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第148回都市経営フォーラム

地域・環境づくりにおける
グラウンドワークの役割

講師:千賀 裕太郎 氏
  東京農工大学農学部教授
(財)日本グラウンドワーク協会理事


日付:2000年4月25日(火)
場所:後楽国際ビルディング・大ホール

 

地域とは何か−その有機的性格

滋賀県甲良町での経験から

グリーンツーリズムの価値論

グラウンドワーク(GW)の理念と特徴

英国・日本での展開・GWとしても地域づくり運動

日本の地域特性とGW運動の多様性

グラウンドワークトラストへの道−展望と課題

フリーディスカッション




 こんにちは。千賀でございます。
 今までの都市経営フォーラムの記録を読ませていただきましたら、大変面白いフォーラムがずっと続いておられるのを知りまして、きょうは、そこに呼んでいただけて大変光栄に思っています。
 私がそういう面白いお話ができるかどうかわかりませんが、少しばかりお時間をちょうだいいたしたいと思います。
 きょうは、「地域・環境づくりにおけるグラウンドワークの役割」という題名をつけさせていただいたわけですが、お手元にレジュメがあります。グラウンドワークとは何かということは大体おわかりになっている方が多いのではないかと思いますが、その前に、そもそも地域とは何なのかということを前置きにしゃべらせていただきたいと思います。



地域とは何か−その有機的性格

 「地域」というのを我々はどう考えるのか。随分青臭い話を始めたなと思われる方もいらっしゃると思いますけれども、私は、今の時期、地域とは何かというのを少し掘り下げて考えなきゃいけないんじゃないかと常々思っているんです。というのは、余りにも地域というものの正体というか本質を理解しない形で、地域づくりであるとか、地域おこし、あるいは各種の公共事業、そういったものが行われていて、既に地域はガタガタになっているんじゃないかなという気がしてしようがないんです。
 これは都市でも農村でもそうだと思うんですが、私は、どちらかというと、農村の方をずっとフォローしてきたものですから、農村の問題について少し触れていきたいと思っています。
 あえていえば、地域が解体しつつあるという実感を持っています。地域が解体していく実感は、多分皆さんもお持ちではないかと思います。都市の荒廃と農村の衰退が具体的には起きているわけです。特に農村では大変な勢いで、特に中山間といわれる地域が過疎化と老齢化が進行しております。集落が消滅している地域もございます。

(OHP−1)(資料1)
 これは時代の流れだといってしまえば、そのとおりですが、私は、時代の流れだというには、幾ら何でも忍びないという感じを持っています。
 いろんな山間地に行ってみますと、ここは平家の落人の集落ですとか、特に山の奥へ行けば行くほどそういうところがあります。栃木県の奥でも、会津の奥の方でもそうです。
 この前も南会津の伊南村という村に行ってきました。そこは、江戸時代の始まるころに、ちょうど今NHKの大河ドラマに伊達政宗が出ていますけれども、あの伊達政宗がここまで攻めてきたというんです。それを山城をつくって閉じこもって、最終的には追い返したという伊南村に小さな青柳という集落があります。そういうところが、1600年の初めごろでしょうから、300年から400年近く、あるいは平家の落人であれば、もっと古くから続いてきた。さらには1000年以上続いてきた集落もあると思います。
 そういう連綿として続いてきた集落が、ここ10年、20年、30年のうちに解体しつつある。時間の長さから考えて、今が異常な時代なんだと思わざるを得ないわけです。それまでは、今よりもっと厳しい状況の中でその集落は生き延びてきているわけです。農業生産力だってうんと低くて厳しい状況だったと思いますし、里の病院に行くまで、3時間、4時間子供を背負って歩いていかなきゃいけなかったという時代が40年、50年前にあったわけですけれども、にもかかわらず集落は解体しなかった。
 そこは集落の持っている自己調節能力といいますか、最近は人体ではホメオスタシスという言葉を使いますが、そういったものが恐らくずっと働いてきたに違いない。そういう機能がこの20〜30年のうちに解体しつつある。集落の自己調節能力がなくなってきているということを歴史的に見るならば、わずかここ数十年のことにすぎない。
 どちらを正常と見て、どちらを異常と見るのかは、ある意味で価値観の問題ですけれども、時間のスパンで考えれば、ごく短い間だ。それを異常であると私は思うことにしております。
 そして、そういった中山間農業集落が解体化している、弱体化している要因は一体何なのかと考えてみますと、ここにちょっと載せましたけれども、その要因は間接的要因と直接的要因、内的要因と外的要因とマトリックスで恐らく整理されるのではないかと思っています。
 第4領域にある外的要因である輸入の自由化であるとか、減反政策、あるいは都市文明、文化が卓抜しつつあるとか、都市経済が急激な発展をしていくという外部の条件が、間接的な条件ですけれども、地域にボディーブローのように効いている。そして、中から崩れていくというのが第1領域です。内部から崩れていくという状況にあるのではないかと思っています。
 それは、これまで日本が戦後発展してきた、あるいは開発をどんどん進めてきた、それが日本の発展だという理念に基づいてきたわけですが、その結果、少なくとも農村は今解体しつつある、あるいは衰退しつつある。都市もさまざまな病理が起きているということは、我々見ておかきゃいけないんじゃないかと思っています。

(OHP−2)
 地域というのは一体何だろうということを考えてみたときに、私は、地域とは1つの有機的総合体であると考えるべきではないかと思っています。有機的というのは、有機体という言葉からそれを形容詞化したものです。有機体というのはもちろん生物という意味です。広辞苑によれば、多くの部分が1つに組織され、その各部分が一定の目的のもとに統一され、部分と全体とが必然的関係を有する、そういうことを有機的と定義されております。大体そのとおりだと思います。
 地域があたかも生物のような有機的な性格を本来持っていた。したがって、地域がホメオスタシスという自分の体を維持するという機能をずっと持ってきた。それは自己調節であったり、修復機能であったりしたわけです。それがだんだんと崩されていって、いわば地域が無機化するという状況が今進行しているんじゃないかと思っています。
 地域を構成する要素が人間であり、さまざまな空間であり、あるいは自然であり、もっといろんな要素がありますが、人間と人間の関係や、人間と空間の関係、人間と自然の関係、そういったものがバラバラになって、地域そのものの有機的性格がどんどん薄れてしまうというのが、最近の状況ではないか。あえていえば、精神的有機性の衰退というのもあるのではないかと思っています。

(OHP−3)
 そうだとすると、私など地域の空間の計画やそのデザインにかかわっているわけですけれども、地域の空間のデザインやマネジメントを、地域の有機性を強める方向で行う必要があるのではないか。やや今観念的に申し上げましたけれども、後でいろいろなグラフや事例をお話しして、この点を深めていきたいと思っております。
 実は、グラウンドワークの核心はそこにあるんじゃないかと思っています。つまり、地域のさまざまにある要素間を結びつける。住民、企業、行政という地域に存在する人間の集団、主体のパートナーシップをつくっていくのは、まさに地域の有機性を強める極めて重要な方法だと思います。
 しかも、それを地域の環境に人間たちが実践的に働きかけるという意味では、人間と環境との間の有機的なつながりを強める、そういう行いであると思っています。
 その下にちょっと書きましたが、20世紀初頭のイングランドで、例の田園都市が計画され、実際に成功されたわけですが、その建築計画を担当したアンウィンという建築士が、その田園都市の住宅計画のモデルに、ドイツやフランスやイギリスの中世的農村を取り上げたということを書いています。
 つまり、ドイツやフランスやイギリスの集落の空間構造、例えば、クルドサックがあって、そこは行きどまりになっていて、その周りに1つの基礎単位となるような集落、家々が並んでいるという開発。そういう集落の構造モデルがアンウィンにとっては非常に重要なものだと映ったようです。
 彼は、こんなことをいっているそうです。当時のイギリスですが、「住宅地の開発が利己的に進められているため、社会関係がバラバラになり、秩序ある結びつきも少なく、共同生活も薄れている」と嘆いているそうです。これは西山康雄さんという電機大の建築の先生の「アンウィンの住宅地計画を読む」という本です。彰国社で出しております。そういう本の中にこういうくだりがあります。
 20世紀初頭のイギリスの建築家が、社会心理学・・最近は生態学的心理学とか、建築心理学という言葉も出てきたようです、余りそういう本は売れていませんが、人間と空間との心理的な関係をとらえながら、住宅地を計画してきた。大したものだなと私思っています。
 その後、機能主義や効率主義の空間計画が世界じゅうを席巻して、日本もそれにならっていくわけですけれども、そういう中で、まさに地域の有機性が次々と解体されていくという状況が起きたのではないかと思っています。
 これは卑近に我々がいろんなところで見たり、感じたりすることですね。例えば、道路の建設などでもまさにそうです。
 都市でも農村でもそうですけれども、道路を広げることが戦後の公共事業の最大のテーマになってきました。道路を広げることがどういう意味を持っているのかが十分議論されてこなかったように思います。確かに、車は走りやすくなりますけれども、その陰で失うものは極めて大きい。例えば、ある地域の住宅地で、その中を走っている狭い道路を拡幅する、そのことによって県道まで今まで3分かかっていたのが2分になる。1分速くなるために拡幅されるわけです。拡幅された利点はまさにその効率性がよくなるという1点ですけれども、失うものは山ほどあるわけです。
 広くなったことによって、通過交通がふえ、それによって震動であるとか、公害問題で皆さん周知のことです。そして何よりも集住地のコミュニティーが崩壊する。向こう3軒両隣の人間関係があっという間に希薄になってしまう。子供たちが外で遊べなくなる。おじいちゃん、おばあちゃんの散歩ができなくなって、家に閉じこもる。そして、かつての道路であれば、生け垣がずっと並んでいたのに、拡幅によってセットバックして、ずっとコンクリートの3面張りの道路になってしまうということが当たり前のようにやられてきた。
 地域というものがどういうものなのかということをほとんど理解せずに、線や点の計画を無批判にやってきたのではないか。それがあったのではないかと思っています。



