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第19回NSRI都市・環境フォーラム

『 オバマ大統領のアメリカと日米関係 』

講師:  ジェラルド・カーティス 氏   

コロンビア大学教授

PDFはこちら → 

日付:2009年7月30日(金)
場所:日経ホール

                                                                            
1. 何故、今、政権交代か

2. 民主党政権の課題

3. これからの日米関係

 

 

司会 日建設計グループ主催によりますNSRI都市・環境フォーラムを開催させていただきます。 本日は、お忙しいところお越しくださいまして、まことにありがとうございます。 皆様方には日ごろより大変お世話になりまして、心から感謝申し上げております。本日は、講演会並びに懇親会を開催させていただきますので、どうぞ最後までごゆっくりお過ごしください。 本日のご案内役は、私、日建設計経営企画室の谷礼子でございます。どうぞよろしくお願い申し上げます。(拍手)
  それでは早速、本日の講演会を始めさせていただきます。
  本日の講師は、ジェラルド・カーティス先生でいらっしゃいます。ご案内のとおり、先生は、日本の政治について長年研究をされてこられ、現在はコロンビア大学で政治学教授として教鞭をとっていらっしゃいます。 本日は、「オバマ大統領のアメリカと日米関係」と題してご講演をいただきます。 それでは、カーティス先生にご登場いただきましょう。(拍手)それでは、先生、よろしくお願いいたします。


カーティス 皆さん、こんにちは。コロンビア大学のジェラルド・カーティスです。
  実をいうと、今日の講演会の日にちを決めたのは、去年の11月でした。その時、日建設計の方々とお話をして、来年の7月だったら日本の総選挙も済んだことでしょうし、新しい政権とオバマさんのアメリカがどういうふうになっているのか、何が問題であろうかということが課題になるだろうと思っておりました。そういうことで、今日の日にちとタイトルも決めたんですが、まさか麻生総理が最後まで解散しないとは思っていませんでした。今日は、これからの日本とアメリカの関係を考えた場合、まず日本はどうなるんだろうかということ、それから、今度本当に政権交代があるだろうか。あるならば、これは日本とアメリカの関係においてどういう意味を持っているのか、ということを考えて行きたいと思っております。
ちょうど昨日、中国の方々がワシントンでオバマ政権との戦略及び経済共同会議を終えたんです。今よく英語では、「G2」という言葉があるように、アメリカと中国が世界のいろんな問題について協力をして対応するということがはやりになっている。気になるのは、東アジアにおける一番経済力のある国は中国ではない。日本なんです。ところが、今ワシントンでは日本の話はほとんど取り上げられていない。私から見れば、中国は大変な台頭ですし、すごい勢いで大変な大国になりつつありますが、ちょっと今アメリカは、中国を過大評価する傾向があり、また、日本については、逆に過小評価というか無視する傾向が強過ぎます。私はオバマ大統領は素晴らしい大統領だと思いますし、応援していますが、アジアの政策ついては正直のところ疑問を持っています。
ただ、この責任は日本側にもあります。日本の総理大臣がワシントンまで飛んでいって、アメリカの大統領に会って何を話すのかということですが、別に話しに行くのではなくて会いに行くわけです。今度もしも日本で政権がかわって、鳩山さんが総理大臣になったら、私のアドバイスは余り早くワシントンに行かないで欲しい。行かない方がいい。その前にまず日米関係を日本から考えた場合、どういうふうにこれから協力をより密接なものにすべきなのか、日本側からどういうことを提案、提言すべきか、を考えて欲しい。これを考えた上でワシントンへ行ってオバマさんと会って、新しい総理大臣が、例えば中国の環境問題、水の問題、省エネルギーについて、日米の協力でこうすればいいのではないかとか、日米中でこうしようかという話をして、オバマ氏に宿題をさせる、そういうことをやって初めて新しい21世紀にふさわしい日本とアメリカの関係になると思います。
  この間、名前はいわない方がよいのですが、ある民主党のトップの1人と話をした時に、早くとにかく誰かをワシントンに送り込んでオバマ政権とのパイプをつくらなければね、といわれたんです。ですから、先程の話ではないんですけれども、今ワシントンへ何をいいに行くかと聞いたら、その相手が驚いた顔をして、「いや、別に何かいいに行くのではなくて、聞きに行く」というわけです。今オバマさんは金融の問題、行き詰まっている医療制度の改革の問題、パレスチナとイスラエル、イラン、北朝鮮、アフガニスタン、パキスタン、いろいろな問題を抱えている。そこに、まだ政権もとっていない民主党の誰かがワシントンへ行って、「オバマ大統領、日本に何を求めていますか」と聞かれて、どういう反応があるのか。ただ苛立つだけです。今、日本に対しては苛立ちが非常にあるんですね。日本は経済大国で、第2の経済力を持っている国であるのに、政治的には日本は何を望んでいるのか、どういうビジョンで動いているのかが、よく見えない。
これから日本の政治が大きく変わるであろうと思いますが、その中で対外政策、外交についてのアプローチ、アメリカとの関係について、より日本が自主的に、もっと積極的にいろいろなことを提案することが非常に大事だと思うのですが、そうなるかどうか。まず、政権交代があるかどうか。そういう点で、私が長年見てきた日本の政治について、今の現状をどういうふうに見ているか、ご参考になるかどうかわかりませんけれども、お話しいたします。
私は、40年前、まだ26歳の時に、大分県に行って、そこから初めて衆議院選に出て結果として当選した新人のところに住み込んでいました。その時、そこの田舎をずっと歩き回って、日本の政治家がどういうふうにして代議士になるかということを博士論文にして、それが『代議士の誕生』という本になったんです。今の日本の政治を見ていると、この40年どういうふうに変わってきたか、非常に考えさせられることが多い。
今日は幾つかのテーマについて、私なりの意見、見方を申し上げたいと思います。
まず、何故今になって政権交代が起こり得るか。今度の選挙の結果、民主党が政権を持つ政党になる可能性が大きいと思う人がほとんどです。ただ、今まで50年以上自民党が、細川政権の8カ月を別にしたら、ずっと政権を持っていた。それが、何故今になって政権交代が考えられるようになったのか。これが1つ。案外その答えが難しいというか、その答えによって、日本の社会の変化がよくわかるように思います。
その次は、今度の選挙、8月30日の選挙の結果はどういう結果が考えられるか。次の政権の課題は何であるか。最後に、冒頭で申し上げた日米関係、オバマさんと日本の関係を、どういうふうに考えるべきか。これからどういうことが求められているのか。多分11月にオバマさんは日本にいらっしゃるんですね。APECという国際機構の会議がシンガポールで開かれるので、行く前に東京に立ち寄ります。広島に行くかどうか、今ワシントンで検討しているようですが、最後に、アメリカと日本の関係について申し上げます。

