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第196回都市経営フォーラム

廃棄物処理施設計画の合意形成
─長野県における挑戦

講師:原科 幸彦 氏

東京工業大学大学院教授

日付:2004年4月22日(木)
場所:後楽園会館

1.廃棄物処理施設立地における紛争

2.合意形成の理論

3.長野県中信地区における紛争事例

フリーディスカッション

4.透明プロセスの応用



 

 

 

 今ご紹介いただきました東京工業大学の原科でございます。東京工業大学ですから、理工系の大学です。私の分野は社会科学的な方でして、本学には社会工学という学部の学科があります。社会工学専攻という大学院があります。従来は、私は、そこで教えておりましたけれども、6年前に環境の専門の専攻がすずかけ台キャンパスにできました。本学は、目黒区の大岡山キャンパス、もう1つは、横浜市の緑区にすずかけ台、東急田園都市線のすずかけ台という駅の前にあります。そちらの方のキャンパスにおります。そちらは、総合理工学研究科という大学院がありまして、この大学院は総合という言葉があるように、いろんな分野の人が集まるようになりました。
 考えてみますと、環境という問題は大変総合性がありますので、そこで環境問題に関しましては、本学ではこのすずかけ台キャンパスの方で中心的に行っております。すずかけ台のキャンパス、総合理工学研究科の中には、大学院のデパートメント、日本語で専攻と呼んでおります、11の専攻がありまして、そのうち4つが環境分野です。ということで環境研究を中心にやっているということでございます。もちろん、大岡山でも研究しておりますけれども、本学全体でいいますと、すずかけ台で総合的なアプローチをとるということになります。
 そういうことで、私は環境理工学創造専攻という専攻におります。ここは理工学のメンバーがたくさんおります。いってみればその全体をつなぐような形になりますけれども、環境政策とか環境計画ということを担当しております。とりわけ理工系の技術が環境配慮のためにいろいろ役に立つと思いますので、そういうような立場で研究を進めております。
 お手元に資料を用意させていただきました。ちょっとごらんいただきます。きょうは、廃棄物処理施設計画の合意形成ということをお話しさせていただきます。今ご紹介がありましたように、きょうで196回目ということで大変長く続いておりまして、たくさんの方が毎回聞きに来られるということで、私も過去2回お話しさせていただきましたので、きょうで3回目になります。こちらに伺うと、皆さん熱心に聞いていただくので、話す方もやりがいありまして、きょうも楽しみに参りました。
 今回は、長野県、田中康夫知事の新しい長野県政のもとで、挑戦が行われております。簡単にいいますと、田中知事からそういう依頼がございまして、合意形成の新しいモデルをつくってもらいたいというか、そういう問題解決を図ってもらいたいということがございましたので、今おつき合いしております。

 きょうは、4つの項目で分けました。最初は「廃棄物処理施設立地における紛争」の問題。それから、合意形成、これを少し考えてみたい。「合意形成の理論」と書きました。それから具体例、「長野県中信地区における紛争事例」のお話をいたします。そして、もう1つ、さらにこういった合意形成のプロセスが実はいろいろ応用面があるんだということをご紹介したいと思います。私はアセス分野でございますので、ODAの分野でも今アセスメント、大変重要なものでございまして、その辺のお話も最後にしたいと思っております。
 2時間の予定でございますので、1時間半ぐらいお話しさせていただいて、あとは質疑という形にしたいと思っております。
 これをめくっていただきますと、裏側、両面コピーしていただきました。なるべく両面コピーで資源を節約しようというわけでございます。ここに「クローズアップ ひと」と書いてあります。日刊工業新聞。ご存じの新聞でございます。ここで紹介をされました。時々こういう形で紹介されることがありますけれども、この場合は、真ん中に大きな見出しがあります。「環境アセスメントの本質は…意思決定過程の透明化」、こういうキーワードを入れてくれました。これは私がインタビューに答えてお話ししたことを記者の方がしっかり把握して、意思決定過程の透明化が一番大事だと、私、何度もいったんだと思います。そういうことを真ん中にバンと入れてくれたんですね。私がいつもいっていることをきちん出してくれたので、これを私の自己紹介も兼ねまして、アセスとはこういうものですよということを申し上げております。
 たまたま、きょう、圏央道の裁判、あきる野のところのインターチェンジに関する裁判がございまして、東京地裁の判決が出ました。先週朝日新聞からのアクセスがありまして、多分判決は原告勝訴になるだろうから、コメントを欲しいといわれておりました。きょう、こちらに伺う直前までは、研究室におりましたけれども、午前中に連絡がありまして、コメント申しました。いつも同じことをいっているんですが、要するに、このような大規模公共事業を行う場合には、その事業の公益性の認定が大変大事です。そういった問題が一番深刻になりますのは、土地収用という問題がかかわる場合でございます。
 この圏央道のあきる野の場合もそうなんです。土地収用の問題。その場合には公益性をいかに認定するか、大変大事なところです。そのところがどうも不十分であるという判決でございました。それは私もそんなふうに今回は思いましたので、そういったこと。それから、アセスはどうあるべきか。先ほどご紹介がございましたが、戦略的環境アセスメントとか、そういう新しい考え方がアセスにありますので、そういったことも少しご紹介しました。
 夕刊にコメントが出るはずですから、ごらんいただければと思います。ちょうどたまたまきょうですから、多分この私の話が終わったころ夕刊が出ると思いますので、ごらんいただければと思います。
 次のページを見ていただきましょう。「環境資産で地域活性化」と書きました。これは環境を守ることが実は経済的に随分プラスが大きいんだということを申しております。これは日経の「時論」というところに依頼されて書いたものです。3年前でございます。たまたま当時も1つ判決がございました。これも環境の問題とかかわる事例でございましたので、それも引用しております。
 要するに、環境を配慮しないと、例えば裁判の場で負けてしまって、その分費用がかかります。場合によっては原状回復というようなことを求められますと、そのための費用もかかってしまいます。ということで、これは大変大事な問題だと思います。
 一方、環境を十分配慮しておけば、むしろ人々にとっては魅力的なところになります。そこは、例えば観光地だったら人を引きつける。そういう経済的なプラスが生じてまいります。そういった事例もここに示してございます。そんなことで、環境配慮と経済活動との関係などを書いてございます。
 その次のページ、これは朝日の「私の視点」に書いたものです。「川辺川ダム強行は間違い」という、ちょっときつい表現かもしれません。私は最初はこんなきつい言い方をしなかったんですけれども、新聞社の整理部でちょっときついことになったんです。ただ、後になって思いましたら、このぐらいすっきりいった方がよかったんじゃないかと思いまして、これをご紹介させていただきます。
 この川辺川ダムの事例はご存じの方も多いかもしれません。要するに、こういった公共事業、意思決定のプロセスが大変大事で、大規模公共事業を見直そうということがあちこちで今起こっております。そういった代表例としてごらんいただきたいと思います。
 このことと今申し上げていた環境資産の問題はつながってまいります。川辺川の場合には、むしろこのダムを見直して、地域の環境資産をより質の高いものにしていった方が、地域開発上も大変いいのではないかという考えを私持っておりますので、そんなことも若干書いております。



1.廃棄物処理施設立地における紛争

 そこで、最初のページに戻っていただきます。
 廃棄物問題。こういったことで、環境問題には、いろんなことがございます。今多くの人たちの関心を求めている1つは、廃棄物の問題だと思います。特に、廃棄物処理施設をどこにつくるか。このときにNIMBY(ニンビー)現象、「not in my backyard」と申します。これは、「総論賛成各論反対」という日本語が合うと私は思います。ですから、海外の人と話をして、ニンビーというときに、「In Japanese Sohron Sansei Kakuron Hantai」と、一々説明するんですよ。そうすると、「なるほど、そうか」。「Jenerally Speaking,Yes.」ですね。「But actually,in certain place,No.」です。そういうことをいいます。なるほど、そうだ。「総論賛成各論反対」。それをNIMBYといいます。
 廃棄物処理施設問題、これはまさにNIMBYの典型でございます。これは私のきょうお話しする長野の例では、2年間の検討委員会の成果をレポートにまとめまして、この報告書の頭に「はじめに」とあります。回覧いたしますが、ここに書いてございます。廃棄物問題は全国的に焦眉の問題になっております。
 大量生産、大量消費、大量廃棄、この生活構造に根差しております。ですから、どれか1つの主体が悪いというわけじゃないんです。すべての主体の行動といいますか、あるいはライフスタイル、そういうものすべてに関連しておりますので、トータルの社会システムのあり方を考えなきゃいけないということでございます。そういった根の深い問題でございますから、あるところだけで解決しようというのはなかなか難しい。ですから、生産、流通、消費、すべての段階で根本的な見直しが図られなきゃならないわけです。
 しかし、それは簡単ではありませんので、当面の問題、課題解決とともに、そういった根本的な問題の解決もあわせてにらんで政策を講じていかなきゃいけないということです。
 そんなことで、この委員会では、たくさんの主体、社会のすべての主体がかかわっていると思いますので、多様な利害関係者が公開で議論する場として設置されてたのが、この委員会でございます。これを参考に回覧いたします。
 そんなことで、この問題解決なかなか困難でございますが、こういう場合に、結局事業の意思決定ということ、それはなぜこの場所にということです。確かに廃棄物問題、解決しなきゃいけない。したがって、「施設は必要だろう。でも、なぜ私の家のそばにこの施設ができるんだ」、大体こういう問題です。
 そういう意思決定プロセスがどうも不透明だということが常にいわれております。ということで、こういった問題解決をどうしたらいいかというのがこの事例でございます。
 そこで、特に最終処分場とか、あるいは廃棄物の中間処理施設、ごみの焼却場、そういったものの場合には、ダイオキシン汚染とか、あるいは重金属汚染、そういうようなことでリスクが大きいというぐあいに認識されておりますから、余計解決が困難でございます。
 しかし、そうでなくても、例えば、ビンやカンのリサイクルセンター、こういうものは余りリスクの問題は大きくないです。しかし、迷惑施設です。処理するときに音がガチャガチャするとか、きょうは暑いですが、暑い日はにおいが臭いですね。虫やハエが寄ってくるとかいうことで、非常にぐあいが悪い。ということで、ビン、カンのリサイクルのための中間処理施設でさえなかなか立地が難しい場合がございます。それは特に都市部がそうですね。都市の場合にはお互いに密集して住んでおりますので、影響も大きいということでございます。
 そこで、まず最初に、そういった事例を少しご紹介したいと思います。これは最初にご紹介いただきましたが、私は環境アセスメントの研究を行っており、環境計画という枠の中で住民参加ということで環境アセスの研究をやっております。
 放送大学で「環境アセスメント」という講義を行っており、もう10年やってまいりました。途中で1回改訂しましたので、これは改訂版と書いてあります。そのために書いたテキストです。この中で紹介している事例をまずごらんいただきたいと思います。ただ、お話をするだけではおもしろくないですから、きょうはビデオを用意しました。ビデオで、どんな事例だったか、これをごらんいただきたいと思います。
 これは東京の狛江市における例です。狛江市におけるビン、カンのリサイクルセンターの立地問題。こちらも紛争になりましたので、それがどんなふうに解決したかということをごらんいただければと思います。

