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第205回都市経営フォーラム

都市再生の新しい課題

講師:伊藤 滋  氏

早稲田大学特命教授

日付:2005年1月20日(木)
場所:日中友好会館

1.“全国都市再生:稚内から石垣まで”その後

2.“生活まちづくり”の展開

3.教育と都市

4.防災問題

5.環境都市づくり

 

フリーディスカッション



 

 

 

 

 

與謝野
 
それでは、時間となりましたので、ただいまから本年初回で第205回目のフォーラムを開催させていただきたいと存じます。本年も充実したフォーラムにすべく努める所存でございますので、皆様におかれましては、引き続きのご指導、ご鞭撻のほどをよろしくお願い申し上げます。
 さて、本日のフォーラムは年頭でございますので、早稲田大学特命教授の伊藤滋先生にご講演をお願い致しております。本日の講演の内容、梗概については、「都市再生の新しい課題」と題してのご講演をして頂けるとお聞きしております。
それでは前置きはこれぐらいにいたしまして、早速に伊藤先生、お願いいたします。

伊藤
 
僕も学校の教師なので、今日の都市経営フォーラム205回には、まじめに「都市計画と専門家」「まちづくりと市民」「都市再生と官僚」について話そうとしていたんです。ところが、この話にはそれなりの準備をしなければいけないかったのに、この10日ほど、津波の話と阪神・淡路の話があって、神戸につきっ切りで全く勉強をしてなかったものですから、急遽、話題を時局放談会に変えました。(笑)
 それが皆様のお手元にある資料4枚です。これは深みはないですけれども、話としては面白い。深みのある方は7月にやりますので、ご勘弁いただくということで、今日は、時局放談会をさせていただきます。
 一番初めの「都市再生の新しい課題 2004.11 伊藤滋」と書いてある資料は、11月10日に総理とお会いまして、約40〜50分、話をしました。その時のメモです。つまり、総理に話した内容はこの6項目ということになります。
 次の「高齢者の市街地居住の促進」。これは1月12日に官房長官と会って40〜50分話しましたが、その時に、このことを言いたい、ということで作ったメモです。
 次の提言の資料は、総理に渡して、ちょっと面白いことが起きました。
 その後の図面は、後でランク分けを申し上げますが、その時の裏づけ資料です。
 一応この4枚を使ってお話をします。それに関連した資料がこちらにありますが、これは余りにも多すぎてお渡ししませんが、これを使って話をさせていただきます。
 「都市再生」は、古くて新しい、新しくて古い、お馴染みの言葉になって、余り刺激的ではないんですが、総理と会ったのが1年ぶりぐらいだったので、まずは少し機嫌よくなってもらおうということで、意図的にこういう編集方針にしました。



