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第12回NSRI都市・環境フォーラム

『炭素会計が地球を救う』

講師:   橋爪 大三郎 氏   東京工業大学教授・同大学世界文明センター副センター長

日付:2008年12月18日(木)
場所:日中友好会館

                                                                            
1.地球温暖化問題の基本的論点

2.炭酸ガス重量主義

3.ポスト京都議定書への戦略

4.炭素会計

5.炭素基本法

6.日本の選択

 

フリーディスカッション

 

 

與謝野 皆さん、こんにちは。定刻となりましたので、本年最後のフォーラムを開催させていただきたいと存じます。皆様におかれましては、本年1年はもちろん、長年にわたりまして、本フォーラムをご支援いただきまして、厚く御礼申し上げます。
  来る2009年も充実した内容でのフォーラムの運用に努めたく存じますので、引き続きご支援を賜りますようによろしくお願い申し上げます。
  さて、本年1年、皆さんご承知のとおり、政治、経済、社会の出来事も多く、また、忌まわしい社会的事件もあまた起こり、まことに多事多難な年でございました。
  また、地球環境の温暖化現象も、好転するどころか、ますます厳しい局面に直面しておりますのは、皆さんご高承のとおりでございます。
  さらに、年末から翌年にかけてグローバルな金融危機に直面する、そういう状況が予測されていて、社会の関心もそちらに移りがちではありますが、環境危機の克服課題については少し関心があるものの、こちらのグローバルな課題について、これらの取り組みは待ったなしの状況でございます。
  そこで、本年最後のフォーラムは、この環境危機に取り組む上での科学と技術面での知見を包含する幅広い社会学的な大所高所の視座からの最先端の知見、卓見を、皆さんとともにお聞きしまして、この問題克服へ向けての認識を深めたいと考えまして、この分野で第一人者であられます東京工業大学教授の橋爪大三郎先生をお招きいたしました。
  橋爪先生のプロフィールは、お手元のペーパーのとおりですが、現在、東京工業大学大学院の社会理工学研究科価値システム専攻教授でおられ、専門は社会学です。
  先生は実に広範な分野を包含する視座での研究、出版、著作活動等を展開しておられまして、その長年の活動内容についてはご存じの方も大勢おられることと存じます。
  本日の演題は、ご案内のとおり、「炭素会計が地球を救う」で、大変に新鮮かつ知的刺激を伴う貴重なお話がお聞きできるものと楽しみにしております。
  ご講演を通じて皆様とともに、この膨大な茫漠たるグローバルな課題に対面する基本的な心得と基礎的理解などを深めることができればと思っております。
  それでは、年末の大変お忙しい中にもかかわりませずご講演をご快諾いただきました橋爪先生を皆様からの大きな拍手でお迎えいただきたいと存じます。(拍手)
橋爪 こんにちは。橋爪です。皆さん、ようこそおいで下さいました。
  私の専門は社会学ですが、地球環境の問題も大事だと思い、東工大で仲間と一緒に活動しています。今日は、そこで学んだ知見を交えて、その一端をご紹介します。こういう素晴らしい会場で皆様にお話しする機会をいただき、光栄です。
  2時間のうち1時間半ほどお話しし、最後に30分ほど、皆さんからいろいろご意見、ご質問、コメントをお寄せいただいて、私も勉強させていただきたいと思います。
  お手元のレジュメにおおむね従って、お話していきます。

1.地球温暖化問題の基本的論点

 さて、最初に、地球温暖化問題の基本的論点をお話します。
  最近マスコミ、新聞・テレビその他でさんざん報道されているので、皆さん十分ご存じのことだと思います。
  こういう地球温暖化問題についての情報ラッシュは、日本では2007年の後半ぐらいからだったかと思います。他の国はもう少し早い。日本はマスコミの反応が、ヨーロッパに比べて2〜3年遅れています。ですから、国民の理解も2〜3年遅れている。
  情報ラッシュはしばらくすると終息するでしょう。すると、国民の関心も急に薄まってしまうかもしれない。でも、問題がなくなるわけではありません。
  ヨーロッパの例では、情報ラッシュの後、もう一歩進んだ科学的知見を知りたい、それを哲学やライフスタイルなどの新しいアイデアにかみ砕いて、次のステップの運動を始めていくという動きがおこり、国民の間に定着していきます。
  日本の場合はそうなるかどうか、少し心配です。ぜひ、それをもう一歩進んだ形で、それならどうしようという疑問につなげていっていただきたい。それには、政治家や政府の活動も大事ですが、ふつうの日本の国民の皆さんが、自分の持ち場でどれだけこの問題を考えるかということがもっと大事だと思います。
  ですから、私はいろいろな機会に、発言を続けているのです。
  さて、地球環境問題というと、日本人は、「環境先進国」という意識があって、ああまたか、それなら日本はよくやっているよ、と反応しがちなわけですが、ここに落とし穴があります。
  いわゆる環境問題は、日本でははじめ「公害問題」と呼ばれていました。
  この問題と地球温暖化問題は、少し性質が違います。どう違うのか。
  公害は「ポリューション」、つまり汚染というわけです。汚染とは、自然環境には存在しない有害な物質が工業化のプロセスのなかで主に副産物として作られてしまって、自然環境に出てしまう。有機水銀や何かの「原因物質」があるのです。これは出ない方がいいもので、毒です。しかも、少量です。
  これが環境に拡散する前にとめるには、製造工程を改良する。工場から出ていく廃気や廃水、騒音、そういうものをストップする。こういう技術が必要になります。それは開発されました。それにはお金がかかります。だから、企業はやりたくないけれども、法律を整備して、それをやらないと処罰すると決めるわけです。つまり、社会的な手間ひまと追加のコストをかけると、こういう問題は解決する。環境問題の多くはこうやって解決しました。
  さて、炭酸ガスはどうだろうか。炭酸ガスは、副産物なのは間違いありませんが、量が多い。また、それ自身は毒ではない。炭酸ガスは毒性はありません。
  そして、分解できるかという問題もあります。そもそも炭酸ガスが発生するのは、主として石炭、石油を燃やすためです。そうやって、エネルギーを取り出すためです。 せっかく取り出して炭酸ガスになったものを分解しようとすると、取り出したと同量か、それ以上のエネルギーがかかってしまいます。炭酸ガスを分解するぐらいなら、はじめから燃やさなければよかったんですね。ということで、分解することは無意味ですから、分解する方法がない。
  ということで、公害と同じ方法で、この炭酸ガスの排出を解決するわけにはいきません。別な考え方が必要になる。そういう意味で、炭酸ガスによる地球温暖化の問題は、これまでの環境問題(公害問題や汚染の問題)と性質が違います。ここを理解していただきたいわけです。
  つぎに、地球温暖化問題は、二段階にわけて考えなければならない。第一に、地球が温暖化しているかどうか。二番目に、その原因は炭酸ガスなのか。
  第一の、地球が温まっているかどうか、です。人間が温まっている場合には、体温計で測ればいいわけです。わきの下とか舌のつけ根とか、1カ所で測れます。それで体全体が温まっているというふうに判断できる。
  地球が温まっているかどうか。わきの下に当たる場所がないので、いろいろな場所をまんべんなく測らなくてはいけない。
  ところが、大部分の観測地点は、陸地、とりわけ先進国に集中していて、しかも都市周辺にあるわけです。都市は、ヒートアイランド現象で温まっていますから、このことを差し引かないと地球の温度が測定できない。地球の表面積で大部分を占めるのは海ですが、海の上に観測点はほとんどありません。ということで、地球の温度を測るのは結構むずかしいことなんです。現在でも温まっているかどうか決着がついていない。
  科学的な懐疑論があり、良心的な科学者がいて、地球温暖化に疑問を呈しています。1970年から80年頃には、地球は寒冷化に向かっているという議論の方がむしろ主流だった。ということで、温暖化していないのではないか。温暖化そのものについてまだ反対している人がいます。
  この議論の決着を待っていたら100年ぐらいかかると思います。実際に、明らかに温暖化してきたなということがわかれば、この議論は決着するんですが、その時には手遅れなわけです。どうも温暖化しているらしいという疑問の段階で、温暖化を前提に、行動し始めなければならないのです。
  温暖化しているという学者は、こう言っています。産業革命が始まる前と始まった後を比較して、どのぐらい温暖化したかと言うと、人為的な影響で0.75度の温度上昇がすでに起こっている。0.75度は人間には感知できない程度です。そんな違いはわかりません。でも、植物や昆虫など、微妙な温度差で生きている生物にとっては大事なことで、農業にも影響があります。
  これが2度、3度となると、かなり顕著な影響になってきます。4度、5度となれば、壊滅的な影響になる。このままだとそうなるかもしれないということなのです。今は0.75度なので、実は温暖化しているかどうか、はっきりしていない。温暖化していないという人もまだいる状態です。
  つぎに、かりに温暖化しているとして、それが炭酸ガスのせいなのか。
  炭酸ガスには温室効果があって、地球が毛布を1枚かけたような状態になり、熱が逃げにくくなって、蓄積されてしまうということです。実験室レベルでは、炭酸ガスに温室効果があるということは、はっきりしています。しかし、現実に地球規模でそういう現象が起こっているのかということに対してはいろいろな懐疑論があります。
  これも議論が決着するのは100年後です。しかし、かなりの科学者が、国連の政府間パネル(IPCC)に集まり、世界中の議論をモニターして、何回か報告を出していますが、その報告の中で、結論の部分は、95%の確率で、人為的な原因によって、つまり炭酸ガスのせいで、地球が温まっている、と言っているわけですから、政府も無視はできません。
  そこで、以下の議論では、これは一応既定の事実ということで、議論を進めていきます。
  危険回避原則、というものがあります。大きな危険がある確率で予想される場合、本当にそういう危険が来るかどうかと考えているひまに、その危険を回避する行動をとる。これは政治的なアクションとして大事なことではないか。
  ガンにたとえてみますと、腫瘍が見つかった。悪性腫瘍かどうかよくわからない。良性の腫瘍であれば、別に手術してとらなくてもいいわけです。でも、悪性腫瘍だったら一刻も早くとった方がいい。皆さんどうするかと言えば、悪性か良性かじっくり見きわめましょうと悠長に構えてい方はあまりいない。ある程度まで検査をして悪性の確率があるとなったら、ここは切るしかないと思うのではないでしょうか。
   政治も同じで、地球が温暖化に向かっているという有力な証拠と可能性があるなら、何かアクションをとらなければいけない。こういうことなんです。
  地球温暖化問題は、「大きな物語の復活」だとも言えます。ここ10年、20年ぐらいの世の中の思想の流れ、特に若い人たちの考え方の変化を一口で言うと、ボストモダンという考え方が主流になっています。
  ボストモダンについては、いろいろな哲学者や思想家が、いろいろ難しいことを言っていますが、要点を言うと、これは「イデオロギー対立の時代は終わった」ことに対応する思想です。
  イデオロギー対立の時代には、マルクス主義が正しいか、それとも自由主義、民主主義が正しいか、2つの考え方があって、2つの国家体制が地球を二分して議論していた。どちらを信じるかという踏み絵のような状態だったわけです。日本でも保守と革新があって、言葉が通じない2種類の人間みたいになっていました。
   これが終わったわけです。これが終わると、マルクス主義、――「大きな物語」とポストモダンでは言います――は幻想だったから、そういうものに騙されないようにしようという考え方になる。もうイデオロギーの時代は終わりだ、というわけです。
  イデオロギーは、個々人に犠牲を強います。革命に身を投ずるとか、自由と民主主義のために戦争に行かなければいけないとか。そういうことはもうこりごりなので、大きな物語は勝手にみんなでやって下さい。私が確実に信じられるのは、個人のプライベートな生活なんです。私は、皆さんの自由を尊重するから、皆さんは私の自由に干渉しないで下さい。あんたはあんた、私は私。こういうのがポストモダンなんです。価値相対主義、文化的多元主義です。
  これが、政治的にはどういう意味かと言うと、先進国は繁栄している、第三世界は困っている。でも、まあ勝手にみんなやって下さい。こういう感じになる。
  というわけで、若い人たちが、政治的なプランを提案して何かアクションを起こすということが少なくなってきたんですね。
  でも、地球環境問題はそういう話ではない。イデオロギーではなくて、科学のレベルです。炭酸ガスが増え過ぎた。温度が上がった。温度が上がって困るのは地球人類全体だ。どこかの国だけが削減しても、別の国が炭酸ガスをジャンジャン出したのでは、どうしようもない。連帯して、相談して、現在世代は自分の利益だけを考えないで、将来世代のこともよく考えて、それぞれにコストを分担する。こういうことをしないとこの問題は取り組めないんですね。
  これは、ひと昔前の「大きな物語」と同じ構図を持っているわけです。プロレタリアが万国で団結したように、人類であるということで国境を越えて団結しないといけない。それから、将来のよりよい人類社会というものを考えて、現在の人たちが環境税を払ったり、いろいろな規制や制限に応えていかないといけない。投資をしないといけない。その分、少し生活水準は下がるかもしれない。こういうことをやるかやらないかという話になっているわけです。

