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第18回NSRI都市・環境フォーラム

『自転車総合政策の最前線
〜今自転車利用の促進にとって何が必要か〜』

講師:  古倉 宗治 氏   

住信基礎研究所研究理事
京都大学客員教授(法科大学院、公共政策大学院)

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日付:2009年6月25日(水)
場所:日中友好会館

                                                                            
1. 自転車利用の現状

2.自転車政策の分類

3. 自転車政策のあり方

4. 自転車の用途別政策

5. 自転車の空間別政策

6. 自転車の課題別政策

7.今後の自転車政策の方向

フリーディスカッション

 

與謝野 定刻になりましたので、第18回目(通算で258回)のフォーラムを開催させていただきたいと存じます。
  本日は、お忙しい中、大変お暑い中を本フォーラムにお運びいただきまして、まことにありがとうございます。また、日ごろから本フォーラムをご支援をいただきまして、大変高い席からではございますが、お礼申し上げます。
  さて、本日は、日ごろより自転車を愛好される方々にとってはもちろん、まちづくりにおける最近の新しいシティコンセプトである「スローシティ」という考えを初め、化石燃料を超えた視座からの都市における交通空間の整備を志向される方々にとりましても貴重なお話をお聞きできるテーマでのフォーラムを企画させていただきました。
  本日、このテーマでお招きいたしました講師は、お手元のご案内のとおり、住信基礎研究所研究理事であられ、京都大学の法科大学院並びに公共政策大学院の客員教授であられる古倉宗治様でいらっしゃいます。
  古倉様のプロフィールについては、お手元の資料のとおりでございますが、旧建設省から国土庁、地域振興整備公団、総務庁他の要職を歴任され、2003年に財団法人土地総合研究所理事に就任された後、2004年には自転車に関するソフト面の施策に関する研究で学位を取得されまして、2008年から現職に就かれておられます。
  我が国でのこの分野の第一人者として、産・官・学の大変広きにわたりましてご活躍しておられ、ご専門は、「まちづくり法制度並びに自転車政策」でいらっしゃいます。
  本日のご講演の演題は、前に掲げておりますとおり、「自転車総合政策の最前線〜今自転車利用の促進にとって何が必要か〜」と題されております。
  それでは、大変ご多忙の中を講師としてお運びいただきました古倉様を、皆様からの大きな拍手でお迎えしていただきたいと存じます。
  古倉先生、よろしくお願いいたします。(拍手)
 
 
古倉 ただいまご紹介いただきました古倉でございます。本日はお忙しいところをお集まりいただきまして、誠にありがとうございました。また、自転車をテーマとして取り上げていただきました日建設計の皆様方に心より感謝申し上げる次第でございます。
  本日、なるべく幅広い皆さん方が対象であるということで、自転車の題材を広範囲に取り上げさせていただくということになっております。従いまして、自転車を専門にしておられる方にとってはちょっと物足りない部分、または過去に私の話を聞いていただいた方にとっては、共通する部分もあるかと思いますが、なるべく問題を幅広く取り上げ、わかりやすくさせていただきたいということにしておりますので、ご容赦下さい。
  パワーポイントによってご説明したいと思いますので、よろしくお願いしたいと思います。
(図1)
  私は、何故、自転車をやるようになったのかとよく聞かれます。いろいろきっかけはありますが、一番大きかったことは、1997年頃にアメリカ合衆国連邦交通省に行って、ヒアリングをしたことに始まります。自転車担当の局長クラスの方がおられまして、そのお話を聞きまして衝撃を受けたことは今でも記憶に残っております。
  何故、アメリカに行ったか。アメリカ合衆国は、当時でも、あるいは現在でも世界で一番自転車政策に重点をおき、一生懸命やっている、お金をかけている国で、連邦が前面に乗り出してやっているという意味でも、世界最大の自転車政策国です。ただし、自転車利用国ではないと思いますが、今でも自転車政策を積極的に実施しようとしている国のうちでは、世界最高水準の国であると思います。
  すなわち、予算面でも連邦は自転車単独(道路事業で一緒に整備する歩道などの予算を除く)に500億円)以上の連邦予算を使っていますし、スタッフも、連邦交通省の中で、併任も入れますと、30名から40名ぐらいは自転車を扱う方々がおられるということで、政策に力を入れているという意味では大変重要な国ではないかと思います。
  そういう国で何故自転車政策に力を入れるのかという点をお伺いしました。2点ありまして、1点は、当時アメリカ合衆国は双子の赤字「財政の赤字」と「貿易の赤字」が大問題になっていたわけです。この2つを同時に解決する方法は、いろいろ選択肢はあるわけですけれども、その中で、大量の石油(ガソリン)を消費する車の利用にかえて自転車利用を促進するというのが非常に重要な課題であるという認識があったということであります。しかも、重要なのは、環境問題ではなくて、貿易赤字を解消する、あるいは財政赤字を少しでも解消するという意味で、目先の重要性をとらえて、今でもそうですが、自転車政策が採用されたということであります。
  まず、貿易赤字の方ですが、アメリカは世界最大の石油輸入国であります。例えば中東に出て行くのも、石油が1つの大きな軸になっているわけです。そういった中で石油の輸入を少しでも抑えなければいけない。ところが、湯水のように自動車がガソリンを使っている。都市が郊外へどんどん広がっていって、移動距離が伸びて、車のためのガソリン、石油をどんどん使っていますが、それを少しでも減らしたいというのが1つでございます。
  もう1点の財政赤字は、財政支出として、例えば軍備とか軍人恩給費、社会保障費などいろいろありますが、現実に大きく削減できる予算として、4番目の支出項目である健康予算、医療予算があったんです。車にばかり頼っている人々の肥満がどんどん進行して、心臓病、脳卒中等の生活習慣病が死亡の原因の大きな割合を占め、医療費の大きな割合を占める。それを少しでも削減するためには、車をやめて自転車を使ってもらう。そういう意味で自転車政策に力を入れたのがアメリカの考え方でありました。
  そういうお話を聞きまして、環境問題を前面に出さずに、実質的に本当に必要な中身を前面に出して政策をとられるということは、実利的なアメリカ合衆国ならではの考え方ではないかと感心をしたわけであります。
  最近、東大の都市工学科でも、今まで自転車専門の講義というのは余りなかったのですが、今年の4月から5月にかけて、5時間連続して自転車を取り上げて大学生に講義をさせていただきました。
  今日は、90コマぐらいパワーポイントをお示ししておりますけれども、この5時限にわたって全部で400コマぐらいのパワーポイントを作成しました。最後はほとほと疲れましたが、自転車はそれくらい奥深く、いろいろお話しすることがございます。
(図2)
  今日は、その一端を皆さん方にお考えいただく材料として提供させていただきまして、いろいろと自転車の利用促進のためのお考えを整理していただければと思います。
  構成といたしまして、まず総論として3つ、自転車利用の現状、政策の分類、政策のあり方、こういう形で総論を述べさせていただきます。
  次に、それぞれ各論としまして、用途別、空間別、課題別に、自転車の中身の具体的なお話をさせていただいた上で、最後に今後の方向性ということでまとめさせていただきたいと思います。
  いろんな政策を取り上げて、計画を練る時に、まず最初に課題を前面に出されることが多いんですけれども、私の場合はそういう考え方はとりません。まず自転車が何故重要なのか、必要なのか、どんなメリットがあるのかという考え方を総論でお示しした後で、各論で、そのためにどういう方策をとったらいいのかということを説明させていただきます。最後に、しかし、そうは言っても、乗り越えていくべき課題はあるでしょう。それをクリアする方法をご提案申し上げて、結論という形にさせていただいております。

 

