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第186回都市経営フォーラム

ネットワークが育む新しいコミュニティづくり

講師:堤 香苗 氏

株式会社キャリア・マム代表取締役

日付:2003年6月19日(木)
場所:後楽国際ビルディング大ホール

 

1.地域コミュニティの形成とは

2.リアル・ヴァーチャル両面

フリーディスカッション




ネットワークが育む、新しいコミュニティづくり

 皆様、こんにちは。ただいまご紹介をいただきました株式会社キャリア・マム代表取締役をやっております堤香苗と申します。

 本日は、私なんかがこういう高いところからお話をするような席なんだろうか、本当に私でいいんですかと念を押させていただいたんですが、難しい学者先生のお話ばかりでなくて、現場を見ている、ネットワークという、目に見えないけれども、まちづくりや建物、住まい、いろんな意味で、物をつくっていく部分で非常に重要なキーワードである、このネットワークというものが21世紀にどんな力を持っていくのか。先ほど3万人とご紹介がございました。レジュメを送った時点では3万だったんですが、現在既に3万人を超える形で日々に登録者数がふえている。この不思議な集団の魅力は一体何にあるんだろうということを、パワーポイント等も使いながらお話をさせていただければと思います。

 後ろの方に再度改めまして、私の方の自己紹介がてらのページがございます。本日は、お手元の方にたくさんのレジュメをご用意をさせていただきました。

 そもそも、見たところ、30代ぐらいの女の社長さんが来ているのかなとお思いになるところもあると思いますので、会社の簡単な概略の紹介等を含めまして、本日に至るまでの経緯のところもお話をさせていただければと思います。

 受付の際に会社案内をお渡しをさせていただきましたので、そちらの方も並行しながらごらんください。

 まず、この株式会社キャリア・マムでございますが、平成の12年度に設立という形になっております。その前に3年半、有限会社の時代がございますので、私自身が会社を経営をするという立場になりましてからは、ほぼ7年が経過しようとしております。その前にいわゆる育児サークルという地域のお母様方を集めた形でのサークル活動が約2年間ほどございました。このサークル活動を母体といたしまして、法人化をしていったのが、現在の株式会社キャリア・マムでございます。

 ご紹介の際にもご説明をいただきましたように、今私どもの会社の主力業務となっておりますのは、商品開発でございます。主婦の方のやる商品開発というと、何となく生活消費財的な、例えば洗剤とか、食卓の上に載る食器だったりという小さなものをお考えかもしれませんけれども、私どもの会社はもう少し大きなもの、例えば主婦の方がお使いになりやすい、乗ってみたいと思う自動車、生活者の方が実際にお住まいになってみたいと思う、東京は多摩ニュータウンの多摩市というところに本社があることもございまして、私どもが手がけます住まいというのは、戸建てもございますが、どちらかというとマンション、ディベロッパーさんとご一緒にマンションを企画させていただくことがございます。このマンションも1棟だけという形ではなくて、例えば、公団ですと、東雲のような大規模なプロジェクトをやっております。こういった大規模住宅の中の、いわゆる公共サービスも含めまして、どういった形のものを消費者、もしくはユーザー側に提示をすることで、その商品の魅力がアップするのだろうかということを、メーカーの設計の方とか開発の方とご一緒につくっていくという立場にございます。

 先ほど申しましたように、多摩ニュータウンの多摩市というところは、私どもの本社のある場所でございます。本日は公団のご関係の方もご出席でいらっしゃるようでございますけれども、多摩ニュータウンといえば、最近もいろいろな話題も出ているところでございます。そういった関係で、多摩ニュータウンのまちづくり、コミュニティづくりの中で、私どもの会社が、かなり最初のころからかかわらせていただいております。私の会社の一番最初のクライアントが実は公団でございました。

 公団の中で、多摩ニュータウンの30周年に向けて新しいコミュニティづくりをしたいんだけれども、事務局業務をやってもらえるところはありませんかというのが法人化をするきっかけになった仕事でございます。

 そういったご縁がございまして、その後も、公団主催のいろいろな座談会に招かれまして、意見を述べさせていただく機会をいただきましたり、つい最近は、総裁の直轄というポジショニングになるんですけれども、都心ではない郊外を新郊外というふうに位置づけまして、新郊外をどんなふうに豊かな居住エリアとして頑張って開発していったらいいのかという、新郊外居住部会という部会がございまして、ジャーナリストの残間江里子さんとか、嶌信彦さんとご一緒に、いろいろな意味でコミュニティというものを軸にした、新しい形の郊外型の住まいづくりの研究会の委員の1人として参加をさせていただきました。

 本日は、そういった研究会での資料、またおつき合いがございます各種民間のディベロッパーさんとの中でいろいろと教えていただいたり、私どもの中でいろいろと調べてきたもの等も資料の中に入ってございますので、場合によっては、もう皆様方既にご存じのこともあるかもしれませんが、おさらいということではございませんけれども、コミュニティという1つの新しい軸を本日はそれぞれの中に持っていただきまして、こういった資料をごらんいただければよろしいのではないかなと思います。

