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第184回都市経営フォーラム

これからの企業が求める戦略的都市空間

講師:佐々木 経世 氏

イーソリューションズ株式会社 代表取締役兼社長


日付:2003年4月24日(木)
場所:後楽国際ビルディング大ホール

 

1.社会潮流の変革に伴う企業活動の多様化・高度化

2.これからの企業が求める「戦略的都市空間」とは

3.「戦略的都市空間」実現に向けたアプローチ

フリーディスカッション




これからの企業が求める戦略的都市空間

 ただいまご紹介にあずかりましたイーソリューションズの佐々木です。よろしくお願いいたします。
 私は日ごろ、いろんな大きな企業の方々、また小さなベンチャービジネスの方々と一緒に新規事業、ITを使ったもの、またITだけでなく、今までにないようなビジネスをいろいろと創造してみようということでそのお手伝いを行っております。
 その中で、どんな環境にいたら、どんなところにいたら、その会社が伸びるのか、伸びる環境とあまり伸びない環境、生物で置きかえると、ある土壌にその企業がいると、それがどんどん大きくなるところとそうじゃないところ、木が大きくなるのと小さくなるのと、そんなことを感じることがよくありました。
 私は、都市計画とか建築という分野からは全く縁遠い人間ですが、いろんな企業の方々とのやりとりの中で、もしかしたら、このようなフレームワークで(行うとよいのではないか)と思ったことが今日の演題であります「戦略的都市空間」ということになります。そのことについて考えてみたことをきょう話させていただければと思っています。
 私がこういう分野に全く接していないにもかかわらず、ある案件おいては、実際に「戦略的都市空間」の仮説をベースとした計画を立てているものもあります。いろいろとコンフィデンシャルなものもありますので、お話はできないのですが、また中には仮説もあるのですが、極めて具体的に進めているような案件がございます。

(パワーポイント1)
 まず、自己紹介ですが、私は、前職はソフトバンクというところで新規事業の責任者もどきを約7年ぐらいやっておりました。多くの事業をやってきましたので、「成功することはよくわからないのですが、どうやったら失敗するかはよくわかる」といったら、「何でですか」といわれて、「ソフトバンクにおりました」といったら納得されたことがあります。
 4年前にイーソリューションズという会社を設立し、そして先ほどご紹介にありましたように、多くのベンチャービジネスの立ち上げに貢献させていただきました。第1弾は、車の仲介業のオートバイテルというサイトの日本版立ち上げを行わせていただき、その他全く関係ないところですが、インターネットに絡みますと、4月1日にサービス開始をしました東京電力さんのアット東京のインターネットデータセンター、そういうものも出資及び一緒に(事業立ち上げの)お手伝いさせていただいております。
(パワーポイント2)
(パワーポイント3)
 私は日ごろ、仕事を通じて色々な社会現象を見ているうちに、現代社会においては大きな変化の流れが起きていて、それに企業の戦略が少しずつ、もしくはすごく急激に変わることがあり、その流れを見てざっくりですが、このような整理をしてみました。



1.社会潮流の変革に伴う企業活動の多様化・高度化

(パワーポイント4)
 これも第1世代、第2世代、第3世代というのはあくまでも仮置きで考えていただければと思います。別にこの時代区分に意味があるのではなく、第1世代(85年〜94年頃)、第2世代(95年〜04年頃)、第3世代(05年以降)という仮の区切りで各10年間をざっくり見たときに、社会にどんな大きな流れがあって、企業はどのように影響を受けたのか、そして、企業は都市空間にどんな機能を求め、また都市空間はどのような形で企業に貢献してきたのかということを、都市計画というものを全く知らない人間が、どんな空間、どんな立地条件で企業は伸びるのかと考えながら見てみた内容でございます。
(パワーポイント5)
 「第1世代」と大げさに書いてありますが、85から94年にどんな大きな社会環境の流れがあったのか見てみますと、最も大きな出来事の1つに、89年のベルリンの壁の崩壊、それによってグローバリゼーションが起き、国内では通信の自由化、規制緩和の推進などによって国内企業におけるメガコンペティションの時代へと入っていったと思っています。メガコンペティションというのは、ご存じのように、新たなプレーヤー、新たな体力格差の拡大によって一層激化していく、競争世界というような意味合いです。第1世代、第2世代はこのような社会環境の変化があったなと思っていただいて、(05年以降の)第3世代を見たときに、今後どんなことを考えなくちゃいけないのかなということを少しずつ一緒に考えてみてもらえればと思います。
(パワーポイント6)
 そのメガコンペティションという時代において、外資系企業の参入と日本企業の海外進出、そして金融を中心とした産業により東京が発展して、入居する都市空間に企業が求めた機能として、企業イメージの向上や交通機関、飲食店、治安などの、都市のサービスがいろいろ挙げられております。
 特にこの中で、国内市場への外資系の参入というものにおいては、例えばBTとかAT&Tなどの通信系企業が日本市場に参入してきました。そして、日本企業の海外進出においては、金融企業が、例えばアメリカ、ロンドンに対して、1980年代、特に86年においては29行、390拠点も進出しました。今ではもう見られないような進出の勢いですが、トヨタはレクサスの米国市場参入がありました。ちょうど今回発表があって、日本にもレクサスを持ってくるというニュースがありましたが、そんなことが起きた時代です。また、ロンドン、ニューヨークと並ぶ金融企業の集積、と記載してありますが、86年でしたが、ニューヨーク市場に匹敵するような為替取引が480億ドルも行われたりして、株式取引でニューヨークと同じような取引が行われていました。
 このころ、企業内の組織は部分最適の状態にありました。企業の利益追求とか、ローコストオペレーション等々が行われ、この時代において企業が都市空間に求めたものは、こういった時代背景の中で、企業イメージの向上や都市のサービスが挙げられます。都市のサービスというのは先ほどいった交通機関、飲食店、治安などへの配慮です。この時代を企業側から見ると、また企業戦略を考えてきた人間から見ると、このような流れだったかなと思っています。
 まずここは軽く流していただいてよろしいかと思います。
(パワーポイント7)
 これらの社会環境の変化にこたえるように、都市開発においてはどのようなことが行われてきたか。86年には第2次東京都長期計画において、「活力ある世界都市東京の建設」が宣言され、オフィスビル機能だけではなく、いろいろな交通機関、商業施設、そして都市サービスが大きく発展してきました。すごくざっくりですが、第1世代における都市開発側の対応としては、好立地、そして職住近接、飲食店の充実、アメニティーなどで対応がされてきたと思っております。
(パワーポイント8)
 89年に竣工したのがアークヒルズ。都市の中の都市といわれ、夜の町に、オフィスや文化、情報機能を加えた点が非常に先進的だったといわれています。
(パワーポイント9)
 次は聖路加ガーデンです。94年に竣工して、医療とか職、住宅、いろんなものが融合された都市空間というコンセプトで展開してきました。ライフサイエンス構想に基づくアメニティー・オフィス、ホテルといった対応がされていました。
(パワーポイント10)
 85年〜95年における社会環境の流れの変化を見てきましたが、次に95年〜04年ごろを対象とし、最近の10年間はどんな社会環境の変化があったのかを見てみました。
(パワーポイント11)
 大きな流れとしてこの10年間ぐらいは何があったかなと考えますと、「第2世代」95年〜04年においては、テロとか災害、阪神・淡路大震災がありました。あと、地下鉄サリン事件が95年にあり、環境関係の問題においては97年京都議定書の採択があったり、98年にはインターネットの利用者が1000万人となりました。このような急激な変化、リスクの増大や市場ニーズの複雑高度化が起きた時代です。
(パワーポイント12)
 このような流れの中で、企業活動にどんな主な変化があったのかと見てみますと、まず市場の変化にいち早く対応するために、企業はITによる全社情報の統合とか、経営情報の一元化、サプライチェーンマネジメントの最適化、こんなことがまず行われてきました。また大企業を中心にERPとか支援パッケージの導入、企業名でいうと、SAPのもの、オラクルのものがかなり導入され、現時点において導入済み、導入中が大企業においては約45%ぐらいといわれています。
 また、専門知識を習得することがどんどん奨励され、例えば、情報処理技術とか、いろんな資格等において資格者の急増が見られたと思います。また厚生労働省が、教育訓練給付金制度を98年12月に出したりしております。
 また、環境対策におきましては、製造業を中心にして、環境会計等が出てきて、ISO14000とか、環境庁による環境会計のガイドラインの公表が2000年にされました。あと、リスク管理の徹底です。エンロンとかMCIにおける破綻、雪印、日本ハム問題等々あったかと思います。そういうことを受けて、企業が都市空間に求める機能は、これもざっくりかもしれませんが、ITのインフラ、環境対応、リスクへの対応。知識を習得する場というものがあったらよいのではないかと思われます。もちろん第1世代で挙げた企業イメージの向上、都市のサービス、こういうものの上にこんなことが乗ってきたんじゃないかと思っています。
 私がきょう話をする内容は、きょう出席されている皆様のご名簿を見させていただいたところ、私より皆さんの方が圧倒的に、都市開発等、いろんなことについてのご専門の方々ばかりで、都市空間における社会変化や企業ニーズへの対応に対して何か評論家的に話をするということではなくて、どっちかというと、今まで行われてきたことですばらしいことがいっぱいあったかと思いますので、それに何か、もしかすると違った視点で専門家の方々に見ていただいたら、もっとさらにおもしろいものが出てくるんじゃないかという観点で見ていただければと思います。
(パワーポイント13)
 第2世代では、第1世代のニーズに加えて、先ほどいったような環境リスク等に対応したハード面の一層の充実、IT技術の活用による企業活動の利便性の向上等々が実現されつつあると思っています。
(パワーポイント14)
 具体的な幾つかの例として、明日一般公開されるということを聞いております六本木ヒルズ。文化都市のコンセプトにミュージアム等の充実が図られると同時に、最新のIT技術、環境と安全のニーズにこたえる機能が備わっているといわれております。東京に文化の核を作り、潤いある文化都市を実現するために、森アート美術館とか、ユビキタス対応の超高速ネットワーク環境、プロフェッショナルスクールや24時間図書館などにより構成されるアカデミーヒルズ、こんなことで先ほどのニーズにマッチしていけるようなものができ上がってきているんじゃないかなと思っております。
(パワーポイント15)
 また2002年11月より順次竣工が進んで、2007年完成を目指している汐留のエリア、これも情報ターミナル都市というコンセプトです。広告会社、テレビ局、大手企業が集積することによる日本の情報発信基地としての機能を果たしているほか、ギガビット接続光ファイバーの整備や、アド・ミュージアム等々、今までの社会の流れ、企業のニーズ、そういうものを酌み上げながら大変すばらしいものがどんどんでき上がってきているんだろうと思っております。
(パワーポイント16)
 また今後もさらに多くのいろんなプロジェクトが出てくるかと思います。丸の内1丁目、品川シーサイドフォレスト、秋葉原、日本橋等々が、今後のIT技術、環境、安全、いろんなことの充実を図りながら進んできていると思っております。



