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第175回都市経営フォーラム

構造改革と都市再生
ー集団的慣習社会からの離脱

講師:伊藤 滋 氏
早稲田大学教授


日付:2002年7月18日(木)
場所:後楽国際ビルディング大ホール

 

1.緊急整備地域の性格

2.再生特区から複合的特区へ

3.長寿社会における社会参加の場としての都市再生

4.草の根まちづくりの全国的展開とそれが狙う目的

5.省庁連繋の必要性



 伊藤でございます。(拍手)1月は、途中までいい調子でしゃべってきて、時間がなくなったから、この次、7月にお話をするといって終わった。たしかそんな感じが僕の頭に残っています。
 私の話は、きょうお集まりの方には極めてジャーナリスティックに話さないと、ご満足いただけないかと思いますので、学校の教師というよりジャーナリストという感じでしゃべります。
 1月に話したときには、小泉総理には1回しか会ってなかったんです。それがその後2回会いました。ですから、今までのところ3回です。2回目は2月の20日に会いまして、3回目はこの間、4月の何日かに会っています。
 一言で、「都市再生」という言葉が日本の世界の中でどう動いているかというと、私の感じでは、あまり迫力ありません。今極めて重要なのはバイオとか知的財産、そういう言葉の方が緊急性があります。特に、知的財産はパテントの問題ですから、日本の企業に対しては極めて密接な日々刻々の話題ですし、司法改革もそうです。司法改革も日本の社会がスピードアップする、今まですべて役人に任せて時間だけダラダラかかっていた、いろんなトラブルをスピードアップするというので、極めて重要な改革です。そういう緊急の改革が、総理大臣の下の何とか本部というので動いております。
 その中で、都市再生本部が発足したのが去年の5月の8日だそうです。1年ちょっと前のころに比べると、都市再生はもう1年たって随分古びてしまったという感じが否めないと思います。
 ここにお集まりの方は、大変一生懸命ですが、それ以外の方は、多分「都市再生って何?」というのが今の実体じゃないかと思っています。
 それから、もう1つ、私にとって大変興味がありましたのが、ことしの4月の8日でしたか、都市再生緊急整備措置法というのが出まして、その後に大新聞が何らかの評価をしたわけです。ああいう法律が出ると、評価をせざるを得ない。朝日新聞は大体悪口をいう新聞ですから、朝日はどう書くかと思ったら、大変奇妙なことに、記者はきっと、いいとも悪いとも書けないんです。表題に出ているのは、「ミニバブルの再来か」と書いてありました。ミニバブルの再来というのはどういうことかというと、土地の値段を下げないように、大資本がこれから仕事をするであろう場所の土地の値段を下げないようにすることを保障しているのが、その措置法のねらいかということなんです。そのとおりなんです。
 ただ、ミニバブルけしからぬとか、国民の全体の流れから離れていることをやっているからという論評を書いてない。これは大変興味があったんですが、反面、考えてみると、そのことはその程度の関心なのかということです
 経済構造改革にこの都市再生がどれぐらいコミットするかということは、大変おもしろいんですけれども、都市再生本部ができて、ことしの春ぐらいになってから、2003年問題というのが出てきた。2003年問題というのは何かというと、不動産の供給過剰があって、空き室がどんどんできて、空き室率が上昇し、家賃が下がるということになって、それを引き金に、東京でまた不動産屋から始まる不況が起きるんじゃないかという話が出てきています。
 これと都市再生本部の動きと一体どう結びつくか。素直に考えますと、都市再生本部の動きは、本質は、2003年問題に関係なく、どんどんオフィスビルをつくれ、それを認めるということなんです。幾らでもビルつくっていいよということなんです。だから、2003年を乗り越えて、東京ではどんどんこれからオフィスビルがつくられるであろうという前提のものが、多分この特別措置法の緊急整備地域の正体ではないかと思うんです。
 ところが、不動産屋さんの動きを見てみますと、そんな熱気をあまり感じられないんです。熱気を感じさせるのは、たかだか2つか3つの巨大資本の長期戦略の中であるわけで、それ以外に、東京のスカイラインがこれから5年の間に、もう1つガラッと変わってしまうとか、大阪のスカイラインがこれから全く変わってしまうという熱気は感じられない。そういうところから考えましても、この1年の間に「都市再生」という言葉、その熱というのは相当冷え込んじゃっているかなと思うんです。
 次に申し上げます。小泉さんに何を私はいったかということです。1回目会ったのが去年の11月ぐらいでしたから、そのときには都市再生を割合熱っぽく語っていた。都市再生特区をつくれ、それから、役人は怠けているから、役人をスピードアップしろ、容積だって思い切って上をなくしちゃったっていいじゃないかと、相当激しいことをいったわけです。それが1回目です。
 1回目の話は何らかの形で都市再生本部の役人によって担保されました。2回目、3回目はそれと違う話題をいわなきゃいけない。2回目に何をいったかというと、私は「草の根まちづくり」ということをいったんです。これは今知る人ぞ知るで、「草の根まちづくり、稚内から石垣まで」というので、県庁の役人なんかよく知っています。稚内から石垣まで。これをいいました。実体は、私は、「草の根まちづくり国民運動の展開、稚内から浦添まで」といったんです。そしたら、小泉総理が、「それはいいな。稚内から浦添がいいぞ」というんです。草の根まちづくり国民運動の展開というのは、それの説明ぐらいでいいだろうという話です。
 ここから学校の教師らしくいいます。何で「稚内から浦添まで」といったかというと、稚内というのは、樺太との連絡の場所です。あそこにはアメリカ軍のレーダーサイトが昔からありまして、今でも機能していると思いますけれども、ロシア軍の飛行機についての的確な情報を稚内でとっているわけです。どちらかというと、根室が魚で、あそこは鈴木宗男でちょっとスキャンダルになって、生臭いんですけれども、稚内というのは割合さっぱりしているところです。むしろ利尻、礼文があるから、観光地としては国内的な基地です。しかし、樺太とのつながりから考えると、稚内の方が根室よりもロシアに近いんです。ですから、稚内といったのは、ロシアを踏まえての、21世紀の地方都市でも特色のある場所。対ロに対して、日本の地方都市を国際化していく中でどういうふうに組み立てていくかということを考えると、稚内だというのが1つあります。
 浦添というのは、皆さんご存じのとおり、あそこはアメリカ軍のコンテナ基地です。何でもかんでもあそこにアメリカ軍はコンテナ船を横づけにして、荷物の出し入れをやっているところです。浦添の港の能力がなくなったら、沖縄は死んだも同然というところです。これは対米戦略です。
 そういう国際的な意味づけで稚内と浦添といったんです。しかし、小泉さんの雰囲気はそういうことをあまり感じないで、稚内、一番北から一番西までの地方都市まで都市再生を展開するんだ、これはおもしろい。そしたら、後でだれか、どこかの大学の先生が、「先生、浦添じゃなくて、一番西は石垣ですよ」という。「じゃ、そうしよう」というので、それで「稚内から石垣まで、草の根まちづくり国民運動の展開」となりました。
 ここは総理はあまり意識してなかったんでしょうけれども、実はこういうことです。まさに集団的慣習社会からの離脱じゃなくて、集団的慣習社会へのしがらみといっていい。小泉さんといえども、自民党で都市政策を展開すると、東京だけの話には絶対になりません。これは自民党という集団が持っている体質です。私も40年近くいろいろ役所とつき合って、間接的に自民党の代議士とも接してわかりますけれども、絶対に田舎です。田舎侍、田舎紳士の集団が自民党です。そこから出ている総理であるから、まさに都市再生のねらいは、大資本、日本の巨大不動産資本による国際的東京の建設というのが本当のねらいですけれども、それだけじゃうまくいかないので、地方にもある程度のサービスをしなきゃいけないというのが無意識に出るんでしょうね。小泉さんはあまり深い考え方をしてないと思いました。
 しかし、草の根まちづくり国民運動というのは、政治的にはそういうところなんですが、私、もうちょっと深い意味があると思います。これは後で申し上げたいと思います。
 それで2月の20日ぐらいに総理に会った。都市再生本部のホームページに出ている公式のドキュメントです。これはいつでも見られます。
 そこで4月の8日、都市再生本部6回会合でこういうことが決まっています。「全国都市再生のための緊急措置、稚内から石垣まで」。これが4月の8日の6回会合で決まっています。ですから、これは都市再生本部として了承したわけですから、国家の方針になったわけです。国家の方針というのはどの程度に迫力があるのかないのかというのは、後で申し上げます。
 じゃ、3回目に何をしゃべったか。3回目は相当いろいろしゃべりました。しかし、3回目には割合おもしろいことが起きました。大資本による巨大都市における国際的水準のスーパービルをつくるということは大体もうわかった。それで、都市再生は21世紀何をねらうのかということです。そこでいろんな話があったんですが、割合反応がよかった。総理の反応がよかったのが、美しい都市づくりをやりましょうということ。これに割合反応がよかった。「それだ」。
 ところが、総理というのは都市のことを深く知らない。いってみると、政治的にも社会的にも、都市というのはそれほど普遍的な話題ではないんですね。1つの領域のグループの話題だということはよくわかるんですが。
 総理のいう美しい都市というのは、日本製の都市という感じなんです。日本製の都市というのは、総理の頭にはお城があって、城下町があって、城下町のところに商人の町があって、そこに昔でいえば、畳屋があって、人形屋があって、酒屋があって、かじ屋があってと、ズラッと町が並んでいる。こういう日本古来の町について、美しい日本と考えたときに、そういう町がなくなっちゃった。そういうのを次は日本の中のどこかでつくっていかなきゃいけないなという話がありました。
 今いった美しい都市、小泉総理は「日本製の都市」といいましたが、2〜3人一緒に飯を食っていまして、そのときに、小泉総理以外のやや専門家の都市政策の連中には、美しい都市といったときにすぐ出てくるのは、緑をふやすとか、水辺をきれいにするとか、家並み、町並みをそろえるとか、そういう話になります。そこで出てきた、できたら次にやってみようかと思っているかぎの言葉がありまして、たしか小泉総理のときにしゃべったと思います。議事録を見ればわかります。美しい都市にするためには、電柱をなくす。無電柱化をやる。これをやろう。非常にはっきりしている。「やろう」といいました。大変明快なんです。無電柱化を進めるということに対して反対するのは、東京電力、関西電力、中部電力だけですね。ですが、無電柱化、何がおかしいといったときに、ほとんど反論する人いないです。
 阪神・淡路の前までは電柱にしておかないと、地震のときに電線が切れたのがすぐわからないとか、いろいろありました。点検作業が、地中化するとおくれるといいましたけれども、阪神・淡路の結果は、地下に埋めた電線の方が大丈夫だった。地上の電柱の方が、斜めに倒れて、道路を阻害するということをやりましたから、阪神・淡路を1つのきっかけとしまして、電柱があるのは地震国日本のために絶対に必要だという理論的根拠は必ずしも保証されないということです。そうすると、何のために電柱を立てているんだ。大変わかりやすい。
 無電柱化をいっているのは、どちらかというと、都市計画とか交通の専門家ではありません。むしろその外側の人が素直にいっています。「電柱があるのは見苦しいですね」と。むしろ都市計画の専門家ほど電柱を地中化すると、電柱をつくる100メートル当たりのコストが10倍になって、その負担を東京電力がどのくらい持って、国がどれくらい持つから、その負担割合からいって東京電力がノーというのも理解できるなと、さも、したり顔でいいますから、都市計画の専門家の方が、そうだそうだと必ずしもいえない。ですが、この筋は割合正面切って堂々と攻められる。そういうことです。美しい日本をつくろうといったときに、何をすればいいのか。無電柱化だ。

