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第164回都市経営フォーラム

地域コミュニティ再生型
コーポラティブ住宅の取り組み

講師:杉山 昇 氏
特定非営利活動法人 都市住宅とまちづくり研究会理事長


日付:2001年8月22日(水)
場所:後楽国際ビルディング大ホール

 

1.神田発のミニ再開発の取り組み

2.NPOへの展開

3.神田東松下町の地域コミュニティ再生コーポラティブ住宅

 @等価交換ではなく共同建て替え

 Aコーポラティブ方式との組み合わせ

 B千代田区独自の補助制度

 C住宅金融公庫の都市居住再生融資

 D成果と今後の課題

4.郊外にある団地型マンションの建て替え問題

フリーディスカッション



 ご紹介をいただきました杉山と申します。きょうは大変な天候の中をお運びいただきまして、本当にありがとうございます。
 私は、「地域コミュニティ再生型コーポラティブ住宅の取り組み」ということで、1時間半ほどお話をさせていただこうと思います。

1.神田発ミニ再開発の取り組み

 まず、「神田発のミニ再開発取り組み」と、レジュメの方に書かせていただきましたけれども、再開発といいますと、都市再開発法に基づく法定の市街地再開発事業を連想したり、あるいは規模としても地区面積が5000平米あるいは1万平米という大きな工事がイメージされておりまして、神田でも、駿河台下から学士会館の方に向かった神保町1丁目のあたり、大変大きな再開発がやられております。
 きょうは、そういう大きな再開発に比べますと、極めて規模の小さい、再開発といってはいけないんじゃないかと思われるぐらい小さな再開発に取り組んでいる事例のご紹介を中心にお話をさせていただきます。
 多少私事になりますけれども、どうして神田のミニ再開発に取り組むようになったかという経緯から聞いていただきたいと思います。
 私は、昭和47年に、今ちょっと株価が安くなっている建設会社に就職をいたしまして、平成6年末で退職をして、平成7年7月に神田紺屋町というところで再開発分野と不動産関係のことを業務とするコンサルタント会社、会社といいましても、私1人スタートのようなものですが、事務所を開設いたしました。応援をしていただいている方の事務所の目の前がたまたま空いたので、そこを借りました。その事務所はおよそ20坪ぐらいありますから、「おまえは何でこんな20坪の広いところを借りるんだ」ということを知り合いからいろいろいわれました。
 私自身の研さんも含めて、私より若くして建設会社をやめた方、あるいは仕事上などで親交のあった方、引き続き建設会社に残って頑張っている人、そういういろいろな人たちに呼びかけをいたしまして、第1木曜日に勉強会を始めました。
 この勉強会の一番初めは、たしか「物納について」というテーマで税理士さんにお願いしたんですが、どうも難しいし、楽しくない、盛り上がらないということで、テーマについては幅を広くいたしまして、例えば地球の温暖化の問題とか、いろんな内容で、ゲストには1時間ぐらいしゃべっていただいて、あとはビールでも飲みながらお話をする。肩ひじ張らない、アットホームというか、そういう勉強会をすることに切りかえまして、平成7年の9月以来72回、今度73回目になり、7年目にこれから入ることになります。何とかそれだけ続けてくることができました。
 再開発コーディネーターの仕事とか、定期借地権住宅の企画などを中心に私は仕事として細々やってきましたけれども、千代田区の不動産業界の方あるいは神田でお店を出している方とも親交ができました。あるいは町会の役職の方、近所の酒屋のおばさん、靴屋のおじさん、中華料理屋のご主人、そういう神田の方たちと何となく知り合いになってまいりました。
 そういう中で大変気になることが出てまいりました。住んでいる人が大変少ないですし、高齢化もしております。そして、子供が少ないものですから、私の所属している神田紺屋町南町会というところで、目の前に今川中学校があるんですが、この中学校に通っている子供は1人もいない。もちろん小学生もいないというくらいに大変過疎化の進行しているところであります。小さなビルで賃貸オフィスがありまして、上の方にオーナーさんの住居があるわけですが、夜になると人通りがぐっと少なくなりまして、犯罪の危険すらあるだろうなと思っておりました。
 神田というと、サラ金で悪名高くなっております。東口を出ますと、看板を持って立っている方がいます。ああいう中でサラ金の事務所で、私のところからせいぜい30メートルぐらいのビルで、昼間2人殺されるという事件がありました。警察が聞き込みに参りました。私はそのときたまたま出張していたので、あまり詳しく聞かれないで済みました。
そういう事件があって、もう4〜5年になりますけれども、いまだに未解決なんだそうです。
 先ほどの勉強会をずっと続けてくる中で、仲間もできてきて、その方は神田に住んでいて、その方の奥さんが神田に20年ぐらい前に嫁に来たのですが、そのころでも夜、隣の家にお使いに行くのも怖いという町になってきていました。
 私は神田で生まれたわけでもありませんし、住んでいるわけでもないんですが、このままではこの町は死に絶えちゃうんじゃないか。地元の人にいうと怒りますけれども、そのくらいに高齢化が進んでいるし、住みにくい町になっちゃっている。人が住んでいてこそ町があって、まちづくりの話があるんだといえると思います。
 しかも、神田というと、江戸時代から庶民の町でありましたし、神田紺屋町というのは染物関係です。北乗物町といって、かごか何かつくっているところとか、鍛冶町、神田駅の東口ゾーンは、そういう職人の町でもあるわけです。そういう町が瀕死の状態にあるということを何とかできないだろうかという私の思いが募ってまいりました。
 そこで、こういう問題に関心を持ってくれそうな方に、都心居住に関する研究をしましょうということで呼びかけをいたしました。それが平成9年の2月です。その当時はあまり見通しのない研究会に15名ほど参加していただきまして、『みらい』都心居住促進研究会、あまり未来のない内容なので、『みらい』という名前をつけて研究会を始めました。
 初めは、定期借地権マンションをつくれば、安く分譲できて、若い方も住めるんじゃないか。30坪で4500万だという計算をしてみたり、いろんなことを勉強会でやってみました。ただ、その後地価がずっと下がってきましたので、定期借地権にこだわることはなくなってきたんですけれども、そのときのメンバーには定期借地権推進協議会の役員の方もおりましたし、私自身も定期借地権住宅については実践的に経験しておりましたので、そういう分野では一定の水準まで研究が進んだのではないかと思っております。
 しかし、どうも次の一手が見つからない。勉強をしたけれども、何をしたらいいかという時期になってまいりまして、そのときに千代田区の職員に私どもの勉強会に来てもらって、千代田区のまちづくりということでお話をしていただきました。そのときに、第1回千代田まちづくりサポートというのがありますよということで、ご紹介をいただきまして、締め切りが迫って1週間ぐらいしか時間がなかったんですけれども、この千代田まちづくりサポートに、『みらい』都心居住促進研究会として応募しましょうということで、どんなことをやろうかと議論をした上で応募をいたしました。
 これは千代田区まちづくり推進公社という財団法人の事業なんです。普通、助成金をいただくときに、審査員はだれそれと公表していますけれども、どういう経過で選んだかというのをなかなか教えてくれないものです。このサポートは公開審査会といいまして、こういう会場を借りまして、模造紙2枚分書きまして、私たちのやりたいことは何だかんだと3分発表させてもらえる。そして、審査員から質疑がありまして、それらを踏まえて審査員が採点をするという経過で決めていきます。したがって、本当に公開、オープンの審査会です。
 私どもは、18応募した中の15番目という採点になりました。どうもうけないんです。1番、2番はお祭りの話です。地域活動に応援をする、そういうのがうけるわけです。私たちのように、都心に人を住まわせるためにどうしようという話は、初めは専門家が仕事としてやることじゃないかという評価だったようです。とにかく18番中の15番目で、13番目ぐらいまで助成しましょうかねという議論を先生たちがしているので、「ちょっと待てよ」ということで、緊急発言をしまして、私どもの仲間で神田に住んでいる方に神田の実情を発言してもらいました。それによって審査委員長なり審査委員の一部が動いていただきまして、「15番目まで助成しましょう」ということで、14番目の人も、あまり努力せずに助成対象になりました。
 そんな形で14万円いただきました。金額的には14万円なんですけれども、すごく重いことなんです。いただいたお金はどう活用して、どう活動して、かつ発表しなきゃならない。すごいプレッシャーであると同時に、励みにもなりまして、私どもは次の日程として、地域でどんなことが求められているかということでアンケート調査やヒアリング活動を行いました。
 レジュメの方に、アンケート結果からいえることというのがあります。私どもは統計的というか、アンケートを集めて分析をするというのが弱いものですから、全体的にいえることはこんなことだったと思います。「神田地区の住民は総じて住まいについて不満を持ちながらも、この町を愛し、7割程度の方がこの町に末長く居住したいと思っている」。
 回収の数は150くらいですけれども、「共同化への意欲は賛否拮抗の状態であるが、建築をする場合、共同化のメリット等については半数が認識している」「『人口増が町の抱えている問題を解決する大きな手段』であることについては、ある程度認知はされている」「9割近くが、新しく町に住んでもらいたい人を、単身者ではなくファミリー層に住んでもらいたいと答えている」ということをアンケート結果から私ども認識いたしました。
 もうちょっと詳しくお話を聞いてもいい人は連絡していいですかという項目がありまして、○という方にご連絡をしてヒアリングをしました。そうすると、ヒアリングの中で町の実情がもっと詳しくわかってくるわけです。私どもはそのヒアリングの結果、3カ所ほど可能性のある地区をピックアップしたわけです。今既に工事に着手しております神田東松下町というところでプロジェクトを始めております。それとか、神田紺屋町という私の事務所のあるところですが、そこでも今提案を用意しているところです。もう1カ所は、どこかが買収してしまって、ちょっと難しくなりましたが、それぞれの形で取り組みを始めました。
 私どものミニ再開発という神田での仕事は、以上のような経緯からスタートいたしまして、神田東松下町のプロジェクトが動き始めたということで、いろいろな考え方、いろんなことが整理されて、『みらい』都市居住促進研究会というちょっとした研究会の「神田に人を呼び戻そう」という目標が、ほんの少しですけれども、実現の緒についたと考えております。



