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第147回都市経営フォーラム

長寿時代の住まい・まちづくり
ー福祉の連携の視点からー

講師:児玉 桂子氏
 日本社会事業大学教授


日付:2000年3月22日(水)
場所:後楽国際ビルディング・大ホール

 

1.長寿時代の住まいの選択

2.長寿時代の住まいの条件

3.地域で自立した生活を維持するための生活支援サービス

4.在宅福祉サービスとまちづくり

バリアフリーのまちづくり

地域福祉とまちづくり

 フリーディスカッション




 ご紹介いただいた児玉でございます。
 ご紹介いただいたように、私は、最初は住居学の勉強をして、それからしばらくしましてから、こういう福祉の環境では第一人者でいらっしゃった、去年の5月に亡くなられた日大の総長をなさっていた木下先生のところに長くおりまして、そこで学位を取ったりしております。その後、東京都の老人総合研究所というところに15年ほどおりまして、今の福祉の大学に移って7年目になります。そういうことで、福祉の人に居住環境を教えるというのは、建築の人に教えるのとは全然違いまして、ユーザーに対して話をしていくというので、福祉の人には環境のことを翻訳できて、環境の方たちには福祉のことを、その接点を翻訳できるというので、あまり外で講演しない私も、この1〜2週間に3度ぐらい、居住環境と福祉の連携というテーマで話す機会をいただきました。そのことには、私自身もとてもいいたいことがあるものですから、珍しく引き受けたりしております。2つの領域が関心を持ち合うというのは大変うれしいことだなと思っております。
 ただ、お手元に話す題目が4つほどありますが、流れはきょうこのようにお話ししようかなと思っております。
 まず、こういう住まいやまちづくり、それと福祉の連携、こういうものが非常に今関心を持たれたその背景は何かということですが、まずそのことに触れた方がいいと思いましたので、その点から話を始めたいと思います。
 まず、福祉の分野の人が、なぜ今こんなに環境に興味を持ち出したかということですが、それは新聞などで、もう間もなく始まろうとしている介護保険が非常に大きなインパクトになっています。介護保険の精神は、あれは施設サービスから在宅まで含まれているわけですけれども、在宅重視というのが強いコンセプトとしてあります。そしてもう1つ、自立支援というのがあります。この2つが環境と大変かかわる重要なキーワードだと思います。
 福祉の方々は、介護保険のスタートに向けて、この1年間ぐらいいろいろと試行的に、地域のケアを必要とする高齢者の方々のケアのアセスメントなどをしていたわけです。それで、はっと、その方たちの住む住宅を見たところ、この日本の住宅というものが介護保険の器にならないということに大変強く危機感を持たれた。
 福祉の方々は、今までは対象者しか見てこなかったんですね。私が福祉の大学に来たきっかけは、4年制の福祉大学で初めて介護福祉の養成のコースがつくられたということですので、介護福祉というケアの一番先端で仕事をする学生たちと、実習なども一緒にしたりするんですが、福祉の人は、ともかく人を見るんだけれども、その周りの環境を見ない。今まではともかくマンパワーで何とかやろうと考えていたわけです。その人たちが実際に住宅の中に入って見てみますと、段差だらけで狭くて、特にお年寄りの場合は荷物を山のように部屋の中に積み上げてという中で、どうしたものだろうと、はたと困ったというのが1つだと思います。
 2点目としては、老人ホームから退去せざる得ないお年寄りたちが出てくるということをお聞きだと思います。特別養護老人ホームという、これまでの寝たきりの方々を対象にした老人ホームに行ってみると、意外に元気そうにすたすた歩けるようなお年寄りが老人ホームの中に結構いるということに気づかれると思います。住宅事情や家族介護の問題などで施設に入らざるを得ないお年寄りたちがいらして、施設は終の栖の役割を果たしてきました。
 介護保険は介護認定というものをするわけです。専門家たちが、まずは何十項目かの項目をチェックしていって、それをコンピューターにかけて、介護を全部で6段階、要支援というレベルと要介護1から5段階までに振り分けるわけです。コンピューターで出た結果を、今度は審査会議で、専門家たちがその結果が妥当であったかどうか検討をします。その結果、大体今特養のベッドは30万ぐらいありますが、その1割近い2万人ぐらいの方たちが老人ホームを出ざるを得ない、自立と認定されたということです。ただ、その方たちの自立というのは、ああいうふうに本当にバリアフリーで24時間ケアがあって、お食事も出される、そういう中での自立なので、その方たちが急に地域の住宅に入って自立して住めるわけではないわけです。
 これまでの老人ホームというのは、ある意味では非常にアバウトな面もあって、寝たきりからそういう自立の人まで引き受けて、終の栖の役割を果たしていたわけです。その出される人たち、一体どこに住まいを求めたらいいんだというので、また福祉の人たちは大変だと思い始めたわけです。
 それから、そういう緊急的な課題だけではなくて、福祉の方々は、人しか見ないというところがかなりありますが、少しずつその辺も変わってきまして、環境というものの重要性、環境によって自立度が全く違うということを認識する方々も徐々に増えてきています。
 私がおります介護福祉コースでは、毎年実習報告書を学生たちにつくらせるんです。特に3年生は全員が特別養護老人ホームで、継続的に週に1度ずつ通って半年とか1年実習をします。そのときに個人個人のお年寄りに合ったケアプランをつくっていくのと同時に、施設環境の環境アセスメントをするんです。我々は質のいいサービスは、いいケアプランと環境、その2つが合わさって初めて提供できるというメッセージを送っています。それは日本ではまだまだモデル的で、ちょっと胸を張っています。そういうところがあるわけです。ただ、そういうことを、福祉の方たちも大変認識してきまして、日本の居住環境に目をやって、おやおや環境の専門家の方たち、ちょっとどうしてくれるという声を大変上げているわけです。
 一方で、環境の分野、建築やまちづくりの方々の方から、特に、行政、建設省のお役人なども、建設省は5年ごとに住宅建設五箇年計画を見直してつくっておりまして、2001年からに向けて、今ワーキングをやっていますが、その中で、建設省のお役人の口から、バリアフリーは当然、近ごろは「高齢者の見守り」という言葉が語られる時代になってきています。地域社会の中で自立して安全に暮らしていくということを考えたときに、福祉との連携が欠かせないということをかなり実感してきているのではないでしょうか。
 3点目は、市民レベルというのがあります。これは我々1人1人もそうなんですが、先日も厚生省と建設省の方が一緒になりまして、高齢期の住宅に関する大規模な調査をしたんです。私もその調査を改めてこの間見ていたら、今まで介護を経験したことがありますかという質問に、全国レベルで、5割近い方が経験あると答えて、私も余りの高さにびっくりしました。考えてみれば、多分お1人お1人が身近でそういう経験を思い浮かべられると思います。
 そんなふうに我々にとっても非常に身近な問題になってきて、特に市民に対するいろんな実態調査をしますと、一番の心配事は老後の福祉と住まいがトップに出てくる時代で、その2つのことを、市民レベルの生活では、行政であるとか、専門家の専門性などとは別に、本当に縦割りじゃない感覚でとらえています。
 さらに、非常に意識の高い市民も出てきておりまして、今回私がここでお話しすることになったのも、実は日経新聞の森野記者、建設省の都市局の方や伊藤滋先生もその中心人物ですが、ご一緒に、「安全・安心まちづくり女性フォーラム」というのを3年間やってきました。生活者である女性の視点からまちづくりを見ることによって、縦割りではない、生活に密着した視点が出てくるのではないかといって始めて、全国で二十数地点の女性を中心にした市民グループが安全・安心について、それこそいろんな取り組みで加わってくださいました。
 市民の方たちの意識の高さ、目覚めた市民の方たちの意識の中にこそ最近の新しいものがあると私は思いまして、私もこの数年ばかりは、毎年1つ、私もユーザーの側に立った研究や活動を必ずしようと固く誓っているんです。そういう意識の高い市民たちが非常に熱心に老後のことを考える。これは男性より女性の方がどちらかというと多いというか、非常に現実的に考えていらっしゃると私は思います。そういう方たちに、老後の問題、住まいや福祉、そういう話をしたら、お墓はどうなんですかといわれて、福祉や医療だけではなくて、その先のお墓のことまで考えているということに驚かされました。市民レベルの生活感覚で、町や住まいや福祉の連携を意識している方たちが出てきているといえます。
 そのようなことがきょうのテーマの背景にあるだろうとまず整理をいたしました。