 

何故、今、政権交代か

まず、何故今、政権交代が起こり得るかと考えますと、私は、日本の新聞がいっていることでは十分な説明にはなってないと思っています。というのは、政権交代が起こり得るのは、麻生総理の人気がない、今、支持率が18%。20%を切ると危ないという論調だからです。麻生さんに総理を続けてほしくないから、政権交代があるだろうと思われています。ただ、今までも麻生さんよりももっと人気がない総理大臣は何人もいたんです。森喜朗さんがやめる直前には、確かに5%ぐらいしか支持率がなくて、私がよく存じ上げた竹下登さんが消費税を導入して、またリクルート事件に絡んでやめざるを得なかった時は、支持率が3.7%でした。ですから、戦後の日本の政治は、総理大臣の人気が下がると総理がかわるんだけれども、自民党は政権を失うことはなかった。ですから、今度は政権を失う可能性があるのは、麻生さんを支持する人が少ないからというのは説明にならないでしょう。
  それから、今日本の経済は非常に悪く、戦後最悪の状態、リセッション、不景気になっている。経済が悪いからその政権を持っている政党に対しての批判が強くなって政権を失うということも言われていますが、これは他の国であるならばそのとおりだと思います。アメリカやイギリスの選挙では、経済が良い時にはその政権を持っている政党がまた政権を持つということが多く、経済が悪くなると追い出す。国民がその時の責任ある立場にある、政権を持っている政党を追い出す。ただ、戦後の日本は逆なんですね。今経済が悪いんだけれども、バブルがはじけてからずっと経済が悪かったのに自民党は政権を失わなかった。なのに、今になって失う。
  戦後の日本の政治史を他の国と比較して分析すると、おもしろいことがあります。日本の場合は、経済が悪くなれば自民党が強くなるというのが戦後の歴史なんです。というのは、こんなに厳しい時にとても野党に任せられないという気持ちが強く、経済が悪くなれば自民党が強くなる。今自民党が政権を失うだろうという予測が大きいのは、麻生さんの支持者が少ないことや、経済が悪いことだけでは説明にならない。
考えてみると、もう1つあり得る理由は、野党のリーダー、民主党という政党のリーダーは非常にカリスマ性があって、魅力的な方で、国民を説得する抜群の才能を持って、またこの政党が政権をとれば大変な期待ができるということですが、日本人の何人がこの民主党に対して大きな期待を持てるのか。鳩山さんは素晴らしいカリスマ性のあるリーダーだと何人の人が思っていらっしゃるのかといったら、多分非常に少ない。
  この選挙の特徴として、またこの結果が読みにくい原因は、自民党に対しての批判は大きいけれども、民主党に対しての期待が余りないということです。あとまだ1カ月もあるこの選挙戦の中でどういうふうにそれが日本の有権者に影響するか、今はまるで読めない面もあると思うんです。
  実は、夕べ講演をしたんです。若い人たちが多く、普通の家庭の人たちの多いところで講演をしました。今の話を皆さんに質問したわけです。今度もし政権交代があるならば、どうしてだと思われますかと。今の民主党に期待をしていらっしゃる方は手を挙げてくださいと。昨日は150人ぐらいいらしたところで講演したんですが、何回聞いても1人も手を挙げない。それが今の現状だと思う。期待をしているというよりも、まあ今の自民党よりは悪い政治をしないだろうという非常に消極的な支持があるんです。
  ですから、今度もしも政権交代が行われるんだったら、自民党が今までのように票をとる機能を果たすことができなくなったということです。要するに、私が見て、今の日本の政治のおもしろさは、日本の長年の社会の変動がようやく日本の政治に大きな影響を与えるようになったということです。これは麻生さんの人気や経済の問題や、民主党は余り魅力ないけれども、まあまあいいのでは、ということだけではなくて、日本の社会の20年、あるいはもっと長い変化が今やっと政治に影響を与えるようになったということなんです。
  昔、若いころ、日本の新聞記者のインタビューで、何故、日本の政治は遅れていると思いますかという質問をよくされました。初めてその質問をされた時に、実をいうとびっくりしました。何故でそういう質問をするのかわからない。何故、日本には他のアジアのどこにもない民主主義が定着していると思いますかという質問のほうがいいと思いましたし、何故日本は高度成長をして、大きな経済力を持って、また、自由で民主的なのだと思いますかという質問をされてもいいと思った。でも、どうして遅れているかという質問をされて、私の返事は決まっていたんです。「いや、遅れているとは思わない」「派閥があるじゃないか」「派閥はイタリアにもあるし、日本の政治の特徴は日本だけの特徴ではなくて、他の国にも見られることであって、とにかく日本の国民のニーズにこたえて、民主主義国で、経済大国の道を歩んでいるんだから、遅れているとは思わない」という返事を何度もしたんです。
  私は、講演をする時できるだけ原稿を読まないようにしています。ノートは一応置いてあるけれども、どういう話をするか、前もって考えておいて、日本の国会議員が官僚の書いたものを読み上げるような顔をしないで、できるだけ皆さんの目を見て話すのが私の講演の仕方であります。
  3〜4年前、ある講演をした時に、自分の口から「日本の政治は遅れています」といってしまったんです。自分でもびっくりした。8年以上前から、半年東京に住んで、半年ニューヨークに住むという生活をしています。実は来週ニューヨークに戻って、コロンビア大学で秋だけの学期を教えて、また1月、2月になると日本に戻ってくる。日本の政治が遅れているといったのは、日本に住む時間があり過ぎて、日本の並みの評論家と同じように考えるようになったのではないかなとちょっと心配になって、家に帰ってから考えました。