2.これからの企業が求める「戦略的都市空間」とは

(パワーポイント17)
 これがきょうの本題であります。今後、企業の都市空間の機能はどんな形であるとよりよいのか。今後は企業が都市空間に求める機能はより一層の高度化が考えられ、次の時代のコンセプトとして、先ほど申し上げた次の第1世代、第2世代のニーズ、その上に何が加わるのかなと考えてみました。
 日ごろいろんな企業の方々、IT関係、電機メーカーさん、車のメーカーさん、その他通信会社の方々、電力会社の方々と、いろんな形の接点を持って一緒にいろんな戦略を考えさせていただく機会を持って参りましたが、戦略を考える時の1つの基本として、今後世の中はどうなるんだろう。もしくはどんな戦い、シナリオになっていくんだろうということを常に考えます。
 そして、そのようなアプローチは企業戦略に大きく影響を与えていきます。社会環境や、ビジネスにおける戦い方、シナリオの変化が常に企業戦略と融合したり、整合性がとれているとか、そこで相乗効果が生まれるなどといったことを企業は今まで以上に強く期待していると思います。
 そのような中で今後企業戦略に対しタイムリーかつ直接的な効果がある都市空間があったらいいな、と常日頃から自然に思っており、また今まででしたら、お金を払って企業戦略に対して何か手を打っていたことが、ある都市空間にいれば、ある意味では自然に、どんどんプラス方面に増殖していくような環境はないものだろうかということがさまざまな企業により模索されているかと思います。
 それは単純にハード面での対応が集積したとか、交通利便性上何かどこかが近くなったとか、そういうことではなく、全く違う観点で、都市空間を見ていこうという企業の方々がどんどん出てきているかと思います。
 本日のお話において、僣越ながらもこれが答えですということは、私は思っていませんが、きょうのお話をさせていただく中で、皆さんが今やっておられる都市開発やその計画の中にもしかしたら何らかの、少しばかりの、ヒントにでもなっていただければ、もしくはそれが反面教師で、そんなことじゃない、もっと違ったことだろうということでも、それによって前に進むようなことになっていただければと思います。
(パワーポイント18)
 それではこれからの企業が求める戦略的都市空間というものを、少しずつ考えて行きます。
(パワーポイント19)
(パワーポイント20)
 もしかすると、想像がつくかもしれませんが、立地条件を企業戦略の視点から見ていくと、どんな条件が出てくるのかなといった仮説を導出する手順をここで考えてみたいと思っています。仮に第3世代、2005年以降における企業を取り巻く環境の変化って、どんなことがあるんだろうか、そして、その環境変化に伴う企業戦略の変化というのはどんなことが予想されるのかを見ていきたいと思います。これからどこか都市開発をする地区があったとします。まずその場所はどんな特性を持っているのか。もちろんいうまでもなく、その土地のもともと持っているものを生かすものが必要ですが、例えば都市の中心にあるウォーターフロントなどに対し、そこが悪いというわけではなく、そういう観点にプラスアルファで、もっと違う視点、例えば、企業における研究開発の観点から見たらどうか、もしくはハード的な観点においてはどうか、など、その開発地区の特性と相乗効果の生まれる可能性があるものはどんなことが想定されるのかを考えてみる、そんなような意味合いです。
 そして、そこから戦略的都市空間というものに対しどんな仮説が考えられるのか、をここではすべてのことを網羅して書いているわけではありませんが、幾つかの部分において、1例ずつ挙げてみて、少しばかり検証してみたいと思います。
(パワーポイント21)
 仮に2005年以降における企業を取り巻く環境の変化ということを見たときに、いろんなことが想定されると思います。例えばグローバル化の加速による企業の海外進出、海外投資。最近のイラク戦争など、いろんなことがありますが、グローバル化が加速していると同時に、グローバル化はなくなっていくかもしれないといった意見も聞かれ、いろんなことが考えられています。
 あとは、先進国で最も急速に増大しているのは知識労働者であります。知識社会の加速が今後はすごく重要で、この分野はどんどん変化してくると思います。
また技術革新、これはずっといわれ続けていますが、その中でも環境問題や、医療やバイオなど生命系の分野の発達が加速すると考えられます。
 また日本においては非常に問題になっている少子高齢化。2015年には日本の人口の4分の1が高齢者といわれています。
 中でも本日この場では、このような企業を取り巻く環境の変化の中でも、ユビキタス社会を一例として挙げ、今後ユビキタス社会はどんなふうになっていくのかなということをもう一度見てみたいと思います。
 私が言ったからといって、必ずしもこうなるということではないんですが、どんな変化があるのかなということをお話させていただければと思います。
(パワーポイント22)
 ユビキタスというのは、だんだん皆様の頭の中にも浸透してきているかと思いますが、感覚的に何か情報化社会につながるのかなと思っておられる方、きちっとわかっておられる方等々あるかと思いますが、現在いろいろ言われていることを少し整理してみたいと思います。
 ユビキタス社会というのは、いつでもどこでも欲しい情報を入手可能ということと定義されていて、これは1989年にアメリカのどこかの先生が言って以来、ずっと言われてきたかと思います。
 その主要な構成要素を見てみますと、我々のすぐ近くにはパソコンやゲーム機などのデバイスがあって、そのデバイスをつなげるネットワークがあって、これがコンテンツにつながっており、それら3つが連携して、先ほどいった、いつでもどこでも欲しい情報を入手可能といった状態が実現すると思います。
 具体的にいいますと、2003年以降にはペンや紙といった身近なものにおいて、例えば、凸版印刷が電子ペーパーを実用化したとか、日立製作所や松下電器のネットワーク家電などがあるかと思います。ネットワーク家電では特に東芝が最初に大きくやられたといわれています。
 そして、車の中にテレマティクスが装備されるようになりました。例えばトヨタ自動車の「ウィル サイファ」に搭載されたG-BOOKのように、車が移動している状況で個人のニーズに対応した情報が継続的に見られるようなもの等々があります。また第2東名、名神の高速、ITSスマートウェイになっていくとか、そんなようなパソコン以外のデバイスのネットワーク化がどんどん進展してくると思われます。
 行政手続はもういうまでもなく電子化されています。社会全体がネットワークを前提にさまざまな取り組みを始めると思います。
 また2005年には愛知万博が行われます。これもやはり情報技術の活用が重要といわれているんですが、ある案件において、「一体全体2005年って、どれくらいの人がどんな感じの情報を使ったり、どうしているかなということを想像してみよう」ということで、喧喧諤諤とやりながら、幾つかのシナリオを検討したことがあります。どっちにしろ、社会全体がネットワークを前提とし始め、必ず全部がそうなる訳ではないんですが、ある部分においてはそうなってくるだろうなと思っています。
(パワーポイント23)
 また2005年以降になると、ネットワークのブロードバンド化、高速化が完了して、電子的なサービスが一段と充実してきて、デバイスももっと進化していると考えられます。例えば、今のCPUが、そのころにはIBMでは10倍になるだろうとか、コンピュータータグの価格が下がり衣類や包装とかに導入されるだろうとか、NECの携帯電話の性能は98年のパソコン並みになるだろうとか、いろんなことがいわれております。こんな形でどんどん実質的なユビキタス社会が到来すると思われます。
 だいぶ前に、私がソフトバンクにいるときに、iモードの企画に参加させていただきビジネスモデルを考えたときに、企画どおりにはならないだろうな、でもなったらおもしろいなと思いながらやって、実際には爆発的な成功を収めました。何が起きるかわかりませんが、そのようなイノベーションがどんどん出てくるのかなと思っています。
 今も水面下でこのユビキタス社会における研究、実用化、連携は、家電メーカーやITに関係する企業がしのぎを削ってどんどんやっております。このようなエネルギーがどんどん発生してくるのかなと思っております。
(パワーポイント24)
 このようなユビキタス社会が実現された際には、これもざっくりですが、企業にとっての顧客動向、市場変化はどんなふうになるのかなということを少しばかり考えてみました。
 これが正しいということではなく、すべてある意味では仮説ですが、そんなに外れることもないかもしれないなと思っておりますが、例えば消費者ニーズの多様化、高速化が考えられます。価格だけでなく、質、サービスの重視が進んでいます。特に今はデフレの時代ですが、安くすれば売れるかといったら売れなくて、顧客はやはり本物を求めている。おにぎりが高くなっても良い物であればそれを買う。いろんなことが起きていると思います。マクドナルドが、安くしても売れなくなってきた時代。従来どおりのやり方ではなく、もっと違うものが要求されていると思います。そしていうまでもなく、顧客に対する個別対応のニーズがどんどん出てくるかと思います。
 きょうのNHKでも、リハビリテーションが、本当ならば受ける個々人によって全部違うはずなのに、現状は全部マスでやってしまっており、それは改善しなくちゃいけないですねという話が出ていました。とにかく消費者ニーズの多様化、高度化、そういう兆候がどんどん大きくなってきています。
 あとは、いうまでもなく、今でも起こっている国境や業種を超えた競争激化。これは第1世代といわれたときにおいてもあって、外資参入とか、いろんなファンドが、中にはハゲタカファンドといわれるところもありまして、必ずしもハゲタカだとは思いませんが、いろんな吸収合併、業界再編、異業種の参入等がありました。
 また時代変遷とか消費者ニーズに則した新しい市場の登場。これも付加価値型商品やサービスへのニーズ拡大、シニアマーケット等の登場等、新しいニーズや市場がどんどん出てきています。とにかく何を意味しているかというと、今まで以上に顧客とか市場の変化に対する対応が必要で、新たな戦略がすごく重要になってきているかと思います。一体具体的には何なんだと思われるかも知れませんが、少しずつ話させていただきます。
(パワーポイント25)
 これは社会環境の変化に即した企業活動の変化の例ということで、ほんの一部の例ですが、第1世代や第2世代において企業活動が部分最適、といわれてきた中で、今後は多くの企業が全体最適化をしていかなければいけないと言われています。全体最適の一例ということで、ここはトヨタ自動車の話をさせていただきますが、従来トヨタ自動車では、FFとか前輪とか後輪といった駆動方式別にデザインチームを編成していました。デザインを始め、流通、その他いろんなものが対応していなかったために、顧客獲得機会損失がたくさんあったかと思います。また販売戦略としては、上級移行連鎖といって、カローラからクラウンにといった形で需要が変化していくだろうという形で売ってきていたと思われます。これは決して間違いではなく、従来の顧客動向にはぴったり合っていた話だと思います。ただ、今後はそうではないと考えられ、スムーズな購買へ顧客を誘導をしていくために、ブランド別デザインチーム編成や流通販社再編を行っていきます。