2.炭酸ガス重量主義

 さて、この問題を考えていくときに、「炭酸ガス重量主義」といって、全部を数字に置きかえて考えていくことがとても大事だと思っています。地球を大事にとか、エコマークとか、言ってみてもしょうがない。
  今日は、基本的な数字を織りまぜて、地球環境問題についてお話ししていくんですが、地球温暖化の問題は、結局、人間が炭酸ガスをコントロールできるか、という問題です。炭酸ガスは、自然にどこにでもあるわけですが、人間が地面の下から、眠っていた化石燃料(石炭、石油、天然ガス)を掘り出して、勝手に燃やしたので、空気の中の炭酸ガスの濃度が増えてしまったことが問題、ということです。
  まず、濃度のお話をしましょう。
  濃度を測る単位は「ppm」というものです。真ん中のpはパーセントのpで、mがついてパーミリオン、「100万分の」となっています。一番前のpは粒という意味です。空気は粒なんですね。空気のような気体の中に何かが少しだけ混じっている場合、100万粒に対して何粒混じっているかという比率で表すのが普通です。それがppmという単位です。
  炭酸ガスが産業革命の前にどれくらい混じっていたかというと、自然状態ではあんまりたくさん混じっているわけではなく、280ppmです。とても薄い。100万粒に対してたった280粒です。これがノーマルな炭酸ガスの濃度です。
  人工的に炭酸ガスを出すと、その粒が増えていきます。2008年の濃度はまだ発表されていませんが、2006年の濃度が発表されていて、381ppmです。季節変動があるので、地球全体を平均した値とお考え下さい。
  産業革命以来の200年近くで381ppmまで、つまり100ppm増えた。しかも、この100ppmのうち大部分は、1960年以降に増えています。これは、産業化がいろいろな国で進んだせい。あと、自動車や石油を使い始めたせいです。
  炭酸ガスの排出源を考えてみます。
  炭酸ガスを排出する場所は、要するに石油、石炭を燃やしている場所です。特徴を挙げるならば、「1、各国に分散している」。
  石油、石炭を産出するところは特定の地域に集中していますが、それを消費する場所は、世界中に分散しています。一国の中でも、かなりたくさんの場所に分散していて、しかも、規模の小さいものまで入れると無数にあると言っててもいい。
  具体的に言えば、火力発電所、製鉄所、セメント工場、製紙工場、こういうタイプのエネルギーをたくさん使う製造業で、大体75%ぐらいの炭酸ガスを出します。
  あと、製造業以外には運輸部門があって、自動車、それ以外に飛行機や船もそうですが、そういう移動手段や物を運ぶのにかなりエネルギーがいるため、内燃機関からガソリンやディーゼルを燃やして、炭酸ガスが出します。国によって違いますが、日本は17%ぐらい、国によっては30%ぐらいが運輸部門で出てきます。
  あとは民生用。各家庭の暖房などです。電気を使えば家庭からは炭酸ガスは出ませんが、発電所からその分出ています。だから、間接的に出ている。
  こんなにバラバラに炭酸ガスを出しているものを、どうやって取り締まるかと言えば、まず誰がどれくらい出しているかということをチェックしないといけないし、法律の網をかけないといけないわけですけ。
  しかし、法律の網は隣の国にはかからない。世界の国が一斉にかけないといけない。結構面倒な作業だということがあります。
  そこで国際的な合意、つまり、国際的な一律の規制と本当に規制を守っているかということを検証する枠組みが必要となります。ちゃんと守っていればいいことがある。持ってないと罰則がある。これをやらないといけないんですけど、こういう能力は先進国の政府には大体ありますが、他の国の政府にはないかもしれないので、なかなか大変です。
  それから、炭酸ガスを減らすことのできる技術の開発が必要です。企業がそれを採用して減らそうとか思わないと減りません。値段も安くないとだめです。
  それから、最終需要者である国民がライフスタイルを変えるために、エネルギーを余り使わないでも楽しく生活できるようなチャンスを用意してあげないとだめです。
  つまり、結構いろいろやらないと、炭酸ガスは減らないわけです。
  国際的な取り決めなどで、目標とされている年度は、普通2100年。つまり、今からおよそ90年後をターゲットにしています。
  何故、2100年がターゲットになるか。かなり先ですね。かなり先ですけど、予測できる近い未来が2100年です。2200年でもいいのですが、2100年を超えますと、いわゆる技術予測ができなくなってくる。今後どういう新技術が出てくるかということがだんだんわからなくなって、もしかすると、画期的な新技術が出てきて、この問題は解決するのかもしれない。こういう可能性があるので、責任を持って、私たちの社会を予測できるのは2100年がちょうどいいだろう。こういうふうに普通考えます。
  画期的新技術として、有望なのは、常温核融合のようなものです。太陽からエネルギーが来ますが、あれは核融合装置です。常温核融合は、太陽の小さいものがすぐ身近にあって、ほとんどエネルギーをかけないでも、そこから熱が取り出せる、炭酸ガスは出てこない、こういう状態のことです。これは素晴らしいわけですが、今は原理もわかっていない。どうやって核融合炉を作ればいいかわかっていないので、できるとしても2100年から後だと考えられます。2100年から後そういうものができてしまえば、炭酸ガスの問題は解決ですから、その先は考えない。こういう仕組みです。逆に言えば、2100年までにそういう話は実用化しないだろう。そこまで責任を持ちましょう、こういうことです。
  2100年までのいろいろなシナリオがIPCCで計算されています。475ppmで収まるとすると、3度程度の温度上昇になる。こう予測されています。
  この予測はどうやるのか。100年後の温度は今は測れないので、地球シミュレーターというスーパーコンピューターでシミュレーションします。そして、グルグル機械を回して100年後の温度を予測します。
  本当かいな、というわけですけれども、地球シミュレーターというのは、観測値から推定して、こういうふうになるのではないかといういろいろなパラメーターや温度やいろいろな変数を全部入れるんですね。たとえば、1970年の観測データを入れて、30年分、40年分回してみます。それで過去の観測データが再現できていると、このモデルはなかなかいいモデルだということになります。そうすると、10年後、20年後も、正確に予測できているのではないかと想定できるわけですから、それで2100年まで回してみて、予測してみるのです。
  過去の100年が再現できていれば未来の100年を予測できることになりますが、そんなに古いデータがないので、過去10年、20年が再現できていればということになります。そうすると誤差が大きくなってしまいますから、はっきりしたことはわかりませんが、今の研究者がスパコンを回して、はじき出した数値が、475ppmだと約3度上昇という結果です。誤差の幅がだいぶあります。