1.“全国都市再生:稚内から石垣まで”その後


 「全国都市再生:稚内から石垣まで」。これは総理が議会で、最初にそもそも論を話す時に、必ず「稚内から石垣まで」ということを言うわけでございます。ご存じのとおり、この「稚内から石垣まで」の内容はいろいろございますが、その中の1つの官僚用語で、「都市再生モデル調査」というのがございます。これには10億円の金がつきました。総理と私との話で10億円のモデル調査が動いたのです。平成15年度には応募が約650もございまして、そのうちから171を選びました。競争倍率約4倍。平成16年も同じことをやりまして、応募が約550から600で、162を選びました。これは競争倍率3.5倍。国が10分の10の補助を市町村、NPOにいたします。1件当たりが600万円ぐらいです。10億円を171で割った金額が助成金になります。この都市再生モデル調査をこの2年間やっております。今年も多分やると思います。
 こうして選ばれた所へは、総理のお声がかりという名のもとに、お金が配られました。そして、次の段階では、都市再生モデル調査をさらに世の中に広めて、その中から新しい地方都市づくりを考えてもらおうということで、役所が、15年度の171件から10都市選びました。選び方は学者の基準で選ばず、役人の常識で選んでいますので、その時の社会情勢の変化を反映してます。この選定基準は如何に、という学問的問いを言われますと困るんですが、おおよそ噂の高い所、面白い所、特定の官僚や政治家が絶対これを入れろ、という所が少しということで選ばれています。
 そして、2004年春から夏にかけて実地調査を実施しまして、私は10のうち、8つの市町村に行きました。スタートは4月28日、終わりが8月9日ですから、3カ月ぐらいの間に見てまいりました。
 実態としては10の町全部がいいわけじゃございませんけれども、そこの中ですばらしいものが幾つか出てきておりました。それを改めて総理に報告し、できたら、総理のメルマガででもこういうのをご紹介する。場合によっては、このプロジェクトの中から、この調査をやってよかったところに、その次の段階として、まちづくり交付金がもらいやすくするという流れにすれば、これは政治の流れに乗るだろうということをお話しました。
 何回も言いますけれども、この都市調査の対象は、人口が5万から30万ぐらいです。その10の都市は、都市再生本部のメルマガに出ていますが、福島、佐原、飯田、北海道の伊達、金沢、下関、洲本、石垣、そして臼杵、県として愛知県。
 僕の腹は、愛知県なんてのはあんまり必要ない。人口が5万から10万ぐらいのいろいろと悪戦苦闘している都市を選び、その中でそれなりの成果がある所には、まちづくり交付金か何か、なるべく補助率の高いお金を国からやってもいいんじゃないか。こういう都市は、幾らあがいてもよくならないんです。経済もよくならない。TMO(タウン・マネージメント・オーガニゼーション=まちづくりの第3セクター)でうまくいくぞなんて言っても、いかない。だから、いかない町はもう割り切って、国費を入れるということを、やったらいいじゃないか。自民党で、民主党じゃないんだから、そうしないと、次の選挙で自民党は負けるぞと。人口3万から5万の都市の実態は、自民党の牙城なんですよ。
 そういう思いもありまして、この調査をやったところ、気がついたら、私は完璧に自民党の御用学者だったなと、(笑)内心ちょっと小恥ずかしい気もしましたが、しかし、現場を見て大変すばらしかったと思います。
 では、今言った10の都市の中で、伊藤はどこが一番良かったか。これは単に都市の形を見るだけではなくて、都市の形を過去10年、15年の間につくり上げてきた地元の皆様方のお顔を拝見し、その発言を聞き、さらに重要なのは市長さん。市長さんがどういう方か、そういうことも伺ってみると、これはいいなという町が自ずから出てくるわけです。
 洲本という町があります。洲本は、この間の台風23号で、例の兵庫県の上の方の鞄を作っている町、豊岡に勝るとも劣らないぐらい水害でやられちゃった町です。僕が行った時は台風の前でしたから、市長さんは元気。この洲本という町は何をやっているかと言いますと、大変面白かった。要するに、国の連中は、厚労省でも国交省でも総務省でも、勝手に政治家が何か言い、学者が何か言うと、その実態を調査いたしますと言うんですね。調査いたしますというのは、電通に頼むとか博報堂に頼むということじゃなくて、県を通して市町村にいくわけです。市町村で調査票をもらってそれを作る。タダですよ。それが、次々と来るわけです。中央が調査については全く無責任で、勝手にやっている。その付けが人口3万とか5万の市役所に全部来て、その調査にあずかる人間が専従で3人か5人いる。そうじゃないと、調査に答えられない。人件費の2割は、この調査公害だそうです。調査公害で食われている。こういうような調査やっていていいんですか、と言うことなんです。国の中の調査ということに対しては、農林省調査なんてひどいもんですね。厚生労働省もそうです。
 国は経費節減ならば、末端市町村にしわ寄せになるような調査をいい加減にするのではなくて、きちっと横でつながって、使える調査は使うということをするだけで、市町村の人件費の2割は1割になると言うんです。1割とは、きっと数千万円だと思うんです。5000万とか、億かもしれませんね。1億か2億あれば何ができるかと言いますと、例えば、500メートルぐらいの中心市街地のアーケード街を撤去して、あるいはきれいなアーケード街に造り変えて、美しい中心商店街を造ることができるんだそうです。
 これは倉敷の助役が言っていました。倉敷は美しい町です。例えば大原美術館。しかし、あそこの美しい町に行く前に、駅から斜め左に暗いアーケード街があるのを、ご存じだと思います。その向こうに、アーケード街が約500メートル続いている。そのアーケードがちょっとしゃれているんです。非常におかしいしゃれっ気なんですね。だれがデザインしたかわからない。そこから向こうに行くと、アーケードがなくて本当にいい町になっています。3段階。一番の問題は、駅からしゃれたアーケード街に行くアプローチのアーケードが余りにも大正チックと言うんですか、昭和20年代チックそのままなので、行く気にならない。そこを通らなければ、アーケード街の中のお店に来るお客さんはいない。何とかしなきゃいけないけど、倉敷の市町村財政では、2億とか3億のお金は出ません。
 今の洲本の市長ではございませんけれど、国が指定統計以外のいい加減な統計をバラバラやっているのをちょっとまとめるだけで人件費が、例えば2億浮くのなら、それで町の真ん中の市町村のアーケードをきれいにする方がよっぽど役に立つ。こういう統計類というのは国に上げれば上げるほど生臭さがなくなるんです。それの解釈は中央の役人がやりますから、全然迫力がない。そういうことを戦後ずっとやっている。
 それをきちっと指摘したのが洲本の市長です。その洲本の市長は、今度の選挙には出ないと言っていました。「嫌だ。ほとほとくたびれた」。こういう話は面白いですね。こういうことは全国都市再生で取り上げたいと思っています。
