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第154回都市経営フォーラム

世界でいちばん住みたい家

講師:赤池 学 氏
科学技術ジャーナリスト
ユニバーサルデザイン総合研究所長


日付:2000年10月18日(水)
場所:後楽園会館

 

住宅を取り巻く健康・環境問題

バイオリージョン企業の実践例

木を妻として生きる家づくりの時代

工学発想から科学発想への転換を

ユニバーサルデザインが意味するもの

都市再開発とこれから求められるまちづくり

フリーディスカッション



 

 ただいまご紹介にあずかりましたユニバーサルデザイン総合研究所の赤池と申します。
 本日、都市経営に関する日本を代表する有識者の皆様の前でお話しするのは甚だ恐縮ですけれども、私どもの会社が若干かかわっているプロジェクトを含めまして、都市経営に多少なりともかかわるのではないかと思われるいろんな取り組みや、そこから見えてくる次世代のデザインの可能性について、ランダムにお話をさせていただこうと思っております。
 まず、自己紹介をしたいと思います。個人的にはジャーナリストとして技術批評を行うと同時に、ユニバーサルデザイン総合研究所というシンクタンクを経営しております。ただし、研究員はわずかに8名しかおりません。
 なぜ8人でシンクタンクができるかということですが、これはご存じのインターネット等を使いまして、現在10ほどのバーチャルなシンクタンク、研究所をネットワークの中で開設しています。それがきょうのテーマであります次世代の住宅の研究所であったり、次世代のエネルギーの研究所であったり、次世代の農業の研究所であったりします。
 インターネットを利用していますので、国内の研究者や技術者の方だけではなくて、エネルギーあるいは農業技術、住宅、建築にかかわる国内外の研究者やジャーナリストとメーリングリスト等を通じて議論をすることが可能です。
 そうした中で固まってきたテーマ領域別の代替案といったものを一方で設計します。もう一方で、その研究所にリンクしている客員研究員のブレーンの方々のドリームチームをつくります。この両者をセットしまして、企業や自治体に対する構想開発や、バリアフリー製品、ユニバーサルデザイン製品開発のお手伝いをするというのが私どもの事業です。
 2点目は、個人的な自己紹介です。僕自身は中退した大学院の時代まで生物学、特に発生学という、都市設計とは関係のない領域でつたない勉強をしてきました。
 もう1つ、個人的な紹介としてお話し申し上げたいのは、生まれも育ちも、そして現在住んでいるところも東京都大田区の大森という町だということです。実はこの大森の町に生まれ育ったことが、技術ジャーナリスト的な仕事につながっているのかなと感じます。
 ご存じのように、大森は京浜工業地帯の入り口に当たりまして、金型産業を含めた町工場の集積地帯です。テレビゲームのない時代に育ちましたので、友人のおやじやおじいさんがやっている旋盤屋さんやメッキ屋さんで小学校の時代から遊んだ記憶があります。
 1点目は、こうした町工場に象徴される基盤技術や熟練技能と呼ばれるものが、ITではすくい切れない21世紀製造業の重要なもう一方の柱になってくるという問題意識を持っています。
 2点目ですが、まさに都市経営のグランドデザインに基づいて、東京オリンピックに合わせて東京湾の横断道路あるいはモノレールを開発するに当たりまして、当時浅草ノリの養殖のメッカであった大森の養殖業者さんたちが一斉に廃業したわけです。幼い幼稚園時代をたまに思い起こすと、冬の時期に大森海岸の海岸沿いに一面にノリひびが立ち並んでいた美しい光景を思い出すことがあります。
 すなわち、ノリの栽培養殖に象徴される農業技術、1次産業の高度化を短期的には温暖化の問題、中長期的には寒冷化といったことも視野に入れながら、持続可能な地球社会システムを支える食糧の安定調達というシナリオの中で考えざるを得ない。ここの部分を押さえないと、「世界でいちばん住みたい家」も、持続可能な国も地球もでき上がらぬのではないかと思っております。
 そうした問題意識から、ここ最近新しい学会をつくろうという準備を進めております。そのご説明から本日のスピーチを始めさせていただきたいと思っております。



住宅を取り巻く健康・環境問題

(OHP・1)

 実は本日の都市経営にかかわる仲間としては、東大の生産技術研究所で水文学を教えておられる沖大幹助教授も私どもの新しい学会の準備委員になっています。学会の名前はずばり「千年持続学会」であります。皆さんご存じのように、サステイナビリティー、持続可能性ということをここ数年来さまざまなメディアが取り上げるようになりました。今考えるべきことは、一体何をどの時代まで持続させていくのかということについて、さまざまな識者の議論が必要ではないかということであります。
 上のグラフは、ローマクラブが地球社会システムのこれからを模式的に書いたグラフです。再生不能資源とありますのは、石油に象徴される地下のカーボン資源です。20世紀にこれを消費しながら豊かで利便な社会をつくってきたわけであります。
 問題なのは、この再生不可能な地下資源をどんどん使いながら、森林を含めた再生可能な動植物の資源もあわせて減ってしまっているということです。それに逆相関するかのように、インドを含めたアジアの人口は級数的にふえ続けている。そうなると、どうも2020年ぐらいで地球社会システムのパニックが起きてしまうのではないかというのが、ローマクラブが70年代に行った提言であったわけです。
 この問題を千年持続、すなわち紀元3000年までこの人類の地球社会システムをサバイバルさせようと考えたときに、どういう実践を行うべきなのかという1つの考え方をまとめたのが下側のグラフであります。
 まず、再生不能な地下資源の動向ですが、例えば石油については、80年ぐらいで枯渇してしまう。北米の油田については、もっと早い2020年ぐらいに枯渇してしまうのではないかということがいわれ始めています。
 もう1つは、隣国のロシアに大量に存在する天然ガスの資源です。これも今のまま使い続けていくと、持たせて130〜140年ぐらいであろうというのが科学者たちの私見であります。
 もう1つ、日本の近海の底に、ご存じシャーベット状のメタン資源であるメタンハイドレートが埋蔵されています。今後、その利用技術、採掘技術が研究され、使っていくことが予想されるわけです。しかし、これも埋蔵量を考えてみますと、2400年から2500年ぐらいで使い尽くしてしまうのではないかということがいわれているわけです。
 そうしますと、紀元3000年まで地球社会システムを維持するためには、2400年から2500年以降は、地下資源に依存しないさまざまな技術開発や社会システムをつくってこの社会を維持していかざるを得ないということです。
 2点目は、気候環境の問題があります。現在は世界じゅうが温暖化ということについて、理論に基づいたさまざまな対応技術の開発を行っております。しかし、地球自体は、惑星周期の関係などで、長期的には寒冷化の時代に向かっています。
 同じく千年持続学会の準備委員である東工大学の丸山茂徳教授は、2050年ぐらいの段階で、突如気温が4°Cから5°Cと下がってしまう事態を全否定できないと警告しておられます。
 僕もキリバス諸島に行って、海面が上昇して島がまさに沈んでしまう、そうした国々を見てまいりましたけれども、水資源の循環、食糧調達を考えますと、水の循環を活性化させる温暖化というのは、人類生存のためには、メリットもあると思っております。
 ところが逆に、寒冷化が起きてまいりますと、当然水資源は氷という形で大規模に固定されて、それに合わせて砂漠化が極端に進行する。食糧調達が非常に難しくなって、地域的な民族紛争が発生してくる。こうした問題も合わせて1000年持続というものを考えるべきだということです。
 この2つのハードルを乗り越えるために、見えている結論は自明です。なくなってしまう地下資源依存から、再生可能な動植物資源に高度に依存する社会へと転換する。そして、1000年先のために今から準備をしていく取り組みが、多くの科学者、エンジニアに求められているのではないかというのが、私ども千年持続学会を設立しようと思った背景です。
(OHP・2)
 同時に、サンマイクロをおつくりになられた創業者の1人であるビル・ジョイさんが、科学技術の暴走について警告しておられます。近代のさまざまな技術、あるいはこれから多様な投資が行われていくIT関係の技術や、マイクロロボット、ナノテクノロジーといったものを安直に用いますと、まさに人類の生存を脅かすような状況がさまざまに予想されるわけです。
 昨今のヒトゲノムの問題を含めましていろんな微生物や細菌のコンピューター上での設計が可能になってまいります。これをインターネットで世界じゅうにまき散らして、テロリストにつなぐということすら、理論的には可能な時代になってしまいました。
 2点目は、こうした科学技術の再評価と、危険性をきちんと警告して、対応策、代替案を探っていくようなことも千年持続学の研究領域として据えていきたいと考えています。
(OHP・3)
 千年持続学という学会がこれからどんな活動をしていくかということですが、1つは、警告学という活動を行っていこうと思っております。既に、国際基督教大の村上陽一郎先生も安全学、「アンゼノロジー」という学問を提起されておられますけれども、それをさらに半歩進めて、先ほどの寒冷化対策といったことを含めて、それぞれの研究者の研究領域の中で、予想される危機感があれば、積極的にみずからの研究的な指針を持って警告を世界的に与えていく活動をしていきたいと思っております。
 2点目は、国土学です。これは過去行われてきた国土計画学ではなくて、単に警告だけしていてもしようがないので、新しいコミュニティーの実験や社会実証ということをいろんな自治体や中央官庁と組みながら実験をしていく。そこに科学者を含めたNPOや地域の生活者が参画していくような取り組みをどんどん実現していきたいと思っております。
 3つ目は、生命学あるいは再生資源学という言葉で呼んでいるんですけれども、もう一度再生可能な資源を利用する技術をきちんと考えてみようということであります。単純な言葉でいいますと、もう一度植物力、動物力、あるいは養蜂とか養蚕以外で使ってこなかった昆虫資源利用を含めた昆虫力、今後さらなる活用が期待される微生物の力をきちんと研究解析していく。それを具体的な社会システムにつないでいく用途開発の研究を積極的に行っていきたいと思います。
 さらには、生命の中に人間もありますので、先進国が、こうしたサステイナブルな社会をつくるために、価値を変革できるのかという人間力の開発も視野に入れた活動を企図しています。
(OHP・4)
 3番目の生命学ですが、例えば、20世紀産業の象徴である自動車産業の中においても、地下の石油系の資源を用いずに、動植物の素材から自動車部品をつくろうという取り組みが既に始まっております。ベンツに限らず、トヨタ自動車がケナフを利用して、内装部品などをつくっているように、こうした潮流は緩やかに拡大してくると思っています。
 ベンツが動植物素材から部品をつくるといった取り組みをなぜ始めたかということですが、1つは、環境PRです。同時に、アマゾンのベンツの商用車の加工場の自動車部品をつくっている工場で、現地のインディオたちが伝統的につくってきた、例えば、ココナッツのような素材からヘッドレストや、さまざまなシートやドアの内装の機材といったものをつくっていくと、生産コスト的にも見合うものができるということであります。
 3点目は、こうした植物素材が新しい付加価値にもつながっている。1例を挙げますと、ベンツのシートはココナッツや麻の繊維、馬の毛、羊の毛といったもので基材がつくられているわけですけれども、これが乗っていても首の後ろに汗をかかないといった、植物繊維の持つ調湿性由来の快適さを提供している。こうした再生可能な動植物資源は、使い方次第で、石油資源にはない新しい付加価値を付与していくことが可能であるということです。
 そして、最も重要なメリットは、現地の1次産業に直結した形の部品製造が起きますと、その地域に安定的な雇用が生まれて、現在行われている森林の伐採といったことの抑止にもつなげられるということです。
 私どもが考えている生命学とは、こうした再生可能資源を一石二鳥、三鳥、四鳥で利用していくような研究開発を意味しています。
(OHP・5)
 こうした再生可能資源の中で、日本、アジアが注目していくべきは、最も種類も数も多い昆虫という資源です。養蜂の例ですが、ミツバチを飼いながら、現在既にハチミツだけではなくて、そこからロイヤルゼリーやプロポリスといわれる薬効性の生産物の商品化をしています。ハチミツを搾り終わった後のハチの巣も、ビーワックスと呼ばれるろうで、こうしたものを昨今のシックハウス対策を含めて、良質な木材の健康・環境に優しい建物の塗布材といった形で積極利用していく取り組みが、多分次世代にはさまざまにビジネスとして台頭してくるのではないかと思っております。
(OHP・6)
 昆虫資源の2つ目の事例ですが、シルクであります。ご存じのように、服飾に用いるシルク自体は、アジアからの非常に安い絹糸のおかげで国内の蚕糸産業は、どんどん市場規模を縮小しております。
 ところが、ここ最近シルクについて、2つの画期的な機能性が明らかになってきました。1つは、紫外線を効率的にカットしてしまう。紫外線を防除する機能があるということがわかってきました。養蚕に用いられている家蚕と呼ばれるイエカイコですが、皮膚のしわを起こしてしまう比較的波長の緩やかな紫外線Aを完全にカットします。
 もう1つ、日本が伝統的に使ってきたヤママユガと呼ばれる天蚕のマユの場合は、皮膚にしみを起こさせる非常に鋭い波長の紫外線Bも完全にカットしてしまうことがわかっております。
 シルク1つをとっても、紫外線に対する機能性を生かし、皮膚ガン予防あるいはシミ、ソバカス予防の化粧品といったものに製品開発できると同時に、良質な家づくりのための建材としても利用していく。複層化した断熱ガラスの中にこうしたシルクからつくったシートを挟み込んでいくといった、次世代型の再生可能資源依存の良質な建材開発といったものにそのままつなげていけるのです。
 2つ目の機能は、シルクを粉にして、そのパウダーを飲むと、脂肪肝が治ってしまうのではないかということが、東京農大の研究でわかり始めています。中性脂肪の代謝を効率的に促進する物理的な構造を持っているらしいのです。こうした機能に着目すると、僕もお酒が好きですが、脂肪肝予防の薬剤あるいは健康食品といった開発にも、シルクの可能性があるということであります。
 同じように、昆虫資源にかかわらず、私どもが知ったつもりになっていたいろんな植物や動物や昆虫の生産物というものの本質研究を今まさにきちんと行い、それをさまざまな20世紀的な問題のオールタナティブとして活用していくことが求められてくると思っております。



