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第230回都市経営フォーラム

『地球環境時代の森林経営と木材消費 』

講師:  速水 亨氏 速水林業代表 叶X林再生システム代表取締役

 
                                                                           

日付:2007年2月22日(木)
場所:日中友好会館

                                                                            
1.世界の森林と環境

.温暖化と森林

3.日本の森林の現状

4.次世代への必要な変化

5.速水林業の森林

6.木材を使う

7.弱者を痛める違法伐採

8.適切な森林管理と社会性のある木材使用

9.FSC森林認証

フリーディスカッション



 

 

 

 

 

與謝野 それでは、本日の第230回目のフォーラムを開催致します。
  皆様におかれましては、お忙しい中を本フォーラムにお運びいただきまして、まことにありがとうございます。また、長年にわたりましての本フォーラムをご支援いただきまして、厚く御礼申し上げます。
  さて、昨今はめまぐるしい気候変動の影響もあってか、各地で土砂崩れ・森林崩壊他の山林災害がかなり頻繁に見られます。そこで今回は、これまで都市あるいは農業に向けていた視線を、国土の約7割を占める山林、森林に目を向けまして、1つ森林管理のあり方について皆さんと考えることとし、これをフォーラムで取り上げることと致しました。
  このような趣旨で、本日の講師としてお招きいたしましたのは、三重県尾鷲市からお越しいただきました速水林業代表で株式会社森林再生システム代表取締役の速水亨様でいらっしゃいます。速水さんにおかれましては、ご多忙中にもかかわりませず、遠路お運びいただきありがとうございました。
  速水さんのプロフィールにつきましては、受付でお渡ししました資料のとおりでございますけれども、森林経営一筋に携わってこられた方でして、日本林業経営者協会の会長を現在お務めでいらっしゃいますし、その他多数の公職も務めておられる、この分野の若きリーダーであられます。
  事前のお話によれば、我が国の林業の実情について、適切な森林管理のあり方と社会的意義、また木材という素材の使い方についてのそもそもの心得、さらには地球環境時代の次世代への引き継ぐべき事柄等々について、森林の現場の生の情報と体験を踏まえての貴重なお考えを披瀝していただくことになっております。
  演題は、ご案内の通り、「地球環境時代の森林経営と木材消費」とされております。
  私からのご紹介は以上とさせていただきまして、早速、速水先生にお願いいたします。(拍手)

速水 ただいまご紹介いただきました、三重県で林業経営をやっております速水と申します。230回を重ねる都市経営フォーラムで話す機会を与えていただきまして、大変ありがとうございます。
  森林問題というのは、一般の方々に理解をしていただくチャンスがなかなかございませんので、こういう機会を与えられることは大変ありがたく感じております。なるべく分りやすい話をするつもりですが、建築家や都市計画の先生方の話を素人が聞くと難しいのと同じように、ついつい専門用語が入って分らないところがあるかもしれませんが、後で質問の時間もあるということなので、分らないことはその時にご質問をいただければ結構かと思っております。
  今日は、パワーポイントで説明をさせていただきます。

1.世界の森林と環境

(図1)
  このスライドは、実は日本の林業が厳しくなっていく過程を、外国の写真ばかりで綴っています。これは、オールドグロスというアメリカの北部に生える800年から1500年ぐらいの森林の伐り株です。戦後しばらくは、こういう木で世界中の木材消費が賄われたわけです。その後、伐られた後にひとりでに生えてきた木、セカンドグロスが、世界の木材のマーケットの中心となりました。太い木から柱や板を取る状態から、比較的細めの木から柱や板を取るようになりました。そして製品に発生する歪が大きくなってきました。
  そこで諸外国では、エンジニアリングウッド、集成材が急速に普及しました。幸せなことに、あるいは不幸なことに、日本ではもともと細い木から板や柱を取る技術が長けておりまして、エンジニアリングウッドになかなか移行しなかったんですね。それでもやれたんです。ところが、出てきたエンジニアリングウッドは、非常に精度の高いものでございました。そのエンジニアリングウッドと、日本の無垢で取った柱や板を比較すると、精度が高い方が当然使いやすいわけです。集成材の方が圧倒的に使いやすいということで、シェアを奪われていきました。その時に、国産材は、エンジニアリングウッドの流れに乗り切れなかったという実情がございました。
  ところが、山の木を伐って、次の世代にという、人工林を次から次へと植えて育てて、植えて育てるという技術が、世界中にあるように見えて、案外ないんですね。うまく行っている国でも、実際に見に行きますと、循環がうまく行っていないという所がたくさん出てきました。
  世界の資源というのが、石油資源も同様ですが、次第に厳しい状態になってきています。国内の森林が急速に蓄積を増してきたということもあって、この3年間ぐらい、急速に日本で国産材を使ったエンジニアリングウッドや使いやすい形での木材の加工が普及し始めました。そんな状態です。
  しかし、長い間海外の木材と戦い続けて、負け続けていた日本の森林は、疲弊している状態になっていました。
(図2)
  今日は、なぜ森林を環境として考えていかなければいけないか、というところから今日入っていきたいと思います。先程、與謝野さんからおっしゃっていただいたように、世界の森林と環境、温暖化と森林、日本の森林の現状、次世代への必要な変化、私の林業経営の説明をさせていただいて、木材を使うというのはどういうことかをお話します。
  今輸入されている木材の中には、かなりの率で違法伐採の木が入っています。それは人権問題として捉えるべきです。森林管理、社会性のある木材を使っていくべきです。今日は、最後に、私が日本に初めて導入してきた適切な森林管理を証明する森林認証制度を、やっと今、普及してきましたので、説明したいと思っております。
(図3)
  簡単に行きますけれども、20世紀、たくさんの戦争があり、人間の命を守るということが、様々な組織の中で、非常に重要な意義を持つものになってきました。我々は2つの世紀をまたいで生きられたという幸福な世代ですけれども、21世紀は、地球の命を守る、人の命を守るためにも地球の命を守るということが要求されてきています。この世紀は多分、安全と環境というものを、どんな国でも、どんな組織でも、あるいは小さな家庭、個人であっても、ビジネスの世界も利益追求とは別に、大事にしていく、そんな時代になっていると理解します。
(図4)
  森林管理になぜ環境が必要なのか。1つは、林業は環境に影響を与えている。これを言いますと、森林関係者に私はよく叱られるんです。私の森林は、もともと暖帯照葉樹林という、葉っぱがテカテカ光ったような森林です。ツバキを想像していただければいいんですけれども、ツバキやシイ、カシのような広葉樹木が生えていて、中腹から上の広葉樹の中にスギやヒノキが生えている。そんな林だったわけです。
  私どもの所ですと、約300年ぐらい前の江戸時代に伐りはじめ、炭にして、その後にスギやヒノキを植えたわけです。そのスギやヒノキを植えた理由は、実は今皆さんがいらっしゃる東京が江戸として発展していく中で、木材を要求したわけです。船便で非常に便利だった私どもの地域が木材の供給地となりました。紀伊半島というのは江戸の木材の供給地だったんです。そのためにどんどん植えました。
  そういう意味では、林業は、もともとが大きな環境破壊をし、森林の原型を変えた産業なんです。私は、300年前であろうが、200年前であろうが、今の林業経営というものは、そこの土地で林業をやっている限り、「林業は環境に大きなインパクトを与えているんだ」という意識をしっかり持っていないと、自然の中でやっていく産業の中では、間違いを起こすと思っております。しかし人工林を含めて、森林は、ともかく地球環境を維持していく、これは誰も反対することはないと思います。
  もう1つ、同じ森林でも原生林というものがあります。日本の中に本当の意味では手付かずの原生林はないと思っていただいて結構かと思います。そして原生林というものは地球上に残したい種の保存庫です。そして原生林は大量の木材がお金を掛けずに育っているんです。そういう意味では、常に伐採の圧力がかかり続けている。油断すればいつでも伐採される危険性がある。そういう点では、人工林やすでに人によって管理されている天然林は、環境に配慮を行いながら木材生産を行っていかなければいけない。もっと言うと、大量の木材輸入国である日本の人工林の資源は、木材供給という意味で地球環境にとって極めて重要になってきます。
  私は、県の森林関係者の方に呼ばれて話す機会をよくいただきます。そこでいつも気になるのは、各県が、「我が県の森林管理は」という話をする。そこに環境的な配慮を入れて、広葉樹を植えますとかいう話です。しかし私からすると、それなら、日本がたくさんの木材を使っていて、海外から輸入している中で、ある県の森林というのは、その県民だけのためにあるのか。日本は、それだけ木材を使っているのだったら、県民のためだけじゃなくて、地球市民のために県の森林はどうしなければいけない、そんな発想を持って欲しいといつも思います。そういう意味では、森林管理は、木材消費という場において常にグローバルな視点が求められると思っております。
(図5)
  「美しい森づくり」。これは昔から使っている言葉です。突然今の内閣が「美しい日本」という言葉を言い始め、林野庁が早速「美しい森づくり」を言い始めました。ついこの間、2月10日ぐらいの閣議で、「美しい森づくり推進本部」というのを作って、担当閣僚が5〜6名決まったようです。
  私は、それを昔から言っています。「美しい森」というのは何か。原生をとどめる森林というのは非常に美しいと言われている。それでは、何故美しいのか。ところが、日本の森林の場合、雪の京都の北山杉を見るように、端正な日本の美は、常に人工林の中にあります。この両方を考えていくと、地域の生態系をうまく導入した人工林というものが、日本の人工林の中の1つの美しさだろうと感じております。私は、そういう森づくりをしていています。自然と人工林との融合を目指すというのが私の森づくりの方針です。
  最近「森林」という言葉が氾濫していますが、実は私ども林業関係者や山村に住む者はついこの間まで森林という言葉は全く使っていませんでした。常に、「山」。「山林」という言葉を使ってきた。最近急に「森林」に変わってきた。そういうことを考えていくと、本当の山というのは、木が3本生えての「森」ではなく、また300本生えていようが、本当の森林ではなくて、木と土がお互いに機能し合う、それが本当の森林なんだろう。そういう意味では、木偏に土の「杜」の方が本当の森かなという気が最近しております。ちょっと余談でした。
(図6)
  これは、世界の森林がどういう変化をしていったかというのを、人間活動が少しずつ活発になってきた8000年前の森林と比較したものです。オレンジ、薄いグリーン、濃いグリーン、この3カ所を合わせたものが、8000年前すべて森林だったわけですね。人間活動が行われるようになって、それが原因で消えていって、森林が全くなくなった所がオレンジ色の地帯です。文明が早期に発達した所です。あるいは、牧畜等が盛んだったヨーロッパがそうですね。近世に入って森をなくしたのがニュージーランドです。ニュージーランドは、自然豊かな美しい国に思えますが、イギリス人が入植して、100年の間に、ダチョウのような飛べない鳥類が数十種類いたのが、今10種類まで激減した。短期間に自然破壊をした典型がニュージーランドです。南半球に理想のイギリスを作ろうと自然破壊を繰り返し、今の素晴らしい美しく牧歌的な国土が出来たのです。今はその反省にたって自然保護が進んだ国になっていますが、林業生産の場ではまだまだ荒っぽい管理が行われています。
  アメリカ自体はそんなに歴史が長くないので、森林をゼロにしてしまった所は比較的少ないですね。中国、インダス。そして、ヨーロッパの牧畜と続き、最近はアフリカ、南米の破壊がひどいです。
  薄い緑の所が人間が手を触れた森林です。原生林を人間が一部伐った、そこも入れて薄い緑です。残っているのは、この濃い緑の所。人間活動が非常にし難いような所にしか残っていない。赤道直下であったり、非常に寒い地域であったり、そういうところにしか原生林が残っていない。8000年前から比べると、約3割以下になっています。

