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第192回都市経営フォーラム

自動車と都市づくりの革命

〜ソフトカー、道路の自然化、レインボー・ゾーン・システムがひらく未来〜

講師:小栗 幸夫 氏

千葉商科大学政策情報学部・大学院政策研究科教授

日付:2003年12月18日(木)
場所:後楽国際ビルディング大ホール

ソフトカー・ミレニアム・プロジェクト

フリーディスカッション(1)

道路の自然化

レインボー・ゾーン・システム

21世紀の都市づくり

どのように革命を進めるか

フリーディスカッション(2)



 

 

ご紹介いただきました小栗です。
 都市経営フォーラムでお話をさせていただくというのは、私にとって大変光栄なことです。もともと都市経営フォーラムが始まったのは1988年であったかと思います。そのころ、土地価格の暴騰、いわゆるバブル期に日本がございまして、私もそのことについて、このままいくと日本は危ないなという印象を持ち、私なりにフォーラムを開催し始めました。日建設計の、今はもうご退任でいらっしゃいますが、杉原さんたちが都市経営フォーラムをお始めになった。その背景にはやはり、将来の日本の社会や都市のあり方についての深い憂慮があったのではないかと思っています。
 そのとき、私どもが感じた憂慮というのは、現実、あるいはそれ以上のものになりました。1988年、今から15年前、私たちは行うべき、あるいはそのときにとるべき方法があった。あったにもかかわらず、問題の核心に触れず、問題は先送りされ、90年のバブル崩壊につながった。
 私が今回あえてタイトルに「革命」という言葉を使わせていただきましたのは、私たちが状況を生み出しているその根底にあるものをしっかり見据えて、ある種のコンフリクトを覚悟で議論をし、行動をすることをしなくてはいけない。私たちが15年前に体験したこと、再度私たちの課題になっている。物事を変えなくてはいけないというのは、常に必要な態度であると思います。その行為をおろそかにすると、ツケが回る。私たちは今その真っただ中にいると思います。
 私がきょうお話をさせていただきますのは、これまで100年間の、すなわち20世紀全体のツケに対して今我々がどのように対応するかということです。私が行っております仕事は、全体の一部かもしれませんが、必ずその一部が、あらゆる都市づくり、そしてさらに、きょうご紹介いただきましたように、社会・経済・政治のメカニズムのすべてにつながってまいります。
 そのことを皆様にお話をし、都市開発にかかわる各分野のご専門でいらっしゃる皆様方からコメントをいただいて、私の勉強をここでさせていただきたい。そういうことで、高い席からでございますけれども、1時間半ほどの話を聞いていただき、30分間のディスカッションというスケジュールでよろしくお願いしたいと思います。
 では、パワーポイントを使いますので、少し電気を消していただきます。

(図1 図版参照 図2〜4)
 タイトルは、「自動車と都市づくりの革命」、サブタイトルが「ソフトカー、道路の自然化、レインボー・ゾーン・システムがひらく未来」です。
 100年のツケと申しましたが、20世紀はまさに自動車の世紀であったといってもよろしいかと思います。その、自動車を根幹とした社会は著しい経済成長を見たのですが、それに伴う交通事故、コミュニティの崩壊、自然環境の破壊といった犠牲を伴うものでした。
 私は、ほんの1カ月ほど前まで、私の頭の中に交通事故死が世界中で年間50万人というデータを持っておりましたが、ある自動車メーカーの方から聞いて驚きました。WHOの新しい統計では、現在交通事故死は年間150万人だと。それを自動車メーカーの方から聞いたというのがインプレッシブでしたけれども、その生命の犠牲ということについて、よく言われることですが、余りにそれが日常化しているために、それが犠牲であることに気がつかなくなってしまっているというのが現実かと思います。
 コミュニティの崩壊、自然環境の問題については、後から徐々にお話し申しあげます。
 都市計画の側は、この車の問題に対して、基本的には道路整備という対応をしたわけであります。後ほど議論しますように、車を入れないといったさまざまな手法等もございますが、結果的に決定的な対応策を見出せなかった。それで、私たちは既に21世紀に入ってしまったというのが現実かと思います。
 私は、大変幸いなことに、西暦2000年から日本政府のミレニアム・プロジェクトの公募のプロジェクトの1つとして、ソフトカー・プロジェクトを進めることができまして、きょうはそのお話をしてまいります。これは極めて大きなことだと思いますが、プロジェクトを通じて、速度抑制が交通の安全に資するのみでなく、車を前提として行ってきた道路整備、道路のあり方そのものについて、道路のアスファルト、コンクリートをはがすというラジカルなアイデアを持つようになっております。それから、車が入ってきても安全なゾーンの仕組み、これは今までの交通セルの考え方とは違う考え方になると思いますが、そういうことをすることによって、都市が生態系と一体化する。そうした開発が可能であるという認識を持つようになってきました。
 この車の問題は、この時点で生きている子供たちの未来にもかかわりますし、この時点でこれから車をもっと欲しいと考えている途上国の人たちの未来にもかかわります。大きな問題であるということをあらかじめ申し上げて、論を進めてまいります。
 まず、ソフトカー・ミレニアム・プロジェクトですが、このプロジェクトは、さっき申し上げましたように、国のミレニアム・プロジェクトの助成金を得て行ったものです。まず最初にCGのアニメーションを見ていただきます。
(動画映像)
 このアニメーションはプロジェクトの最初のころつくったものです。このアニメーションの風景が既に形になったというのが、きょうご説明する内容です。これがソフトカー、ここにあるライトが外部に対する表示、何を表示しているかといいますと、最高速度を表示する。ドライバーの目の前にもこの表示装置があることがおわかりのことと思います。前方、後方、そしてドライバーに見える最高速度表示の仕組みが組み込まれています。
同時に、この表示装置のみならず、最高速度そのものも制御するという仕組みにしております。ここで、私どもが3年ほど前に考えた、道が芝生にできるというのをごらんいただけたと思います。
 今、町中に出てまいりまして、歩道があるところでは、最高30キロ、表示装置はブルーに変わっています。表示装置は基本的にGPSでコントロールされていて、情報を受けて、すべての車がブルーのライトをつけております。今から幹線道路に移ります。幹線道路の最高速度は60キロ、今、表示装置がブルーからイエローに変わりました。表示装置は最高速度を超えますと、点滅を始めます。速度をみずから抑制するということになります。高速道路の最高速度は100キロ。100キロを超えて走ると点滅が始まります。何キロまでに速度を出せるかといった議論は後ほど行いたいと思います。
 最初にアニメーションを見ていただいております理由は、2年前にシドニーのITS世界会議で発表いたしました際に、発表が終わった後に私はアシストしてくれた女性に「何点だった」といったら、70点しかくれなかった、30点の減点は何かというと、「このアニメーションを十分に見せなかった、アニメーションを見せれば、小栗の説明は必要がなかったぐらいだ」といわれましたので。
 最初の部分だけもう一回見ていただきます。犬が飛び乗る瞬間を見ていただきたいんですが、ボディがやわらかくなっていて、少しへこんだのをごらんいただけたかと思います。(映像終り)
 続きまして、NHKが、このプロジェクトをスタートさせた極めて初期の段階、2000年1月5日に報道してくれましたので、この番組を見ていただきます。

(NHK「首都圏ネットワーク」2000年1月5日 映像 )
 NHK東京(以下、東京):千葉からは、歩行者に配慮したソフトカーというユニークな自動車の話題です。
 NHK千葉(以下、千葉):千葉からはソフトカーと呼ばれる車についてお伝えします。
 東京:ソフトカー、余り聞いたことのない名前なんですけれども、どんな自動車なんですか。
 千葉:ソフトカーというのは歩行者や道路事情などに配慮しまして、ソフトに自動車を走らせようということで、千葉商科大学が開発している車なんです。このほど走行テストが行われましたので、こちらの様子をごらんください。
 東京:光っていますね。
 千葉:ガラスの下の方、光っているもの、これは走っている自動車のスピードを表示する装置なんです。光の色によって周囲からもその車の速度がわかるようになっているんです。ドライバーに周りの目を意識してもらって、安全運転を心がけてもらおうというのがねらいなんです。
 開発に取り組んでいるのは、千葉商科大学の小栗幸夫教授らの研究グループです。
 スピードによって4種類に分かれます。例えば、狭い路地などで時速10キロで走りますと、ごらんのように赤と黄緑、青の3色のランプが同時につくんです。またこのように黄緑1色になりますと、60キロのスピードが出ているという合図なんです。それぞれの速度を今度はオーバーしますと、光がチカチカと点滅し始めて、スピードが上がっていることが一目でわかるんです。
 小栗(インタビューに応えて):どうしても急ぎたい、力を使いたいという気持ちが優先すると、事故が起こってしまうわけですね。ですから、こういう速度表示の仕組みを組み込んだ車をつくることで、優しい乗り物にしていく、優しい運転手になっていく、そういう仕組みをつくっていくことが大事なんです。
 千葉:小栗教授らの研究グループは、カーナビゲーションシステムを応用して、自動的に速度を設定する技術などもあわせて開発したいとしています。(映像終り)
 このとき、桜井さんは、あまり信じないという顔をしているのがどうも気になりますが、その後、次の番組でもっとよくなります。
キャスターの三宅さんともう1人の女性のコメントが重要なので、聞いていただきたいと思います。

