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第149回都市経営フォーラム

定期借地システムによる公有地活用
−定借PFIの提言−

講師:赤川 彰彦 氏
  価値総合研究所主席研究員


日付:2000年5月19日(金)
場所:後楽国際ビルディング・大ホール

 

1.定借住宅の供給状況

(1)供給実績

(2)地主と購入者の意識

2.定借住宅の取り組み状況

(1)民間企業

3.公有地活用の実例

(1)名古屋市住宅供給公社

(2)地方自治体

4.地方自治体の住宅政策

(1)住宅政策

(2)財政危機

5.公有地の種類と性格

(1)行政財産と普通財産

(2)貸付期間

(3)貸付料

6.定借PFIの提言

(1)定借PFI導入の意義

(2)定借PFI導入の効果

(3)21世紀の経済社会

フリーディスカッション




 ただいまご紹介にあずかりました価値総合研究所の赤川でございます。
 本日は、ご多忙の中たくさんの方々に参加していただき大変ありがとうございます。
(OHP−1)資料1
 私は92年に定期借地権の法律ができてから、ずっとこの研究に携わっております。定借マンションで最初のモデルケースになった藤和の「田園調布ホームズ」というのをご存じだと思います。これを手がけたのが私です。現在、この田園調布方式の考え方、例えば、皆さんが一般的にやっている無償譲渡の考え方、中途解約不可、存続期間は工事期間プラス契約期間、あるいは土地に抵当権を設定したというのは、すべて私どもで考えて初めてやらせていただいております。したがいまして、都市基盤整備、建設省、事業会社の方々が使われている契約書の内容はほとんどが私どもの契約書が「ひな型」になっています。
 もう1つ、私が一番、関心があったのは道路の返還問題です。道路は50年後に返らないという論文に書いて出しましたところ、定借協議会(定期借地権普及促進協議会)から大問題であるということで、建設省に対して私道について善処されるべく改正要望が出されました。今日は建設会社の方も随分来られていますけれども、建物についての解体の問題等50年後はどうなるのかという基本的な問題から私は出発しました。
 敷衍していわせていただきますと、私が92年定期借地権に取り組んだときにときに考えたことは3つあります。1つは、定期借地権ですので、皆さんご承知のとおり、「所有から利用へ」の考え方。したがって、「利用価値とは何ぞや」と思っておりました。50年間存続するわけですから、少なくとも50年間利用価値がなければいけない。とするならば、この利用される場所は、当初、駅から歩いて20分以上が定借の最適地だといっていた専門家がいましたれども、とんでもない。私は都心のど真ん中あるいは超高級住宅地と考えておりました。超高級住宅地の田園調布だからこそ、インセンティブがあったので、最初に実行しました。また都心では長谷工の「モアクレスト神宮前」も私は関与しております。
 2つ目は、当初、誰しもが、定借は一戸建てと考えて出発しています。しかし、私は最初からマンションが最適だと思っていました。何故かといいますと、当時、マンションの建替え問題を考えており、既にご承知のとおり、5分の4という議決の部分がなかなかクリアできない問題があったからです。現実に阪神大震災が起きて、あと1人、2人というところでも建替えがなかなかうまくいかない。あるいは建替えで裁判を起こし勝訴しても、残念ながらまた控訴されて裁判が継続しております。この建て替えも、エンドが明確であるという意味では、一戸建てよりもマンションの方が適していると考えていました。
 3つ目、今日の本題である公有地活用を考えていました。50年後の人口がどうなるんだろうと言いますと現在は1億2500万人弱です。2004年の1億2700万人をピークにその後減少します。50年後は9230万人。約3000万人減ります。100年後は5088万人になります。人口問題を考えると、50年間利用でき、住まう場所はどこなんだろうと考えてきますと、公有地がクローズアップされるわけです。
 少子化問題が現在、大問題になっていますが、その関係から小学校跡地、中学校跡地、あるいは幼稚園、このような所が出てくるだろうと推測しておりました。都市の経済活力、人が住まなければ都市は再生しませんので、この土地を再生するためにはどうしても公有地を使う。これらの3つ考えておりました。
 したがって、定借については一戸建てという考え方はなく、はじめにからマンションでした。その土地は利用価値のある立地条件が要求されますので「一定の範囲と限界」があるということ、そして公有地活用が本命、この3つの視点が私の定期借地権の出発点でした。
 その中で公有地を活用しましょうといっても、少なくとも公的機関の方は、実績のない場合は全く評価されませんから、それでは、民間でということで田園調布を造ったわけです。その田園調布をやらせていただいた後、私は過去6年間公的機関とおつき合いをさせていただいています。
 最初におつき合いをさせていただいたのが、千代田区です。当時(1994年)、千代田区は5万人構想というのがありましたが、実際には3万5000人を切っていました。そのときに使える手法は、この本(『地方自治体と定借PFI』)の中にも千代田区の事例を入れてありますけれども、学校跡地を使った考え方で定借をやりましょうということでした。もう2年前ぐらいの話ですけれども、電話があり、「赤川先生、ちょっとご相談したいのですが」「何でしょうか」。実は、ある保育園が跡地になります。そこに高齢者住宅をつくるということで区は予算を決めてそのとおり進めようとしたところ、地元から反対が出ました。高齢者が来たのでは、街が死にます。だから、若い方を住まわせたい。若い方が来れば街が活性化するというわけです。街を活性化させるためにどうしたらいいのかとなりますと方法論は2つしかありません。1つは、公的住宅を建てる。つまり区営住宅を建てるということです。しかし、区営住宅を建てる場合には財源が必要になってきます。財源がないからこれはできない。それでは、定借でもやりましょうかということで、定借の話が出て相談されたわけです。
 その後、私は、豊島区、足立区、新宿区、東京都、こういうところでずっとお話しさせていただいております。それ以外にもJA、商工会議所、事業会社等で講演をしております。定借は非常にいい制度です。私は推進論者です。しかし、現実にはそこに内在するリスクはクリアしなければいけない厳しいものがあります。したがって、そのリスクをコントロールするためにはどうしたらいいかということを今日まで考えております。
 そこで、きょうお話ししたいのは、ここにいらっしゃる方はプロフェッショナルでございますので、いうまでもないのですが、最初に定期借地権の現状を少しお話しして、頭の中を整理していただこうと思います。そして、現状において民間及び公的機関の取り組み状況はどうなっているのか。どういうふうに進められているのかを少しお話しして、次に公有地の実例をお話ししたいと思います。名古屋市と大阪市の住宅供給公社の事例です。そして、地方自治体の住宅政策はどうなっているのか。過去から現在までの住宅政策がどういう形で進められたのかということをお話ししたいと思います。その中で一番大事なことは財政危機の問題です。石原都政の外形標準課税、財源がないから、とにかく新しく財源を確保しなければならないということで、この辺のお話させていただきます。そして、その財政危機の要因の一つに公有地がありますので、公有地拡大法を押さえておく必要があります。
 そこで、財政再建のために公有地を活用するといいますが、簡単にそれができるのかというと、そうではありません。公有地には行政財産と普通財産の2つがあり、行政財産には私権が設定できないので、これは利用できないわけです。したがいまして、行政財産と普通財産の法的性格お話をさせていただきます。これを普通財産に変えて使うためにどうしたらいいのか。財源を使わないで社会資本を整備するためにはどうしたらいいのか。その対応策として私が提言した「定借PFI」です。
 公有地において民間の資金とノウハウを活用し、新しく社会資本を整備充実させていく。あるいは公共のサービスを維持、向上させるわけです。予算がないからカットするやり方は、行政の方には大変申しわけございませんけれども、そうすべきではないと思っています。「自治の主体は住民である」とする自治の理念に従わなければならない。市民生活の充実を図るところが自治体の使命ですので、それを遂行するためにはどうしたらいいのか。できないことをいうのはなくて、できるためにはどうしたらいいのかということを考える。このために私は「定借PFI」を提言させていただいております。
 今日は、以上のことを踏まえ、レジュメに沿ってお話ししたいと思います。



1.定借住宅の供給状況

(1)供給実績(OHP−2)資料2

 これは、つい先日定借協で取りまとめたものを表にしたものです。戸数は全部で2万4500戸。うちマンションが8274戸で、全体の34%を占めております。昨年、定借協では1万8895戸、総務庁の資料では3万2000戸となっていますで、約6割となっています。実際に定借協に入っておられない業者もたくさんおりますから。この2万4500を0.6で割り戻してあげると、4万833戸、約4万1000戸。これぐらいが実際の実績ではないでしょうか。その割合は、昨年122万戸の実勢ですから、定借住宅は年間にして0.4と非常に少ない状況です。
 地域性を見ますと、首都圏が最も多く39%、中部、近畿を加えた3大都市圏で、90%となっております。住宅価格は、平均で2484万円、首都圏は2648万円で平均よりも220万円ほど高くなっております。所有権割合は、一戸建てで55%。マンションで約7割。一時金の保証金は平均で668万円。首都圏は896万円となっています。
 敷地は204u。床面積は124uになっています。所有権と比較すると敷地で1.54倍、床面積で1.26倍。したがいまして、「広く安い」といえるかと思います。定借マンションの推移表の、不動産経済研究所が出されておりますが、1999年は2766万となっています。以上が大体の概観です。