  475ppmはだいぶ控え目な数字で、現実にこの程度で収まるとはとても思えません。550ppm、かなり抑えてもこれぐらいの数字です。550ppmだとどうなるかというと、約4度の温度上昇です。結局、2100年になってみないとわからないのですけど、4度ぐらい上昇すると覚悟しておいた方がいい。4度上昇だとかなり大変です。
  さて、地球全体で年間に炭酸ガスがどれくらい排出されているかというと、炭酸ガス重量で測って、230億トンです。(炭素重量だと、もう少し軽くなります。)これが毎年出ている。というふうにデータを調べたんですが、これは西暦2000年のデータです。
  今朝、新しい数字が手に入りました。2007年のデータで、310億トンです。わずか数年の間に100億トン近く増えた。えらいことです。
  さて、230億トンの場合で言えば、半分ぐらいが大気中に残留し、残りが自然に吸収される。この残留している部分が温暖化をもたらすわけです。
  ちなみに、日本全体ではどれくらい出ているかと言うと、13億トン出ています。1人当たりに直すと10トンです。皆さん1人ひとりが、毎年10トンの炭酸ガスを大気中に放出しているのです。という自覚はおありになったでしょうか。家に帰って電気をつけたり、自動車に乗ったり、何か物を買ったりするたびに、これは何グラム、これは何キログラムというふうに炭酸ガスが大気中に出ていっているんです。
  京都議定書で、6%削減しましょうと言っていますが、あれはどういうことかというと、この1人10トンを9.4トンにして下さいという話です。50%減らしましょうという目標はどういうことかというと、10トンを5トンにして下さいという話です。
  なお、自然に吸収されると言いましたが、どういうふうに吸収されるかというと、これも、今朝、別な人に聞いたらば、海の吸収が主である。何で海が吸収するんだろうと思いましたら、海にはプランクトンがいる。植物性プランクトンがいて、太陽に当たって、炭酸ガスを吸収します。プランクトンは死んだ後、だんだん海の底に向かって沈んでいくわけです。それで、海の底にたまって、何億年か後には石油になるのですが、そんなプランクトンがだんだん沈んでいってくれていることによって、炭酸ガスは半分ぐらい吸収されているんですね。
  でも、230億トンが310億トンになったら、プランクトンは頑張ってくれるだろうか。その分滞留する炭酸ガスが増えてしまうのではないかと心配になります。これはこれから調べます。
  温室効果ガスにいろいろあるんですが、石炭はほとんど炭素の塊なので、同じエネルギーで、たくさん炭酸ガスが出ます。ところが、石油の中には少しだけ水素があるので、燃やすとそれは水になりカロリー当たりの炭酸ガスの出方が少し少ないです。天然ガスはもっと少ないです。メタンを燃やすと、CH4ですから、C02が少し出ます。でも、Hの部分は余り出てこない。ガスによっていろいろ炭酸ガスの出方が違います。
  なお、メタン、フロンは、炭酸ガスではありませんが、炭酸ガスよりはるかに甚だしい温室効果があるので、これも注意しないといけません。
  というわけで、温室効果をひっくるめて、炭酸ガスに換算して、炭酸ガス相当(炭酸ガスエクイバレント、CO2e)といいますが、数値を示す場合もあります。2種類の数値がありますね。いろんなクジラがいるのをシロナガスクジラ1頭に換算したりするようなものです。
  さて、炭素税の話をしましょう。
  炭素を減らす一番簡単な方法は、炭素に税金をかけることです。これは手間暇が要らず、すぐできます。やり方は@石油元売り各社、石炭の販売会社に出かけていって、「あなたは何トン生産しましたか、それなら、含有している炭素はこれだけですね、その炭素1トンについてこれだけ税金をかけますよ」と、元売り会社が出荷した炭素に対応して税金をかけてしまえばいい。元売り会社は、そんなに何社もありませんから、北欧の例から考えると、7〜8人の税務官で、日本中から炭素税が取れてしまう。
  元売り会社はそれを価格に上乗せしますから、消費量に応じてどんどん末端に転嫁されていき、国民全体が炭酸ガスを使用した度合いに正確に応じて炭素税を払うことができる、という、まことに合理的な税金です。
  この結果、炭素の含有量に応じて、その物の物価が高くなるので、その消費が抑制されるということになって合理的です。物品税はそういうふうにして消費を抑制しますから問題があるのですが、炭素税の場合は、炭素の消費を抑制するという目的税で、大変いい効果があります。税収も増える。
  炭素税、もうひとつの名前では環境税ですが、これはある程度高い税率にします。少し高くなったなと思わないといけないわけだから、最低でも10%である必要があります。
  次に、国ごとにバラバラでなく、各国同じ割合であると大変よい。ある国が高く、ある国が安いと、安い国に工場を建てようと思う企業がどんどん出てきますから、効果がありません。
  それから、下流で減税する余地を残しておく。どういう意味かというと、炭素を含む製品を買ったけど、結局空気中に出さなかった、または、空気中に出さない炭素隔離という技術を持っているという場合には、炭酸ガスに税金をかかっていた分を還付してもらわないといけない。そういう手続きを踏めるようにするということです。
  ということで、この税は、たった今すぐ日本でもやったらいいと思うんですけども、日本政府は大変へっぴり腰でやる気があまりありません。困ったことです。
  炭素税の問題点と言えば、確実に炭素がどれくらい減るかどうかということが税率を決めた段階ではよくわからないことです。
  例えば、京都議定書が決めているような6%の削減をするのにはどれぐらいの税率にしたらいいか。事前の予測は大変困難です。かけ過ぎたら経済に余計な負担がかかります。かけ足りないと6%の目標が達成できない。というので、直接規制に比べれば間接的なので、もっと他の方法も組み合わせたらいいと多くの学者は言っています。私もそう思います。
  なお、税収が上がったら、国が雇用対策をかね、それを財源に社会保険料を負担するというのは大変いいことだと思います。これはどういう考え方かと言うと、税金をかけるとふつうはその分経済がしぼんでしまいます。失業が起こる可能性がある。雇用を確保しないといけない。雇用を確保するために公共事業をやると、今度は炭酸ガスが出てしまう。公共事業はできないわけだから、公共事業をやらないで雇用を確保する方法は、雇用保険、つまり雇用することによって企業が負担しているコストを国が肩がわりしてやる。例えば、年収500万円の人を雇っていた場合、バックコストといって、社会保険料を企業が50万円、100万円と払うわけです。500万円の給与の他にかなりたくさんのバックコストが人件費としてかかるわけですが、それが500万円で済むとなれば、5人働いていたところをもう1人雇おうかということになる。雇用がふえる直接的な効果がある。
  そういうふうにして、集め環境税を還付していく。税収と歳出がつり合うことを税制中立といいますが、税制中立の考えで環境税を雇用確保に還付していけば失業の問題が起こらない。国民に迷惑をかけないことになります。
  これはもうヨーロッパで提案されている考え方ですけれども、我が国でも取り入れたらいいのではないかと思います。

