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第233回都市経営フォーラム

『 環境イノベーションによる新しい文化の創造 』

講師:  山本 良一 氏 東京大学生産技術研究所 国際・産学共同センター教授

 
                                                                           

日付:2007年5月17日(木)
場所:日中友好会館

                                                                            
1.加速から暴走へ向かう地球温暖化

気候リスク回避のための許容温度上昇幅は何度か

3.低炭素・循環・共生型社会づくりを国家戦略へ

4.環境イノベーションをめぐる内外動向

5.エコプロダクツ展示会とグリーン購入の国際運動

フリーディスカッション



 

 

 

 

與謝野 皆さん、こんにちは。それでは、本日の233回目の都市経営フォーラムを開催させていただきます。
  皆様におかれましては、お忙しいところ、また小雨降る中、このフォーラムにお運びいただきまして、また、長年にわたりこのフォーラムをご支援いただきまして、まことにありがとうございます。厚く御礼申し上げます。
  本日は、我々の身近な生活空間(部屋)から、住宅、界隈、町、都市、地域環境、さらに国土、そして地球環境というすべてのスケールにおいて、今、待ったなしの「イノベーション」、つまり「革新」ですが、それも科学技術分野だけではなくて、社会システム、経済システムさらには文化、ライフスタイル等々すべての分野においてイノベーションが求められている「地球環境問題の実情」について、現代におけるこの分野の第一人者をお招きして皆さんとともに学びたいと思います。
  皆さんにご紹介いたします。本日の講師であられます東京大学生産技術研究所教授の山本良一先生でいらっしゃいます。山本先生におかれましては、超ご多忙の中を本日のご講演を快諾いただきまして誠にありがとうございました。
  山本先生のプロフィールにつきましては、お手元の資料のとおりでございますが、「エコデザイン」あるいは「エコプロダクツ」、「グリーンネットワーク」等の事業や、例の「不都合な真実」の著者であるアル・ゴア氏との対談、さらには「1秒の世界」という非常にわかりやすい衝撃的な啓蒙書、この他テレビ、メディア等のさまざまな場面で非常に精力的にご活躍されておられ、ご存じの方が多いと存じます。まさに、現代を代表する地球環境問題取り組みの第一人者でいらっしゃいます。
  本日の演題は、ご案内のとおり、「環境イノベーションによる新しい文化の創造」と題されまして、暴走に向かう地球環境の温暖化の実態、そして最近のIPCC(例の政府間パネル)の作業部会の衝撃的なご報告をはじめ、環境イノベーションをめぐる国家戦略と国内外動向、そしてエコデザイン、エコプロダクツ、グリーン購入、そういった課題についての国際運動の展開の必要性等々について、具体的な事例と厳密な数値を交えての貴重なお話をいただけるものと楽しみにしております。
  それでは、山本先生、よろしくお願いいたします。(拍手)
 
山本 ご紹介いただきました東大の山本でございます。
  私は、東大の工学部の冶金学科の卒業でございまして、専門はもともとメタルフィジクス、金属物理をしておりました。従って、私の学生時代を知る方は、山本は金属物理の研究から環境問題へどうして移ったんだ、と言われることが多いわけでございますが、私は、物理を約15年ぐらい研究しまして、その後は新素材の研究に変わり、さらには環境問題、特に環境に配慮した製品開発とその普及ということに取り組んでいるわけでございます。
  都市経営フォーラムは非常に長く続いているフォーラムだそうでございますが、今日は、そこで現在一番ホットなところを話すように、というご命令でございますので、私の最大の関心である、日本の国家戦略を今まさに明確にしなければいけない、そこのところを詳細にお話ししてみたいわけです。
  特にこの1年間で、世界の情勢は一変したと言っても過言ではありません。今、日本は、ある意味で瀬戸際にある。この1カ月ぐらいが日本の将来の方向を決めてしまいかねないというところに、私たちが差しかかっているということを述べてみたいと思います。

(図1)
  私が一番力を入れているのは、環境イノベーションの振興とその普及というところです。これが私の主なタスクドメインなわけです。
  実は、この環境イノベーションを進行させて、それを社会に普及させるためには、その前提条件として3つの根本的な国家戦略がなければならない。
  第1は、日本の総力を挙げて、低炭素・循環・共生型社会の実現を目指すということを明確にしていただかないと困るわけです。特に、温暖化効果ガス、温室効果ガスをどのくらいに減らすか。私は、2050年までに現状に比べて8割削減する、そのくらいの国家目標を設定しなければ、到底欧米に太刀打ちして、さらに世界をリードすることは不可能であろうと考えております。
  2番目は、環境の可視化ということでございます。環境負荷、環境影響、環境的付加価値は、容易に目で見ることはできない。従って、私たち国民は、市場経済を通じて、環境効率、環境性能のより高い製品サービスを選択していくことが、非常に阻害されている状況にあるわけです。従って、環境情報の可視化、ユビキタス化を図ることが大事である。
  第3番目は、環境の経済化、市場化ということをやっていただかないと、ボランタリーな環境配慮行動、環境配慮経営では、到底長続きしませんし、効果も小さいわけであります。従って、環境付加価値を経済的に評価する、つまり、環境付加価値の高いものを私たちが高いお金を払って購入する、そういう社会経済システムの構築が緊急に求められるわけでございます。
  実は、この環境の経済化、市場化が、日本は欧米に対して決定的に遅れをとっている。このままでは、日本は世界的に孤立して、欧米あるいは中国の包囲網にさらされてしまう。そういう懸念が急激に強くなってきているわけでございます。
  従って、今日は、まず、現在の私たちの産業経済がもたらす様々な環境問題、特に地球温暖化問題によって、どれだけ我々が環境リスク、特に気候変動リスク、資源リスクにさらされているか。その破局がいかに間近に迫っているかということを、サイエンスをもとにしてお話をして、その問題の抜本的解決について議論をしてみたいと考えるわけであります。
(図2)
  それで、まず、大変恐縮ですが、ざっと地球温暖化問題のイロハ、基礎的な事項をおさらいしておこうと思います。
  まず、空気中に炭酸ガスあるいはメタンガス等が一切ないという場合を考えてみたいと思います。空気は窒素と酸素からできているわけですね。ところが、窒素分子も酸素分子も、2原子分子でありまして、この2原子分子は、分子運動によって双極子モーメントを持つことができませんので、実は電磁波を吸収、放出することができない。特に赤外線を吸収、放出ができませんから、窒素と酸素は温室効果気体ではないわけです。ですから、空気中に炭酸ガス、メタンガスが一切ない場合は、ボルツマンの法則を使って計算しますと、ご存じのように、地球の表面温度は、255K、マイナス18℃になってしまうというわけであります。
(図3)
  ところが、CO2(炭酸ガス)を始め、水分子(H2O)、さらにはクロロフルオロカーボン等、多原子分子になりますと、様々な分子運動の自由度がございます。3つの原子からできている分子ですと、様々な分子運動ができて、その結果、電荷分布の偏りが生じます。これが双極子モーメントを作り出し、この双極子モーメントによって電磁波の吸収、放出が起こり得る。これは炭酸ガスの場合ですが、そういうことで特に赤外領域に吸収体を持つ分子を、温室効果気体、あるいは温暖化効果気体と呼んでいるわけであります。
(図4)
  太陽放射、5780K、地球が255Kの2つの放射スペクトルでありますが、ご覧のように、この辺の所にたくさんの吸収スペクトルがあって、炭酸ガスがこの赤外領域の電磁波を非常によく吸収するというわけであります。
(図5)
  そういうことで、大気中に温室効果ガスがございますから、地球の表面に吸収された太陽放射から、地球の表面からさらに電磁波が宇宙へ出ていくわけですが、その一部がこの大気層にトラップされてしまうわけであります。
  それで、エネルギーのバランスの式を書きますと、地表+大気のエネルギーバランスと、大気層のエネルギーバランスの式を作って、それを連立させて解き、それに経験値を当てはめますと、地球の表面温度は、温室効果気体がある場合には、288K、プラス15℃ということになるわけです。
  ですから、先程のマイナス18℃と合わせると33℃の温室効果があるというわけであります。ここまでは、どなたも認めていただけるサイエンスの最も基本的なところなわけであります。
(図6)
  それでは、何が問題かと言いますと、非常に長い年月、わかっているだけでも過去70万年間は、空気中の炭酸ガスの濃度というのは180ppmから280ppmの間にあった。その間をゆっくり振動していたわけですね。ところが、現在は、380ppmぐらいに増えてしまっているわけです。非常に短い期間に、100ppm増えた。これがどういうことを地球の気候システムにもたらすか、これが現在の最大の問題になっているわけであります。
  今、お話ししたのは炭酸ガスですが、メタンガス、二酸化窒素、フロン、六フッ化硫黄について、その辺の本に書いてあるもので言いますと、炭酸ガスは寿命が100年と書いてあります。メタンは10年、二酸化窒素は120年、フロンは100年、六フッ化硫黄は3200年と書いてあり、100年間どのくらい地球を温暖化するポテンシャルがあるかを計算して、炭酸ガスを1とすると、普通その何倍かで地球温暖化ポテンシャルを表すということをやっているわけです。
  そうしますと、よく知られているように、炭酸ガスを1に対して、メタンガスが25倍、二酸化窒素は320倍、このCFC−12は8500倍、六フッ化硫黄は2万4900倍。特に地球温暖化ポテンシャルが大きいガスを削減しなければいけない、というふうに議論されているわけです。
  特に問題になるのは、長寿命の温室効果気体であります。六フッ化硫黄は 3200年と書いてありますし、二酸化窒素は120年です。実は炭酸ガスは 100年ではなくて、最近の研究では、何と3万年から3万5000年、空気中を炭酸ガスが漂うということが分かりました。それは何故かと言いますと、後で詳しく申し上げますが、炭酸ガスを空気中から除去するメカニズム、さまざまなメカニズムがございますが、その時定数が極めて長いわけです。ですから、一遍放出してしまいますと、非常にゆっくりとしか除去することができない。
  ですから、空気中に排出された炭酸ガスの処理の問題は、まさに原子力発電所から排出された核燃料廃棄物の安定処分の問題と同じに考えなければいけないということが、今、強く言われ出しているわけです。核燃料廃棄物の場合も、放射能の寿命が約1万年ということがありまして、大問題になっているわけですが、実はCO2も全く同じです。一遍放出すると3万年から3万5000年平均寿命があるということが、だんだんわかってきたわけです。
(図7)
  そして、その次の議論はと言いますと、長らく空気中の炭酸ガス、あるいはメタンガス等の濃度は、ある一定範囲をふらついていたわけでありますが、それを今、人類の産業経済活動によって増やしてしまった。そうすると、温室効果気体の濃度の変化に伴って、地球放射フラックスが変化をするわけです。それを放射強制力、レディエイティブ・フォーシングというふうに定義しているわけですね。
  このΔFというのが、放射強制力の変化でありまして、単位は、1平方メートル当たり何Wというので表します。プラスであれば地球が温まる、マイナスであれば地球は冷却する、と考えます。そうすると、ΔFだけ放射フラックスが変化したとすると、地球の表面温度はどのくらい変わるか。それをΔT0と置くと、それが一次のオーダーでは比例するというふうに近似いたしまして、ΔT0=λΔF、この比例係数のことを気候感度、クライマット・センシビリティーと呼んでいるわけであります。
  これまで、気候感度について、たくさん研究が行われてきたわけですが、コンピューターシミュレーションによれば、λは0.3から1.4の間であろうということになっています。それに対して、NASAのハンセン博士は、氷河期と間氷期の比較からλは0.75であろうと推測をしているわけであります。
(図8)
  これが標準的な物事の考え方なんですが、困った問題があるわけです。その困った問題というのは何かというと、放射強制力の変化、ΔFなんですが、これは非常にわずかです。どのくらいわずかかと言いますと、氷河期から間氷期、間氷期から氷河期というふうに、私の記憶では既に7回か8回、氷河期、間氷期を繰り返してきました。氷河期が10万年続くと、間氷期になって、大体1万年続いて、また次の氷河期に移っていく。
  その理由は、様々な学説が出ましたけれども、結局は、ミランコビッチという天文学者が提案した「地球の太陽の周りを巡る軌道が変化」と言われています。周期的に変化する。それは軌道の形の変化と地軸の傾きの変化と両方で変化が起きるわけですが、実は氷河期から間氷期に移る時に、その移るきっかけになる、地球の太陽の周りを巡る軌道の変化に伴う放射強制力の変化というのは、せいぜい0.25W/m2に過ぎない。それは覚えていただきたいんですが、0.25Wなんです。非常にわずかな変化。非常にわずかな放射強制力の変化がずっと続いていって、氷河期から間氷期へ変わってしまうということが知られているわけです。
  現在の温暖化は、どのくらいの放射強制力の変化で起きているかというと、今お話ししたものの10倍ぐらいなんです。ですから、2.2W/m2、3W/m2くらいの放射強制力の変化で現在の地球温暖化が起きている。
  太陽から来る太陽定数は1370W/m2ですから、太陽から莫大なエネルギーが来ているわけです。それに対して今お話ししたように、現在起きている200年の温暖化というのは、せいぜい2.5W/m2の変化で起きている。さらには、氷河期から間氷期に移らせるためのミランコビッチサイクルで、地球の軌道の変化に伴う放射強制力の変化というのは0.25W/m2に過ぎないわけです。
  そこで、何が問題かということですが、要するに雲なんですね。結局、太陽光線を地球が反射して宇宙へ逃しているわけですが、それは地球の表面に浮かんでいる雲が反射しているわけです。これをアルビードと言いますが、その反射率がわずかに変化すると、放射強制力が変化します。
  その式が、ΔF=−FsΔA/4です。ΔAというのが、反射率の変化ですね。つまり、雲が多くなって太陽光線をたくさん反射するようになると、地球は冷却化されるわけです。これは簡単に計算できますが、このアルビードが2.6%増加する。つまり、反射率が0.007変化したとすると、それに伴う放射強制力の変化は、−2.5W/m2になるわけです。というのは、Fsが大きいですから。
  だから、雲の量がわずか増えただけで、温室効果ガスがたくさん増えて、温暖化が進行したものを全部打ち消してしまうことになってしまう。ということは、非常に厳しい問題、議論になるわけであります。それなら、地球がどのくらい太陽光線を地球全体として反射しているかを精密に測定できるかというと、現状では精密に測定することができないわけです。つまり、2.7%のアルビードの変化を、今のところ、どうやっても測定できないので、最後までこの問題が、科学的な不確実性として残るわけです。
  ここが、地球温暖化の問題を複雑にしています。要するに、警告派、アラーミストというグループと、懐疑派、スケプティックスというグループが、この数十年激闘を繰り返してきたわけです。その理由は、今お話ししたように、温暖化が生じているか生じてないか、放射強制力の変化がどうであるかというところが、最後までまだ詰め切れない。測定精度が十分ではないわけです。