(NHK「おはよう日本」2003年2月14日 映像)
 東京:制限速度を守ってもらうために開発が進む新しい車の話題です。この車、ソフトカーといいます。制限速度を超えるとランプがついて周囲に知らせることで、ドライバーの自覚を促そうということだそうです。千葉県市川市からお伝えします。
 千葉:千葉県市川市の千葉商科大学に来ています。ソフトカーの研究がこの大学のプロジェクトチームを中心に続けられています。そのソフトカーがこちらです。かわいらしい黄色い車。この車にソフトカーのシステムが搭載されています。さあ、後ろの方からごらんいただきましょう。横側に今ライトがついています。そして、運転席の方にもライトがありますし、前の方にもライトがあります。このライトは制限速度を30キロを想定しています。レインボーカラーに変わりますと、制限速度が15キロ、速度をオーバーしますと、このライトが点滅します。運転者にも周りの人にも速度オーバーですよということを知らせるわけです。これによって自己規制をねらっているということです。モニターを募集して、近くの実験コースを今実際に走ってもらっている状況なんです。
 きょうはこの大学の中を走ってもらいますが、一般の実験では、道路使用許可をもらって走っています。きょうは大学の中ということで、特別に許可をもらって、ちょっとスピードを上げてまいります。向こうに1台、スタンバイしています。右側に15の数字が見えますが、あそこから手前が制限速度15キロエリアということを想定しているわけです。さあ行きます。スタート。
 黄色い車がスタートを切りました。画面の下、速度は30キロエリアを通過しています。20キロが出ました。間もなく制限速度15キロエリアを通過していきました。ライトが点滅しています。スピードはオーバーですよということをあらわしています。ドライバーはスピードを落として、ライトの点滅が消えました。制限速度以内で走っているということです。
 この研究を20年前から続けています千葉商科大学教授小栗幸夫さんです。
 小栗:車はこれまでスピードや力を求めてつくり、そしてまた使われてきました。しかし、車は、歩行者や自転車、ほかの車と、もっと優しい関係をつくるシステムが必要です。速度を外に示すことでコミュニケーションしながら、その車や町全体がもっと優しくなっていく。それを目的にしています。
 千葉:ありがとうございました。
 向こう側に地元の商店街の皆さんに集まっていただいています。おはようございます。こちらをちょっとごらんいただきましょう。「走行実験に協力しています」ということで、商店街の人は、ソフトカーのシステムを搭載して、実際に動いて走らせています。今20台の車にこのライトを搭載しています。実際、運転されて、どうですか。
 市川真間商店会・加川さん:はい。速度制限に対する意識が出てまいりました。真間の商店街は、道が狭いもんですから、ご老人や子供さんの安全に効果的だ、そういうふうに思っております。
 千葉:効果あり。「はい」。どうもありがとうございました。
 こちら、20年、ソフトカーの研究はますます進歩しています。この車、コンピューターを積んでいます。ナビゲーションです。今、車がずっと移動しています。そして、場所によっては速度が変わる。そうすると、ライトも表示も変わるということなんです。つまり、ナビゲーションと連動しているということなんです。さらに、この車にはコンピューターを積んでいますし、強力なモーターが積まれています。スピードオーバーしますと、アクセルの制御がきいて、もうそれ以上スピードが出ないというシステムなんです。ヨーロッパ、スウェーデンでもこの研究が続けられていまして、世界的にも21世紀の車のありようを提案しているということなんです。プロジェクトではさらに多くの人に乗ってもらって、データを積み上げたいというねらいがあるそうです。千葉県の市川市からお伝えしました。
 東京:このソフトカーを実際に町へ走らせるためには法整備、自動車メーカーの協力なども必要なんですが、プロジェクトではまずは多くの人に、人に優しい車への理解を得られるようにしていきたいということです。
 光でオーバーしている速度をあらわそう、そういう気持ちがある人がふえてくればいいですね。
 そうですね。周りの人の認識も変わってくると思いますね。(映像終り)

 2回目の放送では、キャスターの三宅さんがニコニコしながらコメントをしてくれたのは、2年たって、「ああ、本当にやったんだな」という背景があるように私には感じられましたが、いかがでしょうか。
 「革命」というタイトルを使ったものですから、私自身もちょっと緊張して話を始めましたが、皆さんも少しリラックスしていただいて、途中でコーヒーブレークというか、お茶のブレークもとるということにさせていただきますので、気軽に聞いていただければと思います。
 この研究メンバーは、私が一応代表でございますが、お亡くなりになった岡並木先生に総合アドバイザーに入っていただき、トヨタの外郭の研究所にいた吉川泰生氏、千葉工業大学の辻村先生、今ドイツにおります造形家の宮田昌作、きょうの朝もドイツから電話がありました。慶応大学の電気自動車の開発で有名な清水さん。長年の友人である法政大学の森田教授等が入っております。
 協力組織はさまざまにあらわれていただきましたが、例えばきょうここに書いていない協力者の中に、マレーシアで実験したときには、きょう来ていらっしゃる松下電器のマレーシア工場の社長さんにもご協力いただいたり、本当に大勢の方にご協力をいただきながら、事を進めました。
(図5 図版参照)
 まず、研究の目的です。ソフトカーとは、NHKの説明の方が私よりもずっとわかりやすいと思いますが、環境にふさわしい走行能力、特に最高速度のことですが、これを多段階に選択・設定し、その状況を外部に表示する車。それを活用する交通システムによって、車の利便性を損なわず、犠牲が少なく、環境と調和した自動車交通システムをつくり、それを基盤に、21世紀の都市環境を創造していくんだということが研究の目標です。
 車の利便性を損なわない、これが極めて重要だと思うんです。今まで反車論はございましたが、車を捨てて社会は成立しなくなっております。現に、利便性も極めて高いわけでございまして、その利便性を損なわい、ということは重要です。
 ソフトカーは、3つの装置、すなわち最高速度を表示する装置、制御する装置、それを遠隔操作するシステムで構成され、それを道路、標識、法制、情報技術等が支えます。
 3年間の研究を通して社会的認知を得、法制の検討、装置の量産、国産標準提案の状況をつくるということをうたいました。
 長期的には、今まで申し上げたことに合わせて、既存の産業の革新、新しい産業の創出という側面も考えております。
(図6 図版参照)
 研究の視点ですが、速度は、自動車の魅力の本質である。車は速く走る、かつ自由である。これはまさにそのとおりであると思います。しかし、同時に、それが事故の最大要因でもあり、多くの車の安全論が、この車の本質を避けて議論がされていると私は感じます。
 そしてまた、車が個室化されて、外部の歩行者、他の車、自転車、そうしたものとのコミュニケーションを欠いている。この写真は私たちの大学のすぐ脇の小学校への通学路ですが、この脇にソフトカー・プロジェクトの事務所をつくりました。ことしの1月の朝、7時半ごろ目を覚ましまして、通りに出たときに、私は愕然としてこの写真を写しました。この幅員ほぼ5メートルの道を車が占拠し、その車と建物のほんのわずかなすき間を子供がごく当たり前の顔をして歩いている。ああ、これが21世紀なんだなと私はある種愕然とした思いがございました。
 道路整備の問題もございます。きょうもその関係者が大勢いらっしゃるかと思いますが、今既に、ITS(Intelligent Transport System, 高度情報交通システム)技術の開発が進んでおりまして、そうしたものと人間の心理を活用したナイーブな技術、こうしたものを結合していけば、車を適切に利用することができ、犠牲も伴わない、そういう豊かさを実現していく社会づくりができるのだという視点が基本にございます。
(図7)
 では、速度と事故との関係ですが、これは1999年の交通事故死の要因図です。ほぼ20%が最高速度、あるいは安全速度違反ということですが、他の脇見運転、漫然運転といった要因も、もし速度が適切に抑制されていれば、事故の確率は下がりますし、事故の深刻度も小さくなる。そういうことで、速度というものは、事故とその被害の大きさに大きく関連している。
 そのことをあらわす表が下です。これはスウェーデンで同様な研究をしておりますルンド大学のクリスター・ヒデアン教授のレクチャーで説明されたものでして、交通事故による負傷の確率は速度の2乗に比例する。重傷の確率は速度の3乗に比例する。死亡確率は速度の4乗に比例するというフォーミュラを彼は持っております。この公式を適用しますと、速度が16%減少すると、死亡事故は2分の1になるということになります。
(図8)
 都市計画の側からのアプローチはさまざまにございました。この図は、皆さんよくご存じのミュンヘンの真ん中にマリエンプラッツァを置いた歩行者空間ですが、記録を見ますと、1970年にスタートしたことになっております。
 私は驚いたんですが、1969年に既に旭川の買物公園の実験が行われております。私がそれを大学を卒業した年にテレビで見まして、その年に私の出身の岐阜県の瑞浪という人口4万の町で、車を入れないまちの提案をいたしました。現実はどうなったか。それは後からお話しいたします。
 それから、ボンネルフ。私は今、大学におりますが、1995年まで西洋環境開発に勤務いたしました。多分、ここにいらっしゃる方は皆さんご存じかと思いますが、悲しいことに、昨年の3月に清算されました。その中でのプロジェクトの1つである桂坂、京都の住宅地ですが、そこでのボンネルフ導入等のマスタープランに私も関与しております。西洋環境開発は、その前に西武都市開発と申しまして、民間では日本で最初に宮城県の仙台郊外の汐見台という住宅地でボンネルフを実現しました。
 きょうは大変うれしい方にお会いしました。かつて大阪市にお勤めだった村井さん、今、鉄建建設株式会社にお勤めでいらっしゃいますが、公共では大阪市のボンネルフが日本で最初だった。そのころからお会いさせていただいて、きょうも25年ぶりにお会いしました。非常に感動しております。
 それから、コミュニティゾーンといった施策もありまして、ここではボンネルフのみでなく、道路の狭窄、狭めるとか、曲げる、シケインといいますが、そうした方法もございます。こうした都市計画の側からのトラフィック・カーミング(交通静穏化)の手法は皆さんよくご存じかと思います。
 私はこの西洋環境開発に勤めます前に、筑波大学で講師をしておりまして、車に完全に依存した都市に住んで、その生活のしづらさを嫌というほど体験しました。そこの中で交通安全のキャンペーンを始めたんですが、その中で気がついたのが、車自体に速度抑制の装置をつけるべきではないか、ということです。20年前に思いついたという程度のことです。
 大学というところは大変ありがたいところでして、2000年の4月に今の大学に移る直前にミレニアム・プロジェクト公募にソフトカー・プロジェクトを申請したわけです。これから、このプロジェクトの結果がどうなったかというお話を申し上げます。
(図9 図版参照)
 まず、最高速度表示装置。重ねて説明しておりますが、前方、後方に、選んだ最高速度を表示する装置がつき、ドライバーの目にも見えます。仕組みとして意外と難しいのが現実の速度をとることです。車の現実の速度というのが、カーナビを積んでいるわけですから、当然とれるように思うんですが、車種ごとに違うといった問題もありました。こういう簡単な仕組みですが、それなりの苦労がございました。段階としては15キロ、30キロ、60キロ、100キロの最高速度を色で表示する。重要なポイントは設定した最高速度を超えると、このライトが点滅する、さっきのアニメーションにもありましたが、その仕組みです。
(図10 図版参照)