 それでは、パワーポイントを見ながら、お話を始めていきたいと思いますので、着席をしてお話を進めさせていただきます。



1.コミュニティの形成とは 

(パワーポイント1)
(パワーポイント2)
 今出ておりますこちらの方は、きょうは21世紀型の新しいコミュニティづくりというキーワードの中でやっていきたいと思っております。ニュージーランドにございますリタイアメント・ビレッジの例でございます。このリタイアメント・ビレッジ、リタイアメント・コミュニティというのは、今さらご説明をするほどでもありませんけれども、同じ目的を持った仲間とともに、第3の人生を積極的に生きていきたいという方々のコミュニティでございます。
 このリタイアメント・ビレッジ、リタイアメント・コミュニティと、日本のいわゆる老人ホームとの大きな違いといえるのは、日本の老人ホームは、ほとんどパッシブ、何かをやってもらう、だれかに世話をしてもらう、介護してもらうということを中心にお入りになっている方々がほとんどです。今回はこのニュージーランドの例で引いてございます。日本の中でも幾つか、淡路島とか、でき出していますが、このリタイアメント・ビレッジに関しましては、会社からは引退はしたけれども、自主的に新しいコミュニティの中で自分たちが生かされるように、自立型の生活をしていくエリアをつくっていこうということです。欧米やオーストラリア等で発達をしてきているということです。
 この中には医療センターとか図書館、銀行、スポーツ、娯楽施設という形でのさまざまな施設が備えられております。
 こちらのスライドの中でも、入居者同士がこういった形でコンピューターを教え合ったり、ちょっと前の日本の中でもぽっくり死のうみたいな、おもしろい風潮といいますか、はやった時期がございますけれども、健康で、いわゆる植物状態や介護状態にならないで、自分の人生を最後まで謳歌して、だれにも迷惑をかけないで、自分の人生に幕を引きたい、積極的に自分自身で自立をしていきたい、人間らしく最後まで生きていきたいという方々が、こういったコミュニティを形成しているという事例でございます。
 どうしても日本の場合、生まれ育った土地で、自分が若いころ、苦労したころの、友人とともに最後まで生まれた家で畳の上で自分の一生を終えたいという方もいらっしゃったりすると思います。特に都心部等、例えば江戸川だとか、巣鴨の周辺とかああいうところでは、そういう希望を持った方々が多いのかもしれませんけれども、新しい意味で、これからの高齢化社会の中で、もっと主体的に自分たちの生を生きていくために、自分たちと同じような価値観とか、生活レベル、生活習慣を持った人たちとご一緒にコミュニティをつくっていこうではないかというプラス志向のアクティブな動きが出てきていると思います。
 この写真の中でもそうなんですけれども、男性と女性の平均寿命を比べますと、どうしても女性の方が長うございます。結婚という部分でいえば、男性の方が女性よりも少し年かさでご結婚される例が多く見受けられますので、どうしても最後まで残るのが元気なおばあちゃんということになってきます。彼女たちの中で、日本でもグループホームの必要性というのが行政等でも叫ばれております。だれかに何かをやってもらうということではなくて、自分が、地域やコミュニティにとって必要とされる人間になっていこう、そうなることこそが、本当に健康で長生きができていく、それを支えるコミュニティとしてのリタイアメント・ビレッジというものが今後日本でも非常にふえてくるのではないかなと思います。
(パワーポイント3)
 リタイアメント・ビレッジというのとはちょっと視点的には違うんですけれども、例えば、アジア・フィリピンの場合ですと、特別居住退職者ビザ(SRRV)というものがございます。こちらの方は、フィリピンの政府が入国管理局にて、一定の資格条件を満たす外国人の方とか、以前フィリピンに住んでいらっしゃった方向けに発行しているビザです。こちらは入国ビザを受ける特権とフィリピンでの永住権が与えられているというものでございます。レジデンシャルであるということと、トラベラーであるということは気持ちの上でかなり違ってくるのではないかと思います。
 ある種、日本の自治体の中でも、高齢者がどんどん流れてくる自治体と、そうではなくて、比較的若くて生活力のある20代、30代という方が流れていく自治体がありまして、先ほどお話しいたしましたように、多摩ニュータウンの多摩市の方でも、大分高齢者の方でもお住まいになれるぐらいの家賃でバリアフリーになっている賃貸住宅がふえておりますので、だんだんと高齢者の方の移転の方が、若年層の転出と相反してあるという現状があるわけです。そういった部分の問題点もあるにはあるんですが、フィリピンという国の中で国策という形で、フィリピンの国の人以外の外国人の方も、要はキャリア等をお持ちになられた、リタイアメントされた世界各国の方々も積極的に受け入れていこうという国策が、ひとつ評価のできる点ではないかなと思います。
(パワーポイント4)
 先ほど来、いろいろコミュニティがあるというお話をしてまいりました。1つは、プロフェッショナル・コミュニティという考え方もございます。このプロフェッショナル・コミュニティでございますけれども、ある特定のスキルに特化した方々がこのコミュニティを形成しているものでございます。何となくわかるようなわからないようなことかもしれません。つまり、このコミュニティの1つの特徴ですが、年齢でコミュニティがつくられているわけではないんです。自分たちが興味のある、例えばこういう場なんかもその1つのコミュニティだと思います。自分たちが知りたいと思う情報や知識を持った方々で1つのコミュニティがつくられている。
 プロフェッショナル・コミュニティ、たまたまセンターのサークルの中には「法曹・医療・福祉など」と書かれておりますけれども、もうちょっと簡単なレベルのお話でいきますと、例えば、趣味のサークル、ママさんバレーとか、歌のサークル、お芝居をやる、市民楽団、いろんな形の大小さまざまなコミュニティが、その方が意識する、意識せざるにかかわらず、いろんな地域に生まれております。
 そして、お仕事をしていらっしゃる方々に関しましては、異業種交流のコミュニティというものも積極的に持たれているようでございます。そして、そのそれぞれが、特に最近、21世紀型といってもいいと思うんですけれども、傾向としては、必ず顔をつき合わせなければいけないというものではなくて、積極的にインターネットなどを利用しまして、BBSと呼ばれている掲示板とか、メーリングリストもしくはグループメールといわれているようなインターネットのメールなどを介して、それぞれの場所が離れている方々の中でも、情報や知識を共有化できるようになってきた。つまり、少し前のコミュニティ形成から比べますと、インターネットというものが入ったことによってこの手のプロフェッショナル・コミュニティ、ある種の特定のスキル等を持っていらっしゃる、しかも、したいと思っていらっしゃる方々のコミュニティの加速を増すということになっているのではないでしょうか。
(パワーポイント5)
 これはたまたまその1つ、情報処理学会の例です。情報処理学会はITや情報技術に関します専門家の皆様の集団です。実際にどんな方が入っていらっしゃるかというと、情報処理学会というと、普通、企業と企業の技術者のみが入っているのではないかと皆様お考えかと思いますけれども、そうではなくて、学界の研究者、大学の先生、そして教えてもらっている学生もこのコミュニティをつくっている。そして、小学校や中学校、高校の先生方もこういったコミュニティをつくっていらっしゃるということがございます。1つのプロフェッショナル・コミュニティというのが多面的にいろいろな角度からいろいろな方々によって形成をされているというのが、1つ情報処理学会の例を見てもおわかりいただけるのではないかと思います。
 本日も、先ほどご出席の皆様方の所属といいますか、拝見させていただいても、皆様が皆様、そういったディベロッパーとかいうことではなくて、もっと広い意味でNPOの方もいらっしゃれば、企業の方もいらっしゃいます。そしてまた、大学等の学術関係の方もいらっしゃれば、さまざまな形でこういったフォーラムに参加していらっしゃる。これが1つのプロフェッショナル・コミュニティが形成されている実際のリアルの例といえるのではないでしょうか。
(パワーポイント6)
 幾つかコミュニティの中で、では、どういうふうにまちづくりに生かされてきたか。このあたりは皆様方のご専門でいらっしゃると思いますので、さっと流していきたいと思います。よくいわれております郊外型に魅力のあるまちづくりをというときに参考にされますのが、イギリス、北ハートフォードにございますレッチワースでございます。レッチワースというのは、タウンでもカントリーでもない、大きな魅力を持ったガーデンシティであるということで、1903年、今から約100年も前に非常に計画的に開発された田園都市である。これが世界じゅうの住宅地の開発のお手本とされたというところです。現在は独自の財団組織をつくりまして、管理運営、また新たなまちづくり等に積極的に活動していらっしゃるということです。
(パワーポイント7)
レッチワース自体の地図を見ていただきました。
(パワーポイント8)
 もう1つ、ヨーロッパの中で、私は、イギリスは視察に行ってないんですが、イタリアの方は視察をしたことがございまして、イタリアのコミュニティをつくる上でのまちづくりの1つの特徴は、やはり広場であるといわれております。たまたま3枚、ミラノ、ドーム前広場のアーケード商店街とか、ベローナ市庁舎前の中央広場。イタリアにお住まいの方に、「イタリアって、どこが一番すてきな町でしょう」といったときに、皆様が上位に挙げてこられるのが真ん中のシエナという町でございます。フローレンスから、車でも電車でも約1時間ぐらいの距離感のところです。そのカンポ広場というところに、先ほど申し上げましたレジデンシャルもトラベラーも、とてもいい空間をつくって集っているところでございます。イタリアの町がそれぞれにその町々の顔を持っているのは、こういった広場に集っている人の顔がそれぞれに違うということがいえるのではないかと思います。
 これが逆に、日本の場合は駅前を中心として町の開発が進められているということです。残念ながら、大体どの規模の都市も駅前の顔が似てしまっているということが、今いわれている1つの問題点になっているのではないかと思います。
 ですから、その町々の特徴を生かしたつくりをしていかないと、丸ビルとかございます東京の丸の内、京都とか、すごく特徴のある町を除いては、どの中規模都市も同じように見えてしまう。もっと残念なことには、いわゆるアーケードの空洞化といわれていますように、駅前商店街のアーケードが、かなり規模の小さな田舎の都市になりますと、ほぼ7時ぐらいでしまってしまう。少し中堅の都市でも8時から9時になりますと、駅前がかなり閑散としてしまう。これがまちづくりとして果たして成功したのだろうかと考えると、どういう方々が町のセンターに集っているのかということは、非常に重要なことではないでしょうか。
