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第189回都市経営フォーラム

再生の連鎖

講師:青木 淳 氏

カーディフ社(BNPパリバグループ)日本代表

日付:2003年9月25日(木)
場所:後楽国際ビルディング大ホール

 

1.事業は生き物

2.都市も有機体

3.有機体の自己調節

4.構造転換


フリーディスカッション




 ただいまご紹介賜りました青木でございます。よろしくお願いいたします。
 きょうは足元の悪いところ、こんなに多くの皆さんにお集まりいただきまして、せっかくおいでいただいたので、多少ご利益のあるお話をと思っております。
 一番最初が建築、今、保険、その間がコンサルタントということで、経歴を聞いただけでいかがわしい、物すごくいかがわしいんですけれども、伊藤滋先生、このフォーラムでも大活躍をされている、この先生が恩師の都市工出身ですので、いかがわしさにも年季が入っています、なんて。(笑)
 きょう、これから2時間近くを皆さんと一緒に過ごすわけです。まず最初に、最後にお持ち帰りいただくもの、これだけ時間を投じてくださるのですから、一番最後にどういうことをお持ち帰りいただきたいのか、その辺からお話したいと思います。
 世の中でお金だけは価値が減らない。野菜も自動車も家も何もかも価値は減っていくのに、この世の中でお金だけは価値が減っていかない。相対的な価値は別ですけれども。その減らない価値のお金を、例えば100億投資をして、コンベンションホールをつくる。100億のホールをつくった次の瞬間には、だれもこれを100億では買ってくれない。どんどん価値は下がってきます。
 そうはいっても、100億のホールですから、メンテナンス、維持管理をするのに数億のお金はかかる。これを上回るようなお金を得ていかないと、どんどん赤字になってしまう。赤字になってしまって、もうどうしようもないということで、これをたたき売ったりしている。例えば100億のホールを1万円にして、払い下げたりしている。1万円になって、これはお金ですから、ようやく価値が減らない元の状態に戻るんですけれども、実は100億の投資をして1万円しか残っていない。こういう不思議なことが世の中に起こっている。
 税金とか、厚生年金だから、とりあえずいいじゃないかという話ではなくて、これ、立派な不良債権で、我々、例えば厚生年金の被保険者というものがその不良債権を抱えている。こういうお金のつじつまが合わないことがたくさん世の中に起こっています。きょうは、参加していただいている方のリストを拝見しますと、ハードのプロジェクトにかかわっている方がたくさんいらっしゃる。私がきょう皆さんにぜひお話をしたいのは、ハードのプロジェクトづくり、物づくり、こちらの方から、もっといおうじゃないか、ということなのです。お金の専門家の方がかかわっているにもかかわらず、こんなつじつまの合わないことが起こる。あげくの果てに、週刊誌に、あのコンベンションホールが1万円だとか、税金のむだ遣いだとか、書かれている。せっかく丹精込めてつくったものが、こんなありさまになっているのは、けしからん話です。もっとハードの専門家の方から、お金や事業をつかさどる方に鋭い突っ込みを入れていただきたい。
 きょうはその突っ込みを入れていただく何か武器になるようなもの、大変僣越ですけれども、そういうきっかけになるようなお話をぜひしたいと考えています。