滋賀県甲良町での経験から

 ここで、いわゆる空間と人との意識の間の有機的な関係性を示す1つの事例を皆さんにお見せしたいと思っています。

(OHP−4)
 幾つかの町で今アンケートをとっていますが、それは子供の意識です。町が好きかどうかという意識、それから、子供はどういうところで遊んでいるかということです。それらの相関を今調べております。
 これは滋賀県の甲良町という、私が10年ほど前からまちづくりにかかわっている、琵琶湖のちょっと東側の彦根と大津に挟まれた農村地帯で、人口8000人ほどの小さな町です。甲良町が好きという4年生、5年生、6年生の子供は60〜70%ぐらいいます。

(OHP−5)
 それから、甲良町でどんな遊びをしているんだろうということを調べてみました。それがこれです。小学生が中の濃いブルーです。20代、30代が外側です。40代、50代が赤です。60代以上がオレンジです。とにかく大人に比べて子供たちは今かなり外で遊ばなくなってきているという状況がわかると思います。これは都市といわず、農村といわず、同じような状況です。

(OHP−6)
 そこで、こういった2つのグラフを結んでみました。地域への意識と外遊びの関係。甲良町が好きと答えたグループは圧倒的によく外で遊んでいると答えています。それから、甲良町が好きではないと答えたグループは、外で遊ばないというグループが圧倒的です。これはカイ自乗検定により危険率5%で同一でないと判定されております。こういう結果を見ますと、地域の中の子供と子供の遊ぶ空間との関係、もちろん遊びそのものですけれども、そこには遊ぶ空間が少なくなってきたということも歴然としてあります。水路はほとんどコンクリートで、かつ川は遊べなくなりました。遊んではいけないと小学校ではいうようになって、空間そのものが子供の遊び場ではなくなったという事実があります。

(OHP−7)(資料2)
 これは甲良町のものだけではなくて、ほかの地域でも同じような結果が出ています。
 これは胆沢町という岩手県の水沢の隣の地です。ここでも同じように、胆沢町が好きと答えたグループは圧倒的に外で遊んでおります。逆はまた逆であるという結果が出ております。ですから、我々、地域をどんな地域にしていくのかを考えるときに、子供たちの今の状況は大変重要なデータとして考えなきゃいけないと思います。
 しかも、これが子供の時代に終わらずに、大人になっても影響を及ぼすというのが次のグラフです。

(OHP−8)(資料3)
 地域への意識と自然触れ合い度との関係。甲良町については、全町の4年、5年、6年の子供に、全数調査で聞きました。胆沢町については4つほど小学校があるんですが、そのうちの2つの小学校で全数調査をやってみましたが、大人つまり保護者の方にも聞いてみました。子供のころよく遊んだかどうか聞いた。そうすると、子供のころに自然の触れ合い度が高かった大人は、まちづくりに関心があるかどうか聞いたんですけれども、多くは関心があると答えた。逆は関心が低いと答えた。つまり、子供のころよく遊んだかどうかということが大人になってからのまちづくりの意識に影響を残すという結果が出ております。これは甲良町の例ですけれども、胆沢町でも同じような結果が出ております。
 こういうことがわかってきますと、まちづくりの目標をどこに置いたらいいのかということが少しずつ鮮明になってくるような気がしています。



グリーンツーリズムの価値論

 それからもう1つ、皆さんに地域の有機性ということでお見せしたいグラフは、中山間地域・・中山間ってなかなかわけのわからない言葉ですが、中間と山間を合わせて中山間と読みます。つまり、平地農村よりももう少し奥の山地まで含めた農村のことをいうわけです。その中山間ではさっき申し上げたように、地域の衰退が非常に激しくて、特に人口が減少しておりまして、居住人口をふやすことはなかなか無理だ。ならば、交流人口をふやそうじゃないかということで、グリーンツーリズムというのを盛んにやろうとしております。しかし、グリーンツーリズム自体がなかなか難しい面があります。
 例えば、グリーンツーリズムですから、美しい農村の風景とかそういうのが大事だというんですが、それに対して、自然とか景観じゃ飯が食えないという反論が地域の中に出てくる。一方で、自然や景観や自分たちの生活環境を壊してまで観光化したくないという反論も出て、地域の合意形成がなかなか難しいわけです。
 それは地域の有機的な性格を念頭に入れないと恐らく解けないんだろうと私は思っています。そこでこういう調査をしてみました。それはある町で、かなりたくさん人が来ています。来た人がどこに特に喜んでいるのかということと、どこにお金を落としていくかということを別々に調べてみました。それはある種の仮説を設けて調べてみたんですが、その仮説どおりになったので、今喜んでいます。

(OHP−9)
 新治村という群馬県の、人口が8000人の村で、1985年からたくみの里という、職人に21戸来てもらって、そのために職人の家を建てかえたり、民家風の家を三国街道沿いに並べたんです。そして、今や60万人の観光客、都会からの来訪者のある、かなり人気のある場所になった。
 そこで、来訪者にアンケートをとりました。どこに魅力を感じていますかというのが、左側に山のあるグラフです。享受価値と名づけました。来ている人がどこに喜んでいるか、どこに魅力を感じ、満足を感じているか。一番高いところが職人の家。野仏めぐりや自然散策とありますが、自然の中をずっと歩きながら野仏めぐりをするというのも人気が高いです。それから、田園景観、奥の方に高い雪をかぶっている山があって、その手前が水田になっていて、結構いい景観です。そこに対する魅力。温泉があります。遊神館、豊楽館というセンター施設、これは結構大きな、バスが何台もとまって、一度に食事ができたり、体験できる場所がある。こうしたそれぞれの場所、資源ごとに享受価値のパターンが示されています。