 特に、東京でいえば、一時期かなり問題になりましたが、渋谷のいわゆるセンター街の前、スクランブル交差点のあたりというのは、活気はあるんだけれども、ある種のわい雑さ、これは新宿の歌舞伎町なんかも似たような問題を抱えていると思います。そのあたりのバランスというのが非常に難しいのではないかと思います。
(パワーポイント9)
 先ほどレッチワースを見ていただきましたけれども、レッチワースを日本に引いてきた例が、こちらに写真がございます田園調布でございます。これは渋沢栄一がつくってきたということです。鳥瞰図で見ると、非常によくわかりますが、パリのエトワール式の道路を模した非常に美しい町並みになっています。
 たまたま3都市ございましたので、下の方に資料の方からそのまま引っ張ってきました。田園調布、国立、大泉と、町の形成状況が微妙に違っております。それぞれ大正期に開発をされた町でございますので、今もその美しさ、景観を守っていこうという形で、国立は、去年だったと思いますが、つくったマンションの上を取り壊せというような判決が出てしまったぐらい、町の皆様方が景観というものに対して感度が高く住まわれている町の1つになっているのではないでしょうか。
(パワーポイント10)
 もう1つ、今コミュニティづくりの上で考えていかなければいけないのが、バリアフリー型の社会ということでございます。バリアフリー、いわゆる障壁のないまちづくりということでございますけれども、主には高齢者や障害者という、移動が制約されている、移動が困難な方々に向けて、スムーズに移動ができるように、どうやって地域、町を挙げてまちづくりを進めていくかということです。たまたまこれは11個事例を出させていただいております。こういった町のバリアフリー化ということで、低床のバスを走らせてみたり、リフト式のバスという形のモータリゼーションの方ばかり比較的注目されていますが、考えなければいけないことは、駅に行けばエレベーターはあります。バスに乗ろうと思えば、バスの床は低くなりました。ただ、駅に行くまでのエントランスに、階段がたった2段、3段あるだけで、障害者の方は車いすをだれかに抱えていただかなければいけない。これは同じように、ベビーカーを押しているお母さんであっても、ベビーカーを抱えなきゃいけない。特に小さな子供さんを連れていらっしゃったりということですと、子供の手は引きたいわ、ベビーカーは抱えなきゃいけないわという現実があるわけです。
 私自身も、今9歳の男の子の母親ですが、子供を産むまでは、生活の場でのバリアフリーができていないということに対して、一切不自由さを感じてはいませんでした。普通に駅に行こうと思って、電車が来たよとベルが鳴っていれば、階段を当たり前のように1段抜かしでダダダダッと走っていって、飛び乗ることができました。初めて生活者としてベビーカーを押しながら町の中を歩いてみて、車いすの方がよくおっしゃっていた、例えば放置自転車が駅前にちょっとある、歩道の空間が、モジュールを切って、50センチぐらいになっただけで全然動けないんだということが、自分の身にしみてわかるようになりました。
 ですから、私どもの活動の1つとして、いろいろな意味での、子育て世代とか、主婦の方に優しいといいますか、主婦の方に好まれるようなまちづくりとか、住まいづくりをしているのではなくて、一番弱い、一番配慮しなければいけない立場の方を考えたまちづくりをすることが、結果的には、すべての人々にとって心地のよいまちづくりにつながるんだということを身をもって体験することができたことは、感謝すべきことだなと思っております。
 人間、だれかに助けてもらわなければいけないという境遇に来るまでは、こういった部分のバリアフリー化ということは、よくわからないままに物づくりを進めてこられているのだと思います。一番最初にご紹介させていただきましたリタイアメント・ビレッジを初めといたしまして、これだけ高齢化が進んでくる社会の中で、決して障害者の方だけのまちづくりを考えるということではないと思います。
 ある程度加齢が進みますと、どうしても足腰が立たなくなったり、ある種の麻痺等が残ったりというときに、自分の力で外に出れないということは、人生の楽しみの半分以上を奪われてしまうことになるのではないかと思います。
 ですから、モータリゼーションだけのバリアフリーを考えるのではなくて、町全体のバリアフリーを本当の意味で考えていくべき時代が来たのではないでしょうか。
(パワーポイント11)
 そして、郊外の変革ということですが、郊外の今一番の問題、先ほど駅前を金太郎飴のように同じような開発が進んでいってしまって、どの地方の中規模都市もおもしろみがなくなってしまったということがいえます。じゃ、町の中を見てみますと、どうなっているかというと、右側に出ております、いわゆる緑地と河川がなくなってしまう。空調の排熱によって、都市が、ほかのところよりも少し気温が上がってくる、熱帯化してしまう。都市生活が24時間型に変わったことによって、自分の住まいの周りによくわからない人が住んでいたり、24時間しょっちゅう出入りする人が変わったりということだとか、例えばごみが24時間出されるようになってしまったりというような生活環境が悪化したりなどなどということで、公害が発生して高齢化して業務が衰退して、コミュニティ全体が何となく活力がなくなって、おもしろみだとか魅力の薄いものに変わっていってしまっているということが挙げられるのだと思います。
 これを解消するために幾つかの方策はあると思うんですが、私どもが、経済産業省、国交省等と、いわゆるIT革命等を利用いたしまして、情報技術、通信技術等の革新を基盤といたしました職住一体、または職住近接型の暮らしというものを地域単位で考えていくべきではないかということを、今、省庁の方とお話をさせていただいております。
 きょうご出席の方々は、特にそういった外出等に不安を抱えていらっしゃる方は多分少ないと思いますけれども、こちらに書いてあるような、今お住まいの地域にお昼いらっしゃる方々、老人と女子供というところが、それぞれのお住まいのところにいらっしゃると思います。彼ら、彼女たちが生かされる場所、職場といってもいいでしょう。また、地域の中で彼ら、彼女たちが求められている場所というものができない限り、魅力のないコミュニティというものが、ベッドタウンにでき上がってしまう。
 ですから、私が一番最初に、多摩ニュータウン30周年に新しいコミュニティをつくりたいんだと公団側から切望されたときも、その1つの大きな原因となりましたのは、いわゆる働き手が都心に出ていってしまった後のニュータウンをどう活気づけるか。それを一緒に考えてほしいというのを命題としてちょうだいいたしました。
 結果として、今現在も続いておりますけれども、IT等を利用いたしましての仕事という形で、たくさんの在宅の方にかかわっていただけるような形の会社を、企業をつくったというのが私どもの1つの答えだと思います。
(パワーポイント12)
 たまたま、個人の方がつくっているホームページにニュータウンの比較のものがございましたので、きょうの講演の中で幾つか、お写真等を使わせていただいております。こちらは皆様方のご専門でございますので、ざっとなべてご説明をさせていただければと思います。
 まず、旧来コミュニティというものはそもそもその土地に昔から根差して育っていたものがコミュニティなんですけれども、日本は、人口がふえていったときに、非常に急場づくりで、突貫工事で幾つかのコミュニティというのがニュータウンという形でつくられました。そのニュータウン、東西という形で幾つかごらんいただきたいと思います。
 まず、東西ニュータウンの代表格、大阪、関西は千里、東京は、私の本社がございます多摩ニュータウンといわれております。千里に関しましては、昭和37年に入居が開始されまして、いわゆる日本のニュータウンの草分け的な存在でございます。丘陵地帯を切り開きまして、傾斜地等や人工的な緑地を生かしたまちづくりでございます。
 そして、多摩ニュータウンも同じように、多摩丘陵を切り開きましてできましたニュータウンです。それぞれ9割以上ニュータウンという意味では完成しているというところでございます。
(パワーポイント13)
 近郊の丘陵地帯の開発型といたしまして、泉北と港北の2つのニュータウンを挙げさせていただきました。それぞれ計画人口的には20万前後ということでございます。最初に見ていただきました千里ニュータウンと泉北の大きな違いは、千里というのはダイレクトに阪急電車で大阪、梅田等にアクセスができる場所なんですけれども、泉北というのは南海電車というのを利用して、南海で難波とか、大阪の南の地区の方に出ていく。エリアを全部、なべて調べたわけではないんですけれども、泉北ニュータウンの方が若い方々のお住まいが少し多いようでございます。
 一番右側の方が、泉ヶ丘というところです。平成7年に和泉中央駅まで泉北高速鉄道は延伸しました。こちらの地区の中で大型の児童館等ができております。こちらの児童館は、主に小中学生ぐらいまでを対象としている児童館でございますので、近隣の方々が、このビッグバンを中心に集ってくるという形で、大阪の中心地から、お金の要らない特急、急行のようなもので20〜30分ぐらいの距離感と思っていただければよろしいと思います。
 対しまして、こちらの港北ニュータウンでございますけれども、港北ニュータウンの方は昭和56年に入居が開始ということで、かなり新しい形のニュータウンであるということがございます。こちらの方は東名高速に都築という新しいインターチェンジもつくられまして、交通の中でも非常に応援をしてもらっている港北のニュータウンということでございます。
 それぞれに開発が8割以上終わっていますが、それでも一歩道路の奥に行きますと、まだ未開発の地区が多少残っていたりということはございますが、売れ残ってすごく困っているという現状は、この後出てきます農村型というのがありますが、そちらよ  りはまだ救われているのかなということはございます。
(パワーポイント14)
 こちらは近郊農村地帯開発型ニュータウンということでくくらせていただきました。北摂と千葉の2パターンのニュータウンを出させていただきました。こちらは三田市ゆりのき台というところと、千葉は印西市の方です。今平成14年度現在で計画人口の4割程度というのが千葉ニュータウンの現状です。千葉ニュータウンは5キロ行くともう茨城ということで、かなり遠いという印象が生活者の方に出ている地域なのだろうと思われます。まちづくりの目玉のようなものをつくっていかないことには、公団の方ともきょうたまたま午前中そんな話をしていましたが、なかなか厳しいよねということを、開発をされた方々もいっていらっしゃいました。
(パワーポイント15)
 そして、もう1つ、臨港開発型というニュータウンの形式がございます。いわゆる昭和30年〜40年代というのは、先ほどの丘陵地帯に造成される形でしたが、昭和40年代以降は、臨海部の埋立地や人工島などに造成される形でのニュータウン開発が進んでまいりました。
 関西は南港と芦屋浜、そして関東は浦安マリナイースト21というふうに3枚の写真を載せさせていただいております。こちらの臨海部開発型の方は、海の近くということでおしゃれ感等もございますので、町の中に入ると、何か異質な感じがするんですけれども、比較的入居者の方も順当に入ってきているのかなというニュータウンでございます。