1.加速から暴走へ向かう地球温暖化

(図9)
  しかしながら、IPCCは第4次レポートを発表いたしました。この第4次レポートの主要な結論は、地球の温暖化が起きている、これは90%以上の信頼性によって起きているということです。しかも、地球の温暖化は加速している、ということを結論しております。
  さらに、過去50年間、20世紀後半以降の地球温暖化のほとんどの原因は、人間活動によって放出された温室効果ガスが原因であるということを、今回のレポートでは結論しているわけです。
(図10)
  これも確認になりますが、2001年に公表されましたIPCC第3次レポートの時には、その主要な結論です。すなわち、過去1000年間にわたる北半球の表面温度の変化と、観測のあるところは全球の表面温度の変化でありますが、それと各1000年間の空気中の炭酸ガスの濃度の変化という図がございます。それを見ますと、いわゆるホッケースティックという絵になっているわけです。
  地球全体についての観測データがなくて、ほとんど北半球のデータが多いために北半球平均になっているわけですが、ご覧のように、1000年前から地球の表面温度は一直線に下がってきて、19世紀以降、一直線のように上昇しているように見える。これがホッケー競技に使う棒、ホッケースティックに似ているところから、ホッケースティック論争というものが過去5年間全世界的に繰り広げられました。
  それはどういうことかと言いますと、たかだか130年ぐらいしか地球表面の気温の観測データはございません。従って、過去のデータはいずれも再現データなんですね。つまり、木の年輪の分布とか湖とか海の堆積物の分析から過去の地球の表面温度、特に北半球の表面温度を統計分析によって推測しているわけです。
  地球温暖化懐疑論者は、マンたちの研究結果は統計分析の仕方が間違っているということを主張したわけです。特に、ヨーロッパは、ご存じのように、11世紀〜12世紀にかけて中世温暖期と呼ばれるかなり温暖な時代があったということが知られている。もう1つは、今から400〜500年前に寒冷期があった。ところが、マンたちのデータを見ると、全くそれが見えなくて、一直線に気温が下がっていって、一直線に温度が上がっているように見える。これは分析の誤りであるという議論が起きたわけです。
  炭酸ガスの濃度の方は、グリーンランドあるいは南極に残っている昔降った雪を掘り起こして、その雪の中の炭酸ガスの濃度を調べておりますから、信頼性が高くて、間違いなくこういうふうに変化しています。
(図11)
  激しい論争になりました。そこで、昨年6月アメリカのナショナルアカデミーが独立委員会を設置して、両方の論文を精査いたしました。その結果、結論は、過去1100年間を見ても、現在の地球の表面温度は最高温度である。特に、過去400年間については、間違いなく現在の温度が最高温度である。基本的には、2001年のマンたちの結論は正しいということでした。ヨーロッパにおいては若干中世温暖期あるいは小氷期という寒冷な時代があった、ということは間違いない。しかしながら、これは北半球平均でありますから、平均すると、それが薄められてしまうわけです。
  そういう結論を下したわけでありまして、現時点、すなわちIPCCの第4次報告書においても、今度は過去1300年間を考えても、まず間違いなく現在が最高温度である。つまり、温暖化が起きているということを結論しているわけであります。
(図12)
  さて、これも基本的な知識の復習でございますが、地球大気の総重量を計算することができます。どうやって計算するかと言いますと、1平方メートル当たりにかかっている大気の総重量というのは、大気圧、1気圧、これを重力の加速度で割ってやればいい。それに地球の表面積を掛け算してやると、答えは5282兆トンということになるわけです。
(図13)
  これを使いますと、空気中にCO2が体積分率で1ppm増えた時に、その総重量を計算することができる。1ppmというのは100万分の1で、10-6なわけです。そうすると、CO21ppm、体積分率にして1ppmの総重量は、大気の総重量にCO2の分子量を掛けて、空気の平均分子量で割って、それに10-6、すなわち100万分の1を掛けてやればいい。答えは非常に覚えやすくて便利なんですが、80億トン。つまり、CO2が1ppm増えるということは80億トンの炭酸ガスが空気中にある、ということを意味するわけです。これを覚えておいていただくと非常に便利なわけです。
(図14)
  では、近年の世界のCO2濃度の変化はどうであろうか。WMOとか、様々な国際機関からデータが公表されております。これはWMO(世界気象機関)のデータです。縦軸がCO2の濃度、横軸が年度です。全世界の平均値です。全世界のいろんな所で測定したCO2の濃度の平均値がプロットされております。赤で見ますと、赤が振動していますね。振動しながらだんだん上がっていく、ということが見てとれます。何故振動するかと言いますと、北半球と南半球では陸地の面積が全く異なります。陸地の面積は北半球の方が大きい。陸地の面積が大きい、すなわち森林の面積が大きいわけですから、北半球が夏には非常に光合成が活発になって、空気中の炭酸ガスの濃度は下がっている。北半球が秋から冬になりますと、光合成が低下しますので、空気中の炭酸ガス濃度が増えていく。それで、こういう振動をしながら、平均的なCO2の濃度が増大して、現在では既に380ppmを超えてます。
(図15)
  問題は、毎年どのくらい炭酸ガスが増えていくかです。これは1年当たりどのくらい炭酸ガスの濃度が増えたか、各年度の増加量をプロットしているデータです。そうしますと、ここが1
ppm、ここが2ppmですから、ご覧のように、各年度によって空気中に蓄積されていく炭酸ガスの量は異なる、揺らいでいる、これは自然に変動しているということがわかります。
  1980年代は、大体5ppmちょっとぐらいずつ毎年増えていたのが、 1990年代に入りますと、1.9ppmぐらいずつ増えている。ですから、まさに毎年空気中に溜まっていく炭酸ガスの濃度は当然増えているということがわかります。現在は2ppm近くになっているといます。
  IPCCの第4次レポートによりますと、年間の増加率は平均して過去10年間は1.9ppmというふうに報告されております。
  そうしますと、CO2の年間増加量は、1.9に80億トンを掛ければいいわけですから、152億トンということになります。1年間に152億トンものCO2が大気中に蓄積されつつあるというのが現在の我々の産業経済の実情なわけです。
(図16)
  そこで、先程お話ししたように、CO2ばかりでなく、メタンやN2Oやフロンなど様々な温室効果ガスがありますが、地球温暖化を引き起こす地球温暖化ポテンシャルでいうと、60%はCO2からきています。だから、CO2を我々は問題にしているわけです。そうすると、年間152億トンのCO2を削減することができれば、我々はCO2に関しての地球温暖化問題は解決することができるわけです。
  我々は、年間、炭酸ガスを275億トンぐらい放出しています。そうすると、275億トンで152億トンですから、大体60%が空気中に蓄積されているということがわかるわけです。残り40%は、海と森林が吸収してくれているわけです。
(図17)
  産業革命以前は、CO2の濃度は280ppmです。現在は380ppmですから、過去200年間で空気中のCO2濃度は100ppm増えてしまったということになります。CO2の増加量は、100掛ける80ですから、何と8000億トン、空気中に余分に炭酸ガスを溜めてしまった。つまり、西郷隆盛とか勝海舟が生きていた頃に比べて、現在の大気の中には8000億トン余分に炭酸ガスが溜まっているわけです。
  これと同じような量を、メタンガスについても二酸化窒素についても、計算することができるわけです。これが最大な問題なわけです。
(図18)
  今、お話ししたように、ハンセンのデータを使うと、2005年で275億トン、1秒間に872トン、49万6000立方メートルの炭酸ガスが空気中に出ていっているわけです。
(図19)
  先程お話ししましたように、実はCO2というのは非常に寿命が長い。これは 10年前のデータですが、10年前の幾つかの論文の結論は、CO2というのは
100年たっても30%大気中に残る。500年後に15%、5000年後に 10%残るというふうに計算がされているわけであります。これはどうしてかと言いますと、CO2が海に溶けて、あるいは海で吸収されて、海水中のプランクトンに吸収されて、そのプランクトンが死骸になって海底に沈降していく、あるいは風化作用によって岩石に吸収されるとか、様々なCO2の除去メカニズムがあるわけですね。それが非常にゆっくりなために、一度空気中に放出してしまうと、なかなか除去することができない。
  これは、NASAのハンセンの使っている式でありますが、ここで時間0の時に、炭酸ガスを排出したとすると、それがどういうふうに除去されていくかという式なわけです。ハンセンが今使っている式は、CO2は500年後に22%残る、1000年後に19%残留する、こういう式を使っているわけです。
(図20)
  2005年に発表された最も新しい論文、デービッド・アーチャー、シカゴ大学の研究者の論文によりますと、大気中に排出された化石燃料起源の炭酸ガスの平均寿命は非常に長い尾を引いて、3万年から3万5000年の範囲である。そうすると、放出された炭酸ガスは1000年後に17〜33%、1万年後に10〜 15%。10万年後に7%大気中に残存する。しかしながら、一般の議論においては、人為的起源のCO2の寿命は300年と考えてやればいいでしょう、しかしながら25%は永久に残るということを考えなければいけない、そういうふうに言っているわけであります。
  そういうことで、このCO2、それから六フッ化硫黄等は非常に超寿命なために、ここで私たち人類は極めて重大な問題に直面したと考えざるを得ないわけであります。つまり、一過性ではない。一遍温暖化を引き起こしてしまうと、これはもう1000年後、5000年後の私たちの子孫、それから他の動植物の子孫に甚大なる影響を与えるということが結論されるわけであります。
  従って、地球温暖化の問題は、すぐ解決できるという問題ではなくて、子々孫々に至るまでこの問題と向き合っていかなければいけない。もう8000億トン空気中に余分にあるわけですから、この8000億トンがゆっくり吸収されていくとしても、あと5000年経っても空気中にその10%は残っています。そう思うと、非常に長期的に問題を考えなければいけない。
(図21)
  もう1つ、誤解もございます。それは氷河期がまた近づいている。我々は今、間氷期にいて、間氷期になってから1万2000年ぐらい経っている。いつ次の氷河期が来てもおかしくないところに来ている。従って、今のうちに地球を温暖化させておけば、次の氷河期が来た時に居心地がよくなっていいだろう、という議論があるわけです。実はこの議論は成立しません。
  それは、いろんな理由がありますが、まず第1の理由は、先程お話ししたように、地球の軌道、太陽の周りを巡る軌道運動の変化による放射強制力の変化というのは非常にわずかなわけです。つまり、0.25W/m2に過ぎない。ところが、我々人類が余分に空気中に溜め込んだ温室効果ガスによる温暖化のポテンシャル、その放射強制力の変化というのはその10倍を上回る放射強制力の変化を引き起こしているわけです。ですから、何人かの天文学者はもう氷河期は来ないと言っているわけです。軌道運動が変化しても、人類が余分に放出した温室効果ガスによって放射強制力がマイナスにならない、プラスのままだというわけです。だから、1つ目の考えは、もう氷河期はやってこない。
  2つ目の考えは、太陽の周りを巡る地球の軌道運動を詳細に分析すると、極めて周期的な運動をやっている。ですから、あと2万年から5万年は軌道運動の変化は考えられないということが言われています。その、主に2つの理由によって、当面氷河期はやってこない。ですから、氷河期がやってきて、現在の地球温暖化を相殺してくれるという楽観的な期待は成立しないということであります。
(図22)
  植林をすべきである。これはもちろん正しい方法でございます。何故なら、現在排出されている年間275億トンの炭酸ガスの3分の1は森林伐採からくると考えられているからです。ですから、植林をすれば良いというのは間違いがないわけでありますが、実は森林が吸収してくれる炭酸ガスには限りがある。これを、我々は考えざるを得ない。1年間に杉の木1本が固定してくれている炭酸ガスは、14キログラムに過ぎないというわけです。
  日本の年間アルミニウムのビール缶は約100億缶、1缶当たりライフサイクル全体で172グラムの炭酸ガスを出します。従って、日本では年間、アルミニウムの缶ビールの消費だけで、172万トンの炭酸ガスが空気中に出ていく。この172万トンを杉の木を植えて吸収させようとすると、1億2300万本の杉の木が必要になる。1億2300万本の杉の木を、さらに日本に植えると、私の花粉症はもっとひどくなるということになりますし、一体そんな場所があるのかという話にもなるわけであります。
  要は植林だけによって問題を解決することは到底無理だ、ということがわかるわけであります。
(図23)
  それでは、この放射強制力は、どれだけ地球を温暖化させるか、あるいは冷却させるかのグラフです。放射強制力の変化を各温室効果気体毎に見ていくわけです。これはWMOのデータです。2005年の時点におけるデータを見ますと、このブルーのところが、CO2起源の地球温暖化をさせる放射強制力の変化です。大体60%ぐらいはCO2が寄与している。さらに、20%ぐらいはメタンガス、二酸化窒素、フロン、その他の温室効果気体というわけであります。
  つまり、60%がCO2起源であって、そのうちの3分の2は化石燃料起源ということでありますから、実際には大体30%から40%が化石燃料起源のCO2による温室効果ということになるわけであります。
(図24)
  これは「気候科学2006、主要な発見」です。最も新しいデータを皆さんにご紹介しておきます。CO2の大気中の濃度は、ハワイのマウナロアの山頂で、 2006年12月、昨年の12月の段階で382.43ppmを記録している。増加のスピードは年間2.5ppmです。つまり、過去10年平均では1.9 ppmだったものが2.5ppm/年に増えている。さらに、2005年の確定 CO2排出量は289億トン。だから、今、年間のCO2の排出量は急増して、空気中に溜まっていく炭酸ガスの量も急増しているということがわかるわけであります。
  さらに20世紀の地球の表面温度の上昇は、IPCCの第4次報告書で、0.8 ℃。ところが、過去30年間の表面温度の上昇速度は10年間当たり0.2℃と言われています。ですから、100年で0.8℃が10年で0.2℃というところへ、今、スピードアップがされているというわけであります。
  これらを結論して、こういう観測データから何が言えるかというと、温暖化は確実に起きている。温暖化は加速している。それから、我々人類の産業経済活動に伴うCO2の排出量は激増している、というわけであります。


