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日建設計総合研究所 
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第25回NSRI都市・環境フォーラム

『東京都市計画の私案 』

講師:  伊藤 滋 氏   

早稲田大学特命教授

PDFはこちら → 

日付:2010年1月21日(木)
場所:日中友好会館

                                                                            
1. 世界大都市順位 東京は4位

2. 東京一極集中 人口、所得、オフィス床面積

3. 23区と都心4区人口、就業者、建物床面積

4. 都心4区の土地利用 都心部を4区分

5. 都心4区の将来構想 文化・交流の重視

6. 容積率と法定都市計画 現状より30%前後の増加が必要

7. 幾つかの都市計画手法 容積移転、地下利用等

フリーディスカッション

 

 

 ただいまから第25回都市・環境フォーラムを開催させていただきます。本日は、お忙しいところをお越しくださいまして、まことにありがとうございます。本日のご案内役は、私、日建設計広報室の谷礼子でございます。本年よりご案内役をさせていただくことになりました。どうぞよろしくお願い申し上げます。(拍手)。
恒例によりまして、1月は、早稲田大学特命教授の伊藤滋先生からお話をいただきます。本日は、「東京都市計画の私案」と題してご講演をいただきます。伊藤先生のプロフィールにつきましては、お手元のレジュメのとおりでございます。
前置きのご紹介はここまでとさせていただきまして、早速ご講演をお願いしたいと思います。皆様、どうぞ先生に大きな拍手をお送りくださいませ。(拍手)

 

伊藤 今日で通算で265回ということは、僕は40〜50回話していることになります。今日は顔なじみの方がおられて困っています。初めての方だといろいろなことを相当気楽にいえるんですけれども、顔なじみの方がおられると、言行一致してない、話していることが一致してないと言われるとまずいので、お帰りいただきたいんですが。(笑)
 今日は「東京都市計画の私案」の話をします。私も、いい年なもので、幾つか私の記憶を残しておいて、死んだ後に若い人が使えるようなものをつくりたいと思い、2年ぐらい前からいろいろな企業の人たちを集めて勉強会を始めました。対象は、東京23区の町の姿です。それを全部書き切ってしまおうということで始めましたが、意外と評判がよくて、今のところ、毎月1回やっています。
  できたら、僕がこうしたいという23区の絵姿を書き終わってから死ねたらいいなということですが、それの一等初めに何をやってきたかというご披露をいたします。
  一等初めにやりましたのは、2030年頃の東京23区の都市の姿がどうなるかということです。その第1の段階として都心3区プラス新宿区、都心4区の土地利用はどうなるんだろうというのをみんなと議論しながら、最終的には僕のイメージでまとめました。
  その中で、伏線として、東京都市計画の私案ということを考えました。今日お集まりの方はかなり不動産に関係する方がおられて、ビジネスチャンスを常に東京の市街地で探しているわけですが、いつも皆様方が僕たちにおっしゃるのは、容積率を何とか役人と話をしながら増やせれば儲かるという話です。これは企業の皆様方みんなが言います。容積率をうまく増やしたい。考えると、東京はまだそういう話題があるだけ幸いなところです。大阪に行くと、容積率の話ではなくて、空き室の話になります。空き室がこれ以上増えたらたまらないという話です。ですから、東京はそれだけ恵まれている。
  5年前に都市再生緊急整備地域というものを小泉さんがつくりました。皆様方がご苦労されている都市再生特区の話ですが、ああいうことと無関係に絵姿を書いても、皆さんにあまり興味を持たれないだろうということで、伏線として、東京の都心3区プラス新宿区の容積は一体どれぐらいになっていくだろうということもチェックしてみようという作業をしました。
  それの結果が、多分今日おみえの現役の皆様方には一番お役に立つ。退役された方には、土地利用のちょっとしたビジョンが役に立つという2つの方向性があります。それをこれからお話をしたいと思います。

 

1.世界大都市順位

(図1)
  まずは、森記念財団でやっている都市のランキングの話です。これもここで話したことがあります。今から7〜8年前にオランダの経済調査株式会社が、世界の都市ランキングというのをやりました。その後世界の都市ランキング調査はいろいろなところでやっています。ニューヨークの9・11は2001年ですから、大体10年前ですね。バルセロナで都市計画の世界会議をやって、総会が終わって基調講演をやって20分ぐらい休憩があったので、バルセロナのホテルの僕の部屋に戻ってテレビをつけたら、ニューヨークのワールドトレードセンターがボンボン燃えているんです。何だと思ったら、それが9・11だった。
  そういうショックを受けながら、ホテルで経済雑誌を読んだら、そこに都市のランキングが出ていたんです。申し上げたいのは、約50の都市を世界中から選んだんですが、そこに東京が入っていました。大阪も入っていました。その時東京は50都市の中で4番目でした。1番目、2番目がニューヨークとロンドン、その次の第3位にパリがあって、4番目が東京だった。問題は、当時、日本は不況の真っただ中でしたが、東京が点数でいうと、ニューヨーク、ロンドン、パリとそれほど差がなくて、第4番目だったんです。第5番目がロサンゼルス。東京とロサンゼルスはかなり点差があった。だから、ニューヨーク、ロンドン、パリ、東京が第1グループでいいだろう。第2グループにロサンゼルス、アムステルダムが入っていた。そういう形だった。
  その後、日本の経済がまだもたもたしていた時に、他の研究所でも都市ランキング調査をやりました。その中では、東京は、経済力調査で世界の十何番目に落ちたなんていう英国の調査統計もありました。1、2、3位のニューヨーク、ロンドン、パリという第1グループに比べて、東京は4位ですが、10年前の9.・11の時よりずっと力が衰えて、第2グループに入っている。そういう時代の4位もありました。
  今申し上げた経済力調査で東京が十何位だったのは今から6〜7年前です。ちょうど小泉さんが総理大臣になった頃です。東京は4位だけど、第2グループのトップだというのは7〜8年前のことです。
(図2) 
  その後、竹中平蔵さんが大臣を辞めて、森記念財団の仲間になりました。そこで、竹中さんがもう一回都市ランキングをやってみようよというので、森記念財団が改めてこの都市ランキングの調査をやり出しました。今日皆さんにお見せするのは第2回目の発表です。これはかなり腰を入れて、いろんな側面からデータを集めています。1つは、割合客観的なデータで、空港の発着回数と都心からの距離、あるいは東京23区の持っている工業出荷額、東京23区が持っている大学の数と学生数などです。また、そういう客観的なデータのほかに、東京、ニューヨーク、パリに住んでいる経営者が自分の都市を見てどう思うかという主観的な判断も入れて表と裏からの両方で東京のデータをまとめました。相当包括的な調査です。去年の秋ぐらいに森記念財団から出した結果です。
  それを見ますと、東京はやはり4位なんです。これは10年前にアムステルダムの経済調査会社がやったのと同じ形になってきています。第5位がシンガポール、第6位がベルリンです。それから、ウィーン、アムステルダム。今から5〜6年前、東京が駄目になったと時は、東京は第1グループから脱落して、第5、第6グループまで下がっていました。下がっていたんだけど、それがもう一回第1グループに入ってきた。これはいいことなんですが、毎年調査をしますから、来年はまたどうなるかわかりません。こういう結果がわかりました。
  1年目の調査と2年目の調査は、同じことをやります。どう変わったのかというと、1年目はベルリンはずっと下の方で15位ぐらいでした。それが2年目にはベルリンが6位まで上がってきました。ベルリンの次に続くのがウィーン、アムステルダムです。このことを一言で言いますと、ヨーロッパのドイツを中心にした文化圏、経済圏の都市の力が1グループとなっていて、それが、相当大きいということです。その次に、チューリッヒ、香港、ようやく地中海系でマドリードが来る。ソウルがぐっと上がってきました。第1回目のころは20位ぐらいでしたが、12位です。大阪は25位と低迷しています。大阪が何とかならなければいけない。東京の話より日本の経済がどう回復するかという重要な話ですが、それは今日は別にします。
  もう一回もとに戻ります。やはり、ドイツ語圏は、すごいなということです。オランダは英語ですけれども、実態としてはドイツと非常に近い。ベルリン、ウィーン、アムステルダム、この3つが都市の競争力の中でぐっと上に上がってきた。特に、ベルリンが上がってきた。ベルリンというのは底力があるんですね。文化的な力もありますけれど、ベルリンは科学技術でかつての昭和10年代と同じくらいの力を持ち始めたということです。それでずっと上がってきました。
(図3)
  分野別ランキングをおこないました。経済と研究開発と文化交流と居住と環境と交通アクセス、6つの分野の評価です。経済では、東京は2位ですが、来年はシンガポールや香港が上に行くかもしれません。ただ、研究開発は東京が意外と凄い。これはやはり大学の集積、特に理科系の大学の集積への評価、それから、大企業も東京23区の周りにちゃんとした研究開発の工場を持っているからです。そういう大学と大企業の研究開発の集合体があるので、研究開発の第2位を守っている。特に理工系だけなら、ニューヨーク、ロンドンを抜いて東京は1位になってもおかしくないんですが、ただ、研究開発には経済学や社会学、人文科学系も入っていますから、理工系が1位でも東京はどうしても2位になってしまいます。
  ところが、経済と研究開発は2位ですが、文化交流のところだと、シンガポールよりずっと下になります。東京は、何回やっても、文化交流ではうまくいかない。ロンドン、ニューヨーク、パリ、ベルリンが高い評価を得ています。
  居住はかなりいいところまでいっていますが、それでもベスト5には入りません。10位ぐらいです。
  環境。環境は、意外と頑張っていて、東京は4位で闘っています。「環境」にはいろいろな意味があって、低炭素の話もありますが、水がちゃんと供給されているか、水質は維持されているか、ごみの清掃がちゃんとしているか、ということも含まれています。つまり、かつての環境にたぐいしている清掃業務とか水の供給、伝染病が少ないとか、そういうことです。
  交通アクセス。これは東京はずっと下の方です。これは理由がはっきりしています。地下鉄の交通アクセスは東京は多分第1位です。ですが、この交通アクセスは羽田なんです。羽田が東京ではなかなか使えない。成田しか使えない。東京は文化交流、交通のアクセスが弱い、ということです。
(図4)
  総合ランキングトップ4(ニューヨーク、ロンドン、パリ、東京)の比較です。東京は、経済では2番目に高い。研究開発はニューヨークと同じぐらいだ。文化交流は物凄く低い。居住は、ロンドンがマイナス評価になっていますが、これはイーストロンドン等ですね。実は東街区ではひどい住宅地があるんです。テームズ川の南側。だから、ロンドンの評価は低い。東京も居住はよくない。環境は高いんです。それから今申し上げたように、東京の弱みは、都心から国際空港へ行くアクセスが悪いことです。これはこれから羽田がよくなりますから、多分ぐっと上がってきます。上がってくると、もしかすると、総合評価で東京はパリぐらいになるかもしれない。