  何故、今まで「日本の政治は遅れていない」といっていた僕が、「いや、遅れている」というようになったかと考えたんです。そこで、気がついたことは、私がいっている「遅れている」と、新聞記者がいう「遅れている」の意味は全然違う。彼らの質問は、「何故、日本の政治は他の国よりも遅れていると思いますか」という質問なんですが、私が日本の政治が遅れているというようになったのは、日本の社会よりずっと遅れているという意味なんです。日本の社会の変化に追いつかない。追いついてない。日本の政治、特に自民党の政治は非常に遅れている。その遅れていた政治が、今大きく変わろうとしていると思うんです。
  社会の変化に追いつかない。特に自民党の議員の多くがまだ気がついてないというか、気がついても、さてどう対応すればいいのかわからない。それは、いわゆる自民党の集票マシーンが崩れてしまったということだと思います。これは、比較政治学をやって、長年日本のことを見てきた私にとっては、非常に興味深い現象であると思うんです。
先程申し上げた『代議士の誕生』という本は、40年前の日本で一種のベストセラーになった。ああいうふうに地道に候補者のところに1年もついて、細かく日本のグラスルーツの民主主義、選挙のやり方を取り上げる人はいなかったので、話題作になった。実は、これは宣伝で申しわけございません。9月に日経BPから『代議士の誕生』がまた出版されるんです。新しい前書き、イントロダクションを今書いています。そのために久しぶりに自分の本を読んだ。そして思ったのは、この本は本当に歴史的なものになっていて、今の日本とは大分違うことが書かれているなということです。
というのは、その時の自民党の候補者、代議士になる人の選挙のやり方、特に地方、田舎、農村部での選挙のやり方は、主に、その地域で力のある有力者の力を借りる。票をまとめる力を持っている人の支持を得て、選挙戦を戦うわけです。
大分県の中津という福沢諭吉さんが生まれた町があります。その奥の郡部に耶馬渓というところがあります。その本を書いていた頃、ある日、そこの町会議員に会いに行きました。町会議員と2人で道を散歩していたら、向こうからお百姓さんが歩いてきた。そうしたら、この町会議員がそのお百姓さんに対して、「今度選挙があるから、文ちゃん(佐藤文生さんのこと)、よろしく頼むよ」といった時に、そのお百姓さんの答えは、日本の政治を勉強し始めた私にとっては非常に衝撃的だった。「それはあなたにお世話になっているから、もちろん佐藤さんに入れますよ」といった。ちょっと待って、あなたの世話になっているから佐藤さんに投票するって、どういう関係があるの、と考えたんです。しかし、これが日本の選挙のやり方なんですね。何人もの人をお世話している人の支持を得れば、彼が持っているいわゆる固定票に頼れるわけですね。つまり、その町会議員に200人か300人の支持者がいれば、彼が佐藤といえば、その300人のうちの少なくても半分、3分の2ぐらいはそうしましょうということになるわけです。
同じように、いろいろな利益団体、例えば医師会や歯科医師会、農協のその地方の代表が頼むと、「先生に大変お世話になっているから、当然鈴木さんに入れます」ということが、戦後日本の自民党の集票マシーンになっていたわけです。
ただ、今、地方に行くと、地方議員、県会議員あるいは市町村の議員に、票をまとめる力が全くなくなったといってもいいぐらいになっています。これは日本の社会での物すごい変化です。いわゆる共同体意識が非常に薄れた。若い人たちはその村を出て行く。また村の中ではインターネットを持っている人が多いので、どこも情報は同じ。農業をやっていれば、三ちゃん制度というおじいちゃんとおばあちゃんとお母ちゃんが農業をやっていて、お父ちゃんが町に出て仕事をしている場合が多い。こういう変化が今自民党を非常に困らせている変化である。
これは非常に日本的な話に聞こえると思います。というのは、「あなたにお世話になっているその先生に入れるよ」という英語を書こうと思って、僕は大分苦労したんです。英語で書こうと思っても英語がない。「あなたにお世話になっているから、佐藤さんに投票する」。どういうふうに英語でいえば意味がわかるかといったらなかなか難しい。そういう意味では非常に日本的な話ではあるんですが、実をいうと、今日本で行われている集票マシーンの崩壊は、私が子どものころ住んでいたアメリカのニューヨークに全く同じことが行われていたということを考えると、ちっとも日本的なこと、あるいは日本特有なことではなくて、いよいよ日本も、政治的に普通の国になりつつある、ということなのだと思います。1党支配が50年も60年もあるのは普通ではない。今が普通。今政権交代があるのは普通のことである。
私が子どものころ、ニューヨークでは民主党が非常に強い政党でした。アメリカの場合、ボス政治、集票マシーンの一番強いのは大都会だったんです。ニューヨークやシカゴ、ボストンというところに民主党のマシーンがあった。何故かといったら、ああいうところには日本の田舎にあるような共同体意識があった。というのは移民してくる人たちがいるからです。大体アイルランドから移民してくる人たちは同じ近所に住む。また、イタリアから来る人たちがまた別な地区に住んでいる。そして、イタリアのある村、例えば、シシリーのある村からたくさんの人が移民すると、そのシシリーの村の部落会、日本でいう町内会をそのままニューヨーク、私が住んでいた下町のブルックリンにつくるわけです。
僕は日本に来るまで田舎に住んだこともない。豚というのは漫画に出る子豚しかないと思っていた。そんな私が初めて大分県に行って、牛ぐらいに大きいものが豚だというのを初めて見た。日本の田舎を初めて見たのではなくて、田舎というところに行ったことがなかった。大都会で育った、アスファルトの上に育った私だから、「いや、これはすごいところに来たな」と思っていましたけれども、大分県にしばらくいると、ニューヨークのブルックリンに政治的には非常に似ている。
