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第153回都市経営フォーラム

都市・地域づくりと資源・エネルギー

講師:山地 憲治 氏
東京大学教授
<新領域創成科学研究科先端エネルギー工学専攻、
(兼)工学系研究科電気工学専攻>


日付:2000年9月20日(水)
場所:後楽園会館

 

1.21世紀エネルギー技術の潮流

2.分散エネルギーシステムの将来像

3.都市とエネルギー

フリーディスカッション



 ご紹介いただきました山地でございます。
 4時半ごろまで話をさせていただいて、それから30分ほど質疑の時間ということにさせていただきたいと思います。
 今エネルギー問題は、かなり重要な変化の時期にありまして、私は、特にエネルギーを考えるときに、いわゆるエネルギー技術の範囲の中で考えていたんじゃ解けない問題がいっぱい出てきていると思っております。そういうときに、この都市経営フォーラムというところで話をさせていただく機会を与えられまして、非常にありがたく思っております。また、153回という非常に伝統ある会合にお招きいただきまして、本当に名誉なことだと考えております。
 きょうの私の話は、実はきちんと準備しておるわけでもございませんで、お手元に1枚紙で、「都市・地域づくりと資源・エネルギー」ということで、目次のようなものを3項目、「21世紀エネルギー技術の潮流」「分散エネルギーシステムの将来像」「都市とエネルギー」ということで、挙げさせていただきました。これで話を進めさせていただきたいと思います。途中で、特に分散エネルギーのところでOHPを、ほんの数枚使わせていただきたいと思います。
 私はもともとは原子力工学科の出身なんですけれども、大学を出たのが二十数年前。学部を出たのは30年近く前になります。その後、東大へ移ってまいりましたのは、6年ほど前で、大学院を出てから17年余り、財団法人の電力中央研究所という、電力会社が共同で設立運営している研究所がありますが、そちらにおりました。そちらも、技術系の研究部門じゃなくて、経済研究所という経済部門がありまして、そちらにずっと所属して、技術経済分野、工学と経済学のちょうど境界領域で、エネルギーに関する技術評価をずっとやってまいりました。
 90年代に入るころから技術評価の話題が、今はますます重要になっていますが、地球温暖化対策ということになってきまして、温暖化対策を考えると、単にエネルギーの世界だけを扱っていてもどうも解決がつかないと今も確信しているところであります。そのあたりをお話しして、皆様からいろんなご意見とかご質問をいただければ、それを糧にして、今後の私の研究を進めたいと思っております。
 いきなり、1枚目に書いてある「21世紀エネルギー技術の潮流」というところへ入っていくよりも、90年代、エネルギーの事情がどうだったか、それを前置きとしてお話をさせていただきたいと思います。