 例えば、レクサスブランドの日本市場投入を発表されたと思います。1989年にアメリカで投入され大成功をおさめたレクサス車が2004年に日本でも販売されます。そして、今まで併売車種の多かったネッツ店とビスタ店を「大ネッツ店」に統合し、できるだけわかりやすく若者、女性を主体とした販売網として整備することになりました。この販売網を変えるということに関しては、特に100%子会社のディーラーさんではないわけですから、統合は非常に大変なんですが、こんなような改革を行い、とにかくユーザーに理解されやすいブランドとチャネルを整える予定です。
 これは全体最適の観点から考えておられると思います。2000年以降、全体最適化を目指さなくてはいけないということは、大きな企業、たとえば松下電器、キヤノン、多くの企業がそう宣言されており、それぞれいろんな形で展開されているかと思います。
 部分最適をずっとやっても、全体最適には絶対ならないと言われることがあります。これは幾つかの理論で示されているみたいですが、あくまでも全体最適を考えた上で個々の部署等を考えなくてはいけないということだろうと思います。
(パワーポイント26)
 先ほどは消費者ニーズの多様化、高度化に対するトヨタ自動車の対応例をご紹介しましたが、今度は国境や業種を超えた競争激化に対する対応例についてお話したいと思います。1998年ごろにはインターネットサービスプロバイダがどれくらいの数あったでしょうか。ナローバンドレベルですが、当時登録していたところだけで2万ぐらいあったんです。そして、最近ブロードバンドが進み、インフラに非常にお金がかかるようになり、その数はだいぶ減ってきております。そのような中で、ちょうど去年発表され、今年正式に会社ができた、ISPサイトの連合があります。NECのBIGLOBE、KDDIのDION、日本テレコムのODN、松下電器のhi−ho、などが中心となり、述べ1000万人以上、その他の中小規模ポータルを入れますと、2000万人弱になるような連合です。
 この連合はまずはインフラにおける連携、そして、その後はマーケティング活動等の連携を行うことが考えられており、例えば、1,000万人と言うデータベース規模の強みを生かして、全然違う業種の方々、例えば自動車とか飲料、飛行機、電話、こんな方々とのマーケティングアライアンスをどんどん行っていくことなどが検討されています。自分の会社だけではなかなかできないことに対し、自分の会社のコア事業を持ちながら、他社、もしくは勝ち組企業と一緒に何らかの連携をやっていくようなアライアンスの推進がますます進んでいくかと思います。
 今までのアライアンスのやり方のいろいろな中で失敗もありながら、少しばかりそれの経験が生かされつつ出てくるかと思います。
 例えば、今お話したようなマーケティング連合をやろうとした際、その連携戦略に合致していると同時に、消費者ニーズの多様化、高度化に合わせた、そんな都市空間があった場合には、参加している企業の方々には非常に喜ばれるかと思います。
 もう1つ、社会環境の変化に対する企業活動の変化の例について、本来はもっとたくさんあるかと思いますが、とりあえず3つぐらい肝心なものをお話させていただきます。
(パワーポイント27)
 次は従来コア事業とされてきた商品やサービスを核とした高付加価値化の一例です。従来は、コア事業に加えて新規事業として業務分野を開拓するとか、コア事業の関連事業を、コネクションの範囲内で行っていましたが、今後は、コア事業に加えて関連事業だけでなく、ハイエンドの領域や新技術を使ったものなどに取り組むことにより、何か新しい価値を生むようなことをやって顧客層を拡大して行くと同時に、自分のコアビジネスの強みを生かし、キープしながら、さらに事業拡大・顧客層拡大を進めていくといった動きが見られます。
 例えば、麒麟麦酒は、機能食品の分野に進出されています。最近では調味料分野での事業強化のために、武田薬品と合弁会社を設立しました。これも高付加価値化の例として挙げられるんじゃないかと思います。また、西友が取り組んでおられる高級スーパー事業の展開や、日立製作所のナノテクノロジーの技術を生かしたミューチップ、などの新規事業も例としてあげられるかと思います。このミューチップは0.4 ミリ角のチップなのですが、これを商品や衣服に導入することによって物流革命が起きたり、購買構造の革命が起きるようなこともあるのではないかと期待されます。
 このような高付加価値化ですとか、イノベーションの加速を実現するためにどうするべきかということを、各企業は毎日の業務の中や、戦略の中でしのぎを削ってやっているかと思います。
 以上、先ほどご紹介したユビキタス社会の到来のような、大きな社会環境の変化によりどんなことが起きるのかと見ながら、少しばかり例を挙げさせて頂きました。しかし勿論、それ以外の社会環境の変化についても見ながら企業は戦略を立てていると考えられ、特に自分の分野に影響があるような社会環境の変化における要素を考えながらやっているかと思います。
 2003年から2005年、またそれ以降にかけて、ユビキタス社会がどんどん発達し、消費者ニーズ、顧客ニーズ、市場に変化が起こるのに対し、多くの企業は「企業の全体最適化」、「協業・アライアンスの推進」、そして、「高付加価値化」など、これらは例えばですが、でも、これらの実現を真剣にいろんな角度から研究し、資源を投入していると思います。
(パワーポイント28)
 今までは社会環境の変化に対する企業戦略の傾向として、有形の物を扱う製造とか小売業と、無形のサービスを提供する企業ではすごく差があったんですが、最近においては、そういった業界間の格差が見られなくなってきているかなと思っています。
 もちろん、全然違うところもありますが、以前よりもいろんなところで各業界に共通点が見られるようになってきていると思います。その例として先ほども申し上げた3つの戦略を挙げます。
まず「企業活動の全体最適化」。内容としては、グループ企業間のシナジー追求や、トヨタ自動車がやられたターゲットセグメントを起点とした製品やサービスの提供が可能な組織の再編とか、高度化・多様化する顧客へのタイムリーな商品、サービスの提供などが考えられ、こうした取り組みは現在の企業戦略の中に多く見られると思います。
 次に、「協業やアライアンスの推進」。内容としては、行政や産業のIT化とか、規制緩和による新規参入のためのアライアンスのほか、企業再生や事業統廃合に向けた情報収集とサービス提供でのアライアンス等が見られます。
 三つ目に、「高付加価値化やイノベーションの加速」。内容としては、まず今後どんどん進むと考えられる人材の活性化。また次世代技術とか、サービス開発への積極投資や顧客へのソリューションやコンサルティング力の強化など、いろいろ出てきていると思います。
 以上のようなことが最近の企業戦略の共通項として見られると思います。もちろん、個々の企業にとっての具体的な戦略面では違ってくるかもしれませんが、大きく見た共通項としては今申し上げたようなことがあるかと思われます。
(パワーポイント29)
 一方、このページ以降は、2005年以降における都市の消費者特性として、他の都市との共通項も見られると思われる東京都心を例にあげながらどんなことがあるのかなということを見てみました。
 これもある意味では予測とか仮説ですが、最近検証している内容もいくつかあり、そんなには外れてはいないのかなと思うようなものについてご紹介します。
 まず、東京都心に見られる消費者の動向として、都心回帰と職住近接の傾向が増大しています。またアジアからの入国者の増加もあります。さらに国内外のエグゼクティブの居住が増加しているとか、ナレッジワーカーの居住が増加しているといったことが挙げられ、こういった流れを意識した企業戦略を考えたいと思っている企業あるかと思います。
 これから一つ一つについて少しずつ話をさせていただきます。
(パワーポイント30)
 まず、都心回帰と職住近接傾向の増大についてですが、この絵は、東京都区部における昭和63年から平成12年までの東京都の人口増減数です。見ていくと、昭和63年から平成8年ぐらいまではずっと減っていたような感じですが、最近はふえてきています。このようなお話は皆さんの方がよく知っているだろうと思いますし、怒られるかもしれませんが、あえて僕も、ああ、やっぱりそうだと思うようなことがあったので、ご確認の意味でこの図を見ています。
 そしてこちらは通勤時間の変化です。これも最近数年で都心に住みかえた人の通勤時間がどんな傾向があるのかと見てみたら、通勤時間が減った人がすごく多くて、ふえた人、つまり10分以上長くなった人は全体に占める割合のたった12.8%しかなかったです。こうしたデータからも分かるように、職場と住む場所が近づいている傾向、つまり都心回帰が進んでいるんだなと思いました。
 またこういう傾向は企業の戦略とどんな関係があるのかと考えてみることは非常に楽しいのではないかと思っております。
(パワーポイント31)
 次に、アジアからの入国者の増加についてですが、都市における、新規入居者数に対するアジア地域出身者の入居者数は年々増加しており、全体の60%を占めています。このデータでは外国人入籍者の国籍順位において、上位10位の中にアジア地域が6カ国もランクインしています。入籍者数全体としてはそんなに伸びているというわけではないかもしれませんが、それなりに数がいる中でアジアからの入籍が増加傾向にあることはいえると思います。またたまたま最近見てみた都心のある地域においても、こんな現象が見られるところが多かったりしました。
(パワーポイント32)
 次に、都心における国内外エグゼクティブの居住増加についてですが、これも釈迦に説法ですが、平成13年の全国の高額納税者100人のうち港区民が24名、渋谷区が7名、世田谷が7名。東京都港区が4分の1を占めている状態です。あと、日本にある大使館のうち81が都心3区、港区、渋谷区、千代田区に集積しています。これは全体の6割強に当たります。また都心に本社機能がある企業の数としては、サービス業、製造業、金融・保険業、運輸・通信業などにおいていずれも都心3区に集積が見られます。製造業では大田区が上位に入っていますが、ここは中小企業が多いということだと思います。私のような素人が見るとこの程度ですが、このようなデータからも、おもしろいことが言えるのではないかと考えており、このあとこれらのデータから考えた仮説についてお話をさせて頂ければと思っております。
(パワーポイント33)
 次に、ナレッジワーカーの居住増加についてですが、インターネットの利用者数が1998年に1000万人、今は5000万人を超えている状況の中で、23区では超高速光通信のインフラがほぼでき上がっていて、5〜6社がサービスを少しずつやっている状態です。このことから、都心においてはナレッジワーカー、いろいろナレッジを持った方々、知識を持った方々のための環境がどんどん整備されつつあるということが言えると思います。
 私たちが仮説を考えるときによくある話なのですが、今までお話してきたように、社会環境の変化に伴い、企業にはこういうニーズがあって、一方都心におけるある都市にはこんな特性があると言った時に、そこでどんなことが出来そうか、さて、その心はというのが、今回今後の都市空間について何か新しいことを考えてみようかと思ったきっかけです。