2.温暖化と森林

(図7)
  これはよく使われる図です。CO2の濃度が40万年前にどのくらいあったかということが、南極の氷をボーリングすることでわかってきた。今、これが100万年前ぐらいまで掘れたという話を聞いていますので、もっと古い数字が近い将来発表されると思います。大体10万年に1回ぐらいの変動があって、280ppmぐらいだったのが、産業革命以来ぐらいから急に上り始めて、現在は少なくとも40万年間では最もCO2の濃度が高くなったということがこの数字で分ると思います。
(図8)
  では、CO2が増えてきてどうなるんだろう。いろいろ言われていますが、予想される、激しい一例として、この地図があります。グレートオーシャンコンベアベルトと呼ばれ、海の非常に深い所と浅い所を、暖かい水と冷たい水が循環をしているという理屈です。北太平洋の所で暖かい水が冷やされて、深海に入り、そして、ゆっくりと南に流れてインド洋と、太平洋の上で北上し、2カ所で表層に出てくる。これが、地球の気候を穏やかなものにしている海洋の温度の循環サイクルです。数字的には毎秒1m程度でこの循環流が一周するには1000年ほどかかるという感じで、わずかしか動いてないんです。
  温暖化に伴って、北太平洋で水が冷えなくなる。ここが冷えなくなると押し込む力が無くなり、ベルトコンベアのような動きなので、流れがピタっと止まってしまうと言われているんです。ここから入っていくエネルギーというのは非常に大きいわけです。これがとまったら、地球の気候は大きく変動する。「気候変動」ではなくて「気候破壊」と言った方がいいとまで言われております。
  私は偶然、環境省の環境税の委員会で議論していた時に、環境保護団体や研究者、そして産業界の方々と、温暖化ガスの削減を議論していたとき、環境意識が高い人たちは、温暖化ガスの増加で発生するのは、「気候変動」ではなくて、「気候破壊」ではないか、あるいは「気候崩壊」ではないかということで、強い危機意識があった。
(図9)
  これは一例なんですけれども、氷河を昔と今に分けた写真をお見せします。1978年、これが今の同じ場所で2000年です。これが1914年、これが1997年。1939年、2001年。1900年、2000年。ちょうど100年、もうダムがここにできてしまっています。1906年、1994年。1961年、1995年。年代が判らないんですけれども、この人の服装を見ておいていただくと、このぐらい違うというのがよく分かると思います。ボートを見てください。木のボートです。同じ季節の写真ですが、氷河が後退しているのがよく分かると思います。
(図10)
  最近言われているのは、「The Party’s Over」。つまり、人類はパーティーを今までやってきた。その楽しいパーティーは終わったんだよ。我々は少し冷静に、頭を冷やしながら、この社会をどうしていくかということを考える時間になったと言われております。
  サステイナブル・ディベロップメントという言葉があります。2つの持続性、資源の持続性と環境の持続性、そして、4つの平等と言われています。このサステーナブル・ディベロップメントを言う時に、「資源の持続性」と「環境の持続性」に関しては、皆さん意識があるんですけれども、本来は、「平等」への意識の方があるべきなんですけれども結構欠落しています。言葉がサステイナブル・ディベロップメントという言葉だから、「平等」という抽象的な概念をなかなか取り入れられないんだろうと思います。
  4つあります。「民族間の平等」、「地域間の平等」、「世代間の平等」、「生物間の平等」。上の2つは簡単に分かりますね。説明も要らない。「世代間の平等」というのは今ここにいらっしゃる何世代かの方々というよりは、これから後100年ぐらいに先に生まれてくる子どもたち、あるいは200年ぐらい先に生まれてくる子どもたちと我々が、ある意味平等な状況をどう共有できるかということを求めております。
  一番難しいのは「生物間の平等」です。地球資源の約7割を人類が使っているのではないかと言われています。果たして生物間の中で、それでいいのかという議論があります。これは難しい問題ですが、生物間の中で、人類という生物が地球資源の大半を使っていることがいいのか悪いのか。そういう意識は必ず持っていないといけません。森林環境も、都市環境も、地域環境も、そういうものをしっかりと意識すること重要だと思っております。
 
(図11)
  CO2の吸収について。先程CO2は増えたと言いました。今森林に対してCO2の吸収を期待する部分が大きい。3.8%森林に頼っていこうという話になっております。
  実は、森林のCO2の吸収というのは、天然林、自然林のままの原生林ですと、CO2は固定していきません。プラスマイナスゼロです。カーボンニュートラルという言葉を使います。育ってCO2を固定していく量と木が枯れて腐っていく時に排出する量は、ほとんどイコールになります。
  問題は、人工林です。人間が植えた木は大きくなるにつれて、CO2を中に固定します。しかし伐って使わないといけないんですね。それを家具や建築に変えていく。あるいはバイオマス燃料として石油に替わるものとして使っていく。こういう行動と、もう1つ大事なのは、伐られた山が必ずもう一度植えられていくことです。そうすると、木を燃やさない限り、あるいは紙にして紙を燃やさない限りCO2は、減ったことになるんですね。だから、建物のリサイクルも重要ですし、紙もリサイクルするのが重要だということがわかってきます。
  ともかく木材は、山が育つだけでは駄目なんですね。必ずそこで伐られて、使われて、使った木材をなるだけ長く使っていくと。長い間CO2が缶詰状態になっている。燃やした時に缶詰を開けるということになるわけです。ここを理解することが大事です。
  木が育っていく。木は立方数で計算するんですけれども、生の木の場合は大体1立方メートルで220キロから250キロぐらいの炭素を固定していると理解下さい。完全に乾燥させた木材の場合は約半分が炭素だと思って下さい。

