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第157回都市経営フォーラム

東京圏の都市再生
−国際都市としての魅力向上−

講師:伊藤 滋 氏
慶応義塾大学客員教授


日付:2001年1月24日(水)
場所:後楽国際ビルディング大ホール

 

都市再生推進懇談会

広域的連携

国際都市東京の魅力を高める

品格ある都市づくり

すごい都市をつくる

制度・手法

今後の課題

フリーディスカッション



都市再生推進懇談会

 21世紀になりましても、相変わらず年寄りのお話で、あまりフレッシュな感じがしないんですが、お許しください。
 きょうは、お手元に差し上げてあります「東京圏の都市再生に向けて」の内容をお話しします。
 私がなぜこれをきょう話すかというと、この報告については、いろいろな人の意見を私が取りまとめて、文章も最後に全体に目を通しましたので、アクセントをつけることができるのは私だろうということが1点。2点目は、都市再生懇談会の裏話を話すのに私が向いているんじゃないかということです。
 この報告は平成12年の11月に、当時の建設大臣の扇さんに私から手渡しました。これは「東京圏」となっていますが、近畿圏も一緒に出したわけです。近畿圏は京都大学名誉教授の吉川先生が出して、東京圏は私が出しました。
 この都市再生懇談会のスタートは、去年の2月でした。このとき、まだ小渕前首相が元気で、1回目の会議に小渕さんはまじめに出席して話を聞いていました。
 なぜこの都市再生推進懇談会ができたかというと、一昨年、アサヒビールの樋口さんをキャップにした経済戦略会議というのを小渕さんが開き、その中でインフォメーションテクノロジーとか環境とかいう幾つかの重要なキーワードが出てきて、それをきちっと政策に載せるようにと提言したわけです。その中に大都市問題も入っておりました。経済戦略会議が提言したこの大都市問題をどうするかということを小渕さんは受けて、都市問題に関係する専門家が集まって、この都市再生推進懇談会をつくったというのが極めて事務的な説明です。
 一昨年はご存じのように、衆議院選挙がありまして、ここで自民党は大都市圏でバタバタバタと代議士が落ちました。東京では、島村さんや与謝野馨さんが落ちましたね。それから、有名な人があと2〜3人バタバタと落選したわけです
 それは野党が頑張ったというよりも、自民党に大都市の人々はあきてしまった。それで、大都市の自民党の票が減少したという側面も大きい。これは大変だという危機感が政府にあったわけです。それで、小渕さんは自民党政権を支えるために何とかしなきゃならないという物すごい使命感があって、経済戦略会議が開かれて、その中で、都市再生推進懇談会ができたということです。
 一方、一昨年は、東京都に石原知事が誕生した年でもあります。小渕さんは真面目な人で、自民党の大都市における復権をどうしたらいいかと一生懸命考えているときに、突然石原知事が誕生したわけです。石原さんは、小渕さんとは全く対照的で、保守の中では割合物事をはっきりいう人ですから、むしろ、彼にいろんなことをいわせた方が良いと考えたのでしょう。これは私の想像ですが、この都市再生推進懇談会を石原知事がしゃべる場にした。東京都知事、自民党の石原知事が東京を中心とする大都市の住民が何を考えているかということを、自民党政府がつくった都市再生推進懇談会の場ではっきりと物をいう。これは政治的キャンペーンとしてはなかなかいいわけです。この座敷を小渕さんがつくった、そういう側面もあるわけです。
 ですから、これから皆様に申し上げる内容は、金の裏づけがあって、実行力があって、行政の担当の役人が、今までの予算編成を組みかえて何かしなきゃいけないという気持ちに追い込まれて、つくったものではないんです。そこが私がここで過去に話したこととはかなり違う。
 小渕さんが集めた有識者、ソニーの出井さん、坂本春生名古屋万博の事務総長、日経社長の鶴田さん、グレン・フクシマ氏、森稔さん、これに石原都知事と土屋埼玉県知事、岡崎神奈川県知事、沼田千葉県知事が入って、これに私や尾島さん、月尾さん達の専門家が入って、さらにオブザーバーで川崎市長、高秀横浜市長、松井千葉市長、都市公団の牧野総裁。こういう連中が勝手なことをいったんです。それを、通常は役所のラインにまとめるんですが、今回は勝手なことをいったのを役所の価値基準で切ったり消したりはしないで、全部載っけた。その時の編集、整理の役を僕が仰せつかったというわけです。
 ですから、これは役人が責任を持っているわけではない。今いったような人を含む20人ぐらいの委員が、東京圏を憂えていろんなことをいったことを整理したというものなんです。ですから、役人側から見ると、これに従っていろんなことをきちっとやる必要はないわけです。総理と建設大臣に提出しましたけれども、総理がこれを認めて総理の政策にしたわけでもないし、扇千景さんが国土交通省の政策にこれを位置づけたというわけでもないんです。今の段階ではこれはほとんど役に立たないペーパーだと思っていてください。
 ただ、ここからは私の推測ですが、こういうこともありそうです。
 小渕さんが生きていたころ、去年の3月ぐらいまでは、衆議院選挙の敗北感があって、ある意味では旬だったんですが、1年たってその旬がなくなって、腐ってはいないんですが、とりあえず、しばれた豆腐みたいに今凍っている、そういうふうに思ってください。 
 ところが、この7月の参議院選でどういう結果になるかは別として、少なくとも、大都市部では自民党はまた相当苦しい状況になるだろうといわれている。そうすると、衆議院の選挙と同じ状況がことしの7月以降に起きてくる可能性があるわけです。
 自民党は一体何で負けたかということを新聞が書く。新聞っていうのは本当におっちょこちょいで、あんまり新聞を信じちゃいけないのですが、しかし、新聞が、何で自民党は負けたかと書く。そして、その原因は、都市の住民を軽視している結果だ。都市の住民を軽視しているというのは、選挙の制度のシステムが農村を重視していますから、結果として都市の住民を軽視しているということです。
 多分、参議院選が終わると、1年ちょっとぐらい後には衆議院選になるでしょう。そのときが勝負なわけです。そのとき、何かタネがないかといったときに、大都市に対する自民党のリップサービス、今までもリップサービスをやっているんですが、そのリップサービスにもうちょっと重みをつけて本当のこと、お金をつけて大都市側に、こういうことを自民党政府もやるよということをいわないと、次の衆議院選負けちゃうだろう。その時にこのペーパーは使われるのではないか、という読みを、これにつき合った都市問題の専門家達は持ったのではないか。
 ですから、高野豆腐のように今は凍っていますけれども、7月以降に急速に解凍されて、これがもう一回みずみずしく世の中に出てくるかもしれない。その文言がここに書いてあるわけです。