1.自転車利用の現状

(図3)
  まず、自転車の現状でございます。
(図4)
  この辺は、皆さん方、よくご理解いただいていると思いますが、オランダ政府が2007年に作った資料によります。世界の自転車の都市交通における分担率です。それを見ますと、オランダ、デンマーク、ドイツが、それぞれ27%、19%、10%となっています。日本はどうかといいますと、オランダの資料には残念ながら出ておりません。日本は、平成11年の全国都市パーソントリップ調査で15%というのが出ております。これからいきますと、先進国の中でオランダ、デンマークに次いで日本は3番目に自転車の分担率が高い国となります。
  平成17年に全国都市パーソントリップ調査が行われていますが、11年では自転車の割合が出ているのに、17年では2輪車という形でしか出ていません。ということは、より自転車の必要性が高くなった17年の全国都市パーソントリップでは、自転車についての意識を余りはっきり持っていただいてないという感じが私はいたしました。
  我が国は、10年毎に国勢調査があります。最近では、平成2年と12年にございました。国勢調査では、通勤通学時の交通手段をどうしていますかという質問があるわけですが、80年、90年、2000年と10年毎に見て行きますと、ドア・ツー・ドアで自家用車で通っておられる方は、80年に1400万人だったのが、90年には2200万人で800万人プラスです。2000年には2700万人で約500万人プラス。このようにドア・ツー・ドアの自家用車通勤が大きく増えているわけです。
  しかし、郊外がどんどん広がって通勤距離が増えたのかというと、決してそうではない。これはいろいろな統計でよくわかります。逆に何が減っているかというと、公共交通や徒歩が減っています。その中で、自転車については、30年前にはオートバイ、つまり2輪車としか統計が出てないものですからわからないのですが、90年と2000年で見てみると、12.2%及び12.9%と底堅い動きで、国民的な交通手段としても十分定着をしているということは言えると思います。しかし、車がどんどん通勤通学の交通手段を席巻しているという状況がおわかりいただけると思います。
(図6)
  私がいつも、自転車の特性として、皆さん方にお話しするときになかなか理解していただけないことがあります。自転車は環境に優しいということは、これは誰もが反対しません。ところが、環境に優しい交通手段というのは他にもある。それから、放置とか安全性、ルール違反や無視など欠点がたくさんある。この2つを考えると、せいぜい環境に優しい交通手段の1つぐらいの位置づけとしてなら認めてもいい。しかし、ほかの手段に優先して考えることはまずあり得ないというのが基本的な皆さん方のお考えであります。自転車愛好家の方はそうではないんですけれども、行政の方、一般の方も大体こういう理解だと思います。
  しかし、その中で3つほど忘れていることがあります。1つは、自転車は交通弱者。交通弱者という言葉が適切かどうかということはあると思いますが、一応自転車は道路交通法上は、考え方では当然車道を走るものです。車道を走るものだとすると、物理的にも、あるいは後ろから車が来た時には、後ろから追いかけられている感じで圧迫を受け、精神的にも弱者である。
  例えば、自転車が歩道を走っている場合、歩道でも一応法的には歩行者が当然優先です。歩行者がいたら一たん停止をしなければいけない。ましてベルを鳴らすなんてもっての他だと言われております。従って、歩道に上がっても、歩行者に対して法的には一応弱者の取り扱いになっているということです。これは重要なポイントだと思います。自転車は、どこを走行しても、弱者として取り扱われており、これを対等にするためには、他の交通手段に比べて、特別に扱う必要性があることです。
  それから、逆に、そういう弱者にもかかわらずメリットが他に比べて格段に大きい。しかも、多様なメリットを持っているということであります。
  最後に、マイナス点。これについては、最後に課題としてご説明しますけれども、マイナス面は利用促進と両立するものである。決して矛盾をするものではないということであります。
  従って、そういうことを考えると、「こういう優しい交通手段の1つである」なんて言っておられるような状況でよいのかと思います。今、地球環境その他から考えて、「1つ」などと、悠長なことを言って済まされる状況かということを、今日は皆さん方にご理解いただきたいと考えているわけであります。
(図7)
  人を運ぶ手段と車体重量を考えていただきます。例えば自家用車、定員が大体5人。ただ、町を走っている自家用車を観察しますと、1台につき平均1.3人しか乗っておりません。そうすると、85キロの重さの人を運ぶことになります。車体の重量はいろいろありますけれども、平均が1トンだとすると、85キロの重さの人を運ぶのに11.8倍の車体重量を動かしているということになります。
  電車でもそうです。定員125名。重さが30トンあります。満員に近い125名で8.1トンの人の重量があります。そう考えてみますと、3.7倍の車体を運ぶことになる。
  満員の航空機でも5.1倍。
  それから、満員バスでも、かろうじて1.8倍です。
  自転車の場合はどうか。2人乗りは違反ですから、原則65キロで考えていただくと、ママチャリの重さが18キロぐらいだと言いわれておりますので、車体重量は0.28倍しか運ばなくていい。つまり、公共交通は効率がいいと言うけれども、その分の車体を運ぶ。車体を運ぶには当然化石燃料を使わなければいけないということになります。
  こういったことから考えても、環境に対する負荷が格段に違うということが、プリミティブな感覚から見てわかっていただけます。
  それでは、航空機とか電車は使わなくていいのか。そうではありません。私が今日申し上げるのは、これらと使い分けることにして、自転車は近距離では絶対的に使いましょうということです。そういうことを言わんがために、効率性の良さという観点をご紹介しております。
(図8)
  自家用車の具体的な環境負荷の状況です。環境白書の平成12年版を見ますと、皇居一周7キロを走行した時に、自家用車は、500ミリのペットボトルで1700本分のCO2が出ると計算されております。
  これは同じ時間当たりで、例えばお風呂を沸かしたり、調理をするために必要な家庭用のエネルギーに比べまして14倍の負荷になる。家庭で使うエネルギーの中では最大のものではないかと考えられます。
  実際に、先程の2700万人が通勤通学した場合を、計算してみました。マイカー通勤をしている人は、平均キロメートル当たり177.5グラムのCO2を出します。平均的に片道5キロメートル通っておられるようですから、往復で10キロメートル、年間250日通うとすると、年間0.44トンぐらいのCO2排出があります。それで計算しますと、2700万人ですから、1200万トンぐらいのCO2が出る。これはガソリン1リットル、110円で換算しますと、5500億円のお金を使っている。もちろん、全部が無駄だとは申し上げませんけれども、地方都市でのクルマの移動の半数以上が5キロメートル以下ですので、相当部分が自転車で行ける距離の移動について、二酸化炭素の大きな排出をしていることになるわけです。
(図9)
  もう少しシビアに述べます。EUが自転車利用に関する報告書を出しております。これによると、必要空間、燃料消費等々、環境負荷の項目の比較をしますと、自家用車を100とするならば、自転車の場合、必要空間は8ですが、他の項目はほとんどが0です。日常時におけるは列車とかバスに比べても非常に低いということがわかっていただけると思います。
  ヨーロッパは、日本のように、公共交通も自転車も両方立てようという考え方ではなく、こういうことを考えた上で自転車をまず優先して考える、その次に公共交通を考える、こういう考え方をとっている傾向が強いかと思います。こういったことがこの表にもあらわれているかと思います。
(図10)
  それでは、その他のメリットはどうか。今、CO2の排出量など環境の観点から言いましたが、今度は健康について見てみたいと思います。
  アメリカが何で自転車を取り上げるかという大きな原因になったのは健康です。今、国民の医療費は32兆円。現在アメリカは9000億ドル、90兆円ぐらいの医療費を使っております。日本はその3分の1ぐらいです。そのうちの3分の1の10兆円が生活習慣病です。死亡原因を見ると、生活習慣病は3分の2です。つまり、医療費のお金の面でも、死因の面でも、生活習慣病が非常に大きな割合を占めているということがおわかりいただけると思います。アメリカはこういうところに注目したわけであります。
  日本の場合、死亡原因で一番多いのが悪性新生物、すなわち、がんですね。がんが全体の3分の1ぐらいになっております。その部位を見ますと、大腸がんが男性では2位、女性では大腸がんが1位で、乳がんが2位ということになっております。男性の1位は胃がんだそうです。罹患とありますので、これは発症する割合で、死因ではありませんので、ご注意いただきたいと思います。
  アメリカの生活習慣病関連の医療費は、がんよりは心臓病が1位でこれだけで35兆円もかかっている。こういうことが自転車政策重視の問題意識の発端にあったかと思います。自転車でこの生活習慣病の克服の一助を考えたわけです。
(図11)
  これは、イギリスの自転車推進機構という機関が2007年の11月に公表した資料です。自転車を推進する立場から書いておられます。自転車がどれだけいいかということを医学の論文から拾って、学術的にまとめています。死亡率や生活習慣病の中の大きなもの、がん、体重、精神病、こういったもの全てについて自転車がよろしいということをとなえておられます。それも医学専門誌に基づいて、つまり、エビデンスがある形で紹介するというところが違う点だと思います。
  例えば死亡率。これはコペンハーゲンの4万人のデータをもとに自転車通勤をしている人としてない人で39%違うといっておられます。
  環状動脈とか心筋梗塞、脳梗塞、糖尿病、こういったのは運動していれば防げるということは皆さんおわかりいただけるのですが、最近の研究からだんだんわかってきたのは、がんです。大腸がんと乳がん、この2つについては肉体運動が効果があると言われています。中でも自転車を定期的に乗ることによって防ぐことができるという意味の予防効果は高いと言われています。
  何で、がんが関係あるのかということを医学の専門誌でたどってみますと、私も医学の専門家ではないものですから、よくわからない部分がありますが、どうもがんというのは増殖する際に脂肪と塩をたくさん食べる。それを食べて増殖していくそうです。しかし、脂肪というのは不必要であるわけではありません。体に吸収しないといけない。ところが、余分にとってしまって体に残すと、がん細胞は、それ見たことか、おいしいものがやってきたということで、どんどん食べて増殖することが原因のようであるということがわかってきております。
  従って、エネルギーバランスがとれないような生活をすると、がんの危険性が高くなる。大腸がんだと40%から50%高くなると言われております。乳がんの場合でも、日常生活に自転車利用があるなしで34%違う。90%から95%の確率でこういう状況であると言われているわけであります。
  ということから考えると、健康の増進にとって自転車利用は非常に役に立ちそうだということはご理解いただけると思います。しかし、他の運動だってあるではないかということは確かです。
(図12)
  自転車の運動形態には、理想的なものだと言われる3つの特徴があります。1つは、特別の時間を使わないで、日常生活に組み込まれる。例えば、アスレチックはアスレチッククラブに行かないといけません。散歩、ジョギング、徒歩通勤も歩くことはあるかもしれませんけれども、距離的にはなかなか難しい場合が多いと思います。散歩とかジョギングは特別の時間が必要です。朝早く起きないといけない。これは三日坊主につながる。
  それから、2番目に、呼吸が通常より深い。けれども、息切れがしない。例えばジョギングは疲れます。どうもストイックな運動になってしまって、苦しくて我慢できない。そうするとこれもまた三日坊主の原因になってしまう可能性がある。しかし、自転車はそうでない。
  3番目に、ひざにかかる体重の70%は、サドルやハンドルで吸収されて3割しかひざにかからない。これは非常に大きなことです。例えば散歩で歩行する場合でも、ひざに体重の2から3倍の重力がかかるんですね。ジョギングでは4から6倍ひざにかかります。水中歩行はいいと言われますが、へそまでの水中歩行で2分の1、胸までつかってやっと自転車と同じだけのひざにかかる重さを削減できるということになります。
  そういうことから考えると、1日30分程度の有酸素運動を週5回行うことができる通勤などの自転車こぎが最も理想的な運動形態であるといえます。各種調査では、どんどん車通勤が増えています。その方々全てがやめるわけにはいかないと思いますが、自転車通勤に転換していただける方も多いと思います。このようにすると、上のような国民健康医療費もどんどん減っていくのではないかと思うわけです。
(図13)
  これは最近ある本で見つけたものですが、他の運動との比較です。場所の制約、時間の制約、行動範囲、運動持続時間、運動強度の調整、膝・腰の悪い人、運動中の会話、医学的安全性の8項目がありますが、例えば今のひざの悪い人でも、自転車こぎは可能である。スイミングはプールや海に行かないといけない。川で泳いでもいいですが、おぼれたりします。この表では、ハッチのところはメリットになります。自転車こぎは、少なくとも山崎元先生らの分類する項目の中では8つの項目が全てメリットであります。ジョギングは半分の4つの項目がマイナス点だと書いてありますし、スイミングでは、ひざにかかる重さを防ぐことは可能だけれども、それ以外はマイナス点となっています。
  何故自転車がいいんですかということになりますが、こういうことを考えると、他の運動に比べても自転車は効果が高いと言えると思います。この辺をまず理解していただくことが大事なことかと思います。
(図14)
  そういったことは他にもいろいろあります。メリットは数え上げれば切りがなく、この間の東大の講義でも、メリットだけで1時間近く話をさせていただきました。それを整理しました。
  メリットはたくさんありますから、それを羅列しては理解していただきにくいと思います。個人にとってのメリット、企業にとってのメリット、地域・自治体にとってのメリット、国にとってのメリットそして地球にとってのメリット、と分けております。
  さらに、縦軸では、経済性、環境性、健康性、時間性という形で整理させていただいております。
  この中には重複しているものもあります。何でこんなメリットを整理するんですか、パッと見てたくさん書かれて読むのも嫌だ、という方もあるかもしれません。確かにおっしゃる通りだと思います。何で分けたか。自転車をもっと使いましょうと言う時、誰に言うかによって全然違う。例えば、個人に向かって言う時には個人のメリットがあります。特に、自転車を利用するのは個人ですから、必要があると思います。個人は、私のアンケート調査によりますと、経済的な問題、経済性を一番大きく取り上げて重要視しておられます。従ってまず、そういうアンケート調査の結果に基づいて、個人に訴求、メリットを訴える場合は、経済的な問題、例えば初期費用が車を買うよりは安上がりであるとか、運行費用もガソリン代がかかりませんよ、管理費用、維持費用だってかかりません、健康費用だって安くなりますよということを訴えます。移動費用、電車賃もかかりませんなど、こういう経済メリットを訴求する。
  その次に、健康面で、生活習慣病からあなた不利になりますよ、病気にかからないことが一番大事なことじゃないですかと、どんどん訴求をしていく。時間的にもあなたは渋滞に巻き込まれずに済むから、その分自由な時間が生まれて、その分趣味に生かすことでできますよという形でどんどん訴求していくわけです。
  例えば、企業だってメリットがある。後からご説明しますので、ちょっと省略いたします。それから、例えば自治体の中で、何で自転車を優遇するのかという時に、自治体にとってもメリットがあるということをわかっていないと説得できないと思います。
  国の中で自転車予算をもっと増やそうという話でしたら、もし今国の方がおられたら、参考になるかもしれませんが、自転車予算を増やすことによって、他の費用を節減できて、結果的にトータルで国費の削減ができる。それぞれ訴求対象によってメリットが違います。それを正しく理解した上で、訴求対象ごとに分けて主張していくことが大事かと思います。このために、この表として、整理しました。
  これだけ多方面でいろいろな場面でメリットがある。しかも、いろんな対象者に対してメリットがある。これだけのメリットを備えた交通手段は他にないと思っております。
  従って、こういったことから、自転車を優遇する根拠をまずご理解いただきたい。あるいはそれぞれの訴求に対して様々なものがあることを理解しながら追求していただければ有効であると考えるわけであります。
(図15)
  そこで、1点だけ申し上げたい。これは少し昔に私が担当させていただいたアンケート調査ですが、自治体の皆さんに自転車のどういう点にメリットがあると思いますか、何で推進する必要があると思いますか、ということを聞きました。選択肢を選んでいただいく複数回答です。「自転車は環境に優しい」が82.2%ですね。その分、「渋滞が少なくなる」が33.5%。それから「市民の健康・経済のメリットがある」、が24%。その他ということになります。
  「環境に優しいから」は、自治体の皆さんの頭にすぐに浮かぶことです。渋滞が少なくなるということも少し考えていただいている。
(図16)
  ところが、住民は、メリットをどう考えているか。自由度が高いとか時間の節約になる、コストがかからない、は上位ですが、「環境に優しい」は最後から数えて2番目。ここにずれがあるのです。住民の方々が何で自転車を使うか、メリットをどこに見ているか。ここをまず考えて、住民の方々に自転車利用のメリットを訴求しないといけない。この辺がわかっていただいていないわけです。市民は健康や経済上のメリットを中心にしか考えてない。自転車は、確かに地球環境にメリットがあるかもしれません、あるいは日本の環境に必要かもしれませんが、市民でメリットがあると考えているのは10分の1しかないということを考えていただいて、訴求のあり方も考えていただく必要があるし、市民が何を考えて自転車を使おうとしているのか、そこが市民の考えていることとぴったり当たれば、当然市民が、わかりました、私は自転車をもっと使いましょう、あるいは使おうという気持ちなるということになります。広報、啓発の効果も出てくるわけです。
  地球環境を重視して広報しているのでは、市民のことを考えていないわけであります。
  なお、先日、2週間ほど前に調査したものでも、やはり環境に優しいと考えている人はごく少数です。時間の節約やコストの節約といったことを中心に考えています。
  ですから、この環境の時代でも、市民が何を考えているかをよく考えた上で、それに合った自転車政策を進める必要があるということが大事だとご理解いただきたいと思います。