2.気候リスク回避のための許容温度上昇幅は何度か

(図25)
  そうすると、一体どのくらい気候の安定化のためにCO2を削減すべきであるか、それについて、我々は議論ができるわけであります。まず、60%減らすべきである。何故なら、現在排出されたCO2の60%が吸収されずに大気中に残っているわけですから、全ての国民、全ての市民は6割カットを目指すべきであるということが言えるわけです。
  ところが、それでは先進国は途上国に対して申しわけない。これまで大量に排出してきましたから、先進国は途上国よりプラスアルファしなければいけないということで、プラス10%。
  ところが、それだけでも駄目だ。それは何故かと言いますと、これから温暖化が進行するに伴って、実は海や陸地、森林のCO2の吸収能力が低下していくと考えられているからです。海が酸性化しますと、イオン平衡のバランスが崩れまして、CO2の吸収能力が下がります。陸地も温暖化に伴って、土壌とか森林の呼吸によってCO2の純吸収能力が減っていきます。さらに、ツンドラや海からCO2やメタンガスが放出されるために、60%の削減では済まない。つまり、吸収能力が減りますから、その分我々は削減量を増やさなければいけない。その分を大体10%と考えると、例えば、日本のような先進国の望ましい削減率は60+ 10+10で、80%ということになるわけです。これが8割ぐらいカットしないと駄目だという根本的な理由なわけです。
(図26)
  もちろん、詳細な計算がなされております。これはイギリスのコリン・フォレストの計算の結果であります。彼は、2030年に向けてグローバル及び英国の排出量削減の目標を計算しました。
  まず前提は、後で話すEUの気候ターゲット2℃。気温上昇を2℃以下に抑制するためには、温室効果ガスの濃度を炭酸ガスにして440ppm以下にする必要がある。現在のままで世界経済が発展すると、2℃の突破は2030年頃になると言っているわけです。
  自然の炭酸ガスの吸収量は2030年には、現在年間4GtCくらいから2.8 GtCへと減少するだろう。先程お話ししたような理由ですね。そうすると、 2030年の世界人口を82億人と仮定しますと、1人当たりの2030年の許容排出量は2.8GtCを82億人で割りますから、1人当たり0.33tC。現在のイギリスの1人当たりの排出量は3tCですので、それを0.33tCにしなくちゃいけませんから、結局、イギリスについては、2030年までに90%削減が必要だということを結論にしているわけです。
  現在の世界の排出量は7GtC/yですので、イギリスの場合はそれをやると、60%削減が必要だ、こういう計算をしているわけです。
(図27)
  地球の温暖化とは、全世界の表面の年間平均気温を平均したものが上昇するということですので、地球の表面に莫大な熱エネルギーが蓄積されてしまう。その結果によって、気候の激変あるいは気候の崩壊を招くわけであります。
(図28)  
  詳細は省きますけれども、私はこの地球温暖化と言うよりは、地球温暖化地獄と言った方がいいと考えているわけです。これは、日本に昔からある地獄図絵と地球温暖化に伴って起きた異常気象による様々な災害を一緒に表しています。
例えば、熱波による死者の増加とか、ヒートアイランド、乾燥化、集中豪雨、森林火災、サイクロン、トルネード、ハリケーン、高潮、サンゴの白化、保険会社が保険金を支払うことができなくて倒産する、難民が越境してくる、飢餓の問題、食料不足の問題、水不足、マラリアの北上等々、海面上昇による国土の喪失。これは地獄絵巻ではないか、と私は考えていたんですが、今週のニューズウィークの最新号を見ますと、温暖化ビジネス最前線という企画があって、地球温暖化で潤うところが出てくる。例えば、ワインがイギリスの南部で出てくるとか、ロシアでは北極海氷が解けて、新しい通商ルートが出てくる。もちろんプラスの面もあるわけですが、この温暖化に伴って、非常に大きなマイナスが出てくるということは、IPCCの第3作業部会が報告しているわけです。 
(図29)
  今は、私が作った地球温暖化地獄絵巻をお見せしたんですが、もう1つ、これはアメリカの「バニティー・フェア」という雑誌の中に表われている地獄絵巻です。これは大変面白い地獄絵巻になっています。ダンテの「神曲」という本がありますが、その中の煉獄を表しているわけです。一番下に地獄があって、これはサターン。悪魔の3つの口です。悪魔の3つの口にいる人物は誰かと言いますと、真ん中にいるのがブッシュ大統領、左側にいるのがオクラホマ州選出の共和党の上院議員、インホフ上院議員です。インホフ上院議員というのは、1月まで上院の環境委員長をされていた方であります。インホフさんは極めて有名な地球温暖化懐疑論者でありまして、彼は地球温暖化というのは、これはまさに冗談だと言っていたわけです。日本で言えば、日本の参議院の環境委員長が地球温暖化というのは冗談だよと言うのと同じです。環境委員長が凄まじいことを言っていたわけです。ですから、市民団体とかNGOからは悪党中の悪党というふうに目されていた方であります。
  今アメリカはどうなったかと言いますと、昨年の中間選挙で民主党が勝利をおさめて上院の環境委員長も2月1日に交代しました。新しい環境委員長は、カリフォルニア州選出の環境のジャンヌ・ダルクと言われているバーバラ・ボクサーです。ですから、アメリカの上院は環境委員長が、悪党中の悪党、温暖化問題はまさにジョークだと言っていたインホフさんから、環境のジャンヌ・ダルクへ2月1日に替わったわけです。このくらい歴史において劇的な変化というのはない、と私は思うわけであります。
  この真ん中にいるのは、マイケル・クライトンです。マイケル・クライトンというのは「ステート・オブ・フェア」という小説を書いて、まさに地球温暖化の懐疑論をぶったわけです。ブッシュ大統領と大の仲よし。自分の首を切って、首をぶら下げているわけです。
  一番上の天国にいるのは、アル・ゴア。上に飾っている車は何かというと、トヨタのプリウスとなっているわけですね。「バニティー・フェア」のダンテの「神曲」の煉獄は、なかなかうまく描けている。
(図30)
  さて、先程お話ししましたように、地球の表面温度の上昇に伴って、地球の表面には莫大なエネルギーが蓄積されます。その結果によって、様々な温暖化のインパクト、影響が出てくるわけです。もちろん、プラス面とマイナス面と両方あるわけですが、マイナス面の方が強いと考えられるわけです。
(図31)
  既に、どういう温暖化の影響が表われているかと言いますと、これは皆様ご存じのように、山岳の氷河の縮小、後退、永久凍土の融解、河川・湖沼の結氷期間の短縮、中高緯度地域の生長期間の延長。動物、植物の分布の極方向あるいは高地への移動。さらには、桜の咲く時期、開花時期とか昆虫の出現、鳥の卵生の早期化、海洋の酸性化、海洋・淡水生態系への影響とか人間社会経済活動への影響、人間の寿命。特に、健康影響につきましては、WHOの推計では、地球温暖化によって大体年間15万人ぐらい死亡していると言いわれるわけです。
  温暖化に伴って風邪を引かなくなって、風邪による死者が減っているとか、そういうポジティブな影響ももちろんあるわけです。
(図32)
  昨年発表されましたイギリスのスターン報告書によりまして、何度上がると何が起こるか、ということが非常に詳細に検討をされております。特に有名なのは、産業革命以前に比べて、1.5℃平均温度が上がると、100万種類以上の動植物が絶滅する。あるいは、グリーンランド氷床の全面的な融解が始まる。2度を突破すると、今からお話ししますように、非常に多くの人たちが気候の災害、リスクを負ってしまう。3℃を突破するような事態になれば、これはもう気候の崩壊ということになってしまうだろうというわけです。
(図33)
  直観的に地球の温暖化をつかんでいただくために、NASAのハンセンの論文を皆さんにご紹介したいと思います。NASAのハンセンは、凄いタイトルの論文を発表しております。「『地球温暖化』時限爆弾の信管を抜く」という論文であります。それはどういうことかと言いますと、温暖化の本質はバランスが崩れたと言うわけです。従来のバランスから新しいバランスへ変わっているわけで、太陽から入ってきたエネルギーが地球の表面に若干残ってしまう。すなわち、温室効果ガスにトラップされて地球表面に残っているわけです。
(図34)
  それをコンピューターできちんと計算しますと、1平方メートル当たり0.85 W。ですから地球温暖化というのは地球の全表面に1平方メートル当たり0.85 Wの豆電球がつけっ放しの状態になっているというふうに考えればいいということです。0.85Wというのはイルミネーションの電球に相当するわけです。このイルミネーションの電球0.85Wというのは、熱エネルギーは非常にわずかですね。ところが、地球表面全部ですから、膨大な数の豆電球になる。それがつけっ放しになっていますから、全体にすると、大変な熱エネルギーが地球の表面に刻一刻と蓄積されているということがわかるわけです。
(図35)
  それを計算しています。過去50年間に地球の表面に蓄積されたエネルギーは、人類が毎年使っているエネルギーの約400倍と計算されています。
(図36)
  そして、20世紀後半に蓄積された熱量は、氷の融解、大気の温暖化、陸地の温暖化、海洋の温暖化に使われているわけですが、その中でも、圧倒的に海洋の温暖化と氷の融解に使われています。両方合わせて、大体18×1022Joules。それに対して、2005年の世界の1次エネルギー消費量は4.43×1020 Joulesですから、それで大体400倍。過去50年間に温暖化に伴ったエネルギーが地球の表面に蓄えられてしまっている。その大半、大体8割から9割が海に蓄えられているわけです。
(図37)
  従って、ここで非常に困ったことが起きてくるわけであります。今、直ちに我々が一切温室効果ガスの排出を止めたとしても、温暖化をストップさせることができない。海に蓄えられた熱が、空気に伝わってくる、陸地に伝わってくる。それで温暖化が進行してしまいます。
  それを「車はすぐに止まれない。地球温暖化もすぐには止められない」ということで、地球の気候システムにはサーマルイナーシャ、熱的慣性があるというふうに言っています。熱的慣性がありますから、私たちがアーリーアクション、つまり早期の対応をしなければ、地球温暖化をある温度以下に抑制することが不可能になる。つまり、「ポイント・オブ・ノーリターン」があるということがわかってきたわけです。それをグラフに書きますと、ある時点を超えると目標値が突破されてしまう。この時点のことを、ポイント・オブ・ノーリターンというわけです。

3.低炭素・循環・共生型社会づくりを国家戦略へ

(図38)
  そこで、気候リスクを回避するために、何度以下に抑えればいいか、それを2℃にしようというのがヨーロッパの考え方であります。これは皆さんご存じだと思いますので、詳細は省きますけれども、膨大な研究を集めますと、1.5℃から2℃に温度が上がると、水不足、マラリア、飢餓、沿岸洪水等によって非常にたくさんの数の人が犠牲になってしまう。
  2050年の段階で計算すると、水不足で27億人、マラリアで2億3000万人と、非常に多くの犠牲者が出る。
(図39)
  しかしながら、このままでは、気候ターゲット2℃を突破するのは必至の情勢であるというわけであります。
(図40)
  これは、ポツダム研究所のヘアとマインサウザンの計算結果です。既に0.8度ぐらい温度が上がっているわけですが、排出量をゼロにしても、先程お話ししたように、熱的慣性で温度が0.5度ぐらい上がって、それからゆっくり地球の表面温度が冷めていくんです。
  現在は、年率3%で世界経済は成長して、年間1.9ppmずつ余分にCO2を空気中に溜め込んでいますから、猛烈な勢いで今温暖化が進行しています。
(図41)
  2℃突破は時間の問題です。先程のイギリスの研究成果によれば、2030年、WWFによれば2026年、今からお話しする日本の研究者によれば、2028年には2℃を突破します。
(図42)
  これからどれだけ温度が上がるか。全力で対策に取り組んだとしても温度は上昇します。既に0.8度温度が上がってしまいました。それから、今お話ししたように、気候システムの熱的慣性によって、0.5℃は不可避、避くべからざる温度上昇なわけです。
  ここまでは皆さん納得していただけると思うんですが、実は、もう1つあるわけです。それは、社会システムのイナーシャです。これは、今日、日建設計さん始め、建築関係の方がたくさん来られているわけですが、まさに皆さんの責任なんです。皆さんの肩にかかっているわけです。つまり、一遍社会的なインフラを造ってしまうと、それを取りかえるのは非常に時間がかかる。
  最もエネルギー効率のよい、環境負荷の少ないビルとか道路、住宅というものを建設し始めたとしても、それを社会全体に普及させるためには恐らく1世代はかかるでしょう。全世界規模でやらなくちゃいけませんから。そうすると、その間にも温室効果ガスは放出されますから、恐らく0.5℃ぐらい温度は上がってしまうでしょう。この社会システムの完成のためにも放出される。そうすると、我々が覚悟すべき温度上昇というのは、0.8+0.5+0.5で、1.8℃程度になってしまうというわけです。
  全知全能を挙げて取り組んだとしても、1.8℃は温度が上がってしまいますねということです。ということは、先程お話ししたように、1.5度から2度温度が上がったら大変なことになる。そうすると、1.8℃程度はどうしても覚悟せざるを得ない。結論は何かというと、我々はまさに危機的な状況に今あるということなのです。
サイエンスをそのまま信じると、人類は今危機的な状況にあるわけです。 
(図43)
  そこで、私が1年前に「気候変動+2℃」という本を出して、高度経済成長を続けていった場合気候がどう変わるか。日本の科学者たちが、アースシミュレーターを用いて計算した結果をご紹介したわけであります。
 