3.ポスト京都議定書への戦略

 次に、ボスト議定書のお話をします。
  環境問題、温暖化問題に対する国際的取り組みとして京都議定書があることは皆さんよくご存じのことかと思いますが、国際的に頑張ってやっているからまあいいではないか、みたいにもしお考えだとしたら、それは大変甘い。
  京都議定書というのはとても不完全な枠組みです。いろいろな意味で不完全なんですが、ひとつ日本が文句を言っているのは、基準年の問題です。
  どういうふうに京都議定書は約束をしているかというと、先進国が炭酸ガスを減らす義務について、それを1990年の排出量を基準に、そこから何%減らしましょう、と決めた。日本は6%減らしましょう、ということになっているわけですね。
  何故、1990年なのか。これには合理的な理由があまりないんですが、ヨーロッパにとっては大変都合がよかった。ヨーロッパでは、ちょうど、この年あたりに社会主義圏が崩壊し、ドイツが統合し、いろいろな変化が起こりました。社会主義圏は技術革新が遅れていたので、エネルギー効率が大変に悪かったわけです。そこで、その工場をスクラップにし、新しい設備を導入するだけで、たちまち炭酸ガスの5%、10%削減など実現してしまう。東ドイツもこの調子だし、ロシアもそういうことで、ロシアは炭酸ガスの排出枠がすごく余っているわけです。そんなことで、足りない国があったら高く売ろうと思って待ち構えていたところ、何の対策もとらなかった日本が困っている。ならば高く売りつけようと、そういう話をしているわけです。
  このように現実には環境対策に何の貢献もしていないけれども、排出権を売ってお金を儲けるという悪いケースを、ホットエアと言います。大変けしからぬことなんですが、我が国は苦しまぎれに大枚をはたいてロシアのホットエアを買わなければならない。こういうことになりそうです。
  日本は、どこの国も吸収合併していない。その上、それまでに省エネ、節約をずっとやってきているわけだから、かなり大変です。乾いたタオルみたいだと鉄鋼メーカーの社長さんなんかは言っているわけです。これ以上もう絞れません。
  しかし、政府も何もしなかったために、1990年に比べて2006年の炭酸ガスの排出量は、減るどころか、あべこべに7%増えてしまっている。2008年、つまり今年から、京都議定書の第一約束期間の削減義務が始まったわけですけれども、6%に7%で、13%削減しなければならない。むだにもう1年も経ってしまった。この調子では、13%減らすのは、全然無理ですね。大変なことです。幸か不幸か、この不景気で少しは減ると思いますが、それは努力ということではない。せっかく減りそうなのに、何兆円も国債を出して、地方の公共事業なんかをやるので、これでまた炭酸ガスが出てしまって、元の木阿弥ですね。
  京都議定書にはいろいろ不合理な面があるわけです。不合理な面があるので、アメリカは脱退してしまいました。今度、オバマ政権になるので、前向きな政策に変わると思いますけれども、参加するとしてもポスト京都議定書、つまり2012年が終わってからになると思います。
  京都議定書の考え方は、とりあえず炭酸ガスの大部分を排出している先進国がまず率先して国際的な枠組みをつくるということを主目的にしました。だから、6%、8%という大変低い数字だった。
  6%減らすのは大変ですが、地球規模で見るならば、今まで排出したものは今後100年、ずっと空気中に滞留していて減るわけではない。それが毎年230億トン、310億トンと出ているので、ppmに直すと毎年1.5ppmから2ppmに増えていくというカーブです。この2ppm増えるところを2ppmではなくて、1.9ppmになるだけなんです。ほとんど何の効果もない。焼け石に水です。
  目標値を立てるなら、もっとドラスティックに50%減らす。これでも2ppmが1ppmずつ増えていくというふうになっただけです。目標はほど遠い。こういう点でも大変に不十分です。
  ブラジル提案というのがあります。
  ブラジル提案は、過去の炭酸ガスの累積排出量従って責任をとって下さいというものです。先進国ほどたくさん出しているわけです。1990年という一時点だと随分不公平がある。考え方としては真っ当な議論です。
  この表は、私どもの研究センターで調査した数字で、よそにはないものです。威張ることはなく、皆さんでも半日あればこの表は作れます。まず、アメリカ政府のエネルギー省のホームページに入っていただいて、詳しく探していくと、炭酸ガス毎年排出量というウェブページがあります。そこに、アメリカエネルギー省は大変偉いと思うのですが、国ごとに出発する年次は違いってますが、世界中の国が、1830年から何トンの炭酸ガスを出したかという数値が年度ごとに出ています。それを縦に足しただけです。
  ソ連のように途中でロシアになったり、いろいろ国の範囲が変わったらどうなるという複雑な問題がありますが、そういうことは無視して、とにかく縦に足したら、アメリカが産業革命以降、3200億トンも出している。1人当たりに直すと1000トン以上です。日本人がいま出している量の100年分を、これまでに出しています。
  ロシアは1300億トンですが、1人当たりに直すと2200トンも出していて、アメリカの倍です。これは大変に粗悪な石炭を効率悪く暖房に使って、ガンガンたいてきたという意味です。これを何とかしないといけません。
  中国は、総トン数でいうと、3番目に入るぐらい出しているんですけど、1人当たりに直すとわずか68トンです。これは暖房用です。ということは、中国の経済成長がこのままであるならば、例えば100トンや200トンが1人当たりになっていく段階においては、断トツでトップということです。現在、世界の炭酸ガスの排出量はアメリカを追い越して、中国が1番になっている。去年から今年にかけて、1番になったはずです。
  ドイツ、イギリス、日本があります。日本はそれなりに優秀なんですけれども、351トンです。今後、赤丸上昇なのは中国、インド、ブラジル、そういう国です。
  もとに戻って、こういうふうに責任を負えばいいのでしょうが、先進国はブラジル提案だと損をしますから、あんまり賛成していません。途上国はこれを支持しています。
  日本はブラジル提案を踏まえて、このような提案をすべきだと私は思います。
  2100年を目標期間にするのであれば、2100年時点までの累積排出量に責任をとるというふうにした方がいい。途上国は今まで出していませんが、これからうんと出そうと思っている。うんと出そうと思っている途上国は、これからうんと出す分についての責任をとってもらいたい。先進国と発展途上国が共同で分担するという意味になります。そういう枠組みを、日本としては提案して、そして世界中が合意できるような枠組みをつくる。そう私は思ったわけです。
  そのように思っていたところ、今朝、研究会があって、そこでイギリスのレポートがどうなっているかを見たら、こう書いてありました。
  イギリスの現在の炭酸ガスの出し方は、日本と大体同じです。1人8トンとか、そんなものです。後で紹介するかもしれませんが、イギリスは2050年に炭酸ガスを現在の80%減らす。わずか20%にまでしてしまう。こういう目標を立てています。これは政府の公式の目標です。大胆ですね。つまり、1人当たりにすると、2.1トンにする。1人2トン。10トンから2トンに減らす。
  何故2トンかというと、2050年の段階では、世界中の人が平等に炭酸ガスを排出する権利があるとすると、2100年で550ppmにするためには、その時点で1人平均2トンになっていなければならない。平均2トンということは、先進国が少なくとも2トンの段階に減らしていなければ、国際合意が得られない。先進国が2トン以上であれば、途上国は経済成長できないということですから、絶対に乗ってこないんですね。ということで、2トンにすることが、交渉が成立するための基礎条件です。だから、イギリスはそれを目標にすると、明確にのべています。
   非常に立派な政権ですね。実行してくれればなおいいです。
  ということから、1人当たりの数値というのは、ブラジル提案をもとにした日本提案だとしても、そういう数値に基づいて実行可能なプランにしていかなければ、みんなが乗ってこないと私は思います。
  さて、ポスト京都議定書の問題点は、ヨーロッパと日本ぐらいしか入らないかもしれないという点です。
  削減義務を持つ国、「1条国」と言いますが、そういう国を拡大しないといけない。まず逃げてしまったアメリカを巻き込む。それから中国。中国は気候変動条約にも、京都議定書にも調印していますが、1条国(削減義務のある国)に入っていません。ですから、これに今度は入ってもらわないといけない。インドもそうです。
  中国について考えてみると、中国は膨大なエネルギーがこれからまだ要ります。そして、中国の最大の資源は、埋蔵量が200年分といわれる石炭です。この石炭を使いたい。石炭を使うための決め手は、石炭をエネルギーとして燃やしても炭酸ガスが出てこない技術。炭素隔離という技術です。この技術が開発できる、あるいは先進国から確実に手に入る、こういう確信があれば、中国政府はこの枠組みに乗ってくる可能性があります。
  日本のためにも、中国のためにも、人類のためにも、日本はその道を切り開いてやる必要がある。これが対中外交の基本姿勢になる。こういう努力を日本が真剣にすれば、歴史問題とか過去のいろいろな問題は、みんな吹っ飛ぶと私は思います。
  もう少し補足をすると、中国と日本は、19世紀から20世紀にかけてライバルだったんですね。昔は紡績産業、最近も鉄鋼業だとか、類似する産業で経済競争しています。
  でも、よく考えてみると、実は中国と日本は、人口が違う、資源が違う、いろいろな基礎条件が違って、補完性が高まっている。日本と中国の貿易によって、双方が得るところがだんだん大きくなるという構造になってきています。ここに注目して、日本と中国が双方のメリットを十分生かすような見通しによる経済協力、特に環境協力をしていくのが、先程来お話ししているとても大事な点ではないかと思います。
  3番目として、長期目標を設定すること。
  2007年のハイリンゲンダムサミット、2008年の洞爺湖サミットで、安倍首相、福田首相が言っているのは、2050年に現状の炭酸ガス排出量を50%減らすということです。ヨーロッパが60%と言い、アメリカが嫌がったので、中をとって50%という数字になった。
  政府内部での議論を少しモニターしましたが、下から数字を積み上げて、50%できそうだから、50%にする、または、こういう理由で50%にしなければいけないから50%にする、というのではなくて、ヨーロッパとアメリカの中をとって、50%にしただけです。ですから、中身がない。そして、この50%と、日本政府がいろいろ策定している経済計画との連関性も全然ついていません。50年だから大分先だし、いいじゃないかというアバウトな数字なんです。
  そうではなくて、まず50%でいいかどうか。
  イギリスは60%と言っていたのが、最近出た報告書では60%では足りないことがわかったので、80%削減にするというレポートが出たばかりです。80%という数字もある。日本は何%にしなければいけないのかをしっかり議論すべきです。
  それから、国連気候変動枠組み条約という基本条約がありますが、このもとで炭酸ガス管理を長期的にどうするかという国際体制を急いでつくっていかなければいけません。日本はそのためにも努力をしていかなければいけない。
  それから、日本で遅れているのは、炭素税を導入してない点もさることながら、炭素を規制する法律も全然できていない。つまり、炭酸ガス基本法みたいなものがない。
  それから、炭素排出権取引の制度も、経済産業省が2カ月ぐらい前から始めたんですが、大変に生ぬるく不十分なものです。もっと本格的なものを取り入れないといけない。どこが生ぬるいかというと、排出権取引というのは炭素を減らすことが目的です。キャップ・アンド・トレードといって、まず規制値を決める。キャップをかける。そして、うまく減らせそうなところとなかなか減らしにくいところをならすために、うまく減らせたところから減らしにくいところに排出権を移動する。そのために市場を作る、こういう順番なんです。日本の制度はキャップがないんです。でも、排出権取引が外国で始まったから、日本でもできるようにしよう。これだけで作ったわけですから、これでは何の意味もないと思います。

