●子どもにとっての遊び場 |
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子どもにとって、遊びの環境とは世の中の小さなレプリカのようなものであり、子どもは遊びを通して自分の環境や自己自身について学習し、そこで得られるあらゆる経験によって豊かな思考能力や感受性を養うことができる。したがって、見たり、触れたりできる感覚的経験を誘発する仕掛けができるだけたくさん溢れている場所ほど、子どもにとって、その空間は豊かで変化に富む魅力的な環境となる。 |
また、子どもは巧みに想像力を働かせ、定義された機能の枠を超えて、上手に遊びを生み出したり、あらゆるスペースを遊びの舞台に作り変えたりすることにも長けている。このように考えれば、子どもにとっての遊び場とは、計画的に配置され、装置化された遊戯スペースとしての空間だけではなく、日常生活のあらゆる空間(例えば電車の中や歩道なども)の中にも見いだすことができ、毎日使う遊びの空間は、プロの手や費用のかかったものである必要はなく、例えば空港やバス、電車の駅、病院、レストランなどのパブリックな空間でさえも、ほんの少し「遊びの空間」として捉え直せば、子どもはあたりまえの日常生活の中に新たな冒険の場所を発見することができるのではないだろうか。 |
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●都市の中での遊び場 |
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遊び場といえば、ある程度の規模で計画的に配置された公園や、イギリスで普及した「プレイパーク」と呼ばれる冒険遊び場などが思い浮かぶ。この「プレイパーク(冒険遊び場)」はデンマークの「エンドラップ廃材遊び場」に由来しており、子どもたちが、がらくた置き場や建設用地でいたずらし、そこにある廃材を使って遊びを発展させるのがとても好きだという長年の観察に基づき、創られたもので、その後ヨーロッパ各国に広がった。 |
イギリスでは特に人気となったが、そのほとんどは開発を待つ荒廃地で、5〜10年の借地契約により、開設されている。この遊び場を魅力的にしている要素
は、塀によって周囲の憂鬱な環境と世界を隔てていること、屋内と屋外の遊び場を子供たちが自由に行き来でき、パビリオンも遊び場の中に溶け込んでいること、そして何よりも制度やシステム・組織などがなく、すべてが自主性に委ねられ、「新しい発見といつでも冒険が待ちうけている空間」になっていることにある.。
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「エンドラップ遊び場」と「ノッティングヒルの冒険遊び場」
(出典:「都市の遊び場」Allen of Hurtwood) |
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ただし、上記のように子どもにとっては、ある種の理想的な遊び場であっても、子どもの安全確保を理由に、ある程度の広がりを持つ囲われた空間の中に自由な冒険や創造的な遊びを収めるという手法が取られ、街全体の空間形成から「遊び場」のみを切り離して捉え、計画している。 |
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●子どもたちの「遊び」を守る |
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「遊びの計画」の著者、リチャード・ダットナーは子どもの遊び場にとって大切なのは、“大人にとっても安全かつ居心地のよいスペースをつくることである”と指摘している。子どもを見守る親や周辺住民にとって、毎日でも通いたくなるような快適なスペース、例えば乳母車の置けるスペースや座り心地のよいベンチ、適度な日陰などが揃っていれば、自然とそこに多くの大人も訪れる。大人たちの「目に触れる」ことで子どもたちの安全性が保たれる。また、お年寄りにとっては、このような遊び場は一種の劇場のように楽しい時間を与えてくれるものとなり、積極的な外出を促し、社会とのつながりを感じ続けられる「場」ともなるであろう。このように豊かで魅力的な子どもの遊びの空間は、子どもだけでなく、そこを利用する周辺住民にとってもコミュニティの形成や成熟した社会で過ごす実感をも与えてくれるだろう。 |
現在、都市における「こどもの遊び空間」を考える際の上位計画として捉えることができるものに、ユニセフ発信の「CHILD FRIENDLY CITY」がある。 |
これは、子どもたちにとって与えられるべき権利を示したガイドラインでもあり、安全で健康的な都市環境は子どもたちに与えられる基本的権利としている他、子どもたちを成熟しない大人以前の存在と定義するのではなく、大人と同等の人格と捉えるべきとしている。今でこそあらゆる分野で子どもを一人格として捉えることは当たり前であるが、まちづくりにおけるこどもの参画の実態はまだ道半ばであるが、子どもたちによる国際会議が国連主導のもとに、年に1度開かれ、子どもたち自身が自分たちにとっての大切な都市空間について、話し合う機会が設けられている。 |
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Child Friendly City : UNICEF |
子ども国際会議の様子 |
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(出典:http://www.childfriendlycities.org/) |
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●まちづくりとしての「遊びの空間」の創出 |
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前述の子ども主導の国際会議では、子どもたちは都市の中に大人と同様にコミュニティ形成のための空間を求めており、それは豊かな緑地や水辺といった都市のアメニティ空間である。このような状況を踏まえると都市における「子どものための遊びの空間」はどのようにあるべきなのだろうか?