 そういう面白い市長もいますが、一番よかった市は臼杵です。この臼杵市は、やっぱり市長でもっていますね。人口が3万5000から10万ぐらいの市がよくなるかどうかというのは、かなりの点で市長の裁量、市長の器量だということがまずわかりました。臼杵の市長というのは面白い市長で、大阪セメントがバブルの最中に新日鉄に納める石灰石のセメント工場を、臼杵の横の津久見かどこか、港の埋立地に造ろうとしたのに大反対してつぶしちゃったという、言ってみれば環境保護を若い頃やっていた薬屋のおやじが市長になったんです。
 その市長が言ったのは、「皆さん、町をよくするのは、市民参加とか、そういうことではない。そんなことやったって限界がある。一番重要なのは、市役所のプロフェッショナル、吏員の根性をたたき直すことだ」。これは、僕よくわかるんです。市役所の吏員の根性。そして、「根性を4年、5年かかってたたき直して、たたき直った後には、4年前、5年前の市役所の吏員とは違う、そういう職員が育つ。そこまで責任持って人材教育やるのが市長の務めです」と言うんです。
 それには厳しい人事をする。なるべく若い人。もう年寄りは要らないと言うんです。若い人が十分に能力を発揮できるように、ポストをきちっと作って、そういうところに上げていく。陣頭指揮で便所掃除からやる。これはよくある話です。ベンチャーの社長もよく言います。まず組織を立て直すには、陣頭指揮で便所掃除。市長も便所掃除をやりました。市民参加とか、そういうカッコいいことを言うんじゃなくて、市長の1期は市役所の内部組織の建て直しを徹底してきちっとやる。
 市役所の職員を直すというのは大変なこと。これを彼はやった。その結果、頭をうまく使って中央の金を引きずり出して臼杵の町は大変いい町になった。
 だから、今回の10都市を見た時思ったのは、僕は建築屋ですから、町並みはきれいですねとか、いい公会堂がありますねとか、公園はすばらしいですねとか、そういうことでその町を評価するのは1つの側面しか見ていないということになる。そういう美しい公園とか美しい町並み、有料のすばらしい老人ホームがあった時に、それは一体どういうふうにして誰が造ったか、そこにどういう葛藤があったかということをちゃんと調べることが、都市再生という言葉の第2ステップだなと思いました。
 これは話がちょっとオーバーですが、通常の建築設計の人は、こういうことは設計しませんが、都市計画の連中ならできます。都市計画の職分というのは、こういうところにあったかと思いました。建築設計とは違うマーケットを、おれたちは、こういう小さい町のまちづくりでも探すことができる。まさにソフトに徹することかな、ということです。
 私は、40年前ボストンで勉強していたことがあります。その時をふと思い出したんですね。当時、MIT、ハーバードの都市計画というのは、図面も描いていましたけれども、そうではなくて、そこで教えているのは、住民との対応関係なんです。住民とのネゴシエーション。これを一体どういうふうに進めていったらいいか、という一種のケースメソッドをずっとやっていたんです。
 アメリカは、ご存じのようにマイノリティーの社会です。いろんなマイノリティーがいます。マイノリティー社会をどういうふうに合意社会につくり上げていくかということが、まさに都市計画のやることで、その重要な道具が住宅なんです。道路を造り、公園を造り、特養を造ることじゃないんです。住宅。どういう住宅を誰の金で、どういう質の金で、その地域社会に持ってくるか。それを引き受けたマイノリティーグループが、それの代償として、例えば港湾建設に賛成するとか、高速道路を入れるとか、そういう話です。一種のソーシャルミティゲーションです。それをやるリーダーが、都市計画のプロフェッショナルだということなんです。
 ようやく日本も、30年ぐらい経ってそういうふうになってきたかなと思いながら、この臼杵の市長と話をしていました。
 時間が進んでいるので、次の話題にいきたいと思います。
 平成15年度事業中心に10都市を選定、実地調査もやった、さらにソフト・ハードについての支援策の検討が必要なので、やりました。
 最後に、総理にこういうお願いをしたんです。このプロジェクトは、総理がやろうと言った「稚内から石垣まで」という話から始まって、それに総理と私の合意で10億円つけた。それに年平均150件が選ばれますが、応募だけなら600と考えてください。それが平成15年から17年までの3年で3倍の1800です。それから、都市再生本部スタートの時に、民間あるいは都市から知恵を出してくれ、おもしろい知恵があったら採用するよ、と金もないのに言って、市町村をペテンにかけたんです。それで、何かお金をくれると言って応募してきたのが600ぐらいあるんです。都市再生モデル調査の1800に、それを足すと2400です。総理に言ったのは、市民参加とか市町村のやりたいことのサンプルが2400あります。これをベースにして、私は、8月7日に日比谷公会堂で都市再生市民運動決起集会をやる。そう決めちゃったんです。
 僕は歳をとっていますから、何でも、決起集会は日比谷公会堂でやると思い込んでいるんです。(笑)官房長官は60なんで「いや、伊藤さん、日比谷公会堂より東京フォーラムの方がよっぽどカッコいいんじゃないか」と言います。十幾つ違うと価値観が違う。私はやっぱり日比谷公会堂なんです。日比谷公会堂の定員は2000人ですから、ここに2400集める。政府の金は一文も使わない、役所の力も1つも助けを借りない決起集会をやる。ちょっとそこにトリックがあるんですけど、一応そう言い切りまして、「ぜひ総理出てください」と言いました。そうしたら、総理はかなりおっちょこちょいで、その場の雰囲気にすぐ乗るんです。「お、行くか」と、「行くか」の「か」の時に秘書官がちょっとシグナルを出して、「か」が聞こえなかった。「行く」まで言ったので、出そうなんです。
 官房長官に会った時に、一番お願いしたいこととして、「総理を8月7日に日比谷公会堂に来させてください」と言いました。だから、ぜひ皆さん期待していてください。よかったら見物に来てください。総理が出るか出ないか。出ていたら、僕の力量は相当なものだと評価してもらう。(笑)
 ついでに、8月7日って、面白い日で、「瓦の日」なんだそうです。後でちょっと言いますけれども、全国陶器瓦工業組合というのがある。札幌からずっとあって、今の理事長は名古屋の人なんです。その人が来まして、いろんな話をしました。そしたら、「8月7日、草の根全国まちづくり市民決起集会を日比谷公会堂でやるんなら、日比谷公会堂の前に空き地がある。あそこで瓦工業組合が「瓦の日」だから、美しい瓦の住宅をモデルとして造ります」と言うんです。これは非常にいいことだということになりました。この話は全部役人抜きでやっているんです。8月7日、是非お忘れなくお願いしたい。
 レジュメの1は、総理に「あんたのやったことは非常にうまくいっていて、こんなに良くなったから、すごいんですよ。だから、それにもう一声乗っかってください」ということ。おだての言葉です。本音は、2、3、4、5です。6は学者チックです。