1.事業は生き物

(パワーポイント1、2)
 まず、私の話は、カスタマー・サティスファクションから始まります。日本語でいうと「顧客満足度」ですね。CSというふうに呼びますけれども、実は、この言葉、大変な誤解を伴って日本に入ってきてしまいました。日本では商品、サービスの水準のような使われ方をしている。少しでも満足の高い方がいい、というわけです。「お客様は神様です」という言葉を有名な歌手の方がおっしゃいましたけれども、これと同じような意味で使われていることが多いのです。
 実は、ご本家、1970年代のアメリカで自動車の中古車販売、この事業の中から生まれた言葉なんですね。もとは「お客様の満足が高ければ高いほどいい」ではなくて、例えば、お客さんの中に既存のお客様と新しいお客様といますと、新しいお客様を一生懸命開拓するよりは、既存のお客様にしっかり満足していただいて、また戻っていただくのが、商売にとっては非常にいい。営業の効率もいいし、効果も高い。実際には、数字で裏打ちをされた収益性の高いビジネスの、そのつぼ、事業のつぼのことを説明する。そういう概念だったんです。
 日本には都市銀行が輸入をしまして、ATMに何分並ばなきゃいけない、短ければ短いほどいい、あるいはカウンターで何分待たされるのか、航空会社であれば、機内食はどこがうまいか、そういうようなサービス水準の競争の話に置きかわってしまった。途端に事業の収益がどうかという話がくっついていかない。それはそうです。幾らでもサービスが行き届いて満足できればいい。ところが、都市銀行のATM、数をふやせばふやすほど事業が儲かるというわけではない。やっぱりコストはかかりますから、そのコストがかかるということに対して、実際どういうリターンをとるのか。そういうお金が流れるシナリオというのを考えなきゃいけない。そういう、本来はお金の流れるシナリオを考えるものであったにもかかわらず、サービス競争の話にすりかわってしまった。
(パワーポイント3)
 そのご本家の話をします。中古車に限らず自動車というのは、大体車検とか、点検とか、お金がたくさん要るとき、またお金をたくさんかけるのか、そういうふうに思ったときに、皆さんは買いかえを思いつく。買いかえるピークというのはそういったタイミングと連動しています。これは洋の東西を問わず、どこのマーケットでもそうなんですね。
 そのときに、お客さんには、考えるプロセスがありまして、最初にまず車種、例えばセダンとか、スポーツカー、そういうものをイメージする。その次に頭の中に入ってくるのは、いわゆるブランドといいますか、具体的に日産の何だとか、トヨタの何だ、頭の中に3つぐらいしか入らないんですね。10の車を比較検討して買いましたという方はめったにいない。大抵の方は2つか3つの中から決めるんです。頭の中の2つか3つの箱の中にほかの人よりも早く入れば、これは勝てる確率が出てくる。
 そういう意味で、買いかえのタイミング、一度売ったお客さんというのは自分でわかっていますから、そのタイミングに応じて、まずは先んじてオファーをする。この販売効率はきわめて高いわけです。自動車本体だけじゃなくて、保険もありますし、金融もありますし、いろんなサービスでお客さんとの接点をふやしていく。そういう中で満足をしていただくことによって、またお客さんが戻ってくる。お客さんとの接点が増えれば、いろんな情報がわかる。さらにいろんなものがオファーできる。今でいうと、金融機関のCRM、コンティニュアス・リレーションシップ・マーケティングとか、カスタマー・リレーションシップ・マネジメントという言い方をしていますが、これと同じです。お客さんのことがよくわかることによって、またそのお客さんを喜ばせることができる。こういう事業のつぼ、何を外しちゃいけないか、何を押さえなきゃいけないか、そういう話が元祖なのです。
(パワーポイント4)
 きょうの話は、この赤と緑と青、デザインの専門家の方から見ますと、情けないぐらいカラーコーディネーションが哀れなんですけれども、パワーポイントで簡単につくっていますので、お許しください。このグルグル回る絵がたくさん出てきます。物事の良循環、悪循環、そういうお話がたくさん出てきます。
(パワーポイント5)
 例えば、どんな事業にもこういう良循環、あるいは悪循環というものがある。例えば、皆さん、多分非常になじみがあると思うんですけれども、高級な旅館、あるいはヨーロッパの4つ星のホテルをあげましょう。例えば、ヨーロッパのコンノートなんていう有名なホテルがあって、名家の方の定宿になっている。そういう方がレストランで食事をする。その方が左ききだったりすると、お肉と野菜が逆に出てくる。左ききで、お肉と野菜が逆に出てきて、どのくらいうれしいかわからないんですけれども、とりあえずお客さんとしては特別な扱いをしてもらった、うれしいわけですね。従業員の覚えもいい。ほとんどお金のかからないことでお客さんに喜んでもらって、また来てもらう、これが商売にはたいへん都合がいいわけです。
 これは当たり前の話、皆さんご存じの話、リピート率が向上して、常連化をしていく。客層が安定をして、従業員の満足があり、また収益も高い。したがって、新たにお客さんに対して再投資ができる。特定のお客さんにフォーカスをしていくことによって、また利益があって、これをそのお客さんの喜ぶところに再投資ができる。こういうふうな良循環というのが必ずある。
 昔、沖縄で3つほどホテルの比較分析をしました。お部屋代というのはほとんど変わらないんですが、そのうちの1つは、できて間がない、部屋が埋まらないので、団体客を呼ぶ、団体のお客さんが入ると、添乗員の方がロビーで大声で点呼をしたりする。すると、1人で来ている方なんかは、ここはちょっと嫌だなとなります。
 皆さんがよく行かれる居酒屋さんとか、レストランとか、最近ちょっと雰囲気がいまいちだな、ということもあると思います。昔、全米ナンバーワンで鳴らしたハレクラニホテルも、バブルのころには地上げ屋さんがいっぱい行って、雰囲気が悪くなった、と言われました。
 そういう話は枚挙にいとまがない。非常に微妙な事業のつぼを押さえたり、外したり、ということで、良い循環になっていくこともあるし、悪くなってしまうこともある。そういう事業の浮き沈みといいますか、事例をたくさん見ていますと商売というのはまさに生き物だなと。
(パワーポイント6)
 もう少し複雑な事例といいますか、皆さんもご存じの日産リバイバルプラン。いい話なので、実名でいってしまいます。ゴーンさんが初めて書かれたという『ルネッサンス』というご本とか、実際に日産の方にお話を聞いたところで、その良い循環に回ってきたところを簡単にまとめてみました。ルノーという会社がグローバルな自動車市場の中でどうやって生き残っていくのかという意識があったせいか、世界の市場におけるルノー本体そのものの危機感、そういうものをトップの方が持っていて、非常に明快なフォーカスがある。当然コミットメントというのも、凄い。今では日本で尊敬される経営者ナンバーワンに上り詰めてしまいましたから、大変なものです。
 1つ大事なポイントは、優先施策の実行、要するに、何をやったかというところです。たとえば調達コスト、自動車というのはアセンブリー型、組み立て型の製造業ですから、調達コストというのは非常に大きい。3割、4割を占める。そこにメスを入れるというのは非常に大事なことなんです。ところが、日本の製造業、自動車にかかわらず、調達のところにメスを入れるというのは非常に難しい。
