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第5回NSRI都市・環境フォーラム

『 新しい都市計画制度のあり方 』

講師:   石井 喜三郎  氏   国土交通省大臣官房審議官(都市・地域整備局)

 
                                                                           

日付:2008年5月21日(水)
場所:ベルサール九段

                                                                            
1.最近の都市計画に係わる主な課題

2.これまでの都市計画制度の変遷

3.近年の社会経済情勢の変化
   人口減少・高齢化の進展
   世帯構成の変化
   団塊世代による影響
   世界的な都市間競争の進展
   農業を巡る環境変化
   地球温暖化
   都市計画制度における地方分権

4.検討体制・今後のスケジュール

5.具体的な制度の論点
   都市計画区域
   マスタープラン
   土地利用コントロールに関する基本的な考え方
   線引き・開発許可制度
   用途地域・地区計画等
   都市計画決定手続
   エリアマネジメントの促進

フリーディスカッション



 

與謝野 皆さん、こんにちは。それでは、定刻となりましたので、本日のフォーラムを開催させていただきたいと存じます。
  皆様におかれましては、大変お忙しい中を本日のフォーラムにこのように大勢お運びいただきまして、誠にありがとうございます。また長年にわたりましてこの都市・環境フォーラムをご支援いただき改めまして厚く御礼を申し上げます。
  さて、皆様ご高承の通り、我が国の人口縮減はますます進み、さらに地球環境の保全も一層厳しい局面を迎えている昨今ですが、こうした動向も受けて最近、これまで施行されてまいりました都市計画法を見直す動きがございます。
  そこで、本日は、新たに策定されることとなるこの都市計画制度のありようについて、この分野で現職の立場でご活躍されておられます国土交通省の審議官に、大変お忙しい中を本フォーラムにお運びいただきまして、新たな制度検討へ向けての課題と論点等も含めて、親しく皆様へお話をお聞かせいただく機会とさせていただきました。
  本日お招き致しましたのは、国土交通省大臣官房審議官の石井喜三郎様でいらっしゃいます。石井さんのプロフィールにつきましては、受付でお渡ししましたペーパーの通りでございますが、東京大学をご卒業の後、旧建設省に入省され、英国オックスフォード大学に留学されたのち、本省にて実に多方面にわたる領域での行政の実務に携わって来られ、住宅政策課長を歴任ののち都市計画課長に就任された際には、皆さんご高承の通りの例の「景観緑3法」の策定に、行政の現場にて多大なご尽力をなされた方でいらっしゃいます。
  その後、2007年7月から現職に就かれ都市計画行政分野の第一人者として幅広くご活躍されておられます。
  本日の演題は、前に掲げております通り、「新しい都市計画制度のあり方」と題されまして、これまでの都市計画制度の歴史的変遷あるいは近年の社会構造、地球環境の激変を招いた課題、さらにはそれを念頭に置いての今後の制度検討の論点等について、豊かな行政実務経験を踏まえられた貴重なお考えがお聞きできるのではないかと大変楽しみにしております。
  それでは、大変にお忙しい中を本フォーラムにお運びいただきました石井審議官を、皆様からの大きな拍手でお迎えいただきたいと存じます。(拍手)
  石井様、よろしくお願いいたします。

石井 ただいまご紹介をいただきました石井でございます。今日は、諸先輩もいらっしゃって、都市計画の第一人者などと紹介をされて、大変恥ずかしい思いをしておりますが、たまたまちょうど時期に当たっているということで、私どもの考えていることをお話をさせていただこうと思います。
  お話をする前に1つお願いがございます。受付でお手元にアンケートを配らせていただきました。今日お集まりの方は都市計画、不動産、建設、住宅など、様々な分野の方がいらっしゃいます。今、我々は、新しい都市計画法について検討を始めたばかりですが、地方公共団体に対するアンケートは既に調査をしております。また地目の変遷であるとか、こういうことも調査をしておりますが、今日お集まりの皆さんのような専門家の方々とはまだ意見交換を始めておりません。その意味で、相当細かいアンケートとなっておりますが、後程でも結構ですので、アンケートにお答えをいただきたいと思っています。
  今まで都市計画法もいろいろな制度改正をしておりますが、これから制度改正をやるということになりますと、相当制度全般にわたる見直しをします。これはご承知の通り、国民1人1人の生活にも影響を及ぼすと同時に、皆さんのビジネスにも大変影響があるのではないかと思います。
  そういう意味で、大変良い機会を頂戴したので、アンケートを是非ともお願いしたいと思います。

1.最近の都市計画制度に係る主な課題

(図1)
  「最近の都市計画に係る主な課題」というのは、昨今の経済情勢の変化の中にも少し入っておりますので、カットします。


2.これまでの都市計画制度の変遷

(図2)
  「これまでの都市計画制度の変遷」という話題についてですが、都市計画協会、昔の都市調査会の後身の協会が出している「新都市」という雑誌に、今月号から1年間の予定で、都市計画制度の抜本改正に向けて、過去の制度のサーベイや、いろいろな資料を1年間かけて載せようと思っています。
  その第1弾で、今回は、都市計画の最高責任者の増田局長が「こういう視点でやりたい」ということを一文寄せています。また、制度の歴史的変遷に非常にお詳しい北大の越沢先生に戦前からの制度の非常にざっくりとしたサーベイを書いていただいております。
  これから私どもの各課が担当して、土地利用制度はどんなふうに変わってきたのか、或いは施設制度、事業の制度等々について書きます。そして、制度改正の前段としての資料的整理をしたいと思っておりますので、そちらを参照していただければと思います。
  若干言い難いお断りですが、お手元にパワーポイントを刷ったものがございます。スケジュールは、昨日、大臣が経済財政諮問会議その他分権委員会等の関係で話をしましたのでもうオープンにしてもいい内容にはなっています。ただ、この資料を作る時点でまだはっきりしておりませんでしたので、スケジュールや具体的な論点の箇条書きになっている部分は、皆さんのお手元の資料は入っておりません。その点をご容赦をお願いいたします。また、制度の検討はまだ緒に着いたばかりであり、検討の方向性はあくまでも石井個人のものであることをご理解下さい。

3.近年の社会経済情勢の変化

(図3)
  これだけのことを最近の制度改正に至る背景としてご説明をしたいと思います。
  実は、最近我が家で幾つかのイベントが生じました。悪いことで言うと、3年ぐらい前に母が亡くなりました。今年の春には坊主が大学を卒業して就職して家を出ていき、娘もこの夏から会社の勤めの関係で外国に行ってしまって、3年前には1軒の我が家に5人がひしめいて、どちらかというと、家の中でテレビのチャンネル争奪戦以外にも部屋の争奪戦みたいなのもあって、大変な思いをしていたんですが、それが急に、夏も近づいてきて娘もいなくなると、妻と私の2人だけで、いわゆるエンプティ・ネストのようになってしまいます。
  ふと、我が国の都市計画制度の背景を考えてみると、何のことはない。我が家で起きていることそのものではないか。人の数が減り、世帯の構成も変わる。私は、団塊の世代より少し下ですけれども、団塊の世代が近所にも増えてきた。娘は2年たったら戻ってくるかもしれないんですが、「いや、お父さん、戻らないかもしれないよ」ということを早々に行く前から言っている。日本と世界の都市の魅力が比べられていることなんだと思います。農業とはあまり関係ないんですが、私もガーデニングなどというものに手を染めてみたりしています。地方分権は、いわば家庭における支配権のようなもので、お父さんの地位が低下をしているということに似ているわけです。ここら辺に挙がっていることは、マクロ的に見れば我が国のことではありますが、一方マイクロレベルで見れば、完全に家庭で起きていることと同じなのです。
  そうした時に、家であれば、リフォームであるとか、部屋の模様替えが必要になってまいります。またそれをやっていかないと、「ビフォー・アフター」とかいう番組がありますが、家族が幸せに暮らせない、元気よく暮らせないということがあります。日本の場合においてもそういうことがこれから生じてくるのではないかということだろうと思います。
 