2.NPOへの展開

 「NPOへの展開」という項目に移らせていただきます。先ほどの『みらい』都心居住促進研究会のメンバーにはどんな人がいたかといいますと、私がもともといた建設会社の人、ディベロッパーの社員、再開発コンサルタント、1級建築士、不動産業者など、いろんな方がおりました。どっちかというと建設系の人です。現実の事業の取り組みになりますと、だれが先行リスクを負い、だれが最終責任を持つのかという問題が出てまいります。
 いろんなやり方があるんでしょうけれども、1つは、ちょっと小さ目の企業が事業協同組合をつくる方法もあると思います。ちょっと前にできましたNPO法に基づいてNPO化をしたら一番現実的なんじゃないかということで、そういう取り組みを開始いたしました。どういうことで私どものこのNPO都市住宅とまちづくり研究会ができたかといいますと、1つは、先ほどの『みらい』都心居住促進研究会というのが、共同建て替えとか、そういう分野でやっていきたい仲間の流れがあります。
 もう1つは、コーポラティブ方式なんですけれども、たまたま私がやっておりますコンサルタント会社の方が、平成11年の9月からコーポラティブ方式の住宅供給にかかわってまいりましたので、直接勉強をさせていただきました。
 そんな意味で、そこにその事業を一緒にやった設計事務所の方とか、コーポラティブ方式を進めているグループが1つまた参加してまいりました。
 それから、もう1つは、私どもの副理事長、ことしからフィリピンに行って仕事をするというので、副理事長はおりました。前にカメラマンをやっていた方だそうですけれども、オートバイ事故で下半身不随、脊椎損傷ということで車いす生活を余儀なくされております。その方と知り合いになりましたきっかけは、彼から車いす障害者にもいろいろな障害の程度があって、自立して暮らせる人が多い。それにもかかわらず、車いす障害者が入居できる賃貸住宅がほとんどない。そういう賃貸住宅を地主さんにつくってもらう運動をしないかという呼びかけがあって、それで平成11年ごろから動いておりましたので、そういう3つの流れを統合しまして、都市住宅とか住まい、まちづくりという視点から、1つの組織としてNPOにしてまいりました。
 NPO法人については、皆さんよくご承知かと思いますけれども、平成10年の12月1日から施行されております特定非営利活動促進法という法律に基づいて、認証という手続で成立する特定非営利活動法人というものです。特定非営利活動の非営利というのは、ノンプロフィットということですけれども、これを皆さん割と誤解をされている。無償のボランティアじゃないかというイメージを持っておられる方がおりますけれども、今の当たり前の経済社会でございますので、人様に何かを頼めば費用がかかる。当然NPOも費用がかかりますので、報酬はいただく。必要な実費なり、報酬なり費用なり、名目は何でもいいんですけれども、いただくものはいただく。非営利というのは、利益を関係者で配分しないということなんだそうでございます。活動すればスタッフの人件費が要りますし、その他の経費も必要になります。
 NPOというのは株主配当のない会社だと思っていただいてよろしいかと思います。認証は去年されましたから、ことしの初めに、認証記念パーティーというのをやりましたけれども、そのときに来賓としてごあいさつをいただきました早稲田大学法学部の山野目先生が、私ども頼まないんだけれども、いいお話をしていただきました。つまり、NPOといえども、かすみを食って生きているわけじゃないという、今のノンプロフィットの意味合いを明快にいっていただきました。
 そんなことで、NPOは法人であります。法人格を持つということは、社会的に正式に認知された団体として、事業の受託の当事者にもなれますし、会社のように何でもできます。当然法人としての責任も発生しますし、活動の幅もそういう意味では広がってまいりました。
 実際のまちづくり活動について、どうしてNPOかということですが、私どものまちづくり活動は地権者間の調整を含む、どうなるかわからないような先の見えないことがたくさんあります。そうしますと、冒頭で触れましたようなミニ再開発にマンションディベロッパーとかゼネコンが取り組むかといいますと、今の時代ではゼネコンさんも元気がありませんから、だれも取り組みません。ミニ再開発というのは、企業としてのメリットが全くないんです。
 また、逆に今度、個人企業的な、例えば私個人としてのコンサルタントとか、あるいはアトリエ系といわれている設計事務所が一生懸命取り組むかというと、これもいつお金になるかわからないから、やらないという、大きなところも、小さなところも取り組めない。私どものNPOは、先ほどちょっと申し上げましたように、いろんな人の個人加盟を基本としておりますけれども、私どものNPOの設立趣旨である、町には人が住まなきゃいけないとか、そういう設立趣旨をしっかりと踏まえて、しっかり活動していくためには、メンバーがそれぞれいろんな役割を担って、事務局がしっかりして、そういうNPOの趣旨を踏まえた活動をきちんとしていくならば、大企業にも小さな企業にもできないことをNPOとしてやっていけるんじゃないかというのが私どもの考え方でございます。
 しかし、NPOは個人正会員の集まりというのが実体でありますので、会員にはそれぞれの仕事があります。設計事務所はちゃんと設計をしていかないと、いつお金になるかわからないようなミニ再開発だけにつき合ってはいられないわけです。すべてNPOの事務局が担うかというと、それだけの人間を雇う力がありません。そういう意味で、NPOが活動の全体を統括し、かつ実際の実務については、会員が経営している企業とか、会員でない企業もありますけれども、そういうところに一定の業務を委託して事業を動かしていく、そういう方向が今のところの私どもの姿なのかなと思います。
 今事務局には2名の若くて優秀な女性が働いております。今後少しずつ力をつけていって、活動の幅も広げていけるんじゃないかなと思います。



3.神田東松下町の地域コミュニティ再生型コーポラティブ住宅

 前置きが長くなりましたけれども、「神田東松下町の地域コミュニティ再生型コーポラティブ住宅」についてお話をさせていただきたいと思います。
(OHP・1)
 まず、場所につきましては、この地図の真ん中辺にございますように、建設予定地と書いてあります。JR神田駅の東口を出て4分ぐらい秋葉原方向に向かったところです。
(OHP・2)
 この通りは、神田平成通りといって、神田警察通りの延長です。学士会館とか一方通行の大きな道があります。この通りにピジョンという赤ちゃん用品のビルが見えます。あの隣のビルのところを左に入る、大きなバスのあるところの先を左に入る格好になります。
(OHP・3)
 そこを入りますと、こんな雰囲気なんです。これは雨の日に撮ったような気がします。こんな雰囲気でありまして、駐車場になっているところの古い建物が割と小さい敷地で建っております。
(OHP・4)
 これを反対側から見たところです。車の左側にあります建物は、上を住宅として使っておりまして、下は倉庫で貸しておりました。
(OHP・5)
 裏の方に回りますと、この辺は建設金物とかの問屋さんが多いものですから、私道で、42条2項道路というれっきした道路なんですが、ああやって当たり前に車が駐車して荷物の積みおろしをしている。入った右手が現地です。
(OHP・6)
 公図で見ますと、さっきの大通りは下の方にありまして、左に曲がって入ると、ピンクの部分の33の2、そこが駐車場、33の8が、さっきちょっと見えた住宅が2階になっているところ、33の5が倉庫になっていたところ、33の4という一番大きな土地が駐車場になっております。いずれも数年前までは全部家が建っていました。右側の方は私道の負担分が2メートルくっついているという土地です。
 こういう土地に事業を企画いたしました。というか、この地権者の皆さんから、ヒアリングを通じてお知り合いになっておりましたので、ご相談をいただいたわけであります。

