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第20回NSRI都市・環境フォーラム

『地球環境問題における技術評価と実践』

講師:  早見 均 氏   

慶應義塾大学産業研究所所長

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日付:2009年8月27日(水)
場所:ベルサール九段

                                                                            
1. 地球環境問題の現在

2. 身近なCO2問題,こんなに差があるCO2負荷

3. リサイクルはCO2を減らすのか

4. 最新技術はCO2を減らすのか

5. CO2負荷削減の実践活動

6. 究極の解決策

フリーディスカッション

 

 

與謝野 定刻でございますので、ただいまより20回目、通算で260回目のフォーラムを開催させていただきます。
  皆様におかれましては、大変お忙しい中を本フォーラムにお運びいただきまして、ありがとうございます。また、先月30日に開催いたしましたジェラルド・カーチスコロンビア大学教授によりますフォーラム特別講演にも大勢の皆様にお運びいただきまして、厚く御礼申し上げます。
  さて、本日は、「地球環境保全」のジャンルについての話題を取り上げさせていただきたいと思います。皆さんご高承のとおり、現在の地球環境の気候変動あるいは温暖化の問題に対しましては、産官学のあらゆる分野でさまざまな解決に向けてのCO2削減技術開発の取り組みがなされ、さらに政治分野、経済分野、さらには安全保障の分野にまで及ぶ数多の知見と技術構想が考案され、導入、実践されてきております。
  開発実践プロセスでは、こうした努力と並行して、実際上の効果についての評価を加えるということも手続上誠に大切なことでありまして、そうした努力が新たな技術体系を生み出すことにつながることは、これまでの技術発展の歴史の中でもしばしば見られていることでございます。
  そこで、本日は、地球環境問題に投入されている多くの技術構想と知見についてのレビューと今後の行方という視座からの貴重な最新の識見について、皆様とともにお聞きするフォーラムとさせていただきました。
  本日講師としてお招きいたしました方は、この分野ですばらしい活動を展開され、功績を上げておられます慶應義塾大学商学部教授で産業研究所所長の早見均様でいらっしゃいます。早見様のプロフィールにつきましては、受付でお渡ししましたお手元のペーパーどおりでございますが、長年、慶應義塾大学で教鞭をとられ、2007年に現職につかれまして、これまで英国ケンブリッジ大学、総務省統計局、日本統計学会、環太平洋産業連関分析学会等で要職を務められた、この分野での気鋭の第一人者でいらっしゃいます。
  本日の演題は、前に掲げていますとおり、「地球環境問題における技術評価と実践」とされておられます。
  それでは、ご多忙の中を本フォーラムにお運びいただきました早見先生を皆様からの大きな拍手でお迎えいただきたいと存じます。早見先生、よろしくお願いいたします。(拍手)

早見 ご紹介ありがとうございます。慶應義塾大学の早見でございます。私の今日のお話は、90分とかなり長丁場ですが、非常に有名な先生がたくさんご講演されているフォーラムということで、私も非常に誇らしく思っております。
  私の今日のお話は、私だけではなくて共同研究の成果でもあるのですが、言いたいことは2つの点です。1つは、森林の植林活動のことです。それから最近やった宇宙発電衛星のある地球ということが最後の結論になっております。その前にいろいろこれまで分析してきたことを、小さな規模でやっておりましたので、宣伝を兼ねてご説明させていただきたいと思っております。
  テーマは地球環境問題の技術評価と実践ということでありますが、最近は地球環境問題について、いろいろな意見や情報がかなり飛び交っています。私が、この問題を最初に取りかかったのは1989年、今から20年ぐらい前です。割とこの分野では早目に対応してきましたけれども、現状だと我々の役目はかなり終わっているのではないかという印象を受けております。ただ、いろいろな誤解されている面もありますので、第1ステップとして「地球環境問題の現在」を、簡単に説明させていただきます。