1.長寿時代の住まいの選択

 それでは、このレジュメに沿って行きたいと思います。私は、今まで住宅とか、福祉施設の環境などにより深くかかわっておりまして、町の方は、大学でそれを専門にしなかったので、自分自身専門ではないと思っていますが、このフォーラムのタイトルが都市だから、もっと都市を話さなくちゃいけないのかなと思いつつ、きょうは来ましたが、町の核は住宅なので、まず住まいから始めたいと思います。
 1番目は「長寿時代の住まいの選択」ということで、バリアフリーや何やかんやという前に、我々はどこにだれと住むのか、まずそのことが非常に問われている時代だと思います。
 これまで国などが進めてきた住宅政策というのは、「住宅すごろく」という言葉がよく使われますけれども、下宿から始まって、民間賃貸住宅や公営住宅に住んだり、ともかくその上がりとして、40代ぐらいに郊外の1戸建てというのが高度成長期の住宅すごろくだったと思います。今や40で家を持ったとしても、平均年齢が女性の場合は80を過ぎているわけですから、残りの40年をどう暮らすというのが非常に大きな課題になってきているわけです。
 レジュメにも「住み続けるか転居か」と書いてありますが、日本でいわれてきたことは、高齢期というのは住みなれたところに住み続けるのが一番いいことだし、多くの人がそう望んでいるということがいい続けられてきて、それを支えるような形で政策もやられてきたわけです。
 今は、確かに住み続けたいというのが基本的な欲求ではありますけれども、転居しようという積極的な転居派も、かなりの割合になってきているんです。従来と違うところは、以前の転居派というのは賃貸住宅層で、例えば民間の賃貸住宅で、年をとったら貸してくれそうにもないから、公営住宅に移りたいとか、居住型の老人ホームに移りたいという感じだったんですが、今やそれだけではなくて、持ち家層でも、転居してもいい人たちが出てきました。どういうところに転居していいかというと、これも、私は高齢期の住まいの問題を女性の視点からという1つの研究の軸があるんですが、これは男女非常に違っておりまして、女性は友達がいて、便利でにぎやかなところに移りたい。男の人たちは緑のあるところ、ゴルフしたり釣りしたりして過ごしたい。かなり転居先が違う。現実派とまだ夢見ているような状況というのがあるんじゃないかと思います。
 今は、自分の家を持っていても、高齢期に適した住宅に転居して住みたいという方たちがかなりの割合います。今まで郊外に家を持つということは、郊外ですと交通の便が悪かったりもしますが、あれは年をとった後、子供が一緒に同居してくれて、ちょっと足の便が悪いといえば、子どもが車で送るとか、買い物はしてくるとか、同居する子どもがいたからこそ、ちょっと不便でも郊外の1戸建てが有効だったといえます。今や日本も高齢者のみで暮らすのが主流になってきていると思います。先ほど申し上げました厚生省と建設省がやった大規模調査も、40代、50代ぐらいまでは結構同居率が高いんですが、高齢になるに従って、同居率が低下をしてきて、ひとり暮らしや夫婦のみの人たちがふえてくるんです。
 75というのを1つの境として、75歳以降になりますと、再び同居率が高まってきて、持ち家を子供が相続したりするんだと思いますが、持ち家率が低下する。全国レベルの調査ですから、これは大都市でも地方でも、高齢になったときに、高齢者のみで暮らしていくというのが、75歳ぐらいまでは一般的である、そちらの方が主流であるということを頭にたたき込んだ方がどうもいいようですね。それは決して都会だけではない傾向になっています。
 そんなことで、転居を積極的にしてもいいという人たちがふえているわけです。私たちの女性の視点から高齢期の住まいを考える研究の調査対象は仕事を持っている女性なんです。ケアつき住宅などに住んでもいいというのは、男性よりも女性の方が比率が高いようです。
 そういうふうに、自主的に転居してもいい。特に定年退職などを境にして、もう一度生活を見直してという積極派というのがいる一方で、いろんな事情で転居を余儀なくされるという人たちも結構多いんですね。
 これは総務庁管轄の財団である「エージング総合研究センター」が高齢者の転居に関しまして、大規模な調査をしたことがあるんです。九州から仙台あたりまでの5つぐらいの大都市。そこで高齢者がどういう理由で転居したか、いろいろ調べたんですが、75歳以上の人たちの場合、市内での転居、市に流入したり、流出したりといういろんな形があるんですが、その方たちの3割から4割が、介護の必要であるとか、病気であるとか、そういうやむを得ない転居もしていた。
 そういう意味で、住み続けるか転居かということが、今までみたいに住み続けることがいいこと、うるわしいことだという状況ではなくなってきたといえます。日本の高齢期の生活は、アメリカなどに比べると、家族の中で非常に安定していたというイメージがごく最近まであるんですが、そこら辺が大きく、いろんな意味で変わってきているということがあると思います。
 それから、いつから高齢期の住まいを考えたらいいかということですが、私も今の大学に来る前は東京都の老人総合研究所にいましたので、ともかく高齢期になった人をつかまえて、いろいろと高齢期の研究をしていました。女性の視点から高齢期の住まいを考える研究を7年ぐらいやっているんですが、その研究をやり始めたきっかけは、連合という労働組合の人たちが、近ごろは女性でも定年まで勤める人たちが多くなって、定年退職とともに、居住が非常に不安定になる女性たちが多いということを問題にされ、それをあるとき厚生省の女性官僚の方が、それは高齢期の問題、老人福祉の問題だから、少し研究なさったらと研究の機会をつくってくださいました。
 この研究から私が非常に学びましたことは、ともかく高齢になってから高齢期の住まいの問題をやったのでは、遅いということがよくわかって、近ごろでは、私どものグループは35歳から高齢期に向けて住まいを考えようといっています。この間それをいいましたら、建設省の人たちがみんなで、くすくす笑うんですが、建設省は今は50歳から考えようといっております。
 2年ほど前、デンマーク人と結婚して、デンマークで文化交流の仕事をしている私の友人がおりますので、「女性の自立と住まい」という観点で、小さなツアーを組んでもらいましてデンマークに行きました。そのときに友人のお嬢さんがちょうど大学院生で法律を勉強している。デンマークでは当然のことなから、親から自立をして、100 年ぐらいたった古いアパートの上の方の階に住んでいます。大学院生の未婚の彼女に対して、銀行はローンをしてくれているんです。ローンの仕方というのが、まず通帳を見まして、小さいときからお小遣いをずっと積んでいる、すると、この子は堅実な子だと銀行は評価をするんだそうです。女性が働くのは当たり前で、働き続けてローンをちゃんと返すだろうというので、大学院生、しかも女性にローンをしてくれて、そこから住まいの第一歩が始まっているわけです。一方、私のゼミのほとんどの学生が老人ホームの職員になっていくんです。彼女、彼らは、介護福祉士と社会福祉士という2つの資格を持っているんで、非常に強いんですが、今年はどういうわけかみんな親からの自立志向が強くて、かなりの学生がひとり暮らしを始めるといっています。学生たちは、勉強の成果を生かして、ともかく給料の3割を家賃が超えたら大変だから、6〜7万のアパートを探しましたというんです。ただ、彼らがそこに月々7万払ったとしても、それは使い捨てです。それが蓄積されることはない。デンマークの場合には、今彼女が買ったアパートにずっとそこには住み続けない、何年か住んだら次に売ると思うんですが、ローンを払っていた分がちゃんと次につながっていくんです。そこが非常に大きいところで、個人の心がけだけでは済まない問題があるなと痛感しています。
 そんなふうに、これまで住宅すごろくというものが、40ぐらいで1戸建てを持てばいいという単線であったものから、40からどういう道を選ぼうか、転居もあるし、住み続けることもあるし、住み続けるならば、リフォームの問題も出てくるだろうし、転居するのも、早いうちにケアつき住宅に転居するのか、それとも地域で頑張って、もうだめだというときに、じゃ、老人ホームに入るのかと、日本でもいろんな選択肢が出てきているんです。複線化してきて、どこに住むのかということが非常に大事になってきています。
 私たちも、今女性グループで、情報提供できるような住まいのシナリオを考えているんですが、結婚している男性や、女性も主婦になるなり共働きになるなり、ともかく世帯を持てば、住まいの心配はそれなりにいいでしょうけれども、単身で女性がいった場合、非常に高いキャリアを持っていたとしても、日本では安心した住まいのシナリオは描けない状況なんです。
 そういう意味では、長寿時代の住まいの選択、住まいのシナリオというものは、世帯を持っていれば大丈夫かなといったけれども、きょうのような話を市民グループでしたときに、一番最終的なターミナルなとき、死を迎えるような終末期のときに、日本の状況は非常に悲惨ですね。病院に行けば、いろんな線をくっつけられちゃってスパゲッティ症候群になり、決していい形の死を迎えられるわけじゃない。近ごろは、医療保険を少し見直そうとはいっていますが、老人も病院を3カ月ぐらいすると追い出されてしまうという状況もありますし、一番最後のところが保障されてないわけです。
 そんなで、どこに住むかというのは、日本ではまだシナリオもできていないし、こんな長寿を迎えるのは、我々の親の世代か我々の世代が日本で初めての体験ですので、モデルとして参考になるようなものがなかなかないわけです。そういう意味でいろいろやられてはおりますけれども、まだ模索の状況にあるということだといえます。