(資料4)
 一方でお金を落としていく支払価値は右側に山のあるパターンです。つまり、来た人が喜んで満足を感じている場と、お金を落とす場は必ずしも一致していないということです。逆にいえば、それが農村の魅力なんですね。そして、享受価値を強く与える左側の部分と右側の部分が有機的につながって初めてグリーンツーリズムは成立しているということがこれからわかるのではないかと思います。
 都会に住んでいる人たちは、私も含めてですけれども、短時間であっても、農村に行って、いわゆる市場経済に束縛されていない場で楽しみたいという気持ちが必ずあるわけです。ですから、幾ら魅力的だからといって、職人の家で、入るときに50円ちょうだい、職人と話したら一言100円ちょうだいというんじゃ、つまらないとなるわけです。
 そういう意味では、お金が十分とれない、つまり非市場価値がふんだんにあるということ自体が、この地域の、あるいは農村の魅力であるわけです。
 しかし、そうなってくると、お金がセンター施設などに偏っていく。そうすると、幾ら、田園景観や野仏めぐりの地域の自然といっても、これを維持管理をする、手入れをする、花を飾る、そういうことが必要になってくるわけで、職人の家だって、いろいろ手入れをしたりしなきゃいけない。そういうところに、初期投資もそうですけれども、維持のための管理費の投資が必要になってくる。しかし、そこにはお金が入らないという構造になっている。そうなると、所得の移転みたいなことがどうしても必要になってくるわけです。
 そういうことをこれまであまり理解しなかったものですから、最初にちょっと申し上げたように、自然や景観では飯が食えないという主張が、非常に強く出てくる。特に議会では、どうしてこんなところに金をかけるんだといって、計画が否決されたりすることになる。
 こういう部分を私、「非市場価値」と呼んでおりますけれども、非市場価値の重要性、そして、地域の資源の有機的な関連というものを我々はよく理解していく必要があるのではなかろうかと思っています。
 こんなことを地域を題材にお話ししてきましたけれども、こういった地域の持っている有機的な性質を理解した上での地域づくりをするのがグラウンドワークではないかと、私なりの独特の理解をしています。



グラウンドワーク(GW)の理念と特徴

(OHP−10)
 これからグラウンドワークとは何かという話をしていきたいと思います。グラウンドワークの公式図といいますか、今までよくいわれた理念はこんなようなことです。それは同じことをいっているにすぎないんですけれども、持続可能な形での地域環境の再生、改善、管理の実現ということです。地域における環境保全、経済活性化、社会福祉に最大限の影響力を及ぼし、貢献する。そのために地域住民、民間企業、公共機関でパートナーシップを形成、発展させる。個々の地域主体の能力を高めるということであります。 そのために、グラウンドワークトラストという触媒としての常駐の専門家集団を地域ごとに確保していくというのが、グラウンドワーク全体のメカニズムです。 こういう話をしてもあまりおもしろくないかもしれませんが、簡単にさっとお話だけしておきます。

(OHP−11)
 グラウンドワークというのは、繰り返すようですけれども、地域の生活現場で実践的な環境回復をしていくという意味です。グラウンドワークには4つのポイントがありまして、目的としては、環境改善を指針とした地域をよくする運動。ボランティアの参加で汗を流す実践活動である。住民、企業、行政のパートナーシップで推進する。専門能力のある助言者やスタッフを確保するということです。
 これも一通り説明して、後で各地の実践のスライドをお見せしたいと思っています。

(OHP−12)(資料5)
 ほかの環境団体との違いをまとめておきました。横文字の団体、ほとんどイギリス発祥ですけれども、ナショナルトラストというのがあります。100年以上歴史を持っています。土地や建物の所有権を得て、価値の高い自然生態系や文化財を保存、管理する。市民の参加形態は主に寄附金です。今は大分ボランティアの参加もふえてきておりますけれども、土地を所有するその資金として寄附を集めるというのが基本的な形態になっています。ですから、市民の生活地域から遠い場の環境に、市民は主として寄附者として一時的なかかわりをするといったらいいかもしれません。価値の高い自然生態系や文化財を対象としますから、「環境保全のエリートコース」と呼んでいいかもしれません。
 それに対して、公害反対運動というのがあります。産業公害の防止、乱開発の阻止、公害訴訟裁判という形態をとります。市民の参加の形としては、反対運動、訴訟、そういったところへの参加。地域で市民、企業、行政の対立関係は先鋭化します。当然のことです。原因は企業がつくったり、行政がつくったりするわけです。地域内の意識の分裂、合意形成、再形成に非常に多くの労力や時間がかかるということです。「地域環境保全の外科的手法」と呼んでいいかもしれません。

(OHP−13)
 それに対して、グラウンドワークトラスト、これは80年代にイギリスで始まったわけです。歴史は非常に浅いんですが、身近な生活環境をスコップを持って改善する。より実践的にまちづくりや環境改善、環境学習への多数市民の日常的参加を専門家スタッフが支援するという形。ですから、必ずしもすばらしい自然生態系を残すということではありません。もっと普通の生活環境を対象とするといっていいでしょう。
 既存団体等の意欲的参加ももちろん確保していきます。具体的な成果に参加者の達成感があります。お金を寄附して終わりというわけじゃなくて、自分が活動して、汗を流して成果が出るという意味では参加者の達成感が得られます。目に見える地域の美化で、地域への愛着や誇りが生まれるという面もあります。
 環境悪化の未然防止機能といったらいいでしょうか、あるいは修復機能といったらいいでしょうか。そういう意味では「環境保全の漢方医学的な手法」といっていいのではないかと私は思っています。あるいは地域の自己治癒力の活性化。さっきちょっと申し上げましたが、地域が本来持っていたホメオスタシス、自己を自己として確保する力、それが活性化してくるのではないか、再生されるのではないかと思います。
 このグラウンドワークを日本で始めようというときに、いろんな方と相談もしましたけれども、多くの反対意見もありました。無理ではないか。まだ日本ではボランティアはそんなに根づいていないんじゃないか。そういうことをやっても結局行政に取り込まれて、行政の下請機関になってしまうんじゃないかという意見。あるいは住民はそんなに乗ってこないんじゃないか。住民たちはまだまだ依存体質が強いんじゃないか。企業にしても、まだ環境まで意識は高くないんじゃないか。5年前です。そういうことを大分いわれましたけれども、私は今までのさまざまな環境運動との違いは、まさに自分たちが住んでいる場所をよくする。だから、グラウンドワークではボランティアといっても人様のためであると同時に、自分のためだ。利益が反射的に自分のところに戻ってくる。そういう関係ということで、私はそう難しくないのではないかと思いました。
 それから市民、行政、企業の合意形成ができるのかということについても、行政に利用されるだけではないかということもありましたけれども、行政そのものがもう変わらざるを得ない状況になっている。予算の面でもそうですし、情報公開、あるいは地方分権の状況ですから、行政そのものがどう脱皮できるかと真剣に今考える必要があるという意味もあって、私はグラウンドワークということであれば、日本でも定着できるのではないかと思います。

(OHP−14)
 先ほど来申し上げてきた地域とは何なのかということと、このグラウンドワークを重ねたときに、この3つが非常に重要なのではないかと私思っています。地域再生のまちづくりというスローガンをグラウンドワークは掲げられるのではないか。それは3つのキーワードがある。1つは、パートナーシップ、つまり住民、企業、行政の有機的な連携をつくる。これが今までは切れていた。あるいはいがみ合っていた。あるいは住民の中もそうです。企業同士もそうです。行政の中もまさにそうです。縦割り行政でひどいものです。それを有機的につないでいくんだということを目的意識的にこのグラウンドワークはやるんだということをはっきり宣言し、それをやっていく。
 それから、マッチングファンド。資源の有機的活用ということです。マッチングファンドとはどういうことかといいますと、イギリスでは盛んにこれをいいます。いろんなファンドを重ね合わせるということです。
 例えば、ある場所でコミュニティーガーデンをつくる。ここに行政から環境予算が10来るとします。これはコミュニティーに対しても非常に大事な仕事だということで、例えば、自治省あるいは農村集落であれば農林省の予算も入ってくる。そういうところから10来る。コミュニティーガーデンづくりは、地域の福祉団体も参加しよう。例えば、知的障害者の団体も参加しよう。知的障害者たちの社会的参加ということであれば、福祉関係の予算も10ここに入れようではないか。それから、総合教育の時代ですから、小学校の環境教育もしていこう。そうすると、文教予算もここに入ってくる。これが10。さらに、企業はそれはいいことだということで10。地元のボランティアたちも、これは労働提供で換算して10。
 ということで、1つの実践の場、グラウンドに対して多くのお金、あるいは労働であったり、企業は資材を提供すると思います。集まってくる。そうすると、60になります。全体として60になるような事業ができる。しかし、それぞれから見るならば、環境セクターから見れば、うちは10しか出しておりません。自治省とか農林省も10しか出しておりません。ボランティアも私は労働を出しただけです、10しか出してない。しかし現実には60の価値が実現している。これをマッチングファンド方式といいます。
 そして、このようにして価値が高まることをバリュー・フォー・マネーと呼んでいます。あるお金に対してどれだけの価値が実現されたかという見方です。
 イギリスの環境省に行って、グラウンドワークに予算を出したときに、どれだけのバリュー・フォー・マネーと見積もっていますかと聞いたら、まず5倍だといっています。自分たちは環境予算を出す、補助金を出す。しかし、それは現場では5倍になって実現される。それはこういう計算をするからです。こういう事業がマッチングファンドとして、グラウンドワークが最も得意とするところです。
 ですから、私はコーディネーションの機能がこれを実現させていったと思っています。企画調整の有機的な機能。その原点にはパートナーシップがあって、今までの縦割り行政で企業と行政は同席しないとか、住民と企業は仲が悪いというんじゃなくて、みんなが自分の持てるものを持ち寄っていけば、地域にいいものができる、そういうパートナーシップの力。それをマッチングファンドとして確保する。そういうコーディネーションがグラウンドワークの1つの本質的な機能だと思っています。
 こういうコーディネーションができるような専門家の組織を、イギリスでは「グラウンドワークトラスト」と呼んでいます。人の集団ですね。それをトラストと呼んでいる。ちょっと紛らわしいので、最近グラウンドワークトラストという言葉をイギリスでは余り使わなくなりましたが。