(2)地主と購入者の意識

 そこで、地主と購入者の意識について少しご紹介したいと思います。地主の気持ちはどうかといいますと、これは私が95年に書かせていただいたものであります。基本的にはこの考え方はほとんど変わっておりません。@50年後の見通しが立たないので不安、A借地人とのトラブル、B賃貸収入で困らない。もう1つは、C様子見をしたいということあります。現状でも定期借家権がこの4月から施行されましたので、この辺もまた1つ出てきているように思います。
 それでは、購入者の方は、@所有権が高くて買えなかったのが約7割で、A土地の広さ、B価格が手ごろ、こうした理由で購入しております。また、満足感が高くて約9割の方は満足しております。実際、先月神戸に行き買われた方とお会いしましたが、非常に満足されていました。1人は神戸市の整備公社が分譲した物件で淡路島がすぐ見える海岸のすぐそばです。場所が大変気に入って是非ここを買いたいといって、80坪ほどですが、神戸市の中では大変な倍率で二十何倍といっていました。それくらい素晴らしいロケーションでした。もう1人は、御影の駅から歩いて3分ぐらいのところです。40坪程ですが、この方も大変喜ばれていました。
 そういった意味では、購入者の方は非常に満足している。ただ、今はいいけれども、50年後を考えると、どうなのかなというのは1つあります。しかし、ゆとりを持って生活しているということは事実です。



2.定借住宅の取り組み状況

(1)民間企業

 国土庁のアンケートを見ますと、公社の方は93%認知度があります。極めて高い認知であります。自治体の方にも78から88ぐらいということでございますから、かなり高い水準になっています。私はこの6年間いろんなところに行って、定期借地権をお話しさせていただいていますが、認知度の高さが必ずしも定借を正しく理解しているとは限りません。詳しく知っている方は本当に少なく、言葉だけでわかったようでわかってないというのが実情です。
 私は足立区でコンサルしていますが、ポンポンとスムースに行くようなことではないと思います。したがいまして、皆さんが、公社に行かれるとか、公的機関へ行かれて苦労されているというのはよくわかります。担当者が替われば、ゼロになりますので、その繰り返しを何回も何回もやらねければなりません。あきらめずに長く継続していたら、定借がだんだん浸透し理解されやっとゆっくり話せるようになったという感じです。
 民間企業の方はどうかといいますと、1戸建てであれば、ミサワ、殖産、カメヤ・グローバルなどのハウスメーカーが沢山やっております。ただし、現在では良い土地がありません。土地がないからできないのが実態です。最近では、大京が、例えば立川で134戸、尼崎で128戸分譲しましたが即完です。リクルートがふじみ野で47戸、あるいは東急不動が事業用借地権を千代田区一番町でやっています。また、別荘では西武、東急、あるいはナショナルが函南で分譲しております。
 あとは、大手の三井、三菱、藤和、住友などのデベロッパーですが、残念ながら本当に一等地がなく土地を探すので苦労されています。先ほど田園調布の話をしましたが、1995年1月17日、例の阪神大震災があった直後の2月に分譲したわけです。マンションが全く売れなかった時です。その売れないときに1000件も問い合わせがあり、平均倍率12倍で即完しています。現金で買った方が5名です。テレビとか新聞などで全部宣伝していただきまして、ほとんど何もしませんでした。しかし、田園調布は全くゼロから始めたものですから大変苦労しました。その成功からその後続けてやりましょうと藤和もいっていたんですが、田園調布に勝る土地がなかったわけです。出てきたのが神奈川県の何とか、千葉県の奥とか、埼玉県の端の方ばかりで、これでは、定借の意味がないということで、取り組みませんでした。



3.公有地活用の実例

(1)名古屋市住宅供給公社

 民間の方は土地を探していますけれども、良い土地がないためなかなか成就しないわけです。一方、公社の方は生き残りをかけて取り組んでいます。一番力を入れてやっているところが名古屋市住宅供給公社。それから阪神大震災の関係から大阪市住宅供給公社が非常によくやっています。公社存亡の危機意識から徹底的にやっています。大阪市此花区に高見フローラルタウンというのがあります。ここに1期168戸、2期208戸。3期合計で600戸分譲します。同じ場所での定借事業ではナンバーワンです。名古屋市も荒子公園などいろんなところでやっています。
 それから、都市基盤整備にはこが1万戸構想があります。
(OHP−3)資料3
 これは取り組み状況でございます。一番左側の方が、取り組みたい、検討中というのが30あります。とにかく事業化に持っていきたいというところが、公社は約8割あります。自治体は、現在実施中は284団体のうち4団体しかなくて、検討中が169。約6割です。こんなところが現実でございます。
 例えば、公社の中で最初に実施したのは神奈川県公社(94年)です。首都圏の中では、現在神奈川県が一番熱心ではないでしょうか。埼玉、横浜市、千葉も実施済みです。東京都は残念ながら全く動きがありません。(OHP−4)
 住宅新報の「『公』出動で普及にはずみ」ということで、今一番実績があるのが基盤整備公団ではないでしょうか。基盤整備公団の中でも、本格化ということで2000戸分譲を計画しています。ちなみに申し上げますと、整備公団で一番よかったのは港北ニュータウン、25戸売り出し、この倍率が142倍。平均倍率43倍。これぐらい人気のあるいいものを出しています。それ以外に西宮で37戸、神戸で40戸等があります。
 それから、最近話題を呼んだのはベルカーサ広尾の定借(賃貸住宅)です。これは外務省の外郭団体の土地を不燃公社が定借で借り、賃貸住宅110戸を造り、28万賃貸したものですが、安いということで引き合いが相当あり、周りからクレームが来たという話も聞いております。

(2)地方自治体

(OHP−5)資料4
 次は自治体です。お手元の資料にもあるかと思いますが、つい最近日経に「足立区が2000戸」ということで載った記事です。これが有名な「2・2・2住宅プラン」です。2000万円台で2世帯住宅(広さ100u)。これを平成19年までに2000戸つくりましょうというものです。これは昨年6月足立区の区長選挙のときに、現在の区長である鈴木区長が公約として掲げたものです。この政策があったおかげで当選したといっても過言ではないかもしれません。この「2・2・2住宅プラン」を推進するために、この4月に住宅推進室ができ、鯨井室長、小沢係長、大庫さんの3人でスタートしております。足立区が定借で一番進んでいる区といえます。東京都あるいは23区、ほかの地方自治体もすべて足立区の様子見状態にあります。東京都も足立区と同じように私も関与させていただきましたが、定借に対してもう少し様子を見ましょうというところです。自治体は、住宅供給公社と違いまして簡単には動けないというところがあります。
(OHP−6)
 それからこんなに「定期借地権住宅プラン」と大きく出た足立区の記事があります。これは2月3日の東京新聞です。
(OHP−7)
 「2・2・2住宅プラン」をやるときに本当に2000万円台でできるのかという議論があり、そこでお見せしたのがお手元にある名古屋市の荒子公園の分譲例です。地下鉄の駅から歩いて10分。金額が一番高いところで1798万円。坪当たりにしますと62万円。一番安いところは1472万円。坪当たりで52万円。平均1500万円ぐらいです。85uで1240万円。それで、どうなったかといいますと最高倍率が49倍、平均倍率15倍の即完です。
 したがいまして、1000万円台でできるということです。定期借地権は土地代が要らないわけですから、建物価格だけになります。それでは、建築価格に東京と名古屋にどれくらいの違いがあるのかといいますと、建築指数を見ると大体95%になっていますから、ほとんど変わりません。0.95で割り戻せばその金額が出てきます。いずれにしても、この金額でできれば、例えば、売り値を70万円として30坪にしますと、2100万円です。仮に足立区や千代田区で2100万円で分譲しましょうといった場合、どうでしょうか。皆さん購入されるのではないかと私は思うのですが、如何でしょうか。また、神奈川県は転貸方式を導入する考え方があります。
 今の名古屋の例をご覧いれましょう(OHP−8)。
 SRCで14階です。間取りは3LDK、4LDK、価格は1261万円から1798万円。一時金は敷金で地代の24カ月。期間は53年。地代は8000円から9500円ということで1万円を切っております。解体積立準備金が10万円から11万円。毎月の負担額が3600円から3900円と極めて少ない額です。
 販売状況はどうかといいますと、1392組来ていまして、1期の平均が17.1倍。最高が46倍。この46倍は1301号で1786万円です。2期では13階の倍率が一番高くて49倍。1798万円です。購入者は20代、30代、40代、50代、大体20%と満遍なく来ています。60代は7.3%、70代で1.7%。ローンは大体900万円から1000万円が最も多くて、ローンゼロは6.3%です。したがって、このような実例を「2・2・2プラン」の中で生かせたらいいなと思っております。