私が大分にいたころの日本の公職選挙法は、外国人が何かやるのは想定外だったから、私がお金を持っていっても法律違反にならないということに佐藤さんが気がつきました。(笑)僕が耶馬渓というところの町会議員に何か持っていた時の話は、傑作な話だけれども、『代議士の誕生』という本が出てから日本の公職選挙法が改正されたのは、このことがあったからです。あの時はまだ100円札、500円札があった。これだけは本に書かなかったけれども、それを佐藤さんがかばんの中にいっぱい入れて、私が持っていったわけです。町会議員に渡すと、彼はかばんをあけてびっくりした顔をした。それで彼と仲よくなったんです。そのお金を「足代」というんですね。彼が歩き回って「お願いします」ということと、自分の子分に少しずつお金を配って、彼らも歩き回る、選挙運動するための「足代」です。
実は、これには英語がある。昔のニューヨークの民主党ではフットマネーという言葉がよく使われるわけです。全く同じです。フットマネーと足代。ですから、日本人、特に評論家や政治記者たちは、いかにも日本はユニークな国で、他の国で行われていない、特に悪いことばっかりやっているのが日本の政治だというけれども、これは時代の問題であって、文化の問題ではない面が物すごくある。
あのアメリカのニューヨークの集票マシーンが崩壊してしまったのは、何故か。移民してくる人たち、移民第一世の人たちは、高等教育を受けずに頑張って働いて、何とか子どもを大学に行かせる。これが普通のパターンです。ところが、その子どもは大学に行って、戻ってきたら考え方が違う。価値観が違う。また、他のところ、例えばカリフォルニアからニューヨークに引っ越してくる人たちが、自分はイタリア人ではないのに、イタリア人のところに入っていくことによって、共同体意識が薄れるわけです。その結果、票をまとめる力を持っている有力者の力がなくなる。今、日本に起こっているのはそういうことです。
今のところ、解散になってから麻生総理は街頭演説は一回もしていない。8月1日から始めるというんですが、解散して今日まで何をしていらしたかといったら、利益団体の幹部のところにずっと挨拶回りをしているんです。私はこれを見て、麻生さんだけでなくて、自民党のリーダーたちは、今の日本の変化をよくつかんでないなと思います。利益団体の幹部のところを回って一体どのくらいの票につながるかといったら、多分、今はあまりつながらない。昔だったら、医師会や歯科医師会、農協の地方の幹部が「お願いします」といったら、また、歯医者さんのいすに座って、口をあけたままで歯医者さんに「何々さんをよろしくお願いします」といわれたら、それに「ノー」という勇気のある人は余りいない。(笑)これまで、お医者さんに「お願いします」といわれたら、それは先生に大変お世話になっているから、「もちろん、その方に入れます」といったのが、今は田舎に行っても、「あなたは私のお医者さんだけれども、私のポリティカルアドバイザーではないので、自分で決めますよ」という人が多くなっている。価値観が変わってきている。
これが今の日本の現状です。日本の自民党の人たちが気がつかなかった1つの理由は、やはり選挙制度が変わって小選挙区制度になったからだと思います。私は、日本はこれから2大政党政治、つまり2つの大きな政党があって、小さな政党がだんだんなくなっていくということですが、その道は避けられない、と思っていますが、決していいことだと思いません。日本にとって、小選挙区制度はよくない制度であると私は思います。
  これはアメリカやイギリスにある制度と同じです。日本はまだ比例代表はありますが、主に小選挙区制度です。ただ、小選挙区制度は、アメリカの場合、社会の差が非常にあるでしょう。宗教や民族、貧富の差、黒人、少数民族と白人、またプロテスタント、カソリック、いろんなグループがある。だから、小選挙区制度でなくて、アメリカで比例代表制度を取り入れたら、あの国は統治できない国になるわけです。小選挙区制度があるからこそ、民主党という政党が1つの社会的な連合の上に成り立つわけです。少数民族、カソリック、ユダヤ人、収入の比較的少ない人たちが民主党の連合をつくる。また、共和党はプロテスタント、より裕福そうな人たちなど、別な社会的な連合があるわけです。それが競争して、その間の浮動票がどっちに行くか、これがアメリカの競争になる。
  今のところ日本の場合は、そんなに深い深い亀裂のある社会ではないわけです。これから物すごい貧富の差があらわれて、金持ちと貧乏人の対決みたいなものになったら、貧乏人が1つの政党、金持ちがもう1つの政党になるでしょうけれども、日本は今でも平等主義が結構あるので、そうならない。そう考えると、自民党と民主党、どこで区別できるかといったら、なかなか区別しにくいわけです。
  今、民主党は数日前にマニフェストを出して、子ども手当や、高校生の授業料の分を政府が持つなどいろいろな約束をしています。明日、自民党もマニフェストを出す。民主党と競争して、子どものために我々はこうするとか、こういうふうにお金をばらまくとか、結局、自民党と民主党のどこが違うかよくわからない。わからないのは当然です。ただ、選挙制度を変えない限り、2大政党制は定着するだろうと思います。しかし、そうしたら、さて、新しい車を買おう、3万ドル、300万円の車を買おう、それを日産にしようか、トヨタにしようか、ホンダにしようか、そのぐらいの違いしか日本の政党にはない。それなら、一体何のために選挙をやるかということになる。
  一番危険なのは、哲学、理念、基本的な政策の違いがないところで選択するための基準は、リーダーの個人的なアピールになってします。例えば、非常にカリスマ性がある、またデマゴーグや極端なことをいう人が出てくれば、ブレーキがきかなくなって、変な方向に行く危険性はあるのではないかなということです。
