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第199回都市経営フォーラム

国際的視点から東京をみる

講師:伊藤 滋    氏

早稲田大学特命教授

日付:2004年7月15日(木)
場所:後楽国際ビルディング大ホール

0.MIPIMについて

1.数値上の考察

2.外国人に何を語るのか。(7つのセールスポイント)
        ビジネス─鉄道都市と再開発
        エンターテイメント─埋立地におきる新しい娯楽
        現代文化─万華鏡的市街地の二重性
        伝統─路地文化
        産業─庶民型密集市街地から生まれるソフトとハード
        教育─東京は世界一の学生の街 
        住宅─超高層住宅都市の出現

フリーディスカッション



 

 

 

 

 

與謝野  本日は、大変お忙しい中、炎暑の中、このフォーラムにお越しいただきまして、ありがとうございます。 本日の講師は、既にご案内のとおり、早稲田大学特命教授の伊藤滋先生でいらっしゃいます。伊藤先生には大変お忙しい中を貴重な時間を割いていただきまして大変にありがとうございました。
 今日の演題は、「国際的視点から東京をみる」ということで、先般、カンヌで開催されました世界不動産業者会議(MIPIM)でアッピールされましたお話を含め、日本人の私ども、また東京に住む方々にとりまして大変に「元気の出るお話」をお聞き出来るものと楽しみにしております。 それでは、先生、お願いいたします。

伊藤 この前は、これから100年後の都市はどうなるかという、東京の世界ガス会議のお話をしました。今日は、それと趣向を変えて、外国の話をします。私がかかわっている日本の都市計画、まちづくりの話は何回となくここで申し上げてきました。ですから、なるべくそういう国内の話の間に少し変わった話を入れた方が、面白くなる。そんなことで、意図的に国際的な話題をとりあげてきました。
 今日の話は、「国際的視点から東京をみる」と言うことですが、そうオーバーなことではありません。