4.地方自治体の住宅政策

(1)住宅政策

 (OHP−9)資料5
 これは東京都の住宅政策の施策です。この中で見ていただきたいのは、「居住の場として魅力的な東京の実現」ということで、4つの指標があります。@ゆとり、魅力のある居住、A高齢者、障害者など誰しもが安心して暮らせる居住、B安全で快適な居住。Cそれぞれの地域特性に対応した居住があり、その中で、都心居住の推進が記載されております。都心居住の推進を図らなければいけないというのは、都市に活力がなくなるからです。
 「東京都のマスタープラン」は1991年にできました。95年には、「都心地域の居住の場としての維持、再生について」という答申が出されております。住宅宅地審議会では、「21世紀に向けた住宅、宅地政策の基本的な体系」、あるいは経済企画庁では「スペース倍増プラン」。それから、亡くなられた小渕総理の経済戦略会議においても住宅施策として都心居住の推進が述べられています。その中では、すべて「定期借地権の活用」という言葉が使われております。
 ちなみに、経済戦略会議のときに、豊田会長から「定期借家権は問題になっているけれども、定期借地権はなぜ普及しないのか、何か問題点があるんじゃないか」という質問がありました。それで、トヨタの社員の方が、建設省や土地総合研究所等かいろんなところに行きまして、結局たどりついたのが私のところです。私は、なぜ問題があるのかということを3時間ほどお話しました。豊田会長からは「これから日経連でも定期借地権を普及させる」と社員の方から連絡ありましたので、これからが楽しみです。
 都心居住推進とは何かといいますと、先ほど申し上げましたように活力です。都市に人が住まなくなった場合、その街に活力がなくなり非常に寂れるわけです。三ちゃん農業といわれたのと同じ現象になるわけです。そこで都市の過疎状況が見ていただきたいと思います。
(OHP−10)
 これは都心3区。この都心3区の方を見ていただきますと、65歳未満すべてマイナスです。0歳から29歳まで60%以上の減少、30歳台45歳未満は約40%〜50%の減少ですから、活力があり担税力のある中堅ファミリー層の方がいなくなっている。ここに街が活性化しない大きな理由があるわけです。
 例えば、区で見ると渋谷区は増えています。1127人絶対数で増えていますが、率はどれくらいといいますとわずか0.6%です。率が増えたというのも1つの考え方ですが、どういう年齢層が増えたかが大事になるわけです。それは何故か。担税力のある方が増えるのであれば、税金を落とします。しかし、お年寄りばっかり増加した場合はどうなるか。義務的経費が増大し、財政を圧迫しますのでこれを改善しなければいけない。また、コミュニティーをつくるためには若い人の力がどうしても必要になってきます。こうした意味からも都心居住が今後、ますます重要になるのではないでしょうか。
(OHP−11)
 なぜそうなるのかというと少子高齢化です。出生率は全国で1.38。東京都の場合は1.05です。千代田区は0.98と1を切っています。大変な問題だと思います。
 私の友人が千代田区にいまして、幼稚園に入れようと思ったら、たった1人です。それでは教育にならないので、私立の幼稚園に行きました。
 そして、晩婚化、未婚化です。21世紀を支えるためにはとにかく子供がいるのが一番ありがたい話なのです。小さい子供を見たら、あなたは21世紀に背負う人だから、ぜひ頑張って下さいとエールを送っているのが実情です。特にそういうお子さんをお持ちのお母さん方に対しては感謝しています。
(OHP−12)
 それで、こういう表をつくりました。佐貫利雄先生が書かれた本で、『成長する都市 衰退する都市』という本があり、その本をヒントに書きました。
 1950年のところは、ごらんのとおり真っ黒になっているわけですが、それが70年、85年、90年、95年になるに従って、どんどん白くなってくる。具体的に数字を申し上げますと、50年間調べたものがあります。何人ふえたかという捉え方も1つの考え方です。ただし、もう1つの伸び率の考え方も大事です。急成長型は年間2%以上、それから、成長区が1〜2%、停滞区が0〜1%、衰退区が0〜▲2%、自然淘汰区、嫌な言葉ですが、▲2%以下と定義されています。
 例えば、千代田区の場合は自然淘汰区に該当します。自然淘汰区は大体20〜30年たちますと、半分になるという定義です。千代田区は▲2.38%になっていますから、20年程度で現在の人口の半分になる。これが都心8区の現実の姿です。それから環状区は若干違っていますが、少なくとも今までの急成長区からどんどん右肩下がりになっています。人口が減少していることが過去50年間のトレンドでわかるのではないでしょうか。
(OHP−13)
 今のを別の表にしたものがあります。私は団塊の世代でベビーブームは過去最高の4.54です。逆に過去最低を見ていただきますと、1.38と極めて少なくなっておりまして、先行き不安になります。
 2050年の総人口は9230万9000人、2100年は5088万4000人。構成比を見ますと、年少人口は、2000年ですと1845万人に対し、65歳以上の老人は2187万。率にすると14.6対17.3で老年人口が増えてきているのが、ここでわかるのではないでしょうか。2050年には、年少人口の割合が10.8に対して老年人口が34.9。2100年には3割を超えている状況になり、若者1人が老人3人おんぶしなければならないということになるわけです。高齢者も大事ですけれども、少子化に対する対策をもっともっとしっかりやる必要があります。
(OHP−14)
 何故少子化対策をしなければいけないのかという問題が出てきます。学校の統廃合です。この表を見ていただくと、よくわかりますが、東京都はの場合、89年から約10年間だけで幼稚園は公立分で27、私立分でマイナスの54学校。小学校でマイナス29。中学校でマイナス3校となっています。都心の方を見ますと、3区だけでも幼稚園でマイナス13、小学校でマイナスの14校、これぐらい統廃合されています。
 私は横浜に住んでいますが、区域にある小学校は今、27名が2クラスです。我々のころは55人1クラスで10組ぐらいありましたので、大変な人数の減り方になっています。
(OHP−15)
 そこで、都市化の4段階の表をつくりました。都市の成長には4つの段階、すなわち第1段階、第2、第3、第4段階があります。まず第1段階は、都市化ということで既存都市に人口が集中し既存都市以外の人口も増加します。そして、第2段階になると郊外化ということで、中心部分がだんだん減り郊外の方が増えるという段階になります。
 第3段階は中心市街地の人口はマイナスになり、郊外の人口が増えていますので、現在、この段階にあると考えられます。ただ、9年連続して地価が下落したので、少し都市に戻ってきていますけれども、それが潮流になるかというと、まだそこまで行っていないという感じがします。
 都市化のこの第3段階が、逆都市化になるわけです。逆都市化のところで、人口増を図ることが大事でそれが現在、中心市街地活性化といわれているわけです。したがって、定住化政策、あるいは人を呼び込むにはどうしたらいいんだ、何をしたらいいのだということになるわけです。したがって、サイクルの中で第1段階から第2段階の郊外化になり、逆都市化になり、再都市化して行くわけです。大都市の場合には、再都市化というのは可能なのかもしれませんが、小さな都市については、魅力がなければ第3段階で終わってしまうかもしれません。人口がどんどん減少すれば街に活力がなくなり、消滅していくかもしれません。そのために、街に若い人たちを入れていくためにはどうしたらいいのかということが出てくるわけです。
(OHP−16)資料6
 都心の定住対策ということで、区民住宅の建設増がここで行われています。自治体で事業するにしても、いかんせん財源不足です。一生懸命計画しても補助金政策ですから、幾らかかるのかということになるわけです。その辺も合わせて考えて、それではどうすればいいんだということになります
 もう1つ大事なことは、賃貸住宅に力を入れていても一定の年齢になると、例えば、足立区の場合、40代の方が狭いから郊外に転出します。定期借家権でいわれている優良な賃貸住宅は少ないわけです。それで出ていってしまう。北区の場合は30代の方が転出しております。こう点をどうにかしなければならないと思うわけです。
(OHP−17)
 新聞の見だしに「地方財政、赤字に悲鳴」と出ています。左側の東京都の財政収支をごらん下さい。昨年は1068億赤字です。今年度はどれくらい予想しているかというと、6200億。13年度で7000億。約6200億から7000億ぐらいのマイナスですから、何かしなければいけないと思うのが当然です。
 使えるものは何があるか。例えば、昨日、読売新聞に東京都のバランスシートが出ていました。土地が27兆円、借金が14兆円。27兆円も土地があるわけですから、これを利用すればいい、こういうふうに考えるのが自然ではないでしょうか。
(OHP−18)
 自治体は、先程来申し上げた土地開発公社の土地購入で膨らみ、それが財政を侵食している実態があります。そのため、何でこれを買ったのかと市民オンブズマンから意見が出ております。
(OHP−19)
 都市が過疎化していく中で、どうしてもやらなければいけないことは年齢構成のバランス化です。年寄りがいて、そして若い方がいる。いわゆるソーシャルミックスをしない限り街はだめですよということです。行政はシルバーピアということで実施していますが、あれは現代のうば捨て山だと私ははっきりいっています。シルバーピアを造くっても、だれが生活するのですか。阪神大震災が起きたときにだれが助けるんですか。私は老人ホームをずっと調べさせていただきましたが、老人ホームの夜間職員は平均で3人です。100人に対して3人です。阪神大震災のぐらいの地震があった場合、誰が助けるか。その3人が助けるといっても最大で3人だけです。あとの97人はみんなだめになってしまう。重傷者であれば1人だけしか助からないかもしれません。
 20年前ですが、私は西宮北口に住んでいました。阪神大震災の1カ月後、食料を持って現地に届けて行きました。そうしましたら、私が住んでいた社宅の目の前の家はほとんどつぶれていました。また、よく買いに行った魚屋さんのアーケードは全部つぶれていました。2階建てが1階になっている、これには本当にびっくりしました。中高層の建物でも中間層がつぶれているとか倒壊しているとか、こんな状況を見てきました。
 その中で1つ明るいニュースがあります。それは何かといいますと、倒壊したマンションで全員が助かった例です。全部で30戸ぐらいですが、ここに住んでいる方のコミュニティーがよくできていたのだと思います。住民の年齢は30代、40代、50代の方、おばあちゃんがいました。建物が倒れたときに何をやったかといいますと、その方たちは、「誰だれさん、誰だれさん、いるかいるかいるか」といって点呼をとったんです。「だれだれのおばあちゃんがいない」「よし行くぞ」ということで40代の方、50代の方が行って引っ張り出してきて助かった。これが倒れてだれも亡くならなかった事例で新聞にも大きく出ました。私は、これがコミュニティー、住宅のあり方、生活のあり方だと考えております。
 したがって、街の中にただ単に箱をつくって住んでください、シルバーピアはこういうサービスをしますよというのではなくして、子供がいて、孫がいて、おじいちゃん、おばあちゃんがいる、こういう世界であろうと思います。そこに初めてコミュニティができ、街がにぎわい、世代間の縦のラインが出てくるのではないでしょうか。