広域的連携

 石原慎太郎氏というのはなかなかおもしろい男です。僕は、役者にしたら物すごく演技がうまい男だと思っているんです。彼が一等初めに何をやったかというと、ご存じのように、ディーゼルの排気ガスの黒いすすを瓶に入れていろんなところで振り回してみせた。
 「再生懇」でも1回目の会議のときに、黒いすすを瓶に入れて石原さんが「これは何だ」という。これは10トン車のディーゼルが1日走ると、これだけすすが出るんだぞというのを見せて、これだけのすすを出すディーゼルトラックが何万台か東京を走っていれば、何万倍かの黒いすすを東京にいる連中は頭から浴びているという言い方をすると、これは相当効きますね。
 実は、この黒い微粒子、SPMが出るというのは、要するに、技術というのはどっちかを抑えるとどっちかがだめになるという話なのです。つまり、ディーゼルエンジンはNOx を抑えることはできないんですが、CO2 は抑えることができる。ディーゼルエンジンのNOx 対策は物すごく難しいと昔からいわれていた。石原さんがこういうことを表に出す前には、このNOx とCO2 の問題の方が、SPMよりも、環境の専門家達にとっては深刻だった。CO2 はもちろん地球温暖化の問題で、どちらかというと、ディーゼル自動車の環境対策というのは、CO2 を削減し、NOx をある程度のレベルに抑えるということをやっていたわけです。SPMを減らすためには、NOx と同じように、結果としてCO2 を野放しにするということをやらないと、減らない。3つ減らすということは難しい。世の中全部そうですね、すべてのものがうまくいくなんてことはあり得ないのです。
 だから、石原さんのいう黒い粉塵は、ディーゼルの技術でよくなるかもしれないが、それによって排気ガスのCO2 はもしかするとふえてしまうかもしれないという矛盾があるんです。しかし、CO2 は見えません、SPMはディーゼルの排気ガスの真っ黒いやつがどんどん出ますから、政治的にはえらく効くんです。そういうアピールをやったわけです。
 次に彼は何をいったかというと、横田基地を軍民共同で利用しろという話ですね。実は横田基地の上にブルーラインという目に見えないアメリカ軍の領空があるんです。横田基地の南北にわたって。横田基地から、片っ方20キロぐらいの幅で、上空が1万メートルぐらい、上の方は埼玉のジョンソンぐらい、あるいはもっと上、前橋辺かもしれません、そこから神奈川の相模灘まで、アメリカ領空があるんです。そこは日本の飛行機は自由に入れない。入るときは穴をあけて、通させてもらっている。
 厚木と横田とジョンソン、これが朝鮮事変、ベトナム戦争のときにアメリカの軍用機が関東地方へ着陸する自由通路だったのです。それが日米安保条約に従ってずっと、確保されている。この話は鈴木知事のときから実は問題になっていまして、ブルーラインがあるから、羽田から富山に行く飛行機も新潟を回って富山に行くということをやらざるを得ない。何とかこれを東西に横断する穴を大きくしてくれないか、そういう話があったんです。
 ですから、皆さん、たまたま天気がいいときに、羽田から出て、富士山のきれいな雪景色を見ながら大阪とか、福岡に行く飛行機に乗ると、スチュワーデスが、「見てください、すばらしい富士山でしょう」というのは、あれを見る直前まではアメリカ軍の領空の穴のあいたところを日本のJALとかANAとかが通過しているわけです。そんなものを認める日米安保条約はけしからぬというのは、本来、民主党だって社民党だっていっていいんですけれども、そういうことは共産党と自民党の右翼しかいってないのではないでしょうか。非常に不便な話です。
 石原知事が横田を軍民共用にしろといって、とことん行き着くところは、安保条約って一体何なんだというところまでたどり着くわけです。安保条約を解消すれば途端に、厚木も横田もジョンソンの問題も、日本が独自に解をつくることができるわけです。厚木はつぶせとか、横田は急角度で着陸して、急角度で離陸できる国内線の空港にしたらいいだろうとか、できるんですけれども、安保条約があるためにいろんなことができない。これは日本の領空すべてに言えることです。
 私は珍奇といわれそうなことを考えたことがあります。昔、鈴木知事のときに、東京都の三多摩の計画をやっていて、余りにも横田の問題が頭に来ていたから、安保条約を破棄して三多摩の基本計画に書いたらいいじゃないかとわめいたことがあります。そのときの副知事が金平さんという非常に品のいいご婦人。金平さんは割合ラジカルな方で、鈴木知事の副知事群の中では福祉の専門家ですから、割合社会的に物の見方がいい方でした。その金平さんもそうだなという顔で結構僕をサポートしてくれたことがあります。それから金平さんとは割合仲よくなりました。
 でも、これからの都市づくりの中ではそういう話題が必ず出てくるんです。大都市の市民が、自民党以外のところに代議士をうんとつくったら、今のブルーラインはなくなるのでしょうか。それが私のことしから来年へかけての非常に大きな期待なんです。ということは、安保条約って本当に必要なのかどうか。50年以上安保の傘のうちといっているわけです。私は、これを一度廃棄して新しい協定を、例えば、アメリカと中国とソ連と韓国と北鮮と日本ぐらいで結んだっていいんじゃないかと思っているんです。日米不可侵じゃなくて、5カ国不可侵条約ですね。5カ国の安全保障の方がおもしろい。
 もう一つ、妙なことを考えました。本当にアメリカ軍が横田基地を必要ならば、相模湾に日本が鉄の航空母艦みたいなやつを10隻ぐらい浮かべたらどうか。そして横田を返してもらった方がよっぽどいいんじゃないか。その方が結果として後々まで憂うつな気分でいるよりいい。航空母艦が1隻1兆円で10隻で10兆円として、10兆円を5年間で2兆円ぐらいずつかけて、相模灘の沖の航空母艦の上で乗りおりしてくださいというように。そうすれば随分大都市圏の土地利用も違ってくるかなといったのです。
 そしたら、航空母艦じゃなくて、つい3〜4年前に鉄の箱を飛行場にするかどうかというので、横須賀で実験が行われて、結局うまくいかなくて、解体の憂き目に遭ってしまいましたね。これは閑話休題です。
 ディーゼルの黒い粉末の話といい、横田の基地の話といい、非常にタイミングがいい。ですから、そういうことを考えると、都市圏の都市再生というのは、東京都のこれからの生きざまについて、本来、国がきちっとサポートしろ。そういうことを石原知事は国に要求を突きつけて、その報告書をこの報告書にしたかったのでしょう。東京の問題をきちっと国が強く認識してそれをサポートすることを明記する、そういう報告書にしてもらいたかったのですが、そこはうまくいかなかったということでしょうか。
 それは、埼玉県知事、神奈川県知事、千葉県知事との間に微妙な利害の違いがあったことも一つの原因でしょう。
 ただ、やはり東京都の知事としては、知事のレベルでのある程度の連絡をつけておかないと、いろいろ都合が悪いことがあります。例えば、水の問題なんて、群馬県の知事と埼玉県の知事が怒って、利根川導水をあそこで遮断されたら、あっという間に我々の水は来なくなる。利根川導水というのは、東京のオリンピックのときに急遽、水がなくて、利根川から荒川に水を持ってくるようにしたわけです。水源が違う、流域が違う。流域間で水を動かすという、水問題に関しては画期的、すごいことを、当時の河野大臣が決めてやったわけですが。この水を締めつけられたらあっという間に東京都は参ってしまう。
 それから、千葉県ともけんかしたくないでしょうね。そういう点で、石原知事もだんだん東京都の23区の中だけの問題だなんていわなくなって、大都市再生の懇談会のリポートは、南関東7都県市の首長が全部相談しながら国に要求を突きつける、こういうふうにしようということになったわけです。
 その1つの例が、基本的視点の2、広域的交通ネットワークということです。これは何が書いてあるかというと、「国際都市としての機能が1都3県の中心都市圏に効率的に分散、展開して1都3県・・千葉県と埼玉県と神奈川県・・東京圏内に・・東京圏というのは南関東です・・業務核都市を初めとする多核的都市構造を構築することが必要である」、こういう文章が入ったのです。
 初めは、こんなところまで公共事業の話題を広げていったら、収拾がつかないということで、切ってやろうか。もし埼玉県を話題にするなら大宮までとか、千葉県の話題なら船橋ぐらいまで、それから横浜、川崎は入れる。業務核都市として幾つかある、厚木とか立川、八王子、川越、ああいうのはもう入れるのはやめようといっていたんですが、しかし、今のように、知事の間でのこれからのネゴシエーションのことを考えると、広域的な都市圏を対象にして、都市の再生に向けてという文章を書かざるを得ないということになりました。そうすると、面積が広がれば、書くことも薄まる。焦点もぼけるということはあります。



