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第158回都市経営フォーラム

ウエルカム・人口減少社会

講師:藤正 巖 氏
政策研究大学院大学教授


日付:2001年2月21日(水)
場所:後楽国際ビルディング大ホール

 

1.社会システムの設計をするには人口減少を前提に

2.人口減少はなぜ必然か

3.日本人口はどうなるか、世界人口はどうなるか

4.子供はなぜ生まれなくなったのか

5.世界最初の人口減少社会−日本

6.国民から個人の時代へ

7.成熟社会への羅針盤

フリーディスカッション



 皆さんこんにちは。わざわざ聞きにおいでいただきまして、ありがとうございます。
 政策研究院という国立の大学院大学が1999年の10月から始まっておりまして、行政官を再教育することと、資格を与えるための教育をするのが目的で、もう1つの役目に研究があり、8つの研究グループが立ち上がっております。私の研究グループが2つ目のもので、最初のものは、皆さん、本屋で見られるとわかりますように、後藤田さんとか、今は竹下登さんの本が出ておりますが、ああいう政治家や重要な国政を左右したような人を片っ端からインタビューしまして、非常に長い時間をかけてそのインタビューをブラッシュアップして本を出すという仕事をしているチームがあります。私は理数系なものですから、彼らは過去を見るんですけれども、私は未来を見るということで、そういった仕事を今までしてきました。
 この「ウェルカム・人口減少社会」は高齢社会のプロジェクトが始まってことしが3年目で、今年3年目のまとめのシンポジウムをやるということになりました。
 このシンポジウムはファックスで資料をよこせといって、参加するよとおっしゃっていただければ、参加できますが、ただし90名で満杯になりますので、きょうあたり案内状を発送しているところで、まだ間に合うと思いますので、ぜひともご参加ください。
 今回は討論が多いことになっておりまして、会場からの討論、質問がいっぱい受け付けられるということで、ぜひご参加いただきたいと思っております。



1.社会システムの設計をするには人口減少を前提に

 きょうの話は、高齢化社会を調べていくうちに、社会がどうなるかということを調べる必要がある。そのためには、はっきりいうと、人口モデルに当たる私は「社会構造モデル」といっていますけれども、そのようなモデルがどうしても政策研究院の中で必要となってきました。それは小さな自治体あるいは会社や、大きな国といった、どのレベルでも社会構造が予測ができて、しかもそれをほかのモデルにつないで使うことができるようなモデルをつくろうということになりました。これは私がたった1人でつくっております。1人でつくって皆さんにばらまいて使ってもらうという形で仕事をしてきたわけです。
 ところが、これが予想に反しまして、非常に簡単に動く、それからよく動くということで、使ってみるといろんなことがなかなかよくわかるわけです。
 もう1つ、私はもとも自然科学系の研究者で医学系でありますから、現場を見ないことには何1つわからないという主義をとっております。ですから、こういうことをやるときにはどこかの問題が起こっている市町村に必ず行くことにしています。
 きょうも絵をお見せしますが、行った市町村は、だれかに紹介されて市役所とか町役場から調査に絶対に入らないんです。この会場には設計家がいっぱいいらっしゃいますが、私は小さい車を空港で借りて、それに乗ってまずつぶさに街の小さな道を1本1本残さず走ってみることにしています。それから、もともとフォトグラファーだったものですから、写真を大量に撮ります。
 そうやってまず何の先入観もなしに町を見てみますと、高齢化した街はとにかく変わった町が多いわけです。個性がある。その街を見てから、帰って、私のつくったモデルを使ってその街がどうなるかということを調べてみます。そうすると、予想外にいろんなことがわかるんです。こういうことで、今まで、約2年半ぐらい仕事をしてきたわけであります。
 ちなみに、この会で取り上げられている題は、私のところにいらっしゃる大田弘子さんという助教授が、非常にネーミングがうまくて、「ウェルカム・人口減少社会」という名前をつけてくれたことによります。この題が人口に膾炙したために、逆に、これが私のオピニオンだとマスコミは思うんですね。ところが、この本の内容はオピニオンではありませんで、理論的結果であります。答えであります。自然にこれからがすぎるとこうなるよという理論でありまして、そういう意味で、この答えを皆さんよく聞いていただきたいと思っております。だから、この本は書き方が非常に変わっております。
 それから、官庁に行ってこの話ををやりますと、彼らの気分を非常に害するらしくて、後でコテンパンに何かいおうとするんでしょうけれども、こっちの方が大体弁舌がさわやかですから、彼らはいい負かされるので、「あのやろう呼ぶと、ろくなことが起こらない」といって、干されるのかもしれないと思っております。



2.人口減少はなぜ必然か

 この話が非常にはっきりしているのは、これから30年以内に先進諸国のどこの国でも人口減少が必然的に起こるという結論があるということです。これはどんなことをしても、人口減少が起こるんです。常識の範囲内で幾ら出産奨励をしても、人口減少は食いとめられません。これはよく認識していただきたい。これは決していろいろな仮説や何かを立ててやることではありませんで、必然の答えなんです。絶対間違いないということをいうわけです。
 それがどういう理由によるのかというのをこれからるる述べて、社会は人口が減るよ、減って悪いことないじゃないか、こういいたいわけです。
(fig−1)資料1
 まず第1点、人口がなぜ減るか、ここが非常に重要なところです。これが意外と皆さん誤解をしておられる。これから30年間と限ると、決して子供が減ることが原因で人口が減るのではないということです。これはよく認識していただきたい。
 平均寿命が伸びたために、すべての年齢階層の人の死亡率が落ちている。社会が高齢の社会になって、人口のうちに高齢者が占める割合が確実に増加してきたんです。ということはどういうことかというと、人間というのは寿命がありまして、無限に生きられませんから、年をとると死ぬ人が多くなる。出生数より死亡数が多くなったら、人口は減るのは当たり前なんです。それを皆さん、見落としている。これがいつ減り始めるかというと、僕の予測では、2001年がピークなんです。
 どうしてか。寿命が長くなる。寿命を全うして死亡する人数がふえる結果生まれてくる人数よりふえるということでございます。だから、人口減少は嫌でも起こるというわけです。
(fig−2)
 その結果何が起こるか。答えはわかっている。原因もわかっている。これは三段論法ですから、どこも打ち破れないわけでありまして、だから、これは科学だっていうんです。
 人口の減少の数年前から社会構造の変化に伴う社会システムの変化が始まります。まず、出生率が下がります。何で下がるかははっきりしません。でも、下がります。少子化はこれから30年以後、これから30年たった後の人口の減少に大きく影響します。だから、少子化がいいとはいってないんです。悪いともいってないんです。ただ、今のところ人口が減るのは子供が生まれないからではないということです。
 2番目に、人口増加に依存した社会内の既得権が崩壊いたします。これは既に皆さんご存じのように、私は何年か前からそう思っているんですけれども、人口が減り始めるその前に何か前兆が起こる。地価が下がる。上がるわけないんです。例えば、人口が半分になる国で、地価が上がるなんてことはあり得ないわけで、地価依存型の産業は崩壊する。結局、銀行がつぶれ、建設業が不況になる。これはしようがないわけです。それから、低賃金労働依存型の産業が崩壊します。これはなぜかというと、若い人が少なく、やとった人はどんどん年とってくるからです。賃金を高くしなきゃいけない。したがって、日本の年功序列で上がってくる賃金体系は変えなきゃならないというのは自明の理です。
 そうなると、年金を減額しなきゃならない。何かの方法で年金を減額するか、年金をうんともらいたいなら、税金をうんと払う。これしか答えはないはずです。年金もらっている人から税金を取り上げる。これしかないはずで、そうじゃないと反乱が起こります。どうしてかというと、世代間の所得移転が激しく起こるからです。人口の少ないはずの人たちから多い人たちへ向けて、マイナーからメジャーに向けて大量に金が流れるような社会をどうしても許すことはできないと若い人はいうでしょうね。
 もう1つ、女の人に働いていただかないと絶対だめです。だから、男社会は崩壊します。
 それから、公的医療や介護費負担は増で、大衆強制教育は崩壊する。要するに教師は要らなくなる。私みたいに大学にいる人間は失業するだろう、こういうことになるわけです。これが暗いか明るいかといっているんじゃないんです。こういうことが起こるのは当然だといっているわけです。
 こういう答えが見えているんだから、どうやるかというと、政策を使って誘導するのか。ほうっておいて破産を迎えるのか。あるいはだれかが反乱を起こすのか。過去のシステムが自然死を起こすのを待つのか。この幾つかの方策しかないわけです。
 結局、その答えは、最終的に見ると、国民重視から個人重視へと移る。国なんかくそ食らえ。今でも森さんが頑張っていますけれども、森さんがけしからぬといって、90%以上の人が「だめだ」といったって、森さんはやめないわけですから、国なんかくそ食らえとなるわけです。
 結局、いいたいのは、デモクラシーからリベラリズムへ多分移るだろう。国境は消滅するだろう。そういうことがないと、うまくいかない。
 ここにいらっしゃる方々には釈迦に説法ですけれども、都市構造が変わるだろう。私は都市の中心に高齢者のための施設を誘導すべきだと思っておりますが、こういうことがいいか悪いかというのは、皆さんから後でお聞かせください。
 それから、都市と地域が個性化しない限りは、都市ごと、地域ごとが生き残れません。同時に、地下経済がもっと普及する。悪い意味ではなくて、要するに国の管理にかからない経済が普及する可能性もあります。既に、イタリアなんか見ますと、アングラが非常に大きいのと、もう1つ、地域通貨に当たる、地域で動く通貨みたいなものが働いておりまして、国がカウントできない経済の部分が非常に大きくなっている。そうしますと、見た目、GDPの総枠で見るよりははるかにリッチな生活を国民がすることになります。イタリアに行くと、我々日本人、彼らの2倍近い所得があるのに、何でこんなに貧乏な生活をしなきゃならないのかと常に思うわけでありまして、そういうのはひとつ、都市設計の人々にしっかり考えていただいて、反乱するなら反乱を起こしていただきたいと思っております。
 ここまでが前置きでありまして、結論はとにかく人が減るのはしようがないということであります。