 

2.自転車政策の分類

(図17)
  それでは、自転車政策は、どういうものをやっていくかというのが次のテーマです。
(図18)
  世界の自転車政策を見てみますと、重点が変わってきています。皆さん、オランダは他の進んでいるところと同じように見えるかもしれません。しかし、少し違うんですね。順番に見ていきますと、1960年代の頃からオランダは地球環境も考えながら自転車を取り上げました。この頃は世界で自転車といっている国はほとんどなかった。オランダは海面下の土地がある。水面が上がると一番困るということもあったため、早くから地球環境問題の意識があったかと思います。
  60年代は、海面が上がるなどという地球温暖化の話がはっきり出てきていなかった時代だと思いますが、オランダがまずやったことは、ハードの利用環境の整備です。しかも地方がバラバラでやった。それでも環境整備は、進みました。しかし、やってみると、国全体で底上げされてない。オランダの最近の報告書を見ても、オランダという国は世界で一番自転車が進んでいると皆さん思っているかもしれませんが、残念ながら落差があるのです。公共団体でも全然違うのですよということを言っています。つまり、バラバラでやってきている。
  つまり、ハードの環境ばかり造ってきた。しかも国がやっていなかった。そのため、境目までくると次の公共団体は自転車道がない。そんな状態であったことから、国が介入することが大事だということがだんだん経験上わかってきた。90年になってオランダは国家の自転車プランをつくって、重点介入しましょう、という方向になってきた。
  それから、もう1つは、ハードばかりつくってきたけれども、ソフト面でも考えるべきことがあるのではないか。そこで、自転車の位置づけや、具体的な目標設定を行った。何年までにどの程度の目標を持ってやりましょう、そういったものをちゃんと持った上で、しかも国が介入することによって底上げできるということがだんだんわかってきた。これは各論になりますけれども、特に自転車通勤について奨励をしよう、取り上げようという話が浮かび上がってきたわけです。
  オランダに次いでアメリカです。91年だったと思いますが、アメリカの連邦交通省、今の国土交通大臣みたいな方が、「自転車は忘れ去られていた交通手段である」と宣言しまして、当時双子の赤字を解消するためにも、石油輸入を減らし、また、医療費を削減できる自転車をもっと取り上げよう、こういう持ち上げ方をしました。
  続々とイギリスなどが国家レベルで介入していきました。少し遅れてドイツ、それから2007年にフランスが国に自転車の組織をつくりました。これは局長クラスあるいは審議官クラスの組織を置いたようです。国家がどんどん介入し出したということになります。
  少し前後しますけれども、1990年代後半では、自転車通勤をオランダやイギリスが推進して、2000年ぐらいになると、なんと自転車通学を推進する。自転車通学では皆さんに申し上げたいことがたくさんあるのですが、今日は時間の関係で割愛しております。自転車通学を取り上げて、アメリカやイギリスでは、推進しましょうということになりました。何故か。メタボです。小学生の肥満児の率がどんどん高くなっていっています。親に家から車で学校まで送っていっている、そういう事態もあり、ほとんど運動しない子どもが増えて、どんどんメタボになっていく。メタボというのは小学校の時に形成されると一生ついて回るということもありまして、もちろん徒歩通学というのもあるのですけれども、自転車通学を推奨して、重点的にメタボ対策と生徒の自立心の醸成を目指して頑張っています。
  最近では、オランダは、自転車買い物も推奨しています。通勤から始まって通学、買い物、そういったものを奨励しようというソフト施策を考えているようです。
  2005年以降は、各国共通の中で、健康と環境による奨励策も考えているということになります。最近は、そうはいっても、やはり地球環境の話が各国の自転車計画の中には前面に出てきておりますので、健康などの問題だけで自転車を取り上げることはなくなってきておりますけれども、やはり基本的には健康等によって、自転車を重点的に取り上げようという方向で動いてきております。
(図19)
  そういったことを踏まえて分類しますと、自転車政策に必要な項目がいくつかあるのです。細かいところは時間の関係で省略させていただきますけれども、自転車の位置づけ、目標をしっかり出す。メリットというのは、誰に対してこの計画を提示するかによってメリットの並べ方も時間の割き方も違う。書面の書き方も違ってくると思います。位置づけの明確化もしっかりしていただいて、例えば5キロメートル以内では自転車を最優先にするとか、そういった考え方を明確に出さない限り、残念ながら自転車政策は進まないと思います。それから目標数値、用途別の施策も考えていく必要がある。それから、空間別です。私は専門は空間のソフト施策ですけれども、ハード施策についても今までやってきました。それに合わせてソフト施策も考えてもらう必要がある。それとともに、空間に関する情報提供もする。これはソフト施策に入るかもしれませんけれども、少し切り取って後程ご紹介します。こういうことを含めて、空間別の施策を考えていく必要がある。最後に、課題別の施策を取り上げる。
  こういった総論的な位置づけ、目標、用途別、空間別、課題別をバランスよく取り上げるのが本当の自転車政策ではないかと私は考えている次第であります。
  これらは各国の自転車計画をもとにして私が考えさせていただいた内容でございます。
(図20)
  それでは、そういった計画は日本の国の中で行われているかということをレビューしました。国交省の、自転車先進都市といわれている30都市があります。平成13年頃から15年頃まで取り上げられた都市です。当時、鳴り物入りで登場して頑張っいたんですが、今や、各市のホームページを見ても自転車施策が全然出てこないところも多くありますし、また、完全にすたれているところがあります。
(図21)
  トータルで申し上げますと、日本はハードの空間整備が中心です。先程オランダが1960年代からやり始めたと言いました。しかも、ネットワークだったらまだいいんですけれども、この都市の計画を見ますと単発の路線が多い。
  ネットワーク計画をわずかにやっているところも非常に貧弱です。何よりも鳴り物入りで頑張ろうということでやり始めたんですけれども、今見たらホームページですら全然ないという市もあります。中断や消滅、つまり仮につくったところがペンペン草が生えているような状況です。これはソフト施策もなかった、目標値もなかった、位置づけもはっきりしていなかった、そういうことが原因だと思います。
  自転車通勤などソフト施策もほとんどないという状況であります。ほとんどが1番目のハードの単発路線しか計画がないという状況です。しかし、かろうじて、東京はネットワークがある。四十数キロメートルのネットワークです。皇居を中心にネットワークがある。ところが、そのネットワークの実体は、ここ日中友好会館から後楽園の方に行く道路にも自転車と歩行者のマークがあって、線や色で区切られていますが、帰る時に見ていただいたら、恐らく、人が自転車の領域でもどんどん歩いています。仕方ないから自転車はジクザグで走っている。ほとんどがこういう状況の自転車ネットワークです。つまり、歩道上につくるから、自転車と歩行者が入り乱れてしまって、歩行者と自転車の事故が起こっているわけです。
  これは茅場町の駅前の部分です。後から申し上げますけれども、一番危険な部分は交差点です。自転車の占有部分が交差点の前で切れてしまって、この先は行けない。仕方ないから歩道部分に入り込んでくる。法律上は横断歩道を渡る時は降りて渡らないといけないのです。ところが、絶対降りて渡りませんね。ここで歩行者と交錯する。こういう状態で、ネットワークの連続性があると言えるか。あるいはネットワークは完全なものか。地図の赤い線は、歩道上の自転車レーンです。かろうじて青い部分だけが車道に自転車レーンがあるという状況であります。ほとんどは歩道上の共用的な自転車レーンで、一応線が引いてあって上に看板があるけれども、多くの人は気にしていません。こういう状態です。
(図22)
  これはある都市です。余り悪くいい過ぎですから、M市とさせていただきます。ほとんどの自転車道路が歩道兼用です。歩道兼用というのは区分する線も引いてないものです。歩道と自転車が同じ空間で、しかも線や色で区別していない。これを自転車計画と称している。
  なおかつ、ネットワークと言いましても、先程の東京都に比べるとちょっとお寒い状況かと思います。中身を見たらハードの空間があるだけです。空間の量が少ないし、かつ、何キロメートルのこういう道路をつくってそれで終わり。あと何にも書いてない。こういう状況です。
(図23)
  これは、ある地方公共団体の「自転車の安全利用推進総合プラン」です。本当はこういう自治体にちゃんと目標値を立てていただいて、位置づけもしっかりしてもらって、自転車利用を促進して、ハード、ソフトの政策を立ててもらいたい。ところが、まず冒頭に、「自転車は、鉄道・自動車と並ぶ主要な交通手段の1つです」と書いてある。私が先程言っていたのと同じことですね。この程度の位置づけしかされてないのです。しかも、問題点、課題をバンと先に出すんです。推進プランで推進しようと言っているのに、最初に氷水をかけるようなことをしていいのかと私は思うのです。まずは、最初にこういうメリットがあって、もっと使いましょう、そのためにはどういう空間とかどういうソフト施策を考えていくべきか、用途別の対策を考えていくかということを述べて、最後にルール・マナー、放置自転車などの問題点を取り上げる。そうでないと、最初に氷水をかけてそれを温めるのにどれだけ苦労するか。大変なことになってしまいます。
  最初に問題点を挙げて、しかもページ数からすると物すごくたくさんのページをさいています。推進計画で、ルール・マナー、放置自転車対策なんてものをつくるんだったら放置自転車対策を別につくってくれと言いたい。安全性の向上や走行空間、最後のあたりで推進施策らしきものがやっと出てくるのです。残念ながら、こういう計画をつくっていたのでは、諸外国と比べて推進する計画にはならないと私は思います。
  どこの公共団体かというのを申し上げると怒られますので、言いませんけれども、こういうものがある。これは私の考えですから、皆さんは、これでいいんだとおっしゃる方もあるかもしれません。それはそれでお考えだと思いますが、考えるきっかけを私は提供したいと思います。

 

