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第13回NSRI都市・環境フォーラム

『2030年の東京(人口と土地・建物)』

講師:  伊藤 滋 氏   早稲田大学特命教授

PDFはこちら → 

日付:2009年1月22日(木)
場所:日中友好会館

                                                                            
1.人口(年少、中年、高齢、外国人)

2.土地利用(宅地、公共用地、その他)

3.建物床面積(住宅・非住宅)

4.容積率と1人当り床面積

5.従業者

6.ケーススタディ(中野区丸山、中央区日本橋堀留)

 

フリーディスカッション

 

與謝野 それでは本年最初のフォーラムを開催させていただきたいと存じます。
  年が改まりまして、本年もどうぞよろしく申し上げます。ことしも、充実した内容のフォーラムとすべく努めてまいりますので、引き続き皆様からのご支援を賜りたくよろしくお願い申し上げます。また、本日は、お足元の悪い中をこんなに大勢の方々においでいただきまして、まことにありがとうございます。高い席からではございますが、厚く御礼申し上げます。
  例年の恒例によりまして、年頭の1月は、早稲田大学特命教授の伊藤滋先生からのお話をお聞きいただくこととなっております。本日の演題は、ご案内のとおり「2030年の東京(人口と土地・建物)」と題されまして、数字と統計で見る東京の未来図についての誠に貴重な示唆深いお話をお聞きいただくこととなっております。
  伊藤先生のプロフィールはお手元のペーパー通りでございますので前置きのご紹介はここまでとさせて頂きまして、早速に伊藤先生からのご講演をお願いしたいと存じます。
  それでは皆様、伊藤滋先生を大きな拍手でお迎えください。(拍手)
  それでは、よろしくお願いいたします。

伊藤 9月にお話をしたので、半年経っていないため、準備が十分でなくて申しわけありません。
  今日お話しするのは、去年の8月に、僕がかかわっている財団でまとめた報告書「2030年の東京趨勢予測」についてです。2年ぐらいやったものです。
(図1)
  ここで何をやったか。今経済の調子が悪いんですが、去年、一昨年は経済が良くなって、上海が元気になった、ボンベイが調子がいいなどという声が聞こえていました。しかし、それに対して世の中では、東京はどうなんだ、東京、頑張れ、という声も聞こえていました。
  そういう状況を踏まえながら、海外の都市と競争した場合、東京にどれくらいのポテンシャルがあるかということを勉強しようということで、このスタディーを始めました。割合景気の良かった時の話なんです。
  ところが、この報告書を去年の8月に作ったところ、9月から調子が悪くなりました。ですから、今日ここでお話しするのは少しピンぼけかもしれませんが、景気循環で2年か3年でまた調子が上がりますから、3年後ぐらいから調子がよくなって、あと20年ぐらいその調子が続くとすればどうなんだろう。あんまり目先のことにくよくよしないで、20年先ぐらいを中期的に見たらどうなるか。こんなお話をするということになりました。
  皆さんとお話しをする時は、景気に敏感な話ですから相当深刻な話をしなければいけないのですが、ちょっと変わった話になると思います。
  早速いきましょう。

1.人口(年少、中年、高齢、外国人)

(図2)
  東京にこの4〜5年猛烈に人が集まってきています。その傾向を今から20年ぐらい前から毎年追っていきます。東京の23区での人口はどうなったかという話です。そうすると、ご存じの通り、2000年ぐらいのところでずっと下がってきました。800万人から800万人弱です。それからどういうことか、だんだん人口が増えてきまして、2007年には、870万人ぐらいになりました。こういう傾向をたどっております。2030年どうなるかと言うと、1995年ぐらいのデータを使っていますから、ある程度ずっと上がっていきます。
  2007年の865万人。約60万人増えて、920万人ぐらいが東京23区の2030年のおおよその人口です。60万人と言うと、7%ぐらいです。今2010年としますと、約20年先までに、7%ぐらい人口が増えていく。問題はその中身です。これは後で申し上げます。
(図3)
  1996年ぐらいに東京の人口が減っていたのは、当たり前の話ですが、転入より転出が多かった。埼玉に行ったり、東京都下に行ったりしていました。当時、埼玉、千葉、神奈川の23区に近いところの住宅供給は戸建てで質の良いのがたくさんできましたから、そこに移ったわけです。
  2000年になるとガラッと様子が変わりました。逆に、都下や埼玉から人が集まりはじめましたが、もっと重要なことは、43都道府県、日本中からも人がどんどん集まり始めたわけです。こういうことで逆転現象が起きました。
  トータルすると、2000年でわずかプラスになり、それからだんだんプラスが増えていくわけです。こっちが転入超過合計ですが、千葉あたりは、初めの1996年から2000年ぐらいまではかなり東京23区から外に出ていきましたけれども、逆にここから増え始めた。
(図4)
  これは経済学の先生方もよく言われていることですが、区部への転入超過の原因は何かというと、基本的に、一番大きく説明できそうなのは、賃金格差ではないか。賃金格差でいきますと、1996〜1997年は比較的格差が低かった。1.21とか22です。2000年もかなり低いです。ところが、2005年、2006年ぐらいになってきますと、賃金格差がかなり高くなってくるんです。それに引きずられて、若い人が多いと思いますが、だんだん転入超過数が多くなってきた。賃金格差の年度別のドットを作って、それに直線を当てはめると大体こんな線になりそうだ。賃金格差で、区部への転入超過をかなり説明できるのではないかということです。
  2005年、2006年は小泉政権のスタートの頃です。小泉政権のスタートは2004年でしたが、2005年、2006年で役所のいろいろな縛りを自由化しました。自由化して、それなりに儲ける人が出てきました。ライブドアなんかが象徴です。そういうことがあって、格差が高くなり、格差が高くなる中で成功した者の事例が増えてきますと、地方から「いっちょう行ってやろう」というのが東京へ来る。そういう話ではないかと思います。
(図5)
  これは有効求人倍率です。これの方が賃金格差よりずっと説明できますね。東京の有効求人倍率、1996年、1997年、1998年の辺は1より下です。98年、99年ぐらいから1より上回って、2006年辺が一番高いわけです。有効求人倍率1.5。賃金格差とかなり似ています。
  こんな経済的な要因で、東京23区の区部へ集まる連中が増えてきたのではないかという説明ができます。
(図6)
  もう1つ、これが大事なんですが、2030年に東京を元気づけさせる非常に重要な要素があります。ご存じの通り、23区は年寄りが増えますから、外国から若い人たちをかなり呼び寄せなければいけないわけです。ところが、現在のところ、外国人の登録人口は、2008年1月で32万4000人です。実際は、東京23区にはビザなしの外国人もたくさんいますので、本当は、50万人ぐらいいるんです。50万人を超えているかもしれません。しかし、登録人口だけを見ると32〜33万人です。あまり増えていない。しかし、2030年の東京を考えた時は、国際化した東京という中では、相当有能な若い人が外国から来るのではないか。その話は後でします。
  外国人は3.5%ぐらいでずっと来ているわけですが、これを相当上げていく。もっと外国人さん、来て下さいよという政策もとらなければならないということです。
  この報告書の第1章で記した趨勢予測だと、2030年の区部の外国人人口は45万人です。今が32万人だから13万人ぐらい増えます。これぐらいの調子で上がっていくだろう。
  私は、外国人はもう少し入れてもおかしくないのではないかなと思います。日本人との摩擦は増えますけれども、外国人を入れるのに一番抵抗力があるのは東京なんです。大阪は韓国の人が長いこといますから、韓国の人が増えるのはいいけれど、例えばフィリピン人やインド人が来て、コンピューター会社に勤めるとなると、実は受け入れられる場所、ジョブがあるところは東京しかないんです。日本政府全体の中で、外国人を受け入れる主力の場所は東京である、と積極的にやっていかなければいけないというのが僕の個人的な観測です。
  そうしますと、僕の読みでは、2030年の外国人人口は60万人、70万人になってもおかしくありません。都市人口に対する外国人人口の比率というのは、海外と比べても、もう少し増えてもおかしくないのではないかというデータです。
(図7)
  これが今言いました外国人割合です。ニューヨークは180万人もいる。シンガポールはもともと外国人の多いところです。割合を見ますと、ニューヨークが20%。パリは14%ですが、実は20%ぐらいいるんです。何故かと言うと、パリの場合、アルジェリアやモロッコからパリに来ているアフリカ北部系の人たちはフランス人になるんです。この人たちはフランス国籍だから、外国人ではない。パリの場合、この外国人割合というのは、インドから来た、ウクライナから来た、ロシアから来た、という人たちで、その人たちが14%ということですが、実態としてアフリカ北部のチュニジアやアルジェリアから来た人を含めると多分20%ぐらいになる。ベルリン53%です。これはトルコ人が多い。
  東京区部が3.7%です。ですから、僕の読みでは、14〜15%までいかなくても、10%近くまで上がってもいいのではないか。そうすると、外国人が80万人、90万人、そのくらいになります。一体どこに住むかなんていう話もありますが、これは後で区別のデータで少し類推できます。
  ソウルは1.5%しかないんです。香港が6%、東京が4%、ソウルが2%ですから、どうもアジア系はあまり入れてない。ですが、東京区部はソウルよりも先に、もう少し上がっていく政策をとってもいいのではないか。これは僕の好みです。
  統計的事実で言うと、4.5%弱ぐらい、つまり、現在の香港の水準と同じぐらいになるだろう。外国人の人口は大体45万ぐらい。今32万ですけれども、12〜13万人ぐらい増える。