4.炭素会計

 さて、炭素会計についてお話ししましょう。
  炭素に税金をかけるとかアバウトなことではなく、もっと本格的に炭酸ガスを管理していくためには、経済制度、法制度、社会の仕組みそのほか、全体的に社会を作り変えていかないと無理です。経済的な面では、炭素会計というものを導入したらいいのではないかということで、簡単なアイデアをご紹介します。
  経済学に、産業連関論というものがあります。産業連関分析とも言います。
  これは、計画経済の時に使うんですけど、鉄を作るのに石炭が要るとか、何が要るとかいろいろわかっていて、その係数が表になっている。鉄を作るのに石炭が要るなら、石炭はどうかというと、石炭をつくるのに鉄が要ったり、ガソリンが要ったり、いろいろなものが要る。全ての産業は全ての産業と連関しているんです。ですから、経済予測をする時には、この連関の状態を十分理解しないといけないんですが、これを近似するために、線型近似で行列式で表して、それで需要予測をする。これは経済企画庁なり経済産業省の役目で、そういう専門家がいて、それに使う大きな表がもうあるわけです。これを使って逆行列を計算して、必要な生産量を予測するわけです。
  簡単な式をレジュメに書いておきましたから、もし理工系の出身の方で、線型数学がおわかりの方は見ていただきたい。xが最終生産量のベクトルだとすると、これが供給ですね。需要のほうは、そのxを生産するのに必要な生産要素がAという行列になっていて、最終需要は左側のxということで、これが均等しないといけない。この方程式を解けばいいんですけど、移項して、逆行列を作ってbを掛けると解けるということです。
  この逆行列を作ることは、コンピューターがない時代は、事実上不可能でしたが、コンピューターを使えばすぐできるようになった。ここから生産すべき量を計算できるということなんですけれども、ここから副産物として炭酸ガスが出てくるというふうに式をちょっと変形すると、どの産業がどういうプロセスで直接、間接にどれだけ炭酸ガスを排出したかということが計算できるようになります。それから、最終需要者が直接、間接にどれだけ炭酸ガスを排出したかということを個人レベルで計算できるようになると思うわけです、理屈の上では。
  これに近いことを、実際にどういうふうにしたらいいかということなんですが、全ての取引にPOSポスシステムと同じように、カーボン・フットプリントの考え方で、どれだけのカーボンがこの取引に含まれているかということを記入して、消費税のインボイスと同じように、次々に転送していくようにすれば、最終需要者が、直接、間接にどれだけのカーボンを排出したかを把捉できるようになる。それなりに面倒ですが、消費税の時にコンピューターやレジスターをいじったのと同じ手間でできると思います。
  これで個人、企業とダブルアカウントで二重に計算をして、年度末に企業が実際何トンの炭酸ガスを出したのか、そして最終需要者、家計、個人が何トンの炭酸ガスを出したのか計算できるようになる。これが規制をかけたり、税金を取ったりする時の基礎データになるのではないか。
  このシステムを開発すると、炭素の管理が一番容易になって、全ての企業や個人に炭素を減らしていく動機を与えることができると思うわけです。これが炭素会計(カーボンアカウンティング)の考え方です。
  これを実施するために、炭素ボーナスという考え方もあるのではないか。
  これはどういうことかと言うと、先程、日本人は平均で1人10トンの炭酸ガスを出していると言いました。でも、一律に1人10トン出しているわけではなくて、おそらく所得に応じている。所得の高い人は消費も高いから、炭酸ガスの排出量も多い。ということで、15トン、20トン、30トン出している人がいる。海外旅行なんかを繰り返している人は50トン出しているかもしれない。それから、ギリギリの生活でフリーターのような人がいたとすると、消費の水準は非常に低いわけですから、炭酸ガスは10トンではなくて、5トンだったり3トンだったりするかもしれない。
  さて、今年のナショナルゴールが1人8トンだったとする。そうすると、8トンを超えている人は年末調整で、超えた部分に対してペナルティーの罰金を払う。それから、8トンを下回っている人はよくやったということで、炭素ボーナスとして還付してもらう。還付の財源は罰金ですね。要するにならすだけです。これは高所得者から低所得者に対する資源の移動になるので、そういう意味では福祉的な意味合いがあります。それから、還付の理由ですけれども、これは明確に、炭素を出したかどうかということが指標になっているから、正当なことになります。お金持ちだから取っているわけではない。炭素を出したから罰金を取ったので、例えば、お金持ちでも絵を買ったりして炭素が出なければ還付してもらえるかもしれない。所得が低い人でも、やたら炭素が出るような消費行動をしていれば、やはり罰金は払わなければいけないわけです。
  このような炭素ボーナスという制度を込みで提案すると、国民の70%から80%の人は必ず年末調整でもらえる側になるわけですから、このシステム導入には、賛成する人が多い。反対する人は一部のお金持ちということで、この法案はみごと通るという仕組みになっているわけです。
  ですから、この炭素ボーナスの仕組みを抱き合わせにして、炭素会計の考え方を立法化するというのは、現実的な方法ではないかと、私は思っています。

5.炭素基本法

 炭素基本法を紹介します。
  これはイギリスで進んでいます。
  イギリスでは、クライメット・チェンジ・ビル(気候変動法案)が、2006年から議会で審議されていました。この法案は、その前に財務省の『スターン報告』にもとづいている。スターンという人がまとめたんです。これは気候変動に関する経済予測の非常に分厚いもので、翻訳も出ていると思いますけれども、画期的なポリシーレポートです。言っていることは、気候変動がどれだけ危険かということが書いてあった後、結論は、早くアクションを起こすか、それとも、ずっと座っていて、被害が起こってからやっとアクションを起こす、この2つのシナリオを比較して、早くアクションを起こせば、毎年GDPの1%程度のコストをかけていくだけで最悪の状態が回避できる。でも、座ったままで大問題が起こってからアクションを起こすと、その時の被害はGDPの10%、20%、30%になって、経済が負担できないようなものになる。だから、早くアクションを起こした方が全体のトータルコストはずっと少ない、と結論するものです。
  これは予防医学みたいなものです。成人病に注意して、いろんなことで検査したり、薬飲んだり、運動したり、毎日毎日、毎年コストをかけていくとひどいことにはならない。でも、何にもしないで、ある時突然すごい病気が見つかってとなると、ひどい状態になって、お金もかかるし、本人も苦しむ。それとよく似ています。炭酸ガスは成人病ですね。これが第1です。
  2番目に、どういうふうに実際にアクションを起こしたらいいかが書いてあります。例えば、政府全体が責任を持ち、国民が何をやり、ということが書いてある。
  このレポートは財務省がまとめたという点が大事です。日本だったら、環境省や経済産業省がまとめます。産業を所管するのは経済産業省ですね。自然環境とかを所管するのは環境省ですね。環境省は規制しようと思って、経済産業省は業界を保護しようと思って、なかなか意見が合わないということになる。日本は、財務省が何もしないわけですけれども、イギリスでは財務省が主導権をとってこれをまとめた。とても大事だと思います。
  英国にも環境省や経済産業省に当たるものがあるでしょうけれども、財務省は、それを調整する役割です。そして環境税を取って、会計処理をするわけだから、基本的にこれは国の仕事なんです。そういう考え方で、財務省が乗り出すということが一番本気であるということなんです。日本で同じことをやろうと思ったら、財務省がまとめないとまとまらないと思うわけです。
  そういう法案が議会に提出された。かなり過激なことが書いてありました。どうなったかなと思ったら、これが先月、11月26日に法律として成立したみたいです。ダウンロードしました。その付随文書もあって、その法案に基づく気候変動委員会、CCC(クライメット・チェンジ・コミッティ)という委員会ができて、12月1日にCCCレポートが出てきました。法案が通ることを見越して、その準備会か何かで作業を進めていたんですね。12月早々にそのレポートが出てきて、先程紹介したような60%ではなくて、80%削減にすることになった。
  つまり、結論を言うと、審議の過程で骨抜きになるかと思ったら、そうではなくて、あべこべにもう1本骨が入って、なお厳しくなった。
  これがイギリスの気候変動法です。
  その中身は、まず議会が非常に権限の強い気候変動委員会というものを作るように政府に命じます。
  気候変動委員会は政府のもとにありますが、議会に対して報告する義務がある。独立委員会ですから、内閣の指示に従うわけではありません。つまり、政権が交代しても、長期的に議会に対して責任を持ち続けるというタイプの委員会です。日本でいうと公正取引委員会や人事院や会計検査院という感じのものです。
  そして、議会が政府を監督する。気候変動委員会は、イギリスで、炭酸ガスが着実に削減されていくということに対して責任を持つわけです。
  そして、炭素基本計画というものを立てます。
  5年間掛ける3期分、つまりこの先15年間についてイギリス政府がどういうふうに炭素を削減していくかということの計画をいつも手元に持っています。ですから、企業からしてみると、今は6%削減ですけれども、その次は10%削減だな、その次は25%削減だな、その次は40%削減だな、みたいな長期見通しがわかります。その時のペナルティーがいくらで、報奨金がいくらかということもわかります。そうすると、新しい設備を作る時にコスト計算ができるわけです。この投資はすべきかどうかわかるわけです。予測がつかなければ何のアクションも起こせないから現状維持になるでしょう。そうではなくて、政府が将来的な見通しを与えてあげよう、という考え方です。とてもいいと思います。
  この炭素基本計画に従って、大体20年先までを見通しながら、委員会は、企業ごとに排出できる炭素を割り当てる権限がある。最終的には個人にも炭素を割り当てていく。例えば今年は7トンですよとか、今年は5トンですよというふうに割り当てる。使い過ぎた人は責任をとるルール。先程の炭素ペナルティー、炭素ボーナスの考え方ですね。ここまでやる準備をしています。
  これは何のことはない、統制経済だと私は思います。統制経済は、自由主義経済にとっては変則的かと言うと、総力戦、大戦争をやる時には自由主義経済はみんな統制経済になった。つまり、危機の時には統制をして、自由主義経済を守るというのがこの経済システムなんです。だから、決して変則的なことではない。
  ということを、イギリスがまずやり始めたということです。これは世界で一番進んでいると思います。
  日本は、こういう話に全然なっていません。マスコミなどでもこの法案はほとんど注目されていない。当然ですけれども、EUの中ではイギリスとドイツが両輪で先進国なんですが、他の国々もこのやり方を研究しています。多分、EU全体がこういう枠組みになるでしょう。
  オバマ政権の様子から見ると、ブッシュとは大変違い、ヨーロッパのこういうシステムに対応できるように、いち早く準備を進めていくに違いない。あまり何にもわかっていないのが日本だけという状態になっているような気がして仕方がないんですね。ですから、ここをしっかり政府でも考えていっていただきたいと思うわけです。
  炭素取引というのがあるんですが、炭素取引を炭素を減らしていく仕組みにうまく組み込むためには、やはり国際的な市場を作らないとだめです。それには各国が協調して、このイギリスみたいな仕組みを作ることがとても大切ですね。
  EUでは、一足先に炭素取引を始めて、第1期が終わったところですけれども、第1期でいろいろ反省点が出ています。最初の割り当てが難しいんですね。最初の割り当てが恣意的だと、ぬれ手にアワのぼろ儲け、こんなに枠は要らないのにもらえたから売ってしまおう。そういう企業が出てきて、削減のために努力している企業からそういうずるい企業にお金が移転されてしまうという問題が起こって、だいぶ批判が出ました。
  これは制度そのものの欠陥ではなく、どうしても最初に初期割り当てをしないと、システムは始まらないのですが、その初期割り当てが大変に難しかったということです。
  この初期割り当てを政府が一方的に決めてしまうと、そういう副作用が起こりますが、他にはオークションというやり方があります。割り当て量全体を決めます。例えばこの業界で5000万トンですと決めて、この5000万トンの枠を幾らで買いますかということになります。全然手を挙げないと枠がありませんから、1トン3000円で買います、3500円で買います、4000円で買います、ほかに声はありませんかということで、競りをして割り当ててしまう。そうすると、先程みたいにぬれ手にアワという状態はなくて、自分の企業の実力からいってこれくらいかなということで買うことになる。こういうやり方もあります。
  民主党の環境部会の議員は、オークションはなかなかいいと言っていたので、そういう法案を提案するかもしれません。こうして初期割り当ての難しい問題を何とか突破して、いったん始まってしまえば、そういうぬれ手にアワという状態はなくなるので、公正な取引に移っていくはずです。なるべく早くこれを始めたほうがいい。
  というのが、炭素取引です。