バイオリージョン企業の実践例

(OHP・7)
 千年持続学の原論をお話しさせていただきましたが、そろそろメインテーマである「世界でいちばん住みたい家」についてお話を広げていきたいと思います。
 「サステイナブル庄助さんの庵」という名前をつけた住宅のモデルハウスがあります。4月にリニューアルされた東京新宿のパークタワーにあります東京ガスのショールームの2階にこの建物が実際に建っています。これは、東京ガスが、50プラスという加齢者対応住宅の21世紀モデルを実際に建ててみようというプロジェクトの1つです。
 「サステイナブル庄助さん」というキーワードですが、サステイナブルは、持続可能性、いわゆるエコデザインに配慮した家づくりです。「庄助さん」はご存じの「朝寝、朝酒、朝湯」の大好きな小原庄助さんのことです。こういうライフスタイルを持たれた方が次世代の持続可能性に着目したときにどんな家があり得るのかという1つのモデルをつくってみました。
 基本的には、日本で調達可能な、あまり高額でない木材の木質系の素材を多用して家をつくっています。例えば、ネズコの黒ヒノキで、ここはちょっとお金をかけてみました。露天風呂の横にはハチの巣箱を置いています。これは新しい都市のホビーとして日本ミチバツの養蜂をやってみないかという提案であると同時に、先ほどお話ししましたように、ミツバチがつくる巣はビーワックス、蜜ろうとして利用できますので、蜜ろう仕上げで家をつくってみました。
 これだけお話しすると、昔の日本的な在来の家づくりを回顧した提案であるのかと誤解されがちなんですが、ポイントは、再生可能な資源、建材を多用する裏側に、燃料電池のコージェネレーションシステムを含めた次世代のリビング技術が隠れているのです。
 燃料電池が、自動車メーカーの実用化研究に伴って普及してまいりますと、次の段階で確実に事業系のホテルやオフィスビル、マンションを経由して一般住宅の中にも入ってくるのではないかと考えております。
 先ほど申し上げたネズコの露天風呂のようなものも、現在の大規模、集中型の発電、電源に依存した場合は、高コストで不可能ですが、燃料電池が家に入ってきて、自家発電を行い、同時に50°Cぐらいの排熱を利用して、それをそのまま給湯や入浴につないでいくと、実はご家庭で露天風呂のある暮らしが実現する。これが21世紀の「世界でいちばん住みたい家」の成果の一例です。
(OHP・8)
 改めてお話しするまでもなく、シックハウス症候群、化学物質過敏症という問題は、多くの生活者が知るところとなりました。もともとはダニ、カビといった動物性のアレルゲンに依存したアレルギーから、さまざまな化学建材による被曝を通じて、今子供たちの3人に1人、ここ最近は2.5人に1人がアトピー性皮膚炎やぜんそくといったアレルギー疾患にかかっています。
 例えば、過去防虫畳として畳にしみていた有機燐系の農薬といったものが、一方で学校給食のパンの中に必ず入っている、あるいはホルマリン、ホルムアルデヒド系の物質も養殖の魚を通して子供たちが口にしている、家と食の両面でこうした化学物質被害といったものを起こしてしまった。これは何らかの形で可及的速やかな対応策をとらざるを得ませんし、逆にこうした問題にリアルになった生活者がふえてきた現状では、これが大きなビジネスの付加価値になるということであります。
(OHP・9)
 庄助さんの家ではイナックスが開発しておられるセラミック、エコカラットと呼ばれる、自然にある土からつくった建材を、いろんなエクステリアや浴室のタイルなどに使っております。その下には、コールドショック対応のための床暖房がもぐり込んでいるといった設計です。
(OHP・10)
 庄助さんの家づくりでもう1つこだわった建材が、アジア共通の木材資源である竹です。竹は、高級旅館やお茶室をつくるときに使われてきた建材です。今回の住宅では、竹を集成加工した修正材をいろんな場所に使っております。竹はもちろん導管がたくさん入っておりますので、水回りには使えませんが、竹の修正材は、いろんな造作材等に有効利用することができます。
 ちなみに、この竹の修正材は、新潟の建材メーカーさんの商品を利用させていただきましたが、非常に象徴的なのは、昨年の12月に開かれた第1回のエコプロダク展で、松下のブースがそちらのメーカーの竹の修正材でつくったエコスピーカーを出展されました。
 竹1つとっても、良質な建材に利用できると同時に、こうした音響に対する機能性を含めてさまざまな用途開発があり得るということです。
(OHP・11)
 3つ目は、日本の住宅業界が伝統的に使ってきた建材だけではなくて、日本が守り育ててきた工法を、きちんと科学の目を入れて再評価するような取り組みが求められているのではないかということです。
 シックハウスの原因の1つは、さまざまな化学建材です。2点目は、壁の中に防湿フィルムや、機密パッキングを入れてという高断熱、高機密の住宅をよしとする政策の中にも、僕は大きな落とし穴があったのではないかと思っております。高断熱、高機密住宅は、ひどい例えをするならば、化学物質で満たされたビニールハウスやペットボトルのような家なのです。そこで、エネルギーを使って24時間の強制換気をする。この仕組みそのものを、第3の解といった形で代替していくことが望まれると思っております。