 

2.東京一極集中

(図5)
以上が東京の都市ランキングでした。これは僕がやったのではなくて、森記念財団の竹中グループが世の中に発表した都市ランキングの紹介です。
  それでは、そういう東京ですが、国内では、一体どういう位置づけなにか。これは皆さんおなじみのデータですが、人口問題研究所がやっている統計データを整理しました。全国の人口は、2005年、1億2800万人でしたが、それが下がり始めています。2030年ぐらいになると、1億1500万人。1300万人ぐらいの人が、2005年から2030年の25年ぐらいで減ります。
それに比べて東京はどうかというと、これも人口問題研究所のデータです。お役所の統計です。実はお役所の統計も、推計が非常にぶれます。本当の人口の変動より下回るとか上回るということがあるんですが、一応国の研究所の推計ですから、使わせてもらいました。東京の人口は、2005年から2010年はまだ増えてきて、2015年から20年、あと5年から10年ぐらいで下がり始める。区部だけ見ても同じくらいに下がり始めるということです。
  2005年全国の人口は1億2800万人。30年先の2035年は1億1000万人。1700万人減る。東京都はどうなっているか。2005年、1260万人。その後5年おきに1291万人、1300万人、東京都全体はまだ増えている。2020年まで増えます。あと10年ですね。それから減り出す。でも結局2005年と35年の30年でみると、東京都は1万2000万人ぐらい増えるんです。東京区部は大体同じですが、4000人ぐらい減る。これだけ東京はしたたかに人口を減らさないということです。
(図6)
2035年の将来推計を見てみます。これは人口問題研究所のデータですけれども、2005年人口比で100を辛うじて上回っているのは東京と沖縄だけです。100を下回るが9割以上残っているところは神奈川と千葉と愛知と滋賀です。これが大事です。滋賀は、行って見るとお分かりのように、兵庫県や大阪や奈良県に比べて一番住宅立地しやすいところです。企業も住宅も物すごく立地しやす。この頃は電車も速いし、高速道路も通っていますから、名古屋にも大阪にもサーッと行ける。名古屋と大阪、両にらみ、京都には滋賀から快速電車に乗って20分ぐらいで行ける。非常に立地がいいので、滋賀は注目の的です。滋賀が関西を代表して人口が増加する。しかし、9割残すところは、これだけしかないんです。
(図7)
  今のは県別です。それを都市別で整理するともっと面白いことがわかります。都市別でやりますと、福岡は2005年から人口が2020年ぐらいまでずっと増えていって、それから減り出す。横浜、東京はその次です。だから、都市に着目しますと、福岡は買いなんです。このアナロジーは後でいいます。福岡のアイランドシティなんて今が買い時かもしれませんよ、不動産屋さん。これからコンペが始まります。僕が委員長で審査します。アイランドシティの住宅地開発です。覚えておいてください。福岡は買いです。
横浜は東京連れだからいいでしょう。あと、名古屋。最もひどいのは大阪で、その上に京都です。
都市によって人口の増え方、減り方がこれだけ違うんです。これも人口問題研究所の、平成20年の12月、一昨年、ちょうど1年ぐらい前の推計値です。
  これから見ますと、将来の日本を支えるのは東京、横浜という1グループがありますけれども、意外と福岡かもしれない。そういうことが言えそうです。
(図8)
  一人あたりの所得についてですが、小泉政権になってから所得格差がだんだん大きくなってきたことがは、こういうデータでもわかります。今が2010年で、2000年、小泉さんが総理に就任する1年ぐらい前、全国の中で東京の所得比率は1.49倍。全国平均の約1.5倍。2006年で1.6倍。だんだん上がっていたんです。これが比率です。東京が全国の富を集めている度合いがどれぐらい強いかということです。1990年1.34倍を底にして、ずっと上がってきている。
  何故そうなったかというのは、多分日本だけの問題ではなくて、世界が完璧に日本では東京しか関心を持つところがない、それに尽きるんです。
(図9)
  県別の所得を見てみると、東京の1人当たり所得は最も高くて、最も低い県の倍以上。ずっと東京は高いんです。2006年で1人当たり県民所得が482万円。それに比べて沖縄はずっと低い。沖縄は低くても人口は増えます。よほど生活しやすいんです。沖縄を別にすると、宮崎が215万円です。変な知事さんのいるところ。
  これを見ていると、面白いことがあります。1985年から5年おきに見ていくと、ワースト1、2、3で、東北は青森県だけです。あとは長崎、鹿児島、宮崎、高知。九州の南半分と高知県がやばい。貧乏なんです。九州は二分される。佐賀、福岡、大分は豊か。長崎、熊本、宮崎、鹿児島は貧乏のどん底。九州は非常に面白い島ですね。それだけ九州は魅力のあるということです。東北は悪い悪いというんですが、青森県が1つ出るだけです。
(図10)
  このデータは、去年中国へ行って、中国の人に、東京はどれぐらい富や知恵を集めているかという説明に使ったデータです。
  おさらいですけれども、これは不動産研究所が毎年1回やっている、全国の主要都市と3大都市、12の都市を取り上げた調査のデータです。それぞれの都市の床面積3000平米以上のオフィスを拾い上げ、毎年どこでどれくらい造られてきたか、あるいは毎年どこでどれくらい壊されてきたかというのを統計で出しているんです。
  一言で言いますと、15の都市でつくったオフィスビル100のうち、2008年は、東京が47%、約半分を占めていた。2007年は75%東京都が持っていた。主要都市のオフィスビル全体の75%は東京の23区でつくっていた。オフィスビルを造られ方は時期によってむらがありますが、2008年は景気が悪くなっても、それでも大体半分は東京でつくられていた。2006年から3年間を平均すると、東京は3分の2。3000平米以上というのは非常に質のいいオフィスですから、その中の約3分の2、68%は東京でつくられていたんだよということです。
  2006年から2008年は、名古屋も10%で、うんと造っています。大阪はそれより低い。2008年になるとオーダーが揃って、大阪が18%で、名古屋が11%になりますが、2006年から2008年は名古屋が頑張ったんです。それだけの力を持っているということです。
  それから、大して比率は高くないんですが、主要都市では横浜が4%、福岡が2%。この横浜、福岡、札幌、仙台、これだけの都市で、地方のオフィスビルの供給を担っている。3次産業ベースで情報関係の産業が、どこの地方都市に注目したらいいかというと、横浜と福岡と札幌と仙台。
(図11)
  2008年現在の調査の都市別オフィスビル床面積をグラフにすると、圧倒的に東京に集中してきています。
  2008年ベースで見ますと、福岡が339万平米で、札幌が242平米です。横浜は東京と一緒にするとして、東京、大阪、名古屋の次が福岡です。
(図12)
  取り壊しの量も東京は多いんです。新築とほとんど同じくらいの取り壊しがあります。横浜は取り壊し量が物凄く多い。いずれ新築に変わってきます。大阪も取り壊し量は多いんですが、これが果たして次に新築に変わっていくかというとわからない。以上が、主要都市12です。
(図13)
これは三井不動産の不動産関連統計集にある国勢調査です。国の指定統計で、3000平米以上の全国12主要都市のオフィス着工量のグラフです。全国の都市のオフィス、小規模オフィスも含めて床面積を全部集計した中で、2007年で東京は、全国のオフィス面積の15%です。東京、東京区部、都心3区で、15%です。10%が東京で、5%が都心3区。大体こんなものです。これは毎年変わりません。