(2)財政危機

 さて、次に自治体の財政危機ですが、先程申し上げましたように、自治体の財源がありません。どれくらい財政運営が厳しいかといいますと、1999年の47都道府県では51兆円の予算です。財源不足額が3兆円。これは1993年の2倍になっています。地方債残高は120兆719億。7.7%の増です。予算と地方債の倍率を比べると、長野県が一番多くて1.6倍。宮城県が1.52倍。兵庫県が1.47倍。地方債よりも歳入が少ない、収入部分が多いのはわずか群馬と沖縄の2県のみです。
 東京都は、1068億マイナスになっていますので、海外事業を全廃し78事業を廃止しています。神奈川県は大幅マイナスになって、競輪場等を売却して、よくいわれているように、リース・バックやっています。売却して自分のところ賃借するリース・バックをしています。ここでも定借利用したら如何ですかというので、「リース・バック定借」(筆者の造語)といっております。大阪府は120億。勤労者憩いの家を始めとして111事業を廃止しています。
 財政の健全性をあらわすのに経常収支比率があります、普通60〜80%ぐらいまで健全といわれますが、1988年には69.8%に下がったものの、1998年に87.6%、1999年、88.2%と限りなく右上がりになり、危機ラインが80%を超えております。
 ちなみに、大阪府は117.4%ということで、もうアップアップの状態です。したがって、自治体の中でも勝ち組、負け組に分かれ、負け組はとにかく一生懸命財政を再建しなくてはいけない。石原都知事がいっているのはこれだと思っています。一番大きなものは義務的経費、つまり人件費、公債費あるいは扶助費の増加です。
 事務的経費は、収入で比べてみると、事務的経費が大体41%。もう1つは投資的経費。これは自分たちが本当にできるものでこの割合が30.8%になっています。事務的経費がどのくらいかといいますと、22兆3868億の3.7%増です。人件費は平均で0.1%増になっていますが、東京都は逆にマイナス7.7%と最大に減らしております。この辺も不退転の決意があろうかと推察されます。
 公債費は5兆6940億円の10.4%増。つまり、義務的経費が増えますから、自分たちがやりたい事業、単独事業が縮小されるわけです。したがいまして、投資的経費は全部で16兆8334億円で多いように見えますが、マイナス6.8%と前年よりも減っております。
 こうした状況の中で土地をどんどん買っていく、あるいは買ってしまったというわけです。それは何かというと公有地拡大法です。1961年、その当時卸売物価は0.3%にもかかわらず、42.5%と地価が物すごく上がっています。1964年、65年が12%台と地価が上がっています。都市環境を守るために十分な整備をしなければならない。そうしますと、地価高騰が阻害要因になっていますので、公有地を拡大して都市環境を整備する必要があるわけです。
 そのために、地価対策閣僚協議会が1965年にでき、この中で公的土地保有の拡大と活用という問題が出ました。1972年に都市の健全な発展と秩序ある整備を図るということを名目にして、この公有地拡大法ができたわけです。その中で現在問題になっている土地開発公社が創設されました。この立法により、自治省から通達で土地開発公社の専門性を利用せよということで先行取得したわけです。したがいまして、1973年、土地開発公社は614公社から1999年に1597公社と983公社も増えています。それで土地をどんどん買いました。土地が上がっているときは良かったのですが、バブル崩壊して金利負担が大変になってきたわけです。
 ご承知のとおり、地方自治体が買った土地には金利が全部オンされます。例えば10億で土地を買いました。金利負担分が10億であれば20億が原価になります。この20億をいかにしてゼロにするかという考え方をしなければいけないわけです。
(OHP−20)資料7
 この新聞に出ておりますように、塩づけ土地が、その関係で自治体の財政を圧迫しております。どれくらいあるのかといいますと、土地保有総額は8兆7854億円あります。約8兆8000億、面積は3万4476ヘクタールです。塩づけ土地、いわゆる5年以上は3兆8499億円、約3兆8500億円あります。全体の43.8%です。
 それから、面積は1万2705ヘクタール、率にして37%です。10年以上になりますと、保有総額は1兆526億円の12%。面積は6927ヘクタール。全体の20%が塩づけ土地になっています。これを活用しなければならないということになるのですが、現状ではどうにもならないわけです。
 そのため、4月21日、自治省と建設省がこの公的土地が財政を圧迫しているので、財政負担の軽減の視点から、「土地開発公社と協議した上で、当該土地の用途や処分方針を再検討すること」という内容の通達で転用とか売却を促しております。したがって、公有地の売却か転用を自治体は迫られるはずです。そこで、私が提言している「定借PFI」が活きてくるわけです。
 一方、大蔵省を見ますと、現在、行政財産は882万ヘクタール。普通財産が11万3000ヘクタールあり、今年度、使用状況調査がされております。総口座数は3万5000口座。7万8659平方キロメートルを3年間で全部調査するという内容です。
(OHP−21)
 ご承知のとおり、地価は9連続下がりましたので、ますます赤字が拡大して処分する場合どうにもなりません。購入時の5分の1とか、あるいは10分の1になるわけです。しかし、土地があれば、運用、転用するということは可能なわけですから、この部分について公有地の活用を考えることになろうかと思います。
(OHP−22)資料8
 土地が下がったおかげで、住宅は今まで以上に価格が下がり買いやすくなる。買いやすくなったから、都心回帰ということですが、ニューヨークに比べてみますと、4.4倍ということで、日本はまだ非常に高いわけです。
 ニューヨークは4.4倍ですので、もうちょっと安くなるかと思います。そこで考えられるのは、土地代が全くかからず地代を払うだけで済むならば、定期借地権の利用の仕方が出てくるのではないでしょうか