  (人口減少・高齢化の進展)
(図4)
  一番最初は、我が国の人口構造の変化ということであります。中位推計、高位推計、低位推計ということですが、今後数十年の間に数千万人の人間が減っていくということでございます。
  もう1つは、高齢化。65歳以上の人口の率ということになります。これが現時点で2割ぐらいですが、あっという間に倍ぐらいになっていくということでございます。都市計画というのは、皆さんもよく考えていただくとわかると思うんですが、昔農業時代には余り関係がなかった。それが産業構造の変化で工業化に伴って人が集まってくる、事業が集まってくる時に、それを空間的に差配する仕掛けとして成立してきたわけです。
(図5)
  では人口減少や高齢化は日本だけの議論かと言われれば、実は人口の減少は日本以外にも起きてくるところがあります。韓国なんかもそうです。ただ、一方で、先進国の中にもアメリカのように移民の多い国や、或いは既に移民が相当増えていて出生率の回復を図っているような国はこれからも人口が増えていきます。マクロ経済の仕組みから言えば、生産性の向上は大変大切なことですが、人口が増えた分だけ経済が大きくなっていくという事実からは絶対に逃れられません。
  もう1つ厳しいのは、先進国になっていけば、当然赤ちゃんは死にませんし、老人になっても、チューブはつきますけれども生きていけます。そういうことになれば、高齢化はしていくわけで、ある意味ではそんなに怖くないことなんだろうと思います。ただ、そこにおけるスピードの問題があります。高齢者と言っても、今日も相当年配の方も見えていますが、昔から比べれば、大変元気で、生産年齢人口と考えて全く問題ない方々が増えていく。それをうまく社会に取り込んでいけばいいんでしょうが、その過程におけるスピードというものを克服していかなければいけないというところが大きな課題だろうと思います。
(図6)
  人口減少を都市計画で考えていく時に、それがどんな形で我が国の中で進んでいくのかということも大変大きな課題になります。これは都市圏別の人口ですが、実は3大都市圏や政令市は減り始めるのも遅いですし、減ったとしても、30年経ったところで、ピークから5%ぐらいしか減りません。ということは、ある意味ではのみ込めるぐらいのショックなんだろうと思います。
  ところが、例えば非都市圏になれば、3割ぐらいは楽に減ってしまっている。もう少し小さな地方の都市圏でも、1割5分とか2割とかで減っていくということになると、これは完全な見直しをしていかないと、とても間に合っていかないだろうという気がいたします。
  ですから、今日、都市計画制度の見直しと言われても、ひょっとすると、ゼネコンの方とか不動産業界の方は、変なことをしないで欲しいほしい、やっと落ちついているのにさわるな、というぐらいのお気持ちかもしれません。しかし地方圏の将来人口を考えると今のままではなかなか厳しい。
  それから、もう1つは、都市圏の中での人口の集積度の問題があります。後程、環境の問題などについてもいろいろ申し上げますが、各都市人口のシェアを見てみると、東京は、集中してきているということであまり人口集積が減ってきていることはお感じにならないかもしれません。ところが、全国の都市で見れば下がってきている。ただ、これが全て同じかと言えば、東京の都心の23区に対する集中、札仙広福に対する人口、産業の集中は、他とはちょっと違った形で生じているということがあります。
(図7)
  これは都道府県別で10年後と30年後の人口増減を見ています。そうすると、10年後の時点でも、秋田や和歌山といったところは大変少なくなっています。人口が増えているのは千葉、東京、神奈川の3県、愛知、滋賀、そして沖縄。沖縄は自然増加率が大変高いということで少し違いますが、それが30年後になると辛うじて東京と沖縄だけという状況になって、その時点では、25%を超えて減るようなところが沢山出てくる。県全体の人口ですから、恐らく県庁所在都市や10万以上の都市はこんなには減っていないはずですので、他の数万とか数千の市町村で、そのボリュームだけ減るということです。そう考えると、この風速がいかに甚大かわかります。例えば我が家が5人住んでいたところが2人になると、1軒家は全然要らない。それと同じように、まちづくりそのものを変えていかないと、田舎の大きな家におじいちゃん、おばあちゃんが1人だけで住んでいる。使いづらいな、住みにくいなというのと同じことが都市で起きてくるということでございます。
(図8)
  今田舎の空き家の話をしましたので、先に空き家の方を見てみます。私もこれは意外だったんですが、空き家率は大都市圏も地方圏も両方どんどん上がってきていて、今大体10%強ぐらい。多少傾きが変わったりはしてきていますが、しかし、まだ増加傾向にあります。家をどうするのか。一部では二地域居住をしたり、ダブルハウスをすればいいじゃないかという考え方もあるようです。しかし、1世帯に4人も5人もいればそうなのかもしれませんが、1人や2人で住んでいる人に、それだけの経済的負担をかけられるかどうかという問題も大きいと思います。
  そして、耕作放棄地の問題があります。これだけ農業が大切だと言われていながら農業をやらない土地がこれだけ出てきている。こういう問題を都市計画の世界ではどういうふうに扱っていくのか。今、耕作放棄地が十何万ヘクタールらしいですが、農水省の話でいきますと、今後10年間でもっと増えるんだと推計をしているようであります。
(図9)
  そういう中で、先程、人口減少の地域間格差ということを申しましたが、それだけではなくて、さらに高齢者の割合が増える集落が大変な問題になります。これは50%以上、2人に1人が65歳以上の集落の数です。ある幹部の方が、高知市のすぐ隣の村に行かれたそうで、そこは65歳以上の方が6割、7割を占めている。そうすると、生活の維持もなかなか難しくなってきている。そういったところは、中国圏であるとか四国、九州というところでは、率、数ともに大変な数になっている。こういうところについてどういうふうに考えていくのかということがあります。
  先程人口減少などいろいろ挙げてきましたが、今までの都市の形態を規定してきている大きな要素にモータリゼーションがあると思います。分散化した都市でも、CO2のことやいろいろなことが最近は言われていますが、モータリゼーションがうまくいっていれば、今までの都市論でもあるように、余り問題ないんだろうと思います。
  その方が豊かな自然もすぐそばにあって、買い物にもすっと行けて、しかもレジャーも楽しめるということでいいんでしょうが、高齢者の方に聞いてみると、高齢化と運転の問題が非常に厳しい現実になっている。高齢者の車を使う大きな理由が、買い物であるとか日常生活そのものにかかわっているところにあります。ところが、そうは言いつつも、やはりずっとは運転できないなと思っている人が大部分の高齢者ということになります。
  これが都市の形態を本当に変えることにつながるのか。我が国の自動車保有台数が減ったということが新聞で簡単に言われておりますが、ある意味では非常な驚きです。保有台数が減るのは、過去の概念を全く崩すというところだろうと思います。これから坂を転げ落ちるように減っていくかもしれません。今、衝突防止だとかいろんなことが出てきているようですけれども、技術力で果たしてカバーできるのかどうか。
  そういう意味では、私が非常にショックだったのは、ニュースで、四国のローソンが、店舗販売ではなく、トラックに冷凍ショーケースとか冷蔵ショーケースを積んで集落を回っていて、これが大変好評だということです。
  逆に言うと、地域のコンビニでは、人口の高齢化・過疎化に対応して、そこまで必要性が出てきているということではないかと思います。

(世帯構成の変化)
(図10)
  次は、世帯構成です。単身世帯、高齢世帯がどんどん増えている。これは恐らく高齢化の議論が一番大きいんだろうと思います。もう1つは、いわゆる家族世帯でない場合についてですが、私なんかは、子どもができて、通勤に1時間半かかって多少不便でも、家族のことを考えて、いい環境ということで郊外居住をしています。ところが、そういう選択肢も実は崩れてくるのかなという気がします。そして、高齢者が本当に増えてくると、地方都市でマンションが人気を呼んでいるということを聞いていますが、高齢者の住まい方自身が都市構造にも影響してくるのではないかなと思います。

(団塊世代による影響)
(図11)
  団塊の世代。ここのところはまだお元気ですが、この部分が将来後期高齢者に入ってきた時にどうなのでしょうか。この調査自身は団塊の世代の40%がどこかに移りたいと言っているから、それが都市に非常に影響するのではないかというアンケートが出ているようなんですが、本当なのかなと思います。私が家内に聞いてみると、私は地方出身者なので、田舎に戻ってもいいかなという気もしないではないんですが、奥さんの方は、せっかく地域でお友達もできてそんなことは考えられないという人が多い。ですから、こういうことに本当になるのかしらという気がしています。
(図12)
  一方で、地域への参加を考えると、私も3年ほど前に町内会長というのを仰せつかって、2年ほどやりました。少し時間が出てくる、そうすると地域にも目を向けるという意味では、まちづくりであるとかこういう活動に団塊の世代が入ってくるんじゃないかと思います。そうすると、後程議論になりますが、まちづくりとか都市計画というのは、今日はコンサルタントの方がいらっしゃるかもしれないんですが、一部の専門家が決めて、「はい、これよ」という世界でいいのかどうかという決定プロセスにも大きくかかわってくるんじゃないかと思います。
  私自身過去の経験で2つほど非常に印象に残ることがありました。
  私は事務屋です。一番初年兵で都市計画課に入ったので、都市計画図というのはよく見ます。ところが、さっぱりわからない。果たしてこの都市計画図からどんな都市になるのかというのはなかなかビジュアライズ、立体化できなかったわけです。
  一方で、30歳前後だったでしょうか。仕事でストックホルム市に行きました。ストックホルム市でお話を聞いて、市役所の地下に連れられていったら、大変大きな模型室があった。大学の時に都市工の先輩の模型づくりを手伝わされた覚えがありますが、まさに都市計画を市民に見せる、そして市民の参加を得るということが30年ぐらい前、北欧では一生懸命やられていた。
  これから団塊の世代のアクティブな方々の参加の仕方、市民への説明の仕方といったところも、実は都市計画の手続という面では大きくはね返ってくるように思います。