 

 都市再生というのは、私が思いますのに、これは国民に対する言葉なんです。それで、専門家同士の言葉ではどうもないという状況に今来ているわけです。そうすると、国民に明快に話をして、国民がこれがそうだなという了解を得ることによって、都市をつくり直すということが、極めて必要になってくるんじゃないか。
 そうすると、小泉総理に会った3番目の、美しい都市づくりというのは、意外とこれからの都市再生にとっての重要なかぎになってくる。こういうふうに思っております。



1.緊急整備地域の性格

 以上が、私のサービスにかかわるプロローグでございまして、次にここにあります緊急整備地域の性格について申し上げたいと思います。
 緊急整備地域というのは、ご存じのように、場所も決まりまして、これも新聞論調は、非常におかしいというのは1つも書いてないです。緊急整備地域は広過ぎるとか狭過ぎるとか書いてない。どうもわからないんでしょうね。ここの反応が実は2つあるわけです。
 まず、緊急整備地域そのものについて申し上げたいと思います。これが指定されたということは、この前1月のときに申し上げたと思いますけれども、役人の手から民間に球は投げられた。民間がその役人の投げた球を受け取ったということです。象徴的なことは、東京都がアセスメント条例を直しました。緊急整備地域が発表になったのが7月の初め。それと前後してアセスメント条例が外れました。180メートル以上15万平米。それ以上のものはアセスにかけて、それ以下のものはアセスにかけない。アセスにかけるのも、9カ月以内にイエス、ノーをはっきりさせるということですから、今までに考えられない大変な仕事を東京都がやったわけです。今回やめた、前の都市計画局長は前の前の主計局長だった事務屋さんなんですが、あの局長さんが、このアセスメント条例を外すということに心血を注いだんじゃないかと思います。あれは都条例ですから、国が何といったってどうしようもなかった。ですから、それも外した。
 そして、どうぞこの地域で仕事をおやりになってください、そういう土俵を設定しました。お仕事をやるについては、お金の面倒も見ますよ、民間都市開発整備推進機構がお金を準備していますよ、SPCもどうぞおつくりください、そういうことです。そうすると、次に期待するのは、民間の資本が次々とみずからの手で都市計画をつくって、それを区役所に出して、都市計画決定を受けてと、どういう決定かわかりませんけれども、緊急整備地域ではできるんです。
 三井不動産さんとか住友不動産さんとか森ビルが、どこかでかい地域に図面を書いて、ここはこういう都市計画にする、再開発地区計画にするから、それを港区役所、認めろ、こういうのが出せるわけです。そうすると、そこは再生特区に指定するでしょう。そういうふうになるんです。なる土俵が出来ました。
 さて、それで次々と出てくるかというと、今のところ出てこないですね。これからつくるかという話は聞いています。だから、役人の立場で考えると、民間に投げかけたけれども、民間の実力どうですか、今お手並み拝見というところです。お手並み拝見が何も出てこない状況は、民間はこんなもんかということです。いうだけいって、ちっとも実力はないじゃないか、とれるものだけとるって、今までの商人と同じことをいっているんじゃないか、こういう話が出てくる危険性が今あります。
 実際に、東京都の緊急整備地域って、相当広いです。東京都の臨海副都心から、豊洲、晴海、月島、日本橋、神田、港区は外苑東通りまで、新宿は東の伊勢丹の辺から西口まで決まっているんです。例えば、新宿で、再生特区どこをやるか。みんな建物が建っていますから、再生特区ができるのはどこですかね。新宿の西口ですか。すぐ再生特区ができるのは。緊急整備地域はお金に関しては、無利子で貸しますよというのは、5年の寿命しかないんです。
 そうすると、相当慌てなきゃいけない。新宿西口で再生特区、例えば、新宿西口の駅前でやろう。安田生命とかスバルビル、富士重工ビルとかありますが、あそこに都市計画を民間、地元に大成建設がいますから、大成建設さんぐらいにしておきましょうか、あの辺の生命保険会社とタイアップして、新宿駅西口の穴ぼこのあいた駐車場の辺を手直しをして、1500%容積の巨大オフィスビルをつくるというのを再生特区で出せるかといったら、なかなかこれはできないですね。民間同士でネゴシエーションするのは物すごく難しいでしょう。みんながそれぞれの利益を享受しよう、自分のものにしようと思うからです。ですから、これは相当難しそうなんです。

 

