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 第12回NSRIフォーラム
 
散歩は学問たりうるか
  ~『テクノスケープ』を通じて~

2014年1月14日(火)
日建設計東京ビル1階ギャラリー
講師:岡田 昌彰氏 (近畿大学理工学部社会環境工学科教授 )
ファシリテータ:西村 浩(日建設計執行役員名古屋代表)

岡田昌彰(おかだ まさあき)氏
近畿大学理工学部社会環境工学科教授
1967年茨城県日立市生まれ。
東京工業大学土木工学科卒業。同大学院社会工学科へ進み博士後期課程修了。
株式会社長大、国土技術政策総合研究所、東京大学アジア生物資源環境研究センターを経て近畿大学理工学部教授。博士(工学)

 

景観工学は1960年代に始まったとされている。当時の道路公団の技術者が、名神高速道路の設計にあたり、次第に近づく山並みの見え方、単調さが居眠り運転を生む危険、圧迫感のない法面のデザイン手法などに興味を持ち、工学と心理学とが次第に近づいて行き、その手本として庭園デザイン手法や寺の伽藍の配置など、様々な要素が盛り込まれ、学問として体系化していった。
テクノスケープは、岡田昌彰先生が最初に体系化した景観の概念で、景観工学の中でも特に土木構造物や、歴史的建造物(時には廃墟にすら)に着目した都市の体験学である。
岡田先生は、まち歩き等を通じた景観の発見プロセスに関心をもち、学者としてそれを世に問うている。
                                                   (ファシリテーター:西村 浩)

PDF版はこちらです→

木村 大変長らくお待たせいたしました。ただいまより第12回NSRIフォーラムを開催いたします。本日は、大変寒い中、お越しくださいまして、誠にありがとうございます。
 本日のファシリテーターは、日建設計執行役員 名古屋代表の西村浩でございます。
 それでは、よろしくお願いいたします。

西村 西村でございます。 今日は、NSRIフォーラム第312回、2014年の第1回でございます。
私は今、名古屋代表ですが、会社に入ってから17年間、都市開発の仕事をしておりました。私どもの本社のありますここ飯田町の開発も、開発メンバーの1人として活動しておりました。
普通ですとNSRIフォーラムは、終わったときにアカデミックな知見が得られ、明日からの仕事に活用するということを本当の目的にしているわけですが、今日のフォーラムは、少なくとも私がイントロダクションでお話しするところまでは、週末向けの知見しか得られません。
私はかつて散歩を学問にしたくてうろうろと歩き回ってきましたが、お呼びした岡田先生は、景観工学という世界の中で、テクノスケープ、工業遺産や土木遺産、遺産ではなくて現に活動しているものなどについて、それを見る上での勘どころや価値の見出し方などを研究され、それを見事に体系化された最初の方ではないかと思っております。
岡田先生と私は、東京工業大学の社会工学科を卒業しておりまして、景観工学の重鎮であります中村良夫先生の研究室でした。今日は中村良夫先生にもおいでいただいておりますので、後ほどお話をいただきたいと思います。
私からのイントロダクションは、後ほどのアカデミックな話の前段として、少しくだらないお話を差し上げたいと思います。
散歩、散歩というふうに申し上げておりますが、実は私は、東京の町を歩く散歩の会11年間続けています。毎月1回、土曜日または日曜日の早朝に東京の町を歩きます。毎回14~15人、多いときは20人ぐらいの参加者を得て、12~13キロ歩き、そば屋に入って酒を飲むということをずっと続けております。その中で撮りためた写真を30~40枚、大急ぎでご覧いただきます。
(図1)
散歩は学問になるだろうかということを問いかけさせていただきましたが、「散歩は学問にならない」というのが私の結論です。
今申し上げた散歩の会のときに、歩きながら仲間たちといろいろ会話をするんですね。その中に、例えばこんな会話がよく出てくる。「わあ、こんなところにこんなものがある」とか、「話には聞いていたけど、見るのは初めてだ」とか。いろいろな道具があったり、モニュメントがあったり、昔は使っていたけれども今は使っていないものなどが出てきたときに、「何に使うか知っていますか」と人生のベテランが若者に問う。それに答えられる人、答えられない人がいて、何、そんなことも知らないのかという会話がある。あるいは、丘の上に登りますと、昔はここから海が見えたんだろうねとか、これがあの有名人の家か、あの事件の現場はここか、昔は至るところにこんなのものがあったよねとか、この苗字は何と読むんだろう、この狛犬、やたらかわいいとか、電車から見たことしかなかったな、華やかなりしころの残滓というわけですねとか、こういう会話が月に1回、私の仲間たちとの間で交わされているということです。
(図2)
 鴬谷と日暮里との間の京浜東北線、山手線が走っているところから谷中墓地を見ますと、ちょっと段が低くなったところに外人墓地があります。そこをいつも電車からは見ていましたが、たまには墓地の方から見てみたいなと思って行って撮った写真です。こちら側に行ってみたい、いつも見ているのと違う視点で物を見たい、と思って撮った場所です。

 

 

 

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