3.「戦略的都市空間」実現に向けたアプローチ

(パワーポイント34)
 今までお話したことから考えた仮説がここにかいてある絵なんです。先ほどからお話をさせていただいている「企業活動の全体最適化」「協業/アライアンスの推進」「高付加価値化/イノベーションの加速」といった3つの企業戦略、3つだけじゃなくて幾つもあると思いますし、企業によって優先順位など変わると思いますが、大きなところでこういう傾向があると考えられるこれらの企業戦略に対して、今皆様が持っておられる、もしくはやっておられる開発地区や案件において想定される、それぞれの地区の特性、本日は仮に先ほどご紹介した東京の都心3区の例で考えてみますが、さっき言ったような都心回帰、アジアからの入国者増加、国内外のエグゼクティブやナレッジワーカーの集積など、企業戦略と各開発地区の特性が何らかの形で合致して、何か新しい価値を生むことができないかなと見たときに考えたのが、これからご説明する「企業が求める戦略的都市空間」という仮説です。
 企業の方々も、今まではとにかく現状の都市空間で非常に満足していて、今私が申し上げたようなことはあまり考えてないんですが、最近色々な企業の方々とお話している中で、この仮説を少しお伝えした瞬間に、「えっ、そんなことがあるんだったら、おもしろいんじゃないか」と感じて頂いていることが実感としてあります。
 それでは、「企業が求める戦略的都市空間」の仮説について、さまざまな企業の戦略と、先ほど例としてあげた都心における消費者特性との合致による何らかの新しい都市の機能と言う設定でお話します。まず「日本を含むアジア全域に向けた情報発信/収集拠点」として機能する可能性が挙げられます。アジアからの入国者が多く往来する都心のどこかにこのような拠点を持つことができたらどのようなことができるか。あるメーカーは、これからは日本だけじゃなくて、アジアというマーケットをターゲットにして物をつくり、サービスをし、情報を、例えばインターネットなり何なりで発信して行く際のマーケティング等に役立てる可能性がある、ということをいっておられます。
 たまたま、飛行機の中で隣がソニーの出井会長でずっと話をさせて頂いた時も、そんなことをいっておられました。またある大手自動車メーカーさんもそんなふうにいっておられたかと思います。
 もしかすると、他にも色んな企業の方が、上海でもシンガポールでもなくて、とにかく東京で、アジアに向けて発信できる空間・拠点があったらどんなにいいかと思うかもしれないと思っております。
 そして、「日本を含むアジア全域に向けた情報発信/収集拠点」以外にも、「ナレッジワーカーの活性化」に貢献する可能性も考えられます。国内外エグゼクティブが多く居住しており、かつナレッジワーカーの集積の傾向があるエネルギーに満ちた都市に企業が進出することによって、おもしろいアイデアなり、企業の高付加価値化のためのいろんな考えが出てくるかも知れません。また、こういった都市においては「他社と差別化されたブランド構築」ができる可能性もあると思います。そしてさらに、今まで申し上げてきた可能性を感じて、先進的企業が多く入居してくることにより、「事業機会を創出するエグゼクティブ間の非公式交流」の場としての機能も期待できると思います。例えば、事業が創出される時に、トップの方々が、「あの人を知っているよ。あの人と話してみよう」ということだけで始まってかなりのことが動くことがあるかと思います。逆にまだ職歴の浅い、若い人間たちが幾ら集まっても、なかなかビジネスは進まないことが多いと思います。もちろん、それは必ずしもそうじゃありませんが。でも、トップの方々が会って交流することが可能な、そういう企業が集まりやすい場所にいると、企業トップ同士が刺激し合うような環境ができるかと思います。そんな環境も多分今後求められてくるんだろうなと思います。
 概念的な話ではありますが、まず、今まで言ったことはあくまでも仮説です。
(パワーポイント35)
 それでは、これ以降は、今までお話してきたような仮説を、1つ1つの企業の戦略に当てはめて、それぞれの都市開発案件でどんな風にやってみるといいのか、という点についてお話させて頂きます。私もきょうここに来るに当たって少しは勉強せんといかんなと思いながら、結果的にはあまり勉強にはなってないんですが、皆さんが都市空間の企画立案などを行われる際に使われていると想定されるアプローチに沿ってお話をしてみたいと思います。
(パワーポイント36)
 例えば、都市開発、事業の主な流れというのは、私がお話することでは全くないんですが、一緒に共通言語として理解させて頂くために申し上げますと、まず「ニーズの把握」、その後の「調査/分析」段階において不動産診断などを行い、その次に「企画構想」、ここではマスタープラン作成や、商品企画が行われ、そして「事業計画」、内容としてはフィールドスタディー、スキーム構築が行われ、その後「事業構築」で環境アセスメント等を行い、資産マネジメントへと移っていくといった流れかと思います。これは単に本日の講演にあたり、少しでも皆さんが現在やっていらっしゃる都市開発の流れに沿ったお話をさせて頂くために私が理解したことについて書いてあるわけです。
(パワーポイント37)
 先ほどから申し上げているように、もし仮に、企業を取り巻く社会環境が変化し、それに対し企業が今後こんな戦略をやっていこうと考えていることに、それぞれの都市空間の持つ特性が企業戦略の実現を助けてくれるようなことがあれば、非常にうれしいなと思っています。もちろん、これはどういうことかを具体的に話していかないと難しいと思いますので、後から1つだけ具体例を話します。
 それでは、先ほど皆さんと共有した都市開発事業の主な流れの中のどの時点で、どんなタイミングで話し合っていったらいいのかと、勝手にちょっと思ったことについて話をさせて頂きます。先ほどの都市開発事業の流れの中の、「企画構想段階」の商品企画という中で、もしかして第1段階としてこの「戦略的都市空間」の考えを検証することも出来るのではないかなと思いました。例えばこの時点で国内で活動する外資系を含む主要な企業の戦略の傾向を具体的に把握することにより、オフィスビルの商品企画への反映が考えられないかなと思いました。
 さらに、「事業構築」段階における販売、テナントリーシングを考える時に、今度はテナント候補となる主要企業固有の戦略について、もっと深く理解し、インフォーマルでもいいから、何らかの形で話を聞いて、企業戦略に合致した都市空間、オフィス空間を提案していくようなことがあれば、相手の企業は非常に喜ぶんじゃないかと思います。
(パワーポイント38)
 それではまず最初に申し上げた「企画/構想」段階での「戦略的都市空間」的な考え方の導入案をお話しますが、この段階のときに、まず今後の社会環境の変化と、それに対する企業戦略の変化の傾向を少しばかり予測し、そして何らかの形で、これから開発する地区の特性を理解した上で、企業戦略と開発地区特性にどんな関係がありそうかを予測しながら、開発方針の策定をし、少しずつステップ・バイ・ステップで企画を詰めていくようなことが考えられるのではないかと思っています。もしかすると、多かれ少なかれもうやっている開発案件もあるかもしれませんが、最近私たちが話した方たちの中では、「そんな考え方があるか」、というような話になることがよくあるものですから、あえてここで話をさせていただきます。
(パワーポイント39)
 今お話した「企画/構想」段階の時点で「企業戦略と開発地区特性の合致」を考えた時にはボヤッとした構想が出てくるわけですが、次に第2段階、テナントリーシングなどを行う「事業構築」の段階においては、仮に私が都市開発をやったとしてこの段階で「企業戦略と開発地区特性の合致」の考え方を導入する案としてですけれども、まず候補企業の選定をします。これは従来から言われているような移転効果とか、不動産的観点からいろんなことがあると思います。もちろん、ここは皆さんのほうがいろんなノウハウがあって、私がいう話じゃないと思います。そして、第一段階では大きな社会環境の流れで話をしましたが、今度は候補企業の個別の戦略を理解して、その候補企業に提案するときに、「ここにいい土地があって、いい建物があって、ハードがあって、ソフトがある」といった言い方ではなくて、「あなたの企業のことを非常に理解しています。」ただ「非常に理解しています」というと、それはうそつきになりますから、「理解する努力をして、少しばかり理解しています。」といった言い方で、その候補企業と同じような価値観とか、心配事を共有して、戦略を理解しながら、そこで初めて「実は今やっているある都市開発案件の中で御社の戦略に起こるような強み、弱みについてこう考えています」といったアプローチをします。ここで「企業戦略と開発地区特性の合致、掛け算」で見たときに、何かマッチすることや仮説なりを持ったときに、相手の企業も、こちらの「何か一緒に考えられることはないでしょうか」という話に興味を持ってくれることがあるかもしれないと思っています。