(図44)
  これが1950年、89年、98年、2016年ということで、あと10年後には1.5℃を突破するというふうに計算がされているわけです。
(図45)
  2028年には2℃を突破して、2052年には3℃を突破する。2052年というのは、今の若い方は十分生きていらっしゃるわけです。ということは、今の若い方、この会場にいる20代、30代の方はこういう状況をこれから経験していくわけです。
  3℃突破は、もう地獄の1丁目で済まない。地獄の2丁目から3丁目くらいにいくわけです。
(図46)
  今からお話しするように、これは地獄の1丁目じゃなくて、もうその時には、人類は温暖化を止めることはできなくなっています。すなわちアウト・オブ・コントロール。温暖化の暴走が始まっているわけです。これが怖い。
(図47)
  その前に、ほかの生物種の絶滅が加速しています。
(図48)
  WWF、UNEP等によれば、1000種類以上の生物について、3000の個体数の変化を30年間にかけて調査した結果、他の生物の数は平均して4割低下している。ところが、人類だけが今爆発的に増加をしているわけです。ちょっと増加のスピードは鈍っていますが。
(図49)
  その結果、生物学者のウィルソンがまとめた写真でございますが、20世紀にはこういう生物が既に絶滅をしているわけであります。絶滅のスピードが物凄く速い。今までも進化の過程で絶滅が起きたわけでありますが、過去の絶滅速度の既に1000倍に達している。さらに10倍以上速くなる可能性があると考えられていて、わかっているだけの生物175万種類を考えてみても、その100万種類ぐらいが2050年までに絶滅するであろうと、今考えられているわけです。
(図50)
  他の生物の絶滅をなるべく低く抑えるためには、気温上昇を1.5℃以下にしなければいけないと考えられていますが、2016年に1.5℃を突破すると考えると、大体10年引いて2006年が、生物種大量絶滅を回避するためのポイント・オブ・ノーリターンかということになってくるわけです。
  まさに我々は今、他の生物種の大量絶滅を回避できるかどうかのポイント・オブ・ノーリターンに差しかかっていると考えられるわけです。
(図51)
  これが研究者の研究結果で、他の生物多様性の保全のためには気温上昇を1.5℃以下、昇温速度を10年間で0.05℃以下にしなければいけないということが提案されているわけです。先程お話ししましたように、IPCCの最近のレポートでは、10年間で0.2℃というスピード。つまり臨界的な昇温速度の4倍のスピードで地球が温暖化しているわけですから、ほとんどの生物は適応不能の状況に、今陥っている。
(図52)
  20世紀後半、1700種の生物種は、北極あるいは南極へ向かって10年間で6キロメートルというスピードで移動していると報告されています。10年間で6キロメートル移動する、ということは1年間で600メートル移動している。つまり1日で2メートル移動していることになります。ですから、この瞬間にも他の生物種は適温分布を求めて1日に2メートルの移動を余儀なくされている。これは鳥のように羽のある動物はいいわけです。ところが、植物みたいに移動に困難を伴うものはもう絶滅を余儀なくされてしまう。つまり、絶滅に向かってのマラソンを強制されているわけです。
(図53)
  そういう結論を補強する様々な論文が続々と発表されています。特に、「近年の気候変動に対するエコロジカル及び進化的な応答」と題する昨年の論文は、 1899年から2003年に出版された866の査説つき論文をレビューしたものであります。
  気候変動は、既に生物多様性に大きな影響を与えている。多くの生物種が北極あるいは南極を目指して移動している。この866の査説つき論文の結論がそういう結果です。1人、2人の研究者の思いつきでこういうことが言われているわけではない。
(図54)
  そういうことで、私は、この「いきものがたり」をダイヤモンド社から4月に発表したわけでありますが、生物多様性の保全が重要だ、ということを改めて述べたわけです。
(図55)
  さて、気候シミュレーター、コンピューターシミュレーションにはもちろん科学的な不確実さがあります。先程お話したように、雲の影響をどう評価するか、非常に難しい問題がありますが、実は、不確実性を上回るような特性が地球の気候システムにあるわけです。
(図56)
  それは何かというと、地球の気候システムというのはポジティブフィードバックが支配的だということです。地球の気候というのは、温暖化が進むとさらに温暖化を促進させていく。寒冷化が進むと、さらに寒冷化が促進するというふうに動く。これは科学的にわかっています。
(図57)
  温暖化が進むと、逆に冷却化させるメカニズムもあるわけです。だけれども、温暖化が進むと、さらに温暖化を進ませる、そういうメカニズムの方が多いわけです。だから、全体を通すと、ポジティブフィードバックが支配的になる。これは、そこが書いてあるわけであります。
(図58)
  そういう中で、1月にゴアさんにお会いして、「2℃以下に、地球温暖化をとめることができるか。あなたはどう思っている?」というふうに聞きました。ゴアが言うには、「私は楽観論者である。私は十分、人類は、地球温暖化の問題を解決することができる。しかし、一番の問題は危機感の欠如ということである」。つまり、世界の政治的リーダー、経済界のリーダーに、ザ・センス・オブ・アージャンシー、危機感、切迫感が全く欠けているということが極めて大きな問題だということです。もちろん、国民にも全く欠けている。皆さん2月2日、4月6日、5月5日にIPCC第4次レポートの第1、第2、第3作業部会の報告書が公表されていますね。新聞は大々的に取り上げました。ところが、全くそういうこととは無関係に、このゴールデンウィークには大量の人たちが海外旅行に出かけて、大量の炭酸ガスを空気中にばらまいている。全く国民は気にしてない。もちろん、中国、インドは全く気にしていません。
(図59)
  「不都合な真実」の中の、これは有名な写真なわけです。夏のグリーンランドの写真です。1992年、2002年、2005年と、夏解けているところを赤であらわすわけでありますが、1992年に対して2005年、たった13年間で、夏解けている領域が急激に拡大しているわけです。
(図60)
  ご覧のように、グリーンランド氷床の大量の夏の雪解け水が岩盤と氷床の間に入り込んで、氷床の流動を加速している。潤滑剤の役割を果たしていると考えられております。
(図61)
  人工衛星を使ったGPS測位システムで、グリーンランドの氷河の流動速度が測定されています。東海岸の最も速く動いている氷河は、何と1日に38メートル、年間14キロメートル動いている。これは約20年前の3倍に達しているわけです。ですから、氷河が今、川のように流れ出しているという状況なわけです。
  そこで、今心配されているのが、グリーンランド及び西南極大陸の氷河が急速に動いているわけですが、実は、これが今後どういうふうに加速していくかはわからないことです。今回のIPCCの第4次報告書では、海面上昇は最大で59センチと予測していますが、あれは、氷河の流動速度の加速化は入っていない。だから、59センチというのは必ず59センチ上がるので、実際には1メートル50とか、もっと上がってくるという研究論文もあるわけです。
(図62)
  そういう中で、昨年9月15日に衝撃的な新聞ニュースが載ったわけです。北極の海氷が2005年10月から2006年4月にかけて72万平方キロ消滅した。これはトルコの面積、アメリカのテキサス州の面積に匹敵する。つまり、冬に72万平方キロの氷河、海の氷が解けてしまった。それは日本の研究者も観測している。これは自然変動では説明できない。やはり太平洋の暖かい海水が北極圏に流入して、急速に今北極海氷が解けているのであろう。そのメカニズムも提案しているわけです。
(図63)
  これは、昨年9月10日に宇宙航空研究機構のホームページに載った写真でありますが、北極海氷に巨大な穴があいていることがわかったわけです。巨大ポルニア。これは縦500キロ、横幅200キロメートルの穴があいている。これも温暖化の影響であろうということです。
(図64)
  今まで、ずっとゆっくり減少してきたものが、この2年間で急激に減少している。北極海氷の全体の面積は大体600万平方キロです。だから、1年に70万平方キロが消失するとすると、単純計算でいうと、あと8年で消えてしまう。
(図65)
  これは大変だということで、大騒動になった。アメリカの国立大気研究センターとワシントン大学の共同研究によれば、最新の情勢を踏まえてコンピューターでシミュレーションすると、2040年までに北極の海氷はサマーシーズンは完全に消滅する、という結果が得られ、昨年12月に公表されました。北極の海氷がなくなって何が困るかというと、太陽光線が反射されなくなりますから、さらに強力なポジティブフィードバック、つまり温暖化が加速されるわけです。
(図66)
  昨年10月に、アメリカとロシアの科学者の共同研究が発表されましたが、シベリアに巨大な湖が出現している。その面積はフランスとドイツを合わせたぐらいの面積であって、浅い湖からメタンガスがボコボコと吹き上がってくる。シベリアでは、この30年間で年間の平均気温が2℃上昇しているわけです。
  2000年のメタンの放出量は1974年と比べて58%増えている。温暖化のポジティブフィードバックが開始されたんではないか、ということを疑わせるわけです。
(図67)
  そこで、今年の1月4日、インディペンデント紙は、2006年は地球温暖化に正のフィードバックが働き始めたことを人類が認識した年であるという特別論文を掲載したわけです。
(図68)
  そういうことで、危険な気候変動を回避するための時間は、つまり、2℃以下に抑えるためには、2012年までに全世界のCO2あるいはCO2換算の温室効果ガスの総排出量を減少させるしかない。だから、あと5年しかない。2℃突破を抑制するにはあと5年しかないという論文が発表されました。
(図69)
  そういうことで、最近の流行語は、1つは、10年間、ポイント・オブ・ノーリターン、チッピングポイント、ランナウエー。地球温暖化の暴走のポイント・オブ・ノーリターンまで、あと残されているところはわずかに10年という言い方なんです。昨年以来、世界で今、流行っている。
(図70)
  これをまとめますと、温暖化の加速がもう起きている。それが温暖化の暴走にいくことを我々は非常に憂慮していて、今なら気候のリスクを回避可能。つまり、温暖化を我々は抑制することが可能だと基本的には考えるわけですが、あるところを過ぎると、もうコントロール不能になる。温暖化が温暖化を呼んで、人類が何をしても駄目ということになってしまう。つまり、ランナウエーが始まる。アクセレレーションからランナウエーになる、これを何としてでも我々は阻止しなければいけないというわけであります。
  地球の表面温度が2℃から3℃上がったら、もうランナウエーです。例えば、今お話ししたように、フランスとドイツを合わせたくらいの巨大な湖がシベリアに出現したら、そこからのメタンガスの放出を人類はどうやって食いとめるんですか。そんなの最初から無理でしょう。この前もやっていましたね、オーストラリアのグレートバリアリーフのサンゴが今、白化が始まっている。サンゴの死滅が始まっている。そのために海の温度を下げなくちゃいけないということで、ある研究者たちはビニールシートを海の上に張っているわけです。それをオーストラリアの環境大臣が笑っていましたね。「あれは馬鹿げたことである」と。確かにそうですね。オーストラリアのグレートバリアリーフの面積というのは、日本列島の面積と同じぐらいですから、日本列島全部にビニールシートを張るわけにいかないわけです。
  同じように、ランナウエーが始まってしまったら、我々は対抗手段がないというわけです。もちろん、大気圏に核爆弾を爆発させてちりを上げるとか、鉄の酸化粒子を海の上にばらまく、そういうものすごく乱暴なことを提案している人はいますけれども、いずれにしても、このランナウエーを食いとめなくちゃいけないというわけです。
(図71)
  繰り返しになりますが、既に加速が始まっている。水蒸気フィードバック、海水フィートバック、雲フィードバックも、早いフィードバックは既に始まっているということが確認されています。問題は、遅いフィードバックが働き始めるかどうかなんですが、遅いフィードバックは、我々にとって、アウト・オブ・コントロールになるわけです。
  凍土融解や海洋からのメタンの放出、北方への森林の拡大、南極あるいはグリーンランド氷床の縮小、これが急激に起こり始めたら、スローフィードバックが始まったということで、これはもうランナウエーであるというわけです。
(図72)
  そういうことで、昨年以来急激に危機感が高まってきました。何とかしなくちゃいけないということなわけですが、そういう中で、確認をしておきたいのは京都議定書です。
(図73)
  京都議定書というのは、先進国全体で5.2%削減する。すなわち1990年の排出量の5.2%というのは9.48億トンですから、大体先進国全体で年間排出量の10億トン減らそうというのが京都議定書の目標です。