0.MIPIMについて 
 
カンヌは映画祭で有名な都市です。私は、世界のいろんな都市計画のことは知っています。しかし金には縁がありません。その私が、世界で大金を持っている人達の行動を嫌というほど知らされたのが、ここ、カンヌの町でした。世界の不動産業者が集まってくる世界不動産業者会議がここ5.6年来毎年カンヌで開催されています。そこへ今年の春、行ってきました。カンヌの映画祭が開催される会議場で、この国際会議は3月の初め、4日間ぐらい行われました。1万5000人の人がここに集まったと言われています。ヨーロッパの人達が大部分で、アメリカからもかなり来ていました。もしアメリカの不動産業者も大挙して来ていましたら、3万人を超えたかもしれません。会費は30万円から40万円だそうです。一人40万円に仮に1万5000人を掛けると、60億円です。会議をやっている会社は相当いいかげんじゃないかと思うんですが、この規模は私達日本人の想像を越えています。カンヌの映画祭をやっている会場で毎年1回不動産業者に面白い情報を紹介するということだけで、世界の不動産屋は、会費30万か40万払って来るんです。
 私は、ヨーロッパでも全然別な所で、ヨーロッパの都市計画の専門家と一緒になって、国際会議をやっています。この国際会議は集まってもせいぜい800人です。1000人というとうまくいった会議になります。この会議は世界都市計画住宅会議と言うんです。カンヌで行われている片っ方は、世界不動産業者会議。800人、1000人の方は、通称IFHPといっています。これは会費が4日間で7万円位です。それでもこの会議に集まってくる専門家にとっては高いのです。どういう人達が集まって来るかというと、地方の役人です。この地方の役人が作った国際会議は、今年オスロで世界会議をやります。それを楽しみに、アイルランドのベルファストの市役所の役人とか、スペインのトレドの市役所の役人が、各国の市役所の公費を集めて、出張で来るわけです。
 ですから、都市計画をやっている役人の集まりは、何とわびしいことかということをカンヌに行って嫌というほど知らされました。それにつけても、不動産屋はお金を持っています。スキャンダルになるのは当たり前だと思いました。うらやましい限りです。
 その国際会議で、今年はちょっと面白い仕組みをしようと考えた日本の役人がいました。1時間の枠をとって、200人ぐらいの不動産のおじさんたちが集まるホールを借り切ったのです。そこへ伊藤滋と隈研吾さんが行って、一人30分ずつ話せという企画が出来上がりました。
 このホールは、カンヌ映画祭の時に予備選でいろんな試写を見るホールです。だから、シートがものすごくいいんです。眠りながら聞くという点では絶好です。そこで私が一番目に日本の都市についてプレゼンテーションをしました。
 まじめに原稿を英語で作っておきましたが、僕のいつものくせで原稿を作ってもこれを見ないで英語でアドリブでしゃべってしまいました。調子に乗って、何と1時間の枠組みのうち50分、僕がしゃべってしまいました。隈さんはしようがなくて30分の枠を20分ぐらいしか使えませんでした。要するに、合計で1時間10分です。会場を出ると、そのホールにすしが置かれているのですが、すしを食って会場が閉鎖になるのが6時です。その会議は4時半から5時半までの1時間。その残りの30分ですし食って、みんなが満足して帰るのが当初の予定でした。その貴重な時間を僕は既に10分使ったわけです。隈さんが5分ぐらい使った。すしパーティーに与えられていた30分のうち、15分をつまらない演説に使われてしまったのです。すしを食って帰るまで15分しかない。これは大変なことだったんです。
 そこでしゃべった結果が、割合面白いというので、帰国後2回ばかり話をしました。
 何でこういう話題をとりあげたかと言いますと、欧米の頭のまわる不動産屋は、世界中の大金持ちを相手にしてビジネスをしているということを皆様に申し上げたかったからです。これはカンヌの経験からなんです。私は今回初めて、カンヌ、ニース、モナコ、サントロペ、こういうところに行ってきました。そうしましたら、世界の大金持ちが全部あの辺に別荘を持っているんです。世界中には、大金持ちが私達日本人の想像を絶するくらいの数存在していることも判ってきました。少なくともあの辺にいる大金持ちの別荘について、建物がどういう建物で、大きさがどれくらいで、庭はどういうものだということを目の当たりにしたわけです。
 これは改めて言うわけですが、日本の金持ちは彼らと比較した場合、欧米的には金持ちではありません。中産階級です。つまり金の使い方を知らいないのです。例えば、三井不動産の会長は絶対に大金持ちではありません。森ビルの役員だって金持ちではありません。彼らは小さいマンションに住んでいます。不動産屋のトップがそんなことで世界の不動産を相手にして商売ができるかというと、これは成り立たないでしょう。
 ですから、今もって日本は社会主義民主国家です。何回か僕はヨーロッパやアメリカの究極の大金持ちが住む住宅地に行った時、この思いを強くしました。それと同じ思いをこの3月にカンヌで強く感じました。
カンヌでは、サウジアラビアの王子、アメリカの映画スター、ロシアの石油成金、こういう金持ちの生活話が日常茶飯事に庶民の間で語られています。あの別荘はロシアの石油成金がかつての持ち主であったアメリカの映画スターが死んだのでそれを買ったとか、これはサウジアラビアの王子が昔からイギリスの貴族が持っていたマンションを買い取ったとか、そういう話がいっぱいあるんです。
 金持ちの別荘地を回っていたら、テンガロンハットみたいな屋根の家があったんです。「あれは、何だ」と聞いたら、ジョン・ウェインが持っていた別荘であったということです。彼が「おれはテンガロンハットのような別荘に住みたい」と言って、造ったのだそうです。しかし、今はジョン・ウェインではなくて、スペインの女優か何かが住んでいる別荘だそうです。そういう話が沢山あるんです。
 ところで日本の不動産ビジネスのやり方は、どういうやり方をしているのでしょうか。この世界不動産者会議・MIPIMに何で1万5000人が来るのでしょうか。不動産屋の会議ですから、何にもないんです。ポスターと模型しかありません。ですから、自動車ショーのように興奮して、わけがわからない半導体がエンジンに組み込まれているという話を、さも知ったような顔して聞くなんていう、屈辱感と興奮が交わった気分にはなりません。ところが、不動産屋会議の会場はべらぼうに大きいわけです。そこにそれぞれの都市がコーナーを作っています。そのコーナーには必ずカウンターがあるんです。シェリー酒とかワインが置いてあるんです。そこで、フランス人とかドイツ人がちょっと腰掛けてしゃべっているわけです。そこへまた変なアメリカ人が来たりしています。
 実は年に1回、彼らは上玉の不動産の情報交換をそこでやっているのです。そこで契約が成立した時のお互いの取り分を幾らにするかという、不動産の情報交換をEUはやっているわけです。だから、ロシアの不動産屋が来て次のようなことを言ったとします。「こんにちは。おまえ、どこから来た」「スペインだ」「スペインはどこだ」と言ったら、「マルガだ」「あの辺にロシアの石油成金が別荘を欲しがっているけど、どうだ」。スペインの不動産屋が「じゃ、考えてもいい」「翌日またここで会おう」と。翌日になると、物件はこうで、例えば2000万ドルだとか、3000万ドルだと言うでしょう。そうすると、2人で話し合わせて、2000万ドルなら2500万ドルで売っちまえと、そういう話を連中は酒飲みながらやっているんです。
 こういうビジネスに対して、日本の不動産企業はつきあいきれません。しかし、これがどうも欧米の不動産屋のビジネスらしいんです。一種のトップコントラクト(社長同志の契約)です。しかし日本でそういうことに慣れている三井不動産の常務がいるかというと、いないのです。三菱地所の専務がいるかというと、いないのです。ただ1人非常に国際的なつきあいが上手な重役さんのいる不動産企業がありました。しかし彼は元役人です。OECDとか国連で欧米の役人とつきあってきました。しかし、大金持ちの民間人とのつきあいはありません。ですから彼のキャパシティーでは巨額の金が動くトップコントラクトはできないんです。彼自身の所得水準は欧米のミドルインカムのちょっと上ぐらいです。「おまえはロンドン首都圏庁の役人であったのか。おれも日本国家政府の国土交通省の局長をやっていた」、そういう話は得意ですが、金には余り関係ないです。
 こういう欧米の大金持ちの不動産市場には日本人は入れないという絶望感と、しかし、日本でも若い連中は意外とやれるかもしれないという期待感と、両方ないまぜでカンヌから帰ってきました。
 このようにこの国際会議の仕掛けは立派です。ところが、よく聞くと、プロモーションしている主催会社はまだ浮き草のようにしっかりしていないようです。その会社のおやじの顔見ると、中小企業の素朴なおやじです。彼がこの会議を何で4月にやるかというと、4月はカンヌ、ニースでは催し物のオフシーズンであるからです。カンヌでハイシーズンというのは、クリスマスのころとか、夏の水着でピチピチとショーをやる6、7、8月のようです。4月はカンヌ、ニースに一番客が来ない時期だそうです。ですからその企画会社は、オフシーズンの比較的安い値段の時期に、カンヌの映画祭をやる会場を4日借り切るのです。そして、高い値段の会費で不動産屋を呼び集めて儲けるらしいのです。こういう企画も国際的です。
 それをやっている会社はイギリスとフランスのJVです。つまり小さい会社が一緒になってやっている国際会議です。そんなことをここに集まった不動産屋が言ってました。確かに、大金持ちを対象にして、リスクを伴った巨額の金が動くという市場には日本の企業は入れないし、これからもなかなか入りにくいでしょう。何故ならば、その市場は欧米とアラブの金持ち社会そのものであるからです。こういう市場は日本の企業からみれば、不動産のやくざっぽい領域です。
 しかし、片っ方で、堅気の中産階級を対象にした不動産市場であれば、欧米の地であっても日本の企業はしっかりとしたビジネスができるという実例がありました。それは、カンヌから内陸へ車で約30分行った所にありました。
 そこはどういう場所かと言いますと、海が見えない場所です。カンヌではありません。コートダジュールでもありません。カンヌの内陸です。日本の例えで言うと、群馬県の妙義山のふもとにある別荘地とゴルフ場です。妙義山の奇々怪々な地形と、このカンヌの内陸部の地形は似ていました。
 フランスのそこは奇々怪々の山が囲んでいる真っ平な盆地でした。
 そこで、日本のある建設会社がゴルフ場を経営しています。それは妙義山と比較すると、富岡のゴルフ場に似ています。富岡ゴルフ場の会員権の値は高いようです。繰り返して言います。この建設会社は、妙義山のふもとの富岡のゴルフ場のようなゴルフ場をカンヌから車で30〜40分行った山奥で経営しているわけです。
 この会社の海外進出は割合昔からです。この間アメリカでは、相当リスキーな開発も手がけてきました。しかし欧州ではこのゴルフ場はうまくいっています。まず日本人が管理しますから、ゴルフ場の手入れがとてもいいんだそうです。私自身、ヨーロッパに来てみて、日本人の芝生の手入れがあんなにいいとは思いませんでした。清潔感があります。フランスのゴルフ場の中では、100か200のコースのうち、20番目にそのゴルフ場があるというんですね
 ですが、この会社はゴルフ場だけを経営しているわけではありません。何をねらっているかというと、ゴルフ場の横に、大金持ちじゃない、ちょうど皆様方のようなヨーロッパの堅気の中産階級の人達が買える別荘を何百軒も造っているのです。そこを買う人は、日本流に言うと、年間の所得は1500〜1600万円。部長さんで退職したとか、あるいは大学の先生で、3年前に退職金をもらってやめたとかいう人の別荘には丁度手頃なのです。その別荘を売るセールスポイントは何かというと、このゴルフ場を使えるほかに、その気になれば、コートダジュールまで20分車を飛ばせば行けるということです。
 この売り方はなかなか上手です。どういう所にねらいをつけたかというと、アイルランドとかスウェーデンとかデンマーク、そういう所の企業の平取クラスとか、あるいは大学の先生、こういう連中にセールスをかけたのです。この販売作戦については、日本のビジネスマンは徹底してプロです。何故ならば、日本でもそれをやってきているわけですから。これがだんだん噂を呼んで、「あそこのゴルフ場は安心だ。メンテナンスがいい。別荘地も非常に落ちついていて、余りキラキラピカピカで、『プレーボーイ』とかそういう雑誌に載る連中は来ない」、という評判が定着したらしいのです。この動きは、一種の中産階級として、お互いに傷をなめ合うムラ社会を作る動きです。大金持ちの奴をののしりながら、実は貧乏なんだけど、お前もそうかという、ムラ社会をうまく作るということです。
 そういう村社会に入ってくる人達は、ヨーロッパの中心にはおりません。フランス人じゃないし、ドイツ人でもありません。アイルランドのような所得が上がっていく所のビジネスリーダーとか、デンマークとかスウェーデンの人たちです。ここは所得税は50%以上です。幾ら稼いでも税金で持っていかれる、そういう北欧系の連中に人気が出てきたそうです。そして彼等を対象として別荘が着実に売れ出しているというのです。
 このやり方であれば、日本人には絶対に損をせず利をとれます。そこで1軒成約して、別荘一軒2000万円で売れたとします。その利益が200万円としましょう。それを今年は50軒売ったとして、1億円の利益になります。そういうビジネススタイルは日本人にはむいています。ところが、コートダジュールのカウンターバーでの商談は全くちがいます。酒を飲んで気のあった二人の不動産屋は談合をして、1軒当たり、2000万ドルの物件を2500万ドルで売ってその利益を折半しようと取り決めます。500万ドルの利益が1軒の売買で生まれてきます。6億です。
 これが今の中高年の日本人のビジネスマンには出来ません。しかしこれをやらなければ、日本企業は国際的な不動産市場に食い込んでいけません。そのためには、これまでの中高年の日本人と全く行動様式と生活の価値観が違う若者を、日本社会が作り出す必要があります。東京は、キンピカジャラジャラ宝石いっぱいという男の子と女の子を作る役割をもたされます。彼らに、モナコあたりでクルーザーを持たせてもよいでしょう。彼らはアメリカの大学を出ているけど非常に浅薄です。しかし、英語だけはペラペラです。そういう若い日本人がモナコに半年いるとか、こういう日本人を作っていかないと、今言ったようなヨーロッパの不動産屋のビジネスに入れないかもしれません。少しの絶望感と期待感、そして苦渋の思い、そんな気持ちを持って日本に帰ってきました。
 このMIPIMというのは次のような言葉のつながりです。Mはマーケットです。フランス語でマルシェ。それからIはインターナショナル、Pはプロフェッショナルかな、次のIMはインモービル、不動産。だから、不動産専門家の国際市場。
 この会場で一番多くの人々を集めていたのはロンドン市役所のところでした。会場自体の大きさは、東京湾の埋立地にあるビッグサイトの展示スペースの半分くらいあります。そこで、世界中の都市や不動産企業が陣取り合戦をやっていたわけです。そこの中で一番威張っていたのがロンドン市役所です。ロンドンはご存じの通り不動産市場がものすごくタイトです。だから、ホテルの宿泊費はとても高いと、ロンドン行ってきた人達はみんな不満をもらしています。オフィスも足りないようです。三菱地所はこの間ロンドンで再開発を成功させて儲かっているようです。ですからロンドンは不動産業にとってはビジネスチャンスがとてもあるところらしいのです。ですから、その展示場にみんなが集まって来るんです。そこにもバーカウンターがあります。
 MIPIMの会場に入る出入り口で、どこへ行けばいいとかいろんな情報を皆が交換しています。ロンドンが面白いぞと言うと、みんなロンドンに行くわけです。僕も行きました。
 そこは何が売りかというと、500分の1の街の「模型」です。その模型はつまんない、のっぺりして、表情もない模型です。しかし、テームズ川を真ん中に置いて、東側は例のドックランドのところから、西はロンドンブリッジの辺までの模型をドンと置いてあります。その大きさはなかなかのものでした。そこにいろいろの再開発計画をのせているのです。
 ですから、ビジネスをしようというときには、図面や絵で表現するよりも、模型を作らないと、だめだなと思いました。模型については、ヨーロッパの連中は大変慣れています。スウェーデンからイタリアまで、どの国でも模型づくりは市役所でも民間でも当然のように作っています。市役所はもとより、不動産業者、設計事務所、そして大学まで、全部慣れています。模型を作ってそれを真ん中に置いて、そこで大学の先生と学生、あるいは不動産屋とクライアント、あるいは市民参加のおじさん、おばさんと、市役所の役人が議論をすることはあたり前です。それがない限りは、まちづくりを具体的に動かせないというのは、常識なんです。
 日本で500分の1の模型を作るということは、国に言ってもできないでしょう。金がないから。民間の皆様方、是非再開発事業をする時には、その周辺もふくめて500分の1の模型を作ってください。
 今、三井不動産も三菱地所も森ビルも、1000分の1の模型を作っています。
 1000分の1の模型はそれなりに海外でも評判いいんです。なぜかと言うと、東京23区の半分を全部模型で作ってしまったとか、マンハッタン全部の模型を作ったとか、すごい規模で、世界の大都市の中心部の模型を作っているからです。特に森ビルはこの点で傑出しています。ロンドンのシティとウエストミンスター区、テームズ川の南のロイヤルバレエシアターがある辺りの地域まで森ビルは1000分の1の模型を作っています。そういう点で、国際的に面白いということで、森ビルの作った模型は、アムステルダムやバルセロナに展示されています。しかしこれはビジネスには使えない。眺めては面白いのですが、本当にビジネスで何かやる時は500分の1の模型を作らなければなりません。500分の1になると相隣関係や各階の階高、道路と建物の取り合わせがはっきりしてくるからです。どうもこれがこれから必要じゃないかなと思いました。しかし私は模型だけを褒めているわけではありません。CADも重要です。
 実はMIPIMに行った時に、CADセンターという会社をやっている面白いおじさんとつきあいました。そこに、中国系日本人の呉さんという素晴らしい技術者がいます。彼がその会社で開発したCADをカンヌに持ってきました。それで何をやったかというと、建築物をなくしたり高くしたり、つまり市街地の変化を瞬時に創り出すのです。まず、東京で一番高いビルを捜せと言うと、パッとCADがその建物を映し出します。一番高い建物をゼロメートルにしてみることもすぐできます。例えば、六本木ヒルズ。あれがないとしたら、どうなるかというと、CADはその建物をなくしてしまいます。逆に、そこを500mにしたらどうなるかというと、森タワーを高くするのです。そういう仕組みなんです。
 だから、不動産屋が適当なことを言うと、CADはそれに応じて、建物を上げたり下げたりします。あるいは平べったい建物を捜せと言うと、平べったい建物の一番大きいのが東京ではこれですと、すぐその場所を映像で示します。客の注文に反応する点で、CADはものすごい親切できめが細かい。
 ヨーロッパの不動産屋が、これは面白いとくぎづけになってこのCADのデモンストレーションを見ていて、このソフトウェアは一体幾らだと彼に聞いたそうです。彼が開発費は3000万円と言ったら、途端に「やめた」と言って帰ったそうです。呉さんはあとであの不動産屋は、300万円ぐらいでソフトが買えると思ったんでしょうと言っていました。CADと模型と両方使って再開発プロジェクトを売り込めばビジネスチャンスが高くなるかもしれません。
 来年も日本の不動産会社はカンヌのMIPIMに出展するようです。興味ある方はぜひ。30万ぐらいかかるんですけど、ニースに行って現場に出かけられることをお勧めします。面白い、役に立ちます。