3.日本人口はどうなるか、世界人口はどうなるか

(fig−3)資料2
 さて、それでは、高齢社会ではどうして出生力が下がるのか。話をはっきりしておますと、2つ指標があります。1つは、高齢化率という定義です。高齢化率は65歳以上の人口の全人口に占める割合をいいます。このパーセンテージを覚えておいていただきたいんですけれども、7%という値があります。7%の人が65歳を超えている社会を「高齢化社会」といいます。
 日本はそれはとっくに通り過ぎまして、今15%です。14%以上は「高齢社会」といいます。エイジド・ソサエティーです。さらにこれはだれも定義はしていないんですけれども、倍倍といきますから、その倍の28%というのがちょうどいいわけで、私が勝手に「超高齢社会」と名前をつけました。この社会は成熟社会です。完全に高齢化率が平坦になって、高齢化があまり進まなくなる社会でありまして、人間の種としての最終の社会のイメージだと思っていただければ大体間違いない。大体3割近く65歳以上の人がいるという社会構造に、今の医療、生存のルールからいくと、なるというのは当然のことなんです。
 もう1つの指標は出生率の指標です。これは合計特殊出生率というのを使います。TFR、トータル・ファーティリティー・レートの略ですが、これを使います。名前が難しそうに見えますが、特殊というのは、年齢、階層ごとに計算して、出生をはかってできた値でありまして、要するに出生率です。
 どういう出生率かというと、1人の女性が一生にわたって何人子供を産むか、こういう率です。だから、1人の女性が2人産まないと、つじつまが合わないわけで、2人産まないと絶対減るわけです。普通は2.1人産まないと減ります。これはいろんな理由で減るんですけれども、とにかく2.1というのが人口を維持するのに絶対に必要な数なんです。
 2.1以下ですと、人口はやがて減少します。それから、2.5から2.1の間は大体人口が定常で動かなくなります。それから、2.5以上ですと、人口は増加する。こういう仕組みなんです。
 それじゃ、高齢化率と合計特殊出生率はどういう関係にあるかといいますと、高齢化率が7%を超えますと、合計特殊出生率はまず例外なくどこの国でも2.1以下になります。したがって、高齢化社会になると、出生率が7%を超えているわけですから、いつかは人口が減り始める。
 もう1つ、赤い字で書いてありますから、よく読んでいただきたいんですが、これは世界の全部の国の統計をとってみても、高齢化率が14%以上になりますと、合計特殊出生率が1.8を超える国はなくなります。例外はありません。今高齢化率が14%以上の国は、これはみごとに先進国。要するに、先進諸国は人口が必ず減るということです。
(fig−4)資料3
 この図表をちょっと見ていただきたいと思います。ここにありますように、ここに2.1という棒が書いてありまして、横軸が合計特殊出生率が2.1の線です。これより低い値ですと、人口はふえません。こちら側の縦の軸は高齢化率です。この図には世界じゅうの国、全部で190カ国ぐらいありますが、それを全部プロットしてあります。国連の1995年の統計です。
 まず見ていただきたいのは、ここに7%という線があります。高齢化率が7%を超えてしまいますと、このわずかな数カ国しか出生率2.1以上にはみ出してきません。要するに人口がふえる側にはみ出してない。この2つの例外はとっても小さな島です。人口10万までいかない島です。この1つの国だけ例外なんです。果たしてどこでしょう。出生率が高くて高齢化率が割合に高い。これは何とイスラエルです。イスラエルは戦争していますから、必死になって、とにかく消耗した分を補おうとしますから、子供を産め、産め、産めと、昔の日本みたいに、人口は力なりとやっているわけで、そういう国以外は、平時の国ではあり得ない。
 そういうわけで、人口の高齢化率が7%を超えると、まず人口はふえなくなる。しかも、ここに高齢化率の14%の線があります。この線が14%です。高齢社会に入った国で、この部分に先進国が固まっています。これは何と出生率は全部1.8以下です。1.8を超えることはまずありません。というわけで、先進諸国の人口は全部減る。今ふえている国でも必ず減る。
 アメリカはまだ先進諸国の人口構造でないんです。だから、皆さん、よくアメリカがどうしたのこうしたの、この社会の構造はいいの悪いのっていったって、日本の今から10年とか20年前のことを考えてください。あれと同じ行動しているんだから。そういう国と競争するときに、彼らの論理でやって負けるのは当たり前なんですから、負けない方法をちゃんと考えてください。そういうところが私は大事だと思っております。
(fig−5)
 さて、これをまとめてみますと、地球人口もやがては減少する。これは後で図が出てきますが、地球人口も2030年台には74億人以内で最大となって、以後減少を始めます。これは理由は簡単なんです。地球人口はことし、高齢化率が7%を超えたんです。しかも、前年の出生児数よりことしは少ない可能性があります。統計はまだはっきり出てませんが。ほとんど出生児数については平坦なんです。子供はこれ以上生まれないんです。
 国連はそんなことおくびにも出しません。地球は人口が爆発するといって騒いでますけれども、爆発するといわないと、先進国から金をまき上げられないからにすぎないんです。非常にはっきりしています。
 だから、人口論で非常に重大な問題は、これが政治学であることで、人口論というのはあえていえば答えを曲げて出すというのが重要なところでしょう。後で日本のことをいいますけれども、必ず自分の意図する方向に出生率や何かを曲げて統計をつくるということです。
 私みたいに純粋に、科学的に統計を出す人はいないものですから、私のようにやると、必ず国から、また国連から猛反撃を食らいます。これは政策研究院の予測で、学者が自分でモデルを持ってこうなるよって、ちゃんと外にいわなきゃ、国のいうなりになるしかないんです。皆さんが、何か社会の統計、将来推計を使うときは必ず人口問題研究所の推計を使うでしょう。あれは大変な間違いが入っていまして、それで社会を推計して、何%も狂っちゃったら、何やっているんだかわからない。
 地球の高齢化率は2001年に7%を超え、2040年代には14%を超えます。ここをよく認識しておいてほしいのは、子供が生まれなくなったからでなく、今いる人たち、今もう生まれている人が年とるからなんです。国連の予測でも、高齢化率の予測は僕のモデルの予測とほとんど違わないんです。
 インドを除く人口大国は、全部合計特殊出生率が2.1以下であります。インドも、ひところ、4とか5とかいっていたのが3.5台になりまして、おっつけ2.5を割ることになると思います。
 国連の予測では出生率が元へ戻るとみんないっているんですけれども、そんなことはありません。ちゃんと相関グラフをとってみれば、出生率が下がるのが実に明快にわかります。
(fig−6)資料4
 ここにごらんに入れているのは世界人口の予測です。小さい字が書いてありますが、このラインが100億です。この黒いバーが国連の予測です。今2000年が人口60億人程度です。我々の予測は、ピークが74億人で、2030年台にありまして、下がる。高齢化率はどんどん進展してきました。実際、2000年ぐらいまでは実測値ですから、ずっとふえてきたのがわかります。見ていただくとわかりますが、出生率はみごとにズルズルと一方方向に向かって下がっている。これをどうして上に曲がるというんでしょうか。国連の人は今は下がっているけど、5年後には上がるといいます。人口問題研究所の推計も、今は下がっているけど、来年から上がるというんですね。来年から上がる根拠を示せといったら、人間は子供を産むんだ。そんなばかな落語みたいな根拠があるかというんだ。
(fig−7)
 したがって、人口の構造を見てみますと、上が国連の推計で左端が1970年です。真ん中が2000年で、右端が2030年です。緑の方が男で、赤い方が女。見ていただくと、上の3図は国連の推計で、下が真っ直ぐになっているでしょう。我々の推計は、ネギ坊主みたいに、下が曲がるといっているんです。だって、これからは出生率が前より減るんだから、こうなるだろうというわけです。だから、モデルが違うと若い人の数が相当違うということであります。