木を妻として生きる家づくりの時代

(OHP・12)
 北海道に「木の城たいせつ」という、北海道の道産材を100%使って100年の耐久性を保障する軸組みの木造住宅を供給しているメーカーがあります。
 ここがハーバード大学の研究者と組んで、日本の在来工法と空気環境の問題を研究させました。結論から申し上げると、熟練技能を持つ職人たちの手わざで、ホゾ切りを行っていく、そこに壁材を立てて、あるいはご丁寧にはば木を添えていく。こうした加工の結果、複雑に屈折した細い空気の気道が確保される。これが湿度との関係で、室内の空気の入れかえに貢献している可能性があるという研究論文を、ハーバードの研究者の方に出させたわけです。
 こうした職人の加工技術にどのような機能性や可能性があるのかという面を、もう一度建築の専門家だけでなくエネルギーや湿度の専門家と議論しながら、良質な健康・環境住宅のオールタナティブをつくっていく取り組みが求められてくると思っております。
 同時に、この「木の城たいせつ」という企業は、ゼロエミッションという、廃棄物の有効利用を具体的な形にして家を建てております。もともと100年を自社保障する木造住宅ですが、坪45万円から供給されています。それは、すべての建材設備をわずか7回のコンテナで現地、施工現場に運んでしまうロジスティックスの開発と未利用材や小径木を修成加工して、独自の技術を用いて構造材に変えてしまうプラント設計です。
 同社に、加工時に出てくるさまざまなバイオマスを有効利用して、熱源やキノコ栽培の菌床に利用している。あるいは中空材の中にこのバイオマスの粉炭を充てんして機能材として利用していく。もっと大きな材については、(OHP・13)家具、収納に加工し供給しているわけです。ちなみに、つくりつけ家具は実は耐震設計にもなっています。
 伝統的な工法のもたらす空気環境の問題をさらに推し進めてみると、日本の中のあまたある住宅は、基本的には本州の気候に合わせた仕様になっていることがわかります。しかし、九州あるいは沖縄といった亜熱帯の地域に合理的な、環境健康住宅というスタンダードがあり得るはずです。
(OHP・14)
 こうした亜熱帯仕様の住宅のスタンダードについては、多くの研究者が問題意識を持って取り組んでいないように思われます。加藤先生は、そういう意味では外気の空気を効率的に取り込むといったことを含めて、高断熱、高機密ではない、亜熱帯型の第3の解を探ろうとしておられるわけで、こうした研究をきちんとやっていくと、沖縄、台湾、アジア諸国に対するグローバルなデファクトスタンダードとしての住宅供給といったことに発展させることも不可能ではないと思っております。
(OHP・15)
 ここで燃料電池に触れます。次世代の良質な住宅を考えるときに、そのエネルギーをどのように調達をし、デザインをしていくかということが重要なメインテーマになるわけです。現在、燃料電池は、ダイムラー、トヨタ、あるいはアメリカのカーメーカーを含めて世界じゅうの企業が、低コストで高効率の燃料電池の実用化開発といったことを今まさに水面下で進めています。
 新聞等でご存じのように、ダイムラー・ベンツはことしの4月に2002年に燃料電池を載せたバスを一般販売すると公言しています。あるいは2003年には、7万台ぐらいの規模で燃料電池を載せて走る一般の乗用車を売ろうと発言されているわけです。
 これは日本の、例えばホンダさんでありますとか、海外のメーカーについても、ほぼ同時期に燃料電池の自動車といったものを市場に押し出そうということをいっておられるわけです。
 この燃料電池ですが、先ほどお話し申し上げましたように、電熱併用というコジェネレーション的な利用ができるというところが非常に大きなポイントであります。
 先ほど、排熱を利用して露天風呂をというお話をしましたが、これも多くの方がご存じのように、ガス事業者さんを含めて住宅用の小型の燃料電池のコジェネシステムというものがさまざまに試作されてきているわけです。
 次世代はこうした燃料電池のシステムサイドをどんどん高度化すると同時に、一番の問題は、この燃料電池にどの燃料を用いるかというデザインであります。水素をそのままタンクとして自動車や住宅の中に持ち込むのか。あるいは都市ガスのネットワークを発展させて、天然ガスの中から改質してとっていくのか。あるいはバイオマスをアルコールに変えて、そこからまた水素を改質してくるのか。さらには、シクロヘキサンのような石油と同じように常温で利用できる有機ハイドレードを使っていくのか。きょうお集まりの皆さん、あるいは日本の国土建設省といわれる官僚の方々が、日本の国策として燃料のデザイン、あるいはそれに基づく基盤開発ということに、今まさに着手すべき時代を迎えていると感じます。
 同時に、燃料電池が普及してまいりますと、電流を直流で送電していくような基盤整備も確実に求められてくるような気がいたします。
 今、環境破壊の問題を含めて、新しい都市経営、都市開発、土木開発に後ろ向きの風が吹いていますが、僕自身は逆だと思っていまして、今こそ次世代型のさまざまな基盤開発の実験をきちんと行っていくべき時代だと思っております。
(OHP・16)
 実は、この燃料電池に関連しまして、愛知県は今、中部国際空港の対岸である常滑市に「プロトンアイランド構想」という新しい発想のテクノパークの開発を進めております。2005年までに核になる施設を段階的につくっていく計画です。
 このプロトンは水素エネルギーを象徴する陽子と、アイランドは島であります。お察しのいい方はすぐにお気づきになられたと思うんですけれども、エネルギーのシリコンバレーを愛知県につくろうというのが、この構想の一番の柱です。エネルギーの問題は、日本に限らず、中国、アジア諸国にとっても非常に重要な問題であります。
 シリコンバレーが海外の良質な科学者をそこに集積させたように、エネルギーあるいは燃料に関連する良質な人材を呼び寄せる蜜源といった形の発展が期待できるのではないかと思っているわけです。
(OHP・17)
 このプロトンアイランドですが、A地域とB地域に分かれています。A地域はさまざまな燃料電池の実用化開発を、例えば愛知県のいろんな中小企業を参画させながら、高度化をしていく。あわせて燃料電池につないでいくさまざまな燃料の媒体に関する研究を行うという研究ゾーンです。
 B地域の方では、そこで研究された成果を住宅地域や工場地域につなぎ、それを評価して社会実証していこうという新しいまちづくりの実験を行おうというものです。
 こうした燃料電池絡みの次世代エネルギーテクノパークは、愛知県でやるよりも北海道あたりでドーンとやってしまった方がいい。既に燃料電池と関連して、ロシアの天然ガスを利用するためにアジアパイプラインの構想が動いていることは、皆さんご存じだと思います。こうしたものを北海道のエリアにつないでしまおうじゃないか。JRと北海道電力、ガス事業者がある種のコンソーシアムをつくって、北海道の中でカラフト、ロシアと連結したような新しい次世代エネルギーのまちづくりを、今まさに実践すべきタイミングに来ていると思っています。
(OHP・18)
 こうした新しい考え方に基づくまちの中にも、集合住宅やオフィスビル、病院が建っているわけです。これは昨年出版させていただいた『日本のマンションにひそむ史上最大のミステーク』という、中高層のコンクリート住宅の断熱工法に素人目で見ても問題があるのではないかという提言書です。
 現在あまたあるコンクリートの住宅でコンクリートの躯体を外部にさらしながら、居室側に発泡ウレタン等で内側に断熱するという工法を採用してきたわけです。これは冬ともなれば、コンクリートの躯体は当然冷えてしまう。あるいは地震対策を含めて、はりが深く盛り込んだバルコニーのヒートブリッジの現象を通じて、どんどん外気温がコンクリートに伝えられていく。
 一方、内側ではがんがん暖房をかけていきますと、断熱材の中をもぐり込んだ水蒸気がその裏側で結露するというのは、理科理論的に見て至極当たり前のことではないか。ここにダニ、カビが発生して、それが先ほど申し上げたシックハウスといったものにつながってくる。集合住宅やオフィスビルのこうした工法も、もう一度、欧米が行っているような建物の外側に、ロックウール、ミネラルウールの断熱材を用いてつくるような工法の評価を、今まさにきちんと行っていくべきではないかと感じています。
 もう一度コンクリート住宅のあるべき姿を探り、外断熱が省エネ的に見ても合理的であるならば、地震大国の日本で、地震時にも欠落しないような断熱材の、とめ方の技術、あるいはヒートブリッジを起こさせないためのいろんな建材の開発といったことも、異分野の識者を集めて考えてもらえないかと思っているわけです。
(OHP・19)
 今の外断熱ですが、この本を書いてから大手のゼネコンさんがしょちゅう私どもの研究所に足を運んでくれるようになりました。
 これは現実問題として、施主の方々が私の本を読み、外断熱で建ててくれというオーダーがふえているからだというお話をさまざまな方から直に聞いたわけです。
 今まさに高齢化の時代をかんがみて、特養の老人ホームや介護系の施設がつくられていますが、こうした結露、カビが直接的に被害を与えるのは、弱者である高齢者あるいは病人の方々なわけです。
 こうした公共施設系から次世代の集合住宅モデルといったオールタナティブをつくって、社会に説いていくことが、僕は重要ではないかと思います。
 2つ目は、バリアフリーというと、ともすると、障害者、お年寄りばかりに目が向きがちですが、最も弱者であるのは子供たちです。子供たちが学んでいく学校の建物についても、最先端の環境配慮、健康配慮が盛り込まれるべきではないでしょうか。
(OHP・20)
 こうしたお話と関連して、うまく実験すると成功するという例が、北海道の帯広にあります。北海道ホテルは大理石やスチール、ガラスを用いたアメリカンスタイルのホテルではなくて、地元十勝の土を焼いてつくったレンガで内外装をつくっている。あるいは、北海道にたくさんあるカラマツを含めた針葉樹系の木材でつくっているという地域の土と木でつくったホテルであります。
 これは心理的な面でも日本人の感性に非常に合っている。あるいは、木材や土のレンガが持つ調湿作用で、ホテルに泊まっていても非常に高い心地よさを感じることができます。経営的にも、レンガがむき出しになっている、それが蓄熱効果を持って省エネ的にもメリットがある。同種の実験をさまざまに行ってもらいたいと思っているわけです。



