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第169回都市経営フォーラム

都市再生の最近の動向
−21世紀型まちづくりの視点−

講師:伊藤 滋 氏
早稲田大学教授・慶応義塾大学客員教授


日付:2002年1月23日(水)
場所:後楽国際ビルディング大ホール

 

1.都市再生戦略チーム

2.推進すべき場所と期間

3.具体的戦略の例



 実は、私は去年の7月に都市再生のテーマでしゃべって今回引き続きなんですが、去年の7月に僕が何をしゃべったか、よく覚えていなくて、繰り返しが入るかもしれませんけれども、それはご容赦願って、なるべくおもしろくしゃべろうと思います。

1.都市再生戦略チーム

 お手元のレジメに、「都市再生の最近の動向−21世紀型まちづくりの視点−」と書いてありますが、これには原本があるんです。タイトルだけ変わっていまして、こっちのオリジナルのタイトルは「都市再生の推進計画・平成13年9月21日・伊藤滋」と書いてある。そこにかなりの意味があるんです。9月21日というのは何かというと、実は都市再生戦略チームという、これもどういう位置づけかよくわからないんですが、そういうチームが発足した日で、そのときに、伊藤メモというのを出そうと役人がいうので、それなら出すぞといって書いたメモです。ところがこのメモは伊藤滋が全部書いたかというと、清書と修文と構成立ては僕が全部しましたから、最終の責任は僕にありますけれども、これの作成にかなりかかわっていたのが、牧野徹という、今の総理大臣補佐官。彼と僕との合作で、僕が最終責任を負って、9月21日に戦略チームの初回の会議にこれを出したんです。
 皆さんのお手元に、「具体的戦略の例」というので、1から7まであります。この戦略チームは、この話題を1つ1つ割合丁寧につぶしていっています。現在のところ7つのうち5つぐらいまでは戦略チームとして議論をした形になっていますけれども、まだ2つ半ぐらい残っています。これもこれから半年ぐらいの間に鋭意やろうかと思っています。
 何で都市再生戦略チームが9月の21日に発足したかと申しますと、ここからがちょっと講談調になりますので、あまり仕事の役には立たないけれども、話としてはおもしろい。というのは、牧野さんのことは、去年の3月ぐらいに日経新聞で、要するに新聞辞令というのが出た。えひめ丸事件の直前です。牧野徹前都市基盤整備公団は今度総理大臣補佐官を任命されるという新聞辞令が出て、それを僕は読んでいたんです。
 そのときの首相は森首相でした。3月に日経がすっぱ抜いた辞令というのは、えひめ丸事件が起きてなければ、多分正式に、去年の4月ぐらいに彼は森政権のもとでの総理大臣補佐官になっていたと思うんです。ところが、ハワイ沖でああいう事件があって、森さんは総理大臣をやめちゃった。
 だから、えひめ丸事件がなければ彼は総理補佐官になって、小泉首相までずっと総理補佐官でつながったと思うんです。それが宙ぶらりんになった。そしてその後、小泉政権になったわけです。
 政治というのはおもしろいもので、本当にわからないようですね。総理補佐官の新聞辞令が出たからといって、すぐなれるなんて、彼自身もわからなかった。ここからは僕の類推です。彼は何の画策もしてなくて、天の声がどこかからあった。小泉政権のときにも天の声がどこからかあって、それで小泉首相が「そうだ。あいつを総理補佐官にしたらいい」というふうにして決まったのが、去年の8月。
 その天の声は何かというと、僕はよく知りません。だけど、牧野補佐官が任命されるころの8月の小泉政権の最大の課題は、道路公団つぶしです。首都高速道路公団、道路公団、本四架橋公団。都市公団なんていうのは率直にいって相手にされてなかった。今でも、首相の官邸の周りでは、公団の中で重要なのは道路4公団なんです。都市公団というのは「あったか?」というような、我々の認識とガラッと違う。自民党政治というのは、地方代議士によって占められているから、そういう話です。
 これからはうわさ話ですけれども、牧野さんの辞令には、何の首相補佐官かというと、「都市再生等」と書いてあるんだそうです。小泉首相が8月に牧野さんを補佐官にしようとふと思ったのは、彼が建設省の事務次官の中ではにプレゼンスが割合目立つ次官だったんです。ですから、それなりの強い影響力を前事務次官という形で、国交省の中でも持っているのではないかと、小泉総理大臣は推測したんでしょう。
 ですから、任命は、表向き「都市再生等」と書いてありますけれども、実は彼が補佐官になった8月から9月ごろにかけて、前建設事務次官として、特殊法人の親玉である道路関係4公団をどういうふうに整理するかについて、首相にいろいろなアドバイスをするということをさせられるんじゃないかと、彼は相当気にしたんじゃないか。全部「ないか、ないか」の、類推です。
 ですから、私が新聞の記者として、類推して書くと、特別補佐官として任命された本当のねらいは、都市再生ではなくて、「等」である。「等」に本来のねらいがあった。というのは、いみじくも彼が補佐官に任命されたときに、新聞記事で、小泉首相が牧野氏と握手していて、「敵の中の大物中の大物の人物をおれの補佐官に任命したんだから、行政改革、特殊法人改革は絶対におれの考えたとおりにいくであろう」といった記事がありました。
 ですから、都市再生の専門家として本当に総理補佐官になったかどうかというと、一抹の疑いがある。政治では、都市再生よりも行政改革、構造改革、補助金カット、道路公団への国の補給金をやめるなんていう話題の方が、政治的イッシューとしては、きっと総理大臣にとっても、政治家にとっても、自民党にとっても、10倍以上の重みがあるだろうということです。
 新聞記事をこの2カ月ぐらい見ていると、実際にこの「都市再生」という言葉はかすんできています。半年前の新聞記事と今の新聞記事での「都市再生」の扱いを比べてみますと、どんどん小さくなっています。一番今重要なのは金融支援、特殊法人ですよ。規制改革も少しかすんできています。そういうふうに政治的イッシューというのは、我々がこういうふうにしてほしいという願望とはいつもずれて動いているということです。しかし、今位置づけは軽くなっているんですが、これは絶対なくならない仕掛けになっている。この辺は次の7月に話すかもしれません。
 日経の記事で牧野さんが補佐官になったときに、そのころから僕はいろんな接触があって、彼が、「伊藤さん、今度補佐官になったら、都市再生戦略会議というのをつくる」といったんです。経済諮問会議は法律で定められていますけれども、もし都市再生戦略会議というのをつくったら、それは経済諮問会議ほどではないけれども、内閣官房の中の、総理大臣が会議の議長を務めるという点で、極めて重要な位置づけの会議にしようといってたんです。その会議の中に、実務部隊の都市再生本部というのと、戦略会議というのと2つつくろう。戦略会議は学者で、再生本部は事務屋で、行政官で、この2つをまとめて都市再生戦略会議というオブラートで包んでやる。格好としてはきれいだった。
 そういうことをいってたんですが、これもうわさですけれども、亀井政調会長がいたときに、彼は極めて実務的な男ですからそこのところを通過するときに、「学者のたわ言は要らない」。確かに当時それは正しかった。
 都市再生本部というのは、自民党の政調会と、総理大臣、これが具体的なこれをしろという命令を再生本部の役人に対して出していく。役人はそれを実務的に処理する。それでなきゃスピードが上がらない。学者にグタグタ議論させるなんて何の役にもならないぞということがあって、亀井氏は学者のたわ言をカットした。当然都市再生戦略会議なんてのはなくなって、都市再生戦略本部だけになった。これが去年の3月ごろ、予算成立の直前の議論なんです。
 実務部隊として都市再生本部を政治的にも使おうと考えていたから、当然これは総理大臣が本部長で、大変な組織です。副本部長が、内閣官房長と扇国交大臣なんです。だから、福田官房長官と扇国交大臣が副本部長で、上に小泉首相がいて、本部員というのは、閣僚の中で、法務大臣と防衛庁長官と、都市再生にはおよそ役に立たない大臣、どこかもう1つぐらい、その3つぐらいの大臣を除いた全部の大臣が本部員。
 僕は政治というのはこういうものかと思った。閣議と似ているんだそうです。閣議というのはそれぞれの担当大臣、文部科学大臣とか、財務大臣、国交大臣が、新しい法案をつくるとか、あるいは事務次官の首を切るとか、あるいは外国との規制緩和にかかわる協定を新しく出すとかいうことを、各担当大臣が各省のかかわるところに根回しを役人にさせて、最後の儀式として総理大臣が議長を務める閣議というところに出して、みんなそのときは、それぞれの大臣、主務大臣のほかに関係する大臣は、今回の閣議にはこういう話題が出ると全部わかっているから、シャンシャンシャンと済んでしまう。最後の手打ち式が閣議。だから、5分ぐらいで終わっちゃうなんてのもあるんだそうです。ですが、そこで決まったことは、日本でこれ以上強いものはないわけです。
 再生本部の会議というのはそれとほとんど似ているそうです。なぜならば、構成員として、都市にかかわらない法務大臣と防衛庁長官と何とか以外は全部入っているわけですから。ですから、亀井氏の考えていたのはかなりいい線で、学者のたわ言に惑わされないで、スピードアップして、物事をトントントンと決めていくという点では、大変いいスタイル。それをつぶすのはなかなかできないわけです。首相が本部長。こういうスタイルになっている。