2.“生活まちづくり”の展開

  「“生活まちづくり”の展開」。これが一番言いたかったことです。何でこれを入れたかというと、これは前からわかっているんですけど、再三再四この10都市の現場を見れば、中心市街地の問題というのはこういうことかとわかってくるんです。
 この問題に対しては、TMOというのを4、5年前からやっていますけど、うまくいかないというのもよく起きている話。地方都市では、はっきりと政府がこういうことをやるんだと言明してもらいたい。それは何かというと、高齢者、元気なお年寄りが町の中に住むような町の整備をしようということです。少し金がかかってもいい。今は都市再生機構に吸収されましたが、昔の地域振興整備公団に都市部門がありました。あの地域振興整備公団というのは、本来こういうことをやるべき組織だったのに、ニュータウンばっかり造って大赤字になった。長岡のニュータウンもそうです。今度、地震でバラックができたのが長岡のニュータウン。けがの功名なんですけど。
 そんなことやって売れない土地を幾ら造ったってしようがない。だから、都市再生機構の地方都市整備部門、昔の地域振興公団にこの高齢者の市街地居住促進をやってもらいたい。腹をくくって、少し国費を出してもいい。要するに居住だから、民間の金を使うべきだなんて言っていますけど、再開発には、実はとんでもないからくりがあるんです。
 皆さんの中で、優良建築物等整備事業にかかわっている方がおられますよね。優建がどうしてあれだけ評判がいいかっておわかりでしょうね。補助率が高いからです。ただ、それだけです。優良建築物って言ったって、でき上がったものは絶対優良じゃないですよ。(笑)よくご存じのとおり、ただ、2軒を一緒にする合築だけの話です。名前がいいんで、さもいいことをしているように思うけど、実態は余りよくない。ただ、補助率がいい。だから、皆さんが優建、優建って言って、あれを使うんです。敷地を大きくする通常の市街地再開発なんていうのは全然お呼びがない。
 そういう悪口を言いますが、優建のような事例もあるから、中心市街地の商店街でもいいから、全部住宅地にしてしまえ。中心商店街じゃない、中心住宅街にする。アーケード街のところに住宅があってもいい。それぐらいの頭の切り替えで、お年寄りに住んでもらう。
 なぜならば、ある福祉の女性が言っています。「21世紀はおばあちゃんの時代です」。おじいちゃんじゃないんです。ですから、ここの皆様方、関係ないんです。(笑)おばあちゃんの9割は、元気なおばあちゃん。確かにそうです。65歳ぐらいまでは元気ですよ。まだ色気もある。普通の生活を継続している。健康について物すごく気を使って、大変きちっとした生活をしている。それから働きたい。一番重要なのは、おばあちゃん方は、この頃集まって旅行に行きます。交流したい。要するに、高齢のおばあちゃんというのは、魅力的な都市に住む人たちなんです。旦那が死んじゃったから元気そのものですよ。(笑)本当にそうなんです。そういうおばあちゃんたちに商店街でも、町の中に住んでもらいたい。
 病気の時どうするかというと、これは厚生労働省の方のうまい金を使います。僕は非常にしゃくに障るんですが、この前もここで申し上げましたけれども、医者が医療法人とは別にして財団の有料の介護施設を造っているんです。残念ですが、それしかないから、奥さんなんかが理事長になってもらって、別な介護の医療法人、それにケアハウスを中心商店街に造ってもらう。ケアハウスのエクステンションに、喫茶店を造ってもらう。ケアハウスのエクステンションに、セブン−イレブンを造ってもらう。ケアハウスの横っちょに3階建てのおばあちゃん長屋がある。こういう、はっきりした空間イメージで、住宅局の金とか厚生労働省の金を入れてくれ。こういうことを、総理にはっきりと言いました。
 官房長官には少しわかるだろうというので、次の8項目を言いました。これは当たり前のことなんです。ただ、ちょっと味つけが違います。これはまず「高齢者と若者を中心市街地に住まわせる上で、次のようなイメージが考えられる。(地方の概ね人口10万〜20万人程度の都市について)」と書いてありますが、人口10万を5万に変えてください。
 1番目。「中心商店街を含む衰退地区を、住宅集中地区に位置づける」。要するに、四角く線で囲んじゃう。なぜかというと、役人というのは必ず、どこかの地区を指定すると、それは問題が深刻なところだから、そこに特別の補助金をやる、補助率を上げるということをやるんですよ。一般化するとできないので、どこかきちっと決める。住宅集中地区には当然、中心商店街が入っています。中心商店街とその裏側の通りも入っています。そこには、低層、3階から4階の長屋型住宅を造る。ここに元気な高齢者に住んでもらう。「そういうふうにできるの」って、聞きますと、できるようですね。いろいろの住宅施策が出てきていまして、高齢者が、そういうところに住みたいというと、そういうことを優遇するような補助金の出し方とか融資の仕方があるようです。
 それから、もっと言うと、有料老人ホームを長屋型3、4階で造ることができるわけです。ただ、問題は、厚生労働省の有料老人ホームに対する補助は建物補助です。土地を買う金はついていません。しかし、建物の補助についてはべらぼうに、想像できないぐらいの、えこひいきの金がついている。多分8割か9割の利子がゼロの金を貸してくれるんです。ひどいもんです。それで、医者の奥さんが儲けているんじゃないかと僕は想像するんです。
 地主の共同建て替え、というのは再開発じゃごさいません。昔の耐火建築促進法のように、何とか街区として、底地は底地のまま全部置いておいておく。上の間口がバラバラになりますけど、それでいいと。昔、不燃建築促進法も、ありましたね。それは間口は皆さんお持ちの土地のままだから、2間間口も9尺間口も3間間口もそのままで3階を建てちゃうんです。3階、2階の造った部分は共同利用していい。1階はきちっと仕切りがしてあっても、2階、3階は場合によっては廊下でつなげていい。AさんとBさんの2階部分を借りて、そこにコレクティブハウスを造るというやり方もありますね。コレクティブハウスを造りたい人、運営したい人にそこを貸せばいい。そういう新しいことをやっていく。土地の権利関係はそのまま保全する。
 それから、「住宅集中地区に、福祉サイドと住宅サイドが共同して高齢者用の各種養護・介護施設の集中を誘導する。(含、有料老人ホーム)」。有料老人ホームは、あんまりいい金が入っていないんですけど、それでも直接の公的施策の介護施設へ入るより、まず第1段階は民営の有料老人ホームへ行きますから、これはいいだろうということです。
 僕の希望は、とにかく住宅集中地区の中には、なるべく民間主導で、高齢者向け優良賃貸住宅制度などの住宅局系の金を使い、それに厚生省がつき合いながら、いろいろな介護施設をまとめて造ってもらいたいということです。
 4番目。「集中地区内に若者及び一時滞在者用の中高層集合住宅を建設する(長屋型住宅の余剰容積も転用する)」。町の中の中高層のマンションどうするんだ。人口が5万ぐらいの町でも13階とか15階のマンションがたくさん建ち始めました。しかし、これは大問題があります。僕もわかるんですけど、高層のマンションにお年寄りが入って、鉄の扉を閉めちゃうと出たくないんですよ。特に、13階とか15階の北に向いた吹きっさらしの片廊下、あんなところで立ち話をする気には全然ならない。みんな扉を閉めちゃう。出てこない。だから、お年寄りは、こういうところには絶対住まわせない。3階、4階以下にしか住まわせないということを、条例か何かで決めてしまう。65歳以上は住んじゃいけないが、そのかわり若者は幾らでも住んでいい。
 若者が住むという条件ならば、ここはちょっと都市計画的なやり方ですが、容積移転制度を小さい地方都市でやったっていいわけです。中心商業地域は、容積400%ですね。400%のところに今の長屋型の4階建てなんていったら、200%使えば十分できます。100%から150%余るでしょう。余ったのを、商店街の400%の後ろには、必ず300%の近隣商業とか住居地域があります。地方都市で資力があれば、そこへ容積移転して、300%を450%にして高層を造ればいいんですよ。地方都市ではmそういうものを造ってもすぐお客さんが来ないから、みんなけちで投資しない。だけど、投資してくれる人がいたら、やったっていいじゃないか。一度チャレンジしてみよう。容積移転というのは、丸の内だけの話じゃない。地方都市だってやる気になればできないことないんじゃないかという問題提起です。
 それから、5番目。「集中地区内の空き学校等大規模空地に、高齢者のケア施設と保育所を併設する」。これは、実は総理が言ったことなんです。僕がずっと説明していましたら、総理、目をつぶりながら、「うん、つまんないな、こんな話」って聞いていたんですが、突然「おうっ」と言って、「地方都市の真ん中に空き小学校がある。空き小学校の中に年寄りの休憩施設と保育所と一緒に合築すればいいじゃないか」と言ったんです。実は、こういう議論は前からどこでもやっているんですけど、総理は知らない。だから、おれが初めて思いついた、すごいだろうという顔をしてしゃべるわけです。これは利用しない手はないんです。総理が言った、総理が言ったって、これを国交省あたりでふれ回ったら、これは、役人は、やらざるを得ないです。
 今、何が起きたか。11月に総理が、「空き学校にお年寄りの休憩施設と孫の保育所と一緒に造るのは面白いな」と言ったら、役人は「すごいですね、総理、総理」と言う。僕もやりました。(笑)そして、制度が動き出すんですよ。
 今、地方中心都市の空き小学校とか空き工場、空き出張所等の高度利用をどうするか。そこに、どれだけお年寄りに必要な施設を入れたらいいかということについて、まじめに都市再生本部を中心にして動き出したんです。これはうそ偽りございません。僕がちゃんと現場で確かめました。5番目は、総理版市街地居住方式。次に行ったら、そういう言い方をすると、彼、喜びますよ。
 6番目。「郊外に立地している大学と病院の高齢者用検診施設を、集中地区内に移す」。これも当たり前の話ですが、今1つ大きい流れは、郊外に立地している大学が、地方都市では大学競争でつぶれる寸前です。これを、もう一回中心市街地に移したい。ところが、設備投資を郊外でばっちりやっていますから、もうこれ以上お金がないんですね。どうしたらいいか。空いている部屋を教室にすればいいんです。昔八百屋をやっていた1階の商店なら間口が4間で奥行きが4間で16坪ぐらいあるでしょう。そういうところを教室にすればいいんです。セミナールームとして、安く貸せばいいんです。先生の研究室とか、もっともらしい音楽ホールは郊外にあってもいいけど、授業は町中でやろう。ヨーロッパ社会の大学では、ほとんど町中で授業しています。特に地方都市では。町中に校舎があって、町中に教室があって、町中に先生が住んで、町中に学生の下宿もある。それがどういうわけか、日本だけ郊外に持っていっちゃったんです。
 病院も外側に行きましたけど、病院は移せないですね。しようがないから、高齢者用の検診施設を町中にきちっと造ってください。
 それから、集中地区の中には、いろんな都市がありますが、例えば戦災復興区画整理をやっているような、金沢の東口とか富山の駅の北側なんかで、がらがらになったところは、お年寄りも来ることだから、歩道を拡幅して自転車道を設けるようにする。日本の都市では、自転車道ができないできないと言っているけど、お年寄りが来るところを歩道と自転車道を優先して造る、こういうようなことを、このメモを使って官房長官に言いました。
 以上の対策を企画し、実行するために、「求めに応じ」と書きました。都市再生本部のある企画官が、「先生、こういうふうに書かないとだめです」と言うんです。「『以上の対策を企画し実行するために、都市再生機構のコーディネート機能等を活用する』というと、国が上からかさにかかって市町村に都市再生機構の機能を使えというふうに読み取られる。これは大変まずいことである。三位一体の今日、地方分権。だから、『求めに応じて』と、求められたらしますよ、というふうに書いておけ」と言うので、ここは書き直しました。
 だけど、実態は、弱小市町村の企画課で、「都市再生本部に来てくれ」なんて気のきいたことをいう所があるかなというのが、僕の頭の片隅にある。今日は、「そうじゃないぞ。市町村はこんなに立派に変わっているんだ。伊藤の思っているのは40年前の昔話だ」という話がありましたら、是非聞かせてもらいたいんです。
 僕が今持っている危機感は、国が、これだけいろんなことをどんどん出していく。県庁は、ある程度の粒がそろっていますから、如才なくこなす。県庁の持っている非常にまずい点は、如才なくこなすということで、一般化し過ぎて、具体的なところを市にやらせる、ということをやらないんです。県庁官僚というのは、絶対そういうことをしない。如才なくこなして、さもわかりやすいようなマニュアルにして、市町村に下ろすでしょう。市町村は、600の市役所の内400ぐらいがそれにこたえてレスポンスを出してくるのでしょうか。そういう市役所の企画課とか建設課の職員像が浮かび上がってくるかというと、なかなか浮かび上がってこない。
 今まで、上を向いて、バーッと段取って、こういう紙にこういうふうに書けば補助金が来る、という紙ばっかりが余りにもたくさん来ていたんです。それを指示したのが県庁なんです。「こういうふうに書くと補助金来るぞ、出せよ。おまえ得するよ」農林省が一番それをやっていた。
 こういうことが、都市再生の新しい課題の1番目。「高齢者の市街地居住の促進」です。