国際都市東京の魅力を高める

 もう1つ、「国際都市としての魅力を高めるために」という副題がついていますね。これが東京圏の都市再生に向けての極めて重要な文言であり、内容なんです。例えば、委員の一人、ソニーの出井さんなどは、地震が来たときに中野や荒川や北区の市街地が燃えて、多く人がが傷ついたり死ぬ恐れがあるなんていう話は専門外で、自分の役割は、日本の国際競争力を強めるために、文化とか経済でどういうことを東京に要求したらいいか、いうことだと考えている。伊藤元重さん、経済戦略会議の委員ですけれども、彼だって、都市計画の泥臭いこと何も知らない。翁百合さんも、エコノミストです。坂本春生さんも通産ですから、話が割合きれいです。鶴田さんだって、日本経済新聞ですから、いうべきことは、日本経済を憂えて東京をよくするということでしょう。さらに、在日アメリカ商工会議所の前会頭のグレン・フクシマ氏。こういうメンバーの選び方から見ても、報告書のつくり方というのは、沈滞している日本を救うために東京をどう使わなければいけないかという意識が極めて強い。
 ついでに申し上げますと、近畿圏のリポートも一緒につくったんですが、こちらの方は京都大学の名誉教授の吉川さんが取りまとめをやった。それで当時、「吉川さん、どうだった」と聞いたら、「おまえ達の東京圏みたいにカッコいいこと、おれたち何も書けなかった」。要するに、地盤沈下する近畿に対して日本政府はどれだけ冷たいか、恨みつらみを全部書いた。このままでいえば、何が起きるかわからないぞというすごみまでやって、もっと金を近畿に持ってこいと書いた。近畿といえば、特に大阪と神戸です。京都は少し様子が違いますから。
 また、私の知っているある有名な鉄鋼メーカーの偉い人、その人は関西資本で、東京と大阪を行ったり来たりしているんですけれども、「やっぱりね、近畿と東京とストレスが違う。東京に来ると、ストレスがたまってしようがない。近畿に行くとほっとする。ほっとするというのは、伊藤さん、近畿の方がのんきで暮らしやすい。国際経済力をつくり出していく力では東京の方が必死になってやっているんじゃないか。そういう実感がする」ということをいっていました。
 そうなると、近畿と東京と両方が一緒になって日本のこれからの21世紀の経済戦争、文化戦争を戦う両戦士かというと、そうじゃなくて、気がついたら、近畿は東京という兵士の後ろに半分ぐらい隠れて戦おうという感じになっている。それが私の最近の実感です。裏返していうと、東京で暮らしている大企業の皆様方ぐらいみじめでひどい運命にさらされている人はいないということになります。
 ゼネコンの方で、もし福岡とか神戸支店あたりでつつがなく定年を迎えられたら、本当にいい生活をされて、給料をもらって、安くていい住宅を手に入れて、子供もいいところに入れて、「あ、よかった。おれはいいゼネコンに入ってよかった」と思って、一生を全うされるかもしれません。これが運悪く、九州の大学を出て、ある土建会社の福岡支店で先輩と同じように一生暮らせるかと思ったら、ある日突然、東京本社に来させられて、ずっと東京で仕事しろといわれた途端に悲劇が始まって、定年退職してまで悲劇が続くという東京人になる(笑)。アメリカやヨーロッパの、お金を借りに来ながら、大きな顔して借りてやるというビジネスマンに対抗しながら、日本の経済をバックアップして必死になって力づけている人達が東京にいるわけです。地方から来られた方は随分運が悪く、そうかといって、地方の支店へ戻れない。そういう緊迫感が急速に起きてきたのがこの5〜6年ではないかと思うんですね。
 ですから、国際都市東京の魅力を高める都市づくりを目標にするというのは、そういう意味があるわけです。

 

 もう1ついいたいことがあります。国際都市東京といっても、政治家の票はふえません。文化が何とかといっても、政治家の票はふえません。政治家の票がふえるのは、東京でも、保育所をつくる土地をおれの力で確保したというような都会議員さんとか区会議員さんです。こういう人達が、市民参加でみんなで議論しようよなんてことをいっている都会議員や区会議員よりも選挙で当選する確率が大きいですね。
 老人介護なら老人介護で、車いすを85歳以上のところにはみんなに安く配るなんてことを、法律の中に書き込んだような東京都選出の代議士さんの方が、環境を守ろうなんて抽象的なことをいっている代議士さんより、票になります。これは事実です。
 これは地方に行くと甚だしいわけですが、東京ですらそういうことなのです。国際化ということを政治家がいうと落っこちるという変なことになる。
 昔から、陸軍、総評、農協だったか、そういうのがありました。国内的な問題に目を向けている方が最後は政治を制するということです。国際的なカッコいいことをいっている代議士とか組織は選挙の戦いで負ける。
 第2次大戦は陸軍が戦争の主導権をとって負けましたが、海軍だったらもっと早く負けてますね。なぜなら海軍は外国のことを知っていたわけです。船でニューヨークも見たし、ロンドンも見ている。陸軍は、戦車だって、ドイツがあんなすごい戦車をつくるなんて夢にも思わなくて、突撃、突撃と、精神力とか、そんなばかなことをやっていた。その体質って、今でも日本の中にあるんですよ。政治の中にある。それが選挙に出てくる。それは東京でもある。
 ですから、そういう点では、国際都市東京の魅力を高めるというのは、幾ら政治家が集まっても書けない。だけど、割合海外のことを知っていて、企業をきちっと国際的な企業に育て上げて、こういうリポートを読んだときに、なるほどあの人が入っているから、このリポートについてのかなり信頼性があるなという人たちを入れて書くことに意味がある。そういう点ではあの井出さんが入っていることは物すごく重要なことなんですね。
 こういうふうにでもして、文化面でも経済面でも、国際的な感覚で東京が動くという町にしない限りは、東京や、ひいては日本人はばかにされることになるのです。