@等価交換ではなく共同建て替え

 再開発といいますと、すぐに保留床処分はどうするんだ、ディベロッパーさんはどこが出てきてくれるんだという形で、保留床処分、お金、どうするんだということになります。
 国が補助金を出してくれる制度もあるんですけれども、そういうのでも、保留床処分をどうするのか、ディベロッパーはどこなのかというのが、補助金申請というか、事前にヒアリングのあるときに書くところがあります。そのくらい保留床をどうするのかというのが再開発にとってネックになっております。
 私どもは、等価交換ではなく、共同建て替えということをものの考え方として大事にしたいなと思っております。特に法定再開発ですと、権利変換という法的な手続がありますし、民間ディベロッパーでは、大きなところでは等価交換と平気でいえますけれども、私どもが企画するようなミニ再開発では、ディベロッパーさんも出てきてくれませんし、出てきてもらいたくもないんですけれども、等価交換という考え方は、零細な地権者にとっては、今までの日本の再開発の歴史からしますと、安心の言葉ですけれども、等価交換というと、やっぱりディベロッパーさんの仕事なんです。事業はだれの事業なんだというところが置き去りにされていくものですから、そういう意味で、私どもは、等価交換という言葉をやめて、自分たちの建物、自分たちの町をどうするのかというふうに地権者自身に考えていただきたい、それがベースになってまちづくりが行われなきゃいけない、住宅づくりもそうなんだろうと考えております。
 すべてを再開発推進側とか、ディベロッパーの土俵の上で進めていくということは、我が町の行く末をどうするんだという議論に発展していかないわけです。あと何坪ふやしてくれるんですかという議論にしかならないわけです。そういう意味で、まちづくりでなく、まち壊しになりかねないとさえ思います。
 私たちは、経済行為としての等価交換と同様の効果をもたらすことは、私どものプロジェクトでも当然あるんですけれども、それを等価交換とはいわないで、共同建て替えといって頑張ることにしました。
 つまり、ディベロッパーは要らない手法なんです。だれもそんなところに行かないよとディベロッパーの方には当然いわれてしまうと思うんですけれども、小規模の再開発で、ディベロッパーが来てくれないと悩んでいる方がおられましたら、この共同建て替えというところからスタートする取り組みを私どもはお勧めの手法としてご提案したいと思います。
 共同建て替えというのは、とにかく主体がはっきりしております。地権者みずからがこの町に住み続けるにはどうしたらいいか。商売を続けるにはどうしたらいいかというテーマで、自分の土地の有効活用を考え、共同化することに意義を見出して事業化していく。
それでこそ自分の町という位置づけも明確になってくるわけであります。
 その昔、10年ほど前には、借地権4000万で買いますよというのが、ここら辺の地区でもあったわけです。そういう中で自分の町だということで残って頑張った人たちが主体になってまちづくりをしていくのは当たり前だと思います。私どもはそれをお手伝いしていくんだ、このことが大事なんじゃないかなと思っております。