 日本というのは系列型、下請、孫請構造というのができています。関連会社化しています。あるいは過去のしがらみというやつがあります。昔厳しいときにお世話になったから、今ちょっとコストが高いからといって、無理やり切り捨てるわけにもいかない。そんなようなことがありまして、また、関係会社のぼんくら息子を縁故採用しているとか、いろんな形で系列関係会社というのがしがらみになって、なかなか調達というのは手がつかない。
 ところが、世界で見ますと、事業のコスト削減で一番最初に目をつけるところはここなんですね。コンサルタントの方が、コスト削減プロジェクトというと、まずここに目をつける。ある種のベストソーシングをする。あるいは調達の担当という人が常に固定しているときは、その担当者をかえるとか、いろんな手を下すことによって、かなり短期間にインパクトが出る。
 次に製造のお話をしますと、幾つかの工場があって、稼働率がみんな低い。4割ぐらいしかいかない。これを1つにまとめて高い稼働率にする。これもインパクトが出る。ある意味では短期的に収益インパクトが出るところをきちんと押さえてやっている。ただ、日本ではとても大変なことですね。さっき申し上げたような関係会社、今の社長は昔の専務で大先輩だったりするわけで、そういうようなところに大なたを振るうというのは非常に難しいことです。ただ、収益というのが現実に出る。
 ここでは有利子負債というのが一番大きな問題でしたけれども、そこに成果を出すところまできた。結果がでれば、さらにまたスピードがつくということです。皆さんご承知のように、会社というのは、1割、2割ぐらい非常に優秀な方がガーッと引っ張る。あるいはちょっとどうかなと思うような、ぐずぐずしている方も2割くらいいる。真ん中辺の方、大半の方が、付和雷同型で、うまくいけばどんどん乗っかってくる。
 そのようなことで、施策を実行して、インパクトを見せる。「だから、いったとおりだろう。一緒にやろうよ」、こういう働きかけるプロセスというのができている。こういうふうに単純に書いちゃうと、非常に当たり前のことのように見えるんですけれども、簡単ではありません。たとえば、月間販売台数ベストテンに3台入れるとか、そういう目標を優先施策で挙げていたら、これはかなり難しい。この近くにある車のメーカーさんもありますし、難しいことだった。
 そういう意味では、かなり冷徹に、どこで収益が上がるか、最初のインパクトを出せるか、というのを考えて、そこで上がったお金を次にどう投資をするか、そういう順番がきちんと考えられている。当然、今は売れる車をつくろうというところに重心が移っていますから、新しいおもしろいことをいろいろやっている。こういう事業のめぐり合わせというか、循環というのがとても重要な意味をもっているわけです。
(パワーポイント7)
 なかなかうまくいかない例もあります。GMS、ゼネラル・マーチャンダイジング・ストアといいまして、大まかな定義としては食品の売り上げの合計が全体売り上げの半分に満たない、そういう総合スーパーのことをいいます。
 こちらのGMSでは一時、衣料品をユニクロにしたい、化粧品はマツキヨにしたい。世の中で本当に今を時めくカテゴリーキラーの集合体にする。こういうような戦略でした。これはやはり予想どおりうまくいかなかった。ビジョンのところからつまずくということが実際にあり得るわけです。
 ちょっと余談ですが、小売りのお話をしますと、小売りというのは最近特にマーチャンダイジングですから、だれが、どういう人が、どういう理由でこの商品を買うのか、何でこれを買うんだ、なぜそこで買うのか、そのなぜということを一生懸命問い詰める。そういうスキル、カルチャーを持った会社というのが伸びています。
 ゼネラル・マーチャンダイジング・ストアの場合には、皆さんもご経験あると思いますが、土日にお父ちゃんが車で、家族みんなを乗せて行って、食料品だけじゃなくて、トイレットペーパーを買ったり、ビールを買ったり、大きなものを車で運んでくる。そういうお客さんが結構な量いる。これが例えばマツキヨのお客さんと同じですか、あるいはユニクロに来るお客さんと一緒なんですか、もちろん違います。そういうようなことが基本的に考えられてない戦略でした。
 ビジョン、フォーカスもさることながら、どういうスキルを持っているかも重要です。この会社にはこの会社のもっと有効に活用できる資産というものがあるはずなんだけれども、今を時めくスーパー起業家の事業モデルに目がくらんでしまったのか、これは非常に残念。
 グッドニュースは、最近また食品スーパーというのを基軸に立て直そう、ということです。3〜4年ぐらい前に、このグループの中にある食品スーパーを買収したいという会社もあったぐらい、マーチャンダイジングの力もある、プロモーションの力もある、そういうスーパーなので、ぜひこの機会にこれまで果たせなかったV字回復を達成していただきたい、こんなふうに願っております。
(パワーポイント8)
 というふうに見てきますと、事業というのはやはりツリーではない。事業の数字というのはツリー状に書けます。これに対して、売り上げが下がっているから、たくさん売れ、コストが上がっているからコストを下げろ、このような言い方ができるんだけれども、これ全部一緒にやっても決してうまく回っていかない。これはもう皆さん、本当に肌で感じられていることだと思います。
 いろんな事業のお手伝いをコンサルタントのときにいたしました。コンピューターに食品、鉄鋼、石油、薬、かなりいろんなものをやりましたけれども、やるべきことをきちんとやって、一生懸命やっているのに成果がなかなか上がらないというケースはそんなにないんですね。逆に、やるべきことがきちんと定義されてない。事業課題のことをイシューとよくいうんですけど、イシュー・デフィニションができてない。これが一番の原因というケースが多いんです。
 実は、イシュー・デフィニションをするのには、例えば各部署ごととか、数量を伸ばすための営業部とか、さっきのコストを下げる調達の部署、そういうところだけで考えていてもできないんです。結局、会社というのは、事業がうまくいくように、ある種、部分最適するような格好で構造ができていますので、建築の構造のように複雑なものはやっぱりつくれないわけで、大体の会社の組織というのは縦割りのツリーになってしまっている。その部署ごとで部分最適が起こってしまうので、それを横串にして改善をしていく、このような動きがなかなかとれません。
(パワーポイント9)
 これが、さっきのゴーンさんのNRPの話に戻りますと、クロス・ファンクショナル・チームというのが解決しています。要するに、例えば先ほどの調達コストを下げるということになると、デザインの方、製造技術、生産管理の方、材料の基礎研究している方、こういう方が一堂に会して、方針のすり合わせをしなきゃいけない。こういうクロスファンクショナルな動きの中で、本当にタブーのない議論というのをやって初めてイシュー・デフィニションができます。だから、問題を定義するところが実は一番難しくて、そこをやるときにしがらみとか関係というものが邪魔をする。
 ここを超えますと、結構、事業の因果関係、コーザル・ループというものが見えてきて、それによって組織をよい循環に直していくことができる。
 ここまでのお話で、うまく伝わったかどうか自信がないんですが、事業というのは1つ、メカニズムです。うまく回っていくとどんどんうまく回るし、悪く回るとますます悪く回っちゃう。そういう良循環、悪循環がある。ある種の生き物みたいなもので、そのつぼがあるし、物事の順番がある。今やっていいこととやっていけないことがある。そのメカニズムみたいなものを見るためには、かなり全体観を持って全体の仕組みを押さえなきゃいけない。