1.地球環境問題の現在

(図1)
  これは皆さんよくご存じのとおり、世界のCO2発生量の最新のデータです。人為的なものに関する発生量です。1番が中国。この数年間でアメリカを中国が抜き、日本はインドに抜かれてということになり、日本は4番目です。世界の4〜5%のCO2発生量ということになっています。だんだん目立たなくなってきていていいんですが、それでもこの5カ国で世界の57%を占めている。全体で310億トンですが、そういう結果になっています。
  BRICsの国々、中国、ロシア、インド、それからsで入れるかどうかわからないのですが、南アメリカがこの辺りにあります。BRICsで1つだけ入っていない国があります。ブラジルです。ブラジルは、ご承知のとおり、ガソリンにバイオ燃料をかなり使っているということと、電力が7割か8割ぐらい水力で賄っているということなので、ここには跡形もありません。ブラジルにできて日本にできないことがあるのかなんて挑発的に技術的なことをいう方も、中にはおります。そういう問題もありますが、日本は日本としての立場もあるだろうということで、ただ、先進国の一員としてそれなりの役割を果たしていかなければならないのではないかというのが大方の意見ではないかと思います。
(図2)
  歴史的な趨勢とありますけれども、このグラフからは、1950年以降世界のCO2が急激に伸びていることがわかります。このまま行ったらどうなるんだろうかということで皆さん不安に思っているということでございます。
  次にお見せしますのが、気候上昇のトレンドです。昔は結構暖かかったのではないかという話もあるし、将来予測についてどうなっているのかという話もあります。特に今年は冷夏だったわけですけれども、私、天文が趣味なもので、この辺のデータも集めてきております。
  予測ということに関しては、私のバックグラウンドは文系なものですから、人から聞いた話で申しわけないのですけれども、重要な2つのパラメータがあります。
  1つは、輻射強制力です。火山の噴火でちりが上がると、外からの輻射が少なくなるとか、もちろん太陽の活動による輻射が減少などの影響で決まるパラメータです。もう1つは、気候感度というものです。気候感度は、平衡感度と移行感度の2種類あります。そのうち平衡感度というのはどういうことかというと、例えば、工業化以前のCO2の蓄積量のレベルから、ppmにして濃度が倍になった時に、その状態をずっと続けたら、一体何度地球の温度が上がるのかというものです。(移行感度は1%ずつ上昇して70年後の全球平均温度)こういうパラメータが地球環境予測で、非常に重要な2つのパラメータになっているということになります。
  そのうちの気候感度の方は、経済分野よく使うというか、重要なパラメータの1つとなっています、これは私も参加していたIPCCの第4次報告書では、大体3.2度がいいのではないかとなっています。この3.2というのはアンサンブル平均ではないということです。1つのモデルを使って、いろいろと前提条件のパラメータを変えて何万個という予測を出して、その中の平均をとるのが気象予報でそれをアンサンブル平均と言っています。長期予報の気温とか、皆さんが今よく耳にする気温予報、降水、そのベースはアンサンブル平均となっている。それは1つのモデル、例えば気象庁だったら気象庁のモデルに応じた平均値が出されるわけですけれども、このIPCCの3.2度はさまざまなモデルのメディアンの値ということです。今450ppmという濃度が目標ですが、もう少し高い500ppmぐらい、それが産業革命以前の倍のCO2濃度になりますので、その時に3.2度上がる予測をしているモデルが大半であるということになります。
(図3)
  これは過去の気温上昇の推移です。これを見ると、どんどん上がっていって、このまま上がっていくとどうなるんだろうかと不安になります。これはNASAのデータです。
  ただ、反論する人もいます。これは2008年の表面温度が、1951年から80年ごろの平均に比べてどのくらい上がってしまったかを示す図です。例えば北極の氷がなくなっていくとか、グリーンランドの氷がなくなっていく、南極の氷床がなくなっていくという話がありますが、これは、右の図の色の濃いところの情報だけを集めたのではないかという考え方、見方もある。他の多くのところは、下がっているところもあるではないかというところで反論される方も結構いるということです。どちらがどうという判断はできませんけれども、かなり全体的に赤い傾向はあるなという感じは否めないと私自身は思っております。最近7年間ぐらいの平均をみてもやはり局所的に暑いところが出る、そういう観察データになっております。
(図4)
  もう1つ過去と比べてどうなのかということがあります。ウエスタンパシィフックとかイースタンパシィフック、インド洋などの気温の変化のグラフがあります。これは南極の基地だと思います。昔、10数万年前は今より気温が高かったということがわかっています。今の平均は、確かに19世紀の後半ぐらいに比べると少し上がってきているところもあります。確かに、寒い時期に比べると最近は上がっている、そういう傾向が見られますが、昔も結構高かったんだから、余り気にしなくてもいいのではないかという方も中にはいる。ただ、10数万年前は、人類がこんなに文明状態にあったかどうかが問題で、地球は大丈夫だろうけれども、人間が温暖化でうまく生活できないのではないかということの方が問題かもしれません。
(図5)
  もう1つの問題点は、輻射強制力です。最近は特に寒くなってきている。去年も涼しかったんですけれども、今年もまた涼しくなっている。その中で今年が涼しいのは、エルニーニョの影響らしいですが,それにそれプラス太陽黒点の活動という人もいます。その根拠として新聞とかでいわれているのは、太陽黒点が減っているのではないかということです。確かに減っています。小氷河期といわれている部分は、1800年代のドルトン極小期。この時期に有名なアイルランドのポテト・ファミン(ジャガイモ飢饉)があり、作物ができなくなったといわれていますし、この時期には、テームズ川の凍った絵がよくあります。
  記録は少し弱いのですが、太陽黒点がパラパラしか見られなかった。そういうマウンダー極小期というのがあります。今ももしかしたら、周期的には、こういうことが再現するかもしれない。ここ2〜3年極小期に当たっていて、太陽黒点が少ないといわれています。下がったままなので、去年から無黒点日数が多いんですけれども、まだそこまで判断するのは早いかなという感じがいたします。
  1960年ぐらい、この50年の極大から極小に行った時に、なかなか太陽黒点数が上がらなかったので、この予測は少なかったんですけれども、逆に意に反して非常に活発な太陽黒点の活動になったという場合もあります。現状では判断しにくい状態らしいです。
(図6) ただ、今年に入っては、ある程度データも確定していますので、今年の太陽黒点は歴史的に数が少なかったのではないかという具合になっています。
  2〜3年前の太陽黒点の極大の予測だと、2008年、9年ぐらいに上がってくるという予測をしていましたが、最近特に2007年、8年でゼロの日が多かったので、この予測が下がって、2012年頃が次の極大期の黒点の予想ということになっています。
  もう1つ重要なのは、どうやって次の極小を決めるか。極小期になると、赤道付近に太陽黒点が集中して出てくるようになって、極大の次の周期になると、突然高緯度のほうに黒点が出るというので、次の周期に入ったなということが確認されるわけです。その間に太陽のN極とS極の磁力線が切れて、N極とS極が逆転する。そういう磁気の変化が起きるといわれています。今のところ、ここで、非常に少ないとなっています。
(図7)
  これで問題なのは、太陽黒点も少ないんですけれども、太陽から出てくる磁場の影響が、95年、2000年、2005年と、極大期があるのにもかかわらず、どんどん少なくなっている。大ざっぱで誤差も大きいんですけれども、トレンド的に磁場が下がっているのではないかといわれています。今年は既に、185日目の全く黒点がない日が続いている。1年のうち79%の日数で黒点がない。先月の末にあった日本の皆既日食も、極小期の皆既日食なので、コロナがチョボチョボしか出なくて、天文屋さんにとっては余りおもしろくないコロナ、写真の撮りがいが余りないコロナということになっています。
  明るいところと暗いところの差が物すごく大きければ、肉眼で見るとコロナがバーッと広がって見えるはずですが、それがちょっと少なかった。写真の腕としては、最も明るいところでも最も暗いところでも、人間が目で見たように写すには、ラティチュードの幅が広い写真が撮れると、実物を見たような光景が写る。そこは天体写真の腕の見せどころなのですが、コロナがないので、そういう絵もなかなか写せない。そういう日食だったわけです。
  過去50年間で2007年は3番目に、2008年は一番黒点が観察されなかった。2009年が今日で179日で、8月末なのに黒点がない日が続いていますから、何百日と黒点がない日になってしまい、2008年よりも更に上をいくようになるでしょう。そうすると磁場も来ないから輻射強制力は少なくなって、地球に入ってくるエネルギーが少なくなる。そうすると、気温が下がるという傾向が出てくるという説があります。(オゾンの量とエルニーニョなどの海水面温度との関係が最近モデルではじめてシミュレートされるようになりました。Meehl et al. (2009) Amplifying the Pacific climate system response to a small 11 year solar cycle forcing, Science, Vol. 325. no. 5944, August 2009, pp. 1114 ? 1118, DOI: 10.1126/science.1172872.)
  温暖化は、気温上昇が問題なのか、それとも化石燃料を使うのが問題なのか。いろいろありますので、そこのところは私のような文系屋さんは、ともかくサステーナブル・ディベロップメント、持続可能な発展の1つとして、CO2なりエネルギーの需給バランスを見ていこうということになります。なるべく化石燃料を使わない発展の方がいいに決まっていますので、そういう観点から考えてみようとだんだんシフトしてくるかもしれません。
  そうした経済的影響については2006年に非常に有名になったスターンレビューといって、IPCCの第4次報告書の直前に発表されかなり影響を与えた報告書があります。IPCCでもそうなんですけれども、450ppmというCO2の濃度が一応耐えられる濃度ではないかといわれています。2050年までにその濃度にした方がいい。450ppmまで下げれば、プラス2度になる確率が75%ぐらいになる。今の状況判断では、世界の流れが450ppmのCO2となっているわけです。現状では、何もしないとかなり上がっていってしまいます。対策を急がなければということになるわけです。
  それでは、経済的なコストはどんなものかというのがスターンレビューです。この平均値も1つのモデルについてパラメータをいろいろ変えたのではなくて、いろいろなモデルを組み合わせた結果の平均値を使った分布のGDPに与える影響、マイナス効果ということになっているわけです。今となっては、マイナスは世界同時不況に比べてGDPの低下は実は大きくない。しかも2200年というとんでもない先なので、あんまり心配することはないはずなんですけれども、かなりの反響がありました。14%下がっちゃうとか、温暖化でGDPがこんなに下がっちゃう可能性があるなんていわれていたわけです。ただし、現在の段階でGDPの1%を温暖化対策に使えば、この低減は20%以上軽減される、そういう予測が出ています。今からやっておけば遅くないよというのが2006年にいわれていた状況であります。
  より最近の研究を紹介しますと今年の「ネイチャー」に出ていたモデルの予測です。2つ論点があります。第一は2度上昇まで許すというのはかなり目いっぱいの線だ、もっと生物とか氷河に影響が敏感に出るのではないか。プラス2度になったら、珊瑚礁は海が酸化してなくなってしまうのではないかということをこの人たちはいっています。第二はそれを下げなければいけないということになって、どのくらいでいいかとなると、2000年から2050年までに世界で排出されるCO2が1Ttに下げるといいといわれています。ところが2007年までにもう221Gt出してしまっています。わずか7年間で5分の1以上、22%もCO2を出しているので、2050年までの累積、51年間の合計を1000Gtに抑えるとなると、かなり厳しくCO2を抑制しないといけないということです。つまり、2度以下で、なおかつ安全的なCO2発生抑制はこのままではできないということで、今年に入ってから、自然科学の先生たちから、コペンハーゲンに向けてより厳しい目標を立てた方がいいのではないかという論文がかなり出ている状況です。
  先ほどのスターンレビューの場合もそうですし、IPCCの報告書もそうですけれども、COPという政府間の交渉の場がある時期を目指して報告書をバンバン出してくるという状況になっています。たとえば,2007年の時もそうだったのですが、ノーベル平和賞をとったゴアさんとパチャウリさんたちがいますが、この時も私なんかはすごくポリティカルな感じを受けました。ポリティカルに対抗するためにポリティカルにということで、パチャウリさんは、日本がすごく好きで何度もいらしている。ご本人も何回来たかわからないぐらい来ている。皆さんもお会いした方も多いかと思います。パチャウリさんのテリという研究所に今同僚が1人行っています。そこで2007年にコンファレンスを開いて、産業連関分析というのを使って分析をしました。私も、たまたまパチャウリさんのお嬢さんと、お嬢さんと知らないで一緒に論文を書いておりまして、インターネットでやりとりして共同論文を書いていたので、「あなたの娘と論文書いているよ」という話をして、喜んでいたところです。
(図8)
この研究所のすぐそばには、スラムがある。女の子が洗濯している。あるいは、私もどぶさらいを昔した記憶がありますが、その時の昔懐かしいにおいがします。それを家の前でやっている。デリーのかなり中心部です。こういう状況にいるので、この人たちに発展しないでくれともいえないですし、その辺はポリティカルといっても、確かに途上国の人たちの生活を考えると、先進国として何かやる必要がもっとあるんじゃないかという感じも非常に強くいたします。
(図9)
  ともかく我々としてはまず計算をしようということでやり始めたのが、日本の産業別のCO2排出量です。1985年から2000年までです。2005年が今修正段階に来ていまして計算は済んでいますが、こんな傾向で増えている。一番大きいのは電力、発電で出てくるものです。自動車、家計も結構大きい。半分が灯油や厨房、ガスで、残りの半分が大体自動車ということになっています。先ほどブラジルの例を話したんですけれども、電力が下がるということが一番重要ではないかと考えております。
(図10)
  先ほどは直接見たものですけれども、経済と循環しているので、それを考えたのが産業連関分析です。210円のパンはどういうふうに配分されるか。原材料と広告費、賃金などに配分されて、それが次の小売業に60円いったら、それが小売業の賃金にもなるしということでグルグル回っていく、そういう姿を描いたのが産業連関分析ということです。
  このように産業連関分析をすると製品のライフサイクルがわかる。あるいは、東京オリンピックの経済効果や万博の経済効果を計算するのにもよく使われています。○○事業の経済効果というのは、その事業をやることによって、逆に、ほかにしなくなってしまうものもでる可能性もあるので、必ずオーバーに出てくる。例えばワールドカップをやった場合に、ワールドカップを見に行けば、映画や野球を見に行かなくなるかもしれませんが、行かなくなる行動は、大体のシミュレーションによって引いてないんですね。プラスだけ計算しているので、ちょっとまゆつばです。環境問題については、まずは部分的に評価しますのでそういう問題はない。何かを買った場合に、それがめぐりめぐってCO2がどのぐらい出ているかという計算に使えるということで、20年ぐらい前からやっているということです。
(図11)
  これは最終需要の分析結果です。家計はCO2を直接は出してないですけれども、間接的に出している部分が4.8億トンある。日本全体の36%ぐらいを家計が間接に出している。産業も自分で出したくてCO2出しているわけではなくて、家計が買うから出しているということになる。これは家計が直接出す暖房、それから事業所、輸出がこのぐらい出すという計算ができるということでございます。