 1973年に第1次オイルショックがあって、79年、80年に第2次があったんですが、そのオイルショックの後、エネルギーの構造が随分様変わりしたわけです。オイルショックの後はどういわれたかというと、1973年の日本のエネルギー需要、エネルギー需要というのは、最終エネルギー需要、つまり、我々がエネルギーとして使う形の電気とかガソリンとか都市ガスとか、そういうものではかる場合、それから電気をつくるときの石油を投入するとか、天然ガスを投入するという、1次エネルギーでいう場合、両方エネルギー需要というんですが、最終エネルギー需要ではかっても、1次エネルギー投入量の方ではかっても、2つのオイルショックを挟んだ1973年から86年ぐらいまでというのは、エネルギー需要は、マクロで見ると、でこぼこはしたんですけど、ほとんど変わらなかった。ところが、経済成長は、一時期、オイルショックの後で不況になったりしましたけれども、それでも3〜4%で伸びていった。
 私がエネルギー技術評価を始めたのは、その期間ですから、つまり大事なことは、経済とエネルギーの間に乖離が起こる。省エネルギーの威力なんですけれども、そういう時代が続いていたわけです。
 これが、ある種日本にとってはいい状況であって、経済成長しながらも、エネルギーをふやさなくて済んだわけですが、ところが、90年代は全く違っているわけです。経済成長率に対してエネルギー需要の伸び率の比率、これをエネルギー需要の対GNP弾性値、エラスティシティーという言葉でいうんですが、これが0.5以下、場合によると0に近かったものが、90年代どうだったかというと、統計が98年度末、99年3月までの統計しか公表されてないので、1990年と1998年の9年間、これを比較すると、エネルギー需要、これは最終エネルギー需要でも、1次エネルギー総供給でもいい、ほぼ同じですが、両方とも90年から98年で12%増加している。
 一方、経済成長はどれぐらいかというと、11%増。これは物価をならした実質の経済成長率ということです。つまり、経済成長率よりもエネルギー需要が大きくなった。これはオイルショック後のエネルギーと経済との関係の我々の常識を覆すものです。つまり、いわゆる弾性値は1を超えたわけです。エネルギー需要の方が経済成長率よりも余計伸びたという時代です。90年代は非常に変わったことが起こっている。
 ここの解析は実は十分ではありませんが、日本はよく省エネルギー優等生といわれてきた。皆さん、いろんなところでお聞きになったと思いますが、90年代はそうではないということをまず頭の中に入れておいてください。これはエネルギー需要の構造が大分変わっているということなので、これも今後を見るときに踏まえていく必要があります。
 しかし、それでも、90年から98年にかけて、エネルギー需要、需要に見合った供給も12%ふえたわけですが、その増分を担ったエネルギー源は何かというと、この間に一番大きくふえているのは原子力。原子力は90年に対して98年の供給量は64%、6割以上ふえています。原子力は最近非常に風当たりが強いですね。立地がなかなかうまくいかないというんですけれども、原子力というのは、すごく慣性が大きいわけです。原子力発電所の立地を準備して建つまでに大体20年近くかかるものですから、90年代に続々と建ったんです。これは70年代の立地努力によって決まって、80年代の後半ぐらいから着工したものが90年代にどんどん運開した。そういうことがあるものですから、これまた皆さんの予想と違うかもしれませんが、90年代に一番シェアを伸ばしたエネルギー源は原子力です。六十数%伸びている。
 その次何かというと、原子力に劣らずかなり伸びた、4割弱、36〜37%伸びたのが天然ガスです。天然ガスは順調に伸びているし、今も期待されているわけですが、このあたりも認識していただきたい。
 あとは、石炭はかなり力を入れて伸ばしてきて、絶対量は伸びているんですけれども、エネルギー全体の伸びと同じぐらいなものですから、シェアではふえてない。石油はむしろシェアを減らしている。石油はオイルショックの前は七十数%で、それが56〜57%のシェアまで下がってきて、足踏みしていたんですけれども、ここへ来て52%ぐらいまで下がってきています。今申し上げているのは90年代の実績を申し上げているんで、これから先はもちろんまた違ってくるわけです。例えば、原子力は、建つところまで建っていますから、今からはそう伸びられないということがあるわけです。
 一方、需要のありさまがオイルショックの後随分変わったと申し上げましたけれども、90年代は12%伸びたんです。じゃ、需要は何が伸びたのか。産業用というのは相変わらず伸びてない。エネルギーの需要は、大きく3つ、あるいは4つに分けるんですが、3つという場合には産業用需要、産業というのは製造業。それから、民生。民生というのは家庭と業務。英語でいうと、ビルディングセクターといいます。建物。住宅用の建物もあれば、業務用の建物もある。そのビルディングセクター。これが伸びた。あと、運輸。
 日本のエネルギー需要の基本的な構成というと、エネルギー需要の約半分が産業用です。残りの半分のうち、4分の1ずつが民生と運輸という関係ですが、残りの半分のところが、運輸が、民生より若干余計伸びて、25%近く伸びた。民生が20%ぐらい。民生の中をさらに2つに分けて、4つに分けるわけですが、民生は先ほどいったように、住宅用と業務用で分けます。住宅と業務用、どちらが伸びたかというと、これまた80年代の終わりまで、90年代の前半のところまでは業務用よりも住宅用が伸びています。ところが、90年代、90年と98年という比較をしますと、住宅用にやや足踏みがあって、業務用が伸びている。このあたりも、エネルギー需要の解析のところで、まだ十分に見きわめがついてないところなんです。
 例えば、住宅用エネルギーで何が減っているかというと、調理用なんかが減っている。空調は随分効率がよくなった。調理用が住宅用で減った分、どうも業務用に転換されている。アウトソーシングではありませんが、家庭サービスの一部が業務化されているというのが反映されている。
 エネルギー需要というのは、部門別の産業、運輸、民生、民生の中の業務、家庭という分け方もありますが、産業用は別にしましても、民生の中の分け方は業務、家庭という分け方もあるけれども、家庭の中でも、空調、冷暖房、給湯、調理、あと動力、照明、ビルでいうとエレベーターなんかも含みます。そういう動力関係。部門ではなくてそれを用途別といいます。用途別でいうと、圧倒的に動力が伸びております。
 エネルギーサービスからいうと、冷暖房も伸びているはずなんです。つまり冷暖房機器の台数からいうと、すごくふえているわけですが、それらが消費するエネルギーは機器効率の上昇というのが効いていまして、意外に伸びてない。むしろ堅調に伸びているのは動力です。動力、照明は、90年と98年と比べて40%は伸びている。電化が起こっているということだと思います。
 90年代の指標で幾つか申し上げたいことの1つは、二酸化炭素であって、エネルギーの問題が一番話題になっているのは、地球温暖化対策と絡んでいるわけです。政府の方は約束したことを割合と、約束期間の末期になると、あまりいわなくなるんですけれども、私はこういうエネルギー技術評価をやっていましたから、よく覚えているんですが、皆さん、1997年12月の京都会議の京都議定書で、2010年の目標というのが新聞にも出ていますから、例えば、90年に比べて2010年に二酸化炭素を中心とする温室効果ガスを6%削減というのを覚えておられると思います。
 京都議定書へ入る前、温暖化問題が非常に騒がれて、1992年に温暖化のための条約、気候変動枠組み条約というのが、92年にリオデジャネイロの地球サミットで採択されたわけですが、その前に日本の政府は閣議決定をして、温暖化対策について目標を1つ決めているわけです。
 それは何だったかというと、1人当たりの二酸化炭素の排出量で、2000年は1990年レベルにするといったんです。これも実は文書もちゃんと残っているんです。総量で安定化するのはちょっと難しそうだけど、1人当たり人口増分ぐらいは認めようということを一応目標にしたんですが、人口はあまり伸びてないんです。ここのところ、90年と2000年の人口で2%伸びたか伸びなかったかだと思います。
 じゃ、それが達成されたのかと、いじわるに思って調べてみると、これが難しいんです。実は二酸化炭素の排出量は、90年と98年度と比べると5.4%伸びました。これはむしろ私が思ったより少ないです。だって、エネルギー需要は12%伸びたわけですから、そのまま伸びてもいいにもかかわらず、5.4におさまったというのはまだましな方です。実は日本の二酸化炭素排出量のピークは、96年度だと思います。96年度、97年度はほぼ同じぐらいですが、プラス9%近かったんです。
 ところが、98年度、不況を食らったということもありますが、あとは原子力が運開を始めた量が多かったということがありまして、下がって5.4に落ちついているわけです。これでも、よく記憶のある方には、政府目標が未達。98年度ですから、2000年度の結果がどうなるかまだもちろんわからないんですけれども、かなり難しい。先ほどいったように、エネルギーは12%伸びているけれども、二酸化炭素は5.4。これはなぜかというと、先ほど供給で何が伸びたかというときにいったように、原子力と天然ガスが伸びた。原子力は二酸化炭素は排出しませんし、天然ガスも石油、石炭に比べれば、二酸化炭素の排出量が少ないものですから、これで何とかつじつまが合っている。
 原子力は今から追加が少ないですから、2000年度にこれより少なくなるとは思えない。しかも景気が回復することを皆さん希望もされているし、そういう兆候もありますから、そうすると、多分この5.4よりもっと上がりますね。
 あの証文は京都議定書ができたから、確かにほごにしていいんだろうとは思いますが、それは達成できなかった。
 次の京都議定書の目標の2010年に向かって、また新たに今から計画を立てていく。私の技術評価では、2010年というのは比較的短期であって、もうちょっと長期のところを私は常々扱っていて、きょうもより長期の話に焦点を合わせてお話をさせていただきますが、前置きのところで、2010年の話をしとかないわけにはいかないと思いますので、そこの見通しを若干して、それで前置きの終わりにしたいと思います。
 先ほど申し上げましたけれども、2010年にCOP3、京都議定書の目標として日本は90年比6%減にしなきゃいけない。こればっかり覚えておられますが、京都議定書というのは、エネルギーから出る二酸化炭素だけを対象とするものではないわけです。温室効果ガス全体で、90年比6%減です。温室効果ガスの中には二酸化炭素が主ではありますけれども、あとメタンとか亜酸化窒素とか、代替フロン、代替フロンの中には6フッ化硫黄という絶縁性のガスが入っていますが、その他の温室効果ガスがあります。これを全部入れるわけです。
 しかも、京都議定書の中には吸収がマイナスでカウントできるというのがあります。これも最近新聞等に出ていますので、この秋11月にCOP6というのがハーグであるんですが、それの1つの焦点です。森林の吸収をどうカウントするかというカウントの方針が決まるわけです。木が成長すると、大気中から二酸化炭素を吸収しますから、そのマイナスをカウントできることになっています。それも実は入っているわけです。
 そういうことを考えると、エネルギーから出る二酸化炭素は、必ずしもマイナス6にする必要はない。政府の目標でも、エネルギーから出る二酸化炭素の排出目標は、90年比0%、先ほどの私が出した古証文に近い話です。90年のときにエネルギーから出た二酸化炭素と同じ量に、2010年に戻すということが目標です。
 先ほどいった、98年度5.4%になっているのを、2010年度には0%にするというのが、エネルギーの部門に課せられたCOP3の目標ということになります。その目標は一応つじつまが合うように政府はプランニングをしていたわけです。政府には通産省に総合エネルギー調査会という審議会がありますが、そこの需給部会の見通しによって、2010年のエネルギー部門から出る二酸化炭素の排出量は90年に同じになるような、言葉は悪いんですが、数値合わせがあるわけです。
 これをちょっとご説明します。先走っていうと、その数値合わせの前提が崩れたものですから、この春から総合エネルギー調査会は総合部会というのをつくって、新しい見通しをつくろうという最中であります。
 数値合わせのやり方ですけれども、政府はまずエネルギー需要のベースラインというのをつくるわけです。つまり、成り行きですね。自然体だと、エネルギー需要はどうなっていくかということを想定します。先ほどいったように、エネルギー需要は、1次エネルギーという投入による場合と、我々が消費する最終エネルギー消費で見るのと両面ありまてし、両方とも計算されていますけれども、最終エネルギー消費の方で申し上げます。
 石油換算キロリッターというのは私はあまり使わない。私は石油換算トンというのを使います。重量でいうんです。石油の比重は0.92ぐらいですから、重量でいうと、キロリッターでいう場合と、キロリッターで1.何倍かするんですが、ほぼ同じオーダーです。現在、最終エネルギー消費、石油換算キロリッターでいって、大体4億キロリッターです。3億九千幾らという値です。
 それを政府の成り行きベースの自然体では2010年に、4億5600万キロリッターになる。そこが出発点です。そこからまず省エネ努力をする。4億5600万の成り行きになるはずの2010年の最終エネルギー消費を4億キロリッターにする。5600万キロリッター省エネをするとやったんです。4億キロリッターというと今とほぼ同じです。
 だから、今後10年間かけて、最終エネルギー消費をふやさないということです。これ、今までの数字合わせの前提です。これが実は非常に難しいことですが、そのために政府は、例えばトップランナー方式といって、エアコンの中でも一番いいもの、あるいはその次のもののリストを発表して、一番いいのに合わせろとか、あるいは冷房は28度にしろとか、そういうことをやっているわけです。非常に難しいといわれながら、一応省エネ5600万キロリッターやる。これで、二酸化炭素カーボン換算すると、大体6000万トンカーボン削減です。これが入っている。
 計算が狂ったのはその次。3本柱の省エネと原子力と新エネなんですけれども、2番の柱が原子力だったわけで、原子力は、今日本国じゅうで約50基あって、4500万キロワット。4500万キロワット、50基のものを2010年までにあと20基建てるというのが、この前の政府の長期エネルギー需給見通しのベースだったんです。ところが、原子力20基を今後10年間で建てるということは、先ほどもいったように、原子力は慣性が物すごく長いですから、立地がどうなっているかというのを見れれば、2010年にどれぐらい原子力発電所が建つかということはほぼ確実に見られる。20基は無理だ。ちまたではよくいわれていたんですが、政府はその目標をなかなか下げられなかったんですが、この春に、この公式の目標を、まず公式に13基以上は無理。13基と今いっています。ちまたといいますか、民間で想定すると、13基も難しかろうといわれています。しかし、政府がいう13基にしても、非常にインパクトが大きいわけです。
 つまり、原子力発電所は今1基で100万キロワットを超えていまして、20基というのは、キロワットでいうと、2500万キロワットのつもりだった。この2500万キロワットで、二酸化炭素がどれくらい削減できるかというと、原子力発電所が何を置きかえるかによって、原子力発電所が建つことによる二酸化炭素削減量は変わってきますけれども、もし石炭火力を置きかえるということだったら大きいんですけれども、石炭火力は伸ばそうとしている電源ですから、一般的な火力発電所を代替すると考えれば、2500万キロワットの原子力発電所の増設で2010年で削減できる二酸化炭素の量は、数値合わせみたいですけれども、大体2500万トンぐらい。
 これがもくろみだったんですが、どうもそれが半分ぐらいになりそうだ。1200万トン分ぐらいは原子力が建たないことによって、数値が合わなくなってきたというのが現実です。
 これをどうするかということになりますが、3番目の新エネが実はあるわけです。国民的な人気があって、期待されているんですけれども、新エネルギーは、今の日本のエネルギー供給の1.1%です。石油換算で600万キロリッターぐらい。1次エネルギー総供給というのは、石油換算でいうと、6億キロリッター弱なんですけれども、新エネルギーはそのうち1%強の大体600万キロリッター。
 これを2010年に3倍強にする。1900万キロリッターぐらいにするということですが、これはもともと600万ぐらいなのを1900万キロリッターにしても、増分は1300万キロリッターです。これが何を代替するかにもよりますけれども、オーダーとして、新エネを3倍にして二酸化炭素を削減できる量は、大体1000万トンのオーダーです。
 5600万キロリッターの省エネで6000万トン削減。原子力20基で約2500万トンの削減。新エネ3倍で約1000万トンの削減。これで2010年のエネルギーからの減り方を90年と同じにするというつじつまだったのが、先ほど申し上げた原子力がどうも半分ぐらいになりそうだ。1000万トン以上のカーボン削減が未達になる。これをどうするかというのが今の焦点です。これの答えは私も今は持ち合わせていません。
 どういうふうにするかという見通しからいうと、新エネを今の3倍増だって、もともと野心的過ぎるといわれたわけですが、それでもカーボンで1000万トンぐらいです。これで原子力で1000万トン減った分を補うために6%にするなんてとてもできそうにありませんので、これは頑張ってもあまり期待できない。やはり期待できるのは省エネなんです。しかし5600万キロリッターという省エネは、これまた非常に難しいとされているわけで、私が思うには、ベースラインを下げるということが起きるような気がしています。わかりませんけれども。
 というのは、冒頭申し上げたことと関係するわけですが、オイルショックの後は、エネルギー需要と経済成長は乖離したわけです。ところが、90年代は、実はエネルギー需要の方が経済成長より伸びたわけですけれども、中身を見ると、エネルギー需要のGDP弾性値が1というのが今後も続くのかというと、どうもそうじゃなさそうだ。
 つまり、今エネルギー需要の中身が随分変わっている。だから、エネルギー需要を経済成長率とリンクして見ること自体を疑ってかかった方がいい。我々はどんな生活をして、どういう経済で経済成長するのか。そういうことの中身を問わないと、エネルギー需要はわからない。だから、非常に楽観的なことをいえば、今はITで景気回復させるということであれば、うまく使えば、経済成長率は伸びるけれども、エネルギー需要は伸びない。ベースラインでもエネルギー需要をそう大きく想定することはない。それにさらに省エネ努力をするということで、手品みたいですけれども、前の見通しで、もともとベースラインという仮想の削減努力をする前の値があるが、それ自体を下げる。そうすれば原子力の量は見込みより半分になったけれども、ベースラインが下がったことによって90年と同じになる。こういう話にするぐらいしかないのかなというのが、これは完全にスペキュレーションですが、私が今思っているところです。
 ここがきょう私が今からお話ししようとしている都市のつくり方と随分関係するところだと思っております。単にマクロな経済成長とエネルギー需要を比較するというんじゃ、もう今からのエネルギー需要は見られない。要するに、我々がどういう生活をするのか。どういう産業が伸びていって経済成長率を実現するのか。そういう中身を問わないとマクロにはわからないということだと思います。
 長くなりましたが、以上が枕でありまして、ここからきょうの目次に沿った話にしたいと思います。
 今からの話は、2010年という生々しい時点ではなくて、もうちょっと視点を高くして考える時間範囲がもっと長いとお考えいただきたいと思います。また、定量的な詰め、先ほどいったような数値合わせをきちんとはしておりません。もちろん、私の研究としてはモデルを使って計算するということをよくやるわけですが、きょうの話の中では、数値よりも方向性、そっちの方に重点を置いた話をさせていただきたいと思っております。