英国・日本での展開・GWとしての地域づくり運動

(OHP−15)
 今、イギリスでは42のグラウンドワークトラストを全国に展開しております。数市町村で1つのグラウンドワークトラストの事務所があって、これはイギリスのメカニズムですけれども、グラウンドワーク事業団というのが1カ所バーミンガムにあります。グラウンドワークトラストの事務所があって、これが各地に42あります。行政、企業、学校、農家、住民、そういった人たちの結びつけ合い、企画を出して、こういう事業をやりましょうといって、お金をいろんなところからマッチングファンドとして集めてくる。もちろん政府からもグラウンドワーク事業団を通じて入ってきます。大企業、EC、民間団体からも入ってきます。そういうことをしているのがイギリスのグラウンドワークです。

(OHP−16)
 日本でもこういうことをやっていこうではないかということで、5年ほど前にグラウンドワーク協会という財団法人ができました。そして、日本でグラウンドワークの推進が始まっております。どんな順番で、地域の中でグラウンドワークの運動とそれを推進するコーディネーションの組織、英国流にいうグラウンドワークトラスト、そういうものをつくっていくのかという起動のプロセスがここに書いてあります。
 やろうというグループの結成、日本のグラウンドワーク協会との協議で、地域展開プログラムを策定する。研修をしたり、協会に加入してもらったりする。そして、どんな課題があるのかというのを、協会からのアドバイザーが派遣されて、環境、文化、企業、活動、あるいは行政のスタッフ、そういったものを調査する。そして、調査報告書を作成する。地域では、グラウンドワークの学習会が展開される。そして、どういう空間が地域環境改善の対象になるか、そういうもののカタログをつくっていく。小さな空間から大きな公共空間まで。そして、具体的な地域環境改善が始まる。最初は小さいところから。そして、環境教育とか、福祉の問題、そういうものとうまく結びつけながら、地域の総力が結集するような形で、運動が展開される。マスコミへの協力依頼、推進グループを拡大する。そして、グラウンドワークのトラストができ上がっていくということになっていく。そんなプロセスをとっております。



日本の地域特性とGW運動の多様性

 現在、全国で数十のグラウンドワークの展開が始まっております。その中で4つの地域で、グラウンドワーク協会のパイロット地区として指定して支援をしているところです。
 きょう、スライドをお持ちしたのは必ずしもパイロット地区だけではありませんが、全国でかなり積極的に活動を展開しているところの具体的な成果の幾つかをお見せしたいと思って持ってまいりましたので、見ていただきたいと思います。

(スライド−1)
 最初の何枚かは、山形県の寒河江市です。寒河江市は地域を花と緑とせせらぎで美しくしようではないかということで、市が非常に熱心な音頭をとっております。グラウンドワークは、ある意味でいろんなセクターによって主導されての立ち上げが可能になっていくと思います。必ずしも住民主導だけではなくて、行政がやろうという呼びかけをし、行政の姿勢をみずから変え、住民や企業を巻き込んで、行政から独立したグラウンドワークの組織になっていくというケースもありますし、市民がまさに主導的にやっていって、住民、行政、企業を巻き込みながらやっていくケースもあります。あるいは企業が先導的になってやっていく、そういうケースも日本ではあります。
 この寒河江は、どちらかというと、行政が音頭をとっていますが、かなり早い時期から各企業が熱心に参加しています。駅前の自転車屋さんとか、工場団地をつくった団地の社長さん、あるいは土建屋さんなど、かなりたくさんの企業が参加しております。町内会はもちろんです。
 これはホタルをよみがえらせようというイベントの1つです。

(スライド−2)
 これはある川をホタルの飛ぶような川にしようということで、グラウンドワークの会員たちが視察、調査といいますか、回っているところです。ごみが相当落ちておりますし、かなり汚れております。そこら辺をみんなできれいにしながら、どういう条件のところであれば、ホタルが住めるかなということを今観察しているところです。

(スライド−3)
 こんな川もあります。こういう川でホタルはなかなか難しいですけれども、こういう川もきれいにしていこうじゃないかと、みんなで知恵を出し合っているところです。

(スライド−4)
 去年の6月ですか、寒河江のグラウンドワーク実行委員会が発足しました。今マイクを持っている左の方が会長さんです。駅前の自転車屋さんです。

(スライド−5)
 その地域の課題をみんなで調べて、どこの場所でどんなことができるのかというのをグラウンドワークの地元の人たちで議論をしているところです。

(スライド−6)
 ある川の模型図をみんなでつくろうということで、まさに川のすぐそばの地元の自治会の人たちに呼びかけて、模型をつくっているところです。

(スライド−7)
 だんだんでき上がります。

(スライド−8)
 これがそうですね。水辺があって、ちょっとしたポケットパークのようなものにしていきたい。

(スライド−9)
 その工事をやっている。この工事でも地元のいろんな方がいろんなものを持ち寄ります。苗木は造園屋さんが持ち寄ってくれる。重機は地元の建設クラブという建設会社の集まりがあって、そこの人たちがボランティアで重機を持って集まってくる。

(スライド−10)
 まさにこういう感じですね。

(スライド−11)
 これはやりようによってはホタルが出るような川ではないかということで調査をしているところです。

(スライド−12)
 この近くの住民たちが集まって、どうしようかと議論しているところです。

(スライド−13)

(スライド−14)
 そして、素掘りの川の部分をもう一回掘り直しているところです。今はほとんどコンクリートになってきておりますから、素掘りの部分を回して水路をつくる。

(スライド−15)
 その部分に今水草がたくさん生えてきている。そこにホタルの幼虫とカワニナを今放流しているところです。この近くにホタルが結構いて、そこから移して放流しているところです。子供たちがやっています。

(スライド−16)
 同じところです。

(スライド−17)
 7月ぐらいからホタルが出てきますから、夜そのホタルの観察会をやっているところです。「ホタルの里田沢川」と書いてあります。

(スライド−18)
 次の場面が帯広です。ここでは企業の建築家あるいはコンサルタントの方々が中心になって、グラウンドワークの専門家として支援活動をしようという動きがありまして、それに呼応する形で、帯広市の緑地担当の方が市有の空き地を利用して、エヴァーグリーンプロジェクトというのを制度化しております。そして、住民たちが、企業あるいは企業に勤めている技術を持った人たちのボランティアの支援を得ながら、コミュニティーガーデンをつくろうという運動を一昨年から始めています。

(スライド−19)
 ちょっと読みにくいかもしれません。同じような理念的な解説です。

(スライド−20)
 この住宅街、川沿いのこの部分、土手のすぐ下の部分に空き地があって、そこをここの地域のコミュニミティーガーデンとして市は指定しまして、この空き地を使ってくださいということです。

(スライド−21)
 今市の人が説明会をやっております。ボランティアの人々もここにおります。そして、地元の自治会の方々。そういう形で議論を今始めつつあるところです。

(スライド−22)
 そして、3つの班に分かれてワークショップをやったんです。それぞれが参加するということが大事です。自分たちのコミュニミティーガーデンを自分たちの計画でつくってきたんだという参加意識が非常に大事です。ですから、できるだけ小さなグループに分けて、十分にそれぞれが発言できるような配慮をする、そういうワークショップをしております。