2.長寿時代の住まいの条件

 それから、次に「長寿時代の住まいの条件」と書いてありますが、ここでは住宅の寿命という話と、バリアフリーという2点をお話ししたいと思います。
 長寿時代の住宅というと、まずはバリアフリーということを、最近は多くの方が思い浮かべられると思いますが、ある意味で、それ以前に住宅の寿命、耐久性ということの方が大きい意味合いがあるのではないかと思っております。
 住宅が取り壊されるまでの期間が、日本では平均25年だといわれているそうです。アメリカでは50年、イギリスでは75年ということだそうです。私も今自分の家をリフォームして、できてまだ20年はたっていない、十数年ぐらい。かなりのお金を投入しまして、1階部分だけはかなりバリアフリーにしていますが、木造の住宅ですが、この家が自分が生涯住めるかな、ちょっとどうかなという思いをしつつ、こんなにお金を投入するなら、思い切って壊して建て直しちゃった方がいいんじゃないかと、まだちょっと心の中に迷いがありながら、大体でき上がって、今週の日曜には転居できることになっています。
 やっぱり木造住宅ってだめなのかと京大の建築にいる友人にいったら、RCだってだめだといわれました。その友人は最近大阪の千里ニュータウンを見に行ったそうです。もうコンクリがボロボロで、RCだってだめですよといいます。いかに日本の住宅は、フローとしてつくられてきて、ストックになるものがないかということを痛感します。それが今非常に大きな問題であると思います。
 住宅を資産にして、武蔵野市などから始まった資産活用というものがありますけれども、そういったものも住宅に価値があってこそできる。日本の今の住宅の耐久性の低さ、ローン払い終わったら住宅の寿命も終わる、このことが住宅費として1人1人の生涯生活費として重くのしかかってきているわけです。
 これは国も非常に重要な課題として挙げておりますけれども、住宅の寿命というものがまずは大変重要である。それは長期的な住宅の課題かもしれません。
 住宅のバリアフリー化ですが、このことにつきましては、多くの方が知識を持たれていらっしゃると思います。住宅のバリアフリー化というのは、3つのポイントがあるんじゃないか。それから、住宅のバリアフリー化にかかわっているのが、建設省と厚生省と、プレハブなどでは通産省がかかわっているという3つの省庁、国や自治体、個人というのもあるでしょうし、そういうのがどういうふうに役割分担して、本当のバリアフリー化を進めていくのかというのが完全に整理し切れていないといえます。
 まず、バリアフリー化に人生で3時点あるという、最初の時点は家を新築するような中年期に基本的な高齢対応にするということ。これに関しては、ご存じのように、1995年に「長寿社会対応住宅設計指針」というものを国が打ち出しまして、それに対応して、住宅金融公庫などの公的融資も、バリアフリー等をすることが金利が低く借りられるというふうにいたしましたので、ある意味では新築住宅に関しては、それなりの道筋が立ってきているといえると思います。
 ただ、問題点をいいますと、1つは、日本の場合は法律でバリアフリーにしなくちゃいけないと決めたわけではないわけです。ご存じのように、スウェーデンなどでは、既に1975年の時点で新築するすべての住宅を車いす対応にするということが法律で決められて、強制力を持っているわけです。日本の場合はそうではなくて、一般の住宅に関しては、融資で誘導するという形をとっておりますので、バリアフリーにするより金ぴかにした方がいいという人はそういう家を建てても自由なわけです。
 ただ、それは個人の自由なんですけれども、バリアフリーをした家で、ケアサービスを提供するときは非常にスムーズにいきますので、介護する人の負担も少ないし、短い時間で同じようなサービスをできるわけです。それがバリアだらけで、多分建築家の方たちの好きなスキップフロアとか、あんな家で介護しようとしたら大変なことになるわけです。けれども、今の介護保険では環境条件を考慮しませんので、趣味でお建てになったスキップフロアであるとか、いろいろな住宅の中でケアをするということは、マンパワーのお金が非常にかかって、個人にとっても社会にとっても、その点で非常に損をするんですが、そういう家を建てるのも個人の自由ということに今なっているわけです。
 もう1つ、このバリアフリーの水準は、基本的には日本のバリアフリーは歩行障害レベルです。今の介護保険は寝たきりになっても、24時間ホームヘルプでも在宅で過ごしてもらう。実際は家族がいないとできない状況ですが、そういう方向になっておりますので、今の長寿指針の住宅では十分ではないレベルだということが2点目です。
 それから、3点目は、個人の住宅とか公営住宅や公団住宅などに関しては、制度化がなされてきたけれども、一番抜け落ちているのが民間の賃貸住宅です。21世紀の初頭になりますと、高齢者の人口の構造が、高齢のみだとか、高齢夫婦だけという世帯がふえてきますので、今の状況から推計すると、民間賃貸住宅に住む高齢者の割合が大幅にふえると予想しています。そうしますと、今のように民間賃貸住宅がワンルームであったり、非常にバリアの大きかったり、水回りが狭くてとかいう状況だと、大変住みづらくなってきて、民間賃貸住宅のバリアフリー化をどうするかというのが、今建設省のワーキングの中でも、大変大きな問題になってきています。民間賃貸住宅でバリアフリー化をしたり、高齢者も排除しないとかしたという民間賃貸住宅には何かメリットを与えようとか、そんなようなことも出てきております。
 今、住宅のバリアフリー化に関しては、新築のときには、公庫ですと約1000万円、リフォームですと500 万円融資が出ますので、融資のレベルではかなりの金額になってきていると思われます。
 それから、2つ目のポイントは、前期高齢期、これから高齢期をどう過ごそうかとちょっと考えるぐらいのとき、私ぐらいの世代から定年退職を目前にするぐらいのときに、家を見回して、私も山ほど捨てましたけれども、整理をしたりして、そのときに、少しリフォームをする、これは予防のリフーォムだと思うんです。別に手足が不自由でなくても、敷居を取り払ったり何かすることによって、ちょっとつまずいて転倒するとか、そういうことが非常になくなりますので、予防的なリフォームをすることによって、高齢期になりましても、非常に大きな効果があると思います。
 最近、千葉県の我孫子市が話題を投げかけております。我孫子市では、定年退職をした男性の方々がボランティアグループをつくって、5年ぐらい前から大工仕事で、住宅のリフォームをしているんです。この5年間で約2000本の手すりをつけたということです。ちょっと足腰がというぐらいのときに、DIYヘルパーという方たちが家に行って、身近なおじさんたちですから、気軽にコミュニケーションをして、ここに手すりをつけようというふうにするんですが、それが高齢者の方々に非常に満足をしていただいているという結果が出ております。費用としては、人件費を加味しておりませんので、改造の多くがたかだか1〜2万円なんです。こんなに効果があるのかと今大変注目されています。元気のあるときに予防的なバリアフリーをしておくのが大変意味があると思います。
 第3点目が、障害対応のバリアフリーで、このあたりが介護保険の対象になるわけです。介護保険になりますと、住宅改修に20万円のお金が出ることになっています。20万円でできることは、大したことではないんですけれども、今までお金がネックでそういうことをなかなかしにくかったという面がありますので、非常に広く広まっていくし、特に福祉の方たちが環境の重要性ということに目を向けてくださる、大変いい機会でもあると思っています。
 ただ、介護保険というのは、ご存じのように、まずそういうのが必要だと思ったら、本人や家族が自治体に申し出るわけです。そうしますと、自治体からいろいろ調査に来て、調査をして、ケアプランをつくる。そのときに一番力を持っているのがケアマネジャーといわれる方々で、看護婦さん、福祉の人、薬剤師さんもいれば、歯医者さんもいればという、医療系の方たちも受験資格があるので、全体的に環境という視点が全くない方たちがそういうことを決めるかなりのイニシアチブを持ったわけです。これからはこのケアマネジャーの方たちをどういうふうに教育するかというのが非常に大きなポイントになっております。私も、そこら辺に力を入れていきたいと今思っているところです。
 介護保険ができたけれども、その前は、こういう障害対応のバリアフリー、リフォームはどうなっていたかというと、個人の住宅は個人の資産だから、バリアフリーのために直接お金を投入するということはできないというのが国の態度ですから、国は融資しかしていないんです。
 自治体はこの点に関して、どの自治体も、県、大きな市レベルですと、7割ぐらいの自治体が独自に住宅改造のための資金援助をしてきております。それが50万とか100 万ぐらいの金額です。もちろん収入制限があるとか、いろんな制限はつけます。一方で、各自治体が財政の非常に厳しい中で、介護保険がちょっとやってくれるから、うちの自治体は後退しましょうということも出てくるのではないかと、専門家たちは心配して、ちょっとウォッチしておかなきゃとみんないっているところです。
 もう1つ、日本の住宅は25年で平均して取り壊されてしまうということですが、高齢者が住んでいる住宅が非常に老朽化しているわけです。手すりをつけるどころの話じゃなくて、老朽化の問題と障害のバリアとが一体化しちゃった状態にありますので、住宅としての基本的な機能に欠けているところと、身体機能に対して対応できない部分、それを個人や公的機関が一体どうするのか。福祉と住宅サイドがどうするのか、そこら辺の整理がまだ全然ついていない状況です。
 これらに関して、イギリスですと、住宅の基本的な性能、例えば暖房が十分でないとか、水回りがどうであるとか、そのことに関しては、建築サイドが持つ。身体機能の低下に対したリフォームに関しては福祉サイドが持つというふうに役割分担をしている。
 例えば、デンマークなどでも同じように、ケアが必要なときはケアのアセスメントにやってきて、この方にはこんなケアが必要だとアセスメントする。同時に、環境のアセスメントシートがありまして、例えば、モップが非常に短くて、ホームヘルパーの人が掃除をするときに、腰痛になってしまいそうだとか、ベッド回りに物がいっぱいで、ちゃんとした姿勢でケアができないとか、掃除が大変しにくいようなフカフカカーペットを敷いているとか、幾つかの項目があって、そういうものをチェックして、その下に、「あなたの住宅は介護者にとっての労働環境です。ですから、こういう条件をちゃんと改善しなければ、ケアサービスの提供はできません」と、はっきり書いています。
 日本でも、少なくとも20万円というお金が使えるようになったわけですから、そのくらい強制的に福祉サービスの中に環境アセスメントを何とか入れてほしいというのが、私が今重点的にやっている研究と関心なんです。