工学発想から科学発想への転換を

 こうした問題と関連して、建築廃棄物の処理問題があります。これは現状でも埋立処分場が少ないという状況の中で、膨大な廃棄物をどう処理していくのかということです。私自身の直観なんですが、やり方は2つしかないと思っております。膨大量の建築廃棄物を、1つは道路をごみ捨て場にして回収していく。2点目は、先ほどロックウールや建材のお話をしましたけれども、こうした建築系の廃棄物をもう一度再建材化して、住宅を建築廃材のごみ捨て場にしていくといった大胆な施策が求められてくると思っております。
 そうした時代をかんがみて、関西電力ではエルファームというベンチャー企業をつくりました。これは関西電力さんがこれまでつくってこられた水力発電、電源関連のダムの水の上には大量に流されて浮かんでくる流木があります。今までこの流木の処理に当然コストをかけていたわけですけれども、エルファームが昨年から始めた事業は、この流木を回収して、地域の水系の畜産業者の敷きわらに使っていこうじゃないか。あるいは農業者の土壌改良材に使っていこうじゃないか。こうした流木という廃棄物の再資源化の事業を立ち上げました。
 今度は水の中を見てみると、良質な砂がたまっているわけです。海砂をまぜてつくったコンクリートのとんでもない崩落といった報道があったように、次世代はますます良質な砂といったもののニーズがふえていく。過去はこれを業者に任せてしゅんせつ処理してきたわけですが、これをさまざまな蓄熱材や床材、あるいは漁業地域であるなら、漁礁といったものに真空成形の技術や蒸し焼き固化の技術を使って建材化していこうという事業を今年から始めてきました。
 21世紀は、こうした関電さんの環境事業に象徴されるように、廃棄物をさまざまな意味で再原料化して、社会基盤につなぎ直していく取り組みというものが注目されてくるようになるのではないかと思っています。
(OHP・22)
 多くの企業は今、さまざまなゼロエミッションのための技術開発を行っています。その1つに、荏原製作所ゼロエミッション事業本部が行っているさまざまな環境関連技術があります。廃棄物をさまざまな技術を経由させて、再原料化したり、新しいアグリビジネスにつなげようという取り組みです。
 例えば、家畜のふんは農業3法で適正処理をせざるを得ない。であるなら、これをメタン発酵させて、そこからバイオエネルギーをつくるといったことが確実に求められてきていますし、東大の研究でも、食料バイオエネルギーは、風力や太陽光発電よりもずっと実現性の高い技術だということがいわれ始めています。
 さらに、メタン発酵装置1つとっても、廃液の中には燐やカリがまだゴチャマンと入っている。であるなら、この廃液を濃縮して、液肥化して、これを節水型の点滴水耕栽培といったものにつなぎ直していくこと。荏原製作所の場合には、既に中国でこのシステムの実証実験をしています。
 次世代は、その地域の地政学、あるいは地域から出てくる産業系の廃棄物、そうしたものをさまざまな技術を用いて地域ごとに、ゼロエミッションの仕組みとしてデザインしていくような時代になってくるのかなと思っております。
(OHP・23)
 このような考え方を進めていきますと、冒頭で述べました再生可能な動植物資源の再評価、縄文時代、江戸時代の循環の知恵を知新の形に翻訳し直した形の循環システムの開発が、これからさまざまに実験されてくるような気がします。
(OHP・24)
 日本の森林は、ご存じのように、林業従事者の高齢化、後継者不足といった形でどんどん衰退しております。
 ところが、先ほどの「木の城たいせつ」のように、森林資源を再資源化していくようなやり方を過去の日本人は持っていました。
 先ほども申し上げましたように、土壌の改良材ですとか、堆肥をつくるための良質なボカシとしてこうしたものを使っていく。あるいは、これは既に北海道の下川町の森林組合が大分以前に商品化しましたが、例えば製材組合から出てくる木材の木くずを炭にしてみようじゃないか。その粉炭を床下の調湿材に利用していこうといったことが既にちゃんと成り立つビジネスとして動いてきているわけです。
 もう1つ、機能性開発ということでは、下川町で昨年から研究しておりますのは、いろんな木材の精油成分を機能材として商品化しようという研究の取り組みがあります。ご存じのように、ヒバの中に入っているヒノキチオールと呼ばれる精油が既に商品化されているように、北海道にあまたあるカラマツにも覚醒作用を持っている精油の成分がある。こうしたものを商品化するために、新しい有機化学の研究者を組合が雇用しながら、研究開発、商品化するような取り組みが求められているわけです。
 こうした森林資源の循環システムを設計しますと、また冒頭に戻って、良質な国内の木材を用いた健康・環境住宅がつくれる基盤づくりに直結していくのであります。
 ともすれば、林を守ろうとすると、木を守れというところに傾斜しがちですが、逆に森林由来のさまざまなバイオマスにお金をつけて、林業従事者の経営意欲がどんどんわいてくるような状況をデザインしていかない限り、林業も衰退してしまいます。林業が衰退すれば、当然森林伐採を含めて、栄養塩の調達不足が緩やかに地域の農業に影響を与えてくるわけです。
 今求められている環境対策は、廃棄物の適正処理、あるいはコストもかかって、大半が回らないリサイクルといったことに時間や労力を割くのではなくて、もう一度大きな大循環の中で新しい価値をさまざまに生み出していくような取り組みを、指導的な立場にある中央官庁や大企業のエンジニアの方々に実現していただきたいと思っているわけです。



ユニバーサルデザインが意味するもの

(OHP・25)
 ここからユニバーサルデザインについてお話をしたいと思います。ユニバーサルデザインは、この1〜2年どんどんブームになっております。それもつい3年前までエコデザイン、エコデザインといっておられた企業や自治体の方が、ここに来て、皆さん、ユニバーサルデザインに基づく地域開発や製品開発といったことに注目してこられるようになりました。
 ユニバーサルデザインは、アメリカの障害者法の整備が契機となって生まれた「バリアフリー」が母体となっています。このバリアフリーデザインというものがアメリカの産業市場を席巻した段階で、ともすれば、障害者用の産品開発、あるいは加齢者対応の物づくりに傾斜してしまった。それに対する反省で、もう一度健常者や子供たちを含めて多くの人たちが使って、さまざまなメリットが考えられる物づくり、まちづくりというところで、このユニバーサルデザインの考え方がアメリカから提起されてきたわけです。
(OHP・26)
 さまざまな楽な姿勢と可動性への配慮、だれもが見易い表示と表現、簡単で理解し易い使用方法、安全、安心への心配り、五感を駆使した新しい造型、こうしたユニバーサルデザインの基本的な概念は、次世代のまちづくりや家づくりの中に、必ず求められてくるはずです。
 ユニバーサルデザインは今、バリアフリーデザインの発展概念としてとらえられ、日本で共用品という形で訳されてきています。しかし、ともに用いる共用品であるなら、今生きている人だけではなくて、まだ見ぬ未来の子孫たちとも共用していくという、エコデザインあるいはサステイナビリティーデザインが、実はユニバーサルデザインの外せない柱なんだということを、過去5年間私どもの会社はいい続けてきたわけです。
 私どもが考えるユニバーサルデザインの10の要件を挙げさせていただきました。1番は、安全性、接しやすさ、使い勝手。4番目は、ホスピタリティーという考え方です。技術やシステムに依存しなくても、生活者や利用者に不安を与えないような取り組み、無形の品質への配慮などがさまざまに存在するはずです。
 例えば、お年寄りの方は、プッシュホン電話よりもダイヤル式の電話を使っていた時代が長い。であるなら、合理的ではないにしても、生活者の記憶に立ち戻ったようなユニバーサルなデザインというものがさまざまにあるのではないかと感じています。
 5番目は、価格の妥当性です。これは共用品開発の中でも重要な要件として挙げられています。
 6つ目が、今申し上げましたエコ的な配慮、持続可能性というものをきちんと考えた物づくり、まちづくりを行うということです。
 このように非常に多くの人が使いやすくて、まだ見ぬ未来のためのエコデザインまでを考慮するとなると、ある日突然究極のユニバーサルデザイン製品ができ上がるはずがないわけです。
 であるなら、7番目の拡張性のデザインということが非常に重要であることをコンサルティングを行う中で位置づけてきました。住宅で例えますと、ミサワホームの太陽光発電を躯体につけられた、ゼロエネルギー的な実験住宅がありますが、先ほどお話ししたように、自動車を経由して住宅の中に燃料電池が入ってくるとしたら、100年住宅を標榜しておられるミサワホームさんは、この燃料電池が飛び込んできても、それをキャッチアップできるような拡張性を持った家づくりのモデルといったものをつくっていかれるべきだと思っております。
 こうした拡張性を考えると、おのずと次の参画性のデザインということが重要になってまいります。健常者のために設計開発したものをお年寄りや障害者や子供たちに使わせてみて、精査をするといった参画であると同時に、例えば、住宅のシステム1つをとっても、どういうエネルギーの発電のシステムがあるんですか、それと、住宅の中に入ってくるさまざまな家電製品がどのような調和的な連携を持っているんですかという、大きな調和性のデザインを求めざるを得ない。
 であるなら、次世代の住宅づくりでは、住宅メーカーや家電のメーカーが積極的に参画していくような家づくりのスタンダードづくりが実験されてくるのではないかと思っております。
 そこにエコロジカルであってもチャーミングでなければいけないように、審美性のデザインを加えるべきなのです。
 そして、10番目です。ユニバーサルデザインの製品開発を指導していくに当たって一番強調してきたそれは、日本的価値です。多くの人たちが共用してメリットを感じられる物づくり、まちづくりは、当然利用する地域の風土や歴史や文化といったものときちんと連結してなければいけない。地域的な価値、日本でいうなら日本的な価値を今きちんと考えていくことが、日本人にとってのユニバーサルな物づくり、まちづくりのポイントだと思っております。
(OHP・27)
 では、どんなものがユニバーサルデザインなのか。例えば、手をたたくと、その波長で音が鳴るキーホルダーがあります。前日二日酔いでかぎをどこに置いたかわからないときに、朝出がけに手をパンパンとたたくと、どこかに置き忘れたかぎがちゃんと音を発してくれて、ありかを教えてくれるような、これはユニバーサルデザインの1例であります。
(OHP・28)
 現在私たちのグループが試作をしたユニバーサルプロダクトがあります。障害を持たれた知人の作家が苦労してパソコンで日本語で小説を書いておられた。それを見た東大の院生が日本語入力に適した入力機というものがあり得るのではないかというところから試作開発が始まったわけです。
 これは単純に見ていただくと、ゲームの操作端末に酷似しているというところが1つのポイントであります。
(OHP・29)
 どういうメカニズムで日本語を入力するかということですが、語列の配置がアカサタナハマヤラワンという、50音にシフトしている。簡単に操作を申し上げると、最初はアカサタナハマヤラワと並んでいて、アをクリックすると、アイウエオアイウエオになります。イを押したいときはア行のキーを押して、次にアイウエオになったイのキーを押すとイが打てる。簡単にいうと、すべての日本語がダブルクリックで入力ができるということ。現在iモード等を使っておられる方が、日本語入力をモバイル端末で行うと非常に手間がかかることを体感されておられると思います。日本語に特化したこうした入力のシステムのフォーマットをつくりますと、もしかすると、iモードの入力の端末のキー配列に登録していくかもしれません。
 先ほどお話しした日本的な価値を核に据えたユニバーサルデザインを考えていくと、こうした今までになかったモデルの開発が可能になるという1例です。
(OHP・30)
 もう1つ、サステイナブルデザインにかかわったユニバーサル製品をご紹介したいと思います。
 これも知人の岐阜の建材メーカーがおつくりになられた畳です。従来の畳は、ご存じのようにわら床の畳だったわけですけれども、これは床の部分にヒノキの樹皮や廃材をわら床がわりに使ってつくった畳です。先ほど申し上げましたように、有機燐系の農薬を充てんしている防虫畳が市場に出回っていた時代があったわけですが、化学物質を使わなくても、ヒノキの持っている天然の抗菌、防虫の効果を利用してシックハウスを代替した健康畳というものが形になるという例であります。
 これは林業者の立場から見ると、ヒノキの廃材は、もともと抗菌効果を持っているため、土の中に埋めても、微生物が自然分解してくれない、そこで灯油をかけて燃やすような処理が事実行われてきたわけです。逆にいうと、ヒノキの林業者にとっては、そうしたヒノキの廃材が有価物に変わっていく。生活者にとっては、それを用いたこうした良質な畳を出していただけると、健康被害といったものを抑止してもらえる。ヒノキの健康畳はまさにサステイナビリティーというものを考え込んだ未来の子孫たちと共用できるユニバーサル製品の1つと評価をしております。
(OHP・31)
 こういう考え方で、これからのまちづくりに話を広げていきたいと思います。これまではバリアフリー住宅、あるいはユニバーサル住宅といったときに、ともすれば、段差のない転ばない家をつくろうじゃないかとか、あるいはお年寄りのために照明の照度を上げようじゃないかという、直言いたしますと、工学発想だけに基づいたバリアフリー製品、ユニバーサルデザインの製品がほとんどでした。しかし、これからは異分野の科学の目が入った総合科学に基づくユニバーサルデザイン、バリアフリーデザインをぜひ考えていただきたいと思っております。
 先ほど気候環境のお話をしましたけれども、現在ドイツなども、同じように健康・環境住宅のスタンダードをつくる審議会が開かれているわけです。がく然としましたのは、そこにはエネルギーの経済学者であるとか、生物学者、微生物学者がきちんと入っておられました。日本でいうところの建築家の先生のような方が末席におられ、異分野の科学者たちが次世代の家づくりや都市づくりについて議論をしているのです。
 日本もそろそろ建築家先生と建築工学の識者の方だけではなくて、そこに新しい科学の目を入れて未来のことを考えていくようなボードづくりをあわせて考えてもらいたいということです。