1.数値上の考察

 

 次に僕がカンヌの説明会で1時間話した内容を、これから皆様にお話しします。
 まず2002年にオランダのコンサルタント会社が調査した都市のランク付けを紹介しました。私がその概要をどこで見たかというと、アムステルダムのホテルに備え付けてあったビジネス誌からです。オランダでちょっとした会議があって、ホテルに行ったら、ホテルに日経ビジネス、ダイヤモンドみたいな雑誌が置いてあるわけです。それをパラパラと見ていたら、この記事が出てきたんです。この調査会社というのは、オランダでは結構大きい調査会社で、タイトルが「Leading Cities of the World and their Competitive Advantages」。世界の中の指導的な都市について、大きい調査会社が、世界中のビジネスマンに対して調査票を送りました。そこにいろんな質問項目を入れました。そして、1500〜1600票回収しました。
 その結果を、ビジネス雑誌に出したわけです。実はその記事の原本はちゃんとした報告書で200ページぐらいあります。英語で書かれています。
 この記事はビジネスマンによる都市の評価であるところに特色があります。例えば、「東京で暮らしやすいですか。東京にあなたは住みたいと思いますか」という一般的なアンケートを外国の皆様方にするとします。その対象者は大学の先生とか大使館員とか、その国の企業で働いている普通のおじさん、そして、普通のおばさん等です。ビジネスマンでない外国の人たちを対象に調査をしますと、何が起きるかというと、東京なんてあまり知らない人が沢山いるのです。アメリカの、例えばネブラスカ州のある町の商店のおじさんに、東京と言ったって、北京と東京がどういう位置関係にあるか全然知らないんです。そういう普通の人達に影響を与えるのは雑誌やTVといったメディアです。そのメディアに寄稿するライターは一般的に素直な記事を書きません。必ずひねった文章になるます。ですから東京や大阪についてもその実体がうまく紹介されない場合があります。そういうライターが書く記事とか、そういうコメンテイターがしゃべっているテレビの意見によって、普通の人々は大きな影響を受けます。それで都市のランク付けがされるわけです。
 しかし、ビジネスマンの場合は違います。現場でどうしても仕事しなければいけないから東京に行ったとか、北京に行ったとか、そういう人達ですから、訪れた都市の実際の姿を知っています。このビジネスマンが同僚と会社の中でいろいろの都市の話を、具体的な体験を通してしているわけです。こういう連中から集めた票が1500票あったというわけです。
 東京に対する普通の人達の一般的な評価は、最近犯罪が増えたとか、物価が高いとか、負の項目が増えてきたために余り高くないそうです。スイスの調査会社の評価では40番目とかいう話もありました。
 しかし仕事のために行かなければいけないというビジネスマンの評価では、ロンドン、ニューヨーク、パリの次に、東京が位置づけされています。その次は香港とロサンゼルスです。それから12番目あたりにワシントンがきます。次に北京。大体こんな順番です。
 もう1つ、注目すべきことがあります。100点が3つ、つまりニューヨークとロンドン・パリです。東京は98点です。次の香港とロサンゼルスが93点です。3番目の東京と1位の3つの都市の差は2ポイント、東京と香港、ロサンゼルスの差は5ポイントです。だから、この差から見ると、ロンドン、ニューヨーク、パリに東京は極めて近く、他方で香港・ロスアンゼルスを大きくひきはなしていることになります。つまり東京は横綱になるかもしれない大関です。これに対して香港・ロスアンゼルスは前頭筆頭ぐらいです。結構、東京もまんざらじゃないぞと言うことです。
 そうすると、東京は、頑張って海外にむけてその長所をセールスしなければならなくなります。どういうセールスの仕方をするかを考えなければなりません。しかし外人にセールスすると言った時に、ちょっと困るんです。何でセールスをするのか。
 例えばサンフランシスコやロサンゼルスの退役軍人の連中がアジアへ行きたい、1週間旅行したいというと団体旅行になります。そういう連中に東京を紹介するとなると、皇居とか浅草寺、そして銀座が定番のプログラムとしてあげられます。フランスとかイギリスの家庭の奥さんに、東京ってすごいんだぞと紹介する場合も同じです。日本でいくと、富士山と桜と芸者、そうなっちゃうんです。日本の観光ビジネス、観光ジャーナリズムのこれまでの姿勢は、日本のエキゾチズムを紹介することに縛られています。それでは、海外のビジネスマンに対して、東京を正確に紹介していません。
 浅草雷門、皇居、そして明治神宮、ディズニーランドに外国人を案内しましょう。そういう観光パンフレットを作って、東京に興味を持っている海外の人達に、そのパンフレットで説明しても、東京の本当の魅力ある姿は浮かび上がってきません。
 「東京って、すごい、なるほどヨーロッパやアメリカの街と違うことが起きている」ということを海外の人達に迫力をもって迫っていく。このような紹介の仕方を考えてみませんか。「そうか、東京って、やっぱり行ってみた方がいいな」と思わせる、そういう紹介の仕方がありそうなんです。
 その前に、東京首都圏の大きさと人口を、海外の地域と比較してみます。東京首都圏とオランダの国土面積が大体同じなんです。オランダは真っ平らでしょう。首都圏も関東平野ですから、大体同じです。オランダの人口が1600万で、首都圏の人口が4100万ですから、オランダと首都圏が勝負すれば、絶対に首都圏が勝ちます。だけど、オランダが首都圏に対して絶対に勝てるものがあるんです。貿易ですよ。英語を使った貿易です。だから、オランダには、ロイヤル・ダッチ・シェルのような世界の油を全部抑えている企業があります。これには日本人も頭を下げざるをえません。
 ですから、英語は日本人にとって本当に絶望的に大変な首かせです。ところが、この頃それを克服する可能性が出てきました。日本の若い女性の英語力はすごい。男よりカンがいいですから。非英語圏の外人のひどい英語でもちゃんと日本語に訳してくれます。日本は女の時代になってきたのかもしれません。日本が国際競争力を持つためには、今の20代から30代の若い女性に、もっともっと英語を身につけてもらいたいものです。女性が男性を引っ張ってもらう社会システムを作らないと、日本はだめになるかもしれません。オランダの英語はすごいです。



2.外国人に何を語るのか。(7つのセールスポイント)

 