3.日本の森林の現状

(図12)
  日本で使われている木材はどういうものなのか。まず、世界の木材は、実は建築や紙に使われる部分は半分以下です。半部以上が燃料に使われていきます。この燃料に使われていく部分は、我々が思うような暖炉で火を楽しむとかいうのではなくて、生きるか死ぬかで暖をとる。あるいは生のものを焼くために使う燃料。生活に密着した燃料です。
  日本は、世界の木材貿易量の中で米国、中国についで3位になっています。2位の中国は国内森林の伐採禁止令と経済発展による急激な木材需要の伸びによって、日本を抜き2位となっています。そこで問題は日本に輸入されている木材の2割が違法に伐られた木だということです。これはWWFインターナショナルが発表し、日本政府も認め、各国の政府も、日本の輸入している木材の2割は違法に伐られた木だろうということになっています。違法に伐られた木というのは、森林管理の中で最悪のものであって、それ以外がいいのかというとそうでもなくて、違法じゃなくても持続性を確保してない森林伐採からの木材というのはあります。ただ、外国の木を10本使ったら、間違いなくその2本は、割合からすれば違法に伐られた木だと理解をして間違いない。建築関係の方で、外材を使っていたら、その外材は、確実にトレーサビリティーが効いた木材を使ってない限り、2割は違法に伐った木を使っているということは間違いない話ですね。
  もう1つ今問題になっているのは、ともかく木材は足りなくなるだろう。先進国が1人1年で1立方メートルの木材を使っています。開発途上国が0.45、約半分ですね。今中国とインドがすごい勢いで、1立方メートルに近くなっているわけです。そうなれば足りなくなる。
  今の勢いで、こういう違法伐採が横行しているような木材のマーケットですと、間違いなく今の中国あたりは、違法の木でも何でもいいから全部使うぞというスタンスがあるわけです。そういう意味では、非常に危険があるということが言われています。
(図13)
  国内に目を移しますと、これは林業の内部利益率です。ここはかなり以前で65年ぐらいです。スギでいけば約6%、ヒノキですと9%ぐらいの利率で回っていた。林業経営で非常に利益が出ていた時代です。
  それが、どんどん利益率が下落して、今、国からの補助が入れないスギの経営ですと、マイナス金利で、もう林業に投資すること自体は無駄だということになります。
  補助金が入ったとしても、この赤いところ、やっと0を上回る程度です。これが2000年で、2000年から先また値段が下がった。結局、これが日本の森林の管理をストップさせている大きな原因になっていると思われます。
(図14)
  人工林は、どういうふうに動いていくかを、ここでもう一度復習をしておきます。どこから始まればいいのか。普通は木を植えてからとよく言います。ところが、林業経営者からしてみると、木を植えてから林業を始めると、全部借金なんですね。木を伐るまでずっと投資しきゃいけない。我々の間では、林業は、木を伐ってから始めるものだと言われております。つまり、木を伐るところから始めないとしても、金利のない金を山に投資しない限り林業は維持できないという非常に難しい産業です。
  ともかく、木を伐った後に植えられるような状態にします。枝だとか木の先っぽを全部山に捨てていきますから、掃除をするようにそれをきれいにして、植林をする。草との競争に植えた木が負けないように下草を刈る。最初から少なく植えておけばいいんですけれども、そうするとなかなか真っ直ぐな木が育たない。真っ直ぐな木が育たないと結局誰も使ってくれないということで、たくさん植えておいて、不必要な木を除伐をしていく。伐り捨ててしまう。
  そして、節がない木がいいと言われるのであれば、枝打ちをし、使える太さになってきたら、間伐をして、マーケットに売っていく。そして、最後に皆伐をし、また循環をしていく。数十年から百年という循環のサイクルです。これが動き始めて初めて、水を貯めるとか、木材を供給する、CO2を吸収するという森林の機能が活発に動き始めます。
  今白い○×を書いてあるところで、植えられない、植えたんだけど手入れがされなくて荒れてしまった、あるいは一番問題になっている間伐がされない、そういう状態が起きていると理解をしていただければ結構かと思います。
(図15)
  これは放置した森林で、間伐が遅れ、地面に植物が全くなくて、根が浮き上がっています。ここは土壌が礫なので、石が露出してこれ以上深く掘れることはないんですけれども、ここが土だと、木が倒れるぐらいまで掘れていくという状態になります。
(図16)
  こういう状態ですね。
(図17)
  そんな中で、林業経営はどういう方向に変わっていくか。1つは、質の高い森林を造っていく必要があるだろう。あるいは炭素固定等を含めた機能の高い森林、そういうものを育てていくことが今求められています。
  それから、私が大事にしていて、なかなか世の中では言われていないことですが、誰もが入れる森林というものを森林管理の中で重視しなきゃいけない。誰もが入れる森林というのは、別に森林公園でなくてもいいんです。私が経営している、速水林業の森林でも、誰でも入れる状態を作る。広く国民に森林を理解してもらい、そして森林の重要性を知らしめて、国民の多くの人たちに森林と共に暮らしていく素晴しさというものを味わってもらう。それを味わえない国民というのは寂しいと私は思うし、日本は67%が森林である限り、その森林で国民が豊かに暮らせる状態を我々が提供できれば、それはそれで非常に素晴しい仕事なんだと思っています。
(図18)
  持続的森林経営という言葉があります。先程のサステイナブル・ディベロップメントという言葉が出てきたリオサミットの時から、森林も同じように、サステイナブル・フォレスト・マネジメントという言葉が使われるようになりました。
  社会性を持った森林で、経済性と生物生態的環境をしっかりと確保し、維持した森林、その3つが集まったところに持続的森林経営、サステイナブル・フォレスト・マネジメントが存在します。
  実は、日本では赤い○のところ(経済)が今確保しにくくなっている。諸外国では林業は非常に利益が出ています。今、世界の林地は投機ファンド、投資ファンドがどんどん買い占めています。大体10%ぐらいの利潤を彼らは払っています。世界的に見ると、経済の部分はうまく回っている所が多い。
  しかし、そういう所で一番問題になるのは、社会性を持った森林管理です。森林というのは非常に広大な土地を動かすビジネスですから、地域と土地との絡み、土地の住民との絡み、あるいはその地域に環境的な影響を及ぼす関係というのは非常に強くなってくる。そういう意味では、社会性を持つ、そして環境的な配慮をしていく、そこは諸外国に行くと非常に難しいと言われます。
(図19)
  日本の森林には古い歴史があって、人工林の技術というのは世界に誇れるんだといつも言います。日本書紀にスサノオノミコトの言葉として、こんな言葉が書いてあるんですね。私どもの近くにある熊野信仰の主たる神はスサノオなんです。ご存じのように、日本神話の中でスサノオというのは異端の神です。決してアマテラスのような保守本流ではない。しかし、彼は森林の神です。日本に木を植えさせようとした。ひげを抜いて植えると杉の木が生え、胸毛を抜いて植えると桧が生え、しりの毛を抜いて植えると槙の木が生え、眉毛を抜いて植えると楠の木が生える。ここが非常に大事なんですが、船を作る時は杉や楠がよい。桧は宮を作る。当時宮というのは家のことです。日本書紀の時代は、家はみんな宮だったわけです。槙は寝棺を作る。これはお棺のことです。古いお墓が暴かれた時に、木のお棺の破片が出てくると大体槙の木です。高野槙がいいですけれども、イヌマキだったり、そういう場合もあります。
  これらの木をたくさん植えるようにと、スサノオが言った。このことが事実かどうかはともかくとして、720年に日本書紀を書いた時代に、書いた誰かが、あるいはその時の政権が、これを書かせたわけです。そういう意味では、720年という時代に、日本は既に目的を持った植林を推奨しようとしていたということです。これが非常に大事なんですね。
(図20)
  では、ヨーロッパの森林はどうか。これは一言でまとめてしまうと、間違いがありますので、「そんな説がある」程度で聞いて下さい。ヨーロッパ人の森林というのは、此岸の森林。こっち側の森林。現世の森林。これはクリスチャンの方がいらっしゃればよく分かると思うんです。キリストあるいはキリスト周辺のファミリーという絶対的なものがある。八百万(やおよろず)の神はキリストの前に消えていくわけです。ヨーロッパの場合、キリスト教が入っていく段階で、ゲルマンの古い宗教、例えば謝肉祭は、もともとゲルマンの古い属地的な宗教儀式だったのがキリスト教の儀式に変わっているわけです。あるいは命の泉など、様々な古くからの山の信仰、水源への信仰、奇跡の話は本来キリスト教が入る前から存在したものが、全部キリスト教に変わるわけです。
  教会ができて、そこに食料を供給するために農地ができ、周辺の森林が伐り開かれていく。ですから、森の中に悪魔とか八百万の神、そういうものは一切いなくなっていく訳です。だから、ヘンゼルとグレーテルのように、森の中に子どもたちが遊びに行って、そこで迷ってしまうことがあるわけです。
  ところが、日本は日本の神話や童話の中で、子どもたちがかどわかされて森に入ることはあっても、子どもたちが喜んで森に入ることはない。これは確実に違います。鬼や天狗に連れられて森に入ったり、薪を取るなど何か用事があって入って行くことはあっても、子どもたちが遊びに行くことはない。そのぐらい違うわけです。
  日本人は、森が怖い人種です。私もそうです。夜、何か用事があって森を歩くことになると、後ろを振り向けない。後ろを振り向くと前に向けない。前だけ向いて歩いている時は、後ろの存在を忘れられます。後ろを振り向いてしまうと、後ろも前も全部怖くなるんですね。後ろを振り向いて、何か嫌だなと思って前を見ると、また後ろができてしますからね。前だけ向いている時は後ろはない。日本人というのは、心の中に魔物や霊が森の中にいるという気持ちが潜在的にあると思っています。
(図21)
  これは東山魁夷画伯の「緑響く」という素晴しい絵です。実に、日本人の森林観を表した絵と私は思っています。ここからは私の勝手な解説だと思って聞いてください。絵の本当の解説ではなく、森林的発想からの絵の解説をちょっとしてみます。
  これは山です。これが水です。水面に木が映っている。これが白馬。見ている人は、水を隔てて森を見ている。水を隔てるという安心感があるわけです。しかし、ここの中に祖先の霊あるいは神々の森がある。それの象徴的なものが巨大な白馬です。木に比べて白馬の大きさは、とんでもないです。木の大きさから判断して、トロイの木馬よりも大きいぐらいです。そのぐらい象徴的なものです。それでは、ここに何を映しているのか。我々はやはり、祖先に対する親しみがあるわけですから、水面に木を映すことで、祖先とのつながりをずっと持つわけです。そういう意味では、この絵は、木と馬と水と水面に映った木、この4つで日本人の森林観をスパッと表しているんだろうと、私はこの絵を見るといつもそう思います。
  東山先生は、山を非常に大事にされていて、「森とむらの会」という財団法人の雑誌の表紙にずっと先生のご自分の絵を使わせていただいていました。一度聞いてみたいなと思ったんですけれども、恐れ多くて、お顔を拝見した時も一言もいえなかったです。おかげで、勝手にこうやって解説できます。
(図22)
  これは、建築関係の方が多いので、よくお分りと思いますが、ランスの大聖堂ですね。これも林業的解説ですが、この柱の部分が木の幹です。天井を支える梁は枝です。ブナであったり、ひょっとしたらフランスやドイツだったら、ナラの木かもしれません。教会に入ったら森の静けさを感じ、森に入ると教会の神々しさを感じるという言葉を聞いたことがあります。多分、ヨーロッパの人たちは森と教会に共通性を持って見られるんだと思うんです。
  日本人というのはなかなか森に入らない。だから、森を外から見て、緑があるない、という判断をし、ヨーロッパの人は森の中に入って、森の小さな変化に結構うるさく文句をつける。そういう人種です。
  ですから、私は先程言ったように、森に人々が入れる森づくりをすることが大事なんだろう、というふうに強く思っております。
(図23)
  これはちょっと専門的なことなんですけれども、森の健全性をどうやって図ろうか。森に入るきっかけがあればこうやって見ればいいんです。
  木というのは、何年生の木とかよく言うんですけれど、実は樹齢を見ていろんなことを判断すると間違えます。森林の状況を判断する最も大事な指標は木の高さなんです。木の成長とか土地の環境を表すのは、木の高さです。高い木ができる所は土壌が豊かです。同じ樹齢でも、樹高が低い所は土地がやせている。だから、樹高を前提に森林の状況を常に管理していくことが大事です。
  人工林の場合、直径のばらつきが大きい森は手入れがされていない。不健全に近くなってきた森林だと言われています。適正本数というのがあって、適正本数が何本かというのはなかなか難しいんですけれども、学術的にいうと、それぞれの樹高に対する適正本数というのは決まっています。その本数の2倍以上あると、その森林は荒廃に向かっていると言って間違いない。
  次に、森の中で空を見上げた時の空間率。ビルなんかも一緒ですね。空がどれだけ見えるか。それが常に2割ぐらいは欲しい。間伐しないとそれ以下になって、暗くなってしまう。そういう森を造ると、森は傷みます。
  今までの日本の森林の造り方は、森を全部葉っぱで埋めてしまって間伐をし、次に、また葉っぱで空間が埋まったら間伐をします。そういうやり方をずっと続けてきたんです。それが潜在的に日本の森林を疲弊させる1つの原因だったんだろう、と私は思っています。そういう意味では、常に空間を上で開けておく。間伐する前は、かなり詰まってきても、少なくとも十数%は開いている。そこに間伐をしていく。そして、30%ぐらいは開けている。
  特に日本の場合、針葉樹です。針葉樹というのは斜めからの光を有効に使える木です。極端な木を言うなら、マダガスカルに生えているバウバウの木がありますね。最近テレビなどでよく見かけるようになりました。巨大な幹があります。丸いクラウン・樹冠なんですね。あれは真上からの光をいかに有効に捉えるか故なんです。
  ところが、スギやヒノキというのは下まで枝がある。斜めからの光をいかに有効に使うか。緯度の関係ですね。どの緯度にその木が居るか。植物というのは、自分たちが生えた所に、一度根を下ろすと絶対に動けないわけです。だから、その自分の環境をいかに有利に生き抜くのか、ということを遺伝子で選別していくわけです。
そういう意味では、我々のスギやヒノキというのは斜めからの光を十分使える機能を持っている。だから、上空を開いていけばいい。半分枯れていったら回復は不可能です。下に植物があるんですけれども、常緑樹林帯では30種類以上、落葉樹林帯では60種以上必要です。土壌のA層というのは、葉っぱだとか枝が腐って、有機物が豊かな真っ黒な土です。そういう土が、10センチから20センチは最低要りますよということです。 


