No.98 シリーズ "NSRIは何をしている会社?" 第9回

2016年01月29日

VIEW NSRIの組織体制と取り組み

NSRIは、以下の7つのグループ制でサービスを行っています。

  • ZEB(低炭素建築) グループ
  • スマートシティ グループ
  • モビリティデザイン グループ
  • エネルギーマネジメント グループ
  • 都市政策 グループ
  • 都市開発 グループ
  • 海外・戦略 グループ

VIEWでは、88号から各グループの取り組み・サービスについてシリーズで紹介しています。
第9回は、海外・戦略グループの取り組み・サービスの紹介Vol.1です。

海外・戦略グループのご紹介 Vol.1 

なぜ、今「都市開発の海外輸出」なのか?

 ここ数年、我が国の都市開発やインフラ整備に関する各種の技術・ノウハウと、関連する諸制度を共に官民連携して海外に輸出しようという動きが活発化しています。

その背景には、深刻な少子化・高齢化に直面し、ピーク時の約半分の規模に縮小した国内建設投資市場のみでは、これまで建設分野で培われてきた技術・ノウハウや雇用を持続的に維持・継承していくことが非常に厳しく、新たな市場開拓が必須であるということがあります。

そして、新市場開拓の矛先は、急速な都市化の進展と経済成長により、旺盛な都市開発や都市インフラの需要拡大が見込まれるアジアの新興国等に向けられています。加えてこうした新興国では、「地球温暖化問題」や急激な都市化に伴う交通、環境、居住等の都市問題に対し、効果的なソリューションを施しながら、都市の成長と経済発展を両立させていくことが必要不可欠な状況にあります。

こうした状況下において、建物のみならず、都市・地域単位で環境性能を向上させることや、過度に自動車に依存しないライフスタイルを具体化していくこと等、いわゆる「スマートシティ(Smart city)」の概念に基づきパッケージ化されたソリューションを導入することが有効であるとの認識が拡がりつつあります。したがって、省エネ技術、ICTを活用した建物や都市のマネジメント、TOD(Transit Oriented Development:公共交通指向型都市開発)を基本とした環境に優しい移動手段と拠点による都市構造の形成等に関する先端的な技術・ノウハウや実績事例が数多く存在する日本の都市開発・インフラ整備に注目が集まっています。また、これら提供すべき具体的ソリューションについて、日本は非常に高い優位性と競争力を有しています。

こうした背景と理由から、官民連携による都市開発・インフラシステムの海外輸出は、新たな市場を創出することを通じて民間投資を喚起し、我が国の持続的な経済成長を促す国の成長戦略としての意味合いと、課題解決先進国として培った我が国の技術・ノウハウを今後都市化が進展する新興国等に移転し、グローバル課題の解決に貢献するという2つの意義から、加速化していると思います。

海外・戦略グループの取り組み

海外・戦略グループは、上記の官民連携による都市開発・インフラシステムの海外輸出の流れに呼応しつつ、日建グループ各社と協働して我が国及び日建グループに蓄積されたTODをはじめとする様々な都市開発ノウハウ、スマートシティ等の環境共生技術等に関する知見と経験と活かして「日本のまちづくりの海外輸出」に向け、案件組成からプロジェクトの具体化までの一連のプロセスを構築することを目指し、建築・都市開発の関連企業等と連携して、主としてまちづくりの初期段階の活動の中でも、以下の3つを重点的に取り組んでいます。

  1. 都市計画・都市開発のマスタープランや都市開発戦略プランの作成支援
  2. 都市開発プロジェクトの案件組成のコーディネート支援
  3. 上記の取り組みを促進するための研究開発(特に案件組成の提案活動のためのツール開発等)

また、NSRIの他グループについては、メインターゲットとしているビジネスドメインをグループ名に冠していますが、当グループは主たる活動の「場」である「海外」をグループ名にしております。

しかしながら、国内外を問わず戦略的に取り組むべきテーマを設定し、日建グループ内外の専門家とコラボレーションを組んだり、社内においてもグループ横断的なチーム編成により、タスクフォースチームを組んだり、いわゆる「ハブ」のような役割を担うことで効果的かつ適切なソリューション提供ができることを特徴にしたいとの想いから「戦略」という名を冠したグループとして活躍することを目指しています。