2.身近なCO2問題、こんなに差があるCO2負荷

(図12)
これを応用するとどれだけCO2が出てくるか。肉1000円を買うと1.3キロ。魚1000円だったら3.9キロ出る。魚は漁船を使うので、魚の方が肉よりも同じ値段で3倍ぐらいCO2が出る。こういう話を学生にいつもしているわけです。塩だと8キロ、砂糖は3キロ、ビールと清涼飲料はそんなに変わらないんですけれども、ビールの方が少し少ないということがいえる。似たようなものだと、値段でいくと、有機肥料と化学肥料だと、化学肥料は、桁が3けたも違うほどのCO2の排出量になっている。
  あとは、皆さんご承知のとおり、電力とかガスの排出係数を計算すると、自分の家でどのくらいのCO2が出ているかということを計算できる。 私の経験だと、ガスはお風呂に入らなければかなり減ります。シャワーで済ませると大分減ります。 こういう数字を計算して、グラフにして縦棒を書くと非常にわかりやすい。これが魚です。結構高いのが花です。これは野菜。肉は、ポークとかチキン、こんな数字を、1995年ぐらいから環境家計簿といって宣伝してやっております。
  これをもう少し応用すると、最新技術の評価もできるのではないかということで10年ぐらいやっていました。住宅ではどのようにやっているかということを簡単に説明させていただきます。既に建設関係の方はかなり自分で産業連関分析を使ってやられている方も多いと思います。もう一度復習ということでお聞きいただければと思います。断熱を強化した省エネ住宅をつくる時にコーティングをしなければならないのでCO2が増える。ガラスも二重にすると増える。しかし、アルミよりも木の方が断熱性が高いので、木枠にすると、アルミは電力をたくさん使うのでCO2がたくさん出ますが、木は少ないのでマイナスになる。こういう足し算引き算をして、これだけつくる時には増えますよとなります。それを耐用年数で割ってあります。1年住むと断熱住宅に住んだ結果、熱の出入りからマイナスがこのくらい。平均的な住宅だと、昔は石炭をたいている住宅もあったので、平均がマイナスになって、年間586キロぐらい減ります。こういう計算を次々と温暖化対策技術に適用してやっていけば、ちりも積もればで、全体ではたくさん減るのではないかと考えていたわけです。

3.リサイクルはCO2を減らすのか

(図13)
  そのひとつとして「リサイクルはCO2を減らすのか」というテーマに移らせていただきます。古紙のリサイクルです。リサイクル率を上げればCO2は減るのではないかと考えたのですが、実はそうではない。リサイクル率を上げると、逆に化石燃料から出たCO2は上がっていってしまう。自動車で集めるということもありますし、古い紙を使う時には結局パルプではないので、パルプ黒液を使わないんですね。日本の製紙会社はパルプ黒液を乾燥させて燃やして、そしてつくった紙を乾燥させるのに燃料として使っていますので、バージンパルプがなくなった分、石油を使って蒸発させなければならない、乾燥させなければならないということでCO2が増えてします。そういうジレンマがあるということを結構昔に我々が計算しました。古紙のリサイクルは実はCO2という観点からいうと、余りいい方向に働かないということです。森林を守るという点では、プラスの面もあると思いますけれども。
  それから空き缶のリサイクル。実は3回くらいやると、それ以上リサイクルしても、余りCO2削減効果はなくなってしまう。というのは、共同研究していた東大のグループの人たちが我々の産業連関表を使ってリンクさせて、計算した結果です。
  一番多くきくのはアルミ缶です。3回目で大分低くなる。4、5と、1回ごとにリサイクルしても、全く同じものにはならないでしょうし、CO2を下げる割合はどんどん減っていってしまう。ペットボトルなど灰色ですから、実は余りリサイクル効果はない。途中で燃やした方が逆に石油の節約になるかもしれないということが出てくるわけです。
  リサイクルをやっている人にはディスカレッジングな結果なんですけれども、ちょっと突き放して、それでも3回ぐらいは必要なんだということでご了解いただければと思います。こんな感じでリサイクルはそんなにCO2を減らさないかもしれない。

4.最新技術はCO2を減らすのか

(図14)
  もう1つ問題になったのは、家計でも、輸送でも問題になりますが、自動車がどのくらいCO2を下げるかというのが先進国のCO2削減のポイントになっているかと思います。
  これは自動車をつくった場合のCO2の出る量です。青い部分が国内の生産でつくる場合。原料などいろいろ持ってこなければならないので、持ってくる時に、京都の議定書では足していない部分ですが、海上輸送で出てくるCO2は結構ある。例えばオーストラリアから鉄や石炭を持ってくる場合の原材料の採掘のところでもCO2がでる。自動車1台つくるのにこれだけかかる。普通車が今は多いでしょうから、6トン以上出ます。つくるだけで結構出ますということです。走るとどのくらい出るかというと、生産工程全体が17.5%で、走行が76.8%です。あとは、自動車工場をつくるのに1.7%、普通自動車を7年乗るとしてリッター7キロで走っていると補修で4%ぐらい出るということで、走行がやっぱり多い。小型車になると、つくる方は2割ぐらいになって、走行は75%ぐらい。小型車だと5年ぐらいでかえる人もいるということです。
(図15)
  では、ガソリン自動車に比べて、電気自動車はどうだということになります。これは電気自動車の走行結果とガソリン自動車の走行結果を比べたものです。東大の松橋先生と我々が一緒になって共同研究しました。EVというのは電気自動車です。車速によるのではないかということで、ガソリン車も、製造と走行の、両方が入っていますが、ガソリン車は遅いともちろんCO2の性能が悪いんですけれども、20〜30キロで速く走れば電気自動車でもガソリン自動車でも余り変わらないということになってきます。
  何故かというと、電気自動車の電気を充電する時に現状の電源構成でやると、石炭も結構ありますので、そこからCO2が出てくる。原子力が増えればかなり減るということになります。つぎに,ガソリンを使う限りは、スピードよく走ればいいのではないかということになる。ですから、道路をちゃんと整備した方がいいということがいえるかと思います。
  ところで,電気自動車ですけれども、これはこのデータは古いタイプだったものですから、新しいタイプ、慶應の清水浩先生が開発した時速300キロか400キロ出るスーパーカーみたいな電気自動車のデータで計算してみました。今は、エリーカというのになっています。私も乗りましたけれども、すごく加速がよくて、すぐ100キロぐらいに加速します。800馬力ある。車輪が8つあって、1つが100馬力なので、すごく馬力があるそうです。加速性能がすごくいいのを売りにしていました。
  清水先生がベンチャー企業を立ち上げたと今週の新聞に出ていました。爆発すると怖いんですけれども、床が全部リチウムイオン電池ですね。それに、電車と同じ要領でタイヤにモーターがついている。そういう仕組みになっているそうです。これをつくると何億円かかる。イタリアのデザイナーがボディーを設計したそうです。清水先生はゼロエミッションとおっしゃっています。
  (図16)
  確かに走る時にはCO2は出ないけれども、つくる時はどんなものなのでしょうかということで、データをいただいて、正直に計算しました。前のKAZという車です。リチウムイオンをつくる時にやはり物すごく出る。でかい自動車なので、普通のガソリン車のサイズにすると減るんでしょうか、つくる時にガソリン自動車の倍ぐらいCO2を出す。リチウムイオンは、皆さん、携帯電話のバッテリーでご承知のとおり、意外と寿命も長ければいいんですけれども。あと、充電する電力に依存して、CO2の排出の仕方が変わってくるということになるわけです。長く走れば走るほどいいということです。データをいただいた上は、悪い結果は出せませんが、バッテリーの寿命は少し長いかもしれませんが、確かに電気自動車はたくさん走れば結構CO2は少ないよという結果が出ております。
(図17)
  もう1つ、先ほどいいましたガソリン自動車はCO2を非常に多く出すので、速く走らせたいということで、これは国土交通省の土木研究所から依頼されて慶應で受けたプロジェクトのデータです。ITSのCO2発生量ですが、つくる場合と、走った場合に、燃費がよくなると、どのくらいになるかという計算をしたものです。土建の分野、コンクリートからは結構多いのですけれども、実はETCなどの車載器は寿命が短いので、そこから出てくる量が多い。そういうことがわかったということです。速く走ることになった燃費の向上分と、車載器の耐用年数を倍にした場合、軽くした場合、こういうことを組み合わせるとITSで結構CO2が減ってくるという計算をやっておりました。
  そこでIT産業のCO2がどのくらいになるかということを検討してみました。セメントや鉄に比べると、同じ付加価値をつくるに、コンピュータ系統は結構環境負荷が少ないということがわかります。一番ひどい液晶素子でも、自動車と同じくらいの負荷。100万円という単位ですけれども、同じGDP、付加価値をつくるのにこんなものだということが出てきているので、産業構造がこのように変化すれば負荷も減るのではないかということです。
  もうひとつ、光ファイバーの敷設のCO2計算をしました。昔の光ファイバーには波長多重化技術というのはなかったので、何本もファイバーを束ねてやっと何回線かとれるということでしたが、それが最近は100芯で済むようになった。その結果、昔は、光ファイバーの炭素繊維をつくる時のCO2がより多かったんですけれども、現在は逆に最近は建設の部分が大きくなっているという結果が出ています。さらに,運用の方は、ほとんど出ないということです。例えばインターネットを使ったり、携帯電話や衛星を使って、街の自動販売機の缶を集めるのにどのくらい燃費が安くなるか。無駄なく道路をトラックが運送できるような走行システムということです。それから空荷の場合、空荷で戻ってくるのではなく荷物をオークションかけて積んで帰る、そういうシステムを最大生かしてやったらどのくらいCO2を減らせるか、1000万トンぐらい減るのではないかという大雑把な計算しております。
  ただ、ここで出てくるCO2というのは、どこが一番多いかというと、電力需要ということになります。ライフサイクルを考えると電力からの排出が一番大きくなる。電気自動車も、やはり充電の時には電力を使用するし、リチウムイオン電池もつくるとき,あるいは太陽電池を作るときにも電気炉を使ったりするでしょうから、究極すると電力とガソリンが重要だとわかってきたということになります。
(図18)
  ガソリンにかわるのは何かというと、バイオマスエタノール。ゼミの学生に計算してもらいました。バイオマスが何でいいのか。トータルでいうと、バイオマスは燃やすのでやはりCO2が出てしまうんですね。燃費も6割か何割かガソリンに比べて悪いということなので、たくさん燃やさなければならない。だけど、バイオマスというのは一たん吸収したものだから、それをただ空中に戻すだけ。カーボンニュートラルといっていますけれども、その分がこの点線ぐらいある。ただし、つくる時に出てくる。ガソリンはつくる時は少ないけれども、燃やす時に化石燃料を燃やすので、出てくる。バイオマスエタノールは結構いいのではと考えられているわけです。
(図19)
  ただ、シミュレーションして、ガソリンの代替率を増やしていくと、結局つくる方からのCO2が意外と出てくる。この黒い(上の)線がバイオマスからのCO2をプラスで考えた場合です。カーボンニュートラルということを考えないで、燃やしたので、全部足したということでバイオマスエタノールの燃費が悪い分,CO2が増えるわけです。赤い(下の)線はカーボンニュートラルで考えた場合です。上の赤い線が右下がりなのはバイオマスエタノールを使った自動車をつくると、カーボンニュートラルを考えると全体では温暖化への貢献は減るということになります。
  家計部門の方がガソリンだけやっているので、低下が結構大きくでます。産業部門でガソリンを利用しているのは運輸部門に限られますが、軽油だと、あまりバイオエタノールが大きく効いてこない。家計からCO2は確かに下がります。ただ、コストはトン/カーボン当たり2276円。学生が計算したのは今年の初めぐらいですけれども、CO2の排出権価格は1200円ぐらいですから、こんなことをやるぐらいだったら、コストパフォーマンスから見れば買ったほうが安いのではないかということもいえているということです。
  この1200円ぐらいというのを記憶しておいていただけると、次の植林のコストと比較できるかと思います。