 そもそも都市再生というのは、ポッと出てきたかというと、この根は極めて深いところ、政治的には軽くても、抜こうとすると、そう抜かしてはくれない相当深いところに根はあるんです。都市再生やめたなんていうと、多分「あれを忘れたか」という都市派の代議士が出てきて、「あのことを思い出せ」という言い方は、「やめろ」という地方代議士にとっても、あるいは地方派の大臣にとっても、相当ガツンと来る話があるんです。
 それは何かというと、7年前の阪神・淡路の大震災です。阪神・淡路の大震災は、その整理の仕方は極めて見事にしました。いろいろ批判はありましたけれども。あの仕事について、大枠として、政府はとんでもない失敗をしたなんて、新聞も書いてないでしょう。
 大都市の再生の一番の原点というのは、実は阪神・淡路の大震災に根がある。ああいう都市を20世紀に日本はつくってきたんだ。阪神・淡路の大震災というのは、戦前からずっとある木造の住宅地を戦後見捨ててきて、残ったところが地震でつぶされたということです。6400人の90%ぐらいは圧死です。1割ぐらいが長田の大火で犠牲になった。多分9割ぐらいがお年寄りの圧死です。そこへさかのぼるんです。
 この阪神・淡路の大震災の教訓をきちっと引き継いで政府の国家計画として出したのが、5番目の国土計画です。これを称して、21世紀の日本の国土のグランドデザインという文学的表現なんですけれども、そこに明確に、21世紀に日本国家は、阪神・淡路の大震災を教訓として、大都市の極めて粗末な都市構造を直さなきゃいけない、そういうこともきちっと位置づけている。
 今の話題に戻りまして、ここで何回かいいましたけれども、阪神・淡路の大震災という人柱がなければ、21世紀の国土のグランドデザインの中に、大都市のリノベーションという言葉は入らなかったと思うんです。というのは、それほどまでに国土計画というのは、自民党体制の地方に対するお金を流す先ぶれの、チンドン屋みたいな役割をしているわけです。その中に、大都市が大事だなんてことを、今までの1番目から2番目、3番目、4番目の国土計画でいってない。
 だから、地方選出の代議士は、国土計画に知事のいっていることがどういうふうに書き込まれているかということが選挙の政治の生命線であり、その文言を、地方選出の代議士も、それを根拠として、役人のところに行って、「こういうふうに書いてあるじゃないか。だから、調査費をよこせ。事業費は来なくても調査費をよこせ」。そういうことをいう。
 大蔵省も、「しようがねえ。ああいうふうに書かれちゃったから、まず調査費ぐらい5年間出してやろうか」となるのですが、調査費だって大変なんです。事業をやるときの調査費はべらぼうなお金が出ますから。そういうのが全国へしみ込んで、地方の土建屋さんが、ずっと飯を食えたという話です。
 ところが、阪神・淡路の大震災があって、これじゃ、やっぱり、幾らなんでも大都市にも目を向けなきゃいけない。それは大都市のリノベーションという言葉で出てきたんです。阪神・淡路の大震災の翌々年か、そのことを書いた5番目の国土計画ができたわけです。
 その後、日本の経済はよたよた歩きを始めるわけです。平成の9年、10年ぐらいからよたよた歩き。そこで小渕さんになって何をやったかというと、経済戦略会議というのをつくったんです。そこの中で日本経済再生の戦略というのをつくった。だから、再生とか戦略とかいう言葉がはやり出すのが、平成11年ぐらい。経済の再生、都市の再生、人権の何とかとか。
 この平成11年の小渕政権の初めのときに、非常に重要な、小渕総理大臣が自分の政治の基本をつくってくれと頼んだ経済戦略会議。そこに都市の再生という言葉がずっとつながったんです。阪神・淡路から、5番目の国土計画、小渕総理のときの経済戦略会議の答申と、ずっと都市の再生というのがつながってきた。切れそうで、でも、つながったというのは、繰り返しますけれども、阪神・淡路の大震災がどれほど我々のまちづくりの根幹を揺さぶったかということです。 