2.都市も有機体

 きょう、実は、ハードな建築とか土木的なプロジェクトの方がたくさん来られているんじゃないかと期待しているんですが、そういう方は、ふだん相手しているのが都市という生き物ですから、僕の見方かもしれませんが、皆さんの方が、もしかすると、お金の専門家の方よりは生き物に対するリテラシーが高い。多分、メカニズムとか、いい循環、そういう言葉についてはご理解いただけるんじゃないかと思います。うまく回っていくもの、外すとまずくなっていくもの。これがまさに都市だという話を少し続けたいと思います。
(パワーポイント10)
 都市が生き物というのは、公理として、これを証明するのは差し控えます。例えば、シムシティみたいなゲームソフトが昔はやりました。これとそっくりな、現実にアメリカのある都市の例をお話しましょう。コネチカットのある町で税収が減っている。税金がどんどん不足していて、どういうことをやったらいいのか。考えたのは、最低敷地面積を半分にして、ファミリーの方をどんどん入れていこうじゃないか、という施策でした。向こうですと、最低敷地が1エーカー、1200坪です。うらやましい話です。これを600坪にして、たくさん人を呼んでくる。それによって税収をふやそうと考えたのです。
 ところが、ファミリー層が大量流入すると、どういうことが起こるか。学校がたくさん必要になる。学校がたくさん必要になると、当然またお金が必要になるということで、さらに税収の拡大の必要性がある。こういうようなことをシミュレーションしたのです。最近はいろんな技術がはやっていまして、もうかれこれ15年ぐらい前からオペレーション・リサーチとか、システム・ダイナミクスの考え方で、問題を解くことができます。
 結果をみると、これはえらいこっちゃ。今はいいかなと思って、最低敷地を半分にしたら、将来とんでもないことになる。これはある種の悪魔のサイクルですね。こういう悪循環がわかってしまった。当然この案は採用されなくて、無事、1エーカーゾーニングの立派な住宅地ということになっているわけです。
 こういう都市のサイクルということを考える上で、建築の仕事をやめてコンサルティングをやりましたときに、おもしろい体験をしました。それをちょっとお話します。
(パワーポイント11)
 ちょうど1980年代の終わり、バブルの真っ盛りといいますか、はじける直前ぐらいですけれども、東京と横浜と大阪に240ヘクタールぐらいの新しい町が3つ忽然とできる、そういう計画がありました。1990年から95年ぐらいにお台場の湾岸の副都心と、みなとみらいの町と、関空のところのりんくうタウン。すごく乱暴な言い方をすると、1つの町が大体30個ぐらいスーパーブロックがある。1つのスーパーブロックが1ヘクタール。小学校1個分ですね。30個で、容積が、大体800とか、1000ですから、240ヘクタールの町が、オフィス、ホテル、商業、こういうものがドーッとできる。そういう計画だったんです。
 それ以前に土地の値段が下がるという経験をしてないので、私も最初80年代は建築業界の一員として、熱狂していました。最近日本ではロビーは全部大理石だぞとか、アメリカに行って仕事をしたりしていたので、アメリカはなんてモノをつくるのが不自由なんだろうと、今思うと恥ずかしいんですけれども、そんなことで熱狂していました。
 その後、こういった巨大都市の計画について財務のリストラをやる機会がありました。要するにお金のつじつまが合わなくなってしまったので、どうつじつまを合わせるかというプロジェクトに携わったんです。ハードの方は一切タッチをしない。それをやってみたときに、初めて、当時この3つの町がいきなりできる計画であったということがよくわかって、「本当かよ」ということを疑ったわけです。
 1つ1つのブロックが、当時の考えられる採算性からいくと、大半がオフィスになるんですね。ホテルが少しできる、ちょっと商業施設、金太郎あめみたいな感じですね。そういうあめが30個できる。Aブロックは住友グループ、Bブロックは三菱というふうな形で、当時の最先端の企業グループで設計をしたわけです。
 それぞれの敷地についての需要予測は成り立っているんだけれども、全部合わせるとどうか。一時のITバブルみたいなもんですね。1つの会社で見ると、確かにこれだけの需要をやっていくと右肩上がりなんだけど、全部足してみんな儲かるわけがない。必ずどこかグシャッとなる。これを都市計画なりやっているときにいえたら大したもんだなと思うんですけれども、全然そんなことはなくて、後から振り返って、後の祭りだったんですが。
 このときに、おもしろかったのは、この1つ1つの町が新宿の西口、副都心、今は大分ふえたと思いますけれども、93、94年当時で床面積が200ヘクタールぐらいの町だったんですね。これが一体どういうふうにできたのか。
(パワーポイント12)
 新宿の場合、200ヘクタールできるのに20年かかっている。きょう拝見した感じだと、岡林信康とか、高石知也とか、そういう名前に反応される方も何人かいらっしゃるんじゃないかなと思うんです。西口広場でみんながただで集まって歌を歌っていたような時代から、新宿というのは東口がありまして、デパートもあれば歌舞伎町もある。どぶ板横町、いろんな周りの関係があって、その中で人が集まって、商売やらいろんなアクティビティーがあって、それがお金を継続的に生む事業になったり、そういう 相当な淘汰の歴史を経て、ようやく200ヘクタールができている。
 これを3年から5年ぐらいで全部つくってしまおうというのはやっぱりおかしいというのが、ますます新宿を見てわかったわけです。
 新宿の町を見ていても、多分きれい事じゃなくて、ある種の資本の論理に根こそぎ引っ張られて、なくなってしまったものもあり、あるいは開発の方向に対して水を差すようなものが淘汰をされる。必ずしも、正しいか悪いかという議論ではなくて、経済的なせめぎあいの中でモノが熟成していっている。それには時間がかかるわけです。街づくりにとっては、非常に当たり前のことなんですね。
(パワーポイント13)
 ですから、空間ができると、すぐにさっきのような事業が回るのか、というとそうじゃない。また、この赤と緑と青のグルグルですが、空間が事業をつくるんじゃなくて、商売をつくるのは人です。人が集まって初めて商売になる。新宿なんかを見ても、空間があって人が集まってきますが、この空間というのは、最初はバラックや広場みたいなところだったかもしれない。そこに人が集まってきて、商売が起こって、頻度が高くなって、四六時中なにがしかのアクティビティーがある。そうすると、初めてハコモノ化していく。アクティビティーがハコモノ化していくというのがプロセスであって、空間からすぐビジネスというところが難しいんじゃないかなと思います。
 さっきの埋立地なんかでも、公園とか遊園地、美術館、いろいろ計画はあるんですけれども、それで人が自由に集まってくるというわけではない。
(パワーポイント14)
 最近の開発、再開発を見てみますと、非常に厳しい統制といいますか、コントロールをやっている。たとえば、再開発なんかでレストラン街をつくるとなると、やっぱりイタリアン1軒、中華1軒、和食1軒、そんな形で割り振りをします。そうすると、全体としてのバラエティーはあるんだけれども、例えば、競争というものがあまりない。イタリアレストランで競争するというシチュエーションもない。そこに入ると、ある意味では独占商売になってしまう。
 ちょっとぼろいレストラン、ぼろい場所で年寄りのおやじや夫婦が一生懸命うまいものを食べさせたくてお店をやっているというのが、最近テレビの12チャンネルなんかひねると必ず出てくるじゃないですか。そういうところがおいしいと僕らはわかっているはずなのに、なぜか再開発プロジェクトをやると、そういうものは絶対入ってこれない。こういうような開発計画の限界といいますか、どうしても一瞬にして物をつくっていこうと、複合ビルを考えていくと、どうしても物を育てていくというのは非常に難しい。
例えば、さっきの東京、大阪、横浜、この辺みんな元は海でしたから、1000%の容積のオフィスをつくる前にもっといろいろ欲しいものがある。例えば、海の風景を見に若者が車でやってきて、ボーッと女の子と一緒に海を見て、お金ないけど、ちょっと立ち寄れるカフェが欲しいとか、あるいはカラオケみたいなものが欲しいとか、もう少し地べたをはったような、バザールみたいな、そういう楽しい商業が欲しいとか、こういうことが計画の中で全然かなえられないですね。
 どうもそういうものをかなえるには、800%とか1000%というのはちょっと多過ぎる。できないわけじゃないんだけども、そういう中で物をつくることによって、効率は決して高くないですね。むしろ200〜300%ぐらいで、容積率というのはお金に換算されていますけど、1階建てでもいいや、その余剰部分は使わなくてもいいやぐらいの懐の深さで商売ができると、バザールもできるし、ちょっとした気のきいたカフェもできる。これが800%の箱の中にいるというのはかなり難しいということです。 