(ビデオ上映)
 これは私の直接関係した例ですが、東京都の狛江市におきますごみの中間処理施設の建設計画の例です。地図をごらんいただきましょう。これは東京23区です。そして、23区の西側に狛江市が隣接しております。狛江市全体の面積は6.2平方キロメートル。大変狭い地域ですけれども、人口7万2000人ほど。ですから、1ヘクタール当たり110人と、大変密度が高いです。こういったところですので、ごみの焼却場は市内にはありません。また、ごみの中間処理は市内で行っていたんですが、そこで、市民がこれはちょっとぐあいが悪いと苦情が来ました。処理作業は民間に委託しておりましたので、民間の業者がほかにあります操業場で操業を行いました。ところが、その操業している場所、これは他の町です。今度は、そちらで苦情が出るんですね。現況をごらんいただきましょう。
 狛江市のビン、カンの受け入れ拒否を通告されました。これは操業場のある町でです。そこで、市議会で建設用地購入の予算案を通しまして、用地を買ったんです。そして、建設を始めようとしたんですが、実はその場所は市の保育園のすぐ隣、隣接しております。そこで保育園の父母の会が建設反対をしております。

 (住民 酒井なつみさん)
 「保育園のメンバーの人たちとなぜこれが問題なのかという、ビン、カン中間処理工場に関する資料というのをつくりまして、どういうことかというと、まず狛江市のごみ行政がどうなっているかということと、それからここの立地条件、道幅全部、道路の幅をはかりまして、実際にこれがふさわしいものなのか。それから、寄本先生が参加されたごみ工場の住民参加の例などをみんなにわかってもらおう。こういうやり方もあるんだよということで、そういうものを載せたりしながら、やっぱり、ごみの問題は市全体で考えていけるようにすることが大事なんじゃないかということを資料として出したわけです。そこから突然市の対応が変わったんです。」
 今のが7月です。そして12月に、こまえごみ市民委員会が発足しました。つまり、市民参加で、振り出しに戻って、用地選定段階から参加して決めようということです。この委員会、市民が12名、専門家6名がメンバーに入りました。私も、その専門家の1人として参加しております。
  そして、第2回の全体会が行われました。この間にいろんな市民が勉強していったんです。32カ所、市の公有地リストを公開いたしまして、この中から自由に選んでくれ、しかし、用地の条件がありますので、そのうち適地といいますか、そういうのは8カ所に絞られました。
 そして、市民は、ごみの組成調査を行ったり、あるいは学習会をやったり、見学会を行ったりして、どういった場所が適当かを考えていった。その結果、第3回専門家部会で、候補地を32から8つに絞り込んでおります。
 この8カ所。そして、さらにこれら8カ所を検討いたしまして、7月には2カ所に絞り込んでおります。AとBとあります。Bといいますのは、市が最初に提案した当初案です。Aは市役所であります。これは市役所の敷地の中に建物の1階に駐車場がありまして、そこにつくろうという、大変ユニークなものです。これは市民参加の会議で提案されまして、市も「じゃ、仕方ない。市も本気でやるぞ」ということです。このAとBが対象になりました。
 そこで、この2つの場所になりましたので、この2つの場所の周辺の地域住民の方に参加していただいて、市民参加の会を拡大したんです。拡大委員会ということで議論を進めました。
 拡大委員会をいたしまして、さらに議論をしていったんですが、2候補地をさらに絞り込んで、どちらにしたらいいかと選定するわけですが、この段階でいろいろこういった活動が行われております。しかし、この活動、かなり難しい面もありました。つまり、拡大の会議をいたしましたので、周辺住民の方、それからそれまで議論していた市民の方、やはり情報のギャップがありますので、食い違いがあります。お互いに情報のベースをつくるのにちょっと時間がかかります。
 それから、途中では、市が住民の不信を買うような行動をいたしましたので、後で解決したんですが、この当時は会議が紛糾しまして、決裂の危機に至りました。しかし、最終的には、両案の総合評価をいたしまして、最終案、結論は当初の予定地がベストだろうと判断しております。
 そして、その結果、結局、市の当初案が、12月、市長に提出されております。その後、3月には全体の議論をまとめて、ごみ処理基本計画ということで最終答申案が市長に提出されております。
 それでは、今どんなふうになっているか、現地の様子をごらんいただきましょう。
 これが現地です。ここのところがビン・缶リサイクルセンターです。このように大変美しい建物になっております。2階建てです。これは周辺環境のことを考えまして、3階建ての案だったんですけれども、2階に減らしております。
 今操業しております。この建物はこのように密閉型なんです。ですから、騒音だとか悪臭、あるいは虫が発生するといった問題は生じないんです。密閉型の構造にしたということで周辺環境への影響はほとんどなくなっております。
 この施設は1993年の10月に着工しまして、94年の10月、ちょうど1年後に竣工しました。同じ年の11月から本格的な稼働に入っております。稼働の段階から市民参加によって管理する、そういったこともやっております。
 しかし、今ごらんになったような状況です。つまり、特に環境上の問題は起こっておりませんので、管理委員会は年に1回程度開かれるということで、結果的にはよいことになっております。また、ごらんになったと思いますけれども、建物の周りに樹木も配しまして、周辺の居住環境と調和するような工夫がされております。
 このプロセスにつきまして、この委員会の委員長を務められました早稲田大学の寄本教授にお話を伺っております。
 「行政の方は、当初おもしろくなかったと思いますよ。一番初めのころは。せっかくいいことをやろうとしているのに、反対を受けたわけですから。けれども、僕は狛江市が偉かったと思うのは、そういう頭の切りかえを早くなさって、もう一回初めからスタートし直そうよということを積み重ねながら、行政の人たちも随分市民の反駁を、我々も行政の立場からもっとやっていこうという、よくいわれるように、同じ釜のご飯を食べているような、そういう雰囲気になってきて、そして、最後の段階になってくると、みんなが集まれるように、日曜日に集まって、職員の方も出勤してくるし、サラリーマンも日曜日なら出れるというのがあって、将来のリサイクルセンターの絵を見たりとか、騒音とか、そういったことに関しての専門家のお話を聞いたりとかいうふうになっていったんじゃないでしょうか。」
 こんなぐあいに、市民参加の会は進んでまいりました。この用地選定に至るまでちょうど1年かかりましたけれども、その間、我々専門家が参加する会議だけでも20回以上行いました。そのほか住民の方は、例会集会、市民だけの会、あるいは見学会、そういったことを行いまして、何と50回以上の会議を開いて、大変な時間を使ってこられたわけです。しかし、その結果、このようにいい結果が得られたわけです。
 そこで、例えば、こんなこともありました。「こまえごみ100人スピーチ」と書いてあります。130人以上の方が参加しました。これは私も駅前で一言しゃべらされました。こういった活動もありまして、大変積極的な活動になっております。
 このプロセスにつきまして、関係された住民の方お2人と、行政の方にお話をお聞きしております。

(住民 小林倍雄さん)
 「私も昔は会社で公共事業やっていましたから、そのときはまず地元の有力者らしき者を何人か集めて、そこで了解してしまった。そういういきさつだったものですから、ここもそんなことになるのかなと思っていたんです。ところが、委員会という話が詰まってきたら、非常に民主的な形に見えたものですから、私ども、昔と全然違うわいと思いながら、ついていったわけです。できることについて、我々は決してよかったとは思っていません。むしろ、ない方がいい。さりとて何ができるかわからぬという心配も別にありましたけれども、提供するものができることになったということです。結論として見れば、かなりの点に市の方も譲歩があった。それは、酒井さんとか市民委員会の方が、非常に強硬にご意見を申し上げて、協議してくださったということが大いに影響あると思います」

(酒井なつみさん)
 「素人でよくわからない。ただ、保育園のお母さん方に、最初は3階建てのフォークリフトのものですから、それより2階建てでよかったといわれましたし、よかったと思っています。勉強してもわからない部分はたくさんあるんですけれども、しないとわからない。だから、どういう施設ができるかという実質的なものを含んで、あれしたので、やっぱりメンバーの人たちがみんなそれを理解するまでに何十時間もかかった。最終的にこの施設で処理できるんじゃないかという判断に至ったという経過がありますから、とてもいい委員会ではあったと思います。不信感はまだ持っております。その不信感、行政に対する不信感というのは、別に狛江市ということではなくて、とにかく縦割りですよね。だから、もうちょっとフレキシブルに動くべきだと思うんです。柔軟に動いてくれるといいなという感じです。」

(市民部長 笠井純さん)
 「行政も、何も市民の反対を押し切ってやるという考え方じゃなくて、一緒に考えてやらなきゃならないというところが大切だと思うんです。その意味では委員会の一貫した姿勢として、そういう施設は必要だ、市内につくろう、こういうコンセンサスが市民の皆さん方にありましたので、そういう点では、我々はこの話を進めていく上では心強かったですね。最初は全く信じられていませんね。行政というのはうそをつくものだという大前提があるんだと思いますね。終わってからも信じられていると思っていませんね。まだ疑われていると思います。ただ、これだけのことを突きつけたんだから、ちゃんとやれよというふうな形で、監視をするぞ、監視されている中だから、そういいかげんにはやらないだろうと思われていると思う。実際に行政はそんないいかげんなものじゃないと私は思っていますけどね。行政がそんなにいいかげんにやったんでは、一から十まで全部破滅するはずのものですね。そうじゃなくて、きちんと見るものは見る、市民の意見も聞く、そういう形で我々は進めているつもりです。その辺が一番重要なところじゃないかと思うんですけれども、なかなか信頼されませんね。」
(ビデオ終了)

 今ごらんいただいたのは、狛江における例です。市民部長が最後におっしゃったように、市民が見ている、監視している、そういう中であれば、行政もきちんとやるだろう。そんなようなことをいっておられました。この感覚が大事だと思うんです。つまり、透明性を保持することによって行政の活動も理解される。そんなことだと思います。
 この例の狛江というのは、今ごらんのように、都会の真ん中ですから、非常に密集しております。そのことは問題が大変起こりやすいのですけれども、合意形成という点で考えますと、市民がこういう問題に対して、ある問題が起これば関心を持ちやすいです。情報が伝わりやすい。そんな状況だと思います。
  ここの場合には面積が6.2平方キロです。皆さん大体見当つくと思います。7万2000とか、そのくらいの人口ですから、1ヘクタール110人ぐらいでしょうか。やはり密度は高いです。しかし、6平方キロと大変コンパクトですから、そういうようなところであれば、ある大きな問題が起これば、市民の多くの人が関心を持ってくる。そうすると、問題に対して行政が積極的に取り組めば、これに対する関心も高まる。問題もこじれやすいですけれども、うまいところにいけばうまくいく可能性もありますということで、こういった例から幾つかの教訓があると思うんです。