 

 これからのまちづくりを考えるときの重要なテーマに、新しいエネルギーデザインに基づく自動車やモビリティーの開発があります。
 2点目は、さまざまな意味でITSという言葉に内包されるものですが、例えばトヨタが、クレヨンのシステムで実証されているように、カープーリングのシステム、個人で乗るマイカーではなく、みんなでシェアをしていくアワカーをつくっていこうという地域のITSの実験が既に形になっております。
 こうした取り組みが、これからの21世紀はいろんな地域の中で生まれてくる時代になってくると思っております。
(OHP・32)
 同じように、ITSが最も効いてくるのは、搬送、物流の商用車の世界のコントロールです。これも既にドイツが実験しているんですが、町の中には一般のトラックは入れるのはやめましょう。そのかわり都市の周辺部分に大きな物流配送センターがあって、そこにいろんな列車や大型のトラックで荷物が運ばれてきます。それを同じフォーマットのミニバスに全部積みかえて、そのミニバスのみが都市の中のお店に物を運べるというシステムが形になっています。
 これからの土木開発を考えたときにも、従来のように自動車優先型の道路の設計をこのまま未来も続けていくのか。あるいは歩道橋もつくり続けるのか、ガードレールのない町みたいなものがつくれはしまいかということを、今まさに議論するタイミングに来ているのかなと思います。
 そうした問題と合わせて、既にベンツのAクラスやトヨタのヴィッツが事実生活者から少なからず支持を受けているように、もう一度、過去のステータス性のみで売っていく自動車でなくて、都市の中を走るコンパクトカーのさまざまな次世代的な実験が行われてしかるべきなのかと思っています。
(OHP・33)
 以前にデンマークのオールフスというコペンハーゲンに次ぐ第2の都市を取材に行きました。これは93年に都市の中心部から自動車を排除してしまおう。自転車と歩行者しか動き回れない町をつくろうよということで、わずか3年後には市の7〜8割を自転車都市に変えてしまったという非常にユニークなまちづくりの先行事例です。
 これは単純に車道と歩道の段差を埋めるだけ。もちろん自転車のためのプーリングの仕組みをつくっているんですけれども、事実過去は4車線で車がガンガン走っていた道路が、今は本当に歩行者と自転車が走っている。あるいはそれまで道路にしていた暗渠をはがして、もう一度、船による水上交通を復活させるといったまちづくりが形になっているわけです。
 私が住んでいる東京の大田区の大森には、馬込文士村が背景に控えており、昭和の時代から続いた古い商店街が駅前通りとして形になっています。その周辺を見ると、環7あるいは第2京浜国道が囲んでいます。
 こうしたエリアの中での自転車都市的な実験、あるいは商店街程度の小さな規模での実験も、これからさまざまに地域が採用していくのではないかなと感じているわけです。
(OHP・34)
 こうした考え方は、夢物語ではないという1つの事例です。2005年までに豊田市とトヨタ自動車が、豊田市駅前の再開発を行おうという計画を現在進めておられます。この開発の基本構想の策定のお手伝いを私どもの研究所がやっていますが、次世代型の都市開発、特にこれはトヨタ自動車との関連で、私どもが提示したのが、トヨタが次世代のまちづくりに貢献するために持っている5つの技術シーズです。
 トヨタは豊田市の郊外に「トヨタの森」という里山復興の実験場を持っております。既にさまざまな樹種層の復元や、これからはさまざまなバイオ発電を含めたバイオマスの高度循環利用の実験を進めていくということもやっておられます。
 2点目は、先ほどベンツが植物素材から部品をつくるというお話をさせていただきましたが、トヨタさんもしっかりバイオ研究をやっておられます。
 であるなら、このトヨタの森で蓄積したいろんなスキル、あるいはバイオテクノロジーを都市に展開しようとすると、当然新しいまちづくりの中にこうした里山や樹木の復興といったものに使えます。あるいは2番目のアグリの技術については、私どもはアグリロードという考え方を提案しています。例えば道路の周辺部に菜園や果樹園みたいなものが並んでいるような新しい動線の設計も、トヨタの技術を使いながら形にできるのではないかということであります。
 3点目は、新しい住関連の技術です。これは繰り返しになりますが、良質な燃料電池をつくっていくと、当然住宅に移っていくだろうと思います。既にトヨタホームという住宅事業部を持っているわけで、この高効率で低コストな燃料電池の仕組みをまちづくりに反映しない手はないねということです。
 新しいまちづくりについては、後ほどご紹介したいと思いますが、アンテナ型の店舗、アンテナ型のショップというものが重要なわけです。あるいは滞在型のエコ店といったものもつくらなければいけない。そのときにトヨタが持っている燃料電池、コジェネの技術をあわせてそこに設定していくのがまちづくりに考えられますねということです。
 4番目は、後段でお話ししたいと思いますが、良質な「世界でいちばん住みたい家」を考えるのは、箱物としての健康・環境住宅だけではなく、その家から始まる暮らしそのものがエコロジカルなデザインに基づいているべきだと考えたわけです。
 こうして考えると、トヨタはトヨタ生協という良質な食のネットワークを既に組織化しておられます。であるなら、新しい町の中心部に、例えば大きな次世代型のバザール、市場といったものを設計しながら、こうしたトヨタ生協のネットワーク、あるいは愛知県内外の有機農業を行っている農業者とリンクを組みながら、新しい町の生活者に対して良質な食材を供給していくような社会基盤、あるいはソフトなネットワークづくりを進めるべきではないかということであります。
 5番目は、新しいまちづくりでは、当然昼間の人口の確保、消費の確保ということが重要になってまいりますので、やはり学校は要るだろうということであります。この学校についても、既に豊田工業大学でありますとか、良質なサプライヤーであるデンソーさんのデンソー技術技能大学校といった、基盤技術や熟練技能をきっちり教えるスキルを、あるいは人材を既に確保しておられるわけです。
 既にアメリカはITの時代を終えて、バイオプロセスの研究開発をしている時期だけに、逆にITが進んでもなお残り続けるこうした基盤技術の高度な基本教育のための教育拠点を、新しいまちづくりの中に置いたらどうかという考え方で、今全体設計をデザインしている状況です。
 トヨタの取り組み1つとっても、先ほどのデンマークの例のように、ウォーカブルシティーという自動車が入ってこない新しい町のあり方が検討されています。それを自動車メーカーが提示したいというところが、この開発構想の重要さです。逆にいうと、車の入ってこれないウォーカブルな中心地の周辺に、例えばアグリロードの農業を行うための、あるいはつくった作物を家に運ぶための新しい交通システムの実験、あるいはスポーツファーミングといった新しい農業を楽しむ人たちのための新しい自動車のモデルづくりといったことを、こうしたまちづくりとあわせて行っていこうじゃないかということを検討されているわけです。
(OHP・35)
 こうしたアグリロードと関連して、世界じゅうでエコビレッジというエコロジカルな循環型のまちづくり、あるいは次世代型の、農業と結節したまちづくりといったものが、さまざまに検討されているわけです。
(OHP・36)
(OHP・37)
 こうした取り組みとあわせて、都市経営、地域経営がこれから求められていくときに、ランダムに述べてきたさまざまな地域の自然資源、歴史的に残る産業や人材の資源というものを、もう一度意識的に組み合わせて循環させるような新しい地域の産業システムの開発や、地域おこしということが望まれてきていると感じているわけです。
(OHP・38)
 小笠原の父島における10カ年の開発構想も今、村長さんと一緒に手がけています。父島の場合には深層水と表層水の成分がほとんど同じといわれる良質な海を持っていますので、製塩の事業化、2002年の自由化に合わせて、相当量の良質の海塩をつくる工場をつくろうということが今具体化しようとしています。
 そもそも地元の人は真水不足に悩んでいます。あるいは溶岩質の土壌ですので、葉菜類がつくれない。高いお金を払って古くなった野菜を買わざるを得ない。であるなら、島で成り立つ水耕型の節水栽培みたいなプラントをつくってみてはどうだろうか。あるいはもともと小笠原には亜熱帯の植物研究センターがあります。亜熱帯系のいろんな良質な果樹とか、薬効性の植物、昔アメリカ人が住んでいたときに打ち捨てたコーヒーといったものが自生していますので、こうしたものを1つ1つ産品化していくマイクロプラントが望まれているのではないですかということを、4年ぐらい前から小笠原の父島に提言してきました。
 最近、小笠原の海の大好きな知事さんが、東京都知事になりまして、どうも父島に飛行場をつくってくれそうもない。こうした状況を受けて、4年前から提案していたこの開発構想が、つい最近一気に息を吹き返したわけです。
 空港はきちんとつくって観光客を誘致する。あるいは島民のさまざまな生活材を利便化するという取り組みを否定するわけではないんですけれども、もう1つ、サステイナビリティーという島に住む人々が自力で持続可能な産業連係、それを底支えしていくいろんな社会基盤をつくっていくような開発が望まれているのかなと思うわけです。