今回は、海外・戦略グループの取り組みの中でも「都市計画・都市開発のマスタープランや都市開発戦略プランの作成支援」について、代表的事例を通じてご紹介します。

実績紹介:
都市計画・都市開発のマスタープランや都市開発戦略プランの作成支援

 新興国等を中心に、今後都市化が進展する大都市圏におけるマスタープラン等の作成支援業務の中で、現地の状況を踏まえつつ、我が国の都市政策の知見と経験、日建グループに蓄積された都市開発のノウハウや実績に基づいた提案をしています。こうした取り組みが、都市開発・インフラシステム輸出に向けた案件組成の足掛かりをつくると考えています。

1. メガ セブ ビジョン2050 (MEGA CEBU VISION 2050)
(フィリピン国メトロセブ持続的な環境都市構築のための情報収集・確認調査)

独立行政法人国際協力機構(JICA)からの発注業務で2012年に弊社と株式会社パデコとが共同企業体を組成し、横浜市と連携しながら策定した都市開発戦略プランです。

メトロセブは、フィリピン国で首都マニラの都市圏に次ぐ人口約250万人を超える第二の大都市圏で、JICAが自治体(横浜市)と連携して海外の都市(圏)全体の都市計画策定支援を実施した初めての事案でもあり、我が国の自治体による都市開発の海外輸出を支援する新たなODAモデルとも言えます。

メトロセブ都市圏を構成する13市町の現地政府関係者等との複数回にわたるワークショップを開催することで丁寧な合意形成を図りつつ、2050年を目標年次としたビジョンと都市開発戦略を作成しました。

また、ビジョンの作成に当たっては、同地域の地域特性分析と主要開発課題の抽出のみならず、目指すべき都市圏将来像の仮説立案に基づいたバックキャスティング・アプローチを採ることで、非常に短期間でビジョンとコンセプトの策定と戦略プランの合意に導けたことが、その後の現地課題に応じた適切な我が国の技術・ノウハウ・資金を活用した開発支援と案件組成の足掛かりとなっています。

メガ セブ ビジョン2050 開発戦略プラン

メガ セブ ビジョン2050 開発戦略プラン

2. ホーチミン市の法定都市計画マスタープラン策定業務

ホーチミン市政府の発注業務で、2006年~2007年に日建設計と共同してベトナム最大都市における法定都市計画(2010年に人民政府承認)の策定を支援しました。また、策定した都市計画プランをいかに実効性の高いものとするかについて、技術上、運用上、財政上の各観点からの課題に対して、我が国の大都市圏政策や都市計画の知見や経験を活かして土地利用計画、ニュータウン計画、戦略的開発誘導エリアの設定等の具体的方策を提案しました。

左:都市計画マスタープラン 右:都市政策プラン

左:都市計画マスタープラン 右:都市政策プラン

この法定都市計画の策定に続き、2009年に国際コンペにより選定され、ホーチミン市の中心部におけるゾーニング制度、容積ボーナスやデザインガイドラインを有した建築管理制度を提案(ゾーニング制度は2012年、建物管理制度は2013年に人民政府承認)する等、我が国の諸制度の利点を活かし、ローカライズしながらインフラシステム輸出の初動期的取り組みをしています。

左:容積率緩和の条件  右:再開発促進エリアの条件

左:容積率緩和の条件  右:再開発促進エリアの条件

3. モスクワ都市圏コンセプトマスタープラン策定

モスクワ市が2012年3月~8月に計6回のワークショップ形式で実施したモスクワ都市圏コンセプトマスタープラン策定の国際コンペ(世界から10企業グループが招聘)にロシアのTSNIIPグループのメンバーの一員として参加し、2012年7月に市域編入されたNEW-MOSCOW地域(約1500㎢)の都市構造プランの提案を担当しました。
NEW-MOSCOW地域の都市建設においてモスクワ都市圏が抱える深刻な交通混雑の抜本的解決に向け、「公共交通指向型都市開発(TOD)の推進」、「多核型都市構造への転換」、「官民連携によるPPP都市開発の推進による拠点形成」等、我が国の大都市圏政策や都市再生政策のノウハウや経験を活かして、都市構造プランを提案しました。
現在、モスクワでは地下鉄新線整備をはじめ、TODによる交通環境改善と都市構造再編が急速に始められつつあり、我が国のTODノウハウの提供等が期待されています。

左:モスクワ都市圏の将来構想提案の概念図 右:NEW MOSCOW地域の都市構造プラン提案

以上、当該国の地域課題を鑑みつつ、我が国の都市政策や都市開発・都市再生の知見と経験の中から適切なソリューションを提供することで、今後、我が国の官民連携による都市開発の海外展開の推進に寄与したいと考えています。

次回は、「都市開発プロジェクトの案件組成のコーディネート支援」、「研究開発(特に案件組成の提案活動のためのツール開発等)」についてご紹介します。