 

3.23区と都心4区

(図14)
  さて、ここまでが情報提供です。ここからがいよいよ本題に入ります。前にフォーラムで、森記念財団の「東京2030年の東京」を作った時に出てきた人口やオフィスの統計量を、淡々と皆様に報告して、それぞれの区の特徴を申し上げました。
  例えば文京区は地味だけど物すごく質のいい区であるとか、板橋区はとんでもない区だ、練馬区は買い手がないなど、いろいろ言いました。その時に、新宿区も入れて都心4区のグラフが出てきました。2030年に都心4区の人口70万人というのは先ほどいった国勢調査です。国立社会保障・人口問題研究所が、2008年12月、今から1年ちょっと前、推計した数字です。ところが、総務省ベースで、それぞれの地方自治体が住民登録をベースにして、どれくらい人口が増えてきたかという実数値を入れていきますと、社会保障・人口問題研究所の70万人よりもはるかに上に来ている。2008年データで、それぞれの区や東京都の住民登録人口ベースで集計すると、すでに69万人ぐらいまできているんです。人口問題研究所は2030年に70万人ですから、都心3区と新宿区は明らかに実際の数値のほうが上に来ている。
  それをもとにして、2030年に都心4区の人口は97万人ぐらいになるだろうという森記念財団で僕たちが出した数字を、前回のフォーラム「2030年の東京」の中でご披露しました。人口問題研究所の方は71万人になる。差が27万人ぐらいある。どっちが今のところ正しいんだということを1つ、このグラフが語っているわけです。
  実は住民登録台帳の数字が69万から70万ぐらいに来ていますから、この趨勢が人口問題研究所の数値よりずっと上に行くだろう。要するに、新宿区も入れて東京都心4区の人口は、少なくともこれから10年から15年はこのカーブをたどっていくだろう。それを前提にして、例えば建物の話や容積率の話をこれから申し上げようと思っています。
  繰り返し言いますけれども、97万人はこの前皆様にご披露した森記念財団の「2030年の東京」の姿の時の人口予測です。そして71万人は一昨年の12月に出した人口問題研究所の実数値。
  森記念財団の予測の下限の2030年に80万人というのがありますが、これは何かと言うと、いろいろ限定があって、いろいろな操作しましたけど、1つリアリティーとして、97万人まで行くこともないだろうし、70万人で頭打ちすることもないだろうということで、この間の中間は実は84万なんですけど、いろんな理屈もあって80万人に下げている、ということです。97万人と70万人の間で下限値として80万人という数字を1つつくってみました。80万人という数字を入れて、この時に東京の土地の使われ方はどうなるか。具体的に言うと、容積率ですが、容積率がどうなるか、これも検討しました。
  ですから、この表は非常に重要で、これからの作業の大事な出発点です。下限値と上限値、人口でいうと、東京都心4区の人口の下限値は80万人。上限値は97万人ぐらい。この間でこれからの話を進めていこうということです。
  ついでに言いますと、ディテールですが、社会保障・人口問題研究所の70万人は、外国人の数が入ってないんです。森記念財団の方には外国人の数も入れています。ですから、この差は、もしかすると外国人を入れる入れないの差かもしれません。それにしても、外国人の入り方はこれから激しくなります。今が34万人ぐらいです。2030年には東京23区の登録外国人の数は50万から55万になるだろう。今の7割から8割ぐらい増えるという前提にしています。そういう点では、外国人をプラスアルファしたこのカーブは、下限値よりちょっと上に将来は行くかもしれない。
(図15)
  もう1つ、都心4区の23区に対する人口割合はどうなっているか。傍証的にデータを調べてみます。バブルの頃、1980年から90年ですが、明らかにこの頃は都心4区の人口はどんどん減りました。都心4区にはオフィスビルがどんどん建ちました。しかし、1995年ぐらいから人口は反転しています。この傾向をずっと上げていくと、現在の都心4区は23区に対して人口比率が7.5%ぐらい。これが2030年には10%ぐらい。あと、2〜3%は都心4区の人口は増える。それに比べて社人研は8%ぐらいでみています。
(図16)
  先ほどの森記念財団でやった東京の趨勢予測の数だと2005年には23区の人口は860万人、これが2030年には人口は922万人、約61万人増える。その増える人がどこに集まっていくのかということを作業しました。
  一番関心が高いのは、江戸川から大田区へかけての臨海部です。それから都心3区、中央、千代田、港。その外側に山手線区というのがあります。山手線区は新宿、文京、台東、目黒、渋谷。山手線の駅のあるところです。豊島は池袋。渋谷は渋谷。目黒は目黒。台東は上野、鴬谷。文京は駒込、巣鴨。新宿は新大久保、高田馬場。こういうところを山手線区とします。その外側に足立、葛飾、練馬、杉並、世田谷とあります。
その他墨田、中野、北、荒川を中間区として、5種類に23区を分けました。その人口がどれぐらい増えるのかを調べますと、都心3区は、2005年に比べて約2倍近く人口が増える。上限値で頑張ります。かなり東京は発展していくという前提です。臨港(ウオーターフロント)は1.2倍ぐらい。都心3区は2倍ぐらい。その次に山手線区が1.1倍。中間区が1.01倍。そして世田谷、杉並の外周区は0.97倍。このように人口の集積の度合いが、都心3区を中心にして、外側に行くごとに人口が増えなくなる。
  やはりこの都心3区問題は、人口ももちろんですけれども、オフィスの問題なども考える必要がある。相当ここは建築空間の密度が高くなっていくだろうということを考えなければいけないということがスタートなんです。
  臨港区の都心3区は1.86倍にはならないかもしれません。というのは、中央区も千代田区も港区も、区の面積が限られていますから、あふれてしまいます。あふれたのがどこに行くかというと、結局は江東区、品川区、江戸川区の臨港区に下がってくる。ですから、1.86倍は、もしかすると、2030年に1.5倍ぐらいになるかもしれないけれども、臨港区の方が逆に1.2倍から1.5倍ぐらいになるかもしれない。そういうことが予想されます。
(図17)
  これは僕たちの今回の作業の全部を1枚にまとめたものです。眠りながら聞いていてください。新宿区を入れた都心4区の建物の用地面積、人口と従業者数と建物床面積(住宅、非住宅)と容積率の2030年予測です。建物の用地面積は、例えば千代田区を例にとりますと、2005年に654ヘクタールありましたが、空地はどんどん建物で埋まっていきます。建物の用地になる空地は25〜26ヘクタールぐらいなので、2030年には建物の用地面積は680ヘクタールぐらいになる。中央区もそうです。空き地に建物が建つ。2030年には目詰まりしちゃうぐらい建物が建ってしまうわけです。増えます。新宿区もそうです。だから、建物用地面積も、2005年と2030年では数字が少しずつ違ってきますね。  
  千代田区区を例にする。人口が80万人という先ほどの下限の数値で行くと、人口は現在が4万6000人で、2030年が7万人。それでも2万5000人ぐらい。上限でみた時と下限で見た時では、千代田区はそんなに変わりません。上限で2030年が7万1500人です。1000人ぐらいし増ふえない。それに比べて港区は、人口が80万人の下限で見た時2030年に22万5000人です。2005年のデータから約3万人しか増えません。ところが、上限値だとこれが33万2000人で、何と13万6000人。港区はべらぼうに増えるんです。中央区も増えます。千代田区は余り増えない。
  人口の増え方からいくと、港区が一番増えて、その次が中央区で、その次が新宿区、千代田区、こういうことです。

 