 もう1つ申し上げます。大阪です。大阪の緊急整備地域というのは中之島と御堂筋とが決まっています。あと、堺臨海と尼崎の埋立地とコスモ何とかという埋立地が3つ決まっています。ねらいは国際的水準のオフィスビルをどんどんつくって、香港に負けない、ソウルに負けない町にしようという去年の4月ごろの雰囲気から見て、大阪の御堂筋や中之島にそういうビルがどんどんつくられることを期待しているかというと、現場に行って聞きますと、全然ないです。
 極論をいいますと、容積制限を外して何とかやろうというモチベーション、動機、大体不動産屋さんと土建屋さんしかそういうモチベーションはありませんから、不動産屋さんと土建屋さんにモチベーションがあるかと聞くと、東京ならまだあるというんです。大阪はない。極めてトップに近い大阪市のある高官が私に、「容積アップなんていうのを大阪でいったって通じませんよ。幾ら上げてもいいよ。大阪市で底抜けに2000だってやるよといったって、建てるやつがいない。御堂筋、中之島。そういう意味では東京ならいろんな可能性があるかなといって、相当むだな動きをしながら少しずつでもできるところがあるかもしれない。大阪はない。あるとすれば、梅田北しかない」というんです。汐留に当たるところです。汐留の約半分の22ヘクタール、ここしかない。そういうのが実体です。
 それから、東京に戻りますと、豊洲、晴海、10年以内にオフィスビルが幾らでもできるか。トリトンスクエアが晴海にできました。トリトンスクエアが15年ぐらいでできていますか、よくわかりませんが、じゃ、次の15年の間にトリトンスクエアの3倍ぐらいのものが晴海にできるか。今のところ、晴海にどうもそういう動きないですね。豊洲も東京ガスさんがお持ちなんですけれども、東京ガスさんのところで、容積千何百%のオフィスビルがどんどん建つかというと、こういう話も私聞いておりません。東京ガスさんが秘密裏にやっているかもしれませんけれども。
 それから、IHIのところ、これから動きます。国にとっても極めて重要な目玉商品です。ですから、多分公団さんも入っているし、三井不動産さんも入っていると思いますけれども、あそこを緊急整備地域にして、IHIがみずからここを都市再生特区にしてくださいと申し出て、その場所を決めたら、そこに5年ぐらいの間に15万平米、霞ケ関1本分のビルが4〜5棟建つかというと、これもなかなか建たない。話を聞いていますと。
 むしろ企業としては、そういうことを見るよりも、市場を見ながら1棟1棟ゆっくりと時間をかけながら、一番お客さんが多いときにビルを完成させるというのが、マンション業者もそうですが、やることです。そういうふうに詰めてきますと、晴海にも豊洲にも土地が空いているんです。緊急整備地域を赤く塗っても土地が空いています。すぐに建ちません。この空いている土地をどうするかというのがだんだん深刻な話になってくるんじゃないか。土地の値段は下がる。これが私はどうも率直なところじゃないかと思うんです。
 ところが、まさに私が申し上げたように、国際戦略に沿って、日本を代表する巨大資本が国際競争に勝つための性能の高いオフィスビルを、東京、大阪の限られた場所につくるんだというのが緊急整備地域の一等初めのねらいなんですけれども、日本の集団的慣習社会というのは、別の意味に解釈します。緊急整備地域に指定されると、公共事業が入ってくるのではないかということです。これは地方都市に行けば行くほど明快でございます。
 ですから、東京の森ビルとか三井不動産、住友不動産、三菱地所は、今のところそういうこと考えてないですよ。みずからやれというけれども、やれるのには限度があるから、少しは公共事業のお金を出してくれるでしょうねということをいっているんです。ある程度わきまえているんです。総事業費1000億でやるときに、800億ぐらいまでは民間でやるけれども、残りの200億ぐらいは道路整備とか下水道整備ちょっとやってくれよ、あるいは地域冷暖房、それくらいはつき合ったっていいじゃないかというのが、本来の緊急整備地域指定のよって立つところです。東京でならそうです。
 しかし、大阪に行くと、少しそこは質が変わってきます。緊急整備地域になると、お上が公共事業のお金を出してくれるのではないか、そういうふうに変わってきます。それが緊急整備地域は今第2次指定がありまして、近々に指定がされると思います。福岡、北九州、札幌、仙台、広島。要するに、札仙広福北九州に、多分この次、第5次プロジェクトぐらいで緊急整備地域が引かれると思うんです。そこに引かれたとなったときは、これは完璧に自民党田舎政権、田舎紳士、田舎自民党の集団的慣習社会の動きが出てきまして、そこに公共事業を持ってこいという話になる。
 公共事業のお金はどこにあるかというと、今のところ、表向きないんです。しかし、ここから私の類推ですけれども、多分、道路特別会計を国交省の中で、その目的を幅広く解釈する。例えば、JRの連続立体高架とか、非常に緊急な駅前の再開発、そういう形で道路特会の金が入ってくるかなというのが私の類推です。
 ですから、緊急整備地域というのは、東京から離れていくと、極めて深く変質していく。しかし、この変質というのは昔から同じことなんです。地方に対して地域指定をするということは公共事業をそこに必ずばらまくということを宣言しているというのが、これまでの中央政府のやってきた筋道なんです。それは直轄の道路事業か補助金の道路事業、再開発の重点配分の箇所づけか知りませんけれども、ずっとやってきた。ですから、地方都市もそれを期待するのが当然でございます。

 

 例えば、札幌が今度の第4次の都市再生プロジェクトで、こういうことをやったらいいんじゃないか、国が認めるよというのがあるんです。これはまだ緊急整備地域になっていませんけれども、プロジェクト。札幌はこういうことをいっています。「地方中枢都市における先進的で個性ある都市づくりで、札幌は人と環境を重視した都心づくり」とありまして、そこに「歩いて暮らせる豊かで快適な都心の創造」と書いて、何をやっているかというと、創成川というのがあります。札幌のテレビ塔をご存じでしょう。テレビ塔の東側に汚い川、人工的な川です。明治の札幌をつくるときにつくった運河です。創成川。
 創成川を下に入れます。上にきれいな水を流して、おまけに道路も二重にします。河川も二重にする、道路も二重にする。これをやらないと創成川はきれいにならない。これだけやれば絶対に美しくなるんです。河川の大量の水を流すのは地下河川にして、上は石張りできれいな、木を植えてしゃれた水のせせらぎにします。道路も交差点の下を、地下をずっとトンネルで行くんです。上はしゃれた道路にして、比較的スピードの遅い乗用車がちょこちょこ行く。創成川は物すごくきれいになる。
 しかし、この金は一体どこから出るか。創成川をつくるのに多分500億〜600億はかかると思います。明らかに北海道開発局に割り当てられている道路建設関係のお金をこれでもらえる大義名分が、札幌市はついたということです。都市再生本部が、この札幌都心の将来イメージで創成川をこうするよといったことは、札幌市が、国交省北海道局に行って、かつての北海道開発局予算というのがあります。これは全部の公共事業の約1割が北海道に行っています。それの中の取り分をここによこせといえる。そういうのはほかにもあります。広島でも仙台でも福岡でも。

 

 これはどういうふうになるかわかりませんが、相当ぶっちゃけたことをいいますと、例えば、都市再生で、片方、東京に対しても公共事業を入れるとあります。これは緊急整備地域ではございません。羽田で1兆円入れるといっています。外郭環状でも1兆円ぐらい入るはずです。こういう金が入ります。公共事業で10年間で東京に仮に2兆。3兆ぐらいにしますか。外郭環状だけじゃございませんから。公共事業で岸壁を直すのもありますし、防災拠点をつくるのもありますし、河川を手直しするのもありますから、3兆。10年間で年間3000億でしょう。大阪で2000億、足して5000億でしょう。そういうのが特別の大都市予算となっていくわけです。
 それに見合って、地方都市ではそれの何割かをよこせよという話が出てくるんです。だから、東京、大阪の年間5000億の都市再生にかかわる箇所づけの予算の3割ぐらいは、札仙広福に回せとか、札仙広福プラス県庁所在都市に回せとか、こういう話が必ず出てくる。これが集団的慣習社会ということです。