5.公有地の種類と性格

(1)行政財産と普通財産

 「定借PFI」を活用するにしても、その公有地の法的性格をよく知らないと利用が難しいわけですから、こういう表をつくりました。
(OHP−23)資料9
 公有財産の用途は次のように分かれております。地方自治体の財産は、公有財産、物品、債券及び基金(地方自治法273条)の4つあります。公有財産とは、不動産、船舶、地上権、地役権、こういったものがあります。公有財産は行政財産と普通財産に分かれます。行政財産は、公用または公共用に供し、または供することを決定した財産です。公用は庁舎とか議事堂を指し、公園、図書館が公共用に該当します。普通財産は、行政財産以外の一切の財産です(地方自治法238条)。
 それで、例えば、学校跡地を活用しましょうといっても、それは行政財産に該当します。公用または公共用に供しているわけですから、借地借家法の適用はできませんので、これは使えないわけです。貸し付け、交換、売り払い、譲与、出資、信託、また私権の設定も不可となっています。しかし、その他の目的としては、用途の目的を妨げない限度においてその使用は許可されます。これを目的外使用といいます。これは公共性のある、例えばガス、電気、水道あるいは地方公共団体、こういった公的機関に対しては、行政財産であっても使えるわけです。皆さんが思っておられるように、行政は土地をたくさん保有しております。東京都は27兆円もあります。公有財産は資料を見ていただくとこれだけありますので、これを活用するわけです(資料10)。行政財産の中にも、「公用又は公共用に供し」と書いてありますが、公用又は公共用に供しなくなった場合も出てきます。これがさっき言った学校跡地です。学校には適正化基準というのがありますから、適正化基準に当てはめ、児童がいなければ今度ここを廃校する、ここと合併する、統廃合するはずです。区の方に行けば、教えてくれるかどうかわかりませんが、そういう予定が出ているはずです。
 となると、これを活用するためには行政財産のままではだめだということだけはご理解いただきたいと思います。一方、普通財産はどうかというと行政財産以外の一切の財産で、主として経済的効用価値を発揮させるわけですので、民法、商法、借地借家法、私権の設定、貸し付け、売り払いがすべてできるわけです。
 それでは、行政財産を使うためにはどうしたらいいのかといいますと、「行政財産の用途を廃止」しなければなりません。行政財産の用途を廃止し普通財産にすることによって私権が設定できます。ここまで持っていかなければなりません。行政財産を廃止するためには、どうしたらいいのでしょうか。自治体には関係部署や条例・規則などがあります。例えば、自治体には管財課があり、これを説得しなければいけない。条例であれば、議会を説得しなければならない。規則であれば長が権限を持っています。そこまでの手続が大変です。そんなに簡単ではございません。言うのは簡単ですけれども、いざ行うとなると大変です。
 これを普通財産にして効率的に運用する。土地というのは効率的に運用しなさいということが財政法第9条に書かれております。
 本を持っている方は279ページの一覧表をご覧下さい(資料11)。東京都の場合は規則です。大阪の場合は条例です。例えば、東京の場合、第7条に行政財産の用途廃止が書かれ、出納長または局長に権限があります。大阪市は条例でして局長または教育長です。これは第5条です。足立区の場合には第8条で部長及び局長となっています。公有地を活用するためには、行政財産の用途を廃止することが不可欠の条件になります。

(2)貸付期間

 次に、定期借地権を活用する場合に何が問題になるかといいますと貸付期間です。ご承知のとおり、定借には、事業用借地権、建物譲渡特約付借地権、さらに一般定期借地権の3種類があります。借地期間を50年間設定しましょうといっても、地方自治法にはなく、公有財産規則または条例には30年と規定されています。国有財産法21条で30年と決められていますから、それを準用し地方自治体の大半のところは30年になっています。そうすると、期間30年の制約をクリアしなければなりません。
(OHP−24)資料12
 まず事業借地権を見てみましょう。事業借地権の場合、最長でも20年です。期間30年未満ですから特に問題はありません。ただし、私は事業借地権を何件か経験がありますが、特約で最初から更新条項を設けているのがあります。これは定期借地権になりませんので、ぜひ気をつけていただきたい。定期借地権というのは期間がきたら終了する、20年なら20年で貸して終わるのが定期借地権ですから、最初から更新することを約束するということは定期借地権を否定していることですから、それはやめていただきたいと思っています。したがって、20年の事業用借地権の場合については、現行法30年以内ですので問題はありません。
 次に建物譲渡特約付借地権の30年はどうでしょうか。30年はギリギリです。これはできるのでしょうか。基本的にはできますけれども、建物を建てるときを考えた場合、1日で建つことはできないわけです。工事期間あるいは開発許可等を考えるとその期間をブラスしなければなりません。30年プラス工事期間ですので、物理的に期間30年は不可能になります。一般定期借地権は50年以上です。期間30年からはみ出ますから、この利用は全く不可能です。したがって、期間30年ということは原則論としてできませんので、期間を変える必要があります。そのために、規則で変えていかなければならない。あるいは条例で変えなければいけないというのがここで大きな問題になります。
 そこで、改正する場合、どうしたらいいのかとなるわけです。これを単純に30年から50年にすればいいのかというとそうでもありません。そうでもないというのは、期間を30年から50年に延長しても、一般定期借地権は50年以上ですので、工事期間、解体期間を加えると5年とか10年加えた方がいいことになります。私は60年ぐらい考えたら如何ですかという案を出しております。それは何年でも構いませんけれども、期間を限らないと行政の方からはなかなか「OK」をいただけません。
 したがいまして、行政財産を活用するときは2つあります。まずやらなければいけないことは、行政財産の用途を廃止して普通財産に替える。これが1つ目です。2つ目は、期間が30年と限られていますから、30年を50年以上に変える。あるいは個々において考え方をきちんと持って、行政財産のところでの事業借地権については何年、あるいは建物譲渡付借地権は何年、一般定期借地権については何年とされるのもいいかもしれません。

(3)貸付料

 3つ目は、貸付料です。例えば、PFIでは国有地は無償でやりましょうという話があります(OHP−25)。資料13
 無償で本当にいいのかということになるわけです。無償というのは只ですから、補助金と同じ意味になります。通常の建物において無償ということは公益性公共性がなければ極めて難しいので、やるのであれば有償にすべきです。なぜ有償なのかといいますと、財政法の中に、「適正な対価なくして貸し付けてはならない」(9条)と規定されています。また、地方自治法237条第2項でも規定されています。それでは、適正な対価は何なのかといいますと、最近判例が出ました。平成8年6月の26日、「東京都臨海副都心都有地低価格賃貸借事件」の中の判例の一部を申し上げますと、「市場価格を最も重視しつつ、客観的に公正と認められた対価」と書かれています。要するに、市場価格と考えていただければいいわけで、その市場価格の中で誰しもが納得のいく客観的な価格と考えて下さい。したがって、「2・2・2住宅プラン」では、基本的には無償でなく有償と考えています。当然、地代がかかるわけですから、これは固定資産税相当額と考えております。それを安くするということは公正性、公明性に反するわけですので、ここでは財政法、地方自治法のいう適正な対価をいただいく必要があると考えます。



6.定借PFIの提言

(1)定借PFI導入の意義

 「定借PFI」を私は何回も申し上げましたが、PFIの考え方は、民間の資金とノウハウを使い社会資本の整備を図るが基本にあります。この応用範囲は極めて広いので、地方自治体にとっては利用範囲がとて広がると思います。
 地方自治体がこの危機を乗り切るには方法論は大きく3つしかありません。第一は、当たり前の話ですが、コスト削減合理化効率化です。第二は、収入増です。例えば新税。まさに外形標準課税はその典型例です。資金量5兆円以上の銀行に対して外形標準課税をしますと1000億円になると試算されています。昨年、赤字が1068億ですから、この徴税分でちょうどチャラになります。それから、最近話題になっているのは都バスの広告展開です。210台で5億円です。何にもしないで5億円儲かるわけです。
 もう1つは、徴収税率を上げる。これは大事なことだと思います。現在、平均で92.5%です。低いですね。この徴収税率を上げることが、ある意味での財源を豊かにしていくわけです。徴収税率の正確な数字を申し上げますと、東京が93.2%となっています。一番高かったときが92年の96%。全国の中で徴収税率が一番高いところが鳥取の99%。
 最近、徴収税で有名になったところは小田原市です。小田原で何が有名になったかというと、悪質な滞納者については名前を公表するという条例をつくりました。それくらいのことを本当はやっていいのかもしれません。お金がないというのであれば、そのお金をどこかから持ってこなければならない。算段しなければならない。人件費は大体44%かかっていますので、コストはゼロではありません。民の発想が要るわけです。
 公の考え方も徐々に変えていかなければならないと思うわけです。公の考え方の中で一番の基本にあるものは何なんだということです。それは、公共サービスの維持向上ではないでしょうか。公の立場からすれば、公共サービスの維持向上、そして、地方自治法第2条に書かれているように「最少費用で最大効果」を発揮する必要があります。
 したがって、最少費用で最大効果をもたらすにも、いろんな手法があるでしょう。そこで、3番目に出てくるのが「定借PFI」です。つまり、保有資産の運用処分です。運用というのは、実は自治体は財源がないものですから自分の懐を痛めるのはできません。民間からお金を持ってきてください。この土地を貸します、借りてください、何やってもいいです。そのかわり地代ください。土地はほうっておいても何も生みません。生むより草取りや除草など管理費がかかりますから、むしろマイナスです。それを、貸すことによって、あるいは処分することによって、第三者に渡るわけですから、そうしたら固定資産税は入るわけです。人が住めば街は活性化します。また、保有地を処分すればキャッシュフローは多くなります。
 「定借PFI」という言葉を私の造語で既に商標登録してあります。何故かといいますと、私が書いた『定期借地権活用法』(共著 税務経理協会)が3人から著作権侵害を受けました。ご承知かもしれませんが、新日本法規出版の『定期借地権をめぐる諸問題』(さくら総合事務所)のS公認会計士が私の本をほとんど盗作したわけです。裁判をやりもちろん私が勝訴しています。2人目は元リクルートで住宅評論家のY氏です。これが「全国賃貸住宅新聞」の中で半分は私の書いたものを侵害しています。
 3人目はZ弁護士です。また、大阪では弁護士、不動産鑑定士、土地家屋調査士、税理士士(さむらい)族の方が「定借PFI研究会」を作りました。そのようなことで、「定借PFI」というのは勝手に使えませんので、よろしくお願いしたいと思います。