 それで、平成11年、何が起きたかというと、石原慎太郎知事がさっそうとデビューした。彼は自民党の候補を負かして、勝ったんです。だから、自民党側にとっては彼が煙たくてしようがない。「都市について何も考えていない。首都移転も反対だ」とか、いろいろ激しいことをいうでしょう。「日米の安保条約を改定してでも横田基地を民営化しろ」とか、国政にかかわる基本的なところでどんどん揺さぶりをかける。
 これもちょっと変な話で、何かアメしゃぶらせて少し静かにしもらおう。こういうことを考えるのが、自民党というか日本の政権です。日本の政治というのは真っ正面からぶつかってディベートしない。これは日本人の体質かもしれません。
 そこで考えたのが、扇大臣主催の大都市再生推進懇談会。その理由は、表向きとしては平成11年の樋口リポートです。日本経済再生の戦略の中で、「都市再生というのは極めて重要だ。これなくしては、国際的な形で日本の国はニューヨークやロンドンと闘えない。経済の土俵から現実的な都市の専門家も集まった都市の土俵へ移して、もう1つ切り込んで議論をしてもらいたい」というのが名目だった。
 この懇談会の座長をやったのが、首相からいわれたという形で扇大臣だった。初め東京だけがやっていたら、大阪から物すごいクレームが出まして、「東京だけが大都市ではない。大阪、どうしてくれるんだ」というので、急遽、1カ月ぐらい後で大阪版というのができた。東京版と大阪版というのができて両方動き出した。石原知事ももちろん東京版のメンバーでした。僕は東京版懇談会の取りまとめ役をさせられたわけです。
 この会議は小渕さんがつくったのですが、残念なことに亡くなってしまった。都市再生推進懇談会1回目は、小渕さんが出て、きちっと全部話を聞いて、そしてメモをして、扇さんにメモを渡したりした。懇談会に出ているメンバーだっていろいろいました。ソニーの出井さんとか、いろいろ出て、それもやっぱり小渕さんが最後までいてくれるから、「いいかげんに扱っているんじゃないな」という感じです。石原知事もそうだった。ずっといてくれた。
 小渕さんが死んじゃって2回目になったときに森さんなんです。森さんは、「まあまあ」だから、はっきりわかるのは、大都市再生懇談会というのは、政治の流れからいって、まあ、刺身のつまぐらいでしょうね。初めの30分ぐらいいて、いつものとおりだろうと思って、「じゃ」といって、座を外した。そのことで石原知事が怒ってちょっとした文句をつけていました。
 それが森首相にとってちょっとショックだったようですね。「なるほど。地方とは違うんだな。大都市問題というのは」。地方だったら、儀式で総理大臣が来たなんていったら、みんな大感激で、ちょっとあいさつして、「皆さん、頑張って」っていって、5分でいなくなって、担当大臣がまた威張ってしゃべって、次は地元選出の代議士がしゃべって、事務次官か何かがしゃべる。
 それで、3回目のときはさすがに森さんずっといました。3回目は大体手打ち式のときですから、2回目が一番重要だったんです。
 大都市再生推進懇談会が平成12年の11月30日に大阪も東京もまとまって、扇大臣に出した。しかし、これはたなざらしになりました。この推進懇談会というのは総理に対して幾つかのアドバイスしているんです。非常に興味のあるアドバイスで、それは後ほどの9月21日に発足した都市再生戦略チームの7カ条の提言にずっとつながっているんです。
 つながってきたところで、実務をやらせようというので、森政権は都市再生の実務的なところをやるのはあいつに任せておけばいいやというので、牧野を任命しようとした。そしてえひめ丸事件で小泉政権になる。以上がプロローグ、序曲です。(笑)