4.都心4区の土地利用

(図18)
  いよいよこの勉強会のスタートです。この東京都心をどういうふうに土地利用として区別するかということを考えました。
  航空写真や土地利用図など、いろいろ地図をにらめっこして、現場も歩いて、ここでは4つの大きい地区分けをすることにしました。
  1番目が、皇居の北側です。竹橋ぐらいから入ります。ここはほとんど三菱地所のテリトリーなんです。帝国ホテルのところから霞が関、この辺のところが業務街としても一番成熟している。コンパクトで複合的な東京を代表するエリアで、大・丸・有や日本橋、赤坂、六本木、そういうところに至る中枢の業務活動を営んでいるところ。これを「高度エリア」としました。六本木ヒルズなんかもここに最近入り出しました。環状2号も入ってきます。
その外側に「複合エリア」。これはどういうところかというと、例えば千代田区番町。ここは共立女子大の講堂や学士会館、如水会館があり、この外側は、主として山手線の東側のところです。高度エリアに沿った部分に、幅広くないオフィス街がずらっと並んでいます。言ってみると、ここが日本を代表する大企業群なんですが、複合エリアにあるオフィス群は、言ってしまえば、大企業の第1次子会社です。ここに建っているオフィスビルの店の名前を調べますと、大体が三菱商事とか東レとか、そういうところの第1次子会社です。こういう企業がびっしりとここに入っています。そういう意味では、本社を支えるのに欠かせない、そして相当現場的な仕事もする企業群がずらっと並んでいる。これが東京の特徴です。
  それから六本木ヒルズの南のところ、慶応大学の辺までずっと広がっているところは文化的な意味で「複合エリア」です。一方は業務的な「複合エリア」で高度エリアを支えます。そして、一方は文化的、学術的などいろいろな機能が集まって複合機能を持っている。番町、上智大学、慶応大学、そういうのがずっとここに並んでいます。
  その外側が「混合エリア」。これはずばりいうと神保町から淡路町、小川町、東神田、人形町の辺から南側へ来て浜松町の辺りです。「混合エリア」というのはどういうところかというと、複合エリアの外側、道路などが未完成な駅周辺や幹線道路沿いにごちゃごちゃと住居や商業、業務が立地している。建て込んでいる。そういうところです。しかし、これもよく見ると、商店や工場、オフィスがあるからこそ、複合エリアの人の仕事は円滑に動く。弁当なんかは、こういうところでつくっている。ビルの清掃もこういうところの会社が受けています。
3つの機能がお互いに無関係でない。それが新宿区を除いた都心3区の特徴です。都心3区の中枢機能は高度エリアだけではない。混合エリアも複合エリアも全部高度エリアを支えるようにバックアップしている。
  それとは別に「ウオーターフロント」、ここに新しい市街地ができ上がってきています。一番有名なのが聖路加の再開発です。佃島の三井不動産のやった再開発は、高度、複合、混合とは全然違う都市景観を今つくり出しつつある。
  このように4つに分けようということを考えた次第です。
(図19)
  都心4区で新宿を入れて、高度エリアってどこなのというのを具体的図面で落とします。新宿は、東口の伊勢丹のところと、新宿西口の副都心。都心は六本木の森ビルが頑張っているところから環状2号、日比谷、銀座、銀座の一側裏、清水建設が辛うじて高度エリアにしがみついている。今度本社が来るようです。それから八重洲、日本橋、大・丸・有、三菱の牙城からずっと行って竹橋ぐらいまで。ここが大体高度エリア。ここは容積でいうと700から1300%ぐらいの間です。
(図20) 
  複合エリアは、これが結構デリケートです。飯田橋に行く通りから番町にかけて。ここは複合的で学校もあり、マンションもある。ちょっと洒落たオフィスもある。非常にいい町です。日本で外人さんを連れていって一番紹介したいところは、番町です。それから、半蔵門から麹町の表の通り。霞が関の中央官庁街があって、赤坂の裏側、ドイツ大使館とかあるところ。青山通りから原宿、これが複合エリアです。複合は昭和通りの両側にも1つありそうです。増上寺の公園の両側、港区役所の周りには小さいけど特徴的なオフィスビルやホールがあります。それから、トリトン。ここが「複合エリア」になります。
  「混合エリア」はというと、最近やっと再開発をやろうとした新宿の富久町。新宿で言いますと、代々木と新宿の間、南口のステーションの間、日本共産党のビル、この辺は混合です。飯田橋のごちゃごちゃしたところから駿河台の神田の大学町から神保町から淡路町。複合よりごちゃごちゃしているのは秋葉原です。あそこはまさに混合で、いろいろとアクティビティーの高いところです。こういうところと、東神田から人形町、水天宮に来て、築地川の東側、月島、この辺が混合エリアです。それから、ウオーターフロント。こういう分け方をしました。
(図21)
  問題は、土地利用ですから、それを組み合わせるとこういうふうになる。土地利用ですから、これだけではわからない。もう少し細かく限定して考えてみよう。これが言ってみると、伊藤が考えた都心4区の土地利用マスタープランです。
(図22)
  高度エリア、複合エリア、混合エリア、そしてウオーターフロント、この4つに分解してみました。高度エリアは、「業務の高度エリア」、「商業の高度エリア」、「文化・国際の高度エリア」。それから複合しているけど、複合エリアよりもっと高度に、オフィスもいろいろなものがあり質の高い大規模な建築物がたくさんあるところという意味の「複合」があります。それぞれ「業務」でいうと、大・丸・有や、八重洲、一ツ橋、日比谷、新宿西口。「商業」は銀座、日本橋、新宿の東口、「文化・国際」は六本木、それから「複合的高度エリア」は昭和通りの前や新橋、虎ノ門。そんなにずれていない。
  「複合エリア」ではどうなったか。半蔵門から飯田橋は「業務」としましたが、単純に業務だけではなくて、他の機能も入っています。飯田橋はホテルも入っていますし、病院も入っています。半蔵門もお役所の宿泊所などいろいろ入っています。そこから「官公庁」。もう1つは番町、麹町、ここは非常にいいところだと思っています。山の手型の文化をつくり出しているので、「文化(山手)」。
  それに対して、「混合エリア」には下町型の「文化」もあるだろう。混合エリアの中では人形町、小伝馬町、東日本橋。これは下町型の「文化」という形で混合エリアに1つグルーピングする。「歓楽街」も無視できない。これは歌舞伎町です。それから混合エリアの「商業」は秋葉原、神保町。
  それから、混合エリアの「混合」。これは本当にごちゃごちゃしているところです。ここをどうするかというのは非常に大きい課題です。西神田、東神田、飯田橋、月島、などです。小さいビルもたくさんあって、木造の建物もたまにある。「混合(下町)」は、入船。ウオーターフロントは中央区。
  一応、このように土地利用ゾーニングをしました。
(図23)
  実は、港区も中央区も千代田区もこういうゾーニングの絵は描いていません。東京都も書いていません。ここまで徹底して土地利用区分をして、最後に容積も入るんですが、それをやったのは本邦初公開、伊藤滋の最期の遺言だということでやっています。
  近々にまとめて皆様にわかりやすいパンフレットにでもしたいと思いますから、いろいろなご意見をこれに書き込んで、しかるべきところに渡したいと思います。この勉強会に参加しているのは土建会社5つと不動産会社4つとエネルギー会社2社ですが、それぞれ一生懸命集まって意見交換をしたり作業をしています。そういうところが集まってやっていますので、しかるべきご意見は、僕の事務所へでもファクスで送ってください。
  1つ苦労した裏話です。森ビルさんが六本木ヒルズで張り切りすぎているんです。ここに環2があるでしょう。環状2号線は必ずしも森ビルさんのテリトリーではないんだけれども、おれたちは地所や三井ほどではないけれども、それなりの総合不動産屋だということで、その立地を何とかしろというので、名前をつけるのに苦労したんです。ここは現場に行きますと、例えば西麻布と六本木交差点とスターズ・アンド・ストライプスのアメリカのヘリポートの間の北に向いた市街地は、本当にひどいところです。小さい住宅があったり、小さい企業のうさん臭いコンサルタントの事務所があったり。だから、全然、格落ちなんです。でも、雰囲気がある。外人さんがいて、飲み屋があって、一番重要なのは国際文化会館、新国立美術館がある。そういう点では東京を代表する文化的な場所として、文化(山手)がエスタブリッシュしたところです。上智大学を中心にして、法政大学もあります。これから新しく東京を代表する国際的、文化的場所はこちらであるということで、「文化・国際(高度)」にしました。本当は高度をつけたくなかったのですが、それぞれの会社の派遣社員が、何とかしないと会社に帰るとどなられるというので、「文化・国際(高度)」となったわけです。
  環状2号が僕の一番ご執心なんです。環状2号でけしからぬことは、東京都は道路だけつくればおしまいだという姿勢がだんだん出てきました。あとは民間でやれよという態度です。あれでは、せっかく環状2号を造って、周りにいる外国の人たちがそこに証券会社の支店でもつくろうとしてもできないですよ。環状2号の周りは、ここにいる皆さんも是非関心を持って下さい。あそこに小さな鉛筆ビルは絶対造らないでください。あそこではそれなりの敷地、少なくとも100坪ぐらいの品格のあるオフィスビルやマンションを並べて欲しい。100坪で我慢します。本当は1000坪ぐらい欲しいんですけど。
  というように、文化は、「文化(山手)」と「文化・国際」と、「文化(下町)」があります。ここは本当は「文化(下町)」かというと、あんまりそうでもないんです。みゆき通りがここで威張っているんです。みゆき通りも何回も歩きましたし、そこの勉強会にも入りましたけれども、これは素晴らしい下町の文化を味わえる通りかというと必ずしもそうではない。
  このエリアには薬研堀不動があるんですが、もう少し大きくて参道もあればいいんですけど、薬研堀不動は、どこから入っていくかわからないようなところです。名前だけが先行している。それから、甘酒横町に明治座。でも、一応それだけの江戸のころからのおもかげを残した遺産があるから、文化(下町)にしました。
  そしたら、あるここに近い不動産屋の若いお兄ちゃんが、「伊藤先生、本当によかった。下町の人たちが何にもいい名前がつかないといって不動産屋に怒りまくって突っかかっていた。文化(下町)は我が社が売りに出します。まさに下町文化はここから始まる」と言ってきました。変なことにここに三菱地所が何とかホテルというのをつくったりしている。だけど、地所よりもここに関心を持っているのは三井不動産ですね。三井不動産にちゃんと責任をとってもらわなければいけない。
  それから、この土地利用を書きながら、晴海のトリトンの前の例の東京オリンピック絡みのあそこの空き地、昔の見本市のところが一体どうなるのか。東京オリンピックはこの次も来ないでしょう。そうすると、ここをどうするのか。それと築地の魚河岸のところです。もしオリンピックが来なかった場合、魚河岸とウオーターフロントの見本市のところと、月島の先のところは再開発ができる。水産埠頭のところです。そういう点では、この魚河岸、月島の水産埠頭からこのあたり一帯は、東京を大きく変える市場(マルシェ)として物すごく大事な資産だと思うんです。豊洲まで行って、昔のガスの還流で出てきた汚染物質のところまで行ってどうのこうのしなくても、この地域をうまくまとめれば面白いことができそうだなという感じがしています。これは無責任かもしれませんが。そんなことを連想させるように色分けをいたしました。