 次に、最高速度を制御する仕組みを開発しています。アクセルペダルが直接にエンジンののどぼとけに当たるスロットルを引っ張るというのが、現在の車の加速・減速の仕組みです。それ対して私たちは、真ん中にコンピューターを入れまして、そこに3つの情報、すなわちアクセルの踏みぐあい、設定した最高速度、現実の速度、この3つの情報を入れまして、設定した最高速度を超えると、このスロットルが引っ張れないように、そのアクチュエータを稼働させるという仕組みです。
(図11)
 この速度制御の仕組みにつきましては、段階的な実験をやっておりまして、最初はシャーシーダイナモの上で行いました。フルアクセルをしても、15キロ以上は出ない。30キロのときには、39キロまで出せるという仕組みですが、39キロで安定しておりまして、減速は若干遅目です。
 2年目の最後に地上走行テストをやりましたときに、車自体から速度をとることによって、制御がうまくいかない。ちょっとごらんになりにくいかと思いますが、車は最高速度の15キロを上下振幅して走るという結果になりました。1年目の最終段階では、このシャーシーダイナモから正確な速度をとった結果、うまくいったわけです。それゆえに、車速パルスをとる仕組みを改善いたしまして、ことしの3月に最終的な結果を出しております。
(図12)
 無線の仕組みといたしましては、富士通さんのお手伝いをいただきまして、最初、DSRC(Dedicated Short Range Communication:専用狭通信)でという議論がございましたが、実際には無線LANで実験しました。このカートに積んだ表示装置をコントロールする、これはうまくいきました。
(図13 図版参照)
 次に、昨年の末からことしの3月にかけてGPSを使って車の位置を確認し、位置によって自動的に表示装置の色が変わる、それから最高速度の制御もするという仕組みをつくりました。
 それを今からごらんいただきます。
(GPS操作。地図をスクリーン表示)
 これはさっきのNHKの番組でも最後の方にチラッと出ておりました。スクリーン上で、車は市川駅前におります。これを今から北に上げていきます。これは実験地区に入っていないので、スクリーンの表示は0kmになっています。これから実験地区に入ります。今、みなさんの目の前にある表示装置のライトが黄緑になっていますね。これはこの道の最高速度が、私たちの段階でいきますと60キロということになります。法定速度では40キロです。これを直進します。次に、段階としては最高30キロ、今ライトはブルーになっている。それをまた直進します。ここからは道がかなり狭くなっていまして、真間小学校があります。これを左に曲がります。このあたりは細街路です。これを南におり本当はやっちゃいけないけど、右折します。ここの道は最高速度は30キロ。警察との協議もいたしまして、このような最高速度設定をする。
 非常におもしろいことなんですが、このペーパーにも、スクリーンにも出ないことを申し上げます。日本の道の多くは法定速度が決定されていません。道路交通法上どういう規定があるかといいますと、「安全な速度で走ること」という規定で、ドライバーの判断に任せられるというエリアが極めて多いわけです。我々は警察と協議をして、15キロの看板を出しました。
(図14 図版参照)
(図15)
 まず、最高速度制御と遠隔操作がどのように稼動したかという結果をご説明します。ことしの3月に筑波の日本自動車研究所で行いました。お手元のプリントは白黒でごらんになりにくいと思いますので、画面をごらんいただきたいと思います。15キロ、30キロ、60キロ、そしてまた30キロ、15キロというふうに加速、減速のパターンを設定いたしまして、GPSの地図上に、日本自動車研究所のテストコースのここまでが15キロだよ、ここからが30キロだよ、ここからが60キロだよという図を書いてあります。それぞれ最高速度は、表示の15キロに対しては最高速度は15キロしか出ないということですが、30については39キロ、60については69キロまで、100については119キロまで出せるという想定をしております。ここのデータでは100キロのチェックはしていません。実際の速度を示すブルーのラインは15キロ、39キロ、そして、Uターンのために減速していますが、最高70キロあたりでとまり、あと減速していく。
 この制御装置はブレーキを使っておりませんので、減速は極めて十分ではないという結果になっています。他の走行パターンでも同じような結果が得られております。
(図16 図版参照)
 次に、速度表示装置搭載車の走行実験。これがきょう、特にお話をしたい内容です。最高速度表示のライトを自分の目で見、それから外部に示すということはどれくらい効果があるか、そのことを明らかにすることに重きを置いた実験を、市川にある大学の脇、約17ヘクタールのエリアで30台弱のモニター車に装置をつけていただきました。この実験は2回にわたって行いました。ここに政府の方もいらっしゃるかもしれませんが、政府はなかなか厳しい。ライトが基準に合わないということで、まず4カ月ほどウエイトをさせられました。
 基準には2つ抵触しておりました。何の基準かといいますと、「道路運送車両の保安基準」です。1つは、今目の前にある表示装置の一番右側にオレンジのライトがついております。オレンジのライトをつけることについては、目的がこれこれこうでないと使っちゃいけないよ、と基準に書いてあります。私は国土交通省の担当の方に、「これはオレンジ色ではありません。全部でレインボーカラーです」と説明したんですが、通してくれませんでした。それから、最高速度を超えると点滅が始まります。「これもいけないな」とおっしゃったので、「私たちは点滅をさせないように走る実験をやるんですが」といったんですが、それもお認めいただけなくて、4カ月余分にウエイトをさせられました。
 それから、第2期は、2002年の12月からことしの3月31日でしたが、その前に、待ち時間は7カ月ありました。社会実験というのはなかなか難しいんですが、社会実験の最大の難しさは行政の関門をクリアすることであると私は感じました(笑)。
 (図17 図版参照)
 地元の、特にお店をやっていらっしゃる方にモニターになっていただきまして、この地区に50ほどの速度標識をつけまして、ポスターを張ったり、イルミネーションのキャンペーンをやり、地元の方が非常に熱心にこのプロジェクトにかかわっていただきました。
 先に最終的な結論を申し上げます。これは第1期の結果です。車に表示装置をつけたドライバーの方、あるいは同乗した方々の95%までが、サンプル数は極めて少ないんですが、速度表示装置で安全運転をするようになる、速度を抑制する効果があるという主観的な意見を述べていただきました。
 しかし、これだけでは私たちはもちろん満足すべきではありません。
(図18 図版参照)
 そこで、次の最高速度表示装置が走行速度に与える影響を示すデータをごらんいただきます。ことしの2月、3月にやっとここまでたどりつきました。この次のデータを先にごらんいただきましょう。
(図19 図版参照)
 これは制限速度20キロの道を20歳の千葉商科大学の学生が運転したときのデータです。表示装置をつけないで走ったときの車の走行が、このピンクのラインであらわされております。車は速度を上げ、下げ、上げ、と、非常にばらつきの多い形で走行いたします。それに対して、表示装置が点滅するということから、20キロから25キロの間で極めて安定的な走行をしていることがおわかりになると思います。平均値は16%下がっております。これは、さっき速度が16%減少すると死亡事故は半分になるというフォーミュラをお見せいたしましたが、ほぼそれに対応しております。それから、分散、これが極めて小さくなりまして、25分の1。
(図18 図版参照)
 前のデータに戻りまして、これが6本の道路の速度表示をつけない場合とつけた場合の比較です。1本の例外はありますが、あらゆる道で速度が下がっております。これは12人のデータで、データ数が非常に少ないんですが、データをとるのがなかなか難しかったんです。平均速度が10%から20%ぐらい下がる。より顕著な結果は、この速度の上下移動の変化が少なくなり、分散が極めて小さくなったということです。極めて安定的な速度走行状態が見られる。今見ていらっしゃる最高速度表示のライト、特にハンドル脇のこのライトが、運転しているときに直接目に入るのではなくて、目の脇で感じられるんです。それが点滅を始めると、「あ、いけない。これはスピードを出し過ぎた」ということでアクセルを戻すという結果であると思われます。
(図20)
 次に、最高速度表示装置のグループシミュレーションについて。もともと、ソフトカーの表示の考え方は外部に表示するもので、その安定効果を見ようということです。実際に速度表示装置を搭載した多くの車を道で走らせるということはなかなかできません。そこで、私たちは簡単化した手持ちの最高速度表示装置を15台つくりました。そしてスクリーンにドライバーの席から撮影した道のビデオの風景を映写しまして、何回かとめて、表示装置を持っていない場合と、持っている場合で、最適と思われる最高速度が何キロかということを答えていただくという実験をいたしました。表示装置があった方が適正速度が高いという結果まで出ておりますから、決してこの結果はいいとはいえませんが、「まわりのソフトカーの光によって、あっ、自分も速度を抑制しなくてはいけない、という仕組みだということがわかった」と言われました。この実験には子供たちが大勢入っております。子供たちがなかなかいっちょうまえのコメントをくれました。「ソフトカーの研究はすごい。これから小柴さんのように、たくさんお金をもらって実験を続けてくれ」とか、「装置はいいけれども、お金がかかり過ぎるんじゃないか。経費の削減が重要である」とか、非常におもしろいコメントをくれました。
 こうして子供たちや一般の方々がソフトカーの仕組みを理解し、またそこに参加してくる、その実験としては効果があったのではないかと考えています。
(図21)