 小泉さんになって、さっきいったように、特殊法人改革などで、公団をつぶさなきゃいけないというので、都市再生等として牧野さんが使えるんじゃないかと、だれかがアドバイスしたのでしょう。
 これもおもしろいポリティックスです。非常に日本的であって、しかし、現代的。牧野氏が選ばれたというのは、一種のアメリカの大統領が補佐官を選ぶような選び方がされているんです。ドロドロした自民党政治の中から出たんじゃない。
 それで、彼が8月に任命されて、彼は2つのことをやらざるを得なかったでしょう。特殊法人改革と、かなり日干しになっている都市再生というのにもう一回水を入れて、ちょっとつややかにして、商品として仕立てなきゃいけないということです。なぜならば、既に都市再生本部は、5月の20日ごろに発足して3カ月ぐらいたっていましたから。
 繰り返しいいますけれども、都市再生本部は、事務的に役人が集まって着々とやっていく。国の役人であろうと、県庁の役人であろうと、市役所の役人であろうと、必ずやるのは、「都市再生」という言葉でみんながどういうことを考えて、どういう要求を持ち出してくるのかというのを広く集めようというのでデータコレクションをやる。データコレクションをやって分類整理するわけです。
 分類の仕方は、これまでの建設省とか、少しは農林省、運輸省の役人行政で、分類整理してきたのと同じような考え方で分類整理するわけです。それで結構2〜3カ月は仕事になるわけです。データを全国から集める。
 都市再生本部の最初の仕事は、前々からいわれていて、あるいは政治的に、だれもこれはしようがない、あいつがいっているんだから、これはやらなきゃいけないというようなことです。こういうアイデアというのは、よくわからないけれども、ジャーナリズムが物すごくバックアップしているものです。だれが見ても、出したものについて反対できない。反対できないものを1回目から2回目ぐらいは出せるんです。分類整理して、データ集めたとき。1回目の、だれが見ても反対できないなというのは、役人というのは非常にうまい。
 表向きは、「うん、これは当然やらなきゃいけない」というもの。何かというと、1つは大地震、1つはごみ、1つは民間の金を使う。だれが見ても文句つけられないですね。東京に地震が来るよ。大阪だってわからないよ。神戸で起きちゃったから、ちょっと無理があるんですけれども、大阪だってわからない。地震のときに、阪神・淡路の教訓だと、大量に救援物資をバッと集めるところとか、大量に、例えば死んだ人とか重病の人を集中的に管理する。非常に冷酷ですけれども、死体は管理しなきゃいけない。重病の人はそこに野戦病院でも開いて、とにかく早く手当てをする。大量の組み立て便所、何万と、なるべく早く持って来なきゃいけない。そういうのを阪神・淡路は教えてくれた。
 とにかくそういうのは船で来る。東京湾の埋立地に、物資と人に関係する集積と分散、ディストリビューションする防災拠点をつくろう。これ、物すごくカッコいいでしょう。カッコいいんだけど、もう1つ立ち入ってみると、「何だ、これ。工場用地100万坪を政府が買うというプロジェクトか。」とか、疑えないわけでもない。そういうふうに知恵をつけたのはだれだというと、多分土建屋が役人に知恵をつけたろうと思われたりする。
 だけど、表には東京湾臨海部における基幹的広域防災拠点の整備なんて書くと、「まあしようがないな」と。正論ですから。共産党的正論を自民党政府がやったのかな。これが1つです。
 2番目。大都市圏におけるごみゼロ型都市への再構築。これも、要するに、でかい空いた土地をまず手に入れないと、ごみ処理ってできないんです。
 1番目と2番目は、地震とごみで、東京湾と大阪湾の、かつての大日本株式会社がつくった、そして使い物にならない土地を政府が買うぞという意味にとれないこともない。国家と大資本の癒着である。こういうのは「赤旗」だったら書かれるかもしれない。でも、大都市圏におけるごみゼロ型都市への再構築のそういうプロジェクトを推進する。
 3番目。突然、これはおかしいんですけれども、中央官庁施設のPFIによる建て替え。1番目と2番目はかなり気宇壮大ですが、3番目で、中央官庁施設のPFIの建て替え。何でこんなのが入ったんだ。これはやっぱり、役人というのはおもしろくて、これはすぐできる。どこかというと、会計検査院がもうガタガタになった。文部省も、人事院ビルを建て替えたから、国交省の営繕部としてはどこかで仕事ないかと探していて、文部省あたりなら、建て替えてもそう反対ないだろう。ついでに会計検査院も、あれも随分上に容積が余っているぞ。これは国家として、中央政府としてすぐできる仕事。これを1つ入れておけということなんです。2までは精神はよかった。3番目で、精神なんて全く出てこない。突然つまらない話、PFIだからつまらなくもないですが。
 これはもう一皮ひんむくと、建設省の営繕部隊が生き残る理由になります。営繕部隊って、民間にしちゃったっていいと僕は思っているんですが、あまりそういうなって、いわれるんです。
 こういうのは、先生方がいなくたって、すぐやれるプロジェクトです。金をつけて、東京都庁あたりの役人が千葉県庁とか川崎市の役人といろいろ議論すれば、1と2、地震とごみについては、県民や都民にわかるような事業実施の姿勢ぐらいは1年ぐらいで組み立てられる。あとは金をつければ動くだろうということです。
 PFIだって営繕が動いてやれば、文部省の建物の半分ぐらいをつぶす覚悟、会計検査院つぶす覚悟ですぐできる。これが都市再生プロジェクトの第1次決定として出た。
 それからしばらくたって、8月の末に都市再生プロジェクトの第2次決定が出た。これは何かというと、ここも新聞なんかに何回も出ているやつを役人風に直したもので、1番目は「大都市圏の国際交流、物流機能の強化」。これは何のことはない、飛行場の話です。羽田、どうするんだ、関空、どうするんだという話。羽田では4本目の滑走路をつくるよということをいったわけです。
 国際交流、物流機能って、いってみると、滑走路を東京と大阪につくる。
 それに関連して、これも政治的で、不思議なんですけれども、京浜電車と都営浅草線の乗り入れで、京浜電車、都営浅草線、京成電車、北総鉄道、で、千葉ニュータウンですね。あれを千葉ニュータウンから成田へ延伸して、東京のところで、都営浅草線を八重洲側でこういうふうにして、成田と羽田を今いった線で直結して、今までよりも30分ぐらい速く成田と羽田を結ぼうなんてのが出てくる。
 これは後でいいますけれども、東京都と国のちょっと癒着のにおいがするプロジェクトです。公団はかんでないですね。僕は公団を監督する委員会のキャップだから、よくわかる。(笑)
 2番目は、大都市圏における環状道路体系。要するに外環をつくろうということです。外環やるぞ。中央環状ももう少し金をぶち込んで、大橋まではやるぞ。今新宿あたりやっていますけれども、大橋で東名までくっつけるぞ。これはとにかくやる。それから、大阪も、環状か何かやるぞ、これは前からいわれていることです。
 それから、3番目は、大阪圏のライフサイエンスの国際拠点圏。ようやっと大阪で目玉商品が出た。大阪のライフサイエンス。生物化学の国際拠点をつくる。これは大阪で前からいっているやつです。
 ここの1、2、3までは、天下国家を相当議論する。2次プロジェクト。これも金がつくということです。
 急におもしろくなるのは、4番目に都市部における保育所待機児童の解消というのがある。大きい話をしていて突然、「保育所待機児童の解消のために」。何だ、これというようなものですが、無認可保育所をうんとつくる補助金でもやろうというもので、こういうのが8月の末に出たんです。
 僕が今何をいっているかというと、第1次決定、第2次決定とも、全部これはプロジェクトなんです。だから、政府の国交省か、農水省か、厚生省か、それの外郭団体か、国交省の直接の地域整備局か、知りませんけれども、国の金で土地を買って、そこの上に民間の企業を誘致して、そこで仕事してみなさい、そういうことなんです。あるいはお役所の建物を壊して、土地をきれいにするから、場合によってはそこに容積も少しふやしてやるから、民間の金、来なさい。これも金なんですよ。外環なんてのも金の固まりです。中央環状も。
 ライフサイエンスの国際拠点といったって、厚生省あたりが、そういう医者の圧力に屈して政府が金を出すとか、製薬会社に金を出して研究所、コンビナートをつくれとかいう。保育所待機児童の解消なんて、悲しいけ    ど、これだって金ですね。全部金なんです。
 再生本部がずっとやってきた第1次決定、第2次決定というのは、全部土建屋さんに直結する、あるいは他のものに直結する、そういう金の流れを大都会に持ってきた、そういうことだけかもしれないんです。
 これは自民党的には割合響きがいい。頭を使わないから。金の配分を地方からちょっと大都会へ持ってきて、その大都会に持ってきたお金をどういうところに配分するかということで、ライフサイエンスとか防災拠点、ごみ問題とかいう味つけをした。これは頭使わなくたって口だけでできます。というのが8月の末までの話です。
 大都市再生って、このままいくと、例えば道路公団で、3000億円のお金を道路公団に投入しなくなった。その金を大都会に持ってきて、道路公団ではないけれども、道路特別会計で、道路局のまとめていく道路の5カ年計画の中へ配分して、それを街路に移しかえるなんてこと、それだけなのかなということになる。
 だったら、これまで延々と阪神・淡路の大震災からずっと話してきたことは、初めの期待と現実を見たとき、全くとんでもないインチキ、裏切り、ごまかしであるということになります。
 小泉首相は、プロジェクトって、あまりいわないんです。彼がいっている姿勢は、制度改革、規制緩和でしょう。そういうところから見ると、都市再生本部がやってきた第1次決定、第2次決定というのは、どちらかというと、前森政権体質でずっと来たといえる。
 そこで、1次、2次決定の内容が私たち大体わかっていましたから、8月の末ぐらいから少し勉強会を何人かでやって、都市再生戦略チームというのができるらしいがどういうものか、その位置づけがわからない。そこで一等初めにやることは、この都市再生プロジェクトの流れで3次、4次といくんじゃないということを出さないと、学校の教師が役人にまたなめられるぞということが、8月の末から9月の初めにかけて、学者や、民間の人、さらに役人も入っている変な寄り合いで議論されていったわけです。
 そのときに、今までと違うような変なことをやるのは相当勇気が要る。だから、いつも変なことをやって、「また、あいつか」といわれるのは伊藤しかいないから、伊藤にしゃべらせろ。そうすれば、役人のOBも大企業の偉い人も、その後ろで糸を操っていれば見えないから安心だとなった。僕の人生はずっとそういうのが多かった。(笑)
 それで考えたのは、制度改革をやる。それから、2番目は、私たち市民は甘やかされ過ぎている。市民に対して、思い切って、こんなことをやっていいのという叱責の問いかけ、厳しい問いかけをしよう。この2つやってみようということになった。
 この都市再生戦略チームってどういう位置づけか。これがまたおもしろいんです。牧野総理補佐官は都市再生本部には属してないんです。都市再生本部は、本部長がいて、さっきいった大臣。そこに事務局があって、事務局長がかつての建設省の住宅局長、官房長をやった人。事務局次長に、建設省と東京都庁から1人ずつ来ていて、そこへ若い人たちが30人ぐらいいる。これは完全に仕事をする組織です。
 牧野氏は都市再生本部じゃなくて、総理大臣のアドバイザーです。内閣官房の中のメンバーなんです。ただスタッフがいない。だから、そこで彼は小泉首相に対して、ある会合のときに「私だけじゃ、どうしようもないから、こういうようなメンバーで都市再生について議論をして、それを総理に上げる、そういう人を何人か選んだから、それを見てください」って、見せたらしいんです。小泉総理は見て、何だかわからないけれども、12人〜13人のメンバーの中で小泉が知っている人が2人〜3人いたわけでしょう。伊藤滋って、知りゃしない。「まあ、いいんじゃない」といったから、もうしめたもんで、「わかりました。じゃ、これでやります」。あまり具体的なことをいわない。これは全部僕の想像ですよ。小説家の息子としてきょうは一生懸命しゃべっています。(笑)
 持ち帰って、自分の書いたメンバーを全部総理大臣が認めたというので、それが12人〜13人いる。それを初め、「都市行政検討チーム」という名前を自分のメモにつけた。問題は、そのチームというのは何だというと、トコトン考えると、おれたちは牧野という総理補佐官の下に位置づけられて、牧野の命令のもとに黙々と働く御用学者集団か、というのが一番わかりやすいですね。事実ですから。
 何も政令で位置づけられているわけじゃないし、総理大臣がこういうチームをつくれといったわけじゃない。「うんうん、そうか」といっただけでつくっているんですから。決定的におもしろいのは、会合を一生懸命やっているんだけど、謝金、出席費ってもらったことないんですよ。1文も。(笑)一生懸命やっているんですよ。だけど、銀行に振り込まれた形跡1つもない。要するに、牧野の私設秘書団みたいなものです。
 その秘書団で使いやすいというので、僕が踊っているだけなんです。これがどうも本当の話。牧野が嫡出子で、おれは庶子か。(笑)お年寄りの方は、これ、わかるでしょう。だけど、世の中へ出たときは庶子の方が出世する場合がありますね。位置づけが明快ではないが、やることはやろう。
 人選はこれがおもしろいんです。まず、全国町村会長、全国市長会会長、全国都道府県知事会会長。これ、みんな役人的ですね。それから、全国銀行協会の会長、これも形式ですね。形式だけど、組織としては重要なんです。それに、実力派の財界人が3人と学経は僕を除以外に4人ぐらいしかいない。そんなものです。嫡出子じゃなくて、庶子的で認知もされてないんだけれども、メンバーとしては一応それなりのメンバーが集まってスタートしているんです。
 そこで、「都市行政検討チーム」なんて、こんなの全く魅力がないというので、会議のしょっぱなに僕が、とにかくカッコいい言葉にしなきゃ、だれもが認知してないんだからというので、「都市再生戦略チーム」に変えちゃったんです。簡単なんです、認知されてないから。(笑)
 でも、1月に2回ぐらいずつ集まって、9月21日スタート。2月に4回ぐらいやって、11月の末に一通り話が煮詰まってきたからというので、僕と牧野さんと都市再生本部の事務局長の3人で小泉総理に会って、都市再生戦略チームはこういうことをやっていますということを、約40分〜50分話しました。割合時間をかけて、僕が30分ぐらいずっと。認知されてないけど、しゃべるのはうまいですから、しゃべりました。
 多分これからも都市再生戦略チームはまだ半年ぐらい続くと思うんです。半年ぐらい続く間にあと2回ぐらいは総理大臣に会うと思います。いろんな意味で、戦略チームが動かしていくプロジェクトを総理に認知させるということは大変重要で、総理がこれはいいなといえば、これは全部総理大臣の指示ということで、担当大臣はおりるわけです。総理大臣指示でということを前提にして担当大臣が、担当の局長とか事務を呼びつけて、これを何とかしろ。その仕掛けは、都市再生本部を、我々認知されない組織が手ごまのように使っているわけです。彼らだってプロジェクトばっかりやっていたらつまらないでしょう。たまには制度やりたいですよね。だから、そういうのおもしろいから、そっちにつき合うでしょう。都市再生本部がずっとそういうのをウォーミングアップして準備しているところへ、総理大臣、国交大臣、何とか局長と来て、ここのラインの事務屋のところに落ちたとき、それがウロウロしてわからないと、都市再生本部に行くでしょう。「どうせおまえがやったに違いない」。都市再生本部が、「待ってました。できているから、これ、やれ」。そういうやり方で、結構総理の威光をかりて、トラの威をかりたキツネみたいなものです。トラの威をかりたキツネで、庶子だ。(笑)
 でも、そういうチャンスがあるということは重要ですね。ショートカットして、総理大臣補佐官というポジションを牧野補佐官がうまく使いながら、片っ方で我々をうまくたぶらかして利用して、官僚というのはすごいですね。(笑)