2.合意形成の理論

 そこで、2番目の「合意形成の理論」と書いております。参加には5段階の参加があると考えておりまして、それなりの整理をしております。
 これをごらんいただきたいと思います。
(図1)
 お手元の資料に書いてあることなんでございますけれども、5段階のこういうモデルを考えております。「参加の5段階」。これは3年前に日本都市計画学会の50周年の記念のワークショップがございまして、そのときにお話ししたものを整理してお示ししたものです。
 5段階ということですが、都市計画ではいろんな段階分けの議論がございます。最近の様子を見ますと、大体この方向だと思います。随分古いものでは、1968年にアメリカのアーンスタインという人が、住民参加へのはしごみたいなもの、8段のはしごを紹介しております。
 これは日本では大変有名な文献でございます。私ども若いころのものです。そういったものと比較しますと、彼女の分けたもので考えると、シチズン・パーティシペーション、参加という概念に必ずしも全部が入るものではないと思います。8段階の最初の一番低い2段階は、彼女はnon participationといっています。参加ではない。一番上はcitizen controlです。シチズンがコントロールするということは、シチズンが主体ですから、参加という言葉はなじまない。参加というのは相手があるものです。そこで、参加といえるのはパートナーシップまででしょう。そんなことで整理しています。
 それから、彼女の概念になかった重要なもの、それが一番大事だと思っています。それはレベル4です。順番に申し上げますと、レベル1は、情報提供、インフォーミング。情報を提供する、これが参加の第一歩です。2番目は、意見聴取です。情報を提供してから意見を聞く。ヒアリングといいます。パブリック・ヒアリング。レベル3が、応答するわけです。応答に2つありまして、レベル3は、形だけの応答。レベル4は、応答でも意味ある応答、ここが違ってまいります。
 1回しか答えなくていいという場合には、形だけの応答になりがちです。もちろん、きちんと正式に答えるのは1回目も可能です。しかし、形だけになりがちです。例えば、国会の党首討論を見ても、与党、野党。小泉首相に対して菅野党党首が質問すると、時々小泉首相、回答をはぐらかしますね。きちんと答えてなくても1回だけだと終わっちゃうでしょう。そうすると、国民はそれを見ていて不満を感じるわけです。そんなことになります。しっかりした議論。ですから、形だけの応答というのは結構あります。例えば見解書を出す。見解書を1回だけ出してしまえば、それでおしまい。きちんと答えてなくても手続は終わります。しかし、それだとかえってフラストレーションがたまる。
 それに対して、レベル4の意味ある応答というのは、何度も繰り返してディスカッションしていく。そうすると、1回目、2回目、やりとりしていますと、きちんと答えないと、これはぐあいが悪い。これも非公開の場でこういうことやっても批判されませんけど、公開の場できちんと答えないと、答える方は社会的批判を受けますから、これはなかなかぐあいが悪い。レベル4は大変大事なところです。
 実はアーンスタインの8段のはしごの中には、レベル4に相当するものがなかったんです。彼女は、レベル3まではトークニズムといって、話をするだけ。彼女は大きく3つのグループに分けていました。ノン・パーティシペーションとトークニズム、それからシチズン・コントロール。話をしているときから、市民対管理にポンと飛んじゃうんですね。一気に飛ぶのも変だなということで、現実をよく見てきたわけです。結局、中間がある。つまり、参加して議論した結果を意思決定に反映させる。アカウンタビリを果たすということです。アカウンタビリティーという、まさにその概念につながってくる。そのレベル4が大変大事ではないかと思うんです。
 そういうことで、いろんな事例を見てまいりました。実は、環境アセスメントというのは、本来レベル4の機能を果たすものなんです。つまり、環境アセスメントというのは公開プロセスですね。その中で出てきた情報にきちんと答えていただく。ところが、従来の日本の環境アセスメントは、十分答えなかった。だから、レベル3に近かった。形だけの応答。しかし、本当のアセスメントはレベル4じゃなきゃいけません。これは大きな違いです。
 レベル4のためには最低2回以上のフィードバックがないといけません。2回、3回と。1回だけではこれはフィードバックできないということで、ぐあいが悪い。
 実は、日本の環境アセスメントも仕組みが変わりまして、今は2回のフィードバックをするようになっております。
 ちょっと簡単にご説明します。
(図2)
  こういう雑誌に、日本のアセスメントの特集号を組みまして、その中で私が書いたものをご紹介します。左側が、「Before EIT ACT」。EIT ACTというのは環境影響評価ということです。97年にできまして、99年からそれが施行になりました。だから、99年までは昔の仕組み。Before EIT ACT。これは法律ではなくて、行政指導ですね。そして、環境影響評価法、アセス法ともいいます。アメリカのNEPAという世界のモデルになったもの。
 これをごらんいただくと、日本のシステム、左側です。準備書と書いてあります。こっちはアメリカのNEPA、世界のモデルになったものです。黒く塗ったところが、グループとか参加のチャンネル、参加の機会です。昔は1回しかなかった。参加というのは意見を出すことです。アメリカは実は4回あるわけです。全然違うでしょう。まるで違って、しかも、スコーピングという、アセスのアメリカにおけるプロセスは、昔日本ではなかったんです。
 ところが、アセス法になりますと、これは随分改善されまして、このようになりました。まず、黒いところが2つになりました。スコーピングというのは日本では方法書といいます。方法書段階での参加の機会。今度は準備書段階です。この2回あるんです。1回から2回にふえただけで大したことないとお考えかもしれません。実はこれは大変違います。
 つまり、アセスメントは公開のプロセスです。しかも、次の参加まで時間があります。1回目にきちんと答えないと、2度目の準備書段階で、この前のリスポンスはどうだった、こういうことになります。これは公開です。社会の評価にさらされる。それから、日本ではこういった場合にアセスの審査会があります。審査会での意見もありますということで、きちんと答えないと、次のところでそれに対するリスポンスがある。ですから、2回目は大変に重要です。
 ということで、1回から2回というのは、大きな意味があると思います。1回しか答えない場合は、レベル3の、形だけの応答になりがちですけれども、2回以上であると、これが変わってくる。実際にアセスメントは、ご存じのように、これは方法書という段階で文書を公表して意見も述べます。それから準備書段階でまた文書を公表して、意見も求めます。文書がベースですが、文書による情報交換だけではなくて、例えば、説明会を開く。あるいは地方自治体では公聴会があります。説明会や公聴会という会議の形で情報のフィードバックを補完しています。ですから、段階としては2つでも、実際のフィードバックはそれよりももっと多いわけです。
  ということで、その段階を越えて次の段階できちんと答えないと、1回目のところに批判が出てくるわけです。ということで、2回やるということは大変重要なことになっております。
  そういう考え方は何も日本だけではありません。実は、世界じゅうで同じ考え方をしていまして、例えば、世界銀行のアセスメントのガイドラインでは、このスコーピング段階で、日本でいう方法書と、もう1つ準備書という段階になりますが、この2回の参加、英語でパブリック・コンサルテーションというのを使っていますけれども、パブリック・コンサルテーションすることを義務づけています。2回のパブリック・コンサルテーションしたアセスメントでなければ、まともなアセスとは判断しない。そういうアセスをしなければ、これは融資の対象になりませんよという、そこまできつい判断です。そういうことになっています。
 アメリカではNEPAの場合、もっと丁寧でして、これは最後にお話しします。
 真ん中の2回のフィードバックをやるということは、世銀がそういうことを要求していると同じように、ヨーロッパの多くのアセスが大体こんな形です。各国のアセスの標準形がこれですから、いってみれば、日本のアセスメントは、アセス法によってようやく国際水準になったんです。その意味合いは、私が先ほど申し上げたレベル4の、つまり、意味ある参加ができるものになった、こんなふうにお考えいただければと思います。
 これが1つ。
 資料の一番最初のページ。合意形成の理論、5段階のお話をしましたけれども、2のパブリックインボルブメント。「パブリックインボルブメント」という言葉は、皆さん、よくお聞きになっていると思います。私は、パブリックインボルブメントと、パブリックパーティシペーションというのはほとんど同じようなことではないかと思っています。
 要するに、行政の意思決定において国民とか住民の声を意思決定に反映させるんです。そのための手続で、行政側からいえば、パブリックをインボルブする。取り込むわけです。ところが、住民からいえば、そこに参加している。どっちから見るかということだと思うんです。社会的議論としてはほぼ同じようなことだと思います。
 そんな見方で、ご説明いたします。実は、こういう行政の意思決定に関して、国民が声を出していく。これが特に求められるのは、最初にお話しした土地収用という問題で起こるわけです。これは個人の権利を縛るわけですから、相当きちっとした公益性の認定がないといけないわけです。そういうことで、実はこういった問題が社会的に大変クローズアップされたことが最近ございました。
 3年前、お手元の資料をめくっていただいて、顔を向き合わせている写真の記事です。「土地収用法改正案の是非」、右の方に私がおりまして、左に藤田宙靖さん。藤田先生は今、最高裁の判事になられました。法律の専門家です。私は「環境アセス見直しが先」ということです。藤田先生は、「手続改善で一歩前進」。ここの論点はさっき申し上げたレベル3かレベル4か。参加のレベルです。改正案で、手続改善を提案されましたが、これはレベル2か3だったんです。だから、レベル1ではないから、若干改善されました。しかし、レベル4にはなってないんです。そこが大きな問題があるということをここでは申しております。中はよく読んでいただきたいんですが、形だけ一応参加といっても、実質的参加でなければ、むしろかえってぐあいが悪いといっております。この新聞の記事の3月3日の掲載の前に、2月にインタビューがありました。そのときにそろそろ法案が提出される、したがって、提案されたらすぐこれを掲載するといっていました。実際、3月2日にこれが提案されまして、翌日こういうふうになりました。
 実は、この段階ではこの議論のようなことがありましたので、この改正案は実はつるしの状態になりまして、法案審議に入らなかったんです。当時は、これは先に進まなかったんです。ところが、4月には小泉内閣が誕生しまして、小泉人気はすごい、これはいけるとなりました。その前に森内閣がやっていたから、こういうことになったら、ぐあい悪いことになったんでしょうけれども、小泉人気でこれはいけるということで、6月に審議に入りまして、成立したわけです。
 この土地収用法改正案の議論のときに、大変いろんなことがありました。次のページ。衆議院の国土交通委員会、皆さんご存じのように、法案の審議は本会議の前の委員会審議が一番大事ですね。委員会審議で私は参考人として呼ばれまして意見を申しました。このときには与党野党8名の衆議院議員がおられて、順次質問されまして、4人の参考人だったんですが、それぞれ答えてまいりました。参考人は議員の質問に答えて議論するだけなんですが、実は議員との議論を通じて結果的には参考人相互も議論することになります。
 最初、私は土地収用法改正、この案ではだめだ。ほかの3人は、まあ改正はいいんじゃないかということだったんですが、議論していく間に最終的にどうなったかといいますと、1つの点では合意になったんです。どういう合意かといいますと、こういう土地収用をやる場合には、土地収用に時間がかかるのはぐあいが悪いから手続を効率化したい。そのためには、入り口部分の段取りを丁寧にやらなきゃいけない。公益性の認定ですね。その辺が不十分だと、ぐあい悪いですね。これは提案した国土交通省もそういっておりました。今までそういうことが不十分だったので、入り口を改正する。あわせて出口も改正したい。こういう論理だったです。そういうことで議論をしてまいりましたら、ほかの3名の委員の方も、確かに、出口より入り口をしっかりやることが大事なので、その点では一致しました。
 ただ、違いは、そのための方法があるかどうか。私は住民参加の研究者ですから、これは十分にできると申しましたけれども、ほかの方々は、いや、まだ時期尚早だということになりました。ですから、基本的に、そういう入り口部分、公益性の認定にかかわる部分の参加。つまり、レベル4の参加となりますので、きちんとした意味ある参加にするという字句に変えなきゃいけないということでは一致したんです。したがって、この法案は、衆議院で附帯決議がつきました。附帯決議によってそういう参加の手続、国土交通省はそのためには、特にパブリックインボルブメントをやるということを決めました。その後、ご存じのとおりでございまして、国土交通省はパブリックインボルブメントをしっかりやるということで、いろんなことを進めております。
 ですから、その意味では、レベル4の参加は大変大事だということが、基本的なところでだんだん認識が広がってきたんではないかと思います。
 次のところに、今申し上げたレベル4の参加するにはどうしたらいいか。これは意思決定過程の透明化の問題ですから、我々はどんなふうにものを決めていくか、このことを透明にすることです。そのためには判断のときに必ず、AかBか、比較検討しますね。最初から答えが決まっているわけじゃないですから。Aがいいか、BかCか。それをシステム分析とか政策分析の分野では代替案といういい方をします。代替案の比較検討をする。ですから、そのことが大変大事だということを書いております。
 これは、環境アセスメントのコンサルタントの協会、日本環境アセスメント協会というのがございまして、そこが25周年の記念を迎え、ニュースレターのナンバーがちょうど100号になりますので、100号記念号に頼まれて書いたものです。つまり、コンサルタントはこういう形のアセスをぜひやってもらいたいということを書いております。
 そこで、次に参ります。
 これは『都市計画』という雑誌に書いたものです。去年書いたんですが、きょうの長野の話が出ております。前段の方で合意形成のことが書いてあります。パブリックインボルブメント、あるいはパブリックパーティシペーション、一緒だ、実質的には同じものだという場合に、PIという言葉をよく使いますから、それで整理しますと、PIには2つの方法があるということを申しております。
 34ページに、「会議ベースの方法」というのと「文書ベースの方法」。これはどういうことかといいますと、意味ある参加というのは、結局、今申し上げた意思決定過程を透明化するのですから、そのためのやりとり、議論ですね。それをきちっとやることなんです。これを透明な形でやる。これを我々パブリックスペース、公共空間における議論といいます。ディスカッション・イン・パブリックスペースですね。公共空間におけるというのは、みんなが情報を手に入れる。アクセスできる。そういう場において議論する。だから、実質的な議論をどうやってするかが一番大事なポイントだと私考えています。
 そういう点で申し上げますと、パブリックインボルブメントの場合にも、議論がベースですから、会議の場がまず基本だと思うんです。ですから、会議ベースというのは、会議を基本としたパブリックインボルブメントです。
 ところが、会議というのは、考えておわかりのように、どうしても参加する人数が限られます。よく100人会議なんてのがありますけど、きょうは146人の方とお聞きしておりますけれども、150人の方がみんなで会議はできないです。ですから、会議するためにはどうしたって、人数を絞らなきゃいけないです。ですから、会議が可能ということは、代表者をまず一定の数に絞れる場合は、代表者会議でうまくいきます。しかし、それが難しい場合もあります。
 そうなってきますと、議論のやりとりは本当は言葉でやりとりした方が効率的ですけれども、とてもそれをやっていることはできない。そういったときには文書を使いまして、文書で情報を提供して、また意見書という形で意見を求める。こういう方法をとれば、量はこなせるでしょう。たくさんの人から意見をもらえます。ただ、そのフィードバックに手間はかかります。時間がかかります。だけど、たくさんの人から情報を得る、たくさんの人に情報を与えるという面では文書を使うことは大変効果的です。環境アセスメントというのはそういう方法です。
 しかし、その場合には、十分なフィードバックがなかなか難しいので、それを補完する方法として、会議も行う。会議をベース。文書をベースといっても、会議だけでやるんじゃなくて、会議の中に当然文書を出しますね、書いたもので情報を確認します。意見も、どんな意見か、文書をつくって確認します。逆に、文書ベースといって、さっきもお話ししたように、説明会とか公聴会とか会議の場を設けます。だから、両方使うんですけれども、どちらに重点があるか。その違いだと思います。
 会議をベースにした方法が使える状況と、文書をベースにした方法を使わないとぐあいが悪い状況は、ケース・バイ・ケースです。そんなことがございます。
 そういうことでパブリックインボルブメントというのには2つの場合があるということをここで書いております。詳しくは読んでいただければと思います。そんな考え方です。
 そこで、今のように、できれば会議の場で議論をするようなことで進めれば非常にぐあいがいいんですが、そうじゃない場合もありますから、アセスメントになります。先ほどごらんいただいたものは、狛江の例ですね。狛江では会議の場でした。会議の格好でやっていった結果、合意形成に至りました。今ごらんいただいたとおりですが、これは1年間で答えが出ました。
 皆さん、いろんな現場をご存じでしょうから、たった1年で合意形成というのは相当効率的です。このときの大きな理由は当時の市長がすべてを白紙撤回、もとに戻した。一番最初の段階から判断しましょう、こういうことをやったからです。つまり、通常、事業の直前に情報が公開される、これは具体的なものです。そして、参加が始まるんです。日本のアセスメントは大体事業の直前です。ですから、これを事業アセスといいます。しかし、事業の意思決定の前には上位の意思決定があります。上位の計画がある。さらに上位の、方針を決める、政策なんですね。政策、計画、事業という3段階で意思決定が進みます。手元に、政策、計画、事業と書きました。
 つまり、政策決定段階で方針を決めて、その方針に基づいて今度は個別の具体事業の枠組みを決めるわけです。これが計画です。その枠組みに従って個別の事業が行われる。こういった段階を経て判断していくわけです。いってみれば意思決定の積み重ねなんです。それを社会的な場で展開したときには、それぞれの段階における合意形成が必要になってくるわけです。そんなふうに考えます。