2.土地利用(宅地、公共用地、その他)

(図8)
  もう1つ重要なのは、東京は豊かなのか、ということです。ここ2〜3年、僕たちがいつも言っていたことがあります。去年、一昨年、ヨーロッパ、アメリカに行くと、円がドルベースでも120円ぐらいになったことがあります。ユーロベースだと150円ベースだった。だから、海外に出張してロンドンでいい加減な食事をしたってすぐ1万円取られる。嘆きました。ニューヨークでも7000円ぐらい。旅館なんて、そんなに立派な旅館でなくても1泊5万円ぐらい取られて嘆いていました。
  実は、この10年間、日本はバブル崩壊の後、経済成長率が0.5%からせいぜい1%ぐらいでずっと来たわけです。その間にアメリカやヨーロッパは2%ぐらいの経済成長率ですから、10年間で積み上げていくと、確実に円価は、対ドル、対ユーロで安くなっていきます。そのおかけで、日本の製造業は得をしました。逆に言うと、日本の製造業が円安で得をしても、日本の人たちが外国に行って滞在して、それ相応の生活体験をした時、生活実感として、日本と同じ値段を払うと日本の国内のサービス水準に比べて非常に質の悪いものしか得ることができないというのは屈辱的ですね。
  経済学者はいろいろなことをいっていますけど、僕は、日本円というのはしかるべき強さを持って、それに日本の経済体質を合わせていく、本来の世界を引っ張る国ではないかと思っているんです。
  これは2005年の都市圏のGDPのデータです。ニューヨークもニューヨークシティーだけではなくて、ニューヨークの周りのニュージャージーやコネティカットも入っています。ニューヨークから半径50キロぐらいの円の中のGDPです。ロンドンもそうです。半径50キロ。シカゴは30キロぐらい。ロサンゼルスは50キロ。パリは30キロぐらい。こういう円で、ニューヨーク中心、シカゴ中心、周りの都市圏も集めた地域の中の1人当たりの国内総生産、GDPはどうかという図です。
  東京圏はおおむね国勢調査の関東大都市圏の範囲です。国勢調査の関東大都市圏というのは大体南関東です。半径50キロぐらい。そこを対象にしている。2005年には、日本は香港より低い。3.38万ドルぐらい。香港は、3.47万ドルです。次は大阪は3.02万ドルで、日本全体は3を切って2.94万ドル。こういう状況に来てしまっています。
  1995年ぐらいは、1人当たりGDPのランクづけは、日本や東京は、ロンドン、シカゴぐらいのところに来ていました。それがバブル崩壊の低成長の中でどんどん下がって、こんなところまで来てしまったんです。
  しかし、南関東全体では3.38ですが、僕のつき合っている財団で推計してもらいましたら、東京区部、23区をとれば7万ドルです。東京首都圏に対して、東京区部は倍ぐらいの1人当たりGDPを稼いでいるんですね。
  もちろんニューヨークも、ニューヨーク市だけの1人当たりGDPをとれば、50キロ圏の1.5倍、9万ドルぐらいあるかもしれません。ロンドンの都心地域には32のバラ(特別区)があります。そこだけをとれば、やはり1.5倍の7.何万ドルです。
  いずれにせよ、都市圏の中で、東京は7万ドルのGDPぐらいがある。だから、言ってみますと、東京の集積はべらぼうに高いんです。東京と千葉を比べると、千葉はまるで田舎っぺです。八王子も田舎っぺなんです。東京23区だけが国際的なデータの比較に一応入るような数値を持っている。しかし、そういう田舎っぺも入れると、東京は2005年で3.4万ドルぐらいになってしまう。
  ついでにいうと、ソウルはもう2.3万ドルぐらいまで来ていますから、ウカウカしていますと、都市圏ベースでは、東京はもうあと5〜6年でソウルと同じぐらいになってしまうかもしれません。
  「おらが国日本」を胸を張って威張れる時に、あまり胸を張れるデータではないんです。だけど、これのために日本の製造業はべらぼうにドルを稼いだ。ようやく小泉政権の時に日本の経済が製造業を主体にして上がってきた。
(図9)
  次は、東京どうなるんだということです。後でグラフが出てきますけれども、2030年には、先程言いましたように、人口は60万人増えます。7.1%増で920万人です。しかし、ピークは統計的には2025年なんです。2030年には東京の人口は数千人ですけど減少に入ります。
  このデータの前に言いたいことがあります。これは、去年の10月に日本不動産研究所が出した報告書です。ご存じの方もおられるかと思います。日本不動産研究所が、全国の事務所ビルの建設量と東京23区の事務所ビルの建設量の集計をしました。ちょうど1年前ですが、その結果どういうことがわかったか。
  2007年12月現在で、日本の全都市で造ったオフィスビルは100万ヘクタール。そのうちのストックで言うと57%、約6割弱は東京区部に集まっている。残りの43%の中に横浜市も入る、千葉も入る、大阪も入る、神戸も入る。凄いことになっている。東京23区に日本全国のオフィスビルの半分以上が集まってしまった。もっと凄いのは、最近3年間で造ったオフィスビルの76%、4分の3は、東京区部に集まっている。一極集中を起こしているわけです。
  これだけの一極集中になってきますと、東京から人口分散、機能分散が起こると日本を壊してしまう。壊すというのはどういうことかというと、国際経済の競争力を自らなくしてしまう。そういう国に日本はなってしまったということです。
  だから、東京対大阪で、東京のオフィスビル建設量が100あって、それに比べて大阪が30だからそれを50にしろということ自体が、無理な話で、そういうふうにしろという願望と実態とはますますかけ離れていくということです。
  話をもう少し僕なりに進めると、僕も付き合ったのですが、大阪の北ヤードの開発計画というのは今から10年ぐらい前から始まりました。北ヤードとは大阪駅の北側で、JR西日本が自分のビルを建てて、ようやく売りに出しました。2ヘクタールか3ヘクタールです。もちろんビックカメラなんかが入りました。ですが、その後ろに、まだ、オフィスビルにしなければいけない部分がかなり残っているんです。しかし、そこにオフィスビルを埋めていく努力をする前に、多分企業の流れは東京に向いて行くでしょう。例えば田町の駅裏の東京ガスのところで三井不動産さんとか地所さんが何かやっていますが、そういうところにビルを建てる方がずっと早い。客がさっと埋まる。過去3年間に東京区部で造ったビルの割合が76%ということは、つまり、そういうことなんです。
  東京しか世界で戦える場所はない、というふうに我々はしてしまったんです。ですから、東京23区でどういう動きが出るかというのは物凄く大事なんです。であるが故に、外国人も思い切って入れなければいけないという話がつながってくるわけです。
  問題は、人口が60万人増えるけど、その内容はどうかという話です。2005年の人口密度は区部平均で140人ですが、2030年区部平均で150人になります。しかし、人口密度から言いますと、例えば新宿とか渋谷、目黒、品川も増えていますが、それ以上に、僕たちがあんまり考えてもいなかったような荒川と墨田、中央、台東、文京に人口が集まってきます。
  結局これは何か。増加率が高い区は都心3区と江東、文京です。
  逆に減少する区が出てきます。これは北部の足立、練馬、板橋、北、西部の杉並。
  これは5〜6年前から言っている都心への人口回帰現象です。人口回帰現象がとことん30年続くとどういうことになるかということです。
(図10)
  2030年には、総人口922万人です。現在2005年861万ですから、人口の増え方はこういう形でふえていくだろうという想定値です。2025年に923万人でピークを迎え、2030年に920万ということになります。
(図11)
  総人口の増え方だけではなくて、少し分類して考えます。2030年には、外国人人口45万人。もう少し増やしたいんですが、想定では現在の32万人から45万人に増える。総人口に占める割合は5%です。現在どの辺に住んでいるか。2005年には、ご存じの通り、港区に白い連中が増える。金持ちです。新宿区の港区に接したところは白い連中ですが、真ん中から上は韓国系、中国系が多い。豊島区はベトナム系が多い。台東はインド系とか韓国系が多い。荒川区はあらゆる人。貧乏人が北に来ていて、金持ちは渋谷や港区辺りに溜まっている。
  これが2030年になりますと、住む場所はもっと広がるんです。金持ちはますます港区に集まります。新宿区も南半分のところは割合いい場所がありますから、そこに金持ちが集まってくるけれど、片方で、韓国、中国系が物凄い勢いで集まってきます。皆さんご存じのように新大久保などの、あの一帯にダァーッと集まってくるわけです。豊島区も新宿区に引っ張られて、豊島区の外国人は新宿区に移ってくる。荒川区は貧乏人に暮らしやすい区です。僕もしばらくあそこに行っていましたが、暮らしやすい。人づき合いはいいし、本当にいい区なんです。だから、外人さんもそこに感づいて荒川区に猛烈に集まります。台東区辺りです。千代田区は金持ちですね。その他にパラパラと東側に外国人が増えてくる。
  皆様の大好きな大田区、世田谷区、杉並区は相変わらず外人さんを入れません。入れたくない。ここへ大部分の大企業の幹部の皆様方はお住まいです。ここは入れて欲しくないと思っているので、入らないんです。
(図12)
  問題は子どもです。25年前の1980年は、23区全部真っ赤っか、つまり、どの区も子供がたくさんいたんです。各区の構成比が12%以上、非常に健全でした。いつも子どもは2人ないし3人産んでいる。核家族がどんどん増えているところの15歳未満の子どもの比率は12%から13〜14%。ずっと真っ赤っかだった。