1.21世紀エネルギー技術の潮流

 まず、「21世紀エネルギー技術の潮流」と、大上段に振りかざしたタイトルですが、私はここに書いてある4点ぐらいかなと思っております。
 1つは、先ほど申し上げた温暖化対策と極めてリンクした形で、脱炭素化ということです。脱化石エネルギーとよくいうんですけれども、私はいきなり脱化石というのはとてもできることではなくて、脱カーボンだと思っております。というのは、化石燃料の中でも石油、石炭、天然ガスというのは、カーボン比率が大分違うわけで、天然ガスでは炭素の割合が低くなっているわけです。だからあえて、脱化石というより、脱炭素化という言葉でいっているんです。
 これで起こるのはまず天然ガスだと思います。原子力の立地の困難性から考えると、ここ10年、20年で、日本の国内もそうですが、世界的に見るともっと、原子力の比率が高まっていくというのはなかなか考えにくいことです。むしろ逆に、世界的に見れば、原子力のシェアは、ここ10年間下がると思います。OECDでは既に発電に占める原子力は下降を始めています。これはここ10年余りは恐らく避けられないと思います。それを補った脱炭素化を実現するのは天然ガスだと思います。
 ヨーロッパ、特にドイツが最近原子力をやめる。あれはドイツ流のうまい言い方をしたんですね。現在動いている原子力発電所からの発電電力量を決める。つまり経済的な寿命までは動かすということを前提にして、そこでやめるという言い方をしたわけで、やめたわけでは実際にはないわけです。何十年かありますから、その間の時間稼ぎをしたようなものです。しかし、ドイツがああいうことをいえたのは、ドイツの最近の天然ガス消費量を見ていると、よくわかります。ドイツは物すごく天然ガスに転換しているわけです。
 しかも、天然ガスに転換して何が変わったかというと、ドイツの国内の石炭の消費を押さえているわけです。石炭はそもそもカーボンの含有率は高い上に、同じ火力発電所でも石炭火力は、最近の超々臨界圧というもので、効率は40%をそこそこです。ところが、天然ガス火力は複合発電といって、まずガスタービンで発電して、排熱でボイラーで蒸気をつくって蒸気タービンを回す。いわゆる複合サイクルで、既に50%を超えています。実際、商業的なプラントは50%を超えていまして、55%ぐらいいくかもしれません。そうすると、もともとのエネルギー当たりのカーボンの含有率が高い上に利用効率が高いということですから、半分近くカーボン削減ができる。
 それをドイツは進めていますので、当面、ドイツも同じようにCOP3の目標がヨーロッパとしてマイナス8%というのがあるわけですが、ドイツ単独でいえばもっといけるかもしれないというのは、天然ガスが効いています。ドイツに天然ガスが国内にあるのかというと、ドイツにはほとんどありません。ルールには古いタイプのガスはありますけれども、ドイツが一番大量に天然ガスを輸入しているのはロシアです。ヨーロッパは、ここ30年ぐらいの間、60年代の半ばぐらいから急速に、オランダの沖合で天然ガスが見つかってから、北海、ロシア、北アフリカ、こういうところの天然ガスをヨーロッパ一帯に配送するパイプライン網が急速に発達しました。ドイツもロシアからのパイプラインの強いリンクがあって、天然ガス供給も当面心配なさそうだ。これは恐らくしばらく続くと思います。
 新聞等でご存じのように、日本も近くのサハリンのところにガス田がありますので、これをいかに輸送してくるか。パイプラインという説もあります。今は専ら液化天然ガスタンカーなんですが、タンカーは長距離だと有利ですけれども、サハリンぐらい近いとパイプラインが有利かもしれません。パイプラインのインフラというのは、ヨーロッパの例を見ると、1つのパイプラインが引かれると、それが結晶の核のようになって、どんどんつながっていって発展していくわけです。最初の核のパイプラインがどこにできるかによって将来のパイプラインの発達の構造が変わってくるということがありますから、今東アジアでいわれているのは、サハリンもありますけれども、中国の、モンゴルのウランバートルのあたりを通過するかどうかわかりませんが、北京とシベリア地区のパイプラインも十分可能性があります。そういうものがどうできるか。これが東アジア地域、日本を含めて、今後の天然ガスの導入をかなり左右するのではないかと思います。特に注目すべきことだと思っております。定量的な話ができる段階では今はありません。
 しかし、天然ガスは二酸化炭素対策としては当面のエースではあるけれども、絶対的なエースではないと思います。天然ガスを使っている限り、二酸化炭素は出ます。ドイツは日本より1人当たりでかなりたくさんの二酸化炭素を出していますから、天然ガス転換で下がるわけですが、日本はもともと1人当たりの二酸化炭素の排出量が少ないのです。そこのところが、天然ガスに変えても限界があるところで、長期的には、先ほどいった脱化石に向かう必要があるんですが、私は、脱化石となると、原子力、自然エネルギーなんですが、原子力も社会的な問題を抱えている。自然エネルギーは現実的なマーケット競争力からいって、また日本の自然エネルギーの既存量からいってそう大きく期待できるとは思えない。そうすると、括弧の中に書いたCO2 の回収処分という技術、これまた中間的な技術なのではないかと思いますが、これが実際に行われる可能性があると考えています。
 これは電力会社にはおなじみの技術で、電力会社は、硫黄酸化物とか窒素酸化物の削減のときに煙突の排煙から脱硫するとか、脱硝するという技術を実際に実用化して、現実にやっているわけです。二酸化炭素は煙突から取る気になれば取れる。これは私がもともといた電力中央研究所でもやりましたし、幾つかの電力会社でもかなりの規模のプラントをつくって実証しているわけです。これはできることはできる。あとは経済性の問題です。
 問題は、回収した二酸化炭素をどうやって処分するかということです。硫黄の場合、脱硫の硫黄で石こうボードをつくるという硫黄のマーケットがあるわけです。つまりリサイクル利用ができるわけです。二酸化炭素の場合には、研究者の中にはリサイクル利用を主張する方がいるんですけれども、私は実際の評価をすると、リサイクル利用するということでできる規模ではありません。というのは、日本の二酸化炭素の排出量、カーボンだけで3億トンあるんです。そのうちの4分の1ぐらいが火力発電所起源ですから、カーボンだけで7000万トンぐらいあるわけです。カーボンだけですから、CO2 にすると、それの4倍弱ぐらいあります。そうすると、2億トン以上という量になる。2億トンもの二酸化炭素を回収して使えるマーケットはまあないです。
 日本で考えられるのは、やっぱり処分なので、日本で一番注目して処分場として考えるのは、海を使うことです。大まかにいって2種類あります。1種類は、二酸化炭素は常温でも圧縮すると、簡単に液化します。液化して、さらに300気圧ぐらいにすると、比重は1を超えます。ということは、3000メートルより深いところでは海の水より重たくなりますので、自動的に沈降していく。このあたりまでの実験は行われています。海の底に液化した二酸化炭素を貯留するというのが1つ。これは実際にそういう検討をやっている研究所があります。しかし、やっぱりこれはあまりきれいなものじゃない。きれいというか、コンセプトとしてきれいではない。廃棄物を捨てるという考えです。実際、安定的に捨てられるかどうかという研究をしている。
 もう1つは、海の中には二酸化炭素を溶け込ますことができます。これはかなり溶けるとされている。いろんな方法がありますけれども、細かいあぶくにして海の中に溶かす。これも随分研究されています。こういうことが1つの考え方です。
 世界的に見れば、地下の中の、例えば石油の井戸に埋めるとか、ガス田に埋めるとか、あるいは地下水の中にパッキングするとか、いろんなやり方が実際行われています。これもある種覚えておくべき技術だと思います。しかし、最終的には原子力、自然エネルギーと考えます。
 きょうは、原子力、自然エネルギーの比較がメインではありませんので、ごく簡単にいいますと、先ほどの、後で申し上げますというのはここなんですが、自然エネルギー、日本の新エネルギーとよくいうものですが、太陽発電とか風力発電を皆さんイメージされるわけです。先ほど新エネルギーは日本のエネルギーの1%強、石油換算600万キロリッターぐらいといいましたが、これは実は少し違うんです。600万キロリッターのうちの8割ぐらいは、ここに書いてあるバイオエネルギー、バイオマスなんです。紙パルプ、製紙工場で使う黒液というんですが、紙パの原材料は木あるいは古紙なんですけれども、木が半分。木はセルロースのところで紙の原料になるという以外に、リグニンという液状物質がある。それはパルプをつくるときの副産物として出ているわけです。これが黒液で産業廃棄物なんですが、それはもともとバイオマスですから、燃えるわけです。それを燃やして使っている。これが実は一番多い。
 残り100万キロリッター分ぐらいは太陽熱温水器。風力発電も太陽電池も、今の統計に出てくるものにはなってません。太陽電池は日本は今20万キロワットちょっと入って、世界最大の太陽電池設置国です。ただ、20万キロワットの太陽電池が年間に生み出すエネルギー量は、もし火力発電所で運転したときに石油がどれくらい要るかという換算をやるわけですが、大体4万トンぐらいです。4万トンぐらいでは、先ほどいった600万キロリッター、キロリッターとトンは大体同じです。ちょっとけたが違う。6億キロリッター近い日本の1次エネルギー需要から考えても4万ではどうにもならない。20万キロワット、世界最大で4万トンです。これを政府は2010年に500万キロワットぐらいにしようといっている。そうすると、石油換算100万ぐらいのところにいくんですが、それでも現在の太陽熱温水器並みということでは、到底切り札にならない。
 むしろ、もう少し魅力があるのは風力の方だと思います。風力は今急速にマーケットに入ってきていまして、世界で1000万キロワットぐらい風力発電プラントがあります。しかも、風力発電プラントは自然エネルギーの中では一番マーケットに近い。ちょうどその入り口にいるといっていいと思います。
 今風車は、ある意味では注文生産というよりは普通の家電品にかなり近くなってきているわけです。つまり、どこかにカタログがあって、それを注文するという形になりまして、風車そのものでしたら、1キロワットで8万円ぐらいで調達できるわけです。直径が50メートルぐらいの風車で1000キロワットぐらいですけれども、それが8000万円ぐらい。そうすると、結構安いんです。キロワット8万円というのは、原子力発電所はキロワット25万円ぐらいしていますから、風車だけの値段だと、原子力より安いわけです。
 ところが、それは工場出荷額ですから、それを日本に輸送して土地を造成して据えつけをする。そうすると、20万円ちょっとになる。原子力より安いと思うかもしれないけれども、風車は原子力みたいに年がら年じゅう発電できませんから、同じキロワット20万円台といっても、風車の場合には設備利用率25%ぐらいしか動かないですから、原子力よりは高くなる。それでも、今や風況のいいところ、風がよく吹くところでは、1キロワット、多分10円を切るぐらいのところにいます。そうすると、まあまあマーケットの入り口に立っているという感じです。
 自然エネルギーが大事だとは思っているんですけれども、どうも認知度が逆転している。太陽電池、風力、バイオマスという順番の認知だけど、実力はその逆で、バイオマス、風力、太陽電池というふうに認識を新たにしていただきたいと思います。ただ、太陽電池も使い方によっては非常に魅力的ですから、否定するつもりは全くないです。