 ここで言う、「国際的視点から東京をみる」というのは、伊藤滋が外人と共通の会話をするために、国際的視点から東京を外人に紹介するという意味です。それを考えると、7つぐらいしゃべりたいことがあります。
 一番目は「ビジネス─鉄道都市と再開発」。
 東京を語る時、ヨーロッパやアメリカの都市に比べて絶対強いのは鉄道です。日本の鉄道は狭軌です。これはイギリス人にだまされたからです。明治の初めに、アフリカやインドと同じように、イギリスは日本を見ていたわけです。イギリスはとんでもないことを日本にしました。しかし日本人は立派です。狭軌でちゃんと日本の情報と物流網を組み立てたんです。それが鉄道省、日本国有鉄道。その維持管理技術が抜群です。それの発展形態が新幹線です。
 日本は国力がないから、道路はしっかりと造れませんでした。ですから、日本の都市は明治から営々と鉄道によって養われ、培われてきました。もちろんその前は江戸の封建時代、交通手段は歩くことと馬ですから、鉄道の駅から離れた所に中心市街地がありましたけどね。しかし明治以降、駅から離れた中心市街地でも、その存在を支えたのは鉄道による貨物輸送でした。
 ですから、駅は、明治から現在までの150年の歴史の中で、日本のまちづくりに極めて大きい影響力を持ってきたわけです。大正、昭和の初めぐらいはヨーロッパでも鉄道は重要な交通手段でした。しかし、日本が違うのは、今もって鉄道を徹底的に使って、都市を作っていると言うことです。ヨーロッパや、アメリカの都市よりも地球環境に貢献する都市が日本にあるのです。これを見習えと言うことです。そのために見に来いという話です。
 それが実は「鉄道都市」の初めの説明です。明治から東京のビジネス街がどういうふうに育ってきたかと言うと、大体が京浜東北線と東海道線沿いです。上野から品川までの間にほとんどのビジネス街が集まりつながっています。
 では、池袋、新宿、渋谷は、どうかと言うと、これも昔の貨物線の駅であったところです。貨物線を旅客化した山手線にできている繁華街です。日本人は当たり前だと思っているんですが、このように鉄道によって日本の街はできている証拠を見せると、ヨーロッパやアメリカの連中は感心します。なぜならば、今ヨーロッパの各都市では、かつての中央駅のまわりの市街地が衰退から荒廃状態になってしまっています。そこは麻薬取引の中心になったりしています。駅前市街地は非常に犯罪が多くなっています。せっかく20世紀の初期までに作り上げた立派な鉄道用のホテルも、もうお客さんがいないのです。立派なホテルを安いビジネスホテルにしたりしています。それらのホテルの裏側に行くと、大体相場が決まっていて、黒い男とお兄ちゃんが、麻薬のために、金よこせと通行人をゆすったりしています。そのすぐ横で、女が手を振って客引きをしています。女と言ったって、おばあちゃんで若い子はそんな所にはいません。そういう市街地がロンドンのビクトリアステーション、パリの北駅、アムステルダムの中央駅、それからロサンゼルスのユニオンステーション、ニューヨークのペンステーションのまわりに拡がっています。この現象は大きな都市では中央駅だけではなくて、普通の駅のまわりでも同じです。そういう街にしてないのは先進国では日本だけでしょう。これはすごいことです。
 むしろ東京や大阪といった巨大都市の中央駅や大規模駅のまわりには、商業・業務の機能が集積しています。海外型、国際型のビジネス中心もこの駅のまわりに集まっています。鉄道は都市をヨーロッパのように衰退させているのではなくて、特に駅前市街地を繁栄させているのです。ですから日本の巨大都市は鉄道都市と言えるのです。
 例えば丸の内で今何が起きているのでしょうか。東京駅は3階になります。丸ビルと新丸ビルは建て替わります。東京ビルも新しくなります。三菱地所は必死に中央駅のまわりの市街地の価値を高めています。正面に皇居があることは、この場所の価値を減少させない大きな要素です。ロンドンのバッキンガム宮殿には、その近くにあるビクトリア駅前市街地の価値を守る力はありません。日本がすごいのは、バッキンガム宮殿とビクトリアステーションのような関係を東京駅では作っていないことです。東京駅と皇居はもっと密接に結びついて、丸の内のビジネス街を支えています。そしてこの質を落とさない。市街地の質を壊してない。むしろより効用を上げているのです。こういう話を外国のビジネスマンに話したいのです。
 東京や大阪の地下鉄も立派な資産です。市街地の価値を守るという点で。これは三井不動産が守っている日本橋地区の守護神です。日本の大都市では地下鉄のネットワークが拡がってきました。その沿線やターミナル駅のまわりには、いろいろな機能を備えた元気な市街地が生まれてきています。まさに新しい鉄道都市を誕生させています。地下鉄の由緒ある大きな中心のひとつは日本橋です。日本橋でも新しい都市づくりをめぐっていろんな議論が起きています。ここは高架で高速道路が通っていてとても醜く、この高架道路を取り外せという要求が地元から起きています。実は皆さんは知らないでしょうが、ここに東京オリンピックが開かれた昭和39年頃まで帝国製麻という非常に格好のよい赤レンガの建物がありました。ところがこれを壊したばかがいるのです。今はおよそ、つまらない建物が建っています。今東京では、地下鉄の日本橋駅と三越前駅を何とか元気にさせるようにさまざまな試みが始められています。
 高架の高速道路がなくなれば、木造のお江戸日本橋を再現することができます。東海道の里程標も生きていきます。帝国製麻の建物を復元してもらいたいものです。日本橋の両岸にずっと歩道を造って桜並木にしたいです。このような将来像を地元では真剣に考えています。韓国ではすでにこういう川に乗っかっていた高架道路を取り壊しました。ボストンのビッグディックの話も私達には参考になります。ドイツだって、デュッセルドルフでスーパー堤防の下に道路を埋めたでしょう。だから、東京だってこういうことを考えているんだ。このように外人さん方に話をしましたら結構受けました。地下鉄もこれだけ有効に東京や大阪で使っているんだと彼らに強調しました。
 ところで、鉄道都市の重要な存在、汐留地区の説明をして、最後に私は「この都市は嫌いだ」って言いました。街づくり、つまり人々を楽しませる都市計画を役人はそこに造らなかったのです。役人が沢山集まっても、そこに責任を取れる主任の都市計画家がいませんとこんな街になるという典型が汐留です。どうしてこんな街にしちゃったか。ここについては日本の都市計画家を挙げて、否定的な評価をしています。ただ、建築家の評価は少し違います。でき上がったオフィスビルは、日本の超優良企業がそこに土地を買って建てていますから、それなりに質の高いデザインの建物が集まっています。ですから新しい国際都市になるに違いないと建築家は言います。そこで働くビジネスマン達も、新しい大きな建物を見上げてこれはすごいぞと言っています。しかし、そこには街を歩いて楽しむ雰囲気がありません。つまり建物と建物をつなぐ外部空間のデザインが存在していないからです。ですから都市計画家はこれを否定しているのです。
 ついでに、ジョークを申し上げます。都市計画家には共通の会話があります。それが面白いんです。「お前のところの都市、最近どうだ」「ひどいことになった。おれたちはこの間市長と大げんかした」とか「この間、おれのボスは議会とけんかしてやめちまったよ」という日常会話が欧米の都市計画家の間にはあります。「そうか、おまえのところもそうか。おれのところもそうだ」と言う会話です。貧乏な役人は、ビジネスチャンスがあっても金儲けはできません。そういう専門の世界にいる技術者が集まった時の会話は、自らの都市の街をけなすことです。けなす時に、共通の連帯感ができます。「そうか。じゃ、お互いに一丁やってやるか。いつも不動産屋と闘って、負け戦ばかりだけれども今度は勝つぞ」という具合の意見の一致です。今回はMIPIMという不動産屋の会議ですから、全然話が違って貧乏役人に対置される金持ち集団の言い分が主流となります。しかしこういうひがみっぽい話を、都市計画のIFHPでしゃべると、拍手喝采です。つまり、汐留はMIPIM型の不動産屋の作った都市で、都市計画家が作った都市ではないということです。
 しかしここは日本の文明開化を先導した、かつての大事な鉄道駅です。新橋に日本の鉄道の歴史で初めてのターミナルができて横浜をつないだのです。その文明開化の遺産を使って、21世紀の鉄道都市を作ったのが汐留です。

 それから秋葉原に新しくできるビジネス街も旧い電車基地の再開発です。とかく東京のビジネス街は南下してゆき、北の方のビジネス街がさびれてゆく傾向があります。秋葉原はそれを食い止める北の拠点です。東京都は秋葉原の再開発にてこ入れをやっています。よく考えると筑波鉄道がここまで入りますから、そういう点では、秋葉原は無視できないなと思いました。筑波鉄道の乗り入れを含めて秋葉原も鉄道都市です。

 次に品川です。ここもいうまでもなく、旧操車場跡地の再開発ですから、鉄道都市です。皮肉な話ですが、今の東京や大阪では昔造った栄光ある鉄道の操車場や貨物駅を全部食いつぶして、世界的なビジネス拠点を作ろうとしているのです。しかしこれらの再開発地区はすべて、非常に優れた通勤鉄道と新幹線に支えられているところが、東京は世界の他の大都市と違うところなのです。

