No.108

2016年10月28日

VIEW 主任研究員 大橋 巧(おおはし たくみ)
サステイナブルキャンパスの今

持続可能な開発(Sustainable Development)という言葉は、国際的な共通概念として広く認知されています。一方で大学キャンパスは都市の縮図ともいえる空間規模があり、身近なキャンパスという実験の場を用いて、サステイナビリティに関する新しい社会モデルを実現すべきという機運が高まっています。本稿では国際的な動向から国内の代表的事例をご紹介します。

1. 国内外のネットワーク

サステイナブルキャンパス推進の取り組みは各大学で進められつつありますが、叡智を共有し、より高みを目指すため、近年大学間のネットワーク構築が盛んです。
北米では2006年に高等教育サステイナビリティ推進協議会(AASHE)が設立され、サステイナビリティ推進や環境教育の水準を評価するSTARSという評価システムも運用されています。STARSは、各高等教育機関の取り組み状況をスコア化し、プラチナ、ゴールド、シルバー、ブロンズ等の格付けを付与するものです。
より国際的なネットワークとしては、2007年設立で、現在6大陸30か国以上から80以上の大学が参加する、国際サステイナブルキャンパスネットワーク(ISCN)があり、年次大会では活発な議論が行われています。国内でも同様の組織体(サステイナブルキャンパス推進協議会・CAS-Net JAPAN)が2014年に設立され、現在、法人では34団体が加入しています。

2. 国内の動向

国内の先進的事例に目を向けると、国立大学だけでも様々な取り組みが実施されています。
早期から学内の専門組織(TSCP室)を立ち上げた東京大学、エネルギー使用量に対して一定割合の賦課金を課す学内独自制度(環境賦課金制度)を導入した京都大学、エネルギーマネジメントやファシリティマネジメントの視点強化により成果を挙げ、広く外部との連携も推進する名古屋大学、サステイナブルキャンパス推進本部を中心に国際連携にも注力する北海道大学、施設整備に加え、省エネ活動をエコポイント化して学生らに付与する制度の導入など、特色ある事業を推進する三重大学などが挙げられます。
 

3. 大阪大学の取り組み

サステイナブルキャンパスの確立には、省エネルギー、CO2排出量削減、交通、資源の有効利用、環境教育・研究、食の問題、運営手法など解決すべき課題が多岐にわたります。その中で、特に省エネルギーの面で大きな成果を挙げている大阪大学の取り組みを一例としてご紹介します。
 
大阪府北部に位置する大阪大学は、主要3キャンパス(吹田、豊中、箕面)で敷地面積約165万㎡、延床面積約100万㎡の規模を有し、学生・教職員約3万人が活動する集合体です。延床面積の増加に伴い、2010年度まではエネルギー消費量も増加の一途を辿ってきましたが、2011年、学内の本部事務機構に専門部署「環境・エネルギー管理部」が創設され、対策の強化が図られました。

総合大学である大阪大学には病院、研究所、講義棟、図書館など多様な施設が混在し、エネルギーの消費実態も施設によって様々です。問題を効果的に解決するには、それぞれの建物特性に合わせた対策を選択し講じていく必要があります。
大阪大学では、主要建物ごとに電力消費量が30分毎に計測されるシステムが、環境・エネルギー管理部の設立当初に導入され、これらのデータを用いて様々な分析が行われました。その結果、施設は、文科系施設、理科系施設、大規模施設の3つの分類によって、エネルギー消費特性が大きく異なることに着目し、その施設分類ごとに省エネルギー戦略が立案・実行されました。

以降、着実な省エネルギー化を実現し、2015年度には主要3キャンパスの床面積あたりのエネルギー消費量を2010年度比で24%削減しています。

大阪大学はいわゆる郊外型のキャンパスで、平均すると4,000㎡程度の中小規模建築の集合体です。都市の大部分はこのような中小規模の建築によって構成され、その省エネルギー化が課題となっています。大阪大学の事例は、社会のスマート化の進展により、同様なデータが得られるようになると考えられる一般の都市・街区のエネルギー消費削減の検討にも、今後応用が期待されます。

田植え作業の手伝い

田植え作業の手伝い

筆者の紹介

主任研究員 大橋 巧(おおはし たくみ) 

[ 専門分野 ]
  • 環境・エネルギーに関する計画・施策策定支援
  • 環境配慮型施設の計画・設計
  • 空気調和システムの計画・設計 
映画・天空の城ラピュタで「人は土から離れては生きられない」という印象的な言葉がありましたが、ここ数年、春になると田植え作業のお手伝いをしています。太陽と大地に感謝しつつ。