4.子供はなぜ生まれなくなったのか

(fig−8)資料5
 実はこの仕事を始めたときに、合計特殊出生率と高齢化率は、当然のことながら関連があると考えた。生物学者ですと、人がふえれば出生力が減るだろう、こう思うわけです。しかも、年とった人がうんとふえれば、出生力は減るだろう。それが生物学的な自然界の原理であると思っています。しかも、種が成熟に達したときにそうなると考える。しかし宗教家はそう考えません。「産めよふやせよ、地に満てよ」というのが、全部の宗教の定義でありますから。そろそろ宗教も新しいタイプの宗教が出てきてもいいと思います。人が減るのはいいことだ。今まではふえないといけないといっていて、それをみんなが引きずっているから、今の世の中になっている。
 ここに書いてあるのは、人口がふえなくなっている国のグループを分けると、全部で6つのグループに分けられる。まともにやっていて下がるのが激しい国は、グループ1であります。合計特殊出生率が1.5以下。ということは、女性が一生にわたって1.5人以下しか産まないんです。ここに入っている国を見てください。日本、ドイツ、イタリア、スペイン、ギリシャ、オーストリアです。ちょっと考えるとおもしろいと思いません?全部第2次世界大戦の枢軸側です。要するに、社会規制が強くて、右といったらみんな右にいってしまう。そういう国がこの中に入っているんです。
 その上にある、この真ん中にあるグループ2。ここがいわゆる西欧先進諸国といわれている連合国側です。フランス、イギリス、ベルギー、オランダ、そういうところが入っています。ここは出生力が1.7。女の人が1.7人から1.5人産む。だから、あまりひどく人口は減らない。本当はこの辺で維持できると、人口はひどく減りはしないんです。
 それに対して、グループ3というのがこの上にあります。出生率は上がったり、下がったり、年によって違うんですけれども、この上にあるのは北欧の国々です。デンマーク、スウェーデン、ノルウエーというのはみんなここに入っています。しかも平均してみると、女性の一生に大体1.8人子供を生む。こうやって見ると、人間が1.8人生まれるのはマキシマムだと思うんです。それは考えてみると、何となくわかるような気がする。
 普通の文明国で子供を産む数を決めようとするときにどうやって決めるかといいますと、大体自分と同じ数産む。夫婦で2人と、大体決める。そう決めるだろうと思うんです。これから人口が爆発するといっているときに、人口を増して自分の子供が飢えて死ぬのは困るわけですから、2人ぐらいでとめようよと。そうだと私は思っているんです。
 ところが、統計を見てよくわかるのは、どの国でも少なくとも1割以上は結婚をしませんし、子供をつくりません。1割は確実に落とさなきゃいけない。1割を引くと、自動的に1.8になるんです。だから、最大産んで1.8人だ。これより高い値、2.1になるなんて勝手に書くのはちょっとおかしいと思うわけです。
 それに対して2に近いところがあるんです。ないことはないんです。それはどこかといいますと、新大陸の国です。これは人口構造がまだ若いんです。まだ余地がある。だから、産むということです。それがグループ4に入っています。
 さて、問題はこの下のグループ6です。これがあるからこそ人口が減ると私はいっている。ここはいわゆる移行経済の国であります。どういう国かというと、共産圏で資本主義社会になった国。ここはものすごい特色があります。どんな特色があるかというと、20歳の前半までに2人子供を産んで、あと全部人工流産をするんです。人工妊娠中絶をします。人工妊娠中絶率が出生数の1.6倍なんて国がざらにあるんです。100人子供が生まれて、その1.6倍の160人を人工中絶しているんです。
 この国は出生率が全部1.5以下です。激しい人口減少が起こり始める。ソビエトなんて本当に急激に人口が下がり始めている。これと同じ現象が日本にもありました。終戦後から日本が急速に経済成長したときに、日本は出生率の低下をみごとに達成した、人口の増加をとめたわけです。そのときは100人生まれるのに対して60人ぐらい人工中絶で殺していたんです。
 ところが、今はそうはいきません。日本は今はその中絶の人を加えても、もう1.5へいかないんです。全部生まれたとしてもそうはいかない。なお、このへりにあるのは、後発でOECDに入ってきた国でありまして、韓国とか、これから入ってくる中国とか、そういうところは全部1.7ぐらいなんです。シンガポールでも1.6とか7しかない。だから、ある程度の文明の恩恵に浴し、個が確立されますと、人間は子供よりも自分のことを考える。自分たちがまずしっかり食えて楽しめなきゃだめだと考える。これは当たり前のことでありまして、それから初めて子供を何人にするか。子供を3人も持ったら大変だよといったら、これは絶対産まないわけです。
 私のところにも何人も女性の研究者がいらっしゃいますけれども、大半は40近くなっても結婚しません。「なぜ結婚しないの」というと、自分で仕事をやるのと、子供を育てるのと比べたら、自分でやる方がおもしろいとおっしゃる。
(fig−9)
 日本の出生力が回復するか。ノー。戦後の一時期を除いて、合計特殊出生率が1925年以来順調に一様に低下であります。きれいな線で低下します。1950年から70年代にかけて出生率が2.0前後に維持されました。実際は、トレンドを引くと、ずっと高いはずなんです。2.0に維持されているように見えるけれども、人工妊娠中絶が非常に多かったからです。人工妊娠中絶を全部出生率に加えましても、出生率が2を割り込んだのは1990年、バブルが始まったころからです。この間高齢化率は順調に増加しました。1970年、今から30年前に7%を超え、1994年にいわゆる高齢社会に入ったということであります。
(fig−10)資料6
 右の表を見ていただきますと、これは横に年度がとってあります。縦が出生率です。赤いのが実際の出生率です。1回高くなって、ガクンと落ちています。ところが、これに人工流産の分が全部生まれたと仮定しますと、実際は1回高くなって、それからもとのトレンドに戻り、1方向に下がっているのがわかるわけであります。
 それと、この出生率と高齢化率は大戦後から最近に至るまできれいに相関をしている。相関係数が0.98とか0.99とか、驚くべき数になります。ということはどういうことかというと、高齢化したから生まれなくなったんだという証拠なんです。なぜそうなるかというのは、人間のことでわからないわけで、そういうのが社会現象である。
(fig−11)
 日本総人口はいつから減少するか。これは2001年、ことし、1億2650万人ぐらいでピークになると思っています。1年ぐらい後ろにずれるかもしれません。
 厚生省の国立社会保障人口問題研究所の予測は、2007年に1億2778万人で最高に達し、人口減少が始まるといっています。だけれども、これは1995年の予測で、既に大外れに外れています。彼らのことしの予測、2000年の予測はすごい差があります。1995年から予測しているんですけれども私のはぴったり合っています。そのぐらいずれがある。だから、多分私の方が正しいでしょう。
 実際は2002年に人口が減ったとなると、2002年の統計を見て、厚生労働省は、減るよということをいうわけで、大体2003年の3月に公表しますから、2003年の3月ごろパニックになりまして、「人口が減る。それ、どうする!」と、新聞に載るのはわかっている。私の本にもそう書いてある。予言者みたいなことをいうけれども、論理的にはそうなります。
(fig−12)
 ここにあるのは我々の持っているモデルで、何もモデルの説明をするつもりはありませんけれども、ある年の男女の人口が入っていまして、5年おきにグルグルと回るようになっていまして、死んで残る方と、新しく移動で入ってくる方と出ていく方と両方ありまして、さらに出生のグループがある。重要なことは、人口から高齢化率を出してそれを出生力にダイレクトにフィードバックしているというのがこのモデルの特徴であります。
 このモデルの出生メカニズムの構造は、どんな形にも書きかえられますので、政策でこれは間違っているよとおっしゃれば直せばいいわけでありまして、それはやぶさかではありません。
(fig−13)資料7
 さて、日本の人口、ズルズルといって、総人口は2030年ごろに1億700万人ぐらいに減ることになります。
 官庁というのは非常に変なことをいうところでありまして、労働力は減る減ると、皆さん騒いでいるわけで、減るのは当たり前。どのくらい減るかというと、30年間で18%減ります。だけど、人口が15%減ります。15%と18%の間にわずか3%しか差がないわけで、人口が15%も減るということをいわないで、労働力が減るというと、実に不公正な言い方です。だから、労働力を入れろ。それは入れなきゃ困るところもあるのは私もわかっておりますが、そういう変なところもあります。
(fig−14)
 それでは、日本人の人口の将来推計をしてみると、日本人人口は2030年に1億700万人に減少し、高齢化率は29%となる。人口は15%減ります。しかし、2000年の現在でも18%以上の市町村は、高齢化率30%を超えているんです。これはどういうことを意味するか。要するに、今の予算配分が可能でさえあれば、30%を超えている市町村は人口構造が安定していますので、これから何にも変わりません。要するに高齢化率が進まないんです。何が起こるか?何も起こらないということです。起こるのは都市なんです。都市の方が人口の高齢化が進む。高齢化都市の方は人口構造の変化がとまっているからそのまま社会が維持されるのでありまして、静止人口に近くなってきて、もう変わりようがないんです。そこが重要なところです。
 だから、いろんなところの人を呼んで話を聞きますと、このような30%を超える市町村では今の予算体系が維持できれば、我々は何も困らない。もちろん人口減少が起こって町がなくなっちゃうとか、そういう話は別です。社会を運営するについては、今の補助金も大量についている状態が守られさえすれば彼らは何も困らないわけです。
 それ以後の高齢化には出生率が大きく関与します。そして、このままの状態が続くと、2055年には人口が7000万人台になりまして、22世紀には4000万人になって、ようやっと日本は自給できるようになる。江戸時代の人口水準になる。実際にはそうはならないと思いますけれども。高齢化率は30%の後半、40%の手前でずっと2030年から後は安定して推移します。少しずつ高齢化率は上昇を続けます。そのときの出生力、合計特殊出生率が幾らぐらいかといいますと、計算してみますと、1.1幾らです。1人のお母さんが一生にわたって1.1人産む。これはどんな状態かというと、今の東京都がそうです。東京都の出生率は1.1しかありません。だから、何もおかしなことはないんです。そのくらいになると、社会が安定して、十分に暮らせるようになれば、多少産んで、しかも義務教育もただでとやれば、これは子供が生まれるかもしれません。
(fig−15)資料8
 実際に日本の人口を予測しますと、全人口はズルズルと減ります。はっきりいって、2100年までプロットしてありますけれども、わかるのは30年ぐらいまででありまして、そこから後は私もどうなるかわかりません。
 よく見ていただきたいのは、高齢人口、65歳以上の人口は2020年から減り始めるんです。だから、高齢化率は一たん30以上までいきますけれども、それから後はほとんど安定して動くことになります。人口の構造がそこで成熟に達して、もう動かないということです。
 もう1つ、医者の常識からいいますと、今の死亡率はもう変わりません。ノーベル賞をもらうような有名な方が何人も集まった会で、近未来、2050年ぐらいには平均寿命が100歳になるというばかなことをいう人がいるんです。あいつら本当にノーベル賞もらったのかといつも思っているんです。そんなこと起こりっこないんです。今の生命力を1.5倍、5割ふやしたって、平均余命はわずか0.2歳ぐらいしかふえないんです。要するに、死亡率はもうストップなんです。いじりようがないんです。
 人間は生きる極限まで生きちゃっているんです。あといじれるのは、テロメアを長くすること。死神のローソクというのが染色体の端についていますけれども、これが細胞分裂をするたびに短くなっていくんです。皆さんの細胞をとって染色体を調べて後ろのテロメアを調べれば、あと何回分裂するかわかるぐらいで、おれはもうほとんどないなと思う人はしっかり比べるとよい。もしそれを長くすればもっと長く生きられるんですけれども、テロメアを長くすると、成長までの時間がかかるんです。結局大人になるのに時間がかかるから、時間だけが長くなっただけで、おっとりしたゾウみたいな人間ができるんでしょうね。(笑)
(fig−16)資料9
 政策研が予測した1970年の日本人口と、2000年と、2030年を見ればわかるんですけれども、今2つ出っ張りがある。団塊の世代と団塊の世代ジュニアです。だけど、それが2030年には全部上に行っちゃいまして、下が小さくなる。完全なタマネギ型になる。これは後でほかの国と人口の比較をしてみるとわかりますけれども、相当違います。
(fig−17)
 日本の将来人口の構造はどこに特徴があるかといいますと、現在2000万人の高齢者が2015年から2045年の30年間に3000万人ふえます。1000万人高齢者がふえるということです。これもよく認識しておいてください。医学の常識では、今の65歳は20年前の55歳と同じ生理年齢です。非常に寿命が長くなって、年とっても元気な人がふえてきている。ということは、平均余命をちゃんとはかって、長くなったらその分だけ社会システムをかさ上げしなければいけないということです。社会システムの中で働く人たちをもっと年とったところまで、働かせるんじゃなくて、働いていただいた方がよろしい。それだけの能力を皆さん持っているわけです。私だって、こう見えてももう63です。もうちょっとする老齢年金もらえます。私は二十数歳のときと何も変わってないと思うんです。(笑)そういう世代がいっぱいいるわけです。今は元気な人がとにかく多いんです。
(fig−18)
 日本は米国に比して、2015年に800万人以上の過剰高齢者を抱えています。日本の人口の総数をアメリカの構造で割り振りをして推計するとこうなるんです。日本ではアメリカよりも過剰高齢者が2015年に800万人多いんです。しかしこのまま2030年になりますと、日本より米国が過剰高齢者を抱えるようになる。西ヨーロッパに比べると、今はちょうどどっこいなんですけれども、2015年に400万人以上の過剰高齢者がいることになります。ところが、2030年からヨーロッパの方が過剰高齢者になる。
 したがって、何をいいたいかというと、この25年間うまくしのぐと、我が国は成熟社会の世界のモデルになれるということです。しかも、既に高齢社会になっている地方自治体を見ると、うまくやれば全然困らないということが明らかになります。
 だから、もうちょっと地方をよく見ていただきたい。今何が起こっているか、見ていただきたい。都市の中で幾ら頭をひねったってだめです。
(fig−19)
 これは高齢者と未成年者の人口の推計です。ここに65歳以上の日本人人口がでこぼこになっていますが、最初のピークが来るのが2015年です。第1回目の団塊の世代が高齢者に入るときです。それから、そのジュニアが通り過ぎるときが2040年にもう一度65歳以上人口のピークが来ます。この辺まで我が国がしのげれば何とかなる。女性の方がはるかに多いんです。現実に、どこかにツアーなんかに行きますと、女性だらけです。おばあさんというと怒られるから、熟年の女性が大量にいらっしゃいますね。(笑)
 市町村でも呼ばれて講演をやるときがありますが、そうすると、牧伸二じゃありませんけれども、おばあさん、おばあさん、おばあさん、おばあさん、おじいさん、おばあさん、おばあさん、おばあさん、おじいさんとなる。(笑)本当にそうです。
 一方19歳以下の人口が一方的に減少します。30年から先は、どういう出生構造になるのかはわからないんです。幾ら減るといったって、限度があるわけで、人口が減るから減りますけれども、それ以外はちょっと再考の余地があるということになるでしょう。