3.有機体の自己調節

(パワーポイント15)
 新宿の街のモデル、あるいは埋立地のスーパーブロックの街にかわる都市のモデルはないか。たまたま行き当たったのが横浜の中華街です。横浜の中華街を挙げているんですけど、どちらかというと、世界じゅうのチャイナタウン、僕はサンフランシスコに住んでいたこともあるんですけど、サンフランシスコのチャイナタウンというのもやはり同じようなイメージといいますか、同じような性格、素質を持っている。これは当時、中華街の元締めの方で、たしか萬珍楼の社長さんだったと思うんですけど、インタビューをした結果です。そのときの内容をそのままきょう持ってきました。今見ても非常にすばらしい。
 中華街の場合、バブルのころに地上げというのはほとんどなかった。そういう意図が見えたときには断固阻止する。なぜか、その問いに対して、キャピタルゲインというのは非常に一時的なものだとおっしゃるのです。「青木さん、インカムゲインで100年、200年儲けることを考えたら、一時のキャピタルゲインなんて、ケシ粒のようなものだよ」と。「ハハア」と思いまして、中国4000年の歴史とはよくいったものだと。本当に地べたで商売をして、これを10年、20年、100年、200年と続けていくことの方が、この土地を一たん転売をして、何億儲けましたという話よりもよっぽど収益インパクトは大きい、お金に換算した価値が高い、こういう発想なんですね。
 おもしろかったのは、中華街というのはいろんな料理があるはずだ。広東料理もあれば、上海もあるし、北京もあるし。どういう協定といいますか、ルールでやっているのかとお尋ねしますと、「何もないです。広東料理ばっかりになっちゃいかぬとも思わないし、上海料理がなきゃいけないとも思わない」。要するに、協定とか、調整とかいうことはしない。できる限り、新規参入も含めてみんなが頑張って商売をして、それでいい価値を提供している者が残る、そういう人たちが残って、ちょっとサボっている人は、商売がまずくなっても、それはしようがない。そういう考え方について、さんざんお説教されまして、それはすばらしい。
 もうひとつは、人の流れが垂直なビルの中に入っていない、建物の中に隠れていないで、地べたをフラフラ動いている。
 横浜の場合には年間2000万くらいお客さんが来るんですね。90年代にはディズニーランドの次ぐらいに首都圏の中では人が集まるところでした。これは当然中華街だけじゃなく、元町商店街とか、港のみえる丘公園、山下公園、あるいは外人墓地、その辺のところを人が動く。そういう回遊性のあるにぎわいで、地べたを歩いている人こそがビジネスチャンスだ、そういうお話を聞きました。
 動いている人の流れがあるとすると、そこに新しい人がお店をちょっと構えることもできる。そうすると、また新しい商売ができてくる。新しい飲茶屋さんでも土産物屋さんでもとにかく一生懸命やる。中国から新しく来た移民の人が一生懸命、人の倍働く。そうすると、昔から来ていて普通にしか働かない人よりは、もっとおいしいものをお手頃に提供することもできる、その方が淘汰をしていく。それはあり、というのが、中華街のお話だったんですね。
 ここでは、キャピタルゲインというのは所詮その程度のものかという話も、お金の専門家の方にはぜひ言いたいんですね。というのは、事業価値あるいはプロジェクトの価値をどういう単位ではかるか、多分皆さんご存じだと思うんですが、ネット・プレゼント・バリューといいますね。事業が将来にわたって生み出す利益というものを現在価値に割り戻す。ディスカウント・レートというインフレ率で割り戻して、現在幾らと。これは伝家の宝刀で、アメリカの経済、ウォールストリートは、もうこれがすべて。ファイナンスというと、これを学べば学んだような、ちょっといい過ぎかもしれませんが、そんな方法なんです。
 ところが、この方法では、100年、200年のインカムゲインという中華的発想を価値として勘定するというのはできません。というのは、実は100年、200年のインカムゲインって、ほぼ無限大なんですね。これがある値に収束するかというと、収束しない。逆にいえば、金融技術で使うネット・プレゼント・バリューというのは、必ず収束するような、そういう境界条件で事業評価をする。それを超えて、将来無限大の価値があるようなものは、実は切り捨てる。そういう考え方になっていまして、だから、この中華街でいわれたインカムゲインがずっと続いていくというのは、金融の専門家の方においては、数値に置きかえられないありえない話になってしまう。そのくらいすごいことなんですね。
 話を戻しますと、中華街の場合には、自分たちのルールは、これが協定とか調整とかではなくて、ある種の市場原理なのです。いいものが残る、淘汰を経て選ばれるものが残っていくというメカニズムを意識的につくることによって、街に常に何かしら新しいものが生まれて、あるいはすたれるものもあり、それでいいんだ、というわけです。ところが、生活に困っている方にはきちんと対応する。ちょっと今大変だというときには、あるとき払いの催促なしということでお金を貸すこともあります。ただ、その人のビジネスが、一生懸命やってないのに、特別扱いをするとか、だめなんだけれども、何とか儲かるようにとか、そういうことは一切しない。このような大原則を教えていただきました。
 そういう意味で、我々がずっと執りつかれていた巨大開発プロジェクトの中で、まさにこんなものがアンチテーゼになるなんてことは思わなかったんだけど、実際に中華街の話を聞いてみますと、非常におもしろい開発モデルにもなるわけです。
(パワーポイント16)
 ちょっと海外の例も見てみます。これはサンフランシスコという街の話です。これはある種の地上げです。地上げなんですけれども、土地の転売ではない。この町はマーケット・ストリートという、町を斜めに切る道がありまして、その南側、下のブルーのところが、いわゆる工場とか倉庫のあったゾーンです。これは20世紀後半は大分すたれて、犯罪も多かったり、ちょっとうらぶれた雰囲気。そこに芸術家の方が、ソーホーみたいなもので、ちょっとおもしろい空間にクリエーティブな場所として入ってくる。芸術家の方、建築家とかがまず入ってくる。その次に、もうちょっとヤッピーというんですか、法律事務所とか会計事務所が入ってくる。この人たちは建築家よりもちょっとお金を持っていたりしまして、自分でレストランをやってみようとか、カフェとかディスコ、クラブ、こういうものが少しづつできてくる。
 人が入ってくることによって治安がだんだんよくなってくるので、今度は住宅街。高齢者向けの住宅ができたり、ちょっとアバンギャルドな雰囲気の街ができたり、こういうような形で回っていく。
 土地がただ単に価値を生まないまま転売されるのではなくて、なんらかの価値を生んで、その価値を感じた人がまた入ってくる。これは地上げは地上げなんですけど、それなりに全体の地盤がパワーアップして魅力的な街に成長してくる、そういうメカニズムがあります。
(パワーポイント17)
 今見てきたような事例では、決して調整とか協定とかではなくて、市場原理です。物が選ばれる、選択される市場原理というものができていきます。
 ちょっとまた事業の方に戻りますが、今世の中で調整の限界ということがいわれています。例えば、さっき私、缶のお茶を飲んでいたんですけど、こういう商品を売っている会社は莫大なマーケティング予算を持っている。この予算をたくさんあるブランドのどこにどれだけ振り分けるか。あるいはチャネルと言いますが、酒屋さんもあれば、スーパーもあるし、コンビニもある。どこにどういうふうに振り分けるか。これは常に頭の痛い問題なんですね。
 予算の最適配分と言います。これはあらゆる会社、消費財の会社でも、もちろんお役所の予算もそうかもしれません。本当に難しいので、結局最後は、前年比何%だとか、何となくわけのわからない、足して2で割るとか、そういう形で決まっちゃったりするんですね。最適配分、最適化というのは物すごく難しい。最適をするときに、やはり調整では限界がある。
 スーパーマンみたいな営業部長がいて、割り振りをしてくれるといいわけでありますけれども、なかなかそうはいかないということで、例えば、アメリカの銀行、これは西の方の銀行ですけれども、商品がいろいろあります、チャネルというのもたくさんある、やっぱりこれもどこにどういうお金を振り分けるのか。これでたどりついたのが、最後は、コンペティション・モデル。調整するコーディネーション・モデルではなくて、競争させるコンペティション・モデルなのです。
 どういうことかといいますと、プロダクトにはそれぞれマネージャーがいて、その人が予算を持っている。その人は自分の商品をできる限りたくさん売りたい。チャネルに対して、うちの商品を売ってくれたら、あんたんとこ、何セントか儲かりますよと、それを提示するわけです。チャネルの方は自分のチャネルを通じてたくさん商品をさばいて、売り上げを上げたい。だから、チャネルの方から商品に対して、「うちのチャネルを使ってくれたら、コストは何セントですみますよ」、そういう競争をするわけです。このマトリックスの中でお互いに競争して、市場原理が働いて、落ちるところに落ちる。ある種の最適化が起こっていく。こういうふうな調整ではなくて、競争、ある種の市場原理というものを軸にしている。
 建設業界というのは、基本的に調整が非常に多くて、いろんなところで、調整の技術というか、多分に発達していると思うんですけど、最近の1つの弊害というのは、努力をしないで得られるものは、人間結局一生懸命やらない。これはもう世界共通の人の性(さが)です。 
 ソニーの出井会長が中国のベンチャー起業家と対談したときに、日本というのは商団がある。商いのグループがあって、これがここまで競争力がなくなってしまった1つの原因だ、と指摘していました。努力をしないで得られるものには、それなりの努力しかしないということでしょうね。だから、これは性善、性悪ということではないんでしょうけれども、やっぱり頑張った者に凱歌が上がる、成果を得た者にご利益がある、ご褒美がある。そういうような形の方が物事がうまく回るのではないか、と思います。
(パワーポイント18)
 この市場原理というのも、もしかしたら、都市開発に何か使えるのじゃないでしょうか。例えば、容積というのも、さっきお話をしたように、いきなり30ヘクタール全部、800%じゃないだろう。そうすると、街ができる初期は、200%ぐらいで使いたい。街がだんだんとできてきて、人が集まって、オフィスを開発したいという人が出てくる。あるいは人がいるからそこに出店したいという人が出てくる。そういうふうになったら、とっておいた容積を少しあげる。そういうふうな容積の取引とか、容積の売買というと問題かもしれませんけれども、容積を融通するようなやりとりというのはないものだろうか。特に街の成長、都市の成長というようなものに合わせて、容積をうまく使いこなす。そういうことがあってしかるべきではないか。
 例えば、容積を持っている人が、自分が投資できる容積を需要者にオファーをして、容積の需要者の方は、自分が利用することによってどういう収益が上がるのか、を提案する。そういう方法であれば、市場原理にのっとって容積そのものが動くようになる。そういう都市計画市場もおもしろいんじゃないでしょうか。
 こういう目で見ますと、今はやりの24時間パーキングも面白いです。これも本来、容積があるところを容積100%で抑えて、100%本当はないんですが、それなりに収益を上げる。今何していいかわからない地主さんの収益がとりあえず上がる。駐車場不足や渋滞ということも解決できる。あるいはその街にやって来る方の利便性も向上する。無理矢理ハコモノ化しない方がよほど街の成長に寄与しているのです。確かに虫食い状態になったバブルのつめ跡の土地に24時間パーキングが出てきますと、美観的にはよろしくないということもあるかもしれません。でも市場原理で容積はいらない、というところなのですから、理に適っています。
 都市計画家の大好きな佃島の路地みたいなものも、ある種の都市の成長に対する調整しろです。この24時間パーキングみたいなものも、一時期都市をうまく使うための暫定的な利用の仕方で、自然発生的なものはやはり強いな、と思うのです。ですから、立派な計画を立てていても、容積というのはもう少し流動的に、街の成長に合わせて柔軟に取り扱われてもいいんではないでしょうか。このようなことも、市場原理を軸にして考えると、アイデアとしてはあるわけです。
(パワーポイント19)
 調整ではなくて、市場原理が大事というお話。これはレジュメにもお示ししたんですけれども、我々の人間の体のメカニズムというものと、実は結構重なってくる。僕らの細胞の中で何が起こっているかというと、調整ではなくて、競争が起こっているんです。その細胞の中に新しい敵が入ってきますと、それをやっつけようと。平衡状態というのにたどりつこうとして、悪いのを取り込んで、なおかつ平衡な状態、安定な状態にもって行こうということで、細胞が動くわけです。そこで起こっている相剋は、ある意味では競争で、それこそ実は本質的であって、体の中で調整、協定、談合というのはあり得ないですね。淘汰をされるメカニズム、そういうものを持つということが都市にとっても非常に大事なことであって、事業でもしかり。こういう市場原理が今までお話ししたところです。