4.次世代への必要な変化

(図24)
  森林管理というのは、いろんなことを言うんですけれども、さっきの循環の中で植える、伐るというのがあります。その間に除伐、枝打ち、間伐、下草刈りをします。これは何をやっているかと言うと、実は全部光の管理です。下草刈りは植えた苗木に光を与えるため、除伐はそれぞれの木に光を与える空間を作るため、間伐も同じです。枝打ちは、木に対して光を浴びなくなった枝を切り落とすことによって、成長のコントロールをするわけです。全部光の管理です。と言うよりは、木は、光と水と栄養で生きるわけです。人間は、水は管理できません。毎日バケツで水を持っていったって、山の面積からすれば知れたことです。肥料。1回や2回はともかく毎年毎年肥料をやるわけにいかない。では、我々は何ができるか。森林に対しては光の管理以外ないんです。その光の管理を様々な手法でやっていると理解をすればいい。
  私は、光を常に林の中に取り入れ、下草や林の中に生えている広葉樹にも光を届けさせる。それによって、人工林の多様性を確保していくということを長年やってきました。
(図25)
  これは、かなり専門的な人工林の管理の一部分です。
  最近は、国際的な視点で森林を見ることが多くなってきました。まだ日本ではほとんどないんですけれども、水、川に対してどういう森林を造っていくかということには諸外国では異様にうるさく言われています。キャノピイを造る。つまり、渓流の上を木で水を覆い尽くすような森林を造らなければいけないと言われています。日本でそれが本当に正しいかどうかという議論は、今している最中です。
  また、倒れた木とか枯れ木は、今まで日本では、森の中にあったら不健全だと言われていました。しかし、それを計画的にうまく残すことによって、森の健全性、多様性をどう保つかということが大事になってきています。
  私は個人的にいうと、そういう配慮を少しずつやり始めています。私は、広葉樹主体の生態系保護区を奥山の中に持っているんです。そこでは、185種類の植物の種類を数えることができます。ところが、私の様々な樹齢があるヒノキの林なんですけれども、そこへ行くと、広葉樹林よりも多い243種類の植物があります。つまり、適切な管理さえ行えば、人工林も天然林に負けないぐらい、植物の種類に関しては確保することができる。だからといって、人工林と天然林を比較して、どっちが豊かだとか、どっちがいいという議論をするのはナンセンスです。あくまでも、2つの種類の森林があり、その中で最初から申し上げているように、人工林という既に自然を改変して、その場所を使わせてもらっている林業という職業の中で、それをいかに豊かな状態に保つかという意識を持った管理の結果として、こういうことが可能ですと言っているだけです。比較をするものではない。これをしっかり言っておかないと、たまに猛烈な抗議を受けるんですね。あなたは神の育てた森よりも、あなたの育てた森が豊かだと言うのかと、10枚ぐらいのレポート用紙に書かれたことがあります。
(図26)
  ヒノキの林の尾根筋にコナラが生えています。コナラというのは化学的に他の植物を寄せつけない強い機能を持っている。植物の進化として、スギやヒノキよりかなり進化の速度が速程度が高い。アレロパシーという用語で我々は表現します。ドングリのなる木は豊かだと言うのですけれども、時には全く草が生えない状態ができます。
(図27)
  コナラの下は、非常に乾いた土ですね。さっき申し上げた有機物の多いA層は全くありません。すぐ土壌です。この状態が、豊かな土壌を作ると言われているドングリがなるコナラの下です。これは、悪いと言われているヒノキの林。比較のために置いてあるペンの長さでも足りないぐらい深く、A層の黒い土がずっと続いている。その上に、このペンから上、ここまでの厚い落ち葉層がある。ここまで厚い落ち葉層と有機物の多いAゼロ層、A層というものがあると、少なくとも、ここからは土は一粒も流れ出ません。コナラが生えているここからは流れ出ます。
(図28)
  地方自治体でコナラなどドングリのなる木を植えようと言うのは、このような木を育てたことのない人です。森林の知識を持ちながらその知識を現場にちゃんと落とせない、という行政のミスの典型は、コナラなどドングリのなる木をたくさんまとめて植えてしまう運動ですね。
  私は広葉樹が大好きだから、他の所有者にないほど、山の中にはコナラの木だとか広葉樹の木がたくさん残っています。だからこそわかるんです。これは紀伊半島の南部の熊野灘に面した海岸にずっと続いている、以前薪炭で伐った広葉樹林です。外から見たら、きれいな雑木林ですが、森林の中に入ると、林床には一木一草もない。石がむき出しになっている。我々が表土流失とか表土流亡とか言っている「エロージョン」が起きている状態です。斜めに木を伐って、そこに光を入れていく。そして、下草を造り出すという行為をしないと、このように広葉樹林の方がひどい場合があります。この地域の川の下流は、こういう土壌流失が続くことによって河床がどんどん上昇して、川の管理に非常に苦労しています。
  広葉樹林があればいい、というわけではないです。広葉樹林とて、例えば一回炭で伐って一斉に生えてきた状態であれば、それが手入れがされなくなった途端にこうなる。
(図29)
  これは自然林です。湯沢の上の方にあるブナの林です。よく見て下さい。ブナの林の中にもそれほど草が生えていないというのが分ります。積雪地帯ですから、もともと大きな草はそうは生えないですけれども。それでも、ブナも強いアレロパシーを持って、ほかの植物を寄せつけない機能を持っています。
  ちなみに、ブナは水を作ると言いますけれども、言葉を少し変えなければいけないですね。ブナは水を作るのではなくて、ブナは水の多い所に生えるのです。これはえらい違いです。スギの山が崩れた。我々はあえて崩れやすい所を見つけてスギを植えます。スギは水を好みますから、水が多い所にスギを植えるんです。だから、大雨が降ると、そこが飽和状態になって崩れる。このように考えると、そこは広葉樹が生えていても崩れます。
(図30)
  私は広葉樹が好きです。父も私もずっと従業員に言い続けた。スギやヒノキは売るほどあるけれども、雑木は少ないから、雑木は絶対伐るな。しかし、広葉樹も人が植えれば間違いなく人工林です。多分、都市計画で雑木林を造られた方がいらっしゃるかもしれないですが、植えれば人工林だというのがよくお分りになっていると思う。
  それから、一斉造林というのは下草がなくなる。広葉樹も下草がなくなる場合が多い。大事なことは多様な樹齢と多様な樹種、それが目的で、広葉樹が目的ではない。だから、広葉樹が目的だ、多様な森林を造りたいと言って、ドングリのなる木だけを植えてしまっては、それは単純な森林を造っているだけです。いい森を造るんだったら、そこに多様な樹種と多様な樹齢の木を造って初めて豊かな森になるんです。
  広葉樹を増やしたければ広葉樹が生える状態を造って、あとは神様に任せなさいとよく私は言います。それが一番安いコストです。急いで造るものじゃない。
  広葉樹の人工林を管理する技術は、よほど森林を知っていた人でも、スギやヒノキを管理する技術に比べれば、ゼロといって間違いないでしょう。