 もちろん、その地区における共通機能とかあるかもしれませんが、その企業にとってどう戦略に貢献するのか、という提案が今後どんどん必要になってくるんじゃないかと思います。また、こういう提案をする都市開発案件は非常に企業の評価が高まっていくんじゃないかと思っています。
(パワーポイント40)
 最後のページになります。実はこの図はある電機メーカーのケースです。電機メーカーさんの他にも、自動車メーカーのケースもあったり、幾つかの案件を見ていておもしろいなと思うことがありましたが、今日はこの例でお話します。その電機メーカーさんが、特に研究開発、R&D(Research & Development)をどんなふうにやっていったらいいか。もちろん、その中には、例えば基礎研究をやっている人、開発研究をやっている人、マーケティングをやっている人、生産管理をしている人などがいると思いますが、そういう人たちの交流とか、いろんなことができるオフィス環境があればいいな、ということが今までいわれてきていることはいうまでもない話だと思います。
 マーケティングや生産の部門の方々の連携は、いうまでもなく非常に重要なわけです。販売の現場で起こっていることや、マーケティングの部門で考えられていることが、R&Dの部門まで情報として来るというケースはすごく少ない。もちろん、部門間連携において先進的な企業もあって、例えば花王は、お店でいろんなクレームがあったら、すぐにそれが営業のみならず経営陣、そして研究所の方にも行って、すぐ商品開発に生かされるということもあるかと思います。ですがそれが企業内だけじゃなくて、社外のいろんなアライアンス先、提携先にとっても刺激になるような場所があればもっとおもしろいんじゃないかということも考えられています。
 例えば、この図で説明しますと、まずある都市開発案件の一角にあるビルの1階にショールームがあったとします。ここのショールームは、いうまでもなく、ターゲット顧客に対する情報の発信の場でもあるんですが、顧客情報収集の場でもあり、ある意味でマーケティング実験の場として機能することも期待できると思います。またそのショールームが入っているビルの2階または隣接したビルに、その電機メーカーのR&D部門、マーケティング部門、精算管理部門などが入居し、1階のショールームで収集された顧客動向をリアルタイムで把握しながらどのようなことが考えられるかを見ていきたいと思います。今いったようなことは今までもいわれていますと思うかもしれませんが、経営の観点からいくと、こういう仕組みを作るのにお金がいっぱいかかった上で、やっていますというのは、やられてないのと同じで、むしろ必要以上にお金をかけなくても知らないうちに今いったようなリアルタイムでの顧客動向の把握の仕組みが自動的に、もしくは自然発生的に出てくるような都市空間があればいいねということで、こういう都市空間はどんどん増殖していく可能性があると思います。
 今お話したような都市空間、環境が作れないかということを日頃からすごく思っているわけです。またこの図では、ショールームやオフィス機能のほかに、同じ建物か近隣ビルに調査会社やマーケティング会社が入っているともっと良いのではないかと想定して書いておりますが、通常は言うまでもなく、いろんな調査会社、マーケティング会社との連携、やりとりから得られる情報はなかなかその企業のR&D部門のところまではいきません。マーケティング部門のところにはいくかもしれませんが、R&D部門のところまではいかない。今後そういうことは明らかにやらなくちゃいけないことがわかっていても、現状では、マーケット情報を調査するのに時間がかかり、その後R&D部門で結果が出るにはすごくタイムラグがあるような話があります。
 いまご紹介したような顧客情報を効率よく、スピーディーに研究開発や生産管理に生かせるような環境作りを、企業のある一部門など部分最適じゃなく、会社全体でそういう仕組みをできないか。そして、またそういうことを、都市計画をやっている専門の方々と共同で考えることができないかなとか、いろんなニーズが出てきていると思います。
 この電機メーカーの例は、あくまで個別企業の事業戦略ですが、特にこれは情報家電の戦略において有効に作用すると考えられます。家電は今、情報通信機能などいろんなものがついて、今後どうなっていくのかというようなことが言われています。例えば家電1つ1つにいろんなセンサーがついており、だれが何を使っているかが分かったり、家庭の防犯などセキュリティーにも使われる。そこにだれかがいる、いないが分かるなど、センサーが家じゅうにあるようなものです。そんなようなことに使われたり、また現在いろんな応用分野が出てきております。
 そして、今後における情報家電のターゲットになる方々が、もし仮にここの開発地区に住んでいたり、ワーカーとして働いていたりしていて、開発したい商品に対するターゲットとしてぴったりくるようなこともあれば、そういった地区にこの電機メーカーは拠点を置く方がいいかも知れないといわれています。
 今回の資料にはないんですが、もう一つ、ある車メーカーの例なのですが、その車メーカーは、今後日本だけじゃなく、アジア全体をターゲットにいろんな情報発信を行っていくことが想定されており、そのターゲットの一つとして、例えば中国のすごく富裕層の方々が挙げられるかと思います。日本の富裕層の方々は高齢者の方々が多いですけれども、あっちの富裕層の方々は日本と大きな違いがあると聞いておりどちらがいいとか悪いとかじゃありませんが一言でいうと、若くてハイテクの富裕層の方がいっぱいいて、日本のいろんな高級で高品質なものを見て、そしてそれを取り入れたり、何らかの形でまねたりすることに興味があり、すごく高い感度を持っておられる。高級かつ高品質な商品やサービスを見て、自分でそれを買いたい。または自分のビジネスにおいても同じようなことを展開していきたいと思われることがすごくあると思います。
 企業戦略に貢献する都市空間の考え方が現在着目されているうちに、もし仮に東京と言うところで、実際に、そういう空間があったらどんなにいいだろうということが、今は、車メーカーの話をしましたが、ほかのいろんな企業においても、少しずついわれつつあるかなと思っています。
 私が、新規事業を前職のソフトバンクで担当し、私の今の会社でもやり、最初は大企業の方々に対して戦略的なコンサルティングとか戦略的な新規事業を提案するチャンスも全然なかったわけですが、実は小さな会社でも、大企業の方が実現できていない戦略において、何か小さな会社と一緒にできないかというチャンスからどんどんふくらみ、現在弊社の抱える案件は、その95%以上が大きな企業の方々の新規事業、新しいことを何かやってみよう、たとえばアライアンスをやってみようなどということのお手伝いをすることが多く、大企業の戦略を実現するやり方としてどんなことが一番効率的かなということを日常考えていた中に、ふとなぜか、今日お話したような「企業戦略に貢献する戦略的都市空間」のようなことを「仮説」として思うようになりました。
 もちろん、この仮説について考えてみる機会をいただき、かつ、私のような全く業界とは違うことをやっているにも関わらず、今回の講演に呼んでいただいたことは、ひとえに懐の大きな、日建設計さんに非常に感謝します。そして、きょうは本当にびっくりいたしました。私のような、都市開発の専門家でもない者がお話させていただいた先ほどのような仮説、もしかすると、皆さんにとっては「えっ」と思うようなことを本当に真剣に聞いていただいた皆さんに感謝いたします。
 ちょっと短いですが、私の講演とさせていただきます。きょうはどうもありがとうございました。(拍手)