 さて、やっとここから本題に入っていきます。
 まず1ついいたいことは、都市再生プロジェクトの第3次決定というのが物すごく重要だということです。第3次決定は12月4日。12月4日の第3次決定は制度の話が入っています。というのは、都市再生戦略チームが9月21日から動き出している影響を、都市再生本部も受けて、ようやくプロジェクトから離れて制度を変えようという話が表へ出てきた。
 第3次決定のプロジェクトの特徴は、制度に口を入れるようになったということと、もう1つは、実体として、これまでの行政ではできないけれども、大都市市民の負託にこたえて努力してやろうという、普通の役人だったら、現実味がなくて取り上げないのを目をつぶってでもやるということを出したことです。
 都民、市民が長年こういうことをやれといったことをやるぞ。例えば、よくおわかりだと思いますが、東京でいえば、神田川の再生なんていうやつです。神田川とか渋谷川、古川、小さい河川を再生して、川の周りに散歩道をつくって柳でも植えて、アスファルトを引っぱがして、土と粘土で、すべりやすいけれども、粘土に雨がしみ込んで、蛇の目の傘でも差して、柳の下を……。ちょっと古いかな。(笑)渋谷川と神田川の再生。
 もう1つは、埋立地で、さっきはごみと防災といったけれども、余りにも殺風景だから、使いでのない埋立地を、とりあえず国が買ってもいい、県が買ってもいい。あるいは借り上げてもいい。リース。50年に借地権設定して、そのかわり固定資産税はゼロ。例えば、新日鉄の堺の土地があるでしょう。ああいうところを、大阪府は金がないし、堺も金がない。でも、仮に堺市があったとします。堺市が、国が金を注入して、新日鉄の堺の製鉄所跡地100万坪を50年借り上げる。定期借地権。そこへ木を植えるんです。木を植えるのはボランティアにやってもらう。だけど、新日鉄側としては、固定資産税を払わなくていい。堺の製鉄所の跡地で固定資産税を大阪府に毎年20億だったかな、すごい金を払っているんです。何にも使わないのに、十何億か20億払っているんです。新日鉄だからできるんです。
 固定資産税を払わなくてよい。新日鉄堺の施設としても使い物にならない。だったら、「どうぞ、木を生やしてください」。
 それから、僕が今関与しているのでは、兵庫県の県の特別会計である港湾会計。これは神戸の港湾会計と違うんです。神戸の港湾会計は火の車。空港をつくろうとか。兵庫県の港湾会計は、尼崎とか姫路とか、神戸市でないところの埋立地。高砂とかやっていますから、割合ストックがあるんです。要するに赤字、火の車じゃない。そういうゆとりがあるので、尼崎の、新日鉄じゃない、関西電力かな。関電が使い物にならない土地を兵庫県が、さっきいったように借り上げて、そしてそこに固定資産税を免除するから、50年の借地権設定をさせろといって、木を植えて森をつくる。
 こういうのが第3次プロジェクトで出てきている。水と緑、これがさっそうと出てきている。前途多難ですが、やるだけやるぞという姿勢を見せてきたのは、我々何だかわからない都市再生チームがしゃべり出したからかなと思っているんです。