2.再生特区から複合的特区へ

 次に、「再生特区から複合的特区へ」。これは何をいっているか。
実は都市再生特区は、極めて明快な性格を持っているのは1月にお話ししたと思います。要するに、再生特区といっていますが、具体的にいうと再開発地区計画なんです。再開発地区計画の容積を上に上げない。容積制限をしない再開発地区計画。あるいは特定街区です。特定街区と思えばいい。ただ、そういっちゃうと、今までの非常にデリケートな、東京都は、半分いじわるしながら、再築とか特定街区で上へ上げないということをやってきましたから、それよりも国が別に再生特区をつくった方がいいという。これは民間の金をどうぞ有効にお使いくださいということです。
 では、複合的特区って、何なんだ。「外国居留地的視点」とあります。これはある意味でいいますと、これまで私たちは何でも市街地の中で超高層建築物をつくることになれてきました。それのエキスパートになりました。まだまだつくられます。東京駅の周りでも、八重洲でもつくられます。どんどん超高層建築物がつくられます。足元に緑がふえます。しかし、超高層建築というのは限られたいい場所につくられるのでありまして、面積を平べったく使うということをやれる性格のものかというと、必ずしもそうじゃないですね。超高層建築というのはスポットで建築されます。例えば、森ビルさんの六本木六丁目というのはかなり面積が広いですが、スポットです。三井不動産さんもあそこの防衛庁の跡地、あれもスポットです。みんな場所がたまたま空いたから、2ヘクタール、3ヘクタール、森ビルさんのはかなり大きくて、7〜8ヘクタールありますが、空いたから、そこへ超高層をつくる。
 しかし、50〜60ヘクタール、いってみると、ゴルフ場の狭い1本分ぐらい。こういう埋立地だってあるわけです。どこかというと、例えば新木場なんかそうです。新木場なんか、多分ゴルフ場2つ分ぐらいのところがあります。豊洲だって、東ガスのある半島を1つゴルフ場にしたら、非常にしゃれたゴルフ場になります。それぐらい広い面積の土地を、超高層でいくと、ここは超高層をつくったけれども、あとはつくらないよというと、つくられないところは土地の値段がだんだん下がっていく。お客さんが来ない限り。
 ですから、そうじゃなくて、40ヘクタール、50ヘクタールを暫定利用でもいいし、低密度でもいいし、面積を広く使う。広く使うのは、その土地を買うんじゃなくて、借りて使う。借りて広く使うということがあってもいいんじゃないか。そういう発想がないかということです。緊急整備地域の中ではかなりそういう話題が出てくるのではないかと思うんです。広く使う。超超高層、容積1500ぐらいのやつで、3ヘクタールを1本建てた。投下資本が、10万坪だったら700億円ですね。霞ケ関だと5万坪ですから、350億円ぐらい。400億か500億で1本つくった。だけど、上に上がりますから、物理的付加価値は高いんです。平べったく400億、500億投入してつくる方法はないか、そういうことなんです。それでみんなが喜ぶ方法はないか。
 そこで、僕のアイデアですけれども、例えば、晴海の真ん中に外国人居留地をつくったらどうだろう。そこに台湾人と韓国人、それにアメリカ人、白いのじゃない黄色とか黒のアメリカ人、そういう連中に3階建てぐらいのプレハブの住宅を提供して、そこに入ってくれと、晴海のところに外人村をつくるわけです。そして、診療所をつくる。聖路加の支店をつくる。聖路加より安いですよ。診療コストも安いし、聖路加分院の病院に入れば、聖路加の半分でちゃんとベッドを供給できますよ。モスクもありますよ。それから、ユダヤのシナゴーグもありますよ。キリスト教の、カソリックもプロテスタントの教会も、教会は5〜6種ありますよ、どうぞ。学校も、プレハブで、麻布の西町スクールって、ご存じでしょう、ああいう学校でいいんです。ああいう学校で英語学校と中国語学校、韓国語学校をつくりますよ。外国人村をあそこにつくってみて、全部家賃で取る。建物はそんなに質を高くしなくてもいい。こういう発想ができないかなと思うんです。
 東京が変わっていくときに、だれによって変えられるかというと、歴史的にいいますと、やっぱり外の人によって変えられているんです。
 文化的な意味で申しますと、江戸が終わって東京になったときの築地の居留地というのは非常に強い影響力を持っていました。築地の居留地に今何が残っているかというと、聖路加が残っている。セント・ルカです。聖路加のホスピタルがあるところ。あそこに外人さんが集まったんです。外人さんのところに、日本人って必ずそういうのが出てくる。西洋かぶれした、「おれは西洋人とつき合いがいいよ。英語もしゃべるよ」というやつが集まってきて、西洋人に成りかわって、「おれは英語を教えられる。おれはキリスト教を教えられる」、こうやるのが日本人は大好き。それの筆頭が福沢諭吉です。福沢諭吉が、『学問のススメ』じゃありませんけれども、それが築地の外人居留地のところに行って、西洋かぶれして、日本人に対してカリスマ的雰囲気を出して、やくざがよくやります。日本人って、そういうのが大好きなんです。
 日本が負けた昭和20年代、「おれはアメリカ人のかわりだ」なんて、幾らでもいました。「おまえ、何だと思ってるんだ。日本人のくせにアメリカ人みたいな生意気なことをいって」。それが、さも得意気に、チューインガムとかコンビーフの缶を持って歩いているんです。頭に来ましたね。日本人はそういう性格を持っている。
 築地の居留地で福沢諭吉が出ている。立教がそうです。青山学院、明治学院、聖心女子大、ミッション系のスクールは全部築地から出ていったんです。東京の西南地域の文化をバタ臭くするのに役に立った。港区が今のような形になっているのは築地のおかげなんです。港区は中央区に足を向けて寝られないと僕は思うんですけれども、今そんなことを港区の人は1かけらも考えてない。築地があっての港区なんてだれも考えてない。だけど、歴史をたどるとそうなんです。
 江戸が開化した東京でもそうであって、日本が負けてマッカーサー軍が来た占領のときの東京の生きざまもそうであって、ずっとそうであるならば、21世紀文明開化だ。外人さんに1つのコーナーを明け渡していいじゃないか。その場所は東京の端っこだから、晴海とか豊洲あたりちょうどいいんじゃないか、こういう考え方です。
 これはビジネスとして考えると、どうなるかよくわかりませんが、しかし、考え方としては、余る土地を密度薄く全面的に使ってもらうというのは、低層3階ぐらいのタウンハウスでプレハブです。それで外人用住宅をつくって、そこに教会とか病院とか学校をまぜておけば相当おもしろくなる。