 次に電気自動車との連携について。研究をやっている途中の段階、昨年の1月に新聞でタカラがチョロQをモデルにした1人乗りの電気自動車(Qカー)をつくるという報道を見ました。5月にその現物で見まして、昨年の7月にタカラの社長の佐藤さんとお会いしました。私たちのソフトカーの概念を非常によく理解されました。何でであったかというと、Qカーが小さくてオープンカーだということです。かつ速度を出すと怖いということです。ゆえに、タカラの本社から狭い範囲を走って帰ってくるということをされてたんですね。何があったかというと、今までこんな近いところにこんな公園があったんだ、こんなお店があったんだということに気がつき、走っていると風を感じる、木のそよぎを感じる、今までの車ではなかった体験をした。その体験のもとで、タカラの佐藤社長は、ソフトカーはゆっくり走らせる仕組みだということに非常に共感を持っていただき、新しい車にすべて搭載することも考えようというところまで言っていただきました。
 コストの問題等がございまして、現実化はしておりませんが、私どもはその可能性をこれから探っていきたいと思っております。
(図22)
 これは、Qカーとソフトカー装置の関連を示すチャートです。Qカーはは非常におもしろい車です。だれでもが近寄ってみたいと思うような車です。そこで、今まで最低の最高速度を15キロとしていましたが、最高速度を6キロという設定をしてもいいのではないかと考えました。6キロの速度というのは、高齢者や身体障害者の方が乗られるカートの最高速度なんです。あれは歩道上も走れる車の速度です。そうした段階があってもいいんじゃないか。そのときは、例えば、表示装置の上に、何かキャラクターがポッと登場するといった仕組みができないかと考えております。
(図23)
 このようなタカラで試みられたQカーのようなものは、これからいっぱい出てまいります。これはダイムラー・クライスラーのGEM(グローバル・エレクトリック・モーターカーズ)で、ほぼ同じような仕様です。クライスラー社はニューヨークに352台のこのGEMを提供したということです。
(図24)
 それから、トヨタがことしの幕張のモーターショーで、PM(パーソナル・モビリティー)という車を出しました。これは「であう」「つながる」「あつまる」。今まで車がお互いにコミュニケーションすることはなかった。それをボディ全体を光らせてコミュニケートするという車です。幕張の風景を見ていただきます。
(動画映像)
 後ろがアニメーションで、これが本物です。これは1人乗りのPMの現物です。今、映像の上では車が隊列をなしています。これは1台の車だけ運転して、あとの車は後ろからくっついて走っていくという仕組みです。それから、指紋で個人を識別する仕組みだとか、さまざまな情報技術がここには組み込まれています。最も関心を持ったのが、コミュニケーションをしながら走るという仕組み。これはまさにソフトカーだというのが私の感触でありました。
 早速、トヨタを訪ねさせていただきました。お会いいただいた開発担当の方は「子供たちに夢のある車を見せたい。コンセプトカーのベースになるのはF1のように高速で走る車である」とおっしゃいました。私は、このような車が現実の都市空間でどのように使えるのだろうかということに関心があります。そういたしますと、その場合重要なことはやはり速度を抑制することです。普通の道を、例えば50キロで1人が運転をしないで後からくっついていく。もし、これをやりましたときの制御の問題は大変なことになります。トヨタの方とさらにお話ししたいことは、100年前のダイムラーやベンツが考えたアイデアが、現実の町の風景をここまで変えた。今トヨタの方がお考えになることが、これから10年、20年後の都市の風景を変えていく、その事実です。
(図25,26)
 そのように、ITSの側からしますと、車の速度をどんどん上げながら、情報技術で安全に走らせるというのが、基本的な姿勢かなというふうに私も考えていたんですが、『ITSテレコミュニケーションビジネス』という本がございます。これは1998年に設置されました、当時の郵政省ですが、電気通信技術審議会ITS情報通信システム委員会の答申の結果を本にしたものです。この中に、子供用にわかりやすく記述した「2015年の社会化教本」という部分があり、ITSを積んだ車を「アースタイプ」と呼び、こういう記述があります。
 「かつて・・・」、すなわち、2015年の時点で考えた過去、ちょうど今ぐらい、「人も自転車も2輪バイクも自動車も一緒の道路上を動いていました」。現実ですね。「今(2015年)では、歩行者と自転車の道にアースタイプが入ることはめったにありません。どうしても入らざるを得ない場合、最高速度、時速10キロ以上は出せないようになっています」。そして、「車の周り、1メートル以内に人や自転車が入ってくると、強制的にとまる仕組みになっている。」と続きます。
 情報技術で車をコントロールしようとしていらっしゃるITS技術者は、実は速度抑制の必要性ということを基本的なところでお感じになっているのではないか。それは私のここでの推測です。
 同時に、昨年幕張メッセでITSジャパンの場所をお借りいたしまして、ソフトカーの展示をいたしました。大変おもしろかったのは、2日間にわたって、大変大勢の方、多分200名ぐらいの方とお会いしたと思います。慌ててアンケート用紙を持ってまいりまして、60名の方からご回答いただきました。すべてITS情報技術の専門家です。88%の方にソフトカーに価値があるといっていただき、同時に、ソフトカーと連動可能な技術としてITSの技術がすべて出てくるんですね。ですから、ITSの技術者のおっしゃることは、公的な場所、オープンな場所では、速度抑制というのは、車の本質を変えることになるということだけれども、本当にITSが安全に役立つためには、速度抑制は必要だという認識を持っていらっしゃる。かつまた、それがさまざまなビジネスにもつながるという認識をお持ちだ、というのが私の得た感触です。
(図27)
 次に国際連携について。私たちがやっております速度抑制の研究は、私が20年前に何となく思いついたことなんですが、20年前にやはり同じときに、スウェーデンの方も気がつきました。情報技術を使ってコントロールするという、その仕組みをそのころから始められて、特に1997年に、交通による死者をゼロにしようというビジョンゼロという国の方策が国会で議決されました。それを背景にいたしまして、2000年から2001年にわたって、4都市で大規模な実験が行われました。
(図28 図版参照)
 ここには、ボルボ等の自動車メーカーも入っておりまして、昨年のシカゴでのITS世界会議での情報ですが、ISAの装置、ISAというのはインテリジェント・スピード・アダプテーションの省略形ですが、その装置を搭載するということを義務づける方向まで考えているということです。
 ISAのことを知った私たちは、スウェーデンに行き、また日本に来たスウェーデンの人たちと、何度もコミュニケーションし、またアメリカでの会議等に出ています。私たちのソフトカーは速度表示からスタートいたしますが、その後には制御を考えています。これに対して、ヨーロッパの方式は、まず制御から入りますが、もしヨーロッパの側も、表示の仕組みについて、それを取り込もうということになりますと、同じゴールに達するということになる。私は、表示と制御を世界標準にする可能性はあるのではないかという考えています。
(図29)
 このソフトカーにつきましては、マラッカで2001年の10月に実験をしておりまして、中国その他からの国際会議の参加者から大変高い評価を得ました。
(図30)
 非常に難しいのは、車とスピードというのは、20世紀を通じて大変強く信奉されてきたということです。これは歴史の授業をやるというわけじゃありませんので、簡単に申し上げますが、ベンツ、ダイムラーが開発して、15年ぐらいで最高速度が200キロというところまで車は速度を上げるようになりました。
 フォードがT型フォードを開発した翌年にはマリネッティという詩人が『未来派宣言』というのを出しておりまして、ヨーロッパの停滞をこの自動車が変えていくんだという非常に強いメッセージを出しております。それが、書物によりますと、ロシア革命にも影響を与えたということです。実際、私は西洋環境開発時代にモスクワで仕事をやっておりまして、赤の広場ですとか、都心の道路とかの広さに驚いたことがあります。ロシア革命というのは一種の近代化革命であったということですね。近代の象徴が自動車であったということです。
(図31)
 いまだに、その車と速度に対する信奉はあります。特に顕著なのは、ジャーナリズムです。清水和夫さん、有名な自動車評論家です。彼はもともとレーサーでいらっしゃいまして、アメリカで速度制限がなくなったということを、「車と人との関係が成熟化している」という表現されています。同じような考え方が多くの評論家から出てまいります。そして、これは決して日本だけではありません。今からごらんいただくのは、BBCの放送です。
(動画映像)
 BBCには、トップギアという番組があります。毎日3回か4回報道されます。これで見られる風景は、ドリフトという、おしりを横すべりしながら、どれくらい加速性能があるか、よく走るか、速く到達できたかということを強調しながら、その番組が進んでいきます。世界的に見て、皆さんも当然と思われるかもしれない、まさに車は速度だ。その概念は決して日本のジャーナリズムだけではありません。
(図32)
 しかし、ソフトカーに対する非常に好意的なメッセージがさまざまに寄せられております。きょうは女性だけを紹介いたします。3名の女性です。1人は北京大学のシャオチェン・メン先生ですが、40歳ぐらい。彼女は、中国における車の状況はよく知っておりまして、ソフトカーの仕組みが世界の車の安全に貢献する、とアンケートに答えています。
 それから、市川でモニターをやっていた石崎さん。この方は市会議員でもいらっしゃいます。ソフトカーのモニターをしていただいて、周りから子供たちが「ソフトカーだ」と呼びかけてくる。そういう体験をした。それが非常に誇らしいことに感じたということをおっしゃっています。
 それから、よく連絡を取り合っている、唐津に住んでいる女性の建築家、高橋さん。彼女は、子供2人を育てながら、建築家をやっています。速度を抑えることによって周りとのコミュニケーションが始まってくる、こういうところに車の未来があるのではないかということをいってくれています。
 前半でかなり時間をとりましたが、後半、道路の自然化、レインボーゾーン、それから21世紀のまちづくりという話を30分させていただくということで、今から5分間だけ、お休みをとていただきます。



