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(図39)
2010年11月8日、つい最近新しいニュースが飛び込んできました。それは「たった1つの遺伝子を人間の皮膚細胞に送り込むだけで、血液細胞の前段階である細胞に変えることに、カナダ・マクマスター大の研究チームが成功した。現在は皮膚細胞などに3~4個の遺伝子を導入してiPS細胞を作製し、様々な細胞に変化させる研究が世界各国で進められているが、今回の成果はiPS細胞を使わずに血液細胞を簡単に作る技術につながる」ということです。カナダがこんなことを始めたんですね。このようにバイオ技術はまさに日進月歩の勢いで進展している。こうした新しいものづくりや医療分野の発展に歩調を合わせた教育を今すぐはじめなければならないのです。
(図35)
先ほど教育(学習)システムの試案にPFとBIを入れたのはそういうことです。小学校レベルからこれが必要だとは思っていません。しかし、少なくとも中流レベル以上の教育にPFやBIの成果を取り入れ、しかもオーダーメードでつくらなければならない時代がすぐ来ると思っています。
こういう状況の中で、皆さん方にご質問したいことは、皆さん方は建築設計にかかわる専門家として、こういう教育活動が行われる小学校あるいは保育園の設計をぜひ考えてほしいですね。その設計はこれまでの小学校校舎とはまるで違う。保育所ともまるで違います。例えば音楽1つとってみましょう。今のセンサー技術を使えば、壁に音符が書いてある。その音符の1つを押すとドレミファが出てくる。そんな壁をつくるのは容易なはずですね。床に○が幾つか書いてあって、それを飛んで歩くとリズムがとれる。そういう床だってつくれるはずです。新しい絶対音感を養成するための保育所を何故つくらないのか。単なる保育所をつくる時代は去りました。新しい芸術的ないし科学的な能力を育成する施設をつくらなければならない。
大学・オフィスも含めて、今の建物、施設は、こういう形で変わるものについて、皆さん方が基本的に建物も変える。どんな建物をつくったらいいか。それは今の教室ではなさそうですね。全く違ったものになるはずです。今の教室が、サイバーワークをするのにどれだけふさわしいか、フィールドワークをするためにどれだけふさわしいか、ケーススタディをするためにどうなのか、グループワークをするためにどうなのか。それでも先生がレクチャーしてノートをとるということは本当に意味があるのか。それらは全部オーダーメードで個別に整える。
最近iPadが出ました。あのiPadは実は子どもたちが教科書をつくれるということを意味しています。どこが難しいか、わからないのか、子どもが一番よく知っているんですね。ですから、子どもが教科書をつくればいいんですね。そして、つくったものをiPadに入れてお互いの間で補完すればいい。ですから、by the people for the people of the peopleという言葉がありますけれども、私はby the child for the child of the child。子どもたちが自分たちでつくり上げる。自学自修。あるいは互学互修という世界が我々の新しい教育世界として開けようとしている。そういう世界に対してどういう物理的施設をつくらなければならないのか。今こそ我々は、日本人のイマジネーションを発揮して、新しい21世紀の社会の準備をすべきだ、そういうふうに考えるものであります。
非常に簡単でありますが、問題提起を終わらせていただきます。どうもありがとうございました。(拍手)

 

 

 

フリーディスカッション

 先生、どうもありがとうございました。今日は、情報社会の話から始まりまして、最後はオーダーメードの教育の話がありました。先生のほうから、今の教育施設のあり方についてご意見をというお話もありました。この点について、何かご質問あるいはお考えがありましたら、どうぞお手をお挙げくださいませ。

伊藤(トゥビーライフ㈱) 途中で来て恐縮な質問ですけれども、こういう質問を知的な方にすると、みんな「うーん」という顔をします。ウォーラーステインという歴史学者が1995年ぐらいの論文で、今の日本の不景気が、国家の体制を組みかえて、日本が覇権をとるんだといっています。僕もそう思っているんですが、先生が、先ほど2011年にテレビも全部変えて、基盤整備される。今の民主党は、全然駄目だと思いますけれども、日本が基本的に覇権をとって、僕は世界全体を変えるという可能性があるとお思いでしょうか。