  考えてみれば、この前出た民主党のマニフェストの表紙は、おかしいんです。表紙は全部鳩山さんの顔写真なんです。日本は議院内閣制、大統領制ではない。1人の顔写真がマニフェストの表紙になるのは、私から見れば異常。今度、自民党も多分麻生さんの顔写真が表紙になる。日本は大統領制度ではないのに、ますますリーダーをアピールする傾向が強まっています。
  それと、小選挙区制度にはもう1つの問題があります。今日はの皆さんは、大体、中選挙区制度がある時代を覚えていらっしゃる方がほとんどだと思います。昨日話した人たちは、中選挙区制度とは何でしょうかという顔をされていました。もう15年小選挙区制度ですから、中選挙区制度、1925年からずっとあった制度を知っている人がだんだん少なくっている。中選挙区制度のすごく良いところは、党内の争いがあったということです。要するに、現職議員に対して反発があれば、野党に入れなくても自民党の新人に投票して、現職が落ちて新人が当選する。物すごく緊張感があった。小選挙区制度になってからあの緊張感が全くなくなったのが、自民党にとっての大問題だと思います。見ていると、相手の民主党の候補者は、組織もなければ、お金もない、知名度もあまりない。問題外。問題にならないと安心して、それなら、毎晩銀座で飲んでいいやという人は少なくない。
  ただ、先程いったように、私の見方が間違ってなければ、日本人の価値観、また共同体意識の崩壊、集票マシーンの行き詰まり、このことで、組織もなく、お金がそんなになくても、また知名度がなくても、この前の東京都議選のように、ずっと千代田区で現職としてやってきた自民党の有力者が負けて、名前も知られていない26歳の人が当選することもあり得る。
2週間前に小泉元総理と食事をしましたが、ちょうど横須賀の市長選の後だったんです。小泉さんが応援した人が負けたんです。その時小泉さんがおっしゃったのは、やっぱり組織票はなくなったんだと。その組織票のなくなった自民党を5年も延命したのは俺だとおっしゃったんですが、私は小泉さんをよく知っていて、何でもいえる関係なので、「それは延命はしたけれども、自民党を崩壊させたのもあなたじゃないか」といったら、「ノー」とはいわなかった。
この話をしたらこの時間が終わってしまうからやめますけれども、この選挙の重要性は、麻生さんの支持者が少ないとか、経済が悪いから政権交代が起こり得るのではなくて、日本社会そのものが大きく変わってきて、これからの政党、民主党も自民党も、新しい支持基盤をどう構築するかということであり、今、物すごく難しい課題に直面していると思うんです。やっぱり1人1人に当たって、余り組織に頼らないで、国民に将来のビジョンを与えて、正直に、この国の将来のために何をしなければならないのかということを勇気を持って話せば、支持を得られると思うんですが、発想の転換がなければ閉塞状況がますます深まる危険性は非常にあるように思います。
日本には潜在的なポテンシャル、力があるんですが、それを掘り出して、日本のダイナミズムをもっと出していくためには、そうした新しい考え方を持てる政治のリーダーが必要であると思います。残念ながら、政権交代があってもなくても、今のところ、それほど大きな期待はできないと思っています。
  もう1つ、僕が小泉さんと食事したのは解散の前の晩でしたが、あの時、私も彼も、今度の選挙は民主党の圧勝で、ひょっとしたら4年前の郵政解散の時と同じような結果になって、今度は自民党ではなくて民主党が300議席近くとって、自民党は150議席以下になると思っていたんです。
  ただ、選挙というのはリズムというか流れがあって、もう事情は大分変わってきました。後1カ月、この長い長い選挙キャンペーンの中で、民主党に対する期待、つまり、リーダーに魅力があると思われないのならば、圧勝するはずはないと僕は思っています。自民党は負ける可能性は非常に大きい。民主党政権になる可能性は大きいと思いますが、圧勝する、280議席以上とるということは、やはりこの政党になってほしい、何か期待できるという気持ちがなければ、ありえないと思います。また日本人のバランス感覚が働いて、それならやはり自民党に入れて、民主党が変に勝たないほうがいいということに十分なり得る。そうしたら、非常に弱い不安定な、何にも思い切ったことができない政権になる可能性は非常に大きいと思います。
  世の中が物すごく動いている中で、日本の政治がこういうふうに混乱してしまうと、残念というよりも日本にとっては非常に危険なことであります。これからどこまで民主党と鳩山さんが国民にそういう期待を感じさせることができるか。大きなテーマだと思います。
  テレビで日曜日のニュース番組を見ていると、どっちが与党でどっちが野党かわからないようになっている。普通だったら与党が守りの姿勢、野党が攻めの姿勢。今はちょうど逆になっているんですね。民主党はいろいろなことをやるというのだけれども、財源がないではないかというアタックを自民党がやっている。赤字をGDPに相当した180%ぐらいにして、毎年毎年赤字予算でやってきた自民党がああいう澄ました顔をして、財源がないじゃないかという批判ができる。民主党が、何いっているんだ、とんでもないことをいっているじゃないかということをいわないで、いいわけするわけです。
  私は昔の日本の政治家とのつき合いが半世紀近くあるけれども、昔の政治家は喧嘩も上手だし、根回しも上手だし、選挙区での行動も非常に上手にやっていた。いつから日本の政治家が小者というか、スケールが小さくなったのか。これは、世界に共通する1つの現象なんです。アメリカにはすごい政治家がたくさんいるわけではないけれども、オバマさんはすごい政治家だ。しかし、それにしても昔の自民党の政治家はすごい根性があって、喧嘩かするなら思い切って喧嘩をしたのが、今、麻生おろしという人が最後には握手をする、というのはどういうことか。(笑)不思議に思うほどです。これまた選挙制度の関係もあると思います。