(世界的な都市間競争の進展)
(図13)
  2つ目のポイントは、世界的な都市間競争です。一昨日と先一昨日、沸騰都市ということでドバイとロンドンをNHKで取り上げておりました。
  この図表は、主要先進国間の競争力。アジアでの順位。単純に言えば、日本はどちらも低くなっているねということです。今日来ておられる日建設計の方と一緒に香港の会議とかドバイの会議に出たこともあります。私も仕事で金融を3年ぐらいやっていたことがあります。正直言って、彼らはフィナンシャルセンターの議論をする時に、香港とかシンガポールという話をしています。時々こっち向いて東京ということはありますよ。ただ、通常の彼らの雑談の会話の中で、東京はあまり出てこない。正直いうと、私は、それくらいの感じになっているのではないかと思います。
  そして、国際競争ということ。これをまざまざと見せつけられるのはヨーロッパです。ヨーロッパでまず最初に国の壁が取り払われました。そうすると、明らかにどの都市も、国内の競争ということで都市づくりを考えているプランナーはいない。明らかに、ロンドンの中でも中核のシティの人たちは、どうやったらフランクフルトに勝てる金融センターとまちづくりができるかということを必死になって考えています。
  イタリアのボローニアなどの中小の都市、日本で言えば倉敷とか金沢という感じになるんでしょうが、それぐらいの町も、ギリシャではなくて、うちの町に観光客が来てもらいたいと言って、観光都市、歴史都市をまちづくりとしてつくり上げていくにはどうしたらいいんだろうかという視点で常に物を考えている。
  会った人から様々なメールが、言語の壁、国境の壁を乗り越えて、毎日のように入ってくる。その意味で、今、日本は相当内向きになっていますが、まちづくりということは決して東京だけの議論ではない。大阪も、名古屋も、さらに中小の都市も、まだ日本やアジアは国境の壁がありますが、国際競争を念頭にした都市計画を展開しなければ、正直言って競争力をこの10年か20年で失ってしまうのではないだろうかという気が凄くします。
(図14)
  そういう意味で言うと、私はやはり外国人がいないと駄目なのではないかなという気がします。国際化を議論した時に、外国人を外国人と余り思わないで、自然と生活できるような町にして初めて外国の企業も来ますし、日本の人達もそことおつき合いをしていける。そういう意味では、もっと外国人が来やすい環境、そういうまちづくりにしていかないといけないんだろうと思います。
(図15)
  幾つかの例として、ちょっと古いですけれども、ロンドン、カナリーワーフというところの再開発がされました。一時はペンペン草が生えていて、視察に行った人も「何だ」と思われたのではないかと思います。私も以前、開発の当初、オリンピア・ヨークが倒れたころ行きましたが、去年でしたか、行って、びっくりしました。本当に隆盛を極めている。しかも、24時間都市である。
  そのカナリーワーフはシティとは少し違う場所になりますから、そこと競争するように、シティもどうやったら金融拠点の能力を取り返せるだろうかということをさらにやっている。
  その上で、次はテムズゲートウエーというところをやっている。これらの競争力を高めるために、例えばヒースロー空港は第5ターミナルをやっているし、ロンドンシティエアポートもできている。電車はシティのすぐ北までユーロトンネルを介してつながってきている。
  それだけしても、まだまだまだまだと。競争に勝つためにはどうしたらいいんだということを必死になって、シティの担当者の人たちは考えているということです。
  日本で東京の議論をすると、「東京ばっかり」という議論は必ず起きます。ロンドンは東京のバブルを倍にしたような感じでやっているものですから、「あなたのところはロンドン一人勝ちの議論はないのか。ホテルの値段も高いし、異常じゃないか。それに対するねたみ、そねみで、足を引っ張られるんじゃないか」と言うんです。すると、「いや、それは常にそうだ」と、イギリスでも言っています。
  しかし、ロンドンの成長が廻り廻って地方を潤しているということを我々は必死になって説明している。毎年毎年説明に行くというわけです。そして、ロンドンとタイアップしてできる仕事を一生懸命探してやる。まちづくりのアドバイスなんかもすると言っていました。
  よくわかったんですが、どの国も内向きの問題もあるんですが、それを排除しながらもさらに世界都市として頑張るという努力が都市政策、都市づくりの中でやられている。
  同じようなことは、私は前に物流をやっていたことがあるんですが、その時に、貨物の港湾の24時間化という議論がありました。日本の場合には、港運組合との関係で、そんな馬鹿なことはできないと言われますが、実は、港運ストライキというのは日本だけのお家芸でなくて、世界各国あるわけです。それを乗り越えて、バンクーバーにしろ釜山にしろ24時間化をやっている。
  世界の都市がもがくようにして競争してやっている。きれいごとの都市づくりを世界中どこの都市もやってないということです。
  上海は、ご承知の通りたくさんの方が行っておられるので、こんな形になります。

(農業を巡る環境変化)
(図16)
  農業です。人口が減る。特に地方部で人口が減っているので、そこの主産業の農業の人口が減るのも当たり前です。また、高齢化が進むということになれば、ガーデニングをやってつくづく思いましたけど、朝から晩までやるのは大変です。2時間もやったら、翌日、私なんか腰が立たなくて、会社で休憩しないと仕事ができないというぐらい大変ですから、そういう意味では農家戸数の変化自体、私は止まらないんだろうと思います。
  それをほうっておけば、当然のように、耕作できないわけですから、耕作放棄地というのも増ふえていくんだろうと思います。
(図17)
  農業の衰退の背景には、もちろん人口の変化があります。ただ、それでも物が入ってこなければ農業は成立します。しかし、今回の中国のことでよくわかりましたが、正直言ってこういうふうに隣の国から、ギョーザなんか輸入しているのかと思いましたよね。ギョーザをわざわざお金をかけて輸入するのかと考えるのが、私なんかの常識だった。今の子どもたちはそんなこと一切思いません。輸入するのが常識ですね。バルクで他の大豆や何かを入れるんだったらともかく、ギョーザの製品にしたものまで輸入する。それが十分成り立ち得るということは、逆にいったら、産業のビジネスモデルを変えない限り日本の農業は駄目だろうということになっていきます。
(図18)
  一方で非常に重要なことは、世界の資源をめぐる競争についてです。恐らく日本は水は余り心配ないと思いますが、燃料用エタノールの需要増加などで農産物についても大変な競争の時代に入っている。そうなると、この40%という世界の中でも極めて低い自給率でいいのか。これを何とか位置づけをしていかないといけないというところになっていくのではないかと思います。
  EUなどはそれを積極的にやっています。私自身びっくりしたんですが、昔イギリスに留学で行った時に、日本では輸入食品がスーパーにまだそれほど並んでいるという状況ではありませんでしたが、イギリスのスーパーに行ったら、メード・イン・イングランドと書いてあるものの方が少なくて、デンマークやフランスというものの方が多かった。当時は進んでいるなと思いました。
  ところが、イギリスは70%の自給率だ。そういう国に対して日本は40%ということで、むしろ日本の方がずっと自給率が下がってしまった。この数十年の変化は、これからの国のあり方に大変影響してくると思います。
(図19)
  それを考えた時に、農業は田舎だから関係ないのかという議論がありますが、これは私も知らなかったのですが、農地面積のうちの4分の1は都市的地域で、農家戸数でもこんなに多い。
  恐らくこれは付加価値ベースでいけば、蔬菜であるとかそういうものが多いでしょうから、もっとこの率は高くなるのではないかと思います。
  そう考えると、これから都市地域における農地の位置づけを見直す必要があります。今都市計画に農地という区分はありません。都市計画の中には生産緑地という形でしか位置づけられていません。農地というものの位置づけをするかどうかという大きな課題になるんだろうと思います。
  それから、先程申し上げましたけれども、その貴重な農地の中でも、耕作放棄地が、増えているということも大変大きな問題だろうと思います。

(地球温暖化)
(図20)
  地球温暖化についてですが。私自身は全くその手の知識がありませんが、7%の削減が、それがまさに始まるということでございます。
  その中で、業務関係と家庭、単純に言うと都市の中核的な土地利用のところで、CO2が大変増えていて、逆に言うと、増えた分を減らさなければいけないということだから、都市に削減のロードが高くなるであろうということになります。
(図21)
  環境省の国立環境研究所というところで、これからの削減の内容の2〜3割は都市ということになるだろうと言っています。今日も、千代田区の飯田橋の地区計画の中でCO2の削減をやろうという議論が出てきましたが、都市計画の世界にもそういう時代が目の前まで来ているのかなという気がいたします。

(都市計画制度における地方分権)
(図22)
  最後に、地方分権についてです。地方分権というと、今の制度を前提にすると、都市計画を誰が決めるかという議論だけのようにも思えます。今地域地区、用途地域というのはメニューになっています。いわば食堂でセットメニューが並んでいる中から選ぶわけですから、それを誰が決めるかというのは非常にわかりやすい話で、県が決めてもいいだろうし、市が決めてもいいという仕掛けになる。しかし、ただ、もし制度を大きく見直して、それを本当にアラカルトの自由メニューにするように変えたとすると、詳細な計画になりますから、上位の団体が決めるということはなかなか難しくなります。
  実は、この地方分権の議論は、まさに制度設計そのものに対して、一番その制度を動かしやすい人が決める組み合わせの問題として議論をしていかなければいけないのだと思います。
(図23)
  基礎的な知識のために、今の状況を申し上げると、現在は約8割が市町村、そして2割が都道府県。線引きなどですね。それから国が直接決める都市計画は、ありません。
  そうした上で都市計画の調整という観点から区域を越えるような広域のものについては、県が市町村調整をするし、国の利害にかかわるものについて国が調整するという仕組みになっています。
  私は新法の時代しか知りませんが、旧法では全部国が決めてきた。そして、43年には6・4という比率の都市計画の決定になっていた。そして、それが地方分権一括法があり、さらに、14年改正を含めて、ここ10年ぐらいの間に市町村決定の部分が広がってきて、今、8・2になっているということです。
(図24)
  直轄国道の15%ぐらい、河川の何%ぐらいを国の直轄から県の方に整備、管理を移すということが新聞に載っていたと思います。実は都市計画も話題になっています。
  平成22年に新地方分権一括法というのを決める。その中で議論をするために今大臣間調整をしています。そういう中で都市計画についても、国への同意協議、都道府県から市町村への権限移譲について議論をしなさいとなってきています。
  私どもとしては、望ましい制度に合った決定権限のあり方、分権と言うよりは、ヨーロッパでガバナンスと言いますが、一番最適な人が決める、そういう視点でこの問題に取り組みたいと思っています。