 もう1つ、生き物の非常に特徴的なことですが、物事は常にSカーブであり、決して一次曲線ではないということ。黎明期と成長期と成熟期というのがあって、最初は投資をしたんだけれども、なかなかリターンがない。あるタイミング、変曲点を境に、いきなりグワーッとこれが伸びてくる。これがまたある時期を境にだんだん伸びなくなっていく。投資をするのに対してリターンがなかなか得られない状態になっていく。こういう成長過程の道筋をいろんなものが歩んでいて、生物もしかりですけれども、例えば、商品、こういうコンピューターでもそうですし、いろんな商品の成長というのは、こういう曲線を描きます。
 黎明期と成長期の変曲点ということをブレークポイントとか、例えば、グワーッと上に上がっていくところを、最近ですと、はやりの本で『ティッピング・ポイント』、要するに臨界点と呼びます。ある臨界点を超えると物事が急速に劇的に広がっていく、このようなポイントがある。そういうふうにあらゆる物事が動いている、そう言われています。
 例えば、商品やサービスということを考えると、黎明期のときに広告宣伝をやります。広告宣伝をいっぱいやって、それによって知名度を上げる、認知度を上げるために投資をある程度続けます。その後、いいものであれば、成長期にさしかかると、放っておいてもどんどん伸びていく。有名になった名前が売り上げを呼び、売り上げがさらに売り上げを呼ぶ、そういう良い循環ができます。うまくいかないときは、成長期になっても全然ひとり立ちをしていきません。そのあたり、商品やサービスというのは、全く不特定多数の方に、その商品を買っていただくという、同じ行為をしてもらうわけで、ある意味では都市においても不特定多数の方に同じ行為をしてもらってこそ、街がよくなっていくのだと考えると、同じようなこと、同じような仕掛けが実は効くのではないか、と思います。 
 そこで、お話したいのが、ニューヨークの犯罪率低下のサクセスストーリー。これは非常に有名な話なので、多くの方がご存じだと思います。私より詳しい方がいらっしゃるかもしれません。1994年、警察本部長でウィリアム・ブラットンさんという方が就任をして、彼がある種のSカーブのような現象を使って、都市の、ニューヨークの犯罪を極端に減らした、と言われています。今では、ニューヨークは東京よりも犯罪の発生率が低いという統計もあるぐらいです。彼が最初に注力したのは、まず、地下鉄の落書きを消す、ということだそうです。スプレーの落書きを来る日も来る日もきれいにして、また汚されて、それをまた消してと、これを徹底的に繰り返す。
(パワーポイント20)
 そういうことで、だんだん地下鉄がきれいになってくる。その次にたくさんお金を投じてやったことは、無賃乗車を取り締まることでした。
 皆さん、ご存じの方が多分いらっしゃると思いますけれども、回転式のバーのところを飛び越えて、お金を払わないで地下鉄に乗るやつがいるわけです。犯罪率の高いときには、さっきの会社のお話と同じで、本当に悪い人は一部なんだけれども、悪い人が全く取り締まられていないから、「じゃ、いいじゃないか、おれも」という人たちがたくさん同じことをやる。そこで、ふやした警察官を駅に配置して、徹底的に無賃乗車を取り締まったそうです。
 だから、「凶悪犯が多くて、どうしよう、この街の問題は」と思っていると、何もできないんだけれども、まず彼のやったことは、落書きを消す、無賃乗車をさせない。そのことによってだんだんお客さんが戻ってくる。清潔感というのもあるし、警察官が駅にいるという安心感もある。警察が気にしているぞということで、人がもっと戻ってくる。結局は人の目、お客さん自身が最大の抑止力になる。こういうふうな良循環になっている。たくさんの人がいるので、お客さんがさらに戻ってくる。
 この流れを見てみますと、本当に大変凶悪な犯人をとにかく追いかけようということで人を配置するのとは違う、1つ2つの大事なつぼを押しながら、組織の自然治癒力を高めていくようなところがあるわけです。対症療法で大きな手術をするのと違って、指圧のつぼを押して、それで体がよくなっていくような、そういうことを感じるわけです。
 このブラットンさんというのは、「壊れた窓の論理」というので有名です。それは、1つの窓が壊れていて、それをだれも直さないと、このビルはだれも気にしてないんだなと思われて全部窓が壊れていく、そういうようなことです。
 結果としては、無賃乗車で取り締まったやつの中に凶悪犯がいたり、拳銃を持っているやつがいたりということで、大変な成果を上げた。小さなところにポイントを絞って大きく投資をすることによって、非常に大きなリターンを得ている。こういうメカニズム、これはすごく勇気づけられる話であって、この話は『ティッピング・ポイント』という本の中にも、物事があるときを境に非常に勢いを持って広がっていく、そういう事例としても取り上げられていますし、最近ですと、ビジネス書でも、この事例が取り上げられています。そういう意味では、悪い循環、良い循環というのは、われわれにとってとても本質的なんです。しょせん人間生き物であって、生き物のやることですから、生き物のつくっている都市も生き物だし、会社も生き物だ、そんな気がするわけです。
(パワーポイント21)
 ですから、この都市経営フォーラムでも、都市問題ということで、いろんな角度からいろんな方が論じています。やっぱり都市問題はツリーじゃない。
 ここに幾つか、最近話題になっているものを取り上げてみましたけれども、それぞれの問題が非常に難しい問題で、それぞれのところに専門家がいる。例えば、少年の非行の問題、少年犯罪の問題、その犯罪の心理学者の先生もいれば、警察の方もいる。結局問題の根っこを追いかけていくと、その根っこというのがまた別な病気にある。結局、親、家庭環境の問題とか、「親が離婚をしていて、トラウマです」なんて、「あ、そうか」みたいな感じで終わってしまう。それ以上何のフォローもなく、何となく問題が語られているだけに終わっていないでしょうか。僕ら自身が都市問題をツリー状に見る、その結果として、絶対解き切れないような絡み合ったお化け問題、そんなふうにとらえてしまっているんじゃないでしょうか。
 逆に、僕らがお化け問題ではなくて、どこか1つ糸口というふうに見ることで、これは解けるのかもしれない。むしろお化け問題と見ていることによって、我々自身が壊れた窓にしている、とも思えます。とてもじゃないけど解けないというわけで。こちらのフォーラムの最初のステートメントにもありますが、「20世紀の都市化が生んだ過密と過疎、いろんな問題が絡み合って、個々の対症療法だけでは解決できそうにない。」とあります。対症療法だけで解決できないということは、何らかの対症療法でないものが必要です。それは横につないだクロスファンクショナル・チームかもしれませんけれども、何かメカニズムをつくる。いい循環をつくる。あるいは風が吹けば桶屋が儲かる式の因果関係、コーザル・ループ、こういうところに実は重要な鍵があるんじゃないか、と思うのです。
(パワーポイント22)
 ちょっとハードな部分に目を落としてみますと、結構いろんなおもしろいことが起こっている。全然レベルの違う話かもしれません。ただ、1つのことをやったときに、それが周りに波及をしていく。この中にいらっしゃる方、自分のプロジェクトが何かほかのいい影響を生んだというご経験あると思うんです。ハードのプロジェクトをやっている方は、多分そういう経験が多いと思います。
 ここには幾つかの例が挙げてあります。例えば、森トラスト、森ビルさんのやった再開発の手法が、1つ新しい事業手法としての新たな地平線を見せるような話。あるいはケン・コーポレーションさん、賃貸住宅で外人住宅を提供して、今では外人のための優良住宅をつくるなら、まずケン・コーポレーションさんに話を聞かなきゃと、そういうマーケティングができて、ブランドができている。そうすると、例えば、ケンさんがこれからの住宅はこういう水準でなきゃいけないよ、このくらいのことがなきゃおかしいといえば、非常に訴求力が大きい。
 最近ですと、友人がコーポラティブハウスをつくる会社をやっておりまして、話を聞きますと、一昔前はだれも買わなかったような地形の土地がいまは売れているそうです。要するに、標準的な南面2室の奥行きの深いマンションをつくる、そういう土地しか余り売れなかったんだけども、最近はコーポラティブハウスもありますし、スケルトン渡しというのもあります。お客さんは多様化していて北向きでいい人もいれば、うなぎの寝床でいい人もいるので、地形の悪い土地の方が割安感があって売れるそうです。その中でどんどんいろんな方が参入して、昔は小さな事業者しかやっていなかったことを商社もやっているし、大きな不動産会社の方もやっている。そういう形で面白い動きが周りに影響を及ぼしていく。