3.地域で自立した生活を維持するための生活支援サービス

 それから、3点目では、「地域で自立した生活を維持するための生活支援サービス」と書いてありますが、建設省の高齢期の住宅に関するワーキンググループでは、高齢対応の住宅の話は、一方でバリアフリー、一方では生活支援サービス、その2つが両輪であるという状況で話をされているところに来ております。
 そして、何でそういうふうになってきているかということですが、介護保険が出てきますと、介護保険のメニューは決まっているわけです。いずれも、ある程度の心身障害が出て、本当にケアが必要にならなければサービスは提供されないわけです。地域で住んでいるお年寄りの中には、ごみ出しが大変になったとか、お部屋がごちょごちょになって住んでいて、大変不衛生だし、事故を起こしそうだしとか、または家に閉じこもりがちになって全然出てこない、こういう高齢者もたくさんいます。昔だったら、家族がみんな見守っていたようなものも、今やそういうことを家族がなかなかできない状況になってきているわけです。
 そういうケアサービスに含まれないサービスをどうするんだということが問題になってきているわけです。具体的にその背景には、1つ公営住宅に関していえば、特に大都市部では公営団地の居住者の5割以上が高齢者だという団地も出てきているわけです。そういう中で、団地のお掃除をどうしようとか、団地のコミュニティーの維持が難しくなってきているというのが1つあります。
 2点目の背景として、シルバーハウジングといったような高齢者専用住宅を日本でも、住戸数にして1万を超える数が全国にあると思います。開設後10年になります。日本の建設省は、住宅は自立した人のためといっていたんですが、入るときに自立していた人だって、10年たてばかなり虚弱な状況になってきているわけです。そこにはライフサポートアドバイザーと呼ばれる、非専門家の方たちが生活援助員として住み込んだり、または巡回したりしています。そういう非専門家の人の手に負えないような虚弱化が始まってきています。
 3点目は、先ほどもいいましたように、21世紀の初頭になりますと、単身や夫婦のみの高齢者世帯が非常にふえて、その方たちが民間賃貸住宅に住まざるを得なくなってくる。住めるようにしていかなければならないわけです。今日本の民間賃貸住宅はかなり空いているそうです。でも、高齢者には貸したくないんですね。もしそこで倒れたらどうするんだ。家賃を滞納したらどうするんだ。保証人を立てたとしても、保証人自体が高齢になっていたりしてということもあって、貸したがらないという状況がありますので、大家さんが貸してくれるような形での支援を考えなければいけないという背景がありまして、生活支援サービスということが今クローズアップされているわけです。
 具体的に中身は、家賃が払えないとか、火災が起きるとか、そういうものに対して何か保険のようなもので対応しようとか、ちょっと気分が悪くなったときに、緊急対応をしようとか、生活相談であるとか、見守り、ケアサービスにどういうふうにつなげていくかということ。一番難しいのは、意思能力が低下してきたときに、その方たちの財産管理をどうするのか。住宅に住むのが難しくなったときに、勝手に老人ホームに入れちゃうということはできないわけですので、ご本人の意思能力が低下したときに、どこにどう住んでもらうか、そういう問題が一番最後に残されているわけです。
 そのようなことに関しても、成年後見制度という法律ができてきたので、割と対応しやすい状況になってきてはおります。ただ、なかなか難しくて、民間だけではやり切れないし、といって、公共機関が全部引き受けるのも大変だしというので、何か中立的な、公共的な性格を持った、生活支援をしたり、身元保証みたいな役割をするような機関が本当は必要になってきたと思います。例えば、川崎市などでは、住宅部局と福祉部局がタイアップしまして、今申し上げたようなメニューに関して、公的に対応していくということを始めたところもあります。
 今まで建築サイドは物をつくることに対しては大変情熱を傾けてきましたが、そこでの生活の管理はほとんどやってきていないわけです。外国では、公営住宅がもともと低所得層向けの役割を担ってきているので、公営住宅には必ずソーシャルワーカーがいるというところもあるようです。日本では、住宅サイドで持っている唯一の人材が、高齢者向けの専用住宅「シルバーハウジング(国)」「シルバーピア(東京都)」にいます管理人さんのような方、国は「ライフサポートアドバイザー」、東京都は「ワーデン」と呼んでいます。それが唯一の人材だったわけです。
 こういったものを今後どうしていくのかというのが大きく問題になってきて、今までこういうライフサポートアドバイザーとかワーデンという人は、高齢者向けの専用住宅だけに張りついていたわけですけれども、こういう方たちが10年間に蓄積してきたノウハウで、公営団地全体に対してサービスを提供しようかということを考えるようになってきています。
 または民間賃貸住宅をいかに高齢者に住んでもらえるようにするかというのが1つのテーマになっていますけれども、高齢者優良賃貸住宅制度というのを平成10年から建設省はスタートしています。それはある一定のバリアフリー仕様で、緊急通報設備をつけて、高齢者に20年間貸すといった民間賃貸住宅に対して、建設費の一部を援助して、そこに入居する高齢者には家賃の一部を援助するという仕組みです。ことしの施策からか、民間賃貸住宅で、いわゆるライフサポートアドバイザーという役割をする人をもし置くならば、そのお金を厚生省の方で援助しよう、民間に派遣する生活支援員みたいな人に対して公共的なお金を出すという、いってみれば、大変画期的なことだと思いますが、そんなこともスタートしております。どちらかといえば、ソフトの部分について今お話ししました。