フリーディスカッション

藤山
 先生ありがとうございました。
 お時間が十分にあります。これからは少し討論の時間として、順次質問の方を受けていきたいと思いますので、どなたからでも手を挙げていただいて、ご質問お願いします。
三橋(商業・流通システム研究所)
 情報と都市について。物をつくる産業発展と都市というのは比較的わかりやすかったんですが、情報と都市づくり、あるいはまちづくりということに関して、情報というのは、私は3つインフラとして分けたいと思うんです。ブロードバンドとか高速ネットとか、そういうインフラの情報と、大量に定型的に処理する情報、それから知的な生産性を高めていくための価値としての情報、そういうふうに3つに分けて考えてみた場合に、新しい産業をリードするような知的、高度化された情報というのは、今いわれたような形でどんどん集積していくのか。
 それから、大量で定型的なデータというのは、インフラさえ整備すれば、コールセンターが沖縄や海外でできるように分散していってしまうのかという、インフラとコンテンツの関係で、情報都市というのは分散型になるのか、集積型になるのか、その辺の情報のことはよくわからないので、情報と都市、今後の町ということについて先生のご見解をお聞きしたいと思います。集積していくのか、あるいは分散していくのかという単純な意味でおっしゃいましたけれども、その辺についてお考えをお願いしたいと思います。
佐々木
 何に対して分散するか、何に対して集中して集積していくかというのはすごく違うかと思います。インフラに関しては、例えば光ファイバー、データセンター、そういうことに関してはいろんな方式で、目的に合わせた最適化というのが行われていると思います。それは経済現象の影響だけでなく、業界での競争に勝った、勝たないかによっても起きてくる現象かと思います。
 ある意味ではパソコンなり携帯なり何なり、それが情報の1つの発信元であるとすればこれらから発信される情報およびその情報発信元はどんどん分散していくことが考えられます。しかしそうじゃなくて、例えば情報の中にも非常に重要なものである場所に集中させて持ってなくちゃいけない、どこかに分散されちゃいけないようなセキュリティー上大事なものに関しては、今後においても分散しないと思うのです。私としてはどう答えていいかがよくわからないんですが、少なくとも先ほど3つに分けられた情報の中で、私が今日まさに言ったのは、知的な生産性をどんどん上げていくための情報であり、こうした情報が自然に集まるような都市空間などは今後の企業が求めている1つの重要なものだということに対し、そんな都市空間を実現するにはどんな方法論があるかということをお話させていただいたかなと思っております。済みません。全く答えになってないと思いますが。
三橋(商業・流通システム研究所)
 今の質問の中で、何が集中するのか、何が分散するのかという話ですが、都市とか町というのは、異質な人たち、あるいは異質な情報が集まって都市がつくられる、あるいは町がつくられると思うんです。そういう形で、六本木とか丸の内とか、そういった場所では、異質な人々が集積して、高度集積の都市をつくっていくという反面、携帯やパソコンで、そんなに集まらなくてもいいよ。例えばシリコンバレーのように緑豊かなところで、知的な交流があればいいんじゃないか。極端にいうと、草原都市みたいなものでもいい。あんな超高層のビルは必要ないというようなことも考えられる。ですから、都市だけがビルをつくるという上において、やはり超高層的な集積した施設だとか、人間が集積した都市の方向にいくのか、それとも極端にいって、田舎で生活しても、情報処理を通じて、高度な形を上げられるような、そういうものになるのか。
 極端にいえば、超高層ビルなのか、あるいは草原都市的なものでいいのか。その辺のことをお伺いしたいのですが。
佐々木
 特にそこに関しては、私がよく分からないからそういうのかもしれませんが、物理的にハード面で集積したからといって、例えば企業がいっぱい集まったからといって、もしくはそこに人がいっぱいいるからといって、それがいろんな意味で企業同士、ワーカー同士での相互の刺激とか、企業が取り組んでいかなくてはいけない戦略に対して貢献するかといったら、偶然にそうなる場合があるかもしれませんが、ほとんどの場合はあまり関係ないんじゃないかと思っています。
 例えば、スタンフォードの周りにシリコンバレーがある。スタンフォードの研究開発機関なり、そこの卒業生なりがあの場所に集積していることにより、人が人を呼び、そしてある共通の目的を持った方々が刺激し合っていって、かつ新しいアイディアに対してお金が集まったり、何かやりたいことに対してアドバイザーがいっぱい集まったり、そんなメカニズムが自然発生的に形成されて、集積されていくという意味においては、その場所は非常に伸びていくと思います。またMITの周りにもルート128といった大学発ベンチャービジネスの集積遅滞がありますが、そこも今お話したようなシリコンバレーと全く同じような原理で伸びていくと思います。どっちかというと、私のイメージする都市におけるビジネス機能の集積化というのは、物理的にも近くに同居していたりするかもしれませんが、その場所で人々がどんなふうに絡んで、どんなふうなことをやって、どんなメカニズムだったら、関係する企業や人が伸びていくんだろうか、ということに対し、その実現のための仮説なり論理なり実験なり何らかがあってもいいかなと思って本日お話させていただいたという経緯になります。
 例えば、単に超高層ビルの中に複数の企業が入居していたとしても、そこの中の企業同士が交流するとは到底考えられない。コンフィデンシャリティーの問題や各企業の戦略がありますから。そんなことをやると企業間の情報が流れていってしまいます。しかし今ではセキュリティーがしっかりしていますから、今まで以上にそういった企業間の情報漏洩を防ぐ方向になっていると思います。
 物理的な高層ビルや企業の集積を、よく「ビジネスの集積化」ということもあり、ずっと遠くからある地区を見たら、何らかの形で複数の企業が一体となって何か情報を発信していたということがあるかもしれませんけれども、本来はそうした情報を発信する原動力は、異なる事業と事業、もしくは人と人とのつながりだと思うんです。私はこの情報化時代の話の際によく使う例があるのですが、工学部でいうと、シグナル・トゥ・ノイズ、SN比とよくいうんですが、何か自分のいいたいことが信号だとします。それが情報化時代になってくると、その信号を相手に伝えるんですが、そのとき必要ではない情報、ノイズがいっぱいあってと、なかなか伝わらず、うまくコミュニケーションができないという状況があると思います。人がいっぱいいる例えば新宿の駅のところで、はるか向こうに友達がいて、「ヤー」といっても、人がたくさんいるから聞こえない。ところが、シーンとしたところであれば、向こうに声をかければ聞こえる。情報化になればなるほど自分と関係ない情報が自分の周りに溢れ、いいたいことが伝えるべき相手に全く伝わっていかない。そういう状況下では、ただ単に企業が集積しただけでは、ビジネス機能の集積化と言うには非常に弊害があると思います。
 ところが、自分のやりたいことに対して関係する人が周りにいて、必要な情報、重要な情報がタイムリーにいっぱい流れ込んでくるような空間における関連企業の集積であればそれはそこに入居する企業間の相乗効果がうまれ、そういったことがどんどんメカニズム化されると思います。どっちかというと、私としては都市計画における物理的ないろんな機能の集積とかその他いろんなことのスペシャリストの方々、今日はそういう方がここに多くいらしているのかなと思いますが、そういった方々の持つすばらしい経験と、今後テナント候補となる企業がどんなふうにして都市空間作りを行っていくかということを考えた時に、両方のすばらしい優秀な方々がやりとりを行うことで、もしかしたら今まで以上におもしろいことができるんじゃないかと思い、私は今日は単にその触媒になれればよいかなと思っています。
 ここにいらっしゃる多くの方々が今までの都市計画などでやってこられてきていることを否定しているとか、そういうことは全くありません。どっちかというと、いつもすばらしいなと思っております。でも、大体人間なんてみんなそうですし、企業もそうだと思いますが。今までやっていたことはだんだんなれてくると当たり前で、次の新しい価値は何?という感じになってくると思うんです。
 例えばうちの家内に、「やあ、君、すてきだ」とか何かいったら、「わかった。気持ちは当たり前だ。物は何なんだ」といわれたときにびっくりしたことがありました。そんなようなことで、人間というのは欲望がどんどん深まってくるものだなと思います。この10年間は、皆さんがやってこられた都市開発案件とか、いろんなことがすごく評価されているんだけれども、現時点では聞こえてこない、次、こんなことが欲しいというようなテナント企業側の希望の一部を言うとしたら、本日お話してきた、共通の目的意識を持った人が刺激され合う場所など先ほどいった開発地区の特性と企業戦略への理解を掛け合わせた上で、ちょっとお互いに話をする機会を持つとおもしろいことができるんじゃないかと思っています。
外(株式会社シティ開発研究所)
 会社はシティ開発研究所という名前でやっていますが、再開発とかまちづくり、ショッピングセンターをここ20年ぐらいやっております。その前は商業会で理事長をしておりました。
 今お話を聞いていて、半分ぐらいしか頭の中に入らなかった。なぜかというと、これからの企業が求める「戦略的都市空間」という言葉。戦略的都市空間というのは一体何だ、これがよくわからない。私どもが昔から都市空間をいろいろ勉強しているんですが、東京がこれほどまで大きくなったのは、幾つかの機能があります。ビジネス機能、行政機能、教育機能、商業機能、いろいろなものが集積して、東京というのは拡大してきている。大都市は大体そうですね。一番典型的なのは、55年体制で、政・官・民から、霞が関を中心に大手町の金融とそういうものとつながっている。政・官・民が東京の中心部に凝縮しているわけです。
 だから、戦略的にも行政的にもビジネス的にもすべてうまくいくわけです。政治と行政と官僚、この3つが1カ所に集まっている。これはまさに戦略的な都市空間なわけです。というふうに私は解釈するんです。今そういうことが崩壊している。そういうシステムが完全に崩壊している。小泉さん何をやっているのか。壊すことを一生懸命やっていますけれども、その次にどういうのがビジョンとして……。つまりビジョンは仮説であっても、その仮説の中でどういうビジョンが出てきて、都市空間が出てくるのか。そのときの戦略的な都市空間というのは、今幾つあったか知らないけれども、ITというのが一つある。そのときに、今でいう都市空間で凝縮しなくても、ITがあれば家庭だってできるんじゃないか。家庭で情報交換を幾らでもできる。顔、フェースでやるというのは、ビジネスの暗黙の契約をするとか、リサーチをするときには会わなきゃいかぬけれども、ITだと、かなり具体的にそういう情報交換のやりとりができるんじゃないか。
 そうした場合の戦略的な都市空間というのはどういうものでしょうか。都市も絡んでいるんですが、分散して家の中でもやれるのか。
佐々木
 