 小笠原はサトウキビをたくさんつくることができますので、これでラムをつくっています。ラムをつくれるのなら、アルコールをつくって、東京ガスのシステムで燃料電池の実験をしてみよう。現在は光岡自動車の日本で一番安い電気自動車で島内交通の実験をしているわけですけれども、ゆくゆくはトヨタ自動車の燃料電池を無償で提供してもらって、島自身を広告媒体にしてしまおうよという構想まで、考えているわけです。
 これは小笠原の例ですが、日本にはたくさんの島嶼のエリアがあるわけです。そうした島の中で次世代どんな産業連係が必要なのかというモデルをつくって、それを実験していく取り組みが求められているのかなと思っています。
(OHP−39)
 これは順序が逆でしたが、先ほどトヨタの町の中のアンテナショップの1例としてご提案したものの1つなんですが、「Color Me Mine」と呼ばれる、簡単にいうと楽焼のお店です。これがアメリカでこの2年間で300店舗ぐらい一気に拡大して、フランチャイズシステムで広がっています。
(OHP−40)
(OHP−41)
 そこにはさまざまな素焼きの器材が置かれていまして、ここを訪れた生活者が、絵つけをして、(OHP−42)電気炉で焼いて、翌日仕上がったものをお客様に渡すという進化型の楽焼のお店です。
 こうしたものが、豊田市もお隣に瀬戸市を控えていますので、今すぐにも始められるわけです。過去のように、同じようなやり方で焼き物を売っていく、あるいは楽焼をやっていくということではなくて、新しいチャーミングなまちづくりとあわせて、そうした地域の地場産業を進化させるような取り組みもまた、「世界でいちばん住みたい町」をつくっていく1つの手法論になっていくのかなと思います。
(OHP−43)
 こうした焼き物を含めて、良質な家ができたら、暮らし方そのものもエコリビングになっていくべきだという問題意識から、日本の伝統工芸品のアーカイブシステムもつくっています。
 例えばクリックすると、(OHP−44)山中漆器が出てくるわけです。今どういう形で稼働させているかということですが、この画面をごらんいただいたいろんな作家の方、アーティストの方がご自身の工芸作品をどんどん張ってくださいよという形で稼働させています。ほうっておくと、どんどん情報が増殖していきます。ある日突然イタリアのメーカーから、山中漆器の漆のだれだれさんと一緒に製品開発したいよという問い合わせが、最近ようやく入ってくるようになりました。
 これは漆の例ですが、エコロジカルな住宅の中でどのような什器を使って、どのような食生活を送るのかという、シックハウス等を入り口にしながら、エコリビングそのものを考え直す重要なチャンスの時期に来ているのかなと思っています。
(OHP−45)
 同じように、地域の有機農作物を含めた環境保全型の農業情報についても、インターネットを利用したシステムとして形にしました。これは岩手県の二戸市と一緒につくったシステムの中の情報の1例ですが、おじいちゃんとおばあちゃんは、大昔から同じやり方で、アワとかキビとかヒエをつくってきましたので、国際的な有機認証をクリアしてこのシステムに情報が載っています。
 つくっている雑穀は、ご自身でお食べになったり、知人の方にただ同然でお配りしていましたが、このシステムが稼働して直ちに、ただ同然だった雑穀が、南魚沼産のこしひかりと同額で取引される市場ができ上がりました。
 これはもちろん普通の方がお買いになるのではなくて、アトピーやぜんそくの子供を持っている患者家族の方が、この有機雑穀を買い占めてしまうという流通のシステムができ上がったからです。
 この考え方を発展させて、過去2年間、三重県の北川知事と一緒に地域の農業関係の情報を蓄積する仕組みをつくって、社会実証していきました。現在、三重県のこうした情報公開のシステムと合わせて、今全国区でつくったのが有識者を交えたNPOを組織して、この人たちが良質な健康・環境に配慮した農作物、あるいは加工食品を認証してあげて、エコマークとエココードを発行する。インターネットでこのコードを押すと、その生産者あるいは加工業者が、どのようなものを、どのくらいの量、どのようなやり方でつくっているのかというのが一目瞭然にわかるシステムをつくってきました。
 これは最近はやりのビジネスモデル特許を取得できたので、これからいろんな形で展開していきたいと思っています。既に、先ほど申し上げました岩手県、和歌山県、北九州市が、同じフォーマットで地域の農業情報を情報発信していくという形に、緩やかに広がり始めています。
(OHP−46)
 この作業を行っていく過程で、地元の三重県の方から、「うちはおやじの時代は養蜂業をやってハチミツをつくっていた。ところが、シックハウスの問題で、ドイツのリボス社を含めて、ビーワックスというのがそこそこの値段で取引されるようになっているようだね。うちは良質な蜜ろうをつくり始めたんだ、食品ではないんだけれども、このシステムに載っけられないだろうか」という話が出てまいりました。
 同じように、三重県は森林認証を日本で初めて取った林業者の方もおられて、その林業者と仲のいい健康・環境に問題意識を持っている工務店の方や造園家の方が、自社の事業をシステムに載っけられないかという問い合わせが、1年ぐらい前にたくさん来たんです。
 今現在NPOの設立申請をしているのは、エコリビング推進認証協議会というNPOであります。これはシステム自体は、環境保全型農業の情報公開のシステムですが、ここに良質な健康・環境の建材でありますとか、そうしたことに問題意識を持っている工務店さん、あるいはエコ建材を既につくっておられる大手メーカーの商品群といったものを、全部同一のシステムの中に入れて、情報公開をしていこう。あわせて、エコリビングのための認証マーク、認証コードを発行していこうと思っています。
 もちろん、有機の認証評価も、確実的にやろうとすると、非常に専門的な縛りがあるんですけれども、食品についても、住宅についても、健康・環境に対して、前向きな取り組みをやっていれば、全部システムに載っけてあげようという性善説で運用しようと思っています。
 そういう意味では、健康・環境住宅の縛りのある認証ではなくて、良質な事業をやっておられるメーカーさんの情報そのものを認証をして、情報公開をしてあげようという取り組みであります。
 国が健康住宅のスタンダードを考えていく、これも重要ですけれども、お金を払う私たち生活者が識者を交えたNPOを組織化して、私たち自身がこうした良質な家や建材を買ってあげようというボトムアップ型の仕組みづくり、状況のデザインをしたいなというのが、この考え方の根本であります。
 もちろん、地域の良質な林業者や工務店さんを組織化するだけではなくて、大手のメーカーさん、キーファンドが見ている石油化学系のプラスチック関係をつくっておられる積水化学工業さんなんかも、例えばオレフィン系の基材に、ベトナムから輸入したうるしなんかを塗るようなエコ建材みたいなものを今まさにつくろうとしておられるわけです。
 企業の形の大小を問わず、前向きな起業をしているものは、生活者が評価をして、みんなで広げてあげようと考えています。
(OHP−47)
 また、エコアイコンというものもつくっています。既にISOの14001を取られている企業ももちろんそうなんですけれども、環境や次世代のサステイナビリティーを考えたさまざまな企業、これは食品、住宅業界にかかわらず、全部エコアイコン化して、地域のデジタル地図の中に張りつけてしまおうという取り組みを、福島県と北九州市で進めています。
 そういたしますと、良質な塩を買いたいね、おいしい野菜を買いたいね、クリックすれば、どこの身近なスーパーで買えるかがわかってくる。来年家を新築したいんだけれども、どこの建材を使ったらいいのか。そうした建材を使ってくれるいい工務店さんはどこなのか。クリックをして、良質な業者さんにお金がいくような仕組みをつくっていきたいなと思っているわけです。
(OHP−48)
 これからは、こうしたインターネットを利用した生活者サイドの情報公開システムだけではなくて、すべからく、いろんな事業活動でもう一度情報公開ということの重要性を再認識しておかれるべきだなと思っております。
 これからの都市経営、あるいは新しい発想の、土木開発においても、専門家だけが集まってつくってしまうのではなくて、そこに地域の町工場を参画させていく。それぞれの成果をきちんと地域の生活者に情報発信をしていきながら、合意を形成していく。この手法をとらない限り、大規模な開発は、次世代は多分通用しないように思います。
(OHP−49)
 21世紀の地球社会システム、産業システムがもたらした罪は、環境問題と、もう1つ児童労働という問題があります。健康なエコ衣料をつくっている工場を見ると、小学生が働いていたりするようなことが実際にあります。今のインドネシアの工場を見に行ったことがありますが、日本向けの犬猫のエビの缶詰とか牛肉の缶詰を、当時うちの子供と同じ、小学校2年生ぐらいの子供が工場でつくっているような状況が存在しているわけです。
 こうしたことを企業としてきちんと情報公開していくような取り組みが確実に求められるということであります。あるいは生産プロセスの段階でも、安価な部品や労働力を使っているだけではなくて、うちは企業として良質な高齢者の雇用を行っているよ。あるいはその企業が守り続けていたいろんな基盤技術や熟練技能の開発、伝承のためのシステムをこう持っている、そういう良質な社員に対する俸給のシステムをこんなふうに設計しているよ、こういうことをきちんとつくられて、生活者や地域に発信できるような企業が21世紀もなおサバイバルできる尊厳ある企業になり得るのではないかと思っています。