 2番目は「エンターテイメント─埋立地におきる新しい娯楽」の話です。
エンターテイメントというと、多くのジャーナリストは浅草と新宿と銀座、渋谷をとりあげます。それにサブカルチャーの中心として下北沢や原宿をとりあげます。しかし、このような伝統的で街の古い体質になじんだ繁華街とは違ったエンターテイメント地区が東京に生まれてきているようです。東京にはこれまでの日本の観光の専門家やジャーナリストが言っていたことと違う現象が起きているということを私は海外の人達に言おうと思ってるんです。
 僕のでっち上げかもしれませんが、その場所はディズニーランドとその周辺、特に東京の埋立地です。世界中のディズニーランドの中で一番集客力があるようです。年間4000万人を超える入園者がいると聞いています。リピーターも多いでしょう。集客力が減っていないんですよ。おそるべき観光企業の力です。オリエンタルランドと三井不動産はすごいことをやっています。
 ディズニーランドだけではなくて、東京湾の埋立地には、娯楽面で面白いことがポツポツと起きてきました。まず、ビッグサイトです。あれは猛烈に大きい集客施設です。そこに人が集まれば、その外部効果をねらって、ホテルや娯楽、飲食施設ができます。それから、お台場の砂浜地区です。ここは若者の洒落た小運動場になってきました。ゲームセンターもCDショップもあります。理由は簡単です。埋立地の施設には自動車で行けて、駐車で困るということがないからです。それから、ヴィーナスフォートという変なバラック建てのファッション施設があります。これは10年ぐらいで壊すのだそうです。このうつろいやすさが若者の関心を引きます。女の子から見れば男の子とショッピングできるちょっとカッコいい場所です。そして、お台場とかビッグサイトとか、ヴィーナスフォートは、全部遊びに来る人が違います。お台場は若者お兄ちゃん。ヴィーナスフォートは若いお姉ちゃん。ビッグサイトは会社の連中が来て、袋ぶら下げて帰っていくところです。要するに、観光の客の筋が違う複合的な観光地がここに、今作られつつあると思うんです。
 丹下健三さんの建築物を、僕は好き嫌いをないまぜた気持ちで眺めています。フジ・サンケイの丹下さんの建物、あれ自体はちょっとした観光的作品です。丸い地球儀をぶち抜いて通路が設計されているこの建物は、「あ、お台場だな」と皆に思わせる象徴性を具えています。ザッツ・お台場のビルの他に、ここでは余り目立ちませんが大規模なトヨタのショールームがあります。観覧車も見逃せません。つまり東京の埋立地は誰もが想像できなかった、高度に娯楽性の高い巨大遊園地になってきているのです。
 ディズニーランドと東京湾埋立地に結びついて、もう1つエンターテイメント地区があります。それは横浜の中華街です。ここからは僕のフィクションです。将来中国から沢山のお客さんが来ます。韓国からももっと来るかもしれません。中国の金持ちの人達を上海や北京から集めてくるのには、これまで台湾の人たちが東京に観光に来た時と同じ仕掛けをより強化した方がいいのです。例えば羽田に上海から中国の大金持ちが沢山来たとしましょう。羽田から湾岸自動車道路を使って、大部分の観光客は、ディズニーランドの横のホテルに泊まります。翌日ディズニーランド見学をします。6〜7時間かかります。夕方ヘトヘトになってホテルに戻りもう一泊します。3日目の朝、このディズニーランドを出て、お台場に車でまいります。2〜30分ぐらいで着きます。お台場に行くと、ディズニーランドとは全く違うショッピングができます。ヴィーナスフォートのショッピングとか、ツタヤでCDやDVDを買うというショッピングができます。銀座や新宿で買えない埋立地の商業施設ならではのものを買います。それからトヨタの自動車のショールームもあります。
 それを見て、夕方横浜中華街まで、湾岸自動車道路で30分かからないで行ってしまいます。最後は、横浜中華街で「ようやっと、シナ飯にありついた」と、みんなほっとするわけです。「今日は長旅だったので、疲れた。中華街に行くとほっとしたな」と言って、中華飯を食って、横浜で泊まって、次の日、羽田から帰る。三泊四日の観光旅行です。ここには浅草も銀座も新宿も出てきません。19世紀、20世紀の街と縁を切った21世紀のエンターテイメント地区を楽しむ観光旅行が組み立てられます。しかし、このスケジュールは大変現代的で、国際的なんです。
 そういうエンターテイメントの仕方がこれからできるかもしれない。そういう旅行のセットを、台湾に売り込んでいるなら、上海に売り込んだっていいじゃないか。北京に売り込んだっていいじゃないかということです。こういう東京紹介があっていいんではないかということです。
 ここでいうエンターテイメントは、これまでの日本の紹介の中心にあった銀座、浅草、そういうところのエンターテイメントとは違うことがあります。そしてこのようなウォーターフロントのエンターテイメント地区の出来方はニューヨークにもない、ロンドンにもない、パリにもありません。東京だから、こういうことが起きているんです。こういう見方を外国人に売り込んでゆくべきです。
 さらに、外国人に対して、「おれたちはもっと新しいことを次に考えているんだ」という話がこの埋立地の利用に結びついて出てきます。例えば、羽田空港のそばに広大な土地が未利用のまま放置されています。ここに新しく、ビジネスビルとホテルそして娯楽施設の複合市街地を造るのです。そこをディズニーランド・お台場・中華街と結びつけるのです。パリのシャルル・ドゴール空港の近くに行くと、いろんなホテルがあります。ああいうビジネス客を羽田空港のホテル地区でも呼び寄せます。そして面白いエンターテイメント施設を羽田にも作るのです。お台場と横浜との間の距離がちょっと長ければ、羽田で一遊びして、横浜に行かなくても良いのです。ここで遊んで帰ったっていいとか、そういう選択の可能性を埋立地に増やしてゆきましょう。
 これらをくっつけて、東京の都市づくりの都市計画的な願望を入れるなら、世界にもない、エンターテイメントを目的とした自転車専用道を造ればと思っています。ディズニーランドから葛西の臨海公園を通って、新木場のほとりを通って、ビッグサイトからお台場に来ます。そこでひと休みして、レインボーブリッジを通って、京浜運河沿いに羽田まで来るという自転車専用道ができないでしょうか。遊びたい人達はディズニーランドを出てから、夕方自転車に乗って、このお台場あたりまで来て乗り捨ててもいいでしょう。逆があってもいいです。こういう提案というのは、そう簡単にパリもできないし、ロンドンもできないし、上海もできない。東京ならやれます。この自転車専用道は真っ平らですから、非常に楽です。
 こういうような新しいエンターテイメントがあるぞという話です。

 3番目は「現代文化─万華鏡的市街地の二重性」です。
 これはちょっと解釈が難しいんです。つまり文化とは何かということです。これまでの日本の文化というと、美術館、博物館、音楽ホール、文学館という文化施設で象徴されていました。つい4半世紀前までは文化の殿堂は上野の森でした。あそこで音楽は東京文化会館。美術館は東京都立の美術館と国立の西洋美術館。博物館は国立の博物館と科学館です。大体上野の森が現代の西洋から輸入された文化をギュッと固めていた場所です。しかし全部が官制です。その代表が上野の森の中にある東京芸術大学です。
 しかし、本来、文化は体制を反対するところから生まれるわけです。そうすると、昔のように、国立博物館に行って、鎧と甲冑ばかり見ているだけでは文化は語れません。特に現代文化は絵も音楽も民間の努力の中から生まれてきます。そこで確立された成果を国や地方政府が整理して展示したり表現したりしているわけです。だから、お役所の権力と、民間のチャレンジ精神が集まって、新しい文化を育てていくべきでしょう。そのためには草の根的なサブカルチャーが無数に生まれてこなければなりません。庶民に喜ばれる芸術も時代を経れば文化に昇華してゆきます。そのサブカルチャーの結晶でうまくいったものが、文化としてきちっとした所でみんなに見てもらえるようになります。そういうアクティビティーが音楽堂とか博物館・美術館ではなくて、普通の家とか倉庫でしょっちゅうやられているような沢山の場所、そこがこれから大事であると思うんです。
 もう1つ絵で言えば、画廊が大事です。音楽で言えば、ちょっとした粋なレストランの中で、小粋な現代音楽をやっているとか、ジャズをやっているとか、そういうお店も大事です。そういう店々を街の中に散りばめて展開していて、そこの散りばめた街の中にポコッと結晶としてある美術館がある。こういう街を東京でも作ってゆきたいものです。欧州の大都市の中にはそのような生々しい現代文化的な街があちこちにあります。アムステルダムのゴッホ美術館と周りの画廊の関係とか、コンセルトヘボウの音楽堂と周りの喫茶店の関係は全部そうなっているんです。ベルリンは最近ちょっと音楽ホールが孤立しましたけど、ウィーンもそうなっています。
 そういう場所をこれから作ろうと皆が思っていた矢先に、とんでもない再開発が起きました。いい悪いはあなた方の判断として、事実を紹介します。六本木に森ビルが造った六本木ヒルズという大再開発が姿を現したことです。
 その前に敬意を払って、黒川紀章氏が設計したの国立新美術館も六本木に近々出来ることを申し上げておかなければなりません。つまり六本木という余り文化になじみのなかった場所に、森ビルという民間企業のつくった美術館と、国の美術館の2つが一緒に出現してきたわけです。今までの上野ではないところにです。ああいう古めかしい所ではない、新しい場所にできたのです。国の新美術館は、話によると、貸しギャラリーだそうです。新美術館は国の絵をコレクターとして集めるのではなくて、これをギャラリーとして貸すということをやるそうです。これはなかなかいい試みです。
 さらに話によれば、旧防衛庁跡地にできる三井不動産のミッドタウンプロジェクトでも、面白い企画ができる美術館が出現してきそうです。つまり明治の官制文化の森上野に加えて、21世紀には民間が主導権をもつ文化の街が東京の山の手に出現してくるということです。
 去年の4月の終わりに六本木ヒルズがオープンしました。それから1年間の間に、これについてニューヨークタイムズが4回記事として取り上げたました。日本の識者は六本木ヒルズをけなしますが、ニューヨークタイムズが取り上げるということは、国際的に六本木ヒルズが注目を集めているからです。ニューヨークタイムズの記事はかなりクール、冷静です。いろいろの批判はあるにしても、これができたという事実は、国際的に知ってもらいたいということで、ニューヨークタイムズは記事にしたのでしょう。そういう記事が4回出ました。「東京がミクロコスモスを作った。東京の中に小さい新しい世界を作った。それが六本木ヒルズだ」とか、「Culture Galore in a Tokyo Tower」。この六本木ヒルズのタワーの中にカルチャーの新しい試みが広がってくるとか、右下は、「Tokyo's City Within a City」だから、これは相当持ち上げていますね。東京の街の中に新しい都市ができちゃった。スペインのビルバオ市にできた第2グッケンハイム美術館のところにあるクモの巣と同じやつを、六本木に持って来たからです。
 とにかくこれが出現したのです。これが朝日新聞とか読売新聞なら、「どうってことない。太鼓持ちだ」と無視するかもしれません。企業が新聞社に金を出して記事をつくらせたという話もありますが、さすがに、ニューヨークタイムズに森ビルが10万ドルやったってニューヨークタイムズは書かないですよ。ちょうちん持ち記事は書きません。記事は4回出ました。これは相当なものです。