Aコーポラティブ方式との組み合わせ

 レジュメの2枚目、2番目に、コーポラティブ方式との組み合わせということになるわけです。コーポラティブ方式というのは、住宅金融公庫の「コーポラティブハウス融資のご案内」というのがありまして、それの定義。これは建設省が昭和53年ごろに研究会を開いて、そのときの定義とほぼ同じです。コーポラティブ方式というのは、「自ら居住するための住宅を建設する方が、組合を結成し、土地を取得、建物の設計、工事の発注、その他の業務を行い、住宅を取得し、管理していく方式」となっております。これは定義です。
 この手法で住宅をしようという方々は、まさに自己責任です。自己責任で事業をなし遂げなければいけないわけです。まず、人々が集まって組合をつくるんだということが名実ともに先行する場合、先にとにかく人が集まって一緒に住もうよという場合には、いつでき上がるかよくわからないです。
 世田谷の多摩川寄りのところに喜多見という地区がありますけれども、あそこで、「コーハウス喜多見」というのができまして、その資料を拝見したら、でき上がるまで発意してから7年ぐらいかかっているんです。住宅をつくることそのものを楽しむとしたら、それでもいいと思うんですが、一般的には住宅を取得するということは、その家族の、自分の部屋を持ちたいとか、子育てに確かな拠点をつくりたいというニーズがあってつくるものですから、入居予定がいつになるかわからないというのでは、一般的な仕組みにはなかなかならない。私どもはその意味で、設計者やコーディネーターが土地を見つけて、建築のプランを入れて、どの程度の取得費になるかを想定して、かつ自己責任の事業ですよということをはっきりさせて募集をして事業を進める方式をとっております。
 このコーポラティブ方式というのと、先ほどのものの考え方としての共同建て替え方式を組み合わせることにしたわけでございます。
(OHP・7)
 どういう仕組みになっているか、下の方をごらんいただきますと、先ほどちょっとご説明しましたように、家が2戸建っていて、駐車場が2つございます。4軒の方が地権者として共同化をしようと考えていたわけです。地権者としてはどうするかというと、土地を出資することになったわけです。自分がどのくらいの容積、建物が欲しいかということを基準にしましたが、とりあえずよくわかるように、土地を出資と書きました。土地のほかに建設資金を出した方もおいでになりますし、逆に、等価交換の考え方でいけばもうちょっとたくさん建物がとれるんだけれども、半分はお金にしたいという方がおいでになりました。
 4人の地権者がいて、4人の地権者が一緒に事業をやろうよということがまずあって、準備組合というふうにしてもらいましたけれども、準備組合からNPOとしまち研に、余剰の容積を使って住んでくれる方を集めてくださいというご依頼をいただいたという形をとりました。
 そして、集めてくださいなというのは、コーポラティブ方式で入居希望者を集めまして、その方たちにはマンションを買うのと同じような仕組み、これだけお金がかかりますよ、あなたは三千何百万かかります、あなたは2800万かかりますよという形で、入居希望者に建設資金を出していただけますかという呼びかけをして集まっていただいたということになります。
(OHP・8)
 どういった建物をつくることにしているかというと、こんな建物です。これは日経新聞に載せていただいたし、朝日新聞にも載せていただいたかと思います。こんな形のものがさっきの場所にできるだろう。
(OHP・9)
 西側立面図だと、こういうふうになりまして、丸い窓もありますし、三角の窓もあります。設計者が、それぞれ住まわれる方が主張すればいいということで、フィックスしたものじゃなくて、どうにでもしてくださいということで提案をしているものです。ほぼ窓の形も固まったと思いますけれども、私はまだ教えてもらってないので、さっきの状態です。
(OHP・10)
 これの断面図がこれです。先ほどの地権者の方は、1階に事務所と倉庫を設けました。倉庫だけをやっていた方は事務所をよそに借りていたんですけれども、この機会に持ってこようということで、とてもすてきな事務所になると思います。
 大きな駐車場を持っていた方が2階の事務所を取得されることで、私どもが借りることになっています。借り手がいないから借りるというものじゃないんです。NPOとしてここからまた楽しく事業を拡大していこうという意味で、神田のまちづくりの拠点にしようという意味で、2階の取得者とお話し合いをしております。
 3階から7階までが一般から募集した方です。一般といっても、神田にかかわりのある方が多いです。
 8階は、そこにもともとお住まいになっておられた地権者が住んで、9階、10階は、駐車場を持っていた会社がそこに賃貸住戸を持ちますということです。
 そんなことで、10軒集める予定だったんですけれども、1軒だけ2戸分をつないでほしいということで9軒集まりました。
 まずコーポラティブ方式と今の共同建て替えを組み合わせるというやり方の手順としては、どんなふうにやるかといいますと、まず共同建て替えの当事者である、先ほどいっていた地権者の皆さんに、私どもに委託をしていただくという形をとりました。地権者による準備組合というところから委託をしてもらったわけです。募集活動をしました。募集活動にはパンフレットをつくって、私どもNPOのメンバーが、神田の地域から台東区とか中央区ぐらいまで投函をみんなで休みの日にするとか、もちろん新聞の折り込みチラシも入れました。そのほか区役所の皆さんの机の上にパンフレットを配らせてもらったり、いろんなことをしました。
 あと、区の出張所にパンフレットを置かせてもらったり、ポスターを近所のお店に張らせてもらったり、飲み屋さんに行くと、トイレに張っておくと、ちょうどよく見えていいというのがあります。そんなことでいろんな募集活動をいたしまして、集まったわけです。
 そして、皆さんが集まったところで、今度は組合をつくりまして、住戸内の設計を行う。コーポラティブ方式の特徴は、自由設計というのがあります。住戸内の設計をそれぞれ一生懸命やっておられます。それから、建築確認をして着工という手順になってまいりました。
 この間建物の管理方法の検討などを、組合の総会でやって行っております。来年の4月には引き渡しをする予定でございます。
(OHP・11)
 このコーポラティブ方式をざっとお話ししましたけれども、流れをもう一回おさらいをしてみますと、まず組合が集まってというのはちょっと難しいので、緑色で見えますように、事業計画をつくって、建設準備組合をつくるところまでが企画段階です。それから参加者を募集して組合を設立して、住宅の設計をして、工事の発注をし、完成したら組合は解散する。そして解散した後は、組合財産はそれぞれ皆さんのものになりますので、通常の区分所有建物になるということでございます。
 コーポラティブ方式は最近大変多くなってまいりましたので、皆さんご承知かと思いますけれども、幾つかのメリットがあります。住宅金融公庫のパンフレットに書いてある表現で、幾つか解説をさせていただきたいと思います。
 レジュメの2ページ。「コーポラティブ方式の利点」というところで、まずは「適正な価格による住宅の取得が可能」というのがあります。これは基本的には自己責任の事業の裏返しだと思います。土地は幾らということで、土地所有者から入手します。神田の場合は、地権者である組合員の土地を時価評価いたしました。ただし、この地権者の皆さんの評価は、マンション業者は買わないにしても、マンション業者に売却するよりは地権者にとってはメリットのある評価をしたと思います。
 それから、建築工事費は、通常数社の競争入札でやっております。スケールメリットがありませんし、少量多品種生産の典型みたいな、戸建て住宅の積み重ねみたいなものですから、むしろ割高になっているのかなと思います。でも、そこから得られる満足度は、分譲マンションのように、ダァーッと並んでいる中の、ちょっと間取りが変わっているのの1つを取得するのとは全く違う満足感があるんじゃないかと思います。
 それから、設計料は、設計事務所側では10%でも合わないよとおっしゃいますけれども、戸建て住宅の10%よりは、もうちょっといただかないと、設計事務所としては合わないんじゃないかと思います。
 それから、コーディネーターフィーというのをいただきます。
 そんなふうに事業のすべての事業費を参加者が初めからわかっていて、了解していて、オープンな事業費ですので、「適正な価格による住宅の取得が可能」と、公庫がいっておりますけれども、そういうふうにいえるかと思います。
 それから、次に、「間取り、その他住宅内部の設計、設備等について、入居者の希望が反映できる」というのがあります。これがまさに自由設計ということですけれども、スケルトンについては、企画設計者が決定しておかないと、時間がかかり過ぎまして、「私はあと2坪余分に欲しい」とか何とかいうと、そんなことはなかなかまとまらないものですから、申しわけないんですけれども、そこは決めさせていただいて募集にかかる。
 ともかくインフィルについては、どのように変更しても問題がないようにしていきます。お風呂が北の端っこにあったのを南の端っこに持ってくるということすら簡単にできるという準備をして基本的な設計をしております。
 そんなふうに自由設計というニーズはこれからも大変多くなっていくだろうと思います。分譲マンションのように、幾つかのメニューから選択するんじゃなくて、その家族にとって必要な設備、仕上げ、色、そういうものについては、その家族で決めていけるということになります。都市における住まいにも住む人が主役という建設方式として、コーポラティブ方式がもっと普及していってもらいたいなと私どもは思っています。
 次に、住宅金融公庫の言い方で、「専有部分のみならず、共用部分の設計、設備等についても入居者の希望が反映されるので、良好な環境づくりが可能」ということです。これについては、現実の問題としては、入居者の希望をできるだけ伺いつつも、設計者がしっかりリードしていかないと、まとまりませんので、設計者の力量が問われるところであります。
 おしまいに、「隣人等となる入居予定者の方々と計画段階から意見交換等、交流の場が持てるので、入居前にコミュニティを形成することが可能」というのがあります。これは全くそのとおりで、私どものねらいもここにありました。分譲マンションは、多数者にマッチするような住戸という箱をつくりまして、売って、それで「さようなら」です。それまでです。入居者が顔を合わせることは、特にイベントでも行われない限りは、管理組合の総会、この総会にも委任状を出して出ない方が結構おいでになりますので、本当に意識してみんなで顔を合わせることをしないと、分譲マンションはほとんど知らない人が住んでいるということになります。
 神田で、33戸のマンションの中に入った私どものメンバーがいます。分譲マンションを買って入居された方がいます。それなりにその人は意識的に知り合いになろうとして努力したんですけれども、大体あのうちにあの人が住んでいるのかなとわかるのが3分の1ぐらいだそうです。お話をしたのは5軒ぐらいだそうです。意識してもそういう状態があるようです。分譲マンション業者さんにとってみれば、そんなことはどっちでもいいことで、とにかく売って、次の事業にかからなきゃいけないというのが分譲マンションの特徴であります。
 私どもはコーポラティブ方式をやることによって、分譲マンションと違う住まい方を提案できるんじゃないかなと思っています。人が集まれば交流が始まりますし、私どもの神田の建設組合の総会は、3カ月に2回ぐらいのペースで多分やっていくと思いますが、既に5回やりました。総会の後には、都合の悪い方は早目にお帰りになりますけれども、お菓子とお茶、もしくはビールとかワインということで懇親会を行います。
 その中で1分間スピーチというのが恒例になりました。建設組合の理事長の趣味は何かといいますと、川釣りだ。川釣りというのは、寒い時期に行くと、すごく大変なんだということをとうとうと理事長がいう。こういう人が理事長なんだということがわかりますし、一番年配の方で歯医者さんのおばあちゃんがおいでになる。日大の歯学部に行っておられた後継ぎになる息子さんが、小川町の交差点で交通事故で亡くなってしまった。ご主人が去年亡くなってしまった。「私は、だから、神田から離れたくないし、神田に住み続けたいんだ」という話を懇親会のときにする。そうすると、その方もウルウルっとしてきますし、私どもが聞いていてもウルウルッとしてくる。そういう形で、自分の住まいを神田に定めたいんだという話が伝わってくるような懇親会です。そんなことが自然にわかってまいります。
 そして、先月やった総会ではセキュリティーをどうするかという議論をしています。さっきの一番年配のおばあちゃんは、「あまり難しくしないでね。私が自分の家に帰れるようにしてください」というのが、彼女のセキュリティーに関する意見でありました。
 こういうコーポラティブ住宅の中での交流のほかに、地権者やもともと町内に住んでいる入居者もおりました。世帯分離というか、親元から離れて暮らすという方もおいでになりましたので、お祭りや町内会の行事も紹介されたりしております。
 私たちが地域コミュニティ再生型といいますのは、共同建て替えにかかわる地権者を、町会など既存の地域コミュニティと、新しくでき上がるコミュニティとのつなぎ役として成立するすばらしい方式と考えております。
 共同建て替えもコーポラティブ方式も、その地権者や入居者が当事者であり、主役なわけです。私どもは分譲マンションに異議を唱えているわけではありませんけれども、その地域に生まれ、育ち、生活している人々が必死に守っている地域社会に、その地域社会を切り取るというか、領土みたいな話ですが、切り裂くような分譲マンションは、後々のことを考えると、どうしてもあまり来てほしくないなとさえ思います。あまり過激なことをいっちゃいけないので、分譲マンションに異議を唱えているわけではございません。