(2)定借PFI導入の効果

 「2・2・2住宅プラン」は足立区の第二次マスタープランの中で中堅ファミリー層を「隠れた住宅困窮層」と位置づけております。住宅で一番困っているのは老人ではなくて、中堅ファミリー層といわれる人たちで狭い住宅にいるため、担税力のある40代の方が転出しております。そのこと自体がおかしいのではないかいうことで、この層に焦点を当て、「隠れた住宅困窮層」と位置づけて、この「2・2・2プラン」が出発しております。
 足立区の場合、たくさん土地がありますがこの低未利用地を利用して、2000万円台で、広い2世帯住宅(30坪)の家を提供しようじゃないか。中堅ファミリー層を呼び戻して定住化させる。定住化させれば街が活性化するでしょう。
 補助金の場合は、どうしても財源が必要になりますので、お金のかかることはとにかくやりたくないわけです。もう1つは、賃貸になると、自分の家ではないから大事にしない。もちろん賃貸には賃貸のよさがありますが、何年か住めばいいんだということで自分の故郷になる愛着が欠けてくるかもしれません。
 調べてみますと、住宅に対する負担感というのが極めて高いんです。住宅費に負担を感じるのが60.5%。平均的な支払い額が、1カ月で12万2700円。2DKの方では9万6804円。3DKで12万1813円。こういう高い住宅の状況ですので、それならば、これより以下にして、「広くて安くて近い」住宅を提供すればいいじゃないかと思うわけです。
(OHP−26)
 住宅ローンの負担が高いため、給料もらっても一向に借入残高が減らないわけです。新聞みだしの可処分所得の7.1%。消費回復の影響に陰ということになるわけです。借入金額が少なくなれば、その部分だけゆとりができるでしょう。所有にこだわることも必要なのかもしれませんが、ゆとりがあって生活を豊かに暮らす場合には、4000万円も、5000万円も、人によっては1億、2億と借りている方もおられます。払える方はいいんですけれども、払えない人はどうしたらいいんだろうかと思うわけです。そうしたら、安くて負担感なくゆとりを持ってやることがとても大事でしょうとなるわけです。
(OHP−27)
 そのために、安くてもいいからということで利用価値を求めて定借が人気になっています。土地所有にこだわらない若い人は本当に多くなってきました。一昨日も講演してきましたが、その中の一人が、「こんなだったら、おれも買えばよかった。70u強で5千数百万も出して買ったんだけれども、100uで2000万円台で買えるのであれば、そっちに住みたい」と言っていました。まさにこういうことで利用価値があればいい。自分が住める期間でいいじゃないか。子供は子供で後は考えてくれということです。
(OHP−28)
 これは都心3区です。30分、1時間、1時間半、2時間と書いてあります。都心3区にへの通勤者は216万人います。90分以上、1時間半かかっている人が54万人。30分になると3.9%とすごく少なくなっています。1時間以内で41万人。1時間から75分までは52万人。郊外の広いところに転居すると90分以上かけて通うわけです。現実に平均通勤時間は71分です。通っている方で都心に住みたいという方は216万人中33%います。それで計算しますと、通勤者は71万人(=216万×33%)が都心居住希望者です。若い方は、20〜39歳で62.7%です。この方たちは遠いところから通勤するよりも近いところの方がいいといっているわけです。そうすると、職住近接です、これがまさに都心居住だと私は思っています。
 なぜそうなのか。例えば、71分としますと、往復で140分。私が造った「モアクレスト神宮前」、大手町まで片道20分。往復で40分。1日にするとその差は100分。乗っている時間が1日100分違います。1年間でやった場合どれくらい違うか。240日働いたとしますと400時間。日数にしますと16.7日間です。電車の中でこれだけ違います。当然、ローンを借りていますから、定年まで30年間とすると時間にして約1万2000時間、日数にしますと500日間。500日間、これだけ違ってきます。私は横浜に住んでいますが、自宅に帰ってからもう一度都心に来て遊ぼうかという気は起きないんです。しかし、職住近接の神宮前に住んでいれば、一旦家に帰り服装もカジュアルにガラッと着替えて、麹町とか六本木あたりに遊びに行くことに抵抗感はないと思います。
 そういう意味で都市を楽しめることが十分考えられるのではないでしょうか。これが都市の魅力であり、大事な点であると思います。
(OHP−29)
 さらに、都心の抱えているものを見てみますと、最近では都心に住む方が増えてきており見出しの「進む都心回帰、郊外型は苦戦」、これです。定期借地権は、当初、駅から歩いて20分以上のところが定借の最適地といわれていました。しかし、現実にはこうです。
 自分たちが老人になったときにどういう行動をしますか。老人が行くところはどこだかわかりますか。まず、買い物が便利でなきゃいけない。病院が近くになければいけない。金融機関が近くになければいけない。いかなる手段で行くかとなるわけです。徒歩で行くのが60%です。駅から歩いて20分以上のところにそういうところがありますか。歩ける距離に病院、商店、スーパー、銀行が必要になるわけです。したがって、都心回帰するのは当然の帰結です。
 これからは、年寄りは一番サービスのいい行政を選んでくるはずです。これは「ティブーの仮説」といいますが、できるだけ少ない税金で可能な限り多くの対価(ベネフィット)を受けられる行政を選択するという説です。サービスの高い区はどこかというと実は千代田区です。千代田区に老人が随分転入しています。また、単身老人の方も随分増えています。こうなると、今度は千代田区さんが財政上困るわけです。
(OHP−30)
 これを見ていただくと、今ご説明申し上げたのがよくわかると思います。立地優先です。1時間半もかけて行くのでなくもっと近場です。すぐに帰れるところがいい。日曜日に都心に来られた方はおられますか。私は時々都心に遊びに来ます。そうしますと、人がいないものですから明治神宮なんか歩くと実に優雅に落ち着きます。何でこんなに優雅だったかなと思います。歩いている人が少ない。いろんなことをやっています。自転車に乗ったり、自然散策をしています。田舎には田舎の良さはあります。しかし、都心の中でも自然もきちんと残ってますので、ただ単に遊ぶだけでなくこういう意味ではゆっくりできるかもしれません。
(OHP−31)資料14
 それから、先程申し上げた小学校跡地ですが、「4区で5カ所。10年で廃校67校」。まさにこのような状態になっています。
(OHP−32)
 さらにショッキングなお話になるかもしれませんが、これから抱える大変な問題としては、「2015年東京破綻の日、老いる都市」となっています。バブル経済により、どんどん建物をつくりました。2022年をピークにバブル時に建てたときの建物が建替え時期になりお金が必要になります。約2兆1000億です。
 例えば、立川の村山団地をご存じですか。東京都で一番大きい5200戸ほどある団地です。この建替え費用に1000億かかります。北区の桐ケ丘、ここは5024戸あります。半期だけで600億かかります。東京都には都営住宅が26万戸あります。30年、40年経過している公的住宅はたくさんあるわけです。この建替え資金はどうするのか。まさにここです。建替えの資金がないわけですから、どこからその1000億円を捻出するか。東京都は1000億の赤字だけれども、その1000億円はありませんから、まさに「定借PFI」を活用するわけです。
 都市基盤整備の方がおられますが、昭和40年代の建物の容積率は63から67%です。通常の容積率が200%ですから、130%を売ることが可能になります。つまり、余剰地ができますので、都市でいい立地条件にある住宅であれば、その場所は分譲できます。立地条件が良ければ、定借住宅でも買う人がいますので特に問題はないわけです。ローンがつけば全く問題ないということになります。
 建替え資金は、国から2分の1、東京都から4分の1の補助金が出ます。したがって、区の資金は4分の1だけになります。これで十分じゃないでしょうか。4分の1の起債分はどこから持ってくるかといえば、それは余剰地の定借分譲分から資金を造るわけです。民間の資金とノウハウを活用するPFI手法を定借システムに取り入れ、この「定借PFI」を推進するだけの意義と理由があります(資料15)
 まず、地方公共団体がこの「定借PFI」を導入する意義は、@低未利用地の活用、A都心居住推進策として「安い・近い・広い」良質廉価な住宅供給し、担税力のある中堅ファミリー層と若年層の呼び戻しと定住化が図られる。B民間の資金とノウハウを活用するため、財政負担なく住宅・庁舎などの社会資本の整備充実が可能になります。また、その直接的効果は、@年齢構成のバランスが図られ、世代間の3C(Conversation,Community,Culture)が形成され、街の活性化やにぎわいが期待できます。A地代収入が見込め税収増に寄与し、B経済波及効果があり地元商工業の景気対策になります。さらに、間接的効果としては、C土地建物のために巨額の起債をする必要がなく財政の健全化に資する。D財政支出の平準化が図れる。E当該予算の流用により増大する福祉需要に対応でき行政サービスの維持が可能。F民間活力の導入により行財政改革と職員の意識改革をもたらす利点が考えらます。
 次に事業者は、@建設・土木工事の受注と建物管理の受注期待でき、A地代の支払いのみで土地を購入する必要がないため、事業リスクがほとんどありません。また、B信頼性の高い自治体をクライアントとして50年間テナントとして確保でき、C確定収入が期待でき、経営の安定性が図れるなどがあげられます。さらに、購入者にとっては、@職住近接の良質廉価な住宅が確保でき、A住宅ローンの支払い額が少なくなるため、その分経済的ゆとりが生まれ、日常生活の場において文化・レジャー・友人交流など幅広い創造的な活動ができる、B都市の利便性とゆとり時間を享受し、家族とのコミュニケーションが可能などのメリットがあります。
 このように公有地を活用した「定借PFI」は、官も民も購入者も三者三様に多くの利点が享受できるため、財源不足と公共公益的視点から考えれば、それを実現化するだけの意義と効果は大きいと考えます。
 さて、私は土地、住宅というのは人間が生活する上でとても大事なものだと思っております。既に皆さんご承知のとおり、土地基本法があり、その中で土地は国民のために限られた資源であり、国民の諸活動にとって不可欠な基盤と書かれています。また、財政法では、常に良好な状態によって管理し、その所有の目的において最も効率的に運用することと記されています。したがって、公有財産というのはこうした視点から住宅あるいは社会資本整備を図っていくことが大事ではないでしょうか。
 現在、財政危機が最大の課題になっていますが、今までやってきた補助金政策は如何なんでしょうか。この補助金政策はだめですよということを既に大正時代に、一橋大学享受から大阪市の市長になられた関一先生が、補助金政策について、「補助を与えてその減少を図るが如き政策は行き詰まりを免れないもの」と痛烈に批判をしております。この指摘は財政難の現下にあっては傾聴に価するのではないでしょうか。