 

4.検討体制・今後のスケジュール

(図25)
  個別の具体に入る前に、制度の見直しをやるのかやらないのかという議論があるので、スケジュールをまずお示しします。
(図26)
  実は、これはもうオープンにしても良かったんですが、皆さんの資料に入っていません。一応22年には見直しを始めようということで大臣が一昨日発言をしたりしていますので、ほぼこのスケジュールでいくのではないかと思います。
  そこへの道程はどういうふうに物事が進んでいるかということですが、今、都市計画課とか関連課で、今の制度のどこに問題があるのかといったことのレビューを重ねています。
  これから事例をご紹介します。それと同時に、私どもの中の企画課、都市政策を議論するところで、今言った高齢化、国際化、そういう時代の中でどんな都市をつくっていくべきなのかというビジョンを、この1年ぐらいかけて制度をつくる前につくろうと思っています。
  21年度には制度の素案をつくります。日本全国に使うとなると、どこかで実験的なケーススタディをやりながら、制度を22年から改正していく。
  新法の時もそうなんですが、1年ではなかなか全部やり切れないかもしれません。特に都市計画区域の設定から線引きから用途地域、都市施設のやり方、プロセスというところまで変えると、相当大部なものになりますから、ひょっとすると数年かかるかもしれないと思っています。
  このスケジュールを考えている背景の1つは、地方分権一括法があるということと、温対法の見直しがこの23年ぐらいに入ってくることがあります。そうすると、見直しの前に温暖化対策を都市計画の中にも位置づけたい。それから、大規模店舗などの規制を初めて導入したまち三法の改正の見直し規定があります。それから、都市再生特別地区などを決めている都市再生特別措置法というのがありますが、これの見直し規定も24年にある。これらを踏まえて、22年から関連分野の見直し規定に合わせて制度を集中的に見直してゆく。
  もう1つは、やっぱり線引きの時期が制度見直し時期を考える上で大切です。線引き見直しは全ての区域が一時期にやるわけではなくて、山があって、その両側にパラパラと幾つかの山があるという仕掛けです。恐らく山が22年と27年ぐらいに来ると思います。そうすると、22年の山は今までの制度でやるしかない。しかし、少なくとも次の山の前には制度をつくって、しかもつくった制度は、周知期間が、2〜3年要ると思いますから、周知期間を置いた上で新しい制度が使えるというふうにしておきたい。
  他に、今まちづくりの新しい担い手の議論をしていますので、それはこの制度設計の前にやりたいなと思っています。

5.具体的な制度の論点

(図27)
  これから具体的な制度の論点に入っていきます。
(図28)
  こうやって論点を挙げると、都市計画法の章立て全部入ってしまいます。単純に言うと、都市計画をやる場所、方針。これは非常に重要なことだと思いますが、土地利用規制を何でやるのか。よく計画なきところに開発なしとか言いますが、そういう基本的な考え方をどうするか。そして、線引き、開発許可。このディベロップメントコントロールをどう考えるのか。そして、用途、地区計画をどう考えるのか。都市計画区域は場を広く設定するのか、狭く設定するのか。マスタープランを本当に都市計画の中核に位置づけていくのか。
  マスタープランについて言えば、整備、開発、保全の方針の時よりは、よほど良くなりました。区域マスタープランも都市マスタープランも良くなりましたが、それでは、あれでディベロップメントコントロールできるかといったら、なかなかそうはいかない。マスタープランを、イギリスのように、或いはドイツのFプランのように、本当の都市計画の基準にするのかどうか。開発許可制度について言えば、線引きはこれからもやるのか、やらないのか。
  用途地域について言えば、今のセットメニュー方式にするのか、自由なアラカルト方式にするのかということだろうと思います。
  都市施設について言うと、長期未着手の問題、53条制限の問題、収用の問題といったところです。市街地開発事業というのは、都市を広げるための施設及び宅地造成事業だったわけですが、人口減少時代にこれをどういうふうに考えるか。
  それから、決定手続は、先程も申し上げたように、これから団塊の世代を含め住民が参加をしてくる。その関係で都市計画の原案に複数案を認めるかどうかが議論になる。そして最後に、都市計画というのはつくったらおしまいか、都市の管理はどうするかという議論。こんなところが論点になってくるのではないかと思います。
  これからご説明する時には、幾つかの問題になっている事例を説明します。都市計画課の方で市町村に対するアンケートをしています。その内容をお示しします。
  最後に、それでは、どんな議論の仕方があるのかというところをお示ししたいと思います。

(都市計画区域)
(図29)
  まず、都市計画区域です。都市計画区域の面積は約1000万ヘクタールで、国土の25%ぐらいのところに95%ぐらいの人が住んでいるということになります。その意味では、人が住んでいるところを束ねているという仕組みになっています。これは参考にこんなふうだよということを理解しておいてもらえばいいと思います。
  それで何とか今までうまく来ていたんだろうと思いますが、今いろんな問題が生じてきています。
(図30)
  これは代表的な広域都市計画。日本の都市計画区域というのは市町村単位ではなくて、広域都市計画というところに実は特徴があって、全体で181、区域の14%が広域都市計画になっています。
  ところが、例えば富山市は、富山駅のところに立って、はるか日本アルプスが見えます。富山市は合併して、あの日本アルプスまで富山市になっています。そういうふうに行政区域が広がってくると、今まで広域都市計画というのは、単純にいうと、大きな都市計画区域の中に市町村が幾つもありますということだったんですけれども、逆に市町村の中に都市計画区域が幾つもあるという事態が生じてきています。
  これは鹿児島市の例ですが、厄介なことに都市計画区域というのは、それでは幾つもあったらそれをペタッと一緒にできるかという議論で見た時に、あるところは線引き、すなわち市街化区域、鹿児島市の中心部とその周りは厳しく抑制するという線引きのところがあり、あるところは非線引きということで余り厳しい規制をしていない。もう1つは、都市計画区域外のところがあるというように、合併したことで、規制の程度が違うものがモザイク模様的に入ってきてしまっているという問題が生じてきています。
  ですから、これをどういうふうにこれからの時代に合わせていくのかが1つ大きなジレンマとして生じてきています。
(図31)
  もう1つは、まちづくり三法で議論になった大規模集客施設です。単純にいうと、これはモータリゼーションのなせるわざで、かつての自転車では、正直言ってなかなか遠くまでは買い物に行かなかった。30年前は主婦も大体自転車で買い物に行ったわけです。その時代であればこういうことは起きなかったんですが、今は奥さん方も、田舎に行けば車が2台あって、郊外のショッピングセンターに買い物に行く。そうすると、都市計画区域の外にどんどんこういう施設が立地してしまう。この周りは大変便利なわけです。こういうところを都市計画の場の中に入れるのか入れないのかといったことも大きな課題として生じてきています。
(図32)
  アンケートをしてみました。都市計画区域の設定について過半の人は問題はないと言っておられるんですが、半分の人は狭過ぎて問題、あるいは広過ぎて問題といっています。行政区域の関係でいうと、広域都市計画の方がいいんではないかという人が多いようです。
(図33)
  それから、都市計画区域のメリットですが、「都市計画の場はあった方がいいですか」と聞かれれば、担当者が聞いていますから、こういうことになるのかもしれませんが、やはりその場を持つことによって、開発許可とか集団規定で規制ができる、あるいは公共投資が効率的にできるといったことでメリットがあるのではないかという人がいます。「デメリットは何ですか」と言ったら、都市計画税がかかる、これは仕方ないでしょう。区域内外での不公平感や何かがあるので、これをなかなか説明しづらいですよというのが現場の人の意見でありました。
(図34)
  都市計画区域のエリア。これをどういうふうに考えていくかということでありますが、行政界との関係など、いろんな考え方があるんだろうと思います。法律のエリア設定の規定は相当中立的にどっちとでも読めるように書いてあります。
  ここからは全く私の個人的な意見です。日本全土を都市計画区域にする必要はないと思います。富士山の上まで都市計画区域は要らない。さはさりながら、今の都市計画区域の広さで十分かというと、もちろん農林調整とかそういうことはありますが、私はやっぱり広さが足らないのかなという気がしています。
  でき得れば、都市計画区域というのは、1市町村の中におさまる場合であれば、1つの市町村がつかさどる形のいろんな組み合わせについて、例えば、地区計画を入れたりとかいろんな工夫をする必要があると思いますが、それの統合化といったことも考える必要があるんじゃないかと思います。
  さらに言えば、そうすると、農林的な土地がその中に五月雨式に入ってきますが、それをどうするのか。農林省の方がどう判断されるか。これからやってみないとわかりませんが、都市的農地というものについては農地の位置づけをするということを前提とした上で、都市計画区域の器の中にこれからは入れて考えていかないと、行政がなかなか回っていかないのではないかというのが、今私が思っている意見です。アンケートで、皆さんなりのお考え方も書いていただきたいと思いますし、これからの制度設計に当たって、またいろんなご意見をいただいていければと思います。