2.リアル・ヴァーチャル両面 

(パワーポイント16)
 私が多摩ニュータウンに住んでいるということがございますので、今回、一応ITを介した形でのプロフェッショナル・コミュニティというのとはちょっと違うのかもしれないんですけれども、その地域の方々でコミュニティがつくられた例、私の会社と、もう1つNPOのフュージョン長池の例とをお話ししていきたいと思います。
 フュージョン長池さんというのは、この次のスライドで全容図をごらんいただくんですけれども、そこにお住まいの方々のボランティア的な、つまり私はこれがやりたいですよという方々が集まりまして、いろいろなグループ活動をされていらっしゃいます。
 たまたま夢見隊というところが、理想の住環境をつくろうということで、コーポラティブハウス的なものをつくりましょうねという活動をしていらっしゃるんです。現地を実際に見学に行かれたり、ワークショップを通じて、理想の住環境というものをイメージされて描いていらっしゃるという写真を何枚か提示をさせていただきました。
 実際に、八王子は長池という地区になります。駅でいいますと、堀之内といって、今は急行がとまらなくなってしまいまして、東京から行きますと、新宿から約45分ぐらい、多摩センターと南大沢の間に挟まれた駅になります。そちらの中にお住まいの方々です。もともとどうしてこういった活動が生まれたのかといいますと、いわゆるバブルの前後ぐらいでお住まいを購入されてしまって、その後自分が住んでいるところが安くなって売ることができなくなってしまった。
 日本人の住まいの考え方は、今もまだその傾向があるかもしれませんが、まず最初に借家、賃貸ですね。その次に小さ目の分譲のマンション、できれば高級の少し大き目のマンションで、最後に1戸建ての家、そういう出世魚のように住まいを変えていこう。ですから、住まいを決めたり、購入をしたりする際の1つのポイントとしては、何年後にこの住宅は幾らぐらいで売れるだろうかということを考えてお買いになっていた時期があったようです。
 こちらの長池も、ここをついのすみかとしたというよりは、次に戸建てに住むつもりだったんだけれどもというような方々も実際にはいらっしゃいます。ただ、今経済が、ある種、破綻といいますか、思った値段で自分の住んでいるところが売れなくなってしまった。つまり、今自分が住んでいるところをある種ついのすみかとしていくのならば、もっと地域のコミュニティを豊かにしていきましょうよというような呼びかけのもとに始まりました。
(パワーポイント17)
 育児、環境、介護、住宅、コミュニティ、健康、ゴミ、消費、教育といった、幾つかの生活をしていく中での重要なキーワード、これにそれぞれ住見隊だとか、例えばリサイクル事業、里山事業という形で、そういったものに関心のある方、またはプロフェッショナルな方々がボランティア的に集いまして、活動をしている団体でございます。特に、住見隊等は、公団などでも何度か応援していらっしゃいます。住宅管理を支援していきましょうということで、いろいろと住宅の管理組合が持っている積み立ての基金みたいなものをどうやって活用しようかということでも、かなり先進的な事例がありました。住まいを見守りたいという住見隊の方々が申請をして、その部分を考えていかれるという活動をしていらっしゃいます。
(パワーポイント18)
 これが、私たちキャリア・マムをネットワークという観点から見ると、こんなふうになっていますよという図です。今のキャリア・マムの会員ネットワーク、5万人の方々が、在宅でお仕事をしていらっしゃる方々、在宅でプロジェクトをまとめているマネージャーの方々、それの周辺という言い方は変なんですけれども、在宅で実際に仕事をしないまでも、要はモニター的な形で企業の商品づくりに意見をいっていただける方という形で抱えています。5万人です。
 じゃ、この5万人がどういう組織団体と向き合っているのかといいますと、いわゆるSOHOの支援団体だったり、ある種のNPO団体、企業だったり、あとは都市整備公団さんとか、また私自身が実際にSOHO支援という形でのまちづくりの支援ということを三鷹とか静岡県の方でやらせていただいておりますので、そういった行政とご一緒に、町のコミュニティを元気にするための1つの方策としての在宅ワークということをご一緒にやらせていただいているという形でございます。
(パワーポイント19)
 保育園の待機児童。ちょっとネタをばらしてしまいますと、実は午前中に、子育てに必要な賃貸住宅、子育て世代に優しい賃貸住宅というものを、埼玉県の上福岡市というところでつくっていきたいという企画がございます。それで使いました資料を共有させているところがございますので、この資料も一緒に入っているわけです。
 公団の方で積極的に、良質な魅力のある賃貸住宅をつくっていく上で、やはりコンセプトづくりが必要だろうということで、上福岡というところは、都心は池袋から急行を使いまして、私鉄で大体30分のところです。そちらの方に子育て世代に豊かな住宅をつくっていこうという取り組みを今ワークショップ型でやっております。
 子育てをしている20代、30代、40代ぐらいの世代の方が町に入ってこられる、そして、できればその方々が共働きでも、地域や地域の近くで活動ができるようにするということは、その地域のコミュニティを非常に豊かにすることができると思います。
 ところが、やはり女性の方が、子供を育てながら家の外に出たり、または在宅で仕事をしようとするときに、一番のネックになるのが、自分が世話をしなければいけない子供であり、ここには載せておりませんが、お世話をしなければいけない、介護をしている老親であるというケースが多いわけです。今回、子育てというところにレンジを合わせておりますので、あえて全国の中での保育園の待機児童数というものをグラフ化したものを持ってきました。
 ちなみに、赤が3000人以上、行政が把握している数字で待っているエリアでございます。東京と神奈川と大阪の3県になります。白のエリアも少しありますので、こういうところもある。いわゆる地域格差になってきている部分もある。それでも、やはり皆様都心に近いところにお住まいになりたいということは実際ありますでしょうし、もっというと、都心の近くに住んでいなければ仕事がないということもあるのだと思います。重ねて申し上げます。これはあくまでも行政が把握している数字でございます。多分これがゼロの部分になったところでも、潜在的に子供をいい環境で見ていただける方がいるのであれば、自分は、いわゆるワークシェアのような形でも、1週間に何日か働いてみたいとか、外に出てみたいと思っていらっしゃる方はもっと多いと思います。
(パワーポイント20)
 先ほど申し上げました子育ての世代に優しい町とコミュニティをつくっていくということを考えてみたときに、コミュニティというのは、いわゆる生活共同体である。このコミュニティ、生活共同体なんですけれども、ここは典型的にある一定地域におきまして、住民が共同の絆を持ち、共同活動を営んでいる単位、共同生活を営む人々の集合体をコミュニティというふうに名づけますと、ある種同じ価値観の方々は同じコンセプトを持った地域、まちづくり、住まいづくりを目指しているのではないかと思われます。
 ところが、同じ価値観を持ったコミュニティということは、ナットイコール同じ家族構成であり、同じ間取りであるということを認識すべきではないかと思うんです。なぜあえて同じ家族構成や同じ間取りではないですよということを申し上げたかといいますと、今私が住んでおります多摩ニュータウンの、特に初期の公団住宅の中でいわれます問題点の中で、同じ間取りですべての棟が形成されている。いわゆる南面3室というパターンです。南面3室47平米の住まいの団地というものがかなり数多くつくられております。
 現状、47〜48平米ぐらいの家族向けの住宅、分譲でも、賃貸などまだあるかもしれませんけれども、かなり少なくなっております。賃貸の場合はもう少し狭く、41〜42平米ぐらいで子供1人、2人ということで住んでいらっしゃいます。この状態で子供さんが大きくなった後もずっと住み続けたいか、自分が結婚しても自分の親と同じこのエリアで住み続けたいかというと、なかなか厳しいものも、間取りの狭さがあるというのも実際でございます。
 ただ、人間というのは自分が育ってきてなれた土地に住んでいたいという思いはあるわけですから、もしこの多摩ニュータウンのエリアの中に違った間取りの部屋があったとしたら、そこに住みかえることが可能だったはずなんです。それができていないということが、1つ残念な結果だったのかなということを、新郊外居住部会の中でも私自身発表させていただいた部分でございます。
(パワーポイント21)
 先ほどから幾つかコミュニティの話をさせていただいておりますが、人が自分の育ったところを変わりたくないと思うのは、このコミュニティというものに起因するところが大きいんですね。つまり、どんなにすばらしいすてきな間取り、すてきな建物に住んだとしても、そこにお住まいの方々、その地域にお住まいの方々がつまらなければ、それはとても無味乾燥な暮らしになってしまうのではないかということです。 本日は、多分つくり手側の方々が多いと思いますので、皆様方がお気にされてきたのは、どんなデザインの、またどんな間取りの、どんな空間の、箱としての住まい、またまちづくりということをお考えかもしれませんが、どこに住むかではなくて、だれが住んでいて、もっといえば、だれと住むのか、どんな人たちがそのエリアにいるのかということが、実は住まい手側にとってはとても大きな問題であるというのがあると思います。
 それはやはり、先ほどのスライドでも見ていただきましたように、同じ価値観を持った方々が、同じコンセプトの住まいや町や暮らしを選ぶのだとすると、その同じ価値観の方々と1つのコミュニティを形成するということは非常に気持ちのいい空間なんです。ところが、このコミュニティというのは、短時間で自然発生はしないんです。
つまり、どういうことかといいますと、ある一定の時間を積み重ねることによって、その流れの中で、「暗黙値」という言葉を使わせていただきました。明文化されていないこの暗黙値の蓄積によって、そういったコミュニティが形成される。つまり、コミュニティに適したルールというものが次第にでき上がって、そのコミュニティに適した人たち、そのコミュニティを心地よいと思う人たちが残るようになってくるわけです。
 ところが、幾つか見ていただきました新規のいわゆるニュータウンといわれているところの大きな問題点は、新しい方が一斉に、「いっせいのせい」で暮らし始めますから、ここにはコミュニティもへったくれもないわけです。でも、そのコミュニティができるまで3年、5年。じゃ、自分でそれをつくっていくかというと、なかなかコミュニティというのは普通に生活やお仕事をしていらっしゃる方がつくり出していくほど、たやすくて簡単なものではないというのがございます。
 きょうは、資料は持っていないんですけれども、プロフェッショナル・コミュニティ・マネジメントという会社がアメリカにありますが、この方々は行政等からお金をいただいて、もしくはデベさんからお金をいただいて、実際に新しく開発したところにコミュニティをつくるプロ集団の会社でございます。彼らがつくるリタイアメント・ビレッジも含めまして、非常におもしろい施策があるんですけれども、なかなか発表したり、物に残したり、ペーパーに残したりすると、ちょっとはばかられるような表現もございますので、きょうは入れてありません。彼らがプロの目から見たコミュニティづくりというものは、その地域を非常に生き生きと活力のあるものにしております。
(パワーポイント22)
 簡単にいいますと、新規にコミュニティをつくり出すために何がキーワードなのかといいますと、1つは、このコーディネーター役であるキーパーソンがそのエリアにいるかいないかということが成否の大きな分かれ目になるんだということです。
 じゃ、このキーパーソンというのはどういう役割かといいますと、ここはあえて先住民と新規住民と書きましたけれども、これ、全員新規住民でも構わないんです。つまり、個々の、それぞれの地域にお住まいの方々のニーズを聞き出して、コミュニティの橋渡しや、それぞれの方々の接着剤的な役割を務められる方々というのをキーパーソンというふうに、今回命名をさせていただきました。
 つまり、一定パターンの中の最大公約数のニーズを抽出して、こうしませんかと提案をする人々ということです。これが9割方の日本のコミュニティの中では、例えば村おさであるとか、物知りのおじいちゃん、おばあちゃんであったり、町内会、自治会の長であったりという方々がキーパーソンをやってきた。
 ただ、旧来型のそういった町内会のコミュニティというものを嫌う方々、私もそうなんですけれども、要は、若い人が使う「ウザイ」ということですね。「自分がどう暮らそうが、そんなもん勝手でしょう。細かく決めないでよ」という方々がいらっしゃることも事実です。「何で、掃除機は昼間の時間しか、かけちゃいけないの、洗濯機は11時までしか回しちゃいけないの。ごみはごみ出しの日の朝の6時から8時までしか出しちゃいけないわけ」という細かい希望があるわけです。
 「それは、なぜ」と聞いてみると、例えば、自分は3交代勤務をしているから、病院の看護婦さんで朝帰ってくると9時15分になってしまう。ごみ屋さんが出てしまうから、前の日の晩から出したいんだとか、それぞれの方の個々の生活の中での都合というものがあるわけです。「どうして草取りは毎回日曜日になるのか。私はデパートに勤めているから、日曜日のそういった自治会の行事には参加ができないんだ」という方。「申しわけないんだけれども、私は足が悪くて草取りには参加できないんですよ」といわれるご高齢の方。それぞれのニーズを酌み出して、じゃ、みんなが満足できるような最大公約数的なニーズを酌み出して、「皆さん、こうしませんか」と提示をする人が必要だと思います。残念なことに新規の地方都市にはキーパーソンという方が当てはまってないケース、いないケースが日本の中でも多いわけです。
 もう1つ、別の見方をしますと、先ほどは最大公約数という表現をしましたが、今度はコミュニティが広がっていくためには、それぞれの住民の方々の最小公倍数的なニーズ、すべての素数が納得するようなまちづくりということを手がける。ランドスケープ的に手がけるということが非常に大事になってまいります。
(パワーポイント23)
 例えばの例ですが、新規コミュニティの中で、シルバー、子育て、1人親、共働き、ハンディキャップなどなど、たくさんの異なる生活習慣を抱えた方々が、それぞれに満足するためには、それぞれの方々を受け入れてあげられるような非常に柔軟性のあるコミュニティが出てこないと、例えば、「1人親のところの子は嫌なのよ」とか、「年寄りが来ると辛気臭くなるから、お年寄りは出ていってほしいんだね」というようなコミュニティづくりをして、だれかを排除するようなコミュニティづくりというものがされてしまうと、そのエリアには人々が暮らしにくいなと思う方も出てくると思います。
 人に優しいまちづくり、住まいづくりを考えるには、こういったすべての人たちのニーズを満たす形のランドスケープというのが非常に重要になってくるのではないかと思います。
(パワーポイント24)
 1つ、私どものやっておりますキャリア・マムという会社のできようなんですけれども、先ほど申し上げましたすべての人のニーズをくみ上げるという意味で、今新しいキーワードとして、「ソーシャル・アントレプレナー」という言い方が出ております。いわゆる社会のニーズ、地域と置きかえてもいいんですけれども、その地域のニーズが欲していることを事業化していく。つまり、社会の中から自発的に起業した人たちのことをソーシャル・アントレプレナーというんですけれども、もともとはイギリスの経済を再生させた事例として出ていますが、地域の自立した市民である個人の方、そして効率的なシステムによる事業運営をしている企業、そして持続可能な政策を実行する行政、これが三位一体、小泉さんの政策じゃないですけれども、三位一体で、一番センターコアにいるのが、この社会起業家という方です。
 ですから、先ほど申し上げましたコーディネーター、地域の中でのコーディネーターと非常に類する役割をしているという方々をソーシャル・アントレプレナーという形で、近年アメリカでいえばNPO型のグラスルーツリーダーといわれている人たちが、こういったソーシャル・アントレプレナーで活躍をするようになってきています。
 そして、これは社会が欲しているから出てきた人々だという形です。キーパーソンということです。
(パワーポイント25)
イギリスの事例がざっとあります。お手元の資料で後で見ていただければと思います。グラウンドワークの話とかが出ております。