2.分散エネルギーシステムの将来像

 私は、都市との関係ではむしろその次の2点がより重要だと思っています。1つは、分散エネルギーシステム。分散エネルギーシステムというと、今申し上げた太陽電池とか風力と考えるのが今までのエネルギーの人間の頭の中にあったことです。しかし、今エネルギーの技術で非常に革命的と思われている分散エネルギーは、そういう自然エネルギー系ではない。これも皆さん新聞等でご存じだと思いますが、2番目の項でもうちょっと詳しくいいますけれども、燃料電池とマイクロガスタービン。
 今注目されている燃料電池は自動車用がきっかけです。発電用の燃料電池というのは、実は200キロワットクラスのものが、ある意味でマーケットに入ってきつつあるんですが、これが期待外れだったんです。ところが、それと違う燃料電池、今までは液体系の燃料電池をエネルギー関係の人は考えてきたわけです。それよりも使い勝手のいいのは、固体電解質系だということになって、自動車用の燃料電池、しかもサイズはより小さい。数十キロワットから、あるいは1キロワット、あるいは1キロワット未満も可能ですが、そういうものがどうも革命を起こしそうだ。
 燃料電池とともに注目されているのがマイクロガスタービンです。ガスタービンは、確かに先ほど天然ガス複合サイクルでいったように、これは既に革命を起こした。火力発電の効率が40%で何十年も頭打ちだったものを、80年代の後半から90年代にかけて50%に引き上げた。これはガスタービンの力です。そのガスタービンにさらにもう1つ改良が加わって、大型じゃなくて、小型でも発電効率が落ちないというものが出てきたわけです。
 大体100キロワット以下のガスタービンをマイクロガスタービンといいます。これは残念ながら、正確にはわからないんですが、やっぱり軍事技術のスピンオフのようで、空気軸受けというのが、例えば戦車とか、ああいうものの関係でできてきたんだと思いますが、それが1つのとっかかりになって、100キロワット未満のガスタービンが世の中に出てきた。
 これがなぜ革命的かというと、幾つかあるんですけれども、1つは、ここに書いてあるように、需要に直結した効率的な利用ができるということです。発電所が大型ですと、電気はつくるけれども、電気をつくると、必ず排熱が出るんですが、熱を使えない。ところが、小型の方は需要地に置けますから、熱需要に近いところでやっている。したがって、電気をつくるだけじゃなくて、たとえ多少発電効率が低くても、熱の部分が利用できますから、総合利用効率は高まるわけです。私は後で、単純にそうではありませんよという話をさせていただきますが、少なくとも直観的にわかりやすくいえば、熱を利用できるメリットが現実にできます。そうすると、本当の意味での分散になります。つまり家庭とかコンビニに置く電源として、この燃料電池とかマイクロガスタービンは使えるということになります。
 それから、燃料としても、今考えているのはほとんど天然ガスを使う、あるいは都市ガスを使うものなんですけれども、将来を考えると、先ほど申し上げた自然エネルギーとバイオマス系のものを使いたいわけです。バイオマス系のものは廃棄物として利用する。廃棄物は、ごみ発電というのがあって、結構大都市のごみ発電でも、1万キロワットを超えるものは非常に大型です。その程度のサイズに合う効率的なエネルギー変換技術として、この分散型のエネルギーシステム、マイクロガスタービン等が使えそうに思います。これがリサイクルとの連携です。
 それと非常に関係する第3点として、ネットワーク型のエネルギー供給を考える。これはことさら難しくいう必要はないんですけれども、電力が一番典型です。私はエネルギーシステムの研究をしていて、電力システムというのは非常に特殊なものだなと思います。
 エジソンが電気の時代を開いたといわれるわけですが、いろんなものを発明していますけれども、電気に関して一番有名なのは多分白熱灯だと思います。京都の竹をフィラメントにした。しかし、エジソンの電気に関する発明で大きいのは、白熱灯を発明したというよりも、その白熱灯に電気を供給する電力系統を発明したことがより大きいわけです。というのは、エジソンが出てくるまでに発電機は既にあったわけです。モーターとか電車とかつくっています。ところが、白熱灯をつくったんですが、エジソンはそこでどうやったかというと、結局、直流システムにこだわったために、エジソンのシステムは交流に負けたわけですが、中央に発電所を持って多数の白熱灯の利用とを結びつけるという電力系統を事業化した。分散する需要と発電機を結びつけるというネットワークをつくったわけです。各家庭に発電機を置いたのでは、発電機は小さいから、規模の経済は働かない。小さいと高いですから。まず大きいものを1個置いて安くして組まれるというのが1つです
 もう1つは、一般に気がつかれていないけれども、非常に重要なポイントは、需要が平滑化するということです。もし1軒の家庭に1個置きますと、ピークの需要に合わせて電力の設備をつくらなきゃいけないんです。それはほんの一瞬です。平均は10分の1ぐらいしかない。そうすると、大きな発電所、大きいといっても1個当たり小さいんですけれども、その発電所がフルパワーで動くことはほとんどない。稼働率が物すごく低くなる。ところが、いろんな需要家をネットワークで結びつけると、これはいわゆる大数の法則です。つまりピークはなだらかになってきて、全体としては負荷率もよくなってくる。
 今日本の電力会社は負荷率が悪いとかいって、50%台になって、60%を切っているわけです。しかし、これは考えてみると、驚くべき数値です。というのは、皆さんのご家庭を考えてみますと、40アンペア契約をするんですけれども、100ボルトで40アンペア契約するということは、4キロワット使えるということなんです。それ以上使うとブレーカーが飛ぶわけです。ところが、皆さんは4キロワットを使っているかというと、決してそんなことはないです。平均で1カ月何キロワットアワーお使いになっているかというアワー、時間を計算してみるとわかります。多分平均で使っているのは、0.4キロワット、400ワットぐらいです。だから、負荷率10%ぐらいです。
 それら一般の方々を全部結びつける。工場もあります。それで負荷率を上げている。これは物すごく効いているわけです。だから、分散電源というけれども、個々に置く独立分散電源じゃなくて、このネットワークと組み合わせることが重要だということをここで申し上げたいわけです。
 そうなると、今までは電気だけのネットワークだったんですが、分散電源のネットワークの場合、電気のネットワークもあるけれども、燃料も分散して供給しなければならない。そこで、燃料供給でも恐らくネットワークをつくっていく。今都市ガスぐらいしか、この燃料供給のネットワークはないわけですけれども、分散電源が入っていってネットワークをつくると、恐らく電気と燃料供給が複合されたネットワークになるだろう。そういうシステムを解析していく必要があると考えています。
 それから、熱も、先ほどいったように分散電源の排熱は使えるんですけれども、自分の家だけで熱を使ったんじゃ、バランスが非常に悪くなります。熱を融通する。これは地域熱供給のような形で、ありますけれども、熱のネットワークもつくる。
 だから、電気と燃料と熱、これのネットワークをつくっていくということが、2番目の分散と絡んで今からの展開です。このあたりが都市構造に物すごく関係しているんじゃないかと思っているわけです。
 次の商品差別化は簡単にしておきましょう。つまり、今までキロワットアワーとかキロカロリーとかいう、単にエネルギー単位でエネルギー商品を売っていたのが、そうではないことになるであろう。エネルギーサービスを売る。ESCO、エナジーサービスカンパニーというんですけれども、照明というサービスを、1キロワットアワー幾らで勝負するんじゃなくて、明るさを売る商売にだんだん持っていけるだろう。そのためには情報技術が活用できるだろうというアバウトな話をしようかと思ったんですが、これは省略します。
 むしろ、今申し上げた分散エネルギーシステムという話を少し詳しく申し上げたいと思います。
 燃料電池自動車、これは皆さん、新聞等でよく出ているので、ご存じでしょうけれども、トヨタも頑張っているし、特にダイムラー・クライスラー、あそこが随分やっているわけですが、自動車はここに5億台と書きましたけれども、本当は世界全体で7億台ぐらい。我々がいう中型ぐらい、それぐらいにそろえると5億台かと思うんです。
 普通自動車はヴィッツぐらいのものでも、100馬力ぐらいのエンジンを持っている。70キロワットあるんです。しかし、それを50キロワットと見よう。そうすると、それが5億台あると、世界で250億キロワットの動力出力を持っている。なぜこれをいったかというと、今の日本の発電所を全部合わせて2億キロワットちょっとです。日本は世界の大体10分の1ですから、世界全体で二十数億キロワット。30億キロワット弱ある。自動車の5億台、250億キロワットというのは、1けた多いわけです。自動車の動力の1割が発電機に変われば、今の全世界の発電容量と同じになるわけです。自動車はそれぐらい大きなインパクトを持っている。
 我々はエネルギーを考えるときに電気ばかり考えているんですけれども、家の中のガレージを見ると、家の電気は40アンペア契約でたかだか4キロワットしか使えないのに、ガレージの中には100キロワットぐらいのエンジンを持っているわけです。ほとんど動いてないから、エネルギー消費はずっと少ないんですけれども。自動車はフルパワーで動く時間はほとんどないし、とまっていることが多いですから。
 これがもし燃料電池でできるとなると、これが電源になるわけです。例え話としては、ガレージにいるときにはコンセントにつないで、家に電気を供給すればいいといったんですが、恐らくそれは技術的、経済的に難しいことでしょうが、自動車用のマーケットを確保すると、大量生産ができます。
 分散電源がなぜ普及しなかったかというと、マーケットがなかったからです。ところが、自動車というマーケットができれば、50キロワットとかいうクラスの燃料電池が大量生産されるわけです。そうすると、電極から、膜から、これは固体高分子という膜ですけれども、ぐっと安くなる。例えば、安くならないと、自動車には入れないわけです。というのは、自動車はどう考えたって、プリウスが高いっていっても、200万円台ですから、50キロワットの燃料電池だとして、燃料電池の部分だけで100万円かけたら、商品にするのは結構厳しいと思うんです。そうすると、キロワット幾らかというと、キロワット多分1万円ぐらいでつくらなきゃいけない。
 先ほどいったように、風車はマーケットの入り口にある。キロワット8万円。原子力は建設費も全部含めてですけれども、キロワット20万円を超えている。5キロワット1万円でできると、これは普通の電源としても十分勝負ができると私は考えるわけです。
 これをどういうふうに使うのかということですが、そのイメージをご紹介したいと思います。
(OHP 1)
 これは東京ガスさんから借りてきたもので、どこかの業界を宣伝するという気は全くないんですが、家庭用コジェネといっているものです。先ほどいったように、電気出力どれくらい考えるか今真剣に検討しているところです。ピークに合わせると、5キロワットぐらい。そんなものをつくったら、設備利用率が非常に悪くなりますから、多分1キロワットか、それ以下ぐらいのものを考えると思います。
 それはどこにあるかというと、ここにあるわけです。ガス会社さんいわく、湯沸かし器が発電所になるという言い方をしています。ここに燃料電池を入れる。供給は都市ガスです。都市ガスはメタンですから、このメタンを改質して水素にします。ここは燃料電池本体です。PEFCというのが今話題の自動車用で注目を浴びている固体高分子燃料電池。それに水素を供給して、あと空気。それで直流の発電をして、インバーターで交流に変える。発電効率は35%ぐらい。ここに改質ロスがありますから、30%ぐらいになるかもしれない。それから熱が出ます。熱で温水をつくる。残念ながら、このPEFCはあまり高温は出ない。せいぜい温水程度です。その温水でもってシャワーとか給湯とか、あるいは床暖房をやろう。電気は電気でやって、商用電力と一緒に使う。あるいは商用電力に対して、逆潮流も考える。このあたりはいろんなオプションがある。イメージはこんなものになる。
 それで、どういう計算ができるか。先ほど申し上げた需要と直結すれば熱が利用できるという話です。
(OHP 2)
 これも東京ガスさんから借りてきたものです。少し私なりのコメントを加えています。今需給バランスを見ると、これが在来型です。給湯器はガスで給湯で、電気と給湯しかない。空調なんか電気でやると考えています。調理も電気でやる。ちょっと特殊なやつ。これは在来型、給湯器はガス。火力発電所の系統からの電力でやる場合。同じような需要、26と20というのは熱と電気の需要比率。こちらは家庭用燃料電池を使う場合です。そのときに同じように需要があるわけですが、片や、26の電気を商用電力で買う。そうすると、発電所の効率があります。火力発電所の効率と送配電まで入れると、35%ぐらいです。この26の電気を得るために73の一次エネルギーが要る。給湯器に都市ガスが27要る。ボイラーはそんなに効率が悪くない。この27と73で100です。
 一方、先ほどの家庭用コジェネを入れると、ここに家庭用燃料電池を置く。給湯に見合うだけの家庭用の燃料電池を置くとする。そのときにどれくらい電気ができるかというと、先ほどの熱と電気の比率からいうと、大体12ぐらい。20のお湯と12の電気をつくるための都市ガスは42。26のうち12は自分のところの燃料電池で供給できるから、あと14だけ商用電力を買う。14は、先ほどいった同じ35%で一次エネルギーに直すと38になる。今度は発電所のところで使用する燃料38とこちらの家庭用電池の42と合わせて80で済む。つまり2割省エネになるということです。
 あと二酸化炭素を計算しても、2割以上、NOx だと半分以下になる。このあたりは排出係数を入れていくわけですが。このあたりは発電所って必ず火力発電所とは限らないですから、電力会社の方で非常に反論のあるところでしょうから、頭から信用しないでください。いろいろ議論があります。
 ただ、私はこの議論はもちろん基本的にはわかりますが、しかしまだ単純過ぎると思っているわけです。そんなに楽観視してはだめですよということです。ここで留意するべきは、先ほどいったように、コンバインドサイクルという複合サイクル発電すると、効率は35じゃなくて、55%で発電して、送電ロスを入れても50%で家庭まで送れるということが今後はできそうです。そして実は、ヒートポンプという機械があります。ヒートポンプという機械は仕組みがなかなか理解されにくいんですね。どういうことかというと、電気の持っているエネルギーと熱の持っているエネルギー、質が違いますから、ヒートポンプでどうなっているかというと、家庭用の普通のエアコンがそうなんですけれども、1の電気の投入をして、エアコンから出てくるヒートポンプの熱量は大体3とか4です。だから、ヒートポンプはCOP、成績係数といいますが、大体3ぐらいのものができそうです。ただ、給湯の条件によりますけれども。3と仮定しましょう。それで計算すると、電気が26要る。給湯が20要るとします。これを全部電気でやるとします。電気の26を供給するために、ここは50%でいいから、エネルギーといったら52の投入でいい。給湯20のところを、COP3という成績係数、電気で約7投入してやれば、熱としては20。大体3倍。この電気の7をつくるために14の燃料投入。52と14を足さなきゃいけない。52プラス14ですから、66。66ですから、80より少ない。
 つまり、高効率発電とヒートポンプ、これは技術的に可能ですから、これをやればオンサイトで熱を使うのを上回る場合もあるんだということです。我々の分析の焦点はそういうところです。コジェネのいい話ばかりにとらわれないでいただきたいというのはこういうことです。ただし、オンサイトはなかなか魅力的であることは事実です。
(OHP 3)
 先ほど自動車の話で専ら燃料電池を当たりましたが、マイクロガスタービンの話を少ししておきます。
 マイクロガスタービンは、実はコジェネレーションという大型のものは、熱と電気と両方使えるんですけれども、今実用化しているのは、100キロワットから上のところです。このあたり工場ですが、ガスタービンとか使う。ガスエンジンでも数百キロワットぐらいでしょうか。燐酸型という燃料電池で100キロワットぐらいのところにいっているわけです。
 何をいっているかというと、エネルギー需要の中で電気がどれくらい要るかという需要の構成ですが、例えばコンビニなんていうのは、総エネルギー量の中における電力の割合が高いわけです。今までのコジェネだと、どうしても発電効率の限界がありますから、熱需要の多い病院とかホテルとか、あるいは地域冷暖房、こういうところがいいお客さんだったんだけれども、電気をたくさん使うのはなかなか難しかった。
 住宅はこのあたり。住宅は規模が余りにも小さかった。規模の小さいところには、さっきいった燃料電池型。コンビニあたりのところにマイクロガスタービンが使えないかと今期待している。このコンビニは、電気がそんなにたくさん出るのかというわけですが、ここのところの排熱をうまく使って、今電気でもって供給している分をマイクロガスダービンにすると、高温の排熱が出ますから、高温熱は吸収式冷凍機とか、クーリングにも使えますので、そういうものを使おうということです。
 それでは、マイクロガスタービンというのはどういうものか。言葉で説明したのを少しだけ絵でご説明しておきます。
(OHP 4)
 先ほど申し上げたように、発電量は100キロワット未満。今のところ、発電効率は30%弱ぐらいなところですが、メンテナンスコストがあまりかからない。小型軽量だ。環境特性もいい。キャプストンのタイプの28キロワットという規模です。ガスタービンってどこでやるかというと、ここで圧縮空気を入れて、ここで燃焼して、燃焼で膨張したところで、ここでガスタービンが回るわけです。同軸にしておいて、ここのところで圧縮機でコンプレッサーで圧縮空気をつくる。空気はこっちから取り入れる。発電機はここに置いてあります。
 先ほどいったエアベアリング、空気ベアリングはこういうところにある。この排熱のところをここのところで熱回収を行って、吸気の空気を温めるということをコンパクトに、大き目の冷蔵庫ぐらいのタイプにまとめ上げて、28キロワットぐらいの発電機にしているというものです。これをパッケージにして量産していこう。なかなかおもしろいアイデアです。多少音がするのが欠点です。
 OHPは以上にいたします。