3.自転車政策のあり方

(図24)
  政策のあり方について次にお話ししたいと思います。
(図25)
  自転車先進国の自転車政策をちょっとおさらいします。先程と重複します。オランダは、国が、1990年に自転車マスタープランをつくりました。そして、10年経った2000年に、国はやるべき自転車施策をやった。従って、自治体の方に移管しましょうということで地方の自転車協議会に移管しています。もちろん国でもウォッチはやっていて、総括はしています。
  60年代から地方が自転車政策をやって、国が本格的に本腰を入れて10年間頑張って、それがある程度目標を達した。それは凄いと私は思います。オランダというのは四国ぐらいの大きさの国ですから、やろうと思えばできないことはないと思います。それで、地方にもう一回お返しした。
  ドイツは、ずっと地方がやってきた。2002年に国がやっと国家自転車利用計画に手をつけた。大分遅い。
  これはフランスもそうなんです。2007年に国レベル取り組みを、やっとやり出したのです。
  アメリカはというと、連邦が、早々と双子の赤字の解消のため、石油戦略、健康戦略にも関係するということで取り上げたわけです。連邦法を制定して、その中で自転車を本格的に取り上げています。
  イギリスも、96年に国家自転車戦略をつくりました。
  ノルウェーも2003年に国家自転車戦略をつくりました。
  北米に次いで世界で2番目に人口当たりのCO2の排出量が高いといわれているオーストラリアでも、93年頃から意識を持って自転車政策をやっています。
  ところが、日本はというと、国レベルの自転車計画はない。去年やっと国で自転車係ができた。これからますますやることがいっぱいあると思います。
  これらの外国の共通事項を簡単に申し上げますと、国レベルで自転車計画を策定しているということです。フランスは残念ながらない。それ以外は大体つくっています。国が明確に交通手段として位置づけています。優遇策を講じています。それから、多くの場合、目標値を設定しています。自転車の分担率や交通事故の削減率、場合によっては自転車通勤比率も入れて計画をつくっています。
  こういう国レベルのはっきりした位置づけがあるからこそ、公共団体も頑張って位置づけをしようということになります。これは別に地方分権が進んでいる、進んでいないの問題ではありません。交通弱者ですから、政策的に放っておけばどんどん衰退していく可能性がある。そういった施策をてこ入れするのは国の役目だと私は思います。そういうことを共通して各国が国レベルでとらえているということが特徴かと思います。
(図26)
  目標設定の状況としては、オランダの場合、自転車利用を30%にするなど、具体的な数字を挙げております。分担率を項目に設定している。
  実は、97年に私が連邦交通省に行きました時に、アメリカの徒歩と自転車の合計で現在のトリップ数を倍増するという考え方を国家の目標率について、そんなことできるんですかと責任者の方に詰め寄って聞きました。彼らはどう言ったかというと、一言でいえば「チャレンジングな目標である」。つまり、挑戦的である。裏の意味からいうと実現するかどうかはわからないけれども、頑張ってみる目標だよということです。日本は目標値を設定するのに余りにも慎重になり過ぎだと思います。根拠がないとこまる、また、できる、できないというのがあるかもしれません。できるかできないかはやってみないとわからないわけですから、明確な根拠はないチャレンジングな目標値をちゃんと設定して、それに向かって努力をする。
  5年後と10年後にアメリカ連邦交通省は、2倍にすると言ったけれど、どの程度実現したかということを、ちゃんとレビューしています。レポートを発表して皆さんの批判を仰いでいます。死傷者の10%削減という目標は実現しました。ところが、「倍増する」は実現しなかった。「ごめんなさい」ということで謝っています。そのために、これからどういうふうにしたらいいかということを提案しています。ここまでフランクに設定してやることが大事だと私は考えている次第であります。
(図27)
  具体的にアメリカの自転車政策の設定の仕方がどうなっているかということをご紹介したいと思います。連邦法で、地方の総合交通計画のあり方まで規定するのです。何故こんなことをするのか。簡単に申し上げますと、アメリカの連邦の役目は3つだと言われています。連邦憲法にそう書いてある。全部で13項目か14項目あったと思うのですが、連邦憲法には、大きく分けて、外交、これは連邦の権限ですと書いてある。防衛、これも州がバラバラで防衛活動をやっていたのでは国が成り立っていかないので、連邦の権限です。一番最後の権限は何かというと、州際通商と言われているものです。国際通商というとわかっていただけると思います。国際は国をまたがる通商、物の移動、お金の移動、情報の移動をいうわけです。州をまたがる移動、これは連邦の権限だということです。
  交通というのはその州の中でおさまる交通はほとんどあり得ません。州を越えた移動がある。信書の移動、情報の移動がある。そういったものは連邦の権限だ。従って、交通は連邦がちゃんとしたウォッチをするのだということです。例えば自転車担当官を置きますよという義務づけを連邦法で書いて、州や大都市圏に置かせている。
  今の日本でこんなことをやったら怒られますね。都道府県に自転車・歩行者総括官を置けなんていう義務づけの法律を書いたら、地方分権に反するということになる。
  しかし、アメリカはメリ張りをつけています。国の権限であるということは絶対に国が守ります。そのかわり、国の権限であれば、自転車政策に使う補助金は連邦が80%出します。さらに、自転車駐車場などは大都市圏では90%、95%まで国が面倒を見てくれる。こういうメリ張りをつけた政策をとっている。交通政策というのは国の政策であると言っております。
  従って、連邦憲法では、州際通商の1つとして交通を扱っている。また、郵便も州をまたがる移動ですから、国の責務であるということで、かたくなに、民営などせず、国がウォッチをしている状況であります。
  それから、州法でも、自転車について取り扱いを書いています。後から触れますが、自動車と自転車の運転手は同等の権利を有し、義務を負うとはっきり法律で宣言されています。こういうふうにソフト面で相当立ち入った政策を講じていることがおわかりいただけると思います。
(図28)
  さらに進んで、連邦の自転車安全向上戦略についてです。これは、官民協働で作成されました。連邦政府も、民間も、学者も入って2001年に宣言を出しました。安全向上のための戦略を出したのですが、その中で、5番目にハード、道路をつくりましょう。4番目に法律制度。3番目にヘルメット。2番目に自転車運転者が安全に運転しましょうとあります。問題は1番目です。最重要視している項目です。「自動車運転者が道路を共用するようにする」と言っている。これは何かというと、自動車の運転者が道路を共用させていただく。つまり、車と自転車が同じ道路を共用する場合は、車の運転者の方が共用させていただくという立場にあるということにこれからしようということです。
  つまり、車道では、自転車が主であって、車が従であるという考え方を入れた。これが安全向上戦略の非常に重要なことです。ただし、これは最後の部分にも書いてありますが、公定、つまり行政府がオーソライズしたものではなくて、官民が協働で宣言したものである。曖昧な書き方をしてありますが、いずれにしましても、今ここまで来ているのです。そういうことを念頭に自転車政策を考えていただきたいと思います。
(図29)
  それでは、自転車の位置づけをどう考えたらいいか。このグラフは皆さん見られたことがあると思います。国交省で、縦軸に時間、横軸に移動距離をとって、自転車や徒歩、他の交通手段を比べたものです。例えば10分後に移動距離何キロメートル行っているか。グラフの下に来る方が速く到達できる手段であるわけです。10分後では自転車が一番下に行っております。これによると、500メートルから4.数キロメートルまでは自転車が一番速い。すなわち、この距離の範囲は、時間的に有利であるということがこれで明らかです。
  ただ、皆さんは、自転車はこの4キロメートル余までだと、理解していただいていますが、このグラフをもう少し細かく見ていただきたいと思います。
  0から500メートルぐらいは徒歩のほうが有利です。これを1つご記憶にとどめていただきたいと思います。
  平成11年のパーソントリップで見ると、移動距離6キロメートル以内ですと、大体5割、6割前後は、自動車によっているということです。ということは、500メートルから5キロメートルの範囲でも車の移動がたくさんあるということです。
  しかし、その距離のところをみんな自転車で行ってくれるのかどうかを、調査しました。これは街頭アンケートですけれども、「あなたが自転車で移動できる距離、何キロメートル以上ですか」と書き込んでもらうと、5キロメートル以上が5割以上あります。
(図30)
  また、福島市及び静岡市のある会社の社員の通勤距離を聞きましたら、自転車通勤以外の人で5キロメートル以下というのは73%です。自転車通勤以外の人に、あなたが現在の距離を自転車通勤するとしたら可能距離かという、主観的な問題も聞きました。すると、65%はちょっと無理をすれば何とか可能であると言っている。つまり、5キロメートル以内というのは、少し長いかもしれませんが、6〜7割ぐらいが自転車通勤可能だということになります。
(図31)
  今度は徒歩です。平成17年のパーソントリップで、高齢者に、あなたの移動距離何メートル以上行けますかと聞いてみますと、後期高齢者でも51%(地方圏)から55%(三大都市圏)が500メートル以上行けると言っている。
(図32)
  こういうことを前提にします。先程5キロメートル以上自転車で行ける人が5割以上いたということも合わせて考えると、都市内の移動は自転車が全てではなくて、日常生活圏の500メートル以下は徒歩で行ってもらってもいいのではないか。それを越えたところは自転車で行ってもらって、さらに約5qを越えたところは自動車でいってもらう。こういう役割分担にすればいい。ただし、全ての人に5キロメートル以下は自転車で行けというのではなくて、体力などいろいろな状況において、距離が短くなれば、少しずつ自転車の割合が増えていくと考えていただいていいと思います。逆に、5キロメートル以上ではどんどん車の割合が増えるということになろうかと思います。
  そういうふうに分担を考えていただいて、その中でも500メートルから5キロメートルの中は自転車を最も優遇していただきたいと私は思うわけです。
(図33)
  これは国勢調査ですが、関西系の都市では何と、自転車通勤通学で、直行型つまり家からドア・ツー・ドアで職場まで、学校まで行っている人の割合は3割。これは多いところから順番に全国の都市を並べていったものです。びっくりしたのは、家から駅まで行って、そこから電車に乗る人、つまり駅まで型の割合はこれだけしかないのです。明らかに圧倒的に直行型が多い。この辺をご理解いただきたい。
(図34)
  それでは、駅まで型が多いところから整理したらどうなるか。全国の都市で、駅まで型が一番多いところは、埼玉県越谷市です。13.8%です。その越谷市ですら、直行型が15.2%あります。つまり、皆さん方は、駅まで型で駅前放置で困っている。しかし、実際にはそういった方々の数よりも、直接家から職場まで、あるいは学校まで行っている人の数のほうが多いのです。例外的に、流山や柏は逆転している。
  つまり、自転車の放置対策ばかり考えるのではなくて、直接行っておられる方々のことも考えてくださいというのがこのグラフから読み取れるのではないかと思います。そういった方々の方が数が多いわけです。数が多いからその政策をやれというわけではないと思いますが、そういった人たちのことも傍らで考えて、なおかつ放置対策もバランスよくとっていただきたい。これがちゃんとした自転車政策ではないか。
  つまり、自転車に水を浴びせかける放置対策ばかりを唱えるのでは、ちょっと片手落ちであり、自転車利用の総合施策を講じて頂きたいと私は考えます。