B千代田区独自の補助制度

 次に、レジュメの3ページに移らせていただきます。千代田区独自の補助制度というのがあります。今千代田区では、建築物共同化住宅整備促進事業という補助事業があります。これは長くて難しいし、なかなか覚えられませんので、「ミニ優良」というのが千代田区での略称になっております。
 この神田東松下町の事業は、市街地再開発事業にも適合しませんし、都心共同住宅の供給事業という制度がありますけれども、それにも適合しません。都心共同住宅供給事業は、地区面積で500平米だったと思いますけれども、ちょっと足りないんです。神田東松下町はそういう事情の中で、補助事業として救われるのは、この千代田区独自の「ミニ優良」という制度であります。そういう意味では大変ラッキーというか、時間的にも千代田区だけの決裁ですから、随分簡単に済みまして、大変ありがたいことでした。
 ただ、補助制度は税金をいただくことになるかと思います。そういう意味では市街地再開発事業の会計検査みたいなものの影響を受けまして、千代田区も面倒臭いことをいっておりましたが、それは改善されたように伺っております。
 補助金は、使いようによっては、参加している人たちにとってはとてもいいですし、自治体にとっても、新しい建物ができれば、固定資産税等で間もなく回収できるような額です。
 神田東松下町では、建設費の約10%ぐらいの補助金、合計で2500万円ぐらいをいただきます。
(OHP・12)
 次に、都心部での人口について見ていただきたいんですが、都心3区とよくいわれておりまして、千代田区は上のグラフでいきますと、青い数字です。かつてピークのときには1955年、戦後間もなくで、12万2745人、神田でも随分人が住んでいた時期があります。問屋さんがあって、でっちさんがいて、社宅みたいな、住み込みで大勢働いていた時期があったりして、そういう戦後の元気の時期には12万2745人もいたんです。今は2000年の国勢調査では3万6032人という数字になっております。それでも、平成7年、1995年の国勢調査からいたしますと、千代田区で1252人がふえました。中央区では8623人、港区では1万3696人がふえて、何となくこの間都心回帰の方向が出てきていると思います。これは大型開発によるものがすごく大きいんです。
 ですから、もうちょっと具体的に細かいことで見てみますと、下の表で、千代田区全体では、先ほど申し上げましたように、1252人がこの5年間にふえている。ところが、神田駅の私どもの近所のエリアといいますか、東地区のゾーンをずっと見てみますと、神田須田町2丁目、鍛冶町1丁目、2丁目、神田富山町、北乗物町。北乗物町は18人、5年間でふえていますが、どこがふえたのかよくわかっていません。そして、富山町、美倉町、西福田町、神田東松下町、2つの町会を除いてほとんどがマイナスです。
 一番町とか二番町とか三番町、九段南とか北、あっちの方を見ますと、何百人とふえています。そういうのの積み重ねが千代田区として1252人、減ったところもふえたところもあったんですが、全体としてはプラスに転じた。でも、神田は過疎化が引き続いているといえると思います。
(OHP・13)
 千代田区では人口の増加を図るために、先ほど申し上げましたような「ミニ優良」という補助制度のほかに、千代田区型地区計画というのがあります。ちょっと簡単にご紹介をしておきますと、地区計画は地元に提案をして、地元と協議して合意の上で建築のルールとして決定していくというので、用途別容積型というのと街並み誘導型というのを合わせて千代田区型地区計画制度。何々型というのが好きで、私どももこういう影響を受けて、先ほどの「地域コミュニティ再生型」といっているのかもしれません。
 どういうことかといいますと、今の制度は左の方にございます普通の町では、前面道路に道路斜線制限がかかってくるわけです。壁面を後退させると、もうちょっと道路斜線が緩和されたりとか、細かいことはありますけれども、全体としては、あの辺の町を歩きますと、バァーッと斜めに建物が切られているのが多いと思います。ところが、この千代田区型地区計画制度でいきますと、黄色い部分にありますように、1つは、容積の上乗せというのがあります。住宅用途に限ります。壁面の後退といって、道路と敷地の境界線から、道路によって50センチとか1メートルとか後退をしますと、そこから真っ直ぐ26メートルとか40メートルまで、道路斜線の制限を受けないで済む。隣地斜線の制限は受けるんですけれども、そういう高さの最高限度を26メートルとか40メートルにして、そんな地区計画が定められています。こういう制度も1つございます。
 この地区計画が実施された神田和泉町というところと神田佐久間町、いろいろふえてまいりまして、神田紺屋町地区というところも地区計画が実施されています。
(OHP・14)
 そういうところでの地区計画の形を見ていただきたいんですが、今申し上げましたように、道路によって指定されておりまして、黄色い道路が6メートル以下の道路になっています。そこに面したところでは、高さは26メートルまでに制限される。単体もしくはその道路に面した建物だけで建て替えをする場合です。
 それから、青いところは40メートルまで建てていいよというゾーンです。こんなふうに地区計画が定められます。
(OHP・15)
 それをもしそのまま建て替えをしたとしたらという立体図をつくってくれたメンバーがいましたので、こんなふうになります。これは、例えば一番右から一側入ったところのピンクの小さいのがありますけれども、あそこの部分が26メートルなんです。表側と一緒に共同建て替えすれば40メートルまでいけるようになるわけです。こんなふうに町は簡単に変わらないと思うんですけれども、そういう制度であることをちょっとご紹介をいたします。
(OHP・16)
 次に、こういう地区計画が実施された地区で、建物が確かにふえてまいりました。神田泉町と佐久間町での98年と99年に建築確認申請をした事例の中から都立大学の大学院の阿部さんという人も私どものメンバーですが、彼がいろいろ調査をした結果どんなことがいえるかというと、一番上の1番というのは、戸数が42で入居世帯数17となっていますが、一番右を見るとわかりますように、住民票不登録、住民票の届をしていない方が25人いる。これは典型的なワンルームマンションです。定住型ではないし、地域社会とはあまりかかわりもない。
 それから、2番目に、先ほどちょっと申し上げました私どもメンバーが入っている専用型の33戸のファミリータイプのマンション、住民登録をしていない方も少しおいでになるけれども、親子で住んでおられる方もたくさんおいでになる。こういう分譲マンションなんですけれども、それでも中の交流はないといえると思います。
 話がちょっと脱線してしまいましたが、地域コミュティ再生型というのは、こういう形で見ましても、分譲マンションではなかなか難しいということがいえると思います。プライバシーを侵害されたくないというのが、都会生活のカッコいい住まい方みたいなことで一時もてはやされた時期がありましたけれども、これからはやっぱり隣にだれが住んでいるかとか、そのマンションの中にどんな人が住んでいるか、どんなつき合いがあるのかということを大事にしていきたい。それが子供を育てる環境としても、皆さんそれぞれお知り合いになっていることは、すごく大事なことじゃないかなと思って、私どもとしては、この地域コミュニティ、あるいは建物の中のコミュニティにこだわって取り組んでいこうと思っております。

C住宅金融公庫の都市居住再生融資

(OHP・17)
 次に、住宅金融公庫の都市居住再生融資のご紹介をいたします。この都市居住再生融資というのは、平成12年度に創設されたものでございます。住宅金融公庫の東京支店のまちづくり融資課が窓口でありまして、神田東松下町のような共同建て替えとか、そういうものを支援する融資制度でありまして、大変頼りになりました。地区計画が定められている地区にも融資をしていただけます。ですから、先ほどの千代田区型地区計画の定められている地区だったら、共同化じゃなくても、単体でも、この融資は使えます。
 どういうところがいいかといいますと、まず融資金額が大きいです。融資金額が大きいということと、地権者が事務所の建設資金の融資を受けるのも、この1本の融資で実現できるという大変便利なものでございます。
(OHP・18)
 これを私ども、神田東松下町で使わせていただきましたら、住宅金融公庫の東京支店で、「まちまちWave」の創刊号に載せていただきました。「今回は東京千代田区神田の事例です」と、私どもの事例を載せていただきました。
 この融資の要件としては、いろいろあるんですけれども、私どもとしては、どこで皆さんが共同建て替えをする事業にも全部適用してもらいたいと思いますけれども、まだまだ地域限定型でございまして、23区のほかに立川市、東大和市、武蔵村山市、横浜市、川崎市というところは全域が指定されていて、そのほかは条件つきで指定されているということでありますので、できるだけそんなことなく、全国どこでもというのがいいのかなと思います。住宅金融公庫にはいろいろお考えがあると思いますので、私どもの意見は述べさせてもらいたいと思っております。