高橋 結論からいいます。私は列強ないし大国としての日本の夢はもう捨てたほうがいい、将来はごく普通の国になるということになっていくと思います。そのために2015年が非常に大きな境目なのではないか。2005年で、日本の人口減少は明らかになりました。今年の国勢調査でさらに人口、特に生産年齢人口が減少するということは明らかになると思います。その結果、労働力が減少しますと、生産年齢人口が下がりますと、GNPの額は下がってきます。ただし、その場合でも、1人当たりの生産性が高まっている限りは、GNPは何とか維持できます。
2010年の段階で、明らかに労働力減少は起こってきて、かつ1人当たり生産性も上がるか下がるかということになります。下がる程度によるのですね。それが2015年に、生産性の生み出す効果と労働力減少の効果が拮抗して、プラスマイナス五分五分の段階に来ます。その段階で経済学者がまた、日本の人口を増ふさなければだめだ、もっと国外から移民を受け入れなければいけない、と言い出すと思います。
私はそれはやめたほうがいい、むしろ36万平方キロメートルの国土の中で、現在よりはるかに少ない人口で、生態学的にバランスした生活をデザインしたほうがいいと考えています。生物的な多様度という観点からいえば、日本は縦に長いですから、世界でも有数の国です。私は、国勢調査で人間の数だけでなく、世界に先駆けて、グリーン・センサスを実行すべきだと思っています。人間以外の他の生物、熊や鼠の数も、あるいは昆虫の数も含めて、あらゆる生物の数や生き方そうした調査を実施するべきと考えます。
世界制覇はできるのかという問題は、しなくていい、もうこれでいいのではないかというのが私の考え方です。

土堤内(㈱ニッセイ基礎研究所) 今日は大変知的な刺激的なお話ありがとうございます。今日のお話の中で、Web社会の中で、我々が21世紀を豊かに生きていくための、いろいろなヒントを出していただけたなと思っております。その中で1つご質問ですが、今日本の社会に格差が非常に拡大している。貧困だけではなくて、教育であったり、地域格差であったり、さまざまな格差が今出てきていると思うんです。先生のおっしゃるWeb社会の中で、特に今日スライドで、「Web社会のメンバーになるためには」というスライドもありますように、そのメンバーにもしなれなかったとか、こぼれてしまった場合のセーフティーネットのあり方についてどういうふうにお考えになっているか、教えてください。

高橋 これは私は非常に重要な問題だと思います。現在web社会への適応は昭和30年以前と以降生まれの世代に分かれています。私の周りで見ても、昭和30(1955)年以降生まれた人は大体Web社会に適応できると思います。しかし、これ以前の、私も含めての老人たちは活字文化になれていますから、適応するのは非常に難しい。2011年のテレビのデジタル化は非常に重要な契機で、テレビを簡単なコントローラーを使って操作できるということになると、web社会適応の最後のチャンスだと思います。 

栗原(片倉工業㈱) 今日はどうもありがとうございました。最近、アイフォーンの世界カメラや、拡張現実という言葉をよく聞くようになりました。そのようなバーチャルとリアルの融合について、今後の流れ、特にまちづくりとか都市等々について、何か事例があれば教えていただければと思います。
高橋 非常にいい質問をしていただいたと思います。最近ARGが流行し始めました。ARGはオルタネイティブ・リアリティ・ゲームズの略です。ゲームというのはもともと卓上でやるものがでした。あるいは子どもたちが野外でやる、隠れんぼ等のゲーム、ともにリアルな世界でのゲームでした。その後電子ゲームが登場し、ゲームは仮想現実の中でおこなうものになりました。ところが、それをもう一度現実の世界に戻そうという動きがアメリカで起こってきました。それがADRです、いわば現実の世界の中に謎や課題をひそめておいて、プレイヤーがそれらを解きながら、ゲームで楽しむ。おもしろい考え方です。ぜひ、インターネットでひいていただくと、情報はたくさん出てきます。もう1つ、この本だけ挙げておきます。21世紀の社会がどうなるかという時に、山崎正和さんが最もコンサバティブな人ですけれども、非常に見通しのいいことを書いています。ここに「社交する人間」というのがあります。この本は、私は、21世紀の人間を考えるときに極めて重要で、社交というのは基本的なインターネット社会における一番重要な人間活動になるのではないかということが書かれています。中公文庫の山崎正和「社交する人間」、もしご興味があればぜひご講読いただきたいと思います。

 どうもありがとうございました。ほかにどなたかいらっしゃいませんか。
それでは、そろそろお時間が参りましたので、先生ありがとうございました。今日のすばらしいご講演に対しまして、先生にいま一度大きな拍手をお送りください。(拍手)
以上をもちまして本フォーラムを終了させていただきます。本日はまことにありがとうございました。(了)

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