4.自転車の用途別政策

(図35)
  次に、各論です。用途別の対策をちょっと見ていきたいと思います。
(図36)
  通勤者の受けるメリットは大体わかっていただいていると思います。個人ですから、経済的な面を重視していますが、例えば、健康面が改善されれば医療費が節約できます。昔は医療費は被保険者本人はただでしたが、今は3割負担です。それでも医療費を払いたいですか。それから、フィットネスクラブに行く費用を払いたいですか。通勤ラッシュはしんどいです。でも、自転車は絶えず座れますね。あと、企業の自転車通勤手当がある場合に限りますけれども、通勤手当がお小遣いになりますね。例えば、ガソリン代をもらったとしたら右から左に消えますね。公共交通の定期代をもらっても、右から左です。なお、通勤手当として定期代相当をもらい、これを使わずに歩いてきたり、自転車で来るのは、詐欺だと思いますので、やめていただきたい。
  そういうことに比べると、自転車通勤手当は、2000円ぐらいしか出ていないかもしれませんが、それが出ればポケットマネーができる。非常に大きなポケットマネーになると思います。しかも、一定の金額までは税金がかからない。通勤手当は無税です。
(図37)
  企業のメリットも言い出したらきりがないですけれども、生産性が向上します。朝、わざわざラジオ体操するまでもない。通勤ラッシュのストレスがない。朝来るだけで疲れが出てくる従業員がいるよりは、朝は自転車に乗って運動が足りている従業員の方がよほどいいですね。従業員の健康のことも考えてあげてください。自転車で来た従業員は物凄く健康になる。先程立証した通りであります。
  それから、通勤手当の削減。車用の駐車場の土地代やガードマンを雇う費用は必要ありません。税金も払う必要がない。雇用範囲だって広がります。車でしか来られない人のみを雇うのではなくて、自転車通勤で広がります。何よりも企業イメージの向上につながるし、営業活動もメリットがあります。いいことづくめであります。
  1つだけ問題点として言われるのは、危ないというんです。自転車通勤を禁止している企業もある。これはまさに残念ながら時代錯誤と思います。何故かというと、自転車通勤で事故が起こる可能性よりは、車通勤で事故が起こる可能性の方を心配している企業の方が多いのです。
  すなわち、企業で100社ぐらいに、自転車通勤の事故を恐れますか、自動車通勤の事故を恐れますかとアンケート調査をしたら、自動車通勤での事故を恐れるのが7割で、自転車通勤の事故を恐れるといったのは4割ぐらいです。つまり、企業側も、事故が危ないと言いながら、自動車通勤の方を恐れています。
(図38)
  次に、通勤手当についてです。5キロメートル以内で比較していただきますと、首都圏で安いと言われている京王線の定期代が、5キロメートル以内で4000円から5000円ぐらいです。自転車の通勤手当はこの距離では平均して2000円ぐらいで済みます(国家公務員の手当を参考にした場合)。これだって企業の経費節減ですね。もらった人も定期を買わなくてもいいですね。
(図39)
  それから、自転車をもっと使いたいと思う条件は何かと聴くと、自転車通勤手当の支給があれば、もっと乗るというのが一番多い。
(図ト40)
  ところが、企業は、自転車通勤を直ちに推進すべきだと考えているのは7%しかない。しかし、長期的に推進したいという企業は4割いますから、これを合わせたら5割近くになる。
  推進すべきでない言う企業はさすがに少数で、どちらともいえないという企業が多い。これから地球環境で企業も理解が進んでくれば、こういった「どちらともいえない」が減ってくるのではないかと私は楽観しております。
(図41)
  通勤手当は、現状は10%しか支給していません。通勤手当が支給されたら、乗るといっている人が多いわけですから、通勤手当が支給されたら、もっと増えてくると思います。
(図42)
  その現実がこれです。名古屋市役所の通勤手当ですが、2000年時点では2キロメートル以上5キロメートル未満では自転車と自動車は同じ2000円でした。ところが、2001年3月に自転車を4000円にして、自動車を1000円にしました。4倍です。そうすると、今では合計で、自転車通勤が825人から倍以上になった。車通勤が5300人だったのが3700人になった。自転車通勤手当を変えることによって大きく自転車通勤を推進することができることが明らかだと思います。
(図42)
  自転車通勤の結論からいうとこうです。通勤手当を支給する。また、できたら、企業が自転車通勤計画をつくる。実はオランダの政府のペーパーを見ると、企業が自転車通勤計画をつくることは、通勤者、つまり従業員に対して大きな見えないプレッシャーになると書いてあります。計画をつくって、皆さん方を呼んでヒアリングをするわけです。自転車通勤するか、しないかについてです。これだけでも、雇用主から自転車通勤しなさいと言われていると受け取って、非常にプレッシャーになる。いいプレッシャーだと私は思います。それによって推進することは有効です。他にシャワーをつくる、通勤路線を優先的に設置してあげる、そういうことを考えるべきです。このようにソフト施策、ハード施策のバランスのとれた政策が必要だと思います。
(図43)
  それから、自転車の買い物についてです。これも実は個人にとってもメリットがあります。例えばフィットネスになります。帰りの荷物をいっぱい積んだ自転車で帰ると重い。ダンベルを持って家に帰るようなもので、非常に運動になると思います。
  他にも、往復のガソリン代。1円だって安いものを買いたい人が往復のガソリン代をけちらずに使う。こういうことがあっていいのだろうかと私は思います。
  店だって売り上げの増につながる。メリットはいろいろあります。
(図45)
  アンケートで、商業事業者に、「自転車で買い物をしてもらうメリットは何と思いますか」と聞いたところ、「ゆっくり買い物してもらえる」。2番目は、「駐車場の面積の有効活用が図れる」。車ばかりで駐車場が必要だったところに、物置ができたりして、「駐車場を減らせる」。「環境に優しい企業のアピール」も可能である。
  一番多い「ゆっくり買い物してもらえる」というのはどういうことかといいますと、これはチェーンストア協会にヒアリングに行った時にお話を聞いたところ、スーパー業界の常識として、店に3分長く滞在していただくと、1.5品目買い物が増えるそうです。車で来てもらうとどうかというと、1時間は無料だけど、そそくさとして必要なものしか買わない。さっさと帰ってしまう。ところが、自転車で来てもらうと、いつまでもとめていられるから、その分買い物が増える。つまり、ゆっくり買い物をしてもらうというのはそういうメリットがある。賑わいも増える。
  駐車場の不足があるかないかについても、不足していると答えているところが5割以上でした。駐車場の混雑も5割以上が混雑しているといっております。
(図46)
  自転車を奨励するのに、車に対して割引券を出すのだったら、自転車に対しても割引券を出してもいいのではないか。これについてどう考えますかと聞きました。皆さん方、車で行くと駐車券の分のサービスをするのは当たり前です。自転車は使わないのだからいいではないか。そうですけれども、結局、車の駐車場に必要な経費は自転車で来た人にも負担させているわけです。それは企業の精神、事業者の精神として公平かどうかということを考える必要がある。その場合、自転車に対する割引券があってもいいのではないか。聞いてみたところ、残念ながら賛成は8%。ところが、自治体の指導や施策があればやってもいいというところが5割ぐらいある。また、他の面でも自転車利用をもっと積極的に促進していいよという企業は22%しかないんですが、実際の自治体の指導とか奨励があれば40%、これを合わせると60%を超えます。
  そういうことで自治体が何らかの形で絡んできて、セットで買い物を奨励すればやってもいいよ、つき合ってもいいよという企業が結構あるということはご理解いただきたいと思います。
  これは買い物についてはちゃんとソフト施策を考えないといけない。なかなか日本ではまだまだ通勤すらソフト施策を考えられません。まだ買い物の段階まで行かないと思いますけれども、今後の段階はこういうことも考えていただきたい。
  当然駐車場のコストは負担に感じている。「やむを得ない」と、「負担に感じている」のは合わせて82%にも上ります。この「やむを得ない」というのは負担に感じるけど、仕方ないという回答ですから、合計82%はコストを感じているということです。なるべく自転車で来てもらった方が、彼らにとってもプラスになるということです。
(図47)
  買い物の自転車利用に関して最後の問題です。しかし、そうはいっても、やはり車で来てくれる人の方がお買い物をたくさんしてくれる。後ろのトランクにもたくさん積めるではないかと思われるかもしれません。おっしゃる通りです。買い物の交通手段について、目と鼻の先でも車で行くという車社会である宇都宮市で調査をしました。3000台とめられる駐車場のある郊外店と中心市街地のスーパーの比較です。自転車で来た人と自転車できた人(郊外店に自転車できた回答者はありませんでした)に、今日幾ら買い物しましたかと聞いてみました。平均値をとりますと、駐車台数3000台の郊外店は7800円買い物をしていました。それから、中心市街地の車で来た人は5300円。自転車で来た人は3700円。やはり車で来た人の方がたくさん買ってくれるから、上客だと思われるかもしれません。それはもっともだと思います。
  ただ、ここで大事なことは、あなたは週当たり何回買い物に行っていますかと聞いてみました。そうすると郊外店の自動車で来ている人は1.4回。中心市街地も1.9回。自転車で来ている人は3.4回来ている。もし同じ金額を毎回買ってくれたらという仮定のもとであるとすると、週当たりの売り上げは自転車が1万2500円。自動車は1万円。郊外店でも1万1000円。ということは、よく考えてみると、自転車で来てくれる人の方がトータルではたくさん買ってくれる。車をおろそかにせよとまではなかなか商業政策上言えないと思いますが、商業事業者も、自転車をもっと優遇してあげてもいいのではないか。自転車で来てくれたら、ガードマンの費用が減る、周辺の駐車場の混雑が減るなど、他にも商業事業者にとっていろいろメリットがあるわけです。また、自転車の割引券を自治体と一緒になってなら、やってもいいよというところも多くあるわけですから、そんなことを考えて、官民一体で自転車による人たちをもっと優遇してあげることが大事なのではないかと私は考えるわけです。
(図8)
  私が調査した後、去年の7月に気がついたのですが、グローニンゲン市でも、自転車で来た人と自動車で来た人の総売り上げを、1週間当たりではありませんが調査しています。自転車で来た人と車で来た人は拮抗している。ということは、自転車で来た人も相当程度買い物をしてくれる上客です。これはドイツですけれども、1カ月の来店回数も自転車の方が多いという結果が出ております。
  もう1つ、荷物があります。車で来ないといけないような荷物を持って帰っているかというと、郊外店でも平均2.8個しか持っていません。車で来ることは荷物のせいなのかというと、残念ながらそうとも言えない。部分的にどうしても荷物が多いという人は中にはいると思います。たくさん買った人もいると思いますが、そういう結果になっております。
  このように、まず、自治体が主導で推進することが大事で、それに呼応して店も頑張ることが必要かなと思います。
(図49)
  次に、レンタサイクルの話に少し触れます。日本の自転車保有台数は、2000年からほとんど横ばいです。8500万台です。毎年1100万台が市場に売れているにも関わらず、保有台数の純増は35万台。1100万台ぐらい売れているのに純増が33万台しかない。古い自転車がどんどん廃棄処分されているということです。使い捨ての時代です。単純計算すると、平均の耐用年数は8.1年です。逆に言うと、保有台数は飽和状態になっているのではないかと思います。これは大事な点です。
  それと同時に、自転車は使い捨ての時代になった。一部は海外に輸出されたりしていますが、それでも、何百万台が廃棄されていると考えざるを得ないと思います。
(図50)
  それから、自転車の価格。日本の平均価格1に対して、ドイツ4、フランス2.7、オランダ7.0という価格です。非常に日本は安い。スーパーなどには安いのがたくさんあります。自転車は日本では非常に買いやすい、お求めやすい価格です。
(図51)
  盗難件数も、多い多いと言われていますが、最近どんどん減ってきています。ところが、パリは盗難の統計はないんですけれども、オランダでは、保有台数1800万台に対して75万台盗まれている。つまり、盗難率は4.1%。ところが、日本は8600万台中40万台盗まれていますから、盗難率は0.46倍。つまり、盗まれる割合は、オランダなんかに比べたら圧倒的に少ない。東京はちょっと高いですが、それでもオランダよりは低い。何故かと言うと、簡単ですね、盗まなくても値段は安いんです。そんなに高いものじゃない。それから、どんどん廃棄されてしまっています。
(図52)
  そういうことを前提にしてレンタサイクルが本当に有効なのかを考えてみると、レンタサイクルの利用についてのアンケートを何カ所かで行ったのですが、大体同じようなことになりました。レンタサイクルは適正な料金だったら使いますと言っているのですけれども、利用する意向のない人も3割から4割ぐらいいるのです。これは日本流の潔癖症、取り箸を使って他の人がさわったものを余り使いたくない、というようなもので、そういうこともあって、普通の放置自転車を転用したような自転車は、駐輪場が満杯であったり、レンタサイクルの駐輪場は駅から近いなどの条件が違う場合は、もちろんやむを得ず使うと思うのですが、一般的には同じ条件だと日常的に利用する場合は自分で買うという状況です。  
(図52)
  ですから、レンタサイクルで注意しないといけないことは、鳴り物入りで放置自転車を転用した、これは素晴らしいとよくマスコミで報じられるんですが、残念ながら、使うという意向のある人は少ない。駐輪場料金より大分下げないと、また、駐輪場が満杯で自分の自転車を使えない状態でないと使ってくれません。当然駐輪場料金よりも相当差をつければ使います。
(図53)
  このように、条件を相当有利にしないと使ってくれない状況です。自転車保有率が高いし、安価で入手ができます。ですから、高級自転車にするなどの差別化をしたり、潔癖症な人もいるので専用自転車にするならできるかもしれませんが、コミュニティサイクル的なものは日常的には少し使いにくいかと思います。それから、レンタサイクルの料金も非常に下げないといけないと思います。
  そのように、レンタサイクルを導入しようと考えておられる方もいるかもしれませんけれども、要注意です。一般の自転車よりも条件設定を余程よくしないと使ってもらえない。せっかく鳴り物入りで登場しても、使われない状況で雨ざらしになるという可能性もありますので、ご注意いただきたいと思います。

 