 今、変換における分散エネルギー技術ということで、燃料電池とマイクロガスタービンのお話をしたわけですが、先ほどいった高効率発電とヒートポンプというものとの競合を十分に考える必要がありますが、やはり魅力あるシステムだと考えます。特に熱がうまく使えれば相当魅力があるものだと考えます。
 そのときに、インフラ整備が要る。先ほど申し上げたように、分散エネルギーシステムは単独ではだめで、ネットワークをつくることが大事です。まず電気なんですけれども、エジソンは中央発電所と分散する需要を結びつける電力システムを発明したのは偉大だといいましたが、今の電力システムは相当高度に発展してきています。よく送配電といいますが、英語でも送電のことと配電のことは分けます。電力会社でも送電を担当する部門と配電を担当する部門は大抵分けています。送電をトランスミッション、配電をディストリビューションといっています。
 電力システムにおいては、送電網、トランスミッションのところに電源がぶら下がっています。特別大きな需要家は送電線に直接アクセスしていますが、ほとんどのお客様は配電線にアクセスしている。配電線というのは、配電用の変電所があって、そこから一方的に電気をまさに配るだけです。問題はこういう分散型システム、特に先ほどいった家庭用の燃料電池とか、コンビニにつけるマイクロガスタービンはどこにぶら下がるかというと、送電線じゃなくて、配電線にぶら下がることになります。電力会社は配電線に電源がぶら下がることを基本的に想定していません。
 今家庭用の太陽電池が導入されているので、かなりリンクしているところがありますが、それは全く規模が小さいわけです。先ほどいったように、日本全体で22万キロワット、そんなものですから、その程度のものがぶら下がるということとは全く違う状況を、燃料電池とマイクロガスタービンの場合には考える必要があると私は考えています。電力会社の一部の人もそう考えている。
 そうなると、需要がぶら下がると考えていた配電システムに電源もぶら下がるというふうに考えを変える必要がある。それは電源を持つ需要地系統、これはどういう名前になるかわかりません。単に電気を配るというんじゃなくて、配電線の末端に電源もあるし、需要もあるというふうに、基本的なコンセプトを変えた配電網をつくる必要がある。
 電力会社は負荷平準化ということもあって、揚水発電所のような大型電力貯蔵装置を持っているわけですが、一方で分散して変電所に置くような電池を開発中です。これを需要地系統に入れるということは真剣に考える価値がある。
 電力会社は負荷率がだんだん悪化している。それは電力会社としてみても困る。つまり、設備は最大電力に合わせてやらなきゃいけないので、稼働率は低くなる。できるだけ需要のピークを下げたい。そのために、エコアイスとかを宣伝して、夜間の電気を使って、昼間の冷房はためた氷で供給する。そういうことでピークカットをしているわけです。こういうのをデマンド・サイド・マネジメントというんです。需要家が勝手に電気を使うんじゃなくて、電気の供給のところを考えながら、需要の負荷の形を変えていく。デマンド・サイドを管理する、マネージする。そういう技術を長い間開発してきました。間接的なものと直接的なものがあり、間接的なものの代表例は料金制です。夜間電力を安くして、夜間に使ってもらう。昼間は高くして抑制する。
 もう1つが関係するんですが、直接負荷制御という実験を随分やっています。変電所からリモートで、例えば温水器のスイッチのオン、オフはリモートでできますし、実験的ですが、エアコンのスイッチのオン、オフをリモートでやる。熱については需要家は一瞬一瞬のバランスは要らないわけです。全体としてエアコンとして空調が機能すればいいわけですから、ある瞬間とめてもいい。ところが、多くの需要家が一緒に使い出すとピークが上がりますので、需要家を幾つかの群に分けてコントロールしていくということでピークをカットする。そういうことを始めていたわけです。
 これがなかなか、光ファイバーが高いとかということがあって、コストがかかって難しかったんですが、ここに来て、無線を使うとか、配電線そのものに、あれは50ヘルツとかの電気ですから、もっと高周波にすれば信号を送れますので、配電線搬送で信号を送るという技術が出てきまして、それの標準化が今なされつつあります。それをデマンド・サイド・マネジメントの中でも次世代デマンド・サイド・マネジメントといっています。
 そういうことを需要機器にするだけじゃなくて、需要家が、今いったような燃料電池とかマイクロガスタービンを設置すれば、そのコントロールを需要家のマネジメント下に置くのではなくて、電力会社のマネジメント下に置いて、いわゆるDSMの対象にすることが可能です。これをエネルギーマネジメントと呼ぶようになるかもしれません。そういうようなことが今構想されつつあります。
 このためには、それこそ情報通信網の整備と一体となるわけでございまして、ここまですればまさにネットワーク型のエネルギー供給が情報技術と融合するという時代が出てくるのではないかと考えます。そのくらい大きな変革をもたらし得ると私は感じます。
 今みたいなことが次のエネルギーネットワーク運用というところ、分散エネルギーの燃料供給というところにつながっていくわけです。これも定性的な話ということでお聞きいただきたいんですが、今までエネルギー産業というのは、エネルギーのタイプ別に事業が成り立っていた。電気は電気を供給する。ガスはガスを供給する。石油製品は石油製品を供給する。そういうのをエネルギーの源から需要の末端まで、エネルギーの流れによって統合しているシステムということで垂直統合とよくいっていました。そうではなくて、今度は1つの需要家のところに、例えば燃料電池を置けば、そこに電気も出すし、熱も出す。つまり、電気とか熱とか種類の違うエネルギーをまとめて供給する。それを称して水平統合といっています。これを産業としては総合エネルギーサービス産業といったりするわけです。そういうものに徐々に変わっていく。そのきっかけにも分散エネルギーシステムはなっていくのではないか。そういうふうに考えていいわけです。
 それができれば、そういう個々の需要家に置かれたエネルギー変換機器、燃料電池とかマイクロガスタービンが、電気も相互に融通できるし、熱も電気ほど広域でないけれども、ある地域でやれるようにするというネットワーク。そこへ燃料を供給していくということが問題になってくるわけです。
 今までは大きな発電所があって、そこまで燃料を供給して、あとは電気で運んでいる。先ほどの高効率発電とヒートポンプだと、それになるかもしれないんですが、もしここでいう需要家に置かれる分散エネルギーシステムということになると、今度はその需要家のところに燃料を運んでいくことになります。それがどうなっていくかが長期的に見ると問題になっていくでしょう。
 今都市ガスのパイプライン網は余力があるといわれていますから、当面そう心配することはないのかもしれませんが、しかし、こういうシステムの変化は我々の想像を超えて伸びていく場合があるわけです。そうしますと、燃料供給ネットワークというものを十分考えていく必要がある。
 もし、これが天然ガスに固定化されてしまうと、二酸化炭素問題の脱炭素化という意味では、天然ガスのところで固定化されてしまうことになります。燃料は燃料電池の燃料にしても、ガスタービンの燃料にしても、メタンであればいいし、あるいは水素であればもっといいですから、メタンとか水素を天然ガス以外からつくるということを考えていく必要が長期的には必要かと思われます。
 それで私が期待しているのはバイオマス。自然エネルギーの中でそういう燃料を供給できるのはバイオマス。つまり、バイオマスは炭化水素資源ですから、それをメタンにも変える、メタノールにも変える、水素に変えることも可能ですから、自然エネルギーの中でバイオマスというのはそういう意味でももっと注目されていいと思います。
 また、今はどちらかというと、短期的には厳しい状況にあると申し上げた原子力ですけれども、長期的にいえば、原子力のエネルギーでもって化石燃料資源を、燃やしてしまうエネルギーというんではなくて、新たな燃料に変換していくと考える。つまり、天然ガスをそのまま水素に変えるときにはエネルギーロスが相当あるわけですけれども、天然ガス、あるいは石炭を化学物質原料と見て、水素に変えるために必要なエネルギーは原子力から供給する。あるいは太陽電池でももちろん構わないわけですけれども、そういう非化石のエネルギー源を使って、炭化水素系の燃料を水素系の燃料に変換していく。そういうことが長期的に起こるのではないかと思います。