5.CO2負荷削減の実践活動

 第5番目のテーマです。ある先生から「計算ばっかりしていても、環境はよくならないよ」といわれました。実際に環境というのは、サイエンスの部分は少なくて、実践してこそ意味があることだと考えまして、計算だけではなくて、実際に植林をして、吸収して、植林でどのくらいCO2が減るか計算してみようということになりました。こちらが産業研究所の吉岡完治先生が中心になって、中国での植林をはじめました。私は、統計が好きだったものですから、木がどのくらいCO2を吸収するかという作業をしていたわけです。
  どこでやったかというと、瀋陽市の90キロぐらい先の内モンゴルとの境界線にある砂漠で康平県、中国の貧困地帯です。我々がやった植林のコストが、最低限で考えた場合のトン/カーボンですが、炭素当たり5ドル。CO2当たりでいくと、1ドル48セント、だから、1.5ドルぐらいしか植えたときのコストはかかっていないことになります。非常に安くCO2を吸収できるのではないかと最初は考えていました。これは全部認められたわけではないのですが、別のプロジェクトと比べると植林は、意外と安くなるということもわかりました。
  砂漠化がどんどん進んで、アルカリ塩害って、カチカチになってしまいます。ここに先ほどのバイオブリケットの灰をまくとこれが防除されて、なおかつ植林もできるということです。最初にやり始めたのは1999年、10年前です。軍隊も来てボランティアでやってくれたので安くできました。約2000人も吉岡先生が呼びまして、みんなで植林しました。3年後、こうなりました。
(図20)
  このプロジェクトは実は呪われたプロジェクトで、最初にトラブルが起きたのは瀋陽領事です。岡崎さんという方ですが、北朝鮮からの脱北者の問題で、ちょうどその時は大連で飛行機事故があっていなかったらしいのですけれども、その結果で瀋陽領事を更迭されてしまいました。瀋陽領事になって1週間ぐらいで頭を怪我して、 ばんそうこうをつけていましたが、いろいろ協力していただきました。つぎに中国人の王克鎮さんという人で瀋陽市の外交担当の方です。日本語が堪能な方で、植林に全力を尽くしてくれました。この方も、この2002年の夏にわれわれが帰ってから、体調を壊して亡くなられてしまいました。その後トラブったのが、前の商学部長をやられていた桜本光先生で胃癌になられましたが、今は元気になって中心的に中国との折衝をやられています。それから中国政治の小島朋之先生、この方が中国語を自由操ったので、これまでできたという感じがします。この方も、2007年の3月にやはり癌で亡くなられて、活動できる方がどんどん少なくなってしまいました。10年あればそのぐらいのことはあるかなと思うのですが、かなり寂しくなっています。でも、こういうふうに木は植えればどんどん育ってくれるということでございます。
(図21)
  ただしその一方で塩害というのは現在も進んでいるということで、これは冬の景色です。白っぽいのが塩害です。砂がどんどん飛んできちゃう。防砂林とCO2吸収、両方兼ねた植林をやっております。 
 