5.自転車の空間別政策

(図54)
  空間別政策についてお話します。
(図55)
  世界の自転車空間です。自転車計画を各市毎に見ました。ニューヨークですと1400キロ。ロンドン、900キロ。パリ、600キロ。世界の大都市はこんな状況で計画を持っています。これをちょっと頭に置いていただきたい。
(図56)
  それでは、日本はどうか。東京のネットワークは34キロ。名古屋で100キロぐらい。1けたか2けた違うんじゃないのと思われたかもしれません。特に世界の大都市東京が34キロです。ニューヨーク、ロンドン、パリは、数百キロから千数百キロです。これに比べて何と貧弱か。
  ところが、少し違う観点があります。例えば、オランダは、専用道の割合が13.5%しかない。ニューヨークでも1400キロ、マイル表示で909マイルあるといいますが、その計画を見ると、専用道、専用レーンというのは4分の1しかないのです。
(図57)
  他の都市でも自転車道の計画で専用は3割とかそんな状況です。パリはわからない。統計がはっきり出ていないのです。
(図58)
  これはパリの自転車道の地図です。これを見ると、この実線が自転車専用レーン。点線はバスと自転車の共用です。裏道へ入るとどうなるか。途中まで専用道が続いているけど、その後が何もない。これでもう600キロのうちの四百何十キロが完成したと言っているのですが、こんな状態で本当に完成したと言えるのか。
  ということは、別に専用道ばかりをつくろうという考えではなくて、専用道と共用道をセットです。先程のニューヨークでもそうですね。セットで考えるからできるのです。
  リヨン市の副市長さんに聞いたら「すべて専用道でカバーできませんよ」と言っていました。
(図59)
  これはロンドンのネットワークの地図です。私はこの地図を頼りに去年現地を見てきました。
(図60)
  この写真で、どこに専用部分があるのですかと思われるかもしれません。しかし、ちゃんとこういうふうに自転車利用者がたくさんいますね。自転車道である、ネットワークだよ、ロンドン自転車ネットワークだよという看板は一人前にある。
  日本は確かにキロ数から見ると、見劣りしました。しかし、世界の自転車道というのは、残念ながら共用道を多く取り込んだ上での自転車道ですから、我が国もそれをちゃんと取り込んだ上でやれば、それほど見劣りするものではない。積極的に共用道を取り入れるべきだと思うのです。共用道が多い国も、事故は日本より圧倒的に少ない。先程東京の茅場町は、交差点だけ専用道が切れていると言いました。むしろ海外は交差点だけ専用道がある。何故かと言えば、交差点が一番危ないからです。
(図61)
  これはロンドン・ピカデリーサークルの近く。こんなような状況でクルマと共用して走っています。  
(図62)
  これはベルリンです。600キロ。こういう状況で走っています。
(図63)
  これはパリ。オペラ座の近くです。
(図64)
  国レベルで紹介しますが、イギリスでは、全国で1万9300キロのネットワークが2007年12月までに完成したと豪語しています。しかし、よく見ると7割が自動車と共用です。
  こういうことで考えると、専用レーンばかりにこだわる日本が距離数が少ないのはあたりまえです。
(図65)
  それでは、共用が危ないのではないかという次の論点に触れたいと思います。
  これも統計資料がないので、仕方なしに大枚数万円を出して、出してもらった自転車事故の資料です。13年に自転車事故が17万5000件あった。どこで自転車事故が起こっているかということを計算して出してもらった。そうしたら何と交差点で71.1%。交差点以外の車道で12.6%。やはり車道でもあるじゃないかと思われるかもしれません。でも、歩道で7.2%も起こっている。そのために歩道に上げたんのではないのか。注意深い自転車をよく知っている人は、これは自転車と歩行者の事故だと思うでしょうが、残念ながら歩行者の事故は千数百件しか起こっていません。残りは自転車と車の事故が歩道で起こっているのですね。コンビニの駐車場などから出てくる車にはねられたというものです。
  そういったものを合わせると、交差点ないしはミニ交差点みたいなものが、8割ぐらいです。これを頭に置いていただきたいのです。他に、自転車以外の事故の交差点割合はどれぐらいあるかを同じ調査で計算したら43%しかない。
  つまり、自転車事故以外では、他の歩行者も入れた交差点の事故割合は、自転車の半分なんです。自転車の事故はいかに交差点が多いかが、分かります。
(図66)
  ですから、先ほどのイギリスでもそういうことをわかった上で、交差点だけ専用レーンをつけているんですね。
  それでは、車道は危ないのではないかという点です。車道を走っている車に後ろからぶつけられた自転車事故は5000件しかない。5000件もあるとおっしゃるかもしれません。しかし、3.1%しかない。自転車事故以外の後ろからのひっかけは何と48%、5割ぐらいが後ろから追突です。ところが、自転車事故に関しては3%ぐらいしか追突はない。ということは、いかに車道上、歩車道区別のないところで後ろから車にはねられている事故が少ないかということがわかっていただけると思います。逆に交差点が多いということはわかっていただけると思います。(なお、車道通行している自転車の割合は、だいたい2から4割で決して少なくありません)。
(図67)
  そういったことを頭に置いて、米国の連邦交通省はお金をかけて調査をしています。これも立派な交差点です。車が出てきた時に歩道を通っている自転車の人がいます。何でこんな調査ができたかというと、アメリカは自転車が歩道を通ってもいいし、車道を通ってもいいんです。ヨーロッパの国は歩道通行禁止ですが、アメリカは条例で禁止されてない限りは歩道を原則通れるということが前提でこういう調査ができたわけです。こういう状態で、車道を通って交差点に入ってくる人ははねないけれども、特に左側通行で、つまりイレギュラーに歩道から交差点に入ってくる人が、一番危ない。事故の統計をとっても、歩道から入ってくる人の割合が圧倒的に高い。しかも、歩車道の通行割合から考えると、6倍から7倍ぐらい危険だということがわかった。
(図68)
  日本でも同じようなものがないかと探したら、やっとありました。ただし、2000件ぐらいの件数に基づいて分析したのがアメリカですけれども、日本は十数件しかありません。その中で、右側通行で歩道に入ってきた時の事故が十数件のうちで13件。右側通行で車道から交差点に入ってきたのが2件。左側通行で入ってきた人は0。こういったことから、車道から左側通行で交差点に入ってきた自転車は、事故はほとんど起こりにくいということはわかっていただけると思います。
  これは自動車の運転手から見える視角から考えても当然です。
  これは自転車事故300件について、ミスの原因を3つに分けた結果です。1つは認知ミス、見えなかった、見落とした、これが自転車側で62%、自動車側で79%ある。次の判断ミスというのは、見えていて頭で自転車がいるということはわかったけれども、残念ながら予測以外の行動をとってはねてしまったということです。
  ところが、見えていてハンドル操作を誤ったというのは、車側では300件のうち0件です。つまり、ハンドル操作を誤って自動車が自転車と事故を起こしたのは0件ということです。これは先程、後ろから見えている自転車に近づいてひっかけた、ハンドル操作を誤った件数は少ないと言いましたけれども、それと符合するわけです。自転車側も、例えば高齢者が乗っていてふらついたなどのハンドル操作ミスというのが2%しかない。
  こういうことから考えて、危なっかしいと思われるハンドル操作で事故が起こるというよりは、見えてないから事故が起こる。見えないのは交差点が圧倒的に多いわけですから、事故が圧倒的に多いということと符合するわけです。
  こういったことから、自転車の事故を防ぐには、交差点の事故を防ぐこと、さらに、交差点の事故を防ごうとするなら、歩道から入る自転車を少なくすれば明らかに少なくなるということがわかり切っています。自転車が自動車から見えるようにして自転車が車道を走ることは、歩道を通って交差点にそのまま入ることより遙かに安全であるといえます。そういった科学的な議論をすれば、特に交差点も車道を通って交差点に進入することの方が極めて安全だということが、何回もの調査から明らかになってきています。
(図69)
  そういうことから、例えばアメリカの自転車マニュアルでは、車から見えることが大事だということで車道を真っ直ぐ通るように書いています。日本では駐車列があったら、駐車列が途切れたところで、道の端の方により、駐車している車があると車道側に戻るという走り方がしますが、これは駄目なんです。ゆっくり走っている車道については、堂々と真ん中を走りなさい、そうでないと車から見えなくなってしまうよと書いています。
(図70)
  アメリカの自転車広報センターというところが、自転車のマニュアルを全国に広報しています。連邦の公益法人です。そのマニュアルに書いてあることを紹介します。
  「自転車は歩道を走るべきでしょうか」「いいえ。自転車の歩道通行は自転車とクルマの衝突事故の重要な原因です。歩道の方が車道よりも安全だと思っているかもしれません。しかし、この歩道通行の問題点は、自動車からほとんど見えないから危険だということです。」と先程の話を言っています。
  その理由の2番目は、「歩行者との衝突の危険にさらされます」ということです。これに加えて歩道の路面は危ない。劣悪な状態です。はっきり言ってでこぼこです。従って、連邦も、公的機関とともに、自転車は歩道通行ではなく車道通行を走るように言っています。こんなことはアメリカだから言える、ということではありません。日本でも状況は同じです。ですから、ちゃんと冷静な科学的な目で見て、どこが安全かということを考えて自転車を使用していただきたいと思うわけです。
(図71)
  ただし、そうはいっても車道も危なくはないわけですから、「ALLOWED USE OF FULLLANE」。つまり、車道いっぱいに自転車が通ることを許してくださいねという標識があります。ニューヨークの1400キロの路線にはここは共用路線ですよということちゃんと掲げてあって、「ここは自転車も通りますから、自動車は注意してね」ということを広報します。日本は、標識などでそういう表示をしてないわけですから、もう少し日本もこれに見習って前に進む必要があると思います。
(図72)
  こういうことから、2007年7月に、日本国政府の交通対策本部で自転車の安全利用五則が決定されましたが、そのトップに、「自転車は、車道が原則、歩道は例外」という宣言が出ました。もともと考え方は、こうだったんですが、それをもう一回ちゃんと原則に戻したということになります。これらは、例えば、「子どもはヘルメットを着用」というのは、これが大事だ、事故の防止に役立つのだということを理解した上でこういうことを出しているのですね。それに基づいて事業が展開されているという状況であります。
(図73)
  幹線道路では、道路構造令によると、一番左側の駐車車両と次の車線の間が1.5から1.75メートルの空間があります。諸外国の自転車専用レーンは大体1.5メートルぐらいです。先程のイギリスは1.2メートルとか1メートルでした。そういうことから日本の車道にも一番左側の駐車車両のある車線に自転車の走る空間は十分あります。
(図74)
  それでは、駐車車両が途切れた空間に、隣の斜線から車が入ってきたら危ないじゃないかと思われるかもしれません。しかし、残念ながら、私が調査したところ、503台の通行車両のうち、駐車車両のある一番左の車線に入った車は13台しかなかった。18台のうちの5台は、左折のためです。これはやむを得ない。ですから、ほとんどは左側の車線に入らないのです。
  ということで、結構安全に走れる。ちゃんと見えるように走れば認知ミスは起こらないということになると思います。ですから、意外と走れる空間はあるのです。これに加えて、例えば裏道などもそうですね。
(図75)
  私はそういうことを前提に、茅ヶ崎市で、茅ヶ崎駅の南側地区を悉皆調査で道路の評価をさせていただく、受託調査をやりました。どこが安全か、どのくらい快適に走れるかを、全部の道路についてやりました。この評価を見て、市民に自ら安全な道を見つけ出してもらって、日常生活で、通勤通学で、決まった道を行かれるのでしょうから、安全な道を選んでもらう。これも事故をなくす大きな情報提供だと思います。これはインターネットで公開されます。でき上がったばかりのほやほやです。こういうこともできるということをご理解いただきたいと思います。
(図76)
  それから、左端には、アメリカ等と同じように、この車線は車と自転車の共用であることを書いた、看板を立てればもっといい。カラー舗装をすれば非常にいいかなと思っております。
  カラー舗装をすれば、表のように路側帯への車の進入率が3分の1に減っております。こういう意味から考えると、カラー舗装なら車も気をつけることができるかなと思います。
  最近の調査結果ですが、自転車専用レーンを左端につくって、物理的に分離せず、色を濃く塗り、看板も立てました。そこに「あなた、駐車しますか」というアンケート調査をドライバーが多い人たち300人ぐらいにしました。これは2週間ぐらい前にやったアンケート調査です。駐車しますかと聞いたら、絶対駐車しない、まず駐車しない、ほとんど駐車しないを合わせたら、97%が駐車しないと答えています。カラーで自転車専用レーンであることを示す、また看板等を示していただければ駐車しません。これは控えめに見ないといけない部分があるかもしれませんが、そのように言っておられます。従って、自転車専用レーンは、駐車車両があるから意味がないとおっしゃるかもしれませんが、アンケート調査によるとそういうことはないことになります。カラー舗装をしっかりやれば、進入の車両が少なくなることは明らかだと思います。
(図77)
  自転車空間の確保を安全空間、ソフト面、ハード面で行い、自転車推進をやっていただけたらと思います。