5.世界最初の人口減少社会−日本

(fig−20)資料10
 さて、もう一度これを外国の人口と比べてみると、こうなります。この赤いのが米国との比較で、上に出っ張っているところが、過剰高齢者人口です。ということは、日本は2015年に過剰高齢者がピークになる。だから、このときをうまくしのげれば我々は何とかなるんです。日本の高齢化率は今ちょうど西欧と同じところにあります。西欧の方が長い間かかって高齢社会になりましたから、ずっと前から高齢社会なんです。そのままずっと来ている。だけど、ヨーロッパへ行って、失業の問題なんかいっぱいありますが、皆さん、ヨーロッパの方がどうも我々よりリッチだと思いませんか。我が国の高齢化率が急激に上がってきたというところに問題がある。だけど、急激に上がったからこそ、2025年にはゼロでクロスして、それから後は、西欧はほとんど同じですが、アメリカは急速に高齢社会になります。ということは、アメリカで株を買うときは、バブルの発生する前までで、2015年ぐらいまではアメリカ、アメリカって持ち上げてもいいけれども、あの辺から彼らはものすごい大量の移民をしない限りはものすごい不況が絶対に来る。日本のバブルの再現が人口減少の10年前に起こると僕は思っているんです。今のところはアメリカは若いです。でも、アメリカは高齢化になるといって既に騒いでいます。日本はそれをしなかった。
(fig−21)資料11
 それはどうしてそうなるかというと、米国では30から40歳台にベビーブーマーがいて、日本は45から50歳にあるんです。アメリカは今まさにこれから人口がふえるところなんです。西ヨーロッパは一回ベビーブームが戦後にあったんですけれども、それが今ほとんど真っ直ぐな線になっている。ということは、今25から35歳の人たちが出っ張っているおかげで、ここはずっと人口減少が起こらないでいるんです。人口の多い世代が今一生懸命になって産んでいる。それでヨーロッパは人口が維持される。それでも下がすぼんでいる。
 日本は出っ張っているのが下に完全にすぼんじゃっている。これが大問題なんです。
(fig−22)
 何で下がるか。我が国ではなぜ出生率が下がるのか。20歳代以下ではほとんど子供を産もうとしません。高年初産婦と定義される30歳代以降では、2人の子供を産むのがようやっとであります。これは医学的常識です。30歳を過ぎて子供を持ちますと、子供はせいぜい2人。それ以上産んでも奇形児が非常にふえることもあります。それから、重要なことは、若いときから産んでないと、産道や何かが固くなる。いろんなことで出産のときに物すごく負担がかかります。お産はレーバーというんですから、労働なんです。その労働に耐えられなくなる。
 僕なんか母親が年とってから結婚しましたから、兄弟は1人しかいません。でも、母親のきょうだいは全部で10人ぐらいいるんです。彼女は34のときに結婚しましたから、2人しかいない。
 もう1つ、20歳代後半の未婚率が男性は70%です。後半ですよ。20代の後半は7割男は結婚しない。女は5割結婚しない。未婚の母は認められない。こうなりますと、20代の出産はほぼ絶望であります。どう頑張ったって、30代で産むとなれば、全員結婚したって、2人しか産まないわけですから、今出生率が1.3〜1.4しかないんですけれども、これはしようがないんじゃないですか。
 もう1つ、別の統計では、20代後半の女性の未婚率の急上昇は、女性の就労率の上昇と猛烈に関係があります。就労率が上がれば、当然子供は生まれなくなる。ということは、女性が労働に参画すれば、嫌でも出生率は下がる。結局は、女性に就労していても子供を産んでもらうために、男はありとあらゆる努力をしないといけないということです。
 それを今「一社懸命」で必死になって会社の中で働いている男の方が多いわけで、どうしようもないわけです。結局は、男女平等参画社会、労働の女性との平等ということよりも、女性がちゃんと社会に入って、仕事をして子供が産めるということを徹底しない限りは、出生力はほかの先進諸国の国並みにもいかない。これは非常にはっきりしています。
 要するに、そこでも既成概念の破壊が必要であります。子供を産んでほしければ、男の社会といわれている日本の社会構造を崩壊させなければならない。何も私がウーマンリブの世界にいるというわけではなくて、自然がそう教えてくれているわけです。
(fig−23)資料12
 ちょっとこれを見ていただきます。年齢階層別の出生率の過去と将来の推計です(ある年齢階層の1000人の女性の1年間の出生児数)。いっとう産む可能性のある世代は20から24歳です。2000年までは実測です。見ていただきますと、どんどん下がっています。1000人当たり年間30人以下しか産みません。25〜29歳も年間1000人当たり100人から急降下するはずです。同時に、頑張っているのが30から34歳です。完全に25から30歳の女性の出生率とクロスしています。30から34までの女性の方がうんと子供を産んでいるということです。
 もちろん、20から24の、もっと若い世代よりも、35から39のかなり年をとられた方たちも、その人たちよりはうんと産んでいるわけです。先ほどいいましたように、高年齢の方の出生率は急に上昇することにはならないんです。見たらわかるように、いずれ水平になる。そんな状態ですから、子供が生まれないのは当たり前。
(fig−24)
 もう1つ重要なのは未婚率です。ここにある青い線、これが女性の20から24です。今は女性は20から24の人たちは9割近く結婚しないんです。昔だったら、大学を出たらすぐ結婚する。大学出でも遅いといわれたぐらいです。2昔ぐらい前、私が若いときはそんな話でした。その年齢は今では9割結婚しないわけです。
 ここが女性の25から29歳の未婚率で1995年に5割にも達しています。未婚率は急激に上がっている。男性は20から24というのはずっと前から結婚しないですね。これが25から29の男性も7割近くは結婚してない。結婚したくも、女性が結婚してくれないから結婚できない。そういうあわれな状態です。
 これを変えるにはどうしたらいいか。それは僕にはわかりません。それは政策で決めることでもありませんし、何かうまい方策を考えればいい。1つは、出生と婚姻を結びつけないことだというと、物すごく怒られるので、いわないことにしています。
(fig−25)
 海外労働力の話は都市設計とちょっと別なので、飛ばしまして、社会の実例を少しお見せした方がいいと思います。



