府が近年全国の農家に配布したポスターであります。「NATUUROP DE AKKER」と書いてあります。つまり、オランダは農業国でございます。全部農地にしてしまう。しかし、それはまずかった。将来世代に遺伝子はない。そこで、タカが住むような一級の自然を子どもたちに渡してやろうじゃないか。農地をどんどん減らして自然に戻しています。アメリカも既に全米農地の10%を自然に戻しました。日本はまだ1カ所もそんなことをしていないのであります。自然の大切さがわかったときに……
(スライド160)
 本当の日本の夜明けが来るだろうということになるわけであります。これでスライドは終わりです。



 これからの国づくり、まちづくりというものの基本がおわかりいただけたものと思います。まさしく環境問題を考えない都市計画はあり得ないということでありますし、国づくりはあり得ない。環境問題というのは最大の問題であります。これを理解した上で、どうまちづくりをするのか。どうグランドデザインを描くのかということをきちっとすべきであります。
 これから始まります五全総におきましても、そのことがほとんど理解されておりません。結果として、またわずかに残った自然を破壊することが予測されているわけでございまして、将来世代の日本がこのままいきますと、暗たんたるものになるということがよくわかったと思います。これからは多くの野生生物と共存する社会をつくる必要がこざいます。
 間もなく食糧難が来ることももはやわかっているところでございまして、まず、自然をどこに固まりで残してどうつないでいくかということを、きちっとグランドデザインで描くことが一番であります。
 2番目、農地をきちっと守っておくことであります。
 土地関連開発、道路をどこへつくるか、建物をどこにつくるか、これは3番目の問題でありまして、今まで日本はそれを逆にやってきた。大変な問題であります。
 21世紀は環境の時代でございます。それを大きく変えることが必要だということで私の話を終わります。ご清聴ありがとうございました。(拍手)



フリーディスカッション

司会(谷口)
 どうもありがとうございました。
 少し時間がございますので、ご質問その他ありましたら、どうぞご遠慮なくお願いいたします。質問のおありの方、いらっしゃいましたら、挙手をお願いいたします。

山口(旭川市東京事務所) 
 1つだけ、疑問に思ったというか、お教えいただきたいと思います。
 先ほどから、地域を越えて生き物を動かしてはいけない、北海道のサケを関東に持ってきちゃいけない、アメリカのブラックバスを日本に持ってきちゃいけない、そういうお話をお伺いしました。しかし、一方で、グランドデザインというお話をされて、自然生態系を残すためには、点在する自然を地域を越えてネットワークをしなきゃいけない。先ほどのスライドではヨーロッパの例を挙げられて、国を越えてネットワーク化する。何か、相反するような気がしてならないんです。ネットワークをするということは、みずから生き物を、地域を越えて、国を越えて移動する手助けをしているのではないかという感じがしたんですが、いかがなものでしょうか。

池谷
 例えば、ブラックバスが自然の中で、自分で太平洋を越えて日本に来ることは不可能なんです。陸続きの場合には、例えばオオカミが越えて動くということは昔からあって、全く自然なことです。つまり、自然の中での昔からの移動を手助けをしてやることは当然いいことです。ある山があって、ここから向こうに行けないということも、当然地理的な条件の中で起こっていることですから、それぞれの中で、片面を残してつないでいくということは、最低限やる必要があるわけで、その範囲のことは自然でございまして、全然問題がないわけです。例えば、北海道のマイマイカブリが本州に来ることは、本来であればできないことですから、それを人為的にしてしまうということは大変問題が多いということです。
 それは植物においても同じことがいえますし、動物についてもそういうことがいえますし、最近で大きな問題は、生物農薬というのがございまして、例えば、トマトの受粉は、本来手でやっていた、それが面倒くさいし、うまくいかないということから、西洋オオマルハナバチというのをヨーロッパから導入しました。これが北海道で繁殖が始まってしまったということがございます。日本にもマルハナバチは14種類いるわけです。それを利用することを考えないで、いきなり外国から持ってきた、大変まずいことでございまして、生き物を動かすということは、その地域に影響を与えるかどうかをきちっと調査をした上で、もしやるならやる、産業の中で使うなら使うということになるので、そういったあり方が今問われているところで、今後ますます問題になってくる。農薬が必要なくなるということから生物農薬という話がございますので、そうなってくる。
 また、産業という中でほかの国から持ってくる。これも大変大きな問題、日本の生態系に影響を与えるということがもしあれば、産業であっても持ってきてはいけないということになる。
 つまり、将来世代の生物の多様性をどう守るかということがベースになるわけですから、そういう中でエコロジカルネットワークすることは大変意味があることだ。本来の形であれば意味があることだということになる。