品格ある都市づくり

 1つ例を挙げますと、ここでも5番目に、「品格のある都市」と書いてありますが、何が書いてあるかというと、品格のある都市というのは、プロジェクトの提案の8番目で、「美しく文化的でゆとりある都市づくり」、「良好な景観形成、都市景観への共通意識の醸成を推進」と書いてあることにつながります。もう少し本文を読みますと、「都市再生プロジェクトに共通して重要なことは、良好な都市景観や水と緑の空間などにより生み出される都市の魅力という価値基準を重視し、美しく品格のある都市空間を形成するという視点である」。そのためには「屋外広告とか電線類の地中化」とあるんですが、問題は、美しく品格のある空間を日本が、昭和20年に負けて以来この55年間に東京の中でどこにつくったか、具体的に挙げてみなさいということです。
 東京は不幸なことに爆撃で全部戦争前のものが焼けちゃったから、古いものでいいものはないんですけれども、それにしても、これだけのGDPを積み上げて、55年間都市で土建業が一生懸命仕事やって、どこかに美しくて品格のある空間が出来たでしょうか。 
 1つ考えられるのは、半蔵門からお堀端、日比谷の交差点にかけての左側ですね。右側ではない。右側はとんでもない建物が建っています。これに対して左側はすごい。江戸の殿様、将軍がつくったものをちょっと手入れしているだけなんです。日本が負けて55年間につくったものではない。
 あと、表参道は明治天皇が死んで大正のときにつくった。246、青山通り。あれ、品格ある通りでしょうか。青山通りの並木、街路樹って、そんなにすばらしいですか。普通、品格ある都市景観というと、30分、2キロぐらい歩いて、両側の建物と街路樹と歩道とが、全体が居心地よくて、文化的で、カフェがあって、広告もなくて、ちょっとおもしろいピエロみたいなのが踊っているというところが美しくて文化的な景観でしょうね。246で街路樹をとったら、ろくなビル並んでないですよ。街路樹も大したことないけど、街路樹があるから、かろうじて救われている。
 246、青山通りがいいという人は、建物の高さが大体そろっているからという。美しくて品格のある都市景観というのは、建物の高さだけそろっていればいいのかという気もしますが、そこは百歩譲ったとしても、246の青山1丁目から宮益坂までのあの通りが、これが戦後東京がつくった都市景観と胸を張っていうのはちょっと恥ずかしい。
 もちろん、サブカルチャーのレベルでは、いろいろあるんです。下北沢の駅のゴチャゴチャしたところがいいとか、いっぱいあります。土曜と日曜にいろんながらくた市がやられているところとか、夕方から夜にかけての人の出入り、やっぱり人とか演出とくっつくことによって、下北沢の貧しい建物の構成も生きてくるというんですが、しかし、これは土建業がつくった町ではないですね。
 大阪もそうですよ。OBPが果たして、本当に美しくて文化的でゆとりがある空間でしょうか。新宿西口副都心だって、だれもあれを文化的でゆとりがあって、美しい景観とはもはや思わないでしょうね。

 

 これは実は大変なことです。外国から来るある種の連中は初めからそれをわかっているわけです。ある種の連中というのはどういう人達でしょうか。
 国際化というのは21世紀の重要な課題ですが、いま、労働力として、とにかく何でもいいから、中国人を入れたらいい、ベトナムの人達を入れたらいいというのは良くないという意見がかなり強いですね。これはそれぞれの人の好みによって違いますけれども、僕は旗幟鮮明に、外国の人はいいかげんな形で入れるべきではないと思っています。外国の人はきちっと、クォータ制で例えば、中国はことし5000人入ってください。韓国は3000人、ベトナムは1000人、オーストラリアは300人。地球全体を通してトータルして2万5000人とか、クォータ制できちっと入れていく。そしてきちっと審査をする。
 私たちだって、アメリカに行ったときにグリーンカードもらうためには、並大抵の努力ではくれませんね。そういうことをやらないで、ケース・バイ・ケースで外国人を入れていると、アメリカやフランスになめられてしまう。クォータ制はオーストラリアとか、やっている国はちゃんとあるんです。オーストラリアは白豪主義を捨てたというけど、クォータ制できちっとやっている。
 私は日本で外国人の議論をするときに3種類の外国人を考えなきゃいけないと思います。1つは、安い労働力として、どういうことか東京にいっぱい入ってきている外国の人たち、中国系が多いですね。
 もう1つのグループは、この情報社会の中で、日本の企業も必要とし、あるいは大学も必要とする若くて有能な東南アジア系、あるいはインド系のエンジニアです。これが大事です。そういう人たちが日本に滞在できるような大学教育をきちっとしなければいけないんですが、そういう大学教育というのは物すごくエネルギーと金と時間を食います。ところが、日本政府は、大学1校に対して毎年100人ずつ外人を受け入れろとか、そういうことを文部省がやっているために大体がいい加減でだめになる。
 私は、前の大学にいたときに、大学院教育を35歳から60歳まで25年間やって、受け入れた外国人が6人ぐらいですよ。そのかわり、6人は全部きちっと自分の国に帰って偉くなって、建築学会の会長になったり、地震研究所の所員になったり、ある人は日本に残って立命館大学の国際関係の学部の教授になったりしています。一生懸命時間とエネルギーと金をかけるとできるんですが、それ以上は受け入れられないんです。これも一種のクォータですね。1人の大学の教員が本当に外国の学生をちゃんと育て上げるのは、1年に2人ずつ受け入れるなんて絶対できない。
 ですから、そういうことをきちっとやっていけば、2番目の日本にとって優秀なエンジニア、あるいは芸術家、法律家、そういう人をバイリンガルで、英語と日本語でしゃべってくれる人を日本に滞留させることができるかもしれませんが、今はほとんどうまくいかなくて、日本を経由して、みんなアメリカに行く。行けない連中だけが日本に残っている。どういうことか、日本にいる人よりは日本国家にとってそういう人は頼りがいのある人です。
 3番目は、必ずしも好きになれないけど、つき合わなきゃいけない人達、即ち、MBAを持っているとかいう鼻持ちならない、外資の金融関係の会社、こういうところに勤めているアメリカやフランスやドイツやイギリスのビジネスリーダーです。こういう人達がいっぱい来ないと日本は今浮かんでいけなくなってしまった。そういう連中が来ないと日本の余った金を使ってくれない。そういう連中がいないと、皆さんの貯金はアメリカの国債、あるいはドイツの国債かもしれませんが、それにに化けているだけでしょう。
 それから、香港やシンガポールのビジネスリーダー。そういう連中は日本をちょろまかして儲けた金を香港に持っていって、自分の会社の金にして、その金を持ってまた日本に来て安い物件を買いあさって、高い値段で売って、またその金を香港に持っていく。これも技術ですよ。日本人は絶対こういうことはできませんが。すごい技術です。彼らがいないと、今日本の経済って動かなくなっているのです。ただ、こういう人達が必要だなんてことを政治家は一言もいえないでしょう。
 だけど、こういう人達がちゃんと安心して日本に来られて、日本の金をうまく利用してニューヨークやインドやインドネシアに適当に投資する。そういうことで結構ビジネスチャンスが大きくなるから、そこに日本人が就職するというサイクルがないと、日本の若いビジネスリーダーがちゃんとおさまらなくなってしまった。そういう経済的マシーンが東京という社会に埋め込まれているんですね。
 それ抜きで、コンピューターソフトのベンチャー企業は、インドのエンジニアを雇ったとか、中国のエンジニアを雇った。また、ビルの管理会社が、中国人やベトナム人の勤勉で掃除の上手なおじさんや若い娘さんを低賃金で雇って経営がよくなったというのがあったって、日本経済を本当によくすることにとってあまり役に立たない。
 日本経済をよくするのには、おおもとで、いま言った第3番目のグループが必要なのです。そういうことを全部頭に入れて、彼らが、もう日本に対してジャパンプレミアムを載せさせないようにしながら、日本に住ませる、そういう場所が一体どこにあるかと考えると、消去法で、それはもう東京しかないというのが現実です。
 そういう人達がいうのは、東京というのは美しくない。清潔なんだけど、美しくないという。実は、パリというのは、道路を歩くと汚いですよ。猫のふん、犬のふんなどで汚い。だけど、きれいなんです。そういう点で、彼らの価値基準に合わせて、どうだ、おまえたちの価値基準でも東京のこういう部分は文化的だろうといえるようなものがない。彼等が日本的文化を求めるというのは、本気でいっているんじゃないですね。まず東京へ来て、アメリカの文化生活環境がちゃんと保障されているところに住んでいて、それで次に日本に何を求めますかといったときに、田舎の温泉がいいなとか、浅草がいいなということなのです。じゃあ、浅草に住めばいいじゃないかといっても、絶対住まない。
 新宿の歌舞伎町あたりへ連れていくと喜んだというので、毎日、歌舞伎町につれていったら、だれもそんな国に来やしないですね。日本のどこどこがいいというのは、全部サブカルチャー的な領域でいいと彼らがいっているのを、ついついジャーナリズムも評論家も信用して、そういうのを売り出すという間違いをしているんです。
 21世紀は本当に彼等と勝負するような場所をつくらなきゃいけない。そこがどこにあるか。そういう場所は東京23区でどこにでもできるかというと、そうじゃないんですね。東京23区で消去していきましょうか。荒川区でできるかというと、ここに外資金融会社の35〜36歳で、子供2人抱えているプロテスタント系のおじさんが住んで、丸の内あたりに通うかというと、通わないですね。中野区からも通わない。杉並だっていないですよ。23区で、そういう意味では、隅田川から東側は全然だめなんです。
 中央区も僕は怪しいと思う。残念ながら、ある大手ディベロッパーがばっこを極めている港区と渋谷区と、せいぜい目黒区ですよ。目黒区も昔の都立大の丘の上とか、限られたところです。渋谷区だって松涛から南平台、広尾に限られる。
 そういうふうに考えてくると、東京23区の中でも、日本の経済をてこ入れしていくために、ハイブローの日本人がハイブローのWASPと同じ土俵で、心理的ストレスをやつらに比較的感じないで、議論をしたり、飯を食ったりできる場所をつくっておかなきゃいけない。そこにそういうことが好きな日本人を押し込めておいて、そうじゃない僕みたいなのは杉並あたりでオダを上げている(笑)。
 こういう作戦を区議会議員も都議会議員も絶対考えませんよ。だけど、それをつくらない限りは、東京なんて、ヨーロッパ系と北米系のビジネスリーダー、大学の先生、日本文学をやっている大学の先生を除いて、だれもここにやってきて、すごい都市だなと思わないわけですね。