  それが2005年になったら、増加率が減り始めました。2030年になると、子どもの数の実数が減ります。まず10万人減少して83万人になる。構成比が11%から9%になる。1985年は構成比が13%ぐらいあった。それが2005年に2%ぐらい減って10.8%になって、それが9%になって10万人減りました。
  2030年に子どもの人口の構成比が高い区は都心3区と東部3区。江東と江戸川と葛飾です。2005年の大田、世田谷、練馬と似たようになるのが、東側の江東、江戸川、葛飾ということです。こちらの方に健全な核家族がどんどん生まれる。都心3区はアパート効果、マンション効果で老いも若きも全部集まってきます。
  子ども人口の減る区。これが非常に面白い。23区のうち子どもの人口が増える区が9つで、減るのが14です。これが2030年の現実の姿です。例えば練馬区は2005年には、健全で12〜13%あった、これが7.5%に物凄い勢いで減りました。これは急速に子どもがいなくなったということで、子どもの増を赤、減を青で書くと、この辺は真っ青なんです。
  子どもの数が増えているところは、千代田区、中央区、港区、新宿区、文京区、台東区、墨田区、江東区、品川区です。あとは全部減る。江戸川区は増えます。これが現実の姿です。
(図13)
  生産年齢人口は、余り変わりません。人口構成比も70から66で、微増です。2.2万人増です。
(図14)
  次に、老齢人口です。65歳以上。これがどこで増えるか。2005年は老齢人口は23区で大体同じぐらいで、構成比が15%から20%ぐらいだったんですが、これが2030年になりますと、練馬、杉並、中野、渋谷、目黒、北、年寄りが猛烈な勢いで増えます。台東区も年寄りが増えますが、ここは年寄りも増えるし、子どもも増える。台東区の人口の伸び方は非常に大きいですから、年寄りも子どもも増えるので、昔の下町のようなにぎやかな雰囲気になるんです。
  年寄りにとって一番暮らしやすい区を、アンケートではなく、客観的データで調べました。例えば銭湯の数やお年寄りの仲よしクラブの数、お医者さんの数、現実にお年寄り、それも金持ちだけでなく貧乏人まで対象にして調べました。年寄りが住んで、友達も作れるし、お医者さんにも行けるし、安く生活できるのは台東区なんです。
  年寄りが「こんなはずじゃなかった」って、一番がっくりするのが練馬区です。基本的に何かと言うと、練馬区はお医者さんの数が少なくて交通機関が不便です。年寄りにとっては、医者に行くのに時間がかかって歩くのが大変だというのが一番こたえる。緑が多くて戸建て住宅で景色がいいというのは、年寄りにとっては、いいかもしれないけど、一番必要な、医者に行って安く食い物が買えて、車に乗らないでいろいろなところに行けるということで、そうなると練馬区は失格なんです。
  ですから、年寄りが一番暮らしにくい場所はどこですかと言うと、23区では練馬区が最悪で、一番暮らしやすいのが台東区です。だから、台東区は年寄りも増えるし、子どもも増える。働く人も増える。
  それに程度の差はありますが、江戸川区も似ているんです。
(図15)
  江戸川区は、子どもも増えるし、年寄りも増える。先程言った台東区と少し似ているんです。
  こういうことをやっているうちに、23区の顔だちや行儀作法のいいところ、悪いところがわかってくる。
  少し語弊があるんですが、23区の中で、ああいうところは一番住みたくないなというのは中野区なんです。というのは、墨田区は人のつながりがある。いろいろ物理的条件は中野区より悪くても、下町の墨田区や荒川区だと、人のつながりがあって、ソフトなサポートをする力がある。でも、中野区は違う。
  23区の山の手の地域で僕がいつも関心があるのは、中野区と目黒区なんです。対照的なんです。目黒区は中産階級、大企業の重役さんクラスが昔から住んでいるんです。ところが、中野区は主として学生下宿が多い。中央線の東中野、中野。僕のいる早稲田大学の新入生なんか、中野区が家賃が一番安いので住んでいます。中野区の地主から見れば、例え木賃アパートでも、長く使えて、新しい設備投資をしないで、コンスタントに家賃が入るということで、大学生に貸すのが一番良いんです。4年経つと替わる。そうすると、また敷金、礼金が入る。大学ですから、大体申し伝えがあります。学校の斡旋係だって現場を知らないで、ずっと4年生がいたからそこへ入れと言うでしょう。
  中野区は学生が多い。それからひとり者のお兄ちゃん。居住環境なんか全く気にしない。ですから、そこに土地を持っているじいさん、ばあさんは黙っていてもお金が入り、意外とキャッシュフロー、毎年の家賃収入が多い。
  それに比べて、カッコいい杉並なんかに行きますと、学生は高いので来ない。おまけに、杉並なんかは夫婦で入るので、途端にマンションを選びます。だから、空き室率が高くなる。敷地100坪単位で家賃が幾ら上がるかというと、杉並の地主よりも中野の地主の方が多いんです。人は見かけによらぬもの、中野を馬鹿にしているけど、実はそこの地つきの地主はほくそ笑んでいる。そういう話がこういうことを調べているとだんだんわかってくるんです。
  品のいいここのところに比べて中野は駄目だ、そんなこと言って調べると、中野の方がずっと年間の収入の流れが多いぞなんていうことがわかってくる。65歳以上になると中野の方がずっと得で、目黒区はサラリーマンが多く重役を辞めて行くところがないですから、年金だけで困ってしまいます。ちょっと雑談です。
  江戸川区が面白いのは、長い区だということです。地震なんかでも調べたんですけど、トラブルが多いのは小岩の周辺。小岩の周辺はひどいんですよ。葛飾区の上とつながってここは本当にひどい。すぐ燃えてつぶれるような家ばかりある。新小岩に比べてもひどいんです。ですが、これから南に行きますと、江戸川区は昔から耕地整理だけでなくて、100坪か200坪の田んぼに土を埋めて30坪ぐらいの建て売り住宅5〜6軒造るというのがよくありました。有名な話です。そういうのが江戸川でも葛飾でも足立でも起きたんですが、江戸川の場合、建て売り住宅の真ん中に突っ込む道路を6メートルにしたんです。
  ところが、小さいところに建て売りを造った世田谷区や杉並区は、道路が4メートルなんです。江戸川区に行くと6メートル。葛飾も6メートル。6メートルの突っ込み道路のある建て売りと4メートルの突っ込み道路のある建て売りでは、全然その後の町の雰囲気が違う。
  良くわかったのは、6メートルになりますと、4メートルに比べて、建て売りの外側の維持管理を一生懸命するようになります。建物が建って、6メートルの道路との間に50センチか30センチのちょっとした外側の敷地ができて、普通、砂利か何かするんです。そこに江戸川や葛飾に行くときれいな花が植えてある。木はさすがに育ちませんが、花を植える。維持管理がきれい。
  江戸川にお住まいの方おられますか。僕は褒めているんです。何を言いたいかというと、江戸川南部は世田谷的な雰囲気の住宅地が増えてきた。葛飾も北側の水元公園の方に行くと、6メートル突っ込みで、意外と、昔の杉並や世田谷にあったような郊外地になっている。
  地形条件は違いますが、この辺りの市街地像としては、江東区や荒川区のイメージとは全然違う住宅地が形成されています。そこは若くて、結婚して子どもをつくって、比較的所得は少ないけれど、そういう家族が敷地30坪ぐらいで、27〜28坪の家を例えば3000万とか4000万で買う、そういうところがたくさんあるんです。
  そういうことで、江戸川区をこちらの偏見で見誤るな。江戸川辺りは職業もまた違うんです。この辺の人たちの職業は、例えば金属加工業とか広告をとりに行く仕事だったり、みんな仕事が都心ではない。ローカルで、せいぜい江東、墨田。この辺りでビジネスをしているような、要するに通勤トリップが短い人たちです。そこが特徴です。
  これはお暇な方は是非ご覧になったらいい。僕は江東を何回か歩きましたし、葛飾もこの辺はよく知っています。水元公園の辺を歩きました。足立はまずいです。何でまずいかというと、中途半端に、公園に行くモノレールを造ってしまった。それで、交通の便がよ過ぎたから、そのそばにマンションが建ってしまった。
  足立は昔から区画整理をよくやっていたんです。足立に行くと幅員8メートルから11メートルの道路が縦横無尽に走っている。そこに例のモノレールができるとマンション屋にとっては、ちょうどいい手頃なマンションをバカバカ造る場所になってしまう。
  マンションを造ると町は荒れますね。特にこういう平場は駄目です。江戸川はマンションもあるけど戸建てが多い。割合新しい戸建てが多い。3階建てがたくさんあるんですが、突っ込み6メートルだと3階建てもそんなにひどくないんですよ。日照条件や隣地に対する近接性など、割と問題がない。足立は荒れてしまいました。江戸川は荒れそうで荒れなかった。葛飾は不思議なところで、今日はデータに出てないんですが、おもちゃ工場のような工場が多いところです。例えば京成立石のところなんかは、ごちゃごちゃの過密住居ですね。工場の多い区は、大体相場が決まっていまして、葛飾と北区と板橋の一部と墨田、大田です。
  2030年になった時に、専用工場がそれぞれの区でどれくらいになるかとデータを調べますと、葛飾はゼロになる。北区と大田区はしぶとく工場が残るんです。糀谷の工場と北区から板橋区にかけての何とか坂のところに出版屋さんやカメラメーカーがありますね。その辺りは、カメラや製紙業といった付加価値の高い近代型の工場です。ところが、葛飾はおもちゃですから、簡単につぶされてしまう。2030年に葛飾は工場がゼロになってなくなる。ここは庶民型住宅地に変身するわけです。これからたどり着く運命は中野区と似ている。そういうふうになりそうです。
  アナロジーでいうと、葛飾が中野と思いなさい。江戸川は質の悪い世田谷になりそうです。(笑)足立は板橋と練馬を足して2で割ったようなもの。区のキャラクターというのがこういう作業をやっていると出てきまして、自ら楽しみました。

