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(図28)
住宅の床面積と人口の表。これで言いたいことは、人口が減っているにもかかわらず住宅が増えているということです。例えば杉並区は人口が97%に減っているのに、住宅の床が119.9%と増えています。このからくりには必ず空き家問題が入ってくるんです。高齢者の夫婦が、片方が死んでしまってひとり者になる。そういう問題が特に杉並区や板橋区、世田谷区に出てくるんです。住宅床増加倍率というのは人口で割るわけですから、ここがやや過剰になるでしょう。過剰なところというのは、考えてみますと住宅的な性格の区ですから、お年寄りの2人連れが突然死んでしまって1人になる。2人連れの時は30坪の住宅だと1人15坪です。1人になると30坪になる。そういう点で、江戸川区や杉並区は、今ある住宅に住んでいる人は減るわけですが、住宅そのものは減らないんです。1人当たりの住宅供給は増えるわけです。
それと、もう1つは、新しく小さい3階建てぐらいの木三共、ああいうものをつくってそこに新しい人間が入る。それのプラスマイナスの関係で、純増というのは、木三共なんかをワンルームにして、地方から来た学生さんにそこへ少し住んでもらう。これは純増です。片方で、ストックは大きいけれども、ここで人口は減るわけです。足した結果がこういう数字にあらわれてくるんです。そういうふうに考えておくと、上のほうの住宅過剰というところには、空き家プラス夫婦が解消されて、あるいは家族が縮小化されて、住宅の面積が残った居住者に乗っかってくるというので、増えるということ。それがこういうやや過剰というところに出てきているのではないかという感じもします。
それに比べて、こちらの少ないほうがバランスがいい。考え方によっては、これは町なかですから、住宅的な性格の区よりも、今言った夫婦が1人、片方が亡くなって残ったところの面積が大きくなる。こちらのほうは、もともとの建物規模が都心ですから小さいわけです。減る量も少ないんです。
そんなことがあって、住宅過剰ややや不足というのが出てくる1つの原因になっているのではないか。空き家が多くなるのは、住宅床増加倍率を上げるということになる。
(図29)
もう一回もとへ戻りましょう。これは主要国の人口高齢化率(65歳以上人口比率)です。ここでは9つの国を時系列的に追っています。2010年でいくと、日本は断トツです。65歳以上の高齢者が22.7%。これが2030年に30%になります。韓国が急速に上がってきています。2040年ぐらいになると、韓国は日本と同じぐらいの高齢化率になってくる。中国はまだ韓国に比べれば高齢化率が遅い。
それに比べて、ヨーロッパの国は意外と高齢化率が上がっていないんです。アメリカはメキシコのほうから若い人間がどんどん入ってきていますので、高齢化率を下げ、そんなに上がっていない。ドイツが意外と上がってきています。ドイツはもうじき日本と一体ぐらい。それに比べてフランスはそんなに高齢化率は上がらない。ドイツ人とフランス人で、ドイツ人のほうが高齢化率に対して適応力が弱い。フランス人のほうが適応力が高い。高齢化のヨーロッパ社会が2040年ぐらいでどうなるかというと、フランスのほうが高齢化率をうまくこなして生産力が高くなり、ドイツのほうは生産力が低くなるということが出てくるのではないかということです。
(図30)
もう1つ、生涯未婚率です。2010年までの傾向を見ますと、女性より男性のほうが未婚率が高いんです。これは東京都ですが、全国でも同じです。全国は2010年で男性の生涯未婚率が20%、東京都で25%です。生涯未婚率がこのままずっと上がっていくと、東京都の単身者や老齢人口がどんどん増えていくという形になります。
(図31)
これは合計特殊出生率です。これも、よくご覧になるように、東京都と区部を比較すると区部のほうが特殊出生率が低い。1.08人ぐらい、全国が1.39人。2人には遠く及ばないんです。この傾向を見ると急速に2人に上がるなんてあり得ない。そういう点では、先程言った20年後の東京の老齢化の傾向は、我々が想定しているよりもっと激しくなるかもしれないですね。
(図32)
