連載コラム  
 
Topic 48 まちづくり主体の財源確保
  〜まちとともに成長する組織へ〜
 
西尾 京介
 
 
●まちづくりの主体とは何か
 
 都市のバリューを考える上で、まちづくりを担っている様々な主体における財源確保の問題は避けて通れないものである。人口が減少し、経済の規模拡大も見込まれない一方で、我々を取り巻くまちづくりの課題は一層多岐にわたってきており、多様なまちづくり主体が継続的に活動しうる財源の調達が必要である。
 まちづくりの主体として代表的なものは、次の三つに大別される。まず一つ目は地方自治体をはじめとする行政。二つ目は、民営化の流れの中で様々なまちづくりの領域に係わることの増えてきた民間企業。そして三つ目がNPOやまちづくり協議会、まちづくり会社といった「新しい公共(Topic42参照)」の担い手である。
 地方自治体は必要な公共サービスを行うための原資を税収にもとめるのが原則であり、ここでの議論の対象ではない。また、民間企業は、あくまで個々の自由な意思による経済活動としてまちづくりに関与しており、その財源の確保もまたここで論じるべき問題ではない。これに対して、新しい公共の担い手は、その役割の拡大が期待されているにもかかわらず、財源の調達の安定性に関して指摘されることが多い。従ってここでは、新しい公共の担い手とされるNPOやまちづくり会社、まちづくり協議会等の財源確保について考えてみたい。
 
●まちづくり主体はどのように財源を確保しているか
 
 NPO法人やまちづくり会社、協議会等のまちづくり主体が財源を確保する方法にはどのようなものがあるか。組織によって異なるが、主として行政からの補助金や助成金、企業・個人等からの寄附や助成、会費収入、事業収入などがある。
 行政からの補助金や助成金は従来から最も一般的にあるもので、自治体の予算の一部を充てて地域活動やまちづくり活動を行うNPOやボランティア団体に対して助成するものだ。これは、自治体の単位よりもっときめ細かなニーズに応じて、地域単位もしくは分野別に行われる公共サービスに対して、税の一部を手当てするものと考えることができる。しかしながら、こうした財源は、そもそも一団体あたりの補助や助成の額が小さいものが多い上に、自治体の財政状況がますます厳しくなっていくことを考えると、今後はあまり期待できないと考えるべきであろう。
 寄附はどうか。個人による寄附や企業がメセナの一環として行うものまで含めて様々な方法があり、アメリカなどではまちづくり組織の財源調達の方法として広く普及している。しかしながら、国民一人当たりが一年間に寄附する額で言えば、アメリカが約9万円に対して、日本では約900円/年(*1) と、日本では寄附が慣習として広く定着しているとは言いがたい。ふるさと税制の導入や寄附税制の見直しなどが行われつつあり、今後増えていくことが期待されるものの、継続的に活用できる主要な財源として期待するのはまだまだ難しいと思われる。
 会費収入は、日本のNPOなどでも一つの主力資金源である。しかし、特に個人を対象に集められる会費収入にはおのずと金額的な限度がある上に、会費を滞納する会員に苦しむ団体も少なくないなど、財源としては不安定である。結局、四番目に挙げた「事業収入」によって安定した収益を見込めなければ組織の継続性には不安が出てくる、というのが、今日多くの日本のまちづくり組織に共通した課題といってよいだろう。
 