 先ほどのNIMBY現象というのは、つまり突然ここにという話が出てきますので、それは枠組みがおかしいんじゃないか、つまり、上位の計画段階の判断がおかしいんじゃないか、あるいはその前の方針がおかしいんじゃないか、政策段階ですね。もとに戻るということになります。白紙に戻せばもとへ戻ることができますね。そこは首長の判断で、この場合は市長がそういう判断をしたので、最初に戻ったんです。
 しかも、大事なのは情報公開です。つまり、市長が、「市は32カ所公有地を持っている。この土地の中から選んでくれ」と、手のうちを明らかにして、「考えくれ」と。そうすると、32カ所あっても、全部が使えるわけはないです。土地の制約条件がいろいろありますから。それも市民がちゃんと理解してくれるわけです。
 そういったことで、行政が行ってきた判断過程をもう一回住民たちが一緒に考えていく。専門家も関与します。そして、判断していった結果、最終的に1年後にはもともと市が用意した場所になりました。1年前には大反対、とんでもないということでした。1年一緒に考えたら最終的には、「わかりました。これでいきましょう」。ですから、1年で合意形成した後は、今度は具体の施設計画に地元の住民が参加しました。一緒にデザインのことを議論しました。反対ばっかりしていたら、進まないですね。1年間そういう時間をかけたおかげで、あとはスムーズにいきました。施設が運営されてもう10年たちますけれども、全く問題は起こっておりません。心配したことはすべて解決したわけです。いい結果でございます。
 狛江の場合には地域の範囲が非常に限られておりましたので、うまくいったと思いますけれども、そうじゃない場合もあります。
 廃棄物の問題は、最初申し上げたように、社会全体の問題でもありますから、特定の地域だけの問題じゃないこともあるわけです。皆さんご存じのように、廃棄物は一般廃棄物と産業廃棄物に分けられます。一般廃棄物は市町村の責任です。産業廃棄物は事業者責任ですが、その事業者の責任をきちっと果たさせるようにするには県が行政として関与します。県は関与する役割があるわけです。産業廃棄物の場合には特定の市町村でなくて、県全体でやらなきゃならない。産業廃棄物は県を越えてほかの県に行ったりします。一般廃棄物もそういうことがありますけど、かなり広域に目を配らなきゃいけないことがあります。
 一般廃棄物の場合にはまだいい。狛江もそうです。しかも、この場合はビン・缶リサイクルセンターですから、リスクも余り大きくない。けれども、迷惑施設です。で、こんなふうに解決ができました。しかし、産廃のような広域の問題では、最終処分場、中間処理のための焼却場はリスクが大きいとみんな認識している。これはそう簡単じゃない。そういった難しい問題に対しても、このような会議の場をベースにして、合意形成がうまくいった例があります。
 長野の例はそういった例です。じゃ、会議の場というのはどんなふうにやるのか。それはレベル4の参加ということですから、意味ある参加ということです。このディスカッションした結果が意思決定につながらないといけない。行政のヘッドが、会議の結果をちゃんと意思決定に反映させるということをきちっとしなければなりません。そういうシステムというか、位置づけがまず大事です。狛江の場合は、市長が白紙撤回して、「じゃ、この検討委員会で審議した結果に従いましょう」。意思決定に反映するということをはっきりしました。もちろん意思決定は首長がやることですが、それを十分勘案したということでございます。それが透明なプロセスでやられれば、合理性があって、しかも民主的で、公平であれば、いいだろうと判断できる。
 ですから、我々の社会の意思決定においては2つのことが必要になってまいります。1つは、合理的ですね。もう1つは、社会的な公正さ。合理的で公正な判断をみんなが求めるわけです。合理性のために何が必要か。これはいわゆる科学性です。科学性と申しますのは、同じ手続を経ればだれでも同じ結果が出る。したがって、ある判断材料として使えるわけです。そういう科学性、そういう合理性、これが1つ。
 もう1つは、民主性といいますか、公平。みんなが、なるほどと納得しなきゃならない。それは公平性ということになります。そのためには民主的な手続をすることになってまいります。
 その2つの面を考えなければならない。民主的という場合には、我々の社会ではいろいろな立場の人がいますから、いろんな利害関係者の意見が反映されることになります。最近、この言葉は皆さんご存じだと思いますが、「ステークホルダー」。この分野の研究を私はもう20年以上前からやっていますから、その当時からステークホルダーというのは英語では使っておりました。ただ、そのころはまだその言葉が使い始めたころでしたから、ちょっと違和感がありました。今はもうステークホルダーは一般に使われています。多様な利害関係者ということです。
 ステークホルダーがきちっと関与するということが大事なんです。ただ、ステークホルダーといっても、1人1人皆さんそれぞれがステークホルダーなんですが、あるグループとしてとらえる考え方。グループの代表としてステークホルダーをとらえます。そういったメンバーがきちっと参加しなきゃいけません。問題が大きくなってまいりますと、グループといってもグループの数がどんどん多くなります。ということは代表者もいっぱいになってしまうので、会議を持ちにくい。しかし、問題がある程度限定的であれば、あるいは地域が限定的であれば、ステークホルダー、代表者を選ぶことが可能ですね。それがなかなか難しいんですが、それがある程度可能な場合には、持てます。
 したがって、会議でレベル4の参加をするためには、意思決定をする人がまず決まります。その次に3つございます。1つは、その上で会議の場をどうやってつくるか。2番目は会議の透明性です。会議の公開。透明性をどうやって確保するか。3番目は、判断の材料、情報ですね。どれだけ必要十分な情報が提供できるか。この3つが基本だと思っています。
 そういった考え方で私はずっとやってまいりまして、長野県でも、この問題解決にはそういう枠組みを実際に応用したわけです。