(スライド−23)
 もう1つ、別の班ですね。

(スライド−24)

(スライド−25)
 各班から、さまざまな意見が出て、第1班は遊具施設、第2班はボール遊びのボードがあればいいんだ、第3班は砂場が欲しい、そして、ほかに遊具を1つだけ欲しい。それぞれ水関係であればどろんこ遊びできる水がある。水のある公園にしたい。そんなものは要らないということで空いているところもあります。

(スライド−26)
 それを調整してこんな絵にしよう。

(スライド−27)
 整備工事区分という表をつくったんです。市はこっちの部分をやりましょう。レンガブロック舗装として42平米。パーゴラ、ダスト舗装、樹木としてハルニレ、ヤマモミジの4メートルから6メートルぐらいのものを2本用意しましょう。低木としてヨドガワツツジ120本、水遊び場一式、敷地の整地一式、これは市が担当しましょう。ワークショップで住民あるいは企業の参加、支援ではこちらのベンチの組み立てをお願いしましょう。車どめの取りつけとか、ツツジの植栽とチップの敷きならし、企業の寄附があります。果樹の木も5本寄附があります。ブドウの苗木2本、芝張り、労力の提供は住民の方がやる。というわけで、自分たちが望むような公園をつくる。

(スライド−28)
 これは整地をして、そしてあずまやを立ち上げている作業。このあたりは市が担当している。

(スライド−29)
 大体こんな形ができてきて、どこに植栽を入れるかということは地元の人たちが決めて自分たちでやっていくわけです。

(スライド−30)
 ペンチの据え付けは自分たちでやりましょう。据え付けて上にペンキでカバーを塗っているところですね。

(スライド−31)
 何か植えている最中ですかね。

(スライド−32)
 そして、帯里という名前の触れ合い広場ができ上がっている。

(スライド−33)
 これからの例は埼玉県の坂戸というところです。約1000平米あるんですけれども、もともと下水処理場だったんです。向こうに見える団地の下水処理場です。下水処理場ですが、大きな公共下水道ができたので、この敷地は要らなくなったんです。市が放置しておいて草ボウボウだったんです。大体グラウンドワークというのはそういう放置されて、だれも見向きもしなかった、あるいは放置されて、公共事業をやるわけでもない、そういった土地を探してきて、自分たちでやろうということが多いんですが、ここもそういう土地です。

(スライド−34)
 去年の6月に完成しましたが、グラウンドワークをやろうと思い立ったのは、その1年ぐらい前です。グラウンドワークというのが県の助成事業として埼玉県では、その年、おととしから始まったんです。手を挙げたところに30万円のお金を出しましょう。そして、地元が住民と行政と企業の、さっきのマッチングファンド方式で、計画をつくったところに対しては、30万円の投資をしましょう。そういう制度が始まった。坂戸では地元の商店会の方々、主婦の方、この人たちが中心になって、坂戸市に働きかけ、坂戸市から、さっきの土地を貸してくれるという約束を取りつける。土地を貸すということ自体が1つのファンドです。今土地は高いですから、それをただで貸してくれる。そして、事業を計画したわけです。
 計画の後、いろんなところに見学へ行ったときの写真です。三島じゃなかったかと思います。

(スライド−35)
 そうですね。静岡県の三島です。

(スライド−36)
 そして、いろんな企業が参加しております。といっても、企業が参加してくれるまでには大分時間がかかったようです。半年ぐらい、中心になった人たちが説得に歩きました。「グラウンドワークって、何だい。学校のグラウンドかい」という感じで、全然わからない。
 これは川崎に見学に行ったときの写真です。こんなにたくさんの企業、団体が、こういう花壇を地元でつくるのに協力してくれた。

(スライド−37)
 そういう学習活動をやったという写真です。見学に行ったときの記念写真です。

(スライド−38)
 それ自体が楽しいんでしょうね。三島に行って、三島のコミュニティーガーデンづくりの実例を見てきている。そういう人の輪といいますか、人の有機的な関係ができてくる。それ自体が1つの楽しみになります。

(スライド−39)
 これもそう。

(スライド−40)
 そして、この地域をどうしようかというときに、県の農業試験場の果樹の、あるいは園芸の専門の方にボランティアで来てもらって、教えてもらう。この方はこのグラウンドワーク坂戸の副委員長さんです。

(スライド−41)
 今自分たちでレンガをずっと積み上げているところです。

(スライド−42)
 これは電柱の古いもの、電線、こんなものがそこら辺に置いてあれば、すぐもらってくる。ここの副委員長さんがいっていましたけれども、ある日大水が出て、この近くの川がはんらんした。そして橋が流された。「それっ、行け」って、喜んで行って、木でできた橋だったものですから、流された橋の材料をその後一生懸命集めて持ってきた。そしたら、途中で木材がトラックの長さよりうんと突き出ていて、警察官につかまったそうです。実はこうこうこういうわけで、グラウンドワークでこういうことをやる、いいことをやっているんだから、見逃してくれと。警察も「まあ、いいや、行け行け」といわれて何とか見逃してくれたそうです。そういう聞くも涙の物語のようなものがたくさんあります。
 この土も、赤土ですけれども、地元の土建屋さんがトラック60台分寄附してくれたそうです。意外なところから意外な支援が来たといっていました。最初のうちはどうなるかと思ったけれども。

(スライド−43)
 枕木ですね。枕木をもらってきて、今おろしている最中ですね。

(スライド−44)
 このように地元の土建屋さんが、残土だと思いますが、土を持ってきてくれた。

(スライド−45)
 そして自ら整地してくれた。「富沢工業有限会社・坂戸・埼玉」と書いてあります。

(スライド−46)

(スライド−47)
 子供たちももちろん参加してやっています。

(スライド−48)
 こんな形。

(スライド−49)
 お昼はたき出しで、豚汁を食べている。こういうのも楽しみなんですね。

(スライド−50)
 だんだん形ができています。

(スライド−51)
 そして、6月28日、竣工式があったんです。グラウンドワークのマーク入りのシャツまでつくった。この方が実行委員長、女性の40ちょっと前のすごく活発な主婦の方です。この方は県の担当者です。県からは30万のお金が出ました。工事全体の見積もりがどのくらいになるか計算してみたら、約1500万円と出ました。もちろん使ったお金は30万。あとは全部ボランティアといろんなところからの寄附、支援。それだけの力、さっきバリュー・フォー・マネーが6といいましたけれども、そんなもんじゃないですね。50倍ですね。それぐらいの倍率になると思います。ほかのところでもそうです。三島の例を聞いても大体そのくらいです。
 ということは、行政がやるよりもずっと安くできるということです。さっきのバリュー・フォー・マネーじゃないですけれども。ですから、財政が今後厳しくなってくるという状況の中では、まさに単なる公共事業じゃなくて、グラウンドワーク方式をやると、いかに効率的になるかということにもなると思います。そして、地元の人は喜ぶ。地元の有機的なつながりができていく。いいことばっかりなんです。

(スライド−52)
 最後に立ち上がった看板です。協力企業、団体一覧。株式会社アトリ工業とか、埼玉県植物振興センター、NTT坂戸、坂戸ロータリークラブ、有限会社石井ホーム、武蔵設備工業、セントラル食料、たくさんあります。日本花の会。埼玉県下水道公社は下水道でできた汚泥をレンガをたくさんただで支給してくれた。建設省荒川上流事務所、JAいるま、富沢工業、東上ガス株式会社、その他もろもろですね。 
 こういう多くの地元の企業、そしてもちろん地元の住民たち、行政たちがこの事業に参加したということになります。

(スライド−53)
 これは出口のところです。こんなふうになかなかしゃれた門をつくりました。敷地のところは白い砂を敷いた。

(スライド−54)
 これは上から見たところです。見る人によっては、ちょっと人工的過ぎるんじゃないかという感じがしないでもないですね。しかし、地元の方がこれがいいという形でつくったものです。だんだんと野生化していく部分もこれから出てくるだろうと思います。これは去年の7月の段階です。ことしの段階ではもう少し草も生えています。

(スライド−55)(資料6)
 手づくりのちりとり。ちりとりもつくったんですね。

(スライド−56)