  先程お話ししたように、もう既に年間275億トン出して、152億トンが空気中に溜まっているわけですから、10億トン削減するなんていうのは焼け石に水だということは明々白々です。今の京都議定書では、日本は7540万トン、これはマイナス6%ですね。ところが、それから8%増やしていますから、実際は1億5000万トンぐらい減らさなくちゃいけないわけです。ところが、それさえも達成できないような状況では、到底我々が直面している問題の解決にはつながらない。何故、こういうことになっているかというと、国民、国を挙げて、サイエンスをないがしろにしている。軽視している。サイエンスの結論を全く受け入れていない。ですから、今、8割カットをやらなくちゃいけないところをチームマイナス6%で、それもできない。要するに漂流しているわけです。
(図74)
  産業界は自主目標です。主な業種の評価とCO2排出量の変化で、もちろん、各産業、業界毎に相当な努力を払われている。これは朝日新聞のニュースからとったものでございますが、相当努力されていることはわかります。理解できますが、こういうものでは済まないということはもう明らかです。こんなものでは到底我々はサバイバル、生き延びることができない。
(図75)
  そこで、経済産業省、環境省、両省の合同審議会で、オフィスなど業務部門と家庭部門の対策、運輸部門の対策、製造業など産業部門の対策、その他環境での導入も検討するということが、今言われているわけです。
(図76)
  そういう中で、昨年スターン・レビューが公表されました。基本的にはGDPの1%ぐらいのコストで、我々は十分温暖化の問題を解決できる。そういうスターン報告書が出たわけです。
(図77)
  そして、2月2日、いよいよIPCCの第4次レポートの第1作業部会の報告書のサマリーが公表されたわけであります。今回の報告書は、極めて明確に述べています。もう温暖化は起きていて、過去20世紀後半の温暖化の主要原因は、温室効果ガスであるということをほぼ断定しているわけです。
  さらに、これが続くと、風が強くなる、台風が強力になる、海が酸性化するなど、今回は第3次報告に比べて非常に踏み込んで結論をしているわけです。
(図78)
  バックグラウンドデータが非常に増えたことがその理由でありまず。皆さん、これを見て下さい。CO2、炭酸ガスは1.66W/m2なんですね。これだけ放射強制力が変化した。それに対して、太陽放射は0.12です。太陽放射に比べて10倍以上の大きさでCO2が温室効果に寄与している。メタンガスは0.48W、N2Oは0.16W、ハロカーボンが0.34W、と計算がされています。
(図79)
  その結果、表面温度、海面水位は上がっていって、北半球の雪氷面積は減少している。
(図80)
  各大陸毎にそれを見ても、各大陸ごとの平均温度の経年変化を説明しようとすると、人為的な温暖化ということを考えなければ全く実験結果を説明できない。
  これが陸地です。これが海洋。ですから、これだけ、実験結果を現在の気候モデルが説明できたということで、非常に信頼性が高まった。
(図81)
  気候感度も、空気中の炭酸ガスの濃度が550ppmになれば、3℃平均温度が上がるということがほぼわかってきたわけです。
(図82)
  そこで、社会経済発展のシナリオをもとに気温上昇が計算され、海面上昇値が計算されたわけでありますが、今回、大変厳しいというのは、持続発展型シナリオで計算しても、1990年比で、1.9から2.9度温度が上がってしまう。
(図83)
  新聞各紙は、IPCCの第2回部会報告書をどう伝えたか。
  日経は、「人類の創造力が問われる地球温暖化である」。
  毎日は、「水不足さらに数億人、許容限度1度の差で対応に違い。3度を超える上昇で温暖化の影響が出てくる」。
  読売は、「地球温暖化報告書を採択、被害予測表現和らげる」、「温暖化暮らし激変、コメ減収最大40%、農家『もう生活できん』。干ばつ・不漁、輸入食料も高騰、生態系破壊に現実味」。
  産経は、「1度の上昇で生物種の3割が絶滅する」。
  朝日新聞は、「地球温暖化をプラス2度に抑えたい」、こういう社説を載せたわけであります。
(図84)
  IPCCの報告書作成において、政治的妥協がされたわけです。つまり、ヨーロッパは3回にわたって政治的決議をして、とにかく2℃以下に抑制すると、今まで言ってきたわけですが、もう既に2℃以下に抑えることがほぼ不可能になってきている。そこで、1990年比で2度から3度。ですから、産業革命以前からすると、2.6度から3.6度に温度上昇の許容範囲を広げているわけです。
  これはアメリカ、中国、インド、サウジアラビアの同意を取りつけるために、政治的妥協が行われたわけです。
(図85)
  今月の5月5日、IPCCの第3作業部会報告書を新聞はどう報道したか。
  日経新聞は社説において「日本はCO2排出削減の目標を明示せよ」。
  朝日新聞は、社説で、「温暖化防止一刻の猶予もならない。CO22050年に半減必要、温暖化、2℃に抑制」。
  毎日新聞は、「炭酸ガス1トン削減に最大80ドル、コストを明示したことによって議論に弾みがつく」。
  読売新聞は、「CO2削減費用GDPの3%」。
  産経は、「温室効果ガス半減可能、IPCC2050年、適切に投資すれば可能である。各国は既に独自案がある。ポスト京都は実行枠組みの正念場である」
  私が、注目をしているのは、ここに来て、やっと日本国内の新聞の論調が明確になってきたわけで、まさに、我々は国家の目標を設定しなければいけない。しかも、そういう対策が十分可能であるというわけです。
(図86)
  CO2の削減量とコストの関係も報告されました。1トン当たり20ドルかければ、90から170億トンが削減できる。1トン当たり100ドルかければ、160億トンから310億トンが削減可能であるというふうに計算されて、様々な技術がある。既に商業化された技術がある。2050年までに、これから開発されそうな技術があるということで、エネルギー供給、運輸、建築、産業、農業、林業、廃棄物で様々な技術がリストアップされているわけです。
(図87)
  そこで、私が特に申し上げたいのは、国家最高目標を8割カットに数値目標を設定することの重要さ、数値目標を明確にすることによって、国民全体にやる気を出させることができるということです。チームマイナス6%というのは、一体何を言っているのか全くわからない。
  要は、50%削減とか80%削減と言った方が国民にはわかりやすいわけです。
  2つ目は、要するに社会経済のシステムを変えなければいけない。特に有効なのは、キャップ・アンド・トレード方式の排出量取引であると考えられているわけです。私は経済学が専門ではありませんので、論評する立場にありませんが、これはファイナンシャルタイムズ2005年12月8日、アメリカの25名のエコノミスト、3名のノーベル賞受賞者を含むエコノミストが、ブッシュ大統領に排出量取引のような市場メカニズムを早急に導入せよと促しています。
(図88)
  25名の著名な経済学者が、「United States Needs Incentive Based Policy to Reduce Carbon Emissions」と言っています。
  この1年で世界情勢が激変した理由の1つは、私は、エクソン・モービル社の対応が変わったということにあると思うんです。
(図89)
  昨年9月に400年の歴史を誇るイギリスの王立科学協会は、エクソン・モービル社に公開書簡を送って、とにかく地球温暖化が起きてないとか炭酸ガスがその原因でないなどの、デマ宣伝は止めなさい。また、地球温暖化懐疑論を吹聴しているロビイストに対して、経済的な支援はやめなさいと要請しています。これは1600万ドルの資金を提供していると言われているわけですが、信じられない話なわけです。400年の歴史を誇るザ・ロイヤルソサエティーが一民間企業に公開書簡を送って、科学的知見に対するデマ宣伝をやめろと要求したわけです。
(図90)
  ブッシュ大統領も、そういう状況の中で、1月23日に10年以内に2割ガソリンを削減しますと演説しています。
(図91)
  さらに、科学者によって、エクソン・モービル社は非常に厳しく批判された結果、やっと2月13日に現在のCEOのレックス・チラソン氏は、地球温暖化が起こっていること、石油産業もCO2排出量を削減すべきであることを明確に認めて、CO2排出量の削減に具体的に取り組まなければならないということを述べ、これまでの態度を180度転換したわけであります。
  さらに、アメリカの大企業13社が中心になりまして、これにはGEなども含みますが、ブッシュ大統領に対して、排出量取引制度を早急に設立せよということを1月に迫ったわけです。
(図92)
  そういう中で、アメリカの連邦最高裁が、温室効果ガス規制を強制命令したということです。
(図93)
  さらに企業に対して、投資家が温暖化対策について株主提案を行ったわけであります。続々と株主提案が出ています。社会的責任によって投資を選別する。石油業界ではエクソン・モービル、シェブロン、コンソル・エナジー等とか、いろんな企業に温暖化効果ガスを削減しなさいという株主提案が、今相次いでいるという報道がされているわけであります。
(図94)
  そこで、私は、時は熟したと考えているわけであります。もちろん、日本の今までの努力、日本の産業界のパフォーマンスは極めて高い。炭酸ガスの排出量の原単位を各国別に比べても、日本は排出原単位が低いわけです。フランス、カナダは日本より低い。再生可能エネルギーにしても、言われているほど日本は遅れをとっているわけではない。電力業界、ガス業界、これは東京電力さんのOHPをお借りしてきたわけですが、様々なエネルギー源を適切に使っていくことが、今我々に求められていることは間違いありません。
(図95)
  GDP単位当たりの一次エネルギーの消費についても、日本を1.0にすると、アメリカは2.0。ロシアは18倍、中国は8.7倍というふうに、国全体としてみてのエネルギー効率は、日本は非常に高いわけです。
(図96)
  ところが、そういうことを受けて、経団連は、排出量取引制度に反対、環境税にも反対、数値目標の設定にも反対と言っているわけですが、私は非常に残念に思うわけです。
  日本は、エネルギー効率、資源効率、環境効率、環境性能の高い製品サービスを作れる技術がある。これに、私たちが社会システムと全体としての長期的な削減目標を設定して、環境税とか排出権取引とか様々な経済的な制度を導入することができれば、まさに鬼に金棒であって、まさに我々は、来年の洞爺湖サミットにおいて世界に主導権を発揮できると私は考えるわけです。
  時間が残されてないので、駆け足になりますが、イギリスは、世界のリーダーシップをとろうということで、国内法によってCO2排出量を6割削減義務づけということを今言い出している。ドイツは、2030年4月に90年比4割削減ということを言い出した。EU全体としては、CO2を2020年までに20%削減する。主導権争い、リーダーシップの争いになっているわけです。
  日本は、2050年までに現状より8割削減すべきである。私は、これを国家目標にすべきであると考えて、今までずっとそう主張をしてきたわけです。非常に嬉しかったのは、ちょうど1週間前に新聞各紙が、日本政府は、来月のドイツのハイリゲンダム・サミットにおいて、2050年までに全世界で現状より温暖化効果ガスの半減を目指す、ということを提案すると報道したわけです。
  ところが、その後何か揺り戻しがあって、また腰がふらつき始めている。非常に困った状況なわけです。
(図97)
  京都議定書後の地球温暖化問題に対する国際枠組み構築に向けては、日本経団連が4月17日にペーパーを出しています。温暖化防止に引き続き積極的に貢献せよと言っているんですが、キャップ・アンド・トレード方式の排出量取引には反対する。7つの理由によって反対するということを主張されているわけです。
  これは、私は大変遺憾でず。何故遺憾であると考えるかというと、そういうことをおっしゃるけれども、何でアメリカの25名の著名なエコノミストが、排出量取引が非常にいいと言っているのか。ヨーロッパ、アメリカのカリフォルニア州、アメリカの北東州7州の地域的な排出量取引制度、オーストラリアのニューサウスウエールズ州における排出権取引等々、確実に日本の包囲網ができている。そういうことについては、一体どうするんですか。国連は、排出権最大の供給国である中国に排出権取引所を設立するという動きになっていて、中国、ヨーロッパ、アメリカが、国際的な取引市場を形成する可能性が出てきているわけです。そうすると、日本は本当に孤立してしまう。
  さらに、経団連は反対ですが、日本国内の世論調査を行うと90%が導入に賛成している。これは日経が3月16日に報道しています。にもかかわらず、日本経団連が7項目の反対理由を挙げ、まだ反対しているというのはいかがなものか。
  来月のハイリゲンダム・サミットで、ポスト京都議定書が話し合われ、来年には国連は、ポスト京都の国際的なサミットを開くと考えていて、さらに来年の6月、1年後には洞爺湖でG8サミットが開催される。日本としては、ここでまさにリーダーシップを発揮したいところだと私は思うんです。これが排出権取引市場の動向です。
  私は、まさに日本の潜在力を総動員すべきであると言うわけです。それはまさに環境立国であり、環境効率的な技術革新、すなわちエコイノベーションだと。ヨーロッパは既に、エコイノベーションの方向に動き出しているわけです。