6.日本の選択

 さて、残りの時間で、日本の選択というお話をいたします。
  日本の選択は、世界の動向をじっと見きわめて、科学技術面、そして経済制度面、法律面、長期ビジョンやライフスタイルといういろんな面で、今後の変化をきちんと先取りし、踏まえているような基本ポリシーを作ること、これに尽きると思います。
  まず、炭素を減らすための技術がたくさんあるわけですが、それをもう少し重点投資しないと駄目です。
  今度の緊急経済対策もそういう配慮はまるでなく、要するに何兆円かで公共工事をやればいいという考え方ですけれども、そんな1兆円、2兆円の追加支出の余裕があるなら、こういう部分に投資したら、本来の不況対策や失業対策という効果も同様にあるでしょうし、それに加えて日本のポジションを強化するという目的も達成されて、大変いいと思います。
  要するに政府のポリシーの引き出しに、お金がないからできないけども、こういういい政策があるんだがというファイルが全然なかったんですね。だから、急にお金を使うとなると、1000億円だったものを2000億円にするという発想しかないから駄目なんです。
  まず炭素が出ない代替エネルギーという話がたくさんあります。太陽熱発電、太陽電池、水素燃料、CCS。順番にお話しします。
  太陽は核融合で光線が届いているわけですから、地球では全く炭酸ガスは出ず無公害です。
  それを利用するには2つ方法があります。太陽電池と、太陽熱発電です。
  日本では日当たりが悪いせいもあり、曇りの日でも発電できるなどいろいろ言って、一生懸命に太陽電池の開発をしています。これは政策選択ミスではないかと思います。太陽電池の問題点は、パネルに光が当たって、それが電気に変換されるんですが、値段が高いことです。とても値段が高い。値段が高いと代替エネルギーにならないわけです。むしろ、環境負荷が大きくなってしまう。将来安くなってくれればいいですけど、いろいろな予測を見ても、どうも将来安くなる見込みがありません。
  そこで、諸外国は、太陽熱発電というもっとローテクな太陽熱利用の方法を考えています。日本ではあまりやっていません。私のいる東工大に何人かやっている先生がいて、研究グループに入れてもらったんですけど、あまりやっていませんね。
  どういうのかというと、いろんな方式があるんですけど、一番簡単なトラフ式というものの説明をすると、これは熱を集めるところです。八つ橋のような形に丸めた鏡を用意して、太陽が当たると焦点を結ぶ。焦点の位置にパイプを通して、ここに油を流す。油は30度ぐらいですが、この鏡が何枚も何枚もあるとだんだん温度が上がって300度ぐらいになります。それ以上になると燃えてしまうので、300度ぐらいでとめておきます。
  300度の油のパイプを水の中を通して水を沸騰させる。水は蒸気になってタービンを回して発電する。このあたりはふつうの原子力発電所や火力発電所と全く同じです。熱源が太陽であるだけです。
  これが実験段階から実用段階になって、2007年2月にアメリカのネバダ州ブールバール市、これはラスベガスから自動車で1時間ちょっとのところですけれども、そこで商業運転を始めました。
  私は去年の夏、見学に行ってきました。行ってみたら、真っ平らな砂漠というか乾燥地帯の真ん中にこの八つ橋みたいな鏡がズラッと並んでいました。東京ドーム5つ、6つ分ぐらいの面積です。音は全然なく静かに発電をしている。その地帯は1年365日のうち360日ぐらいがカンカン照りです。昼間はずっと発電できる。これで生産した電力をネバダ州、カリフォルニア州などに販売しているわけです。
  発電コストは、係の人の説明によると9セント/1kwh。これはどういうことかというと、アメリカでその時に一番安い電気が石炭火力で5セント/kwhだそうです。だから、相当いい線をいっている。ご承知のように、その後、原油価格高騰のあおりで、石炭も上がって、3倍になったらしいですから、今はもうトントンになっていると思います。
  価格の予測はなかなか難しいんですけど、一番安いものと比べて競争力がないといけないんです。太陽熱発電のコストは、固定費用ですから、そんなに値上がりするとは考えられないので、かなり競争力はあるのではないかと思います。
  この会社は、スペインの企業に買収されてしまいました。いろいろ調べてみますと、ヨーロッパにソーラーシステムの国際ネットワークという計画があることがわかって、ヨーロッパ全体がこのソーラーパワー発電をしようということなんです。モロッコ、アルジェリア、エジプト、トルコなど、地中海の南側にたくさんのソーラーシステムのパワーステーションを造ります。そして、直流高圧送電という方法でヨーロッパに送電します。ジブラルタル海峡を通ってスペイン、フランス、ドイツ、あとドーバー海峡を通ってイギリスまで送電システムを造る。詳しいことはよくわかりませんが、これでかなりのエネルギーを取り出して、炭酸ガスはほぼ出ないというものです。
  ヨーロッパがそうですけれども、アメリカも当然、砂漠が多いので研究しています。インド、中国、ロシアも砂漠があるので、これを研究しているわけです。研究してないのは日本だけです。砂漠がないからです。
  もし日本がやるとしたら、中国と手を組む、あるいはオーストラリアと手を組む。どちらにも砂漠があります。石炭があります。そして、このソーラーシステムの電気を日本の場合、水素の生産に使い、水素にして輸出したり、日本に輸入したりして自動車のガソリンを水素に置きかえるということをしますと、輸送部門で出ている炭酸ガスがソーラーエネルギーに置きかわることになるので、排出をカットできる。
  水素は電気分解はなかなか難しいのですが、東工大の研究では、エネルギーをかけると、右側から水素、左側から酸素が出てくるという素晴らしいセラミックがあります。これを水上捕集して、水素、酸素を濃縮すると液体水素、液体酸素になります。水素の方を使うわけです。こういう安い水素を生産する技術がいま求められているわけです。
  次に、CCS(Carbon Capture and Storage)。これは、炭素回収貯蔵という技術です。
  火力発電所や製鉄所で出てくる炭酸ガスが、大気中に出ていく前の煙突の中にある段階で、液体の中をブクブクと通して、化学処理を施し、回収し、最終的に液体の炭酸ガスにしてしまう。
液体の炭酸ガスは、天然ガスのようなもので、大きなタンクに入れて運ぶことができます。パイプラインかタンクで運んで、地中に投棄する。投棄先は、古い炭鉱や油田です。なおいいことに、こういうことをすると、枯れかかった油田からもう一回石油が出てくるということもあるらしいです。それから、海中投棄といって、海に捨てる方法も研究しています。
  こういうものこそ、日本が真っ先に研究しなければならない技術ですね。
  地球温暖化の問題は、エネルギー価格が上がる。炭素が高くなるから、エネルギー価格が上がり、資源価格が上がるということです。エネルギー価格と資源価格が上がると、エネルギーを節約したり、資源を節約したりする技術の価格が高くなるという意味です。ゆえに、日本にとっては自分の技術が高く売れるチャンスなんです。資源価格は高くなった方が日本の競争力は強くなる。つまり、発展のチャンスです。
政府はここをよく認識して、経団連の中で、鉄鋼連盟とか電力何とかなどエネルギーをたくさん使っているところが、エネルギー価格が高くなることに反対すると言い出したら、「馬鹿を言うな、我が国の国益はエネルギー価格が高くなることにあるのであって、技術立国をするのだから、おまえら、ちょっと静かにしなさい」とどなりつけないといけないと思います。
  次に、日本経済全体を低炭素経済の方向に構築していく。省エネ、省資源は今までもやってきましたが、目標数値をちゃんと立てて、GDP当たりのエネルギー、資源投入を、今でも国際的には低いんですが、さらに半分にして、国際的な、標準的なやり方にしていく。これをジャパニーズ・ウエイ・オブ・ライフというふうに言います。アメリカを標準にするのでなく、日本を標準にすることを国際的に主張していく。そうすると、日本のものが全部スタンダードになってきますから、大変なビジネスチャンスが生まれてくるわけです。
  それから、無駄な投資を節減するということも重要です。日本の場合、無駄が多いのは、まず都市に集合住宅がない点。それから、地方で特に顕著ですが、自動車が1人に1台になっている点。それから、食べ物の点など、たくさんあるわけです。
  そういう点で、新しいイノベーティブな技術をたくさん創っていく。そういうものをパッケージにする(私はグリーン・ジャパン・イニシアチブと呼んでいます)。そういうものを私たちも提案していきたいし、皆さんのほうでもいろいろご提案いただきたいわけです。
  その上で、この技術を世界に広め、標準化していく努力をしなければいけないわけです。
  CDM(クリーン・ディベロップメント・メカニズム)は、環境技術を外国に移転して、外国で炭酸ガスを減らし、日本が減らしたことにしてもらうという京都議定書の枠組みです。そういうものを使ったり、JI(ジョイント・イニシアチブ、共同作業)の枠組みを使ったりすればよいのですが、これは、ヨーロッパが考えたものですから、制度が複雑でやりにくい。ですから、もう少し簡便にできて効果の高い国際的な制度というものを日本が提案していく。
  今までの環境関係の枠組みというのは大体ヨーロッパ提案です。日本は提案する能力が低い。これは、EUで国際枠組みを作るというワンステップを経ているので、少しバージョンを上げるとそれが国際提案にできるのですが、日本は一国だけでやっていて、全部日本語で国内のやり方でやっていますから、国際的なものにするのに手間がかかる。そんなことを言っていないで、是非、国際的なバージョンを日本で作っていくように、主張したいと思うわけです。
  最後に、政府も黙っているわけではなくて、文部科学省の2009年の予算で、環境リーダーというのができることになって、大学の拠点をつくって、アジア、アフリカから環境技術の国際移転を担う留学生を大学に招いて教育するとか言っています。やらないよりはいいいですけど、私の感じでいうと、規模が少ない、予算も少ない。たった5億円ぐらいです。100倍ぐらいの予算が必要です。もっとやってもらわないといけない。
  それから、実はエネルギーの問題というのは、人口の問題です。人口が増えてもやはり困ります。1人当たりのエネルギー消費が同じだとすれば、人口の分だけエネルギー消費が増えてしまう。人口をなんとか抑えなければいけないということがあります。そういうこともやはり日本の国際的責務です。
  人口が増えないとためには、2つ要因があります。
  1人当たり国民所得が3000ドルを超えると、その国の人口はストップがかかります。だから、早く3000ドルにしてあげないといけない。
  もうひとつは、学歴、教育です。お母さんの学歴が中学校になると、子どもの人数が減ります。小学校以下か字が読めない、こういう国ではお母さんはたくさん子どもを産んでしまいます。この2つです。
  日本が一番得意なのは、初等・中等教育なので、人口が増えつつある第三世界にあまねく小学校教育、中学校教育が受けられるような国際援助をしていく。ODAのような箱物援助はあまり意味がないと私は思います。そうではなくて、現地のニーズに合った援助をしていく。そうすると、人口が抑制される。
  間接的に炭酸ガスの問題にも大きな影響があります。
  日本は得意な分野でできることをしていけばいいので、そういう明確なポリシーを持って、政府は国民に訴える。こういう新しい制度、税金を入れますとか、国際的な貢献をしていきますとはっきり言えば、もう少しまともになっていくのではないでしょうか。
  