4.構造転換

(パワーポイント23)
 こういう何かが別の何かを生んでいく。1つのアクションがまた次のアクションを生んでいく。こういう連鎖というのを何とかデザインできないか。都市経営フォーラムでデザインできないか。そういうことも考えられるわけです。
 今我々が抱えている問題の1つ、バッドニュースなんだけれども、実はグッドニュースかもしれない。というのは、少子高齢化。子供が少なくなって、65歳以上の人口の比率がどんどんふえていって、なおかつグローバル化。これは避けようと思っても避けられない。人の数が減るというのは致命的なといいますか、衝撃的な変化なんですね。
 これが確実に起こります。外国から、中国から、もっとたくさん人に来ていただけばいいじゃないかという議論もあるんだけれども、何しろ1億何千万いますから、130万人入ってきても、たかが1%ということで、この少子高齢化のインパクトは余りにも大きい。ということで、これが今まででほとんど初めて、人が大事な、非常に貴重な資源になりつつある。
 学校の関係者の方もいらっしゃると思いますけれども、最近、大学の子供に対する引きというか、アトラクションというのは大変なもので、昔はもっと、「来るやつは来い。おまえはだめだ」とやっていたのが、今は人が大事な、貴重なお客様、資源になっている。
 もうひとつは、今まで同じパイで全体が大きくなっていくときは、調整もきいた。でも、パイが縮んでいくときというのは、なかなか調整がきかない。自分の分を確保するということで臨むと、なかなか熾烈な競争になっていく。傷み分けというのは難しいわけです。成長期には調整もあり、協定もあり、談合もありだったんだけれども、今はこれがそうはいかない。今まで競争をしなかったものがどんどん競争している。付加価値の競争になっている。 
 付加価値の競争になってきますと、これは金融なんかでもそうなんですが、評価基準、評価水準というものが発達をしてきます。評価水準が発達してきますと、見せなきゃいけない。ちゃんとこうやっているだろう。公明正大に公平に見てくれということで、客観的に見せる、そういう圧力が出てくる。ディスクロージャーが必要になってくる。そうしますと、ますますお客さんとしては選びやすい。適者生存、淘汰する機能がより鮮明になってきます。
 残った人や事業者は、ますます顧客ニーズ志向になっていかないと生き残れない。今まで日本人というのは、基本的には日本株式会社で一生懸命働く民だったんだけれども、今初めて働く民からお客さんに昇格したような気がしています。こういうふうな1つの良い循環という目で見ると、実は少子高齢化というのはいいチャンスなんじゃないか。こんなふうにも考えるわけです。
(パワーポイント24)
 例えば、付加価値の競争でいうと、銀行が金利1.0%の住宅ローンを出しますとか、私がやっています保険なんかでも、病気になった後は保険料要らないとか、今まで放っておいても成長する世界では考えることもしなかった新しい価値、バリューを届けようとしている。今さら何だという気もするんですけれども、そういうもんなんでしょうね。
 こういう1つの循環ということを念頭に置いてみると、いろんなことが起こっています。さんざん受験戦争なんていっていたときに議論にも上らなかったんだけど、今都立高校の先生が予備校に行って、予備校の先生に受験勉強の教え方を教わっている。とんでもないですよね。こんなことまで起こっている。幼稚園と保育園という話もありますね。元首相を初めとする政治家の先生たちが段の上に上がって、「保育園には絶対台所が必要だ」と連呼しているのを見ると、この国ちょっと大丈夫かなとも思うんですけれども、こんな議論も今まではなかった。
 この青い輪の中に、いろんなアクションが出てきます。例えば医療機関の格付、これは金融機関なんかが始めています。ということで、住宅問題、交通問題、いろんな切り口で少子高齢化というのは起爆剤になる。これをどうつないで、連鎖をつくっていくかというところで、これから知恵の出しようなのかなと思います。
(パワーポイント25)
 先ほど最初の方に説明した事業の経営、非常にうまく事業を回した、良循環をつくった経営者の方のやり方をまねしてみますと、どういうことをしなきゃいけないのか、ヒントになります。
 まず、ビジョン、行き先を示す。どういう街にしたいのか。都市の使命とか、都市の役割、これについて何か思想、発想、ヒントをいろいろ考えて、例えば、観光立県、観光立国、あるいは高水準の住宅地とか、いろんな議論がありますが、例えば、ある都市が観光ということで生きていくのならば、もうほかの街と同じことは絶対やらないとか、非常にわかりやすいビジョンが示される必要がある。どこへ行っても同じような駅があって、同じような駅前の都市があるというのはもう嫌だ、と。うちは本当に観光でいくんだったら、それなりの、ほかには絶対ない、そういう姿を持たなきゃいけないと思うんです。住宅地としてワンランク上のすてきな住宅街をつくるんだったら、最低、木は家の屋根より高くなきゃいけないとか、街を歩いていて電柱が見えたらいけないとか、今までさんざんいわれていることなんだけれども、もう一回ビジョンという形で行く先を示すということを都市についてしてほしい。
 関係者がそのビジョンを共有化することによって、そこで優先課題、認識が高まってくるんですね。何をやらなきゃいけないのか。何をやるべきなのか。最初は、それに対してやってみせる。優先順位を決めて、おもしろいことをやってあげる。あるいは手本になることをやる。
 ゴーンさんの場合には、重点施策ということで、調達のお話、コスト削減のお話をしました。それから、クロスファンクショナル・チームというような概念というのもあった。あるいはニューヨークのウィリアム・ブラットンさんの場合には「壊れた窓の論理」ということで、非常に手がけやすい。でも、訴求、波及効果が大きいところを最初に押さえる。警察官の配置の仕方だったり、予算の使いどころ。そういうアクションを絞り込む。 
 多分今一番おくれているのが、エバリュエーションです。ゴーンさんの場合には、うまくいかなかったら、責任とるということもおっしゃっていましたけれども、どういう指標で評価をするかが大事です。アクションの結果というのを、いいことをやったら褒めてあげる。きょうは行政サイドの方がいらっしゃると思いますけれども、ぜひお願いしたいのは、いいことを褒めてあげることです。褒めてくださることによって、実はアクションというのはさらにまた回る。褒めるというのは、事業ですと、人事の評価、報酬規定、こういうものなんですけれども、都市の場合には、多分税制とか、補助金、あるいはある種の規制、規制の緩和です。そういうものは何もないところでお上が一生懸命考えてつくるというよりは、やっぱりビジョンに共鳴しただれかに走らせて、いろいろやらせてみて、その結果を見ながら、いいものに対して税制を考える、あるいは何かを緩和する、免除をする。そういう順番がいいのではないでしょうか。まさに事業がうまくいく、うまく経営を回していく、事業を再生している方がやっていることは、こういうものだと思うんですね。
 出井会長とゴーンさんの議論を聞いていても、ビジョンとコミットメント、プライオリティ、エバリュエーションとリワードというのがやっぱり非常にいわれている。最後いいものはいい、だめなものはだめ、これを示してもらう。やはり良循環をつくるには、要所要所に仕掛けがいるんですね。
 山登りみたいなもので、あの山の頂に登るということをまず決めないことにはいけない。そういう意味では、あの山の頂に登るんだと決めて、このルートをとっていく、北壁を通っていく、あとは、行き出すと、ここまで来たな、何合目まで来たな、あとこのくらいだというのがわかるわけで、非常に単純な話だと思うんですね。1人で山登りだと、今申し上げたのでいいんだけれども、何万人も登らせたりしなきゃいけないわけですから、そういう意味では、やってみせちゃ、成果はこうだろう、だから、いいんだよ、うまくいくんだよ、正しいんだよ、楽しいだろう。またさらに一緒にやってもらう。そういうふうに巻き込む過程というのがある。それが単に山に登るだけじゃなくて、グルグル回るというか、見せて一緒にやってあげて評価をして、乗ってきたら、さらにまたもう1つ上の課題へと。
 多分建築のデザインなんかをやっている方にとっては、つまらない絵だなと思われると思うんですけれども、逆に、きょうは皆さんにこれだけ、このビジュアルだけ頭に入れてお帰りいただきたい。ご自分の仕事の中で、何がどういうふうに動いていくのか、ハードなプロジェクトであれば、これをつくることによって、何が生まれるのかを問うてほしい。クライアントはああいうふうにいっているけど、本当にその事業はうまくいくのか、それがうまくいくとどうなるんだ、そういう因果関係、良循環、これを常に皆さんのチェック・フレームワークとして使っていただきたいと思うんですね。
 それはハードのプロジェクトでもそうですし、そうではない、例えば都市の問題に関して、あるいは事業を皆さんが横からごらんになるときに、本当にこの会社は再生できるか、その会社が生きていく、よくなっていくというのをどういうふうにはかるか、そのときにも使えます。
(パワーポイント26)
 本日、若干冗長にはなってしまいましたけれども、申し上げたかったポイントとして、事業というのはよくなるとき、悪くなるときというのは必ずある。おもしろいようにあります。どっちもどっちみたいなことはあまりなくて、よく回っていくときと、ちょっとまずくなっていくときとがある。それを食いとめることもできますけど、一たん回り出すと、かなり大変。どっちになっても手がつけられないということもある。そういう意味では本当に上手に回していくのが大事なんです。
 例えば、うまくいってないものをうまく回すときにはアクションの順番、あるいはその連鎖、AがどうBにつながってCにつながるか。だから、最初に、車を売ろうじゃなくて、最初にまず財務をクリーンにして、キャッシュを出して、負債を減らして、元気出して、決定権をこちらに握って、味方をふやして、それで売れる車をつくる、そういう順番の話です。
 都市も同じように、やはりアクションの連鎖、何が起こって、さっきのお話、空間がすぐ事業につながればいいんですけど、なかなかそうはいかない。やっぱり空間が人を何がしかの形で集めて、その人たちの中でいろんなものが起こってくる。そういうふうな都市計画、都市開発、都市再生というものが基本なんじゃないか。
 こういう事業を見ても、都市を見ても、やはり生き物かなと。有機体、ある種の市場原理というのが働いて自己調節をする。生き物の特徴は、おかしなところはそこそこ自分で察知して直す。
 そういう自分で察知して直すような機能、自然治癒力とも言うべきものを会社にも置きたいわけです。会社にも植えつけたいし、街にも置きたいわけです。常に何か問題があったら、警察だ、国土交通省だ、あるいは何とか市長だ、そういう話じゃなくて、町は、ほっといても、そこそこ独自に自律的に回ってほしい。そういうような仕組みをつくるというのは、まさに生き物を一生懸命育てて、元気にするということと同じじゃないか。自己調節機能ですね。
 それから、ちょっと違ったお話では、物事の成長というのはある種のSカーブを常に描いていて、だから、毎年同じ予算でいいとか、全部署同じ予算でなくて、傾斜配分して、集中的に投資をして、手助けすべきところがある、ということです。物がうまく回るために、傘回しの曲芸がありますが、バーッと手で回すと、その後しばらくは自分で回っています。また少しゆっくりになってくると、また回してあげればいい。そういうふうなある種の臨界点を超えるまで、自律的に回るところまではちゃんと手を添えてなきゃいけない。そういうふうな形で手助けをする。あるいは投資をすることが求められるのです。
 最後にお話をしたのは、今実は少子高齢化というこの国が迎えている非常に大きな構造転換ですが、これは実は否応なく、社会を市場原理に向かわせていきます。都立高校云々ということを考えただけでも大変なことであって、その問題とその都市のハードの問題は違うよということはなくて、ある種の生き残るためのエネルギー、ということでは同じだと思います。昔は、ナイス・ツー・ハブで、こういうこともあったらいい、ああいうこともあったらいいだった。こういうこともあったらいいといううちは、人間は動かない。今は、ないと死ぬ、ないと大変だ、ないと仕事なくなる、だから、動く、そういうことなんですね。非常に厳しい世の中かもわからないけれども、やはり構造転換というものが、今までできなかったことがいろいろできてくる、そのきっかけになるのではないか。
 最後は、もっと都市のたくさんの人が頭を痛め、頭を悩ませて考えているわけだから、その都市の再生の連鎖ということを考えると、多分クロスファンクショナル・チームみたいなのがもっと必要だと思いますし、あるいは我々自身が、皆さん自身が、良循環のフレームワーク、何がどう因果関係を持って物事を回していくのか。最終的には自律展開、自己調節機能を持った仕組みをつくる、システムをつくる、そういうような意識でプロジェクトに当たっていただく、あるいは政策に当たっていただくということが大事なのではないか。
 非常にとらえどころなく、かつ概念的なお話が多かったので、わかりにくい部分も多々あったかと思いますけれども、一応ここまでできょう皆さんに申し上げたかったこと、とさせていただきます。(拍手)