 

5.都心4区の将来構想

(図24)
  この色分けをするについてのプリンシプルがある。僕は、「界隈」という言葉が好きなので、大・丸・有、東京駅を頂点にして、東京23区は、それから富士山のように下々がひれ伏すという町を僕はつくりたくない。できるならば、底上げをして、富士のすそ野のほうに魅力あるいろいろな界隈が散りばめられている町にしたいなと思う。ですから、初め、下町文化と命名していますが、これからやってみたい一番大きい仕事は、下町文化の中にいろいろな界隈をつくっていきたい。
  番町もまだ界隈ができます。神田の明治大学、日本大学のあの辺もまだ文化的界隈がつくれます。そういう界隈をいろいろつくっていくことによって、東京23区の中の都心4区の新しい町の姿を提出したいなというのが僕の一番の希望です。しかし、なかなかそこまでいかないんです。今日お見せするのは、僕が言ったことに逆行するような話が出るかもしれません。
(図25)
  東京は人口が増えて国際化して、古いビルを壊して新しいビルに建てかえる余力がある。それでは、一体どういうところで新しいビルの活動が営まれてくるのかをまず描き出さなければいけないということで、面白い工夫をしました。地図上に丸で1つ1つのビルの大きさを表示しました。例えばここにある丸は大蔵省、ここにある丸は文部省、ここにある丸は中央郵便局、ここにある丸は国会議事堂、こういうふうに大きいビルは丸であらわして、小さいビルも丸であらわしました。一番小さいビルがびしびしに集まっているのは意外と銀座なんです。僕が大好きな界隈をつくるところは、小さい丸がいっぱいある。こういうところに、中国の人が来て、日本は面白いなと言う場所をこれから幾つか都心の中でつくっていきたい。それの候補地として、下町文化があり、別な意味でここも少し手入れすれば番町にもあり、増上寺周辺でもいろいろつくれそうだ。界隈を都心の大きい丸の外側につくっていきたいというのが僕の願いなんです。
  築地に大きい丸があります。これは告白しますと、築地の魚市場は将来この辺に持ってきてもらう。オリンピックよりそちらの方が大事だ。昔の見本市ですね。水産埠頭だから一番いいんです。ここには高度な国際的な医療を持ってくる。例えばこの間もテレビに出ていましたが、肝臓移植のコロンビア大学のハンサムな外科医の人。ああいう人を呼んで、臓器移植も大手術も全部受けられる医療租界をつくって、大金持ちの病気の人に来てもらうようにする。近くにデラックスホテルをつくる。そういう医療租界をここへつくろうという狙いがあって、書いてしまいました。こういうふうにいかないと思いますけど、やりたいですね。
  羽田からおりた上海や韓国、ベトナム、台湾の大金持ちが高速道路に乗ってバーッとこの近くのホテルに乗りつける。そしてここで手術して、あとは東京ディズニーランドに行って帰っていく。そういう国際的なイメージをこの絵姿の中に盛り込まなければいけないんです。そういうことは役人は絶対やれない。本当にやれない。だから、僕たちがイマジネーションを豊かにして、東京が世界化するというのはどういうことなのかを提案する。薬研堀の不動さんだって、もう少し町をきれいにすれば、あそこで唐がらしを台湾の人なんかにどんどん売れるわけですよ。そういうイメージを植えつけて、界隈をいっぱいつくっていく。それを絵にしました。
(図26)
  国際金融センター構想などの影響を受ける大手町、日本橋、八重洲、環状2号線、ウオーターフロント地域、飯田橋、赤坂、田町。この辺に皆さんの大好きな大再開発が進んでいく。これが環状2号線です。しかし、重要なことは、将来に必要とする、東京がつくり出すであろう全部のオフィス容積のうち、大再開発では、半分程度しか埋められないだろうということです。2030年までに、ここで仮に1万ヘクタールのオフィスが生まれるとすると、そのうちの半分は、名もなき土建屋さん、名もなき不動産屋さん、名もなき地主の手でつくられていく小さいビルがまかなっていくというのが実態なんです。
(図27)
  この絵は、まさに50年の都市計画を経てきたプロとして、東京生まれの東京育ちとして、俺ならここに高層棟をつくるという完璧な独裁者として書いた絵です。でも、そうおかしくないと思いませんか。例えば、飯田橋。これは神田川の日建設計のところです。飯田橋の駅前再開発。靖国神社の裏側でもうできていますね。飯田橋の駅のマンションと日本歯科のところができています。毎日新聞がありますが、ここから建てかえが始まる。三菱地所の建て替えも始まってくる。こちら側は三井不動産の建て替えです。特にここで三井不動産にお願いしたのは神田の再開発をちゃんとやって欲しいということです。東神田も寒々しいオフィスビルとマンション街よりは、コーナー、コーナーにちょっとしたギャザリング(人が集まる場所)をつくった再開発をやれよということです。これは八重洲です。やりたいんですけれども、なかなかうまくいかないんです。
  八重洲の日本ビルの再開発は容積2000%のビルをつくれと言っているんです。八重洲でも2000%ぐらいつくる。三菱地所が主体になっている1300%ぐらいの建物を、八重洲は町人の町ですから、町人の町として、武家の町を後ろから見おろすぐらいの気概を持って2000%ぐらいの建物を東建さんあたりがつくってくれるといいなと思っています。面白いでしょう。三菱地所を、東建が2000%で八重洲から見おろす。そういうのが大好きなんです。
  何を考えているかというと、日本橋川の薄べったくへばりついた細長い建物郡。例えば東洋経済が日本橋川にあります。それから、神田川の方は、岡本ゴムや農協の薄っぺらいビルがたくさんあるんです。あれを全部取っ払って、容積移転して、ここに2000%にしよう。
  聖路加のところ、港の再開発はひどいですね。URさんがやっているけど、現状は鉄の赤さび古い立体駐車場が放置されている。そこに四半世紀住んでいる木造長屋のお姉ちゃんやおばあちゃんが出入りしています。ほっぽり出している。これは誰の責任かというと多分URです。時間をかければいいというのが一番よくない。時間をかければ素人だってできます。時間をかけてプロというのはおかしいですよ。時間をかけないでやるというのが僕はプロだと思うんです。東京でも日本のまちづくりは、役人のペースに巻き込まれて、時間をかけて無駄なエネルギー、無駄な金をやり過ぎるから民間の人は赤字になってしまう。
  僕は死ぬ間際の遺言で、書いて死のうと思っているんです。「時間をかけるな」。そのためには僕は法律をつくり直した方がいいと思う。面積で5分の4オーケー、地権者の数で4分の3オーケーなら絶対再開発をやってしまうぞという法律です。それを役人が率先してやる。今そういう法律をつくってやらないのは、役人がやらないからです。皆さんのご意見を全部集めて、皆さんの合意が出てきたものをお役所に出してください、そしたら判こを押します。こんなことでは、東京もどこもよくならないですね。
  話が飛びますけど、昨日、日本の森をよくするという勉強会をやりました。僕は前の学校は林学を出ていますら・・。日本の森をよくする時に、2つ手段がある。1つは、若手の優秀なフォレストエンジニアをつくる。環境時代に変わってきて、うまくいくとできそうなんです。もう1つは、森の地籍がめちゃめちゃなんです。不在地主も、良い不在地主だけではない。昔、金丸の時に、日本中の森の中にレクリエーションセンターを造るというので、僕たちは信用して土地を買ったりマンション買ったりしたことがあります。その象徴が越後湯沢です。どうなったか。森にも100坪ぐらいの地主がいっぱいいるけど忘れているんです。森林を直すためには全部の地主のオーケーとらなければいけない。でも、できっこない。どこかの商社の昔秘書をやっていたご婦人が若い20代の時に、「あら、いいわね」と、例えば猪苗代湖の山のところに100坪ぐらいの未来の別荘を買った。そんなのは20年経ったら忘れていますね。そういう人がたくさんいるんです。そういう人の後始末をするのには、法律をつくって、山の地主100人いたうち、3分の2、65人ぐらい賛成したらあとは勝手に調査して、勝手に林道を入れてやっていい。そうしなければ日本の山はよくならない。もし文句を言ったら、調停裁判で黒白決着させるようなことをした方がいいんです。日本社会は思い切ったことをみんなやらないんです。
  話が、興奮して山に行ってしまいました。森林もそういう法律をつくれ。すっかり忘れてしまった100坪の不在地主の土地は無視して、そこにどんどん木を植えたり、木を切ったり、林道を入れたりする。そうしないと、日本の山のCO2の排出量はよくならない、京都議定書なんて守られないよなんていう話をしましたが、ちょっと似たようなことがこういうところでもあるわけです。
  それから、2000%は、日本ビルのところなのか東建のところなのかよくわかりませんが、八重洲に一発と、新宿西口の駅前に1つつくろうと思うんです。2000%をあと2カ所ぐらいつくろうと思っています。これが僕の夢です。
(図28)
  これは大手町です。地所の話を信用するとこれぐらい建つ。八重洲は過大な希望を立て過ぎています。この辺は三井不動産です。京橋はネクラな町で、昔からなかなか明るい気分にならないんです。明治屋のオフィスの古めかしさが影響しているかなと思っているんですが、どうも京橋は明るくならない。期待だけ高いんですけれども、なかなかこういうふうにいかないんです。
  ここは環状2号。IBMから昔の六本木プリンスホテルの跡地はもう少しで再開発します。ここを住友不動産がやるのかな。この辺は森ビルさんがやる。やっぱり環状2号ですね。
  外堀は、法政大学は建てかえてでかいやつをボンとつくって、ここは日建さんの本社、設計事務所があって、大塚商会さん、一側の再開発ビルです。それからこちらが外堀通り、これが飯田橋。こっちが竹橋のほうに来る。ウオーターフロント、港のところを何とかしてくれ。これは三菱地所さん。神田をそのままにしていいのと。ちゃんとやらなければ、あなた方の責任じゃないということです。