5.速水林業の森林

(図31)
  私の経営を簡単に説明いたします。
  経営面積1070ヘクタール。林業経営というレベルの中では、中の小ぐらいだと思います。ただし、5ヘクタール未満の森林所有者が森林所有者の率でいうと9割以上ですから、単純に森林所有者の中から見れば、大きい方です。でも、林業経営というレベルでは、中の小だと思っていただいて間違いない。
  針葉樹の人工林813ヘクタール、広葉樹林249ヘクタール。60ヘクタールの生態保護林を持っています。道がよくついていまして、1ヘクタール45メートル。1000ヘクタールに換算しますと、約4万5000メートルです。私は道を4万5000メートル持っていますというのは、結構楽しい話です。
  経営の規模は、わずか19人で経営をしているということです。
(図32)
  私の山づくりの考え方は、地域住民に理解してもらえる経営です。林業経営は、山を売ってどこかに逃げちゃうこともできるんですけれども、少なくとも山がある限りは、そこから動けないということで、ともかく地域住民が、速水亨に山を任せておけば、あるいは速水林業に任せておけば、山をよくしてくれる、そう思ってくれない限り、私はそこで速水林業を経営する資格はないと思っています。
  環境的で豊かで美しい森をつくりたい。人工林の環境管理人工林育成技術というのは、実は完全に人間が植えて育てる人工林は、世界で見ると案外少ない。そういう意味では、日本の循環型の森林経営というのは非常に進んでいて安定もしています。ところが、残念ながら、日本は環境配慮の細かい部分がないですね。大きな循環型は比較的うまくいっている。世界に比べると、物すごく自然に優しい林業をやっています。ところが、例えば、海の環境を守らなければいけないと言う漁師がいる。彼がたばこを吸っている。その船に、灰皿はまずないですね。海が灰皿です。山でも同じようなことでしょう。多分、大企業の方に、環境的な配慮は日常的に何をやっていらっしゃいますかと伺えば、10や20サラサラと出てくる。ところが、林業の現場、例えば森林組合の職員に、環境配慮で何やっていますかと聞いたら、3つも出てきたらいいところでしょう。そんなものなんですね。
  しかし、やっている森林管理というのは、自然に対して非常に優しい管理をやっています。
  そして、安全確保は当然なんですけど、2つの共生、自然との共生、地域との共生、この2つを大事にしながら森林管理をやっていきたいと思っています。
(図33)
  これは、私の山を皆伐した直後の山です。伐られたヒノキの中に生えていた広葉樹を少し残し、前生樹も少し残して、残りは全部伐って、そこにヒノキが既に植わっています。豆粒のように点々と見えているのがヒノキの苗木ですね。これを小さな面積で繰り返しやっていきますので、周辺に新しい生態が生まれてくる。
(図34)
  例えば、今残してある木が100年経ったらどうなるかというと、周りは先ほどの写真の豆粒のようなヒノキの苗木が林になって、残した木がこのような巨木になっていく。先ほどの写真の林の100年後の姿です。
  そして、下草から広葉樹を含めて3つの層。下草の層、広葉樹の層、上にヒノキの層というものができていくわけです。
(図35)
  これは拡大造林と言って、広葉樹を伐ってヒノキを植えていった時代がありまして、その時に桜の木だけを山に残して伐っていきました。結構きれいです。これは、ただきれいだというだけです。こういうやり方も可能です。何故桜かというと、花が咲くことが最も大事なんですが、一番最初に葉が落ちて、一番最後に葉が出る。下のヒノキにに対する影響が非常に少ない。もう1つは、桜は材の価値があります。
(図36)
  林の中が歩ける歩道を造ってあります。皆さんに歩いていただけます。この写真を撮ったのは2年まえでそのとき59年生ですから、今61年生です。ここのヒノキは若いんですけれども、かなり高級なヒノキです。間伐でかなり高く売れています。でも、中にちゃんと広葉樹が入ってきていて、下草があって、歩いていただければ気持ちよさが実感できます。與謝野さんにもこの間お越しいただいて、歩いていただいたんですけれども、どんな感想を持たれたかはともかくとして、不愉快だねとはおっしゃられなかったので、安心してお連れしました。そういう状態です。
(図37)
  これは、100年の林です。ごらんになって分りますように、光が非常にきれいに入っています。
(図38)
  これは、雨の直後です。2つの写真は全く同じ場所じゃないんですけれども、連続した林です。こちらがちょうど時間雨量50ミリ雨が降っている最中です。いつも水の無い川なんですけれども、一気に水が出てきます。ご覧になって分りますように、一気に水が出てきますが、流れの中の川底に石が見えるのが分ると思います。つまり、森林管理を適切にしていたら、1時間に50ミリ雨が降っても、土は流れてこないということです。山が崩れることもあります。それは、誰が悪いのでなくて、神様がそこを崩したんですね。
(図39)
  私どものヒノキというのは、そういう環境管理をやりながらでも、かなり高い評価を得ています。これは林業の部門、木材部門の話です。基本的に比較的土壌のやせた所で木を育てているので、目が混み合っています。年輪が細かい。細かいと言いながらも、先程見ていただいたように、高樹齢になっても、どんどん光を入れて、豊かな土壌が常にありますので、70年でも80年でも100年でも成長が可能です。そうすると、年輪の中心部と辺材部の年輪の幅が同じように育っていきます。そうすると、柱にしたり板に引いたりした時の木のおとなしさというのは、天然の木と比べても、より一層安定して美しい板になります。木の場合は色だとか様々な好き嫌いがあるので、どれがいいとか悪いとかいう世界ではないですが、多分、人工で育ててきたヒノキで、いい木の中では常にベストテンの中に入っている木だと思っています。
  10年前に比べると、今は値段が3分の1ぐらいです。ファンドで大成功した方をよく存じ上げていて、去年「ヒノキ安いですよ。家を建てるのでしたら、今ですよ」と言いました。ついこの間お会いしたら、「いや、あの時に君に安いと言われたので、ヒノキを思いきりぜいたくに使って家を建てたんだけど、安いね」と言われた。お礼を言われながら、すごく悲しい思いをして、「やはりそんなに安いか」と思いました。あれだけ儲けている人だったら、私が売ったんじゃないですけど、もっと材木屋は取ってやればよかったねと思いました。
  このような環境的な配慮をしたからと言って、木が悪くなるわけじゃない。環境的配慮をしても、適切な管理さえやっていけば、それなりの木になります。
(図40)
  もう1つ面白いのは、ライフサイクルアセスメントをやってみました。結構まじめに、スイス連邦工科大学のやり方でやってみました。日本の木材素材が1立方生産するのに1303メガジュール。速水林業の生産ですと、692メガジュールということで、エネルギー量は約半分。CO2の排出量が約6割以下で木材が生産できるというのが判ってきました。
  計算をすると、1年間で木材生産によって排出される二酸化炭素の16倍である3200トンを吸収しています。
  この日中友好会館から出ていった所に、ちょうど東京のトヨタの本社がありますが、以前全国のトヨタの環境関係の方が集まられた場所で話す機会がありました。「トヨタに唯一私が自慢できるのはCO2の吸収量ですと。トヨタが頑張って排出量の削減はできても、吸収できるわけはないでしょう。一生あなた方は私に追いつきませんよ」と自慢をしたら、やられましたね。「今トヨタは、何億年か前の資源を使って1兆円の利益を出しているけれども、将来は今年生産したもので同じ利益を出す努力をしています。その時は固定しますね」と言われて、一本取られました。
(図41)
  あと、地元で木材というのは、なかなか売りにくいものになってしまいました。特に私どものように高品質の木材を作る者にとっては、木材を材料としてではなく、原料として使う動きが強くなってきた。木材の表面の美しさ、年輪の美しさ、木に触った時の違いが同じヒノキでもあるんですね。
  我々のヒノキと備州のヒノキとは違う。高知のヒノキと我々のヒノキは違う。例えば私どものヒノキは、密度が0.42から0.48ぐらいです。ケヤキで0.69ぐらいです。普通のヒノキは0.38ぐらいです。普通のヒノキよりかなり堅い。そういう違いは、今の一般的な建築ではほとんど評価されません。それが評価される売り方をどうしていくかというので、地域の人たちとグループを組みながら、流通を単純化して、私どもの森を消費者に理解してもらう。そして完全なトレーサビリティー、つまりどこの山でいつ伐ったかも証明できるようにしました。そして、価格は、適切な森林管理ができる金額で売るという目標を持っていますが、価格部分はなかなか実現しません。しかし、我々はこういう手入れをしているから、この値段で買っていただきたいという話をしながら、強度の問題、乾燥の問題、性能表示も含めて使いやすいようにして、提供していく。すると、森林の問題について話が出来て少しでも理解してもらうことができます。そんなグループを作ってやっております。
(図42)
  私は、日本林業経営者協会という組織の会長をしています。全国の民有林の組織ですから、ここで国産材の優れた点を言わなければいけないんです。例えば、ホワイトウッドという皆さんよく使われる木があります。これの耐久性の悪さは証明されています。いろんな所で問題も起きています。実はホワイトウッドという木は、ヨーロッパに行ってもないです。実は材木の名前で、樹木の名前ではありません。単に「白い木」です。ヨーロッパの針葉樹の林業の、主要樹種は2種類の木です。トウヒとモミで、それらの木材が白いのでホワイトウッドと呼びます。主力はトウヒで、モミは一部です。両方とも、日本では外壁にはほとんど使われない木です。今まで日本では余り構造用建築材料では使われなかったのが、強度だけは大丈夫ですし、集成材で使われたので精度が高くて使い易く、この10年ちょっと前から一気に構造材に使われるようになりましたが、昔から日本の大工はモミやトウヒは内装以外にまず使うことは無かった木です。ホワイトウッドという名前になって、輸入されて使われやすくなった。しかし、特に湿気や水に対しての耐久性は非常に低い木材で、白い色と腐り易い性質を使って、お棺や蘇東坡に使われたりしました。
  スギやヒノキの耐久性の良さを是非とも理解をしていただきたいと思います。最近はご存じのように、耐久財としての住宅というのが注目される部分が出てきた。どんな木を使っているか、というのを評価してもらうようにしたいなと思います。