 実は六本木には森ビルの六本木ヒルズや三井不動産のミッドタウン、そして国の新西洋美術館の他に、まだ文化的な空間があります。それは鳥居坂にある国際文化会館とその庭です。三井のミッドタウンでは森ビルとは対比的に木を沢山植えた庭を造ります。現代版の庭園文化を狙うのでしょう。森ビルの動の空間に対して三井不動産は静の空間を作るようです。
 「日本の庭園は素晴らしいですよ。ここへ来れば日本の庭園技術の極意が見られます。」こういう言い方をミッドタウンはするでしょう。それから、国際文化会館へ行かれた方はあの庭のすごさに感嘆されたはずです。これも文化です。あれは日本の庭園技術を結集して必死になって造り上げた成果です。ヨーロッパじゃ、ああいう庭は造れません。それと似たようなものを三井不動産はミッドタウンで造ろうとしています。年寄りで静かに昼寝したい人は三井不動産の方へ来い、若者でキャーキャー言いたければ森ビルへ来い。縄張りを整理しよう。これも現代文化の格好の話題です。
 これで一件落着です。現代文化は新しいものに頼るだけではなくて、伝統的な空間も必要としているということを言いたかったのです。実際、造園の世界で日本のランドスケーピングは、世界的に実力以上に評価されている傾向があります。イサム・ノグチが造ったという札幌等の公園についてもそういう感じをうけます。しかし実力以上であれ、何であれ、評価されているならそれは良いことです。その良い評価を強引に売ることを考えても良いでしょう。ちょうどいい場所が三井不動産の裏庭にあったということです。これは森ビルと対比的です。その場所が六本木にあったのです。
 さて、今いった国立新美術館に加えるに、森ビルの美術館と三井不動産の庭園、この3点セットのまわりには、いろんな店が散りばめられています。西麻布あたりにはこれからうまい飯屋だけではなくて、画廊だってできるでしょう。あの辺のレストランではちょっとした音楽も楽しめるようになるでしょう。西麻布の外苑西通りの街並みのこれからの変化は面白いです。そういうことをも含めて六本木に現代文化が展開するぞというのが、3の「現代文化」の話題です。

 4番目は「伝統─路地文化」について話をします。
 この伝統では、「おまえたちも総合的な街づくりをしてきている。」「おれたちもお前たちと同じに伝統を重んじて街づくりをしている。」「お互いがいいところを確かめ合おう」という説明を海外の専門家にしたいという狙いがあります。この話題の主たる対象は、路地です。路地は、都市に住む者の最後の隠れ家です。パリにも路地文化があります。パサージュってあるでしょう。アーケード街より全然品のいいガラス張りの屋根で覆われた小径です。下街にパサージュがずっと広がっています。僕はあそこに行って本当に驚きました。小粋でしゃれています。天蓋で、幅員がせいぜい3mぐらいの路地をうまく覆って、 雨でも歩ける商店街です。すごいことをパリの商人は考えついたものであるとびっくりしました。
 それだけではありません。シャンゼリゼからコンコルド広場へ向かって右が金持ちの人達の市街地です。そこにあるブランドショップへ日本の女の子が買いに行くでしょう。ジョルジュ・サンク地区です。ルイ・ヴィトンのような威張った店が沢山あります。ところが左手に行くと、すぐ庶民型の路地の街になります。シャンゼリゼ通りの北側の街です。路地の横っちょに入ると、小粋なホテルがあったり、安飯でうまいもんを食ったり。あそこは全部路地でできた街です。
 ロンドンも路地の街です。ロンドンタクシーは狭い路地を上手に駆け抜けてゆきます。ロンドンの中心部シティーとピカデリーサーカスの後ろのソーホー地区はほとんど路地の街です。その街の中に突然とても美しくて品の良い小さなショッピングのギャラリーがあったりします。路地がないのは、アメリカだけです。ただし古いボストンには質の高い住宅地の中に路地があります。中国だって路地でしょう。みんな路地なんですよ。都会の最後の隠れ場。最後にホッとするところです。ヨーロッパと中国と日本が連帯しようとすると、すぐ路地文化が主題になるでしょう。ただ、路地のテクスチャーが違います。石の路地、木の路地、緑の路地。やっぱり日本の路地は木の路地です。これは違うぞという美しい日本の路地をみんなに見せて、共通の伝統だけど、お互いの違いを認め合うことができれば素晴らしいです。日本へぜひ来て、日本独特の路地を見てもらいたいという観光キャンペーンをしてもよいでしょう。東京を主題にしていますから、大阪の法善寺横町には触れなくても、巣鴨のおばあさんの原宿は東京の山の手的路地でもあります。
 谷中(やなか)の路地、神楽坂の路地、赤坂の路地、東京の路地の性格と表情は欧米諸都市より多彩です。そして清潔です。日本の路地の特徴はその片隅に、水神さまとかお稲荷さんといった、日本神道の庶民の神様がまつられている点です。路地と宗教、そしてその清潔さは神道に結びつく、これは日本の路地の特色でしょう。パリの路地とも、ロンドンの路地とも、ローマの路地とも宗教性の面で違っていると思います。こういう路地が東京の中にいっぱいあることを是非、海外の知識階級の人達に体験し知ってもらいたいと思います。
 路地の変形かもしれないけど、浅草寺の門前町である浅草雷門の仲見世だって、路地といえば路地です。

 5番目は「産業─庶民型密集市街地から生まれるソフトとハード」についてです。
 海外の人達は東京の産業についてほとんど知りません。ですから、この産業については声を大きくして海外の人達に説明をし、知ってもらう必要があります。東京は産業技術の都市でもあるということを。世界中の都市は、昭和の初期までは、それぞれ特徴のある産業を持っていました。ところが、戦後先進諸国の大都市は産業をなくしてしまいました。東京には産業がありました。それはおもちゃや、靴、石鹸といった都市雑貨を中心とした軽工業でした。ニューヨークでは、東京オリンピックのころまで、縫製加工、下着を作るアパレル産業が重要でした。ユダヤの小金持ちがユダヤの貧乏人を使って、ニューヨークで下着を作っていたのです。パリもそうでした。だから、現在パリではオートクチュールが盛んなのです。
 東京はいろいろの種類の工業製品を作っていたので、その幾つかは時代の流れの中で生き残りました。ニューヨークやロンドンやベルリンといった欧米の大都市では、工業の種類が多くなかったので、20世紀後半にほとんどが消えてゆきました。ところが日本では、東京、大阪、名古屋、みんな独自の工業を今でも持っています。しかしこの工業には新旧両方があるということを外国の人達に説明したいのです。東京で古いのは「金型工業」です。大田区の糀谷周辺でいろいろな金型を、小さな工場で作っています。これは職人芸の極地です。噂によると、糀谷とか南武線沿線の金型を作る職人芸の工場がなければ、キヤノンもリコーも富士通も成り立たないという話があります。世界をリードする日本の大企業は、全部そこに金型発注をしているそうです。今、この金型技術は上海に売っています。こういうのが1つ。これは伝統的です。
 この大田区の糀谷周辺の金型工業は4半世紀以上ずっと続いています。東京の非常に腰の強い中小企業の産業です。それが今、年をとった職人のおやじさんが多くなり、若者が後を継がないという問題をおこしています。しかし全体としてはまだ元気に仕事を続けています。金型工業はしっかりと大田区に残っているんです。これを何とか、次の若い世代に引き継いでもらいたいのです。例えば、埼玉のものづくり大学みたいな研修所を幾つか作って、金型で頑張れと職人達を支援する必要があります。日本の誇る金型工業をつぶしてはいけません。他の国が競争できないこの技術を海外の人達に知ってもらう必要があります。

 もう1つは「アニメーション」です。アニメーションこそ、世界を日本が引っ張るソフトな技術です。これも海外の人達に知ってもらいたい産業です。アニメーションスタジオがどこに展開しているかということですが、一番多いのが中央線沿線と、代々木界隈。それから西武新宿線沿線。この辺が多いところです。杉並から中野、練馬に広がっています。目黒とか世田谷とか港区は少ないでしょう。都の西南部で少ないということは、慶応出の連中はアニメーションを作ってないということです。(笑) これに対して、早稲田の連中が作っています。なぜなら、早稲田は貧乏人が多いからです。彼らはアニメーションのアルバイターとして非常にいい人材なんです。西武新宿線というのは早稲田に行くしかしようがない鉄道です。だから、アニメーションは早稲田が支えている。慶応ではありません。ましてや東大なんてありゃしない。我が早稲田は、アニメーションで世界を牛耳っているのです。こういう話がアニメーションスタジオの分布図からできるわけです。(笑)
 では、アニメーション制作の実態はどうでしょうか。女の子が必死になって、けなげにアニメーションを作っています。慶応の女の子がやったって、おさまらないですね。早稲田の女の子だとぴったりです。連中が飯食いに行く高円寺の商店街は中央線でも有名な若者がたむろする街です。そして古着屋が多いことでも有名です。とにかく食費が安い庶民的な繁華街です。早稲田的ですね。こういう所で女の子の低賃金作業で世界に誇るアニメが作られています。
 まさに今、東京は何が売りか。1つは「金型」。これはじいさんが作っている「産業」。もう1つは、若い貧乏な女の子が支えている「アニメーション」。
 「この2つだ、東京は」って言ってやると、これも外国人には受けるんです。ニューヨークにはないでしょう。ロンドンにもパリにもこんな世界的な工業とか産業はありません。結構これで外国人に東京の魅力を説明することができます。
 これまではそうではありませんでした。東京の産業はと言うと、墨田区のおもちゃ工場とか、板橋区の精密機械と光学がありますとか、それから大田区の少し下町型の機械加工とか、こういう説明をしてもつまらないんです。だから、伊藤滋は国際人になって、こういうしゃべり方をして、外国の連中に東京はすごいと思わせるのです。