2.推進すべき場所と期間

 それで、やっとこの紙のレジメの話に入ります。7月にこの続きをしゃべることになると思います。7月になると、法律ができておもしろくなる。これに関連した法律が、朝日新聞の1月20日「都市再生、民間が主導」と出たでしょう。法律の案文は、こんなのを見たってわからない。よっぽどこういうことに関与してないと。これが3月に成立します。都市再生特別措置法。予算が4月から動きますし、7月ごろにはまた何かおもしろい話が出ていますから、場合によったら、皆さんがお呼びだったら、ここでおしゃべりしますから、あまりせっかちにならないで聞いてください。
 ここに「推進すべき場所と期間」「具体的戦略の例」と書いてあります。レジメとさっきいった9月21日に都市再生戦略チームで僕が出したメモとで、1つだけ違うのは、レジメの方は「そもそも」という言葉がないんです。こっちは「そもそも」があるんです。この「そもそも」を読みますと、都市再生の推進計画って、何で伊藤はここでこういうメモを出したかというのがわかります。
 基本的認識というので、御託ですから、照れくさいので、あまり読みたくないんだけれども、「すべての市民が安全で豊かな生活を営める都市環境づくりをねらう。それは次の世代に受け継がれる質の高い社会資産を構築することである。国際的に尊敬され、高い評価を受ける都市空間を実現すること」。これが1番目です。すべての市民が安全で豊かな生活を営める都市環境づくり。
 2番目。「都市再生の構造によって社会と経済の構造改革を実現する」だから、都市再生は引かれ者の小うたみたいに思うけれども、少しは構造改革に役に立つようなことをしますよということです。どういうことかというと、都市再生を通じて、経済を活性化して、金融システムを健全化する。何だ、土地の値段下げないように、少し絵でもかいてチョロまかそうかということか、というのではなく、担保物件で土地の値段を下げないような何か努力をしよう。
 また、「国民的貯蓄をすぐれた土地資産の構築に活用する民活、PFI」。1400兆の国民の銀行や郵便局に預けている預貯金をこういうところに使いましょう。
 基本的認識の3番目。「行政の効率的向上により民間活動を拡大し、新しい都市的雇用を創造する」。これは、ITにも脱落した土建屋のおじさんを、都市再生で口があるから、パートで使えるぞ、簡単にいうとそういうことです。そういう雇用だってあるんだということです。先端型じゃない末端型雇用です。
 4番目。「国際的に開かれたビジネスと文化活動の場を提供する」。しゃれたエスニックの食事をするところとか、あるいはサブカルチャーのジャズとか芝居小屋とか、そういうのをもっとふやしてもいいんじゃないか。
 5番目。「市民参加による多様なまちづくり運動を展開する」。

 そして、「推進すべき場所と期間」が来るんです。このときに1つ大事だったのは、石原知事がいた大都市再生推進懇談会というのは、明らかに南関東と大阪、奈良、京都、兵庫の一部、要するに大都市圏です。大都市圏を対象にした新しいインフラストラクチャーの投入の仕方なんてことをやっていたんですけれども、これを都市再生という中央政府のプロジェクトに位置づけますと、幾ら何でも東京と大阪だけではないでしょうという話が出てくるんです。僕の頭の中にもあるんです。
 例えば、東京、大阪といったって、まず東京と大阪では、民間の仕事をやる気迫が全然違いますね。ビジネチャンスが大阪はないから。大阪でそうなら、ましてや札幌とか広島、仙台はどうしてくれる。こういう話がある。福岡はちょっとおもしろいところなんです。どうしてくれるというのと、やってみるぞという両方が一緒になっている。
 例えば、僕は今札幌にかかわっていて、札幌の大通り公園というのは、一見非常にしゃれた公園に見えるけれども、あんなの外国の都市公園と比べたら、本当に幼稚で稚拙でどうしようもない噴飯物の公園なんです。そういうことは札幌市長はよく知っているんです。だから、あれを直さなきゃいけない。札幌市で大通り公園を直すのに民間の金を動かすのは絶対あり得ないです。広島でも同じ話があるんです。あそこはマツダだけじゃなくて三菱重工の牙城です。祇園の工場がなくなったでしょう。埋立地の方の工場じゃなくて、祇園の精密機械の工場かな。あの土地どうするんだといっても、すぐ民間が入るというのはあり得ない。
 そういうプロジェクト、民間が動かないけれども、これを直すことによって日本の代表的な都市が生き返るというプロジェクトがあるんです。そうすると、例えば札幌大通り公園が見事によみがえるとか、広島の昔の空港がある、空港の横っちょの三菱重工のあそこがいずれ何か起きるかもしれない。そこのウォーターフロントに新しい都市再生をするということになると、初めてそのときに札幌はトロントと比較できるとか、広島はボルチモアと比較できるとか、そういう対比が可能になる素地は持っている。だけど、今は金がなくてできない。そういうところにも金は投入しなきゃいけないでしょう。
 だから、都市再生を広く見れば、そういうのも東京とは別な尺度で一生懸命考えるプロジェクトにしていきたいというのがあります。