 もう1つ、生活支援サービスの場としてということですが、公営住宅などの建てかえとか、いろいろありまして、公営住宅も建てかえるような団地は、居住者の高齢化も進んでいるという大変頭の痛い問題を住宅部局は抱えているわけです。今まで公営住宅の中にある、例えば集会室は、大体居住者専用であったりして、地域に開かれていなかったわけですし、中には団地の規模が小さいと、集会室も非常に小さくて、あまり使いようがないというものもあった。そういうものに対して、給食サービスの拠点となるぐらいの設備をつけた集会室を建てたいと、例えば東京都の住宅局などは今いっています。建てて、福祉のNPOの方たちに提供しますので、そこを使って給食サービスか何かやって、団地の高齢者の活性化に寄与していただいたり、またはそこを拠点にして地域にサービスをする、そんなふうに使っていただいてもいいという声も出てきております。
 また、公営住宅をグループホームに使うということも制度的に今可能になってきています。実際、そういうふうにつくられたのが、神戸の震災後の復興住宅がいろいろつくられましたが、公的住宅の一部を痴呆性のグループホームにしたというケースも出てきています。
 今住宅部局の方も、老人ホームから出されてしまう2万人近いお年寄りをどういうふうに引き受けたらいいのかということを考えてはいるんです。そのときに公営住宅をグループホーム化して、そういうところで引き受けるのはどうか。そういうことをもしやりたいところがあれば、ぜひ一緒にやりたいと考えているようです。なかなか難しいのは、国のレベルや都とか県のレベルぐらいまではそう考えたとしても、市区町村レベルもそれなりのお金を出したりしなければなりませんので、それぞれ財政がなかなか厳しくて、上の方で描いている絵が下の実現レベルまでなかなかスムーズにおりてこないというところはありますけれども、そこら辺はいろんなことを考えているようです。
 それから、公営の建てかえなどのときに、これは後のまちづくりともつながってくると思いますけれども、老人ホームなどをそこの中に建てていこうということも出てきています。今までは制度的に、公共的な団地の中につくれる福祉施設は決まっていて、保育園はよかった。ですけれども、通所型の施設ぐらいまで広がってきて、最近は収容型の老人ホームまで、広まってきています。今までは建てる戸数は減ってしまうので、なるべくそういうものは入れたくないとか、小さいものならいいけどというのが住宅サイドの態度でしたが、近ごろは住宅サイドの態度は大きく変わってきているという感じがいたします。
 福祉サイドの方たちは、住宅がこんなにバリアだらけでは、介護保険のときに困ったということを非常に痛感していますが、じゃ、公営団地を活用して、そこで地域サービスを展開しようとか、またはそこにグループホームをつくろうというところまでは、いま一歩入ってきていない。こんなに環境サイドが福祉に対して接近したがっているということがまだ十分伝わってないんだと思います。
 住宅サイドはそういう福祉の人が蓄積してきた生活支援というプログラムをもっと住宅の方に提供してほしいということを今非常に思っているところです。
 それから、先ほどの住宅サイドの生活支援員といった方たちの専門教育が今後は必要になってくるわけです。そういうものに対して、福祉はこの10年間、福祉の専門職制度を非常に進めてきましたので、ヘルパーの教育、介護福祉士の教育、社会福祉士の教育、そういう教育プログラムをずっとつくってきていますので、そういうものが環境の中での生活支援の専門家の教育にも役立っていくことは間違いないことで、そのあたりでも連携ができていくだろうと思います。



4.在宅福祉サービスとまちづくり

 そのようなことで、福祉と住宅は、建設省と厚生省が近年、お互いに職員の行き来をしておりまして、かなりコミュニケーションができてきて、言語が通じるように結構なってきています。ですけれども、福祉とまちづくり、福祉と都市計画というか、そこら辺はまだかなり遠い関係にあるんじゃないかなと思っております。
 先ほどもちょっとご紹介いただきましたけれども、『新時代の都市計画』という本を伊藤先生が中心になっておつくりになりました。この本はパンフレットにもありますように、全6巻。この本をつくるときに、先生方が考えられたキーワードが、分権社会、市民参加、市街地の再構築、環境共生、安全・安心、高度情報化ということですが、その安全・安心というところを福祉や高齢化を核として非常に期待をかけていらっしゃるんですね。私はまちづくりの専門家ではありませんが、この「安全・安心のまちづくり」の編者にさせていただきましたが、町のバリアフリーや福祉サービスとまちづくり、そういったことがこういう都市計画サイドでつくられた本の中に、本格的に取り入れられた初めての本だと思います。町と地域福祉といったあたりでの共同のいろんな研究、プログラム、そういうものはまだまだ非常に少なくて、なかなか書ける材料自身も十分ないというのが、本づくりをしての悩みでした。
 この本は、第1部、第2部という3部構成になっていますが、その中の第2部が、少子高齢社会の安全・安心ということで、福祉を中心にしたまちづくりについて触れているわけです。私自身、福祉と住宅の接点をどんなふうな軸を立てていくかというのは、かなり整理がついているんですが、町づくりと福祉をどんなふうにつなげていくかというのは、非常に迷いながらというところもありました。今回の講演などもあって、私も改めて考えてみまして、福祉と住宅の接点を考えたときに、1つの接点がバリアフリーというハードのことで、もう1つの接点が生活支援ということだったので、同じようにその切り口で町と福祉を見ることもできるなと思っているところです。