浅川(北区企画部企画課)
 大変おもしろかったです。一つ疑問の点ですが、植物の話で、その土地の植物を植えてやるのがいいという話がありましたが、例えば、その土地というのはどれくらいの広がりを持っているのかということです。なかなかできることではないんだけれども、北区の小学校でも、土がない。それを何とかしていこうと思った場合に、表面のアスファルトだか何だかをひっぺがすわけです。ひっぺがしても、その下にある土は、先生のおっしゃる土壌というやつではないんですね。どこかから土を持ってくるのか。持ってきたとして、その土にその土地の植物を植えてやる場合、その植物をどこから持ってくるのか。そういうことを考えたんです。
 多分、北区の神谷とか王子とか滝野川の植物は、別に王子や神谷でなくても、地続きで、気候もみんな同じで、文京区でも練馬区でもどこにでもあるのでいいのかなと思うんですが、それの広がりがどのくらいあるのかというのが直接的な疑問の点です。
 あと、具体的に、例えば小学校の校庭のアスファルトをひっぺがした後に、土壌と呼ぶに値する土をどうやって回復させていくことができるのか。ちょっと具体的な話ですけれども、そこら辺をどうすればいいのか。役所にいて、自分がすぐにできるわけではないけれども、仮にそういうことができるような職場になった場合、どういう手順をたどっていくといいのか、その辺を教えていただけるとありがたいと思います。

池谷
 私も北区の審議委員をやっていたことがございまして、見せてもらいました。本当に土がないんです。300坪の畑が1カ所しかなかったような気がします。完全に自然を破壊してしまったところをどう復元をするのかということになるわけです。基本的には、町のなるべく近いところから野生生物を持ってくる。あそこは荒川がございますから、昔は荒川のはんらん原だったわけです。したがって、荒川の上流部分の近いところから持ってくるということが一番安全ですね。なくなっちゃった場合はホタルなども、ある場所のホタルがいなくなってしまったときに、そこにホタルを再導入しようとした場合、その同じ水系の上流側の一番近いところから持ってきて復元するということがいいわけです。
 土壌の関係も、えらいところから土壌をポンと持ってきてしまう。例えば茨城県から持ってきてしまうというのはあまりいいことじゃなくて、北区の近く、同じ水系のはんらん原の中の土壌を持ってきて、植物を植えることによって、堆肥をつくって徐々に土壌を増やしていくということが重要で、いきなり30センチ、ドンと持ってきても無理があるわけです。一回壊してしまったものは、時間をかけてこれからつくっていく以外にはない。それは北区のなるべく近い、できれば上流側の近いところから土も植物も持ってくるということがいいわけです。

増沢(鹿島建設建設総事業部)
 河川の改修、河川の堤防、ダムは、自然災害の防止という目的でつくられるもの、あるいはつくられたものが多いと思うんですが、それを今回の環境破壊という点からはどういうふうに考えるのか。認められるのでしょうか。