6.木材を使う

(図43)
  この建物はトレーサビリィーを効かせて、この間造られた県の建物です。アーキビジョンの戸尾先生が設計されました。実は同一部材、同一断面。13.5センチの柱だけで1000平方メートルの建物を連棟で2棟建てました。2月10日にオープンしましたが、この場合も、木の納入は1本1本全部ナンバリングしました。この間まで私は、森林組合長をしていましたが、その時、森林組合が納材しました。この木は全部どこの谷で伐られたか、どの製材で引かれたかというのは、県に納材するまでは番号でトレーサビリティーを効かせました。地域の木材と言われたので、どこの混じり気もない100%地域の木だけで造りました。6700本ぐらいヒノキの柱を使いました。約1万本の木を伐って、6700本を選んだという苦労した建物です。
(図44)
  建て方は、リングを木の間に入れてずれをなくして、接着剤を使わずに柱をボルトで留めて束にしていくというやり方です。強度が要らない所は真ん中を抜いて軽くする。柱も横架材も全部、同じ13.5センチの木の集まりで建てました。
(図45)
  内装は要らないわけです。構造がすべて内装に変わっていくわけです。
(図46) 
  木材としての木でこれから見ていかなければいけないのは、耐久性だろうと私は思っています。耐久財としての住宅と考えた場合に、耐久性がしっかりした木をどこに使っていくか、耐久性の悪い木をどこに使っていくか、そういう判断が要ると思います。この表は、耐久性D1と言われる、一番耐久性があるといわれる木の表ですが、特にこの中で赤文字はD1よりもさらに強い樹種だと言われております。
  そういうものを耐久性の必要な所に使い、そしてホワイトウッドのように、きれいでペンキ乗りがいいものは、そういう目的に使っていく。そういう誠意ある木の選び方が、我々から見ると最近は余りないと思っております。
(図47)
  当たり前の話ですけれども、木は腐ります。大体含水率が15%以下ぐらいだと、木が腐る原因の腐朽菌というのは繁殖しないと言われています。それから、こんなことは建物にはあり得ないのですが、150%以上の含水率になると、これまた腐らないんです。だから、木場では昔、水中貯木というのをやっていたわけです。
  京都の東本願寺。あそこの御影堂に使ってあるケヤキは、新潟県から信者がずっと日本海を南下して、山口県の先っぽを回って大阪まで持ってきて、そして届けた巨木です。東本願寺が建てられたのは明治の初期です。その時に村に木がない。ところが、ある沼に木が埋まっているという言い伝えがあった。みんなで掘ったら、巨木が出てきたわけです。洗い出したらケヤキだった。それを寄進したという話しです。
  それを、放射性炭素年代測定法で年代測定をしたら、1950年前に生きていた。1950年前ですから、弥生時代に生えていた材木が御影堂に使われているということです。ケヤキは1000年は生き続けないし、いつ伐られたか判らないが、伐られた後は土の中に埋まっていたのでしょう。つまり、水の中にずっと浸かっていて、今は東本願寺の上に使われている。さすがに材質が大分傷んでいたらしく、当時の棟梁が鉄で巻いて補強してあります。当時まだ少なかった鉄を使って強化して、麻で巻いて、うるしで固めて、そのうるしに年輪が書いてある。ですから、知らないとこれを見れば普通の木に見えます。ともかく150%水があれば腐らない。1000年生きていて、何百年かはその沼に埋まっていたんです。もっと感動するのが、それを引っ張り出したのが女の人の髪の毛です。髪の毛を編んで持ってきています。信仰というのは恐ろしい。それと忘れてならないのは、この東大寺御影堂の改修は日建設計が担当されていますね。さすがです。
  あと、熱に関しては、コンクリートも木も熱容量はあまり変わりありません。しかし、木は熱を伝えにくいので、触った時に、手に優しい、冷たくない。あるいは水を吸収するので、結露が起きにくい。腐るということ、温かいということ、その辺をもっと使いたいなと思っています。
(図48)
  先程言ったホワイトウッド、これ、実はスプルース・ファー、日本語に直すとトウヒとモミです。ホワイトウッドという名前になって使われる。特にオーストリアから入ってくるホワイトウッドは、モミが多く入っています。あるいはレッドウッドなんていう木は、今は欧州赤松です。ついこの間までは、レッドウッドはセンペルセコイアだった。あるいは、SPFという木はスプルース・パイン・ファー。何種類かの木の集まりです。SPFという木は、世の中にはないです。だから、設計書の中にSPFと書いたらどの木が使われるか判らないです。パインを使われた場合は幸せです。ファーを使われた場合で、湿気が多ければ早く腐っていきます。
米松は松ではないです。ダグラスファー。日本でいうトガサワラという木です。米ツガ、ヘムロックですね。純粋なピュアヘムロックの木は、高過ぎて日本の商社は余り買いません。 大体ミックスというのを買ってきます。ほとんどは、3割ぐらいモミが入っています。それがヘムロックと称してマーケットに出てきます。木というのは、見かけだけの名前が物すごく多いんです。
  最近、魚とか農作物はちゃんとした名前あるいは産地を証明しようという話になっていますが、食べ物は安全でさえあれば、食べてしまえば終わりなんです。淡水魚のティラピアがイズミダイとチカ鯛とか呼ばれた時期がありましたが、イズミダイだってティラピアだって、おいしくて食べてしまえば終わりですが、建築というのは、腐るか腐らないか、強いか強くないかはとても重要です。だったら、なぜ木の種類まで気にしないんだろうというのが、林業の現場から見ると不安だし不満です。行政の人がもし、これ知っていてチェックしないのだったら、それは国民だましていますよね。JAS規格も木材に関してはもう少し消費者に親切な表示が必要という気がすごくするんです。輸入業界に引っ張られているような気がしてしようがないです。
 

7.弱者を痛める違法伐採

(図49)
  さっき、違法伐採の話を少し申し上げました。
  違法伐採で何が起こるか。木がなくなると、まず弱者が困ります。目の前に森があって、暮らしている時は、燃料はそこから取ってくればいい。日本だけではないですが、木を買う人が、木をこれだけ欲しいと言われると、土地のバイヤーが木を買いに行きます。当然、そこの政府は地域の人の同意を得なさいと言うわけです。これはみんな言うでしょう。ところが、地域の人は、森が見渡す限りなくなってしまう現状は絶対考えられないですね。森を伐るのは、家を建てるのに必要な木を伐る。船を造るのに必要な木を伐る。そういう木の伐り方はあっても、限りなく伐ってしまい、見渡す限り森がなくなることは考えられない。それで、木を伐るのを大体認めちゃうんです。そうすると、燃料がなくなります。56%燃料に使われているという燃料がなくなる。途端に、貧困が始まるんですね。
  開発途上国で、薪や水を運ぶ女性のいる所に行かれた方いらっしゃるかもしれませんが、不思議ですよね。男性は必ずたばこ吸ってボケッと座っているんですね。昨年ケニアに行きましたが、街角で座っているのは男性です。たまに酒も飲んでいます。働いているは女性です。子どももそうですね。男の子はサッカーしているんですけど、女の子は薪集めや水汲みに行っている。女性はヘルニアになったり、子宮脱肛になる。子宮脱肛なんて悲惨ですね。先進国では子宮脱肛になると痛くて大変だというぐらいですが、それでも大変なのですが、開発途上国では、発病すればそれで社会生活は送れなくなります。子どもに至っては、女の子がこういう仕事に携わると教育の時間を奪われてしまう。だから、知識を得るチャンスがなかなかないので、多産系はともかく終わらないんですね。常に多産になってしまう。若い時に結婚して多産になってしまう。貧困からの脱却ができない。
(図50)
  森林違法伐採。日本は8割の木を輸入しています。そのうちの2割が違法だと言われる。10本の外材を使ったら、2本は違法だと思って間違いない。その結果、何が起きるか。これは、ポピュレーション・アクション・インターナショナルという組織の報告書ですが、1999年、「森林と女性」という報告書を書いています。外では、女性の人権保護という視点で森林破壊を見る事はあまり無いので珍しい報告書です。森の破壊というのは即、弱者を痛めつけるパターンになります。女性の教育の問題、健康の問題、そして農地に本来還元されるべき家畜の糞だとか、農作物の残滓を燃料に使ってしまうために、農地がより痩せていく。あるいは、それを燃やすがために呼吸器疾患になって、家族全体の健康が損なわれる。
  そういう意味では、我々が何げなく使っている木材や紙類の産地や、森林管理を、我々が意識しないがために、こういうことが起きてしまっている。

8.適切な森林管理と社会性のある木材使用

(図51)
  今ここに来る前に、飯田橋でここのWTRN(温帯雨林ネットワーク)という森林保護団体の関係者に会っていました。これは私が撮りました。彼と一緒に山の中に入って、本当に横にクマが出てくるようなところに5日間程、テントを張って暮らしていました。アラスカの伐採現場です。アラスカトウヒです。大体数百年から1000年の木を伐って、半分ほどが日本に入ってきています。寺社仏閣の建築あるいは高級な和室の内装に使われ、アラスカヒノキとかアラスカトウヒと呼ばれています。大体、1単位1000ヘクタール、ちょうど私の経営をまとめて全部伐っちゃう形です。
  先住民の方々を含めて様々な立場の方が反対をしています。それを、今のアメリカの政権が許可をしている。違法ではないんです。しかし、非持続的な伐採です。温帯地帯の先進国の森林では一番問題になっている伐採の一つです。
(図52)
  そういう持続性を持たない森林管理というのは、一体何を起こすのか。地域の資源を搾取してしまう。将来世代への資源を搾取してしまう。利益を得る関係者が、森林周辺住民から生活基盤を搾取してしまう。非持続的森林経営からの木材を使うことは、それに加担してしまうことになります。結果的に、今、日本はグリーン購入法で、政府の購入木質系の品物に限っては、違法ではないことを証明することを要求しています。多分近い将来、木材の場合は県レベルまではグリーン購入が動くんだろうと思います。
(図53)
  今、そういうものの解決方法として、森林認証、特にFSCという認証があります。これは、私が日本で最初に取得したのですが、そういう認証をされた木を使う環境を配慮した消費行動だということです。