 


6.自転車の課題別政策

(図78)
  それから、最後に自転車の課題です。
(図79)
  やはり一番大きな問題は放置問題です。今聞いていただいて、少し自転車を前向きに取り組んでいただける気持ちになっていただける方も中にはいらっしゃるかもしれません。最初に水をかけたらこういうのは駄目だと思います。
  最後に、矛盾しないのだということを簡単にご説明します。
  放置自転車を調査するのは難しいのです。若干ノウハウがありまして、いろいろ調査させていただいて、ある程度うまくいっています。
京王線の橋本駅で調査をしています。112台の放置自転車の回答が得られた。そのうち、駅に徒歩で来ることのできる人が3割。それから、駅前施設しか使わないという人も6割。近隣の駅まで行っている人が2割。このうちの近隣の駅に行っている人を直行型に転換できないかということを考えたわけです。
(図80)
  細かい説明は省略しますが、よく見ると、家から駅まで自転車で来て放置をして、又は駐輪場にとめて、隣の駅まで行って、そこから歩いて目的地に行くと大体21分かかる。ところが、自転車で直接目的地に行くと16分。しかも前者は駐輪場料金を入れて360円という費用計算になります。5キロメートル以内だったら、これと同じような計算になります。放置の人で近隣の駅に行っている人は少ないのではないかと思われるかもしれませんが、実は放置の人の56%の人が近隣の駅まで行っている。駐輪場でちゃんととめている人は近くの駅の割合が4分の1にしかならない。近隣の駅というのは5キロメートル以内の駅です。先程言った5キロメートル以内では有利に行ける。行ってもいいという人が過半数いるという状態の駅です。
(図81)
  直接目的地に行くと16分という状況を示して、「こういう状況で、あなた、自転車で直行しますか、依然として自転車を駐輪して駅経由で行きますか」と聞いたところ、放置をしている人の71.4%は、「私は、時間と費用が節約できるんだったら」という条件ですけれども、自転車で直行型にしたい。依然として駅経由で行きたいという人は22%しかいなかった。
  ということから、町中の自転車政策、自転車利用を促進して、放置をしている人向けにピンポイントで重点的に広報した場合には、7割の人が行ってもいいといっているわけです。これをそのまま額面通り受け取ったとしますと、鉄道利用者で放置している人の7割が減る。つまり、自転車利用促進策は、決して放置と矛盾するものではなく、もっと直行型を増やせば自転車の放置は少なくなる、こういう計算になるのではないかと私は思います。0にはならないと思いますが、放置にとって自転車利用促進は目の敵ではないと理解していただきたいと思います。
(図82)
  安全性の問題です。自転車利用が増えたらもっと危ないのではないかとよく言われます。しかし、各国の資料で、安全性は飛躍的に向上するといっています。理由は何かと言うと、自転車利用を促進したら、特に車道利用で皆さん促進しているわけですから、行政にも責任があって、事故が増えないように必死で頑張る。これが1点。それから、乗る人もルール・マナーの意識が向上する。車道を運転する運転手も意識が向上する。この3つが合わさって飛躍的に安全性が向上すると言いたいんです。
(図83)
  その結果がこれです。これは皆さんたびたび聞かれた方も多いと思います。80年にはオランダ以外、自転車政策は各国でやってなかった。2002年はドイツが参入した年です。80年と2002年を比べるとアメリカは3割減。その他の国でも5割か7割も自転車事故死がへっていますが、日本はほぼ横ばい。歩道通行を中心として、自転車利用の促進をニュートラル、抑制的にも推進的にもやってこなかった結果です。他の国はかねや太鼓で自転車利用を促進したら事故が減ったという結果になっています。
(図84)
  自転車利用距離と自転車事故死者数の関係を示すグラフですが、横線が1人当たりの自転車利用距離です。走行距離当たりの事故を考えると自転車利用が多い方が自転車利用の死者が少ないという結果が出ています。これは明らかに反比例の関係が出ていると言えると思います。
(図85)
  それから、ルール・マナーの悪さも問題です。自転車利用を促進したら、けしからん。こんな状態で自転車利用を促進できるのと、これも私もうんざりするほど言われるんです。しかし、オランダ政府はこう書いています。信号機の違反はオランダでも物凄く多い。自転車利用のいら立ちの最大の原因は信号機だ。だとすると、自転車利用を促進するためには、信号機を守らなくていいように優先信号、センサー信号にしようということをオランダでは考えました。つまり、自転車にチップを埋め込んで、それに反応したら青に変わってくれる信号機をどんどんつくる。自転車全方位を青信号にしましょうという措置もする。さらに、自転車用信号機の不設置を検討する。環状交差点などをつくって、なるべく信号機をなくせば、守る、守らないは関係ないではないか。何が言いたいか。ヘルメットもそうですね。ヘルメットは、実はこう書いてある。ヘルメットの着用義務化はしないのです。何故かというと、義務化は利用を抑制するからです。ここまで来ているのかと、私もびっくりしました。
  それから、自転車放置も、オランダの自転車政策には何も書いてない。放置はあるのですけれども、放置問題はないんです。ですから、駐輪対策はあるが、放置対策もない。つまり、これらに一貫して流れているのは何かというと、自転車利用を促進しようという考えです。つまり、自転車利用を促進しようとすれば、ここまで腹をくくらないといけない。中途半端な自転車利用促進策では、駄目だ。交通手段の1つですぐらいの自転車利用促進策では、絶対前に進みません。ここまでやるからこそ、オランダは世界の自転車国だと言えるわけです。
(図86)
  そうは言っても、ルールを守らないのはけしからんではないか、それはどうするのだ、という話があります。日本でもそこまで考えて、守れるようなルールなり設備なりをするということをまず第一に考えていただきたい。放置しなくて済むように、なるべく駅に近い便利な駐輪場所を優先して重視するということを考えていただきたい。オランダのルールで今問題になっているのは、自転車の酔っぱらいや、灯火を夜間つけないことです。これは取り締まりをきっちりやるそうです。誰が何と言っても危ないからということです。
(図87)
  それでは日本は、どうしたらいいか。これはいろいろな考え方があると思います。広報、啓発をもっとしっかりしろということもあるかもしれない。でも、1番は、自転車利用の促進の立場から自転車草稿を優先するために、ルールをなるべく最少にしようということを考えていただきたい。
  2番目は、車道通行をもっと推進していただきたいということです。これは、「えっ」と思うかもしれません。今まで何十年間、自転車は歩道通行を中心に考えられてきました。自転車は歩道では最強者であります。従って、裸の王様でルールを守らなくても自分の安全は守られると思っていた。神話です。その神話があるから、先程見ましたように、交差点に一たん停止せずにどんどん入っていって、危ないところへどんどん飛び込んでいって、事故を起こしていたということです。
  車道に行くとどうなるか。自転車は車道の中で最弱者であります。ルールを守らないと自分の身がもたない。このルールを守らなくても大丈夫だと思って過信する状態が何十年続くか、それともルールを絶えず守らないといけない立場に置かれるかによって、ルールを守るか守らないかという本能的な守り方が違ってくると私は考えております。
  2週間前にやったアンケートでも、「車道通行の時の方がルールを意識しますか、歩道通行の方がルールを意識しますか」と聞きましたら、当然予測どおり「車道通行の方がルールをより意識します」と、51%の人が答えています。ということから、やはり車道通行をしっかりすると、ルールを本能的に守る、意識せざるを得なくなる。
  従って、傍若無人の歩道通行者を現実に減らすことができるし、ルールを守る自転車通行者を増やすことができる。それは徐々にです。一気にはできないと思います。
  そういうことになると、歩行者もハッピーになる、自転車も事故が少なくなる、自動車も緊張感を持ってお互いに共存を心がけていただく、自動車から自転車に転換してもらえる、こういうこともねらって車道通行はいい結果が出てくるのではないかと考えられます。
(図88)
  次に、自転車は雨に弱い。しかし、一言で言うと、実際、自転車で通勤している人で雨に弱いと思っている人は16%しかない。重要な事実であります。月3日ぐらいしか自転車通勤できない日がない。雨があるからというのは、自転車通勤が嫌だと思う人がためにする議論です。自転車通勤してない人が、自転車通勤を嫌がる理屈と言いますか、自転車を否定する、あるいは優遇したくないがためにする議論ではないかと私は思います。現実に自転車通勤をやっている人は、雨の日もいろんな対処をしております。屋根つきの自転車を今開発中だと聞いております。私もいろいろ提案しているのですが、ピザ配達のオートバイもヒントにしています。あそこまでいくと大変ですけれども、ぬれないような軽量の自転車があってもいいのかなと思います。

 

7.今後の自転車政策の方向

(図90)
  今後の自転車政策の方向についてお話します。
(図91)
  何度も言うようですけれども、優先的な位置づけが必要です。5キロメートル以内の移動についてと条件つきですけれども、優先して対策が必要だ。このような位置づけの自転車計画の策定を是非やっていただきたい。
  通勤や買い物での効果は大です。ネットワークをつくりましょう。先程言いましたイギリスでもどこでもそうですが、自動車と自転車の共用空間もネットワークに入れる。ただし、自転車走行空間の安全性を調査した上でやることが大切です。もし調査したいということであれば、私の方にご相談いただければご協力できると思います。
  最初から放置問題などの課題で水をかけるようにしないで、ちゃんと矛盾しないような解決策を提案する、そういうことによって自転車政策は推進されると思います。
(図92)
  最後に、これはコペンハーゲンの自転車政策に書いてあることです。コペンハーゲンは、2002年には「世界の自転車都市」と言っていた。しかし、2005年ぐらいから急に「世界最良の自転車都市」になった。最良という言葉を入れました。随分豪語するものです。ここには、こう書いてあります。「コペンハーゲンの人々が、自転車利用をするのは当たり前のように思われているかもしれません。しかし、これは不断の努力で達成されているのですよ」と。絶えず自転車走行環境の整備や提供が必要なのです。
  確信的な自転車利用者は少数です。多くの普通の自転車利用者は、自転車を使おうかな、車を使おうかなと絶えず選択的に考えている。その結果自転車を選ぶ。その場合に、自転車として受けられるだけのハード、ソフトの環境を絶えず提供し続ける。日本の場合、ハードを一度つくったら、もうこれで自転車政策終わり、あとは使う人の勝手だと考える自治体が結構多いと聞いております。そうではなくて、ちゃんとアフターケアをして、これを何に使うか、目的は何か、目標値は何か、など、ソフト、ハードでちゃんと施策を講じて、管理をすることが必要かと思います。
  最後に、一言申し上げますと、ここには出ていませんが、この次に、コペンハーゲンでは雪が降った朝、まず自転車道を雪かきします。7時半までに自転車道に雪が残ってないように頑張ります。もちろん、大雪が降ったら全部は無理かもしれないが、頑張ります。車道は、その次です。これが本当の自転車を優遇する1つの方法だと考えられるわけです。ここまでやる覚悟がないと、自転車利用促進策はなかなか前へ進まないと私は思っております。
  以上で、私の話は終わりたいと思います。(拍手)

 