D成果と今後の課題

 次に、「成果と今後の課題」というところでございます。1603年ごろだったと思いますけれども、徳川家康が江戸に幕府を置いてから400年になろうとしているわけです。庶民のにぎやかな町だった。戦後も大勢住んでいたというところですが、今は過疎化が大変進んでおります。
 神田東松下町の企画の段階では、こんなところに住む人はいないとか、あるいはコーポラティブ方式を理解してくれる人は少ないんじゃないかという消極的な議論もありました。確かに、世田谷などの住宅街に比べますと、公園その他の緑地も少ないですし、生鮮食品のお店も少なくなっています。
 等価交換方式ではなく、共同建て替え方式という地権者主役の事業で、余剰の床をどうやって処分するかということについても、幾つかの方法がありますけれども、これを分譲ではなく、コーポラティブ方式によって入居者を募集したというところに、この事業の基本的なものの考え方があります。
 議論はいろいろありましたけれども、事業着手、つまりリスクを持って事業に踏み切りまして、多くのメンバーが知人に声をかけたり、パンフレットを配ったり、先ほどいった地元のお店にポスターを張ってもらったり、いろんな活動をして、とにかく必要な数の参加者はしっかり集まってくださいました。
 特に、ほかではちょっと考えられないと思いますけれども、神田東松下町の町会長さんには、この町にこういう形で町会員がふえることについてご説明をし、ご理解をいただきまして、私どもの説明会の資料にメッセージを寄せてもらったり、説明会に来ていただいて、簡単にごあいさつをいただいたりということまでしていただきました。この神田東松下町は、青年部長が私どものメンバーにおりますので、そういうこともできるわけでございます。できるだけ私どものメンバーは、地元の人にもしっかり、一緒に参加してもらおうと考えております。
 ちなみに町会費は幾らかといいますと、1カ月当たり1戸700円というんです。多分高いだろうと思います。世田谷にお住まいの方は年間1200円とか、年間1000円という水準だと思いますけれども、神田は結構高いんです。どうして高いかというと、いろんなことをやっているからなんですね。そういう意味でこの町がまだまだ元気なうちに人をできるだけふやしたいというのが、私どもの念願でございます。
 地権者はもちろん、参加してくださった皆さんには、私どもがいっております「神田に住もう」という呼びかけに賛同してくださって、参加をしていただいたわけです。
(OHP・>19)
 ちょっとどんな雰囲気かをご紹介させていただきますと、これは設立総会のときの集合写真です。ビールとか、しっかり飲んだ後です。ちょっといい気分で、真ん中においでになるおひげの方が理事長です。
(OHP・20)
 3回目の総会の様子です。このときはいすではなくて、こういうところしかなかったんです。
(OHP・21)
 これは建築計画のお知らせ看板です。
(OHP・>22)
 そして、これは現地の解体が始まったところです。
(OHP・23)
 解体をしているところです。
(OHP・24)
 地中からは、ないと思われた地中梁が出てきたり、大震災があったり、東京大空襲があったりという中で、下にはいろんなものが入っておりました。大谷石とか、レンガの残りとか、そういうものは昔の建物の基礎にしたんだと思います。神田はそうなんだとだれかにいわれましたけれども、そんなのがありました。
(OHP・25)
 これできれいになりまして、その後地鎮祭ということです。
(OHP・26)
 地鎮祭のときの様子。
(OHP・27)
 神田で自分が施主になって、玉ぐし奉奠はなかなかできないものですが、こういう建設組合ですと、自分たちでできるわけです。
(OHP・28)
 これは理事長がくわ入れをやっているところです。
(OHP・29)
 この方は参加者のお1人です。
(OHP・30)
 これは恒例の直会でございます。なかなかいいものが出ております。
(OHP・31)
 これは2〜3日前の状況で、基礎工事の部分が終わって、地下から立ち上がってきているのかなというところです。
(OHP・32)
 こちら側、ピジョンの隣のビルの屋上から写したところです。何となく形になってきそうだなと思っています。
(OHP・33)
 こんな看板を出して募集をしました。
(OHP・34)
 これは「千代田区まちづくりニュース」というところに出していただきました。神田に住もうということで、私どもの呼びかけに応じて参加してくださった方たちで、「私たちは神田に住みます」。「住もう」というお答えみたいなものです。左の方が理事長です。右の方たちは、募集のころは婚約状態で、この春に結婚されました。
 こんな雰囲気で、「神田に住もう。神田に住みます」ということでちゃんとお答えをして、テレビの取材とか新聞の取材のときに、はたで聞いていて、何と答えるんだろうと思っていたんですけれども、それぞれの理念、私どもが呼びかけたことについてきちんとお答えをしていただき、皆さんのお考えの中で参加をしていただいているんだということがよくわかりまして、私どもにも勉強になっております。
 私どもの理事に町会の青年部長をやっている人がおりますけれども、区長を囲んでの区政懇談会があったりしますと、町会のお年寄りなどからは、区民住宅をもっと供給してほしい。区民住宅というのは所得によって家賃が決まってくるものですけれども、結局借り上げ型等で、家賃補助が区の負担に結構なっているようですが、そういう区民住宅をもっとふやして、自分たちの子供とか孫が優先的に住めるようにしてほしいというご意見もいっぱい出ているようです。
 そういう意味では、私どもは次のプロジェクトがないのかというお問い合わせをよくいただいたりもします。電話が入ったり、メールが入ったりということでありますので、今後しっかり次のプロジェクトをしていかなきゃいけないなと思っております。それが今後の課題ということになります。
 この1つの事業で、来年の3月に完成の予定の事業でありますけれども、この事業の意義をわかりやすく、神田の皆さんにもっとしっかり宣伝していくことが私どもの課題だろうなと思っております。
 もう1つ課題として、事業手法の開発というのがいえると思います。今度の神田東松下町の事業は、4人の地権者が土地を出し、9名参加される方が建設資金を出してといっておりますけれども、最終形としては、皆さんの土地は共有になるんです。ですから、通常の分譲マンションと同じような形です。
 ところが、共同化をしようというときに、うちの土地は先祖代々引き継いできた。何代引き継いだかちょっわからないんですが、先祖代々引き継いできたから、この所有権は手放したくないとか、あるいは会社で、神田は結構商売人の古い会社がおいでになりますので、土地は売るものじゃないということを会社の理念とされている会社がございます。そんなことで、共同化の中にうまく取り込んで、そういう方も含めてご一緒にできる事業手法を開発していくことが、1つの大きな課題ではないかなと思います。
 私どもは、そういう共同化を仕組みやすい事業手法の開発に地権者の目線でずっとチャレンジしていきたいなと思います。1つの可能性として、民事信託という方向を検討しております。