(マスタープラン)
(図35)
  次に、マスタープランについてです。この中にコンサルタントとして市町村のマスタープランとか区域マスタープランを手伝っている方もたくさんいらっしゃるのかもしれませんが、マスタープランについてアンケートをしました。
  都市計画とか何かの根拠材料として機能しているという人が結構多かったんですね。これは私はびっくりしました。単純に線引きとか用途地域だけでなく、その上位概念として非常に機能している。
  今市町村合併などの議論の中で、区域マスタープラン、都市マスタープランというのが大変わかりにくくなっているということが改善点としての議論です。それから、恐らく農林調整等その他だと思いますが、他法令との連携が必要だというところがアンケートとして大きく取り上げられています。
(図36)
  マスタープランだけでは余り意味がないわけですね。先程言ったように、いろいろな土地利用規制とか開発許可との関係でマスタープランは意味があるわけです。都市計画上はマスタープランに即したものでなければならないとされているんですけれども、日本ではまだまだ本当の基準にはなっていないんですね。イギリスなんかは個別の開発許可、イギリスは特にゾーニングとかありませんから、マスタープランがまさにディベロップメントパーミッション、プランニングパーミッションの基準になっていますし、ドイツはBプランの上に立つFプランがまさにマスタープランとしてBプランを縛っているということになります。
  私も、今日お話しするに当たって、日本の各地域の幾つかのマスタープランを見てみました。昔よりは良くなってはいます。良くはなってはいますが、やはり私は日本のマスタープランはこれではまだまだ不十分だという気がいたします。そのマスタープランを見て、本当にその町の将来が見通せるかというと、そうなっていないと思います。
  その意味で、マスタープランを本当の都市計画のマスタープランとする必要がありますし、それと、今様々な定食メニュー的な都市計画でやっていますが、そこのところを自由化すればするほど、このマスタープランに準拠をして、個別の自治体がその制度設計をできるような仕掛けに持っていくということが大切じゃないかと思っています。
  逆に言うと、マスタープランをビジュアルにするために、昔と違ってポンチ絵も入ってきています。ポンチ絵も入ってきていますが、あのポンチ絵でどれだけのことがわかるのかなと。1枚か2枚ペラッとついていますけれども、私はマスタープランのポンチ絵も不十分ではないかなという気がしています。
  あと、マスタープランの論点でいうと、議会との関係も大変重要な問題になってくるのではないかと思います。今、都市計画の地方審議会には、議会の参加ということで県会議員の方が数名入っておられるんだろうと思います。マスタープランが本当にそういう都市の将来を担う形のものとするということであれば、この議会との関係についてももう一歩踏み込んだ展開を考える時期なのかもしれない。逆に言うと、その一方で、個別の都市計画の計画決定についての第三者機関としての審議会の中に本当に議会の関与が要るのかなという気もいたしますが、まさにその将来を決めていくということでは、私自身の個人的な見解ですが、マスタープランの方向性としてイギリス型ドイツ型のマスタープランへの強化ということが、都市計画としては目指していくべきところではないかなという気がいたします。

(土地利用コントロールに関する基本的考え方)
(図37)
  次に、土地利用についての基本的な考え方をどうしていくのかということです。自由であるべきか、規制を原則としていくのか。今はドイツ型の計画高権の意識ではないかと思うんですが、経済的な仕掛けは何も入っていないんです。ただ、実際に都市計画の運用の中では、都市再生特別地区をやったりする時に、一部施設を開発者が負担する形で、実際上は市場原理的なものを相当使っているように思います。
  私は、土地利用についていうと、基本はやはり、都市に住む以上規制は当たり前というところから出発する。ただし、都市計画という計画高権だけでやっていくという土地利用規制の考え方は、そろそろもう時代遅れになりつつあるのかなと思います。昔、建設省は開発負担金なんてとんでもないという言い方だったのではないかなと思います。
  これからの時代は、そういう開発に伴う負担金の制度、税の制度といった市場メカニズムも取り込んだ進化した都市計画の仕組みに持っていかないと時代の流れの中でなかなか生き残っていけないのではないかなという気がしています。

(線引き・開発許可制度)
(図38)
  さて、一番本丸になる、線引きの問題です。ここに書いてあるのは、今の線引きの制度の概要です。ご承知の通り、市街化区域は既に市街地を形成している、もしくは10年以内に優先的に市街化を図るとあります。市街化調整区域は市街化を抑制すべき地域。ただし、これは予備軍というふうに位置づけがされていますが、大きな変化は、平成12年の改正で選択制、義務的な都市地域以外は都道府県の選択制になったというところが大変な変化でありました。
(図39)
  まず、線引きの功罪ということを考えてみたいと思います。この40年近い新都市計画法の歴史の中で、人口が都市計画区域で約3000万少し増えている。そのうちきちっと95%が市街化区域の中におさまってきているということになります。これは二通りの解釈があって、「いや、市街化区域はよく考えられたきちっとした仕組みである」と見る考え方もあるでしょうし、うがった見方をすれば「いやいや、そんなことはないんだ」。諸先輩の土地利用調整官などいらっしゃるから、なかなか言いづらいですが、「実は線引き設定当初から、市街化区域はユルユルに設定しているから95%が入って当たり前だ」という見方もできるかもしれません。この判断はなかなか難しいと思います。ただ、密度的にちょっと薄くなっているので、それをどういうふうに解釈するかで、2つに分かれると思いますが、それなりに何とか役割は果たしてきているといっていいんじゃないかと思います。
(図40)
  前からも都城とか特別のところで線引き廃止はしたんですが、平成12年に選択制になった。この時に線引きをやめたところがあります。高松がそうでした。これは線引きをやめる前に起きていた状況をデータ的に示したものです。このピンクが市街化区域で、グリーンが調整区域、イエローが非線引きの都市計画区域。ここの青が人口減少。赤がふえたところをプロットしてあります。中心部で人口が減っていた。
  四国というのは私も行ってびっくりしましたが、山はあるんですけれども、四国山地のど真ん中に行くまで丘みたいなのがポコッポコッとあるだけで、意外と平坦なのがつながっている。しかも、そんなに距離も遠くないし、道も良くなってきているから、こういうところに人口が増えた。この人口を見てみると、市街化区域はそんなに伸びていない。非線引きのところは増加。都市計画区域外も増加。調整区域は減った。そうすると、調整区域の人たちは、俺たちよりももっと田舎のところが人口が増えて、俺たちのところは人口が減った、けしからぬという議論になったようです。
(図41)
  そこで、線引きを廃止、そして特定用途制限等のコントロールを入れました。その結果、単純に言うと、ある程度予想されたこととは言え、市街化区域ではなく、外で一遍に開発が起こってしまった。特定用途制限その他を入れたということになっているんですが、はっきりいって土地利用コントロールが全然効かなくなってしまったということです。
  今、県の方も大変苦慮していて、都市計画を元に戻すことはできないので、農転の方で縛れないかとかいろんな議論がされているんです。
  もっとショックだったことは、こういうふうにどこでもできるということになると、市街地の地価形成についても、ザルのようになってしまって、なかなか戻ってこない。他の地域もみんな苦しんではいたんですが、あるところからは景気が戻ってきて、地方も地価が反転をしていきます。その反転すら見られないということで、今、線引きを本当にやめることはいいのかどうか。高松の例を見て、選択制に行くかどうかということで迷っているところも大変多いと聞いています。
(図42)
  この線引きについてどんな議論がされているのかということです。市町村合併の時にどうしましょうか、或いは人口減少とか衰退で、高松のように廃止しましょうかといった議論がされています。単純に言うと、合併関係の話と人口減少の関係で議論になっているんですが、もともと線引きというのは人口が増えるからそれを押しとどめる、縄張りして枠の中に人を閉じ込めるということです。本当なら、一番適切なところに、「はい、ここ、はい、ここ」って、分類をするのが一番いいんだろうと思いますし、それが世界的な都市計画ですが、日本はそれだけの都市計画としての知識、技量がなかったから、その暫定措置として、縄を張ってその中に人はとまれとやったわけです。それはあくまでも人は増えるというパラダイムの中でやった。それが人が増えないといった瞬間に、何で線引きするのという議論になる。
  今の線引きは、厚生労働省の人口推計に基づいていて、人口が増えるので今の面積では足りませんから、次は、ここを増やしましょうという人口フレーム方式です。それで農水調整をやっています。今まではそういうことで、人口密度を下げたり、こっちは食えないけど、こっちは食えるよという理屈が整理できました。ところが、もうそれが整理できないくらいに人口フレームが厳しい状況に来ているといった議論になっているということであります。
(図43)
  次に、調整区域の中の開発許可の議論になります。アンケートでは、開発許可制度の意義は認めつつも、許可不要だとか適用除外などいろいろありますけれども、それがどうもはっきしない、制度がわかりづらいという議論があるようです。
(図44)
  この線引きをまず大上段に振りかぶれば、もう人口は増えないんだから、線引きはやめるという形に行くかどうかという議論があります。ここで書いてあることは今いったようなことが書いてあります。選択肢はいろいろあるでしょうと。線引きがあるところは義務づける。線引きは維持するけれども、今のように選択制にする。線引きを廃止し、地区計画のようなものの策定を義務づける。それから、もう線引きは一切やめて、イギリスのようなマスタープラン+プランニングパーミッションにしてしまうという選択肢があります。
(図45)
  線引きを廃止するということになれば、制度設計は物凄く大変なんですが、維持するといった時は、単純に言うと、先程申し上げたように、人が増えるから、ロープを投げてひっくくるという仕組みだったわけなのに、人が増えないのに、何で縄を投げてひっくくるのかという存在理由の議論になります。
  そこで出てくるのが、温暖化対策、公共投資。青森は線引きを増やさないで、集約型都市を目指すのは公共投資や公共施設の維持費を削減するためという議論をしておられます。制度として維持するということになれば、黙っていればいいというズルイ考え方もあります。それも1つの選択肢かもしれません。いや、線引きという制度があるんだから、人口減少したって線引きは線引きと、そんな背景は考えずに黙っているというのも1つの選択ですが、もし、人口減少になりましたが、線引きは続けるとなると、どうして続けるかということについては、何を理由にするのかということです。
  例えば、CO2を増やさないために線引きをして、ここの開発はだめですよと言えるかどうか。私自身はなかなか皆さんにそういうお願いをするのは心苦しいかなという気がしています。
(図46)
  それから、今度は逆に線引きを維持するという議論をした場合、単純に言うと、線引きのジレンマというのか、選択制に伴うジレンマで、規制の差が物凄く大きいわけです。非線引きのところと線引きで調整区域にされたところでは、大変な落差が大きくて、茨城県の鹿島市では、今年の3月に、従来の非線引きのところをはっきりさせようということで調整区域に入れる。実はいろんな開発促進区などの補正手段を講じているんです。いろんな手段を講じており、私自身は客観的に見れば妥当だと思いますが、現実には訴訟になっています。
  過去、線引きの制度設計時も今の2分法ではなくて、3分法であったり、4分法だったほうがいいんじゃないだろうかと議論をされていた時代もあったように聞いています。それを今回やるのかとか、あるいは一定のエリアをやる、むしろ逆に、非線引きのところが緩過ぎるんだから、そっちを縛ったらどうかといった選択肢があります。
(図47)
  それから、次に、開発許可についてどういうものを対象にしていくのか。それから、これは永遠の課題のような感じですが、開発許可と建築確認、特定行政庁による許可、これらの行政行為が輻輳しています。これをどういうふうに考えていくか。
  今、開発許可は、市街化調整区域は全部必要となっていますが、他のところは非常に緩いんですね、1000平米とか。これをどうするかということ。もう少し厳しくやった方がいいのではないかという議論があります。
  それから、平面駐車場や資材置き場は立地コントロールが全然できていません。建築確認とか特定行政庁の許可があるわけです。開発許可って何なんだという議論もあります。建築関係の制度との調整をどうしていくかというところが大変大きな課題になります。
  ここから先は私の私見として述べさせていただきますが、線引き制度は、本当は個別許可に全部移行するのがいいんだろうなと思いますが、これだけ根づいていて、選択制にした瞬間に、高松のような弊害が起きているということを考えると、私は線引き制度をここで一気にやめるということはなかなか難しいのかなという気がいたします。
  ただ、一方で、今の非線引きのところの規制が緩いということ、これは問題があって、こういうところについては、計画なければ開発なしの形で、何らかの地区計画等を義務づけなければならないのではと思います。今、大規模店舗の開発促進地区計画が導入されましたが、あれと同じような形で、何らかの計画を前提とした形のものしか認めないという方向に行くしかないのかなということです。ただし、そこのところで線引きをやめて、用途と、それ以外のところも地区計画を立てたりして、計画許可をきちっとやっていくところについては、そういうやり方も認めてもいいのかなとも考えています。まだ頭の中はまとまっていませんが、現状あるものからスムーズに、ショックなく移行していって、しかもうまく着地をしていく必要があります。私は、ご反対もあるかもしれませんが、線引きの中も、今は緩過ぎる、都市計画としての見方が緩過ぎるので、それを少し厳しくしていくんだろうなと思います。
  それはこれから出てくる用途地域のところで見ていただければわかると思いますが、そこをもう少し厳しくすると、今まで市街化区域の中はユルユルで、外は厳しすぎる、しかも、外は計画というものに基づいてないといった姿から少しずつ脱却していくのかなというのが私なりの考え方であります。