(図22)
  私の計算の方で、どういうふうにCO2吸収計算するかというと、樹幹解析を使って、1メートルおきに木を切って乾燥させて葉っぱをむしって重さをはかってということをやっていました。体積指数と年間成長率が決まった関係にあるので、全部切らなくても胸のあたりの高さの木の直径を計算することによって、体積指数を計算します。そしてどのくらいCO2を吸収したか、伸びたかということの、概算値が計算できる。きれいにはなかなかいかないんですけれども、統計的な分析をしておりました。
  まずベースラインの結果ですが,瀋陽市康平県の植林現場はバイオマスの量ということからすると、半砂漠のカーボンの蓄積量ということになります。これを植えればどうなるかという計算なので、今まで植えて、既に土地に生えている木や草についてはそこから差し引かなければいけないので、まずベースラインを計算する。地中の窒素の量なども計算するとなっています。
  ベースラインを引いて、すなわち下草などがどのくらいあるか引いて、実際植えたものが成長することによる吸収量から全体を引いたネットの吸収量を計算することになります。1本当たりどのくらい吸収したか、ヘクタール当たりどのくらい吸収したかが計算されて出てくる。植えたすぐはマイナスです。植林全体の純CO2吸収量は,植林全体のCO2吸収量からベースラインとリーケージをひいて,下草のCO2吸収量を加えて計算しています。 それでは、将来どういうふうになるか。別の文献を見れば出ていますが、成長するとどのぐらいCO2を吸収するかという成長曲線をはかる。似たような木の種類ではかるということをやっています。
  乾燥重量といって乾燥させた時の元素分析は、理科大の先生に頼んで出してもらいました。カーボンが45と、意外とカーボンの量が少なかったのですが、こういうことを計算して、比重からこの我々が植えた木はこれからどのくらい成長したら木はCO2を吸収していくかという吸収曲線を計算しています。
(図23)
  これを見ると、11〜12年ぐらいで1年間に20キロ吸収するんですけれども、それ以降は吸収が衰えるということになります。ですから、森林もただ生やしておけばいいというわけではなくて管理する。ある程度になったら伐採して、次の木の吸収が出てくるような管理が非常に重要だということを再確認しております。
  木の直径をはかって、番号何番の木がどのくらい直径がふえたからこのぐらい伸びたということを計算しておかなければならないということです。
(図24)
  ただし,植林現場までの様子は随分変わりました。植林をしているあいだにどんどん道はよくなりました。初めのころは道路が舗装されてなかったんですけれども、最後のころになるとかなり舗装されて、デコボコ道ではなくなりました。
(図25)
  5周年記念というので、石碑をつくりました。中日友好合作とありますが、我々が多分お金を払っていたのではないかと思います。やめておけばいいのになぁ,と思いつつ式典をやりましたら、小泉政権に対する抗日運動で、見るも無残に全部はがされちゃいました。私なんかホッとしたという感じですけれども、これがまた、やめておけばいいのに、桜本先生から、また性懲りもなく新しいのをつくったという話もあります。私は、後ろに名前も書いてあって、残るのが嫌なので、そのままにしておけばいいのにと思います。別に名前を残そうと思ってやっているわけではないですし、木が残ればいいということです。非常に立派に育っています。これはまだ若いほうの木です。
(図26)
  プロジェクト・デザイン・ドキュメントというのを書きました。これが承認されるのになかなか時間がかかったわけです。20年で大体2万2000トンのCO2が認められたと、ここに書いてあります。これは多分国連のUNFCCCのサイトでダウンロードできるものだと思います。
  1年間にすると1000トンぐらいですから、日本人は大体1人10トンぐらいCO2を出していますので、100人ぐらいのCO2はこれで吸収した。我々数人でやっていますので、我々の分はとにかく確保して、今日は130人ぐらいお集まりいただいているということですので、残念ながら30人の方のCO2は、我々のプロジェクトには入り切れないということになります。毎年1000トンぐらいのCO2を吸収する。CO2問題は、多くの場合、罪悪感と偽善との闘いという印象が最近ありますが,2000万円ぐらいかけてオフセットしているという安心感はあります。
  コストですが、植林の吸収でCO21トン当たり890円ぐらいなので、排出権が1200円ぐらいなら、売れれば、1トン当たり300円ぐらい儲かる。儲かった分はまた次の植林にしようと考えております。そうやらないと、中国の方もインセンティブがわかないからです。
  植林に選んだ樹種ですが,ポプラにしております。中国ではポプラぐらいしか切って売れないそうです。他は切ってはいけないことになっていて、そういうふうにしてくれというのが向こうの林業局のお願いでした。おかげで中国政府からのCDM許可ということで、ことしの3月やっと出ました。今,日本の政府の許可を、政権がかわってしまうとどうなるかよくわかりませんけれども、提出して、国連の方からはパブリックのコメントが既に得られておりますので、日本政府の許可が得られるとCDM理事会にかけるということになります。PDDを書いてくれたCDM理事会のメンバーに中国人の方も入っていらっしゃるので、この辺の政治的な対策も結構重要かと思います。何とかいってくれるのではないかと慶應のプロジェクトとして期待しているということになります。
  許可自体は3万トンで出ているのですが、PDDでは2万3000トン。先ほどの890円というのも、PDDのCO2になっております。これでいくと年間で1000トンぐらいのですけれども、実際に吸収しているのは年間1800トンから2000トンぐらい吸収しているというのが我々の計算です。枯れたりとか土地が崩れちゃったり、いろいろなことがあって、なくなると補てんしなければならないので、そのリスクも兼ねて倍ぐらいの吸収をしていても、半分ぐらい申請するという具合にしております。これが我々の実践の一番プロジェクト的なお話ということになります。
(図27)
  以下は余談です。環境対策をいう人は先ほど偽善ぽいといいましたけれども、片方では少子化対策といっていて環境保全というと何となく矛盾する、そういうことがいろいろあります。人間の数が少なくなればCO2は減るわけですからいいはずなんです。経済成長とCO2削減を同時にやっていこうというのがサステーナブル・ディベロップメントの考え方です。そういうこと勉強していたのですが,ゼミの学生が、呼吸するとCO2が出るだろう、それはどのくらいのもんなんだろうかということをいい始めました。呼吸だけではつまらないから、太っている人の方が基礎代謝が大きいから、その分呼吸量が多くなるということも考えてはどうかと示唆しました。それがどのくらいになるかを計算してみればといって、計算して論文に書いてもらいました(岩井武士・熊谷真仁 「バイオ起源のCO2排出と削減効果 〜ガソリン代替からダイエットまで〜」『三田商学研究学生論文集』2009年3月)。肥満人口が約2600万人いる。BMIが25以上の人が対象です。BMIを22という標準体重にしたら、どのくらいCO2が削減できるかを計算しました。
  2600万の人が38万トンぐらいの体重の過剰になっている、日本全体で。これを減らすには1人当たり14.7キロということになる。これには1日300キロカロリーのダイエットをするといいです。これによって、どのくらいの食料が少なくなるかというのを計算した。あとは脂肪分、細胞が呼吸して余計に出ちゃっているCO2が何と年間68万トンも日本全体である。肥満がいなくなると年間68万トンのCO2は呼吸だけで減る。食事制限すると、余計に食べる食料が減って大体200万トンCO2が減るということです。ただし,ウォーキングとかフィットネスクラブに行くと駄目です。プラスになってしまいます。ひたすら我慢して食事制限すると、CO2削減になる。あわせて280万トンぐらいです。これはどのくらいの量かというと、先ほどのバイオマスガソリンで減った分くらいになる。日本全体で13億トンや12億トン出していて、そのうちの280万トンです。これだけの方が我慢する価値があるかどうかはちょっと疑問です。
  ただ、何で今そんなにメタボといっているかというと、その根拠は、厚生労働省が2005年に出した「医療制度改革大綱」で、医療費の2兆円をダイエットすると削減できるらしいんです。そうすると医療費がなくなります。医療関係、病院は電力も使いますし、薬でもつくる時にCO2を出す。これを計算すると、健康になるとその医療費が減った分で316万トンぐらいのCO2削減になる。この2兆円には、寿命が延びる効果で、医療費のプラスも入っているんですかと聞いたら、それはないということです。寿命が延びると医療費は増えると思うんですけれども、実は健康になって医療費は減るらしいですね。一応厚労省に電話かけてチェックしてはいるのですが、本当かどうかは厚労省を信じるしかありません。でも、こういうCO2の計算は概算なので、メタボ対策をするとさらに300万トンぐらいは減るのではないかという話になっています。身近でできるCO2削減ということになります。

 

