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 第13回NSRIフォーラム
 
省エネルギー建築からネット・ゼロ・エネルギー建築へ

2014年2月12日(水)
NSRIホール
講師:田辺新一氏 (早稲田大学理工学術院創造工学部建築学科教授 )
ファシリテータ:丹羽英治(日建設計総合研究所 理事 上席研究員)

田辺新一(たなべ しんいち)氏
早稲田大学理工学術院創造工学部建築学科教授
1958年福岡県生まれ。1980年早稲田大学理工学部建築学科卒業。
1984年同大学大学院博士課程修了。1984〜86年デンマーク工科大学暖房空調研究所、1992~93年カリフォルニア大学バークレー校環境計画研究所、1992~99年お茶の水女子大学生活科学部助教授、1999年~早稲田大学理工学部建築学科助教授、2001年〜現在同大学教授。 主な著書に『室内化学汚染・シックハウスの常識と対策』(1998年,講談社) 他

 

近年、太陽光等の再生可能エネルギーを用いて、建物のエネルギー消費量ネット・ゼロを目指す「ネット・ゼロ・エネルギー建築(ZEB)」の取り組みが世界的に行われ、これまでの「省エネルギー建築」を超えて、「ネット・ゼロ・エネルギー建築(ZEB)」が求められる時代になってきました。
今回は、世界的なZEB化の動向や日本の行政・産業界における取り組みに詳しい、田辺新一教授に、今後の世界的な動向や日本の建設業界への期待などを伺います。(ファシリテーター:丹羽英治)

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木村 大変長らくお待たせいたしました。ただいまより第13回NSRIフォーラムを開催いたします。本日は、お忙しい中、お越しくださいまして、まことにありがとうございます。
本日のファシリテーターは、日建設計総合研究所理事上席研究員 丹羽英治でございます。よろしくお願いいたします。

 

丹羽 ただいまご紹介いただきました本日のファシリテーターをさせていただきます日建設計総合研究所理事上席研究員の丹羽と申します。よろしくお願いいたします。
本日のフォーラムは、早稲田大学の田辺先生をお招きして、「省エネルギー建築からネット・ゼロ・エネルギー建築へ」というタイトルで、これまでの省エネルギー建築の取り組みから、いわゆる「ZEB」と呼ばれている「ネット・ゼロ・エネルギー建築」に今後どういうふうに取り組んでいくかということをテーマに、2時間ほど皆様とご一緒に議論したいと思います。
田辺先生に1時間ほどご講演いただいた後、私の方から日建グループの取り組みを少しご紹介させていただきます。その後30分ほど質疑討論ということで時間を設けておりますので、ご活発な議論をいただければと思っております。
まず、田辺先生をご紹介いたします。先生は、早稲田大学のご出身で、その後、デンマーク工科大学、カリフォルニア大学バークレー校、お茶の水女子大学を経られて、現在は早稲田大学理工学術院創造工学部建築学科の教授でいらっしゃいます。
専門は、空調設備全般です。今日のテーマであるZEBの世界的な動向や日本の行政、産業界の取り組みに精通しておられますので、今日お招きいたしました。
それでは、田辺先生、よろしくお願いいたします。