[休  憩]

 ソフトカーについて、聞き漏らされたり、これ、ちょっとおかしいんじゃないのということがおありだと思います。それをお伺いして、15分ぐらい意見をお聞きして、30分お話しさせていただいて、最後にまた15分ディスカッションしたいと思います。 
 お手元に、「よくある質問と答え」というシートがございます。右側がブランクになっているのは、私が答えられないものです。どうぞ厳しいコメントをいただきたい。私の話がちょっと冗長だった部分があるかもしれないので、おわかりにならない部分はないかもしれませんが、わかりにくいよとか、効果はどうなのとか。
 一番重要なポイントは、2番目の質問。速度抑制は外部にとってはいいんだけれども、運転手、ドライバー自身は本当にこれを好むのかという質問がございます。このあたりは、この場で皆さんと意見を交わす中で、新しいアイデアが生まれるかもしれませんので、質疑応答を進めたいと思います。



フリーディスカッション(1)

里見(司会)
 それでは、ご質問等ありますでしょうか。
海老塚(都市基盤整備公団)
 3つほどあります。ソフトカーの目的として、交通事故の減少はもちろん大きいですけれども、住宅地の交通騒音に多分効果があるんじゃないかと思いますので、ぜひそれを挙げていただきたい。場合によったら、例えば大型自動車規制をしている住宅地に入ってくるような車両の規制にも使えるのではないかと思いますので、目的の1つに交通騒音の解決ということで挙げていただいたらどうかと思います。
 2つ目です。チカチカと点滅するレインボーカラーだけでは余り効果がないと思います。かつて高速道路で110キロを超えるとチンチンという音が鳴る装置が義務付けられていましたが今は不評ということで、廃止になっています。どの車両が違反したということを警察に信号を発信して通報し、罰金をとるというところまで持っていった方がよいのではないかと思うのですが、いかがでしょうか。
 3つ目です。ソフトカーは非常にいいアイデアだと思いますし、ぜひとも実現してほしいんですが、問題はコストです。各車両に載せる装置が20万円ぐらいでしたら、実現できそうですけれども、どの程度にコストになるのか。それから、各道路ごとに、恐らく制限速度の情報等を設定しなきゃならないと思うんですけれども、それがどのくらいの費用がかかるのか。私は、全部できなくても、初めは高速道路だけやるとか、幹線道路だけやるとか、住宅地で苦情の多いところだけやるだとか、そのレベルでいいと思うんですけれども、ぜひとも早目に実現して欲しいのですが、どのくらいの費用がかかるか、教えていただけますでしょうか。
小栗 
 海老塚さんのご質問は、コメントも含めて4つあります。
 第1点は全く異論はございません。騒音。
 速度と騒音は関係しますから、それは強調すべき点だと思います。
 2番目。警察への通報。今プローブカーというのを村井純さんがやっています。それは基本的にセンターで、インターネットで車がどこを走っているか、その情報をとれます。ですから、センターで情報が確認できるんです。そういう仕組みが既にあるんです。問題は、私は、この仕組みを、ここに関係者いらっしゃるかもしれないけれども、嫌な言い方をすると、権力のものにしたくない。難しいところですよ。ですが、私は多くの善意を持つ人がこれを盛り上げていくという仕組みにしたい。
 それが4番目の質問にかかわります。すなわち、すべての道ではできない。だから、限定的にということなんですが、おっしゃるとおり。それが後半お話しするレインボーゾーンというものです。NHKの私の大好きな番組が「ご近所の底力」というものです。騒音の問題とか、通過交通が危ない、そういうことでこのエリアはみんなレインボーカラーをつけて走ろうじゃないか、そういう人たちがまず出てくること。それは警察のためではなくて、自分たちの身近な子供たちのためなんだ、高齢者のためなんだという自発性が重要だと私は思っています。
 ですから、最終的には警察のセンターにつながるという仕組みになっていくとも思いますが、私はあえて最初からそれは想定はしない。
 3番目。コストの問題です。これは非常におもしろい問題で、大型トラックにはことしの9月から時速90kmの速度リミッター装着が義務化されました。40万円弱です。同じようなコストがスウェーデンのリミッターにはかかっています。ですが、ポイントは、もしこれを最初から新車に組み込んでいくと、ルンド大学のヒデアン教授が、「コストはゼロだ」といっています。これは物の考え方です。コストはゼロだ。表示は別ですよ。いいですか。どういう意味かというと、今の車は時速160、180km以上は出なくしております。その仕組みをちょっと変えればよろしい。電気自動車だったら、さらに簡単でして、プログラムだけなんです。
 開発費はかかります。我々もこの3年間にわたっていろんな開発をいたしまして、大学の研究としては多分異例の1億2000万というお金をいただきました。しかし、本格的にこれをやるためには、自動車メーカーは1台の車をつくるのに数十億の開発費を投じますから、それは必要ですが、一たん、それがこういうふうに検証されてしまえば、あとは通常の道具になるだろう。
 段階的には、さっきも私が申し上げ、海老塚さんもそうお考えのように、限定的なエリアでやる。あるいは限定的な道路でやる。そこからスタートするんですが、将来的にはすべての車にプレインストールする。そのことによってコストが極めて小さなものになるでしょうね。
 また、後からディスカッションということでよろしいですか。
有野(松下電器産業株式会社)
 単純な質問で申しわけないです。車の速度制御という面をいわれていますが、カーメーカーさんの、特にエンジニアの方については、スピード性能を上げたいと思っていると思うんですね。先生がカーメーカーさんとお話になったときに、いいにくいかもしれませんが、実際にカーメーカーさんが、この案に対してどのようにお答えになっているのか、もしよければお聞かせください。
小栗
 非常にお答えしたい質問をしていただきまして、ありがとうございます。自動車メーカーの対応はこの2年間でぐっと変わってまいりました。資料の最終ページを見ていただきますと「安全な自動車交通システム研究会」の説明があります。実は松下の方も入っていただいておりますが、既に日産、トヨタ、両方から参加がございます。過日ほかの研究会がありまして、ホンダの方がいらっしゃいました。どなたがどうだという対応は申し上げませんが、実は2年前にあるメーカーの技術の方から門前払いがありました。ところが、自動車メーカーが大勢入っているITSジャパンは、ここにいらっしゃる松下の浮穴さんはその代表としてITS世界会議の理事を7年お勤めでしたが、非常に好意的に私たちの発表の場を提供していただいています。
 さらに、さっき申し上げたように、ある自動車メーカーの方は、車の危険性ということをはっきり申されるようになっています。私がさっき申し上げたように、年間50万人の死亡事故だよと申し上げたら、メーカーの方が、150万人、と訂正されました。これは背景に、車の安全技術が徐々にできてきているからと私は思っています。
 3つ目。ある自動車メーカーの技術者の方は、狭い道で情報技術によって安全を守ることは不可能だ。ソフトカーの「目で見る」という仕組みは参考になる。あるいはこの方法がいいであろうということをおっしゃっていました。ですから、まだノーコメントということもありますが、空気は徐々に受け入れの方向になっていますね。
新井(二子玉川の再開発を考える会)
 先生のお話のテンポが非常にゆっくりしているなと思いまして、多分ソフトカーのテンポもこんなところかなと思って、伺っておりました。
 私は、再開発を考える会で、こういう新しいまちづくりは非常に長期的な展望に立って進めるべきだと思いますので、これからお話しの道路の自然化ということに非常に興味と期待を持って伺いたいと思います。
 今お伺いしたいことは、私、ちょっと考えることありまして、2種免許を取得したんです。これは大変難しい免許になっています。それをクリアして思うことは、2種免許のコンセプトは、周りの人や車に脅威を与えない運転をすることだと聞きました。先生のソフトカーのコンセプトと非常に近いなと思いました。仮に新しい車の開発に時間がかかるということであれば、とりあえず、これは警察じゃなくて、市民の運動として2種免許を取るようなことも必要なのかな、勧めるということもいいんじゃないかなと思いました。
 こういうことを申し上げるのは、これからの社会はいわゆるスピードを競う競争社会ではなくて、周りの人たちに配慮をしながら生きていく、周りの環境に対しても配慮しながら生きていくという、つまり共生の社会になるということとも関係あるのかなと思いました。そして、最後に、二子玉川の再開発についても、先生のお力をおかりしたいと思っております。どうぞよろしくお願いいたします。
小栗
 新井さんの最後の一言は大変うれしいお話でございまして、私は西洋環境開発という会社におりましたので、都市づくりが本来の仕事なんです。この3年間、車、車でやってまいりましたものですから、これからお話しするように、都市づくりの一部としての車、それは非常に意味を持つことです。都市づくりにかかわらせていただく、どんな形であろうと、それは本当に幸せなことです。
 新井さんから極めて本質的なことをおっしゃっていただいたわけですが、まさに我々の頭の中にインプットされた、競争する、強い者が勝つという仕組みが余りに強力で、それゆえの副作用が大き過ぎた。これをどう変えていくのか。ですから、市民の運動とおっしゃいましたが、まさにメンタルな問題は極めて大きいです。
 ゆえに、さっき私、海老塚さんに、最初から警察でコントロールするんではなくて、市民の側から、ちょうど都市経営フォーラムに集まっていこうという、ここに集まっておられるような方々がリードしていくべきだと思うのです。マーケティング的にいいますと、これはいろんな議論がありまして、きょうは私の前の西洋環境の友人の中廣さんも来てくれていますが、3%とか10%とかいう、確率分布でいえば、棄却域みたいなところにいる人が、ある行動を起こすと、それに全体が引っ張られるというマーケット理論があるんです。現にそうだと思います。よくいわれることですね。そういう考え方からすると、決してこれは捨てたものじゃないと私は思いますし、メンタリティーを変えていきながら、技術を変え、マーケットをつくる。それからさっきの免許の仕組みといったものまで手を伸ばしていくという考え方が適切ではないか。新井さんのコメントは私にとって大変うれしいコメントでありました。ありがとうございます。
浮穴(松下電器産業株式会社)
 先生のソフトカーについては、何年か前からいろいろと勉強させていただいて、市川の町を一緒に乗せていただいて、非常に効果があると感じました。私、ITSでずっと仕事をしてきていますが、ことしで10年目の国際会議、来年11年目は名古屋でITS世界会議が開かれます。そこで、セーフティーに集中していこう、グローバルセーフティー宣言を出そうというのを日本で今やっている中で、先生のおっしゃるソフトカーにおけるスピード抑制の件でいろいろ議論があります。
 98年ごろ、ドイツで仕事をしているときに体験したことでは、アウトバーンで、505というデュッセルドルフからフランクフルトまで走るITSテスト道路がありまして、そこで実験をしたデータがあります。アウトバーンというのはもともと無制限で、200キロぐらいで走っても、ポルシェが300キロで抜いていくという道路であります。事故がやっぱりある程度あるわけです。そのテストコースで、110キロの制限で2カ月か3カ月テストをして走ったら、事故率が20%ふえた。これはよそ見をする人がふえるんだそうです。私自身も240キロぐらいまで出して必死で運転したことがあるんですが、横に乗っていた部下たちも全員必死で前を見ているんです。200キロぐらい出すと、かえって安全なんです。100キロになると、すごくゆっくりなので、よそ見が始まる。景色を見てしまう、それでゴツンとやるということになる。
 このソフトカーも、名前からしても、高速道路の110キロぐらいで走るのはやめて、やっぱり60キロぐらいまでのところで使う。町の中では、日本のような特殊な、自転車と人とバスと車とバイクがみんなごちゃごちゃのようなところでは、実にいい仕組みだと思うんですけれども、高速道路はまた別途考えられた方がいいんじゃないかなと感じました。
小栗
 浮穴さんにはお世話になっていて、市川の実験地区まで来ていただき、きょうも同僚の方も一緒に来ていただいて大変ありがとうございます。
 高速については、別建てがいいんじゃないかというお話でして、私も、何度もそういうアドバイスはいただいておりまして、検討したいと思います。
 ソフトカーを、まず、おっしゃるように、まさに歩車共存、車と歩行者が共存する空間を豊かにしていく道具として考えています。しかし、高速の方についても、あえて申させていただくと、ウォーニングの仕組みがなかったからよくなかったんでしょうね。110キロで横見をしたら、事故を起こしますよ。ソフトカーでは、100キロを超えると表示装置が点滅を始めます。それで119キロ以上は出せません。こういう仕組みです。
 高速道路でも速度はそれなりに上下があります。それに応じて表示装置の色が変わる。例えば、サービスエリアに入るときには急に色がブルーになったりということです。私は、ETCの発想も、高速で通過しても識別され、料金が払えるんじゃなくて、通過するときはゆっくりと走ることにする。それをやれば、DSRCもいいんだけれども、スイカとかいうもっと簡単なシステムが使えるのではないか。高速道路でもとまってしまうのはいけないけれども、ゆっくりだったらいいじゃないかというエリアがあると思うんです。
 ですから、110キロのリミットを勝手にやらせたというあたりがかなり問題じゃないか。そして、140キロとか、そういう速度になったら、やっぱりコンピューターコントロールがいいんじゃないですか。松下さんに限らず、日本の電子機器メーカーはそれだけの技術をお持ちですよ。そこまで技術はいってます。そこをわざわざ運転する必要はないのではないでしょうか。
 ですから、高速走行はソフトカーでなくてもいいという意味は、すなわちITSの技術が十分に使える領域だ、ということでしょう。ただ、その場合は表示があった方がいいですね。こういう形で今コントロールして走っていますよということをアピールすることは必要だと思います。
 大変貴重なコメントをありがとうございます。
里見
 引き続き後半のお話をお願いいたします。