 

6.容積率と法定都市計画

(図29)
  もう少しまじめに、話を戻します。この図は、東京が、これから日本の全てをしょって立って、世界の4位を3位くらいで頑張ってやっていくためには、地主さんみんなのわがままを平等に全部入れていたら何もできないということで、選択と集中というのを入れて容積率を考え直したらどうかということを説明しています。土地利用ゾーニングに即した土地利用と適切な公共施設整備が実現した後の市街地にふさわしい容積率として提案する。提案容積率。
  例えば、現在の指定した容積率で考える。一番容積率の高いところが東京駅にしましょうか。こちらが、中央線で行くとこの辺が水道橋で、市ヶ谷、こっちが四谷から千駄ヶ谷のほう。こっちが総武線だと、この辺が両国で、錦糸町に行って、亀戸辺りまであるとするとだんだん外側に向かって容積率が下がっていきます。指定容積率は500%とか600%、800%、1000%、1300%です。
  それに対して、民間企業の皆様方がどれぐらい一生懸命容積が欲しいかというと、東京駅周辺の1300%ぐらいまではみんな欲しいんです。だから、指定した容積率を目いっぱい建てる。1300%という丸の内でも、でき上がったら1300%でおさまっているところはあんまりない。みんな最後は1500%かち取ったとか、1600%かち取ったとか言っています。僕も、1300%で、1600%かち取ることに加担しましたけれども、とにかくもっととりたい。
  ところが、東京駅を中心にしてずっと電車で郊外に行きますと、商売のビジネスチャンスも余りないので、指定容積が300%とか400%あっても、そんなところに例えばマンションつくっても、お客さん来やしない。オフィスビルを造った空いてしまう。だから、ほどほどの容積率で仕事をするんです。だから、郊外に行くと本当につくる建物の容積率は下がる。指定容積率は、高度エリアの充足率は高い。しかし、周辺部に行くほど充足率は低下する。 
  容積移転の話もあるんですけれども、できるなら、もっとめり張りをつけて、高度エリアを容積を高くして、指定容積率も、郊外の方は、場合によってはダウンゾーニングする。できもしない容積率にしているのが悪いので、ダウンゾーニングして高度エリアに上げて、不動産屋さんが考えている仕事が、お役所の考えている線と合致しているような流れの中で、容積率の新しい形をつくり上げていくようにしたらどうでしょうかというのが提案容積率なんです。
  ただし、提案容積率というのは、地区計画をやれなど、いろいろ条件があります。
(図30)
  先ほど言った容積移転です。これも提案容積率の指定容積率を下げるときに役に立つ。例えば地所の箱崎のパークホテルのところにビルを1つつくるとします。一方で、甘酒横町。明治座のあるところですが、甘酒横町が地区計画で、低市街地容積として、なるべく屋根もつけて2階建ての長屋町にしようと決める。その場合、箱崎のビルでその容積を受け入れてボーンと上げる。ただし、周りには緑を沢山つくる。2つの地区計画をコンビネーションする。組み合わせることによって容積移転を考える。このためには地区計画が物凄く大事です。
  元役人がいて、彼にやらせるとこういうつまらない言葉になるんですが「低容積市街地の修復型再開発」と「容積を活用する再開発」の組み合わせです。
  それから、都市河川の沿岸地区、これは日本橋川の両側のぺったんビルの話ですが、その容積を移転して高度利用を促進する。それから、低中容積市街地を修復型再開発で保全する場合には、地区計画などで容積率の上限を定めた上、これはダウンゾーニングですが、指定容積率との差分を容積移転する。
  こういうことをもっと積極的にやらないと、先ほど言った買い替えができないんです。神楽坂や白山、谷根千、都心3区の中でもそういうところがあるんです。歓楽街の歌舞伎町だって、ダウンゾーニングした方がよほどいい歓楽街になります。あんな中途半端な7階、8階の鉛筆ビルがびっちり並ぶより、長屋風の2〜3階の歓楽街にすれば、ちょっとアムステルダム風の雰囲気になる。その容積を使って、思い切って西武のプリンスホテルのところで再開発やって、あそこにポーンと2000%造ったっていいじゃないか、なんていうのもあります。
  幾つかあるんです。全部地区計画をくっつけてやろうということです。
(図31)
  これは現況の指定容積率図です。大丸有が1300%。その八重洲や新宿界隈が1000%。幹線道路沿いは800%で、アンコのところは大体600%です。銀座は700%。昭和通り沿いは、東が600%で、中は700%。港の辺は500%です。これは400%。これは現在の都心3区プラス新宿区の指定容積率です。よく見ておいてください。
  次に森記念財団の2030年の上限の人口が97万人想定で、オフィスビルもそれに従って活発に行くということを考えた容積率が出てきます。
(図32)
  予測です。一番元気なときの容積率を、僕のプロフェッショナルとしての思い切った能力で、例えば、文化(下町)、日本橋界隈の幹線道路沿いは700%にする。
(図33)
  先ほどの現況を見せてください。現況土地利用。日本橋界隈の幹線道路沿いは620%です。これを700%にする。幹線街路のアンコのところは、先ほどの現況では540%。それを提案では600%にする。全部1つ1つ、容積の上げ方についてチェックして数字を入れました。これも本邦初公開です。
  結果、何が起きたかというと、幹線街路街区で、1300%がちょっと広がります。これはちょっとサービスし過ぎたんです。八重洲通りを真っすぐ突き抜けていったところまで。誰が言ったのかな、東建かな?。かわいそうだからつけてくれと。そういうのが実はあるんですね。その周りに1300%を広げました。800%ぐらいのところを1000%にしました。銀座も800%と700%なので、1000%にしました。かなり大きく幹線街路沿いが上がっています。だけど、幹線街区ではないアンコのところも上がっています。アンコも大体同じですね。側もアンコも大体1000%から1300%。
  環状2号のところの現況を見せてください。環2は560%なんです。アンコのところです。幹線街路沿いではないです。560%を1000%にした。すごいですね。ここは相当超高層をやろうということです。それから、六本木のところも、現況では300%ぐらいです。300%を提案では、幹線街路沿いの予測で800%。倍以上にしました。
  こうしましたけれども、外側はそんなに上げてないんです。そういう提案容積です。上限値で一番元気で、都心4区の夜間人口が97万人になる時の数字です。
(図34)
これは中間値の時です。
(図35)
  これはなかなか難しいんですが、上限値と下限値があります。繰り返し言いますが、上限値は、人口が97万人の森推計です。森推計でいった時は、非常に簡単に言うと、現在の都市計画でお役所が決めている容積率より、都心4区合計では、30%弱ぐらい容積を上げないと国際都市東京ということにならないよという数字です。27.7%が先ほどの将来予測の上限ベースで、幹線街路は800%になっているけど、外側に行くとそんなに変わってないんです。中央で行くと、文化・国際(高度)の六本木は800%ぐらいにしないといけない。これは倍以上です。総じて約30%。
それから、下限値。これが面白いんです。下限値は何かと言いますと、予測人口80万人、僕は予測人口80万人というのは、無難な線だと思うんです。97万人というのは元気過ぎる。個人的私見です。80万人というのは、もう一回思い出してください。人口問題研究所の70万人と森記念財団の元気な推計値97万人を足した2分の1です。中間値、約80万人。
  その時の下限値で、床需要が1万2930平米。ここが問題なんです。この下限値の考え方は、こういう考え方をした。下限の容積率は2005年のお役所の決めた都市計画の容積率、港区とか中央区、千代田区、図面に書いてありますね。あなたのところは300%で商業ですよとか、あなたのところは住居で200%ですよとある。下限の容積率は、2005年の港区、中央区、杉並区の役人が書いた容積率が30年たっても変わらない、そういうふうにしたら何が起きるかというのが下限値なんです。
(板書)
  都心4区の容積率の推定ですが、森推計があります。これが従業員ベースで考えた床面積です。従業員も上値と下値があるので、床面積の下限値もと上限値があります。床面積は容積率で判断できますから、容積率で都心4区の床面積を全部はじくと、2005年の都心4区の法定容積率から出した床面積がでます。これは役人が大好きです。
  下限値は、僕たちは皮肉にこう考えたんです。これが2015年です。2015年でお役人の言う都心4区の延べ床面積の制限値にぶつかる。ぶつかったら、これはお役人がいうとおり、下側になる。下限値を決めるというのは、2005年からある程度行って、今決めている都市計画の容積目いっぱいでにっちもさっちもとれなくなった時に、これ以上建物の新築は認めないとか、ほんのわずかしか認めないとなるという話です。役人は、こういうのが大好きなんです。これが下限値。一方で新しい役人は、なるほど、あなた方の傾向がわかる。こういう読みならば、必要な床面積に応じた新しい法定容積率を決めましょうとなります。それが上限値ですが、さすがに不動産屋さんもこれほど行くのではなくて、ちょっと頭打ちするでしょう。そうすると、役人のほうもそうだなとなるので、あんまりストレートではなく少し下げています。これが新しい法定容積率です。こういう1つの、役所と不動産屋とのシミュレーションゲームみたいなことを頭に入れながら出した数字が下限値です。言いたかったのはたった1つです。
 もとのスライドに戻ります。
  役所の方は、僕一流のジョークでいっているので、あんまり真剣に思わないでください。こんなことで50年暮らしてきましたから。
  例えば僕がガチガチの定年間際の都市計画課長で、住民が反対するから2015年だって2005年で動かさないぞとなるかもしれません。この下限値は法定容積率の数字ですが、収容力の増加率が2.6%とあります。これは何かと言いますと、千代田区と港区と中央区は、不動産屋さん側で考える必要量が、役人の定める量の目いっぱいまで来ている。目いっぱいなんです。これ以上行かない。100%。新宿区はもともとの容積率が高目だったので、2030年にもお役所の定めるところまで到達しませんが、3区は目いっぱいです。だけど、新宿区だけは、不動産屋さんが西新宿でいろいろやっても、新宿区全体の容積率の平均値をなかなか超えないんです。その超えない差が、4区換算すると2.6%。新宿区の2005年の法定容積率に対して、住友不動産が幾ら頑張ったって追いつけない。2.6%のりしろを残して、2030年になるというのがこの数字なんです。

 