すごい都市をつくる

 すごい都市をつくらなきゃいけない。美しく文化的でゆとりある都市というのは、日本人はほどほどのものをつくれるんです。しかし、すごい都市というのを、東京の中にどこかにつくる必要があるんです。
 すごい都市、ニューヨークのマンハッタンなんかすごいですね。それから、ロンドンのシティの戦災復興による駅前の再開発はすごみがありますよ。パリのデファンスはひどい副都心で、新宿副都心の方がよっぽどきれいですが、例の有名な7大プロジェクト、8大プロジェクト、公園をつくったとか、オペラ座をつくったとか、国会図書館、大蔵省、あれなんかもすごみがあります。単体でも、建築作品としてすごみがある。すごみを感じさせるような建築やそれが集積した都市空間をつくるのが、国際都市としての東京にとっては重要だろうということです。
 ところが、おもしろいのは、この都市再生懇でいろんな委員、これだけ有名な識者達がいったことをプロジェクトの提案として8つにまとめたんですが、その中で、美しく文化的でゆとりある都市づくりというところでの発言をまとめたら、具体的にすごみのある都市というようなものを何もいってないのです。「電線類地中化等良好な景観形成のための事業、看板、屋外広告の強力な規制」、こんなの何十年も都市計画の連中は言ってますね。それから、「水と緑にあふれる都市空間の積極的な創出」、これも平凡。「建築物の形態、意匠等の調和が図られた都市景観」。調和をやり過ぎたから、日本の都市というのはすごみがなくなった。都市空間って、ある程度でこぼこしてなきゃいけない。基準法なんかでみんな丸くおさめちゃったから、おもしろくないんです。
 「都市づくりの視点を経済から文化へとシフトさせることが重要である」。ほかの国際都市、ニューヨーク、ロサンゼルス、フランクフルト、ロンドン、ベルリン、ミラノ、そういうものと比較して、美しく文化的ゆとりあるものをつくるのは大変なことなんです。
 こういう文章では具体的なことは何も出てこないのです。日本の文化人の限界でしょうか。やはり都市計画家を信ずるしかしようがない。
 ただ、1つだけいいことが書いてある。「美しく文化的でゆとりある都市づくり、さらに首都高速が上空を占める日本橋川を復活させるなど、都心の水辺空間の再生を通じて豊かな…」。これはいいっぱなしだけど、一応総理大臣と建設大臣から任命された委員が書いた文章ですから、開き直って、この文言どうするんだと政治家にいえるわけです。日本橋の高速道路は埋めてしまえということを書いたんです。それができない限り、日本は文化国家ではないと書いているわけです。



制度・手法

 いろんなことをいっても、役人から言えば問題は制度と金であり、これについて、いかりを一応おろしておこうじゃないか。そうでないと、わあわあいう文化人集めた船なんて、気がついたら、国会議事堂からも都庁からも遠く離れたところに行ってしまうかもしれない。だから、制度と金についてきちっと言及して、都庁と国会、霞が関の前にでんと、残しておかなきゃいけないといったら、うまい具合にそれも入りました。

 