6.国民から個人の時代へ

(fig−26)
 市町村の話を少しいたします。こういうことを調べ始めましておもしろいのは、ある地域の将来がどうなるかということです。今から2年ぐらい前から大学の予算がついているものですから、大量に旅費が余る。旅費が余るので調査に行くということで、いろんなところに調査に、忙しいにもかかわらずとよく冷やかされるんですけれども、1つの楽しみでもあります。なぜかというと、先入観なしに社会を見るということは、自然科学者がとる最も重要な態度であります。それで社会を見てみます。そうしますと、いろんなことがわかります。
 僕が非常におもしろいなと思った経験があります。ここにお見せするのは、四国の古い家を、四国村という香川の高松に移した公園があります。古い家をみんな持ってきた。この写真は向こうが母屋でこっちが老人の家、「隠居家」と書いてあります。何でこの写真を持ってきたかというと、ずっと前、明治時代よりも前に建ったこの家が、何と隠居家はバリアフリーなんです。普通の家の床はかなり高い。足がブランとしても、下につかないくらい。隠居家はこれよりも低いというか、要するに、はってでも出られるようになっているんです。これはさすがに感激しました。
(fig−27)
 それから、私はこのサーベイを始めたころから、どうやって町の人の声を聞こうかと思いまして、公共湯に入ることにしました。今はどこでも自治体は1億円のお金をもらうと、お風呂を掘るんです。お風呂が出ると、公共湯ができる。公共湯にウィークデーに行って入りますと、じいさん、ばあさんどころじゃなくて、地元の人が、天気の悪いときだったら、農家の人はみんな集まってくるわけです。
 そこでいろんな話ができる。そこで話を聞くと、いろんなことがわかります。地場産業の移り変わりもわかりますし、実に楽しい経験になるわけであります。
 これは山梨の石和のもっと上の牧丘町というところですけれども、ここもやっぱり高齢社会の村なんですが、ここはもともと甲斐絹、絹の産地です。2万5000分の1の地図をコピーして、どうやって走るかプランをつくります。そのときに、どこに何があるか、あらかじめ大体見当つけてから行くわけです。2万5000分の1の地図ではこの辺はまだ全部桑畑なんですね。だけど、行ってみると、果物をつくっている。あの家はもともとお蚕で建てたすごい家。1階の床面積が100坪以上あります。3階建てです。物すごい豪華な家が点在して、今でもそこに住んでおられる方がたくさんいる。
 行ったときに、この人たちはこんなすごいところに住んでいて、しかも新しく建てる家もみんな大きいんですね。我々東京にいて、実に小さいところに住んでいて、どうしてこれができるんだろう。これは補助金のためなんですね。例えば、僕は日野市に住んでいますが、日野市の年間の支出するお金が1人当たり28万円です。ところが、牧丘町なんか行くと、1人当たり150万ぐらい出ている。これをけしらかぬという人がいますけれども、よく考えてみると、そんなこというなら、あなたたちはあそこに行って住めばいいじゃないか。150万もらえて、移住しちゃった方がいいんじゃないかと思うぐらいです。しかも、年とってリタイアする年齢になったら、土地買って住めば、介護保険だろうが何だろうが、東京よりはずっとましなんです。公共施設もずっとましなんです。
 だから、東京に住んでいる人は何かの理由でそこにいるんです。それは働く場所がいっぱいあるからだと皆さんおっしゃいます。そういうこともあって、こういうところを見ると、いろんなことがわかり始めます。
(fig−28)
 この家なんか見てください。立派なこと。こういう家に住んでみたいもんだなと思います。東京にいたら、こんなのを建てるのは大変でしょうね。ここはみごとに地場産業が甲斐絹から果物に変わったわけです。
 温泉に入りますと、非常に豪農の人が入っているのがわかります。「私は甲斐絹のころは養蚕やって絹をやっていたから、代官山にブティックを持っています」なんていう人が何人もいるわけです。ちゃんと絹の商売もやっているわけです。地方の人はそれなりにリッチな生活をしているというわけです。
(fig−29)
 こういうまともに産業があるところは、大体昼間畑で働いています。ところが、そうじゃなくて、兼業農家の多いところは徹底的に昼間は人がいません。全くおもしろい対照であります。この村が兼業農家が多いかどうかは、行ってみればすぐわかる。細い路地を通ってみますと、1軒も人がいません。生き物が1つもいません。生き物という意味は家畜がいないんです。どうしてかというと、飼えないからです。兼業農家の人は朝早く地元で畑に出て田んぼをやって、帰ってきて朝ご飯をつくって、年の順から順繰りに仕事や学校に出てきます。最後に保育園児を保育園に連れていっちゃうと、あとはじいさん、ばあさんだけ残る。それはちゃんと福祉バスが来て、あるいは病院のバスが来て、みんな引きさらって、町の中央に持っていっちゃう。(笑)驚くなかれ宅配便だって昼間は来ないんですから。来るのは郵便配達なんです。郵便局だけあるんです。郵便配達夫がいて、犬がほえる。こういう構造です。(笑)昔だったら、ニワトリがコケコッコーと走り回って、アヒルがいて、牛がいて、何がいてというのは全部なくなっちゃった。
 この村の家はそのじいさん、ばあさんがいなくなっちゃうと、やがてみごとに廃屋になる。
(fig−30)
 これはイタリアなんです。イタリアもフランスも、車を借りてローカルなところ、地方の村を走ってごらんなさい。全く日本と同じです。兼業で都市に全部就労で行っちゃっているところは、非常に閑散としています。ただし、日本と違うのは、都市にみんな集まってそこに公共施設があるということです。都市のど真ん中。
 これはイタリアの小さな田舎なんですけれども、そこで夏に学会がそばにあったので、ある村を訪れたところ、これはみごとです。観光客がいるわけじゃないんです。子供がわんさかといるんです。どうしてかというと、みんなここにお母さんたちが連れてくるんです。イタリアは有名な主婦が多い国ですから、みんな連れてくる。おじいさん、おばあさんと一緒に連れてきて、町がまた非常に居心地がいいようにできている。
 だから、田舎でも、町の中央に機能を全部集めちゃったらいいと僕は思うんです。あの老人介護施設や何かを片々と遠いところに置くのはやめた方がいい。すべてのものを町の中央に置くと、子供が大量に集まり、にぎやかになる。
(fig−31)
 さてと、最も有名な高齢社会の町、山口県大島郡東和町のお話をします。
(fig−32)
 ここは既に高齢化率は50%を超えているんです。65歳以上の人が人口の半分いることになります。この自治体は有名なことに寝た切りがいないんです。特養が1カ所あるだけです。しかも町の中央にあります。お店がほとんどありませんという村です。人口が五千数百。刻々と減り始めています。
(fig−33)
 瀬戸内海のこの町のある島(大島)の西側に柳井市がありまして、東側に岩国がある。島です。国立公園の中です。
 東和町というのはその島の先端の方にあります。他のこの島の町も全部条件は同じです。こういう島です。
(fig−34)
 島ですけれども、今は離島振興法に引っかかりません。なぜかというと、橋があるから。橋をかけると半島になって、途端に補助費がガクッと減る。(笑)立派な橋です。行ってみるとわかるんですけれども、伊豆と何も変わりません。全部昔の豪農です。
 距離は、伊豆なんかよりも、下関とか北九州の方が近いんですね。こんなところがどうしてこんなに高齢化しているのかなと思うわけです。
(fig−35)
 行ってみて、町を歩くと、これはお遍路さん道です。とにかく町が静かで落ちついていていいんですけれども、人がいません。まず人がいないということがある。とにかくお寺とお墓が非常に多い。
(fig−36)
 商店というのはほんとに小さな商店しかないんです。ほとんど何も売ってません。よくこんなところで商売が成り立つなと思うくらいです。立派な港もあるんですけど、じいさんたちばっかりですから、ほとんど漁業に出ないです。だから、浜は荒れ放題。国立公園の中ですけれども、浜が物すごく荒れ放題。
(fig−37)
 しかも、下関から近いですから、コマセを持って、海にまいてつり糸をほっぽり投げて帰ります。その辺で野ぐそをしてたまらぬ。町の広報をもらうと、アンケートをとったりして、そういうことがいっぱい書いてありますから、すぐわかります。
 まず最初に町を必ず全部見て、それから市役所なり町役場、村役場に行きまして、「広報をください。予算書が入っているところまでください」というんです。そうすると、予算の規模がわかりますし、何を問題にしているかがよくわかります。
 一たん、表じゃなくて、ちょっと集落に入りますと、物すごい廃屋です。3割がこんなになっちゃう。これは大きなお寺の前の立派な家の廃屋です。
(fig−38)
 これはちょっと計算してみるとすぐわかることなんです。世帯数が減っているんです。女性だけ生き残って、女性の一人世帯がやがて死ぬと、その人たちの子供はもう60を超えていますから、戻ってこないんです。そうすると、土地がそこに固定されたまま、廃屋になってしまう。今しまったばかりの家は農機具が置いてあって廃屋になったものだから、多種多様。今のうちに写真を撮っておかないと、後で全部なくなっちゃうよというところです。
(fig−39)
 いるのは、ここにおじいさんが1人いますけれども、主におばあさんです。みんな元気で自転車に乗ったりいろいろなことをしています。子供もちゃんといるんです。いないことはないんです。
 もう1つ、墓にきれいにお花が生けてある。普通の日ですよ。東京のお墓に行ったって、こんなになってないでしょう。何だと思いますか。どこのお墓に行ってもこうです。全部造花なんです。造花を入れないと維持ができない。お寺が造花を入れているわけです。そういう状況なんです。
(fig−40)
 あるのは郵便局。郵便局は無数といっていいぐらいある。昔から集落があったところに1つずつ全部あるんですから。これをうまく利用しなきゃいけない。
 お寺は立派です。
(fig−41)
 人たちは商店がないのにどうやって生活しているのかというと、回ってくる自動車販売店があるんです。自動車で来る百貨店がありまして、それが町を回っている。人のいる適当な時間に来ていろんなことをしてくれるわけです。
(fig−42)
 もう1つ、古くなった学校が幾つもあります。全部廃校です。廃校は図書館になったりいろんなことをして使っています。これは僕が1年前に行ったんですが、その年の4月に廃校になった小学校です。子供がいますから、保育園はしっかりしています。だから、はっきりいって、人が使わなくなったものは全部廃屋になりますけれども、それ以外のことは何も困ってないんです。
(fig−43)
 現実に病院の立派なのがあります。東京だったら、こんなに立派な病院はすぐ近くにない。それから、村のあちこちに病院車の駐車場があります。何もこの病院に来るんじゃないんです。本土の方からみんな患者を引きさらっていくために、あちこちに病院の車がうろちょろしている。見ていると、おばあさんやおじいさんたちがそこに立って待っていると、ピュッと乗せて、どこかの病院に行く。町で買い物して、夕方また帰ってくる。最初におじいさんが帰って電灯をつけ、子供たち、孫たちが帰って、にぎやかになり、いっとう最後に町の工場から主人たちが車に乗って帰ってくる。その人たちは夏だったら、もう少し農作業をして、夜遅くくたびれ果てて寝る。こういうストラクチャーになっているようです。
(fig−44)
 それから、町の真ん中に立派な特養があります。給食センターが充実している。こういうことで、ちゃんと行政がサービスをしているわけです。行政費が物すごくかかる。だけど、それは補助金で出ている。こういう社会構造です。
(fig−45)
 トンガラもすごいです。農機具の収蔵博物館の立派なのがありますが、写真を撮らせてくれないんですけれども、入り口のところからこっそりパチャンと。農漁村ですから、両方の古い農具がまさに展示会のごとくきれいに集まっているし、道の駅がありますし、コミュニティーセンターがありますし、驚くなかれここは巨大なサッカー場があります。全国大会を絶えずやっている。町の子供は1人もそこには参加しないんだそうです。
(fig−46)
 それから、きょうの新聞でシーガイアがつぶれましたけれども、ここも立派なリゾートが1カ所あります。ここは就労は地元の人だそうですから、ホテルがあって、滞在型のホテルです。なかなか立派なホテル。夏は非常ににぎわっているそうです。
 でも、あれだけ立派だと、資本投資した分には間に合わないでしょう。
(fig−47)
 人口がどうなるかというのは、見ていただきますと、20〜24歳のところに物すごいディップがあるのがおわかりだと思います。1995年から始まりまして、5年おきに2030年までプロットすると、社会には現在大量のおじいさん、おばあさんが残っているということです。それで高齢社会である。それが徐々に死んで、最終的にいなくなったときは、若い生産年齢人口がほとんどいなくなってしまう。こういう社会です。
 ですから、未来予測をすると、何が起こるかわかる。だから、これに対する対策を立てることができるわけです。だから、就労を無理にでもさせなきゃいけない。
 見ていただきますと、65歳以上の人口は2005年にピークが来まして、減り始める。高齢化率だって、65歳のやつが2010年あたりがピークになって減り始める。いずれは30%に落ちつく。こういうことです。そういうふうに町の将来がわかりますと、いろんなことができると思います。こういうところで地域設計をしていただきたい、そういう武器があるということです。
(fig−48)
 何が起こっているかをちょっとプロットしてみると、よくわかるのは、世帯数がズルズルと減りますと、その分だけ空き家ができるはずです。その空き家率が2000年ごろでどのぐらいになっているかというと、町全体で2割になっています。町の表のところには空き家がそうはなくて、一たん裏へ入ると、3割空き家があるというのは、まさにこれと同じことが起こっているわけです。これから20年もすると、空き家が半分になる。こんな状態で土地の値が上がるわけはないのであります。そういうことを皆さんに知っていただきたいために持ってきました。
(fig−49)
 既にこの町では、ごらんのように、20歳から64歳の何人の人で65歳以上の人を養うかということをやってみますと、1人で1人を養っている。それがやがてもっと少なくなって、それからまた元に戻るということになります。1人が1人を養うという社会は成り立たないんじゃないかと僕は思っていましたら、町の人に聞きますと、ここでは何も起こってないよ。ドンガラはあるし、温泉はあるし、食うには困らない。何がいけないんだ。ただ、外から入ってくるやつは勝手に野ぐそをたれて、コマセをまいていきやがると怒っているんです。
(fig−50)
 ここは自然の成り行きのままやっていますし、しかも豪農ですから、土地に対する執着心が強い。島全体で数十人の企業家がいて、ミカン農園をやれば成り立つようなところに何百戸と戸数があるわけですから、そうなるんです。