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日本での子どもの遊びの空間は、公園や空き地、学校の校庭など、その地域に独立して点在し、整備レベルもまちまちであるが、重要なことは、子どもが毎日安心して楽しく過ごせる空間としては、それぞれの遊び場だけではなく、その場所へのアクセスや周辺環境自体も考慮されるべきであるということであろう。 |
計画目的は、自転車と人を重視したまちづくりであるが、結果として安全で快適な子どもの遊びの空間を都市全体の空間構成と連動して創出した事例として、オランダのユトレヒトの南7kmに位置する新興住宅都市ハウテンがある。 |
ハウテンは自転車の街として有名であり、その特徴は、市街地が29の独立したセル(区)で形成され、自動車ではセル相互を直接移動できない構造となっている。各セルへの入口はまちを取り囲む環状道路に各1か所ずつしかなく、駅周辺は歩行者用道路と自転車道のみで、駅前は一部のタクシーを除いて、車の乗り入れは禁止されている。 |
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ハウテンの道路ネットワーク |
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また、自転車道は街の中心部に幹線を配置され、そこから支線が枝分かれしており、幹線自転車道はグリーンベルトによって囲まれているため、一体的な公園のように機能している。 |
このような、安全な歩行者空間と公園のような緑の空間の面的ネットワークが、子どもの遊びの空間として機能し、安全な移動と創造的な遊びの環境を確保している。オランダも日本と同様、少子化が問題となっているが、ハウテンにおいて子どもたちの姿がとても多く見られるのは、このような遊び場をはじめとした安全で豊かな日常空間の存在が、多くの子育て期の家族に受け入れられ、彼らが好んで住みたがる街となったからだろう。 |
ハウテンは、モーダルシフトを意図した交通政策のプラスの副作物として、街全体の安全で快適な遊び場が形成され、子どもたちでにぎわう豊かな環境の住宅地として成長することができた。 |
昨今の都市は非常に巧みに設計されており、街の中のどんな片隅であっても有効かつ健康的で実用的な空間となっている。反面、見方を変えれば子どもを魅了する物陰や自分だけの基地をつくる秘密の場所を失ってしまったともいえるが、私たちが都市のバリューという観点から、ハウテンの事例から学ぶべき点は、子どものための遊びの空間を街区のネットワークや都市の空間構成のあり方も含めて計画するアプローチの必要性や利用対象を子どもだけに絞らず、全ての人にとってコミュニケーションを誘発する場となる快適な空間やオープンスペースとして遊びの空間を創出するといった視点を持つことの大切さではないだろうか。 |
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・「都市の遊び場」
・「遊び場のデザイン」アービッド・ベンソン
・「遊び場の計画」リチャード・ダットナー
・「くらしと交通」JAEF
・「Child Friendly City」UNICEF |
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