こうご理解いただきたいんです。今まで皆さんが都市計画や、都市空間に対し戦略的にいろいろ考えてきたことに対して、私がどうだああだという話では全くなく、今回のお話の大前提となっているのは、仮に今後都市開発案件の入居企業候補となる企業の観点で見て、自分たちが考えている企業の戦略を実現できるこんな土壌があったなら、こんな場所があったら、そして一緒にそういうことを考えてくれる人がいたら、すごくうれしいというような言うことについてお話をさせて頂いております。そして、実際に私が日々のさまざまな企業とのやり取りの中で、今言ったようなことをたまたま考える機会が幾つもあったものですから、そういう機会から得られた仮説をご報告させていただきました。
 ですから、都市空間における行政がどうとか、全く私は勉強不足です。感覚的にはわかったりしますが、それが何がよくて何が悪くてということは、最初からお話しさせていただいたと思いますが、今回は全く触れておりませんし、分析もしておりません。最初の説明がうまくできていなくて申しわけありません。
 あと、例えば、ITを使ったときに、薬と同じなんですが、薬と同じぐらいにいいことがいっぱいあるんですが、副作用もいっぱいあります。例えば、人は理屈じゃ動かぬという話がいっぱいある。ITばかり使っている研究者とか若者の中に、コンピューターの端末のリターンキーを押して、メールをポッと送ったら仕事が終わったと思っている人がかなり出てきているとか、そういう事態が副作用となって出てきている。どんなことで仕事が前に進んだり活性化されてくるかなということは、人間がやっている以上、ITをどんなふうに作用するかということに対して、良い作用と副作用を見ながらやっていかなくちゃならない。
 例えばテレビ電話会議システムをやるにしても、初対面の時からテレビ電話会議システムを利用したら、多くの場合は失敗します。まずは生身の人間同士が最初に会って、お互いの何らかのニュアンスや感覚がわかった上で、その後でテレビ電話会議システムをやると結果は非常によかったとかそういうのがあると思います。またどこかの場面では絶対テレビ会議システムを使わずに実際に会わなくてはいけないこともあります。重要なことを機械的にやったときに人間は、嫌だと思うときが非常にあると思いますし、そんなことを含めた上で考えたりもしています。
 ある半導体メーカーの研究所のグランドデザインを、10年ぐらい昔に考え、その企業が世界で非常に伸びて、今1位か2位かぐらいになったところがあります。そのときも研究者間のやりとりが、どうやったら活性化するかという課題に対し、全く今回と同じようなアプローチでやったかと思います。フォーマルな会話を研究者間でやっている中では、ある程度の刺激とかいろんなことができるんですが、実はおもしろいアイデアが出てきたのは、フォーマルコミュニケーションじゃなくて、インフォーマルコミュニケーションだった。どんなときだったかといいますと、半導体でいきますと、すごく基本的な開発をしている部署と、開発して生産する部署があるのですが、開発と生産部隊の人たちとのやりとりの中に、こんなことするからつくれないんだよとか、こんなことがあったらいいな、など、フォーマルでいえなかったことが、インフォーマルでお互いに言いやすい環境を作ったら出てきたと言う話があります。実は半導体メーカーの方々が基礎研究のときには、お互いに飲み屋で集まって、学会が終わった後に飲んだりしたときに、「実はこういうところで苦労しているんだよな。あれで苦労しているんだよな」とお互いが言い合ったことがたまたま刺激になって、そこからいろんなおもしろいアイデアが出てきたということがあります。
 今お話したような例から私がひとえに思っていることは、今回は、もしかしたら講演の題目である都市空間という大きな名前が誤解を生んだのかもしれませんが、テナント候補となる企業の今後の社会環境の変化に対する戦略の方向性を皆さんのような都市空間作りのプロフェッショナルの方々に理解していただきながら、企業戦略を実現できるような都市空間について何らかのインプットが頂けたらおもしろいのではないかという私の仮説についてお話をさせて頂きたかったのと同時に、企業側の意見を代表して、今各企業がやっていることを理解してほしいという声が少しあるということをお話ししたかったことです。
 済みません。そういう意味においてなおさらわからなくなったかもしれませんが。
赤松(まちづくり神田工房)
 企業に求められていることですから、当然、業務空間中心のお話をいただいたかと思います。そうした中でいいことと悪いことが一緒に起きていますよというような傾向については、後半の質疑応答の中でも随分ご指摘をいただいた点かと思います。
 一方で、居住空間についても同じような状況があって、郊外から都心に向かって回帰していること自体は、私も悪いことではないと思っていますが、都心に回帰したときに、必然的にその大半の部分は非常に高層、高密な居住空間になるわけです。高層、高密な居住空間になったときに、オフィスの高層化と同じようにコミュニティーとしての空間性というのは非常に希薄であろうということを感じるわけです。
 そうした中で、本来的によい業務空間、複合的な都市ということを考えたときには、どんな空間性であろうともコミュニティーとしての空間性を配慮してつくり込むことが必要であろうと思うわけです。これは過渡期だからやむを得ないのかもしれませんが、業務の世界で、例えばアウトソーシングなどが進むことによって、アライアンスが1つのエリアの中で非常に進むということは、これは非常に評価できることだと思います。
 そうした関係性が本当にコミュニティーの中できちんと入り込むことができるのかどうか。そういった魅力が本当に東京の中で生まれたということであれば、アジアの中で多少立地が悪くても都市的な魅力が出るのかもしれませんが、しかし、よほど魅力がないと、立地的にもアジアの中で決して中心であるわけではないですし、非常に厳しいと思うんです。居住空間を含めたアジアの中での都市的なポテンシャルをどういうふうにつかめるかということをもうちょっと補足していただけるとありがたいなと思ってお尋ねをしたいと思っております。
佐々木
 そういう意味においては、私、今回のこの中で、企業におけるという話をしたものですから、居住空間においては、ある意味では今回の資料の中では全く触れていないんですが、たまたま全然違う案件で、今後の消費者の生活の変化について考えたプロジェクトがありまして、何かといいますと、今までは人生50年といわれてきたわけですが、最近の医療の発達など、いろんな要素で平均寿命が80歳、もしかすると将来的には100歳になることも考えられ、人生100年になってきたときに今までの物差しで物を見て消費者への対応をやっていたらいけませんね、ということがありました。特にそういった超高齢化社会においても、その中でのコミュニティーというのは、人間ですから、非常に重要だという話がありますが、今後の都市空間における居住区と、今の居住空間とくらべてどうなっていくんですかということに関しては大変申しわけありません、私は今質問をお聞きしていて、むしろ納得をしていた人間でありまして、それがどういうふうにあるべきかということは、全く今わかっておりません。
外(株式会社シティ開発研究所)
 1人で何度も聞いて申しわけありませんが、というのは、1番目の「社会潮流の変革に伴う企業活動の多様化・高度化」、これはわかるんですが、「これからの企業が求める戦略的都市空間とは」、この意味がよくわからないんですよ。ということは、企業が求める都市空間というのはどういうものか。それを戦略的につくるにはどうしたらいいか。
佐々木
 企業が今後事業を展開するに当たって考えていることは、戦略です。企業側から見た際、自分たちの戦略に会った都市空間があったらいいなという意味合いで、そういった各企業の戦略にマッチするような都市空間を作るにあたってのアプローチとしての「戦略的都市空間」ということで今日はお話ししていたつもりであって、もし今言葉だけで判断されて誤解を招くのであれば、きょうのお話の流れは、企業が主語でありますので、企業の戦略にマッチした都市空間があったらうれしいなという意味合いでご理解いただければと思います。
外(株式会社シティ開発研究所)
 私は専門は商業なので、ここ20年以上やってきていることは、まちづくりを、例えば劇場空間とか舞台づくりとか、人が集まって商業、商業だけじゃありません、それがビジネスチャンスを生んでいくようなまちづくりはどうしたらいいのかということを戦略的にやろうじゃないかということを提案してきて、劇場空間とか、トリトンとかそういうのが生まれておりますし、今度も六本木はすごいだろうと思います。こういうのは東京だからできるんですね。あるいは大都市の福岡あたりでもできるんですけれども、キャナルシティにしても、都市部でできる舞台空間あるいは劇場空間というものは、はっきりいえばあまり成功してないんです。東京ぐらいしか成功していない。これは戦略的につくっているんですけれども、戦略的に造成したものはあまり成功してない。世の中が不景気だということもあります。そういうときの戦略的につくるというのは、わかるんですが、今おっしゃる企業そのものが事業計画として戦略的にやる。
佐々木
 まず、企業が戦略を立てる際に用いるフレームワークというものをどのようにご理解されているかから話をしないと、例えばトヨタさんはどんなフレームワークで、など、私は全部知っているわけじゃありませんが。でも、基本的な方法論というのはある意味で多かれ少なかれ同じです。またソニーさんがどうやっておられるか。簡単にいって、今後における市場の変化がどうで、それに対して競合がどんな状況にあって、そして現時点での自分たちの強み、弱みを理解しながら、今後における企業戦略上の成功要因を把握して、その成功要因に対して事業戦略を立て実行計画を立てといくわけでありますけれども、事業戦略をサポートする要素の中に、企業がいる場所がどうだという発想は今まではなかったですし、少なかったんです。なかったというと語弊がありますので、少なかったと思います。ところが、今後戦略と共にその戦略を実現する「空間」に対しても非常に期待しており、そういうことを一緒にやってくださる、もしくは考えてくださる人たちとやりたいということが今後予想されるなというのが別の言い方です。
 違った業界から来た人間が話をするから、分かりづらいのかもしれません。
藤山(司会)
 ちょっと私の方から質問させていただきます。都市計画であるとか、そういった方の方が多いと思います。企業活動ということと都市空間がなかなか結びつかなくて、今のようなご質問等が出ると思います。具体的なイメージで先生が、過去の事例でもいいと思うんですけれども、こういうものが非常に望ましい都市空間だという事例になるようなもの、あるいは過去のものでもこれから注目していくプロジェクトであるとか、海外の事例等でもよろしいんですが、何か具体的なイメージをお話しいただけると少しわかりやすくなるかなと思うんですが。