4.環境イノベーションをめぐる内外動向

(図98)
  これはオランダ政府が発表した「Promoting Eco-efficient Technology」という報告書です。
(図99)
  これはフィンランド政府の「Clean,Clever and Competitive」という報告書です。いずれにしても、環境効率の高い製品サービス、技術を開発していく。既にヨーロッパは100ぐらいの事例を集めて、18事例がインターネットで公開されております。皆さんに駆け足で写真をお見せします。
(図100)
  そういうことで、日本の全くのお家芸のエコイノベーションをやるべきだ。
  幸い、経済産業省は、エコイノベーションの国家戦略を作り出しておりまして、中間報告書が出ています。サステナブル・マニファクチュアリングの実現、サステナブルな生活の実現ということで、様々な環境重視、人間重視の社会を目指す技術革新、社会革新、エコイノベーションの推進ということを経済産業省は全力を挙げて推進する。6月の安倍内閣の骨太方針の中に、エコイノベーションを入れるということを主張されておりますし、OECDあるいはアジア太平洋の地域に、こういう考えを広めていくということです。
(図101)
  そういうことで、我々には力がある、能力がある、要素技術がある、既に実績がある。ないのは何か。まさに長期的な政策的意思決定がない、政策目標がない、社会システムがない。それが障害になって、せっかく開発したエコマテリアル、エコプロダクツ、エコテクノロジー、エコサービスが十分に社会に浸透していってないのではないか。いずれにしても、このエコプロダクツを制する者は世界を制する、という時代が目の前に来ているわけです。
 
 
5.エコプロダクツ展示会とグリーン購入の国際運動

(図102)
   日本はグリーン購入法があり、グリーン購入のネットワークがあり、環境ビジネスが拡大しておりまず。エコプロダクツの展示会も国内、海外でも実行しているわけであります。
(図103)
  昨年、シンガポールでアジア生産性機構が行ったエコプロダクツ国際展がありました。第3回でございますが、100以上の企業が参加して、3万4000人が参加されている。来年の3月には第4回をベトナムのハノイでやる予定でありまして、ディレクトリまで作っているわけです。私からシンガポールの環境大臣に、このディレクトリを贈呈しました。590ぐらいの日本のエコ製品、アジアのエコ製品が紹介をされているわけです。
  是非、ここでお願いしたいのは、何としてでもこの1カ月ぐらいの間に、日本は2050年までに温暖化効果ガス半減を、ちょうど1週間前に発表があったような線で宣言して、できる限り早く排出権取引市場を、ちゃんと国内に作り上げる方向にいってもらいたい。また、それを海外と連結させるという方向にいければ、来年のG8サミット、それにおいて日本がリーダーシップを十分発揮できるのではないか、と私は考えているわけです。
  最後に、私、今国際グリーン購入ネットワークの会長をしておりまして、エコイノベーションをアジア太平洋に広げるということに全力を挙げているわけですが、特に中国で、中国グリーン購入ネットワークの設立を支援し、さらにことしはインドでインドのグリーン購入ネットワークの設立を支援したい。
(図104)
  これが我々のスローガンでございます。「Purchase Sustainable Future」ということが、私たちの標語でございます。持続可能な未来を購入せよ、ということでございます。これは簡単なように思えるかもしれませんが、私は非常に含蓄のある言葉だと自画自賛をしているわけです。
  つまり、我々は好むと好まざるとにかかわらず、グローバルな市場経済の中で生存しているわけです。ですから、グローバルな市場経済の中で持続可能な未来を実現するとしたら、毎日毎日の商品の購入、商品サービスの購入をグリーン化する以外に手段がないんです。ですから、サステナブルフューチャー、持続可能な社会というのは、購入によってしか実現ができない。購入によってしか実現するしかない、ということを我々は思い知らなければいけない。
  だから、日々の購入、売買、サステナブルプロダクションとサステナブルコンサンプションの積み上げによってしか、サステナブルフューチャーというのを我々は手に入れることはできない。そういうことを思い定めて、全知全能を挙げて、サステナブルプロダクション、サステナブルコンサンプション、国際的なグリーン購入によって、エコイノベーションということを急激に世界に普及させていく。それによって、社会システムの完成による地球の表面温度の上昇をなるべく小さく抑えるというのが、我々ができることであると私は考えている次第でございます。
  後半、駆け足になりましたが、皆様は、エコデザインとか、そういうことについては、かなりご承知かと思いますので、この辺でやめたいと思います。先週、私は、フィンランドとフランスへ行きました。フィンランドもフランスも関心が高かったのはゼロエネルギー住宅とか、徹底的に環境に配慮された住宅、ビル、インフラの建設でした。
  ヨーロッパ各国政府は、そういったゼロエネルギー住宅などを義務づけていくという方向へ大きく動き出しております。日本はどうか。日本は、この方面でもヨーロッパに遅れをとっているのではないかということを危惧しているところでございます。
  長時間にわたりご清聴ありがとうございました。(拍手)
 