 2番目。「防犯活動の一層の推進」。これが、僕は総理に一番言いたかったんです。生活安全基本法(仮称)の制定をする。これは「防犯に対する住民の関心の急激な高まりを反映して、全国の地方自治体において、生活安全条例制定の動きが加速しており──これは既に加速しています──既に大半の自治体が条例を制定している。条例の名称及び内容は多様であるが、市区町村、住民、事業者等の責務を定め、安全計画を策定し、推進協議会を設置することを規定している。特に、一部の条例においては、……」とありますね。こういうような条例を作る動きがとして出てきました。
 以上のような、自治体のとして動く動向を踏まえて、それならば条例に、より全国の立場から、国民的な使命を与えよう。それには生活安全の基本法を作ろう。基本法というのは、国も地方自治体も市民も、全部にかかわる心構えをきちっと言うわけです。警察だけに任せない。生活安全基本法を制定して、そこの中で、国はこういう役割をする、地方自治体はこういう役割をする、市民はこういう役割をする、お互いの役割分担、責務を明確にする。そして、この市民と地方自治体と国が一体となって防犯、犯罪阻止をやる。それほどまでに日本の治安は悪くなったんです。
 これも、ここで何回も言いましたけれども、この頃、市町村の市民に、「今市町村に一番やってもらいたいことは何ですか」とアンケート出すと、1番目が防犯です。例えば、福岡市でアンケートやりましたら、1万票か5000票か知りませんが、それのトップは防犯です。防犯はいろんなのがあります。やくざの防犯。これは歴史的ですね。どうして日本はやくざ社会なんでしょうか。非常におかしい。実は私たちはやくざを警察に任せっ切りなんです。市民がやくざにかかわることは、おっかないからやりません。それでいいのか。基本法ができれば、そういうことまで問われます。 
 それから、子どもの教育です。これは学校教育に深くかかわります。これだけ日本の犯罪が悪くなった時、それぞれの教育委員会が、これは自分のことだと考えているか。教育委員会は考えてないんですよ。「犯罪、あれは別です。泥棒や痴漢が来た時に、聖域の校舎を守るためにガードマンを置いて扉を閉める」と言うんですが、問題は校舎の中にあるんです。小学生が一体犯罪に対してどういう倫理観、規律観を持っているか。小学生や中学生同士が、放課後に、どういうふうにして非常におかしいものを弄んでいるか。内側にある。それをやっぱり、ちゃんとしなきゃいけない。
 それから、厚生労働省の麻薬、法務省の外国人犯罪。あらゆる省庁にわたる話です。警察だけには任せられない。ですから、これは全国的な緊急措置として、多省庁にまたがる問題として、防犯を素材にして新しい国づくりをやらないと、大変おかしいことになる。
 それの資料として、後ろに地図があります。東京の例です。これは平成14年と平成5年の、東京都区の中の刑法犯認知件数です。これがどれくらい増えたか減ったか。
 面白いんです。文京区と荒川区は変化しないんです。減ったところがある。23区には0.5から0.75倍に減ったところはありませんが、75%から1倍までに減ったところは、大田区、世田谷区、中野区、墨田区、葛飾区、北区です。一番変化したのは1.25から1.5倍。10年間で5割以上上がった。それが港区、渋谷区、目黒区、杉並区、豊島区、江戸川区です。これを、どう解釈をするか。
 例えば、0.75倍から1倍、変化なしまでを見ますと、2つに分かれるんです。大田区、世田谷区は、大体金持ちが住んでいます。金持ちが住んでいて、お屋敷が多い。あるいは戸建て住宅地でも、それなりに庭が付いている。フェンスもきちっとしている。ですから、何となく近寄りがたい雰囲気で、町がずっとできています。泥棒も、どこか1軒だけ金持ちの家が田んぼの中にあれば狙いますけど、大金持ちがズラッと並んでフェンスがしっかりしていて、何となく総合警備かセコムのアラームがいっぱいついていそうなところというのはちょっと気後れするんです。だから、所得の高い世田谷区、大田区は泥棒は近寄らない。
 もう1つ。中野区、北区、墨田区、葛飾区、荒川区、これは一体何だ。基本的に町工場とか小さい商店街が、まだぐちゃぐちゃにあるんです。路地があって、2階には年とったおばあさんが、暇だから窓から外を覗いているかもしれない。大体、おばあさんは、することがないですから。好奇心だけ物すごくあって、いじわるできるチャンスないかと狙って、2階から覗いている、というのがいっぱいいるんです。ヨーロッパなんかでもいっぱいいます。そういうおばあさんが、いっぱいいるのが墨田区、北区。葛飾区の南半分。京成立石とか、堀切もそうだったかな。中野区は、皆さんご存じのとおり、山の手の下町です。中野区は貧乏人が多い。だから、教育委員会が公選とかやるんですよ。ちょっと面白いのは、中野区の南側。北側は割合金持ちがいるんですけど、南側はぐちゃぐちゃの町。昼間でも、住宅地で仕事をしている人がいっぱいいます。通勤しない。夜中でも人が動いている。これは泥棒はやばい。
 いい町は2通りに分かれます。1つは、お品のいいお金持ちの町、もう1つは、ぐちゃぐちゃな町。
 やられた町は、江戸川と豊島と杉並と渋谷と目黒と港区。江戸川はちょっと別ですが、港区は外人さんが多くて、べらぼうに金を持っているやつが多い。世田谷、大田区を飛び抜けて金持ちが多い。泥棒でも専業、分化していて、それぞれ専門がある。中国人の泥棒なんかそうですね。シリンダー錠を、がちゃんとやって大金持ちのマンションに入って金をとる、という知的泥棒は、港区、渋谷区を狙います。
 目黒区と豊島区と杉並区は具体的にいうと、豊島は東池袋、目黒区は祐天寺の辺を思い出してください。杉並区は高円寺、阿佐ヶ谷。あの辺には、木賃アパート街や小さいマンションがいっぱいあるんです。そこに若いお兄ちゃん、お姉ちゃんがいっぱい住んでいる。若いお兄ちゃん、お姉ちゃんは、大体家にいない。だから、空き巣には一番いいんです。お兄ちゃん、お姉ちゃんは、ほとんどつき合いがないでしょう。墨田区とか北区のように、いじわるばあさんもあんまりいない。だから、これは幾らでも仕事ができる。
 江戸川区は、外人さんが集中的に江戸川の南に住み込み始めました。そして、典型的に、ここはマンションだけででき上がっている町です。江戸川区は、伝統的に犯罪発生率が高いところです。札つきです。
 言いたいことは、こういうことです。今、東京の町はどうなんだ。いろんな言い方がありますが、変な町並みを造ると、資産形成上、例えば、5000万円で敷地30坪で建坪25坪の建て売りの戸建てを買ったけど、10年ぐらい経ったら、町がますます細分化してしまって、その建物は3500万円でしか売れなくなっちゃった、ということが起きるんじゃないかという話があります。人口も減ることだし。
 例えば、田園調布だって、昔は1反区画でした。道路をとって250坪ぐらいの敷地だったんですね。僕は、田園調布なんか、一度も行ったことないんですけど、行った人の話だと、あそこだって70坪、80坪になった。昔の250坪の時の資産価値は坪500万でしたが、敷地を区画しちゃうと、格落ちの住宅が建つから、坪当たり単価が400万で100万減っちゃったよとか、そういう話があるわけですよ。
 犯罪問題が全く隠れていた時には、そういうことは頭の中で考えられたかもしれません。でも、これだけ犯罪が深刻になってきますと、犯罪に関する地図が、区じゃなくて、例えば、久我山5丁目、4丁目、3丁目ごとに、できてきます。もうできています。そうすると、そういう情報を持った信託銀行などは、建物を仲介で売る時には町並みがどうとか、建物の質がどうとか、デザイナーがやったとかじゃなくて、そこでどれだけの犯罪が長いこと続いているかどうか重視します。これの方が、普通の奥様方にはアピールします。家を買う時のデシジョンというのは、大体中年の奥様方です。お父さんなんていうのは、金を出す時は役に立ちますけど、あんまり発言力がない。
 つまり、都市計画によって町が良くなったり悪くなったりするということよりも、犯罪の問題をこのまま放置するかしないかということで、極めて土地の評価が悪くなる所、良くなる所が出てくる。こういう恐ろしさが、今、ヒタヒタと目の前にぶら下がってきています。大変深刻なんです。
 国際的にも、こういう話は出てくるんです。今、実は日本の都市の評価は、2つの面から国際的に企業の格づけと同じようなことがやられるんではないか、と言われています。1つは防災、地震です。地震は、ミュンヘンの再保険会社の話が余りにも有名です。ミュンヘンの再保険会社が、全世界の主要都市を対象にして、そこで地震で建物が倒壊する危険性、氾濫で建物が浸水する危険性など、要するに自然災害を踏まえたエクスポージャー、つまり、自然災害のためにその都市がどれだけダメージを受けるか、というスコアを数値化して出しています。
 ニューヨークは数字が10か15ぐらい。東京は180。そうなると、東京に外資系の企業が立地して、どこかのオフィスビルに入ったという時に、その企業がお金を借りたいとスイス銀行に行くでしょう。スイス銀行は、その建物がつぶれたら営業ができなくなりますから、その企業が保険に入ることを勧めます。保険会社、例えば、東京海上にその外国系の企業が行くと、東京海上は「これぐらいの保険に入っておけばいいです」と言う。今度、東京海上は、ロイドとかミュンヘンに再保険に出す。ミュンヘンとかロイドの再保険会社は、つまり、再保険は大体外国ですから外国の保険会社が、「とんでもない。東京なんか出せませんよ。東京で地震起きる可能性高いから、国内の保険会社同士で資金を融通し合ってやってください」ということになる。これが1点です。
 それから、犯罪です。こういう話題が、これからの企業が全世界でどこに立地するか、という時の非常に重要な話題になってきます。