特殊出生率の比較です。日本の全国平均より下回っているのは韓国です。中国もまだ低いですが、それでもまだ何とか押さえている。高いのはアメリカ、フランスです。どうしてこういうふうに日本人だけ子どもを産まないのか不思議です。
(図33)
これは先程の平均余命です。55年には60歳が15年平均余命があります。70歳です。ここで明らかに7~8年ぐらいは平均余命が延びている。その間、ただ漫然と遊んでいるということはないだろうということです。
(図34)
65歳から75歳までのお年寄りのうち、どれぐらい元気かということを議論しました。これははっきりした数字が必ずしもあるわけではないんですが、我々がつくった数字です。元気な高齢者というのは、高齢者から要介護認定者や高齢入院者、高齢通院者を除いた高齢者。要するに、病院に行っていない高齢者。そうすると、2010年で65歳から74歳の大体85%ぐらいは元気な高齢者。2030年も85%は余り変わらない。さすがに75歳以上になると50%と下がります。これから見ても、元気な高齢者がこれだけいるんだから、その人たちに働いてもらうのは、そうおかしいことではないだろうという話です。
(図35)
それでは、高齢者はどういう暮らしをしているのか。現在の高齢者の話です。大部分が恩給です。8割ぐらい。そのほかに幾つかサイドワークで仕事を持っている人もいます。問題はその恩給がどれぐらいかということです。
(図36)
先程の元気だという話です。65歳から75歳が85%元気だということです。65歳から69歳の外出率、1日にどれぐらい外出したか。うちにこもっていないか。80%以上の人が外出している。70歳から74歳になると、79%、約80%。さすがに75%以上になると7割に下がります。ここから見ても、元気に外に出て働くということがあってもいいのではないか。東京都市圏のパーソントリップ調査を整理してこういう結果を出しました。60代後半男性の外出率は84%です。
(図37)
現在どれぐらいの収入があるかというと、2人以上の世帯は30万9000円。単身者で20万円。これプラス退職金を分割して食いつぶしていけば、夫婦世帯は生活費に45万円で十分暮らしている。年収360万円から400万円。随分ぜいたくな話だ。切り詰めた生活をした場合どれぐらいになるか。支出額24万円ですから、年収280万円は必要になる。これぐらいの年収を取るのに、65歳~75歳ぐらいで、退職金を分割して、このうちの120~130万円、月10万円ぐらいおろせば、残りの160万、これぐらいを働くということがあっていいんじゃないか。高齢者単身者世帯が新たに働くと想定した場合に約20万円。ということは年収で235万円。切り詰めると182万円です。これが10万円という理屈になるんです。
今の高齢者は、非常に豊かに年金を使って暮らせる。ところがこれからの高齢者、今40代の人たちは絶対そうならない。現行の年金制度が維持できたとしても、公的年金だけで老後の生活を賄えるのは2割しかない。残りの8割はどうするか。
2030年の高齢者、70歳でいくと、今50歳の人です。それが現在の高齢者の標準支出額に達するには、もう少しゆとりを持って自分らしく生きるためには、公的な年金給付に加えて月額10万円程度の収入を確保しなければならない。10万円程度とは、時給1000円ではちょっと高いですが、1日7時間働いて、月に半分、1日置きに働く。そうすると10万円ぐらいになる。だから、65歳から75歳まで、何とか月に10万円ぐらい自分で稼いでやってくれれば、先程の0.8という数字ではなくて、0.5とか0.4に近くなるかもしれない、こういう話です。
(図38)
0.3ぐらいいけばいいが、高い給料で65歳以上の人を働かせるわけにいきません。どうしても公的年金が必要になりますから、月に10万円稼いで、2030年ぐらいに0.4ぐらいまで伸びていけば、何とかおさまるのではないか。次の若い世代もそうすれば少しお金を出してくれるのではないかという話です。
今日はそんなところで、1時間20分お話しました。あとは質問をしてください。データは人口統計、世帯の統計、建物の統計からいろいろ集めました。(拍手)

 

       
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