 
フリーディスカッション

與謝野 山本先生、大変にありがとうございました。
IPCCの誠に詳細な報告を含め、危機的な状況の地球環境の実情等について縷々ご説明頂き、皆様におかれましては包括的なご理解をして頂けたかと思います。もはや、科学技術の動員だけではなくて、社会システム、経済システムを含めてのトータルな、ある意味ではホリテスティックな体系の中でエコイノベーションと環境効率性(エコエフィシェンシー)というとらえ方が必要である等々、大変に示唆深い貴重なお話を頂きました。ありがとうございました。
  危機的な状況であることのご理解が頂けたものと思いますが、ここでアル・ゴア氏がいわれたことばを復唱しておきますと「危機的な地球環境のためにあなたができる第一歩は、まずこの事実を知ることだ」。こういうお話がございました。このことばは、今日のお話をお聞きして明日への行動を考える場合の大変に示唆深い内容を湛えているものと痛感いたします。ありがとうございました。
それでは折角の機会でございますので、ここで会場から幾つかご質問をお受けしたいと思います。先ほどの「知る」ことをさらに深める意味でのご質問でも結構ですし、どうか遠慮なくお申し出下さい。 
斉藤(セガミホールディングス) どうもありがとうございました。
  バイオエタノールが話題になっていますが、その点に関してちょっとお教え願いたいんですが。
山本 バイオエタノールについては、もうテレビ、新聞等でどんどん取り上げられておりまして、既にブラジルとかアメリカ、ヨーロッパ、どんどんバイオエタノールの普及が進んでおります。レスター・ブラウンを初め、いろいろ指摘がございまして、1つは、食料問題等、穀物を食料に回すのか、それとも燃料に回すのかという問題が、非常にクローズアップされてきているわけです。
  それから、もう1つ、バイオ燃料がどれほど環境にいいのかという問題がります。これはこの数年間、様々なLCAの研究が行われております。私は日本LCA学会の会長なんですが、要するに、途中でたくさんの化石燃料を使ってバイオ燃料を生産して、また遠方から日本へ運んでくると、せっかく炭酸ガスを出さないはずのものが、実際的には炭酸ガスを出したということになってしまうわけです。バイオ燃料はどのくらい環境負荷が低いかというのは、生産方法と輸送方法に依存するわけです。ですから、ここはやはりバイオ燃料の品質が問われるわけです。バイオ燃料の品質をちゃんと明確にして我々は使わなければいけない、そういう議論がされております。
  今、食料にするのか燃料にするのかという問題と、バイオ燃料がそもそもどのくらい環境にいいのかという、2つの問題が、まずあります。
  それから、日本国内では、まさに、日本はバイオマス日本と言っていますが、やっていることは全然遅れをとっていて、安倍総理のツルの一声で600万キロリットルのバイオエタノールを2010年までにやっていくことは到底無理なわけです。国内でどれくらい生産するか、あるいは海外からどのくらい輸入するかで、今いろんな議論が行われています。特に国内生産につきましては、廃木材からバイオエタノールを作る、あるいはサトウキビから作る。サトウキビについては今宮古島で実験をやっています。廃木材については大阪で実験をやっています。
  最近急浮上しているのは、日本全体で100万ヘクタールあるという休耕田を利用して、米を作って、その米からバイオエタノールを作るという提案です。コストが合うかどうかが一番大きな問題で、今のままでやればコストが高くなって、普通のガソリンに対抗できない。では、量はどうかと言うと、100万ヘクタール全部で米を作れば、600万キロリットル、日本で使われているすべてのガソリンをE3の燃料にすることができるくらいのバイオエタノールが生産できる。こういう計算です。
  日本は全く始まったばかりです。これから相当程度進むと思いますけれども、100万ヘクタールの休耕田に米を植えて、米を作って、バイオエタノールにするにしても、一体農業を誰がやるのかという話になる。日本は若い方が全く農業にいかないものですから。いろんな問題がございます。以上でございます。
柴田 現在、仕事から離れておりまして、柴田と申します。今日は貴重な話をありがとうございました。まず、こういう温暖化が切迫した状態だという認識がなかったので、危機意識を持つことができたのは良かったかなと思います。
  最後のところで、我々一般市民の日常活動としてグリーン購入を進めましょうというご提案をいただいて、それは腑に落ちたんですけれども、もっともっと日常の行動といたしましては、どうしたら良いのでしょうか。例えば、どういう効果があるかわかりませんけれども、身近な問題としまして、通勤通学には公共交通機関を使用しましょうとか、グリーン購買以外にも市民の日常活動として努力すべきいろんな項目があるかなと思うんですけれども、具体的ものがありましたら、ご教示下さい。
山本 8割カットというのがそうなんですね。80%減らす。ということは1週5日間、毎朝奥様に通勤で最寄りの駅まで車で送ってもらっている方は、それを週1回にする、雨の日だけにする。4回はやめてしまう。これがまさに具体的手法ですね。
  ですから、8割カットということを、私は国民に植えつけないといけないと思うんです。グリーン購入というのは広い意味のグリーン購入ですから、今のお話のように、交通機関に何を選ぶかとか、そういうものも大切です。最近、JTB関東がCO2ゼロ旅行というのを提唱しているわけです。この前話を伺ったら、そのCO2ゼロツアーの第1回目にアメリカのツアーを企画したそうです。ところが、申し込みゼロだったそうです。(笑)ですから、まだCO2ゼロツアーだけでは関心がない。魅力がないといけないわけです。
  そこで、環境、生活、文化ということが出てくるわけで、我々がエコイノベーションをして、いろいろなものを開発していっても、それが魅力がなければ長続きしない。まず、国民が8割カットしなくちゃいけない。つまり、5日間車に乗っていたら、4日はやめるという方向にいって欲しいわけです。
  私はいつも、環境と経済の両立の極意は簡単だと言っているわけです。それはどういうことかというと、環境性能の最も高い製品を購入して、それをほとんど使わないという戦略なんです。(笑)
  私が学生に言っているのは、「トヨタのプリウスを購入しなさいと。しかし、それは車庫に眠らせておいて、毎日ピカピカに磨き上げなさい。ただ、親が病気になったり、彼女と月1回デートするときには使ってもいい」。
  そもそもハイテク製品、高度先端技術の製品を毎日使うという考えがよくない。この考えが我々を毒しているわけですよ。そういうハイテク製品は極めて貴重な製品であるからして、なるべく使わない。物によっては毎日使わざるを得ないものもあるわけです。照明とかテレビ、情報手段。それにしても今はつけっ放しが多過ぎるのが問題なわけです。
  環境と経済を両立させる極意は、ハイテクエコプロダクトを購入して使わない、それでしょっちゅう買いかえるということなんです。私はそう思っています。
松井(松井一事務所) 環境問題でいろいろお話がありました。バイオエタノールによる抑止の話が随分進んでいるようでございますか、私どもとして、もう1つ、プラズマ溶融炉によるごみの処理によって水素ガスを取り出す、という技術がかなり研究されていて、これがスピードを上げているように思うんでございますけれども、現状についてちょっとお教えいただけませんか。
山本 私は詳しいわけではありませんけれども、水素の話は随分いろんな研究が行われていて、ハイドロジェンソサエティーに向かっていくことは確かだと思います。ただ、先程お話ししたように、社会システムの転換には物凄い時間がかかるわけです。20年で水素社会にいくことは多分駄目だろう、とみんな思っているはずです。まず電気自動車にいって、その後、水素自動車ぐらいじゃないでしょうか。いずれにしても、水素の方向へいくと思いますが、水素の場合は貯蔵技術、運搬技術、水素ステーションの問題、安全性の確保の問題、様々な問題がありまして、一足飛びに水素社会には行きにくいんだと思います。モデル地区を作って実験して、それを広めていくという方向にいくと思うんです。