3.長寿社会における社会参加の場としての都市再生

 ちょっと特区の方へ話が入りましたけれども、1つ申し上げたいことがあります。私のメモの7番目です。長寿社会における社会参加の場としての都市再生。これをちょっと申し上げたいと思います。
 これは何をいっているかといいますと、1回目も2回目も総理に私再三申しました。ここでも僕は前に話したと思いますが、ねらいは55歳から65歳の大企業を退職したおじさんの就職口を探そうということです。それは何をやれるか。そのおじさんに今ごろコンピューター習えといったって、20歳の女の子にばかにされて、屈辱的で、ちっとも手が動かないというのは商売にならない。身をもって私体験していますから。(笑)それより、最後まで威張ってやるか、営業マンのように「まあまあまあ、お酒でもどうぞ」とやるか。こういうのは年寄りは得意なんです。「まあまあまあ、お酒でも1つ、そこは押さえて押さえて」と、銀座あたりで大企業の営業部にいてずっとやってきたわけです。
 それから、威張っていて、「おれは何会社の、何とか商事の何とか部長だぞ」と、割合威張れるんです。退職してもそういうことをいう人がいるわけです。私も、早稲田大学の伊藤滋を知らないかなんて、やりたくなるんです。年取るとどうしてもそうなります。それに合う仕事を探そうということです。それは何かというと、草の根まちづくり。これをぜひやりたい。
 一番いいのは、草の根まちづくりの組織をつくりますと、おれは社会のために働いているんだという意識が絶対しみ込んでくる。そして、とりあえずはエコマネーでもいいから、「実際の金は入らなくてもやるか」。それで1年半ぐらい持ちますよ。金入らなくても威張って、「おれは社会のためにやっているんだ」。40過ぎのおばさんとつき合うというのもおもしろいもんです。そういうのがあります。
 もう1ついきますと、これは大変重要なんですが、防犯です。防犯のねらいは子供のしつけをよくする。小学生、中学生の非行少年、戸外でそういう連中のいるところに足しげく3人組のおっかないおじさんが姿をあらわすだけで随分子供たちはびっくりして、変なことをやらなくなる。僕はそういう予算措置を警察庁がしてもいいと思うんです。なぜそういうことをいっているかというと、きょうの新聞をお読みいただいた方、朝日新聞か、「刑務所をふやす」ってありましたね。これから10年間ぐらいの間に、刑務所の数は1.5倍ぐらいに私はふえると思います。要するに、泥棒だけじゃなくて、いろんな悪いやつが日本でふえたんです。外人も含めて。おさめるところがない。一等初めが警察の留置所です。留置所騒動の象徴が、例の原宿の元の社会福祉大学のところ、あそこは原宿警察ができるんですけれども、大規模留置所をつくる。500人ぐらい入れる。これが話の始まりです。しかし、留置所だけでとどまりません。必ず刑務所を必要とします。
 皆さんの予算の中で、道路特会どうのこうのというんですけれども、そのうち警察の金、何とかならないかというぐあいに、多分警察の金がふえるんじゃないか。これは地方税です。国税ではございません。
 そういう状況の中で、一番犯罪がふえているのは子供の犯罪です。18歳は大人中の大人ですから。その前、中学生のときから、芽を刈らなきゃいけない。警察官は、はっきりいって対応できません。それを守るのはやっぱり大企業を定年退職した55歳のお父さんが3人組でNPOをつくって、時給500円で24時間体制、4交代。6時間で4交代。500円ですから、6時間働いて3000円です。20日働いて6万円。定年退職して6〜7万円のお給料が、6時間歩くことでもらえる。こういう世界が出てくるかなと思うんです。
 警察官を1人ふやすと、1人当たり1200万〜1300万円のコストがかかるはずです。これはお役所の人は、月給700万といっても、それに500万ぐらい上乗せするのが常識です。「おれの給料700万だ」って、お役所の人。税金で1人当たり幾らの金で負担しているかというと、フィリンジベネフィットがありますから、それが500万。1200万。それに比べれば、55歳から65歳のお父さんを、月10万、年間120万円としたって、1200万円の警察官10人分雇えるわけです。こういうのが物すごく大事な年寄りの仕事になる。地域社会を守る。こういう話です。これは総理に話しました。
 それから、もう1つ、これはちょっと技術が要る。これもお年寄りが必要なんです。今度の都市再生で次にはっきり申し上げようとしているのが地籍調査です。なぜ地籍調査かというと、都市再生と来ると、公共事業。公共事業、土建屋。土建屋、競争入札、談合。大体筋はわかっているんです。あるいは再生特区、巨大不動産資本が寡占的に極めて質の高い、しかし、べらぼうに金をかけたビルをつくって、金持ち社会の中だけの話として終わるある世界をつくる。
 ですが、都市再生というのは、金をかけるだけじゃなくて、見方を変えることで随分よくなるなと思わせるストーリーが幾つかあります。
 それの1つが今いった、例えば防犯です。防犯で1つ申し上げたいことがあります。防犯で、都市防犯を警察庁と国交省と通産省の3省の省庁連携プロジェクトにします。なぜか。国交省は何をするかというと、交番をいっぱいつくります。警察庁は防犯でNPOを育てます。通産省は何か。監視カメラを今の100倍つくります。今日本じゅうの監視カメラが幾らありますか。1万台ぐらいありましょうか、100万台つくる。監視カメラは1台幾らでしょう。松下、パナソニックに頼めば1台5万円ぐらいでつくれそうです。そうすると、100万台で500億です。500億の100万台をつくるのにどこでつくるかというと、大阪の東大阪あたりで幾らでもつくれます。門真から東大阪にかけて。あれぐらい孫請で質のいいものをつくるところはありません。500億円の零細企業への発注が大阪へ集中するわけです。監視カメラを戸外のあらゆるところにつけます。駅前はもちろん、交差点であろうと、お便所の中であろうと、とにかく私的空間でない公的空間のところに全部つくります。飲み屋の入り口につけたっていい。伊藤滋がきょう何時に入ったなんていうのがすぐわかる。それぐらいのことをやらないと、世界じゅうの巨大都市は、犯罪に対してある水準を維持できなくなってきている。プライバシーを越えたリスクの問題です。
 防犯の問題は2つに分かれまして、NPOでの55歳〜65歳のおじさんたちを雇うという雇用吸収力と零細企業を助ける500億円、1000億円でもいいです。1000億円ぐらいの、大阪の零細企業を4〜5年は長生きさせるお金、こういう両方に使えそうだなんてことを、経産省と国交省と国家公安委員会が相談すると、おもしろい省庁連携になると思いますが、このような省庁連携は今の都市再生本部ではできません。
 なぜか。都市再生本部の人間はたかだか30人。30人でやることがいっぱいあります。こういう私が頭の中で描くような1つのゲームを見事にこなすのには絶対的な数が足りない。これが都市再生本部の持っている宿命的欠陥かもしれません。これをことし1年で何とか直そうか、やれればやってみたいと思っています。省庁連携プロジェクトという、今いったストーリーはストーリーとして組み立てられます。
 それから、先ほど言いかけた地籍です。地籍について深く学問的には僕よく知りません。明らかなことは、皆様のご商売ですと、建築確認申請の図面は、建築基準法という法上の確認申請の重要な対象に敷地はなりますけれども、地籍法、要するに、国土調査法の地籍調査にきちっと位置づけられたオフィシャルマップではございません。絶対に違う。ですから、確認申請の地図はインチキだとだれかがいったときに、裁判で争うことになります。もしインチキだという人が、おれの持っている地図は、公図に基づく敷地だということでいい張れば、絶対そっちが勝っちゃうんです。50年間建築基準法というのは、非常に頼りのない敷地、建築基準法という法律の世界だけで成立している敷地、これを頼りにしてすべて議論が動いていたわけです。
 それよりもやや正確なのが固定資産税台帳です。これはお役所が地方税を取るために必死なんです。しかし、固定資産税台帳が国土調査法の地籍図と合致しているかというと、これも必ずしも合致していない。GPSでこのごろ世界わかるじゃないか。誤差5センチで境界がわかるじゃないかといいますけれども、実際に地籍を決めるのは、必ず隣地の人がお互い2人立ち会って、第三者がいて、石を打って、金具の十字のメタルのついた石をそこに入れないと成り立たないんです。これが鉄則です。それによってその後の地籍をめぐる裁判のときも、あのとき何月何日AとBはCの立ち会いのもとに、立ち会ってここに確認したということは、裁判所の決定的な証拠になるわけです。GPSで上から見て、ここじゃないかとやったって、裁判の決定的証拠に絶対ならない。
 地籍が決まっていないために、区画整理をやるときに、これから改めて地籍調査をするわけです。再開発も地籍調査をするわけです。みんな地籍調査するんですが、それは地籍調査ではない。敷地を調査する。ですから、そういう点では私たち土建屋の一番根源になる敷地ということについての根本的な法的な根拠は極めて緩い、あいまいなんです。
 その地籍調査に基づく地籍が、どれぐらいやられているか。話によりますと、この間土地水資源局長が来て説明したのが、全国で25%済んでいる。相当済んでいるなと思うでしょう。どこが済んでいるのかというと、北海道が80%で、沖縄が30%で、青森が70%です。ずっと来て「大阪は?」「大阪市はついこの間1%がようやく2%になりました」「京都は?」「ついこの間3%、ようやく最近5%ぐらいまでいったようです」「東京23区は?」「まあ、18いったですかね」。これが地籍調査の実態です。
 地籍は戸籍と同じように、民法上の極めて重要な個人の財産として一元的に管理する。すべての測量、すべての開発行為、すべての土地の形状変換の行政的手続は、一元的に鑑別されている地籍図に基づいてやるべきだと思ってます。それが動いてないんです。大阪が2%というのは想像を絶します。
 そういうことで一斉に地籍調査をやったらどうかということをこの間私は大臣に申しました。地籍調査は今だれがやっているかというと、土地家屋調査士という人がやっているそうです。土地家屋調査士が全国で2万人いるんだそうです。それなら土地家屋調査士を10万人にしたらどうか。3年ぐらいかけて土地家屋調査士を養成して、10万人にして、社会的大集団にして、それに地籍調査をお願いする。土地家屋調査士というのは測量技術的には物すごく単純です。原始的です。平板測量でも大体いいくらいです。トランジットなんか要らない場合が多いんです。
 問題は、立ち会いのときの、対立する人をうまくおさめるおさめ方。これは年寄りのおじさんが一番向いているんです。特にやくざ対策をしている大会社の総務課の課長上がりなんか、これはもう、「それ、来た。やってやろう」というんで、いろんなやくざを総会対策でやってきたから、このくらいは大したことはない。用地部のおじさんとか。これも55歳から65歳以上の人が退職した後の重要な専門職的なマーケットになる。
 これに対する役人の反応はどうかといったら、この間国交省の土地水資源局長と国土調査課長が来て、3年間養成すると、大体一人前になる。今までは市町村直轄でやっていたんですけれども、これからは民間に競争入札か何かで投げるそうです。民間が代行できるようになった。そうすると、小さい会社をおつくりになって土地家屋調査士になって仕事を引き受けると、相当の仕事になる。総事業費が土地家屋調査に年間130億。1300億にしたらどうだ。都市再生というのはそういうことなんです。130億を150億、200億にするんじゃなくて、制度と人間を動かす。制度を変えることによって人間が動く。動くことによって、その結果は今までのシステム、組み立て方をガラッと変える状況を整える。それの1つが地籍調査です。それに10倍の金を投入したっていいじゃないか。どこにある。道路特別会計なんて相当金があるじゃないか。道路特定財源、相当金あるじゃないか。
 国交省の中のやりくりの中でも随分使えますし、もっといえば、農業土木、構造改善事業は、大体1兆円の金があるはずです。農業土木が7000億ぐらい、林野庁が2000億ぐらい、水産庁が1000億ぐらい持っています。水産庁って、漁港整備です。水産庁は物すごくしゃれた橋もつくります。長大橋。だから、その金の一部分を持ってきたっていいんです。
 ちなみに、今まで地籍調査はどこでやっていたかというと、各県で、調べますと、皮肉なことに全部農林部です。農林部に地籍調査担当の課がある。これはいみじくも、地籍調査は、日本の米づくりの水田を調査してきた。つい30年ぐらい前までは、日本人にとって一番重要なのは米だった。米を自給する。100%日本がつくる。これが国家の目的だった。そのために地籍調査は農林省でやった。これを都市に切りかえる。ついでに近郊地帯の区画整理をやるところは全部農林省予算でやったっていいじゃないか。こういう話です。

 

 そういう点でいろいろ考えますと、長寿社会における社会参加の場としての都市再生というのは、55歳から65歳のサラリーマン上がりのお父さんに対する雇用吸収力として都市再生を考えるときに、大変重要な場所になってくるんじゃないかと思うんです。