(スライド−57)
 「もみの木広場」というのが坂戸の広場の名前です。それを今大きな板に彫っている最中です。これももちろん地元の方です。いろんな力を持った人がいるんですね。こういう住民参加をやるときには、本当に住民は参加してくれるだろうかとか、参加してきた住民の間の合意形成できるんだろうかという心配もあります。それから、本当にいいものができるんだろうか。でき上がったものは管理されるんだろうか。このように4つの心配があると私はいっていますけれども、住民が本当に参加する。構想、計画段階から参加すると、その心配は全部解消されていくと思います。
 今本当にいろんな知識、技術を持った人がいます。習字の上手な人もいる、彫るのが得意な人もいる。

(スライド−58)
 そして、こんなテーマを書いた入り口の巨大な木製表札ができ上がったところです。これもお金かかってないというんだから、驚きですね。

(スライド−59)
 これは船橋です。障害者とともにつくるコミュニティーガーデン。千葉MDエコネットという知的障害者の親のグループが中心になって、地元の有志から畑を借りて、それで菜園づくりをやろう。そして、ドーム型のパーゴラもつくろう。障害者と健常者、地元の方たちとの交流の場にしていこう、そういうプロジェクトが昨年から始まっております。その前1年間かけてグラウンドワーク協会と一緒に準備していったんです。今、花の種を植えているところです。

(スライド−60)
 これもそうです。

(スライド−61)
 これは千葉工大の建築のグループがワークショップを指導してくれました。全面的にコミュニティーガーデンづくりの設計や施工に指導をボランティアでやってくれました。鎌田先生の研究室です。今千葉工大に行って、知的障害の子供たちがこんなふうにしようじゃないかと、遊びながら絵をかいているところです。

(スライド−62)
 これもそうですね。向こうで説明しているのは大学の学生です。模型をつくったりしているところです。

(スライド−63)
 こういった木製のドーム。これはある演劇集団がインスタントにどこかで演劇をするときに、この何倍もあるような大きなドームをつくるんですけれども、その演劇集団が協力をしてくれたんです。自分たちでしょっちゅうこういうドームをつくっているから、ここでやるなら協力するよということで、協力してくれました。木材を運ぶのも、運送会社、アート引っ越しセンターが引き受けてくれました。そういう企業やさまざまなグループがこの運動に参加してくれて、立ち上げてくれます。

(スライド−64)
 とてもいい連中なんです。

(スライド−65)
 苗を植えている最中です。

(スライド−66)
 除幕式。この看板の除幕式を前にして子供たちが喜んでいるところです。これをはさみで切ったんですね。

(スライド−67)
 コミュニティーガーデン、友幸農園。「コミュニティーガーデンは地域住民、企業、行政がパートナーシップを形成し、だれもが参加できる地域交流の庭づくりを通して、ともに生きる社会の形成に貢献します」、そんな看板をつくったところです。

(スライド−68)
 これは炭焼き小屋です。福岡の宮田町というところの笠松小学校を中心に、福岡のグラウンドワークのボランティアたちが実践活動を今しています。ここに炭焼き小屋をつくったところです。

(スライド−69)
 公園づくりのワークショップをやっているところです。トヨタの九州工場の敷地を活用して、公園づくりをやろうじゃないか、今ワークショップをしているところです。

(スライド−70)
 これは産炭地域なんですけれども、産炭地域の歴史を学ぼうではないかということで、カンテラでしょうか、産炭地域の歴史、地元の歴史をよくわかった方から子供たちが学んでいるところです。
 こういう産炭の斜陽産業の厳しいコミュニティーの場所でのグラウンドワークも今始まっているという紹介です。



グラウンドワークトラストへの道−展望と課題

 グラウンドワークのお話をずっとしてきましたが、その前提に地域とは何かというお話をちょっといたしました。有機的なさまざまなつながりが切れて、そして地域のコミュニティー、あるいは地域の人と自然とのかかわり、とりわけ、さっき子供のデータをお見せしましたが、遊ぶ場所がなくなり、遊ぶ時間がなくなり、遊ぶ友達がなくなる。これを時間と空間と仲間の3つの「間」がなくなったといいますけれども、子供たちが地域への愛着を失いかけているという話もいたしました。そういう地域の中でのさまざまな有機的なつながりを取り戻すのに、グラウンドワークは非常に大きな力を発揮するということも、今のスライドからおわかりいただけたのではないかと思います。 
 日本では無理だという意見も大分ありましたけれども、何とか今やり始めています。ただ、恒常的にこれを支援する地域組織、トラスト組織をつくり上げるのは、これはまた別の課題が出てきているわけでございます。例えば2人なら2人の専門家を常時雇用できるような経済的な条件をつくっていく。イギリスの場合は幸い、環境省からいわゆるコアコストといわれていますが、そういった職員のコストの80%の支援が、少なくとも5年間は出ております。そういう国の制度がある。私どもグラウンドワーク協会も日本の行政に毎年というか、しょっちゅう要求はしているんですけれども、なかなかそういうお金が出てこない。今つらいところです。
 しかし、日本の場合は地域の行政がイギリスよりもはるかに力がございますので、地域の中でそういうものを立ち上げようと、さっき申し上げた4つのパイロット地区で常勤雇用できるようなトラスト組織の立ち上げを今やっている最中です。皆さん方にも、いろいろ関心を持っていただいてご支援いただければありがたいと思っております。
 ご清聴ありがとうございました。(拍手)



フリーディスカッション

谷口
 どうもありがとうございました。いつものようにご質問、ご意見その他お受けしたいと思います。ご質問おありの方いらっしゃいましたら、挙手をお願いします。

長塚(長塚法律事務所)
 4月1日から地方自治法が改正されまして、機関委任というものが廃止された。そうすると、地域性を重視する地方分権というものが、今までの行政で7割、そしてあとの3割ぐらいが受託事務、都道府県とか市町村。そうすると、住民が中心で、地方の地域性というものが地方自治法で強調されていますし、ただ、福祉というのは非常に弱いようです。それと、地域性においても、財源というのはバラバラになってくると思うんです。その2点についてお伺いしたい。

千賀
 そういう地域で地域独自の施策を展開する上でグラウンドワークはどういう力を発揮するだろうかというご質問かと思います。行政そのもののあり方が変わらなきゃいけないだろうと思っています。グラウンドワークを地域でやる、例えばさっきの山形県の寒河江のように、やるんだといっているところは、地域の行政のあり方自体を変えようとしているところだと考えていいと思うんです。
 さっき、地方自治体がグラウンドワークをやっていくためにはどうしたらいいかをちょっと私飛ばしてしまったんですが、地域でのグラウンドワークをやっていくときには、どこが最初にいい出しっペになるか、行政がなる場合もあれば、市民がなる場合もあれば、企業がなる場合もあると申し上げました。それぞれの立ち上げの手順というのはここに持っているんですが、今行政が主導権を取ってやるという手順をちょっとお見せいたします。

(OHP−1)
 かなりのことをやらなきゃいけないと思っています。行政そのものが相当変わらなきゃいけない。とりわけ、この部分ですね。地方自治体との関係でいいますと、日本の自治体はイギリスの自治体よりも大きな予算や権限を持っています。それはイギリスに比べてですから、相対的なものですが、かなり予算を持っている。それから、今先生おっしゃったように、これからは地方行政がもっと大きな権限や予算を持つだろうと思います。
 問題は、今の行政の段階では行政組織の中の連携が非常に弱い状態にあります。例えば、農林行政と道路と福祉と全然バラバラになっている。そういうものを結ぶような行政内の連携組織がどうしても必要ではないかと私は思います。それをつくっていくことが、その地域地域でできるだろうかというのが1つのかぎになっていくということ。
 もう1つは、パートナーシップ形成への資金とか、場所とか資材とか人材、そういったものの支援を行政として積極的にやるだろうか。やらないと、今までと同じようなお金の出し方になってくるわけです。
 そういう行政そのものの自己変革のようなものがないと、グラウンドワークそのものももちろんうまくいきませんけれども、今おっしゃったような、予算も権限もある程度地元におりてきたときに、新しい行政に転換していくことはできないんじゃないかと思っています。もし、それができれば、相当大きな力をグラウンドワークは発揮できるだろうと思っております。

増沢(鹿島建設株式会社)
 今都市部では自然が失われて、非常に殺伐としていますけれども、都市部でもグラウンドワークというものが行われているのか、あるいはどういう方法でそういうことができるのか、お伺いしたいのですが。