 もっとそれのレベルを下げていけば、県庁所在都市ぐらいは、これから25年たったら、中国から県庁所在都市を訪れに来たとき、例えば山形に行ったとすると、「なるほど、山形の町もドイツのフライブルグと同じぐらいのすばらしい町だな」なんていうふうにしたいでしょう。あるいは盛岡市が、25年たったら、あの緑の多い雰囲気は、ヨーロッパでいったら、フィンランドにタンペレという町がある、すばらしい町です。ヘルシンキの次の規模。タンペレの町と比較できるなんていうふうになったら、我々もどうだというふうになれます。東京、大阪ばっかりやっていたら、そういうチャンスがない。
 対象地域としてまず大都市の戦略地域、これは東京、大阪の埋立地です。臨海部。晴海とか豊洲。交通拠点どこだといったら、よくわからないけれども、梅田北の事業団跡地なんて、阪急とJR西日本の交通拠点です。こういうところは思い切って、いろんなディヴェロッパーが、勝手に仕事しているようにしようという場所です。これは、きょうかなりの人が期待を持って伊藤から話を聞こうという場所なんでしょうね。
 だけど、次に地方都市の中心市街地。ちゃんと書いてある。これはやっぱり札幌だとか、山形だとか。これはあえて県庁とは書いてないんです。非常に質のいい山口の萩とか津和野、ああいう町を徹底的に直すのだって、都市再生のプロジェクトに入れていっていいと思っているんです。地方都市の中心市街地。
 3番目。都市の規模を問わず木造密集市街地。ここでもまた阪神・淡路の亡霊が出てくるんです。阪神・淡路は一言でいうと何か、木造密集市街地。それに我々は全く真剣に取り組んでいなかった。これは大阪の、例えば松下の本社のある門真から東大阪へかけて違反建築だらけであるし、東京は何十回も皆様ご存じのああいう場所。そういう場所は、東京、大阪だけじゃなくて、京都だってあります。福岡だってあるんです。同和問題に絡みながら幾らでも西日本はあるんです。東日本でもそういう場所が出てきます。これは21世紀の前半、50年ぐらいかけてじっくりとやろうということ。これは相当の覚悟で書いてある。

 対象期間としては3年から5年、5年から10年、それ以上と書いてある。大都市の戦略地域は、今までの大企業、民間の人たちは、役所の手続が遅いの、再開発やったって20年かかってようやっとできたの、役所に対する不平不満をブータラブータラいっていた。だから、この際、「じゃ、わかりました。あんた方に全部任せるから、3年から5年で仕上げてみなさい」。どこかというと、これは臨海部と交通拠点です。これから森ビル、三井不動産、住友不動産、三菱地所、鹿島建設、大成建設、等々みんながブータラいったら、お手並み拝見で、「どれぐらいでできるか、やってみろよ。本当にできる?やらせてみようじゃないか」。学者も役人も、開き直ったわけです。「やってごらん」と。
 だめだったら、大変なことになる。僕よくいうんですけれども、今まで大岡越前のように、「まあまあ、そう」と、市民や企業の頭をなでていた。それでも市民や企業はブーブーいっていた。大岡越前優しいから。もう大岡越前やめた。「あんた方の自治区で、町方で町をやってくれ」。失敗したら、今度は長谷川平蔵、鬼平が出てきますよ。(笑)国家が直接入ってくる。
 そういうことを考えて仕事をしなきゃいけないのが21世紀だと僕は思うんです。今までみたいに、人口がふえてお金がふえていれば、「まあまあまあ」とやって、何もしなくてもお金が回っていたんですけれども、そうじゃないでしょう。だから、選手交代は厳しくやらなきゃだめだ。

 5年から10年というのは、地方都市の中心市街地。これはかなり国の金を入れないとできません。地方都市は大都市ほど荒っぽくは仕事できませんから、ある程度気配りしながらやる。でも、都市計画街路の地方都市でも、僕は嫌というほど嫌なことがあったんですが、あと300メートル、20年間街路事業のできないところがありました。僕の知っている幾つかの県庁所在地。この300メートル、20年前と同じでできている。何だ。そういうことはやめてもらう。
 だから、5年から10年ぐらいでかなりちゃんと地方都市でもやっていく。だけど、荒っぽくしないという意味で、3年から5年でやる。それから、木造密集市街地は50年かけてでも本格的に取り組もうということです。そういうふうに分けているわけです。



3.具体的戦略の例

 それで、ようやっと具体的戦略に来ました。
 この1から7は、もし7月にお呼びがかかったら、またいいますけれども、これは全部お金に関係ないことなんです。
 1番目、「現在の社会経済情勢に対応するための緊急措置として、期間と場所を限って思い切った都市整備手法を適用する。」というのは、今回出す都市再生特別措置法のことなんです。都市再生特別措置法の中で、朝日新聞のわかりやすい言葉ですと、特別地区は都市再生本部が地元自治体の意向を受けて指定するけれども、再開発で障害になった用途地域や建物容積など都市計画上の規制を一たんすべて白紙に戻す。
 僕は基準法と都市計画法だけじゃなくて、臨港地区も入れろといっているんです。なぜならば、臨港地区というのは、港湾法に基づいていますけれども、都市計画法があっての臨港地区なんです。都市計画法がなくて臨港地区ってあり得ない。都市計画の用途地域の特別の地区指定として臨港地区があるんです。だから、臨港地区も入れろ。これが今の「白紙に戻す」って、書いてあります。
 2番目。「大都市において都市基盤と建築両面の投資を一体で進める戦略プロジェクト」。この2番目も、都市再生特別措置法の中に書いてあります。これは何かというと、朝日新聞にこういう文章があります。「大規模な都市再開発では、事業資金が数百億円にも上ることから、民間事業者の資金調達も支援する。具体的には民間事業者が当面の開発資金を民間金融機関から借り入れる際に、民間都市開発推進機構や日本政策投資銀行が債務保証する」これは物すごく大事です。
 三菱銀行から金を借りたい、あるいはUFJから金借りたいといったときに、例えば伊藤不動産が信用力がないといったときに、伊藤不動産は、民都機構に行って「おれを信用しない銀行はけしからんな」といったら、民都機構が「わかりました。私が債務保証します」というと、ようやっと、UFJや三菱銀行から伊藤不動産は金を借りられるということです。
 それから、もっとすごいんです。「都区内で、道路や公園などの公共施設を民間事業者が建設するケースでは、費用を民都機構が無利子で融資する。これは財政難の地方自治体などにかわって民間事業者が公共施設を整備することをねらっている」。
 何かというと、公共事業というのは単年度会計でいくでしょう。だから、4月まで仕事してまだ残っていると、次の予算執行は、9月ぐらいから元気になってまたやる。4月から9月ぐらいまではボケーッと、ブルドーザーも休み、人夫も休み、設計屋も休んでいるわけです。単年度会計だからそうだ。そうじゃなくて、民都機構から融資するのは、仕事を早くするために、後で民都機構にちゃんと政府がお金を入れますけれども、政府単年度会計で予算措置したら、3年の見通しつけて、民都機構が一気通貫で民間事業者に金を貸しちゃうんです。そうすると、民間が休みなしで道路をつくれるでしょう。民間がつくった道路を後で公が買い戻すわけです。
 だから、どこかの不動産会社が、川崎あたりの埋立地で工場団地をつくろうといったときに、そこに川崎市の都市計画道路があったら、その会社がもうつくっちゃうんです。そのときに民都機構から金を借りる。つくっちゃって、それを川崎市が後で不動産会社に10年割賦か何かで払っていくわけです。利息もつけるでしょう。スピードが速いでしょう。そうしないと、都市計画道路ができないと、道路に面して建物がつくれないわけです。
 それがこの「大都市において都市基盤と建築、両面の投資を一体で進める戦略プロジェクトを考える。」という2番目。これが今度の特別措置法で書いてある。これも金に関係ない。