(2)21世紀の経済社会

 そこで、我々は、これからの21世紀をにどういうふうになるかを考える必要があります。定借の期間は50年以上ですので、その間の経済社会の変化を考えなばなりません。
 第一に少子化という問題が出てきます。現在、結婚して一時的借家層になっても、出生率が1.38ですので、いずれかの両親からもらえる潜在的持ち家層といえます、したがって、家は要らないことになる。そうなれば、よほど良質廉価な住宅を造る必要があるでしょう。
 第二は高齢化です。2050年には高齢化率が35.2%、人数で3245万人になります。それに対して少子化率は10.9%です。人数にして1005万人ですから、年少人口の3倍になります。
 第三は地価下落が多分起きてくるでしょう。使えない土地は使えない。使える土地と使えない土地の二極化が鮮明になると思っています。逆にいえば、使えない土地を無理して使うからだめになるんです。大変酷な言い方かもしれませんが、私は定借をやっているときに基本的に使えない土地は使えないと思っています。50年間利用できない土地なら定借はやめた方がいい。25年や30年でだめになるかもしれませんので、その辺の土地の目利きが極めて重要になります。
 第四は経済のグローバル化、産業、雇用構造が変わってきます。生産年齢人口が減ると、優秀な外国の方がたくさん来られると思います。そうなると、その方たちが当然採用されていくことになるでしょうから、我々の行き場所がなくなるかもしれません。大変困ったことになるかもしれません。その中でいろんな住宅問題が出てくると思います。会社形態も変わってくるかもしれません。まさにグローバルスタンダードで考えていくことが要請されるでしょう。
 第五は、環境配慮型の経済になることです。この環境が大事でして、例えば、定借で私がずっと考えていたことは何かというと建築廃材と土壌汚染です。定期借地権は期間満了時に建物を解体し、更地返還されますので、その際に建築廃材がでます。産業廃棄物の約2割は建設廃材です。そして残念ながら、産業廃棄物の中から漏れて土壌汚染をしているところが結構あります。土壌汚染は大変な問題です。燃やせばダイオキシンがでます。例えば、大阪府のゴミ焼却で基準値の6900倍になっています。あるいはテトラクロロエチレンとかいった化学物質が大変厄介な問題になると考えます。
 そこで、最後になりますけれども、この発想の転換をしていただきたいと常に思っております。公共サービスは自治体の原点です。神戸市は「自治体の使命は市民福祉の向上にある」といっております。とても好きな言葉です。自治の主体は住民である。これが地方分権のあり方です。そうすると、財源が少ないからきない、あるいは財源不足だからこういうことはできません。できないということの理由づけは幾らでも簡単です。しかし、できるために何をしたらいいかとぜひ考えていただきたい。要するに、出口からの発想を考え、実現可能な方法をぜひ実行していただきたいと思うわけです。
 そして、今問われていることは、行政はどこでもそうでしょうけれども、市場、いわゆるグローバルスタンダード、効率性、経済性、有効性、こうした指標の中から選択されてくると思います。
 そこで、地方自治ではないですが、江戸時代に財政再建をした有名な上杉鷹山がいます。故ケネディ大統領が大変尊敬した日本唯一の政治家です。この上杉鷹山がいっている言葉があります。「改革には3つの壁がある」といっています。「3つの壁」というのは何かといいますと、制度上の壁、物理的な壁、心の壁、この3つです。何か新しいことをやろうとするときに、この3つの壁がどうしても出てきます。改革とはこの3つの壁を壊すことである。特に壊さなければいけないのは制度上のものでなければ、物理的な壁でもない。みずからの心の壁であるといっています。
 続けて、「改革というのは制度や政治のやり方を変えるだけではない。何よりも大切なのは、自分を変えることだ。そして自分を変えるときに一番差し障りのあるのは、古い考え方のこだわりである」とも述べています。したがって、大企業も公的機関もそうですが、「前例がないとやらない」というのは如何なものでしょうか。発想を転換して基本的にできるためにはどうしたらいいかということを常に考えていただき、情熱を持って進んでいただければ、大変うれしく思います。
 今日は、「地方自治体と定借」ということでお話しさせていただきましたが、自分だけで研究しておりますから、至らない点や漏れがあろうかと思います。したがって、皆さまのご協力をいただき、よりよい定借制度をつくっていきたいと思っております。そのときにはよろしくお願いいたします。
 長時間、ご清聴いただきありがとうございました。(拍手)



フリーディスカッション

谷口
 どうもありがとうございました。
 少し時間がありますので、ご質問がおありでしたら、どうぞお願いします。

角屋
 建設会社のOBです。定借PFIが難しいというのは、本日出席の皆さんもご存じだと思います。うまくいった例で、足立区とか、名古屋の公社、大阪の公社の例を挙げておられましたが、難しい中で、これがうまくいったのはどういう理由からでしょうか。上杉鷹山の例も含め、その辺を説明いただければありがたいと思います。

赤川
 基本的にうまくいっている理由は、担当の課長です。課長の執念、情熱、この1点に尽きます。自分はこれをやるんだという大変な使命感を持っています。例えば、足立区でいえば、6年間おつき合いしている宇賀課長さんがおられます。大阪では、帖佐課長、近藤次長さんがおられます。名古屋では森課長さんがおられます。みなさんは定借にすべてをかけているほどものすごく情熱をもって勉強しています。
 私は今まで地方自治体あるいは公社の中でいろんな方とお会いさせていただいていますがこの3人はピカイチです。皆さんご存じかどうかわかりませんけれども、実は98年の9月30日に東京都から依頼されて、定期借地権の講演をしております。講演のタイトルは、「行政の住宅政策における定期借地権活用の維持、定借PFIによる公有地、公的住宅の積極的活用」ということで、東京都、23区の住宅の部課長、名古屋、大阪の供給公社、地方自治体の方、こういう方たちが150人集まりました。一番真髄を突いて質問してきたのが大阪市住宅供給公社の方です。講演内容が取りまとめられたのがこの「都心地域における定期借地権を活用した公的住宅の供給方策に関する調査報告書」です。
 先程、大阪市の高見フローラルタウンと申し上げましたけれども、ここには600戸、もう1つはテラスハウスを84戸ほど造っています。それから、民有地を利用して、マンションを建てております。大変な情熱を持っていることが大きな成功理由ではないでしょうか。とにかく部長がいようがいまいと、何をいおうと、その人間が「歩く定借」といわれあきれ返る程、何かというと二言目には定借といっておりました。
 大阪で定借PFI研究会ができたことをお話しましたが、不動産鑑定士の方から、「行政は情報だけ欲しがるが、どうしたら行政の方と親しくなるのか」という質問がありました。そのときに私がいったことは、「とにかく言い続けること、やり続けること、これしかありません。あなたが言わなくなったらそれで終わります。行政は、いい制度なのか悪い制度かわかりませんが、2年毎ぐらいに代わりますから、またゼロから始めなきゃいけない。それの繰り返しです。とにかく言いつづけやり続けることが一番大きな要因と思います」と応えております。
 最初にお話ししましたように、私は千代田区で最初に定期借地権の講演をしております。ここで3回しています。ここで何故したのかといいますと、係長さんです。係長さんが非常に熱心で何とか都市を活性化したいと考えていました。3回やりましたらその係長さんが異動したんですね。そしたらゼロになりました。ゼロになってどうしたらいいだろうかと思っているうちに、豊島区から話があり、また足立区が続きました。足立区で続けていて、6年間でやっとここまで来た。
 やっとといっても、6年でも私は早いと思っています。非常に幸運だったなと思っています。したがって、いい続けて、やり続けること。そして信頼されることです。基本的には便法というのは絶対避けるべきである。私が公的機関で信用された理由は、客観的にリスクを必ずいうからと言われました。
 JAでお話ししたことがあります。埼玉県JAで私は5回ほど講演をしました。最初に、地主さんに、「契約書の種類を知っていますか。契約は仲介、代理、転売、転貸方式があり、現在、ハウスメーカーで使う契約書はほとんど仲介代理方式ですから、売れ残ったらすべて地主さんのリスクですよ」と言いました。そしたら、40人程の地主さんたちが、「えー。そんな話聞いたことがない」。その当時ですから、ハウスメーカーさんもいろんな場所で定借をやっていましたが、それを聞いて皆さん方が、「これは大変だ」ということで慎重な姿勢になりました。
 埼玉県に99農協あり資産税課の部課長全部、共済連、経済連、中央会の部長、JAふじみ野、幡羅農協、そういうところでお話ししました。要するに、リスクがあるけれども、どこまでのリスクをコントロールできるまで持っていくかです。
 私は田園調布の場合、リスクマネジメントをしており、全部のリスクを挙げ、どこまでできるか。法的に大丈夫なのか、建築学的に大丈夫なのか、解体工法で大丈夫なのか。あるいは税務は大丈夫なのかを検証しております。だから、無償譲渡を考えたときに、寄附行為にあたるのではないかということで我々は大蔵省にわざわざ確認しに行っています。皆さんが使われている無償譲渡は、えらい苦労した産物です。