(図33)
 道路の自然化について。
 これは、自動車の速度を抑制し、あるいは軽量化し、利用抑制が行われれば、道路は土、石、木などの自然素材に戻すことができるという、これも思いつきです。
(図34 図版参照)
 しかし、思いつきは理由があります。そういっているうちに、これはグリーンスペースという会社から提供していただいたんですが、基本的に芝生駐車場の芝保護材です。高さが7センチほどあります。重さが9トンから27トンまでの車に耐えます。実際これを使っている千葉の習志野カソリック協会の芝生の駐車場の風景を見ていただきましょう。
(動画映像)
 これは面積も狭いですから、もともとスピードが出せないところなんですが、風景としていいですよね。芝の上を車が走っている。ここに千葉商科大学の越川君が来ていますが、彼が運転して、「ここを走っていいのかしらと思った」と言いました。そういう気持ちが大切ですね。芝生を大切にしようという人が子供を大切にしないわけがありません。もしそうでないとしたら、その人は倒錯ですね。多くのエンバイロンメンタリスト(環境主義者)が倒錯状態にあるんじゃないか。「空気や水を大切に」といって、命の問題に議論をしないというのは一体何なんだろうと、前から私は考えています。
(図35)
 保護材だけでなくて、これは千葉大学の浅野先生という造園学の大家にご紹介いただきましたベジクリートという工法。私はまだ完全に理解しておりませんけれども、アスファルト、コンクリートと土をまぜる、それで上にこういう芝等が生えてくるという工法があって、ここにはそういうプロの方が大勢いらっしゃると思いますが、アスファルトのアルカリが芝等にかえっていい効果をもたらすというお話も聞きました。
(図36)
 これは現実にそのベジクリート工法でつくった中央分離帯です。交通量の少ないところであれば、これを普通の道で使えるんじゃないか。かなり頻繁に車が走るところでは、芝がそんなに強くないよということをいわれておりますので、芝がどんどんふえていくんだと思わずに、ある程度土でもいいじゃないか。ただ、緑もかなりの部分は残る。少なくとも施行直後ぐらいの芝と土とが混ざるような状態はそんなに難しいことではないかもしれません。
(図37)
 それから、植生ブロック。これは太陽セメント工業さんの素材ですが、これも造成直後です。これは当然耐久力がございます。さきの浅野先生のご説明ですと、ヒメノという品種がいいようです。ヒメノは温かいエリアの芝。これにケンタッキーブルーグラスという寒いエリアの芝をまぜてあげると、四季にわたってグリーンが何とか保てる。まだ実験中なので、最終的な回答ではないがということです。市川では、3つの小学校で芝の校庭ができています。
(図38)
 それから、INAXの方々とは前からおつき合いをいろいろさせていただいておりまして、私はほかのところで講演しましたら、ソイルバーンという工法があるよということでご紹介いただきました。ソイルバーン協会というのが大阪の方にございまして、INAXさんの場合には、真砂土、そこに硝石灰か何かまぜて固める。かなり固くなります。ただ、当然透水性があります。ですから、芝だとか、ソイルバーンとか、そういうものを混合させるという仕組みで考えれば、それほど非現実的ではない。