6.究極の解決策


(図28)
  最後に、究極の解決策のお話をします。先ほどから出ていますけれども、発電のCO2を下げるのが一番大きいということで、研究を電力中央研究所の人たちと共同でやりました。最初、電力中央研究所の人たちも産業連関分析を信じなかったんです。金額の表でどうして物量が計算できるんだといっていましたが、ヨーロッパに行って産業連関を使っている人がいたらしくて、急に一緒にやろうとなった。我々のいうことは信じない。オランダとかそういうところが熱心なので、そこでは今は皆さんやっています。CO2にリンクした産業連関表を発表している機関は、日本では慶應の産業研究所と国立環境研究所、この方たちも、最初我々のところに聞きに来たりして、教えてあげたんです。それから、電力中央研究所。それから前にフォーラムでもお話をされていた山本良一先生。未来工学研究所というところにも、エコマテリアルでやられていた時に、CO2の部分だけ、提供をしたことがあります。結構、産業連関を使ってCO2の波及を計算するということがやられていると思います。
  図でグリーンになっているのは、経常運転で出てくるCO2で化石燃料を燃やせば出てくるものです。原子力発電は経常運転ではCO2は出ないといわれていました。コンクリートの塊だからつくる時の方が多いのではないかと考えていたわけですけれども、実は、原子力22のうち19が経常運転の方で、3が建設時の排出です。建築物は土木の耐用年数が50年で、機械の耐用年数は30年で、70%の稼働を仮定して計算しています。これは電中研の人が設定したのをそのままやっています。原子力のデータは電中研でも手に入らないので、アメリカの原子力のデータを使っています。確かに原子力は低い。バイオマスは、理科大の堂脇さんという人が計算したものですが、32ぐらいになる。SPSというのが出てきますけれども、これがNASAのレファレンスシステムで、我々がデータを積み上げて計算したもので、20でした。それをこれからご紹介します。
  ちなみに、日本は電源構成が、2006年のデータだと石炭が27%、石油が11.1%、LNGが23%、原子力が27%、水力が7.9%、その他2.5%という具合です。結構石炭が増えてきました。石油を燃やして発電しているのは、先進国では日本とイタリア。イタリアが確か十何%ぐらいです。あとイギリスは石油が1.3%、アメリカは1.9%。石炭が多いんですね。アメリカも半分ぐらいが石炭です。イギリスは昔石炭が少なかった。サッチャーさんが炭鉱をつぶしてしまったので、その分石炭が減って全部LNGになったといっていますが、それでかなり減ったのに、最近石炭が増えてきています。イギリスは原子力を減らして、多分石炭が増えているのではないか、という感じがいたします。プラジルは、石炭が2.4%、石油は3%、LNGが4%、水力が83%、原子力が3.3%という具合になっています。ブラジルはすごく成績がいいんです。中国は石炭が80%です。インドも68%が石炭。IEAの予測によると、中国とインドはこれから電力不足になるので、原子力のキャパシティを世界全体で物すごく増やすということです。何百基と原子力発電を増やさないと需要が賄えないのではないかという姿を去年のWorld Energy Outlookで発表しています。石油開発に、毎年3600億ドルに投資してもやっと採掘量を維持できるかどうかわからないという推計もしています。石油が枯渇しつつあるということらしいです。
  太陽発電のボトルネックは稼働率にあるので、宇宙に上げてしまおうというものです。アメリカはピーター・E・グレーザー(Arthur D. Litter Inc., Cam. Mass.)というエンジニアの案(1968年)をもとに、NASAが1987年かにレファレンスシステムを出して、その後1回フォローアップがあったぐらいで、あまりやっていなかった。ところが、2007年に、NASAではなくて、今度はペンタゴン(国防総省)の航空安全局(National Security Space Office)がエネルギー安全保障ということで乗り出しまして、2050年には、10%、これで発電する、というレポートを出しています。それと同時に出したレポートが、John C. MankinsのSolar Based Power Satelliteという話でインターネットで見られます。日本でも、予算は物すごく少ない中でショボショボ研究していました。我々も最初はNASAのレファレンスシステムで計算したのですが、それを日本のものに変えていくということをやっています。
  衛星で発電してマイクロウェーブで送る。ペンタゴンのプロモーションビデオをどこかで見られるといいと思います。電池で動く戦車は、砂漠でガソリンか軽油か知りませんが燃料がなくなって止まってしまう戦車にくらべ,衛星から電力を送って戦車が復活するデモンストレーションをやっていました。そのプロモーション映像には多分メンバーだとアクセスできるのかもしれませんけれども、昨年コンファレンスをやった時に紹介したビデオを見てびっくりしました。
  我々が計算した古いタイプのNASAのレファレンスシステムでは、5キロメートルあるような非常に大きな太陽電池パネルを静止軌道で打ち上げて、地上のレクテナとアンテナで受け取る。要するに電子レンジのマイクロウェーブと同じものをつくって送って受け取る。受け取る辺りでは電子レンジの外より電磁波が弱くなるようにする、その分レクテナの面積を大きくしなければいけないという制約もあります。技術自体は昔からかなりあるので、量さえ飛ばせばいい。実証実験をやればいいということらしいです。
  そのうちにSPSが何種類も出ていまして、最初にやったのは、ギガワット、非常に大きな規模です。SPS2000は実験機なので話にならないんですけれども、NEDOも同じような構想を出している。1ギガは大体発電所1個ぐらいです。
  最初のSPSを計算した時に私も一番覚えているは、つくる時に何に一番CO2が出るかというと、その当時は太陽電池だったことです。最近は、燃料の方にCO2がいっぱい出る。太陽電池が結構効率よくできるようになり、水素燃料の製造で発生するCO2が増えてきています。例えば、18基つくると日本の電力を全部賄える。それを計算すると、耐用年数20年ぐらいと考えて割り引くと、20g/kWhの原発並みのCO2発生で発電ができる。ブリーダーシナリオというのがあって、これは1基、SPSを上げて、そこの電力で地上のものをつくってしまう。それで半分ぐらいになりますよということを計算しています。
  それからだんだん進歩してきたわけです。これがNASA。さっきあった凧みたいなものだと全然だめ。日影になっちゃったり、静止軌道じゃないので、グルグル回るから全く採算に合わない。それから、NEDOのSPSもこのぐらい。大きればそれだけいいわけです。屋根置きでも結構いいのではないかという意見の方もいます。
  これも利用する周波数で電波の障害が結構あるので、実は電波天文学の学会からやめてほしいという意見も出ています。微妙なところなんでしょうけれども、周波数を制限してやれば大丈夫とか、いろいろそういうところでも折衝されているみたいです。
  屋根置きの太陽電池は、この計算をしたころは屋根置きでもいいねといっていて、2004年ぐらいだと日本は世界でトップの付設量でしたが、今はもう6番目です。一番多いのはスペインで、2460メガワットということです。その次がドイツ、1860メガワット。日本は230メガワットで、何とスペインの10分の1以下の太陽電池しかないということになっているわけです。韓国にも抜かれていますし、ついにイタリアにも抜かれたというのが2008年です。イタリアも240メガ付設されているみたいです。
(図29)
  どうせだったら、地球でチマチマやらないで、一遍にやっちゃえと、大逆転をねらったプランがあります。「かぐや」という月に探索ロケットを送ったそのチーフのJAXAの佐々木進先生が2006年にプランを立ておられます。テザー型というひもでつるみたいなものをつくっている。ただ、これは動かないので、発電効率はNASAのタイプよりも稼働部分がない分少なくなって、送る荷物が少なくなる一方で発電能力は少し劣るけれども、日本風、省エネ型でいきますよというものです。
(図30)
  佐々木先生にも一部書いていただいた本(吉岡・松岡・早見編 2009年、後掲)が出ておりますので、参考にしていただければと思います。いろんな制約もあります。それだと大体32グラム/kWhということで、20グラム/kWhよりは落ちるんですけれども、バイオマスぐらいのCO2発生で済みます。
  最近の試算では太陽電池の性能がよくなったので、ロケット燃料の生産が逆転してしまいました。東京ガスをやめられた方が、これを水素を使わないでLNGでロケット燃料をつくるという想定で計算した例を、産業研究所のディスカッションペーパーから出ていると思います。それをやるともう少し少なくなる可能性があります。そうすると、32グラム/kWhこの値もよくなるということになります。
  佐々木プランは壮大なプランで、2030年ぐらいに技術が確定するので、そこから打ち上げを開始する。30年間で1000ギガワット。世界全体の電力需要を賄っちゃおうというプランを考えています。とりあえず発電所1基がどのくらいになるか。原料費が2兆円ぐらい。これをつくると日本の経済の4.4兆円プラスになるよという試算をしています。これをつくったお金が他に流れるかもしれませんが,そのマイナスは考えず、グロスで4.4兆円です。
  コストとして建設関係や付加価値のところは実は入れていなくて、原材料だけです。組み立て費などは入ってないので、そういうのを入れると多分倍ぐらいになるのではないか。ざっくりと1基4兆円ぐらいのコストになるかもしれない。1000基ですから、4000兆円のプロジェクトということで、すごく膨大なプロジェクトになります。1基つくると雇用が20万人。グリーン・ジョブズというのが最近はやっていますけれども、どういう人たちが増えるかというと、意外と事務職員が増える。
  残念ながら、地上につくるアンテナ、レクテナのために、建設関係の人がどのくらい要るかのデータはありませんでした。建設関係の方にできればご協力いただいてデータをいただければ、ここに人数も入ってきますし、雇用がどのくらい増えるかどうかが入ってくるかと思います。
  建設機械、運転作業者、土木作業者など、そのぐらいは出てくるんですけれども、それは組み立てではなくて、機械をつくるために必要になってくるものです。20万人の1.4%ぐらいが土木作業者の雇用を誘発するということです。清掃員が2700人なので、それより少なくて申しわけないのですが、データがあれば数が増えると思います。
  これがどのくらい実現性があるのか。4000兆円かかるんだけれども、30年間で運用していけば、現在価値だと1450兆円ぐらいでしょうという簡単なざっくりした計算ができます。4000兆円で2億人の雇用ができる。年間1000万人の雇用ができる。不況には非常にいいし、日本全体の雇用政策が6000万人なので、世界で雇用を創出しないとやっていけないでしょう。
  1450兆円かかるけれども、1基4兆円ということで考えると、石油製品で16兆円も輸入しているのだから、輸入代金で全部これをつくるとなると4基できます。4基では、しょぼいかもしれませんが、全体でやっていって、国債借りればどうだとかいろいろ考えれば、それこそ紙の上の計算ですが、世界の電力を日本の電力料金の4分の1の価格で全部賄おうとすると150兆円になる。今800兆円近くの日本の赤字がありますけれども、意外と5年ぐらいあれば、この利益で賄うことができるかもしれない。これができればです。世界の電力を日本が供給する、そういう夢を皆さん描いてみることはできないでしょうか。日本自体は、ブルネイのように税はなし,ディズニーランドみたいなものはタダ、そういう生活が送れるかもしれないですよ。
  日本だとそういう話になるけれども、アメリカだと、本当に結構真剣になる。ボトルネックはどうかというと、10分おきにロケットを20年間発射し続けなければいけない。これはとんでもないなと思うかもしれませんけれども、100年前のことを考えると、300キロぐらい飛行機が50メートル飛んだだけ。それが今や6000トンぐらい飛行機が1日1300回ぐらい飛ぶ飛行場もある。夢ではないと2007年のレポートには書かれています。
  これにはカーボンナノチューブの宇宙エレベーターもあります。この間テレビでチラッと出ていましたけれども、財団の方はこれも1兆円ぐらいでできるといっています。静止軌道と反対側に同じテザーをやると遠心力でバランスするからエレベーターができるという話らしいです。これで運べばロケットはそんなにいらない。もう少しCO2が少なくなるかもしれません。
  送電技術の点では、JAXAに協力しておられる高野先生から聞いたのですが、マイクロ波の整流というのは今は1ミリアンペアで5ボルトしかない。しかし、実際やるとすると3500アンペアで、2800ボルトの整流器が必要だそうです。本当に予算が少なくて実証実験もなかなかできない。皆さん本当に予算が欲しいことだと思います。
  私のお話のバックグラウンドは吉岡完治・松岡秀雄・早見 均編『宇宙太陽発電衛星のある地球と将来』(慶應義塾大学出版会,2009年)にあります。ただ、これを書いていて大事なミスがありまして、石油の輸入が先ほど16兆円と書いておりましたが、こちらの本では、輸入金額の75兆円は全部石油になっています。それだけちょっと修正が必要です。
  ちなみに、その前までのシミュレーションはこちらの本『環境分析用産業連関表とその応用』(慶應義塾大学出版会,2008年)に出ています。これを1冊つくるのに5トンぐらいCO2を出しているという概算になっています。本を出すにもCO2が出る、何をするにもCO2が出るということで、なかなかサステーナブルな成長というのは難しいかと思います。
  私の話はだんだんサステーナブルでなくなってきました。声の方が持続ができなくなったので、この辺で。どうもご清聴ありがとうございました。(拍手)

 