 自己宣伝なんですけれども、1つは金です。これについてどういうふうに書いたかというと、「都市づくりの各主体による役割の分担と連携の確保」というところで、5項目ぐらい、PFIとか何とか書いてありますね。その本文に、「特に重要であるのは、国が都市再生という政策課題に対して高いプライオリティーを置いているかという姿勢を明確に示すことである。この手段はさまざまに考えられるが…・」、ここからは私がしゃべったことを自分で編集して入れました。「いろいろ考えられるが、ガット・ウルグアイ・ラウンドの際の農業分野に関する対応に順じ、10年間で12兆円の枠で都市への重点投資を行うことを鮮明にするなど、国の確固たる姿勢を明確にすることが必要である」、こう書いたのです。
 少し補足説明をしましょう。ウルグアイ・ラウンド関連の農業対策費は10年間で6兆なんです。つまり、ガットのウルグアイ・ラウンドで農産物を総枠規制から関税規制に移すということをやった。関税は、1000%という、高い関税を課していいんです。だけど、ウルグアイ・ラウンドによる関税障壁というのはだんだん下がってくるんです。初めは米に対して500%とすると、カルフォルニア米とかタイ米の売り値がキロ当たり300円だったら、それの500%ですから、1500円。1500円分の税金をかける。米は初めは1000%以上だったか。それが5年ぐらいたつと関税が少しずつ下がってくる。10年たつと、サーッと下がって、関税というのは1000から900、800台はいいんですが、500ぐらいになると、途端に500から300とか200に下がってしまう。ですから、これは長い目で見れば、日本の農業をつぶす米英帝国主義体制だと、共産党がいったっておかしくないわけです。
 それに対して、ガットに入ってないと、工業側の日本のクレームは受けつけてくれませんから、ガットに入っていて、日本が工業で主張するなら、農業ではもうしようがない。関税で行こう。米は2年間1万トンしか入れませんという総量ではなくて、関税で行こうとなったわけです。
 そうすると、農業関係の代議士と農林省は、待ってましたとばかりに、これから日本の農家は大変な時代になるから、10年間で6兆円手当てしようというのをやったわけです。今から15年ぐらい前のことです。国土計画でいうと、四全総の終わりごろです。
 そこで、10年間6兆円に関連する農民ってどれぐらいいるかなと考えると、東京、大阪、名古屋の大都市圏に、あと札幌とか仙台とか大きい県庁所在都市圏を除いていくと、3000万ぐらいになります。
 それなら、大都市はその倍はあったっていいだろう。これは感覚的です。大都市圏の人口は6000万ぐらい集まりますね。南関東を中心に首都圏、近畿圏の都市部、それに愛知と岐阜と三重の都市圏で6000万ぐらいになる。農業3000万で6兆なら、大都市圏6000万だから、倍で12兆というわけです。それをこの報告、一応政府が出したドキュメントにちゃんと書いたわけです。
 これは公共事業の過剰投入かということですが、そうじゃない。これは財源配分の、大都市傾斜なのです。大都市の持っている経済を引っ張り上げていく情報の力に対して傾斜配分をやるということで、公共事業を見直すのに少し役に立つかなということです。これが1点です。

 

 2点目は、都市づくりの各主体による役割の分担と連携の強化で、さっきいったように、「国、地方公共団体の役割分担のあり方について議論の継続」、役人が書くと何が何だかわからないことになってしまうのですが、これは何をいっているかといいますと、7都県市と国が一緒になって常設する協議組織、協議機関をつくろう。そして、南関東7都県市が抱える共通の諸問題を、国を引きずり込んで摘出し、その解決のために、国も責任を持って財源措置をしろ、あるいは制度の改正をしろ、そういうことです。
 そんなことは今までの国土計画や首都圏計画なんかでやっているんじゃないか、と言うかも知れませんが。あれは全然違うんです。首都圏計画とか近県整備計画の実体は、お役所の方はご存じだと思うんですけれども、各県でやっている公共事業を広く、埼玉県で何やっている、茨城県で何やっているというのを国土庁が集めてきて、編集整理して、1年間に首都圏の中で、公共事業の道路延伸については、直轄国道についてはこれだけ、3けた国道についてはこれだけやりました。港湾整備についても、重要指定港湾についてはこれだけの投資をしました。その箇所づけはこういうところですという一覧表をつくるようなものなんです。そこに何の国の積極的なアクションが入っているわけでもない。というのは、首都圏計画をつくる行政の部局って、何の金もない。だから、編集作業に徹するしかしようがない。それが首都圏計画の実体であり、近畿圏計画の実体です。
 ただし、北海道開発計画と沖縄開発計画は違います。北海道開発計画は常に1兆円の公共事業の配分についての計画をやる。札幌に行って、道庁の役人や北海道開発の役人と議論をすると、彼らは自信満々で、1兆円の公共事業は絶対に目減りしない、ずっと続いているのだからと、満々たる姿勢で道路の話をしたり、港湾の話をする。苫小牧東の港についても、あるいは釧路から根室に向けての高速道路についても、彼らにとっては当然やるべきことなのです。ところが、大都市圏の計画というのは何も金がない。
 それに比べて、ここで書いたことは、金と権力は国が持ってこい。国の金は7都県市がみんなで使う。権力の内容について7都県市が吟味して、おかしかったら、その権力を直すように国にリクエストする。国はそれに応じて直す。そういう水平的な常設機関をつくる、ということなのです。
 これは実は石原知事が一番やりたいことなのではないでしょうか。



今後の課題

 いろいろお話ししました。最後に、参議院選が終わった後どういうふうになるか、どういうふうにこれを使うか。1つだけ確実なことがあります。今からそろそろ芽がでていますけれども、国と7都県市が入った常設の協議機関をつくらざるを得なくなるだろうということです。これは国にとっても非常にメリットがあるんです。というのは、7都県市の水平調整ということは国側から要求しなきゃいけないんです。これは国にとってすごく国を強くする立場です。
 つまり、千葉県知事、千葉県がどういう知事になるかわからないけれども、新しい知事と、石原都知事と、千葉市長と、川崎市長と横浜市長ぐらいが集まって、東京23区と川崎の川崎区と横浜の東区、中区、西区ぐらいの生ごみの焼却灰を埋める島を東京湾のどこかにつくろうということについて合意するということを国が要請したっていいわけです。水平調整ができると全国知事会にいって地方分権が始まったんですから、それを守って下さい。あなた方、水平調整できるといったでしょう。だから、地方分権が始まったんでしょう。そういうことを国が要請できる。もちろん、7都県市側からも国に要請ができる。
 そういう非常におもしろいことがこれから起きるのではないか。参議院選の後、常設機関ができる。そうすると、首都圏計画なんて要らない。近畿圏計画も要らなくなるかもしれない。要するに、広域圏計画というのをもう一回見直さなきゃいけない。首都圏も、近畿圏も、中部圏も、編集作業だったら、電通あたりに適当に各県の企画部のデータを集めて適当に編集させた方がよっぽど役に立つ資料になります。それを今まで国土庁の大都市圏整備局がやっていたんです。それよりは、協議して、問題を摘出して、10年間12兆の金が本当にあるなら、それをプライオリティーをつけて使う。順位づけを知事と市長と国の内閣府長官あたりがやってというのは、相当激しくて歯ごたえがあって、こういう話なら外人さんに聞かせたって、相当威張って話せる。
 そんな話がこの報告書の中で生き残っているのです。

 