 

3.建物床面積(住宅・非住宅)

(図16)
  さて、問題は建物です。建物は一体どうなるか。
(図17)
  まずは、床面積です。これはどういうことかというと、23区で2005年から2030年の間に建物の床面積は6万565から7万8000ヘクタールに増える。約29%増加しますから、毎年1.1〜1.3%ずつ建物は増加していくということになります。
  しかし、そこにある程度ウエイトづけがありまず。住宅は32%増えて、非住宅、つまり事務所とか学校、映画館、倉庫は24%増えます。やはり住宅が強烈に増える。
  次に集合住宅と事務所の建物床面積は大きく増加するけれども、片方で独立住宅は建物床面積は減ります。独立住宅は建て替えると1戸1戸の建物の規模は大きくなりますので、床面積は増加します。建物床面積の増加面積が大きい順だと、集合住宅は53%と、物凄く増えます。事務所も約50%。これも増えます。
  しかし、集合住宅は1万ヘクタール増ですが、事務所は4500ヘクタールです。つまり、集合住宅は倍以上増えます。それに比べて独立住宅は411ヘクタール。本当にわずかしか増えない。
  倉庫・運輸は意外と減りません。統計をとっていきますと、少しずつ増えているんです。これは考えると当たり前で、皆さんの生活が複雑になっていけばいくほど、宅急便のクロネコヤマトとか生鮮食料品の冷凍倉庫が増えてきますから、倉庫の内容が多様化して、おまけに冷凍倉庫は付加価値の高いものを入れますから技術的性能が上がります。倉庫というのは一種の製造業的な装置産業です。倉庫は減らないんです。
  これが概論です。