9.FSC森林認証

(図54)
  森林認証というのは、第三者に公開された基準に照らし合わせて評価認証していく制度です。幾つかの認証制度が世界にあります。一応、今、グローバルスタンダードで、環境保護団体のサポートが一番強いのは、このFSCです。
(図55)
  先程の持続的森林管理と一緒ですね。環境保全、社会性、経済性、それを全部確保したものを、FSCのロゴマークを付けて消費者に使ってもらう。森林保全を、森林管理者から消費者に至る関係者を一体化して保全をして行こうということです。
(図56)
  仕組みとしては、ドイツのボンのFSCの本部が認証機関を認めます。そこが森林をチェックをして認証する。もう1つは、加工流通業者をチェックして認証して、認証された森林から出てきた木材を、他と混ぜないようにして消費者に渡していく。これは紙も一緒です。
(図57)
  メリットは、基本的には、このFSCのものを使っていくということで、環境リスクの回避が一番大きいですね。ビジネスとして考えた場合は、もちろん環境倫理みたいなのは非常に高いです。環境リスクが回避できる。
(図58)
  私は、「FSC−FM/COC−00155P」という番号を持っています。この番号をFSCの検索サイトに入れますと、ズラズラッと私のデータが出てくるということです。
(図59)
  実はチャールズ王子は、このFSC認証を自分の森林で取られた。王室が森を持っています。また、英国は面白い所で、森林認証ではどこがいいのか、という評価を国がして、FSCとCSAというのが英国政府を満足させる保証を出していますよということでした。
(図60)
  例えば家を造る、あるいは家具を造る。今まで、地域の木材あるいは日本の間伐材を使うという言葉がよく使われていました。それはあくまでも、森を造る人から家を建てる人までの上下の流れができる。国際的な認証制度というのは、一体何が確保できるか。世界の原生林が守られる、人々の人権が守られる。このように視点が広がっていくということです。
(図61)
  これは、FSCのポスターです。私は、森林管理というのは本当に人との関わりだと思っていますので、ここに書いてあるピープルマターという言葉には、納得するんです。
(図62)
  ピアーズ・ブロズナーと、ジェニファー・ロペスです。何年か前に森林認証のプロモーションでジェニファー・ロペスが来ると言われたので、私はすべての予定をキャンセルして、フルアテンドしましょうと言って、ニコニコして待っていたら、予定が狂って来なくて、今思っても悔しいです。私も、その時はもうちょっと若かったですから。
  海外では、結局、彼らのように有名な芸能人が、森林問題に関して保護活動にしっかりとサポートして下さっている。このような動きと比べて、日本の産業界の人たちは、森林管理の必要性あるいは持続的な森林管理の必要性、違法伐採を憎む気持ちが、薄いですね。特に木材を使う人たちは、最もこのようなことを意識すべきなのですが、責任感のなさは、世界の先進国の中で飛びぬけていますね。どこの国にも、そのような人はいるものですが、日本の木材輸入に関わる人々の大半は、問題を正面から見ようともしませんからね。一番恥ずかしい問題だと思っています。
(図63)
  認証は、こういうラベルを付けて分けるようにしています。
(図64)
  私は森林管理の基本として、「最も美しい森林は、また最も収穫多き森林である」、という考え方を持って森林管理をしています。これは、アルフレート・メーラーというドイツの学者で、「恒続林思想」というのを書いた人の言葉です。ともかく美しい森林を造る、それによって収穫を上げていきたいと常に思っています。
ご清聴、どうもありがとうございました。(拍手) 
 

 

 