都市再開発とこれから求められるまちづくり

(OHP・50)
 代官山再開発が話題になっていますが、これはご存じのように、阪神大震災の直後に、新しい都市型の集合住宅をつくるということでつくられた同潤会アパートが母体になっているわけです。今回の代官山の再開発に先立ち、建物とともに住民も老朽化していた。おじいちゃん、おばあちゃんが雨漏りのするぼろぼろの家に住んでいてよいのかということを住民みずからが問題意識を持って立ち上がって、そのための谷口さんという理事長を押し上げて、動かしてきた。これが再開発が成功したポイントの1つだと思います。
 2点目は、先ほど来から燃料電池あるいは次世代型のエネルギーの基盤というお話をさせていただきましたが、代官山の場合も、ご存じのようにバブルが起き、当初参画を予定していたジョイントベンチャー企業がどんどん歯抜けになってしまった。そうした状況の中で、この再開発の息を吹き返させたのは、東京電力さんの参画でありました。地下部分に渋谷区としても巨大な変電設備をつくらなきゃいけなかった。それがすっぽり入ったおかげで、この再開発計画が形になったわけです。
 ともすれば、こういう新しい再開発や新しい再開発ビルの建設を考えるときに、地域の自治体は、地場の企業との参画を指導してくるわけですけれども、巨大な再開発プロジェクトは相当体力のある良質な企業を巻き込まない限り、なかなか成立させていくのが難しいのではないかということを今回の取材で考えました。
 逆にいうと、東京電力さんが、変電設備を地下につくったと同じように、これからは例えば、燃料電池型のコジェネレーションの仕組みを、あらかじめ再開発の段階からきちんと設計をして、そうした企業に声をかけていく。迷惑施設をあえて呼び込む。こうした取り組みが求められているのかなと感じました。
 3点目は、再開発は、否応なく膨大な時間がかかりますので、プロジェクトの立ち上がりの段階から、それぞれの参画者がどういう事態が生じたときにはこうだよというリスクを、あらゆる場面を想定しながら、相応にかぶっていくような、そうした仕組みづくりをあわせて設計していくことが非常に重要なのかなと思いました。
 4点目は、これもご存じだと思いますが、おじいちゃん、おばあちゃんの住民が、お亡くなりになられて、権利者を発掘していったら、600人も権利を持っている方がいた。それを組合の方が一生懸命説得交渉する。あるいは後から参画された東京電力の用地交渉のプロの方が、お1人お1人お会いになりながら、そうした権利変換の交渉を続けてこられた。そのプロセスの中で、いつしか鹿島の説得交渉役の方も、東京電力の用地交渉のプロの方も、巨大なプロジェクトを成立させていくまさに当事者であるんだというコミュニティーの意識が成員おのおのに芽生えてきたというところが、非常に重要なことだと思います。
 5点目ですが、こうした再開発、当然行政もさまざまな支援がなければならないということであります。多分これは国の中央官庁がやれない地方の自治体レベルで、新しい再開発やビルをつくるための許されている基準があるはずなのに、どうも東京都や建設省のお伺いを立てないと、高度地区の開発みたいなことが地域のレベルでなかなかやれない。これからはそうした新しい再開発を、良質な企業が自治体の担当者をバックアップしながら、こういう地域の自治体でできる実験、大胆な中央主導型の仕組みを壊していくような実験も望まれてくるのかなと思いました。
(OHP・51)
 岐阜県と設計を進めている、簡単にいいますと、まちづくりのバーチャル研究システムがあります。私どもも、冒頭で述べましたように、いろんな農業やエネルギー、建築、住宅などの国内外の客員研究員を組織化していますが、1つは、これからのまちづくりにかかわると思われるこうしたブレーンのアーカイブをつくりましょうという提案をしています。
 重要なところは、もう1つのアーカイブ。地域の自治体が自信を持ってこれから取り組まざるを得ないソリューションをきちんと地域の生活者に情報公開する仕組みをつくらないかというサイトです。これは小さくは地域の商店街の活性化から、あるいは2級河川の水質の浄化、先ほどのような新しいテクノパークの開発まで、自治体はさまざまな案件を持っているわけです。
 こうした大規模なまちづくりや開発を進めるに当たって、最早、限られた人の中だけに秘匿して行うのではなくて、はなから、これからどんな開発を行おうとしているのかという情報を、非常にわかりやすい形で情報公開をしていく。それに合わせてその案件にかかわるブレーンたちがどのような設計やオールタナティブを提言していくのか、それもあわせてどんどん地域住民に情報公開をしていくといったシステムをつくってみたいと思っています。
(OHP・52)
 それともう1つは、冒頭に立ち返って、千年持続ということをあらゆるプロジェクトを行うときに、意識のどこかに据えておいていただきたいと思っております。千年持続学、冒頭でお話ししましたように、1つは、再生可能な動植物素材の有効活用です。これにはどういう意味があるかというと、生物進化40億年の中で、できの悪い素材、できの悪い生き物、できの悪い技術は全部競争に負けて淘汰されてきたわけです。逆にいうと、今生きている生物たちが持っている生産物や技術というものは、安全性も機能性もきちんと40億年の時間が実証してくれたものだということです。
 そういう意味でも、使っていると突然環境ホルモンという形で指弾されるような、時で磨かれてないものを使うのではなくて、時を経た技術や素材を使っていくことが重要だと思っています。
 2点目は、今度は人類史の中で、先ほど来基盤技術や熟練技能という話をしてきましたけれども、こうした鉄を使っていく、あるいは漆を使っていくといったことを含めて、千年科学技術基盤というものをもう一度きちんと精査して、再評価する必要があるかなと思っています。
(OHP・53)
 建築工学や水利学のプロの方々は周知のお話だと思いますが、四川省の岷江という川につくられた農業用のかんがい水路があります。こちら側にあるのが、実は紀元前220年、秦の始皇帝の時代につくられた農業用のかんがい堰です。それに対して、近代になって中国政府はこちらにかんがいダムをつくったんです。こっちの方は砂がどんどんたまってしまって、1年に1回は巨大なしゅんせつをしないと機能しない。ところが、始皇帝の時代につくられたかんがい堰はきちんと砂が流れるような設計が施されていて、大昔も今も変わらずに機能し続けているのです。
 これは千年科学技術基盤の再評価であると同時に、これからの土木開発、河川開発を行っていくときも、もう一度川や自然に尋ね直した技術といったものが、まだまださまざまに存在するように思います。
 きょうお集まりになられた方々は、こうした河川開発や超高層ビルのまさに設計、都市開発にかかわってこられた方だと思います。多分お集まりの皆さんまでは設計図書に書かれていないさまざまなノウハウを駆使して、日本の町をつくってきたと思うんですけれども、後進の方々が、そのとき文字にあらわれないノウハウをきちんと継承してキャッチアップしてきたのかどうかということで、精査を合わせて、もう一度新しい都市設計、都市経営の可能性を実験していただけたらなと思っております。
(OHP・54)
 これはS・ヴァンダーリンさんというエコデザインの識者が提唱されているこれからのサステイナビリティーをデザインするときの基本的な5原則であります。
 第1の原則が、答えは場所に見出せるという考え方であります。地域のさまざまな地政学に基づいた開発が求められてまいります。過去のように沖縄も北海道も本州も、あるいはアメリカもアジアも同じような金太郎あめのような開発をするのではなくて、もう一度地域の自然資源や文化、伝統、技術を含めた人的資源を精査して、その知的な組み合わせで開発をしていくべきだということです。
 2番目は、コスト、スピードという収支だけではなくて、未来への投資を含めたエコ収支という考え方をきちんとこれからの開発については考えていくべきだ。
 3番目は、一番最後にごらんいただいた、岷江の堰のように、もう一度自然に尋ね直す。自然の仕組みに即したデザインをさまざまに実験していくべきじゃないかということであります。
 第4番目は、こうした開発を行うに際し、NPOや生活者の参画を含めて、最早企業の限られたエンジニアや研究者だけが物づくりやまちづくりを行う時代ではないんだということであります。
 これは20世紀最後に飛ぶトリプル7というジェット機が、まさにボーイングという会社の壁、日米という国家の壁を越えて、日本の三大の重工メーカーと、2つのユーザーでエアラインがみんな一緒になって、21世紀を飛ぶ飛行機を模索して形にしたように、これからのまちづくりについても、だれもがデザイナーであるという参画に基づくワーキングトウギャザーの仕組みづくりを探っていただきたいということであります。
 5番目は、さまざまな意味で時の中で磨かれていた自然というものを、さまざまに視覚化していくような取り組みがもう一度求められてくると思います。
 河川に新しいスーパー堤防をつくるときも、無機質な堤防をつくるのではなくて、何かそこに地域の人が集えるお祭りやみこしの機能みたいなものを装置として付与していく。あるいは河川敷も、先ほどアグリロードというお話をしましたけれども、本当に地域の人が健康な農作物をつくれて、菜園が並んでいるような、次世代型の河川敷の開発がさまざまにあると思われます。そういう意味で、自然の視覚化を含めて時を経た命に学ぶ未来、あるいは人間の縄文以来の物づくりに学ぶ未来ということを、これからの都市経営の中にぜひ反映させていただければなと思っております。
 どうもご清聴ありがとうございました。(拍手)