 最後に、これは付録ですが、空港の話でおもしろいことを考えましたので紹介します。
 きょうの日経で羽田空港の滑走路の提案が、国土交通省の案と東京都及び三大空港会社の案の2案が出ていました。いずれも、羽田の滑走路を増設することでその容量を増やそうというものですが、ここで大きな条件になっているのが、コンテナ船の航路の確保の問題なのです。
 コンテナ船ですごい話を聞いたんですけれども、1万2000個のコンテナを積む船が出てくるそうです。3時間か4時間で処理できるクレーンを持ってないと、1万2000個を積んだコンテナ船はほかの港に行ってしまうという話が出てきました。
 羽田の埋め立て地に接する航路をコンテナ船が通って大井埠頭に行くわけですが、この航路のところを飛行機があまり低く飛ぶと、コンテナ船のマストをひっかける。それを避けるためにどうしたらいいかというと、航路を変更する必要がある。ところが航路を変更する為には、羽田の埋め立て地の一部を更に沖合方向にせり出す必要があるのです。そこは中央防波堤の外、東京都民がこれから25年間、生ごみ、生活ごみを焼いた灰を捨てる場所なんです。これを削る必要があるわけです。ところがこれを削ったら、25年もつのが15年しか持たないということになる。面積が減るわけだから、明らかにそうでしょう。ではそのゴミ捨て場の境界は何で決まっているかというと、江戸川の河口の線なのです。江戸川の線を真っ直ぐ伸ばしたところの線で決まっている。つまりこっちが東京で、こっちが千葉。大変なんです。(笑)漁業権の問題とか、いろいろと大変です。
 両方の県庁と都庁にとっては、東京湾の海底の生物資源の調査とか、漁業権のこととか、台風のときに船をどこに泊まらせるかというときに、これは千葉県側の管轄か、東京都側の管轄かというのは、ちょうど警察と警察の間に死んだ犬を置いて、向こう行ったり、こっちに行ったりするのと同じように、いろいろトラブルが多いんです。それでこの線が決まっている。
 江戸川の河口がいつできたかというと、多分、徳川家光のころかもしれません。そのころの古証文をもとにして、20世紀の末のすぐれた東京都庁の官僚と千葉県庁の官僚が議論して、これがまた21世紀に続くなんておかしい。
 フェニックス計画というのは、こういう縄張りを超えてどこかにごみ処理場の島をつくりなさい、厚生省が過分のお金を出して、面倒を見ましょうということですね。21世紀に20世紀のこういう縄張り論というのはないだろう。航路がこうやって減ったんなら、思い切って、千葉県の方に領分を広げたっていいじゃないか。広げたところに意図的にコンテナ岸壁をつくっておいてやれば、これは千葉県の方の税金に黙っていたって入ってきます。ごみ処理の埋め立てだって全部埋め立てる必要ない。真ん中だけ埋め立てて、両側の岸壁のところはちゃんと耐震堤防をつくって、バックヤードをコンテナのところにすれば、それだけの面積とれます。今処理場として埋め立てている部分だけでも、ニューヨークのセントラルパークの2つ入るんです。そこが今はごみの島です。
 中央防波堤の外は、羽田の飛行場ぐらいです。そこのところに幾らでもコンテナの岸壁をつくるのは可能です。航路のつけかえをこういうことを考えてうまくやれば、羽田の空港の滑走路の問題は、解けそうな気もするんです。
 こんな話は、国土交通省の役人だって、都庁の役人だって今できないですね。やっぱりこれは頭がクルクル回る学者がやらなきゃいけない。都市圏の都市再生に向けての飛行場の問題について、補足ということでつけ加えさせて頂きました。
 きょうは井尻先生がいらっしゃるので、少しハイテンションでしゃべり過ぎました。(笑)



フリーディスカッション

井尻(拓殖大学日本文化研究会)
 大変おもしろい話を政治状況との接点で伺い、大変興味深く感じました。
 都市再生推進懇談会では、小渕前総理の、例の生活空間倍増戦略プランについてのはなにか言及がなされたのでしょうか。僕は彼の施政方針演説を週刊新潮で2度ほど褒めまして、日本人が自信をなくしておるが、全国を巻き込んで、生活空間倍増計画をやろう。これをうまく成功させると、小渕総理は、池田勇人の所得倍増と同じような歴史的評価が得られるでしょうと、私は電話仲間だったものですから、そんなふうに申し上げたことがあるんです。もちろん、東京圏といいますか、首都再生というのは、物すごく大事なことです。しかし、首都のことで3000万の関心を引くのもいいんですが、地方のことも考えますと、その生活空間倍増計画を各都道府県の県庁所在地を手始めに、そういう全国的な広がりのある話はその会の中では議論されたのか。
 もう1つは、こういう東京圏の再生を考えるときに、首都機能移転論はもう忘れたというスタイルでいったのか、その微妙な……。石原知事はもちろん反対していますから。ほかの皆さんが首都機能移転論に対してどんなふうな発言をされたか。その2つを生々しいところで。