 6番目は「教育─東京は世界一の学生の街」です。
 教育なんて何だ、と思うかもしれません。東京都に存在している学生数について率直なところ国際比較をしていません。国際比較ができたら、皆さんにお見せしたいと思います。しかし本当のところ東京に集まっている大学って、べらぼうに多いんです。
 大学院生数と大学生数は全国で278万人います。そのうちの40%、112万人が南関東1都3県にいます。東京都がその約60%の67万人、東京区部でも43万人の院生と学生が在籍しています。だから、東京区部の人口は今800万人くらいです。そのうち大学生が44〜45万ですから、6%ぐらいの比率です。東京区部の中で44〜45万の学生がうごめいています。おそらくこれだけの院生学生を抱えている巨大都市は世界の中でも東京以外にはありえないでしょう。そして東京は、一見くたびれそうに思われていますが、実はこの院生と学生によって若々しく支えられているのです。巨大都市東京の区部人口800万人を常に若々しく支えているのは、これだけ膨大な学生が区部にいるからなのです。東京の大学は今、区部の中で新しい大学像を打ち出そうとしています。それは、社会情勢の変化の中で必要になってきた、法科大学院や情報や経営の大学院を都中心部に集中させようという動きです。これから、大学は大学院教育をどれだけ若者に売り込めるかによって、大学間の勝負が決まってきます。新しい大学院教育は確実に都心に回帰してきています。
 その方策として、幾つかの大学では大学の建物の超高層化につとめています。法政、明治、そして早稲田、工学院と、その傾向は強まってきています。建物の超高層化によって、学生・院生の都心回帰を早めようというわけです。実際、これまで造られてきた郊外の大学キャンパスは交通の便が悪く、学生も教員もそれらのキャンパスに愛着をもてない大学が数多くなってきました。志望者全員が大学に入学できるようになった時代、大学の打つ手は当然、魅力ある都心部に教育施設、そして学生を移すことでした。そしてそれが今始まりつつあるのです。超高層けしからぬ、超高層マンションけしからぬ、超高層市街地になったら、東京はどうなるんですかという意見がありますが、その中に大学の超高層化も入れて議論してほしいものです。これからは多分、電機大学だって理科大だって、超高層を建てるでしょう。早稲田も今造っています。大学院大学を。理工学部だって、絶対超高層造ります。現在は超高層の研究棟が不適格建築で困ってますが。
 繰り返します。都心における大学施設の超高層化は、これまで外側に拡散していた大学キャンパスをもう一回街の中に集めないと、これからの大学産業で勝てないと、理事者が考え始めたからです。国立大学も独立法人化するから、この競争の中に入ってくるわけです。ですから区部の大学に在籍する院生と学生の数は現在の45万人くらいから50万、60万に増えてゆくでしょう。これだけの若者集積が、世界の変化をすぐ感じ取るアンテナ機能が研ぎ澄まされた東京の中にあるのです。ですから東京はその膨大な学生数によって、ハードとソフト両面の産業分野において素晴らしいクリエイティブな力を発揮していると思われます。さきほど述べたアニメーション産業はその一例です。情報処理産業もそうでしょう。
 実際には数が多くても今時の大学生は全く能力がないから使い物にならないと言われる人もいます。しかし、数が多いということは確率的にいえば素晴らしい学生が相当量そこに存在しているということも確かです。量が質を変えてゆく事象が東京の大学教育でおきるかもしれません。
 これが6番目。だから、教育は重要なんです。東京を世界に売り込むのに教育は大事です。特に大学教育で世界に東京を売り込めということです。

 ところが、「IMDによる大学の国際評価」という調査があります。大学がどう評価されているか。世界の51カ国と8地方の59経済圏で大学を格付けした調査です。(台湾は経済圏です)例えば、わが国の東京・大阪それぞれの地域の一流企業の社長さん方に、東京の大学、慶応大学とか早稲田大学そして大阪の大学について評価をしてくれと言って、スコアリングをお願いしたのです。その結果を世界中の都市について集計してみました。繰り返します。外国人が東京の大学を評価したのではありません。自ら早稲田を卒業した、慶応を卒業した、東大を卒業した日本人の社長さんたちが、後輩について評価したのです。そうすると、何と、日本は59位で最下位。ひどいでしょう。日本の企業は何と厳しいことでしょうか。
 愛国心の高いところは高いんです。シンガポールなんて世界中と戦っていますから、シンガポールの経営者はシンガポールの大学を4位に評価しています。アメリカもナショナリズムの固まりですから、6位でしょう。意外と中国は冷静で50位。客観的評価もこんなもんだと思うんですが、日本はひどいですよ、59位。
 これをどう解釈したらいいか。もしかするとこの人たちは、慶応大学や法政や中央大学の教育内容を冷静に分析・評価したのかもしれません。あんなもん使いもんにならない。だから、企業教育で徹底的にしごかないとだめだと考えたのでしょう。企業教育は1番だけど、大学教育は59位だと、こういう評価をしているということです。
 この日本の評価をつきつけられますと、さっき東京の大学はすごいぞと言ったことと、随分距離があります。実態としては日本の大学教育はまだお粗末だと思います。しかし、企業だってその企業内教育は自己中心的です。企業自身が「卒業さえすればいいよ、採ってやるよ」でしょう。あれ、良くないんです。企業の連中も、入りたいという学生がいた時には、「おまえ、卒業してから来い。ちゃんと卒業した証書と成績を見せろ。評価は誰がやったか先生の名前を書いて来い」。そうしないと、日本の大学教育はだめです。これは非常に皮肉な結果です。

 7番目は「住宅─超高層住宅都市の出現」について述べてみます。「超高層住宅都市」は上海だけではなくて、東京でも今起きつつあるという話です。これはあんまり面白くない。面白くないけど、説明をいたします。
 東京の平成12年の国勢調査。今から4年前の国調によると、1戸建てが、東京特別区の中で30%あります。そして木賃、2階の長屋、(セキスイハウスとか、ダイワハウスとか造っている安い長屋住宅です。)これらが2割近くあります。それからあとは3階建て以上の通常のコンクリートマンションです。これらが50%あります。つまり、1戸建ては東京全体で3分の1しかないということです。ただ、集合住宅が多いと言っても、依然として2階以下の木賃長屋は2割ぐらいあることは注目しておくべきです。木賃長屋と戸建て住宅は、住んでいる人間が似ていますね。1戸建ての軒先に木賃長屋を造るというのはよくあるでしょう。杉並区を例にとると、杉並では、さすがに住宅地ですから、戸建ては多い。3階建て以上が少ない。3階建て以上の普通のコンクリートマンションが杉並では34%です。ただし、セキスイとかダイワとか、ああいう貸しアパートが3割です。戸建ては30%で区部の平均と同じです。
 言いたいことは、東京では住宅は戸建てが多いと言っていたけれども、23区全体で見ると、集合住宅が多いのです。この傾向がこれからますます大きくなります。集合住宅でどういうふうに暮らすかということの方が戸建住宅での暮らし方よりもずっと重要になってきたということです。
 次に超高層建物が東京都の中でどれくらいあるかについて説明をいたします。申し上げたいことは、超高層建物の全建築物数に対する比率は依然として低いということです。森ビルとか三井不動産、三菱地所、住友不動産も、大京も、最近超高層マンションを造っています。オフィスビルも、超高層が多くなってきました。要するに、超高層建築物がどんどん増えています。一体、超高層建築物は23区の建築敷地の中でどれくらいの比率を占めているのか。これを森記念財団の山下理事に調べてもらいました。超高層建築物といっても、20階ぐらいの建物と30階以上の建物ではその存在感が違います。30階以上になると、目立つでしょう。高さが100m以上になります。20階ぐらいだと、大体60〜70m。昔の高層の集合住宅の高さは13階とか14階でした。これらは構造計算上一番安く鉄筋コンクリートで造ることが出来たからです。消防設備も特別な質のものを必要としませんでした。14階で、44〜45mです。高さ60m以上の事務所もマンションも超高層建物としましょう。23区内の建築敷地の中で、60m以上の建物が建っている敷地の割合は、23区全体でいいますと、まだ2.5%です。それから、山手線の中、文京区、渋谷区、品川区、台東区とか、都心8区で9%。都心の4区、新宿、千代田、中央、港、これが大体マンハッタン島と同じなんです。そこでは13%になります。
 いっぱい超高層建築物が建ったと言っても、面積で言うと、そんなに建っていません。新聞とか学校の先生、週刊誌で嫌われ者の100m以上の超高層建築物を調べてみました。敷地面積が0.5ヘクタール以上、70m角の大きさの敷地に建つ、100m以上、つまり30階以上の建築物を全部ひろってみました。そうすると、23区の中で1.1%、さっき言った山手線の中の各区、都心8区で4%。都心4区でも、こうなると7%くらいです。これらの超高層建築物は、建つと目線をさえぎるのでいっぱい建ったように見えますけど、上から航空写真で高い建物を撮ろうとすると、それほどまだ建っていないのです。
 もう1つ面白いデータがあります。東京で建っている建物の平均階数についてです。東京で建っている建物は2階のものもあるし、3階のものもあるし、50階のものもあります。東京の全部の建物棟数に、それぞれの建物の階数を全部足し合わせていって、全部の棟数で割りますね、そうすると平均階数がでます。これも東京都のデータで、今23区では2.5から2.6です。それから、23区の平均容積率は160%です。ですから、東京では依然として低層密集住宅市街地が多いのです。
 しかし限られた都心8区ぐらいの所では高層化が進んでいます。東京は平均階数でみられるように、低層住宅市街地です。しかし極めて限定的な場所で、超高層住宅が建っています。そして1戸建住宅は減っているのです。このことは、2階建長屋がまだ沢山建てられているということです。あるいは、3〜4階建てのマンションが沢山建てられているのかもしれません。ですから、東京におけるマンションの超高層建築化は都心部に限られていて、一般の住宅市街地では起きていないのです。それではこの超高層マンションはどこに建てられているのでしょうか。
 それはどこかと言うと、やっぱり埋立地です。特に港区、品川区、そして中央区、江東区の埋立地です。港区で言うと港南地区、品川は東品川、この地域にこれから猛烈な勢いで超高層住宅ができてます。それらのでき上がった最後の姿は、上海バンドの奥に展開されている、超高層マンションが何千と並んでいる風景です。これから10年ぐらい経つと、東京の海から見える景観は上海と似たような形になってきます。だけど、決定的に違うのは、日本の超高層住宅の質の方がべらぼうに高いのです。耐震性があります。超高層であるがゆえの安全性と安心性を確保した集合住宅が江東区、港区、品川区のウォーターフロントに集積してくる、こういう話です。しかしそれ以外の23区の市街地では低層のマンションが圧倒的に増えてきます。この点でこれからの東京では戸建住宅は極めて少なくなってきます。
 これで7つの話をしました。ここで申し上げたいことは、僕は通常の東京紹介をしなかったということです。そうでなくて、前の人が言ったような視点ではなくて、常に新しい視点、新しい批判する立場、あるいは新しくいいものを発見する立場、それを加えて話すように務めてきました。そうでないと、外国の人は、話の相手になってくれないんです。そのことを考えて、意図的に新しい東京の話題を選んだわけです。
 ということで、帰朝報告といたします。
 (拍手)