(パワーポイント26)
 日本の現状の中で社会のニーズ。たまたま私たちのキャリア・マムというのが「なぜこんなにはまったんですか、何がキーですか、キー・フォー・サクセス(KFS)なんですか」という話をするときに、日本の中で、先ほどごらんいただきました大都市圏における保育園の待機児童数というものと、女性のM字型の就労曲線という現実を解消するために、私たちのような在宅型のテレワークを推進する企業というものが社会の中で必要とされたということが、1つ挙げられると思います。
 つまり、今までの都心の会社に通うという仕組みの中では社会の生産活動に参加できない女性たち、また1人で何かを決めて動くというには、ビジネスの社会から1年以上遠ざかってしまうと、なかなかそういった勘が戻ってこない。彼女たちを時間的な、能力的な制約があったとしても、チームで活動させていくことによって生き生きとほおを輝かせることができるということで、企業様のアウトソース市場の中で、今まで彼女たちが養った、持ってきた、そしてこれから身につけていきたいというキャリアの実務をコーディネートして、そしてそれをプロデュースする形で、社会にまた返していく。能力を社会に返していくというような会社をつくったところ、現状5万人の登録者、要は、5万人の方々が少なくとも私たちを必要としているというような構図になっていると思います。
(パワーポイント27)
 先ほど申しましたテレワークは、もうちょっと丁寧にご説明をさせていただきますと、いわゆるテレワークというのは、SOHOという言葉がございます。スモール・オフィス・ホーム・オフィスの略です。このSOHOやテレワーク。テレというのは遠隔地ということです。電話を使ったお仕事ですかと勘違いをされるんですけれども、テレワークというのは遠隔地就労ということになります。
 この遠隔地就労の可能性ということで、1つには、少子化を抑制するために、女性も、子供を産んでたって、また社会に戻ることができるんだよ、大丈夫なんだよ、家庭生活も両立することができるんだよということを推進していくということと、働く能力と就業意欲のある女性の就業機会をつくっていく。もちろん、子供を産んで、家庭の主婦でおさまっていたいという方もいらっしゃいますので、専業主婦の希望の方を無理やり社会に引っ張り出す仕組みではないことはご理解ください。
 あくまでも働きたいと願っている方々、けれども、種々の行政の保育園等の設備が足りないから働けないという方に、働く機会やチャンスを与えていこうじゃないかということで、都市圏の労働力を活性化していきたい。つまり、これを可能とするために、女性が自宅の近くで就業可能なテレワークの推進を行っていきましょう。これがひいては郊外エリアの活力を創出して、いわゆる会社に雇用されるということではなくて、自分でみずからのワークスタイルを決めて、労働環境をつくっていく自己雇用創出型のワークスタイルを推進していきましょうという話です。
(パワーポイント28)
 テレワークのメリットですが、ITを利用した形で、場所や時間にとらわれない働き方ということです。社会の中では、いわゆる雇用機会の増大とか、通勤が困難な方の就業機会をふやしていったり、自治体の場合は、自治体の中での雇用を創出したり、また豊かな地域社会を構築していこうとか、企業に関しましては、市場価格の部分、こちらの方の向上だったり、顧客サービスやコストの削減だったりというメリットがございます。
(パワーポイント29)
 実際にキャリア・マムの中でどういうふうな取り組みをしているのかというのを、具体的な事例を挙げてお話をしていきたいと思います。
 キャリア・マム自体は、正社員は外勤と在宅というような形の契約スタッフも含めまして、ほぼ8名から成っております。この8名というのは、営業、総務、教育というコントロールの部分を本体でやるようにしております。それぞれのプロジェクトはすべて、先ほどごらんいただきました図のように、テレワークで進めるようにしております。
 つまり、何か仕事のプロジェクトをやっていくときに、お仕事を一緒にやる仲間はどこか1カ所で顔を合わせてやるということはないんです。ほとんどの場合ございません。仕事のやりとりはすべてメールとか、納品サーバーといいますが、コンピューター上でお仕事のデータをやりとりするための専用のスペースというのをつくっておりまして、そこに対してインターネットを通じて仕事のデータのやりとりを自宅のコンピューターを介してやるというふうにしております。それをスケジュールコントロールするマネージャーもすべて在宅です。彼女たちも出勤をしておりません。
 ですから、マネージャークラスの人間で、今一番北にいるのが北海道の人間です。一番西側は大阪です。長野にもおりますし、横浜、埼玉にもおります。多摩市の近郊にも何名かのマネージャーはおりますが、彼女たちに出社の義務はありません。一番効率的にということで、それぞれの自宅で仕事をしてもらうようにしています。
 きょうは、企業の経営者の方は少ないかもしれませんが、経営者の立場でいえば、社員の机だとかコンピューター等の備品を管理することがない。交通費を捻出する必要がない。つまり、1つのプロジェクトを進めていく上で、かなり大きな経費がダウンするということになります。コストの削減ということがございますので、私どもの会社自体は、1回だけお金をだまされたことがありますが、それ以外は単年では基本的にずっと黒字を続けております。株式会社になってからは、3期終了いたしましたが、すべて黒字ということで、2期目には株主配当を行うまでになっております。
 それもすべて、在宅で稼働しているマネージャーとか、あとはグループリーダーという形の方々が、それぞれにインターネット上のコミュニティを通じて正しい形で納期管理をしているというのが大きいと思います。
 赤文字でいろいろな方々の必要な資質みたいなものを書いてございますけれども、マネージャーであれば、ワーカーのメンタルケアや潜在能力を引き出していく力であり、グループリーダー等であれば、頑張って実際に動いていただいている方々のモチベーションの向上や潜在能力を引き出しているということでございますし、私どもの会社自体が用意したのは、そういう方々でも働けるようなシステムづくり、仕組みづくりとか、最初から成功しているわけではありません。いろいろな失敗がございましたから、今までの失敗という経験知を積み重ねた上でのマニュアルづくりという部分での、より安定した、そしてよりスピーディーな、より低コストな納品までの仕組みづくりということを行っております。
(パワーポイント30)
 実際にチームSOHOという名前で何冊かの本で取り上げられて出ています。在宅ワークのシステムフローというものを7年にわたりましてつくってきておりますので、繰り返しになりますけれども、各プロジェクト専用の納品サーバーなどを行ったり、業務専用のメーリングリストというものを設置することにより、一定のスキルを保つという形で、業務の流れのスピード化とコスト削減に成功しているということがございます。
 そして、ほかのテレワーク型でやっていらっしゃるプロフェッショナルな方々と私の会社に登録、所属をしていますワーカーとの1つ大きな違いは、彼女たちは妊娠や出産、家族の不慮の事故、病気等のトラブルがございますので、そういったものが発生したときにはすぐ現状のワークを、なるべく早く中断をして、次の方にバトンを渡して、家族の介護等に専念をしたいという緊急事態が発生するケースは、企業で一般の男性の方を雇用していらっしゃる経営者の方よりも、そういったリスクが大きくなります。このリスクヘッジをするためにどうしたらいいよということを、チームの中でお互いに声を掛け合って、自分が大変なときにはこういうふうにしたんだよということをBBSという掲示板上で話ができる。つまり、テレワークという形で1人1人が自宅でやっていますが、決してひとりぼっちで仕事をしているんじゃないんだよ、みんなで一緒に、会社にいるのと同じように、顔こそつき合わせないけれども、同じ目的の中で、同じ話題の中で仕事をやっているんだよ。
 ですから、本日は、載せはいたしませんけれども、私どもの仕事関係の掲示板の中には、仕事の連絡以外に、例えば「自分の子供が高熱が出たんだけれども、どうしたんだろう」という書き込みに対して、ほかの先輩のお母さんが、「多分、それって突発性じゃないの。そんなに心配することはないけれども、お熱が出るから脇の下を冷やしてあげたらいいんだよ」というような先輩の智恵、いわゆる業務とは全く関係のないことで、これが普通の会社とは多分大きな違いだと思います。普通の会社では特に男性の方が、「いや、うちの子供が最近、登校拒否でさ」なんていうお話はあまりされないと思います。そういう話も仕事の業務の掲示板に同じように載ってくる。つまり、そういったいろんなプライベートな悩み事も解消する形で、より従業員が安定した形で仕事ができるように配慮して仕組みづくりを行っているというところがございます。
 ですから、一言でいえば、そういった主婦の特性に対応したシステムをつくれているというのが私どもの中の大きな特徴になっているのではないでしょうか。
(パワーポイント31)
 本日は、2つのプロジェクト事例を用意させていただきました。これは一昨年度終了した地図のコンテンツの制作の事例です。ここには第1期、第2期とありますが、実際にはもう1期、第3期までございまして、1年間で大体7000万ぐらいのプロジェクトを行いました。1カ月間で200〜300名の全国各地のワーカーさんを動かしていったプロジェクトです。この規模になってきますと、中規模の企業さんとそんなに変わりないことをすべて在宅で行っているということになるんじゃないかと思います。延べ人数の中ではワーカーの数が書いてありますが、先ほど申し上げたような方々が稼働していたというところでございます。
 実際には、どちらかというと、きょうはこちら側の仕組みにはご興味がないのかなと思いますので、あっさりといきますけれども、もしご質問があれば、後のところでしていただければと思います。
(パワーポイント32)
 実は現状も続いている、あるオフィス用品メーカーとオフィスのデザイン業務に関して、デザインをウェブ上といいますか、システムウェブと書いてありますが、インターネット上で在宅でデザイナーとして何名かのワーカーさんがお手伝いをするような形をとらせていただいております。
 現状で月の売り上げが200万程度ですから、年間で2400〜2500万円のすごく安定したプロジェクトになっています。その会社のオフィスデザインのお手伝いをして、あちら様はオフィス家具を買っていただくという会社でございますので、プレのデモセールスの部分で、こういう感じのオフィスにされたらどうですかというあたりを、こちらに関しては、その会社の出されているカタログを使いまして、その会社の家具を入れ込んだ形の図面を書いて、セールスのために使っていただく、プレセールス用のワークをさせていただいておりますので、研修等も別途やらせていただいております。そんな形で動いているものがございます。
 今まではずっとオフィスワークばかりやっていましたが、最近、老健施設とか大学の施設といった形の大型の施設のものもふえてまいりましたので、現状私どもはチームを2班に分けまして、そういった老健施設や大学の研究室等を含めましての施設案件を専門でやっているチームができております。
(パワーポイント33)
 これは幾つかのプレス資料を張りつけております。私の会社は、いろんなメディアに比較的取り上げられる機会が幸いに多いところでございます。左上が最初のころに取り上げられた記事です。1997年の多摩ニュータウンの現状ということで、育児中でも仕事に意欲を持っている女性たちがいるんだよという記事です。先ほどお話をしたように、ベビーカーを押しながら、私はこの地域の中で自分がどうやって生かされていくんだろうという思いを持っていたというのが記事になっているものでございます。
 左の下が2000年の東京新聞です。右側が2000年のお正月、元旦号になりますが、多摩の特集のところで、マイペースで社会に入っていきたいよとか、左の東京新聞の方は、子育てをしながらでもSOHOをやっていきたいんだよということで、紹介をされている記事でございます。
 こういった新聞記事をごらんになった方々が、「あっ、これなら自分たちでもできるかもしれない。自分にもやれるかもしれない」ということで、勇気や元気をもらって、頑張られているというのが、私たちにとって今の大きな戦力になっております。
(パワーポイント34)
 こちらの方はかなり最近なんですけれども、左の方が日経新聞の夕刊のトップ面で、今も特集記事が組まれていると思います。「女と時間と日本経済」というシリーズがございます。その中で2月の15日の夕刊のトップに載っています。在宅ワークのライバルは中国であるというので、この写真が私の会社のオフィスになります。手前に遊んでいますのが、私たちのそれぞれの子供で、隣におりますのがもう1人の取締役の女性、私と合わせまして2名の取締役が、私の会社に常勤しています。子供たちが学校や保育園から帰ってくると、母親の仕事は6時ぐらいじゃ終わらないですから、その後の時間、夕飯までの7時半とか8時ぐらいまで、それぞれの子供たちが、年齢は異なるんですけれども、一緒に遊んでいるよという図を、写真で押さえたいからということで、写真の記事のように出ております。
 右側の方は朝日です。富士市の方で出ているものです。ちょうど6月の頭に静岡県の富士市に男女平等参画の講演に行かせていただきまして、「男性社会から共生社会へ」という形で、本当に能力がそれぞれに生かされるような社会づくりをするために何が必要なのかという講演をさせていただいたものの記事を載せさせていただきました。資料の中では文章が読みづらいかもしれませんけれども、興味のある部分がございましたら、またお問い合わせ等いただければと思います。
(パワーポイント35)
 一番最後、最初にちょっとお話をさせていただきましたけれども、私の会社の沿革並びに自身のプロフィールを少しお話しさせていただければと思います。