伊藤
 随分前の話ですから、枯れてしまった話ですけれども、前半の話は、今回のタスクフォースの課題ではなかったんですが、これはしょっちゅう議論しているところでございます。特に県庁所在地をどれだけよくするかという話。これについては、特に国土交通省としては、中心市街地活性化の問題を入れて、長年ずっと面倒見てきているわけです。ただ、問題は、県庁所在都市でも、こういう事情があります。外部的事情は、地方に対する公共投資が、どうしてもダムとか国道、圃場整備とか、そういうことになりますから、県庁所在地そのものの生活環境、例えば自然環境とかをよくしていくという形で金がなかなか入らない。
 その一番いい例は、地方は特に、公共事業をすぐに仕事をしてもらって、お金を入れて、それがその地方の人夫手間になって、そしてお店屋さんに行くということを考えますから、国道のバイパスをつくるということが一番手早いんですね。国道のバイパスを次々つくっていく。農民も反対しませんし、地方都市の郊外に住んでいる奥様方もだれも反対しません。結果として、国道のバイパスが次々とつくられていって、それで出てくるのはひどい景観なんです。そういう点では、地方都市が、あるいは地方側も、公共事業をすぐに現金化するというんじゃなくて、基本的な地方都市のインフラをつくるために、10年なら10年じっくり公共事業を体系的に入れるという姿勢がないとだめなんです。
 どうしても選挙に流されまして、バイパスつくっただろう、すぐにショッピングセンターできただろう、アルバイトのおばちゃんの仕事がこれだけふえただろうというのがあるんです。これを直していくのも、外圧なんですよ。1つそれを直していくきっかけで、僕が特に地方の市長さんや知事さんにいうことは、北欧の5カ国、アイスランド、フィンランド、スウェーデン、ノルウェー、デンマーク、この5カ国が一緒になって、アメリカ型ショッピングセンターをこれ以上野放しにさせない。これ以上ショッピングセンターを畑地につくらせないで、厳しく禁止させていって、そのかわり、町の再開発を通じてショッピングセンターをどうしてもつくりたいなら町の中へつくれ。そういうので、足並みをそろえたんです。それぐらいの国の専門家がきちっとした方針を出すということをちゃんとやっているじゃないかというのを、代議士さんとか知事さんや市長さんに勉強してもらいたいと思う。そういう情報も入ってきていますから。外圧が日本というのは政治にはどうしても必要。これが1点ですね。
 第2点の首都機能移転ですが、このタスクフォースの課題ではなかったので、ほとんどいわなかったですね。もうちょっと、これにひっかけて、風が吹けば桶屋が儲かる的にいいますと、これは大都市圏の再生懇談会なんですが、実はこの間の3年前にやった全国の21世紀の国土のグランドデザインの中で、政府がやるべき国土づくりの4つの課題というのを挙げました。1つは地域連携軸で、もう1つは多自然居住、もう1つは国際広域交流圏、もう1つが大都市のリノベーションなんです。
 地域連携軸というのは、今つくられている自動車専用道路の、もっとソフトな面で有効に使うための考え方がいろいろあるんじゃないかというので、僕はここでも話したんですが、瀬戸大橋がただならば、高知の深層水と鳥取の境港を結びつけて、そこの材料と水とを使って、香川県の冷凍食品の有名なもの、そういう会社がまた新しいものをつくるだろう。こういうのが地域連携軸産業です。
 それから、多自然居住というのは、山間地域、山の多いところに都市の人たちが新しい価値を求めて住んでいくような状況をつくろうということです。
 国際広域交流圏というのは、地方の基幹空港の整備です。例えば新潟空港なんか非常に重要です。新潟空港の滑走路は3000メートルにしたっていいんじゃないかとか、そういうことなんです。
 実は、都市のリノベーションというのは、不思議なことに、これが政府の国土計画の非常に重要なキャッチフレーズに、20世紀が終わるときに初めて入ったんです。ようやっと大都市が入った。それも率直にいいますと、阪神・淡路の地震があったので、入ったんです。それがなかったら、東京や大阪なんてまだいいよ。問題の深刻なのは東北とか北陸とか山陰じゃないか。そういうところに対して傾斜的な公共事業を配分することが国土計画の目標じゃないか。そういう伝統があります。その中で20世紀最後の、もしかすると最後の国土計画、そこへすべり込んだんです。それも受けているものですから、大都市についてかなり傾斜して話をしたいという思いが、参加したメンバーの中の4〜5人の専門家には物すごく強かった。地方都市と農村についてはちょっと別の話題にしたわけです。
 首都機能移転は、井尻先生ご存じのように、石原慎太郎と扇千景さんですから、どうしても……。(笑)そういうことでございました。

松土(荒川区都市整備部都市計画課)
 プロジェクトの提案の「安全と防災性の向上」のところ、木造密集市街地の整備改善についての促進というのは、私どもはすごく関心がございまして、私どもの中で悩んでいるところでございます。その中で、どういう議論がされていたのか、その辺お聞きしたいと思うんですが。

伊藤
 実は私は杉並に住んでいるんですけれども、杉並区役所から全然お呼びがなくて、荒川区役所は、前々区長のときにお呼びがあったので、喜んで行って、いろいろやったんです。荒川やって、墨田やって、台東やって、葛飾やって、足立やって、あの辺は私の馴染みの場所です。そういう点では親近感がありますので、お答えします。
 結局、ここは不燃化促進なんですけれども、ここで書いているのは当たり前でできないことばっかり書いてある。例えば、細街路の統廃合も含めた街区の再編なんて、だれもできないです。敷地の複合化、もう、そんなことできないですよ。オープンスペースをつくるなんて。そんなの今の市民参加の地区計画がやったって、例の墨田区の京島を見れば、あれだけ墨田区役所が頑張ったって、あのざまですからできない。
 じゃ、嘆き節だけじゃなくて、やることがあるかというと、僕が書いたのは、1つは、例えば、荒川の都電がございましょう。都電の駅の周りだけは、小さくていい、100メートル角の1ヘクタールでもいい、そこだけ何か再開発をする。都電の駅を含めて1ヘクタール。再開発で基本的に不燃化します。必要なのはお年寄りのためのお手洗い。それから交番か、交番への連絡機能、保育所と老人委託所、これ大事なんです。主としておばあちゃん。そういう日常生活の中で何か急に必要になってどこへ行ったらいいかとなったときに、とにかく都電の駅のところに行けば何かあるという、公を中心にしたビルをつくって、その下に耐震貯水槽ででかい水をボンと置いて、場合によっては、そのビルの上から霧にしてノズルから出しちゃって、その建物だけ守るとか、そういう細やかな駅前再開発をやろう。町屋でやっている組合施行の再開発、あんなことをやると時間ばかりかかってしようがない。ああいうのは、やってもいいけれども、あれだけで区役所も都庁もヘトヘトになっちゃう。
 だから、1ヘクタールの都電の駅前で、ずばりいうと、都庁は、うまく行くんだったら、とにかく5億円出す。それを区役所と地域の人たちが使って、どういうふうにでもいいから、そこに生活利便施設をつくって、不燃化しておきなさい。いよいよとなったら、耐震貯水槽の地下におじいちゃんやおばあちゃんはもぐる。そういう方が現実的かなと思っているんです。
 確かにこの報告書の用なお経を書かないと政府も国民に怒られるし、政治家も落っこっちるんですが、お経は通用しないというのがこの50年で、嫌というほどわかったわけです。そのために何が必要かというと、手前みそですけれども、区役所の人だって忙しいから一々つき合っていられませんから、例えば都電の駅、2駅に1つずつそういうのをつくるなら、荒川区役所を退職した都市計画課長さんとか、東京都庁の住宅局にいて、やめてブラブラしている人とか、大手のコンサルに絞り上げられて仕事のない若い専門家とか、そういう連中をそこに1年500万で雇って、そこにいろ、そこで話を聞け。情報を集めてこい。1年間とにかくそこにいてくれ。そういう人をいっぱいつくらなきゃいけないと思うんです。
 今のコンサルとか、設計事務所はそういうことをやらない。話を聞いて、事務所に戻って、統計データを集めて、できもしないことで、ぶ厚い資料つくって、1000万円持っていっちゃう。ああいうのは全部入れない。そういう新しい人材派遣のシステムをつくる。これが一番重要じゃないか。こんなことを書いたんです。

角家(建設会社OB)
 本日はありがとうございました。先生が2時間にわたって特に強調された、東京を美しく品格のある町、すごい町にしたいというお話でしたが、具体的にはどのように……。

伊藤
 一番簡単なのは、街路樹をみんなで高くしようということをやるだけで随分変わると思うんです。表参道のケヤキを取り払ったら、ろくな町じゃないですよ。地震のときに少しぐらい倒れたっていいんですよ。日本の植木屋は、庭をつくるように剪定やって、ろくな形にしないでしょう。パリは日本ほど台風がないからいいんですが、パリのマロニエなんて、4メートルも5メートルもボンボン立ち上がって、風でブラブラ上で動いています。一番スピードを上げてやるべきことは、街路樹の総点検ですよ。あんな街路樹を入れておく限りは絶対いい町にならない。町の建物のデザインをよくしてとか、そういうことをいうとすごい時間がかかりますから。すぐにやれることはこれです。
谷口
 どうもありがとうございました。
ちょうど時間になりましたので、本日はこれで終わりたいと思います(拍手)


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