3.長野県中信地区における紛争事例

(図3)
 「会議の場づくり」。平成13年、3年前の3月にこういう新聞報道がありました。「原科東工大教授起用へ」。「起用へ」なんてすごい感じがしますが、野球の試合に出るような、登板という感じですね。これはそれだけ問題になっているということですが、この地域は長野県の中信地区です。
(図4)
 地図があります。この辺が山梨。北が新潟。西は岐阜。ここに松本市があります。北に長野市です。4つの地区に分けて長野県は行政をやっています。北が北信、東が東信、南が南信。西側がなぜか中信なんですね。西信といわないんですね。この辺が不思議なところです。大体見当つきますね。松本と長野は昔から歴史的な対立がありましたから、松本は、うちが信州の中心だといいたいんですね。その中信は広いんです。この広さは東京都の2倍ぐらいあるんです。三多摩を入れて。すごく広いです。この中信地区全体の問題なので、話は簡単でないわけです。さっきは狛江でしょう。中信地区はこんなに広い。東京都の2倍。
 実は長野県自体が結構大きいんです。この面積はスイスの3分の1です。日本アルプスがありますから、スイスに負けないというわけです。人口はどうでしょう。220万ぐらいです。スイスは700万ですから、人口も3分の1でほぼ同じぐらいです。つまり、長野県の人口密度はスイスとほぼ同じです。国土面積当たりの人口は同じくらい。しかも、アルプスもありますから、立派なものです。本場のアルプスに負けないようなすばらしい景観だと私は思います。一時スイスに住んでいたことがあるので、そんな感じがします。日本のアルプスは立派ですよ。
 そういうところなので、ここは自然環境の保全が大事ですし、もう1つは、水源がいっぱいありますから、ここの水源の水は本州のいろんなところ、隣接県に入っていくんです。だから、ここで水源を保全することは、長野県だけの問題じゃないのです。自然環境保全という問題だけじゃない。水源等がございますから、ほかの県に迷惑をかけちゃう。ということで、田中知事は「これは日本の背骨だ」といった。そこで、水源をしっかり涵養して、環境保全しないと、ほかの県に迷惑をかけるということで、廃棄物問題は重要だということを彼はいっているわけです。
 そこで、中信地区で問題が起こりました。松本市の北側に豊科町という町がございます。そこに県の産業廃棄物、産廃を処理するための第3セクター、廃棄物処理事業団の施設をここにつくろうとした。中間処理施設である焼却場と最終処分場、これをつくろうとしたんです。この場合には当然方針を決めて、政策を決める。政策段階、計画段階とやって、事業に入る。その段階でここにしようかなというのを提案したんです。それまでのプロセスはずっとわからないわけです。何で突然うちのところに、って怒るわけです。いわゆる情報が急に出てきたわけですから、怒ります。
 そこで、ここで大変なことになりました。最終的には住民投票をやりました。ここは4つの小さな地区に分かれますけれども、そのうちのどこか1つでも、ノーが出れば、これはやらないということを町長がいったんですね。ところが、4つのうちの1つでノーが出たんです。合意できない。したがって、とまっちゃったんです。
 ちょうどそのころ田中知事が誕生した。田中知事は2000年の10月だったと思います。11月にノーが出た。それで、田中知事の誕生は、「これは大変だ」ということです。彼はあちこち県民の声を聞いて回っています。聞いて回ったら、どうも不透明だ、賛成できないということで、彼は、さっきの狛江市と同じですが、白紙撤回しちゃった。白紙撤回してもとから考え直そう。つまり、政策、方針段階、そして計画段階、こういったところに戻ろう。彼はそういう言葉は使いませんけど、白紙撤回したわけです。
 私のところに相談に来ました。彼は私が住民参加の研究をやっているというのを知っていますから、これを何とか助けてくれないか。そのときは実はこんなファイルを1冊持ってきまして、4つの案件が入っていたんです。2つはダムでした。それから、この廃棄物。それから、子供未来センターという箱物です。4つ持ってきました。そのどれか1つやってくれと。なかなかうまいです。4つも持ってくると、1つぐらいやらなきゃまずいかなと思います。
 それで、私はダムの問題も重要だと思っていたので、いろいろ考えたんです。やっぱり、ダムは専門家の判断が大事ですね。だけど、廃棄物は、住民とか県民、専門家、両方が入ってきます。ですから、やはり身近な問題で、ダムじゃなくて、廃棄物だなということで、ついうっかり引き受けちゃったんです。何で引き受けちゃったかというと、狛江です。狛江の例があったので、成功体験。成功は失敗のもとですね。あれがうまくいっちゃったので、多分うまくいくだろうと思ったのが、失敗のもとなんです。そう思って引き受けたら、これはえらいことでした。
 つまり、引き受けてよくよく調べてみたら、これは一廃じゃなくて、産廃でしょう。しかも、地域がこんなに広いでしょう。だから、問題としては全然違うんです。しかも、これ、ぐあいの悪いことに、産廃だけじゃなくて、実はこの地域は、最近よくありますけど、一廃との抱き合わせの施設です。産廃処理だけでなく、一廃も困っているから、一廃の方も引き受けてくれ、こういう話です。抱き合わせです。一廃もかぶってきちゃった。だから、余計複雑です。一廃の利害関係は産廃と違うんです。両方組み合わせているから、地域は広いし、産廃で、しかも複合だと。しかも、これは焼却場と最終処分場ですから、リスクが大きいでしょう。狛江はビン、カンですから、迷惑施設でしたが、こちらはリスクが問題です。三重苦です。これはとんでもないことと、引き受けてから気がついたんです。
 そこで、私も困りまして、3月にあんな話が出ちゃいましたから、私は田中知事とやりとりしまして、さっきの3つの条件、合意形成の3つ。会議の場の設定、会議の公開、3つ目は情報です。この3つの条件がありますが、それをブレークダウンして、7つの項目に分けたんです。それを彼に提示しました。
 お手元の資料の35ページ、「4.長野県における廃棄物処理施設計画の事例」、「会議の場の形成」とあります。そのときに私は田中知事に7つの項目を示しました。
 お手元の資料よりも文章は長かったんですが、それをメールで送りまして、もちろん言葉のやりとり、話し合ってはきたんですが、言葉だけじゃなくて、文章で確認しなきゃいけません。ですから、メールで送りました。委員の構成とか、事務局の独立性の確保、会議の公開、情報公開の徹底、住民参加の推進、会議全体のスケジュール、中立性の高い委員長を選ぶ。そんなような7つの項目を挙げました。こういった7つの項目を生かしてくれるのであれば、ちゃんとやりましょうというわけです。3月に出ちゃったから、やらざるを得ないんですけれども、やる以上は条件をちゃんと。
 これは4月の1日に出しました。エイプリルフールです。なかなかこういうことを満たしてもらえないんですが、出してみたら、彼はこれを全部いいといったんです。これはいいといわれた以上は後に引けないです。ということで進めました。
この7つというのは、今申し上げた大きな3つの条件。場をつくるとか、そういったこと、それから透明性を確保するために公開せよ。それから情報提供。
 そんなことでスタートしました。当初は、これはそんなに時間がかからないと思っていまして、1年ほどのことだと考えておったんですが、実際はそんなことございませんで、随分と時間がかかったわけです。
(図5)
 そのときの模様。この人が田中知事です。これが最初のときです。こういう格好で始まりましたので、地元では大騒ぎでした。知事はこのメンバー全員に委嘱状を直接渡しまして、これは大変重要な会議だということを認識してもらったんです。田中知事が来ましたので、テレビ局が5〜6局来ました。カメラがダーッと並んで、バンバン撮る。そうすると、皆さんがだんだん盛り上がってきますね。皆さん緊張しておりますけれども、やる気満々。
 この場の形成について申し上げますと、女性が結構多いんですが、いろんな方が入っています。このときに考えなきゃいけないのは、先ほど申し上げたことなんですが、合理的で公正な判断です。合理的なためには、科学的な判断ですから、専門家が必要です。専門家が一定程度入らなきゃいけないわけです。公正というためにはステークホルダーです。つまり、利害関係を代表するステークホルダーが入らなきゃいけません。ですから、メンバー構成はそういう条件があります。
 それから、基本的には会議ですから、十分な議論ができなきゃいけない。これはグループダイナミクスとか、社会心理学の領域で、いろんなことをやられていまして、例えば、最も効率的なのは5人だといいますけれども、5人ではちょっと少な過ぎます。もうちょっと条件を緩めて、大体20人ぐらいですね。20人ぐらいまでは議論ができるというのが経験則でありますから。そういうことでこの場合には20人以下にしようと決めました。20人で、今申し上げた専門家の集団とステークホルダーをそろえるのは大変難しいです。そこで、この場合、専門家を20名のうち半分以下にしよう。半分以上はステークホルダーにしようとなりました。
 そんなことをやってまいりまして、そのとき大事なことは、議論ですから、この問題に対して、明らかに賛成という人と明らかに反対、両方同じ人数でないと議論ができないですね。一方が多いと、これはどうでしょう、フェアでなくなっちゃう。だから、発言の機会がイーブンになるように、同じ人数にすることを心がけました。そういうことでやりますと、明らかに賛成、明らかに反対以外に、もう1つ、どちらともいえない、中くらいの人がいますね、だから、3つのグループになります。
 結果としましては、専門家は、私を含めて7名です。住民の代表の方は、いろんな利害関係が12名になります。12名のうち4名が明らかに賛成、明らかに反対が4名、中間の方が4名、結果的にそうなったんですけど、ポイントは賛成、反対、同じ数という考え方で決めました。
 ということでスタートしたんですが、実はこのメンバーをそろえるのが大変だったんです。これに数カ月かかりました。最初は、田中知事になる前にいろいろ問題が起こっていましたから、「県のやり方はけしからぬ」と怒っているわけです。ですから、住民の方に最初に広報したんですが、10人ほど手が挙がりました。皆さん、どんなお考えか、披露いただきますと、皆、賛成派なんです。賛成派ばかり集まったって、議論にならないでしょう。これは困ったというわけです。
 いろいろ調べたんです。そしたら、この反対派の大将が、「これは信用できないから、今公募しているが、行くな」。集会を開いて伝えた。それで、みんな手を挙げなかったみたいです。したがって、来なかった。それがわかりましたので、田中知事と私とそれぞれが大将にアクセスしまして、電話等でやりとりしました。
 だんだんこちらの情報が伝わっていきまして、最終的にどうなったかというと、彼に対し、「私はこういう専門家を選んだ」といったら、彼らが評価する専門家がその中に入っていたんです。したがって、これは公平だろうと思ったんですね。大将は「わかった。どうも今回は違うようだ」。新しい政権になりましたからね。ということで、「じゃ、参加しよう」となりました。
 しかし、1回「号令をかけて、やめだ」といってますから、もう一回号令をかけ直さなきゃならない。だから、「集会を開くから締め切りを少し延ばしてくれ」といいました。知事と相談しまして、延ばしました。その間にこの大将は集会を開いて、皆さんに声をかけまして、「今度は応募してくれ」といわれた。結果、36名が応募してくれました。36名も応募してくれまして、12名を選びました。ということで、総数19名で議論を始めたんです。
 そういうことですから、知事もこれは着任早々ですから、力が入っています。「じゃ、私が行って、まずあいさつする。皆さんに委嘱状を渡して頑張ってもらいましょう」となったわけです。
(図6)
 毎回の会議の模様ですが、おおむねこんな格好ですね。円卓会議の形で、ここにテレビが入っています。
 2番目の公開性ですが、この後ろ側は全部傍聴席なんです。傍聴席を100席用意しました。100席で大体こういう場合には足りています。よく傍聴席を作ったら数が足りないんじゃないかといいますけど、そんなことはないです。みんな忙しいですから、そうだれも彼も来るわけじゃない。100席で十分です。
 それから、毎回、ビデオを撮っています。これはどういうことかというと、地元のCATVで毎回放送しています。つまりしゃべったことがテレビで放送されちゃう。透明性が高いでしょう。田中知事はガラス張りの知事室で透明性を高めています。こちらの会議はビデオで撮影して、すぐ放送する。地元のCATVにまず協力を依頼しまして、毎回番組で放送しましょうということになりました。
 それから、こういうことで議論していますが、テレビを見たり、ビデオを見れば、およそわかりますけど、それでも情報がなかなか伝わらないことがありますので、もう1つは、議事録ですね。議事録には、これは大変大事なことですが、必ず発言順に発言者名を書いて公表します。ですから、毎回A4判で30ページぐらいになりますけど、そういうものをつくって公開する。