 最初に申し上げましたように、1995年の4月に育児サークルを設立いたしまして、96年にキャリア・マムという形で東京の城西地区にお母さんのネットワークをつくるという形で拡大をいたしました。翌年に有限会社を前の夫と2人で設立をする形を置きまして、このときに公団のニュータウンの30周年記念事業というものを事務局としてずっとお手伝いをさせていただきました。
 2000年に株式化をしましたが、ちょうどこの時期は、ヤフーとかニフティー等のネットバブルが盛んだったころです。うちの会社もご多分に漏れず、1999年というのは、いろんなベンチャーキャピタルさん、いわゆる投資家の方から「法人化しないか、株式会社化しないか。お金を出資したいんだけれども」というお話をいただきまして、私自分自身でどうしたら一番いいのかなとちょっと考えあぐねていたところがございましたもので、一番直近にお返事をしなければいけなかったのが、アメリカの割とプライベートなベンチャーキャピタルがあって、そちらに対してのお返事の期限のぎりぎりのところで、10日間だけ会社の方から休みをもらいまして、アメリカのニューヨークとシリコンバレーとロサンゼルスの3都市を視察に行かせてもらいました。
 実際に、インターネットの社会といわれるけれども、まだ1999年当時は、ホームユースのパソコン、いわゆるご家庭でのパーソナルパソコンの普及率は、15%から20%程度ではないかと世間相場では見られておりました。うちの会員さんもようやっとファックスで登録をしてくる方から、インターネット上への登録の方へと移行したぐらいの時期でしたので、ほとんどの会員の方が、ファックスでの会員さんもしくは郵送の会員さんということで、インターネットの会員の方がまだ何百名だったという時代がございます。
 この時代に、実際にアメリカのニューヨーク、シリコンバレー、ロサンゼルスという3つの大きな都市を見せていただいて、そこに暮らしている人たちに、だれかれとなくひっつかまえまして、例えばタクシーの中で、例えばバスを待っているバス停の横で、公園で休んでいる人に、「インターネットをどうやって使っていますか。あなたのお宅にパソコンはありますか。パソコンの社会って、どんなでしょうね」みたいなことを聞いたんです。小さい子供さんから、移民で来ていらっしゃる方までいろいろと聞きました。自分の中で、多分日本もインターネットというものを介した、いわゆるバーチャルコミュニティという言い方をして、非常に嫌われる方もいらっしゃいますが、バーチャルかもしれないけれども、インターネットを介したコミュニティというものが絶対にできるに違いない。そして、それはどんな人たちにとっても、ある種電話と同じぐらい非常にファミリアなツールになるだろうということを確信して帰ってまいりました。
 結果的に99年度にオファーをいただきましたのが、日本の4社とアメリカの1社と合わせまして、5社でしたが、すべてのベンチャーキャピタルは一たんお断りをして、自分で出資金を集める形で14名の株主で、2000年の8月までかかってしまったんですが、株式会社をつくる形をとりました。
 そして、3本柱として「SOHOワーカーの支援」「商品開発、各種サービスの提案」「生活者の視点から見たコンテンツ制作」という、この3つの事業を柱といたしましての会社をつくりました。1997年に有限会社をつくってから、昨年度まで、第2期まで、売り上げでいきますと、キャリア・マム事業部の、事業はどれくらいの勢いで伸びたのかということで、売り上げだけ申し上げますと、初年度が700万、2年目が1500万、3年目が2800万。4年目の途中で株式に切りかえましたので、半期で株式が2600万。その次の2期目が1億4000万ぐらいドンといきまして、先ほど見ていただきました地図の7000万のコンテンツ制作が入るわけです。直近が8500万という形で、ずっと増加を続けてきたということでございます。今第4期なんですけれども、一応目標として1億5000万ということで経営を続けているということです。
ここまでやれるようになりましたのは、繰り返しになりますけれども、インターネットというツールが、普通の方が普通に使えるようになる社会になってきたというのが大きいことなんだなと思います。Eジャパン構想とか、総務省の構想等もございますけれども、なかなか遅々として進まない部分も実際ございます。まだまだ日本は印鑑社会の風土がございますし、やはり顔と顔を見なければ安心できないよという、リアルのコミュニケーション、リアルメンバーにこだわられるというところがあるとは思うんですが、もうインターネット化というものはスタートしてしまいましたから、これが逆行して戻るということはまずあり得ないと思うんです。
 であれば、次のコミュニティという人々の集まりの共同体、これを豊かにつくっておくことによって、例えば自分の企業であれば、企業の大事なお客様であるユーザーの方々、消費者の方々、まちづくり、ディベロッパーであれば、自分たちがつくった町に住んでくれる、そういった生活者の方々に向けて、どういうようなコミュニティやどんな豊かな情報を提供できるかということが、その企業やそのエリア、その町が選ばれる一番大きなポイントになってくるのではないかと思います。
 多分ほとんどの企業、ほとんどのまちづくりの中で優劣がはっきり決まるということはないと思っています。つまり、アラブの石油でも出ているところであれば別ですけれども、日本の中で特に物すごく豊かな町だとか、特に物すごくひとり勝ちしているガリバー企業というものは、今出にくい状況にあります。五十歩、百歩の中なんですが、確実に生活者であり、消費者であり、そういった1人1人のユーザーの方々は、企業や商品やサービスを選んでいくんですね。どれでもいい、安ければ買うという時代は終わりました。ブランドネームだけで流されるという時代も終わっています。
 つまり、まちづくりとかコミュニティという言い方をしましたけれども、自分たちが提供する商品、サービス、私たちは商業店舗の方の総合開発なども意見をさせていただける機会もございますので、そういったものに対してのブランディング化、いい意味で消費者、ユーザー、生活者にわかりやすいブランディング化をどういうふうにしていくか。つまり、広報の部分の力、それがとても大事になってきている。
 ところが、いつまでもプロダクト・アウト型で物をつくっている。つまり、生産者指向で物をつくっていると、その部分が実際のユーザー、使い手側と合致しない、ずれてしまう部分ができていくというのが、今の企業の一番の不幸の種ではないかなと思います。
 ですから、私どもがやらせていただいていることは、企業の活動を否定することではなく、企業や行政の方が、先ほどの会社案内に載っていますけれども、私自身も静岡県や東京都、省庁等のいろんな幹事メンバーもやらせていただいております。行政の方々も、まちづくりとかそういった財源も含めての自分たちの地域おこしということに対して、お勉強されている。とても熱心でいらっしゃる。これは公団の方々もそうだと思います。とても熱心なのに、それが今までのいろんなしがらみだとか、よくいうんですが、「前例がない、そんなバックデータはないよ」という一言のもとに、新しい改革をしていこうという現場の意見がなかなか上まで、要は稟議書が上まで通らないという現実を見ているところがございます。
 ですから、現場の職員や、現場の担当者の方がこういうものをつくろうとせっかくいっている、せっかく提案をしている、ユーザーの視点が見えているにもかかわらず、会社とか行政という組織全体として、次の時代に生まれ変わっていくことをどこかでブレーキもしくはハンドブレーキをかけているような状況を見て、もったいないなと思うことがございます。
 その方々は、自分たちの意見を通していく上で、「いや、そんなことはないんですよ。全国で5万人の生活者の人々が、こういうものが欲しいといっているんですよ」というデータベースにしてもらうために、私たちの調査データ、サーベイを使っていただければいいと思っておりますから、私も、何度もメーカーの商品開発部といいますか、開発とはけんかしました。
 なぜけんかしたかというと、「金やるから、悪いものをいいといってくれ」というのは私は絶対嫌なんです。「これは気に入らないから買わないよ」というのははっきりいいます。なぜ気に入らないのかという理由まで添えていいますから、その中で、そこを改善していこう、ユーザー側への歩み寄りが見えてきたら、歩み寄っているよという、プロパガンダではありませんが、アナウンスとともに、「だから、この企業を応援してあげようよ。だから、この町を応援してあげようよ」という仕組みをとるようにしています。
 大事なことは、改善されることではなくて、改善していこうと、変化の姿勢をとり続けることが大事なことだと思います。どうしてかというと、もちろん改善ができればいいに越したことはないんですが、そこまでで膨大な時間を費やしてしまう。もちろん、企業も行政も、経営ありきのところがございますから、どんなにいいこと、どんなによさそうに見えても、やはり前例がないことに対して、一担当者が自分の首にかけてもこの事業をやるんだというまで、自分の家族を路頭に迷わせても、明治維新のときの幕末の武士ではございませんけども、そこまで滅私奉公されることは、例えば、一サラリーマンであれば、一団体職員であれば厳しい部分もあると思います。
 ですから、そこまですべてを変えてくれというふうには申し上げませんが、大事なことは、変化していくことを怖がらず、恐れずに、まずやってみる、トライをしてみる、そのためにいろいろな形での、コミュニティであればキーパーソンや、全部自社とか自分の中でやろうとしないで、そういったノウハウを蓄積している民間とか地域の方々とうまくコラボレーションしていくということが、新しいネットワークを主体としたまちづくりの中で非常に重要なことになってくるのではないかと思います。
 そして、だれがキーパーソンかわからないのであれば、まず自分が町に出てみて、おもしろそうだなと思う人に積極的に会われていくことだと思います。
 消費者が、どこか1つ、企業なり物なりを選ぶとしたら、どうやって選んでいるかというと、物やサービス単体で選んでいるわけではないんですね。物やサービスを勧める人によって選んでいるんです。
 つまり、ちょっと前は、テレビコマーシャルを大量投入すれば物は動いた。商品であれば、スーパー等の棚位置のいいところを確保しさえすれば、要は、広告出稿量の多いところが勝ったという時代がありましたが、今現状そうではないという結果も少しずつ出てきています。
 つまり、マスでのアナウンスメントと口コミのような、ある種自分が非常にシンパシーを持った団体からのアナウンスメントの中で、例えば住まい、例えば食べ物、例えば遊びに行く場所が決められているということがございます。そして、実際に行かれた方、実際に経験をされた方、実際に体験をされた方が、「やっぱり、あれ、よかっよ」という口コミで、どんどん雪だるま式に物やサービスが広がっていくという現状がございます。
 そういう部分でいうと、広告代理店さんがそういう役割をされていたのかもしれませんけれども、いわれるがままに、バンバンと3大紙の新聞だとかテレビに億という金をどんどん入れ込んで、「みんな、わかってくれ」というのも、1つのやり方ですけれども、もっと違う形で、自分が商品やサービスを届けたいと思う人たちのところに自分が一たんおりてみて、その人たちの生の声を聞いていく作業というのが非常に大事なのではないかなと思います。
 実際に、今私の会社は、多摩ニュータウンという中で、ニュータウンのお母様方と最初に育児サークルという形で、ご一緒に始めたんですけれども、1年もたたないうちに、もう少し広い範囲、東京の城西部のお母様方、全国のお母様という形で、実際に1万人のネットワークぐらいになるまでは、ほとんど広告費というものは使っていません。すべて口コミだけで人が広がってまいりました。
 後半の質問でも出るかもしれないので、先に答えてしまいますと、どうしてそんなに広がったんですかというときに、1つ、これ実際にあった話ですが、うちのキャリア・マムというところに登録をされたお母様が、例えば公園に出ていくわけです。実際にテレワーク型で、小さい仕事かもしれませんけれども、だれだれちゃんのママとかだれだれさんの奥さんといわれていた人たちが、初めて自分の名前で、簡単なアンケートに答えたり、座談会に出て、商品券とか、何千円という謝礼をいただいてきた。それで自分の好きなものを買ってみた。化粧品を買ってみたりとか、自分の勉強のために本を買ってみたりということで、公園の中でそのお母さんが生き生きときれいになるらしいんです。
 そうすると、簡単なもので、周りのお母さんたちが「あら、何とかさん、化粧品変えた」とか、「最近、何かいいことあったの」と聞いたときに、「いや、ないよないよ。ただ、キャリア・マムという会社があるんだけれども、ここに登録したら、この前ちょっとおもしろいことがあって、企業の人が私の意見を聞きたいというから、行ったら、座談会があってね」みたいな話になったときに、「えー、そうなんだ、そうなんだ」というふうにどんどん入ってきたのが、1年間で1万人ぐらいになったんです。
 そのままほとんどやめる方なく、1万人のまま推移したんですけれども、去年、ちょっと恣意的に1つ仕掛けたものがございまして、そのときにボンと3万人までふくれまして、そこからはずっと微増という形をとらせていただいております。
 そんな不思議なネットワークですが、仕事をするからとか、儲かるからうちの会社にいらっしゃいということでは全然ないんです。自分の声が生かされていくようなネットワークをつくったときに、それを必要とする企業や行政の方々、自分たちが考えてきた商品づくりやまちづくりに対して、本当にユーザーの方、生活者の方って、必要としているのかな、欲しているのかなという声を聞きたいときに、ご協力をいただいて、私たちもご協力をしている。それは自分たちが欲しい物、本当に必要としているサービス、そして笑顔で住みやすい、満足できるまちづくりを、自分たちも進めていきたいから、本当に微々たる謝礼であっても、皆さん積極的に協力をして、今まで思っていた意見を堂々と出していただける土壌ができ上がってきたということがございます。
 かなり広範囲にわたりましてお話をさせていただきました。ネットワークが育みます新しいコミュニティづくりという中で、幾つかのキーワードをちりばめさせていただきながらお話をさせていただきました。