フリーディスカッション

與謝野 早見先生、ありがとうございました。
非常に幅広い視野のCO2削減技術の効果と評価、林業の分野でのプロジェクトの紹介、そして最後に、SPSという太陽発電技術への将来像等、大変刺激的な興味深いお話をいただきました。ありがとうございました。
  植林技術について大変興味深く拝見しましたし、また、ダイエットについては、一挙に削減技術が身近に感じられました。SPSについては、今まで絵空事というか、夢のような話に受けとめておりましたが、ある種の基本的なリアリティを認識できたかと思います。ありがとうございました。
  それでは、せっかくでございますから、この場で皆さんからのご質問をお受けしたいと思います。非常に幅広い視野でのお話でございましたので、多くのご質問が出るかと期待しております。どうぞよろしくお願いいたします。
早見 我々も、私だけがやっているわけではなくて、チームでやっていますので、中には、環境負荷ということで、環境、環境といっている割には、実際の行動としては、歩いて5分のところでも車で来る先生は、ハイブリッドだと威張っているという方もいます。亡くなられた小島先生も、たばこをずっとバクバク吸っていた。吉岡先生もたばこを大分吸っていたのですけれども、小島先生、友達が脳腫瘍とかで亡くなっちゃうとさすがにたばこをやめたりされていました。
若山(若山和生計画事務所) 先ほどの植樹の件ですけれども、2万2000トン、20年間で削減できて、1年間にすると1000トンなので、100人分の排出量の相当するということでした。100人分ですか。ちょっと実感がわかないんですが、どれくらいの面積に何本ぐらいの樹木を植えたのでしょうか。
早見 面積は380ヘクタールぐらいです。
若山(若山和生計画事務所) 380ヘクタールを全面植栽なさって、何本ぐらいですか。
早見 7万本とか5万本をパラパラ毎年植えて40万本弱くらいでしょうか。
若山(若山和生計画事務所) 私は、地域のローカルな緑の問題に10年ばかりかかわっていまして、CO2の排出に多少は寄与するテーマかなと思っていたのですが、今の面積、本数を考えますと、生活者の近場の緑の問題は、CO2は数字の上では期待ができないということですね。
早見 まあ気持ちですね。
若山(若山和生計画事務所) 気持ちですか。わかりました。どうもありがとうございます。
早見 私もライオンズクラブの方たちがカンボジアで植林されるということで、そういうのはどうですかという話など、ご相談受けたことがあります。ここの瀋陽の内モンゴルのところに行くと、もっと砂漠がありますので、植える場所は、特に日本に限らなくても、全体がよくなればいいということでいってもいいのではないか。日本だと一番大きいのは、電柱をやめて全部街路樹にすると、かなりいいのではと思っています。でも、それも気持ちですけれども。前に、友達がNTTにいたので、「NTTは電柱を何本持っているんだ」と聞いたら、「数えてない」ということでした。電電公社からNTTにかわる時だったものですから、その後それを聞きそびれてしまいました。東電さんとか電柱をどのくらい持っていらっしゃるのかわかりません。
  前に共同溝にしたらCO2をどのくらい削減できるかという計算しようということで、ここでお話しされた東京農工大の柏木孝先生のお弟子さんたちと一緒に計算したこともあります。1つだけだと建設コストがかかってしまうので、共同溝にして、そこに木を植える。そうすると、そんなに大きくはないですけれども、吸収はする。ですが、やはり電力会社さんに頑張っていただいて、バッと減らすとか、自動車がバッと変わるとかの方が効果的です。2050年までに日本は8割減を求められる可能性がある。今の化石燃料の2割でやってくれということです。2050年だから死んでしまっていないからいいかもしれませんけれども、(笑)2020年ぐらいまでに目標が20%減ですか、15%にするとか。アメリカは今度、5月21日にワックスマン・マーキー法というのが議会で通りまして、2020年までに17%減をやる。2050年までに80%減をやるという法律がアメリカでも通っていますので、日本は今まで、アメリカもやらないからいいよねみたいにやっていましたがそうもいかなくなってきた。EUももっと強烈なのを出しています。国際政治的には日本はかわいそうで、既に日本の鉄鋼会社は、かなり効率がいいですから、そこからさらにということになると大変厳しい。
  前に、新日鉄の方に聞いたのですが、日本では標準になっているコークス乾式消火設備が、他の国は余りつけてないらしいです。それをつけるだけで1億トンぐらい減るとおっしゃっていたので、それをやっている国とやってない国が同じ土俵で、同じパーセンテージを減らすのは結構大変だと思います。そこは技術立国ということでなんとかしないといけない。
  植林は、日本は面積がさすがに少ないし、かなりの部分、7割がすでに山林になっている。国内というのは多分、気持ちになってしまうのではないかと思います。
水谷(日本上下水道設計梶j SPSのところでお伺いしたいんですが、太陽電池は、聞くところによると10年ぐらいたつとハンダがだめになってくる。最近そういうデータも出てきているので、もつのかという話がありますね。
  それから、宇宙にそんな5キロも広げると、最近スペースデブリなどとか非常に飛んでいるらしくて、パカンパカンぶつかって穴だらけになるのではないかという気がするんですけれども、その辺はいかがですか。
早見 おっしゃるとおりで、ただハンダのことについては私よく知りません。太陽電池自体は20年経っても効率は1%も落ちないらしいですね。配線のところの劣化は確かにあるということは聞いています。そこはちょっと考えていませんね。
水谷(日本上下水道設計梶j 最近産総研の方が調べられたら、過去のものは10年ぐらいたったらハンダ部分がやられているものが多いということでした。最近のものは知りませんけれども、そういうデータを出されていますね。
早見 多分、これは宇宙につける場合と地上につける場合で違うと思います。地上だと雨とか風とかあるので、ハンダだと、やられてしまうのかもしれない。
水谷(日本上下水道設計梶j 宇宙はやはりガンマー線とか紫外線があるからとかありますね。
早見 そうすると、ハンダがどうこうということより、半導体の素子がなくなるかもしれませんけれども、ちょっとそこは……。
水谷(日本上下水道設計梶j それはやってみなきゃわからない。
早見 実証実験してみないとわからないと思います。
  デブリは、このSPSの研究会の人たちが研究されていまして、デブリが当たってしまえば補てんすればいいわけなんでしょうけれども、デブリが当たった時にビームがずれたら危ないのではないかということで、それを制御する、パッとそらすという設備も開発されているという報告されていました。
水谷(日本上下水道設計梶j デブリも当たりどころが悪いと致命傷になるのではないですかね。
早見 結局、今こちらに書いてありますように、一番小さいのが95×100で、それを64個集めて1ギガになるという形です。分散型といえば分散型なんです。1個だめでも小さいのが1個という設計になっているそうです。
石原(潟Vティコンサルタンツ) 先生のレジュメの演題の1番目、「地球環境問題の現在」というところに、ファッションとしてのエコということが書かれています。意識レベルを高めるにはファッションとしてのエコでもいいじゃないかとおっしゃるのか、ファッションは一時的だから、そういうことではなくて、もっと恒久的に考えろとおっしゃるのか、その点を伺いたい。
  もう1つ、古紙の問題で、エコ偽装が大きな社会問題になりました。我々自身も、名刺を差し出してエコ偽装の片棒をかついでいたという事件でした。現在これだけエコのことがいわれていると、ますますエコ偽装の問題が起こってくるのではないか、そんなことが思えるんですけれども、先生はどんなふうにお考えでしょうか。
早見 私は専門が経済ですけれども、倫理の問題ということになるかと思います。ファッションとしてのエコというのは、アメリカでハリウッドの俳優さんたちが撮影をカナダなんかでやる時に、飛行機ででかけるのですが、カーボンオフセットというのを買って、買いましたよと言う。そういう形で進む。あるいはデカプリオなんかがプリウスを買って、みんながプリウスを買うようになる。そういうことが随分広まってきているということで、悪いことではないのですけれども、ほどほどにと思います。私もそんなにファッションや時代に乗っているタイプではないので。前にあった一過性の白いバンドでアフリカの人たちを救うとか、ああいうのと同じにされてしまうと困るかなと思います。そういう気はします。
  ファッションとしてエコがはやっても、究極的に、このCO2問題は戻ってくるのが自分たちですから、天につば吐くようなものではないか。偽装して駄目でも、究極的には自分のところに戻ってくる。そんなに大きくはないですけれども、私は、子どもがいないので、究極のエコをやっています。私は運転はしないんです。妻が運転します。そういう倫理の押し売りは、実は好きではなくて、もっと楽にできる方法があるとすれば、先ほどからいっていますように、自動車の燃料と電力、ここさえ少なくなれば、そちらの方でCO2は解決してもらうのが一番手っ取り早い。別に偽装しなくてもいいですし、しかも、電力会社の方もおられるかもしれませんけれども、安定的に儲かる話に移っていくと思うので、余り倫理に頼っていると、多分失敗すると思っています。
  ファッションも一過性なので、技術的に解決していっていただくのが一番。それにはなるべく技術がちゃんと根づくようにある程度支援が必要なのではないかと思っています。
  イギリスは、政府で発展途上国に技術移転をするための1000億ドルのファンドをつくることをブラウンさんが提案されて、今度のコペンハーゲンのCOPに対応しているわけです。
  個々人でできることはなるべく気持ちでやって、全体的に非常に大きい枠組みことは、世界全体のことなので、国際的な枠組みや日本の枠組みの貢献、そういうところで議論していただくのが一番いいのではないかと思っています。