7.成熟社会への羅針盤

(fig−51)
 もう1つ特異的な村があります。ここは長野県上水内郡小川村。原田泰治さんという人の絵本にも描かれているような小川村という、いかにものどかな、こういう小屋がありそうな村であります。
(fig−52)
 長野の山の中のちょっとした盆地になっているところに村があります。長野から入るんでも、どこかから入るんでも、峠を越えないと入れない。これは峠の坂道の上から見た風景です。入りますと、今はオリンピック通りが真ん中をぶち抜いて白馬の方へ行っています。
(fig−53)
 この村の特徴は、介護保険料が日本一安いことです。長野は大体介護保険がものすごく安い。どうしてか。それは在宅介護をやるからです。この村は在宅介護をするために、村の人たちが非常に工夫をして、しかも医療課長の池田先生という方が、非常にうまいことを考えまして、とにかく道路を広くして鋪装するということをまずやって、その後どの家にもみんな4トントラックが入るようにしました。大きな家ですから、そこへ入る。そうすると、おばあさんやおじいさんがぐあいが悪くなりますと、救急車で乗りつけて、布団のままズルズルと乗せて、診療所に持ってくるか、村の外の特養とか、いろいろなところに連れていって、それでまた在宅介護に戻す。しかも、集落ごとに、1つの集落が1つのファミリーみたいになりまして生活をしているというのであります。
 平均寿命も長い。ここは農協、JAのスーパーがあります。東和町は入江ごとに散在して、海岸線沿いにずっとあるから大変なんです。ここはセンターが真ん中に1つありまして、ここに全部機能が集約しているから、非常にうまく効率的に運営できる。
(fig−54)
 老人保健センターもここにありますが、そういうところに集まってくるわけです。村の真ん中を大きなバスが通っていますし、何も困ることはありません。
 さすがにそれでも、農家が、今までおじいさんがやっていたものが、いなくなりますと、そのリンゴ畑は真っ黒な実になって、要するに実をつけなくなってしまうんです。非常によくわかります。ここのリンゴ畑はだめになったなと。聞きますと、「あの家はこの間おじいさんが死んだんだよ」と、教えてくれるわけです。
(fig−55)
 電気屋さんもあるぐらいで、とにかく大体のものはそろっていて、人口は東和町よりはるかに少なくて、2000人にちょっと欠けるぐらいです。
(fig−56)
 村役場です。立派なものです。そのほかにドンガラは何でもそろっています。この先生のいうには、うちは何でもつくってもらっている。全部つくってもらっている。だから、何でも使える。今は東京の小さい子供たちを呼んで、夏休み、ここでサマースクールをやったりするのが楽しみだといっています。そういうふうに地方で生活するのも悪いことじゃない。
(fig−57)
 これは助役の家です。すごい家でしょう。これが診療所。この診療所はCTからMRIまで持っている。すごい診療所です。そんなことができるわけです。ちゃんと補助金がついているから。話をよく聞きますと、「おれもこの年になったから、そろそろ健康診断というのをやってもらいたいな」と、じいさんが来るんだそうです。「何だ、おまえもう85過ぎているじゃないか。今から健康診断なんてやったってしようがないんだ」とこの先生はいうんです。(笑)
 そのぐらいのんきな話で、もっとおもしろいのは、彼らの話を聞きますと、ここは長野から、トンネルができましたからわずか30分なんです。とにかく長野に吸収される人が非常に多い。重要なことは、偏差値の高いやつはみんな出ていってしまう。偏差値の低い、頭のボーッとした、総領の甚六ですね、これが残る。だけれども、毎日農業をやる。手で何かいろんなものをつくる。村にいると、いろんな行政もしなきゃならない。そうやって長い間かかって手と村の人のつながりでいろんなことをやってきた人たちはやがて頭がよくなる。ここは定年退職になって帰ってくる率が非常に多いんです。ところが、帰ってきた人は何にもできない。頭のいいやつほどだめだ。(笑)というのが彼らの評価です。「何にもできない。クワ1つ持てないんだから。農業は毎年が1年生ということをあいつらはわかっちゃいねえんだ」というんです。
 私は、農業が日本のこれからの非常に重要なキーだと思っています。それをどうやって育てるかは、こういう村へ行くとよくわかるわけであります。
(fig−58)
 上へ行きますと、プラネタリウムがあったり、いろんなものがあったりしますが、今でもここは養蚕をやっています。
(fig−59)
 これは元のお医者さんの家です。軒に古字の「醫」と書いてあります。つい数年前までここでお医者さんをやっていた。その人が死んで、今はここではやってないそうです。
 上にはプラネタリウムがあったりして、非常にのどかなところですが、見ていただきますと、どんなところにもこういう太い道がついています。すべての農家に行けるようになっているというのを見てきました。
(fig−60)
 隣が鬼無里村です。この周りには似たような村が幾つも点在していて、それぞれ個性があって、しかも介護保険料がものすごく安いという特徴があります。今のところ1人で大体1200円ぐらいとっているようです。我々だと、東京にいても1800円ぐらいとられるわけです。
 ここは、人口予測をやってみましてすぐわかるのは高齢化率は35%で維持され、人口はあまり減らないということです。ちゃんと移動率は推計してやりまして、もちろん減りはするんですけれども、日本の人口が減る程度に減る。そんなに減りはしない。先ほどの東和町と随分違う。年とってから帰ってくるということも随分大きな要因になっているようです。
 これが高齢化率ですが、老人は間もなくピークなんです。高齢化率を見ていただきますとわかりますけれども、あまり変わらない。30%後半で徐々に徐々に上がっている。だから、そういう意味では、こういうところでうまくいっている社会システムは、人口が少ないから参考にならないという方もあるかもしれませんが、それなりに参考になるところはあると思っております。
(fig−61)
 もう1つ町を紹介しましょう。これは有名な鷹巣町であります。この町は町長さんが、ご両親が要介護だというので、介護老人の施設をつくるのに興味を持っておられる町で、ほかのところと全然違います。ここは介護を産業にしようとしている町なんです。2万2000人ぐらいの町です。もちろん特急もとまるような鷹巣という駅があります。ここの特色は、ほかのところと違って、村は全部開拓農家だったということです。貧乏な家が多い。平らなところで開拓農民で、家を見ると、北海道の家みたいです。ペラペラで貧しげな家が多い。いい家でも大したことはない。
 おもしろいことはバスが物すごくぼろい。本当にボロボロのバスが走っています。
(fig−62)
 この町長さんが、パンフレットに書いているんですが、「若いときに苦労してこられた人たちには、年をとってそのときがいっとう幸せになるようにしてあげたい。そのために使う予算というのはたかが知れている」。だから、特養も何も物すごい立派なのがあります。ここは全部個室です。多くの施設は4人部屋で設計するでしょう。ここは個室なんです。見てください。はるか離れた田んぼと山の間にものすごい施設ができている。
(fig−63)
 この周りの市町村は、東京の介護老人を引き受けるところもあります。何々区ご指定特別養護老人ホームなんてのがあります。そういうことで産業にしている。
 これが特養の入り口ですから、たまげちゃうでしょう。僕は格納庫かと思ったら、そうじゃないんです。実に至れり尽くせり、いろんなものがあります。高齢者のためのスウェーデンホームのモデルハウスが建っていまして、それを1つの売り物にしているんです。スロープがあったり、いろんな附属機器があったりして、ここでいろんなことができるようになっている。
(fig−64)
 ここを人口予測しますと、これは減ります。人口のマスが大きくて違いますけれども、やっぱり人が出ていってしまうんです。95年がこれで、2000年がこれ、徐々に徐々に人口が高い方に移っていって、いっとう働くべき人が出ていってしまっている。それでもまだここは、東和町みたいにずっと出ていった放しにならないで、戻ってきているんです。それはどうしてかというと、町で若い人を使った介護老人ホームの運営をしているからです。そういうことで、介護を産業にしようという意図がはっきりしている。そういうところは、減りはするけれども、そう大したことはない。だけれども、ここはまだ人口が若いんです。それでも、東京なんかよりははるかに高いです。東京はまだ10%台。この町は20%ぐらいです。調べてみると、どんどん高齢化率は高くなっています。
 産業がそれだけ栄えるんだから、いいんじゃないかということはあるけれども、老人の数が多くなればケアしなければならない。しかも、外の人を受け入れるようにしていますから、どんどん老人がふえるかもしれない。僕のいいたいのは、政策的にそういうことをやってもいいわけです。そういうところに年とってから人が移動してくる。そうすれば、そこに住む人たちにはそれなりのメリットがあるわけで、都会の人が、我々は税金ばっかりとられて何にも見返りがないというけれども、それじゃ、都会を離れてやったらどうですかといいたくなるのと同じで、そういういろいろな話があるということであります。
 人口の問題は、こういうふうに予測ができますと、いろんなことに応用が効きます。興味のある方は、私のモデルは有料ではありませんので、お使いいただければ幸せだと思っております。
 ということで、きょうのお話は終わりにして、あとは何でもご質問をどうぞ。
(拍手)