●安定した収益を確保する難しさ
 
 専ら営利を目的とする民間企業ですら安定した収益を確保することは難しいのだから、まちづくり組織にとっての安定した収益確保はハードルの高い課題である。事業センスのある人材の不足といった問題も大きいが、金融機関にとって与信対象として信用力が十分でないため、通常の企業のように融資を通じた資金調達が難しいといった点も大きな問題である。実際に、一般の金融機関から融資を受けることが難しいまちづくり組織では、役員等が個人の信用によって融資を受けている例も少なくない。NPOバンクや市民バンクと呼ばれる非営利の機関が趣旨に賛同する市民や企業などから調達した資金をこうした組織に融資する例も見られるが、全国的にみてもその数や資金量はまだまだ少ない。この問題をゆっくりでも確実に前進させるためには、詰まるところ、組織における事業の遂行力と収益管理の能力を着実に向上させていくほかないのである。
 そこで改めてまちづくり組織の収入について着目すると、地方公共団体からの委託等による収入割合が高いという傾向がある。まちづくり組織には一定の公共性があり、従って自治体などから随意で公共施設の管理を受託したり、特定のサービス提供を契約したりするのが妥当、という論理で支えられてきたものも少なくない。しかし、指定管理者制度の導入などにより、地方公共団体から民間への委託等が進みつつあることや、発注における入札の一般化が進み、より厳しく運用されているようになっていることを考えると、まちづくり組織が地方公共団体から継続して安定した委託を受けることを前提にするのは難しいだろう。まちづくり組織は民間企業とは異なる立場と視点から、安易に行政に依存することなく、事業の収益を確保していかなくてはならないのである。
 
●まちという顧客に対するビジネス
 
 今後、まちづくり組織が事業収益の確保に向けて考えるべきことは何だろうか。私は以下の三つのことが大切ではないかと考えている。
 まず一つ目は、まちづくりの「共益」という概念について改めて考え、提供するサービスに対する受益者と受益の内容を明確にする必要があるということだ。
 普段、我々はよく「公共」という言葉を使うように、「公」と「共」をそれほど区別せずに使っている場合が少なくない。しかし、まちづくり組織がサービスを提供する場合、一体誰の利益になるのか、という点で「公益」と「共益」の二つには大きな違いがある。それは、「公益」に対して「共益」では特定の地区や構成員の利益になる、という違いだ。特定の地域や地区を対象としたまちづくり組織の場合、そこでの共益が何なのかは本来とても重要なテーマだが、それがきちんと議論されていないケースが多い。その共益は、お金だけにとどまらず、その地区独自の価値観によって様々なものが想定される。それが明確になれば、まちづくりのために必要不可欠な投資をもっと幅広く呼び込むことができるし、いろんな制度や仕組みも生きてくる。例えば「まちづくりファンド」のように、地域に地縁をもつ個人や企業、自治体などからの資金の拠出を得て、ファンドを組成するのを国が支援する制度もあるし、東京・千代田区のプラットフォームサービス株式会社のように、SOHOの育成という志を理解してくれる出資者を募り、事業の利益を株主に配当しないことを前提にした出資金の調達に成功した例もある。利益を受ける対象を明確にし、ニーズに対応した事業による価値の向上を図り、成果を還元する、そのサイクルをしっかりと構想すれば、まちづくりが収益を生み出す可能性は高まるはずである。
 二点目は、支出から必要な収入を考えるのではなく、収入に見合った支出(事業)規模を考え、適正なまちづくり事業の規模を設定するということだ。
 まちづくり組織が行うサービスの購入者にはどれだけの支払い意思があるのか、それに見合ったサービスの内容は何か、小さなスケールからでもしっかりとしたスタディを行い、取り組むべき事業を考える必要がある。「でかいイベントをやって沢山人を呼びたい。だからこれだけ補助金がほしい」などという感覚は、提供しているサービスに対して、受益対象から支払われる対価が適切か、という認識が欠けており、規模の適正さに関する明確な意思と責任が感じられない。
 三点目は、まちづくりの戦略を考える「本社機能」と、まちづくりの事業を行う事業組織を、仕分けて考え、事業の継続性を確保するということである。
 まちづくりの個々の事業はプロジェクトである。プロジェクトには始まりと終わりがあり、個々のプロジェクトはいつも同じ大きさである必要もない。苦しい環境下では事業の規模を縮小することも必要である。しかし、本社機能には、まちの状況をモニターし、まちを経営するという視点で分析し、次に打つべき手は何かを考える役割がある。本社の規模は小さくとも常に継続して機能していることが大切である。本社機能(人材)がまちに与える影響は大きい。小さな町では、その能力が町全体の経済に影響を与えることもあるだろう。逆に言うと、そのような町ならば、例え行政が丸抱えになっても、有能な人材を確保することが必要な場合がある、ということである。
 まちづくり組織はまちの生活や経済とともに成長する組織である。まちという顧客を忘れたまちづくり組織は決して発展することはできない。
 
 *1 NPO白書2010より
 
   
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