フリーディスカッション

里見(司会) 
 ありがとうございました。
 それでは、お時間ございますので、ご質問、ご意見等お受けしたいと思います。ご意見のある方は挙手お願いしたいと思います。
森永(鰹Z友生命総合研究所) 
 私も建築の出身で、今保険関係で、先生最初にいかがわしいとおっしゃって、ちょっと安心したところなんですが、お話しいただいて大変興味深かったのは、市場原理による自己調節というお話がありまして、生真面目に考えると、市場原理による自己調節というのが非常にうまくいくなら、よくいわれているように、市場主義が計画主義の対概念みたいな考え方でいくと、計画というのは不要になってくるのかなと。多分そういうことにはならないんで、都市計画とか地区計画における市場原理をどう手なづけるか、その辺の各論をもう少しお話しいただければと思うんです。
青木
 難しいですね。確かに今のお話をパッと聞いて思い浮かぶのは、ブラジリアとか、都市計画のご専門の方だと、筑波研究学園都市なんかもそうですね。計画をしたものが、計画したどおりにできるだけじゃなくて、そうじゃないところに自然発生的なものが出てきたりすることによって、計画した部分がまた生きてみたいなことがある。計画不要論では全くなくて、懐の深さというか、自然発生的なものが勃興してくるような余裕というものを計画する。さっき申し上げた容積率というのも、バシッと最初から決めちゃうんじゃなくて、例えば、ある広いエリアにフリーに持っていて、それを勃興してきたものに対してうまくつけてあげるとか、そういうような意味での計画。計画のフレキシビリティーというんですか、計画の手法というのはもっといろいろ技術論として、アイデアが出ていくとおもしろいのかなと考えます。ちょっと答えになってないですかね。
高橋(叶カ活科学館)
 きょうの話は非常にわかりやすくてよかったと思います。私どもの方で福祉とか高齢者、子供、そういったものでまちづくりを、何とかやってほしいということで、問い合わせとか具体的に動いているんですけれども、きょうの先生のお話の理論を具現化している地域とか、あるいはこれからやろうとしているところがあるんでしょうか。非常に有効なキーワードであるし、この手法しかないとは理論的にはわかるんですけれども、じゃ、一体具体的にどうするんだというのが、現場サイドではなかなか見えにくいものがあって、もしそういった事例とか、今後やるというところがあれば、ぜひ教えていただきたいんです。
青木
 正直申し上げて、都市の事例としてここというところはないんですね。例えば、ニューヨークのお話は、ある意味では都市の問題の話で、非常におもしろいと思うんですけれども、僕はぜひこれからやりたいなということで、具体的にここの都市で、例えばさっきのコネチカットの話もそうですし、サンフランシスコの話もそうですし、今生きている都市の中を見たときに、多分こういうふうに物が回っているのは、逆にいうと、どこの都市にもあると思うんです。ただ、全く新しいところに、それこそ、こうでしょう、ああでしょうという形で、これがいい循環でこうやりましたよという事例としては、ちょっと今わからないですね。ちょっと答えになってないかもしれないんでけど。
高橋(叶カ活科学館)
 ぜひ具体的にやるときには一緒にお願いします。
青木
 ええ。私も実は建築で、今保険なんですけど、建築とか都市の世界はふるさとみたいなもので、ふるさとというのは、時々帰っていいもんだといって、今までは安穏としていたんですけれども、最近もっとふるさとにご奉公したいという気持ちになってきまして、建築と金融と事業みたいなところを結びつけてプロジェクトをやっていくことができたら、これはいいなと。これからまだまだいろんなことができそうだなと思っていますので、ぜひ声をかけてください。
岩佐(潟_イヤモンド社)
 きょうのお話、大変参考になりまして、ありがとうございました。良循環の話で、さっきのニューヨークの話じゃないんですけど、逆に、都市とか事業を生き物で見ると考えたときに、1つのアクションが行為者の思惑どおりにいかない場合も多いんじゃないか。違った思惑で循環してしまう。それが僕なんかの事業でも経験がありまして、本をつくっていて、思ったとおりにはできなかったけど、違った層に大当たりしたとか、うれしい誤算もあるんですけど、なかなか売れないこともある。そう考えたときに、青木先生のきょうのお話ですと、全体観を見ることが重要だとおっしゃいました。どこを突けばいいかということに関して、もう少し具体的なアドバイスとか何か教えていただきたいんですが。
青木
 どこを?
岩佐(潟_イヤモンド社)
 つぼを押すというお話でいえば、どのつぼがいいのかというのは、答えはないとは思うんですが、何かもう少し、全体観を見るという以外のアドバイスはいただけないですか。
青木
 難しいですね。全体観、全体のメカニズムみたいなものを探るということ。あとは、ちょっと話が飛んじゃうかもしれませんが、自分で事業の経営にかかわっているときに、人のやってないこと、人のやっていることを整理してみると、人のやってないところにいろいろつぼがあるというか、チャンスがあるというか。あるいはやりたいとみんな思うんだけど、できていない。さっきの調達のお話は、事業の中では端的な例だったんです。何かこうあるべきだよ、どう考えたって、これが普通だよな、だけど、なぜ起こってないんだろうとか、なぜそれがないんだろう、なぜこういう商品はないのか。 
 例えば、日常生活の中での不思議、さっきも銀行の話をしたんですが、銀行というのは何で3時にシャッターがおりてしまうんだ。7時ぐらいまで人がいるはずなのに、何で町の角でああやってシャッターがおりて真っ暗になっているんだろう、みたいに世の中のおかしなことをいろいろ見ていくと、その裏側に、事業として本来アタックすべき問題が見えたり、というふうなことはありますね。
 あまり用意をしてなかったので、うまく答えられてないんですが、全体ということと同時に、あとはキーポイントみたいなのを探すときに、人のやらないこと、やってないことというのがヒントになるような気がしますね。
里見
 ありがとうございました。
青木
 最後に一言。ちょっと宣伝で恐縮なんですが、建築の設計を十何年やって、その後コンサルタントの仕事をして、今保険なんです。この保険について、一言申し上げると、住宅ローンを借りている方が、例えば失業したり、あるいはがんになっちゃった、こういうようなときに住宅ローンの残っている借金を保険で返す、こういう商品を提供している会社なんですね。
 そういう意味では、銀行とタイアップをして、どこどこ銀行のローンには我々の保険が一緒に提供される、そういう商売をしています。生保と損保と両方ありで、ローンの特殊な分野しかやらない。生保レディーさんはいません。損保代理店もありません。基本的には銀行と提携しかしない。そのことによって、非常に効率のいい商売をする。ただ、例えばがんになったときに、借金が全部なくなるというのは、我々の会社しか持ってない商品で、日本に1つしかない。日本初というところだけ、それしか興味ない、そういうようなことをやっている会社です。
 ですから、きょう、カーディフという名前で、だれも知らない保険会社で、本当にいかがわしさ抜群だったんですけど、(笑)そういう形でちょっとおもしろい商売をしています。
 なぜこんなことをお話ししたかというと、金融の技術というのは、もっともっと不動産とか皆さんのハードの開発に生かしていく可能性がたくさんあって、必要もある。もちろん目に見えているプロジェクトファイナンスとか、そういった分野もあるんですけど、例えば、日本で家を持つときに、買うというチョイスと借りるというチョイスと、2つしかない。その2つが余りにもメリット、デメリットのかけ離れたチョイスで、大体毎月こんなに家賃払っているんだったら、大変だ、嫌だなということで、家を買ってしまったりする。その2つの間の大きな川を越えるような決断を必ずしなきゃいけないのか。
 例えば、もう少し、賃貸だけど、保険的な仕組みとか、デリバティブみたいなものを組み合わせると、賃貸ながらもう少し安定、ある種のリスクヘッジができるとか、そういうふうなことがあり得る。
 それから、これから年金の問題がありますけど、年金の問題に答えを出すときに、生存保険というのがあります。今の死亡の保険というのは、亡くなった方のために生きている方が払うんですね。逆に、亡くなった方の資産を生き残っている方に受け渡していく。そういう仕組みも世の中にはあるわけで、こういうようなものを開発するとか、住宅と生存保険を組み合わせることによって、将来にもっと不安の少ない、そういう住環境を提供したりできるんじゃないか。
 そういう意味で、今までハードな分野から事業を経て、今保険なんですけど、私は、金融技術というものをもっと皆さんの世界と近づけて、その中で何か新しい発明ができたらいいなと。
 今まで住宅が身近になったのには、2つ大きな発明があると思っているんですね。1つは、マンション。もう1つは、住宅ローン。今またコーポラティブとか、定期借地権とか、いろんな新しい制度ができていて、これに類するもの、もっとインパクトの大きいもの、これをぜひつくりたい。それを今一生懸命考えて、こんな商売をやっているんですけど、またそれぞれの皆さんと、何らかの形で同じプロジェクトで協働ということができたらおもしろいなと、最後に自分の今やっていることを宣伝して終わりにいたします。(拍手)
里見
 それでは、これで終わらせていただきます。どうもありがとうございました。
 


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