(用途地域・地区計画等)
(図48)
  用途地域。これは皆さんプロですから、よくご存じですが、実は私も都市計画課長を数年前にやったんですが、名前の似た制度が出てきて、高層住居誘導地区、特例容積率適用地区、或いは景観も、歴史的風土で第1種で、第2種がついたり、緑地保全と特別がついたり、航空機障害と特別がついたり、定食屋さんのメニューが凄く増えてきて、わかりにくくなっているんだという感じは否めません。
  その中に、ほとんど使われてないという制度が入ってきている。田舎の定食屋さんに行くと、1つ主人がメニューをつくると、紙で書いてどんどんぶら下げていくのがありますね、あんな感じがする。ある時に見てみると、10年ぐらい前にそのメニューをつくったなんていうのが出てきたりする。
(図49)
  それでは用途地域で、何を決めているのというと、用途以外には実際決めているのは容積率と建ぺい率。1種と2種は低層だから高さ制限を決めています、これは決めても決めなくてもいいですよということで、用途以外は実質これしか決めていないということになっています。
(図50)
  容積率の充足率はこんなものです。もちろん、皆さん、そんなことはない、我々が設計をしたり開発をするときは容積率を上げてもらってやるのに必死なんだ、大変だといわれると思うんですが、実際は、なべていえばこんなものです。
  そうすると、単純にいうと、マクロベースではあんまり効いてない。用途規制以外は実はあんまり効いてないということではないかと思います。
(図51)
  それでは、それだけで世の中回っているかというと、それでは回りません。頭の賢い自治体はいろんな工夫をしている。これはよく言われる松本城の高度規制ですけれども、松本城がきれいに見えるように、或いは松本城のそばから北アルプス、中央アルプスがきれいに見えるようにということで松本城周辺はこんなふうになるそうです。きのう、三菱地所の方からロンドンの開発における高度規制のお話を伺いましたが、それと同じぐらい緻密に、視点場を設けていろんな検討をした結果で高さをはじいているのではないかと思います。こういう形で高度規制をやって埋めている。
(図52)
  これは、皆さんいろいろ議論があるかもしれませんが、目黒区の方では、絶対高さとか敷地面積の最低限の限度規制を今検討をしています。
(図53)
  これは尾道です。用途の規制ではなかなかできないので、新しくできた景観地区というものを使って、高さとか意匠、形態、屋根の勾配、素材、色なんかについて規制をかけてやっております。
(図54)
  逆に、規制の緩和という意味では、都市再生特別地区で、これはみなとみらいの山の内ふ頭の地区です。何のことはない、都市計画は全部飛ばして、新しくつくるものを決めて、そこに容積も全く新しく張っている。その意味では都市計画は関係ないと。マスタープランに従って事業を誘導をする都市計画になってきているということであります。
(図55)
  それから、銀座です。銀座については、新しく高さ56、屋外広告塔は10メートルの地区計画で例外を認めなくしました。
(図56)
  一番最近のでいくと、京都です。京都については大文字焼きが見えるように視点場を決めたらば、眺望空間は高さ規制で規制しています。GLをいじってインチキされてはいけないので、海抜規制を入れている。そして、色彩とかそういうものの調和を入れる。この目の前のところは、周辺との調和が一番必要だから、それも見る。そして、屋外広告物については、屋上広告物の全面的禁止であるかと、設置高さの引き下げといったことを図っていく。
(図57)
  自治体はいろいろなやり方を工夫している。正直にいうと、今の用途地域セットメニューではいろいろ許容されて、きめ細かさが足りず、ゴチャゴチャになってしまう。それを補う地区計画については、合意形成が難しいといったことがアンケートで出てきています。
(図58)
  用途地域については、セットメニュー方式を維持するか、それとも自由メニューにするかというところです。セットメニュー方式というのは、決してそれは世界各国共通ではなくて、例外的です。むしろ個別にその地域地域に合わせて決めているというのが普通のようです。
  私は、この用途のあり方については、ビジネスの皆さんは、今のままの方がいいと思われているのではないかと思います。事前明示性は物凄く高い。大体1種低層と言われれば、そこで建つものはパッとイメージできます。ところが、ニューヨークなんかでも、本当にゾーニングコードをきちっと見ないと、そこで建てられるものはわかりません。それについての専門家が要ります。ロンドンにしたって、パリにしたってそうだろうと思います。 
  ですから、その苦労を考えれば日本は凄く簡単ということだろうと思います。これからの成熟社会でどっちをとるかということじゃないかと思います。
(図59)
  農業の話は、先程申し上げたように、非常に頭のいい人が「生産緑地」という名前を考えました。農地の位置づけをきちっとしていくことがこれから重要になっていくのではないかと私は思います。
(図60)
  容積建ぺい型の規制、これも用途についてと一緒です。私は、容積建ぺい型の規制で事足れりというのは、自由度は高いかもしれませんが、やはりいろいろ問題があるのではないかなと思っています。これでやって悪いとは思いませんが、むしろ用途の決める内容についての自由度を持たせた方がいいのではないか。今の建ぺい・容積規制でいけば大規模開発ではほとんど形態規制が効きませんので。例えば、 地方都市に行くと、土地が安ければ、周りに駐車場があって、凄いタワー型のマンションが一棟だけびっくりするような形で建つということになっています。これがこのままでいいのかどうかという点もこれから議論になっていくと思います。
(図61)
  都市施設ですが、ポイントは、都市施設全部が全部決まっているわけではないということが1つ。決まっているのは道路、公園など、旧建設省の補助対象施設が都市計画をされているということで、都市施設という名前が立派な割には、本当に都市に必要なものが全部決められているわけじゃないということです。
(図62)
  もう1つの問題は、決めたはいいけれども、なかなかできていないということ。全国の幹線道路のうち40%が未着手。未着手の中でも、実は一番下の30年未満がこれだけで、その中に10年もあるんでしょうけれども、ここから以降はみんな30年以上、手がついてないということなんです。これは幾ら何でも異常かなと思います。
(図63)
  都市施設というのは、区域を明示したり、調整をしたり、住民の合意形成をするということが基本だと言われています。
(図64)
  もう1つは、53条制限という昔の木造2階建て。今はそれにはなっていませんが、これについては制限される住民の理解が得られないといったことが議論されています。
(図65)
  これからの都市施設のあり方、どう考えるかということです。やっぱり都市施設というものは明示された方がいいと思います。ただ、今のように53条制限や収用力があるものを何十年も放っておくような形の都市施設の決め方はどうもおかしいかなということが1つあります。
  それと、都市計画は自治体中心でいくべきですけれども、それだけでいいのかという反省がヨーロッパで起きています。国家的に是非とも進めなければいけない空港とか空港への接続道路というのは国家主導で決めよう。そうしないと、なかなか物が前に進まない。我が国は収用委員会も県に任せてしまっているという状況ですけれども、これではいけないという議論が欧州でされています。
(図66)
  整備方針、スケジュールを決める、その効果としての収用権の話ということが論点であります。