4.容積率と1人当り床面積

(図17)
  集合住宅は先程言ったように、1万ヘクタールぐらい増えますから、2005年から30年の25年間の中で一番建物の変化を支配するのが集合住宅の増え方です。
  どういうところで増えているかというと、先程と少し似ていますが、江東区、これは明確に増えます。先程言った江戸川区も、面積が大きいですから、戸建ても増える一方で、集合住宅も増えていく。墨田区は、工場用地がどんどん集合住宅に転換していきます。工業用地や商業用地で小ぶりのマンションをつくるのに非常にいいところがありますから、ここは増えます。荒川区は、小さいんですけど、何でも増えるところです。戸建ては少ないけど、商業も集合住宅も増える。ですから、密度は少しずつ上がっていきます。
  もう1つは、北区も増えます。北区というのは非常にデリケートな区で、工場も残るし、倉庫も増える。北区は隅田川筋と台地と一緒になっている区なんですが、北区は台地が少ない。JR東日本の田端の操車場に代表されるように、昔の田んぼだったところを埋めて、車両基地にしたり、倉庫にしたり、製紙工場にしたところが北区は多いんです。そうしますと、北区で集合住宅が増えというのは割合質の良くない集合住宅です。これが増えてくるということです。荒川も同じです。思い切って言うと、貧乏人の集合住宅が増えるのが北区と荒川区と中野区。江東区の集合住宅は埋立地にできますから、意外と金持ち用です。
  中野区も集合住宅が増えるんです。これも質の悪い集合住宅です。学生アパートが集合住宅になる。
  こういうふうにずっと話していくとそれぞれの区の性格というのが何となく皆さんおわかりになってくると思う。
  文京区というのはなかなかの優等生です。人口もそれほど減りません。集合住宅はほどほどに増えるけど、教育文化施設も増えます。教育文化と宿泊、スポーツ系も増えます。人口はそれほど減らない。子どもはほどほどに増える。ただし、金持ちだけが住むんです。あれさえなければ文京区は物凄くいいと思うのは、東京大学です。あれがないと文京区はもっと魅力ある区になる。ですが、片方で東大は植物園を持っていますから、あれで文京区のイメージはずっと良くなっているんです。後楽園も文京区です。護国寺からの護国寺通りの両側なんかは、10年ぐらい前からビシッとマンション街になりましたね。あれは割合質の良いマンションです。ですから、文京区というのは意外と住む場所にいいところで浮き上がってくる。
(図18)
  次は独立住宅です。独立住宅はどこに残るか。構成比で言うと、2005年には独立住宅の住宅床が、全建物床のうちの20.4%でしたが、集合住宅が増えて、2030年には16%に減ります。どこで減るかというと、今言ったように都心部は殆ど0%になります。ところが、文京区はしぶとく独立住宅を10%残しています。東大の前の西片町なんて、簡単にマンションにはならないです。ああいうところは質の良い独立住宅で残ります。
  これは相対的ですけど、独立住宅で頑張れる区は練馬区と杉並区と世田谷区です。ここは大体30%以上。大田区は少し減ります。23%。葛飾区は少し独立住宅が減りますが、やはり住宅地化する。葛飾区は今まで工業と商業と住居の3つがごちゃごちゃに集まっていたところでが、工場がなくなって商業機能も整理されて外にいきますと、純住宅区的性格になるんです。
  こういうことで中心部は独立住宅は全くなくなって、外側で頑張っているのは御三家、練馬と杉並と世田谷。これが独立住宅の御三家です。
(図19)
  事務所で言いますと、現状と余り変わらないんです。しかし、注目していただきたいのは、品川区の事務所床の構成比が2005年では品川区の全床面積の17%だったんですが、24%に上がります。約7%増です。目黒区も少し上がりますが、品川区の事務所床の伸びというのは注目するべきところです。文京区も16%から19%に増えるけど、3%しか上がりません。台東区は、先程言った不思議な区で、事務所も来るし、商業も来るし、住宅も来る。そういうところですから、30%に上がります。
  何を言っているかと言いますと、ここからは解釈なんですが、2030年に東京を支えることになる一極集中型のビジネス、研究開発、国際交流機能はどういう方向に行くかいうことです。何となく事務所の品川区の24%を見ると、国際競争に耐え得るような機能は南側に下がっていくのではないか。そういう方向が暗示されています。
  エンターテインメント系では台東区がもう少し北側に行きます。ですから、北に商業・業務機能が全然伸びないかというとそうではない。台東区はまだ北へ行く余地を残している。そういう点では秋葉原の新しいITの産業の集積も、あそこでストップかと言うと、台東区が伸びていきますから、もしかすると秋葉原から北へ、浅草の方へ少しオフィスビルが伸びていくかもしれません。
  しかし、一番はっきりするのは、品川から大田区にかけて事務所機能がこれから伸びていくということです。東京の都心は南下する、そういうことが言えそうだということです。
(図20)
  専用商業。これは面積的には余り変わらないからいいでしょう。
(図21)
  1人当たり床面積は、減るところと増えるところとあります。都心のマンション地域はずっと減っていきます。2005年から2030年の1人当たり住宅面積は、増加率では都心は5〜6%減っていきますけど、意外と今まで貧乏人がたくさんいたような足立区は思い切って1人当たりの面積が増えていきます。
  区部の居住者1人当たりの住宅床面積は、現在42平米です。これが51平米、約10平米増えます。これは世帯規模が小さくなるからです。じいさん、ばあさんが2人でいたところが、じいさんが死んだら、おばあさんが1人ですから、途端に倍になります。そういう傾向はかなりここに入っています。新しく規模の大きい建物がたくさん造られるということだけはない。居住者1人当たり住宅面積が大きく増加する区、板橋、豊島、足立、練馬。練馬、板橋、この辺は高齢者のどちらかが死んで増えるというのが大きい。
  逆に減る区はマンションが多くなってくる。居住者1人当たり床面積が減る区は6区。マンションができることで減るというのが中央、千代田、港、新宿、江東、台東。

5.従業者

(図22)
  次は、2005年から2030年に、従業者どこで増えてどこで減るかです。仕事場のことです。仕事場がどこでふえてどこで減るか。これを先程の人口とは別に調査していきますと、先程僕は元気な子どもが江戸川区辺りでは増えるぞと割合褒めたんですが、ここは仕事場は減るんです。全面的に減る。ということは、何が起きるかというと、住宅地としての性格をますます強めるということです。就業機会は皮肉なことに西側で増えるんです。
  従業者数増加率が世田谷、杉並、練馬で1割、10%〜12%増えている。中野でも増えている。これは何かと私、考えたんですが、高齢者が増える。つまり、介護系です。介護系のジョブが世田谷、杉並、練馬、中野で急速に増えるだろう。高齢者がべらぼうに増えるところです。ですから、ここの従業者というのは、区役所の職員が増えるとか、どこかのコンピューター会社が杉並に立地してそこの従業員が増えるというものではありません。
  逆に、もしかすると、介護系の影響力が非常に大きいとすれば、子どもが増えていく江東や江戸川は相対的にそういうジョブが少ないですから、減っていく。何が起きるかというと、今まで江東や江戸川の東側の人たちは職人的ですからトリップが短かった。しかし、2030年になるとここから西側の介護系への労働提供という形でトリップが長くなる。こういう東京の変化が起きてくるのではないかということです。
  もっと皮肉を言うと、山の手のサラリーマン社会は最後は川東の生産年齢人口におんぶに抱っこで養われる。そういう表現もできる。僕は杉並なので深刻なんです。僕の末路は気がついたら葛飾区の元気なおばあちゃんに毎日面倒を見てもらって老人ホームで生きている。そういうふうになるかもしれない。

6.ケーススタディ(中野区丸山、中央区日本橋堀留)