  

 
フリーディスカッション

與謝野 ありがとうございました。橋爪先生から、カーボンアカウンティングつまり「炭素会計」の社会的なフレームの概要を初め、海外の低炭素技術の開始内容のご紹介及び日本の進んでいく道などについて、詳しくご説明、ご紹介いただきました。
  それでは、30分ほどお時間をとっていただいておりますので、せっかくの機会でございますから、ここで皆さんに会場から質問をしていただければと思います。
  こういう点についてもう少し詳しくお聞きしたいということがございますれば、ぜひお申し出下さい。
河合(竹中工務店) 今日は素晴らしいお話をありがとうございました。
  1つ教えていただきたいのは、炭素基本法がイギリスで法制化された。かなり短い3年ぐらいの期間をもってというお話でした。イギリスでも、今までいろいろな法律でうまく合意形成が図れなかったのが、今回非常に短期間でそこまで至ったというのは、どういう手法、切り口があったのか、もう少し詳しく教えていただきたいのと、それが日本でも可能かという点について、教えていただけませんでしょうか。
橋爪 私は、イギリスの国内事情の専門家ではないので、インターネットで見た材料を、仲間と一緒に読解、分析しているだけです。そこで、想像するしかありませんが、イギリスと日本の違いとは、まず第一に産業構造の違いです。イギリスにはエネルギー多消費の製造業は、あまりない。それから、発電の構成を見てみますと、何故か、石炭が中心で、石油の火力発電があまりないのです。そういうふうに業界の構造が違うので、産業界の圧力団体の圧力の方向や将来の見通しなどが、どうも日本と違うようです。国内のエネルギーの使い方は、日本に比べて民生部門が多く、節約の余地が多かったりということがあるので、日本みたいに経団連がなかなかうんと言わないとか、そういう問題は少ないのではないかと思います。
  2番目に、やはり議会や政府の能力やスタンスの違いです。スターンレポートもそうですし、気候変動法案、気候変動法もそうですけれども、まず非常にわかりやすい明確な英語で書いてあります。それから論理が科学的な根拠やデータに従っていて、こうだからこう、こうだからこうというふうに論証してあります。論証が成立していないような部分は、その中にはないんです。非常に透明性が高い。それから、法案の提案理由やこの条項の理由はこうだみたいなこともその文章の中に書いてあります。
  日本で立法されると、まず非常に複雑でわかりにくい。一読してわからない。議会ではなくて、おおむね政府の行政官僚、管轄官庁が立法するんですね。管轄官庁のやり方として、詳細は政令や通達で決めるということになっていて、大枠はあるけど具体化されていない。そこで実際に機能するのは、省庁で作った何とかマニュアル、ハンドブック、実施規則という別の小冊子です。それを見ないと、その法律が運用できないし、実施できないというふうになっています。
  イギリスの考え方だと、そういうことは許されない。立法府ですべてのデータを国民の前に明示して、規則として確立し、それ以外の規制を行政官がつけ加えるということをしてはいけない、という考え方だと思うんです。この考え方が違う。
  議会は与党と野党がいるわけですから、与党と野党が相談して合意した場合だけ法案が法律になる。だから、反対意見は織り込みずみで、国民の合意であって、というステップになっているんだと思います。議会と政府の関係が違うということがもうひとつの背景ではないかと思います。
  そこから先、多分イギリスであっても、特定の業界の思惑やいろんなことがあると思うんです。今回、炭素委員会のレポートを読んでいて、少し不可解に思った点は、CCS、炭素隔離に対する評価が非常に低い。こういう技術もあるけど、コストがわからないとか、実用化の目処が立たない、といったネガティブな書き方で書いてある。うがって言うと、それは核エネルギーを使おうという話かもしれません。核エネルギーは、コストがわかっていて技術があって、炭酸ガスが出ないわけです。
  アル・ゴアも、一部で「アル・ゴアは原子力発電側の手先」と言われています。私は、そういうことはないと思うけれども、火力発電所をやめようということになると、そういう文脈が生まれてしまいます。だから、アル・ゴアと原子力発電所の業界が無関係だったとしても、原子力発電所としては、これで需要が増える、しめしめと思っているかもしれない。
  いろいろそういうことを考えるときりがない。きりがないですが、少なくとも科学的にきちんとした議論がされているというのが、イギリスに限らず、ヨーロッパ、アメリカの最近の政策基本文書の特徴です。
  日本の政策立案者であるお役人は、まず学位を持っていないし、そういう訓練を受けていないので、人材面で大変心配です。知能は高く、素晴らしい方々ですが、習慣が違う、訓練のされ方が違うんですね。
  ということで、ご参考になったかどうかわかりません。つまり、政治力の何とかというのではなくて、科学的議論の形で意思決定するということなんです。
  もう1つ、別の国を例に挙げると、中国の最近の政策文書も全部そういうふうになっています。大学と政府の関係が大変密接である上に、政府機関の職員も最近学位を持っていないと昇進できないようなシステムが取り入れられてきて、話をしてみると、やはりそういう感じなんですね。だから、日本だけ、科学系のペーパーと政府系のペーパーのギャップがあり過ぎるということなのではないでしょうか。
三輪(潟Tンルート) 先生のお話では、炭素会計もしくは、炭素税の導入には非常にメリットがあるということなんですが、最終的には特に日本ではその導入が遅れている。それを聞くとやや暗い気持ちになるんですが、質問は、日本、イギリス以外の国で炭素会計、炭素税の導入に対してどういう取り組みがなされているのか、進んでいるか、その点を教えていただけませんでしょうか。
橋爪 私も、そんなに詳しいことを知っているわけではないですが、この仕組みを取り入れようと思うと、政府の能力が大変高くないといけない。少なくとも産業連関表を作っていないといけないし、徴税の仕組みとして消費税や、せめて所得税といった税体系を持ってないといけないんです。しかし、国際的に見てみると、そういうことをちゃんとしている政府はあまりないわけです。ですから、そういう国ではなかなか導入は難しい。でも、先進国はおおむね大丈夫だと思います。
  ドイツは、そういう点で、いろいろなペーパーを見ておりますと、そういう潜在力が高いと思います。アメリカもやってできないことはないと思うのですが、アメリカは全然別な理由で、エネルギーを使い過ぎているという面があるので、いずれにしろ、こういう議論になった場合、どうしてもヨーロッパに比べて旗色が悪いと言えるかと思います。あと、韓国あたりであれば、導入できるのではないかと思います。
小林(日本環境衛生センター) 低炭素化社会或いは新しい局面に対して、政策の提言や技術開発について、日本でも散発的、個別的には幾つか報道がされていますがが、ダイナミックな展開というのはなかなか耳にする機会がありません。どうも基本的に日本も欠けている点があるのではないかと危惧をしています、いかがでしょうか。
橋爪 今日、私が申し上げたかったのはまさにそのことです。国全体としてグランドデザイン、ゼネラルポリシーというものを作らないといけないわけですね。
  これは基本的には、政治の役割です。政治というのはみんながいろいろなことを考えている時に、最大公約数をうまくつかみ出して、すべての人、大多数の人に利益になるから、こういうふうな方向にいきましょうと提示することなんです。そのための手段として法律やいろいろなことがある。
  政治が十分機能してないという問題だと思いますが、政治家に言わせると、それは国民の問題だとなる。すぐ目先のことを考えて、なかなか長期的なことを考えてくれない。こういうふうに責任を押しつけ合っていても仕方ないので、とりあえず、政府がやらないなら、政府以外の団体、NGOでも何でもいいのですが、そういうゼネラルポリシーの候補に当たるようなものをいろいろ提案していって、国民の間で議論を高めていく。
  明治憲法ができる時も、憲法をそろそろ作ろうという話になった時に、私儀憲法というものが民間で様々に提案されたではありませんか。採択されなかったけれども、国民の側の憲法の意識が十分高まることによって、政府が作る憲法もレベルが高くなっていったということがあるかと思います。ですから、これから民間でそういうものがいろいろ出てくれば、そういうものを作らないといけないという機運が、政府の側あるいは議会の側にも高まっていって、少し前向きになっていくのではないか。
  私が言いたいことは、こういう問題に取り組むのは、何かを我慢したり、今までより生活が苦しくなったり、産業が発展しなくなったりするというふうにネガディブにとらえるのは大変間違いで、資源が足りなくなったり、物の値段が高くなったりすることは、実は経済にとってはプラスでもマイナスでもないと、いうことです。そもそも少ない資源をどうやって有効に活用しようかということが経済の基本的役割ですから、エネルギーの価格が高くなったり、炭素の価格が高くなったりしても、それはチャレンジであるだけで、それに適応していくということは、簡単に言えば、ビジネスチャンスです。
  だから、早くこれに適応する、そういう潜在能力を持っている日本が早くこの問題に対応していくということが、日本人全てにとっての利益になるし、ひいては世界の利益になる。こういう認識に立てば、一刻も早くこれを何とかしなければと、政府も国民も思うと思うので、そういう認識が大事かなと思う次第です。