(都市計画決定手続)
(図67)
  手続ですが、1つは、先程の分権の話で、誰がやるのか、調整はどうするのかといった議論があります。私も岐阜で、県の都市計画課長をしたことがあります。都市計画課長をやっていても、北の高山から岐阜市まで全部を自分の頭の中に入れて見ることは私はできませんでした。できる人もいるのかもしれませんが、私には難しかったというのが実感です。
  そういう意味では、都市計画というのは目の届く人が相当の自由度を持って決めていく方が都市の将来ビジョンを決めやすいと思っています。
  そうは言いつつ、大規模店舗に象徴されるように、これからは広域調整という議論がありますから、それは調整のルールを決める、さらには最低のルールを決める。イギリスではコールインといった制度でけしからぬ場合には国が差しとめるといった制度もありますが、そういったことも検討をしていく必要があるでしょうし、先程の国家的プロジェクトの都市計画は国が自ら決めるといったこともあるかもしれません。
(図68)
  それから、合意形成の議論で、先程申し上げましたけれども、これからは住民の意見を反映していかなければいけない。今、都市計画は案をつくってという案は、1案でいっています。それは確かに楽なんですが、これからは複数案というのも1つは視野に入れる必要があるでしょうし、私は、個別の都市計画に議会の関与はどうかなと思いますが、マスタープランや何かについては議会の関与ということももう少し考えていく必要があると思います。
  都市計画の一番大きなところは、都市の将来像を決めるということで、公告縦覧、審議会、意見書提出といったプロセスが決まっています。だから、収用権も与えたたり、他にはないような権能を与えています。だとすると、市民にしっかりわかってもらう必要がある。今の一片の都市計画の図書と図面を市報に載せて、本当にわかっていただけるのかなと思います。そこについては、CGなど、そういう工夫をもっとやっていく時代に来ているのではないかなと思います。

(エリアマネジメントの促進)
(図69)
  最後に、これは都市計画と直接関係はないんですが、今エリアマネジメントという議論を始めようと思っています。地方でいうと、例えば高松のまちづくり会社、東京でいったら大・丸・有の協議会といったものです。今国から地方への分権という議論がされていますが、頭の中には2つの物事があります。広域合併などで、都市間競争ならぬ地区間競争というのがこれから重要になってくるのではないか。その意味では、地方分権ならぬ都市内分権というのが1つは重要になってくる。都市内分権というのは都市の行政の中にもう1つ分権していくということです。
  2つ目は、その都市内分権をやっていく時に、ガバナンス、行政というのは、公共的な機関しか認めないという仕掛けになっています。この市場社会の中でそれで本当にいいんだろうか。営利性のあるまちづくり会社とか、そういうものも主体認定をして、そういう人たちにも力を与えるような仕掛けを議論できる時期になっているんじゃないか。
  そうしたら、そういうところがファサードの統一であるとか、道路占用の自由化であるとか、様々なことをする。そして、私どもの事業でいくと、区画整理事業であるとか再開発事業、そこへいくまでは物凄いエネルギーですよね。皆さんもご承知の通り、準備組合をつくって20年も30年もかかる。ところが、事業が終わってしまうと、その受け皿がなくなってしまいますが、やはりそこは継続性を持った形でやっていくようなことも考える時代になってきているのかなということで、今、こんなことを検討しているというご紹介であります。
(図70)
  相当勝手なことを申し上げましたので、ご質問もあるかもしれません。諸外国の動向のところは、皆さんの方がご専門家かもしれませんので、資料をご覧んいただければと思います。