フリーディスカッション

藤山(司会)
 それでは、残りの時間を使って質問等をお受けいたします。
角家(コンピュータ パソコン IT講師) きょうはいろいろいい話をありがとうございました。せっかくレジュメを用意していただいて、A4の紙の3番の「コミュニティ形成に必要な4Pプラスアルファ」とあり、4Pとはperson,place,product,promotion とあります。この4つのPに対するプラスアルファを、ご説明願えればありがたいと思います。
堤 先ほどのものとちょっと重なるところがあるかもしれません。よくいわれます4Pの部分ですね。それを生かしていく場所、生かしていく人、生かしていく物、それを知っていただくのがプロモーション方法。プラスアルファの部分ということです。先ほど申し上げましたように、マス媒体だけで、これがよさそうだよということではなくて、実際にそれを体験された方の体験談的な形で、口コミといいますか、そういう媒体の中でどんどん出していかれるという味つけだったり、「あ、そうだね」と納得してもらえるような、相手の立場と同じ目線の中での、相手が理解できるようなキーワードを入れていくというところが、プラスアルファの部分の味つけになるのではないかと思います。
 きょうは、プラスアルファのところのレジュメの用意はないわけです。そんなふうにご理解をいただければなと思います。お答えになっておりますでしょうか。
佐瀬(東京ガス梶j 
きょうはご講演ありがとうございました。
 同じ関心のある方たちが、バーチャルコミュニティをつくっていく上で、掲示板、メール、非常に有効な手だと思います。きょうはプロジェクトの例で、2つほどご紹介なされて、今のようなビジネスでも、確かにインターネット、Eメール、非常に有効な手なんですが、プロジェクトがうまく進行しているときにはメール、インターネットで非常にいいところまで進むんですが、ちょっと理解に齟齬が生まれたりとか、リーダー、マネージャーさんの間で意思の疎通がうまくいかなくて、思惑が違うときは、メールだけではなかなかうまくいかない場合等もあるかと思いますが、この2つの事例でそれをどのように解消していったか、もし事例があれば教えてください。
堤 ちょっとうそみたいにお感じになられるかもしれないんですけれども、基本的には私どもがテレワークを進めていくときには、テレワークのマネージャーもお子さんが小さかったり、介護者を抱えていたりということもございますので、基本ベースはメールにしてくれ、どうしてものとき、別に電話を禁止しているわけではなくて、電話でのやりとりもしないわけではないんですが、ベースは本当にメールにしています。
 幾つか実は仕掛けがありまして、メールで、例えば自分の困った窮状だとか、相手を糾弾するようなクレームを入れてくるときには、必ず会社を、カーボンコピーですね、メールでいうとccというやつですが、会社にも同じ内容のものを、同じ時間にccで入れてくるようにという指示をしています。ただ、人間そういうところでずるいところがありますから、どうしても自分の方に歩が悪いことをマネージャーに「ねえ、マネージャー、お願い。プロジェクトマネージャー、何とかして」というようなことを、そういうふうに決めていても、「これは会社にいうことではないから」と思って、勝手に会社をcc から外してご連絡をしてくるワーカーというのはいらっしゃいます。その際には、マネージャーにいっているんですけれども、ワーカーにリターンするメールに必ず会社ccをつけて、ワーカーのメールを下にコピーでつけたまま戻しなさいと指示しています。
 つまり、会社は、マネージャーの答えを見るとともに、ワーカーからの最初の「ちょっと、何とかしてよ」というメールも見えていますよと。つまり、密室でのコミュニケーションではなくて、あなたとマネージャーのやりとりを会社も公正な立場で見ていますよというようにしています。
 1つ、種明かしをいってしまうと、在宅のマネージャーがそういった形で、マネージャー発信でワーカーにメールを戻す際に、必ず会社に相談をしています。会社側の見解としてこうしてほしいということを、現場のマネージャーレベルから、自分のプロジェクトのワーカーにおろすようにしなさいという指示を会社側はマネージャーとはさきにやりとりをしているわけです。
 ただ、ワーカーにその部分は見せないようになっておりますので、プロジェクトの一担当課員であるワークをしているスタッフは、マネージャーが自分の判断でそういうふうに、私に対してメールを出してきた。しかも、それはその時点で会社に見えていて、自分の元メールも会社にわかっている、この状態になってごねる、プロジェクトがうまくいかなくするようになるということは、逆にいうと、その方はプロジェクトに入っていただかない方がいいわけですから、ここまでやったときにごねる方は、どんなにやっても無理ですから、その時点でアウトになるわけです。
 人間そうやられますと、「あっ、いえないな。会社見ているな。これは減点になるぞ」というのがわかりますので、マネージャーのコントロールが効くようになったりします。もちろん、あとは私自身が代表ですので、私から、「実際どうなんだ。あなたのプロジェクトマネージャーではやりづらいのか」ということを電話で相手に聞くようにしています。
 通常の会社で、今は5万人という組織になりましたから、5万人の会社のトップが1つのプロジェクトの担当スタッフ、ワーカーがごねただけで、社長からダイレクトに電話が入るというのは、物すごく驚くわけです。「あ、なまじなことをいっちゃいけないんだ、やっちゃいけないんだ」ということで、自分が働いている意味みたいなものを見つけ直して、プロジェクトが進むように頑張って変えていくという、それはうちの中の内緒のやり方なんですけれども、きょうせっかくお越しをいただきましたので、お使いになられるのでしたら、最近会社でも、そういったメールのやりとりで部下といいますか、課員の方々とやりとりしていらっしゃるときには、実はバーチャルコミュニティというか、バーチャルなやりとりはそういう仕掛けを幾つかやっていくと、うまく回るようになるんです。
 最初の方の質問の補足になりますが、プラスアルファのものに何が必要なんですかというときに、幾つかの能力というお話をしています。今こういったコミュニティでもそうですけれども、組織の中で一番必要とされる能力はコミュニケーション能力であろう。相手、他者とコミュニケーションしていく能力が非常に必要とされている。そして、今申し上げましたように、自分がやった、自分が発言した、自分が何かしたことに対して、相手はどう感じるんだろうという想像力、イマジネーション能力、この高さも非常に必要となってきます。
 起業家講座を、創業塾とかで講演させられることが多いので、何かプロジェクトを立ち上げる側の人に、何が必要ですか、どんな能力が必要ですかというときに、あと2つ、マネジメント能力とプロデュース能力が必要ですよというお話をします。それはリーダーシップの話なので、もうちょっとフロアの方々にとっても必要な能力は、コミュニケーション能力とイマジネーション能力、そして自分がやりたいことと、相手がやりたいことが異なるときに、それをうまく折衝していく、「タフネゴシエーター」という、いわゆるネゴシエーションの能力ですね。自分の希望と他者の希望が違うときにすり合わせていくネゴシエーションの能力。あとクリエーションとかいろいろな言い方がありますが、そういった能力がプラスアルファの部分で入っていると、商品とかサービスとか、こういったバーチャルなコミュニティ、また商品ができ上がる前、町ができ上がる前に、実はそれが成功するか成功しないかというものの1つのキーになるのは、そういう能力を持った人たちがどれだけたくさん、その組織や、今つくっていこうという町にいらっしゃるかということじゃないかなと思います。
小林((社)日本リサーチ総合研究所)
 きょうはどうもありがとうございました。
 実は私は本業はシンクタンクの研究をやっているわけですが、それ以外に自分の地元で子育て支援のNPOみたいなものにもかかわっていまして、その両方に関係あるおもしろいお話を伺ったと思います。
 もともとが育児サークルを設立されて、それからだんだんビジネス的な総合ネットワークというふうに発展してきたというお話です。私の身近なところだと、育児サークルというのと、ネットワークでビジネスを回すというのはかなりレベル、次元が違う話だと思うんです。責任感の持ち方とか違いますし。
 それが、育児サークルを母体にこういうふうな形でビジネスに育ってきたという、そのジャンピングボードみたいなものとか、きっかけ、ご自身の中での意識の転換みたいなものがあったのかどうか。あったとしたら、それは何なのか、その辺ちょっと教えていただけませんでしょうか。
堤 実を申しますと、一番最初は子育てサークルから始めたんですが、子育てサークルを始めたかったわけではないんです。最初から私は明確に法人化の意思を持っていました。ただ、一番最初から、ママさんが何人か集まって地域の中で会社を立ち上げても、一体だれが信用してくれますかということなんです。つまり、ほんの数人のお母さんたちが集まって、自分たちのキャリアを社会に生かしたいんだ、会社をつくりました、何かやらせてくださいといっても、何1つ信用がない。そのときに、数は力ではないんですが、同じような仲間とスクラムをつくろう。まず組織である。まずビジネスメニューではなくて、まず組織だろうと思ったんですね。
 ですから、彼女たちに入りやすい、いわゆる入りがまちを非常に低く、そういう意味では組織のバリアフリーですね、組織のバリアフリーを図るために何が必要かというと、子育てサークルというフレームにすることによって、彼女たちにも、「あっ、ここは私の入れる場所である」と。人間って、簡単なんです。ここは私が入っていい場所かそうじゃないかというのを感覚的にかぎ分けるんですね。
 株式会社であれば、ちょっとよくわからない、登録できないけれども、子育てサークルであればどうぞということです。