4.草の根まちづくりの全国的展開とそれが狙う目的  

 もう1つ申し上げますのは「草の根まちづくりの全国的展開とそれが狙う目的」です。ここでいう草の根とは、地方をいっているのではありません。東京をいっているのでもありません。大阪をいっているのでもありません。全国の草の根です。ぶっちゃけていうと、東京は、品のいい港区とか世田谷区じゃなくて、荒川区とか墨田区の向島、中野区の南、こういうところをどうするんだという話。こういうところを何とかしなきゃいけないということは、都市再生本部の第3次決定、ここに書いてあります。密集市街地の緊急整備です。都市再生プロジェクト第3次決定、何をやるか。密集市街地における緊急整備と都市における既存ストックの活用と都市圏における都市環境インフラの再生。
 具体的に申し上げますと、密集市街地の緊急整備というのは、木密です。阪神・淡路の二の舞をするなということです。65歳以上のおばあちゃんを何千人と殺すなということです。
 2番目の既存ストックの活用。これは大変意味が深い。将来、新しい性能の高いオフィスがどんどんできたときに、古くなったオフィスどうするんだと、最近新聞に出てきましたけれども、マンション転用したらいいじゃないかという話があります。既存ストックの活用というのは、古くなったオフィスをマンション転用するというのもあるでしょうし、ここに書いてあるような公共賃貸住宅、例えば都営住宅とか県営住宅、全国で約300万戸あるんです。300万戸のストックを根本的につくり変える。学校の教室が余る。こういうのをNPOの事務所に使うとか、いろいろある。
 大都市における環境都市インフラの再生。これは何をいっているかというと、都市の中小河川、渋谷川とか古川、日本橋川、神田川、こういう小さい河川の川筋に木をいっぱい植えようということです。
 都市再生プロジェクトの第3次決定というのは、いってみると、草の根まちづくり運動の展開なんです。この第3次決定は、去年の12月4日に決まっています。元気のいい石原知事が一番好きだった羽田とか外環、とにかく国も東京都知事と一緒にやれといって、石原知事がぶち上げたいろいろの中で大規模プロジェクト。これはスーパーゼネコンなんか絶対やりたいと思っている。第2次決定というので、去年の8月の末、9月の初めに決まっています。
 第2次はでかい。第3次は小さい草の根。草の根を保証するのがことしの4月に稚内から石垣まででやれということです。この稚内から石垣までというのは、地方都市だけじゃなくて、草の根ですから、東京も入るんです。そのときに、これもかなり問題提起なんですが、これは都市再生本部ではいっていないんです。少しずつつぶやいていることを申し上げます。

 

 今日本の都市再生で一番何が必要かといいますと、くだくだ申し上げませんけれども、年寄りの持っている貯金した金をとにかく吐き出せということです。皆さんの年ごろだと、皆さんのお父さんが持っている何千万円か、1億円ぐらいあるかもしれません。そのお金を銀行からおろして何らかの形でドンガラに変えてくれないかということが都市再生なんです。そうしないと、日本の経済構造はよくならない。これが1400兆円の民間のお金を有効に使えということです。構造改革によって。実際には目減りしていますから、国債とか財政投融資に使って焦げついているから、半分ぐらいしかないはずです。皆さんがどこかの銀行に5000万預金していても、本当に使えるのは2500万ぐらいしか使えないはずです。一応名目1400兆円です。このお金を本当に使うためには、これは民間のお金ですから、何かこれなら儲かると思わなきゃ出してくれないです。これなら貯金した金を使ってもいいと思うような。
 もう1つ、これまで経済活性化というので、公共事業を投入する。経済を活性化するために公共事業を使って、例えば国道のバイパスをつくる、あるいはコンテナ埠頭をつくる、あるいは何か箱物、市庁舎をつくる、公会堂をつくるといって、やりました。しかし、公共事業10億かけて道路でも箱物でも何かつくったとします。その10億使ったお金がその後の1年間たって、その結果として民間資本がそれに関連する建設事業に投入されたかというと、だれもわからない。例えば、国道の2次改築か3次改築でバイパスをつくる。延長2キロとします。総事業費が60億としましょう。キロ30億。田舎だったらあっという間に3年間ぐらいですぐつくります。農民がオーケーですから。農業委員会がオーケーといえばできちゃうんですから。日本の農業委員会は徹底的に堕落しました。25年前までは日本の農業委員会はあらゆるそういう公共事業に反対していたんです。水田を守れと。それがこの25年間で徹底的に堕落しました。今は尾っぽ振って「どうぞつくってください」。
 キロ30億で2キロ、60億。これは完璧なリボンディベロップメントです。自動車サービス施設、ガソリンステーションとか、つたやだとか、ラブホテルとか、いろいろ並びます。パチンコ屋、コンビニ、この建物は全部質が悪いんです。坪単価30万円以下でつくっているようなものばっかり並ぶ。つたやだって、セブン−イレブンだって30万以下。1年間にどのくらい建つかというと、足しても多分20億ぐらいでしょうか。2年目は15億、3年目は5億、ずっと逓減していきます。いっぱいいっぱいで5年かけて60億ぐらい。100%ぐらい民間がつくかもしれない。公共事業1入れて、民間事業1引っ張り出すということです。
 それに比べますと、マンションは、どうしても建てなきゃいけない。古いマンションを建てかえなきゃいけない。パイプはガタガタだし、地震のときには相当揺れるし、どうするかという話がこれから出てきて、みんなで建てかえようというときに、幾らかかるか。10億かかるな。だけど、10億のうち2億は、もしかすると、マンション建てかえで国が出してくれるかもしれないとなったら、相当質のいい建物が建つはずです。不動産屋は、10億で引き受けると、事業費が7億5000万円で、2億5000万円をポケットに入れるんです。2割5分。売れ残りとかリスクがありますから。10億で2億ということは、設計料とソフトの金、不動産の担保を解除するとか、反対者がいるとか、床屋が残りたい、その補償をどうするかとか、いろんなことがあります。トラブルを解消するソフトの金って、べらぼうにかかるんです。今多分設計料とソフトの金で都市計画系の再開発コンサルタントは1対1ぐらいだと思います。10億だと、仮に設計料が8%、8000万円ぐらい。それにソフトが8%で1億6000万円。いってみますと、地鎮祭を始めてからの具体的建物の前の前さばきのお金が2割で大体おさまるんです。
 だから、理屈としては、民間のプライベートプロパティーに補助金を与えるんじゃなくて、プライベートプロパティーを建てるための敷地を整理して、権利関係を整理して、社会的行為として2割の金を投入するのはそうおかしくない。実際に大規模再開発には2割の金が今入っているそうです。よく聞きましたら。大規模再開発で2割の金が入っているなら、小さい民間のマンション建てかえだって2割の金をしたらいい。なぜならば、2割の金を入れれば、8割の民間の金は絶対にそれにくっつかないとマンションできないんです。8割は動くんです。2割の金は地主さんのポケットに入れて、もう出したくないという金をお上が20%くれるならつき合うかというので、出しやすくするまきえでもあると私は思っています。
 これからマンション建てかえをビジネスとするならば、思い切って政府は2割の国庫補助。これは前例がある。大規模再開発で2割やっているんだから、それをやったっていいじゃないか。8割が民間の金でくっつきますから。一番大きい構造改革のねらいは民間の1400兆を引き出すということならば、そういうことの方がIP、公対民の比率、これが極めて高いならこっちを使っていいではないか、こういう話が出てまいります。

 