 フリーディスカッション
 
與謝野 ありがとうございました。
  森林の経営について、大きくは地球環境維持のお話から、地域スケールの山林の育て方、そして身近なスケールでの1本の木の育み方とその結果としての品質に至るまで、具体的な事例を数々挙げられての大変わかりやすい貴重なお話を頂きありがとうございました。
  お話の中で速水さんが育てておられる森林の景観の件が出ましたが、確か私が速水さんの山に入った際に、その景観の素晴らしさについて感銘を受けたことはお話したつもりです。ただ、速水さんからの口から素晴らしいという表現は言い出しにくいと思いますので、私からこの場で少し解説しておきましょう。
  皆さんご存知の方も多いと思いますが、森林に入って空が全く見えない、暗い鬱閉林というのがありますね。中に入ると、薄暗くて足元には下草すらない林。そういう環境と先日お訪ねした森林とを比較しますと、圧倒的に美しい景観なんですね。何が美しいか、それは陽光がスギ高木だけでなく、中木の照葉樹、さらに足元のシダ類、そしてその下の腐葉土全てに燦燦と指し込んでいて、それは誠に慈愛深い日差しに感じられ、如何にも高木・草花類が生き生きとして息づいている、その森林の姿が誠に美しかったのです。ご紹介のあったメーラーの言葉どおり、「美しい景観は多くの人々に利益を与える」と言いますが、まさにその通りの森林でした。ここでいう利益というのは、育てられた木々の高い品質という利益もあるし、潤いある環境を地域に提供する精神的・形而上的長所もあれば、大気がきれいになり、また微生物・動物類を含めて生物を活かす水環境が整う、地盤と地質が安定するという利益もあります。これらを目の当たりに見せつけられた、という思いでございました。
  この素晴らしさを、育成している当事者の速水さんご本人から口にするわけにはいかないでしょうから、私が代わりまして、敬意を表しつつ解説をさせて頂きました。
  それでは、時間が少しありますので、せっかくの機会ですから、会場からご質問を2〜3お受けしたいと思います。
水谷(日本上下水道設計梶j FSCをいただく基準は、環境保全の点から見て適切な管理。それから、社会的な利益にかなう管理、経済的にも継続可能な管理と書かれておりますね。非常に抽象的なことしか書いてないんですが、こういう基準をいただく時には、大抵ガイドラインとか基準みたいなものがもっと細かく定められているのではないかと思うんです。その辺はいかがですか。
速水 非常に詳しく、10の原則と52の基準がございます。またそれぞれの認証団体の特徴も少しずつありますが、厚さ3センチぐらいの本になっています。それだけ1つ1つ森林管理に関してチェックがあるということでございます。
水谷(日本上下水道設計梶j 大体どういうふうな基準があるんでしょうか。
速水 私が日本で初めて取った時には、日本では当たり前のようなところは当然あるんですね。計画性がちゃんとあるかとか、林業経営の意向。森というのは成長が一定なんですね。例えば、私の森が1000ヘクタールあると、そこから成長していくのは、年に5000立方という数字は決まっている。私が何を逆立ちしたって、肥料でもまかない限りそのくらいしか成長しない。それ以下に、どう伐採量を抑えてやるのか。経営的に木の値段が安くなったし、伐りたいなと思ったら、それを増やし伐ることはよくあるわけです。そういうことはしてないかとか、もっと細かいところで言うと、先程少し申し上げましたように、枯れた木を残す計画は作ってあるかとか。結構困るんですよ。日本の場合、枯れた木が山にできないように、我々は計画し尽くしているわけです。でも、枯れた木を残す計画を作れとか言われる。
  例えば、雇用している場合に、私ども従業員を直接雇用している場合もあれば、何かの仕事だけ請け負わす場合もあるわけです。そうすると、請負人と我々の直接雇用している人たちの給与の差が余りにも大きいと、それはちょっとおかしいよというのもあります。
  極端にいうと、グローバルなスタンダードなので、非常に面白いんですが、ある別の地域では、外国人が最初に「奴隷使ってない?」と聞くんです。(笑)私どもは、そんな経験はもちろんないです。実際に森林管理は、そういう世界なんですね。「奴隷使ってない?」って聞かなければいけないような状態が各国にある。そういうものを排除していく、という仕組みになっています。そんなかなり細かいところまで聞きます。
政田(エムアンドエー梶j 国産材を使っている者です。千葉の山武スギの問題です。あれはクローンスギということで、ある森林に病気が発生しますと、一斉にその周りのスギが駄目になって、使い物にならないということで、千葉県も大分お困りのようです。他の地域で似たような事例があるのかどうか、教えていただきたい。
速水 クローンスギは、さし木で増やしてしまいますから、親の性格が全部あるわけです。その手の木は、おっしゃられた事例というのはよくあります。虫が発生すれば、どの木もその虫に弱いので、一斉に発生します。後ろの方に私の地元出身の方がいらっしゃるんですけれども、そのお宅が持っていた山がその虫にやられて私が見に行かされたことがありました。どこでもあります。
  ただし、それが発生する原因は、クローンだからこそ発生するんじゃなくて、どこかにその虫を誘引する、あるいは、病気を誘導する原因があるんです。それをどう排斥していくかというのがクローンの森林の努力だと思います。九州なんか全部クローンです。
  簡単に言えば、いかに健全な森を造っていくか。人間もそうですね。ちょっと病弱になって体調を崩したというと、またほかの病気が襲ってくる。もちろん、健康で絶対壊れないような人でも、お体悪くすることもあるんですけれども、基本的には山自体をいかに健全に持っていくか。それが今日、私が申し上げさせていただいたような間伐を、今まではよりしっかりやりましょう。例えばヒノキ、スギだけで森が成り立つわけじゃなくて、そこに生えてくる広葉樹とか草、足一歩踏み出すと、森の中には靴跡の下に大体5000から1万の微生物がいると思っていただいて間違いないです。そういうものの総合が森なんですね。そこに象徴的に見えているのがヒノキであったり、スギであったり、広葉樹であったりするだけであって、本来森の姿はそういう命の集まりなんですね。それをいかにうまく健全に循環させて行って、命の動きが森を生かしていくか、そこで何を収穫するかという判断だと思う。海みたいなものと考えていただいたら結構だと思います。
生田目(大木建設梶j 森林には関心があるんですけれども、普段そういうところに行く全然機会がないまま、こういう機会があったので、寄せてもらいました。そういう人間が日常的にというか、新聞紙上で見聞きすると、何か林野庁のやっていることがとんでもないことであるように見えるんですけれども、速水さんがやっていらっしゃるようなことが広まっていけば、まだ希望があるのかなという気がするんです。日本全体として見た時に、そのあたりのことはどういうことになっているのか、あるいはどういう展望を持っていらっしゃるのか、お聞きしたいんですが。
速水 日本全体を見ると、やはり森林管理の中で、2つ問題があって、1つは、木材が非常に安いがために、森林管理に対し魅力をみんな感じなくなってしまったというのがあります。先程、内部利益率の表をお示ししましたけれども、あの問題は、プラスマイナスゼロ%、つまり1000円入れたら1000円返ってきちゃうわけですね。補助金を入れても、プラスマイナスほとんどゼロに近いわけです。日本の森林管理の補助金のインセンティブが効かなくなってきているんですね。林野庁がやっていることが、とんでもないという議論はあるんですけれども、一番困ったのは、補助金を入れても、1000円のものが、補助金が入って2000円山に投資されて、それが幾らかに返ってくればいいんですけれども、補助金を入れたって、結局1000円のものは1000円しかならない、あるいは900円にしかなってこないので、誰もお金を入れないわけです。今そんな状態が起きているわけです。経営的にインセンティブが出てこない。
  森林というのは、例えば、ここに100年の山があるとします。この100年の山を造ってきた技術はみんなわかっているわけです。ずっと持っているわけです。ところが、100年の山を造っていても、経営が厳しい。森林管理がうまくいかない。そういう証明にもなっています。だからと言って、この100年の山を育ててきた技術をガラッと変えてしまう勇気が、なかなか日本中に出てこないのですね。
  だから、管理の合理化がなかなか進まないです。林野庁自体も、そういうところはどうにかしなきゃいけないという工夫はしているんですけれども、補助政策を前提とした限り、皆さんの税金を投入する時に、いかにそれが正しく使われているかというチェックが当たり前のように要るんですよ。それをやろうと思うと、こういう作業をしましたか、こういう作業をしましたかという作業ごとにメニューをきっちり書かないと、皆さんに証明できない。そうなると、そのメニューが今までやってきたやり方でやらせようとするんですね。そうせざるを得ない。
  日本は、この20〜30年間、森林管理の技術は何も変わらなかった。そういう意味で、林業経営が非常に苦しくなって行ったというのが現状です。
  もう1つは、農業なんかもそうなんですけれども、私は、先程、1000ヘクタールで林業経営の中では、中の下だと申し上げた。ところが、多数の森林所有者はもっと小さな所有者なんですね。そのような所有者と林業経営をやろうとしている人と、全てを一緒にどうにか高めようとしたのが林野行政なんです。農業も一緒です。それがもう無理なんですね。つまり、資産的に持っている人たちの最低限の森林管理のやり方と、あるいはより積極的に森林管理する人たちの森林管理のやり方は、分けて考えていかないといけない。そういう問題がもう1つあります。
  とんでもないことをやっていると言われているところは、多分、国有林の話なんですね。日本の森林管理の部分は国有林の部分と民間が持っている私有林、あるいは民有林といわれる部分がある。ところが、表に出ていく議論はほとんど国有林の議論が出ていくんですね。国有林がうまくいった、まずくなった。実は国有林というのは日本の森林管理の中で4割ぐらいしかない。残りはみんな民有林なんです。
  林野庁のベースにあるのは、自分たちの心のふるさとは国有林なんですね。そういう意味では、民有林政策はどうしても手抜かりになってしまう。そういうのも現実としてあるのではないかなと思っています。
  ただ、国有林だけでなくて、林野庁も今、大きく舵を切っている最中だと私は理解しています。ところが、この船が大き過ぎるんです。ちょっとガタが来ていて、転舵をしているんですけれども、ギシギシと、やっと方向が変わりかけてきたかなという状態です。ひょっとしたら、舵を切り終わった段階で船が沈没するかもしれないなという状態もあるし、もうちょっと早く舵を切って波をうまくかわして、先程おっしゃったように、森林問題を意識して下さる方々の意見を追い風として使う方向に向かわなければいけないな、という心配があります。
  奥多摩も素晴しい林業地です。東京から近いですから。あるいは千葉だとか埼玉の近くの山に、まず行っていただいて見ていただければ面白いと思います。
長谷部(みずほ総合研究所梶j 今のお答えで大体わかったんですが、お話をお聞きしていて、日本の生態系のもとで針葉樹を山林として管理する技術というのはこれだというのが、理論的にも技術的にもほぼ確立できていると、私今、受けとめたわけです。それでは、何故それが広まっていかないかということをお聞きしたかった。今、お答えいただいたんですが、それでは、その中で制度として、仕組みとして、これは真っ先に確立すべきだ、と今お考えになっておられるものとして何が一番大事か。今、やるべきことは何なのか、そこを教えていただければありがたいです。
速水 国の制度として考えればいいですね。基本的には間伐をより強度にやる仕組みを制度上作ればいい。その時に考え方としては、今の補助金というのは、何をやるのにどのくらいの人をかけてやるのが正しいか、そんな発想の補助金制度なんですね。それも1つのやり方でしょう。そうやらないと管理が分らない人たちもいっぱいいらっしゃいますから。
  もう1つは、結果として森林がこうなることを目指して、それに対して、このぐらいのお金を補助してあげるから結果出してみなさいよ、というやり方もあると思うんです。私は、今、日本に求められているやり方は後者なんだろうと思います。農業なんかでもそうなってきています。EUの農業政策も2000年ぐらいから一斉に方向が変わって、ある目標に向かって交付金的なお金をポンとあげるから成果を出しなさい。その代わり、ある日突然、国は検査に行きますよ、あるいは地方自治体が検査に行きますよ、だから、約束したやり方は必ずやっておきなさいというやり方です。全く来ない場合もあるのかもしれない。
  そういうやり方をやって、その予算の効率化、生産の効率化を図っています。予算をもらって最大限努力をすれば、自分の入れたお金を少しでも減らすことができるようなインセンティブがうまく動き始めれば、ひょっとしたら変わってくるかもしれない、そんな感じがします。
與謝野 他にご質問がございませんようですので、私の方から一つお伺いしたいと思います。
  私、この前拝見した時に、確かに森林管理は「光の管理」だということを、目の当たりに見せていただいたんですけれども、その時に速水さんが、「日本の木の育て方の哲学と西欧の育て方の哲学」とには違いがある。日本の場合は、あるところまでは手を差し伸べるが、ある段階からは自然の植勢に任せると聞きました。一方、西欧では完全に管理社会だということでした。このあたりの差異について、本日の講演の中でお話が出るかなと思ったんですけれども、今のご質問と関連して、ご紹介いただければと思います。
速水 日本の森林管理というのは、循環なんですね。あくまでも循環。自然との調和みたいなものがうまい。古い日本家屋だと思っていただければ結構だと思います。
  ヨーロッパでも、幾つか分かれるんです。旧大陸の林業経営、新大陸の林業経営と私はよく言うんです。例えば、イギリスとかニュージーランド、南アフリカ、アメリカの南部なんかもそうです。チリ、幾つかあります。そういう国は、経済林的な発想と環境林的な発想をスパッと分けるんです。イギリスのロンドンの周辺とかウェールズの森林に行くと、非常にきれいな森が続きます。イギリスの南部もそうです。
  ところが、スコットランド、あの有名なゴルフ場から北の方に行くと、人が入れないような人工林が延々続きます。ニュージーランドもそうです。ニュージーランドなんか、あんなきれいな森をつくりながら、まだ軽飛行機で、ベトナムで枯葉剤として悪名高い245Tという除草剤を撒いています。日本じゃ絶対使えないようなものです。その辺は、日本ではあり得ない感じなんです。
  私は、除草剤を使えるか現場で研究した人間の1人です。使ってみたい。一時使ったことがある。実は、世界中の林業の中で除草剤を使ってないのは日本だけなんです。日本人は、まずいなと思うと絶対使わない。除草剤を使わないのは、日本の林業の弱点ではあるんですけど。コンビニで売っているスポーツドリンクから、非常に厳しい、例えば、悪性の腫瘍をたたくような薬があるように、除草剤も、塩だって除草剤になりますし、撒いてその後に入ったら吹き出物が出るような厳しい除草剤もあります。そういう意味では、日本は自然との調和を非常に大事にした森林管理なんです。
  ですから、持続性のある森林管理の代表格は日本の森林管理だと思う。そこに環境的な細かい配慮を入れ、そして消費者の皆様が、森林管理、環境倫理的な木材需要をどう導いていくか、ということをそれぞれの立場で少しずつ考えていただくということが、舵を切る1つの大きなポイントになるだろうと思います。
  私は、FSCを日本に持ってきたんですけれども、山側から発信したのは世界で日本だけです。世界は、マーケットが無理やり山側にやらせているんです。ところが、日本のマーケットがほとんど動かない。
  アメリカ大使館が、アメリカの木をどう使わせるかという時に、アメリカの設計家を呼んで環境管理の設計をどうやるべきかというのを、木材のレベルからやるんです。アメリカ大使館の商務部が日本でそれをやるわけです。日本でそれをやろうと思うと、突然地域の木材だけに話が変わってしまう。私は、本来、設計のレベルはもっと広いレベルの議論があってもいいんじゃないか。もちろん地域材というのは大事です。そういうものを含めてもう少し、森林管理と木材の使い方というものがそれぞれの立場で、官民含めて議論がまともになってこないと日本の森林はよくならない。世界の中で、日本人は木材の消費というのに対して尊敬されない国民であることは間違いないわけですが、そのレベルをもう少し上げる方法はそんなにコストをかけなくてもあるわけです。これは意識の問題だろう。
  そういう意味では、こういう所で話をさせていただいて、大変嬉しいな、と私は思っています。
松井(松井一事務所) 今日のお話は、我々の根源的に大事なお話をいろいろお伺いできて、大変嬉しい機会だと思います。先生のご経歴その他、今、お話になったことは、これは文部科学省と通産省が深くかかわりがあると意識するわけでございますが、先生、いかにお考えですか。
速水 おっしゃられる通り、子どもの教育を含めて、森林管理、森との関わりというのは非常に大事だと思います。森を教育にどう使っていくかとか、そんな話は文科省もしっかりやっていただきたいなとは思っております。
  先程少し申し上げましたように、内閣で2月10日に文科省も含めて「美しい森づくり推進本部」というのをやろうというのが決まってきたらしいので、安倍さんがいいか悪いかは別として、「美しい日本」のかかわりで、「美しい森づくり」が進めばいいと思います。経産省も大いにかかわって下さるんだろうと思います。一時、経産省の中に、経産省森林局と言われていいぐらい森林に熱心な人が何人かいたんですけれども、出世して他の所にいらっしゃった。個人のところでは、そういう意識が大きいんですね。そういう意味では、文科省でも、特に経産省でも、マーケットレベルがみんなそういうものを要求してくるという方向にすることが、動かす1つの大きな形なんだろうとは私は思っております。
與謝野 ご熱心なご質問を多く頂きましてありがとうございました。
  国土の7割を占めている山林地でありながら、その維持管理の実情と先人の英知・ノウハウ等について、一般の方々が耳にすることは、これまでは殆ど出来ませんでした。しかし、今日のお話で、かなりそのような見えない領域の知見の数々について多く触れることができ、我が国の国土のあり方と将来等の基本的な認識について、まさに愁眉を開く思いをされた方も多いと思います。皆様におかれましては、日頃のお仕事の中で、本日のお話を少しでも資して頂ければ幸いであります。速水さん、ありがとうございました。
  それでは、本日、大変貴重なお話をいただきました速水代表に今後のご活躍にエールをお贈りする気持ちも込めまして、大きな拍手をお贈りいただきたいと思います。
(拍手) ありがとうございました。

 

 

 


 


 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

 

 



                                  

 


 

 

 



 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

 

 


 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

 

 


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