(図23)
  僕たちはもう1つ、ケーススタディを8カ所ぐらいやりました。それぞれの町について、2005年の床面積、利用容積、建物棟数、住んでいる人、その人たちがどれぐらい入れかわっているか、細かく調べて、それをもとに、2030年の変わり方を想定しました。
  その時に気がついたことがあります。典型的な中野や杉並や練馬、世田谷の典型的な戸建て住宅地の建物更新率は2%未満です。
  ところが、中央区の日本橋堀留。これは八丁堀の近くで、オフィスと商店街がごちゃごちゃと詰まっているところですが、ここの建物の宅地更新率は大体2.7%です。2%を超えます。神田の多町。神田駅の西側も大体2.7%ぐらいです。あそこもごちゃごちゃと小さいビルがたくさんあります。ここもどんどん変わっています。建物の更新率が一番高かったのが江東区の東砂で4%です。ここは駅から少し離れて町工場がたくさんあるところです。倉庫もあります。
  つまり、杉並、世田谷のような皆さん常識的に住宅地と考えているところの建物更新は大体1.8から2%ぐらい。マンション屋さんがガンづけをしているような神田多町や堀留と言ったところは3%。東砂のように駅から離れて不便で、工場もあって、それをどうにか転用しなければいけないというところは、多分建て売りが入ってくると思うんですが4%なんです。
  足していろいろサンプルすると、年間3%ぐらいで東京23区の建物は更新しているかなというのが何となくわかる。
  しかし、杉並の住宅地や中野の良い住宅地を調べていきますと、建物更新は2%を切り始めているんですね。1.7%〜1.6%などです。これからは杉並、中野の住宅地だけではなくて、堀留でもマンションになりますし、建て売りも実は性能のいい建て売りが増えている。防火性能もよく、一度建てると50〜60年は十分持ちますから、建物更新率は、2030年の頃には、東京は4%や3%がなくなって、2%前後になってくる。そういう市街地になっていくのではないか。
  変な話ですけど、建築基準法を少しずつ改正していく結果として、新耐震も入りますし、防火造や準耐火造なんていうものが、防火地域、準防火地域のところで入りました。だんだん建物の質がよくなっています。
  相当乱暴な話ですが、実は、東京2030年には、1つ重要な話があります。たまたま2030年にしたんですが、2030年までに、東京湾北部のマグニチュード7.2の地震が、70%の確率で起きる、と言われているんです。25年先の東京像を考える時に、地震のことを考えないでいいのかという話があるんですが、僕たちが調査したのは地震に関係なく調査しました。地震が起きるということは想定しないで2030年を作っています。
  一方で、2030年までに一度東京湾北部の地震が必ず起きるとした時に、ご案内のように、木密の地域がやられるだろうという話があります。大きな役所の報告書は、木造密集地域の戸建て住宅の防火性能は、どうも昭和の40年、50年ぐらいの個別の建物の性能を前提にしながら延焼の可能性を計算しているのではないかと思うんです。
  それに比べて、現場、例えば葛飾でも江戸川でも練馬でも僕が歩きますと、建て売り、建て売りと馬鹿にするなと言いたくなります。建て売り屋も相当いじめに遭っていますから、サイディングはかなりレベルが上がっています。問題は窓なんです。窓以外ですが、サイディングの防火壁の性能が上がっているとすれば、そう簡単に燃えないのではないか。
  そうすると、その次の結論は、燃えないとなれば、一番札つきに燃えるのは中野区なんです。その次に目黒区が結構燃えるんです。品川区もかなり燃える。札つき御三家は品川、目黒、中野なんです。今から20年ぐらい前は木密地域の年の建物更新率は4%ぐらいでした。ですから、そこにかなり新しい建物が建て替わって生まれてきています。サイディングはかなりいいでしょう。こういうところの耐火による延焼の危険性は相当下がっているのではないかと思うんです。
  僕は、「新都市」の9月号にそれを書きました。問題提起です。「新都市」というのは本来都市局の技術系の役人連中が全部読まなければいけないんだけれども、1つも僕のところにそれを読んだという報告もメッセージもないので、読んでいないのではないかと思う。是非読んでもらいたいです。
  問題提起です。木造密集地域の延焼危険性は下がったんのではないか。それでは、次に何が大事かというと、延焼より倒壊です。倒壊については食いとめようがない。倒壊は食いとめられない。問題の原点に戻ると、倒壊の一番深刻なのが荒川区、台東区、墨田区なんです。完璧にまとめられる。
  ですから、これは統計的事実の整理だけなんですけれども、2030年の東京を議論する時に、地震問題、耐震・火災問題も入れて議論するすれば、やはり都市政策的には荒川、台東、墨田地域の建物の不燃化ということが極めて重要になってくる。
  以上でございますが、ついでにもう少しいきましょう。
  ケーススタディで中野区丸山の更新率は1.96%で2%以下です。
(図24)
  幡ヶ谷2%。幡ヶ谷は一番燃えやすいといわれているところです。
(図25)
  堀留2.7%。
(図26)
  多町2.7%。
(図27)
  先ほどお年寄りの暮らしやすい場所はどこかという話をしました。これも僕たちまじめに調査しました。23区比較ですが、詳しくは次の時にやります。
(図28)
  これは、23区の高齢化速度です。練馬、板橋が、早いですね。次にやや早いのが、大田、杉並、足立。遅いのは町の真ん中。これは若者が入ってくるからです。
(図29)
  これは高齢者の健康状態についてです。高齢者の特徴で、元気な高齢者が多い区は、江戸川、葛飾、江東、墨田、町の東側です。元気な高齢者が少ないのは千代田、新宿、渋谷。これは常識的にわかりますよね。
(図30)
  各区の暮らしやすさの評価をどういうふうにしたかということですが、ここには7項目しか紹介していませんが、年寄りに対して暮らしやすいか暮らしにくいかを8項目で評価しました。
  1番目は、身の回りの安全さ、安心度の高さ。
  2番目は、お医者さんに行けるかどうか。利便性。
  3番目は、生活費が安いかどうか。
  4番目は、自分で体を動かす、そういう場所がいっぱいあるかどうか。
  5番目は、おしゃべりできるところがあるか。
  6番目は、周りの人が年寄りの面倒を見てくれるかどうか。
  最後は、町としてここにいてよかったかどうか。
  それぞれのデータとして使用したのは、1番目なら、犯罪にかかわりますから、ひったくり発生密度。ひったくりが多いか少ないか。それから、防犯ボランティアが多いか少ないか。今度は逆にハードだったら、地震の時に倒れるか倒れないか。
  2番目の利便性は、お医者さんに行く距離が短い。バスに乗りやすい。スーパーとかコンビニに行く距離が短いなどで、評価しました。
  3番目の生活費は、物価、家賃。固定資産税、税金。これが高いか安いか。
  4番目の体を動かすというと、ゴルフ練習場なんて要らないんですが、プールですね。これは公共が多いんです。フィットネス。スーパー銭湯。これがあるかどうか。
  5番目ですが、年寄りもデートしますから、図書館、カラオケボックスの数。それから対面販売型店舗の数。年寄りにとっては頼りなんです。魚屋に行って、「おじいちゃん、今日はいい魚があるよ」なんて一言言われると、高くてもつい買ってしまうんです。声をかけられることは、物凄く大事です。公園。映画館、美術館、博物館、高尚な文化。こういうのが多いか少ないか。
  地元で老人クラブの加入率も評価しました。老人クラブ加入率が高いから地域社会の老人のつながりが強いと必ずしも言えないですが、一応入れました。高齢者の長期継続居住率が高いか、どんどん移らないということですね。あとは緑被率なども入れて、8つの軸で整理したんです。
  主軸を安心・安全と利便性にして、真ん中を生活費と動かす楽しみ、心をいやすなどを、ウエートをつけてスコアリングしました。
(図31)
  安全・安心が保障できるスコアリングの高いところはどこかというと、江東区と杉並区です。低い区が新宿区と荒川区です。これは地震に関係するんです。地震と犯罪。荒川区は地震。新宿区は犯罪。江東区は割合不燃建築物のしっかりしたのが多いんです。杉並区は地盤がいい。
(図32)
  年寄りにとって利便性が高いのは台東区、荒川区です。ばっちり高い。不便なのは練馬区。
(図33)
  生活費の安いのは言うまでもなく北区と足立区です。高くて困るのが千代田区、港区、目黒区。貧乏人はどこで暮らしたらいいかというと北区と足立区です。
(図34)
  スーパー銭湯は台東区が多いでしょう。台東区、中央区、渋谷区、豊島区。割合お品のいい港区なんかよりもこういう4つの区のほうが高いんです。お品のいい杉並は全然駄目です。足立、江戸川、葛飾なんかは、新住民が多くて、年寄りが少ないから仕方がない。
(図35)
  「心を潤す楽しみ」ですが、これは公園が近い、ちょっとした習い事が多いといったところで評価しました、これも結構真ん中が多い。これは当然で、ここは区域面積が小さく人口が密度高く住んでいますから、いろいろ映画館や教室があればアクセスしやすいわけです。人口密度の高い面積の小さい区は評価が高くなる。ここでもやはり交通の便の悪い練馬区が駄目なんですね。
(図36)
  地元意識。これは圧倒的に台東、墨田区が評価が高い。ガラッと隣の扉をあけるとお茶漬けでもみんなで食おう、そういう風習が残っている。一番地元意識の低い区は練馬区。目黒区も結構お高くとまっているから低いんですね。
(図37)
  開放感という面では、木が多い、畑があるなど、練馬区圧倒的に評価が高い。
(図38)
  区別の総合評価ではどうなったか。台東区が最上位の55点で、練馬区が最下位の46点です。
  僕の住んでいる杉並は、お品のいいことを言っている連中が多いんですが、これは暮らしにくいんですね。下位グループです。港区は貧乏人の年寄りにはこんなに暮らしにくいところはない。この調査では貧乏人も金持ちも全部まとめていますから、港区も暮らしにくい。板橋区もそうなんですね。
  江戸川、世田谷、葛飾、共通していますが、年寄りが比較的少なくて、若者が多いところは下位の方に来ます。
  高齢者が暮らしやすい区は、台東区をトップに、渋谷、文京、北。文京はいい区なんです。あまりお金のない下町型のおかみさんとおじいちゃんは台東区に住めばいいけど、サラリーマンの人は文京区に住むと結構いいですね。みんなが馬鹿にしている北区というのも、結構年寄りには過ごしやすいいろいろな施設が入っている。
  こんなことを整理をいたしました。これはまたもう一度機会を改めて、年寄りに暮らしやすい町の調査などをつけて報告をいたします。
  大体そんなところで、今日はまじめに1時間半で、あとはご質問をいただければと思います。どうも失礼しました。(拍手)
  この話の元になった本は、本体価格1000円で森記念財団というところで売っています。これ、買って損はないですよ。売り上げが僕のポケットに入るわけではないんですけど、結構おもしろい本です。これを読めば、いろいろな解釈ができます。伊藤見解というのもあれば、与謝野見解というものもありますし、この数字を読み込んだ結果としての「東京2030年の姿」、いろんな種類のができると思います。