バリアフリーのまちづくり

 その1つ、バリアフリーのまちづくりということですが、今バリアフリーのまちちづくりに関しましては、ハートビル法という、これは通称ですが、そういう法律があります。もともとの名前は、高齢者、障害者等が円滑に利用できる公共建築物の促進に関する法律とか、そんなような感じの長ったらしいんですが、それをハートビル法と呼んでおります。これは1994年につくられたものです。運輸省はあまり宣伝してないようですが、ごく最近交通のバリアフリー法が国会を通過したはずなんです。そういう意味では、町と交通のバリアフリーの制度化がやっとスタートをし始めたという状況です。
 ハートビル法というのは、非常に限定された法律で、建築基準法の中にあります、特定建築物という不特定多数の方たちが使う公共建築物、それを対象とする法律で、劇場、百貨店、役所とかいう公共建築物をバリアフリーにするための法律です。これは入り口の段差とか、手すり、扉、トイレ、ごく限られた幾つかのところを、車いすでアクセスしやすいようにとか、通れるようにとか、幾つかのランクでするようになっているわけです。
 これは拘束力のある法律ではなくて、努力義務の法律です。そういうふうにすることが望ましいということです。これはそういう不特定多数の方が使う公共建築物ですから、これから外れているのが学校、オフィスビル、駅、道路、公園、住宅もそうですし、かなりのものがこれからは外れているわけです。ですから、各自治体がその後、福祉のまちづくり条例という形で、今いったようなものを含めまして、もう少し条例化をして、かなり身近な小さい規模のものもバリアフリーにするようにという法律をつくっています。これらの制度はどちらかいうと、新築のものに対応していくので、既存の町の建物になかなか適用されなくて、ちっとも進んだ感じがしないような気がいたします。
 今そういう中で、「ユニバーサルデザイン」という言葉も出てきておりまして、バリアフリーデザインとユニバーサルデザインと一体どういうふうに違うんだろうとお思いの方もいらっしゃると思います。私もユニバーサルデザインというものに対して深くかかわってはおりませんけれども、歴史的に見てみると、バリアフリーという言葉が初めて使われたのは1970年代です。国連のそういう会議の中で使われたんです。それ以前に、アメリカでは1960年代の後半に、公共建築物をバリアフリーにするためのアクセス法ができているんです。
 1960年代に考えたことですから、そのころ中心になっていたのは車いすの方たちで、その車いすも、どちらかといえば、アメリカの傷痍軍人のような、非常に能力は高くて、下肢は使えないけれども、上体はすごくて、それこそパラリンピックに行くような、そういう方たちがまずは念頭にあってスタートしたことですので、やはりバリアフリーデザインは、車いすの方たちにかなり寄っている。日本でもその後30年、40年たっているわけですから、車いすの人に使えると同時に、一般の人も使えなくちゃねという精神はかなりの人たちが持って進めておりますけれども、スタートがそういうところにありますので、視覚障害の方とか、いろんな方たち、車いすに絞り過ぎてスタートしているということが多分あるんだと思います。
 ユニバーサルデザインは、最近出てきたことで、ともかく世の中にはいろんな人がいるんだ、だから、みんなが使えるようなデザインを考えなければいけない。みんなが使えると同時に、デザインも美しいし、経済的にもペイするものであるという視点も入れなければいけないんだというのが、ユニバーサルデザインのポリシーだということですが、いってみれば、時代背景にかなり影響されたものであると思うんです。今はそれこそ町の構成者のかなりが高齢者であり、障害の方たちもいるわけですし、社会の構成員が非常に大きくこの30年、40年の間に変わったということが、この2つのデザインポリシーを決めてくるもとにあるんだろうなと思っております。
 町のバリアフリー化というのは、日本では非常に進んでいない。1戸1戸の建物がバリアフリーになっているということで、私もこのことを学生に授業で話しましたら、学生がびっくりして、ああ、まだ点でしかないんですねといわれて、私も改めて思ったんです。日本ではまだ線にもなっていない状況ではないでしょうか。日本の町をバリアフリー化するのはかなり大変なことだなと思います。
 それから、バリアフリーデザインもあまり洗練されたものではなくて、町を歩かれると、点字ブロックが何であんなに黄色くなくちゃいけないのか。設計者の人は本当に黄色い点字ブロック、大嫌いじゃないかと思うんです。デザインに映えなくて。時々床の色と同じような点字ブロックにして、ポツポツだけつけているようなのが見られます。
 私の大学は清瀬にありますが、駅前にはフロアと同じ灰色の点字ブロックで、夜になると、赤く電気がついてというすごく素敵な点字ブロックができています。私の学生で、非常に熱心に、視覚障害者の観点から町のバリアフリーを卒論でやった学生がいました。私も彼女から学んだんですけれども、視覚障害者で全盲という人は非常に少ないんです。弱視の人が非常に大きい割合を占めています。ですから、色のコントラストが非常に大事らしいんです。デザイン的には、床と同じ色は一般の人にとっては見かけはいいのですが、ああいう目立つ色であることは大変必要なことのようです。清瀬駅前の点字ブロックのように夜に赤い電気がパチパチついて非常にきれいなんですけれども、あれもだめですねというんです。周りのネオンとか、お店の明るい暗いの中に溶け込んじゃって、あのパチパチ赤いのは弱視の人にはほとんど役に立たないんじゃないかと彼女にいわれて、あ、そうか、と学生に教えられました。
 そんなように、これは町のバリアフリーだけではないですけれども、建築家全体が心をすべきことだと思います。建築というのはつくった後、なかなか評価をしません。これは高齢対応やバリアフリーだけではないと思います。つくりっ放しというところは全体的にあると思います。バリアフリーのデザインに関しましても、あちこちにいろいろされていますが、それを使ってこういう障害にはよかったのか悪かったのかという評価をして、フィードバックすることがあまりされていない。デザイン的にも本当に美しくなく、いかにもあるぞという感じのものが非常に多いと思うんです。
 それから、段差の切り下げなんかよくありますね。横断歩道のときに段差を切り下げて軽いスロープにしていく、ああいうのも車いすの方にはいいんですけれども、視覚障害の方には、ここに段差があって、次に道路になるぞというのがわからなくなるので、あまりよくないといわれています。それから、ハイヒールをはいている女性も、雨の日なんかあそこでステーンと滑ることがあるし、まちのバリアフリーデザインというのは、まだまだ改善して、考えていく余地が大いにあると思います。
 制度的には法律もできたなという感じですけれども、実際に使う側になってみますと、ユーザーたちにとって本当にそれが使いいいのかというものにはまだ達していないところが大いにあると思います。
 それから、最近町で非常におもしろい試みとして、イギリスからスタートしたショップモビリティーという試みがあります。ただ町をバリアフリーにしただけでは、高齢者、障害者が町に出てショッピングなどしにくいんですね。棚の高さであるとか、通路の幅とか、こんな小さな文字じゃ見えない、手が届かない、町の中は自分で車いすを押せなかったら、電動車いすとか、電動の三輪車とかという、もうちょっと町を使うノウハウをいろいろ工夫をする。日本ではショッピングだけではなくて、美術館も行ってほしいということから広げて、「タウンモビリティー」という言葉が出てきておりますが、そんなふうに町を使ってもらうソフトを開発していこう、そんな動きも出てきています。