 ただ、このとき大事なことは、しゃべり言葉というのは書いたときと違ってきまして、私も「ですね」とか、いいますね。書くとうっとうしいんです。いつも議事録見て恥ずかしい思いをします。うっとうしい。だけど、話しているときはそういう方がリズムがついていいんです。そういうことがございますので、そういうことに関しては、若干そういうものを書き言葉に直してもいい。それから言い間違いもありますから、そういうものも直していいでしょうということです。そういうものは皆さんが確認できる格好で少し直してもいいから、とにかくどういうことを主張したか、どういう具体的事実に基づいて主張したか、これが大事なんですね。その辺は寛容にやりましょうということで、皆さん全員に毎回チェックしていただいて、その上で公表しています。
 そういうことをやりますと、しゃべるときあんまり肩が張らないんです。一字一句残っちゃうと、しゃべる方も緊張してしゃべりにくくなっちゃう。そういうことはないようにしようということでやりました。これが2つ目です。
 3つ目は、情報です。十分な情報。これは大変重要なことです。そのためには情報生産にコストがかかります。ですから、こういうところでは情報提供、コンサルタントの仕事は大変大事です。この会議の場をつくるときに大事なのは、コンサルタントが事務局をやったことです。皆さんご存じのように、行政で会議をやると、大体行政が事務局をやって、コンサルタントはその下請ですよ。
 ここはそうじゃない。コンサルタントが事務局で、行政が下請。これはまるで違います。コンサルタントはどういうことかというと、この委員会で、公開の場で選んだんです。随意契約ですよ。だけど、公開の場で選んでいるから理屈がわかるんです。透明です。その上で選んでいますから、みんな納得してやるんです。そのコンサルタントを委員会が選んでいますから、委員会のためにコンサルタントは働いてくれる。県は、そのコンサルタントがこの会議に必要な情報を提供するために情報を用意してくれるわけです。
 これはコンサルタントの位置づけで大変大事なことで、このことも当時ニュースになりました。長野県では初めてコンサルタントが事務局をやった。コンサルタントは大変重要な役割をやっています。
 そういうことでやってまいりまして、情報はどういうことかといいますと、当然会議資料をつくります。それだけじゃないです、議事録をつくります。それから、会議の場でいろんな議論が出てまいりますから、文書の形式で提供される情報もありますけど、いろんな方の意見は、意見書という形の文書です。それだけではなくて、傍聴に来た方が、「私はこれをいいたいんだ」ということもオーケーです。時には傍聴席から発言していただくということをやりました。
 それから、この場だけでは十分わからないものがあります。現地に見に行く、現地視察です。それから、現地も、非常にうまくいっている例を見に行くとか、逆にまずい例、不法投棄の現場とか。いろんな問題点、そのすべてをやりました。
 その前に、一番最初にやったのは何かというと、2回目の会議ではヘリコプターにみんな乗ってもらいました。ヘリコプターで中信地区の上を飛んでもらったんです。これは意味があります。最初は何でこんなことやるのかという声もあったんですけど。県の防災用のヘリコプターで飛びましたから、座席がないんです。乗ると、こんな格好なんです。10分や20分ならいいんですが、30分ぐらい乗っていると、だんだん足がくたびれてきて、大変な思いをして乗りました。みんな頑張って乗りました。
 そうすることによって、中信地区全域で物を考えていく。つまり、豊科町だけでなく、全域で物を考えているんだということを認識してもらったんです。そういうことがありました。それから、上から見て、いろんな現場がわかるんですね。ということで、いろんな形で見学をやったり、視察をやったりしました。
 それから、さらに特定の分野の専門家に来てもらって、情報を提供してもらう。それから、組成分析、さっき狛江でもありました。みんなでごみの組成分析、これは焼却場に行って、臭いところでごみを仕分けして重さをはかったりするんです。それをやりました。できる限りのことをやりました。
 そういうことをやるために必ずコンサルタントがいろんなサポートしてくれます。コンサルタントは大変大事だと思います。
 当初、コンサルタントには余りお金が出なくて、気の毒になりましたけれども、だんだんそういった必要性もわかってきて、その費用負担をしてくれるようになってきました。
 ですから、3つですね。会議の場の設定、透明性の高い進め方、さらに情報提供。
 こういうことをやってまいりまして、2年間、スタートしてから22カ月で33回の会議を行っております。これは結構しんどいです。3週間に1遍のペースですから。それを皆さんつき合ってくれました。それだけ議論してまいりますと、だんだん変わってまいります。
(図7)
 これをどんなふうに進めたかといいますと、この2年間の間の流れは、こんなふうです。政策段階、計画段階とありまして、事業直前までです。まだ事業にいきません。政策段階というのはポリシーです。そして、計画段階は基本計画、整備計画。英語では基本計画はプラン、整備計画はプログラムといういい方が近いです。ぴったり対応するわけではありませんが、おおむねそれに近いものがあります。というところまでを順番に積み重ねていったわけです。報告書はこんなに厚くなりました。
 当初は、反対派の大将は、ゼロエミッション。「ごみはゼロにできるんだから、施設なんか要らない」と、大きな声でいうわけです。「それは社会のシステムがおかしいんだ」。おっしゃるとおりなんです。でも、そう簡単に事は解決しないでしょう。じゃ、本当に減らせるのか。そこで、減量目標をどうしましょうというのをやりました。そのためにいろんな情報が必要です。つまり、どんなごみが出てくるか。どう処理していくか。それを産廃と一廃と両方やらなきゃいけないわけです。だから、検討に時間がかかるわけですが、やりました。
 そこで、こういったことをやるためにどうなるんだというと、全体の会議だけじゃ、十分じゃないです。で、ワーキンググループをつくったんです。ワーキンググループの会議だけで32回もやったんです。だから、さっきの本会議が33回で、ワーキング32回、足すとちょっと大変ですね。
 その他に、説明会を10回やりました。見学会を4回、全部足すと80回ぐらいです。2年間に80回ぐらいの活動をやっているんです。だから、住民も大変です。我々もしんどかったけど。
 そういうことをやったので、最初の政策段階、1年目の数カ月のときに反対派の大将がこういったんです。「施設の必要性に関しては否定しない」。これは公開の場で議論していますから、つまり、どれだけ減らせるかと、データを持って議論しているでしょう。そのデータを吟味していくわけです。その結果、ここまでしか減らせないのか。どういうふうになったかというと、一廃は今後の4年間で3分の1を減らすのが限界だ。産廃は頑張って6割以上減らす。それでも、残るわけです。だから、施設の規模は小さくなるけれども、必要性はわかった。ですから、必要性に関して、減量目標を設定することによって、どれだけ具体的に減らせるか。そのためには大変大きな努力が必要ですよ。そうしなければ減らせない。最大限頑張っても、残るんだということを共通認識した。
 したがって、必要性に関してクリアしてます。そうしますと、次はどんな計画にするか。基本計画ですね。その計画をするためにはまず具体的な減量施策を講じなくちゃいけない。これが基本計画です。減量の政策をいろいろ整備しました。これが第2段階です。中間報告をやって、文書で確認するわけです。そして、今度は整備計画、つまりどんな施設をどこにつくるかという話です。そこで、そういう枠組みづくりの議論をしてもらいました。
 このとき、どういう手続をとったかといいますと、最小限の施設、つまり、できるだけ減らす。残るごみに対して処理するわけですから、それをつくる場合にリスクの問題が大きいですから、どこなら作ってもいいか、あるいはどこは作ってはいけないかという議論です。
(図8)
 そこで、問題は、この図に「除外エリア」と書きましたけれども、どこをつくっちゃいけないかという除外エリアをどう判断したらいいかです。つまり、ルールがないでしょう。どういうルールで除外例を決めるか。これが大事です。そういう議論を進めました。つまり、そのルールづくりに対する合意形成を行うわけです。ルールが決まりましたから、そのルールに従って何をやるか。これはご存じの方も多いと思いますが、コンピューターを使った手法で、GISというのがありますね、地理情報システム。合意形成にGISを使ったのは多分初めてだと思います。私は聞いたことありません。これを使いました。それは、GISをつくる前段のルール、これに対する合意ができたので、GISを使うことができたんです。ですから、この段階になりますと、それまでは「県は信用できない」とかいっていた人たちが、ここまで来ると、どうなったかというと、情報はやはり県がいっぱい持っている。情報処理はコンサルタントができる。したがって、コンサルタントに処理は任せて、情報提供は県に任せましょうということになりまして、手続に対してきちっと合意したので、あとは任せることになった。
 そのかわり、先ほどの狛江の市民部長の方がいっておられたように、しっかり監視しているぞ、だから、ちゃんとやるだろう、あのメカニズム。つまり、公開の場ですから、手続をちゃんとやって、結果をもう一遍確認しましょうと。ですから、ルールをつくる段階で公表して、作業の結果が出たら、それを公表して、もう一回それをみんなで吟味しよう、そういう約束で進めたんです。ですから、この作業自体は専門家の領域としてやりました。
(図9)
 その結果は、ごらんいただきたいと思いますが、こんな格好ですね。中信地区は細長くて、北の方と南の方。例えば、北の方ですと、こんな感じです。松本がこの辺です。こういうようなことで 色分けしているのがわかりますね。ごみに関するいろんな条件、これを全部決めたんですね。これに従って、県のデータベースを使って、処理をしていったんです。
 ですから、これはコンピューターに入っていますから、この条件だったら、どうなるかと、1番目の条件を入れ、次に2番目の条件というぐあいに、オーバーレーしていくんです。パワーポイントを使って順番にやっている。これをみんなで見ているわけです。
 そして、一括すると、こうなりました。手順を踏んで示しました。しかもこれはプリントアウトして手元に配付されますから、詳細に見ることができる。ということで、結果は、この平地の部分、白く抜いたところですね。この白く残ったところが除外エリアの外ですから、立地してもいいだろう。いいとはいかないけど、立地の可能性があるんです。
 このエリアの中から今度はどうするか。今度はポイント抽出です。ポイント抽出も同じことです。ポイント抽出のルールを決めて、そして、ポイント抽出の作業自体はやっぱりコンサルタントがやります。ここまで来ますと、信頼関係ができまして、ルールをみんなでこうすれば、作業、情報処理は任せる。結果を見ましょうということになりまして、この後はさらにポイント抽出しまして、今85地点を列挙しました。
 85地点にしたのは、意味がありまして、私なんか100カ所ぐらい選んだ方がいいんじゃないかと。つまり、NIMBYじゃないようにしようと。どこの地区も立地の可能性があるということを認識してもらいたいです。だから、できるだけ幅広く候補地を挙げておいて、みんなに考えてもらいたい。実際、85地点のところは、うちにも来るんじゃないかということで大騒ぎになりました。
 ただ、話は簡単ではありませんで、ここまで来ますと、だんだん身近なことになってまいりますから、抵抗も大きくなります。これから先はまた大変難しい状況だと思いますが、一応ここまで来ました。
 実は、結局、減量化ということが前提ですから、減量がどれほど可能かということが基本です。それは既存の枠組みでやったのでは、十分な減量はなかなか難しい。したがって、今並行して条例をつくろうとしています。廃棄物の条例。これは知事の指揮のもとに新たにつくる、そういったところで、今立地選定に関しては、一時中断しておりますけれども、こんなところまで参りました。
 大体予定時間が参りましたので、ストップいたしますが、このような事情がございまして、最初は反対だと言っていた反対派の大将がこういうプロセスを経た結果、立地はやむを得ないということになりました。その結果、お互いに協力して、どこに立地できるかということを一緒に検討してまいりました。
 そんなことで、最終の結論はまだ出ておりませんけれども、こういったプロセスを踏むことによって、全く難しいなような問題であっても、解決の可能性は生まれたと思っております。
 以上でございます。