ネット・ゼロ・エネルギー建築の動向と必要性

(図1)
ご紹介いただきましてありがとうございます。
(図2)
今日は1時間ほどですが、「ネット・ゼロ・エネルギー建築の動向と必要性」ということで、私が思っていることをお話しできればと思います。
「ネット・ゼロ・エネルギー建築」は、海外では住宅モビルディングといいます。
(図3)
先々週までお台場で住宅のゼロ・エネルギーのコンテストをやっていました。これは慶應、東大、千葉大、芝浦、早稲田がつくった住宅です。2週間で施工して、ゼロ・エナジーの住宅を実現しようというプロジェクトです。住宅では、平屋程度の住宅であれば太陽電池とか燃料電池を使えばゼロにできるんです。日本ではZEHと言われています。外国ではZEHというのは全く通用しません。
(図4)
早稲田は反骨精神があるので、鉄骨でつくりました。鉄骨でALCを内側に使って、熱容量を持たせて、外断熱、ネオマフォームという10センチぐらいのフェノールフォームでくるみ熱抵抗を非常に大きくした住宅をつくりました。外側については、最初、学生とセルフビルドする予定でしたが、構造の新谷眞人先生と相談していたら、アルミのいい形材があるので使うことになりました。これは伊東豊雄さんと一緒に新谷先生がやられているアルミのフレームなので、とんでもない値段がします。ただ、列柱が非常にカッコよくて、我々は感心していました。普通、ゼロ・エナジーの住宅をつくると負荷をなるべく小さくしてパッシブ化をしたいので、縁側的な付設温室というのは大体、解が1つになっています。南側に温室をつくって、夏は開放できて、冬はこの熱をうまく使うというのが1つだと思います。
(図5)
家具も学生たちとデザインをして図面を全部書いて起こしています。怖いⅯ先生に「家具安いな」と言われましたが、これは全部図面を起こして、チェリアというカッシーナをつくっている会社と一緒につくっているので、とんでもない値段がします。
今回、僕らは見える化や見せる化をやろうということにしました。有機ELでつくった色が自然に変わっていくパネルをつくりました。アルディーノという3000円ぐらいのチップで、プログラミングだけをすればできます。HEMSやBEMSがありますが、見せる化というのはもっとオープン化していくのではないかと思っています。
(図6)
これはベッドです。寝るときに手をあげると電気が消えるようなベッドをつくってくれと私が学生にリクエストを出しました。距離センサーがついています。距離センサーも非常に安くて、数千円レベルのものにマイコンチップでプログラムを書けばそれができるようになる。日本では制御に物すごくお金がかかるんですが、オープン化してうまくプログラムを書くことができれば、こういうものができていく。実はネストという住宅用のサーモスタットがアメリカでつくられています。アップルコンピュータを出た方がつくられた会社です。その会社は、2009年にカリフォルニア大学でできた博士論文がもとで商品を作っていると言われています。2011年に創業して、今年の1月に3200億円でグーグルが買い取りました。小さなアイデアでも、住宅や建築でアイデアを出していろいろ書き込んでいくと、相当おもしろいビジネスがあるんだなと思いました。
ゼロ・エナジーは、住宅では、きちんと外皮性能を合わせて、発電をすればもう夢ではない世界になっています。その上でデザイン性をどうするかということが重要だと思います。これは全熱交換器の吹き出し口ですが、つらを合わせるのに、多孔板を塗ってここからグルーッと回っています。こういうものに一生懸命気をつけていくことが必要だろうなと思います。
(図7)
私自身も省エネの建築の研究や省エネ建築の設計をしていましたが、なぜネット・ゼロを目指すのか、省エネ建築ではいけないのかということを考えました。プロの方にとっては省エネ建築でいいし、超省エネ建築という呼び方でもいいかもしれない。けれども、省エネの省というのは省くという意味です。本来は不要なものを取り除くという意味の省くんです。不要なものを取り除いたら省エネになるはずなんですが、必要なものも取り除くんですね。例えば28度のオフィスにしなさいといって、29度、30度で我慢して働こうとしますが、これは本当は必要なものを取り除いているので、省エネという本来の目的からするとおかしい。
それから、省エネは質を確保するということが前提なので、換気量を極端に減らして1200ppm、1300ppm、1500ppmのオフィスビルをつくって、我慢して働いくというのは省エネというのは、非常に大きな間違いです。日本では省エネというと我慢になってしまう。我慢というのが皆さんの頭の中に刷り込まれているので、省エネ、超省エネという言葉を何かの言葉できちんと置きかえていかないと、質の高いもの、デザイン性の高いものはできてこない。
それから、先ほどお見せしたコントローラーなどのおもしろいアイデアも、省エネだけではなかなか出てこない。人の行動も含めて考えていく必要があるというのが私の主張です。
その中で、ゼロ・エナジーの建築というものと出会いました。我々がロケットを上げてたときに、大気圏から出ることを目標にすることと、月まで行く、または火星まで行くという目標を持つこととは、技術に対する考え方が非常に違ってきます。我々がどこを目指すかということをきちんと言っておく必要がある。私自身はそういう思いでゼロというものを使っています。超高層でゼロなんか無理だと言われますが、実際無理です。ただ、定義によっては省エネにして、再生可能エネルギーを使って、残りを敷地外から持ってくるというアイデアもありますので、そういったことをやっていけば、ゼロに近づいていくというのは確かです。究極の目的をそこに持っていくことは大切だろうと思います。
建築以外の方は非常に理解してくれます。省エネ建築の建物をまた建てるのか、また暑いビルをつくるのかと言われますが、そうではなくて、きちんとした質を確保した、エネルギーを使わないビルを建てていくことが重要なんだと思います。
知的生産性の高い室内環境をつくることは必須です。質の低いものをもって省エネと呼ぶのは非常におかしい。ZEB(ゼロ・エナジー・ビル)、ネット・ゼロというのは究極の目的であるということです。

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