(図39)
 次に、レインボー・ゾーン・システムをお話しします。
(図40 図版参照)
 1枚しかシートはありません。交通セルの考え方は、車をいじめる、これは日経の市川嘉一さんが書かれた『交通まちづくりの時代』(ぎょうせい、2002)からとらせていただきました。交通セルとすると、車は一たんセルの周辺に出てくることになります。ソフトカーのメリットは、6キロ、15キロという速度であれば、このセルの中を通過できるということです。すなわち、この地点からわざわざグルッと回って入っていくという考え方ではない。もちろん、すべてのエリアに車が入ってもいいという意味ではありません。このレインボーゾーンの中に完全に歩行者しか入れない広場であるとか、通りがあって当然いいわけです。ですが、車も通過できるという点が、そのシステムの弾力性を担保することになると思います。




(図41)
 最後に、10分ほど話させていただきます。私が強調したいのは、この部分です。
 21世紀の都市づくり。
(図42)
 20世紀のパラダイムは何であったかというと、それは車の高速化。それを普及させ、高速化する。道路を拡張する。道路を新設する。土地を造成する。結果的に何が生まれたかというと、歩きにくい町、屋内と屋外の分断、歴史的環境の喪失、自然の消滅。で、中心市街地の衰退といわれる既存コミュニティ、商業空間の空洞化。それから、郊外にショッピング等の機能ができてしまったという点。
(図43)
 このことは、皆様方に歴史の教科書的なお話をするつもりは全くございませんが、特に、参考になっておりますのは、石川幹子先生(慶応大学教授)の研究です。彼女の分析ですと、ハワードの田園都市のダイヤグラムが、1898年と1902年と、少なくとも2度出されておりまして、最初は運河が主要な交通手段でありましたが、2度目、1902年には、それが路面電車に変わっております。さらに、1910年にはグレーター・ロンドンの環状道路というものが計画されておりまして、それは、石川先生の説明によりますと、「本格的自動車交通の時代はまだ到来していなかったが、その到来が強く認識されていた」ということです。
(図44)
 それから、パークウェイ。これはニューヨークの北側のウェストチェスターのパークウェイ。私はロングアイランドのパークウェイで初めて自動車の運転をしたんですが、みごとなパークウェイです。要するに、高速道路の脇がグリーンです。しかし、これは完全に車に依存するアメリカの郊外をつくりました。
 コルビジェの「輝く都市」をここで講演するというのは、釈迦に説法以上だと思いますが、改めてこのヴォアザン計画を見ましょう。中心にヘリポート、高層ビル、高速道路、人が点のように見えています。今までの車、道は要らないとまでコルビジェはいっています。コルビジェは20世紀の知性だったんでしょうか。それとも、単にスイスの片田舎で生まれた、高校出の、教養にあこがれた、文明にあこがれた人だったんでしょうか。
 フランク・ロイド・ライトも、極めて高い評価をされながら、都市づくりという意味ではどうでしょうか。「ブロードエーカー都市」、ご存じのように、1人が1エーカーを使う戸建て住宅地の構想をつくりました。
 CIAMがそのコルビジェのコンセプトを世界に広めた。前川さん、丹下さん、吉坂さんといった人たちが若くしてそういう会に参加し、洗礼を受けているということは、しっかり見るべきだと思います。
(図45)
 自動車産業の巨大さというのは、いうまでもありませんが、フォードを経て、GM。GMがどんどんモデルを変えていく。トヨタの効率性。日産もホンダもそうです。まさに、自動車を根幹とした経済ができた。既に21世紀は現実でありまして、アセアン諸国、中国、インド、ロシアも、必ず自動車産業が成長を先導することになります。そのときに考えなくてはいけないのが、さまざまな犠牲という点です。数年前のデータで古いのですが、中国で交通事故死は7万人。車の普及率は日本の70分の1でした。正比例はあり得ませんが、中国1国で何百万人という死者が出る可能性は極めて高いと思われます。
 同時に、政府の役割も極めて大きいわけでありまして、宇沢弘文さんが『自動車の社会的費用』でその問題を指摘されているということは、よくご存じかと思いますが、日本の道路特定財源の仕組みの前に、オレゴン州からスタートして、全州で特定財源の仕組みが確立されまして、1956年には、ハイウェイ・トラスト・ファンドがスタートしております。これはガソリン課税すべてが自動車道路建設に。興味深いことは、この1956年という年です。我が国で、田中角栄が道路特定財源を提唱し、実現したのは1954年。それより前であります。さっき新井さんが、私がゆっくりしているとおっしゃいましたが、田中角栄という人がどれほど駆け足をする人だったかということがよくわかります。
(図46)
 巨大な道路投資。どれくらい投資がされたかということですが、1つのインディケーターとして、20年間、1975年から95年の間に、道路の面積は32万ヘクタールふえております。これは3200平方キロで、計算をしてみますと、北は稚内から南、沖縄は入れておりませんが、鹿児島までの直線距離は1800キロ、そこに幅員18メートル、片側3車線、両側で6車線の道路を100本整備したことに相当する。この道路のふえた面積と、我が国で延々と行われてきた区画整理の面積はほぼ近いというのは単なる偶然の一致ではありません。区画整理も道路特定財源を重要な原資にしております。
(図47)
 その結果何であったか。1つは、さっきから申し上げている市川の細街路の風景です。もう1つは私のふるさとです。岐阜県瑞浪市。私のふるさとは今や消えつつあります。人口4万の町で、駅前の幅員4メートルの商店街を20メートルに拡幅するという計画が私が子どものころにつくられ、今それが進行中です。両側の商店がなくなってしまいました。
 アークヒルズ、六本木ヒルズの開発がされました。私は行って、心がワクワクしました。しかし、問題はその開発とその周辺とのつながりです。今、日建設計さんは、飯田橋の歩道橋をどうするかというプランをお出しになっていらっしゃいますね。そういうことを含めて、既存の町をどのように変えていくのかということをしっかり考えなくてはいけない。そのときにゆっくりという車の概念は、きっと新しいものを生み出すはずです。
(図48)
 20世紀の自動車と道路を中心とした都市開発に対する批判。J.ジェイコブスだとか、宇沢さんのことはよくご存じかもしれませんが、私が尊敬する湯川利和さんをご存じないかもしれません。湯川さんはお亡くなりになっていますが、京都大学で建築・都市計画を学ばれ、1968年に車の問題を非常に厳しく指摘されていらっしゃいます。お読みになるとおわかりになります。版は出されていないと思いますが、35年前の本で、ほぼ的確に、車をそのまま普及させてはならないということをおっしゃっています。
 ただ、湯川さんにしても、宇沢さんにしても、車をゆっくり走らせるということに言及されていない。彼らが「計画」という観点からはちょっと十分でなかったのかなと、あえて、傲慢なことをいわせていただきます。
(図49 図版参照)
 21世紀のパラダイムは、車をゆっくりと走らせる。移動体通信をうまく使う。そして、道も、コンクリートやアスファルトをはがす。歩きやすさ、屋内と屋外の連結、歴史的環境、自然、水辺を取り戻す。そういうことによって既存のコミュニティを再生する。郊外では、例えば区画整理地の7割から8割までは市街化しておりません。それでも、まだ区画整理は進められております。そこを自然に戻す仕組みが、今や必要になっている。多摩ニュータウンの開発されない土地は自然に戻す。これは不良債権の処理の問題を含めて非常に難しい課題ですが、何らかの手を打たなくてはならない課題になっていると私は思います。
(図50)
 次に、21世紀のパラダイムの参考事例です。私は、門司港という開発で、歴史と水辺を大切にするまちづくりの体験をいたしました。
(図51)
 北九州市の末吉市長が、私が勤めていた会社のオーナーである堤さんに協力しろというお話をされて、その開発準備会に入り、アメリカのウォータフロント開発を進めたRTKL社と、門司港の真ん中にある内港を保存するマスタープランをつくりました。
(図52,53)
 西洋環境開発は撤退いたしたのですが、この都市経営フォーラムでもお話になった中野恒明さんがフォローアップされ、北九州市その他多くの人の努力があって、実におもしろいはね橋とかできました。これはマスタープランに含まれていて、私がやったというつもりはありませんが、関与をしております。それから、満潮になると水で隠れてしまう埋め立てとかのアイデアも出しました。
 私が全く関与していないのは、このアルドロッシの新しいホテルです。もっとも、ここにホテルを、とマスタープランの図に丸をつけたのは私だといってもいいのかもしれません。ただ、何が重要かというと、自然、水、歴史、ここにみんなの共感が集まり、地域のアイデンティティーが確立したという点です。
(図54、55)
 21世紀には、あらためて鉄道の価値を見直し、駅をさまざまに使うことが重要です。これは、南船橋駅とららぽーととザウスの図です。残念ながら、ザウスはなくなっておりますが、ザウスは建て方が逆でした。むしろ下がってきたところに駅があれば、その駅のプラットホームが、実はそのままゲレンデのロビーになったということです。
(図56)
 京都駅の写真です。この駅開発は大変参考になります。原広司さんはすごいですね。
(図57)
 それよりかなり前にディズニーなんかも、電車がそのままロビーに滑り込むコンテンポラリーリゾートというホテルをつくっています。
(図58)
 神野さんは東京大学の財政学の教授でいらっしゃいますが、ヨーロッパで進んでいる開発の流れは、工業によって汚染された土、水をよみがえらせることが市民の中心の課題だ、とおっしゃっています(日経経済教室2002年3月4日)。これは市民の課題であると同時に、我々都市開発にかかわるプロフェッショナルが多くのビジネスを見つける機会でもある。そのことを我々はしっかり見る必要があると思います。
(図59)