 問題は、こういうことを引き起こすためのインセンティブ、動機をだれがつくるか。普通黙っていたらそういう動機は起きません。だれかがこれは問題だということを指摘しなきゃだめなわけです。指摘するのは、やっぱりプロフェッショナルが指摘する。それが極めて重要なキーパーソンで、在野のまちづくりの専門家だと僕は思います。役人ではない。ずばりいうと、このごろ工務店が仕事がなくなってどうするかという状況だそうです。きょうも荒川区長と11時ぐらいからいろいろお話をしました。荒川区でも工務店がいろいろ困っている。工務店のおじさんがまちづくり専門家になって、1つ1つの荒川区の中の小さい木造密集市街地の危ない建物を、「これは危ないよ」ということを調べたり、地震のときに壊れそうなマンションを調べて、「これは危ないよ。点検した。何とか相談しようよ」と、うまくやれば、これで荒川区のおっかない部長さんのところを通して、「あの部長もおっかない顔しているけれども、人はいいんだ」といいながら、都庁に持っていって、2割の補助金をもらってきて、総事業費3億の仕事を仕上げるなんてことをやれば、これは工務店としては、今までのように単にお施主さんから、「ほい、この仕事上げるから」というんで、「はい」といって、ひざを屈し、頭を下げているより、もうちょっと知的な顔で仕事ができるであろう。
 同じ話をきのう、日本の有名な建築家から聞きました。名前をいえばはっきりわかる、ああ、あの人かと。その人に聞きましたけれども、「これまでの設計事務所のやり方はもう終わりだ。これまでの設計事務所は特定のお施主さん、お金持ちがいて、お金持ちが「この仕事をやらない?住宅つくりませんか。マンションつくりませんか。事務所つくりませんか」というので、「はい、引き受けました」って、やっていた。それは終わった。そういう仕事はどこからも来なくなった。役所からも来なくなった。やらなければならないことは、小さいまちづくりに入っていって、みんなが困っていることを1つ1つ解いていって、その結果として、例えば小さいマンションをつくるとか、結果として小さい事務所をつくる、そういうことをやらない限り仕事は来なくなったということをいってました。これは考えてみると、当たり前のこと。
 そういう点で、今までの都市再生、草の根まちづくりに連動しながら、これを専門家が本当にきちっと、その根を見つけて、その根から花を育てていくということを一生懸命やらなきゃいけない。これはうまくやればビジネスになります。ビジネスになるように制度を変えなきゃいけない。
 だから、私は、都市再生本部の連中にいったんですけれども、おれが首にならない間にしつこくいうことは草の根まちづくりだよ。どんなに無視されても、草の根まちづくりは絶対いうよ。なぜならば、これは日本の高齢化社会の中における雇用対策と、その雇用対策の新しい生産性を引き起こす。地元に立脚した、小さいけど無限の生産性を引き起こす。そういうことになるよ。それをやろうと私はいっています。
 じゃ、本当に草の根あるのかといいますと、これも希望的観測で、本当の話に少しいい反応載っけてしゃべります。3年ほど前にここで久我山の話しましたね。久我山の話をもう一回します。3年ほど前に私が住んでいる杉並区久我山の駅前のご婦人方30人が集団をつくりました。何でつくったかというと、久我山の駅の踏み切りが極めて危ない。平面踏み切りです。なぜならば、朝の7時から8時半にかけてそこを渡る人にはこういう人がいます。まず病院に行くお年寄り。久我山に盲学校があります。盲学校に行くハンディキャップパーソン。有名な国学院久我山に行く元気のいい坊やと女の子。それから工場があります。そこへ行く労働者。逆に久我山で電車に乗って渋谷に行く人たちもいる。その連中たちが踏み切りでぶつかるんです。物すごい混雑になる。電車は2分おきに入ってくる。
 余りに危険だというので、30人のおばさんが、団結を組んで何とかしろといって大騒ぎをしまして、区会議員に働きかけましたけど、区会議員はいい返事いたしません。区会議員はそういう体制に乗っているんじゃなくて、古い体制に乗っていまして、区会議員を支えているのは労働組合とか地主連合。杉並の久我山といっても、政治的に力を持っているのは地主さんです。これは恐るべきことです。幾ら新住民が入ってきて、ギャーギャーいっても、地主がうんといわなければ、土地は動きません。
 そういう中で、ギャーギャーいって区会議員さんに頼んだら動かない。どうしようかというので、思い余って区長のところに行きました。たまたまその杉並区長というのは新しくかわった区長で、民主党で、石原に負けて選挙に落ちて、杉並区長になった区長さん。区長のところに行ったけど、区長は実体がわからないので、役人のところに持っていきました。杉並区の役人というのは、うわさに聞くと、みんな杉並の大金持ちの農民の息子なんだそうです。(笑)就職は杉並区役所が一番いいんだそうです。それはそうです。資産何十億持っている杉並の農家の息子なんです。だから、そんなのに賛成するわけない。
 とにかく話がうまくいかない。課長のところにとまったり、課長がまた代がわりして、話がわかりそうな顔をしているけど、最後まで行くとだめになっちゃう。最後には「あんた方、土地持ってないんでしょう。ここは土地持っているやつが決めることだ。」こういわれちゃったというんです。まさにそうなんです。土地持っているやつが決めることで、どんなこといったって、土地を譲ることに判こを押さない限り動かない。しようがなくて、私、山田区長のところに行きました。切々と訴えました。そしたら、1年後に、何と区長はなけなしの1億円出してくれまして、40坪のパチンコ会館を買ってくれました。坪250万。相場あの辺100万ですよ。駅の直近ですから、250万。そのパチンコ屋は北鮮系のパチンコ屋です。すごいネゴシエーションやったと思いますよ。
 それで、立体的な自由通路ができるようになりました。これもNPOに準ずる主婦30人の集合体が3年半にわたって、壊れそうになって壊れないで、動いて動いて、最後は面の皮の厚い伊藤滋を使って、金を獲得したという物語なんです。これが一種の草の根なんです。強引にかっぱらったんですが、草の根です。
 次に何やるかというので、考えているのが、そこに僕よりもっと有能なおじさんコンサルタントを1人入れて、駅前の小さい再開発をやりたいと思っているんです。再開発は敷地が100坪。駅前広場は50坪でいい。50坪にミニバス1台とタクシー1台入ればいいんです。そして、車いすに乗ってグルッと行ける1メートル半から2メートルの歩道、それだけでいいんです。100坪のうち70坪ぐらいをそういうふうに使って、残りの30坪を建築用地にして、そこに3階建てで100坪の簡単なプレハブの建物をつくります。なぜならば、自由通路は3階で面一です。電車からは高いですから、自由通路は3階のレベル。
 そこに何をつくるかというと、冬暖かくて清潔な、お年寄り、おばあちゃん用のお便所をつくります。もう1つは、よくある託児所、無認可保育所でもいいです。20時間ぐらい面倒見てくれる駅前の保育所。それから、託老所をつくる。平均85歳以上のおばあちゃんを3時間か4時間預かってくれるところです。だれが連れてくるかというと、おばあちゃんの面倒を見てヘトヘトにくたびれている40代から50代の奥さんです。これが高齢化社会の実態です。高齢化社会の実態は、おじいちゃんの面倒じゃなくて、おばあちゃんを嫁が面倒を見る。嫁はへとへとにくたびれる。それを亭主は知らないで会社へ行って酒飲んだり何かしているのが実態です。
 おばあちゃんの面倒を見ている奥さんは、週に2回ぐらいは、ヒステリー状況になっているから、久我山ですから、伊勢丹か高島屋に行って、衝動買いがしたい。それを助けてやらなきゃいけない。そうすると、10時に預けに行って3時に引き取りに来る。そういう託老所を託児所の横にくっつける。これ、必要施設です。
 だから、お便所と託児所と託老所。それから警察官のいない交番、しかし、そこにはNPOのおっかない3人組のおじさんがいつもいる。この4つ。それにあと、区役所の身分証明書何とか。あとコンビニ。これだけやれば大体100坪埋まるだろう。この事業費は3億か4億で済むはずです。こういうのをいっぱいつくってみたい。
 それには、さっきいった草の根型の、そういうことができて、調整能力のあるおじさんを探さなきゃならない。おじさんには、区役所の職員でも都庁の職員でもございません、NPOならば1年働くとして幾ら上げましょうか。大体500万。
 なぜそれをいったかといいますと、意味がありまして、NPOのリーダーは本当に大変なんです。

 

 多摩ニュータウンのフュージョン長池って、ご存じですか。フュージョン長池というNPOの組織があります。これは八王子市から公園とコミュニティーセンターの一括管理を頼まれて、有名な話ですけれども、一括管理したので、本来の八王子はそれまでは市役所の職員をそこに差し出していて、公園とコミュニティーセンターにいろんな人が集まってくるのをいろいろ宣伝してやっていましたが、それをフュージョン長池に渡したら、人件費が3分の1になった。お客さんが4倍か5倍にふえた。
 ところが、フュージョン長池のリーダーの富永さんは、40代で一流商社で年俸を800万円ぐらいもらっていた。それが何とNPOのリーダーで500万円しかもらっていない。大変な犠牲なんです。ですから、NPOというのは、NPOで一生懸命働いていること自体にその存在の社会的正当性があるんです。地域社会のために安く働いている。
 そういうので、500万円。1年ぶっちぎりで500万円で小さいまちづくりをやってくれる人をいっぱいつくろう。その金をよこせと今国にいっています。なかなか出してくれない。出しそうで出してくれない。かなりいい線まで行くんですけれども。しかし、これもカエルの面に水で、僕は、役人がどんなに嫌な顔をしようが、何しようが、しつこくいうぞといっています。
 こういうようなこと全部、草の根まちづくりと長寿社会におけるこの連携の非常に重要なことなんです。