フリーディスカッション

諸隈(司会)
 それでは、質疑に移らせていただこうと思います。ご感想もしくは質問等ありましたら、挙手をお願いいたします。
石井(和歌山県)
 我々も同じようなことをやっておりまして、参考になりました。3点ほどお聞きしたいんですけれども、今、委員会の反対派と賛成派というお話がありました。その区分けというか、もともとの土地に絡む方々のことでございますか。全体的に自然を守りたいとか、そういう方々で施設そのものを拒絶されている方なのかということが、まず第1点。
 かなり広域で検討されていることで、なかなか具体的に本人の問題としてとらえにくい部分があると思うんです。特に民間の方からすると。そんな中で、身近なものとしてとらえにくい中で、具体的な議論になったのか。議事録を見ればわかるんですけれども、自分の問題としてとらえて民間の方が議論していただけたのかというのをお聞きしたいのが、第2点。
 第3点目は、これはもっと具体的なんですけれども、85地点ポイントを抽出されたということでした。それは具体的に公表されたんですか。特に土地ですので、所有者の問題とか、いろいろあると思うんですけれども、どんな形で公表されたのかという、この3点をお聞きしたいんです。
原科
 重要な点をいずれもご指摘いただきました。まず賛成派、反対派という立場ですが、地権者云々というか、この問題に対して、反対運動をやっておられた方がおられまして、廃棄物問題協議会とか、市民の会とか、そういった方々が随分おられました。それらの代表者。
 それから、今おっしゃったように、地権者に近い地元の方もおられます。また、反対派ですが、問題を大きくとらえているグループと、特定の地域で反対しておられる方、いずれも入っております。多様性があります。ただ、人数が限られていますから、どこもかしこもではありませんけれども。ただ、こういう場合にいつもこういうステークホルダーを確認するのは難しいだろうという議論になりますけれども、実際には、紛争が厳しくなりますと、かなり明確にわかります。具体的な状況になりますと。そういう方に関してはおおむねカバーできます。ただ、どうしても人数の制限がありますので、そうじゃない方が怒りますので。そこで、委員になっていただけなかった方にも適宜フロアから発言してもらったりしました。
 この場合には、36名から12名選びまして、24名の方が外れました。そこで、24名の方には2回目、3回目は、全員に声をかけまして、意見を述べたいという方は出していただいた。これは皆さんに文章、小論文をつくっていただいて、どういう意見か書いていただきました。それをまず公表していただいた。そうしましたら、24名の中で23名が出した、公表オーケーです。1名の方だけがやめてくれ。ほとんどの方が出した。実際に公聴会の場で、意見を発言された方は22名でした。ですから、大多数の方が2回の会議で発言していただいた。もちろん質疑も行いました。そういうことで十分に検討する。ですから、代表者を選ぶだけでは足りない場合には、そういった補完的な方策を講じないとだめなんです。これが1つ。
 そういうことで、身近な問題ということで、考えにくいという点もございます。それは申し上げたように、ステークホルダー、グループによって、こういう問題をずっと考えてきたとか、必ずしもそうでないとか、そういうなことでとらえ方はそれぞれ違いますけれども、そういうようなことがある。
 それから、賛成派の中には産業界の方も入っております。また、行政の代表も入っております。賛成派として、行政側の町長さんかもいます。それから反対派の住民組織のリーダー、両方入ってもらった。両方の大将が入ってくれた。
 その結果、公開の場で議論してまいりますと、最初はかなりどぎついことがありましたけれども、だんだんそういうことが減ってまいりまして、後の方ではお互いに理解を示しております。反対派の人は「賛成派の町長のいうことも理解できる。その上で私は……」、そういう形の議論になりました。そうすると、共通の土俵上の議論ができるわけです。
 ですから、それぞれの主張はそんなに簡単に曲げませんけれども、お互いに理解が見えてきた。
 3つ目の点。列挙した候補地の85地点ですね。これもえらい苦労したんです。どういう格好で公表するか。最初は85地点を具体的に示すのはちょっとまずいんじゃないかというので、公表の仕方を少しぼやかしたんです。そうしましたら、大分批判が出ました。次にはやっぱり地図上で出しました。ただ、その地図は候補地を含み少し大き目に示しています。大体この範囲内のどこかですということになります。85地点出しました。そしたら、反応はやはりシビアになったんですけれども、ただ、不透明感がなくなったので、あんまりひどいことにはならなかったですね。「そんなものか。じゃ、我々も考えましょう」という感じになったと思います。その後一時、さっきみたいな条例づくりとか始まりましたので、この部分に関してはストップしております。そのためもありますけれども、次の段階の絞り込みが始まるとまたもめるかもしれません。そんな事情です。
小林(日本環境衛生センター)
 検討委員会のメンバーについてお聞きしたいんですが、この種の委員会は行政側の委員が入っているケースがかなり多いかと思っております。廃棄物計画ですと、県、特に産廃は県が管理の責任を負っていますし、一廃を入れますと、一廃は市町村の事業そのものです。今回行政サイドの代表を入れなかった背景、それから行政の当事者とどういう関係を保ちながら、この検討会を運営されたか、その2点についてお伺いできればと思います。
原科
 今の場の持ち方に対する基本的なことのご質問だと思います。通常、行政の委員が入ります。狛江の場合もそうだったんです。市民部長の方が入っておられた。ただ、あの場合も、住民の声をたくさん出してもらいたいと思って、行政は1人だけでした。ですから、行政が支配的ではなかったんです。でも、やはり行政の方が関与されて、ああいう格好で進みました。
 長野のこの例は、行政の方、県の方は入ってないんです。これが大きな違いです。それはどういうことかといいますと、さっき申し上げたように、専門家とステークホルダーという考え方ですので、産廃に対しては、県は指導する立場ですから、基本的には事業者の責任でございますので、当事者というよりも一歩外れた格好でやりたい。県もそういう意向だったんです。十分皆さんで議論していただいた上で、その結果を受けましょうというスタンスでしたので、行政は入っておりません。
 こんな考え方でやったんですが、これが一般的かどうかというのはなかなか難しいところで、行政が入る場合ももちろんあり得ると思います。ただ、あんまり人数が多いと行政の意見が強くなっちゃうので、その辺は難しいところでございます。
 実は、このプロセスの応用形ということで、4番目に書きましたように、国際協力機構とか国際協力銀行におけるガイドラインづくりの話をちょっと後でしたいと思って用意しました。これらの場合には、当事者ももちろん入ってもらいまして、やっていますので、両方の形があるんじゃないかと思っております。
 それはまた、時間があればお話しします。
古庄(日本技術開発梶j
 今、85カ所に絞り込みが行われているということなんですが、これからどれくらいの年月をかけて、1カ所に絞られるのか。戦略的環境アセスメントにおける立地選定のポイントも合わせて、よろしくお願いいたします。
原科
 これは答えるのが難しいですね。記録に残っちゃうわけですから。1年でできるといって、できなかったりしたら、恥ずかしいことになります。なかなかこれはわからないんですが、目標としては1年程度と思っております。ちょっと何ともいえません。ただ、段取りとしては1年程度でいけるんじゃないかと思っています。戦略的環境アセスメントをスタートすれば。ただ、これがまだ始まっておりませんので。今から1年という意味じゃなくて、スタートしてから1年をめどに進められればいいかなと思っております。
 そのときの進め方は、まずスコーピング段階を丁寧にやりたいと思っています。これは実は昨年この戦略アセスをやるということで、コンサルタントの方を公募していただきまして、コンペでお願いするコンサルタントを選定いたしました。これは皆さん大変関心を持っていただいて、23社が応募してくれました。日本のアセスの分野の主立ったコンサルタントが皆さん応募してくれました。すばらしい提案がたくさんございました。そこまでいったんですが、ただ、さっきのような状態で一たんストップしていますので、すぐには始まりません。そんなところまでいっております。段取りとしては1年でいいはずですけれども、どこかで議論が長引くと、どうしても延びます。私の考え方では、スコーピング段階を2〜3カ月以上はかけた方がいいかなと考えております。つまり、早い段階で十分枠組みに対して議論しておかないといけないと思います。
 日本の環境影響評価法、アセス法でも、さっき申し上げたように、スコーピング段階をつくりましたけど、日本の制度は、スコーピング本来の考え方からいいますと、まだ十分じゃないんです。つまり、方法書というものができてからスタートしますね。しかし、本来のスコーピングは、中身がまだ固まってない段階から始めることに一番意味があるんです。スコーピングといっても、「スコーピング・ノート」という言い方をしまして、ヨーロッパとかアメリカではもうパンフレットみたいなものからスタートするんです。ところが、日本の場合には、こんな分厚い方法書が出ますから、大体話が固まってきている。だから、遅いんです。そうじゃなくて、話が固まる前から始めなきゃいけない。これは大きなポイントだと思います。長野では、ぜひそういったことでやりたいとは思っておりますけれども。
 だから、はっきりきちんといえませんが、1年を目標にしたいと思っております。
諸隈
 ほかにありますでしょうか。
原科
 じゃ、もうちょっとお話ししましょう。皆さんのご協力で時間をいただけたようですので、少しお話したいと思います。