3.都市とエネルギー

 さて、最後に「都市とエネルギー」ですが、私はあまり都市は知らないんですけれども、都市経営フォーラムですから、無理に結びつけようとしたところがあって、きっと馬脚が出ると思いますが、今みたいに長期的に見ると、都市の役割は非常に重要だと思います。
 先ほどいった電力システムの話と自動車の燃料電池から始まる分散エネルギーの話、これがエネルギー技術というものを垂直統合的な構成を水平統合的な構成に変える、これが一番大きな変化だと思っています。そういうことができるのは、需要が集積した場所、つまり都市です。電力システムは都市と関係がある。あれだけのエネルギーを大量に使う都市が、もし電力システムというエネルギー発生源と消費地を分離するシステムなしで存在するとしたら、きっと都市の環境はめちゃめちゃになった。電力システムというものがクリーンな都市をつくってきたと私は考えます。
 需要統合をすることによる経済性があったわけで、それによって集中的な規模の経済も働かせるし、環境対策にとっても集中的に行えるというメリットがある。エネルギーでいえば、生産と消費の隔離が起こった。これが多分20世紀の都市だと思うわけです。
 東京都知事が新潟県知事と会って、電源を建てていただいてありがとうとお礼をするという話がよくあるわけです。そういう状況を生んだわけです。今夢のように申し上げた分散エネルギーシステムは、それをかなりの割合で変えていくという気がいたします。
 そのときに忘れてならないのは、独立分散エネルギーはだめだということが1つですね。電気も熱も、燃料もネットワークになったときに、燃料供給システムをどう構成するかということは十分に考えなきゃいけない。
 都市の構造からいえば、ここに書かなかったですが、熱の融通というのが非常に大事なことだと私は考えています。いうのは簡単で、実現は難しいんだと思いますが、熱はある意味ではばかばかしいもの。エネルギーは保存の法則が働きますから、なくなるわけではないんです。要するに低級の熱になっていくわけです。連係されてなければ、かなり高級な熱なのにそれは使われない。都市には高級な熱を必要とする人もいれば、低級な熱を必要とする人もいる。例えば、製鉄所の排熱は温度は非常に高いわけですが、需要地に密接化してないがために結局有効に使われない。
 それを有効に使っている例は、本当に数少ないんですけれども、日立市に、駅前に大きなセメント工場がある。あんなところにセメント工場があるものですから、あのセメント工場の排熱を駅前の市街区のところに熱供給ができているわけです。しかし、こういうことは最初から計画すれば、あれほど極端なものじゃなくて、もっとまめに幾らでもコントロールできる。つまり、ヒートカスケードという使い方です。高温の熱から低温の熱に順次使っていくようなものを計画的にやるというのは非常に重要なことだと思います。
 それと、先ほどいった熱を相互に融通する。今いったのは、熱の質の高いところから低いところへのカスケード利用というのもので、これも重要ですが、もう1つは、熱の需給バランスですね。同じような排熱だけれども、自分の家だけではタイミング的に使い切れない。よそのところでは今欲しいけれども、そこには排熱がないというときに、熱を融通していく。これは地域熱供給では実現しているわけですけれども、なかなか最適なシステムという意味では理想的なものからははるかに遠い。そういうものを計画的に実現することができるのではないかと私のような素人は考えるわけです。都市はそれぞれの土地の所有者がいるわけですから、そう簡単にいかないんでしょう。聞くところによると、公共的な道路をまたぐのですら、熱の場合は非常に難しいと聞いておりますので、そのあたりは、先ほどいったネットワークの重要性ということを考えて、そういうものが構築できると変えていただければと思います。
 より長期をいえば、この新しい都市エネルギーシステムとしては、先ほど述べたDSMがさらに進化して、エネルギーマネジメントになるんじゃないか、エネルギーインフラと情報インフラが統合したようなものになるというのが1つ。最終的な姿は、都市で使うものは電気と水素、そうすれば、都市部でのエネルギーから出る廃棄物としては水ということになりますので、非常にクリーンなシステムになる。
 ただ、これは電気を何でつくっているのか、水素を何でつくっているのか。都市はしばしばそれを忘れると思うんです。それをわかる形にする必要はありますけれども、都市のエネルギーの究極的な姿は電気と水素と考えます。
 さらにいえば、私、もともと原子力の出身で、最近はバイオマスに興味を持っていろいろ調べていまして、随分おもしろいことがわかるわけです。循環型社会を構築するというある種一般的にコンセンサスを得ている今後の方向性があると思うんです。エネルギーにもよくそれをいわれるわけです。エネルギーもリサイクルを考え、循環型にしなければいけないというんですが、これはエネルギー分析をやっている私なんかにとっては物すごく違和感があるんです。エネルギーは物質と違ってリサイクルは原理的に不可能です。エントロピー増大という大法則がありますから、エネルギーを使用すれば必ず質の低いものになる。物は不滅ですから、リサイクルということは原理的に可能でしょうけれども、エネルギーは使えば必ず低質になる。リサイクルは基本的に不可能です。
 ここはそういう意味でのリサイクルはあきらめた方がいいんですけれども、リサイクルに近いものはあります。リニューアブルエネルギーというのがリサイクルに近いとよくいわれる。リニューアブルというのは、再生可能というから、リサイクルみたいに思いますが、リニューアブルって、そのまま訳すと、本当は「更新する」「どんどん新たになっていく」ということで、これはフローを使っているという意味です。太陽エネルギーが降ってきて、最終的には宇宙に赤外線で逃げていく間のフローを使っているわけです。その間に物質に変身しているものがある。それは何かというと、1つは、水力の水です。水は太陽エネルギーが水を蒸発させて上空から雨が降ってきて、高い位置へおりてきて、海へ注ぐまでの位置エネルギーを使っている。
 南極を除く世界の大陸に降る雨の量と、雨の降る地点の高さから位置エネルギーを計算して、世界の水の総位置エネルギーを計算すると、我々人類がエネルギー消費するのは年間石油換算80億トンぐらいですが、その半分強になる。水がぐるぐる循環している位置エネルギーはそれぐらいのものではある。しかし、それぐらいのものでしかない。我々のエネルギーの全部は賄えないんです。
 実は循環している中で、水よりもっと大きいエネルギーを持っているものがあるんです。それがバイオマスです。バイオマスは、年間で、光合成して植物体の形で有機物で固定されている量が、石油換算で大体760億トンぐらい。これは実は推計ですから、大ざっぱで800億トンといっていいですね。800億トンですから、我々が使っている80〜90億トンからいえば、10倍に近い。これの10分の1ぐらいをエネルギー利用してやれば、ぐるぐる回っているということは、固定された炭化水素系のバイオマスは、最終的には二酸化炭素となって、また元へ戻るわけですから、そのときのエネルギーを我々が有効利用してやれば、自然の循環の中でエネルギーをとったことになる。エネルギーはもちろん一方的に流れるわけですが、バイオマスという物質は循環している。循環するバイオマスを使うということは、基本的に重要じゃないかと思います。
 そうなると、都会のバイオマスの活用はまだまだ不十分です。世界的に見て、農村部も含めて、すべての人間活動のバイオマス循環で計算しています。今いった800億トンというのは我々が全然使わない森の中で循環しているものを含むわけですけれども、我々は食糧や木材、紙、こういうものでバイオマスを既に使っています。そういうものを間接的なものも含めて全部カウントすると、実はこれだけでも我々が年間使っている石油換算80億トンに近いところまでいくというのが、私たちのグループの最近の計算結果です。それはすべて廃棄物になっている。畜産の廃棄物になったり、あるいは都市ごみになったりしているわけです。その一部を使っているのが黒液なんです。
 そういう循環するバイオマスを生活の中で使っていく。そういうことを考えていくことも非常に重要な視点ではないかと思います。
 最後は、分散エネルギーとは違うバイマスの循環という話を、最近それを追いかけてきているものですから、一言申し上げたくて申し上げました。新しいエネルギーとして変わるんだということと、その中で最終的には分散型エネルギーに結びつくという見通しです。
 私が申し上げたいことの1つは、バイオマスは炭化水素で、要するに燃料になる。分散型の場合にも燃料供給は必要だというところでちょこっとバイオマスの話をしているのはそういう意味であります。都会で水素をつくる水素の源は田舎のバイオマスからつくったものである。そういう絵もかけるということでございます。
 冒頭申し上げましたように、あまり準備してなくて、ばらばらといろんな話をしたと思いますけれども、予定の時間になりましたので、以上で私の話を終わらせていただいて、あとは質疑、コメントにお答えしたいと思います。ご清聴ありがとうございました。(拍手)