海老塚(都市基盤整備公団)
 2点あるんですけれども、土地の価格が10年、20年たちますと変わると思うんですが、そのときの地代の調整を一般的にはどうされているのかということを教えていただきたいんです。
 2点目ですが、資料の中で地代一括前払い方式がいいということが書かれています。多分あまり実例がないと思うんですが、もしあるとすると、その価格は現在の地価の幾らぐらいの割合になるのか、推定でもいいんですが、教えていただきたい。

赤川
 最初の地代調整については、通常でいわれている部分の、3年ごとの消費者物価指数を採用するのが一般的ですので、それを使わせていただいています。ここで注意しなければいけないのは、全国区の指標はは絶対ではないということです。全国の消費者物価指数と東京や青森と違うでしょう。基本的にはその地方の消費者物価指数を使っていかないと正しい消費者物価指数になりません。
 2つ目については、一括前払い型の定期借地権です。これは定期所有権といい稲本先生が提唱されました。実際には三井不動産がフィリピン大使館跡地でやっております。平均価格は1億500万になっております。価格は市場価格の譲渡所得になる50%以上で価格設定しております。
 ちなみに、地代前払いが一番いいというのは、面倒な地代改定する必要がないというのは事務的によろしいのではないでしょうか。公的機関でやる場合には、保証金というのは絶対やめましょう、保証金は債務で性格もはっきりしません。もう1つは、公的機関は単年度決算ですので、50年間を単年度で継続することは事務的に大変な負担になり、その間誰が管理するのでしょうか、運用するのは誰がやるのでしょうか。担当者はコロコロ替わりますから、これはやめましょう。これについては、地方自治体、公的機関にはっきり申し上げております。
 大阪市住宅供給公社は、当初保証金を考えていましたが、権利金に変わっています。権利金は130万円です。したがって、公的機関がやる場合には、権利金でやる方が後の管理で楽になります。もう1つ、保証金は債務ですので、50年後に誰がその予算措置するのか。忘れてしまうのではないかと思うんです。
 また、50年後に道路の返還問題が発生しますが、その間、だれが管理するのでしょうか。管理の問題というのは大変なんです。また、地中には電気とか水道、ガス管、全部入っていますから、阪神大震災のような地震が起きこれが壊れたとき修繕するのか。借地人がやるのか、地主がやるのか。それが入っている私道の部分だけやるのか。あるいは敷地内のどこまでやるのか。電気、ガス、水道によって全部違いますので。そういう細かいことまで規定しておかなければなりません。私が書いた本の中にそれを入れてありますが、たかだか表を1つ作るのに1カ月かかっております

萩野(株式会社オオバ東京支店)
 賃貸住宅とのバランスについて、ちょっとお聞きしたい。良質な賃貸住宅をふやしていくという住宅政策がありますが、今後どんな場所に賃貸を選んで、どんな場合定借を進めていったらいいのか。将来どんなバランスになっていったらいいかというビジョンについてお聞かせいただきたいと思います。

赤川
 これは難しい問題です。バランスの問題というかどれが正解なのか。例えば、この4月から定期借家権ができ、現実にそれを利用している人を知っています。私の先生が定期借家権でやり、既に契約されていますが、それが本当に良質な住宅なのかどよくわからりません。もう1つは、広くて良質なのか。狭くたっていいという人もいるわけです。安くできるかできないか。この辺も問題なんじゃないでしょうか。通常の賃貸を100として、定期借家権が80とか75になっていればいいんですけれども、それが本当にそうなのかどうかというのがよくわからない。現状から申し上げますと、皆さんは地主さんと同じで様子見をしています。一番端的にいえることは、賃貸住宅の方は定期借地権の購入者よりもより利便性を好みます。その辺がポイントになります。利便性を好むようなところであれば、定期借家権であろうと、定期借地権であろうとできるんですけれども、その兼ね合いだと思います。
 例えば、国会議員を考えてみましょう。議員会館があり、秘書もいなきゃいけない。あの周りに例えば賃貸住宅をつくれば、すぐ入居するでしょうね。あるいはマスコミでは新聞社、テレビ局なんかは、あの周りに賃貸住宅をつくればすぐ入る。定期借家権でも定期借地でも同じように入ると思います。ただ、より近いところで安いというのであれば、賃借人にとって定期借家が有利ではないでしょうか。それで答えになったでしょうか。

炭(都市づくりパブリックデザインセンター
 普通財産の貸付期間の制限が30年という話がありましたが、これは条例や規則ででこぼこがあるのか。あるいはおしなべて全国一律30年になっているのかということと、もしその30年というのがスタンダードであるとすれば、今の借地権50年に対応して改正とか何とかいうアクションがどういう動きなのか、ご存じであれば、教えてください。

赤川
 基本的に30年、多分全国一律30年になっていると思います。これは国有財産に30年と書かれていますので、それを基本的に準用しています。地方自治法には記載されていません。したがいまして、役所は全部右へならえですから、規則または条例でほとんどが30年に限られています。ただ、地方自治体といっても、田舎の方に行きますと貸付期間が何年というのは知らない方がおられます。
 定期借地権だから、これを基本的に50年にしようという動きはありません。PFI法の期間は30年になっていますので、50年にしたらどうかと大蔵省の方に話ししたことがありますが、法務局の方で改正に反対しているようです。従来どおりということで、役所を動かすのは大変です。議題に乗っていかない限りはなかなか難しいでしょうね。そのためには、1つ1つ実例を見せていくしかない。
 私が田園調布を造ったのもベストトラックスをつくる、これだけです。いいものをつくっていって認めてもらえれば、必ず目を向けてくれる。したがって、田園調布は25坪ですが、実は当初、30坪4000万円台を私は主張していました。その当時は1億数千万です。ところが、それで計画しているうちに路線価が30%下がったものですから、やり直ししたんです。それで藤和の方も驚いて17坪案というのが出ました。これをやったら定借制度はつぶれるので、それは絶対にダメだと反対しました。定借というのは何なのか。「広くて安くて近い」そういった住宅を目指すべきではないか。だから、見本になるようなものを造ろうよということでやりました。
 そこで設計したフジタの部長さんのところに行って、データを見せたんです。「17坪案て、どれだけの生活ができますか。17坪では結婚して7年か8年になったら、多分狭くなって出ていくでしょう。50uは狭くてしようがない。ちゃんとしたものをつくりましょう」。さまざまな議論をして現在の25坪なり、9.2メートルのワイドスパンになったわけです。5階へ行くと、田園調布の街が全部見える。南側を見ると富士山が見えます。北側を見ると新宿の高層ビル、東京タワーがきれいに見える。ああ素敵だな。それで4000万円台で購入のであればいいじゃないか。駅から歩いて4分で静かで本当にいいですよ。だから、入居者から随分喜ばれております。
 何事も最初にやるときにはできるだけいいものを造くり見本となるようなものをつくっていく。それを行政の方に見せて、我々はこれだけの努力をしていますから、是非行政も協力してください。行政の方はまちづくり、家づくり、ソーシャルミックス等そういうことに対しては大変、熱心ですから協力いただけると思います。

谷口
 大分時間を超えましたので、きょうはこれで終わりにしたいと思います。どうも長い間ありがとうございました。(拍手)


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