フリーディスカッション

諸隈(司会)
 
どうもありがとうございます。
 それでは、ご質問お願いいたします。
伊藤
 少し時間があるので、これまで話が出来なかった話題を幾つか紹介します。まず 「東京鉄道ネットワーク」です。
 マンハッタンと東京都心4区を対象として、駅から500mのサークルで、東京の地下鉄とマンハッタンの地下鉄を覆ってみました。つまり駅勢圏が対象市街地の何割を覆うのかというチェックです。全部のマンハッタン島の面積と、東京都心4区の面積でそれぞれの地下鉄の駅勢圏面積を割りますと、その比率が、マンハッタン70%、都心4区は80%あるんです。だから、マンハッタンよりも東京の地下鉄の方が使いやすい。ただし、エレベーター、エスカレーターをもっと造ってくれなければ困ります。大江戸線みたいなことをやってては困るんです。しかし東京と地下鉄は使いやすいんです。
 これだけ至便な鉄道があるのに、皆さんどうして有効に使わないのでしょうか。有効に使うと言うことは、もっと都心に人を集めるということです。特に夜間人口をもっと増やしてよいのです。そういう余地が地下鉄の沿線にはいっぱいあると言うことです。何もそれは超高層マンションでなくてよいのです。建物階数は、せいぜい6〜7階でよいのです。この階数は「国立市裁判」でちょん切る下の階数です。それぐらいでいい。そういうマンションを都心4区とかその周辺の都心8区でつくれば、もっともっと東京は変わっていくし、新しいエネルギーがそこから生まれていきます。地下鉄はすごい。そういうことを1つ追加いたします。
 それから2番目に羽田空港の第4滑走路について申し上げます。ご存じの通り、羽田の滑走路は4本になります。
 それで空港の発着能力がどれくらい増えるのでしょうか。世界的な空港の発着能力、年間の発着回数も比較しますと、今一番高いのがパリのシャルル・ドゴールで年間51万回の発着回数です。次がロンドン、ヒースローで年間46万回。フランクフルトが年間45万回。羽田は現在年間約30万回です。これはニューヨークのジョン・F・ケネディエアポートと匹敵します。第4滑走路が出来ますと、年間40万回になるんです。
 羽田の場合、1回の発着に使用される航空機が欧米より大型であるため、乗客数が多くなります。例えばロンドンとかフランクフルトではボーイング767クラスが多用されます。ところが、羽田ではボーイング777とか、747が多く使われます。1機当たりのお客さんを運ぶ量が多いのです。だから、発着能力に1回当たりのお客さんを運ぶ数をかけますと、羽田空港はパリを超える乗降客数を取り扱えることになります。第4滑走路ができることは、東京の発展にとって大きな魅力です。だからこそ、羽田でソウル発とか台北発とか上海発といったアジア系のお客さんをもっともっと取り扱わなければならないのです。
 アジアの人口は全部足すと31億5000万人です。日本が大体1億です。もっともバングラデシュは最貧国で、パキスタンも経済力はまだまだ低いです。東南アジアの外国人で来そうなのは、マレーシアとかシンガポールやタイそしてベトナムも期待できます。大韓民国と北鮮も来日してくれます。何にも増して重要なのが中国の13億人とインドの10億人です。インドは日本が観光の相手国として呼び込むのに非常に重要な国です。インド人に対しては、不思議なことに日本人は昔からあまり嫌悪感がないんです。これは神戸が代表的です。神戸の都市経済を大正の終わりから昭和の初期にしっかりさせたのはインド人と聞いています。インド人の貿易商が神戸を育てた。
 言いたいことは、インドと中国、これが狙いめです。今アジアの人口は31億人、この量はすごいです。アジア人をもっと日本に呼び込んでみましょう。
 3番目に東京23区の人口密度について申し上げます。東京駅を中心にして、半径5kmと10kmで円をかいてみます。そうすると、東京駅を中心にして5km半径の所の人口密度はヘクタール92人です。ところが、ニューヨークでは258人。パリでは200人です。これでは、都心から半径5kmのところでは東京は居住空間をむだに使っています。半径5kmと言えば東京駅から直線で中野か新宿までの距離です。ところが半径5kmから10kmの間、つまり新宿から西荻窪、あるいは亀戸から市川くらいの間の人口密度は136人です。それに対応するニューヨーク市街地の人口密度は89人、パリでは61人です。ですから、考え方をきりかえれば、多摩や埼玉といった郊外居住の人達を都心に集めて住んでもらわなくてよいのです。この5kmから10kmの間の市街地の人達に0kmから5kmの間に移り住んでもらえばよいのです。東京駅を中心にした15km圏の中の住民に、東京駅からの半径5キロ圏の所に人を移り住んでもらえばそれでよいのです。ほかの都市や隣接県に迷惑をかけない人口再編成というのはできるのではないかということです。その時にどうなるかというと、世田谷や杉並の人口が減るということです。これらの区では農地や平地林が増えるかもしれません。例えば吉祥寺から杉並に移り住み、杉並の人が文京区に移り住む。あるいは大田区の人が目黒区に人が移り住む。大田区には町田から人が来る。そういう動きを考えるのです。一種の人口のフィルタリング、しみ込み現象です。こういうことを意図的に起こしていった方がいいんじゃないかなという気がしております。こんなところでおしまいにしましょう。(拍手)

與謝野
 
1つだけ質問させて頂いてよろしいでしょうか。レジメでは、4番目の「伝統」の路地文化の他に宗教と言う語があります。この宗教というのは例の地蔵盆とか、わが国特有の精神風土などをさしておられるのでしょうか。
伊藤
 宗教と言っても、僕たち日本人、宗教心が薄いと思います。キリスト教のような一神教になかなかなじめません。そういう意味ではキリスト教であろうと、回教であろうと、あるいはユダヤのシナゴグであろうと、どんな教会を作っても、私たちはそれらを毛嫌いする気持ちは持ってないわけです。それから神道も仏教と同じようにうやまいます。路地尊という神様にはいろいろな神様をまつります。仏教だっていろんなお寺がありますし、神道だっていろんな神様がいます。自然の中に神をみるのは日本人の特性でしょう。だから、あらゆる宗教の“ヤシロ”と組織を東京に持ち込んできても、それほどの抵抗感はないと思います。東京へ来れば何でもある、路地にも、街中にも神様、仏様がいてよいのが日本ですから。ただこれからは自然とか環境を大事にする時代になると、水の神、林の神、作物の神を大事にするという風習が街の中でも起きてくればよいと思います。これらは庶民の神です。その点で仏教よりも神道は面白いと思います。路地ひとつひとつに小さな守り神がおかれているという風習や情景は好ましいものです。文化と神様との接点があってもよいと思います。キリスト文明は明らかに神による文化を創りだしていますから、この考えは神道や仏教にもあると思います。
 2番目は、よくある話なんです。巣鴨です。おばあちゃんの原宿。あれはおびんずる様の頭をなでると痛みがとれるというわけです。庶民が一番求めている即物的ご利益のある仏様です。巣鴨みたいな仏さんや地蔵さんがほかの街にも欲しいと思います。フィクションでもいいから。何故ならばそれをやらないと客は来ない。あのスタイルはものすごく平和的です。あそこに行って頭をなでれば、がんになったときに痛くないというんだったら、私も一生懸命行きたくなります。
 だから、近代的、先端的な東京の中に、世俗的で庶民的で土俗的な日本特有の宗教が散りばめられているというのは、これもまた欧米の世界にない現象ではありませんか。似た宗教として、中国には道教がありますが。
與謝野
 どうもありがとうございました。
 本日は、新鮮な切り口での東京の都市を再評価される「元気の出るお話」をして頂き、大変に印象深くまた新鮮な感銘をもってお聞きすることが出来まして大変に勉強になりました。改めまして厚く御礼申し上げます。(拍手)
 それではこれにて第199回フォーラムを終了させて頂きます。ありがとうございました。(拍手)
 

 


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