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子どもたちは、いろいろなゲームをしながら、いろんなキャラに出会い戦ったり、謎を解いたりして自分のスキルアップをします。そして、難しい課題に挑戦しながら自分の能力を高める。何故、子どもたちは難しいテーマに取り組んで、夢中になるのか。それはゲームがフロー感覚をうまく刺激するようにできているからです。
(図34) 
親御さんたちは、「なぜゲームなんかに夢中になっているの、学校の勉強をしなさい」といいます。学校の勉強はこうなっていないんですね。だから、子どもたちはゲームに夢中になることだということです。重要なのは、ゲームで既にでき上がっているスキームを現在の教育制度の中に持ち込むこと。そういう大改革をすることだと思います。それをオーダーメードのレベルで行う。それが新しい教育だと考えていいと思います。
ただし、このフロー感覚で注意しなければいけないのは、あくまでも個人的なレベルです。個人ばかりでフロー体験しても困る。個人的なフロー体験を特定の集団的な目標を、個人的対立、競争を克服し、達成することを通じて、集団の構成員が分有するフロー感覚、そういうことを持てるようにしなければいけない。いわば個人的なフロー感覚を集団としても味わえるような仕組みをつくらなければなりません。このことは、ある意味で非常に危険なところです。何故ならば、この体験を一番発揮させるのは戦争なんですね。ナショナリズムみたいなものが起きてきて、戦争するとワクワクしてきますね。そして、達成すると、よくやったといわれる。その次は競技ですね。しかし、それだけでこのフロー感覚を体験できるか。創作もそうです。あるいは未知の事業を起こすこともそうです。そして、新しいクリエイティブな仕事をすることもそうです。我々があらゆる分野のグループワークで達成した楽しいことを子どもたちにさまざまな機会で与えられるということが重要なことであろうかと思います。

(図35)


図35は私が昨年発表した、新しい教育システムについての試案です。1つ重要なのはサイバーワークです。サイバーワークというのは、皆さんご承知のように、今のライブラリーワークに当たるものです。要するに、インターネットを使って、どんな情報がどこにあって、それをどう検索して、どう利用するか、という能力の習得です。インターネットの中に情報は分散して入っていますから、それを検索してコンパイルする能力を身につけなければなりません。ある程度の機器操作の能力を持たなければなりません。しかし、これだけでいいわけではなくて、フィールドワーク。現場に行って実際に監察し、現地の体験をすることが重要です。それと同時に、ケースワーク。我々人間の社会はすべて事例ということで動いていますから、ケースワークをきちっと理解をしなければいけない。さらに、グループワークを理解しなければいけない。これらが1つまとまった形で、これからの基本的な教育改革になってくる。
そして、こちらにアスレティックアクティビティーとあります。スポーツなど、インドアもあるし、アウトドアもある。様々なタイプがあります。こちらにはエステティックアクティビティーと、美術や音楽、という類のものです。そして、シミュレーションをしながらバイオ・インフォーマティックスとパーソナル・ファブリケーションという新分野を学習してゆく。
(図36) 
さきほど1998年にgoogleが創業したと述べましたが、実は同じ1998年、驚くべきことが起こっています。それはニール・ガーシェンクェルドがMITに‘‘Method of almost all things’’つまり「ほとんどあらゆるものをつくる方法」を講座を開講したからです。彼はこの授業でコンピューターと連動したきわめて精巧な機械―ナノレベル(分子レベル)の工作機能を持つ機械を試作し、これを自由に学生たちに使わせるという画期的な実験を試みたのです。この成果は、2005年に彼の出版した‘‘Fab’’(邦訳「ものづくり革命―パーソナル・ファブリケーションの夜明け」)の中で詳細に述べられていますのでぜひお読みください。ナノレベルの工作機器それ自体は決してめずらしいものではありません。重要なのはガーシェンフェルドがこれをパーソナル・ファブリケーターと呼んでいる。つまり大型計算機がわずか30年間にパーソナルコンピューターに変わったようにいまは巨大でぶかっこうな工作機器が50年後にはパーソナルなものになると予告しているのです。これはまさに怖るべき予言といわなければならない。現在、日本では‘‘ものづくり’’の危機がさけばれていますが、我々が今やるべきは、まさにパーソナル・ファブリケーターを習熟できるような子どもたちを育てることです。そのことこそ我々がやらなければならないことだと思わなければなりません。
(図37)
同様に、バイオ・インフォーマティックスの発展も著しいものがあります。2010年京大の山中伸弥さんがiPS細胞研究所を創設した。2006年の6月25日、iPS(人工多能性幹細胞)の作成に成功したという論文を出しました。そして、2007年にはヒトのiPS細胞の生成に成功した。大人の皮膚の細胞に4種類の遺伝子を導入することによって無限に増殖して、あらゆる生体組織に成長する。そういう細胞を山中さんがつくったんです。
(図38)
これはちょっと説明が要ります。生物というのはおもしろくて、最初、初期胚細胞というのがあります。これは卵子と精子がくっついてできるものです。最初の5~6日間には1つの細胞しかないけれども、その細胞が万能性を持って、人間を構成する220種類の新しい組織や細胞に分化していくわけです。たった1つの細胞から膵臓ができたり、心臓ができたり、骨ができたり、皮膚ができたりするわけです。だから、万能細胞と呼んでいます。ただし、それは5~6日間しかもたない。5~6日間もつものを取り上げて培養したものがいわゆるES細胞です。それを卵子と胚の段階でとって、DNAを交換したのがクローンですね。ただし、卵子でDNAを交換するから大変な技術が必要でした。しかし、それを大人の皮膚からとって遺伝子導入することで、ヒトのiPS細胞がつくられた。これが山中さんのした仕事です。

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