  もう1つ、私が申し上げたいのは、今ロハス、ロハスとか、いろんな言い方があるわけですが、これは、私は魅力がないと駄目だと思うんです。結局、魅力をどうつけるかの問題です。実は、来週私は高知県へ行って高知県で講演をすることになっています。橋本知事にもお会いするんですが、高知は一周遅れで、非常に山谷が豊かである、しかし工業生産高は非常に低い。それを見方を変えると、自然資本が物凄く豊かな高知だということが言える。例えば、東洋町は核燃料廃棄物の持ち込みを拒否した。それはそれでいいんですけれども、今まで貧乏だった所が、実は私たちは自然資本が豊かで、環境の観点からすると、非常にいい所だと幾ら主張しても、それが本当の魅力でなければ、グローバル市場経済の中では生き延びていくことができないわけです。
  ですから、私は、自然資本、ロハスを強調されるのはいいんだけれども、それに魅力を持たせる、アトラクティブであり、人を引きつける、経済的な付加価値がついていくという方にいかなければ、本当の問題のソリューションにはならないというふうに考えております。
須田(国際公共政策研究センター) 不動産会社に勤めております。
  ちょっとご専門から外れるかもしれないんですが、全体的に環境問題のことでいろいろ議論が出ている中で、感想ですが、これから出てくるCO2や何かの排出の割合とか分量を考えると、中国の発電とかそういったところが3割とか4割を占めていって、日本の民生の排出の割合は物凄く小さいですね。
  そうすると、前半にあったように、本当に恐ろしいことが起こるんだとすると、今すぐにやらなきゃいけないのは、むしろこういう枠組みに入らないといって渋っている中国をどういうふうに説得して、そういう枠組みに入れるのか。今の日本の発電所より2世代ぐらい前のものを使って、聞くところによると、1年で東京電力さん1社分ぐらいの発電所を増やしているという中国をどうするか。ちょっと政治的な活動みたいですけれども、そっちの方が火急なような気がしています。そういう運動が起こっているのかどうかを、ちょっと教えて下さい。
山本 全くおっしゃる通りです。日本経団連も、日本の産業界も国民も、まさに中国、インド、それからアメリカ、を何とかしなければいけない。ロシアもそうです。よく考えていただきたいんですけれども、まず、どうやって問題を解決するか。中国は今、垂れ流ししているわけですね。それをどうやって解決するかというと、100年前だったら、日本は軍艦を派遣して強制的にそういうモウモウと炭酸ガスを垂れ流している火力発電所を軍隊で占拠して止めさせる。軍事力で問題を解決する。これが1つ。
  2つ目は、そういう積極戦略じゃなくて、待ちの戦略があるわけですね。温暖化によって、これから中国、インド、多分アメリカもそうですが、猛烈な被害に遭っていくわけです。例えば中国の場合には、チベット高原の天山山脈の氷河が全部解けてしまうと考えられている。農業が大打撃を受ける。さらには砂漠化がさらに進展する。ですから、中国が音を上げるまで我々は待つ、という戦略もあるわけですよ。
  まず第1の戦略は、軍事力で相手にいうことを聞かせる。2番目は、待つ戦略。あとはその真ん中に入ってくる戦略になるわけですね。まず第1の軍事力でやるという戦略はあり得ないでしょう。これはアメリカにしたって、北朝鮮さえどうにもならないんだから、中国へ軍隊を送って止めろと言ったって、どうにもならない。だから、第1の戦略はあり得ない。
  待つ戦略はどうかというと、待つのは我々自身も参ってしまう。最悪の場合には待って、自分たちが苦しんで、音を上げるまで待つ。要するにチキンレースになるわけです。どこが最初に音を上げるか。恐らくアメリカと中国、インドが音を上げ始めるはずなんです。もう既に、オーストラリアが音を上げ始めている。オーストラリアは大干ばつで、首都のキャンベラだって、飲料水がほとんどなくなってきている。さすがに温暖化懐疑論者のハワード首相も音を上げて、地球温暖化問題に対策を立てなきゃいけないと言い出しているわけです。
  両方の戦略があるわけだけれども、まず、今何が起きているかというと、確実に科学的にはCO2というのは大気汚染物質であるということがわかったわけです。3万年から3万5000年漂って、温暖化させる。サイエンスがさらに進展していくと、CO2を1キログラム放出すると、人間の寿命をどれだけ短くなるかまで計算しているわけです。
  それを根拠にして、大量の賠償請求が始まる可能性があるわけです。つまり、大変なリスクなわけです。火力発電所を運営している会社は将来物凄い罰金、お金をとられることが出てくるわけです。
  だから、経済的にいくか、裁判所に訴えるのか。アメリカは、最高裁判所が、CO2は大気汚染物質である。従って、火力発電とかそういう電力会社が削減の義務があると、今回判決で下したわけです。
  そういう裁判でいくのか、経済でいくのか。それからカーボンディスクロージャープロジェクトというのが、今起きていて、世界の何千兆円というお金を持っている機関投資家が集まって、各企業に炭酸ガスの放出量を公表しなさいということを迫っているわけです。公表されたものを見て、その企業のリスクを考えて投資をします。そういう方面で動かしていく。世界は確実にそういう方向に動き出してしまったわけで、軍事力で中国にいうことを聞かせることはできないと思いますけれども、金融力や製品、そういうところで、中国をポスト京都に入ってこさせるようにすることは、私は可能だと思う。
  ただ、アメリカが猛烈なハリケーンに、年間何発も襲われるようになってくる。だって、この前だって、横幅直径800メートルの竜巻で16人が死亡したわけでしょう。アメリカはもう既に、年間500ぐらい竜巻が発生しているわけです。アメリカがどんどん地球温暖化と目される気象被害に遭っていけば、アメリカは軍事力を行使してでも、そういう炭酸ガスをモウモウと垂れ流すような火力発電所は閉鎖しろ、というふうに動き出す可能性も私はあると思います。
  だから、これからの数年は、相当大きな動きが起きてくると私は思う。安全保障理事会が、気候安全保障ということを、今言い出しているわけです。例えば、バングラデシュを考えれば一番わかりますよね。バングラデシュは真っ先に海面水位が上がっていくと沈没していく国なわけです。バングラデシュの人たちにとったら大変なことなわけです。これが、イスラムの例の人間が爆弾になってテロをやるようなことを起こし始めたらえらいことです。いずれにしても、そういう方向へ世界は動くと思います。
  経済の問題ばかりじゃなく、まさに安全保障の問題になりつつあるというのが、今の状況だと思います。
與謝野 ありがとうございました。
  本日のお話のなかには、地球環境の待ったなしの現下の実態について、包括的な最新情報と共に、実情を正しく把握し的確な認識を深める意味でも大変に貴重な識見の数々がございました。皆様におかれましては学ぶところが大であったのではないかと思います。会場の皆さんにおかれましては、ご講演をご熱心にお聞きいただき、またご熱心に多くの方々からご質問いただきましてありがとうございました。さらに、山本先生におかれましては、非常に解り易くご丁寧に示唆深くお答えいただきまして誠にありがとうございました。
  それでは最後に、本日の貴重なお話を頂きました山本良一先生に、いま一度大きな拍手をもってお礼の気持ちをお贈り頂きたいと存じます。(拍手)
ありがとうございました。それではこれにて本日のフォーラムを締めさせて頂きます。


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