地域福祉とまちづくり

 それからもう1つ、町の中で生活をどう支えるかという話になるわけです。そのときの要素になるのが、福祉施設と施設を拠点とする在宅サービス、その2つだと思います。
 介護保険が4月から始まって、介護保険のもう1つ上位概念としては、老人保健福祉計画というのをどこの自治体もつくっておりまして、自分の自治体ではどのくらいのニーズがあって、それに対応してどれくらいのヘルパーさんを養成したり、施設を建設をして配置をしたりという青写真をつくっているわけです。
 大変な数の福祉施設がつくられていますが、そういったものは都市計画上の都市施設にはなっていないと伺いました。地域の中にいっぱいそういうものがつくられてきたものの、市民の生活の資源には十分位置づけられていないんじゃないかと思っています。
 施設というのは福祉の方以外にはなかなか入りにくいところですね。近ごろは近所にもできてきているけれども、どういうことをやっているのか、ちょっとのぞいてみたいと思われる方もいるかと思いますが、何といって、見学させてくださいといったらいいのかわからない。なかなか中をのぞきにくいところだと思います。
 ただ、この「新時代の都市計画」シリーズの中で「市街地の活性化」という本が出ておりましたけれども、その中で前の建設省の都市局にいらした方が、各自治体がまちづくりをしていく中で、病院とか、福祉施設、図書館、そういったものをかなり郊外に郊外にと出していくまちづくりをここのところ進めてきた。だから、町が空洞化してしまって、自治体の考えがまずいんだと、大変怒っていらっしゃいました。確かに、福祉施設も、多くの方にとっては、まだまだ身近じゃない。東京でいえば、八王子あたりにあるのが福祉施設というイメージが多いんじゃないかと思います。
 福祉施設をどうやって町の中につくるかというのは、知恵を出していかなければいけないのではないかと思いますが、この本の中でも、例えば、都市部ですと、合築という言葉があります。保育園があって、そういうものの建てかえのときに上に老人のデイサービスを乗せるとか、または東京の中央区とか、都心部では学校と老人ホームを合築しているのが出てきております。そういう異なった種類のものを合築することによって効率化を図ろうとか、土地の取得が難しいところでも、身近なところにそういうものを確保できるとか、違った年代層の人たちがうまくいけば交流できるかとか、過疎の町で福祉施設を核にしてまちおこしをしていこうとか、いろんなメニューをこれからもっと考えていかなければいけないのかなと思っております。
 NHKの朝ドラで、「すずらん」というのをやっていましたね。主人公の方が、子供のために何かをしたいというので、保育園をつくろうとして、周り近所の方たちに同意を得たときに、1人絶対反対という人がいて、その計画が暗礁に乗り上げたという話をしていました。私も大変びっくりしたのですが、ああいうふうに福祉施設ができるときには、近隣何百メートルかの全員同意を得なければいけないということは、今でも制度として生きているそうです。
 そういうのがある一方で、ある自治体では、それは非常にけしからぬ。人権問題であるので、福祉施設の建設に対して反対することはまかりならないと、それを条例化するとか新聞に出ていました。これもかなり極端な話で、いまだ福祉施設の近隣全員合意というものは生きていて、もちろんそれに対する反対もあるわけです。そこの地価が下がってしまうとか、まだ老人はいいけれども、一番の反対に遭うのは、知的障害者とか精神障害者の収容施設ですね。福祉施設を核にしてまちづくりといっても、昭和20年代の制度が厳然と生きているんです。
 福祉施設を核としたまちづくりに関しましては、中からいろいろ見ている立場として、大変難しさがあることを感じます。
 例えば、今の福祉施設は基本的には4人部屋ぐらいが基準なんです。個室化していない。福祉施設をやっている人が、自分は福祉施設の寮母をやっているけれども、自分は老人ホームに入りたくないといっている人たちはいっぱいいます。学生が実習に行ってびっくりするんですけれども、おむつをかえている隣で、カーテンだけがあって、その隣で平気でおせんべいをポリポリ食べているんですって、最初のころ学生がびっくりして来るんですが、施設の人たちはそんなのにびっくりしていてはサービスできないので、だんだんなれてしまうんです。
 そういう意味で、施設での生活は、ノーマライズという言葉がありますけれども、やっぱりノーマライズされていないということは確かなんです。施設にいる若い障害者の方たち、そういう方たちの性の問題を卒論で取り上げた学生もおりました。そういうノーマライズされていない施設が隣にやってきてまちづくりの核となるというのはなかなか難しいところがある。
 今まではそういう施設が町の隅に押しやられたり、または東京の場合、都内に施設をつくれないんです。地価が高いというのが1つ。それからもう1つは市民の反対運動。ですから、東京の知的障害者の施設のかなりは、長野県や東北の方につくられ、あちらでももう受け入れないといわれています。その子供たちは親と離れて過ごさなければならない。福祉というのはそういうレベルなんですね。ですから、介護保険で語られているのは福祉でも本当にいい部分なんです。
 例えば、知的障害者の施設などで虐待の問題が新聞に取り上げられます。ご飯も食べさせないでしつけをしたとか、よっぽどひどいんじゃないかと思いますが、実は一生懸命やっているんです。そういう施設は人里離れたところに配置されていて、皆さん熱心で、住み込みのような状況で生活をしているわけです。そうすると、やはり特殊な世界になってきてしまって、社会から隔離して社会の目が届かないところで、本人たちにとってはそれが大きな価値観になって、このことを直してあげないといけないというんで、一生懸命仕置きをしたり食事をやらなかったりという虐待をしてしまったりする。
 福祉の立場からいえば、福祉施設を町の中に置いてもらうということは市民の目が届いて、あれ、おかしいよといってもらう。または、そういうところで孤立化したり、隔離された世界にならないように、ショッピングにも行くとか、映画館にも行くとか、町の人が交流して、いろんな交流が出てくれば、ノーマライズされた生活になってくると思うんです。
 まちづくりと福祉というのは、今介護保険の対象となった給食サービスやホームヘルプとか、そういうあたりは非常に接点が持ちやすく、そのあたりから始まり、知恵おくれの子供や精神障害の人たちが町の中でできるような仕事をしたり、そういう人たちのワークショップで仕事をしたりということがごくごく自然にされてくるようなレベルにまで達するのは、まだ時間がかかると思います。
 そういう高いレベルを一どきに望むのは大変なことだと思いますので、今一番大きな盛り上がりを見せております介護保険のあたりで、町との接点を持っていくのは、ぜひとも探っていきたいなと思います。
 先ほどは施設を核にしてという話をしましたが、この本の中で給食サービスをまちづくりの核にしようというのを野村知子さんが書いています。高齢者にとっては食事は非常に重要なもので、それがひとり暮らしになったりすると非常におざなりになってしまう。それが健康のもとでもあり、自立のもとでもあるわけです。ただ、食事というのはごく普通のものなので、介護保険でお金を支払われるメニューには位置づけられていないんです。
 日本でも食事サービスは進んでおりまして、特に食事サービスにはボランティアグループとか、最近はNPO、そういう市民がとてもかかわっています。日本の食事サービスは、どちらかといえば、ある拠点でつくって、それをボランティアなどが高齢者の家に運ぶという、デリバリー型が多いんですが、アメリカなどでは会食型の食事サービスが大きな高齢者の生活の中心になったり、コミュニティーのポイントになったりしています。
 食べに出てくることによって、人との交流が持てて、出てくるとてもいいきっかけだと思うんです。そこでちょっとしたレクリエーションを一緒にやったりして、地域の教会であったり、空き教室であったりというものを都市計画の中にばらまいていって、食事というものを通じて元気のいい高齢者になってもらって、元気のいい町になってもらおうというのが野村知子さんの主張です。
 在宅サービスというのは、ホームヘルプであるとか、ショートステイという短期入所であるとか、いろんなサービスがあるけれども、確かに食事サービスというのはそういう意味ではコミュニケーションのいい道具になりますので、それをまちづくりの核に置いておくというのは、とても意味があるのではないかなと思います。
 この本の中でも具体的な幾つかの取り組みを研究している方や、または実際に実践していらっしゃる方に書いていただいたりしています。まだ接点を探っているというところでしょうか。町と福祉サービスはこれからの課題ですが、何しろ介護保険は在宅福祉重視ということですので、福祉のサイドからいっても、まちづくりの人たちが福祉サービスというものに対して関心を向けて、福祉施設を核にしてまちづくりをしてみたいとか、そういう関心を持っていただくのは大変うれしいことで、ここら辺はぜひともこれからいろんな連携をとっていくところではないかと思っております。



フリーディスカッション

谷口(司会)
 どうもありがとうございました。
 少し残り時間がありますので、何か、質問その他お持ちの方はご発言いただきたいと思います。

花井(光と風の研究所)
 先ほど来、先生のお話を伺って、実は私も自治会の会長をやっているものですから、大変頭の痛い問題がございます。まさに建てかえの問題でございまして、三十数年たっている会館がございます。土地が50坪、世帯が約1900ございますので、皆さんが使うにしてもなかなかうまく使い切れないということで、建てかえに当たって、お年寄りとか子供さんたちとか、いろんなお話がありまして、例えば、ふろ場をつくれとかいう話も出ているんです。こういう会館みたいな、公共といっても、先ほどのお話にある場所とは違いますし、地域の場としてどういったものを、最低限、まずどんなものを考えなきゃいけないかということで、参考になることがございましたら、教えていただきたいと思います。よろしくお願いします。