千賀
 都市部では、さっきちょっと申し上げた帯広もそうですね。都市の団地の中での展開です。ただ、都市部では、例えばシビックトラストのような形の、グラウンドワークよりもっと前、20年ぐらい前にやり始めたイギリスのまちづくり運動が先に入ってきている地域が多い。例えば世田谷もそうですね。よく似た手法でありますけれども、こういった住民参加で住民主導的なまちづくりはいろんなところで展開されていると思います。ただ、企業が参加するという形のこういった運動はあまりないんじゃないかと思っています。企業にまで声をかけてないといいますか、企業に声をかけるということをためらっているといいますか、そういう状況が今あるんじゃないかなと思っています。
 ですから、私は、このグラウンドワークは、私自身は農村での活動が多いわけですけれども、都市部でも可能だし、都市部でもぜひやっていきたいと思っておりまして、船橋でも、船橋市ですから、大きな都市ですけれども、たまたま空き地のあるところが畑のある都市の縁辺部であったというだけであって、農村だから、そこでやっているというわけではございません。これは都市であろうと、農村であろうと、グラウンドワークの手法はできるものだと思っています。
 横浜でも、かなりグラウンドワーク的なことをやり始めておりますし、三鷹でもグラウンドワークの手法を勉強して、グラウンドワークという名前を使わなくても、3者のパートナーシップで物事を進めていくということはやられているように思います。
 きょうの東京新聞では、三鷹市でつくったビオトープに人が入って死んじゃった。また柵をつくろうと議論しているようです。都市部では都市部なりにまた難しさがあるかもしれません。

坂本(タックイーヴァック)
 今挙げられました例は、地域の方々のための、自分達の町の人々による自然環境づくりという感じがしますし、それはそれで結構な話ですが、都会に住む人間が田舎の生活をしばらく体験したいとか、滞在したいという、もちろん観光地は観光地であるんですが、そういう観光というのじゃなくて、自然の生活をしたいという場があれば、都会の人間にとって大変いいわけです。そういうものを、ある地域でつくっていくという話はこの話とは全く関係ない話なんでしょうか。
 いただいた資料の中に、JR東日本の方の書いてある文章は、田舎での余暇生活を見直したいというか、都会人にとっての田舎での余暇生活をつくっていこうという動きのようにも思われるんです。何か連動させていったら、もっと国民全体にとっていい話になるんじゃないかという気がするんですけれども、いかがでしょうか。

千賀
 おっしゃるとおりだと思います。農村はさっき申し上げたように、人間が少なくなって過疎化して、老齢化して、非常に困っている面があります。そういう意味では、都会からいろんな形で人に来てもらうということ自体は、大変歓迎すべきことだと思います。そういう意味で、グリーンツーリズムという言い方やSOHOという言い方も出てきていますけれども、農村に住んで都会でもある程度の職業活動ができる。あるいは老後にそこへ行って楽しめるという意味で、都会の人たちが農村に来てつなげる、そんな状況をつくっていこうではないかということは、まさに農村がこれから考えなきゃいけない大きなテーマだと思っています。
 ただ、さっき申し上げたように、自然だとか、美しさだけでは飯が食えないという農村側の反発があることも確かです。
 そういう意味では、さっきのグラフ、自然の部分とお金がきちっととれる部分とうまく組み合わせる形で農村の地域を経営していく。そこに都会の人たちが入り込んできて楽しむ、安らぐ、そんな地域の計画づくりが必要ではないかなと思っております。そういうことをグラウンドワークとしてどこかでやることも可能だし、テーマとしてやっていいんじゃないかと思っています。
 今、本当に山の中の、さっき申し上げた南会津の伊南村、ああいうところでグラウンドワークの立ち上げの準備をしておりまして、今おっしゃったような都会から人が来て安らげるような環境を提供しようではないかということも、当然テーマになっていくだろうと思っています。
 これまでの農村での楽しませ方というのが、どうしても施設型になっています。私も札幌で小さいころ過ごしまして、秋の夕方に赤トンボの大群が山の方にずっと移動していく、その中に自分の身を置いていた覚えがあります。羽音がサワサワとしているわけです。赤トンボの何万という大変な量が飛んでいる。例えば、そういうところにあなたも身を置けますよという感じで農村が都市に情報発信をすれば、都会の人は行きたがると思うんです。しかし、そういう発信をなかなかしないんです。ただ、風景がきれいです、水がきれいです、それだけじゃなくて、もっと具体的に、日常的にこんなすばらしいところがあるという情報発信を農村が都会にし、都会の人たちがそれを楽しみに来るという関係ができたらいいなと思っています。
 私の夢をいいますと、北海道のある農村で、各家にポニーが飼われている。そして小学生の子供たち、5年生ぐらいからでしょうけれども、ポニーに乗って学校に通う。学校には牧場があって、ポニーは放し飼いになっていて、帰るときはそのポニーに乗って帰る。土地がいっぱいあるわけですし、道路も、馬に乗って子供たちが帰るときに危険にならないように、車を下に入らせる。同じ公共事業をやるならそういうことをやったらいいと思うんです。そういう村をつくれば過疎なんてなくなるんじゃないか。都会の人たちはそこへ移住して子供を育てたいと思う。そんなむらづくりができないか。そのためにはこのグラウンドワークが、地域の知恵や汗やお金や土地を結集するメカニズムになるんじゃないかという夢を持っております。

赤松(藤沢地区市民会議)
 2点ほどお尋ねしたいと思います。
 1点目ですが、最初の方にありましたが、地域解体といった状況があるからこそ、時間をかけて地域の人たちがかかわっていく取り組みが必要だという側面が1点あること。それから、地域の行政組織も財政状況が厳しい中で、より安いというか、予算をかけないで活動するという背景があって、こうした動きが出てくるという部分があると思うんですが、一方で、そういった活動をサポートしていくのも、かなり時間と手間がかかるので、その辺を行政側がどう判断するかという部分は若干問題があろうかなという気もしていますが、この点は、実施されている各地域ではどんなような判断がされているのかということが1点でございます。
 もう1点は、テーマコミュニティーというか、より専門性のあるコミュニティーと地縁団体との結びつきというのがかなり前から課題になっていた部分があろうかと思います。そこの中で私が特に重要だと思っているのは、例えばグラウンドワークという概念を地縁団体というか、古くからの町会などの組織がきちんと理解をするということと、逆に先に実践をしてそれから概念が後からついてくるんだという卵か鶏かという部分がちょっとあって、そこのところでつまずきがちであるような部分もあるように私は感じています。 
 そこのところにまた企業が入ってくることによって、今までにない新しい流れをつくり出せているのかなという気もするんですが、その辺、仕組みが立ち上がるキーポイントみたいなところをもう少し整理をして、補足をいただければありがたいなと思います。よろしくお願いいたします。