 

民主党政権の課題

 いずれにしても、今度の選挙結果は、絶対といえない。今度1カ月の間にどういうふうに流れるか。国民はまだ、どっちも支持しない、民主党も自民党も支持しない人が半分以上ですから、最終的にどう投票するか。そういう意味では選挙キャンペーンはおもしろいと思います。結局、民主党が政権を持つようになる。そうしたら、課題はたくさんあります。課題はあるんだけれども、時間がないので、3つぐらいに絞って話します。
  まず、民主党自身もいっていることなんですけれども、国家運営そのもの、要するに政策をつくる方法、やり方を変える。私も変える時期が来たと思います。特に官僚と政治家の関係です。これは変えざるを得ないと思います。
  ただ、「脱官僚」という言葉を鳩山さんが好きな言葉でよく使いますが、これは非現実的な考え方であって、あり得ない。官僚を使わないで政策をつくる民主主義国はどこにもない。アメリカは官僚主導ではなくて、政治主導ではないかと、特に若い政治家にいわれるんですが、これは根本的に間違っています。アメリカには強い官僚機構がある。ただ、日本と違うのは、アメリカは大統領制度で、完全に三権分離になっているので、議会の官僚は政府の官僚と別なんです。議会の官僚は議会のスタッフという人たちです。
日本の場合、1人の代議士には3人の秘書がつきます。アメリカの場合、下院議員1人当たり18名。これは全部政府のお金です。上院議員だったら、州の人口によるけれども、大体50人から60人。これも全部政府のお金。また委員会の独自のスタッフがいる。下院議員がベルが鳴って、廊下を走って、本会議場に向かって投票する時、アメリカの場合は、議員は自分1人で全部決めるんです。党議拘束はほとんどきかない。その議員が廊下を歩いている時、必ず隣に誰かついているわけです。これは議員スタッフで、今度の法案はこういう法案で、先生――アメリカの場合は先生といわない、先生は僕は学者とお医者さんぐらいでいいと思うんだけれども、まだ日本は代議士も先生という――、とにかくあなたはイエスかノーを投票するとスタッフにいわれるわけです。何百もある法案について、全部知識があって、全部自分で決めることはあり得ない。
民主党も、脱官僚といって、官僚を使わないで100人ぐらいの政治家を官庁に送り込んで自分でやるといったら、大失敗に終わるに間違いない。でも、今までどおりでいいかといったら、僕はそうではないと思うんです。官僚をどう使いこなせるかということを考えて、官僚のモラルを高めること、また官僚を上手に指導することが大事ではあるんですが、これは日本の、他の国にない独特な問題があるのは事実であります。先程いった集票マシーンが崩壊するとか、足代のための金を配るのは決して日本だけの問題ではない。しかし、官僚と政治家の問題は日本的なことです。日本の民主主義はマッカーサー、アメリカの占領軍が日本に持ってきたわけではありません。日本の民主主義のルーツはもっと長い。少なくとも大正時代、大正デモクラシーという時代に日本の民主主義が生まれるわけです。大体20年代から衆議院で第1党のリーダーが総理大臣になる。原敬が最初のケースです。そして、政権をとる。
ただ、日本の場合、政権党という言葉がないんです。与党、これも、「お世話になる」と同じように、与党を英語でどういえばいいのか。ないんです。与党という言葉はない。与党というのは政権党、ガバメントパーティーではない。与党は政権を持つ衆議院の第1党あるいはその連合である。しかし、政権はそういう与党の人たちにもあるし官僚にもある。特に大正時代は官僚は直接に天皇陛下から任命されて、アカウンタビリティーは天皇に対してであって、要するに誰にもないわけです。当時も天皇は象徴的な存在です。日本の明治憲法の一番の問題はアカウンタビリティーのない軍部や官僚機構であり、その結果、官僚と政治家が一緒になって政権をつくるようになる。
今でも政府・与党連絡会議が開かれます。この間テレビ・サンデープロジェクトで石原伸晃さんか誰かが、それは与党の考え方であって、政府は必ずしもそうではないということをおっしゃった。若い政治家が大正時代の政治家と同じ発想なんですね。それは他の国にはないことです。
  イギリスで今度ブラウンが負けて、保守党が政権をとれば、保守党の有力者がみんな政権に入るわけです。しかし、日本の場合、少なくとも今まで、政権がかわっても、自民党の有力者3人は必ず政権に入れない。いわゆる党三役、総務会長、幹事長、政調会長が、党の立場で政府と交渉するわけです。これが日本。大正時代以来の日本のことで、議院内閣制というんですけれども、日本は実際は、議員官僚内閣制をずっとやってきた。それは目標が非常にはっきりしていて、西洋に追いつく、経済大国になるという目標があって、官僚が青写真をかいて、政治家がその中で国民のニーズに上手にこたえる。これを達するまではうまくいった。評価できる。私が今まで書いた本の中で日本の政治家と官僚の協力体制については非常にポジティブに評価していますが、時代が変わって、アカンタビリティーをもっと明快にしていかなければならない。いつの間にか、官僚が大きな枠組みをつくって、その中で政治家、族議員のような人たちが具体的な政策について影響を持つとなってきたが、本来は逆なんですね。政治家が枠組み、方針、方向性を決めて、その中で官僚がインプルメンテーションをする。そういうことをやる必要があって、それができたら、大正以来大変革命的な変化になる。
  ですから、これは鳩山さん、民主党にとっては非常に重要なチャレンジであると思うんです。今まで政権交代というのは抽象論であって、野党もいってはいましたけれども、本当に政権をとれるとは誰も思わなかったのが、この数カ月前から変わってきた。
  この間、僕は鳩山さんと菅さんと食事をした。3人で話をしました。その時すごく感じたのは、今までにない緊張感、興奮、それと、どうしようかという具体的な話がありました。今政権をとれば、日米関係において今までの政策をやめて、急に変えると前はいっていましたが、今はやはりそんなことはできない。リアリティのある話になってきたので、より現実的になりました。
  僕らが食事したすぐ後に菅さんはイギリスに行ったんです。イギリスに行ったのは、イギリスの場合、内閣がどういうふうに官僚とつき合っているのかを調べに行ったわけです。戻ってきたら、行く前までのいい方が全く変わりました。脱官僚ではなくて、官僚と政治家の協力体制が必要だということをおっしゃるんです。これは非常に大事なことです。私は、民主党政権が目の前にあると思うようになっているので、ますます現実的になってきていると思うんですが、官僚と政治家の関係を上手につくり直すのはそんなに容易なことではない。
その中で、今日も官僚の方が何人かいらっしゃるかもしれないし、私の友達も聞きに来ていると思うんですが、官僚も今までどおりじゃないと駄目だという態度をとっていたら、これは大変な衝突になるんですね。時代が変わったので、官僚も、この政策は本当にばかげた政策で嫌だと思った時は、それは政治家に直接に頑張って説得する努力をすることがすごく大事なんですが、もし、高級官僚が表に出て記者会見でもして、この政策は間違っているといったら、その日、即刻首にすべきだし、多分法律を改正して、それができるようにするだろうと思います。
  アメリカの場合も、例えば、ブッシュ政権の時の8年間、国務省の官僚たちはこの政権は嫌だと思う人がほとんどだったと思います。それで、何人か辞めました。しかし、辞めないんだったら、大統領が決めたことに従わなければならない、それが民主主義であるということをもうそろそろ日本の官僚も知らないといけない。我慢すること、政治家を説得する努力が必要で、今までのように、いかにも、どうせ自分が決めることだから、政治家に説明するというのは、政治家を説得するのではなくて、納得してもらうだけの話である、ということでなく、やはり日本の官僚も発想を変えないといけない。
  私はどこかでこの間書いたことなんですが、今度鳩山さんに会いますからいうつもりなんですが、民主党、鳩山さん、与党という言葉は本当にやめるべきだと思う。日本には新しく初めて政権党が生まれたという発想の転換が必要なんですね。政党と政府が一体であって、その総理大臣のもとで内閣もあって、その下に官僚がいて、それが一体になって、政府を運営するという発想が非常に必要であると思うんです。日本の場合、与党はあるけれども、政権党がないのは、もうそろそろ変わらないといけないと思います。