4.郊外にある団地型マンションの建て替え問題

 神田の話はこれで一通りおしまいです。ちょっと付録的で申しわけないんですが、「郊外にある団地型マンションの建て替え問題」をつけ加えさせていただきます。
 きょうのテーマとどういう関係があるのかと思われる方もおいでになるかと思いますけれども、それが大変関係があるんですね。団地型集合住宅は、昭和40年前後から、不足する住宅の量を満足するため、日本住宅公団とか自治体の住宅供給公社などが大量に供給したマンションで、分譲タイプのもののことを私どもは今ちょっと扱っております。
 区分所有建物という、マンションといいますか、全国的にはそれは380万戸ぐらいあります。380万、400万戸と書いてあるものもあります。そういうストックの状態になっているそうです。そのうち約12万戸が既に築30年。団地の建て替えについては、立地条件のいいところ、例えば代官山の同潤会アパートのようなああいう立地条件のすばらしいところでは等価交換でもみんな乗ってきますし、全国的には阪神・淡路大震災の百数十棟を除くと60件ぐらいが既に建て替えができたそうです。それは基本的には等価交換をベースにしています。ですから、ディベロッパーさんの興味のないところは絶対にこんなのはできないんです。
 そうすると、郊外型というのは一体どうなるんだろうと考えました。通常コンクリートの建物は30年で建て替えという話にはならないんですが、私が管理組合とコンサルタント契約をしてあれこれ検討しているところは、郊外型でございまして、市の耐震診断をしましたら、コンクリートは大丈夫だよといわれたそうです。
 しかし、30年前の施工図を見ますと、階高、スラブからスラブまでの階高が2550、スラブ厚は11センチ。そして、住戸面積は48.9平方メートル。5階建てでエレベーターがないという基本性能です。今の普通のマンションに比べたら、音の問題もそうですし、階段で5階まで上っていくのは、お年寄りにとっては大変なことですし、ちょっとけがをしたり、病気をしたりしただけでも、自宅で療養がままならないという今日の一般的な住宅としての基本性能に欠けていることになるわけです。
 今住んでいる管理組合の皆さんにそういうことを赤裸々にいうと、「おれたち住んでいるんだから、そんなことあまりひどくいうなよ」といわれちゃって、「申しわけありません」なんてやっていますけれども、それでも、居住水準を上げるには建て替えしかないんだろうなと考えている方も多いんです。
 ところが、共同住宅ですから、簡単に建て替えができない。中古住宅価格、あそこの家が売りに出したよ、ここが売りに出したよといって、チラシが不動産屋さんから入ると、新しく見るたびに下がっているわけです。私が4年ぐらい前に関係したときに1200万ぐらいしていた。ところが、成約価格が最近675万だったよとか、そんな話が出てきますと、もう、どうしたらいいかわからないということで、この間、コーディネーター協会の専務理事さんにそんな話をしたら、仙台の方では200万だよというお話をされていました。
 そういう意味で、郊外型の集合住宅は、日ごとに、この先どうしたらいいかわからないということになってきているようです。その団地に30年ということは、30年住んでいる人もいれば、途中から入って20年の人もいれば、最近来た人もいます。自治会等が結構しっかりしておりますので、コミュニティとしてもちゃんとしている。だけど、例えば、この間2階に住んでいるおばあさんと娘さん、娘さんといっても60ぐらいの方ですが、そのお2人が引っ越していきましたという話を聞きました。どうしてかというと、八十幾つになったお母さんが、2階だと、とても出入りができなくなっちゃったから引っ越すんですということで引っ越していっちゃった。
 そんなように、ちょっと昔につくった建物は、バリアフリーでもありませんし、段差も多いですし、基本性能としてはちょっとつらい。この建て替えは、どうしても今後支援していく必要があるだろうと思います。
 管理組合は、例えば日住協、日本住宅管理組合協議会というのがあります。団地系の管理組合の参加している団体です。そこの理事さんからお話を聞きますと、日住協も建て替え問題についてはずっと取り組んできた。しかし、最近発言を控えているという話が、その理事さん個人の見解としてありました。どういうことかといいますと、郊外型の団地でも、30年、40年たってくると、建て替え問題が出てきますが、お金をかけないで、つまり自分でお金を出さないで建て替えをしたいといって、理事会の人が相談に来るんだそうです。それって、それこそ代官山であれば別ですが、不可能な話なんです。
 千葉県のある団地ですが、九十何%まで建て替え賛成にいった。その後いろいろ手伝いをしていた建設会社とディベロッパーさんが、数年前ですけれども、大分詰まってきたところになって逃げちゃった。1200戸ぐらい自分のところで処分しなきゃいけないというのが、時代が悪くなってきて、そんなのを抱えたら大変なことになるということで逃げちゃったという事件がありました。そんなふうに郊外型の住宅では、マンションディベロッパーさんも見向きもしないような話がたくさんあります。
 そこで、私どもは自力建て替えをしなきゃいけないんじゃないかということで、自力建て替えの行政的な支援をする必要があるだろうということを一生懸命アピールしていこうと思っています。公的支援の項目、例がそこのレジュメに載っております。
 例えば、優良建築物等整備事業の制度を適用して補助金を出してもらう。あるいは建て替え問題は高齢化問題でもあるんです。高齢者の方に公的な住宅資金を融資してもらう。例えば、住宅金融公庫がリバースモーゲージみたいなことをやるんだという話を聞いています。ことしの予算では予算化されてくると聞いておりますけれども、そういうのを現実にやってほしい。あと、幾つかいろんなことがあります。団地の建て替えは、住んでいる方にとっても、マンションディベロッパーさんにとっても、いい条件のところはなくなってきた。ですから、今後は自力建て替えをしていかないと、一口でいってしまうと、スラム化という現象があちこちで起きてきたら大変なことになるだろうなというのが、私どもの心配でございます。
 この建て替えを1棟ずつ進める、部分建て替えというふうにもいっております。1棟ずつ建て替えを進めていくのが現実的なんだろうというのが、この間検討してきたことなんですけれども、そのやり方を、先ほどの共同建て替えとコーポラティブ方式を組み合わせて建て替えをすることが、地域コミュニティ、団地の中のコミュニティを崩壊させないで、再生させる方策なんじゃないかと考えて、いろんな場面で、共同建て替えプラスコーポラティブというこの方式は使えるだろうと思って、本来の神田の話とは違ったんですけれども、つけ加えさせていただきました。
 長い時間ありがとうございました。(拍手)



フリーディスカッション

谷口(司会)
 
どうもありがとうございました。
 いわゆるコーポラティブというのは、これまでもいろんな試みがあって、いろんな方々がいろんなことをやられているわけですが、共同建て替えというところと組み合わせてやっていく。普通そういうやり方だと、企業は手が出ないのをNPOだからできたという趣旨のお話で、それを今後は郊外の団地の建て替えにも応用できるのではないかというご提言があったと理解いたしました。
 実際にやられているお話なので、体験その他を踏まえて、あるいはこの中に同じようなお考えの方がいらっしゃるかもしれませんが、ご質問、ご意見等あれば、どうぞよろしくお願いいたします。

御船((財)多摩都市交通施設公社
 大変密度の濃いお話でありがとうございました。
 最後にお話の郊外のまちづくりを主として仕事をしてきましたけれども、質問が4点ございます。共同建て替えとコーポラティブを結びつける点、大変感銘をいたしましたので、その具体的な、特に東松下町での事例の中でお尋ねしたいことが4点ほどございますので、お差し支えない範囲でご説明をいただければと思います。
 1つは、敷地が4筆、4地主さん。この4筆、4地主さんがまとまった理由、あるいはそのお隣にもまだ大変小さな建物がありましたけれども、お隣は入りたいとおっしゃったのか、無関心であったのか、あるいはお仲間との関係であえて仲間に入れなかったのか、その辺、特にこういう町中での相隣関係の中での4筆、4地主さんの関係を、お差し支えない範囲でお尋ねしたいと思います。
 結果として500平米未満になったということで、むしろそういう限定をなさったのかどうかということも補足していただければと思います。
 2番目は、事業の進行状態の中で、最初に地主さんの準備組合をつくって、コーポラティブ住宅に入居する人を募集して、建設組合に移行するというお話でしたけれども、準備組合の企画の段階で、規模とか総事業費、それぞれの地主さんにとっての負担がどのくらいかという枠組みを当然おつくりになると思います。それが結果として事業に入った段階で予測しなかった事業費のふくらみ、あるいは課題というものが出てくるのか。あるいはその段階で予測したとおりに進行しているのか。その辺の準備組合段階での計画と実際の事業の段階での対比評価みたいなもので、特にこれから事業を考える上で参考になるような点があったら、ぜひお教えいただきたい。
 それから、最初に、NPOはいただくものはいただくというお話がございました。私ども全く同感で、私自身も参加しておりますNPOその他でも、そういうことを折々発言しております。そう考えますと、今回の初めての事業の中で、設計料は10%以上というお話がありました。これは当然特定の設計者が仕事として担当し、その報酬を受け取ることになると思いますけれども、NPOとしては、この事業の流れの中で、どの部分の仕事を建設組合から引き受けて、それが大体どのくらいのNPOとしての報酬になっているのか、お差し支えない範囲で教えていただければ……。あるいはNPOとしての受託事業内容だけでも結構ですから、ご説明いただければと思います。
 4番目は、NPOの仕事の1つとして、車いすの問題に触れられました。この点も私も全く同感でございます。特に今回初めて事業の中でそういったユニバーサルデザインといいますか、バリアフリーというか、いろんな言い方がありますが、具体的に、いずれお住まいになっている方も、車いすを使うようになるような時期が到来するかもしれないということを想定されて、そういった意味で設計内容に盛り込まれた点があれば、ご説明いただければと思います。
 話が個別的な質問になりましたが、お話を伺っていて、そんなことを教えていただければと思います。よろしくお願いします。