5.省庁連繋の必要性  

 それから、5番目、「省庁連携の必要性」でございます。これは先ほどいいましたように、防犯でもそうです。省庁連携が必要です。地籍調査も法務省の登記所と国交省の土地水資源局との間の省庁連携がどうしても必要になります。
 ですから、都市再生本部がこれからやっていく仕事の中で極めて重要なのは、いろんな省庁にわたる連携をどうやって組み立てていくかということなんですが、これが先ほど都市再生本部30人といいました。国交省から20人ぐらい、あと東京都からとか、日本政策投資銀行、経団連、こういうのを集めて30人になっている。30人で今何をやっているかといいますと、3つの仕事をやっていまして、1つは、都市再生特別措置法のフォローアップです。都市再生特別措置法で緊急整備地域を決めました。多分これから都市再生特区を決めなきゃいけないでしょう。それに対する具体的な行政事務が次々と出てくるはずです。いろんなところから出てきます。次に、緊急整備地域を決めてくれなんていう請願も、既に起きています。
 本当におかしいんですけれども、これを決めたからといって、公共事業が来るわけじゃないんですけれども、日本人というのは本当に不思議で、大きい波の流れに乗らなきゃ損だと思うんですね。不思議です。みんなで渡れば怖くないというやつです。逆なんですけれども。これが1つです。
 2番目は、いろんなプロジェクトがございます。今回も第4次プロジェクトでゲノム科学の国際拠点形成。これは東大の医科研の新井という研究所長が引っ張っているんですけれども、国際的なゲノム戦争で、大阪にこういうゲノムの研究拠点をつくることを、都市再生本部では第2次決定でやっています。第2次決定で東京でもやろう。このプロジェクトについてそれぞれ位置づけをしているわけです。外郭環状とか羽田とか。これをどういうふうに進めていくかということも都市再生本部が責任持ってやらなきゃいけない。なるべくいろんな連中を集めて会議を開いて、都市再生本部としてプロジェクトを決めたから、これを進めていかなきゃいけない。調査費を持って調査費を預けながらやっていく。それから、もう1つは、草の根です。草の根をどういうふうにして拾っていくかということです。
 これだけ3つ抱えていますと、30人でも手いっぱいなんです。そこに伊藤滋が勝手なことをいって、これやれ、これやれといったって、たまったもんじゃないというのが、彼らの本音で、このごろやつらに会うと、非常に暗い顔しちゃっていまして、初めはいい顔をしていたのに、だんだん暗い顔して、また来たかという感じです。こっちはカエルの面に水で、知ったこっちゃない、やるぞといっているんです。
 草の根は、小泉総理は「やるぞ」といいました。繰り返しますが、これは都市再生本部第6回の会合で、「全国都市再生のための緊急措置、稚内から石垣まで」が平成14年の4月8日に決まりまして、やったからやらなきゃいけないということで、5月の初めに、全国の市町村に都市再生本部が、主として皆さんの足元の駅周りの生活拠点に対してどういうようなまちづくりをしたらいいかの案を募集するというので、募集を開始しました。
 それに対して、都市再生本部も十分知っていて、また伊藤がやったかということですが、都道府県や市町村がやるということは見え見えなんです。官製の、役人がやりたいと思う、今まで議論していたことを上に上げるということと、頼むのは地域社会の政治的に重要なキーパーソンのところに行って、何か1つつくってくれという、そういうシステム。これは今までの集団的慣習社会そのものから上がってくる。
 そうじゃなくて、学校の先生とか、NPO、NPOにもならないようなおじさんたち集団に対して、同じ話題を出しました。これは立派なもので、都市再生本部はそれを出してくれといいました。都道府県、市町村からしかとれない情報ではなくて、役人がうかがい知れない世界にもそういう話が幾らでもあるから、とってくれというので、横からそういうお話を出しました。
 その結果が、5月の初めに通知を出して、5月の末に集計した。1カ月ぐらいで集めた。何と832件集まりました。そのうち役所が出したのが454、NPOとか商工会議所とか民間が378出ました。役所が55%、民間が45%。足して832の提案が出ました。

 

 どんなのが出ているか。僕もよく見てませんけれども、提案で多いのは、駅舎に保育所、派出所などを併設して、多目的利用するなど、駅利用者の利便を向上する取り組みや、駅周辺の歩道を構築するとか、道路とか広場にオープンカフェをつくろうとか、町並み保全を活用して観光客を集めよう、こういうことが約830集まってまいりました。これを今早急に整理をしようとしています。
 これは1年と区切らず毎年やっていこうかと思っています。ですから、例えばことしは民間の駅の周り、来年は学校の周りとか、3年目はごみ集積所の周り、こういうふうにしてやっていきたいなと思っているんです。
 それで、これもJRさんがいたら怒られちゃうんですけれども、駅というのは、JRの駅じゃない、私鉄の駅だ。なぜならば、戦後50年、建設省とJRは結託をして、国民の税金を膨大に、JRの駅前の再生に使った。なぜならば、JRも当時国鉄だったからです。国有鉄道だった。国と国が結託して、国の駅の周りをよくした。しかし、民間の駅の周りは1つもよくしない。本当かなと思って再点検したら、京浜電車、品川発、あの駅前は何もないです。高架化してあるけれども、何もない。京成電車、これも何もない。東横線は少しある。格の落ちた私鉄線は全然ない。(笑)阪急だって、阪神は全然ないはずです。問題はそういう私鉄の駅の周りこそ重要だ。私鉄の駅こそが皆さんの生活に直結した駅なんです。おばあちゃんも行く駅であるし、子供も行く駅である。私鉄の駅の周りこそ生活感覚、生活臭の強い中心地だから、私鉄の周りをやるといいましたら、JRの人たちが怒っちゃって、伊藤はえこひいきするというんです。JRのJの字もいわないで、専ら私鉄私鉄。JRだって私鉄ですよといわれて、考えてみたら、東日本はついこの間完璧に私鉄になりました。だから、今度はJRも入れてやろうかなと思っています。(笑)
 こういうことで、頑張ってます。当初申し上げましたように、何か頑張って新しいモチーフを出していきませんと、構造改革の中で総理大臣直結の本部が出てくる。本部の持っている、さっきいった知的財産とか司法改革とか、そういう本部の中での構造改革に貢献する戦略同士の競争が始まっているわけです。その中で都市再生というのは、どれぐらい目立つか目立たないか。幸いなことに、都市再生本部だけは、都市再生特別措置法という法律を持ちまして、10年間の間は約30人の事務局を抱えておりますから、そういう点ではほかの本部より体制がしっかりしています。しっかりしているだけに、逆に次々と新しい発想が出てこない限りは、「何をやっているんだ、都市再生」ということになる。その発想とは、プロジェクトをつくることでは僕はないと思うんです。むしろ制度を改革することだと思っています。
 プロジェクトをつくって、ここに公共事業費500億円よこせとか、民間の再開発だから、3000億ぐらいかかるんだけど、国もつき合えよなんて、そういうことは今まで嫌というほどみんなやってきた。結果として、どうも我々の生活感覚と違う都市再生が動いちゃうということがあるわけです。
 そうじゃなくて、国民全体の、ある意味で常に「おっ、これはおもしろい」という話題を提供しながら、その提供する話題が進む中で、市民の人たちが共同して仕事する中で、契約の感覚、コントラクトの感覚を持っていただきたい。今まで全部日本はダミーな裏金で動いていました。政治も。ダーティーマネー。常に都市開発でダーティーマネーが動く危険性があった。そうじゃなくて、透明性のある表の金だけで動けるような小さい草の根をいっぱいつくることが、結果として、市民の社会的慣習というのを新しい方向に持っていくことができるんじゃないか。これは学校の教師としての理想形なんですけれども、でも、やれないことはない。
 第一歩として、専門家を使おう。専門家が本当に専門家かというと、これがどうしようもない専門家なんです。法律のホの字も知らない再開発屋とか、逆に、建築デザインも知らないエコノミストとか、みんないいかげんなんです。専門家がいろんな知識を吸収しながらみずからを研さんしていくということは、物すごく必要になってきて、そうでないとプロではない、そういう社会なのか。僕たち土建屋、都市づくりの世界は、お医者さんの世界、弁護士の世界、エンジニアの世界とか、そういう中で、どっちかというと、ちょっとちんばでおくれていて、いいかげんなプリミティブなところで満足している、そういう特殊集団になる危険性がいつもある。そういう実感をしながら、しかし、そうはいったって、都市再生という言葉があるんだから、頑張ろう。僕も首になるまでまだしばらくあると思いますので、これからもほえ続けながらやっていきたいと思っています。
 とりあえず今日はこれで終わりにして、これで失礼いたします。どうもありがとうございました。(拍手)



 司会
  伊藤先生、どうもありがとうございました。
  それでは、これで第175回都市経営フォーラムを終わらせていただきます。


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