 

フリーディスカッション

與謝野 伊藤先生、大変に貴重なお話をいただきまして大変にありがとうございました。それでは、せっかくの機会でございますから、会場の皆様から伊藤先生にご質問いただきたいと存じます。
伊藤 ちょっとつけ加えて10分ぐらいもう少しお話をさせて頂きます。
  この図表には出てきていなかったんですけど、大きく整理しますと、建物の床面積は、先程も言いましたように、全体で2005年で23区は6万ヘクタールあるんです。これが2030年に7万7000ヘクタールになる。その内訳は2005年ベースで一番大きいのが集合住宅。これが2万600ヘクタールです。その次に大きいのは独立住宅で、1万2000ヘクタールです。その次が事務所で9000ヘクタールです。ここまでは大体おわかりですよね。集合住宅が一番多くて、独立住宅がその次で、事務所がかなり多い。これは面積でいう御三家みたいなもので、2万1000と1万2000と9000ですから。
  それでは、4番目は何か。実は住宅と商業の併用住宅なんです。これが4500ヘクタールございます。この商業と住宅の併用というのはどういうところにあるのか。これは皆さん、町で一番見なれている1階でコンビニやっていて2階で歯医者さんで、3階、4階に建物の持ち主と息子が住んでいるとか、1階が豆腐屋で、2階、3階、4階が、自分の家とちょっとした間貸しにしているという建物ですから、商店街にたくさんありますね。
  それが、2005年で4500ヘクタールで、これは率直にいうと、集合住宅に入れていいぐらいの面積です。そうすると、集合住宅は2万600ヘクタールありますけど、それに住・商併用をたします、これは質の悪い集合住宅ですが、この4500ヘクタールを足しますと、集合住宅系が約2万5000ヘクタールある。独立住宅が1万2000ヘクタールですから、ちょうど2005年時点で、23区では集合住宅2に対して独立住宅が1なんです。その比率です。
  これが2030年にどうなるかというと、先程の住・商併用は減りません。ずっと同じぐらいで、2030年に5000ヘクタールと、少し増えるんですが、これを先程の集合住宅3万1600ヘクタールに足しますと、約3万7000ヘクタールです。独立住宅は1万2000ヘクタールです。ほとんど同じ。
  何を言いたいかと言うと、集合住宅2に独立住宅1が、30年経つと、集合住宅3に独立住宅1、という比率になっている。これが実は東京23区を大きく変える物理的な変化です。今言った商・住併用を集合住宅に換算しますと2対1から3対1になる。そういう大きい変化があるということです。
  区分で一番大きいのは集合住宅が2005年で2万600ヘクタール。独立住宅が1万2000ヘクタール。事務所が9000ヘクタール。それから商・住併用が4500ヘクタールです。
  それでは、5番目は何かと言うと、教育文化です。これが2005年で約3600ヘクタールある。教育文化は小学校、中学校、公会堂などですが、これも少しずつ増えていきます。当然東京23区の富が蓄積されていけば教育文化はずっと増えます。それが5番目。
  その次に来るのが倉庫・運輸です。約2300ヘクタールあります。これは変わりません。僕は倉庫・運輸というのは専用工場と同じようにずっと少なくなっていくかと思っていました。ところが、これは減らない。ただ、倉庫の立地場所が変わってきます。これは当然で、例えば昔港区にあった倉庫はマンションや事務所に変わりますから、それが大田区に移るとか、そういうふうになっていきます。
  倉庫・運輸というのは、巨大都市を支える一番ベーシックなロジスティクスですね。この倉庫・運輸の土地利用を簡単につぶして、ここを事務所にしていいという場所ではないということがいいたいことです。
  2030年の東京をもし考えるとすれば、その時に見合って、倉庫・運輸業を23区のどこに想定したら一番いいのかということが、都市計画上の大事な課題になると思います。
  これ1点だけを申し上げておきます。
與謝野 ありがとうございました。それではご質問をどうぞ。
細井(日本光電工梶j 民間企業の嘱託をしております。今のまとめで、北区は割合に高齢者の住みやすさでは高い、いいポイントを得ていました。私はどちらかというと貧乏人が住みやすい北区に住んでいるんですけど、足立区と北区は隣同士ですね。それなのに、北区は総合得点では高い方にあってよくて、足立区は総合得点では低い方にいっている。その理由は何でしょうか。いろいろ途中の経過を見ていると、北区は大体真ん中真ん中真ん中のスコアで来ているのに、最後の方で上の方にパッといくのは何故なのでしょうか。
伊藤 難しいのですが、別の時に高齢者のお話をしますけれども、北区は、皆さんがお気づきにならない大事な施設が丘の上にあるんです。障害教育や身体障害者の都のセンターが北区の丘の上にあるんです。公園もついていますし、お年寄りで少し歩きにくい方のリハビリテーションのフィールドもあります。だから、東京23区の中でいろんな意味で心身障害を抱えられている、或いは高齢者で歩行困難になった人たちのリハビリテーション施設というのは北区が一番充実しているんです。
  僕はあそこに行って、あれだけ凄い施設を東京都は良く造ったものだと思います。北区の現場に行かないとわからないですね。僕は年寄りにとって安心、安全を保障するという点であれが効いているのではないかと思います。
細井(日本光電工梶j 北区は都営施設も結構ありますが、国立の施設が私の知っている範囲ではあります。国立競技場。その理由は第2次世界大戦から原因しているのではないかなと、今先生のお話を聞いて思いました。私の意見を言っても仕方ないのですが、兵器廠という戦争時に被服廠とか兵器をつくっている広大な帯のような地帯があったんです。それは北区と板橋区の境目にあった。集合住宅も建っていますけど、それを殆ど公共施設にした。それを思い出しました。ありがとうございました。
伊藤 ちょっと申し上げますと、北区は、そういう丘の上の建物の質と住まい方と、田端の操車場から隅田川にかけての市街地の住まい方とは本当に違うんです。
  ただ、僕が思いますのは、都市というのは必ずそういう場所が必要なんです。そういう場所をきちっと都市計画で位置づけていることが重要んです。そして、そういう場所に対して、道路を造るとか公園を造るということではなくて、そこの場所の生活に対する安心、安全をどう保障するか。公園を大きくしました、道路を広くしましたというのではなくて、そこに住んでいる方の行きやすい保育所をつくる、銭湯、安い公衆浴場をつくるといった、そういうまちづくりをきちっとやる場所が幾つかあるわけです。
  その一番代表例が北区だと僕は思います。昔は、墨田川以南で、北区、荒川は、同じぐらいの扱いをされていた。ところが、最近、荒川区の方がマンションの進出傾向がよくて、だんだん住宅地化してきた。昔は、都市の中でのごみを収集したり、ぼろを直したり、そういうことをするところが荒川区にありました。しかし、それは、だんだん北区へ集約化してきているのではないかと思う。北区にはたくさん、小さい印刷工場があります。必ずそういう場所は必要なんです。そういう位置づけをせざるを得ないのが北区の低地であって、高台は、今お話があったように、北区は昔の滝野川区です。滝野川区というのは今でも国有地がかなりございます。それから、今言った障害福祉関係の都の施設がございます。
  行ってみると、あそこは2つの区が一緒になったそういう区の性格をそのまま引き継いでいるのではないか。
  23区の議論をしますとき、どうしても世の中の人たちは、新宿、渋谷、世田谷、大田、杉並をやるでしょう。江東もやります。余り話題にならないのが板橋、北区です。だけど、僕はやはり板橋、北区というところも、こういうふうにデータをきちっとチェックしていくと、23区の中で独特の生活のスタイルと町のつくり方があって、それは絶対に中野でもないし、まして杉並とは全然違うスタイルなんです。もちろん、北区、荒川区で共通するまちづくりというのは墨田区とも、葛飾区とも違う。