笹原((有)オイコス計画研究所) 今日は面白いお話を伺いました。非常に恥ずかしいんですけど、基本的な質問をさせていただきます。
  冒頭のところで、2段階あるとおっしゃって、1段階目が温暖化が起きているかどうかということが科学的になかなかうまく解明できないということ。
  2段階目に、それなら、温暖化していると仮定した場合に、それがCO2が原因であるということもなかなか難しい。これが話の前提で、問題はそうだとしても、いろいろお話があって、いかに社会的合意を作るのかというところが最大の問題だろうと思うんですね。
  科学的な問題もありますが、その中で日本国がどういうふうに合意をするんですか、世界はどうするんですか。第三国とどういう合意をするんですか、という合意形成がすごく重要なんだろうと思います。
  その時に一番わからないのが、温暖化した時に、何が悪いんですかということがこの議論の中で余り出てこない。海面が上がるとか雪が解けるとか、ゴアさんがやっているようなオドロオドロしたことしか出てこないで、肝心の本質論がどうも出てないんのではないか。そこが合意形成を作れない最大の理由ではないかなと思いますので、橋爪先生のご専門で、そこら辺を教えていただきたいと思います。
橋爪 幾つかご質問がありましたが、一番のポイントは、温暖化した場合どういうマイナスがあるかということですね。
  そこはIPPCの議論などでは、幾つかの部分に分かれているんですが、比較的手薄な部分かなと思います。スターンレポートはそういうことを積算しています。気候変動の問題から言うと、例えば3度とか4度上がった場合は、現在作って作物がその土地でできなくなります。
  例えば、ツンドラ地帯が暖かくなったとすると、そこでは従来農業ができなかったけれども、夏の日が照っている時は暖かいので、少し農業ができるようになるという面もあるのかもしれないけど、その代わりに、日本で作っている作物が、ハウスみたいにしてコントロールすれば別ですが、普通の路地でできるものはできなくなる。そうすると、3度上昇した場合、それに適応する人間の配置や農業の配置がありますから、ゼロからスタートするならいいんですが、現状から3度上がってしまうということにともなう社会的コストが高くなりすぎる。農業ができない。農業の産地や収穫量がガラッと変わってしまう。自給率が低くなる国がある。新しく適地になったからといって、そこに農民がいるわけではない。そういうことに対応しきれない。
  だから、まず食糧不足が起こります。それから、水資源の問題も起こります。海面上昇も起こります。また、失業などいろいろことが起こってまいります。予測しがたいいろいろな問題が起こります。そういうことをトータルで経済的価値に換算すると、全ての国において非常に大きな戦争によるダメージと同じぐらい、例えば第1次大戦、第2次大戦でヨーロッパが破壊されたのと同じか、それ以上の経済的損失になる。こういうふうに予測されていると思います。
  これを経済的価値に換算するのは簡単ではないと思うんですが、仮に換算してみると、GDPの数十%ということです。
阿部 今、環境会計というのがあるんですね。企業によっては、環境会計を取り入れて、環境にいいことをすると、メリットがあると言っています。今度、橋爪先生は炭素会計という言葉を言っています。環境会計と炭素会計はどういうふうに違うか。実際に、環境会計自体、企業はとても怖くて、先進的な会社はやっていますけど、やってないところも結構多い。炭素会計というと、もっと企業は、ビビるような感じです。その辺、環境会計と炭素会計の違いを教えて下さい。それが企業にとって炭素会計というのは非常に怖いものであって、特に建設業界なんかは、こういうふうになっていくと、利用者の人たちがどういうふうな反響を起こすか。利用者が実際に家に住むわけですね。建設業に与える炭素会計の影響を、先生は見ているか、2点お願いします。
橋爪 なかなかいいポイントをありがとうございました。
  環境に優しいとか何とかいうことで、そちらの方向に人々を誘導する場合に指標が必要です。例えば、エコマークみたいなものがあって、節電など消費に対する形容詞があります。節電ということで考えてみれば、例えば冷蔵庫が今までこれだけの消費電力があったのが、20%減るようになった、節電だ、環境に優しい。その通りです。
  でも、それは何に比べるかによる。本当はもっと減らせるのに、まだこれぐらいしか減ってないという意味だったら、それは環境に優しくないわけです。つまり、相対評価なんです。こういうものはとても怪しい。例えば、エコマーク、環境オフセットとかいろいろある。グリーン葉書というのがあって、料金の一部を植林なんかに使うことにするとか、そういうものはいくらでも考えられますが、だいたい怪しい。人びとを一番肝心である炭酸ガスの排出量を削減するという方向に本当に誘導するかどうかまったく保証がないんです。
  日本で、例えば牛乳パックや、レジ袋を節約しましょうという活動にみんなエネルギーを使っているけど、ほとんどナンセンスで、効果はゼロです。効果ゼロのものに人びとの注意を集中させるというのは、政治的に大変な犯罪ですね。
  それでは、何が一番信用できるか。そこで私が言ったのは、炭酸ガス重量主義です。何トンの炭酸ガスなの。これは嘘偽りのないところです。何トンの炭酸ガスというふうに対応がつかないような指標で人びとを誘導してはいけない、というのが私の提案です。
  建設業は、最初はビビるでしょう。でも、私は建設業に非常に有利な提案をしようと思っているんです。
  ご紹介すると、縦が公共輸送機関を使わないで、プライベートな交通手段を使う。つまり、自動車です。下に行けば行くほどバスや電車を使う。右が所得で、1人当たり5万ドル、4万ドル、3万ドル、2万ドル、1万ドル。左の方は第三世界ですね。世界中の都市をマップしてみるというグラフがここにあります。第三世界は左下隅に集中している。
  アメリカ型の都市というのはこういうふうになっていて、所得が伸びるとみんな自動車を買う。そして、ロサンゼルスやニューヨークというのはここら辺にある。資源をたくさん使うんですね。ヨーロッパ型の都市は、こんな形で公共交通機関に依存する。つまり、エネルギーを使う割合が比較的低くて、コンパクトなんです。それでもかなりエネルギーを使っている。
  このグラフを書いた人によると、理想曲線というのがあって、公共交通機関を使いながら所得が高い都市がその曲線にのっています。まさに、東京はそうなんです。東京の世界で一番誇るべきところ、大阪もそうですけれども、地下鉄や鉄道輸送が非常に整備されている。そういう交通インフラが非常にいい。その分だけエネルギー消費が少ないということです。
  東京の盲点は何かというと、低層住宅が多く、エネルギー効率が非常に悪い家が多い。これは全部建て直して集合住宅にしなければいけない。大阪もそうです。田舎で箱物を造っている場合ではないんです。東京、大阪の家を全部30年以内に建て替えるべきです。どれだけの建設需要になりますか。
  計画的に毎年幾つ建てていくかというふうに政府が決めるべきなんです。そのための、誘導する法制度は、土地の所有権を都市部で制限する。例えば、世田谷1丁目というのがあったとすると、そこの住民の60%が賛成した場合、残りの40%の意思のいかんにかかわらず、その土地を一括して集合住宅に建て替える。ヨーロッパでは当たり前の法律ですけれども、日本では、土地の私有権を憲法で保障してあることを誤解して、こういう立法をしようとしたことがない。
  北一輝という人がいます。「日本改造法案大綱」というものを書いています。北一輝の提案によると、都市の土地は全部地方自治体で所有する。東京都23区は東京市の所有にする。大変に画期的な提案です。「日本改造法案大綱」はのちにだいたい日本国憲法に活かされているんです。農地改革や財閥解体など、ほとんどそのアイデアは活かされているんですが、土地に関しては残念ながら、農地については実現されたんですが、都市部の土地については実現されてない。こういう法案をうまく作って、都市部の省エネ化を図ればこの東京はもっとアイデアルな世界の理想都市になります。
  こうやって、日本国内に新しい建設需要をたくさん作る。そのことによってエネルギーを節約するというアイデアがありうるんです。建設そのものにはエネルギーはかかりますが、建設した後のランニングコストでエネルギーを減らせばいい。そういうほうに、皆さんご専門でしょうから、ぜひ進んでいただければと思います。
與謝野 長時間にわたり橋爪先生、貴重な内容のご講演を頂きまして大変ありがとうございました。また、来場の皆さんにおかれましてもご熱心にお聞きいただき、さらに多くのご質問もいただきまして、ありがとうございました。
  今日は、地球温暖化問題を解決する上での基礎知識と、炭素会計という最新の知見等について、示唆深いお話を橋爪先生からいただきました。それでは、最後に橋爪先生に大きな拍手をお送りいただきたいと思います。(拍手)ありがとうございました。
  それでは、これにて本日のフォーラムは閉会とさせていただきます。                                   

 



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