フリーディスカッション

谷口
 家づくり、まちづくり、あるいは地域づくりというところに至るまでユニバーサルデザイン、また、エコデザイン、また、赤池さんのおっしゃる千年持続学、そういう視点から、いろんな話題と問題提起をしていただいたと思います。代官山再開発の話まで無理に突っ込ませていただいて申しわけありませんでした。
 何かご質問、ご意見その他おありになりましたら、どうぞ。

水谷(上下水道設計株式会社)
 3つお伺いしたいんですけれども、まず第1点は、先ほどの1000年サステイナブルということです。人口がどのくらいでサステイナブルになるかという、その辺の見通しが、もしもおわかりでしたら、教えていただきたい。
 2点目ですが、粘土を瀬戸物にするというのは、これは非可逆反応だから、これはサステイナブルじゃないと思うんです。その辺についてご見解があればお伺いしたいんです。
 3点目ですが、燃料電池。例えば、メタノールだとか、メタンとか、植物の油、そういうものを用いたディーゼル、あるいはガスタービンなんかもあります。そういうものじゃ、何でいけないんだろうか。つまり、燃料電池の方がメリットがあるとすれば、そういう場合、それに比べてどういう点にあるのかということについてお伺いしたいんです。

赤池
 まず、1点目のご質問で、人口動態のデザインについては、名古屋大の高野先生が専門に取り組んでおられるので、情報がわかりましたら、ちょっと谷口さんを経由して送りたいと思います。考え方だけ申し述べさせていただきます。
 人口については、豊かになってGDPが上がると、人口が少なくなるという手法論は、人類が経験し終わっている。であるなら、やはり早急的な人口爆発を抑止するために、もしかすると、アジアの人たちを可及的速やかに豊かにさせてしまうようなダイナミックなデザインがあり得るのではないかということです。
 そういう意味では、石油資源とか、中国の場合は当然石炭の資源があるんですけれども、徹底して使って、豊かな交通システムや社会基盤つくってごらんなさいよ、それに対して、先進国の環境対応技術可能な限り環境負荷を抑止していく。結果として人口を抑えてしまうような手法論を、多くの科学者を集めてもう一度検討してもいいのではないかということを議論しています。
 であるなら、先進国の方は、率先垂範でもう一度再生可能資源に、今からすぐにも渡っていけるような、要するに、再生可能資源の方を先進国が使っていくような社会潮流のデザイン、軌道修正のためのアクションプランを議論していこうじゃないかと考えています。
 3点目のお話をしますと、「温もりの選択」というエネルギーデザインの提言書を書いたときに、もちろんベースは燃料電池なんですけれども、今お話をされましたさまざまなガスエンジンやマイクロタービンと呼ばれる代替エネルギーをまさにインテリジェントにミックスした地域分散型のエネルギーシステムの設計をすべきだということを書かせていただきました。
 燃料電池のシステムやインフラの開発をすると同時に、既存のマイクロタービン等の技術といったものも、あわせてデザインしていく。そこで、これまで考えられてこなかったのは、新しいさまざまな電源を組み合わせたときに、どんなスケールで、例えば出力のデザインにしても、どれが落ちつきのいいデザインなのかという、これから組み合わせのデザインについての基礎的な研究や、実証評価の研究が求められてくると思っております。
 今取り組んでいるさまざまなリサイクルそのものを、同じ問題を抱えているように思われます。例えば、ペットボトルをリサイクルする、これは技術的に可能なんですけれども、実際、ごみだらけのリサイクル繊維を再原料化していくと、非常にコストがかかる。要するに、コストがかかって、結果として環境負荷を与えてしまうようなリサイクルや再原料化の技術がさまざまにあるように思われます。
 ただ、重要なことは、これも今分散型のさまざまなエネルギーの組み合わせとか、ベストミックスを検証するように、あるものについては環境負荷を与えてしまうかもしれない。コストの高いものもあるかもしれないよ。それの組み合わせの中で、トータルな環境負荷を軽減させていくような、組み合わせのデザインを考えていくべきだということをいいたかったつもりです

水谷(日本上下水道設計株式会社)
 一番お伺いしたいのは、1番目の質問で、人口が一体どのくらいならサステイナブルになるだろうかということについて、例えば、太陽光のリミットがあるんじゃないかとか、いろいろあると思うんです。だから、日本は40万人ぐらいじゃないと、サステイナブルにならぬじゃないかという説もありますね。その辺について、先生のご意見を教えていただければと思ったんです。

赤池
 まさにそういう問題を具体的にしたいために、千年持続学会というのをつくっているんです。ただ、ご存じのように、日本人自体は、2050年ぐらいには8000万人ぐらいに人口が減るといわれていますので、多分8000万人を食わせるだけのエネルギーのシステムとか、これはもちろん大胆な政策の転換が要ると思いますけれども、自国による食糧調達も多分可能なのではないかと思っています。
 そのプロセスの中で開発したものを、塩害の問題とか、砂漠化で追い詰められていくアジアやインドにつないでいくという大きなシナリオなのかなというところです。僕自身ちょっとわかりかねるところがあるので、関連した情報がありましたら、担当の先生にお話をお伝えしてみたいと思います。

角家
 先生の今のお話で、千年持続学会というのを設けてやっておられるということですが、お話の中にも大分出てきましたが、もう少し具体的に、千年持続学会というのは、このようにやっておるんだ、将来このようにやっていきたいんだということがありましたら、ちょっと教えていただきたいんです。

赤池
 基本的には今10人の準備委員の先生方、農業関係でありますとか、植物関係、昆虫、動物関係の先生、地球科学系の先生、社会科学系の先生方がおられないので、これからそういう方々に広く声をかけていきたいなと思っています。
 基本的にはさまざまな異分野のサイエンティストの方々に、地球システムを千年持続させるための課題でありますとか、現状の障害を抽出してもらいたいというのが一番のねらいであります。
 2番目は、そうした障害を超克する上でも、基本になるのはさまざまな資源、あるいは地球的な情報をきちんとモニタリングするための技術開発が重要であるということで、それこそいろんな地域の植生や樹種層、土中の水分の含水量を含めて、ワールドワイドで資源をモニタリングしていくような、技術開発を1つ大きなテーマとしてやっていきたいと思っています。
 2つ目は、先ほどのトヨタの再開発的な、あるいはプロトンアイランド的な、こうした地域での実証実験を仕掛けていくような取り組みを、サイエンティストや関連したNPOの方を組織しながら促していければと思っています。エネルギーのシリコンバレーができるなら、アグリビジネスのシリコンバレーもできるでしょう。
 こうした取り組みを例えば行政にやらせていくような、サイエンスの研究領域を超えたような社会活動にも注力していければと思っています。
 3つ目は、先ほど来繰り返しています、生命学、再生可能資源学、特に未利用資源科学というものを積極的にやっていきたいと思っています。
 私どもも、環境関連で世界じゅうのシンクタンクがどのような研究をやっているかという調査を少し前にかけたことがあるんですけれども、こうした動植物素材の本質研究や機能性開発をやっているのが、中国の林業科学院系の研究室以外ほとんどまとまった研究をしていません。逆にいうと、日本が中国と組みながら、こうした動植物素材の機能性研究に注力をしていくことに、僕は国策として取り組んでも大きな成果が出てくると思っています。
 繰り返しになりますけれども、こうした警告を行ったり、国土の実験を行ったり、同時に、日本やアジアが主導的な立場をとって、未利用資源の機能性開発を行いながら、広く海外の研究者たちに情報提供を行いながら、もう一度ミレニアム・サステイナビリティーという考え方を、世界じゅうの良質なサイエンティストや関連したエンジニアの方、ジャーナリストの方に、その問題意識を共有してもらうための取り組みも今後考えていきたいと思っています。
 今、ホームページをつくっていて、準備委員がどういう方向でやりたいのかということがランダムに入っています。「千年持続学」というキーワードでアクセスできますので一度覗いて頂ければと思います。

谷口
 ちょうど時間が参りました。ほかに何かあるかもしれませんが、興味のおありの方は今ご紹介いただいたホームページを、ぜひ見ていただいたらと思います。
 きょうは赤池さんにいろいろお話しいただきました。大変ありがとうございました。(拍手)


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