千賀
 おっしゃるとおりなんですね。最初の行政、特に地方自治体がこれに対してどういう姿勢をとるか、1つのキーポイントになると思います。今幾つか自治体の流れ、埼玉県ではああいう支援の予算がついている。30万という非常に小さな値ですけれども、それなりの意味をやっぱり持っているわけですし、寒河江でもそうです。それから、滋賀県の甲良町あたりは、職員を出向させるような形でグラウンドワークの組織の職員として置けないだろうか。それが本当にうまく行くかどうか。今までの出向職員というのは左遷させられたような感じで、うまく行ってないケースもありますし、人選や本人の努力が非常に大事なんですけれども、そういう行政があらわれてきていることは確かです。
 それが幾つか、1つのモデルケースとして成功をおさめると、ガッと広がっていく。今県も市町村も国も模様眺めなんです。ちょうどここ数年、そういう状況ではないかと思っておりまして、ここが正念場だろう。ここ1〜2年、いろんなところで実践が展開してくると、かなり安心して取り組む行政がふえてくるんじゃないかと思っています。
 それからもう1つ、今大事なことをおっしゃったんですが、いわゆる地縁組織、例えば、自治会とか町内会というのと、目的団体というんでしょうか、趣味の会とか環境保護団体とか、さまざまな団体が地域にあって、そういう団体がグラウンドワークにどういう姿勢をとるか、非常に大事なポイントになってくると思います。
 今お話ししたところは、ほぼそういう団体がグラウンドワークの中にうまくおさまりながら、あるいは連携して、協力関係を保ちながらやっていった。かなり有名な三島もそうですね。12の環境保護、あるいはまちづくりの団体が横に連携して、1つのグラウンドワーク三島実行委員会というのをつくってやっている。ただ、おっしゃるとおり、中に入ってみると大変です。特に環境保護団体というのは、それぞれお山の大将がいますし、自治会は自治会で地元のボスがおりますから、大変です。まさにコーディネーターが本当にボロボロになりながらやっている。
 イギリスではそういう能力を高く評価するんです。例えば、私も、ある地域トラスト団体の職員募集の新聞記事を見せてもらったんですけれども、一定の専門職業についていた経験があることなどの要件の後に、「エクセレント・コミュニケーション・スキルズ」と書いてある。人とコミュニケートする優秀な技能を持っていることというのが、募集する1つの要件なんです。これは非常に驚きました。日本で募集するとき、そんなこと書きません。応募要件としては、年齢とか、それなりの資格なんか書くかもしれないけれども、コミュニケートに優秀な技能を持つことなんて書きません。しかし、イギリスでは書いてあるわけです。書店に行っても、ハウ・ツー何とかという中にハウ・ツー・コミュニケート何とかという本がいっぱいあるんです。
 ですから、向こうはそれだけコミュニケートが難しくなっているのかもしれません。こういう価値観が多様化した、さまざまな団体がさまざまに活動している社会の中ではコミュニケーションの能力、コーディネートする能力は非常に大事な能力になっている。もっと日本社会もそういう能力を開発したり、あるいは学校教育の中でそういう能力をもっと高めるようなプログラムをつくったりすることが大事ではないかと思っています。
 グラウンドワーク協会という財団もありますので、そういうところではそういう研修も今やり始めているところです。おっしゃるとおりです。しかし、今までの経験からいって、うまくいけばかなり大きな力を日本は出していくだろうと確信しています。

谷口
 私からの質問ですが、今お話しのコミュニケーション・スキルとか、コミュニケートする力とか、コーディネートする力、まちづくりに大変重要な役割ですね。今協会の方でそういう研修とかプログラムとかお考えになっているというお話がありましたけれども、もうちょっと体系的なトレーニングとか技術をやっていく必要があるだろうとかねてから思っておりましたけれども、その辺はどのくらい力を入れてやっていらっしゃるのでしょうか。

千賀
 それはまだまだ十分な展開になっていないというのが正直なところです。ただ、ことしはイギリスのグラウンドワークが初めて、グラウンドワークの研修プログラムをつくろう。日本からグラウンドワークを地域でやろうとしている人材を集めて、1週間から2週間ぐらいのプログラムを開発しようという企画がありまして、恐らく秋にはそれが実現するだろうと思います。今までの研修というのは見学して帰ってくるというのが中心であったわけです。それでも、日本からイギリスのグラウンドワークにすごい人数が行っています。しかし、大体が見学して帰ってくるだけ。グラウンドワークというのはむしろソフトに重点のある仕事ですから、見るもの自体はそう大きなものじゃないし、そう大したことじゃない。だから、なかなか本質が見れないで帰ってくるわけです。もっと実質的なコミュニケーションとか、そういった経営とか、地域の運営、そういったものがわかるようなプログラムをつくろうと向こうの小山さんという方が中心になって、向こうのグラウンドワーク事業団と相談しながら今組んでいる最中です。それが1つです。
 もう1つは、日本でもグラウンドワークの先進事例というのが幾つかあります。その中でグラウンドワークの学校のようなもの、いつでもそこに泊まって研修ができる研修施設をつくってくれないかというので、滋賀県の甲良町に今1つつくることを決定しております。今年中につくって、そこでプログラムを開発して、研修ができるようにしようと考えています。秋ぐらいには受け入れが始まるんじゃないか。それは西の方です。東の方でも、例えば寒河江市とか、あるいはもうちょっと北の帯広とか、そういうところでそんなプログラムができればいいなと思っております。

角家
 いろいろグラウンドワークについての貴重なお話ありがとうございました。今資料をいただきましたが、カラーで滋賀県甲良町の立派なのがあります。それから、それを解説した草色の「グラウンドワークニュースレター」の中に甲良町のことがいろいろ書いてありましたが、これが日本でうまくいった事例の最有力の1つだと思います。このうまく行った理由はどういうところにあったと先生は思っておられますか。今後の参考のために、ポイントが幾つかありましたら、ご教示願います。

千賀
 うまく行った理由の分析を、今私の研究室の修士論文のテーマとしてやらせているところです。私自身、10年ほど前から甲良町に入って、無我夢中でやってきたというのが実態です。さっきちょっと申し上げたように、住民参加でこういったまちづくり、特に農業用水路が網の目のように入っている、それを美しくするような事業を住民参加でやっていくときに、いろんな心配がありました。レジュメにも書きましたが、第1に本当に住民が参加してくれるだろうか。第2に合意形成が可能だろうか。価値観がバラバラになっております。農村地帯であってもそうです。ほとんど地元から都市へ通って仕事を持っていますから。第3に、本当に良いものができるか。第4に、でき上がった後の管理はするんだろうか。よく草ボウボウになっている公園がいっぱいあるんです。そういう4つの心配がありましたけれども、何とか甲良町ではそのすべてをクリアしているというのが実態です。
 なぜかというのは、一言ではなかなか申し上げられません。いろんな側面から、なぜできたのかというのが分析されなきゃいけないだろうと思っています。
 まだ限られた側面からしか申し上げられませんけれども、理由の1つは行政が姿勢を変えたということですね。それまでは本当に行政主導で、トップダウンであったわけです。10年前首長がかわった。それまでは本当にひどかったと甲良町では自分たちがいっていましたけれども、何もできない。できるとしても、トップダウンで厳しい町だった。財政再建団体に転落寸前のところまで行ったといっています。それから、議会も全く理解がなかった。しかし、議会は変わってきました。住民、行政がこういう動きをし、議会も大分変わりました。
 こういうまちづくりは基礎単位が必要なんです。大きなレベルでやっても住民たちはなかなか参加できない。基礎単位は各集落ということにしたんです。13の集落です。各集落、人口が大体500〜800人です。そういう集落を1つの基礎単位にして、むらづくり委員会ができて、月に何回か議論しながら、自分たちの町をよくする運動をしていく。それを具体的にやってきた。
 それから、計画づくりを学習のプロセスにしたんです。とにかく集まってやりましょうというだけでは進まない。特に合意形成がなかなかできない。総論賛成だけど、各論反対である。それを専門家が加わりながら、学習のプロセスを積み上げていく。総論では賛成する、次は各論だということで、同じホタルの川をつくるのに、住民はこういうことを聞いてきます。「どこまで自然にしなきゃいけませんか」。変な質問なんですけれども、そう聞いてくる。それはやっぱり一言でいえば管理が大変。それから、ホタルの川にする場所の近くに住んでいる人にしてみれば、自分だけが管理を負わされてしまうんじゃないかという不安が出る。そういう各論段階ではいろんな議論が出てまいります。それを整理しながら、あるいは正確な知識を提供しながら、少なくともこういう状況でなければホタルは出ませんということを議論しながら、合意形成していく。それはまさに学習のプロセスだったのではないかと思っています。
 このように、幾つかの成功の要因はあると思いますがまだ体系的に十分に解明できておりません。2年ぐらいかけて整理したいと思っております。申しわけありません。

角家
 甲良町の面積はどのくらいで、行政がどのくらいお金を出して、業者からとった見積もりから、行政が出してくれたお金を引けば、あとは地域住民の方のボランティアというか、自発的な力でできたということになると思うんですが……。

千賀
 町の中、13集落あるんですが、各集落ごとにいろんなことをやっております。ですから、その集計というのは今まだ出てないんですね。例えば、自分たちのボランティアだけでやったものもあります。材料は行政や企業から寄附をしてもらって、労働は自分たちでやって、水車をつくったりしたものもあるし、むしろ公共事業を導入して、それに住民たちがボランティア参加するという形態もあります。ですから、総計を集計するというのはなかなか難しくて、そういう数字は出ておりません。さっきの坂戸なんかは1カ所だけですから、簡単に出るんですけれども。

谷口
 どうもありがとうございました。いろいろお話しいただきましたが、時間が迫ってまいりましたので、これで本日の都市経営フォーラムを終わらせていただきます。長い間、どうもありがとうございました。(拍手)


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