  ただ、そうはいっても、慶應の例を出すので一般性はないのですけれども、慶應は最近ずいぶん新しいビルを建てたのですが、ガラス張りで夏がやたら暑い。紫外線カットのガラスをつけているのかもしれませんけれども、意外と新しいビルは断熱ができていない。大学はそういうことが多くてちょっと残念な感じがしています。太陽電池も別につけてないですし、後からつけるとお金がかかるとかいうし。ガラス1枚が1000万円するといっています。この間割れたらしいのです。その時に初めて1000万円とわかったらしいのですが、ちょうど退職される先生の退職金はガラス2枚ですねと、(笑)やたら軽い感じを受けました。その修理するぐらいなら、ガラスのところに全部太陽光を張っていただければいいかなと考えています。そういう個々人、会社レベルとか事業所レベルでCO2について気をつけようということは結構重要だと思います。全体がそうなっていないと、政府が国際的な協力で幾らお金をつけますといっても、賛同は得られませんから。
  ブッシュ政権時代でもアメリカは州レベルですごくCO2に関する意識は高まっていました。カリフォルニア州の規制がClean Air Actに対して緩過ぎるとかいうことで違反ではないかという訴訟が起きて、結局、州政府はもっと厳しくすべきだという判決が出ていました。人々が変わり出すとファッションも馬鹿にできないというところがあると思います。
首藤(東京電力) 今日はいろいろ興味深いお話をありがとうございました。
  質問は、世界レベルでこれからのCO2排出を考えると、新興国は、産業が伸びていって、かつそこに住む人々の生活スタイルが変わっていくことが、これから大きく影響してくると思うんですが、先ほどご説明の中で、インドの画像ですとか、中国の排日運動で記念碑が壊されてしまった映像がありました。中国やインドでそこに住む方々の認識といいますか、先進国、日本でもCO2を出さないようにしましょうという動きがありますが、そういう国々に住む方々の認識、意識、社会の中での動きがあるのかということを先生が実際にその国に行かれて感じたことをちょっと教えていただきたいなと思います。
早見 まず中国は、中央政府レベルではCO2問題を重視しています。それは副首相が今年早速オバマさんと協議を水面下で交渉しているみたいですね。人々は、私が植林に行ったときも、最近ではCDMというプロジェクトでやろう、国連認証してやりましょうといっていました。1999年、10年前は、CDM(クリーン・ディベロップメント・メカニズム)でやりましょうといっても、「おまえたちは植えた木、材木に興味があるのか」、そういう反応でしたね。2000年を超えたぐらいのCDMの話は、チャイナ・ディベロップメント・メカニズム。中国発展のための国連のプロジェクトだみたいな感じで受けていました。最近は、なるべく多く植林面積をやってくれないかというようになっています。京都メカニズムの枠組みから中国はノンアネックスなので、そこで削減すればお金が入ってくる側で、削減義務はないわけです。海外のアネックス国が投資すれば儲かる、そういうことが大分わかってきていると思います。
  都市の人は、車が多くなってきたなどありますが、農村の人は余りそんなに意識はないと思います。中国が発展しているといいましても、かなりの部分が、今まで市場経済でなかったものが、市場経済になっていってGDPがふえているという部分があると思います。地場で物々交換ではないですけれども、そういう自家消費、それがマーケットに回るようになってガンガン増えているというのがあるので、そういうマーケットにかかわりが少ない部分だと、そんな意識はありません。
  ただ、私たちがやっているところでも、最初は戸籍の影響で出稼ぎができなかったのですけれども、この10年間でそれができるようになったりして、どんどん都市に出稼ぎして、都市で稼いで、自分たちの子どもを学校に行かせようとしています。そういう意識はすごく強いです。教育が必要だということを中国はすごく重要に思っていますし、インドもそうです。そういう面では意外と捨てたものではない。瀋陽は、別にパンダの植林もやっていました。それは地震のあった成都市でやっていました。そっちの方の人たちは、最初は石炭で暮らしていましたが、成都は天然ガスがとれるので、圧縮LNGにタクシーを全部かえ、バスや公共交通機関も今は全部圧縮LNGの車です。コンロも全部ガスにかわりました。早いですね。
  便利ということと、エネルギー効率が上がっていくことと両立しているところがあると思います。エネルギー弾性は、中国は結構低く抑えられる。つまり、GDPが成長してもエネルギーはそんなに成長しないという傾向が見られる。意識かどうかわかりませんけれども、そういうことはあります。
  インドの方は、かなりエリートの人たちはみんなエコをいいますけれども、人々のレベルはどうですか。たとえばデリーでも水道というものがないそうです。うんと大金持ちでも、家の上に水がめがあって、そこに配給の水を入れてもらう。水道管がないらしいです。それに発電所が足りないので、節電といって電気が暗くなったり、冷房は何時から何時までストップとか、発電のキャパが追いつかないのでストップということがあるみたいです。CO2という意識かどうかわかりませんけれども、上の方の人たちが考えていると、それに従わざるを得ない。どぶみたいなところで生活されている方々は、もともとCO2を出していませんし、車も乗っていません。もっとお金持ちでもメインの手段は、自転車の力車です。でも、多分自分で三輪自動車に乗りたいなと思ったり、タータがナノという20万円以下のすごく安い車を開発しましたけれども、そういうのが売れたりすると、ガソリンが必要になってくると思います。お金がある人はエネルギー消費の方は大きくなると思います。ただし、貧しい人は化石エネルギーの消費はないので影響ないという感じだと思います。(インドでは1日2ドル以下で暮らしている人が75.6%)
海老原(鞄s市計画同人) 先ほどリサイクルを一生懸命やってもCO2削減には余り役立たないというお話を伺いましたけれども、毎日分別を頑張っている身としてはちょっと残念な気持ちでした。お話をお伺いしていますと、リサイクルを一生懸命頑張るとか、そういう日常生活でやれることもあるんでしょうけれども、むしろ何かを一生懸命やるということよりも、休みの日は思いっきり家で寝ているとか、お風呂はなるべくシャワーにするとか2日に1回にする、なるべく怠惰に、何かをしない。休みの日は買い物に行かないで、家でじっとしていた方がいいとか、そういうふうに何かをしないことでCO2削減を考えたほうがいいのかなという感じを持ちました。先生がお考えになります、日常生活でこういうことをやったら、CO2削減に当たってはより効果的だよということがありましたら、心がけていきたいと思いますので、教えていただければと思います。
早見 私も経済学をやっている手前、何もしなければいいというと日本経済はもたなくなってしまう。みんなで飢え死にすると一番いいみたいな話になってしまいますから、それは極論で、結局程度なんですね。だから、持続的発展という考えが重要で、今日タクシーに乗ってしまったから、今度の週末は自転車で何とかしようとか、そのぐらいで私はいいんのではないかと思います。
  大きいところは、電力会社さんや自動車会社さんの方々が技術を開発していただければいい。そうすれば、幾ら使っても、太陽電池を入れればCO2を発生させないんだという、印籠ではないですけれども、そういうことになる。そういうのを逆に利用するとリバウンドという現象もあるらしくて、ほかのものを使ってしまうとか、そういうのも研究されている方が、環境を好きな人でいらっしゃいますが…。
  リサイクルは、CO2という断面だけ見るとそうなってしまう。人間の健康でもそうで、コレステールを下げるだけでいいかといったら、最近はコレステロールがある程度あった方が長生きするとか、塩分も低い方がいい、血圧も重要だ、適度な運動でストレスをためないことが重要だとか、1つのメジャーだけでなくて、いろいろなメジャーがあります。もちろん、ペットボトルを集めて、ペットボトルそのものをリサイクルする。リサイクルは確かに3代ぐらいで駄目になっちゃうかもしれませんけれども、ペットボトルとして集められれば、それを切り刻んで燃やすなど、ほかの使い道もあります。分別はある程度した方が、その後の作業も楽になりますし、私も一生懸命分別します。最近はわかりにくいんですね。プラと書いてあるものだけ別にして,あとはプラじゃないので全部燃える方に入れるとか。バッテリーとかはリサイクルした方が当然いいでしょうし、鉄もくず鉄をリサイクルした方がゼロからつくるよりは、CO2の発生量が少ないわけです。同じものにはならないかしれないけれども、別の形で生きるかもしれない。
  あと、もう1つ、リサイクル関係だと、経産省のリサイクル課の人からいろいろ計算してくれといわれていまして、産業連関表を使った分析をしておりますけれども、リサイクルしなければならないものによって随分パターンが違います。パターンというのは、例えば紙ごみとか、事業所、こういうところで出るプラスチックごみはどこの産業でも出ていますので、みんながある程度協力してやらないと駄目なごみ。しかし、例えば食品加工で出てくるとか、医薬品が出てくる、動物性の死骸、残渣、そういうのはかなり発生する場所は限られていますし、特殊ですので、そういうところをビシッと押さえれば広がらないというものもあります。産業連関だと全部そういうのを引っ張った上での評価ということになります。フロンなんかの場合もそうでしたけれども、汚染するのがはっきりわかっているのは、ピンポイントでそこを押さえてもらえれば、我々は結構気にしないで使えるということがあると思います。
  CO2が一番難しくて,技術が変わらなければ電気とかガソリンのような皆さんが広く使う燃料について個別にたよることになりますが,現状の20%や50%の消費量にできるわけはありません。電気事業者の方々に頑張ってもらうしかないということになると思います。
與謝野 ありがとうござました。
皆様におかれましては、随分ご熱心にお聞きいただき、またたくさんのご質問いただきまして、ありがとうございました。また、これに対して早見先生の方からは誠にわかりやすく、そしてご自身の言葉で、熱意を持って真摯にお話をいただきまして、厚く御礼申し上げます。
  それでは最後に、本日の貴重なお話をいただきました早見先生にいま一度大きな拍手をお贈りいただきたいと存じます。(拍手)ありがとうございました。
  それでは、これにてこのフォーラムを締めさせていただきます。
  本日はありがとうございました。
     

 



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