フリーディスカッション

司会(谷口)
 いろいろ専門的な内容も含めて話題を提供していただいたわけですが、どんな内容でもお答えいただけると思いますので、質問その他おありでしたら、挙手をお願いします。

御舩(多摩都市交通施設公社)
  大変楽しく、またおもしろいお話をありがとうございました。財団法人多摩都市交通施設公社の御舩と申します。
 どちらかというと、ハードな都市をつくる方を仕事にしておりますので、特に分散エネルギーシステムというものに大変関心を持ちました。まだ実現をしてないということだと思うんですけれども、モデル的に考えて、次のような条件だとどうなるかということを、それこそ山地先生のご経験からお話しいただければという質問をさせていただきたいと思います。
 東京圏に大体3000万人住んでいるわけですけれども、1つの変電所で実際には3000万人すべての電力を供給しているわけではなくて、先ほどのお話のように、新潟であったり、東北であったり、各地からも送り込んでいるわけです。標準的な1つの発電所を、分散エネルギーのシステムの分散したエネルギー源で、先ほどの話ですと、燃料電池とマイクロガスタービンという単位で考えると、標準的には燃料電池とマイクロガスタービンの拠点を、1発電所をつぶしたときに、どのくらいの単位で、どのくらいの箇所数で供給ができるのかが大変関心がございます。
 それから、もう1つは、お話の中で、コンビニエンスストアなどはマイクロガスタービンのおもしろいモデルだと伺ったんですが、居住人口を考えて、燃料電池とマイクロガスタービンで、モデル的に何か供給をするときに、エネルギーの供給なり燃料の供給のシステムは別にして人口100人程度が単位になるのか、あるいは1000人程度が単位になるのか、その辺、大つかみな物差しみたいなものがもしございましたら、教えていただきたいと思います。

山地
 燃料電池の場合とマイクロガスタービンの場合でちょっと違って、先ほど東京ガスさんからお借りしたので、燃料電池の場合は非常に小さいものを想定して、1戸の家庭に1個置くということを考えています。1キロワット未満も含めて1キロワット程度、多くても数キロワットぐらい、そういうのを実はターゲットに置いていると私は理解しています。したがって、1家庭に1個という単位です。マーケティングする人は1家庭に1個独立でも置けるようなものから多分導入していくと思うんです。だけど、私がここで申し上げたのは、それでは多分限界があって、たくさん入ってこない。先ほどもバランスで申し上げたように、個別に給湯用の熱を供給する程度だと小ぶりのものだけど、電力を融通したり、あるいは熱も融通するということになれば、もうちょっと大きいサイズのものでも入れるんではないかと思います。そのときに、じゃ、どれくらいのコミュニティーを考えているのかというご質問だとすると、これは実はまさに研究課題そのものです。1つの団地ぐらいのサイズを想定はしているわけです。あるいは集合住宅。集合住宅の中で需要がどれくらい分散しているのかというデータを集めています。ヨーロッパは小さい規模の熱供給ステーションがありますから、そういうもので公共的なところに1つ置いて、集合的な運用をするということが考えられようかと思います。そのサイズは、申しわけないですけれども、これこれと申し上げるだけの結論を持っておりません。
 それから、マイクロガスタービンは、今ちょっと申し上げましたけれども、もうちょっとサイズが大きくて、今小さいもので30キロワット弱ぐらい。もうちょっと大きいものだと、100キロワット近いわけですから、こうなると、小ぶりのスーパーマーケット、コンビニ、コンビニもあんまり小さいコンビニでは難しいかもしれません。その程度のものを考える。そこまで考えてくると、今度は燃料電池は家庭用という仕分けはなくなるかもしれません。家庭用も、ある集合を考えれば、マイクロガスタービンの方が適当ということになるかもしれない。いずれにしても、はっきりした定量的な答えは申し上げられなくて申しわけないんですが。
 ちなみに、配電線の規模からいうと、配電用の変電所の変圧器は大体数千から数万キロワットというオーダーです。そういう変圧器が何台かあるということです。その1万キロワット程度の1つの配電線の幹線にぶら下がるものの中に、そういう分散電源が何個入ってくるかという検討を今ちょうどしているところです。規模がどれくらいになるかは、技術的な供給のバランスだけじゃなくて、熱のネットワークがどれくらい組めるかということがありますので、需要の集積度が影響されてくる。多分まだユニークな答えはないだろう。仮定する地域地域によって最適なサイズは変わってくると思います。イメージでお答えできる段階でしかないので、きちんとしたお答えになりませんが、大体以上のようなことを考えています。

谷口
 今のご質問にも関連しますが、分散型のエネルギーのシステムというと都市との関係を考えたときに、都市の集積の単位というか、そういうものとの関係がイメージがつかないんですが、例えば、巨大都市の方がこれに対して優位性があるのか。あるいは分散的な都市的な都市形態。都市の分散立地の方が優位性を享受できるのか。そういうことに関係がありそうなのか。その辺のイメージを教えていただきたいのですが。

山地
 きょうは、私もあまり研究蓄積のないところで推測を結構申し上げたので、きちんとした答えはないんですけれども、私のやった研究じゃなくて、私の知っている方がやっている研究の結果で申し上げると、ミニマムなサイズがあることは確かだと思うんです。よくやられている研究だと、地方中核都市ぐらい、40万〜50万の都市で考えると、熱のネットワークを考えることによって分散電源のメリットを引き出せる。つまり、熱を有効に使える。そのときに計算しているのは、2キロメーターぐらいの範囲の中では熱の融通ができる。ただ、それも1つのステーションで2キロですから、別のステーションで2キロで、つなげていけば、もっと広範なエリアがネットワークとしてカバーできる。
 ですから、そういう意味では、1つのエリアで2キロの周囲というのがミニマムサイズかもしれません。地方中核都市の場合には熱の供給センターでカバーできる2キロだけじゃなくて、それが熱の供給センターが複数あるということになっている。だから、ミニマムサイズが幾らなのかという研究をきちんとやった人がいないので、難しいんですけれども、40万〜50万ぐらいの都市というイメージの絵をかいた人はいるということでございます。大きいから困るということはないと思います。
 きちんと絵をかいた人ならもっと的確な答えができるんですが。

上村(福田組)
 単純な質問であります。私、建設関係の上村と申します。よろしくお願いします。
 1番の原子力のエネルギーの次に自然エネルギーというのがありまして、(太陽・風力よりバイオエネルギー)と示されているわけですけれども、最近のエネルギー源として風力発電所というのが物すごくあちこちに出てくるような状況が見受けられるわけです。それについては先生はきょうはあまりお話をしておられなかったようで、それにかわるバイオエネルギーというものに主眼を置かれたという感じで受けとめたんですけれども、その辺の推移というもので、風力というよりもバイオがいいんだ。風力にはいろいろ問題があるんだということも何かあるんでございましょうか。

山地
 もし、そうお感じになったら、私の言い方が悪かったんだと思うんです。太陽も風力も重要だと思っている。特に風力は、先ほども申し上げたけれども、本当の意味でのエネルギーマーケットの中に入る、参入する境界にいる。相当いいところに来ていると思うんです。さっきもちょっと申し上げましたけれども、キロワット8万円ぐらいで工場出荷で、風車を入手できる状態ですから、そうむちゃくちゃ高いものではありません。今風力発電設備に関しては、いろいろな導入促進策があって、設置に関する補助も、一定の要件を満たすと受けられますし、そもそもできた電気を電力会社に売るときに、今購入価格が1キロワットアワー11円何銭という形で買ってもらえますから、そうすると、原価が11円を切れば儲けが出るわけですので、実際に儲かる商売になっている。
 問題があると申し上げたのは、幾つかの面があって、1つは、最終的にマーケットに入ってきても、供給できるエネルギー量がそれほど大きいとは思えないということです。その点でバイオマス、バイオエネルギーの方がずっと大きな供給力を持っていると私は思っているわけです。
 その例が先ほどいった黒液で、黒液単独で、年間石油換算500万キロリッターぐらい供給しているわけです。太陽エネルギーとか風力で年間石油換算500万キロリッターが供給できるようになるのは、日本国内ではなかなか計算ができないくらい先の話だと考えます。世界的には、風車は1000万キロワットを超えて入っています。ただ、1000万キロワットというのも、太陽電池、風力の場合にはちょっと割り引いて考えなきゃいけない。風力の場合では、太陽電池ほどではないんですけれども、風況にもよりますけれども、設備利用率は大体20%から30%ぐらいです。平均で25%と見ても、原子力発電所の80%ぐらいの設備利用率に比べると、3分の1以下ですから、風力で1000万キロワットあるということは、原子力でいえば300万キロワット分ぐらいでしかないわけです。これによる石油換算供給量は、約500万トンぐらいです。そうすると、エネルギーの需要が大き過ぎるというのがそもそも問題ですけれども、世界全体の風力発電による供給力が、日本単独の黒液の供給力と変わらない程度だということは、皆さんが大騒ぎして導入する割には大きくないんじゃないですかということを、ちょっと客観的に申し上げたわけです。
 ただ、それが意味がないといっているつもりは全くありません。風車の場合には、今の導入促進施策の場合には利益が出ますから、いっぱい参入してくる。そうすれば、キロワット8万円がキロワット5万円ぐらいの設備費になり、建設のコストが、輸送と据えつけのコストを入れても、例えば10万円ちょっとでできるようになるということになれば、キロワットアワーで5円ぐらいということは考えられる。キロワットアワー5円になれば、電力会社は石油の燃料費でキロワットアワーが5円近くですから、それなら十分に、導入促進施策がない状態でも、完全に自立した経済性を持ち得る。
 そういうことに風車はかなり近いところにありますから、いくと思うんですが、ただ、それにしても、日本国じゅうで、例えば1000万キロワットの風車が建つという時代はいつ来るかわからない。そのときでも、日本における石油換算の風車の供給力は500万トンぐらいだ。そうすると、バイオマスの方が供給力としてはもっと大きいからもっと着目すべきではないか。そういうことを申し上げたつもりで、決して風車が役に立たないということを申し上げたつもりはありません。ただ、順番として注目度は太陽電池が高くて、風力で、バイオマスの順番だけど、実力は逆じゃないでしょうかということを申し上げたわけです。