7.幾つかの都市計画手法

(図36)
  新しい町をつくることについて、あと2つ話題があるんです。環状2号なんかを中心にした大規模な街区についてです。大規模といっても1ヘクタールもなくたっていいんです。3000平米ぐらいでいいんです。そういう街路を集約してまとめる時に、これは既に皆さん十分ご経験の通り、計画区域の外側に日影規制があると、それを避けるために、新しいビルの配置がずれてくるんです。本来ならば、後ろの方に日影が少し出てきてもいいというなら、計画区域内の高層棟の棟と棟の間が広がるんですけど、日影規制で規制されると、2棟の距離がずっと短くなるということです。実際に敷地に高層棟を配置するとよくわかるでしょう。日影規制が抵触しないように、建物を片側に寄せて造るんです。日影規制が適用除外されれば、棟間隔があくので、例えば間に風がすっと通りやすい。日影規制の話については、僕はそれほど深刻ではないんですけど、世の中の不動産屋さんは真剣に言いますね。これは例えば都市再生特区の裏側の住居系の2種住居とか、そういうところの日影を一体どうするかという話なんです。
  僕も、これは不動産屋さんに加勢するわけではないんですけど、土地利用の住居指定や役所の土地利用の指定が余りに硬直化していて、手直しを随時やらない。そのため、実態としては商業用途的になっているのに、そこが現時点のお役所の図面では住居系の土地利用になっている。そのために日影規制が発生する。そういうことがあるんです。だから、僕は、地域制の改定なんかもあまり大仰に、何年に一度改定するのではなくて、随時ダイナミックに変えることをやるべきだと思うんです。地域制の改定を10年に1回しかやらないというので、困ったあげくに出てきたのが再開発地区計画です。あれは10年に1回だと準工業地域は準工業地域のままなので、そこにどうしてもオフィスビルを造らなければいけないから再開発地区計画をつくる。あれは随時改定をするのであれば、例えば準工業地域を商業地域の500%ぐらいにすぐ変えるのであれば、特別に再開発地区計画をやることは必要なかったかもしれない。余りにも、僕も含めて都市計画が大時代的なんです。弾性力がない。 
(図37)
もう一つは、地下をどうするかということです。僕は、ずばり言いますと、地下に対する容積率の規制は要らないと思います。地下は無制限でいい。地下駐車場だって、うんと造れと東京都で言っているのに、全然使われていないから、地上のオフィス床面積当たり何台というのを減らそうと役人自身が始めています。率直にいうと、地下に造ったことで儲かるような床はなかなかない。ありますか。地上に商店をつくる、地上に事務所をつくれば会社は儲かりますけど。だから、地下だったら幾ら掘ったっていいではないか。無駄なお金をかけて地下を掘るという不動産屋がいたら、幾らでも奨励してどうぞ、どうぞとしたらよいと思うんです。最後は、余った床に水でもためておけばいいではないかと。だから、地下に容積率をやることはあまり意味がない。これはもう辞めてしまえということ。 
  これに関連して、僕は今の都市計画法で思い切って整理したほうがいいと思うことがあります。建築事務所の方なんかは、容積率400%のところでマンションを造るといった時に、容積率550〜600%ぐらいのをつくるります。当たり前ですよね。共用階段とエレベーターシャフト、ごみ置き場が全部認定の外ですから。都市計画の図面では500%や400%の商業と書いていても、実際に造るマンションは650%とか700%のものを造っているんです。事務所はそれほどのオーバーはありません。でも、事務所だって、500%というところで600%近いのを造っているところはあります。それはたまたま基準法上の特例で、そういうことを除外しているということでやっている。あれは僕はインチキだと思うんです。500%のところで650%を造っているなら、地域制を600%にすべきなんです。
  だから、そういう基準法と都市計画法の役人の小手先と特定の不動産屋が談合してうまい汁を吸っていて、最後は容積が何が何だかわからなくなっているという情報の中途半端な取り扱いは絶対やめたほうがいい。都市計画はわかりやすくしなければいけない。600%といったら600%でやるべきなんですよ。これぐらい今、都計法はわかりにくく、地区計画はわかりにくく、基準法はわからない。これは日本国の経済発展に大不幸ですよ。
  それでいくと、マンションのある商業地域、例えば相模大野の駅前の商業地域で300%のマンションがどんどん建っているでしょう。マンション建っているのは300%ですが、商業地域は500%です。500%に色を塗りかえた方がいい。そういうことがたくさん都市計画にある。それの1つが地下なんですね。
(図38)
  前に戻って、これだけは覚えていてください。容積率の総計で2005年からの増減とあります。千代田区の2030年の容積率が目いっぱいでいった時、森記念財団のような民間側でこれだけの容積率が欲しいと言ったのは408%なんです。それは2005年から24%増えている。先ほどから役人の悪口を言っている中で、役人の決めた指定容積率に対して、今回の上限値で我々が提案した容積率は、千代田区の場合はほんのわずか、30%程度しか、役人の定めた容積率より上回っていないんです。それに比べて、中央区では、容積率が636%で、2005年の増減が123%ですから、千代田区の場合は現状の容積率より100%ぐらい上回らないとこれだけの人口や従業員に相応しい建物が造れない。港区に至っては、総計490%ですけど、多分港区の現状の指定容積は350%ぐらい。そうすると、130%ぐらいは容積率が現状より増えないと、上限の人口や従業員を収容することができない。新宿区はどうかというと、新宿区は千代田区ほどではないけれども、少し容積率を増やした方がいい。そういうことをここの最後で物語っているわけです。