フリーディスカッション

與謝野 古倉先生、大変ありがとうございました。随分啓発される内容の貴重なお話が多々あったかと思います。
  また、都市空間における自転車利用の可能性についても皆さんにおかれましては、かなり認識を変えられたことと存じます。また、後半最後のコペンハーゲンの方の人々の言葉のご紹介は、ものごとの事態の読み取り方、指導の進め方などについても、私は認識を新たにさせていただきました。ありがとうございました。
  それでは、せっかくでございますのでこの場でのご質問を2〜3お受けしたいと存じます。
木田(日本スポーツコミッション) 古倉さんには非常にいいお話をお伺いできてありがとうございました。
  私、大学卒業をする時に自動車の教官をやっておりまして、それ以来古倉さんのお話は聞いておりました。普段、我々のようななかなか稚拙なコンサルの人間が言えないようなことを言っていただきまして、明確なお話だったと思います。
  1つ、古倉さんのお考えをお聞きしたいと思います。自転車利用促進の一方で、自転車利用者側の問題が今非常にありまして、無灯火や交通ルール無視などが多くある。私が昔勉強したところでは、欧米では、小学校、中学校、高校に行くに従って、そういう教育もしっかりやっていると聞いています。日本の場合、小学校の時に少しやって終わりぐらいの話です。この辺につきまして、古倉さんのお考えをお聞かせいただければと思っています。よろしくお願いします。
古倉 今ご指摘のように、オランダの政府の資料によりますと、小学校の必修課程で自転車の乗り方をやっております。それ以前に、大体3歳になったら、親は子どもに自転車を買い与えている。親が子どもへ自転車の乗り方、ルールを含めて教育をしているということですから、単に学校教育だけではなくて、そういう家庭の中でもしっかり教育がされている。しかも、3つ子の魂百まで、3歳の魂が100まで続くように教育をされていると聞いております。しかも、小学校の課程で、カリキュラムにちゃんと入れてやっている。
  日本でも文部科学省さんのお話を聞きますと、毎年学校の課程でも、200万人以上の方々に対して学校教育の中で自転車教育をしているそうです。国としてあるいは公共団体としてはやはり頑張ってやっていただいていると思います。
  従って、もう少し組織的に、しっかりした実技的な話を含めてやっていただかないといけないかなと思います。
  ただ、一たん教育を受けても、大人になったらすぐに携帯電話をしながら乗る、無灯火で走るなど、そういう違反が非常に多いことも事実であります。
  これは繰り返しになりますが、もう少し自転車利用者としての自覚を持ってやっていただく必要があるかと思います。
  その場合に、単に守れというのではなくて、自転車利用政策促進策の一環として、あなたが責任を持って自転車利用をするという期待を受けて、つまり、利用する側も覚悟を決めていただく。そうしないと利用促進策は形式的になってしまいますので、その2つがセットになってでき上がるということになります。
  従って、そういう人たちに対する広報、啓発も、当然車道通行の中で、危ないところにこれでもかと看板を嫌というほど立てるとか、場合によっては街頭指導をしてもらう、そういうことをしてしっかりやる、広報、啓発してもらうことも大事かと思います。車道通行という徐々に浸透していくルールの一方で、危ない箇所に広報、啓発をしてもらう。それから、教育ももう少し組織的にしてもらう。そういうことをもって、ルールを国民的に守ってもらうようにすることが必要かなと思います。お答えになったかどうか、以上です。
三谷(東京大学) 普段自転車で10キロほど通学をしているので、興味深くお伺いしました。2点お伺いをしたいんですけれども、自転車の利用促進というと、自動車を主に使っている運送業界などから反発があるのではないかと予想しています。まず、自転車が自動車が道路を共用するというお話がありましたが、路上駐車で自転車が外に膨らんだりしている時など、自動車がスピードダウンせざるを得ない場合があると思います。そうすると、自動車の渋滞が増えることによって、最終的に環境負荷が増えるのではないか、そういう議論も成り立つと思います。
  実際、自動車が1台減って、自転車が1台増えることによって、本当に環境負荷は減るのか、そういうスタディーはあるのかどうかということをお伺いしたいのが1つ。
  もう1つ、事故が減るという部分ですが、今回スライドの方で、自転車事故の中で歩道に占める割合と車道で占める割合とご提示していただきました。実際の歩道の利用者数と歩道で走っている人の数と車道で走っている人の数とがわからないと、単純に事故数だけ比較してもちょっと比較にならないと思うので、有無をいわせずに車道を走った方が安全だというために、キロ当たり、時間当たりで実際に事故が少ないんだという調査をしていただければなと思いました。
  以上です。
古倉 どうもありがとうございます。学問的に鋭い点を指摘しておられるので、私も非常に勉強になりました。
  まず、渋滞が増えるという点ですが、そういう研究があるかどうかという話については、私の知る限りでは、傍論的に、端っこのほうで述べたのはあるかもしれませんが、正面から取り扱ったのは、私も不勉強で、知る限りではありません。
  ただ、私も、論文の中で若干触れてはいるのですが、例えば、先程申し上げましたように、乗用車1台では1.3人しか乗っておりませんが、都市内の道路に占める車の投影面積と言いますか、面積と自転車自体が占める面積では明らかに車の面積が大きいわけです。そういうことを比較しますと、車が走っていて、道路に占める、車の面積だってどんどん小さくなっていって、自転車ぐらいの車があったとしたら、道路全体に占める割合は減って、通行容量はもっと増えるわけですから、そういう意味で、車1台が減って、その分自転車が仮に増える。つまり、1.3人分が減って、それに相当する1.3台の自転車が増えると考えると、1台減って1.3台自転車が増えた時の面積計算をした場合、明らかに都市の中の道路に占める割合はあいてくる。従って、渋滞が少なくなるのではないかと推定します。これは投影面積から来るものです。
  自転車の通行容量を考えた場合に、具体的な数字は忘れましたけれども、3メートル幅の自転車通行容量は、1時間当たり何千台も通せるのですが、3メートル幅の自動車の通行容量は千数百台。それを比較すると、明らかに同じ幅のところを自転車が通れる通行容量と、車が通れる容量を比べると、やはり自転車の方が通行容量が大きいということは、面積から考えても明らかにわかっていただけると思います。
  従って、そういうことを比較していくと、渋滞の原因である交通量の多さは、自転車促進によって、全体の交通容量に対する実交通量が減るので、そうすることによって渋滞が緩和される可能性があるのじゃないかと思います。
  もう少し客観的な数字を比較してみないとわからないのですが、概念的に考えたらそういうものかなと思っております。
  車道と歩道の通行比率の問題ですが、今回アンケート調査をしようとしたらみんなに反対されました。なかなか難しいのですね。「あなたは普段何対何で走っていますか」と聞いても、「うーん」と考え込んでしまって答えが出てこないのです。
  アメリカなんかでは、一番最近で、直近のラストに走った時に、自転車がどこを走ったかを聞いたところ、いろいろなカテゴリーがあるんですが、その中で見ると、車道を走ったのが4、歩道が1、全国9000人に対してそういう調査があります。従って、アメリカの場合は1対4ということで計算ができる。
  日本の場合どうかというと、アンケート調査で、何種類かあります。私も調査したところ、確たる数字は出ないのですが、「あなたは主に車道を走りますか。主に歩道を走りますか。半々ですか」ぐらいしか聞けない。それで案分していくと、車道通行の割合が3で、歩道通行が7ぐらい。そういう結果が出ています。他の調査でも4・6とか2・8とか、そういう数字ですから、2から4割ぐらいが車道通行で、6から8割ぐらいが歩道通行である。中をとって、割合を掛け直して計算しても、歩道の方が危険だということになろうかと思っております。
  もう少し立証しないといけないのですが、以上のようなことから推定されるとご理解ください。
海老塚(都市再生機構) 私も去年アメリカのニューヨークとシカゴとボストンを自転車で2週間ほど走ってきました。今日のお話にあったように、快適に安全に自転車で走れましたので、日本でもそういう形と空間をつくっていただければと思います。
  1点質問なんですけれども、鉄道会社が何で駅のところの駐輪場の整備をしていないかというのはちょっと不思議なんです。運賃収入が上がるわけですから、やってもよいのではないか。鉄道の施設間に結構空間がありますので、そこで駐輪場をつくればいいんじゃないかと思うんです。今はどちらかというと、自治体にその義務があるようなことで、空間がせっかくある鉄道事業者があまり努力してない。ここのところがよくわからないんですけれども、教えていただけますか。
古倉 放置対策について、私の方で大分調査、研究させていただいて、結論は先程のようなことです。直接目的地に行ってもらった方が放置自転車が少なくなる。鉄道会社にとってはマイナスになるかもしれません。乗ってくれないということになりますから。もともと日本の放置問題の発祥は、大都市に人口が集中して、しかも駅から遠い住宅地がどんどんできた、一気に駅前放置が増えたという背景があったかと思います。
  外国のように、都市政策がちゃんと整理をされていれば、そう一気に増えることはなかった。日本の場合、本当に無秩序な市街化がどんどん進んだ。その結果として駅から遠い家がどんどん増えていった。そのことで、一気に40年代の後半から放置問題が物凄く大きな社会問題なったという背景があります。
  その時に、詳しい経緯は私はわかりませんが、鉄道会社は、例えば少数の普通の常識的な数の自転車であれば鉄道会社も、お客さんを増やすという意味が、例えば地方鉄道の場合だと意味もあったかと思いますが、大都市は、お客さんも、満員電車でこれ以上混雑して欲しくない。むしろ時差通勤通学をやったり、迂回していってくださいと言っているぐらいの状況でした、ちょうど昭和40年ぐらいです。そういう大都市に緊急に人が集まってきた時の対応策の一環として、これ以上お客さんを増やしてもという気持ちもあったし、それから一気に放置が増えて、とても鉄道会社だけでは対応し切れないという状況もあったのかと思います。
  今になってみれば、全国で420万台以上の駐輪場も整備され、放置台数も、ひところの100万台ぐらいが3分の1以下に減っております。こういう状況になって、特に地方鉄道ですと、お客さんをもっと呼び込みたいということで、前向きに取り組んでいただける契機になってきていると思います。
  ただ、全国的に展開をされているような会社さんですと、1つの地方でやったはいいけど、あそこでやっているのにどうしてここでやらないのかという議論が出てくる。地方ではオーケーだけど、大都市ではできない、そういうバランスの問題も出てくるかと思います。一地方だけの短い鉄道であれば、割と機動的に対応できるかもしれない。そういうこともありますので、これからは自治体さんがもう少しそういう目で鉄道会社さんを取り込んでいく。
  私は、放置自転車の調査の時に、「あなたは一体どこの施設を利用するためにここに放置をしているんですか」と、裏をとっているのです。そうすると、大体40%が駅、つまり、鉄道利用者です。残りは駅周辺の施設です。それを鉄道会社が全部責任をとらされても困るわけです。
  もう1つ、お客さんが電車に乗っていった先で働いている時間までもその鉄道会社が責任を持って駐輪場の時間を確保しろということなのか。例えば、パチンコ屋さんに行っている間に、とめている自転車はパチンコ屋さんが責任を持っていいと思うのですが、パチンコ屋さんから出て、隣のスーパーに行って、買い物している時にパチンコ屋さんに自転車を駐輪場にとめられたのではパチンコ屋さんも困るわけです。それと同じことで、行った先で別の仕事をしていて、電車を利用している時間帯でない分を鉄道会社に責任を負わされても困るわけです。ですから、その辺のバランスをどうとるかのところがなかなか難しい。これはいろいろ研究しました。どういうのが落としどころとして一番いいのかということも大分議論させていただいて、報告書を出したりしております。
  これからはそういうことを踏まえて、適正な鉄道会社の応分の協力が必要かと思います。それはちゃんと裏をとってやるべきです。根拠を持ってアンケート調査をして、これだけあなたのところは使っているからこうだよということをちゃんと言った上で、応分の協力をお願いすることが、正しいのではないかと私は思っております。
  以上です。
與謝野 ありがとうございました。皆さんにおかれましては、大変にご熱心にお聞きいただき、またご熱心に質問をいただき、ありがとうございました。
  また、古倉先生におかれましても、非常に熱心にわかりやすく、古倉先生ご自身のお言葉での具体例を伴っての非常に啓発されるお話を沢山いただきました。厚く御礼を申し上げます。
  それでは最後に、本日貴重なお話をいただきました古倉先生に大きな拍手をお贈りいただきまして今日のフォーラムを締めたいと存じます。
(拍手)ありがとうございました。

 



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