  それから、もう1つの今度の政権の課題は、やり方、構造そのものを変える、ことだと思います。橋本政権以来、少しずつその方向に動いていますが、鳩山政権になったら、脱官僚ではなくて、もっと新しい形で、政治家が官僚の協力を得ながらやるということが大事なんです。
  もう1つ、気になることがある。民主党がいっている政策は、悪くないというか、当然だと思うところもある。例えば、今こんなに少子化問題があって、人口が減る方向にいっているから、子どもを持っている家庭に手当てをして、1カ月2万6000円、最初の1年間は1万3000円ですが、中学生になるまで支援する。これもいいことだと思う。ただ、将来のことを考えた場合、高齢化、少子化の問題の長期的な戦略は何であるかということを全然話さないで、来年の参議院選挙があるから、その前に子ども手当をやるとか、自民党が似たようなことをいっているのは、将来のビジョンが全く見えない。
  10年先に1人当たりの収入を100万も上げるというのは全く意味がない。17年に道州制を取り入れるといっているが、2017年に今の政治家のうちの誰がいるかというとほとんどいない。それを実現しなかったら、誰が責任をとるのか。
  道州制をやるということも、僕が非常に疑問に思うのは、道州制は悪くないかもしれないですが、道州制をして何がよくなるのか。地方分権という言葉が日本では大はやりで、地方分権はよくないといったら、それだけで守旧派といわれてだめになります。ただ、地方分権、何を分権するか、余りにも具体的な話がなさ過ぎるように思います。
  まさかアメリカのような地方分権がいいと思ってないだろうと私はいいたくなる。アメリカのような地方分権になるのは絶対によくない。アメリカの政治システムには素晴らしいところがたくさんあって、日本人の政治家が見習っていいところが沢山あるんですが、絶対に真似すべきではないところも沢山あります。
  オバマさんは780億ドル、72〜73兆円もする刺激策を大統領になって3週間以内に議会に通したんです。この間、麻生さんは15兆円の刺激策を通しました。それを比較してみると、アメリカの1つの問題がよくあらわれている。日本の場合は政府が1つしかない。それは中央政府であって、東京都政府といわない。神奈川政府といわない。日本には政府は1つしかない。道州制にして、九州ブロックが1つの政府になるか。多分そうならない。なったら、それがいいかどうかは非常に疑問です。
  今度の15兆円の刺激策の中には、新幹線の全国ネットワークを拡大するためのお金もあります。あるいは羽田を国際空港にして、もっと羽田から、特にアジアに頻繁に飛行機が飛べるようにしようという、そのためのお金もあるんです。780億ドルもするオバマさんの刺激策の中には新幹線は1つも含まれていない。
  ニューヨーク、ワシントンにいらっしゃる方もここにいらっしゃると思いますが、アムトラックで、ニューヨークからワシントンに行ったら、電車、汽車そのものが古くて汚くて、遅いでしょう。ニューヨークから、あるいはボストンからノースイースト・コリドーといって、ボストン、ニューヨーク、ワシントンをつなぐ新幹線をつくれば物すごくいろんな意味でエフィシェンシーがあって、アメリカの経済にも非常に貢献するんだけれども、できない。何故できないかといったら、あの780億ドルのおいしいものをそれぞれの州が欲しいわけです。ニューヨークからワシントンまで新幹線をつくろうと思えば、ニューヨーク、ニュージャージー、デラウェア、メリーランド、ワシントンDCの全部の合意を得ないとつくれない。しかし、この新幹線をつくるよりも、今ニューヨーク州はいろいろな意味で財政的に困っているから、そのお金をその州だけで使いたい。
  地方分権は、聞こえはいいんだけれども、私が聞いていると、中身を全く考えてない、地方分権どうのこうのという方が、日本には物すごく多いように思います。
  この間、久しぶりに別府市に行きました。私の『代議士の誕生』の本は40年前に別府に住んで書いたもので、別府市から名誉市民賞をいただいて、そのために別府に行って市長と話しました。その時に、別府は温泉もあって、冬はそんなに寒くないし、東京から飛行機で1時間ちょっとで来れるので、観光客だけでなくて、ここをマイアミ、フロリダあるいはアリゾナのような年寄りのファシリティー設備をつくって、システムリビングというものをここにつくれば、物すごく別府の経済繁栄のためになるのではないかという話をしました。そうしたら、とてもおもしろい市長さんで、おっしゃるとおりだ。それをやりたいんだけれども、厚生省のいろいろな規則があって、1つの地域にベッドの数、老人設備の数が限られている。まずこの規制を緩和して、それぞれの地方がそれぞれの特徴を生かせるようにすればいいのに、地方分権をいっている人が規制の緩和の話をほとんどしない、とおっしゃっていました。
アメリカの経済はもともと東海岸の北のほうに集中していたんですが、だんだんと南に行って、そして西に行った。日産やヒュンダイ、トヨタも特に南部あるいはテキサスあたりで工場をつくっています。その地方の州が、いろんな優遇、奨励をするわけです。税金を5年とらないなど、いろいろな税制度でもって企業が自分のところに来るように、投資するようにやるんです。
だから、日本で地方分権をして、本当に大分県なら大分県、神奈川県なら神奈川県が、会社がこのところに投資をして人をたくさん雇うような工場をつくる。そのような政策をとればいいんだけれども、私が申し上げたいのは、民主党にしても、自民党にしても、余りにも具体性のある将来ビジョンがなさ過ぎる。これは政治家を責めても、かわいそうだといえるのは、政治家がビジョンを持っていないだけでなくて、多分日本人一般が、一体これからこの国をどうしたらいいのか、非常に迷っていると思うんです。
明治維新から1980年代までは、西洋に追いつき、追い越せという目標のもとですごいエネルギーを出して、頑張ってきて大成功してきたんですが、これからどうしたらいいのか。隣の中国がますます台頭して大きな国になって、その中国とどうつき合えばいいのか。北朝鮮が核兵器を多分持っている。本当に持っているかどうかわからない。持っていないかもしれないけれども、自分は持っているといっているから、持っているだろうと思ったほうがいいんですが、それに対して、日本はどうしたらいいのか。また、アメリカとの関係においてもどうしたらいいかといういろんな難しい問題に直面しています。
  政治家に一番求められるのは2つだと思うんです。1つは、落選しても、自分が本当に思っていることを国民に正直に訴えること、これが一番大事なんですね。そういう政治家が少な過ぎる。どの国もそうなんです。アメリカもやはり自分の選挙に不利なことをなかなかいおうとしない。そういうところは私はオバマ大統領はとても素晴らしい政治家だと思う。彼は自分の哲学、理念、また大変な知識を持っている政治家で、勇気があって、自分が絶対にこの国にとって必要だと思うことを正直に話すんです。そういう政治がやっぱり大事なんです。
  それに関連してもう1つ重要なのは、国民を説得する努力、その力がなければどうにもならない。オバマさんのすごいところは、演説がうまい。またタウンミーティングみたいなところで、演説を読むのではなくて、国民と直接に対話をする。オバマさんは毎日国民にいろんな形で話をしています。テレビのインタビューをしたり、あちこちでタウンミーティングをしたり、演説をして、絶えず国民を説得する。
  今、アメリカの医療制度は、5000万人が全く健康保険のないひどい状況。これを何とか抜本的な改革を講じて、もっと合理的な健康保険制度をつくろうと彼は今努力をしていて、大変難しい場面に直面しています。彼がやっていることは、とにかく国民を説得して、その国民が議会に対してプレッシャーをかけてくれるようにする。これが大事なんですね。私が見ていると、麻生さんも鳩山さんもそれぞれいいところもあるんですけれども、国民に対して説得する努力が十分だとは思わない。