児玉
 それは団地の中にあるんですか。どういう会館。地域の特徴とか。

花井
 団地ではございません。賃貸が多いところで、四十数年前は周りが田んぼだったんです。戸建てが多い。もちろん中にはマンションもございます。最高で100 世帯ぐらい入っているマンションございます。あとはせいぜい数十世帯のマンションです。あとは戸建てがとても多いという環境でございます。

児玉
 ある程度公共的な資金ででつくられた会館のようなものですか。個人ではなくて。

花井
 そうです。

児玉
 今、福祉サービスをする人にとりまして、場所を確保するというのはなかなか大変なんです。福祉サービスの、NPOだったり、民間で始められた方たちも、利益が人件費をカバーするだけ、ペイするかどうかというのはまだまだなかなか見えないところなんです。介護保険で一見すばらしい市場があるようですが、あの市場はまだ寝ているところもあるわけです。
 例えば私が理事をしています老人ホームの施設長はすごいアイデアマンなんです。私の老人ホームは特養がありまして、そこに通所のデイサービスセンターがついていて、在宅介護支援センターという地域のいろんなサービスをマネージするところがある、どちらかというと、福祉系の収容や在宅のサービスを持っていますが、看護ステーションを持っていないんです。在宅サービスをするときは、福祉の人と保健、看護の人がセットになるのが非常に大事なんです。看護ステーションを設けたいんですが、これが日本の役所で、1部屋あればいいので、福祉施設の部屋がちょこっとあるんですが、それはけしからぬそうなんです。福祉施設を保健、看護のステーションにするのはいけないそうです。
 そしたら、うちの施設長は、地域の方たちと研究会をしていて、ある方がご自分の家を持っていらして、息子さんたちは全部出ていってしまって、お部屋が空いているので、そこを月4万円で駐車場つきで借りた。その方はたまたま施設長さんのツアーでアメリカに行って、アメリカではそういうふうに一般市民が自分の場を提供してというのを見てきたものだから、私もアメリカみたいなことができて、地域に対して貢献できたというので、まさにそうなんです、その方もすごく喜んでいらっしゃる。
 1つは、そういうNPOだとか、民間の福祉などに場所を提供する。そこはステーションですから、電話がかかってきたり、そこからどこかに出かけていったりするので、人がごちゃごちゃ来て周りが騒がしいというものでもない。看護ステーションとか、そういうものを提供するのも1つ。やはり身近にそういうステーションを持つということは、自分たちの老後にとっては力強いんです。近いからケアサービスを提供してもらえるということは、それだけコストも安くて済むしということで、だから、何かそういうものに提供するというのが1つ。
 それから、公共的なお金がどうかわかりませんが、東京都などでは、ともかく食事サービスの拠点になれるぐらいの、給食の準備ができるくらいの少し立派な台所をつくって、それこそNPOでもいいし、ご自分たちでそれをやられてもいいんです。ボランティアをしてお年寄りに提供する。または週に1度集まっていただく。人を集めるのもなかなか大変で、日本の今のお年寄りたちの社交性は、顔見知り同士は親しいんですが、知らない人たちをどうくっつけるかというのはなかなか難しいんです。でも、お食事というのはなかなかいいんです。ひな祭りの食事会をしましょうとか、行事の何かをやる。ですから、食事の拠点にする。
 地域性がわかりませんけれども、例えば東京都の住宅局も、団地の集会室の建てかえではそのようにするといっています。そのときにぜひとも老人だけではなくて、かぎっ子みたいな子たち、私も働く母親でしたが、働く母親にとっては少子化対策が進んでいる一方で、都心では保育園が統合になって保育園が減ったり、または学童クラブがお金がないので、閉鎖されたり、帰ってきた子供たちがちょっとおやつを食べに来られるとか、そういうことをしてくれないかなと思っています。
 介護保険にならないような、自立支援というあたりが今非常に注目されています。国も介護予防・生活支援事業というのを新しく始めました。大変なケアではない、集まって何かすることによって元気になれるようなプログラム。もっと進めば、今グループリビング事業と東京都はいっているのが、グループリビングというと、いかにもそこに住んでしまうみたいだけど、そうじゃない。まさに今いったような近隣の高齢者の人たちを集めて、お食事を中心にして、週に何日か通ってきてもらって、閉じこもり防止、健康体操するとか、それに対して、グループリビング事業といって、補助金が出る。というようなものもあります。そういう自治体の福祉部局みたいなところと、何かアイデアないかということをお話しになる。
 それから、先日うちの大学の福祉の教授で、川崎の福祉部長を長いことやっていた人ですが、話してたら、そういうところに泊まれるようになるといいねというんです。今同居している高齢者の方々は、お嫁さんに遠慮している人が多いわけです。お嫁さんの方が威張っていて。そうすると、気分転換する場がなかなか難しい。そうそう温泉に行くわけにもいかないですし、友達と歩ける範囲で、よく子供が気分転換にお泊まりに行く、ああいうのの年寄り版という発想らしいんです。そういうのあるといいねといった。私そのことは思ったことがないので、ああ、そういう発想があるのかと思いました。福祉の方からいいますと、いろいろそこら辺のアイデアはあるんじゃないでしょうか。
 意外に、福祉の専門家と名乗っている人よりも、意識の高い普通の主婦や社会的関心のある高齢者の方が、こんなのあったらいいとか、これはよくないとか、アイデアはかなり持っていらっしゃると思います。
 例えば、町田市の成瀬ケアセンターという有名な高齢者のケアセンターがあるんですが、そこはもともといらした女医さんが、お医者さんでできることの限界を感じて、お医者さんの待合室がお年寄りのサロンになっているわけで、これじゃいけないというので、そういうサロンみたいなものを別のところにつくりたい、そんな発想があった。そしたら、町田というのは非常に福祉の進んだ地域で、市民の方たちが集まってきて、お仕着せじゃない自分たちのデイケアセンターをつくっちゃおうと、それこそワークショップをして、絵をつくったり何かをしながらつくり上げていって、それに市が乗って、お金集めから運営から、もちろん公的なお金は入ってますけれども、5000人ぐらいのボランティアが入って、すばらしい。この本の中に入っています。
 そういうものは、お仕着せでつくっても、今の人たちはいいと思わないんです。よそよそしく感じて、幾ら建物がよかったり、幾らいいサービスを提供してあげたとしても、なかなか満足しないし、実際それが地域の人たちのニーズに合っていないということは大いにあることなんです。
 この本の中でも、市民参加という視点を非常に重要視しています。今まちづくりでも、市民参加で活動していらっしゃる方がいます。この本の中では、日本女子大の小谷部先生たちを中心にしたグループが、少子高齢社会に対応した、新しい住まい方を考えようという運動をしていらして、しょっちゅうあちこちでワークショップをやって、こういうのがいい、ああいうのがいいとやっていらっしゃる。そういうことなども書いていただいております。
 お仕着せじゃなくて、地域の人たちを巻き込んで、そのニーズを取り上げて、それでちょっとずつ育てていくというのが、皆さんに一番満足していただける。そういうものの中から、これからの社会に合ったサービスとか、器のあり方が今出てきていて、今までいっていた専門家の専門性というのが見直されているというか、専門、専門といって、何か見落としているものも多いんじゃないのという、改めて専門性というものが問われているところもありますので、いい機会ですので、何かやってみていただくと大変いいなと思います。

谷口
 どうもありがとうございました。
 ほぼ時間ですので、きょうはこれで終わらせていただきます。児玉先生にはご無理をいって、いいにくいお話もお話しいただいたのかもしれません。大変ありがとうございました。最後に拍手をもって終わりたいと思います。(拍手)

参考文献:1)児玉・小出編著:新時代の都市計画第5巻「安全・安心のまちづくり」
       ぎょうせい、2000

     2)児玉編:超高齢社会の福祉工学上巻「高齢者居住環境の評価と計画」
       中央法規出版、1998


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