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フリーディスカッション

谷 先生、ありがとうございました。先生のほうからも、ぜひご質問をということでしたので、どなたかいらっしゃいませんでしょうか。
伊藤 65歳から月10万円というのはおかしいですかね。余りやる人はいないですか。やっぱりゴルフに行ったほうがいいですか。状況をずっと数字で埋めていくと、未婚率が高くて子どもは増えない、ますます新規の生産年齢人口が減っていくわけです。そうすると、今の水準の生産年齢人口の比率で勘定したら、到底話が合わなくなっちゃうんです。それの落とし前をどうつけるかというと、今ですと、年をとっている者であればあるほど恩給が高いんです。絶対そうです。僕たちは恩給が一番高いはずです。それがどんどん減り出すんです。今の50代の人があと15年ぐらいたってもらう恩給というのは、多分現在の3分の2でもいいほうなのではないか。そういうところで、それなら年をとっている連中は何をすべきかという話がこの報告の一番のオチなんです。
河合(㈱竹中工務店) 身につまされるというか、すごく真剣に考えなければいけない話をしていただいて、どうもありがとうございます。
1つ、感想ですが、自分も入れて爆発的に増える高齢者に、果たして月収10万円の仕事があるのかなというのが率直な感覚です。
もう1つは質問です。今、地方が随分人口が減っております。既に家屋とかもあって、都市としても整備されている中で、人が減っていったら土地も余ってくると思うんです。東京に限らず地方都市も加えて、ある程度農作物は自給自足をするとか、地域のニーズを、おカネにならなくても自分たち相互の補助的なものでやっていくというのは、都市のNPOも発達していますし、そういう考え方は、国のほうでは今なされてないんでしょうか。
伊藤 国のほうでどうしているか、僕は十分知らないんですが、今のご質問に関して言えば、東京の空き家問題もさることながら、地方の空き家問題はもっと深刻です。売れない。放り出しているわけです。そういうことに対して政策的にどういうような考え方をしたらいいかということに対して的確な答えを出してくれている学者は、僕も幾つか論文を見ましたがいません。
ただ、今のお話に関連して申し上げたいのは、こういうことが起きているにもかかわらず、20年ぐらい前、我々は何をやっていたかというと、住宅公団は別にして、それ以外のディベロッパーは大都会の郊外の丘陵地を相当質の悪い宅地にしました。八王子の郊外でも、1戸当たり30坪ぐらいの敷地で3階建ての、今で言うパワービルダーというおもしろくない名前で、質の悪い住宅をつくった。オイルショックの時ですから、売りに出せば買い手がついたわけです。そういう不良化した、郊外の交通の便も悪く、建物の質も悪い、社会的便益もない団地がたくさんあるんです。住宅公団の多摩ニュータウンの団地だけでなくて、もっと質の悪い住宅がたくさんある。
僕は昔行ったことがありますが、八高線沿線まで住宅団地をつくった。それを外国人さんが「あれはスラムか」と言う。南米のファベーラとそっくりなんです。そういうところで暮らしているわけです。これをこのままほっといていいのかなと思っています。20年ぐらい前に土地の値段が上がった時に買った土地で、道は傾斜が急だし、店に行くのも大変だ。それがあいてくるわけです。うまいシステムを考えて、30坪の宅地を2軒一緒にして60坪の敷地にして、整理したら非常にいい住宅団地になるはずです。問題は、住んでいる人が隣の30坪を買うというモチベーションが起きるように政府がしむけるかということがあります。
そういうところは土地の値段はずっと下がっていきます。下がっていく中の半分ぐらいは自分のお金を出して、残りの半分を住宅公団の30年や50年の長期ローンにして貸し付ける。半分は持っている現金で払う。残りは借金にする。できたら、そういうふうに買ったところは、あらゆる土地に関する税金、固定資産税から相続税から払わなくていいようにする。これを結構長くやればそれなりの得になります。
そして、60坪にした時に、隣の30坪の建物を壊し、あるいは自分の住宅が悪ければ、それを壊して、30坪を庭にする。家庭菜園や植木を植える。そういう住宅ができ上がってきて、全体に1つの団地化すれば、それなりの建物の質も、団地の質も上がってきます。そういうふうに考えますと、土地を売ってどこに行くか。そこからがフィクションです。そういう連中が東京の町なかに来る。