矢島(帝都高速度交通営団)
 分散エネルギーの話を興味深く伺いました。
 質問の中身は2つあります。1つは、家庭単位で使えるような燃料電池とコンビニぐらいが使えそうなマイクロタービン、この2つの分散エネルギー比率は、一体どれぐらいのタイムスパンで実現してくるものか。実現の中身は2つあって、技術的にできますという話と、ある程度普及しそうなところがどれくらいになるか。これまたいろんなファクターが絡まってくると思うんですが、何らかの見通しがおありになれば、お聞かせ願いたいのが第1点。
 第2点は、家庭用の燃料電池の開発、あるいは普及のスピードというのと、燃料電池自動車の開発が多分絡まってくると思うんですが、この辺についてはどんな見通しをお持ちか、その2点をお願いします。

山地
 2点関連があると思います。まず前者の方からいいますと、マイクロガスタービンと燃料電池ではマイクロガスタービンが先に市場に入ってくると思います。というのは、マイクロガスタービンは実際に今商品として売っている会社があるわけであります。ですから、そういう意味では、商業化というのをどう定義するかなんですが、商品が存在するという意味では、マイクロガスタービンは既に実績として先行していると考えます。
 ただ、都市に置くという環境特性を考慮してポテンシャルマーケットを考えると、排気ガスの出方とか、騒音、そういうことを考えると、長期的に見れば、燃料電池の方がより大きなインパクトを持っているのではないかと思います。マーケットに入ってくる順番はマイクロガスタービン、それから燃料電池だと思います。
 燃料電池がいつごろ入ってくるのかというのが後者の質問に関係するわけです。これは私よりよくご存じの方がほかにいらっしゃると思います。自動車がいつから売り出すということはダイムラーがいっているとかあって、あれが本当なら、もう数年で燃料電池自動車が売り出される。その段階で、自動車の燃料電池は商用化したということになろうかと思うんです。それが有意のところまで普及するのがどれくらいかということですが、そこは本当に難しいです。
 自動車のマーケットは、エネルギーマーケットよりはるかに読みにくいと、少しずつ勉強してやっとわかってきたんですが、「プリウス」という自動車は、販売して多分2年ぐらいだと思うんですけれども、もう2万台を超えていると思います。過去何十年にもわたって売り出してきたクリーンエネルギー自動車の全台数を2年間でオーバーしてしまったわけです。しかし、それでも自動車全体のマーケットからいえばはるかに小さい。私は、燃料電池が10万台入ってくることになれば、定置型のマイクロコジェネレーションとか、モノジェネレーションの電源としての燃料電池としては、相当大きなインパクトがあると思うんです。
 つまり、小型分散型の発電機が何万台と大量生産されるというのは今まで想定したことがないことですから、その段階で、自動車としてはマーケットで大きなシェアを持たなくても、コスト競争条件の緩やかな定置型の燃料電池の方が先にマーケットに大きく入っていく可能性があると考えます。
 これは今開発されている方の開発努力と、環境整備、制度的な整備、急速に政府の方も燃料電池とかマイクロガスタービンの導入に備えた制度、つまり資格のある人を置かなくても設置できるとか、そういうことを始めていますから、それを誤たなければ、きっかけは自動車の方から入っていくんだけれども、入っていく規模は発電用かコジェネという定置型の利用の方が急速に伸びていく。私は個人的にはそう思っています。

花井(NPOタイ・ジャパン・インスティテュート)
 先生のお話のもっと前に、私は日本の電圧そのものが100ボルトであるということを、何とか早く200ボルトにすれば、もっとよくなるのになと思っている1人でございます。
 先ほどのエネルギーの中で、バイオマスというのは私自身も興味を持って見ているわけです。そういういろいろなものが世の中に出てきつつある。燃料電池も、アメリカでは2015年では、自動車は石油資源、化石燃料を使わないんだという格好で動いているようでございますので、先ほど先生がおっしゃったような形で、多分燃料電池が個電として入ってくるんじゃないかなという感じもしています。
 例えば、設置されている風力発電をなぜ日本のメーカーがつくらないか。単純な話、日本のメーカーは電力会社におもんぱかって、多分つくれないんじゃないかということも、これは推測です。昔、戦闘機の零戦でも、プロペラは日本のプロペラじゃなかったということもあって、翼の研究、スクリューの研究はおくれているのかなということもあるかもしれません。
 しかし、そういったことが、今現在北海道電力でも相当な数の風力発電の申請があるということに対して、一生懸命ガードを張って、もうこれ以上設置させないという民間の会社でありながらも、普及に足をとめているわけです。
 そういう意味で、新しいエネルギーを、こういう都市を含めて導入させるには、かなりの政治的といったらおかしいんですが、相当な形でのインパクトがないと、あるいは何か事件がないと、入っていかないんじゃないか。特に日本はそういう意味では規制緩和といいながらも、されてないという傾向があるような気がします。
 先生みたいに、いろんな技術のトレンドを見ながら、どういう形だったらば、日本の中で他の国に先行して導入し、例の京都会議で我が国が先行できるかということに対して、どのようなインパクト、どのような動きをしなければいけないかという点について、お考えがありましたら、教えていただきたいと思います。

山地
 幾つか単発的なお答えをさせていただくと、200ボルトの件は、今ほとんどのご家庭で単相3線式で配電しています。単相3線式というのは真ん中が中性線、中性線と他の1線で100ボルトで、両端とれば200ボルトとれますから、電力供給面からはいけるはずなんです。ただ、屋内の配電線の耐電圧とか、使う方の家電品がそこまで出回っているか、そういうところにかかっている。これはそういうお答えをしておきたいと思います。ネットワーク問題って難しいんですね。電力を供給する側の整備はほとんどできているというふうにお考えください。
 風力の話ですが、まず日本のメーカーがどうしてだめなのか。日本のメーカーでも個体名を申し上げて恐縮ですけれども、皆さんご存じのことで、三菱重工は、当初非常にたくさんの風車をつくりました。アメリカで相当売れましたし、国内でも幾つか建てているんですが、ヨーロッパに大きいマーケットができたわけです。デンマーク、ドイツ、ドイツなんか急速に立ち上がりました。そこでヨーロッパの各メーカーが競争をして安くなって、さっきいった工場出荷でキロワット8万円という価格はかなり厳しいですから、そこに競争できていない。マーケットが安定的にできるとなりますと、日本でも、政府は2010年30万キロワットという目標ですが、これは明らかに過少で、30万キロワットは今から数年で達すると思います。マーケットがかなり大きく見えてきましたので、気概があれば、ただ、儲かるかどうかの経営判断だと思います。やる技術は持っていると思います。ただ、そこまで下げて売って儲かるかどうかじゃないでしょうか。
 これまた余計なことをいうと、ガスタービンがそうだった。ガスタービンを世界じゅうで競争して、いろんなメーカーさんが安く受注してきたけれども、つくってみると、なかなかコスト採算がとれずに、売れたけれども、儲からないという状況をつくったわけです。そういうところを見きわめるのが経営ですから、私は技術の問題よりもマーケットと経営の問題だと思います。風車タービンに関しては、ヨーロッパ勢のメーカーが結構ありまして、競争が厳しくて新規参入どうかなと思っておられるんじゃないかと思います。しかし、ベンチャーとしてやってくれるところがあればいいと私は思っています。
 それから、日本における風力の導入に対する電力の対応ですけれども、ご存じだと思いますけれども、私もメンバーですが、新エネルギー部会というところで7月に電事連としての見解を東京電力の委員の方がおっしゃって、10月から新たな制度を導入しようとしています。それはどういうことかというと、先ほど時間がなかったので、単に設備利用率が小さいということだけを申し上げましたけれども、風車は、風に任せて発電しますから、需給バランスが電力会社はとりにくいわけです。それに対してちゃんとバックアップする電源を持っておかなきゃいけない。それから、もっと技術的なことをいうと、誘導発電機の風車が多いですから、結局、同期をとるのが難しくなる。そうすると、変電所のところで追加設備が必要だ。そうすると、ある一定比率以上に入ってくると、電力会社の変電所の領域でのシェアでもあるんですけれども、あんまり入ってくると、電力系統の需給バランス、つまり電力の周波数とか、電圧とか、品質維持が難しくなる。
 そこで、ある程度上限があって、北海道電力の場合には15万キロワットまでとにかくやりましょう。これは一定の額で買い上げる。しかし、先ほどいったように、11円何がしキロワットアワー当たりというのは、明らかに補助なんですね。電力の価値に見合っていないので、マーケットに入ってくるときは多分5円ぐらいの価値になるだろう。そこへ持っていく、中間をにらんでいると思うんです。いつまでも11円何がしで買ってやりますということは当然できない。電力会社は今や競争条件にさらされていますし。その中でも今の補助制度を維持しているのは、電力会社がまだ地方の殿様気分が抜けないのかと思うぐらい、随分とジェネラスな導入支援をやっていると私は思います。
 今度10月からは事業用の大きい規模のものについては入札にする。競争を働かせて安くするということをやったわけです。むしろこれが正しいやり方だと私は思います。新エネルギーだから、必ず導入しなきゃいけないというものじゃなくて、いい自然エネルギーを導入していく。競争させて安くさせていくという市場の力を働かせる。この工夫がなければ、単に自然エネルギーが必要だというロマンだけで入れていくという段階ではもうないと私は思います。それなのに一般の人は電力会社は悪いと思っている。私は電力会社はむしろ甘いと思っているぐらいです。

谷口
 ほかにあるいはまだご質問がおありかもしれませんが、予定の時間が参りましたので、きょうはこの辺で終わりたいと思います。きょうは山地先生をお迎えして、お話を伺いました。山地先生、どうもありがとうございました。(拍手)


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