 先ほどの話で、高齢者福祉施設を小中学校に入れる、ということを総理が言ったので、早速官僚が動いて、官房長官に言ってくださいということで作ったメモがあります。それを官房長官に1月10日に話したんです。それが「廃校などとなった小中学校の高齢者福祉施設等への活用」。まず廃校となった小中学校を高齢者福祉施設に活用した事例が、平成4年から15年、10カ年で全国で70あった。少ないですね。10年間で70。1年間5つか6つしかない。だけど、やっています。高齢者福祉施設等への活用を可能とする制度的対応も措置済みです。だから、厚生労働省も住宅局も、これはかなりやっているということなんです。お年寄りが住みたいような共同住宅に、非常に金利の低いお金を融資しますとか、補助金をそこに出しますということを、やっているということです。地域再生計画の認定を受けた場合には、補助金の返還を要しない弾力的な運用も拡大している。平成16年度は21件、補助金の返還を要しない弾力的な運用をやった。例えば、東京都の杉並区の老人デイサービスセンターがあるとか、ちゃんと書いてある。総理が言うと、役人はすぐこういうことをやるんですね。
 さっきの犯罪の話は、先ほどの文章を総理に渡しましたら、「これは犯罪だな」と一言言いました。そしてそれをもう4年ぐらい総理とつき合っている秘書官に渡しました。この秘書官に渡すというのはどういうことかというと、各省庁にまたがって、各省庁におふれを出して、総理からこういう指示が出たから検討しろということです。私は、検討しろということが各省庁に広がることで、全国の犯罪撲滅のための国民運動を、今年、是非、政府は展開してもらいたいと思っています。また、日比谷公会堂に10月に集まって、総理に来てもらう。それを、国民運動にする。そういうふうに動くことを、私は、今期待しています。この秘書官は能力のある秘書官ですから、そういうことを今、やっているんじゃないかと思ったんですが、昨日、国家公安委員会の委員長、防災担当の大臣に「大臣、総理からのこういう話知っていますか」と聞いたら、「いや、まだ聞いてないな」と言っていました。役人は遅いなと、不信感があるんですけど、是非国民運動にしてもらいたい。
 3つ目。美しい都市。これは皆さんにお配りしていませんが、資料を作って総理に、伊藤滋を始め12名の年寄り、平均年齢は約67歳の相当年寄りが一団となって、「美しい景観を創る会」というのを作りましたと話しました。
 景観法の施行を機に、建築、土木、都市計画、造園、農村整備、地方自治等、各分野の専門家が結集し、美しい景観を創る会(代表伊藤滋、早稲田大学特命教授)を設立し、将来に向けて日本の景観を守り、育てる仕組みを再構築することを目指す。平成16年12月3日に、こういううたい文句で作りました。
 物事を決める人の頭には、こういう話は、シャープに入ってもらわないといけないものですから、私は総理には、それを意図的にやっています。本来、僕は穏やかな静かな人間なんですが、ただ、こういう時、ちょっと声を張り上げないと皆さん眠っちゃいますので、ちょうど今、眠い時間ですから、2つの宣言をすると言いました。1つは、日本は美しくないことを認める宣言をしよう。今まで、とかく大学の先生や絵描きさんや識者は、美しい町はこういう町があるじゃないか、美しい景観はこうあるじゃないかと一生懸命言っています。日本は美しいだろう。これじゃ、だめだ。美しくないというのを的確にしょっぴき上げて、これ、美しくないぞと、みんなに広める。それをやって、その後に美しくする、ということを国民運動にしようということです。
 この美しくする会は、1つ特徴がございまして、大変重要な特徴なんです。どういうメンバーが入っているかというと、建設コンサルタンツ協会の会長石井弓夫氏、土木です。楠本侑司農村開発企画委員会専務理事、農村計画。小倉善明日本建築家協会会長、建築。それから、都市緑化基金理事長平野侃三氏、造園。要するに、土木と建築と造園と、できるなら農村建築、農村景観、それぞれの縦割りの専門家が横に手をつないで、それぞれの牙城を守って、この会では「あ、よくやっています」というのは絶対やめよう。横に手をつないで、いいものはいい、悪いものは悪い。領域を越えて全部話し合いをしよう、ということなのです。
 専門家集団の日本で一番まずいのは、縦割りの中に閉じこもって、外側は関係ないと見ていること。これをやっているから、日本はよくならない。それを全部ぶち破って、手をつないで、悪いことは悪い、いいことはいいと言い合おう、ということなのです。
 早速、今度2月16日に経団連ホールでシンポジウムをやるんです。美しい景観を創るシンポジウム。そこでのハイライトは、パネルシンポジウムで、前の日本建築家協会の会長であった村尾成文氏、もとの日本設計の社長ですが、その人と、先ほど言った石井弓夫建設コンサルタンツ協会の会長が同じパネルに乗って、お互いに悪口を言い合う。橋の設計が悪いとか、超高層のあいつの設計は悪いとか、何だ、ああいうマンションを造りやがってとか、みんなはっきりと言ってもらおうじゃないか。それに伊藤滋も一枚加わる。
 それから、森林と農村にもやってもらう。森林と言って、国立公園だけ美しいというが、とんでもない。あの民間の杉、ヒノキの造林地をこんな状態にしておいていいのかと。これに対して日本人は全く無関心。情緒的には、新聞なんか時々出ますけど、何にもやっていない。あれをそのままにしながら、農村景観で農村に農業土木を通してべらぼうに金が流れているんです。農業土木の金で少しでも森林の伐採とか、そういうことをやってくれるだけで随分森林はよくなるんです。できないと言うけれど、できないのをだめもとでしゃべってもらおうじゃないか、ということです。
 それから、造園で言えば、都市計画公園といって、土地も買えないのに既存の都市公園法をもとにして、市街地の中で縄張っていますね。あんなこと、いつまでやっていていいんだ、一体これは、何のための都市公園緑地法なんだ、これは公園ギルドのための法律か。そういうこともはっきり言い合おうじゃないか、という相当激しい話なんです。
 これを今度やりますので、経団連会館においで下さい。メンバー12名の中で変わっているのは、彫刻家の新宮晋さん。有名な彫刻家です。それから女スターでは、石井幹子。光、照明専門家です。それから、榛村純一。森林と地方自治、掛川市長。僕はいろんな顔を持っています。ある顔の仲間なんです。中村英夫に良夫。良夫の方がアカデミックです。英夫はちょっと僕に似ている。こういう連中が入っていますから、相当なものです。
 誰の官房長官の時だったか忘れましたが、具体的に何かやろうということで、日経アーキテクチャーで、目黒雅叙園でシンポジウムをやりましたね。あの時、僕、ちょっと興奮してしゃべって、こんなに悪い景色を作っている日本人は何だ、ということを、具体的に言いました。あれにご出席の方はご存じだと思うけど、僕は十何枚写真を出した。みんなひどいから、ぶっつぶしましょうよ。これぐらいのこと、はっきりと言わないといけないんですよ。
 その時、駅前の1つの悪い例として宇都宮の駅前の写真を皆さんにお見せしました。何が悪いかというと、都市計画に基づく広場が悪いとか、そこに建っているビルが悪いんじゃなくて、ビルのガラスに張られている消費者金融の看板紙が悪い。あれがガラスに全部張ってあるんです。下がパチンコ屋、上が消費者金融。渋谷もそうです。ああいうものを許しておいていいんでしょうかね。これも撲滅すべきです。ガラスに紙を張らないで、昔の質屋のように、ひっそりとわからないように、(笑)マンションの階段ふちにそっと置いておくだけでいいんですよ。それだけで、宇都宮の駅前の格はぐっと上がる。何で日本人は、あんなに露出狂になったんでしょうね。
 それから、ゴルフ場の看板。高速道路を降りますと、どこでもそうです。料金所を出た交差点の目の前に、何とかカントリーゴルフとある。あれは何の意味があるんでしょうね。このごろ、車は全部GPS付きでしょう。ゴルフ場へ行くのは、GPSでみんな知っているんですよ。あれもひどい。
 それから、まだありますよ。差し旗。差し看板と言うんですか。伊豆とか鎌倉の方に行くと、普茶料理とか、あと何キロで焼肉、別荘ただいま分譲中、金曜の夜に道路縁に旗を差していくんです。日曜に行くと、旗がプラプラプラでしょう。ああいうことをいつまで許しているんですかね。これもつぶそう。つぶすのは幾つかあるんです。
 そういうことがありながら、僕は片っ方でこういうことを是非やってもらいたいということがあります。電線の地中化ってございましょう。ひどいところは正にひどいんですけど、電線の地中化を全部やると言っても、余りにも多いから大変なんです。だけど、美しい日本を創る時に、ちょっと考えましたら、こういう電線の地中化をやれば、美しいなと思うことがあるんです。
 例えば、砺波の山居村の写真がありますね。水を入れるとサーッと鏡のように面が光って、そこに山居村がある。その山居村の後ろに電柱が立っているんです。電柱といっても農村の電柱ですから、そんなに複雑な電柱じゃない。コンクリートの高い電柱でもないし、トランスがいっぱいついているわけでもない。あの電柱を取り払うだけで、電柱のない山居村の姿が出てくるんです。
 農村地域の美しい景観を維持するためには、人が余り住んでないところの電柱を取ってもらう。そうすることで日本の農村の美しさが創り出される。町の中の電柱を直すよりも、金だってそんなにかからないです。こういう頭を使うこともやってみたい。
 美しい景観は、身の周りにやることがいっぱいある。ブロック塀をなくすということは、防犯と景観と両方に役に立つし、防災にも役に立つ。これは、僕はしょっちゅう言う。仙台の地震の時、ブロック塀がぶっつぶれておばあちゃんが死んでしまったぞと。あのブロック塀はインチキブロック塀だった。ブロック塀に鉄筋を差すでしょう。お金を出したお父さんがブロック塀を見に来ると、鉄筋を上へ上へ上げて、鉄筋が入っているように見せる。でも実際のは鉄筋がとても短い。下は鉄筋が入ってない。だけど、見れば上に上がっているから、さも下が入っているように見えるんです。そういう悪いことをしたブロック塀が昭和の30年代から40年代には幾らでもある。それが、地震でやられたらガラ落ちですよ。おまけに、小さい路地なんかでブロック塀が倒れたら、おばあちゃんたちが逃げようとしたって、逃げられませんよ。
 ブロック塀の後ろ側は、泥棒が隠れるのにもってこいのところです。犯罪の実態調査をするとよくわかるんです。小さい敷地に立てられるブロック塀ほど、ブロック塀の後ろに泥棒が隠れます。だから、足立区の北千住の駅を降りた南側の、路地の横っちょにあるブロック塀なんて、泥棒が隠れるのに一番の場所です。
 それから、屋根を付けてない。とにかく日本の公共建築物は屋根を付けませんね。マンションも屋根を付けませんね。屋根を付ければ物すごくきれいになるのにと言って、そういうことを書いていたら、よくぞ、屋根施工組合のために伊藤は頑張ってくれた、ありがたいことだって、屋根屋が来たんです。(笑)なら、この際、美観も全国まちづくりもごちゃまぜにして、8月7日日比谷公会堂で手を打とうじゃないかと言ったら、打つというんですね。面白い見せ物が、夏できます。
 日経新聞12月4日に、こういうことが書いてあります。美しい景観を強硬派結成。来年2月には、東京都内で設立記念のシンポジウムを開いて、近くホームページを立ち上げ、醜い景観100選を毎年選ぶ、ということにしました。(笑)もう十幾つ選びました。これは営業妨害だって企業から言ってくるのを待っています。裁判やります。裁判をやればアナウンスメント効果は絶対大きいです。裁判の数が多くなればなるほど、見たくなくても新聞の三面記事に出ますから、そうか、美しい景観頑張っているな、ぐらいの関心を持っていただければ少しは良くなってくるんですね。
 だから、伏線は相手を刺激する、民事裁判を受けて立つ、ただ、金がない。(笑)弁護士をどう雇うか。これが今難問中の難問なんですけど、幸いに安くやってくれる弁護士もいないわけじゃなさそうなので、そろそろ頼もうかと、そういうことです。
 これで、「“生活まちづくり”の展開」は終わりました。