フリーディスカッション

谷口
 どうもありがとうございました。
 一応1時間半にわたって興味深い話題提供をいただきましたが、いろいろご質疑その他おありだと思います。藤正先生もいろんな方のお話を聞くのを楽しみにしているとをおっしゃっていますので、ぜひ、ご遠慮なく、ご意見・ご質問をお願いします。

渋谷(前衆議院議員・民生党板橋代表)
 高齢化が進んでいる下町ですが、行政も政治家も、少子化対策、少子化対策ということで、それが合言葉みたいにしてやっているわけです。きょうのお話は、以前新聞にもちらっと出ていましたが、少子化は決して原因ではなくて結果だというお話ですが、文明化による必然的な現象であって、これは避けられないんだということであれば、少子化対策ということで税金を使っている今の対策は、これは意味がない、むだだということで結論づけてよろしいんでしょうか。

藤正
 僕はそう思っています。はっきりむだだと思っています。これは幾つも証拠があります。オランダでこういう調査をやっているんです。子供が減るのがいいことか悪いことか。フランスはもっと前からやっています。フランスはまさに人口論的にどうやってふやしたらいいかということをやって、やったにもかかわらずふえなかった。だけど、あそこは百何年かかってようやっと、日本が戦後30年間に育った人口の高齢化に達していますから、減るのも非常にゆっくりなんです。子供もしっかり生まれている。ということで、フランスはそれなりにやっているんです。
 オランダがいい例で、オランダは割合うまくやっているとよくいわれる。オランダでこういう調査があります。人口がふえるのがいいか、減る方がいいのかという調査をすると、ほとんどの人は減った方がいいというんです。子供は今のままでふえると思うかという質問をすると、ふえると思うというんです。ところが、それじゃ、あなたは子供を産むかといったら、ほとんどの人は2人以上は産まないというんです。要するに、世の中でいわれていることの、常識的な部分が入っていて、そう思うよというだけの話で、自分はどうするかと聞かれると、まず2人以上は産まない。理由は簡単で、どんなに女性が優遇されたって、夫婦2人で稼げる量は決まっているので、そんなに多数の子供を十分に潤沢に育てられる理由はないんです。
 もう1つ、非常にいい証拠は、スウェーデンは、一回1.8を超えたことがあるんです。スウェーデンはどうやってこんなことになったかというと、出産に対して徹底的に補助を与えたんです。子供を1人産むと膨大なお金が出る。それはちゃんとやったんです。ところが、やってみたあげくに財政が持たないということはすぐわかるので、やめた。(笑)そうしたら、その翌年は今度はひどいことになって、1.5以下に落っこっちゃった。要するに、そのとき産んで権利とった人が勝ちなんです。(笑)
 今、家を建てるときに免税があるでしょう。あの間に建てれば、未来永劫に何百万か得するわけで、それと同じことをやるだけの話で、国民はばかじゃないですから、よく見ているんですよ、文明国の人は。みんなどうなるかなと見て、自分が得になるようにやるだけの話で、それが僕は非常に重要だと思うんです。だから、人は幾ら対策を講じても生まれない。
 それでも、日本の現状はひど過ぎる。日本で調査してごらんなさい。僕はかみさんにどやされたことがある。「あんたね、そんなこといって、子供を女性が産むと思いますか。ほとんど男が何でも決めている。それで、女性が産むと思いますか」と。周りに、政策研には女性の識者と称される人がいっぱいいます。そういう人たちは「あんた、結婚する?子供産む?」といったら、まず「魅力的な男性がいない」と、これで結婚がだめでしょう。次に、「子供を産むか」といったら、「子供を産んだって、何のいいことがあろうか。私にとって何もいいことがない」。そうなると、子孫を残すなんてことはほとんど消えちゃっている。それは絶望的です。
 先ほどの出生率の高いところは、例外なく、結婚しないで子供が生まれているアン・マリッド・ベビーが非常に多いんです。スウェーデンなんか6割を超えているんです。アメリカだって6割に近い。そういう国は非常に出生が多いんですが、これはまた別の社会問題です。アメリカなんか非常に低所得の人たちがうんと産んで、しかもアン・マリッド・ベビーで、そういう人たちが育っていく過程で非常にトラブルが起こる、そういうこともある。だから、必ずしもアン・マリッド・ベビーはいいとはいえない。
 どこに着地点があるかといわれると、少なくとも今の男女平等でない社会というのだけは直さないといけないだろうと思います。

水谷(日本上下水道設計)
 2点お伺いしたい。1点は、過去に人口が急激にふえたことを経験していますね。どうしてそういうことが起きたのか。それが1つです。
 もう1つは、そうはいうものの、そういうむだな施設をたくさんつくって、補助金で決めればいいんですけれども、ローンで公共施設をつくっています。それがみんな負担になって重くなるという気がするんですけれども、そういうのはどう考えるか。

藤正
 前の方からいきましょう。前の方は、戦争で男女が離れていた時間が非常に長かった時代があるんです。その直後は帰ってきて生まれるのはしようがないというのと、もう1つ、栄養状態が悪かったんです。栄養状態が悪いと出生率が物すごく上がるという生物学的な原理が明らかにあるんです。戦後の日本が貧困にあえいでいた時代に、大量に帰ってきて、コントロールしないで産むと、あの人数になる。だけど、あれは一時のことで、一時ふえるんですけれども、もともと社会が出生が減るというトレンドで落ちてきていますから、一回文明を経験してしまうと、ズルズルと下がってしまうのはしようがないことだろうと思います。それは妊娠はするんだけれども、中絶するという形でみごとにコントロールしちゃった。
 それと同じことが今、社会主義国の国民に起こっている。一回自分たちはまともな文明の中に入った。子供をちゃんと育てられるかどうかという価値判断で物事を処するから、産まない。
 開発途上国のことをいいますと、今度は1次産品が物すごく値段が下がっていますから、農業で食べられなくなっているんです。農業で食べられないと何が起こるかというと、農業で食べられたとき初めて子供をうんと産めるんです。どうしてかというと、働き手になりますから。ところが、今は都心の中に来てスラムに住んでいますから、子供が多いとそれだけ悲惨なことになる。だから、ストリートチルドレンがやたらにふえて、その人たちはみんな寿命が短い。
 だから、人口はどうやったって、ふえない方向にいくんだろうと思います。
 第2点は、政治の問題でありまして、私がとやかくいう話じゃなくて、今のところの財政構造が続けばいいんですけれども、確かにおっしゃるとおりに、起債もできなくなりますし、いろんなことでものすごくできた社会資本を持っている部分は大変で、だから、シーガイアがつぶれるわけです。それはしようがないことで、逆にいうと、都会の人がゆっくり地方に行って生活できるようなシステムをつくった方が僕はいいと思うんです。
 いっとうよくわかるのは、日本は地方へ行って長期滞在する施設は1つもありません。僕らがどこかに行って、コンドミニアムで過ごそうと思っても、日本の中ではなくて、ハワイの方がよっぽど簡単なわけです。東和町みたいなあんな環境のいいところにコンドミニアムをもっとつくってくれ。だって、気候はいいし、景色はいいし、猛烈に魅力的な部分があるわけでしょう。そこのコンドミニアムで長いこと滞在して、成り立つようにしてさえくれれば、結構な人が行くと僕は思う。しかも若い人、年とった人たちが行くだろうと思います。それは皆さんの方が専門家でありまして、それがうまくいかないからあのシーガイアはつぶれたんだといわれればそれまでのことです。

粟田(宮城大学事業構想学部助教授)
 人口減少最大の問題は、多分その地域によって大きな差があるというところにあると思うんです。ある経済学者、竹中平蔵さんによれば、例えば、人口が半分に減るとすれば、その場合東京を中心とした大都市圏では、それほど減らないだろう。その分、地方は4分の1に減るだろう、激減するだろう、そういう見方があるんです。それは正しいのかどうか。
 そうだとすれば、公共投資というものは、都市圏には4倍出してもいいんじゃないか。そうしないと、多分選挙民を含めてある種の反乱が起きると思うんです。現にそういう状況、政情というのが起きている。その辺のことをちょっとお聞きしたいんですが。