どのように革命を進めるか。
(図60 図版参照)
 車がゆっくり走るレインボーゾーンづくりを点(交差点)や線(通り)からスターとさせることが必要です。たとえば私が住んでいる池袋のこのメトロポリタンプラザとホテルの間の交差点。これは歩行者が中心のレインボー交差点であるべきです。もう1つの場所。これは大学のすぐ脇の小学校への通学路です。ストリートからスタートすべきだ。どうしてもこれは見ていただきたい。これが現実だということです。
(動画映像)
 これは2日前に私のところにいる1年生の学生が写してくれた真間小学校への通学風景です。左側が小学校です。もう一回スタートしますので、見てください。この幅員5メートルの道を車が40キロあるいは50キロの速度をあげます。歩道はありません。そこを小学生が歩いている。よく人が死なない。いや、実際に事故で子どもが死んでいます。こんなこと許しておくんですか、と私はエモーショナルな気分になります。
 この道の安全はレインボーストリートなんていう穏やかな言葉では間に合わないくらい重要です。そこではあらゆる手法を使うべきだ。
 ですから、ソフトカーという手段に頼る必要はない。ここはハンプを使おうと何でもいい、とにかくまずここの子供の安全を確保しようじゃないか。
 例えば、新井さんがこれから進められる再開発の中で、当然ですが、そういう、車と人を分離する、あるいは緩速化していく仕組みを取り入れていただきたいということです。
(図61)
 今後さらに進めたいことはたくさんあります。まず、より質の高いデータをたくさん収集していきたい。それから、企業との提携で考えられることはいっぱいございますが、特にきょう、新井さんからコメントがございましたが、ソフトカーの考え方を組み込んだ既成市街地の整備、再開発、ニュータウン開発といったものが可能だ。それから、さっき松下の有野さんからもご質問がありましたが、自動車メーカーもかなり私どものことを理解してくれるようになっています。速度をコントロールする技術というのは自動車メーカーが非常にすぐれています。ぜひ、連携を深めたい。
 それから、政府との話もしております。先日、内閣府が、「世界一安全な道路交通の実現をめざすキックオフ・ミーティング」というのを、小泉さんが、ことしの初め、10年間で交通事故を半分にするという宣言をしたことを背景にして、スウェーデン等から専門家を呼んで開催しました。その直後に私は内閣府を訪ねておりますし、さまざまな形で私どもも当事者になろうとしています。
 ITSや交通安全の組織との連携も今までどおり進めていきたい。
(図62 図版参照)
 それから、愛知万博においてやってみたい提案が1つございます。来年のITS世界会議が名古屋であり、そこでも提案したいのですが、グレーター万博地区という考えで、博覧会場の中は6キロで、しかし外に出たら、15キロ、30キロ、50キロまで出せる車をピープルムーバーとして走らせたら、これは革命的だ。それを進めたいというのが私の展望でございます。
(図63、64)
 今までさまざまな報道がございましたし、私も、きょうの機会も含めて発表の機会を持ってまいりましたが、これからも発表を進めていきたい。ぜひ皆さんにもお話させていただく機会をつくっていただきたいというのがお願いです。
(図65 図版参照)
 それから、レインボー・ゼロのマークについて。お手元にステッカーをお持ちの方がいらっしゃるかと思います。
 部数がなくなってまいりまして、限られてきましたが、これはビジョンゼロを進めているスウェーデンの政府から許可を得て、色をレインボーに変えたゼロマークです。これをソフトカーだけじゃなく、何とか建設さん、何とかモーターズ、あるいは何とか商店街、そういったところで共通するマークにして、一方でローカルなアクティビティーをサポートし、一方でグローバルな連携を進めていきたいというのが私の広報戦略です。
(図66)
 こういうことを進めていくためには、さまざまな人の連携が必要だ。今まで千葉商科大学でこれをやってまいりました。
(図67、68 図版参照)
 最後にお話しするのは、安全な自動車交通システム研究会です。実に多彩な方々が参加されていらっしゃいます。皆様ご関心があれば、私のメールアドレス(oguri@cuc.ac.jp)は、きょうお配りした資料に書いてございますので、ぜひご一報いただきましたら、この会議にはどなたでもご参加いただけるという仕組みで進めていきたいと思います。
一応これで。ありがとうございました。(拍手)



フリーディスカッション(2)

里見
 ありがとうございました。
 5分ほどになってしまったかと思いますが、後半の部分、またソフトカーのことでも結構だと思いますので、ご質問がありましたら、どうぞ。
中廣((財)民間都市開発推進機構 )
 先ほどお話しされたように、小栗さんとは10年ほど前一緒の会社におりました。きょう久しぶりに、冴えのある話題をいただき、非常に感銘を受けました。 
 きょうのテーマは共生ということですね。都市計画でも、今までの土地の用途純化の理論から、用途間の共生、共存へと考えが変化している。歩行者と車も分離・分断するという20世紀のコンセプトから、いかに人と車が共生していくかですね。土地や建物の用途も複合用途ということで共生というのが今トレンドになっており、まさしくいいお話だと思います。
 そこで、私が気になりましたのは、共生の「仕方」と「量」の問題です。量の問題はどういうことかというと、地方都市で中心市街地が疲弊しているのは、車と歩行者が混在して、老人あるいは身障者に対して非常に危険であるという中で、郊外のショッピングセンターが完全に歩車分離を行って、歩行者の安全が確保されているから客が流れた。だから中心市街地も車を排除するというような中で、「歩いて暮らせるまちづくり」ということが言われています。きょうのお話は、先ほど二子玉川のお話がありましたが、中心市街地においても、排除する、あるいは隔離するのではなくて、いかに人と車が共存するか、そのための提言としては非常におもしろい。
 ただし、そこで量の問題といいますのは、今後高齢者の方がどんどん団塊の世代でふえてきます。そういった方でも車を使う。舗装の問題もそうですが、1人1人がそういう意識をしても、総量として車に依存する方がふえてくれば、当然中心市街地もそれだけの量の車が入ってきてしまう。
 そうした中で、多分小栗さんも研究されたかと思いますが、違ったトランジットの仕方ですね、LRTを含めた、みんながみんな車を使う時代ではなくて、公共交通とか違った代替手段を持たないと、個々の方がマナーを守っていても、それが総量として大きくなったときに、やはりシステムとして非常な疲弊といいましょうか、問題が出てくるんじゃないか。
 そういったほかの交通手段も含めた移動手段の整備に関して、もう少しご発言いただければと考えます。
小栗
 中廣さんに重要なポイントをご指摘いただきました。
 時間もありませんので短く申し上げますが、「ソフトカーがすべての問題を解決しない」ということが重要ですね。これは残念ながらきょう皆さんにお渡ししていないんですが、ソフトカー・オンリー・ポリシー・ダズ・ノット・ワーク(Soft Car Only Policy Does Not Work / ソフトカーだけでうまくいくわけじゃない)というフレーズを入れた絵本を作っています。今までの公共交通、自転車、歩く、そういう他の手段と組み合わせる。土地利用規制等も含めるという考え方が必要で、ソフトカーをやればすべてがうまくいくということじゃないということ、これがまず大前提です。こういうことを一々いう必要はないかもしれないけれども、論理的にも、N個の問題を解決するために、N個の手段が必要であるという数学的な理論があるんですが、それとよく似ているというのが第1点。
 第2番目は、しかし、ソフトカーの価値は極めて高い。例えば、大火を受けて焼けた酒田市の中心市街地は、その再開発後、車を入れませんでした。現状どうなっているか。人がいません。私が訪ねたのが平日の昼間だったからかもしれないけれども、実に人がいない。どうやって、車にとっても魅力的な環境をつくるかというのは極めて重要な課題です。もし、ソフトカーがふえ過ぎるといった状態になったら、僕はうれしくて、もう死んでもいい。(笑)
 そういうふうにソフトカーで溢れるような状態になったときには、まさに次の仕事。ここは車は入れませんね。ただ、補助的に、ちょうど私たちが座るときの椅子ぐらいの大きさの乗り物とかを考える。ジンジャーでもいいですよ、21世紀の自動車だとか宣伝して、大ぼらふきだと思うんですが、アメリカの人が最高15キロのスクーターようなものを提案した。私は6キロでいいと思うんだけれども、そういうものでも何でもいいです。いずれにせよ、ほかの手段で補助する。そういう形で、他の手段というのは、中廣さんおっしゃるとおり、絶対必要です。
 今まで、車を排除すればうまくいくと考えていたものが、かなり多く失敗をしている。現実に、例えば、これも皆さんよくご存じのことですが、ミュンヘンの歩行者空間が大変な成果を上げたのは、その下に地下鉄が入っているからです。それから、外部に大規模な駐車場が整備されたからです。そういう方法を使いながら、いわゆるTDMといいますか、トータル・デマンド・マネジメントを進める。共生しながら徐々に抑制していく、という手法が現実的ではないのかなというのが私の考えです。
里見
 ありがとうございました。
 それでは、お時間が参りましたので、これで本日は終わらせていただきたいと思います。先生には、大変ありがとうございました。(拍手)


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