3.教育と都市

 3は、さっきの高齢者市街地居住と同じなんですが、いろんな問題があります。要するに、「大学都市」とか「キャンパスタウン」という言葉はあるけど、実際は造られてはいないということです。
 ヨーロッパでもアメリカでも、成熟したキャンパスタウンに行きますと、本当に市街地と大学が融合しています。大学は、ちょっとお金があると、をまず買います。を買って、例えば人口問題研究所とかアフリカ文化研究所とか、小さい研究所に入ってもらいます。それがだんだん大きくなってくると、そこをある段階でまとめて団地化して、美術学部とか美術館を作っていくんです。その隣には普通の町の住宅がある。そういうのが町と大学が融合していくステップなんです。アメリカのどこの町でもあります。アマハーストだってそういうところがあるし、僕が行ったメイン州の奥の町もそういう町でした。
 ところが、日本の大学の周りというのは、大体昔から、ご存じのように、市街化調整区域の中に適用除外というので造っていますから、周りに住宅なんてないんです。荒っぽい工場団地とか倉庫団地と大学キャンパスがつながっている。大学が非人間的。これは、一度町の中に戻さなきゃいけない。僕は学校の教師ですから、心から思っています。先生も生徒も理事者も、中途半端な郊外のキャンパスはもう嫌だ、早く町の中の大学に戻りたいと思っている。それを積極的に動かしてないというのは行政であり、それから無関心な市民社会なんです。
 具体的に言うと、東大柏キャンパスと慶応大学湘南藤沢キャンパス、SFCです。私は、両方とも卒業しています。それから、既成市街地の中では早稲田大学の理工学部、戸山キャンパス。これも、現在、私が学校にいます。これらは全部私のお世話になった大学で、それをもっと国から面倒見てもらおうと、文句をつけているんです。
 特に、再開発と大学というのは、明治大学でも日大でも理科大でもポツポツやり始めました。あれは、もっと積極的にやっていく必要がある。例えば、早稲田大学の理工学部ですと、あそこに何があるかというと、かの悪名高き戸山公園というのがあります。戸山公園は、何十年とホームレスの牙城です。戸山公園のメンテナンスをどれぐらいやっているか、というとひどいものです。女子学習院大学の南側が戸山公園に接していますが、そういう所は真っ暗で、痴漢が来てもおかしくない。ホームレスの固まりがある、ひどい所です。ここに公園管理の方は、おられますか。僕はいじわるじいさんで、あそこによく行って、まずいところを全部見て歩いているんですけど、ひどいんですよ。それを、都市計画公園と縄張っているんですよ。あれは、一度外してもらいたい。むしろ、民間の集合住宅用地にして、オープンな所を緑地にするということをやった方が、ずっといい公園風になります。
 それから、戸山の理工学部の南側に、かの有名な都営住宅があるでしょう。西戸山の都営住宅。あれ、どうするんですか。あれも、あのままだと、個別に建て替えです。個別に建て替えると、ひどい状況になります。僕たちは、今早稲田の大学院生と一緒になって、西戸山団地の個別建て替えを、組織的にきちっと、理想的な隣棟間隔で整理します、というのをやっています。そうすると、自然に今の戸山公園分ぐらいの緑地が、あの西戸山住宅団地、高層住宅団地、出てくるんですよ。そういう再開発をやらなきゃいけない。だれも関心を持ってない。区長も関心を持ってない。都庁も関心を持ってない。
 一体、役人とか区長とか、誰のためにいるか。選挙区民のためにいるけど、学校のためとか、そこで働いている人のことを1つも思わない。ひどいもんです。最後は、「金がない、金がない」。
 もっとも僕も、金がないところからかなりの金をかっぱらって、久我山の駅の橋上駅舎化をしました。ところが、1億円ぐらいで済んでいるかと思ったら、どうも3億ぐらい使っているらしいんです。ちょっと申しわけないと思っています。なぜなら、久我山というのは杉並区の端っこなんですよ。区長から見れば、選挙に立つためには、杉並区の中で駅を直す。西荻や、丸ノ内線の南阿佐ヶ谷を直せば、杉並区の真ん中ですから、選挙用になりますけど、久我山を直すというのは、三鷹市と世田谷区のためにサービスするようなものです。(笑)申しわけないと思っています。
 「教育と都市」、ここで僕は、相当ふらちなことを考えました。これは、これからは忘れてください。郊外に行った大学を誰が買うんだ。買う人がいないとお金出てきません。一番常識的に考えるのは研究所です。例えば製薬会社の研究所にする。この頃はバイオですから、研究所。しかし、これは限度がありますね。おまけに中途半端な大学のような校舎を、そのまま使って研究所にするより、全く新しい所に研究所を作った方がずっと効率いいでしょう。基本的には、あんまり期待できない。
 それから、流通団地。今、流通機能が新しくなって流通施設が必要になってきました。冷凍倉庫と物を作る工場みたいのが合体して、こちらから小麦粉を入れちゃうと、気がついたらラーメンになって出てくる、なんていうのが流通施設なんです。だけど、それもやっぱり大学を使うというふうにはならない。いろいろ考えた結果、私はとんでもないことを考えた。刑務所。(笑)
 要するに、若いやつをまとめて教育するのは、大学も刑務所も同じだと思ったんです。(笑)矯正施設。大学も若い者を矯正しているわけですよ。今は、野放しと言っていますけど。いろんな矯正施設があります。刑務所だけじゃなくて、少年鑑別所から外国人の再教育施設。要するに、嫌だからなるべく目をそむけたいと思っている、こういう矯正施設を増やさなきゃいけない。それに対して我々は、ちょうど公害のごみ処理工場のようにしか見ていないんですよ。どこかに置かなきゃいけない。
 もし、山の頂上に大学があって、周辺の集落が山の下にあるとすれば、山の上の大学は、ヨーロッパの修道院のような形にデザインして刑務所にするというのは、デザイン的にもおもしろいかな。あるいは、中国人を集めて日本文化をきちっとソフトに教育する、という場所にしたっていいでしょう。再教育ですよ。
 僕は、もっとおもしろいことを考えました。みんなに喜ばれ、そして誰もがその立地に反対しない刑務所の立地はある。山の中の大学よりもっといい所。それは、工業専用地域の岸壁の海に近い所。そこに刑務所を造ればいいんですよ。ヨーロッパに行って、観光船に乗って島めぐりをすると、島の中に修道院があるでしょう。あれ、刑務所ですよ。だから、工業専用地域の船から見て、一番近い海っぺりに修道院のようなデザインの刑務所を造ればいいんですよ。
 なぜか。工業専用地域は住居施設は造れません。ただ、刑務所は刑務官の宿舎が必要です。ですから、建築基準法の何条かにありますね、特例として造っても良いというのが。工業専用地域にあった使い物にならない倉庫とか鉄骨資材を置いている所とか、セメントを置いている所、そういう所に刑務所を造るというなら、これは1企業が対応しますから、土地の売り買いも楽だ。例えば、某セメント会社が持っていた石灰石置き場の倉庫の所に小菅刑務所の第2刑務所を造る。それから、浦安の後ろの市川の工業専用岸壁、ああいう所に造ってもいい。面白いでしょう。ビジネスになりますよ。
 それぐらい新しい時代に対応する土地利用を考えてみる必要があるかなと思いました。



4.防災問題

 それから、「防災問題」。これは、余りにもホットだったもので、総理には言いませんでした。
 防災問題の「耐災型まちづくりの基本戦略」。これはいろいろある中で、トコトン言いますと、2つあるんです。地震が起きた時、すぐ何をするかということと、地震が起きた時に、あることが効果を発揮するということです。即時的、カンフル型と東洋漢方型の2つ。1つは井戸を掘って欲しい。水です。実は40年前、昭和30年代は、皆さん井戸を掘りました。掘って掘って掘りまくって、東京ゼロメーター地域になりました。工場まで掘った。地下水位が、べらぼうに下がりました。しかし、それから、工場等何とか規制法で、特に企業は、井戸が掘れなくなったんですね。
 何が起きたかというと、地下水位がガァーッと上がってきています。一番の大問題は、地下鉄13号線。池袋から渋谷までのトンネルに水がジャブジャブ出てくる。これをどういうふうに処理しているかというと、下水道に流している。下水道に流して、下水道料金払っているというんです。ばかみたいなことをやっている。さすがの役人もあきれ果てて、下水道に流さないで、13号線から出てくる水を、もう一度昔の神田川の支流の支流みたいな所に流して、自然の小さい川をつくろうじゃないか、という非常にロマンチックなことを言っています。
 
上野の駅がよく言われています。ホームの下に鉄の塊を置いて、上野の駅のコンクリートの船が上に上がるのを抑えているんだそうです。これは7、8年前からそうだという話聞きました。東京駅もそうだそうです。
 だから、もう一回コミュニティ井戸をみんなで掘りたい。僕の家は、2つ井戸を持っています。これは威張って書きました。1つは電動モーターつき、1つは手押し用です。いよいよ電気が止まった時には、僕が手押しのところに行ってガチャンガチャンやれば、少なくとも周りの500軒ぐらいの人は水で助かると思うんです。1つの井戸で500軒で、23区1000万人(500万軒)とすると、幾らですか、1万個。1万井戸を掘ればいい。ただ、むやみに使わないで、これはコミュニティ井戸だから大事に使う。おれの井戸だっていうんじゃなくて、みんなが管理する。ちょうど昔の、農村社会であったでしょう。結(ゆい)のようにして、みんなで井戸を管理する。井戸端会議もそこで成り立つ。
 どこへ造るか。保育所があるでしょう。老人ホームがあるでしょう。セブン−イレブンがあるでしょう。それから郵便局があるでしょう。幾らでもあるんですよ。銀行の出張所とか、そういう所にみんな井戸を掘る。そこで、おしゃべりするおばあちゃんたちが、きっと出てきますよ。ぜひ井戸を掘りたい。
 2番目は、防災教育を小学校、中学校のカリキュラムの中に入れていただきたい。これは小学校、中学校で理科の話とか社会の話、国語の話とかいう中に、うまく入れてもらいたいんです。この授業は防災だ、というんじゃなくて、あらゆる教科目の授業の中に防災というのをしみ込ませていく。そして、時々それをベースにして、小学校や中学校で先生が実習をする。そうすると、それは家庭へ語り継がれるんです。お父さん、お母さん、今日は学校でこういうことがあったよ、ということを子どもたちが言います。それを年に何回かやります。そうする方が、お父さん、お母さんがわざわざ9月1日に防災訓練に行くより、よっぽど教育効果があるわけです。子どもから聞くという話です。そういうことを是非やってもらいたいというのが耐災型まちづくりの基本戦略。
 2番目の災害保険。これは、共済制度をやってくれということです。もっと言えば、皆様方は、地方税で固定資産税払っているでしょう。あれは、土地と建物が別に評価されています。土地はもう固定していますから、地震保険型でいけば、古い建物は安い、コンクリートの建物は高いとか、建物の評価額は決まっていますね。その評価額の、例えば5%なら5%を、健康保険と同じように、地方固定資産税と一緒に建物保険として徴収する。そして、それをプールする。それを使って地震で壊れた家を直す。それぐらいの合意を国民全体でとっていく必要があるのではないかな、ということでございます。
 これは、昨日か一昨日、兵庫県に行きました。兵庫県の知事が全国には普及しないけど、兵庫県で共済制度をやると言っていました。兵庫県では、地震が起きた後は共済の金をうまく取り崩して、それに県費を上乗せして、地震共済に入っている皆様方に、堂々と建物の建て替えのためにお金を出すということです。今は、地震で300万円か200万円か金を出す、というふうになりました。しかし、それは建物の取り壊しと設計費と営業費、再開発法に基づくような解釈の補助金の出し方なんです。私有財産に対するお金の出し方はしてないんですよ。
 だけど、いずれ、21世紀、防災問題が世界的問題になります。世界的問題になった時に、日本は確実に世界のリーダーになります。リーダーの国として、やるべきこととは何か。常に最新の、先手先手を打って、他の国が見習う、中国が見習う、ベトナムが見習う、そういうモデルを作っていく、ということが正に先進国日本のやるべきことなんです。
 一番重要なことは、民間の皆様方の全壊した建物を建て直すのにはどれくらいの公的負担をするのか、またはしないのか。これに対して、日本はどういう答えを出しているか。これが世界のモデルになるわけです。そうすると、やっぱり僕は、共済とか、一種の皆保険型のやり方をして、みんなで支え合っていくことが大変重要かなと思っているんです。