 はしょって話をしているのですが、実は子育てサークルをつくったときに、私の中での事業モデルというのは、子育てサークルの会員の会費をベースに回していきたいなと思っていたんです。ですから、もしうちが1人1000円の会費をとっていれば、1万人集まった時点で株式会社ができたわけですけれども、実際に始めたところ、お母さんから会費をとろうと思って、一番初期のころ、250組の親子が入っていましたが、会費を500円にしようといった途端に、50組に減っちゃったんですね。「あっ、これは、主婦の方をベースに、主婦の方から金をとるようなビジネスモデルで組織をつくったら、うちの会社はつぶれてしまう」。だから、お金がたくさんある企業からとろうよというふうに組織を、株式会社という形で私たちのクライアントは企業である。そこにいくまでにキャリア・マムという、ママの笑顔と元気というものをコーポレーション・アイデンティティとして、自分たちの仲間に伝えていこうと思ったんです。
 私は子供が2歳半のときに、こういった起業に向けての活動を始めましたので、自分と同じくらいの年の子供のいるお母さんでも、何かやれるんだということで勇気づけられたということがあるんだと思います。
 きょうは起業の分野のお話はほとんどしていません。もしよければ、短く聞いていただければと思います。私自身がこのキャリア・マムをつくるきっかけとなったのが、先ほど申し上げましたように、自分が子供を産む前は、ずっとフリーでアナウンサーをやっていました。キー局等を中心に、スポーツとか旅などいろんなジャンルの番組のレポーターをやらせていただいていました。つまり、自分の周りのコミュニティは仕事のコミュニティしかなかったんです。要は、テレビ局にタクシーで──放送業界は朝が早くて夜遅いので、車の送りだけはあるんですね。お金はそんなにたくさんもらっていませんでしたが。その為、地域の中で全然コミュニティがなかったんです。
 ところが、子供が生まれてその子供のベビーカーを押して公園に出ていったときに初めて、自分の地域にいるお母さんたちと顔を合わせたわけです。そこで、多摩ニュータウンの公園で会ったお母さんたちというのが非常に均質化して見えたわけです。
 どういうことかというと、ベネッセのおひざもとだというのもありますけれども、みんな同じシマジロウのぬいぐるみを持って、三輪車に乗って、赤いスコップとバケツを持って来ているわけです。そこにちょっと年が上のお母さんだとか、例えば、最近すごく減りましたけれども、昔白子といいました、ちょっと髪の色が抜けていたり、ハンディキャップを持った子供さんを抱えたお母さんたちが公園に来て、どういうことが起こったかというと、「何々ちゃん、お昼、だれだれさんのお宅で食べましょうか」といって、お母さんたちがスーッと帰ってしまうんです。
 つまり、自分と異なる者が公園というコミュニティ・プレースに入ってきたときに、母親たちが受け入れることをせずに、自分と同じような価値観とか感性の人たちとだけコミュニティをつくってしまう。
 これを見ていたときに、子供を産む前後から、たまたまマスコミにおりましたから、気になっていましたのが、子供、特に中学生、高校生の、山形のマットのす巻き事件とか、私にとって神戸出身でしたから、非常に衝撃的だったのは、酒鬼薔薇という少年が起こした、少年の首を落として校門の前にさらすという事件でした。子供たちがどこかおかしいんじゃないかと思うわけです。人の命を命とも思わない。いじめて、いじめられて、それを制止する子供たちがいない。子供たちのコミュニティはどうなってしまったのかと思ったときに、フッと、自分と違う母親と交わらない彼女たちと、自分と違うやつを徹底的にはじいて、いじめて、死ぬまでいじめる、このコミュニティと何か相関図が見えたんです。
 だから、多分子供というのは、人間だれしも相手をいつくしんで大事にしようという生きる力をそれぞれ持っているはずなのに、どこかで何かのロールモデルを見て、自分と違うやつは徹底的にはじいていいんだと思ってるのではないか。それが自分が小さいときに見ている母親の姿だったとしたら、こんな不幸なことはないと思ったんですね。
 だから、母親が、何でそうやって自分と違うものをはじくんだろうと思ったときに1つ思い当たった原因が、だれだれさんのママ、何とかさんの奥さん、つまり匿名社会の中に彼女たちは生きている。だから、母親たちを何かの形で自分自身を生かしたい、と思いました。掲示板とかインターネットで匿名の掲示板の書き込みをごらんになった方は、1回は経験していらっしゃると思いますが、信じられないような中傷、信じられないような言葉で相手を糾弾するような書き込みがされています。自分の名前を出さないって、そういうコミュニティのつくり方になるんですね。だから、何とかそれを変えたかったんです。
 私自身が、ちょうど同じくらいのときに、子宮がんかもしれないと医者からいわれました。先生に、「どれぐらいの存命率ですか」といったら、先生は「6割」とおっしゃった。「子宮体がんといわれたら、4割だめなの」と思ったときに、自分の子供が1歳半だったんです。彼に何か母親としての生き方を残したいな、そういう気持ちがあって、何を一番伝えたいだろうと思ったときに、当時まだ20世紀だったんですけれども、21世紀を生きる自分の子供たちの世代にいろんな多様な価値観を、互いに許容できるような、そんな柔軟な豊かな日本の社会を彼らの世代に残したいと思ったんです。
 それには、大海に塩をまくようなことではありましたが、とりあえず何か始めなきゃいけない。何か始めるために、大義名分とか、いいことばっかりやっても、人って、動かないんですね。人が動く理由は1つだけあって、「おもしろい」ということなんですよ。おもしろいと思うことを仕掛けると、人って、すっごく動くんですね。その次は儲かることだと思うんです。ただ儲からなくてもおもしろければ、人って、動くと思うんです。
 じゃ、そのおもしろい仕掛けづくりというのを、多分同じような小さな子供を持つ私なら、彼女たちの気持ちがわかるだろう。いや、できるはずだ。もっというと、やらなきゃいけないと思って始めたのがキャリア・マムなんですね。そこから、戦略として、組織としての育児サークル。育児サークルが当時全部子供たちを中心に、3歳児の子供の育児サークルとか、幼稚園の子供のリトミックサークルだったんですけれども、私がつくったのは母親のサークルをつくったんです。お母さんが楽しめることをやろうよ。
 基本的にはお母さんはずっとお母さんですから。だから、彼女たちを組織の中心に持ってくるような組織づくりというものをしました。そして現在に至っているということがあるわけです。これが起業家としての思いです。
 実際にことしの5月に、エグゼクティブ・マムという年商300万を稼げるような、今の時代に必要なキャリアを持った女性たちを応援しようという男女平等のNPOの団体をつくりました。それも私が代表理事をやっております。
 キャリア・マムで拾い切れなかった、もしくはキャリア・マムだけでは満足しないような女性たちをどんどんと支援していけるような次の仕組みづくり、今ならできるだろうなと思って、NPOの団体を別途に1つつくりました。
 子供と一緒だと思いますが、組織でもまちづくりでも商品開発でも、小さく産んでそれを丁寧に大きく育てていけばいいと思うんです。企業の考え方としては、100個新しいものをやって、98個だめでも2個ばか売れすればいいという考え方の企業があることもわかっています。でも、私はそれは嫌だったんですね。98の捨てられてしまうアイデアだとか、それをつくった人の思いにどうしても耐えられなかったから、3つでも5つでもいいから、おもしろそうなものを、時間はかかるかもしれないけれども、みんなで丁寧に育ててみようよ。そういう物のつくり方、そういうコンテンツのつくり方をしてみたいなと思いました。
 実際にそういうふうにつくった、あるディベロッパーとキッチンメーカーとうちと3社でつくったキッチンがありますが、それに関しては、そのキッチンが入ったマンションで、6000万ちょっとの白金のマンションでしたが、そのパターンの部屋は全て、1日で売れたんです。引きずられて、88戸ぐらいの小さいマンションだったんですけれども、1週間で完売したんです。
 2棟目は予約販売で全部なくなりました。3棟目は多摩ニュータウンの地域で建っていますが、今多摩ニュータウンでは大規模のマンションは物すごく苦戦しています。そのディベロッパーと一緒にプロモーション活動とかやった結果、ほぼ完売したんじゃないでしょうか。最後1戸残っているという情報を2週間ぐらい前に聞きました。
 何が申し上げたいかというと、本当に丁寧につくったもの、実はそのキッチンができ上がるまでに実は1年かかりました。メーカーの開発部とかなりけんかもしました。これは要らないとか、こういうのは私は欲しくなかったんだ、いや、そんなデータは今までどこにもないというようなけんかをしながら、でも、あきらめずに、私たちはこれが欲しいんだということを一生懸命伝え続けた結果、そのキッチンが入ったおかげということでもないんでしょうけれども、結果的にそれが入っているものはどんどん売れるんですね。
 在庫のコストのことを考えると、今時点で売れ残りがないものが、商品ができていくということは、多分企業にとっては非常にプラスなのではないかと思います。
 だから、そろそろ大量につくって、大量に捨てるという時代から、本当に必要なものを丁寧につくって、丁寧に使ってもらうというふうな風潮に変わってきてもいいのではないかなというふうに思います。
 会社の本業の方は、何か興味があられましたら、ホームページURLとかは多分会社案内の方に載っていると思いますので、ごらんいただいても構いませんし、きょうは時間的にいっぱいだと思いますので、何かご質問などがございましたら、どうぞメールでもファックスでもお電話でも構いませんので、頂戴できましたらと思います。
 長い時間ご清聴いただきまして、どうもありがとうございました。(拍手)
藤山(司会) 
どうもありがとうございました。
 お手元にありますパンフレットの後ろ側にホームページが載っております。そちらの方を私も見せていただきましたが、ビジネスあるいはコミュニティというお話を一緒にやっているなということがよくわかるホームページだと思います。
 きょうは、堤香苗先生に「ネットワークが育む、新しいコミュニティづくり」ということで、ご講演をいただきました。長時間にわたって先生ありがとうございました。(拍手)
 それでは、これをもちまして、第186回の都市経営フォーラムを終わらせていただきます。


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