  結論ですが、都心の3区と新宿区、4区の各区の土地利用や人口の増え方、オフィスのつき方を調べていきますと、都心4区はそれぞれのキャラクターを持っているんです。千代田区はやはり初めからあそこが日本の首都で、東京の首都ですので、オフィスビルをびっしり造りましたから、容積率を目いっぱい食っているんです。それに対して、これから建てる事務所は、率直に言うと、三菱地所を中心にした大・丸・有が一番目立つところです。番町も大体飽和しました。飯田橋で少し増えますが、一般庶民の町、神保町や淡路町、東神田の庶民の町でも、建物の建て方はそれほど大きくはない。だから、千代田区の2030年の容積率の増加は、大・丸・有で長期ビジョンで250ヘクタールぐらいの床を供給することを考えていますので、それにほとんど支配されて、それ以外はほんのわずかだ。
  それに比べて中央区はどうなっているかというと、昭和通りから東側のかつての問屋や小さい倉庫、家内工業のところがどんどんマンション化していきます。更に大きいのは、月島とか晴海のところに広大なマンションが増えてくるわけです。中央区は都心3区の中で住宅化する傾向が極めて強い。
  港区はどうかというと、天賦の才に恵まれている。町なかは余り変わりません。環2のところは変わります。しかし、麻布とか青山は変わらない。天賦の才というのは何かというと、JRの田町の鉄道操車場が港区なんです。東京水産大学がありますが、あれも港区です。それから、もうでき上がりましたが汐留の再開発、あれも港区なんです。そう考えますと、港区は山手線の東側のところで非常に大きく市街地をまだ変える可能性がある。一番象徴的なのは芝浦の下水処理場の上です。この間大成さんがとったと思います。天王洲はまだ続きますよ。下水処理場の上、2期、3期と続きます。それから、東京水産大学のところだってわからない。もっと広く言えば、JALの本社ビル。潰れたらあそこが再開発になるかもしれない。あれも港区。だから、港区は前向きにいろいろな機能をまぜ合わせたまちづくりが一番進む。
  新宿はどうかというと、新宿の駅の西口の再開発は、いずれやらなければいけないんですけど、100メートルぐらいで大体でき上がってしまっている。あれをどう壊すか。一番の象徴は都庁ですね。都庁を壊せるかどうか。大問題です。みんな困っています。そうすると、あそこでは、霞が関ビルみたいに壊さなくても内部改装して、一定期間ビルを休業する。住友さんの三角ビルなんか古くなって品が悪くなっていたんですが、住不さんは宝の山の三角ビルを捨てるわけでしょう。それをどうするか。大手町の連鎖型とは別な意味で、あそこの地主が共同して新宿副都心の建物の建て替えのために必要なでかいビルを一発再開発でつくる。その場所がどこかというと、僕は、新宿駅の西口の駅前に面した場所だと思う。ずばり言うと、安田生命と新宿郵便局の一角が再開発に一番いいところ。あそこに2000%の超高層ビルを造って、1000%までは安田生命さんと日本郵政で使って、住不さんと三井さんのように新宿西口のビルを持っているオーナーは上の1000%を高い値段で買って、それを使って三角ビルのテナントをそこに移して三角ビルを直していく。そういう連鎖型の新しい、大・丸・有とは違うやり方を1つ新宿で考えたら面白いだろう。
  重要なことは、これからの東京を変えるのは建て替えです。完璧に建て替えが東京の魅力をつくり上げる。その建て替えには2種類ある。1つは、今言った新宿西口や大・丸・有型の大規模オフィスビル、大規模マンションの建て替えですが、もう1つは、先ほど言った界隈型の建て替えです。東京に魅力を持たせるために、界隈型の建て替えをちゃんと動かすような法制度をつくらなければいけないんです。
それが今日の僕のつぶやきでございます。


フリーディスカッション

 先生、ありがとうございます。それでは、お1人だけご質問をお受けいたします。
岡田(竹中工務店) 今日触れられなかったんですが、先生のつくられている将来像なり現状の中で、塊の緑があります。今日の先生の将来に向けての計画の中に、緑の塊なり、あるいはそれを新たにもう少し増やしていく、というベクトルの話がなかったものですから、お聞きしたいと思います。
伊藤 多分7月にまた話さなければいけないんです。そこで、緑と低炭素と地震と道路の話をします。この方が今日よりずっと面白いですよ。これを今準備しています。緑は一言で言うと、寺、神社をいい加減にしない。寺の墓場をあんな石張りにしない。あれはひどいでしょう。あれが裸土で、あそこにちょっとした木があるだけで緑になるんですよ。23区は寺がすごい量あるんです。墓地法で埋葬何とかというんですけど、墓場なんかは裸地にしていいんですよ。水が少しは墓の箱の中に入ったっていい。そして、坊主が墓にして1基何百万で売るのをもっと抑えて、墓が100あったとすると、100のうち1割ぐらいは墓にしないでそこに柳や桜を植えて、お化けドロンドロンでもしなさいよと。それで東京の緑は随分変わると思うんです。
  僕が一番気にしているのは谷中のお寺さんです。あそこは谷根千があるでしょう。谷根千の下町と谷中の墓地と上野の寛永寺、上野公園がある。あそこの将来像、界隈性も入れながら、谷中の墓地の緑化も入れて、上野公園と結びつけてやると、物すごく魅力ある江戸の雰囲気を漂わせる町ができるんですよ。その他にも高輪にも寺がいっぱいあるんです。京浜電車の裏側とか。
  23区の山手線の中の寺、神社を何とかする。だから、僕は先ほど薬研堀と言った。寺がつまらない幼稚園をやるでしょう。それをやめさせて、墓でも儲けさせないで、1割は緑化する。それで随分緑がふえると思います。
  もう1つは、これは皆さん言っているんですけど、渋谷川でも、裏原宿はあんな道にすべきではないんですよ。あそこはもともと渋谷川の川だったところですよ。あそこなんかむしろひっぱがすべきだと思うんです。渋谷駅の東側の東横デパートの下のところに渋谷川が暗渠で入っています。あれをもう一回表に出す。東横デパートの真ん中に出すんです。梅田の地下がそうですね。梅田と同じに、渋谷川が地下に流れているんだ。それぐらいのことをやれという感じで、いろいろ考えています。結論は寺と神社を攻めようということです。
 伊藤先生、大変ありがとうございました。皆様、どうぞ伊藤先生に拍手をお送りいただきたいと思います。(拍手)
  以上をもちまして、本年最初のフォーラムを終了させていただきます。本日はまことにありがとうございました。

(了)

 

 



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