佐々木
 現在やっている内容については、コンフィデンシャリティーの問題があって、話がしにくいんです。過去にあったものとか、ほかにあったものについて話をするというのは、今回は今後の都市空間がどうかということですので、まず、具体的な例はないと理解していただいた方がよろしいかと思います。私がさまざまな企業の戦略立案をお手伝いさせて頂いている中で、今後における企業のニーズにおいて、どんなものが欲しいと思われているのか。例えば、ショールームがあります。またショールームにとってどんなものが一番いいかといいますと、いろんな人に見ていただけて、そこで買っていただくというのがいいと思います。そしてできればそこで消費者の情報が収集される、言い換えるとそこに来るお客さんが、煩わしくなく、自分の情報を与えてもいい、そんなような仕組みのある場所とか、ショールームが欲しいと思っておられる企業がいっぱいありますというのが、1つの例だということです。
 しかしショールームはショールームだけでもなく、マーケティングのためだけでもない、実は深いところの意味は、研究開発をするにおいて、通常市場動向を調べるわけですが、お金がかかっていたり、調査が遅れたり、分析が浅かったりするわけです。そういう情報が、必要以上にお金を掛けずに自然発生的に集め足るような場所があればいいなということが各企業のニーズとして起きつつあります。
 こうした開発部門と直結したショールーム、情報発信の場がなぜできるようになったかというと、情報インフラが整えられてきたりしたことも1つの要因でありもちろんいうまでもなく、そういうITインフラの整備が行き届いていることも今後の企業戦略の中で重要なことだと思っております。
 皆さんは、いつもですと、建物があって、この中にこんな感じでこんな企業が入居すると言ったときに、その時点はほとんどハードをお見せしているわけです。私の話は、ハードがないというわけじゃないんですが、同じハードを使ってもどう生かしますかというソフトや方法論の話だと思うんです。ですから、具体例をお見せくださいといわれたときに非常につらいのは、そういうところにあるかもしれません。
藤山
 それに、地域性ということもあまり関係ないということになりますでしょうか。特に、都心の現在も含めて、いろんなものが集中しているところ以外の地方であるとか、周辺の住宅都市であるとか、そういったところでの何か企業の誘致等にプラスになるような考え方というのがありますでしょうか。
佐々木
 もちろん、必ずしも都心だけじゃなく、先ほどお話したように、その地区の特性をどう見せるかだと思うんです。先ほどはたまたま都心の例をいったわけで、地域における特性の例については幾つか、先ほど出ておりましたけれども、今沖縄にコールセンターができています。これはある意味で特別区であって、かつ人件費が安いでしょうとか、通信費が安いでしょうとか、いろんな条件が重なってきて、それがある意味でのそこの地区の特性だったかと思うんです。その特性と、コールセンターをやろうとしている企業の戦略とのマッチングがあったから、現在のように沖縄にコールセンターができたわけだと思うんです。
 まさしくこの話は先ほどからお話していることと同じ「企業戦略と開発地区特性の掛け算」で考えられた結果、意図的につくられたと思うんです。ただし今はコールセンターの例をお話しましたが、すべての企業がコールセンターばかりやっているわけじゃなくて、いろんなことをやっているので、それぞれ個別の会社で見て、自動車メーカーだったらどうでしょうか、電機メーカーだったらどうでしょうかという観点で、開発地区とのマッチングを見ていく必要があるのかなと思います。中でも、企業における今までの戦略というか、仕事の進め方が少しずつ変わっていますというのが、きょうの話になると思います
安(鞄建設計)
 お話をありがとうございました。
 オフィスの立地の中心地が丸の内、大手町であった時代。先ほど一番最初の方でお話しいただいた中から赤坂、六本木の方に、グローバリゼーションの影響でしょうか外資が入ってきて、外国の企業にとってのインフラが発達するとか、外国公館が多いということもあって、企業立地が進んでいるんだということは、場所のことですが、今お聞きしたお話と深い関係があると思うのです。
 今後いろんなことが起きようとしている1つの傾向として、今東京のオフィス立地の中心が南下している、南の方の品川でありますとか、そういうところにも大規模な都市開発が起きる傾向があって、北に行く力よりも南に行く力の方が大きいと思うんです。これはひょっとしたら、城南地域、日本の高度なハイテクの産業を支える要素技術が、中小企業を中心として非常に多く集積しているということと、何か関係があるんでしょうか。
 あるいは今後ああいうエリアで都市開発をしようと考えたときに、きょう佐々木さんがおっしゃったような話の流れの中で、周辺にあるそういう産業環境を生かしたような企業戦略を考える企業集積ということが考えられるかどうか。もしその辺のお考えがあったら、少しお聞かせいただきたいと思います。
佐々木
 これもまた、怒られるかもしれませんが、現在の東京におけるビジネス機能が山手線の南側に集積しているのは、たまたま大きな土地があちらの方にいっぱいあったとお聞きしていたので、その結果南下していったのが1つの理由だと思います。あと、例えば、大田区に多く集積する製造業が、今のお話に関係するかどうかですが、どういう業種とどういう業種、もしくはどの企業とどの企業が具体的に、ある意味でつながっているメカニズムがないと、そこの場所に置いたから自然に根が生えてくるということはなかなか起きづらいような気がしてなりません。
 例えば、今回品川の方にできた都市開発案件を見て、具体的に企業同士がどれくらいつながっているのか。また、同じ企業内でも、特に大きな企業ではセクショナリズムなどがあるといわれている中で、企業間は本当にどうつながっていくのか、またつなげていこうと考える企業が伸びていくんだろうなと思っておりまして、今の質問に対してはっきりとした答えでは全くないんですが、そこの地区に南下していく理由は、私の知っている、特にIT企業の集積の影響ではないような気がします。ましてや私が知っている会社で山手線南部にある大きな企業は、むしろもう一回山手線の南側じゃないところに行きたいといっている方々がいたりします。答えになってなくて申しわけありません。
森(姫路市)
 自分なりに非常に勉強になりました。
 ちょうど今画面上に出ている絵ですが、このビル、1階にショールームがあって、その上の階に研究棟があってと、1つのビルの中にあるから、自由にショールームが使える、自由に研究施設が使えるからいいのか。それとも、例えばこういった飯田橋みたいなビルの集積した場所に、ショールームだけはない、研究施設だけある、その周りに調査会社や、それを使うような製造業もあるといった、町の単位でもこれは機能するのか。それとも1つのビルでなければならないのか。そういう効率の問題があるのかということをお伺いしたいんです。
佐々木
 いうまでもなく、町の単位であってもいいですし、簡単に考えられるように、すごく近くにあればあるほど、効率的になります。企業のエンジンルームが活性化されるところに他の部署やパートナー企業がいれば、それはすごくいいわけですけれども、そのある地域が部署間、企業間の連携との関連性が全くなくて、単に物理的に集積化されているだけであると同じビルに同居していたり近隣ビルにいないとあまり関係ないかなというふうにも思っています。その都市空間の中で自然にいろんな情報が入ってくれば、集積した効果が出てくるようなこともあるんじゃないかというふうには思います。
外(株式会社シティ開発研究所)
 まだ納得できないので、申しわけありません。企業の部分になってきますと、企業の戦略というのはその企業にとってシークレットな分野が非常に多いじゃないですか。そうすると、そういう集積として、そこで情報交換とか、そういうことは行われる可能性はあるんですか。
佐々木
 まず、シークレットというものはもちろんいうまでもなくあると思います。例えば、自動車メーカーがどんな車を開発するかについては、ある段階では必ず発表されますが、開発前においてでも、多くの車メーカーは、今後どこの市場が伸びるとか、ほかの会社はこんなふうに戦ってくるだろうということを想像しながらやっています。また実際に自動車メーカーが車をつくるに当たって、そのコンセプトなり何なりを世の中に広く伝えていかなくちゃいけないんです。でき上がってからそれを伝えていては全くおくれます。そうならないために、現在広告代理店の方々や、企画、制作に携わった方々がいろんな形で関係しています。もちろんそのときの広告代理店とは秘密保持契約書などを結びながら、一緒にタイアップや、マーケティング提携をしたりとか、いろんな形でやっていると思います。
 またこうした企業間の連携は、今話した商品開発だけではなく、他のいろんな事業計画においても増えてきております。すごく強いつながり、よくソニーさんがいわれているソフトアライアンス的なつながりもあれば、もっと軽い、単なるつながりもあると思うんです。またそれぞれの企業にはそれなりの優先順位があると思うんです。ですから、秘密、シークレットという話があったとしても、いろんなステージで、いろんな場合で、使い方、使われ方が違ってくるんだと思います。半導体の研究にしても、例えば半導体というのは1回につき設備投資が数百億から数千億なわけです。それぞれの計画がどんな状況なのかということは非常に秘密です。でも、基礎開発において共有できる部分に関しては、お互いに刺激し合うようなコミュニケーションをやり合うんです。このように研究者が刺激し合って研究のインスピレーションを得ることを話す際、これをシークレットというのかどうか、また内容もどこまでをしゃべるか、どこまでをしゃべらないのかというのは、それによって前に早く進む場合もありますし、全然進まない場合もありますということがありますので、一概にはいえないかなと思います。
藤山
 よろしいでしょうか。
 それでは、この辺で、ちょっとお時間早いですけれども、本日の講演を終わりにしたいと思います。本日はイーソリューションズ株式会社、佐々木経世先生にご講演いただきました。先生、ありがとうございました。(拍手)
 これをもちまして、第184回の都市経営フォーラムを終わらせていただきます。


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