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1.井形慶子自己紹介とともに、なぜイギリスという国に魅力を感じるのか

2日本人とイギリス人の住まいに対する価値観の違い。なぜ古家は壊されるのか? イギリス人はどんな家に価値を感じるのか?など。

3. 井形慶子が、住みたい町、No1の吉祥寺に500万円の老朽物件を購入し、300万円でフルリフォーム。ロンドン風フラット完成。

5. イギリスで売り家になっている魅力的な家。(借地権999年の古城、
湖が見えるコッツウォルズの古城)

7. 家づくりとは、住まいに命を吹き込む作業



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(図29)
先程の間取りです。53平米、1LDK、昔の古いお城をこのように近代的にリフォームをして、再販していくという考えですね。私は、こういうイギリスの家をずっと見てきて、改めて日本を振り返るわけです。
(図30)
日本の住宅広告にいきましょう。これが日本の住宅広告なんですけれども、記号のような言葉が並ぶわけです。「駅近」「日当たり良好」「室内大変きれいにお使いです」と、私たちが見なれた言葉が続きまして、リフォームに関しても、全面リフォーム済み、注文建築、LDKが20畳ですよというようなチラシでございますね。
新築マンションの販売チラシに関してはもっと極端です。これは吉祥寺のものなんですが、とにかく広い、80平米超、90平米超、ワイドスパンと、広さ、大きさ、明るさにフォーカスして売っていく。同じ住宅広告でも、住宅のチラシ、広告を見ていくと、イギリスと日本の家の違い、そのありようは大きく違っていくと思うんです。そして、この2つを見比べていくと、家に対する考え方から生き方の違いまで浮かび上がってくるわけです。
ここで基本的なところに戻りたいんですが、イギリス人と日本人の家の価値、考え方は違うということはわかったけれども、貯蓄額はどのくらい違うの。日本人の平均988万円、対してイギリス人は350万円しか貯金していません。これはすなわち老後の問題にもつながっていくわけです。住まいの問題は人生の問題、老後の問題にもつながっていく。ああいう古い家に住んでいるイギリス人、しかも貯金は300万ちょっと。よほど国の制度がいいんだろうなと言われる方もおられますが、どうも制度だけではないようです。
イギリスは今、大変な不景気で、いろいろな問題が出ております。医療にしても社会保障にしても、問題が出ております。
イギリス人にとって、家というのはあらゆる意味で人生の中心です。その理由を、私は3つ挙げたいと思います。
まず、イギリス人にとって、家というのは「節約」につながります。それは何故か。簡単にいきたいと思うんですが、私たち日本人は、お客様と会う場合、喫茶店やレストランで会うことが多いと思います。イギリスの人々というのは、家は人を招く場所、人と出会う場所なんです。そこが大きな節約になっていきます。
それから、「職住接近」という問題があります。コンピュータの発達に伴って、イギリスでは近年、特にこの10年ほどでしょうか、会社を早期にリタイアして自宅で仕事をする方が大変多いんです。ですから、自分の家にホームオフィスをつくる、そこが仕事場になるということが大変多くて、昔、プレハブの勉強部屋なんてありましたけれども、田舎の一軒家なんかに行きますと、よく庭先に自分のホームオフィスを、倉庫を改装してつくっていらっしゃる方も多いんです。
そして、家というのは「財テク」になります。ここが大きな問題、ポイントです。イギリス人は、家を持った瞬間からその家をいかに活用するかという闘いの始まりです。家を見つめ、手を加えることで、どんどん古い老朽物件の資産価値を上げていくんです。
イギリスでは20代の若者が自分の家を買うということが大変盛んなんですけれども、日本人以上に家に対しての関心が高く、毎週必ずどこかの放送局では、ぼろ家を買って、それをリフォームして1億円につり上げたというようなドキュメンタリー番組が放送されています。
私、今、ぼろ家という言い方をしましたけれども、本当に土台はぼろぼろなんです。それがどのくらい素晴らしいのか。日本の10倍くらい、不動産投資、不動産売買が盛んな英国では、今現在も外国の富裕層が、中国人を初めとして、どんどん家を購入しております。
(図31)
先だって、イギリスに行った時に、とんでもない新聞記事がありました。ロンドンの中心部、ハロッズの目の前で、新しいマンションが今建築されています。そのマンションのトップフロア、ペントハウスを買った富豪のことがニュースで出ておりました。新聞のトップニュース、イブニング・スタンダードに出ておりましたけれども、この富豪は、なんとそのペントハウスを210億円で購入したんです。1住戸が210億円。これは日本では考えられない値段なんですけれども、何故このような高値がつくのでしょうか。1棟のマンションではなく、1住戸が210億円です。
このマンションは、確かにロンドン一ステータスがあるハロッズの目の前に建ち、そしてセキュリティも万全です。セキュリティというと、イギリスのCIAみたいなSASで訓練を受けた人たちが、セコムのようにセキュリティに入り、ミシュランクラスのシェフが24時間ルームサービスをするというくらいのマンションなんですけれども、平均販売住戸というのが60億円なんですね。現在、7割売れています。名前は公表されておりません。国籍も不明なんですが、報道によりますと、中国人、ロシア人、中東の方々がメインではないかと言われております。何故このように住宅を買いあさるんでしょうか。外国人もイギリス人も、家を持つということは財テクだと考えているのです。
1つの例を申し上げますが、イギリスの人々というのは、私、先程言いましたが、廃屋のようなマンションを買う、もしくはうんと地価が高い、こちらでいえば六本木ヒルズのようなところを買う。そして、買って性能を上げ、中をリフォームし、黙って持っておく。何故か。家の軒数が、買いたい人に対して圧倒的に少ないんです。日本は家余り社会なんですが、英国というのは万年、家が不足しています。皆さんが家を買いたいのに、家を必要以上に開発させない、住宅開発をさせない、家をつくらない。環境を壊したくないということが1つあります。2番目に、タワー型住戸というのは英国では余り歓迎されていない。人々がなじまない。そういうこともあって、非常に住宅の数が限られているところにもってきて、ロンドンというのはニューヨークと同じ、世界のセンターですから、外国人も含めいろいろな人たちが買おうとする。住宅投資が大変盛んなんです。そこにもってきて、一般のイギリス人も家を買う。古い家を買ってリフォームをし、性能を上げ、性能が上がったところで売る。そしてまた次の家を買うという、はしごを上っていくわけです。


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