5.環境都市づくり

 これは僕の話じゃございませんけど、私が総理に話したのは、2004年の11月。2004年の12月早々に、都市再生本部の会合がありました。それは、何回もここで言っておりますが、総理大臣が本部長で、官房長が副本部長、国交省大臣が副本部長、あとすべての大臣が本部員、一種の閣議のような組織です。
 そこで、都市再生本部が持ち上げた話題を決定いたしました。それは何かというと、「環境都市」です。「環境と都市」でもいいです。それは何か。ここには、たまたま3つ書いてありますが、国の政策として打ち出す環境都市づくりはもっと体系的で、もっと深くえぐり込んでおります。ヒートアイランドの対策とCO2の対策ですが、根本的に重要なのはCO2対策です。しかし、デー・ツー・デーの市民が環境問題に目覚めるのは、どうしてもヒートアイランド。
 そのヒートアイランドに対応するやり方として、地味ですが、意外と面白いのは、東京都も大阪市も小学校の校庭を緑にするということを始めます。芝生化する。これはいずれ、東京と大阪市がやれば、小学校、中学校の校庭は緑である、という常識が日本中の都市に広がっていくんじゃないかと思うんです。これだけで随分、実は都市の雰囲気が変わってくるんですよ。校庭が緑になれば、おのずから、それに関連して、遊具施設とか門とか植木とか塀、全部逆に点検し直す必要があるんですね。それが重要なんです。
 だから、校庭が緑になれば、これは防犯上の問題があるかもしれませんが、もしかしたら、完全に万年塀で校舎を囲うのではなくて、鉄の柵で半分中が見えて、しかし、泥棒が入れない、そういう新しい柵の塀で校舎をずっと囲ってしまう、というデザインの変更が要求されるかもしれませんね。それから、次の段階では、学校建築こそ屋根に太陽光パネルをつけるとか、雨水を集めるとか、いろんな工夫ができるんです。
 今回の神戸でやった第2回世界国際防災会議。10年前は横浜でやりました。そこで、私の大変尊敬している地震工学の先生、僕のちょっと後輩の彼が、世界の学者の前で、「先進国日本として地震に強いまちづくりと言った時に、あれもこれもとは言わぬ。一番重要なことは何かというと、戸建て建築、古い戸建て建築の耐震性をどう安く上げていくか。これを是非やってもらいたい。これが一番重要だ。2番目は病院を耐震化する。3番目は、小中学校の耐震化をやる。この3つだけでいい。あと他に欲は言わない」、そういう言い方をしていました。彼の言うことは正解です。
 僕は12月に、東京直下の地震が起きるということで記者会見しましたが、その時に相当はっきりしたことを言ったというので、新聞記者に後でからかわれたんです。「おまえは、今までの役人の一般論じゃなくて、どこが危ない、どこのおばさんは危険だとはっきり言った」と言うんです。確かに僕は言ったんです。どこかというと、中野区の南台が危ない。今の東大の附属の小中学校の北側です。それから、世田谷の太子堂は危ない、と言ったんです。それから、東池袋が危ない。みんなこれは、わかっているんですよ。そこに古い質の建物がいっぱいある。特に戦争の後に造ったバラックがまだ残っている。昭和30年代に、耐震性も考えないで造った密集住宅地いっぱい並んでいるんです。
 その一番弱いものが、局所的に集中している所に限定して、そこの建物が倒れないように工夫することによって、東京の大火というのはガクンと減るんです。はっきりしているんです。そこが倒れるから東京で大火が発生してくる。ツボがあるんです。直下型の地震が来た時の大火には、幾つかのツボがある。そのツボをきちっと押さえて、集中的に、そこの古い建物を倒れないようにするというだけで、大火は防げるんです。
 一般的な形で言うとできないんです。そういうことで、この地震の先生の言うことと僕の考えは全く合致しているので、やっぱりそうしなければいけないと思いました。
 時間がなくなりましたので、防災のことは別にします。
 6の「拡散型都市から集積都市へ」を言わなかった。今度会った時は、言おうと思っているんですが、当たり前の話です。京都議定書が狙っていることは、外側に広がり過ぎた都市、特に東京よりもむしろ地方都市の自動車を主体にした都市。山形でもそうですし、金沢でもそうです。そういう地方の拡散型の都市を、自動車主体の町から自転車と歩く町にする、という当たり前の話です。そういうふうにするということを、何回も僕は言っている。都市再生の新しい課題は、1の「稚内から石垣まで」のように、地方都市でこれをきちっとやっていく。東京都区は、特殊解なんです。人口1000万。しかし、10万、20万の都市を拡散型の都市から集積型の都市へ持っていける事例ができれば、これは国際的な一般解になります。中国でも使える、韓国でも使える、ベトナムでも使えます。そういうふうにしたい。
 そういうようなことで話をしていこうかと思っています。
 以上、時局放談で、申しわけございません。今日は、もうちょっと学問的に格調の高い話をしようとしたんですけど、こういうことで、お茶を濁させてもらいました。どうも失礼しました。(拍手)



フリーディスカッション

與謝野
 ありがとうございました。それでは皆さんからのご質問を頂きたいと存じます。あまり時間が残っておりませんので、この後の伊藤先生を囲む懇談会ででも、ここでご質問がし切れない場合は、そちらでなさっていただいても結構ですが。
斉藤(日本景観学会会員)
 ボランティアの観点からお聞きしたいんですが、日本景観学会という学会があるのをご存じですか。
伊藤
 よく知りませんが、あるでしょう。当然あるべきだと思います。
斉藤 (日本景観学会会員)
 そういう学会との連携とか、そういうことをやって、国民的な運動にするというお気持ちはありますでしょうか。
伊藤
 やりたいですけど、景観だけじゃなくて、人が町の中に住む、中心市街地に住む、そういうことが僕の頭の中では、今プライオリティーが高いんですよ。特に地方都市で。その結果として景観がよくなればいいんですけど、景観を真正面に取り上げて、それで国民を引っ張れるかというと、もうひとつ私は勇気がないんです。自信がないんです。ただ、先ほどから繰り返しているように、おばあちゃん元気になれよとか、おばあちゃん町の中に住めよとか、そういう方が言い方に迫力があるかと思って頑張っているんです。いかがでしょうか。
斉藤(日本景観学会)
 景観問題を取り上げますと、豊かさとは何ぞや、そういうところにいくと思うんですね。ですから、たまたまそれが景観であるということだと思うんです。そういう面から文化、経済、そういう形で運動ができればなと思っているんですけど。
伊藤
 そうですね。ただ、僕は抽象的な議論が、学校の教師ですから、大好きなんです。しかし、ここ5、6年反省していますのは、普通の人に問いかける時には、やっぱり皆様方の財布にかかわるような話し方をしないとだめじゃないか、と思っているんです。そういうことで景観を語る、というやり方があるかなと思っています。
 ですから、例えばゴルフ場の話なんかもそうなんです。ゴルフ場へ行かなくたっていいじゃないか。何で行くんだと、そこまで言い切りたいぐらい、みんなこの頃、僕もそうなんですけど、何かというと、接待でゴルフ場に行きます。やめて町の中を歩けばいいんですよ。(笑)不思議なんですね、日本人って。ただ、僕は景観で積極的に企業と戦いたいんです。さっきの差し込む旗とか、立て看板、本当にあれはよくないです。企業の倫理、企業の道徳観、そのものに対して正面から挑んでいきたい。
斉藤(日本景観学会)
 わかりました。自動販売機とかいろいろありますよね。ありがとうございます。
伊藤
 だんだん年をとると声が大きくなって、調子に乗りすぎましてどうもすみません。ご静聴ありがとうございました。
與謝野
 大変限られた貴重な時間の中で、日本の中枢での審議の様子などを含めて、この時局にふさわしい、皆様の日頃のお仕事に大変示唆深いお話を頂きました。ありがとうございました。ここでお知らせですが、先ほどの過激なアッピールを考えておられる2月16日開催の「美しい景観をつくる会」の他に、東京農大の進士先生が理事長になられている「美(うま)し国づくり協会」主催の設立記念シンポジウムが来週の金曜日、1月28日にとり行われる予定であることをあわせてこの場でご紹介させておいていただきます。国民運動の流れを高める意味でも、皆様ふるってご参加下さい。そのご案内のペーパーをお渡ししています。よろしくお願いいたします。
 それでは伊藤先生、大変にありがとうございました。(拍手)
伊藤
 また7月に駄弁を弄させていただきます。どうもありがとうございました。(拍手)


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