藤正
  これははっきりいって政策の問題でありますから、答えられないといえば答えられないんですけれども、確かに、おっしゃっているように、人口減少が大きいところは、地方が多いです。よく見るとわかるんですけれども、可住面積当たりの人口密度で割ってごらんなさい。人口が減っているところでもまだ日本は西欧の国よりははるかに人口密度がまだ多いんです。要するにまだ余裕がないんです。
 このごろ、こういう話があるんです。大分とか福井で、大農の経営のためのいろいろな組織ができ始めています。例えば、生産組合をつくったり、いろんなことをして、ことしの農業賞3賞というのは、非常にそれに近い、うまく効率化したところに出てくるんですけれども、そういうところは人をもっと減らしてほしいんです。極端なことをいうと。農家が持っている保有の土地は不在地主でいいから、とにかくだれかに預けて大農経営にしてほしい。産業にしてほしい。その上でコミュニティーをまとめたところにきちんと集めて、能率よく住む方法を考えるということの方がいい。
 そうじゃないと、今都市に資本を投下するとおっしゃるけれども、都市に投下して何が起こるかというと、何も起こらないわけです。現実に東京の都心だって何も起こらないですから。起こらないという意味は、これ以上改造のしようがないんです。今生産高が多いのは、都心の周辺でしょう。周辺に投下するといっても、周辺に行ってごらんなさい。大田とか、人口がふえているところがあるんですけれども、本当に町がどうなっちゃっているんだろうと思うぐらい、駅前が全部空き家ですね。私は多摩センターの近くに住んでいますが、多摩センターだって、その1つ向こうの南大沢に行ったら、ひどいもんです。私も都心から1時間かからない日野に住んでますが、私の住宅地だって、10%は空き家です。
 だから、どっちに金をつけるかというのは、一概にはいえないと僕は思っているんです。それはよく見て、こっちの未来がどうなるかというのを調べた上で決めることでしょう。竹中平蔵さんなんか全体を十把一からげでいうんだ。それは間違っていると思う。1つ1つが個性があって、個が確立されて、1つ1つ全部違うんですから。
 僕は車に乗って動きますから、よくわかるんですけれども、いろいろ行った町の中で僕が好きなのは足助という町です。今度環境博をやる名古屋から飯田寄りですが、この町は、行くと、いわゆるお仕着せの、木曽路で妻籠とか、きれいにでき上がって、電柱がなくて古い家が残っている、こういうんじゃないんです。古い家をそのまま残して電柱があって、まともに生活しているんだけれども、その町で持っている特殊なものだけ残すんです。これは行ってみると、すごく気持ちがいいです。
 ほうっておくと、都会に集まるとか何とか論じる前に、都会は勝手に集まればいいんで、ごみごみしているのはほうっておけばいいんです。反乱が起こるというんだったら、反乱を起こしたっていい。起こしたっていいけれども、何も変わりゃしない。狭いところ一生懸命つぎ込んだって、何も起こらないですよ。
 僕は長い間東京に住んでいる東京人ですから、よくわかります。そうはならないと思っています。だから、それはやっぱりヨーロッパみたいに小さい都市が幾つもあってというのが、いいか悪いかは知らないけれども、その方が多分楽しいでしょうね。だから、それは人によって違うし、政治家が将来どうなるかというのをきちんと予測してやってください。予測しないで、ただ気分でこうなるとか、DIDの地区の方が投資効率がいいとか、ただ経済のことだけで動くのは間違っていると私は思います。

海老塚((社)日本住宅協会)
 2点あるんですけれども、1つは、私ども住宅関連の人間にとりましては、人口よりむしろ世帯数の方が関心があるんです。もし調べられていらっしゃるようでしたら、世帯数のことについてちょっとお聞きしたいんです。私の感じだと、人口はピークですけれども、日本でも世帯数はあと30年ぐらいは伸びて、我々の住宅産業はまだ安泰じゃないかと思っているんですけれども、(笑)それが1点目です。
 2点目ですが、私は日本の出生数はやはりちょっと少ないんじゃないかという感じを持っていまして、こういう分野でやっていますので、日本の出生率の低さというのは、住環境の悪さにあるんじゃないかという気がしています。例えば、スペインのトレスカントスといういいニュータウンに行きましたときに、そこの市長さんが、「私のところは子供は2人以上いて、非常にいいんです」と自慢されていました。私たちこういう分野の人間としては、日本の住宅環境をもう少しよくすると、長期全体のトレンドとしては、そんなに上げられないでしょうけれども、せいぜい1.7とか1.8ぐらいになるような、子供が産めるような住宅地を目指すという気持ちがあるんですけれども、これについてご意見をいただきたい。

藤正
 世帯数の話は、ふえていくのは当然だと思います。1人の家がふえるわけで、ふえるのは当然で、住宅産業が大丈夫なんじゃないかとおっしゃるのは、ある程度、これから世帯数はますますふえます。それはどうしてかというと、独立家計の人が多くなるからなんで、そうなるんです。
 政策研がイギリスの住宅産業のことを調べています。これは科学技術のチームがやっています。イギリスの人たちがサーベイにこっちに来ていまして、日本の住宅産業を向こうに持っていきたいという。なぜかというと、イギリスには住宅産業が全くないんだそうです。どうしてかというと、ディベロッパーだけあって、彼らは勝手に家をつくって、そこへ住めと、こういう感じになるんだそうです。なぜかというと、家のつくり方が決まっちゃっている。レンガのこんなに厚い壁でつくるわけですから、木製の家なんかできないよとみんながいう。木製の家をつくったのはチューダー王朝時代じゃないかというぐらい。そうやったためにイギリスは住宅が全く払底しているんです。空き家が全くないんだそうです。日本と違うところです。日本は高齢化になったら空き家がふえる。英国は住宅のサプライを規制したから。
 僕は住宅産業というのは、日本は、大量の量産の方式とか、いろんなものを取り入れるのがうまいですから、十分成り立つ産業だと思うし、ライフが短いというのもいいところです。(笑)皆さんはそう思わないかもしれないけれども、簡単に構造が変えられる。そういうこともいいんじゃないか。世帯がふえるのは確かですから、個別の住宅産業はつぶれることにはならないと僕は思います。
 もう1つ、先ほどごらんになったように、地方にものすごくいい家がいっぱいあるんです。これを何とかして維持する方法がないか。リフォームの産業がもっと大きくなってもいい。イギリスはリフォーム産業はすごいらしいです。だけど、壁がこんなに厚いですから、何やるにも大変でという話で、それで日本みたいに安直に建てられる方法で、イギリス流のものができないかという話でサーベイに来ている。
 もう1つ、出生率の低さが住環境の悪さに関連があるというのは、それは当然そうだと思うんです。ただ、それだったら、これはどういうことになりますか。ドイツというのは物すごく住環境がいいです。この国が1.4を割っているんです。そう甘くはない。それは幾ら住環境がよくなっても、産まないのは産まないです。(笑)
 それともう1つ、住宅面積が広さがどうなったから、出生率が下がったり、上がったりというその関係は僕は調べてないんですけれども、調べてもリニアじゃないと思うんです。非常にはっきりしているのは、高齢化率と出生率が0.98ぐらいの相関なんです。その次に近いものが女性の労働参加率のパーセントなんです。これが非常にきれいに相関があります。この2つを足すと99ぐらいになる。特にこの10年間ぐらいは女性の労働参加率がもっと大きく効くといわれているわけで、ここがやっぱり問題だろうと思います。

渡辺(明治生命)
 多摩センターから参りました。私の住んでいる多摩センターというのは、ニュータウンができてから、一時、中高年、30代のサラリーマンの方がどっと入ってきて、今では老人タウン、オールドタウンになっています。住宅の構造は2世帯住宅に適合していないので、若者はどんどん外へ出てしまって、東和町とか、そういった町の先進を行っているんじゃないかなと考えています。
 質問は、先ほど先生は、栄養状態が悪いとき、または戦争やそういった外形環境が悪いときに人は生物学的に生まれるというお話だったんですが、私が関心があるのは、消費エネルギー量で考えますと、先進国の子供が生まれないのは、エネルギー消費量でバランスがとれているんじゃないか、こんなことを考えます。そこら辺の研究は何かないのでしょうか。

藤正
 これから、そういうご指摘があるので、やっていこうと。ただ、非常にはっきりしているのは、ほかの生物では、飢餓状態にすると、大量の子供が生まれるんです。これだけは、ネズミや何かの実験ではっきりしています。体のコンディションが悪くなると、子孫を何としても残そうとする。それを超えるとパニックになって、全部なくなっちゃう。

渡辺
 そうすると、生物学的にいいますと、植物の世界ですと、一花咲かせるという言葉があるぐらい、社会が一定限度を超えますと、上がっていくということがありますので……。

藤正
 今はそういう飢餓状態とか、生存できないという状況は何もないんですから。

渡辺
 ミクロで見ると、そうなんですけれども。マクロで見ると、そういったことは考えられないのかという……。

藤正
 それはちょっとやってないから、わからない。
 もう1つ、これだけは誤解しないようにしてほしいんですが、それじゃ、生物が個体数がふえたから、個体を制限するという条件はありますかというと、これは科学的には一切認められてないんです。鳥が大量にいるところがあるでしょう。コロニーの数がふえたときに、一体どうやって子供の数を制限されるかというと、それはみんな環境の問題です。先ほどエネルギーとおっしゃったけれども、これ以外の何物でもないんです。エネルギー産業が働けば、もっと人口は大量にふえるんです。時々、間違った人がいて、上を飛んでいる鳥の声が大きくなって、うるさくなると、うるさくなるのに比例して子供を産むのが嫌になって産まなくなるんだというメカニズムがあるというけれども、そんなこと絶対ないですね。(笑)
 やっぱりエネルギーのリスクは非常にリンクしているだろうと私は思っています。そのエネルギー問題が人間の生存のリスクまで来ているかどうかはわからない。

渡辺
 それと、先生のご専門じゃないかもしれませんけれども、コミュニティーでいったときに、均衡ある安定したモデルみたいなのはできないかどうか。

藤正
 それはできます。

渡辺
 例えば、30%前後で……。

藤正
 これは今回は特許にかかわる問題ですから、やらないんですけれども、世代会計をやり始めているんです。ある世代は自分たちが幾らもらって、幾ら払ったかということが非常に重要だと思っています。
(PDFファイル−40)
 こういうことをやりたいんです。これはスウェーデンの租税モデルの説明図なんです。国民にこういう説明をするんです。ここから上は一生かかって自分がもらうものなんです。ここから下は払う量です。これが国民アズ・ワンパーソンとすると、時代時代で合っているということを彼らは主張するんです。これで説得するんです。だから、あなたたち、これだけ税金払いなさい。日本でこれ提示していますか。してないでしょう。それが必要だと思いまして、僕は各世代別に、5歳階級ですけれども、教育費から税金から年金から、幾ら払って、幾らたまっていて、どれだけ使うかバランスがどうとれなくなるかということを提示するモデルを今つくろうとしているんです。
 国民アズ・ア・ホールもやりますし、世代ごとも。そうやって、1つのモデルをつくらないと、政治家がいっていることは、ただ自分のいいたいことをいっているだけで、何も論拠がないわけでしょう。消費税10%以上だというけれども、10%とらないと、赤字がふえるからいうだけの話で、国民各階層をどう説得して、どうするのか。お互いにつじつまが合うようにしてくれなきゃ政治家は要らないと思うんです。それをちゃんとやるためにこのモデルがあるんです。
 それは経済的にリンクしますから、今大きな経済計算モデルの中でつくり上げまして、それを動かしてやろうと思っています。

谷口
 どうもありがとうございました。
 ちょうど予定の時間になりました。もっといろんなことのご質問がおありになると思うし、藤正先生ご自身もお話しになりたかったこともおありかと思いますが、きょうは一部だけお話しいただきました。
 きょうは「ウェルカム・人口減少社会」の著者でもいらっしゃいます、政策研究大学院大学の藤正先生にお話しいただきました。大変長いことありがとうございました。(拍手)


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