池谷
 これは大変大きな問題がございます。つまり、それははっきり申し上げて、我々が将来世代のためにどこまで我慢ができるかという問題になるわけであります。堤防をつくって、河川の本来蛇行しているものを真っ直ぐ直線化するということは、将来世代から見ればえらい迷惑なことです。ところが、我々にしてみれば、降ったものを一気にどんどん海に流してしまえば安全だし、特にスーパー堤防あたりをつくれば、かなり安全だということになるわけです。
 したがって、我々にとってはいいことだとはなるんですですが、将来世代から見れば、かなり違ってくる。どこまで堤防を通すのかということになる。現在、例えばヨーロッパ、特にドイツあたりでいわれていますのは、もはや近自然工法というものも限界がある。野生生物は、本来のものにはうまく復元がしにくい。そこで、最近では近自然ではなくて、再自然化、つまり、川は自分で蛇行していくんだから、幅だけとって、つまり堤防を後ろに引くわけです。引いてやって川を自由に動かしてやる。これがいいんじゃないか。
 最近アメリカでもそういった考え方が出てまいりまして、1993年のミシシッピーの大はんらんがございました。あの後、アメリカも河川管理を大きく変えておりまして、堤防を引いてやろうじゃないかと。その中を自然の状態にもっていく。そうすると、川は自分で蛇行していく。しかも、堤防というのは高ければ高いほど安全というものではないわけです。当然引いてやれば、堤防は低くて済むし、しかも安全に水の管理ができるということから、そっちの方向にいく。そうしますと、そこにうちが建っているわけですから、うちをどかさなきゃいかぬということになる。そこで、アメリカではバイ・アウト政策、土地を行政が買って住居を外に移転してやっています。
 ヨーロッパでもライン川をその方向でいこうということで、現在検討が始まっているところでありまして、将来世代の財産をどう守るかということで、そういった方法で我々現在世代が少し我慢をして、堤防を引いてやろうじゃないかという考え方。そっちの方向に今いっているわけです。
 さて、日本の場合、将来世代のためにどこまで残すの。我々としてどこまでもらうか。その議論がこれからなされなきゃいけないわけで、少なくとも今までは将来世代のことを考えてこずに、自分の安全性だけでバッとやってきた。これはまずかったということはほぼわかった。じゃ、どうすればいいのか。どこまでいけばいいのかということがこれから議論になるというところじゃないか。方向としては、一時的には近自然に行き、それから次は再自然化に行く。やっぱり自然の状態に戻す以外に、本当の河川の管理は難しいんじゃないかといわれている。
 一昨年、ポーランドと西ドイツの間のオーダー川という川が大はんらんを起こしました。あの現場に私も行ったんですが、そこの担当者がいっている言葉、実はミシシッピーもそうだったんですが、「堤防というものがいかに不安全なものだということを国民が忘れている、それが最大の課題です」というんです。堤防というのはいつか必ず切れるものだということです。あれは安全なものじゃないということをきちんと国民は知っておく必要がある。安全だと思うから、いろんな財産を堤防の脇にくっつけちゃう。一端破堤すると、大被害が出てしまう。日本におきましても、これだけ堤防をつくっても、被害総額というのは落ちてない。それを見ましても、堤防で日本の国民の財産を守るというのはかなり難しい。膨大なお金もかかる。しかも、将来世代の財産を失う。よくないだろうという考え方が当然あるわけです。どこまでいくのかというのが、これから議論のあるところです。

司会
 私の方から一つ、質問させていただきます。
 大変深刻で重要な話だと思いますが、この問題についてはやはり、今のお話しのように、どこかで国民的な合意というか、価値観というものが基本になるような気がします。そういう点で、アセス法もこれからようやく施行されるという段階になっていますが、もっと根源的なところで、自然環境保全の問題については、日本の場合どういうふうに運動が進められたらいいのか、どんな展望を持ちうるかということですが。

池谷
 欧米が日本のモデルになるか、ちょっとわかりませんけれども、欧米の環境先進国といわれている国々を見てみますと、何となくわかるような気がするんですが、NGOがこれから国を引っ張っていく時代になるだろう。ヨーロッパにおきましても、アメリカにおきましても、ここまで環境問題を引っ張ってきた、また国づくりを引っ張ってきたのはNGOでありまして、NGOが行政と話し合い、また議会をロビー活動で引っ張ってきた。そのことによって国が大きく変わっていったということは事実で、日本におきましても、自分の街は自分で守るということになりますと、だれが守るのか、自分の街を知っているNGOが守る以外にない、それが引っ張る以外にないだろうと思うわけであります。
 日本の場合、行政が、かなり引っ張ってきたことは事実ですが、現状を見てみますと、大変難しいということがわかります。限界に来ていまして、じゃ、議会が、議員さんが日本の将来を引っ張れるかといいますと、残念ながら、今の日本の議員の方々は、そこまでの勉強ができていません。例えば、この間改正されました河川法、今回の農業基本法の改正を見てみましても、あの法律をほとんどの議員さんが見られません。見ていません。そういう中で動いているわけですから、日本の将来を議員さんにゆだねるわけには恐らくいかない。行政も、性格上、自分が飛び出すということはできません。そうすると、NGOが頑張る以外にないということでありまして、21世紀はNGOの時代だというのはそこにある。自分の街は自分で守るということをきちっと考えて、市民がボランティアをしてNGOをつくる。NGOが勉強して社会を引っ張る。それしかないという感じがしております。

司会
 どうもありがとうございました。
 ちょうど時間となりましたので、これで終わりにしたいと思いますが、最後に池谷さんに拍手をお願いいたします。(拍手)


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