杉山
 まず、4地主がまとまった理由というところですが、1つは500平米未満にするために隣は除いたということはまずありません。隣についても、同じ街区で4地権者がほかにおいでになります。そこについては基本的には全部声をかけました。木造の手前側にあった住宅は借地なんです。底地と借地。そこら辺で、なかなかご一緒にできないということだったものですから、結果として307平米ぐらいでした。地区面積としても500平米にいかないという結果になりました。それは意図的にそうしたわけじゃないんです。
 それから、地主さんたちがまとまった理由は、1つは、何とかしなくちゃと考えていた団塊の世代から60ちょっと過ぎぐらいまでの方々が決裁権限を持っていました。ですから、そういう意味では、たまたま仕事もしっかり一線で活躍をされている皆さんだったものですから、すごくご理解が早かったこと。その前の段階でディベロッパーさんが共同化の企画をしておられまして、それがどうしてもまとまらなかったということがありました。共同化の機運そのものはあったんです。それに私どもも2年半ぐらい前からおつき合いをしておりまして、私どもが公開勉強会を何回かやっていて、そのうち例のつくば方式の小林先生に来てもらったときにも参加をしていただきましたし、昨年は早稲田大学の山野目先生に来ていただいてお話をしてもらったときにも、その地権者の一部に参加していただいているわけです。
 そういう中で、ディベロッパーの話が壊れたから、ぜひ提案をしてほしいというお話をいただいて、お会いしてない地権者もいましたので、早速グルッと回って、提案させてもらったら検討してくれるかということで、確認をとって進めていった話です。
 そういう意味では大変下地があってラッキーだったのかなというのはいえます。ただし、私ども何もしていないと、そういうことにはなりませんので、ただのラッキーとは思いたくないんですけれども、そういう次第でございます。
 それから、次に、準備組合段階でいろんな事業計画をして募集をして、その後の予測しなかった事態は幾つかもちろんあります。1つは、地中障害物が、その地主さんはせいぜい松ぐいと水槽が1個ぐらいだといっていたんですが、物すごい立派な地中梁が残っておりまして、これを解体するのに二百数十万かかったわけです。それは地主さんに持っていただきました。
 そのほか、組合をつくりますと、出資といいます。出資金を組合員が出すわけですが、1回目は出資をした。2回目に、ある小さな企業の社長さんが、自分の社宅用だといって参加されていたんですけれども、企業の業績が悪くて2回目の出資がままなりませんということで、工事も始まっちゃったし、設計も十分詰めたしということで大変なことで、事務局サイドで、今までの方に何人か当たったんですけれども、簡単に決まらなくて総会をやったわけです。総会の場で素直に「こういう状況です」といったら、地権者の1人が、自分の奥さんのお母さん、義理のお母さんに住んでもらう場所にしたいからということで、その方はお金を持っていたので、そのぐらいならあるよということで、その方にかわっていただきました。
 そのお話をする前に我々もいろいろ努力もしたんですけれども、その前に組合員の皆さんに素直に早目にお知らせをするべきだったかなと反省しております。そのくらい運営していく上で事務局は、組合員の皆さんと一体になってやっていかなきゃいけない。何とか取り繕ろおうという気持ちがあっちゃいけないということを痛感をいたしました。
 あとは、補助金が200万ぐらい減るよという話がありましたが、また詰めていったら戻ってきたので、ホッとしました。
 次に、NPOの収益のお話ですが、この事業の中でNPOに入ってくるのは、最終的には多分700万円〜800万円ぐらいだと思います。それだけじっと待っているわけにはいかないので、いろんなことをやりながら生きていきます。
 それから、車いす問題のお話がありました。1つは、千代田区の福祉のまちづくり条例というのがありまして、補助金をいただく関係がありまして、それをできるだけ取り入れるということで、非常用の駐車場、車いす用の臨時駐車場を設けました。2階に事務所があって、私どもが借りる事務所のトイレは共用部分にして、共用部分の中に車いすの方が入りやすいトイレをつくる。押すとドアがスーッと入っていくドア、広さとかを工夫して、そういうトイレを設けました。あとは、エレべーターが身障者用。そんな感じで、どこから入っても車いすでちゃんと入っていける。これはコーポラティブ住宅を考える場合でも、基本的には自分たちがけがするとか、年取るほかに、車いすの人が訪ねてこれる家、障害を持った方が自分の家に自力で訪ねてこられる家をつくりたい。そういう意味で、例えば3階建てでもどうしてもエレベーターを設置するということを基本にしております。

谷口
 
先ほどのNPOの収益というのは、基本的に企画コーディネート料に対応するものということでよろしいわけですね。

杉山
 
はい。

谷口
 設計料というのは組合からじかに設計者に支払われるわけですか。

杉山
 そうですね。ちょっとやりくりがいろいろありますが。

海老塚(国際建設技術研究会)
 2点質問があるんですが、1つは、前からお話を聞いていて、この神田の事業は非常にユニークで、2つ目の事業をぜひとも続けていただきたいと思いました。半年か1年ぐらいたって2つ目の事業がなぜあらわれてこないのか。むしろ入りたい人はいるようですけれども、地権者で名乗りが挙がらないというところをちょっと知りたいんです。公団でも、関西で幾つかやったんですが、震災復興以後はあまり大阪ではできていなくて難しいんですけれども、2つ目の事業の見通しについて、もうちょっと伺いたい。
 2つ目は、マンション建て替えの話で、コミュニティ・ビジネスとして専門家がこういうところにかかわれるといいなという気持ちを持っています。恐らく200戸〜300戸の団地ですと、管理組合はそこそこお金を持っていますので、コンサルタント料を払えるように思うんです。NPOの仕事としてかなり今後可能性があるように思います。その見通しについて教えていただけたらと思います。

杉山
 2つ目の事業を早くやっていくというのはご指摘のとおりであります。検討しているところは数カ所あります。ちょっと大きいところもありまして、一番初めから取り組んでいる神田紺屋町南地区。これは500坪ぐらいの敷地になりますので、なかなか大変なんですけれども、そのうちの1軒が銀行さんの不良債権になりまして、競売をされて、銀行競売管理会社が転売を目的に、最低競売価格で競落したのが出てきたんです。そうすると、ボヤッとしていられないものですから、そこに行って、「もうちょっと待ってください」ということを私どももいいましたし、まちづくり公社の方に行っていただいたりして、取り組んでおるのがあります。
 これは、2つ目の事業を一生懸命やりますというしかないので、一生懸命やります。「なぜできないのか」といわれると、「すいません」としかいえません。
 それから、マンション建て替え関係のビジネスかどうかということですが、私どもが4年ほど関係しているところが270戸の団地です。ここでコンサル料として一番たくさんもらった年は100万円いただきました。私どもと設計事務所と2社で、これはNPOじゃない方でやっています。毎月部会に出席したり、提案を考えてつくったりということだと、とても合わない仕事なんです。
 200戸〜300戸の管理組合は、お金は多少持っているんでしょうけれども、先の見えないものになかなか出したがらないグループもたくさんおりまして、私どもにフィーを、交通費の足しぐらいの話でいろいろ払ってくれる方たちは理解をしていただいているんですけれども、ビジネスになるのはなかなか難しいだろう。簡単にはいかない。むしろそれよりも、都市公団が昔分譲されたものですから、そこら辺で少し頑張っていただきたいなと思ったりします。

長塚(長塚法律事務所)
 最初この事業を始めるのに、理事会その他でだんだん詰めていくわけですね。一番問題は、しょっぱなからたくさんお金を預かって仕事をやるんじゃなく、金銭的な面において何か保証とか、その辺の関係をお聞きしたいんです。
 それから、先ほどちょっと出ました、不況の中でお金を出してもらえる予定の人が倒れちゃったというケースがあった場合にどうするのか。その辺の関係をひとつお願いしたい。

杉山
 まず初めに、どんな感じで出資をしていただくかといいますと、今回の場合は土地代がほとんど出ないんです。それこそ先ほどからいっている等価交換方式に似たような格好で、土地代が出ないものですから、先行投資金額は割合少ないんです。例えば4000万円出資する人が、1200万円ぐらいで工事の着工までいける。工事代金の支払いは、10%、90%とか、15%、85%、そういう支払い条件で出しますので、今回のこのケースですと、先行的な投資は割と少ないんです。
 それでも、4000万円の人が1200万円出して、何の見返りがあるかというと、土地の最終的な持ち分に登記をしてしまうんです。だから、皆さんの名義が土地の登記に全部あらわれて、最終形の状態にしてしまいました。それが保証といえば保証なんですが、本当は組合財産なんです。民法上の組合ですけれども、本当は組合財産なので、あなたのものじゃありませんよということで司法書士の金庫に権利書はみんな預けてあります。そんな保証をしながらやっていくことにしています。
 お金を一遍に集めて支払いの当てがないかというと、そうじゃなくて、支払いは、例えば1回目の出資は幾ら幾らですよ、総額でこうなります、このうちの幾ら幾らは設計料で払います、コーディネーター料で払います、土地の手付で払いますとか、そういうふうに使い道を全部明確にして、お金の管理も、組合の理事会とコーディネーターというか事務局、そういうところで一緒にやるようにしていますので、例えば、預金の判こは理事長印をつくって、組合の会計担当理事が持つ、通帳は事務局でお預かりをするという形で、だれも勝手に押せない状況で支払いを起こしております。
 それから、途中でやめた場合どうなるのかということですけれども、基本的にはかわりの人を連れてくれば問題ないよということにしています。かわりの人、その人の地位をそのまま引き継いでくれる人を連れてくれば、あなたがそれを幾らで清算しようと、その地位を承継するわけですから、出資の変更はないわけです。そういう前提になっておりますが、どうしてもやめたい、何が何でもやめたいという場合には、2割のペナルティーを取るということにしております。出資が意図的におくれたりしたのは2割のペナルティーをいただきますよというのが組合契約の内容になっております。
 今度の場合は、本当は多分そういうペナルティーのケースだったと思いますが、ちょっと事情も事情だったのでという甘いやり方をして、反省しております。でも、円満にいきましたので、何とかなりました。

谷口 
 どうもありがとうございました。
 ほかにまだあるかもしれませんが、ちょうど時間になりました。きょうは大変な天候で、外もちょっと気になるところで、きょうはここのところで終わりにしたいと思います。お足元の悪い中をよく集まりいただいてありがとうございました。
 杉山さん、どうもありがとうございました。(拍手)


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