 

これからの日米関係

 最後に、日米関係について1つだけ申し上げます。冒頭で少し触れましたが、今度鳩山さんが総理大臣になれば、最初に外遊するのは多分アメリカだろうと思うんです。普通は選挙が終わって2週間ぐらいして、国会が開かれて総理大臣が選ばれるですが、国連総会が9月17日なので、鳩山さんは多分その前に国会を開いて、総理が決まって、内閣も決めて、今までに例がないほど早く決めて、ニューヨークに飛んでいくと思うんですが、本当はあんまり早くオバマさんに会わないほうがいい。しかし、行けばやはり挨拶に行かなければいけない。ただ、日本側が何か1つだけでもいいから、日米関係を強化するために何かを提案して、提言して、アジェンダセッティングはこれから日本もやるんだということをすれば、オバマさんは非常に関心を持ちます。今の問題は、オバマ政権は日本に対しては余り関心がないことです。総理大臣に会っても、次の日に総理大臣がかわるし、会っても別に向こうから何の話もない。この時代が終わらないと日米関係は強くならない。
  少しだけでも日本の政治がよくなれば、日本という国は物すごく力のある国なので、非常に将来が明るいと思います。チェンジがあって、そのチェンジによっていろんな変化が行われて、早く日本の政治がもうち少しましなものになることを期待して、今度の選挙を非常に関心を持って見守っています。
  今日はあちこちに話が飛んでいきましたが、時間もなくなりましたので、この辺で話を終わらせていただきます。ありがとうございました。(拍手)

 

司会 カーティス先生、ありがとうございました。 皆様、カーティス先生にもう一度盛大な拍手をお送りください。(拍手)ありがとうございました。
  今日は私たち日本人にとりまして、大変興味深い話を伺いました。カーティス先生が昨年4月に日経BP社から出版されました『政治と秋刀魚日本と暮らしてー45年―』、この本をロビーで販売しております。この後すぐカーティス先生が直接サインをくださいますので、ぜひ販売コーナーへお立ち寄りください。
以上をもちまして、NSRI都市・環境フォーラムを終了させていただきます。

 



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