フリーディスカッション

與謝野 石井審議官、ありがとうございました。新しい都市計画法の見直しを念頭に置いた新しい都市計画制度のあり方について、その検討の方向性、スケジュール、論点、手続等について、非常に詳しく、わかりやすく、私見を交えてお話を縷々いただきました。今日のこの場でしかお聞きできない貴重なお話が多々あったかと存じます。ありがとうございました。
  それでは、折角の機会でございますので、この場にて是非あの部分についてさらに詳しくお伺いしたい点など、会場の皆さんから遠慮なくご質問をしていただければと思います。挙手をいただいて、お名前をお申し出いただきご質問をいただければ幸いであります。よろしくお願いいたします。
高山(ポラス暮し科学研究所) 住宅系を中心としたまちづくりを専門としております。今日、まず1つ、国交省というお立場で、世界の大変大きな動きの中で、これからの都市計画というものをお聞きして、感動しました。大変な要素がふくそうしている中、世界の環境が変わっている中で、インフラとなるものが変わっている中で、こういうふうに変わる、大変感動しました。
  もう1つ、住宅系でまちづくりをやっておりまして、区画整理の準備組合でそろそろ供用開始になるところから随分相談を受けるんです。ついては、活気のある良好なまちづくりのモデル的なものをやりたいとかなどです。そういう一連のことを通して、矛盾、問題と思うのは、先程から出ています主体となる市民という話、地権者のことです。これは市民全般にも言えるかと思いますけれども、まちづくり関係で出てきた時に、権利は主張する、義務は放棄。日本の大きな問題は、ある意味で民主主義でまちをつくっていった時に、NPOとかいろいろありますけれども、まだまだその辺が非常に大きいのかなと思うのが1つ。
  それから、今200年住宅ということで私ども一生懸命取り組んでやっております。住宅に関しては、そういう先が見えてきました。これからストックの時代に入ってきて、更新してとか、いろいろありますが、一方で都市が見えないんですね。200年住宅に対して、200年都市ではないですけれどもどうなるのか。先程来のお話で、町、都市、我が町が、大変緩い規制の中で、更新更新で、スクラップ・アンド・ビルドでずっと来ています。
  住宅系で言いますと、容積が200とか300ある中で、今のままですと100年住宅なんてあり得ないんですね。相続の問題もありますが、土地が広くて、それだけ容積があれば、資本の論理で、みんなノッポビルなりマンションなり建っていってしまう。そういう意味で、用途地域、地区など、今日のお話を受けたところで、日本は抜本的に何か考えなければいけないかと思いますが、当面、全般の都市云々はともかくとして、良好なまちづくりということで、地方を含めて郊外の都市の区画整理のあり方だけでも姿が見えるような、地権者の方も夢を持って協力してやっていきましょうというところを、何かお話しいただければと思います。
石井 区画整理がなかなか難しい時代に入ってきて、地価上昇が見込めないということで地権者の方も本当に難しいんだろうと思います。区画整理の話はそうなんですが、その前の、今の緩いものだと、200年住宅というのはあり得ないのではないかと思います。建てかえとかがどうしても起こりやすくなりますから。
  私は、イギリスにいましたが、イギリスの旧市街とかは基本は特別な新しいファサードの計画がないと従前の建物と同じものしか建てられないんです。中は全部変えていいんですが、外形その他は変えられない。恐らくパリも、新しいディベロップメントパーミッションをとらない限り、デザインを含めて許可をとらない限り、従前と同じものを建てることは可能だけれども、そうでないものは勝手には建てられないそうです。
  日本は枠が決まっていれば、その中では何をやってもいいという世界でしょうから、そこはやっぱり大きく思想、背景が違う。ただ、その前提として非常に重要なことは、パリにしてもファサードの都市計画を最初にきちっと決めています。階高であるとか、窓のあり方をきちっと決めた都市計画になっています。日本の場合には、実は景観法の時に大議論がありましたが、景観なんてまさに都市計画の一部なのに、何で都市計画の外に出したんだということがあります。都市計画の伝統からすれば、お前のやったことは恥ずべき行為だとまで言われたことがあります。
  まさにその景観というものが根づいてないところで、昔のままと同じものしかやってはいけないということにはならないのではないか。これからそこをまずはやっていかないといけないだろう。
  あと、区画整理をどう元気のいいものにしていくのかということについて、区画整理の場所にもよると思いますけれども、先程都市の姿が見えないと言われましたけれども、道路をつくる、宅地を整備するということだけで、その地区ができ上がる時代は終わったのかなと思います。区画整理をやる時には、その上における建築物の計画、その町の姿が一緒にあって初めて、区画整理として最後、一気通貫のものになるのかなということです。
  でき上がったところからどうしましょうかというのでは、区画整理はうまくいかない。日本のディベロップパーミッション、開発許可は、将来の建築行為と一体になってないのが最大の問題点でしょう。恐らく諸外国を含めてそういうところは余りないのではないかと思います。それを一緒にしたものに本当は持っていった方が良いのではないかなと思います。抽象的な話で恐縮ですが。
大村(主婦会館) 今日のお話、大変感心したんですけれども、ただ、私どもが考えても、成田空港が未だできないというのは情けないですね。何とかならないもんでしょうか。昨日お祝いやったっていうんですが、その辺を・・・。
石井 私も成田のことは余りよく知らないものですから、過去の経緯や何かが相当厳しいんだろうと思います。一方で、新聞を見ていても、ある意味でいいことだろうと思いますが、羽田の国際化が進んでくると、成田の地位、競争相手が出てくる。これからこのことが成田を進めることになるんじゃないかと、私は個人的には思います。
大河(調布市議会議員) 今日はありがとうございました。2点ほどお聞きしたいと思います。
  都市内の中の農地の必要性のお話がありましたが、東京の近郊にある農地というのはむしろ貴重な景観の資源でもあるし、田んぼがあったりします。未だに農業委員会の関係とか他のところと大変関係性があって、消えゆく運命というところがあるので、一律ではなく、東京とか都心部に近い農地をどう保存し、子どもたちに残したり活用するかというのは早急に何らかの公的な部分での動きがあっていただきたいと思うし、市だけでは、監督しとかいろいろ言っても難しい部分がありますので、そういったお考えがあるのかないかということ。
  最後のところに、エリアマネジメントを進めていきたいというお話がございました。私どもでも、中心市街地のまちづくりの中にまちづくりの会社を取り込んでいくという話があります。市民サイドからすると、協働しながら、どうリスクを分かち合いながらやっていくのかということとなります。住民参加という立場からいきますと、単に利益誘導ではなく、市民益も生かした中でお互いに共存共栄できるかというルールが見えないんですけれども、その辺のところはどんなふうに考えながら、国としては誘導していらっしゃるのかという2点お伺いしたいと思います。
石井 農地については、私も昔、一番最初に都市計画課に入ったころは、今思えば農地を目のかたきにして、何とかして農地を都市地域にしていこうという時代だったんではないかと思います。今は明らかに保存すべき農地の仕分けの時代があり、さらに言うと、これからは都市内農地は貴重だという位置づけにおのずとなっていくと思います。
  実は、都市計画の問題に見えそうで、農地の話ほど市場原理が働いている世界はありません。税制の問題です。ですから、この中でも再三出てきたように、都市内農地だけでなくて、全国で耕作放棄地が広がっている。しかし自給率を上げなきゃいけないという議論になると、これから農水省が、農地をどうやって守っていくのか、それを守る手だてとしての税制をどうするのか、土地利用制限をどうするのかという、相当見直しの機運で、実際調整が少しずつ始まっています。
  その中で、税制の議論と合わせて都市内農地の議論がされていくと思いますが、基本は、それを位置づけてきちっと保存をしていくという方向に行くものではないかと思っています。
  それから、エリアマネジメント、まちづくり会社などが、市民と利益をうまく分かち合ってやっていくのにはどうしたらいいのか、これは非常に難しい問題だろうと思います。一方で、私はつくづく思うんですが、こういうまちづくり会社を、議員をしておられるという方に申し上げるのはあれなんですが、行政主導でつくると、かつての第三セクターと一緒になってしまって、今第三セクターの処分で国も自治体もヒーヒー言っていますが、その二の舞になるんじゃないかなと思います。
  公益性ということで、監督をする意味で一部出資をすることはあってもいいかと思いますが、やはりそこは市民の皆さんがみずから浄財で出資するとか、企業の出資でするということをする。そうすることによって、ステークホルダーとしてリスクをとって一生懸命やるという仕掛けに持っていくことだろうと思います。
  その過程の中で、まちづくり会社の中での発言権、会社の方針、経営陣に人を入れていくということではないかなと思います。そこに行政が大きく関与をするのは、私は得策ではないんではないかという気がしております。
亀井(パシフィックコンサルティング梶j 今日は貴重な講演をありがとうございます。1点だけ、都計区域の再編の点につきまして、ご質問させていただければと思います。
  先程のお話の中で、1市町村1都計区域という原則的な話もありました。この平成の大合併についてですが、先程もお話がありましたように、非常に制度の異なる線引きなり非線引きなり都計外、そういうのが混在している状況の中で、そういう1市町村に、幾つかの都計区域が存在することが基本的にはまかりならぬという話なのか、ある程度実情があって仕方ない、いろんな開発許可との組み合わせの中で方向性を探っていくという話なのか。基本的なところの国交省さんとしての考え方がありましたら、お伺いしたい。
  平成の大合併の時に、今の議論は当然あったと思うんです。総務省さんとのいろんなやりとりもあったと思うので、その時に、現在の状況を踏まえてどういう議論がなされたのかも、もしご存じでしたら、お聞かせいただきたいと思います。
石井 総務省とは私自身は直接やってないので、わからないのですが、むしろ市町村合併の支障になるかなと。市役所の場所をどこに置くかなど、いろんな議論の中で、都計区域が一緒になって、それを統一化するということが、新しい合併市町村での政策課題として挙がったことをもって合併離脱といったような事例もあったやに聞いています。ですから、むしろ合併後の議論というよりは、当時は合併の支障にならないかといったところに総務省としては頭の中にあったと思います。
  間違ってとられているといけないんですが、1つの市町村の中に都計区域が複数あるといった時に、今は、都計区域は県が決めたものが市の中に複数あるという仕掛けになっていますが、このような場合は、市町村がリーダーシップをとって人口フレームや何かの議論を乗り越えられれば、もう少し柔軟に決めてもいいんじゃないかなということです。
  当然のことながら、市町村をまたがるような議論も依然としてあるわけで、その時には今は県がというんですけれども、大きな枠組みで調整をするということはあってもいいのかもしれませんが、やはり市町村同士が調整という仕掛けの方がいいのではないか。その方が主体性が出てくる。一定の基準が要ると思いますけれども、自分でフィールドを決めていく。人口フレームがいいかどうかは別にして。こうした時に、まだ線引き、非線引きの仕掛けをどうするかという議論もしてませんから、これを例えば1つにする時に、1つにすると言ったら、それはどういうやり方だったらのみ込めるかということを議論してみないとだめだなと思っています。
  それもまだ方針が出ているわけではなくて、こういうところこそが、実をいうと、ケーススタディをしてみる価値がある。これを例えば線引きをしない都市計画区域という形で覆った時に、コントロールできるような手法が編み出せるのか。逆に、今度非線引きと線引きがまざっているから、線引きにしましょうといった時には、今の非線引きのところをどういう形にするのか、市街化区域にするのか、調整区域にするのか、或いはその中間のものを制度的に設けたらうまくおさまるのか、といったことを、こういう問題事例は既にわかっている、ある程度見えているので、それを当てはめて議論をすることが、これからの制度設計なのではないかと思います。今ケーススタディと言いましたが、そういうところに当てはめていくということになると思います。
  都市計画課でこうやって図面を見ていても、そんなのは結論出ませんから、まさに市町村と対話をしながら、あなたのところでケーススタディしたらどんなものだという議論をしていくんだと思っています。
與謝野 ありがとうございました。
皆様におかれましては、大変ご熱心にお聞きいただき、また多くの方々からご質問いただきましてありがとうございました。さらに、これに対して石井審議官から誠にご丁寧にかつ誠意を込めて熱っぽくお答えいただきまして、本当にありがとうございました。大変に有意義なフォーラムとなりましたことに対しまして主宰者からも熱く御礼申し上げます。
  それでは最後に、公務誠にご多忙の中、示唆深い貴重なお話をいただきました石井審議官に対しまして、皆様から感謝の気持ちを込めて大きな拍手をお贈りいただきたいと存じます。(拍手)
  ありがとうございました。それではこれにて本日のフォーラムを締めさせて頂きます。
                                 

 


 

 


 




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