  そういう23区のまちづくりの特徴、特質を少し2030年に向かっての姿として整理をしてみたら面白いと思って今やっている最中です。
  幾つか対比する区が出てきました。文京区と港区です。千代田区を中心にして千代田区、皇居の北に文京区、皇居の南に港区。生活しやすいという感じは文京区なんです。特に年寄りには生活しやすい。ところが、文京区のイメージは地味で全然つまらない。港区のほうが派手で、いろんな話題が多い。
  もう1つペアで抽出できるのは目黒区と中野区です。これも面白いんです。これは鉄道沿線でいうと中央線と東横線の比です。もっとアナロジカルに、皮肉に言えば、非常にジャーナリスティックになりますけど、東横線は体制順応型、中央線は反骨型。だから、中野区は学生が多い。下宿でもいいというけど、そこで搾取している悪らつな地主が中野には多い。目黒区には純粋な持ち地、持ち家のサラリーマンが定年退職で困り果てている。だけど、品がいい。そういうように23区の個性をきちっと選び出していくと、どこが駄目でどこがいいというんのではなくて、それぞれの個性の持つ強さが出てくるのではないか。
  葛飾も面白いんです。荒川放水路ができる前は墨田区の在だった。墨田区の地続きでした。荒川放水路でぶった切られたんです。墨田区というのは東京の町工場の中心でした。金属加工から靴から何でも造っていました。その下請が葛飾に出ていたんです。そうすると、今のように都市型工業がどんどん衰退していくとどういうことが起きるかというと、やはり下請の方が先に土地利用を変えていって、元請だった墨田区は工業でもまだ残るわけです。
  だから、葛飾区は墨田区よりどんどん住宅地化していく。それに比べて墨田区はまだ頑張る工業がある。そういう面白さが、都市計画に結びつくかどうかは別ですけれども、それぞれの区の将来の変わり方の面白さに出てくるのではないか。
小林((財)日本環境衛生センター) 大変いいお話をありがとうございました。都とか区の政策或いは計画というのは区のキャラクターに非常に響くんでしょうか。
伊藤 響きます。
小林((財)日本環境衛生センター) 或いはこの調査の2030年の予測には、そういう政策的な面はどう織り込んでおられるんでしょうか。
伊藤 これはかなり数字的な趨勢予測ですので、区の性格によってこの数字がどう変わるということは入っておりませんが、数字の変わり方の中に区の個性が反映されることはあると思います。過去のデータの中に、杉並区のトレンドはやはり杉並区のお役所のやり方が自然に入っているとか、中野区にもそういうのが入っているということです。これは都市計画の話になりますけど、各区のまちづくりに対する能力はすさまじく違います。
  悪口になってしまうので言いませんが、例えば僕たちの世界で一番面白いのは中央区です。中央区は何で面白いかというと、あそこの副区長は大変に頭のいい副区長ですから、自分の区の中のまちづくりに都はなるべく関与できないようにする。法律を知っていますから、法律解釈で都が文句言えないようにして、中央区のまちづくりを都を排しながらやっているのではないかと僕が想像できるような仕掛け屋なんです。そういう副区長もいます。
  片方の区では、常に「都庁が何て言いますかね」ということばかり気にする副区長もいます。ですから、僕たち都市計画をやっている連中の中では、東京23区で、あの区は駄目だとかあの区はやり過ぎという、下馬評はしょっちゅう出ますね。
  非常に穏やかな区というのがあります。穏やかという言葉にいろいろ思いを入れて下さい。穏やかな区は渋谷区や港区です。あんまり蛮勇を振るわないですね。それに比べて、副区長の性格でこれから変わるのではないかというのが中野区です。中野区は率直にいうと23区の中で、中野区民もよく知っているんですけど、困っちゃった区だなと区民も思っているわけです。「おまえ、どこに住んでいる?」と言って、「中野区」と言うと、変な雰囲気でみんな笑うんですね。中野区はこれから変わりますね。それは多分、区長よりもその下の副区長の執行能力で変わっていくのではないかと思います。
  江戸川区は立派な区です。区長の古いじいさんは死んでしまいましたけど、古いじいさんの伝統をずっと守って、先程の突っ込み道路の建て売り住宅の性能をよくするように一生懸命考えている。江戸川区は、そういう点では、僕はいい区なので、住みたいなと思います。もし僕が若かったら、江戸川区の新宿線沿線ぐらいに住みたいですね。船堀からあの辺です。僕は江戸川区を評価します。
  そういうふうに区の政治姿勢より執行能力は本当に違いますね。
與謝野 私からのご質問で恐縮ですが、今日のお話は現状の23区が30年後も23区を維持する前提で検討されておられますが、それはそれとして、将来23区が幾つかに合従連衡するという可能性はあるのでしょうか?
伊藤 それはあります。前に別なところでお話ししたと思いますが、いろいろな行政改革の提案がある中で、僕たちの提案は、23区をこのままではなくて、6つの区にしろというものです。
  1つは、港区、品川区、大田区。これが1グループ。
  次が、渋谷区、目黒区、世田谷区。東横線沿線です。
  1番目は京浜電車沿線。2番目は東横線。
  3番目は、新宿区、中野区、杉並区。中央線沿線。
  4つ目が、豊島区、板橋区、練馬区。
  もう1つ、中央区、江東区、江戸川区、墨田区、葛飾区。
  もう1つ、千代田区、文京区、台東区、足立区、荒川区、北区も入っています。
  これで6つでしょう。これで920万を6つで割ると150万ぐらいです。平均150万。
  こういうふうに分けたのは何かというと、足立区というのは、もともと、どうしようもないくらい貧乏な区なんです。都営住宅をいっぱいつくっている。だから、市民税が入らないんです。それの租税負担を千代田区に負わせるんです。千代田区が全部面倒見ろと。中央区は千代田区ほど税金を集める力はないんですけれども、江東と江戸川区はかなり独立して力を持っていますから、これが一番質がそろっている。
  港区と品川、これも割合、力がある。
  一番象徴的なのはここです。ここは千代田区が全部面倒見ようと。
  ここも渋谷、目黒、世田谷、これも大体150万で、渋谷が面倒見るけど、目黒のほうが金持ちいっぱいいますから、とりあえず税金を負担してくれる。
  ここは中野を新宿と杉並が面倒見ようと。
  ここがちょっと問題なんですが、豊島はこれほどここの面倒見るほどの力がありませんから、とりあえずここを。
  今から3年ぐらい前ですが、一応こんな形で23区を6つの特別市にして、分割して、23区の将来を考えたらどうか、なんてことを発表しましたら、意外と反応がありまして、東京都議会議員の議員さん方が、もう少し説明しろというので、僕たちの仲間が何回か呼びつけられて、説明に行っていました。これも報告書を作りました。
  ここに特別市を作ったら、コミュニティー単位の小さい地方自治区みたいなものをたくさん作らなければいけない。その人口はどのくらいにしてそこにどういうふうな権限を与えて、特別市と地方自治区とはどういう関係でタイアップをしてこの地域コミュニティーを運営していくか。
  或いは6市の中で、下水とか鉄道などのインフラは共同運営しなければいけない。ロンドンの23のバラと同じように共同運営の組織を作ろう。
  そういうのを提案しました。これはもう一回よければ別な機会におさらいでご報告したいと思います。
與謝野 伊藤先生、熱くご講演いただきましてありがとうございました。
  それでは最後に本日の素晴らしいご講演に対しまして、皆様から伊藤先生へ大きな拍手をお贈り頂きたいと存じます。(拍手) ありがとうございました。
  それでは、本年最初のフォーラムはこれにて締めさせていただきます。
                                   



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