 今、廃棄物処理施設の問題を申し上げました。合意形成、長野ではまだ途中まででございますが、必要性に関してはこういう判断をしていただきました。じゃ、どこに立地するかという話に来ました。
(図10)
 こういうことは、これからいろんな問題に対して応用がきくんじゃないかと考えております。私はアセスメント、環境計画における住民参加の研究をずっとやってまいりましたので、そういったいろんな判断、社会の意思決定に関して応用できると思っております。例えば、特に大事なのは公共事業の問題なんかもっとあります。これは公共事業の投資がどのぐらい日本にされてきたかということを示した図でございまして、国土交通省がこういったものをつくっております。国土交通省の資料を使って説明いたしますが、国土交通省の場合は、日本は高い水準の公共投資配分を行ってきた。それでも十分整備されてないから、もっとやれ、こういった議論です。それはそうだったのかというのが私のまず疑問符でございます。
 この数字はどういうものかというと、これは政府固定資本形成、これをGDPに対する比率で示してあります。日本は大体6%ないし7%ぐらいです。6%前後という数字というのは大変高いわけです。欧米が大体2%から1.8%。フランスはここでは3.2%ですが、最近2.4%まで落ちました。ですから、大体2%前後なんです。6%と2%で3倍です。
 つまり、日本は公共事業に欧米の3倍ほど投資しております。過去からそうだったんですね。これはインフラ整備が追いつかない段階はもちろん必要なんです。ですから、例えば1970年、今から30年以上前になりますが、この当時は、日本がこういうカーブでございます。これはドイツ、大体5%前後。5%よりちょっと多いのが日本、ちょっと少ないのがドイツです。大体同じようなものです。ドイツは戦災復興に随分コストがかかりましたから、そのために必要だったんです。しかし、いろんなものが整備されたら、当然必要量が減ります。だんだん減ってきまして、今1.9%。こういうことです。
 日本はドイツと比べますと、ましなはずです。ドイツは全土が戦場になりましたから、復興にはお金がかかります。そういう点でいうと、日本がどうして減らないのかと普通思いますね。ところが、日本も実はこの辺の時期で減ってたんです。
 ですから、この間を見ますと、こんなふうになります。80年代後半の政府の意思決定がどうだったのかという感じを、私は持ちます。ご存じのように、ちょうどアメリカが日米構造協議で630兆円の公共投資というようなことが始まりました。公共投資というのは景気浮揚策というようなことで、公共事業に対する投資は減らさない、むしろふやしてきたんです。しかし、こんなふうにふやしてきたんですが、景気がなかなか回復してこない。アメリカはその当時ずっと1.8%の数字ですから、公共事業をやれば景気がよくなるというのは本当かしらということなんです。やっぱり疑問に思いますよ。
 私は、実はこのことが大変大事だと思います。つまり、ハードに対することより、むしろソフトなんですね。ハードにこれだけしか使わないということは、国の公共のお金の使い方はアメリカも日本もほぼ同じです。大体4割ぐらいを公共のお金に使っています。日本とほぼ同じです。ですから、アメリカはこういうハードに使うかわりにソフトにたくさん使っているということになります。ということで、その辺が実はむしろ景気をよくしたんだと思います。例えば、都市計画の分野ですと、プランニングですね。調査とプランニング。アメリカはいっぱい金を使っている。アセスメントもそうです。アセスの世界でいいますと、日本は国のアセスは大体30件ぐらいです。アセス法で。アメリカは国のレベル、連邦政府は年間3万件から5万件です。1000倍以上です。当然仕事の量が違うでしょう。技術力は当然上がります。だから、ソフトの世界で日本は断然負けちゃうんです。だから、そういう政策の仕方を、どっちがいいか考えた方がいいと思います。
 そんなことで、私は、このようなカーブというのはどうなのかなという感じがします。ちょうどこのころ、このカーブが下がっていったころ、80年代の前半のころです。我が東京工業大学の大先輩、土光敏夫さん、経団連の会長でしたが、土光臨調で、この下りカーブをこのままいきましょうといったんです。ところが、その当時の政府が方向変換しちゃったので、こういう上昇カーブです。我が先輩、土光さんが頑張ってくれたんですけれども、こういうふうになっちゃった。その政策、方向転換したときは大変悔しい思いをしたということは報道されております。大変大事なところだと思います。
 ですから、こういった考えをこれから持っていかないと、うまくない。いいたいことは、公共事業はゼロじゃないんです。公共事業は必要なんですよ。欧米並に。つまり、必要なんですが、どれが必要か。必要性の確認をしっかりやること。そのために何が必要かというと、環境アセスメントといいますか、必要性に関して確認できるアセスメント。それは戦略的環境アセスメントです。戦略的と申しますのは、先を見たということです。計画的なという意味合いがあります。
 ですから、先ほどのプロセスでいいますと、事業の前の上位の計画とか、政策の段階、その段階で環境配慮することを総称します。このような戦略的な意思決定の段階で環境配慮するのを、戦略的環境アセスメントと呼んでおります。英語では、Sstrategic・Environmental Assessmentといっています。SEAといいます。これが必要だと思うんです。どんな事業が本当に必要なのか、そういったことです。今の大規模事業の見直しということにもつながります。どんな事業にしようかということです。
 このことは国内だけではなくて、実はODAの世界につながる問題であります。



4.透明プロセスの応用

(図11)
 これはJICAの例です。JICAは昨年10月に国際交流協力機構という独立行政法人になりました。緒方さんが今リーダーをやっておられて、私としては非常に期待しております。これは何の写真かといいますと、環境社会配慮ガイドラインをつくりまして、これをお渡ししている。私は、緒方さんにお会いしてうれしいということもありますが、実はこの中身がなかなか立派なものができたと喜んでおります。
 どういうことかといいますと、JICAは日本のODAの中心的な役割を果たしています。JICAは案件形成段階で特に関与します。JICAの仕事は大きく3つありますが、その1つが開発調査で案件形成にかかわります。これは大規模プロジェクトです。大規模プロジェクトをやった場合には、お金が必要ですから、円借款ということで、日本政府は国際協力銀行を通じて円借款をやります。ですから、JICAでプランニングして、そしてよしとなれば、今度は国際協力銀行が案件審査して、円借款ですね。
 実はこの国際協力銀行はものすごいんです。年間1兆6000億円ぐらいの融資をしております。世界銀行が大体2兆円です。つまり、世界銀行と肩を並べるような金額で国際協力をやっているんです。ちょっと前は2兆円で、今はちょっと減っていますが、1兆6000億円です。つまり、国際協力銀行がそれだけ大きな融資をしていますが、その前にプランニングがあります。JICAがその支援を担当します。ですから、プランニング段階でしっかりアカウンタブルにやりましょうということで、ガイドラインをつくりました。実は融資をする段階で国際協力銀行もガイドラインをつくりました。そして、それに合わせてJICAも案件形成をやるように、ガイドラインを改訂したんです。
 世界銀行というのは案件形成と融資と両方を行います。JICAと国際協力銀行を合わせた仕事を世銀はやっています。このJICAのガイドラインはパブリックコンサルテーション。住民関与あるいは住民協議。これを先ほど世銀は2回のパブリックコンサルテーションを求めると申し上げましたけれども、このガイドラインは何と3回です。どうしてそんなことができるのか。3回というのはどういうことかというと。
(図2)(再掲)
 先ほどは2回でしょう。この3回です。NEPAのプロセスで中心になる3回。パブリックコンサルテーション。世銀は2回。JICAは何でそんなに頑張るのか。
 2つ目に、情報公開を徹底しようといっています。国内の情報公開は当たり前です。途上国、援助先の国でもできるだけ情報公開を図っていく。
 3番目は、SEAです。Sstrategic・Environmental Assessmentですね。戦略アセスをできるだけ適用しましょう。戦略的環境アセスメントの考え方をできるだけ適用しようというのが3番目。そういった点で非常に進んでいるんです。
 なぜ、そういうことになったか。実はこの改訂作業の進め方が、先ほど長野でやったのと同じような方法なのです。私はずっと議長をやってきましたので、会議の構成と運営に関して長野の経験を生かす。長野の例を紹介しました。まずメンバー構成です。ステークホルダー。この場合には専門家だけでなくて、ODAですから、政府、この場合には政府は当然外務省です。すべてこれは担当課長です。行政の一番真ん中でやっている担当課長です。外務省の課長、国土交通省の課長は2つの課の課長が入りました。環境省、農林水産省、経済産業省、全部課長です。それからJICAの当事者も入ります。この方は部長と次長、専門員。そういう構成。さらに専門家数名以外に、実はNGOもです。NGOの代表が6名入りました。地球の友ジャパンとかメコンウォッチ、かなり元気なところも入っています。ですから、行政が入って、NGOが入って、専門家が入って、あとは産業界ですね。ご存じと思います。ECFA、コンサルタント協会。その専門家が入っています。ということで、産業界からも数名入っています。それから、関連で国際協力銀行からも入っています。ですから、主立った関係者はみんな入っております。
 メンバー構成を決めて、その上で会議の進め方は同じです。オープンにしましょう。毎回傍聴席を設けまして、傍聴席からも発言してもらいます。最初はビデオで、CATVというわけにいかない、しかし、東京大学の国島正彦先生と一緒に議長やっていましたので、国島先生は「透明にしろ」とおっしゃって、インターネットで生中継しよう。コストが大変なので、初めだけで、あまりずっとはできなかった。でも、そういうことをやっていまして、オープンにしようと。だから、インターネットを使うなら、生中継をやらなくても、やはり議事録を発言順に発言者名を書くんです。さっきと同じです。皆さんに中身を確認してもらうという形で、議事録を毎回つくって、ウェブサイトで公開しています。だから、だれもがアクセスできる。この問題に関心のある人はどういう議論があったか、現場に行けば傍聴できますし、現場に行けない場合も、インターネットでアクセスできます。これは毎回、時間が長いですから、40ページ、50ページです。
 こういうことで10カ月で19回会議をやった。その程度のことは必要なんですね。そういうことで議論をやってきた結果、どうなったかというと、さっき申し上げたようなことになったんです。これは実はパブリックコンサルテーションを3回やるというのはJICAの担当者の方がいい出したんです。「3回できますよ」。私は3回は無理だと思った。世銀でも2回だ。2回でいいですよという頭があった。議論していくうちに、そういうことだったら、3回できるということになったんです。私も驚きました。 
 SEA、これは私の主張ですから、皆さんと議論して、これも一種の勉強会をやりまして、どんなものかと考えた。それから研究会も並行してやっています。
 それから、情報公開に関しましては、外務省の改革の問題がちょうどこのころありましたから、外務省に対して非常に風当たりが強かった。そういうこともありました。ですから、情報公開は徹底してやろう。ということで、この3つが特徴です。
 こういうようなことも、私がさっき申し上げた3つ、場の形成と、会議の公開、情報。結局、情報というのは、1つはメンバー構成にもかかわります。関係者をできるだけ集めて、重要な会議には全部集まる。それだけで情報が十分提供される。それに加えて、専門家も発言して、情報も入ってくる。それからJICAの場合には、いろんな研究の報告書がありますから、そういうものも提供してもらうということで、十分な情報提供をしていただいた上で議論していく。
 ですから、長野県が1つの合意形成の場でありましたけれども、これは新しいガイドラインをつくる場でも、同じようなことをやることによって、かなり水準の高いガイドラインをつくることができたと思っております。実はこの直前には、国際協力銀行のガイドラインづくりがありました。国際協力銀行の方が最初につくったので、それをベースに今度はJICAでもやりましょうということで新たにつくった。正しくは改訂ですが。ですから、こういった考え方をいろんな場で適用できると思っております。
 ただ、問題はそういう場をつくるためには、そういう意識がないといけない。そういうことでまずリーダーシップをだれかが、例えば首長がとらないことにはできませんから、そう簡単にはできないです。そのリーダーシップさえとれば、十分そのための手法はある。あるいは可能性の高い手法はあるといっていいんじゃないかと思っております。
 ただ、具体例はそんなにたくさんありませんから、いろんなところでこういった試みをしていただければありがたいと思っています。
 以上、私の話はこの辺にいたしますが、何かまたご質問とかございましたら。

諸隈
 何か質問ある方はいらっしゃいませんか。ないようですので、これできょうは。
原科
 最後に、おまけを1つつけたいと思います。カラーの資料、これを紹介します。
 これは私のおはこでございまして、東京とニューヨークの比較の写真です。これは東京の土地事情が大変今厳しい状況だということを皆さんに改めて認識していただきたくて、いろんなところにカラー写真を皆さんに持っていただいて、できたら、寝る前に毎日見ていただきたい。東京はニューヨークとえらく違うんです。都心から10キロと20キロとえらい違う。お手元の写真でよくわかります。これは事実です。この写真は11年前で、ちょっと古いんですが、放送大学の番組をつくるために取材しまして、実は来月また新しい番組をつくるので、また撮り直します。11年後の状態をまた写真で用意します。今はもっとすさまじいです。これもまさに戦略的環境アセスが必要な例です。広域的な土地利用計画、これがないと無理だ。防災の問題とかありますので、そういった都市計画の分野で大変重要な問題だと私は思っております。きょうの話題にもちょっと関連がありますが、皆さん、都市計画やっておられる方が多いと思いますので、ちょっと頭の中に置いていただくと、よりすばらしい都市空間ができるんじゃないかと思います。以上です。(拍手)
諸隈
 どうもありがとうございました。 

 


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