もうちょっと別の例で言うと、親が、ないお金をはたいて、八王子の山奥の質の悪い30坪の団地を買ったけど、親が死んだ。子ども、さらさらそんなところにいたくない。だから、中央区のマンションを買ってそこに住むという人はたくさんいるはずです。売り買いが成立するマーケットがあるかというと、今のところは、ランダムですから、ないんです。そこに政策が介入して、売り買いが成り立つように、半分はキャッシュで払いなさい、残りは公団とか住宅金融公庫から30年ローンぐらいで支払います、そんなことをやれば買うほうのモチベーションは出てくる。売るほうも、少しぐらいのディスカウントプライスでも初め想定した7割ぐらいの現金が入れば、それに少し足し増して、今言った東京23区の町なかの集合住宅を手に入れる。そういうやり方もあると思うんです。
それと似たような話がこれから東北の津波の被害を受けたところで起きてくるんです。南三陸も、陸前高田も、基本的に高台移転でしょう。高台移転すると、自分が住んでいた海岸ぷちの水産工場の近くの土地を公共団体が買ってくれて、そのお金を持って高台の宅地造成した土地を買うわけです。高台移転はそういう仕組みですね。膨大な土地を公用地として公共団体が買う。今まで漁場の近くの密集した商店街や長屋の漁師が住んでいた家は全部なくなって、そこは空き地です。土地の権利はみんな持っているからそれを売るわけです。役所が本当にそれだけのものを全部買えるかという話が出てくる。
今日の話と結びつくかどうかわからないですが、全部高台移転原則というのではなくて、例えば津波の被害を受けた100戸の集落があったとします。100戸のうち50戸は現場で建て替える。50戸は高台移転をする。そういうやり方をしたっていいのではないかと僕は思っています。50戸を何で現場で建て替えたらいいかというと、余り世の中に出てないですが、津波でも集合住宅は絶対つぶれてないんです。前にもここでお見せしました。5階建てぐらいの公営住宅が倒れていないんです。女川で小さい民間の質の悪い集合住宅はひっくり返りましたが、公営住宅は南三陸でも陸前高田でもどこでも壊れてない。そういう公営住宅を海岸に近いところに幾つかつくります。避難時間を5分でそこまで逃げられるようにすれば、高台と高台の間のところは普通の住宅をつくっていいし、普通の商店街をつくってもいいですよね。そういうふうにして、現地で建て替える価値も認めながら、現地以外に移すことも考える。これは話としては、さっきの八王子の奥で、現地で自分の土地を倍にして庭をつくるんだけれども、売ったほうはそれを使って町なかの千代田とか港区のマンションに行くのとちょっと似たようなところがあります。
世の中、人口が減ってどうするんだと考える時に、基本的にはそれを全部民間セクターに背負わせるのではなくて、税金の使い方として先程の長期ローンのようなものを考える、または借地権設定をするという形で、30坪を取得して60坪にする。隣の30坪を取得しやすいようにして、30坪を全部60坪にしていくという町のつくり方をすれば、相当イメージが変わってくると思うんです。
三陸の話で、もう1つ問題は、今原則としては津波をかぶった民有地は全部公的機関、市役所や町役場が買わなければいけないんです。そのお金はどこから来るかというと、結局は我々の税金です。税金で買った土地の使い方を一体どうするか、これから大問題になると思います。
去年の秋に僕は岩手県の山田という町に行きました。山田の都市計画課長が単刀直入に僕に言いました。「伊藤さん、津波をかぶったところは全部都市計画の用途地域がかかっているんです。だから、その土地の価格は宅地価格です。それを全部津波でとられてしまいました。それを買わなければいけないんです」と。価格は前の用途地域のかかっていた、一種住専か何かわかりませんが、それをベースにした価格で買い上げる。それはいいんですが、買い上げたところの土地利用はどういうふうにするか。山田町や釜石の市町村では全く対応できない。高台移転すれば、用途地域をかける面積が倍ぐらいになるわけですから、上のほうに人が行けば下のほうはあくわけです。それをどういうふうにするかという答えはないんです。


       
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