 3番目。「行政手続きの並行処理と改変を行いその手続きの所要時間を大幅に短縮する。」これは今、都庁でもどこでも、パラレルでやっていますね。やり出し始めました。だから、例えば開発許可と確認申請と環境アセスなどというのを、こういうふうに並べるんじゃなくて、一斉にやれ。何カ月以内に答えを出す。ワン・ストップ・ショップ・エージェンシー。それについて、例えば鹿島建設が何かしたいといって、港区役所に行ったとします。港区役所にお兄ちゃんがいて、「わかりました。私があなた方の代願人で全部区役所じゅう走り回って、3カ月以内に答えを出します。処理をします」。あるいは鹿島建設が港区に願書を出したときに、一等初めに、「1カ月以内にイエスかノーをいいます。何カ月もずっと流し流しの役人仕事はしません」。ノーははっきりいってもらう方が企業にとっていいわけです。イエスといった以上は3カ月以内に事務処理をしますとか、そういうことは今やり出しています。東京都庁もやり出しているし。
 環境アセスが東京都庁のはひどいんですね。もう直しているでしょうけれども。延べ床10万平米以上、高さ100メートルを超える建物で、東京都条例の環境アセスの対象で2年半かかる。まともにやったって、実は2年半なんてかからないんです。
これを1年にするだけで随分仕事は早いです。これもお金に関係ない。
 4番目。「土地の権利の整理に係わる、速度の速い住民合意システムと司法的手続きの迅速化。」これも裁判所物語です。それから、住民合意。これも僕、自分で今かかわってやっているんです。大変おもしろい話があるんです。裁判官をふやすのは、なるほどなということですとか。
 それから、マンション建て替え法が今度出るでしょう。あれなんかこれにかかわるんです。土地の権利にかかわるというのは、マンション建て替え法のでかいミソは、古いビルを壊して新しいビルをつくるときには、難しいんです。古いビルについている担保、ビルを壊すわけですから、理屈は担保の対象でなくなるわけでしょう。新しい建物が本当にできるか。できなかったら、担保物件がなくなっちゃうわけですからね。
 銀行って、物すごく慎重で、だれか客観的に建て直す人がお金を積んでいるかどうかなんてことまで、目くじら、こんなになって、なかなか担保を離さない。離さないと建物は壊れない。壊さないと新しい建物はできない。そういうところで今の銀行は再開発にさおを差した金融行政をやっている。そんなことで再開発できるかというので、債権組合を法人化するということで、担保の一気通貫を物すごく簡単にしよう。これは皆様のビジネスに物すごくかかわりますよ。都市計画なんて金にならないことやっているより、マンション建て替えの方がずっと金になる。本当にそう思います。1400兆円というのはそういうところで動くんです。
 それから5番目。「まちづくり専門家を養成し、地域住民やNPOが協力する『草の根まちづくり』を拡大する」。これも大変なんです。これ今僕はやっています。国はこれに対して手当てを平成14年度からするということをいいました。半分宣伝なんですが、国に先駆けて、ある民間の不動産屋が、「草の根は物すごく大事だ」。それで、僕のやっているNPO法人の都市計画家協会に何と5年間、年間2000万円、合計1億円、草の根まちづくり専門家を養成するのに、どういうふうに使ってもいいですからというので、寄附してくれまし。すごいでしょう。
 これ、どういう使い方してもいいんですよ。だから、木更津で本当に何か動くんだったら、なかなか生きのいいお兄ちゃんを派遣しますから、あなた方は金を払わなくていい。だけど、これはうんと応募があれば、僕が選びます。民間が出してくれる。「ざまあみろ」ですね。役所が出すのに民間が出した、胸がすくような思いです。
 この寄付ですが、言い方がなかなかカッコよくて、何周年記念とか、商品セールスで、ホテルオークラの「平安の間」でべらぼうな金をかけてお客さんを接待するより寄附した方がよっぽど社会貢献するというのです。そうですね。このごろ大企業で、社長が死んだ、商品の販売、何周年記念、大体ホテルオークラの「平安の間」か、品川のプリンスホテル、新高輪プリンス。あんなばかなことをやっているから、日本の経済はよくならない。NPOに寄附した方がよっぽど金は、小さくなって庶民のところに回るんです。
 6番目。これは重要です。「テロ等、都市型犯罪を防止する、ソフト/ハード両面からセキュリティ強化。」これは9月の21日です。テロが9月11日でした。これは全く新しい都市問題です。
 今までの1番目から5番目までは国交省の話題なんです。ですが、都市再生というのは実は国交省だけじゃないんです。これは警察も巻き込み、法務省も巻き込み、厚生省も、農林省も巻き込むべきものなんです。1つの省の特殊部隊が反乱を起こしてやっているなんて見られちゃまずい。外国人犯罪に対して日本の都市は安全かという根本的な問いかけが今突きつけられているんです。これに立ち向かう都市づくりをやろうというので、2月の都市再生戦略チームでは、警察の人に来てもらって徹底的に議論しよう。
 7番目。「地方自治体の広域連携による新しい都市マネージメント制度。」これもいろんなおもしろい話があります。
 以上7番とも、お金に関係ないでしょう。全部制度と、これまでの監視をもっと厳しくやる。いいかげんにやってきた法律の運用を厳しくやることで随分変わるということです。
 ということで、序論が長過ぎたんですが、7月にまたこのさわりを話します。今度はもっと個別、具体的に。というのは、法律が施行されますから。これからどういうプロジェクトが選ばれるとか、草の根まちづくりというのはどういう落とし穴があるかとか、あるいは民間のマンション建て替えにどんな問題があるかという具体的な話がいっぱい出てきますから、それの話をしたいと思います。
 7月の続編をご期待ということで、きょうはここまでにしましょう。
 どうも失礼いたしました。(拍手)


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